(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
LiおよびTiを含むリチウムチタン複合酸化物からなる一次粒子と、平均直径が5〜40nmで、平均アスペクト比が10〜1000である繊維状炭素とを含む球状二次粒子を含み、平均円形度が90%以上の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末であって、
前記繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末における、熱重量分析による測定から算出される、リチウムチタン複合酸化物粉末の質量に対する炭素の質量割合をAとし、Aの百分率表記をa(質量%)とし、X線光電子分光分析による測定から算出される炭素とチタンとの原子比(炭素/チタン)をBとしたときに、aが0.1〜3質量%であり、
B/Aが90〜200であり、
前記球状二次粒子の平均圧縮強度が1〜25MPaであることを特徴とする蓄電デバイスの電極用繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末。
前記繊維状炭素が、そのグラファイト網面が閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個層状に積み重なって形成された釣鐘状構造単位集合体を複数備え、
前記繊維状炭素は、複数の前記釣鐘状構造単位集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成することにより構成されていることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の蓄電デバイスの電極用繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末。
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、および2,3−ブチレンカーボネートから選ばれる一種以上の環状カーボネートを含む非水溶媒に、LiPF6、LiBF4、LiPO2F2、およびLiN(SO2F)2から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩を含む電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることを特徴とする請求項11に記載の蓄電デバイス。
前記非水電解液が、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、およびジブチルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の対称鎖状カーボネートと、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、およびエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の非対称鎖状カーボネートと、をさらに含むことを特徴とする請求項14または15に記載の蓄電デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末)
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、LiおよびTiを含むリチウムチタン複合酸化物からなる一次粒子と、平均直径が5〜40nmで、平均アスペクト比が10〜1000である繊維状炭素とを含む球状二次粒子を含み、平均円形度が90%以上の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末であって、前記繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末における、熱重量分析による測定から算出される、リチウムチタン複合酸化物粉末の質量に対する炭素の質量割合をAとし、Aの百分率表記をa(質量%)とし、X線光電子分光分析による測定から算出される炭素とチタンとの原子比(炭素/チタン)をBとしたときに、aが0.1〜3質量%であり、B/Aが90〜200であり、前記球状二次粒子の平均圧縮強度が1〜25MPaであることを特徴とする蓄電デバイスの電極用繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末である。
【0031】
なお、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、前記球状二次粒子からなることが好ましいが(すなわち、実質的に、前記球状二次粒子から構成されることが好ましいが)、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末が適用された蓄電デバイスの特性に影響が生じない程度に、前記球状二次粒子以外の成分、たとえば、繊維状炭素、ならびに、リチウムチタン複合酸化物粒子および繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粒子などの、前記球状二次粒子以外の粒子を含んでも良い。
【0032】
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末に含まれる球状二次粒子は、LiおよびTiを含むリチウムチタン複合酸化物(以下、リチウムチタン複合酸化物と記すことがある)からなる一次粒子と、繊維状炭素とを含む。以下、リチウムチタン複合酸化物とその物性、繊維状炭素、球状二次粒子とその物性、そして、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の物性の順に、これらについて説明する。
【0033】
[リチウムチタン複合酸化物]
本発明の前記球状二次粒子に含まれるリチウムチタン複合酸化物としては、LiおよびTiを含む酸化物であり、蓄電デバイスの電極に適用できる化合物であれば特に限定されないが、例えば、スピネル構造を有するリチウムチタン酸化物、ラムステライド型リチウムチタン酸化物などが挙げられ、これらのLiおよびTiのサイトの一部が他の金属元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物であっても良い。本発明のリチウムチタン複合酸化物としては、Li
4Ti
5O
12を主成分とするチタン酸リチウムであることが好ましい。Li
4Ti
5O
12は、蓄電デバイスの電極に活物質として適用した場合に、Liイオンの挿入・脱離に伴う体積変化が小さいため結晶構造維持に優れ、充放電サイクルによる劣化が比較的少ない。また、炭素材料に比較し、リチウムイオンの挿入・脱離の電位が貴であるため、低温でのリチウム金属の析出、負極活物質による溶媒の還元分解が抑制され、安全性が高いことが知られている。ここで、Li
4Ti
5O
12を主成分とするとは、X線回折法によって測定されるピークのうち、Li
4Ti
5O
12の(111)面由来のピークの強度を100としたときに、アナターゼ型二酸化チタンの(101)面由来のピークの強度が5以下であり、ルチル型二酸化チタンの(110)面由来のピークの強度が5以下であり、Li
2TiO
3の(−133)面由来のピークの強度に100/80を乗じて算出した値(Li
2TiO
3の(002)面のピークの強度に相当)が5以下であることを言う。また、Li
4Ti
5O
12を主成分とするとは、Li
4Ti
5O
12の完全結晶を使用することを必ずしも意味するものではない。
【0034】
X線回折測定により得られるLi
4Ti
5O
12の(111)面由来のピーク、アナターゼ型二酸化チタンの(101)面由来のピーク、ルチル型二酸化チタンの(110)面由来のピーク、およびLi
2TiO
3の(002)面由来のピークは、それぞれ各結晶相のメインピークである。本発明において、Li
2TiO
3についてのみ、Li
2TiO
3のメインピークである(002)面由来のピークに代えて、Li
2TiO
3の(−133)面由来のピークの強度に100/80を乗じて算出した値を用いるものとし、これをLi
2TiO
3のメインピークである(002)面相当のピークの強度とするものであるが、その理由としては、Li
2TiO
3のメインピークである(002)面由来のピークがLi
4/3Ti
5/3O
4の(111)面由来のピークの裾野と重なってピーク分離処理が必要になることがあるのに対し、Li
2TiO
3の(−133)面由来のピークは他の構成相由来のピークと重ならないので、より簡単にLi
2TiO
3のメインピーク相当の強度を算出するためである。また、100/80を乗じるのは、これらのピーク強度比に基づくものである。
【0035】
本発明のリチウムチタン複合酸化物がLi
4Ti
5O
12を主成分とするチタン酸リチウムである場合、本発明のチタン酸リチウムにおいては、Tiに対するLiの原子比Li/Tiは、0.75〜0.90であることが好ましい。この範囲内であると、チタン酸リチウム中におけるLi
4Ti
5O
12の割合が多くなり、本発明のチタン酸リチウムが電極材料として適用された蓄電デバイスの初期充放電容量が大きくなる。この観点から、原子比Li/Tiは、より好ましくは0.77以上であり、更に好ましくは0.78以上であり、特に好ましくは0.79以上である。また、より好ましくは0.89以下であり、更に好ましくは0.88以下である。
【0036】
<リチウムチタン複合酸化物粉末の比表面積相当径D
BET>
本発明のリチウムチタン複合酸化物粉末の比表面積相当径D
BETは、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末より、繊維状炭素を含む炭素質物質を除去した後のリチウムチタン複合酸化物粉末の、BET法により求める比表面積から算出される比表面積相当径である。炭素質物質の除去方法としては、特に限定されないが、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末より、繊維状炭素を含む炭素質物質が除去でき、リチウムチタン複合酸化物粉末の比表面積が変化しない手段であれば良い。その手段としては、大気下などの酸素共存下で、リチウムチタン複合酸化物粉末の比表面積が変化しない条件での熱処理、例えば、450〜550℃で、1〜4時間の熱処理を行うことが好ましい。
【0037】
本発明のリチウムチタン複合酸化物粉末の比表面積相当径D
BETは、特に限定されないが、0.03μm〜0.6μmであることが好ましい。D
BETが0.03μm〜0.6μmであれば、蓄電デバイスの充放電容量をより大きくすることができる。ただし、本発明においては、D
BETの値は、このような範囲に特に限定されるものではない。また、D
BETは0.03〜0.4μmであることが特に好ましく、この範囲であれば蓄電デバイスの入力特性もより向上する。
【0038】
<リチウムチタン複合酸化物粉末の結晶子径D
X>
本発明においては、リチウムチタン複合酸化物粉末のLi
4Ti
5O
12の(111)面のピーク半値幅からScherrerの式より算出される結晶子径をD
Xとする。本発明のリチウムチタン複合酸化物粉末のD
Xは、特に限定されないが、80nm以上であることが好ましい。D
Xが80nm以上であると、リチウムイオンが粒界を移動するときの抵抗の影響を最小限に抑えることができ、粒界をリチウムイオンが移動することで生じる分極増加による電池性能の低下をより適切に抑制できる。またD
Xは、特に限定されないが、500nm以下であることが好ましい。D
Xが500nm以下であれば粒子内部の拡散抵抗の影響を最小限に抑えることができ、粒子内部をリチウムイオンが移動することで生じる分極増加による電池性能の低下をより適切に抑制できる。ただし、本発明においては、D
Xの値は、このような範囲に特に限定されるものではない。D
Xの測定方法については、後述の実施例にて詳細に説明する。なお、リチウムチタン複合酸化物粉末の結晶子径D
Xについては、D
BETとは異なり、炭素質物質の存在がその測定結果に影響を与えないため、本発明においては繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を対象にして測定を行う。
【0039】
<リチウムチタン複合酸化物粉末のD
BETとD
Xの比D
BET/D
X(μm/μm)>
本発明のリチウムチタン複合酸化物粉末のD
BETとD
Xの比D
BET/D
X(μm/μm)は、特に限定されないが、2以下であることが好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。D
BET/D
Xが小さいほど、本発明の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末が電極材料として適用された蓄電デバイスの入出力特性をより高めることができる。ただし、本発明においては、D
BET/D
X(μm/μm)の値は、上記範囲に特に限定されるものではない。
【0040】
[繊維状炭素]
本発明の繊維状炭素は、平均直径が5〜40nmで、平均アスペクト比が10〜1000である。繊維状炭素の平均直径が5nm未満の場合は、炭素繊維が凝集するため、高温環境下における充放電サイクル特性や充放電サイクル後のガス発生を向上させることができない。一方、繊維状炭素の平均直径が40nmより大きい場合は導電性の改善効果が小さい。また、繊維状炭素の平均アスペクト比が10未満の場合は、導電性の改善効果が小さい。導電性の改善効果をより高めるという観点から、繊維状炭素の平均アスペクト比は、好ましくは30以上、より好ましくは50以上である。一方、繊維状炭素の平均アスペクト比が1000より大きい場合は、炭素繊維が凝集するため、高温環境下における充放電サイクル特性の向上や充放電サイクル後のガス発生を効果的に抑制することができない。高温環境下における充放電サイクル特性をより高めることができ、また、充放電サイクル後のガス発生をより低減できるという観点から、繊維状炭素の平均アスペクト比は、好ましくは500以下、さらに好ましくは200以下である。繊維状炭素の平均直径と平均アスペクト比の測定方法については、後述の実施例にて詳細に説明する。本発明の繊維状炭素としては、この平均直径と平均アスペクト比を有する繊維状炭素であれば特に限定されないが、例えば、単層および多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。特に好ましい繊維状炭素は、特開2012―46864などに記載されている、そのグラファイト網面が閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個層状に積み重なって形成された釣鐘状構造単位集合体を複数備え、複数の前記釣鐘状構造単位集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成することにより構成されていることを特徴とする繊維状炭素である。本発明の繊維状炭素がこのような特に好ましい態様の繊維状炭素である場合は、特に電極中での分散状態が良好である。
【0041】
[球状二次粒子]
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は球状二次粒子を含んでおり、この球状二次粒子は、上述のリチウムチタン複合酸化物からなる一次粒子と繊維状炭素とを含む。ここでいう球状二次粒子とは、二次粒子の外観が球状に近似した形状、すなわち略球状であれば良く、完全な球状(真球状)に限定されるものではない。本発明の球状二次粒子には、部分的に凹凸がある粒子や、楕円球状などの球状に近い形状の粒子も含まれる。
【0042】
<球状二次粒子の平均圧縮強度>
本発明の球状二次粒子の平均圧縮強度は1〜25MPaである。球状二次粒子の平均圧縮強度がこの範囲であれば、蓄電デバイスの高温環境下での充放電サイクル特性を向上させることができ、充放電サイクル後のガス発生量を抑制することもできる。このような効果が得られるのは、球状二次粒子の平均圧縮強度がこの範囲であれば、電極合剤層を形成したときに、電極合剤層においても、繊維状炭素が局在化せず、かつ、リチウムチタン複合酸化物同士、あるいはリチウムチタン複合酸化物と繊維状炭素の接触面積が大きくなるためであると推察される。ここで、球状二次粒子の平均圧縮強度を25MPa以下にすることは、電極合剤層の高密度化、すなわち高エネルギー密度化に対しても効果的である。上記の観点から、平均圧縮強度の下限は、好ましくは2MPa以上、より好ましくは3MPa以上であり、平均圧縮強度の上限は、好ましくは20MPa以下、より好ましくは15MPa以下、さらに好ましくは10MPa以下である。前記球状二次粒子の平均圧縮強度の測定方法は後述の実施例にて説明する。
【0043】
<繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の平均円形度>
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、上述の球状二次粒子を含み、平均円形度が90%以上である。平均円形度が90%未満の場合は、それを適用した蓄電デバイスの入出力特性が低下する。この理由としては、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を他の電極構成材料と混合して塗料化した際に、その塗料中の繊維状炭素の分散性が悪くなり、電極合剤層において繊維状炭素が局在化することによると推察される。塗料化の際に、円形度が低い、いびつな形状の二次粒子からは、粒子表面近傍の繊維状炭素やリチウムチタン複合酸化物の一次粒子が脱落しやすいためであると思われる。蓄電デバイスの入出力特性をより高めるという観点から、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の平均円形度は95%以上であることが好ましい。平均円形度の測定方法は後述の実施例にて説明する。
【0044】
<繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末における、熱重量分析による測定から算出される炭素含有率、およびX線光電子分光分析による測定から算出される炭素とチタンとの原子比>
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、熱重量分析による測定から算出される、リチウムチタン複合酸化物粉末の質量に対する炭素の質量割合をAとし、Aの百分率表記をa(質量%)とし、X線光電子分光分析により測定される炭素とチタンとの原子比(炭素/チタン)をBとしたときに、aが0.1〜3質量%であり、B/Aが90〜200である。aが0.1質量%より小さいと、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の電子伝導性が十分に向上しないため、入出力特性が良い蓄電デバイスは得られない。aが3質量%より大きいと、球状二次粒子表面の繊維状炭素の量が増えて、球状二次粒子表面で凝集するため、高温環境下での充放電サイクル特性が良い蓄電デバイスは得られず、充放電サイクル後のガス発生も抑制されない。入出力特性および高温環境下での充放電サイクル特性をより高めるという観点から、aの下限は0.3質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。また、aの上限は2.5質量%がより好ましく、2質量%がさらに好ましい。また、B/Aが90より小さくても、あるいは200より大きくても、高温環境下での充放電サイクル特性が良い蓄電デバイスは得られず、充放電サイクル後のガス発生も抑制されない。充放電サイクル特性をより高めることができ、また、充放電サイクル後のガス発生をより低減できるという観点から、B/Aの下限は100がより好ましく、110がさらに好ましい。また、B/Aの上限は190がより好ましく、180がさらに好ましい。熱重量分析においては、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の粒子全体、すなわち、実質的に、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末に含まれる前記球状二次粒子全体における、炭素の質量割合が測定されるので、Aは、前記球状二次粒子全体における炭素含有率を示すものとなる。一方、X線光電子分光分析においては、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の粒子表面、すなわち、実質的に、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末に含まれる前記球状二次粒子を構成する炭素とチタンのうち、表面に位置する炭素とチタンとの原子比(炭素/チタン)のみが測定されるので、Bは、前記球状二次粒子の表面の炭素含有率に代わる指標である。そして、本発明におけるB/Aは、前記球状二次粒子を構成する炭素とチタンのうち、表面に位置する炭素とチタンとの原子比(炭素/チタン)を、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末全体の炭素含有率(質量%)で除した値であり、前記球状二次粒子全体における炭素含有率と、球状二次粒子表面における炭素含有率との比を表す指標である。B/Aが大きいほど、球状二次粒子表面の炭素含有率が、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末全体の炭素含有率に比べて大きいことになる。
【0045】
<繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末のD50>
繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末のD50は、粉体ハンドリングの観点から、1μm以上であることが好ましく、より好ましくは3μm以上である。また、電極合剤密度を高め、高エネルギー密度化させるという観点から、25μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは15μm以下である。ここで、D50とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して50%になる粒径のことである。
【0046】
<繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の1−メチル−2−ピロリドン吸油量>
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、1−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと記すことがある)吸油量が55ml/100g〜160ml/100gであることが好ましい。NMP吸油量がこの範囲であれば、蓄電デバイスの高温環境下での充放電サイクル特性がさらに向上し、充放電サイクル後のガス発生量がさらに低減される。このような効果が得られるのは、NMP吸油量をこの範囲とすることで、蓄電デバイスの、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末が用いられた電極合剤層中の電解液保液量を適切にすることができることによると推察される。高温環境下における充放電サイクル特性をより高めることができ、また、充放電サイクル後のガス発生をより低減できるという観点からは、NMP吸油量の下限は、好ましくは60ml/100g、より好ましくは65ml/100g、さらに好ましくは70ml/100gである。また、NMP吸油量の上限は、好ましくは155ml/100g、より好ましくは150ml/100g、さらに好ましくは145ml/100gである。ここで、ml/100gという単位は繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末100gあたりのNMPの吸収量(単位は、ml)を表す。なお、NMP吸油量は、リチウムチタン複合酸化物粉末の比表面積や、繊維状炭素の添加割合などで調整することができる。
【0047】
また、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、さらに非繊維状炭素を含んでも良い。非繊維状炭素は特に限定されないが、比表面積が20〜200m
2/gの粉末であれば、特に高温環境下での充放電サイクル特性を向上させる効果が得られるので好ましい。具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが好ましい。
【0048】
(繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の製造方法)
以下に、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の製造方法の一例を、リチウムチタン複合酸化物がチタン酸リチウムである場合について、原料の調製工程、乾燥・造粒工程、および焼成工程に分けて説明するが、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の製造方法はこれに限定されない。
【0049】
[原料混合スラリーの調製工程]
本発明においては、リチウム原料とチタン原料とを混合し、その混合物のD95が特定の範囲になるように予め調製した後、その混合物と繊維状炭素とを湿式混合して原料混合スラリー(以下、混合スラリーと略記することがある)を調製する。このように調製した混合スラリーを乾燥・造粒し、焼成することで、得られる繊維状炭素含有チタン酸リチウム(リチウムチタン複合酸化物)粉末のB/Aを90〜200にすることができる。
【0050】
<リチウムチタン複合酸化物原料の調製工程>
チタン酸リチウムの原料としては、チタン原料およびリチウム原料を用いる。チタン原料としては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン等のチタン化合物が用いられる。チタン原料としては、短時間でリチウム原料と反応し易いことが好ましく、その観点で、アナターゼ型二酸化チタンが好ましい。特にルチル化率が0%の完全アナターゼ型二酸化チタンが好ましい。
【0051】
リチウム原料としては、水酸化リチウム一水和物、酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物が用いられるが、水酸化リチウム一水和物、炭酸リチウムが好ましい。
【0052】
以上のチタン原料およびリチウム原料を、繊維状炭素と混合する前に混合し、さらに、レーザ回折・散乱型粒度分布測定機にて測定される粒度分布曲線におけるD95が2μm以下になるように調製する。これにより、B/Aが90〜200の繊維状炭素含有チタン酸リチウム(リチウムチタン複合酸化物)粉末を得ることができる。ここで、D95とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して95%になる粒径のことである。繊維状炭素との混合に供するチタン原料とリチウム原料の混合物の状態は、混合物の粉末を含むスラリー状が好ましい。
【0053】
チタン原料とリチウム原料の混合物の調製方法としては、次に挙げる方法を採用することができる。第一の方法は、原料を調合後、混合と同時に粉砕を行う方法である。第二の方法は、各原料を混合後のD95が2μm以下になるまで粉砕した後、これらを混合、あるいは軽く粉砕しながら混合する方法である。第三の方法は、各原料を晶析などの方法によって微粒子からなる粉末を製造し、必要に応じて分級して、これらを混合、あるいは軽く粉砕しながら混合する方法である。なかでも、第一の方法において、原料の混合と同時に粉砕を行う方法は、工程が少ない方法なので工業的に有利な方法である。いずれの方法であっても、混合は湿式で行われることが望ましく、その際の分散剤としては、ポリビニルアルコール、またはポリカルボン酸アンモニウム塩を用いることが望ましい。
本発明において、粒子表面への繊維状炭素の局在化が抑制された球状二次粒子を含む繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末、具体的にはB/Aが90〜200である繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を得ることができるようになったことについて、以下のように考察する。
【0054】
チタン酸リチウムを含むリチウムチタン複合酸化物に繊維状炭素を複合化して球状二次粒子を形成する場合、従来は繊維状炭素が球状二次粒子の表面に極端に局在化していた。その理由を次のように考察する。
【0055】
リチウム原料、チタン原料および繊維状炭素を混合したときに、繊維状炭素は、チタン原料の粒子表面に比べてリチウム原料の粒子表面により多く存在し、そして凝集して存在する。繊維状炭素に対するリチウム原料の親和性と、チタン原料の親和性が著しく相違している可能性があり、その影響と思われる。
【0056】
また、一般的にリチウム原料はチタン原料に比べて粒子径が著しく大きく、その比表面積が非常に小さいため、このような性質を持つ原料を含むスラリー中では、そのスラリーを、粉砕効果を伴わない効率の良い混合手段で混合しても、また、繊維状炭素の分散性が良い分散剤を使用しても、あるいは混合時間を長くしても、繊維状炭素は僅かなリチウム原料の粒子表面に凝集して存在しようとする。結果的に、繊維状炭素と親和性の良いリチウム原料の表面に直接接触する繊維状炭素の割合が非常に小さくなる。
【0057】
スラリーを噴霧・乾燥すると、スラリーが微粒化される。この分散媒を含む粒子の表面から分散媒が蒸発し、それに伴って粒子内部の分散媒が粒子表面に移動し、それが粒子表面から蒸発しながら固形物の造粒粒子が形成される。以上のような状態のスラリーの場合、分散媒が粒子内部から粒子表面に移動するとともに、比重が小さく、リチウム原料の粒子表面と直接接触していない繊維状炭素が、凝集したまま分散媒と一緒に粒子表面に向かって移動することになる。このようにして形成された造粒粒子においては、造粒粒子の表面近傍に繊維状炭素が局在化することになる。そして、このような造粒粒子を焼成して得られた球状二次粒子においても、繊維状炭素はその粒子表面に局在化することになる。
【0058】
これに対して、繊維状炭素と混合する前に予めリチウム原料の粒子径を小さくすると、繊維状炭素が直接接触するリチウム原料の比表面積が大きくなり、比表面積が大きくなることで、繊維状炭素は分散してリチウム原料の粒子表面に直接接触することができる。その結果、スラリー中での繊維状炭素の凝集が抑制されて、リチウム原料の表面に直接接触する繊維状炭素の割合が大きくなる。このようなスラリーを噴霧・乾燥した場合は、分散媒の粒子表面への移動に伴う、繊維状炭素の粒子表面への移動も抑制される。その結果、造粒粒子においても、それを焼成して得られた球状二次粒子においても、その粒子表面への繊維状炭素の局在化が抑制される。
【0059】
以上のように、繊維状炭素を含むリチウムチタン複合酸化物粉末に含まれる球状二次粒子において、繊維状炭素が球状二次粒子の表面に局在化しやすい原因の一つは、繊維状炭素に対するリチウム原料とチタン原料の親和性と粒子径の相違にあると推察され、本発明において、リチウムチタン複合酸化物の原料の粒度分布を特定の値以下にした上で繊維状炭素と混合することによって、粒子表面への繊維状炭素の局在化が抑制された球状二次粒子を含む繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末、具体的にはB/Aが90〜200である繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を得ることができるようになったものと思われる。
【0060】
<繊維状炭素の調製工程>
原料に用いる繊維状炭素としては、得られる繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末の球状二次粒子において、平均直径が5〜40nmで、平均アスペクト比が10〜1000となる繊維状炭素であれば良い。チタン原料とリチウム原料の混合物と繊維状炭素との混合工程において、その条件を調整することによって繊維状炭素を切断することができるので、平均アスペクト比が1000より大きい繊維状炭素を用いても良い。本発明においては、平均直径が5〜40nmの、所謂カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)が好ましく用いられる。なかでも、グラファイト網面が閉じた頭頂部と、下部が開いた胴部とを有する釣鐘状構造単位が、中心軸を共有して2〜30個層状に積み重なって形成された釣鐘状構造単位集合体を複数備え、複数の前記釣鐘状構造単位集合体が、Head−to−Tail様式で間隔をもって連結して繊維を形成することにより構成されていることを特徴とする、特開2012―46864の実施例などに記載されている繊維状炭素が特に好ましい。このような繊維状炭素を用いることで、B/Aが90〜200の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末が得られやすくなる。
【0061】
繊維状炭素は凝集しやすいため、繊維状炭素を、チタン原料とリチウム原料の混合物と混合する前に、液体分散媒体中で分散剤を用いて開繊、分散すると同時に、平均アスペクト比が大きい繊維状炭素の場合は粉砕(切断)して、スラリー状のまま、チタン原料とリチウム原料の混合物と混合することが好ましい。
【0062】
前記分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸アンモニウム塩、オレイン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、モノアルコールエステル、フェロセン誘導体等の界面活性剤、ピレン化合物(ピレンアンモニウム)、ポルフィリン化合物(ZnPP、Hemin、PPEt)、ポリフルオレン、環状グルカン、葉酸、ラクタム化合物(−CONH−)、ラクトン化合物(−CO−O−)等の環式/多環芳香族化合物、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニレンエチレン等の直鎖状共役重合体、ポリビニルピロリドン(PVP)等の環状アミド、ポリスチレンスルホン酸、ポリマーミセル、水溶性ピレン含有ポリマー、果糖、多糖類(カルボキシメチルセルロース等)、アミロース等の糖類、ラタキサン等の包接錯体、コール酸類縁体が挙げられ、特に分散媒体が水溶液系のときは、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンが好適である。分散剤は、繊維状炭素の凝集体に対し質量比で1/100以上、100/100以下で添加されることが好ましい。前記分散媒体としては、特に限定はされないが、取り扱い及びリチウム化合物の溶解性の観点から、水、アルコール類等の極性溶媒が通常使用される。繊維状炭素の凝集体の開繊、分散は、分散媒体と分散剤と繊維状炭素の凝集体等を合わせて、ホモミキサー、トリミックス等で攪拌することにより行われるが、より効果的にするために振動衝撃波による超音波、ビーズ、ボール等の衝撃、振盪を利用したビーズミル、ペイントシェーカーが用いられる。平均アスペクト比が大きい繊維状炭素の場合は、ビーズミルなどの比較的粉砕能力の高い方法が好ましく採用される。
【0063】
繊維状炭素を液体分散媒体中で開繊および分散させる前に、繊維状炭素に酸化処理を施すこともできる。酸化処理を行うことにより、繊維状炭素が分散媒体に馴染みやすくなり、本発明のチタン酸リチウムに対する分散性がより高まることで、高温環境下での充放電サイクル特性と、充放電サイクル後のガス発生抑制に効果的である。酸化処理方法としては、たとえば、硝酸/硫酸、オゾン、超臨界水、超臨界炭酸ガス等による液相酸化、または大気焼成、酸素プラズマ等による気相酸化等による炭素繊維表面への親水化処理を施す方法が挙げられる。
【0064】
<チタン原料とリチウム原料の混合物と、繊維状炭素の混合工程>
次いで、上述の方法で得られたチタン原料とリチウム原料の混合物と、繊維状炭素とを、得られる繊維状炭素含有チタン酸リチウム(リチウムチタン複合酸化物)粉末全体における炭素含有率(質量%)が0.1〜3質量%になる所望の割合で混合し、乾燥・造粒工程に供する混合スラリーを調製する。チタン原料とリチウム原料の混合物と、繊維状炭素とが均一に混合できる方法であれば、これらの混合方法は特に限定されないが、前述の通り、チタン原料とリチウム原料の混合物のスラリーと、繊維状炭素のスラリーとを混合することが好ましく、例えば、ホモミキサー、トリミックス等で撹拌する方法や、ビーズミル、ペイントシェーカー等の衝撃、振盪を利用した方法で混合することが出来る。繊維状炭素のアスペクト比が10未満になるような方法でなければ、原料がさらに粉砕される混合方法であっても良い。
【0065】
[乾燥・造粒工程]
次いで、得られた混合スラリーを乾燥・造粒する。乾燥・造粒方法は、平均円形度が90%以上の繊維状炭素含有チタン酸リチウム(リチウムチタン複合酸化物)粉末が得られる方法であればいかなる方法でも良いが、通常、噴霧乾燥(スプレードライ)法を採用する。一般的な噴霧乾燥(スプレードライ)法により乾燥・造粒された造粒粉末ならば、平均円形度が大きく、焼成後でも、通常、平均円形度は90%以上になる。
【0066】
なかでも、二流体スプレードライヤーを使用した噴霧乾燥(スプレードライ)法が好ましく、その場合の噴霧乾燥は、190℃以上、更には210℃以上の温度下、スラリーの送液速度範囲0.1L/分から1L/分で行うことが好ましい。造粒粉末の大きさは、主にスラリーの固形分と噴霧するエアーの圧力によって制御できる。スラリーの固形分が大きいと造粒粉末は大きくなり、スラリーの固形分が小さいと造粒粉末は小さくなる。また、エアーの圧力が小さいと造粒粉末は大きくなり、エアーの圧力が大きいと造粒粉末は小さくなる。得られた造粒粉末は、そのまま次の焼成工程に供することができる。
【0067】
[焼成工程]
次いで、得られた造粒粉末を焼成する。繊維状炭素含有チタン酸リチウム(リチウムチタン複合酸化物)粉末の球状二次粒子の平均圧縮強度を1〜25MPaにするには、造粒粉末を高温かつ短時間で焼成することが好ましい。このような観点から、焼成時の最高温度は、好ましくは1000℃以下であり、より好ましくは950℃以下であり、更に好ましくは900℃以下である。繊維状炭素含有チタン酸リチウム(リチウムチタン複合酸化物)粉末の球状二次粒子の比表面積を大きく、かつ結晶子径を大きくする観点から、焼成時の最高温度は、好ましくは720℃以上であり、より好ましくは750℃以上であり、さらに好ましくは780℃以上である。同じ観点から、焼成時の最高温度での保持時間は、好ましくは2〜60分であり、より好ましくは5〜45分であり、更に好ましくは5〜30分である。焼成時の最高温度が高い時には、より短い保持時間を選択することが好ましい。同様に、焼成により得られる結晶子径を大きくする観点から、焼成時の昇温過程においては、700℃〜最高温度の滞留時間を特に短くすることが好ましい。
【0068】
本発明においては、造粒粉末を、上述のように高温で短時間焼成することによって、球状二次粒子の平均圧縮強度を1〜25MPaにできる。焼成時間を長くすれば、球状二次粒子の平均圧縮強度は25MPaより大きくなりやすく、予め合成したチタン酸リチウム粉末と繊維状炭素とを混合して造粒しただけでは、球状二次粒子の平均圧縮強度は1MPa未満になりやすい。
【0069】
このような条件で焼成できる方法であれば、焼成方法は特に限定されるものではない。利用できる焼成炉としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式、ロータリーキルン式焼成炉が挙げられる。ただし、短時間で効率的な焼成をする場合は、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が好ましい。匣鉢に造粒粉末を収容して焼成するローラーハース式焼成炉、またはメッシュベルト式焼成炉を用いる場合は、得られるチタン酸リチウムの品質を一定にするために、焼成時の造粒粉末の温度分布を均一にすることが好ましく、匣鉢への造粒粉末の収容量を少量にすることが好ましい。
【0070】
ロータリーキルン式焼成炉は、造粒粉末を収容する容器が不要で、連続的に造粒粉末を投入しながら焼成が出来る点、被焼成物への熱履歴が均一で、均質な繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得やすい点から、本発明のチタン酸リチウム粉末を製造するには特に好ましい焼成炉である。
【0071】
焼成時の雰囲気は、繊維状炭素または場合によって含まれる非繊維状炭素を焼成時に消耗あるいは消失させないために、酸素を含まない窒素または希ガスなどの不活性雰囲気であることが好ましい。
【0072】
(電極シート)
次いで、本発明の電極シートについて説明する。本発明の蓄電デバイスの電極シートは、集電体の片面または両面に、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を含む電極合剤層を有する蓄電デバイスの電極シートであり、蓄電デバイスの設計形状に合わせて裁断され、正極または負極として使用される。前記電極合剤層は、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末以外には結着剤を含む。また、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末に含まれる繊維状炭素や、場合によっては含まれる非繊維状炭素以外に、電極合剤層形成時に加えられる導電助剤を含むことができる。以下では、便宜的に、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末に含まれる繊維状炭素を第一の導電助剤、場合によっては含まれる非繊維状炭素を第二の導電助剤とし、電極合剤層形成時に加えられる導電助剤を第三の導電助剤と記すことがある。
【0073】
<電極合剤層の電解液保液率と電極合剤層の密度>
本発明の蓄電デバイスの電極シートは、電極合剤層の電解液保液率が0.7〜1.0であり、電極合剤層の密度が1.9〜2.5g/cm
3であることが好ましい。なお、本発明における電解液保液率とは、電極シートをプロピレンカーボネート溶媒にLiPF
6を1M溶解させた非水電解液(以下、1M LiPF
6/PC)に浸漬させた際の、電極合剤層中に含侵した非水電解液の体積の、電極合剤層の体積に対する割合である。前記電極合剤層の電解液保液率および電極合剤層密度の測定方法は後述の実施例にて説明する。前記電極合剤層の電解液保液率および電極合剤層密度がこの範囲にある場合は、エネルギー密度が向上し、電解液が浸み込みやすくなる、すなわちLiの挿入脱離反応は円滑に進行し、高温環境下での充放電サイクル特性と、充放電サイクル後のガス発生抑制に効果的である。本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を用いた上で、第三の導電助剤の添加量や電極合剤層の電極密度を調整することで前記電極合剤層の電解液保液率および電極合剤層密度をこの範囲に調節することができる。
【0074】
<電極合剤層の比表面積S
E(m
2/g)と電解液保液率L
Eとの比S
E/L
E>
さらに、本発明の蓄電デバイスの電極シートは、前記電極合剤層の、BET法により求める比表面積をS
E(m
2/g)とし、前記電極合剤層の電解液保液率をL
Eとしたときに、S
E/L
Eが0.20〜0.30であることが好ましい。S
E/L
Eがこの範囲にある場合は、蓄電デバイスの高温環境下での充放電サイクル特性が特に良くなり、充放電サイクル後のガス発生量が特に低減される。S
E/L
Eをこの範囲にすることによって、電極合剤層中の電解液保液量が、これらの効果を得るに適した範囲に調節されることによると推察される。S
E/L
Eは、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末だけでなく、第三の導電助剤の比表面積や添加量などでも調節することができる。前記電極合剤層の比表面積の測定方法は実施例にて説明する。
【0075】
(蓄電デバイス)
本発明の蓄電デバイスは、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を含む電極へのリチウムイオンのインターカレーション、脱インターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵、放出するデバイスであって、例えば、ハイブリッドキャパシタやリチウム電池などが挙げられる。
【0076】
[ハイブリッドキャパシタ]
前記ハイブリッドキャパシタとしては、正極に、活性炭など電気二重層キャパシタの電極材料と同様の物理的な吸着によって容量が形成される活物質や、グラファイトなど物理的な吸着とインターカレーション、脱インターカレーションによって容量が形成される活物質や、導電性高分子などレドックスにより容量が形成される活物質を使用し、負極に本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を使用するデバイスである。
【0077】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池およびリチウム二次電池を総称する。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0078】
前記リチウム電池は、正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液等により構成されているが、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は電極材料として用いることができる。本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、正極活物質および負極活物質のいずれとして用いてもよいが、以下には負極活物質として用いた場合を説明する。
【0079】
<負極>
負極は、負極集電体の片面または両面に、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末および結着剤を含む電極合剤層を有する。電極合剤層はさらに第三の導電助剤を含むことがある。
【0080】
前記負極用の、第三の導電助剤としては、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、単相カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)、カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))、節型カーボンナノファイバー(非魚骨構造)、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)等のカーボンナノチューブ類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類とカーボンナノチューブ類を適宜混合して用いてもよい。特に限定されることはないが、カーボンブラック類の比表面積は好ましくは30〜3000m
2/gであり、さらに好ましくは50〜2000m
2/gである。30m
2/g未満の比表面積では、活物質との接触面積が減少するため、導電性が取れなくなり、内部抵抗が上昇することになる。3000m
2/g超の比表面積になると、塗料化に必要となる溶媒量が増えるため、電極密度を向上させることがより困難になり、合剤層の高容量化に適さない。また、グラファイト類の比表面積は、好ましくは30〜600m
2/gであり、さらに好ましくは50〜500m
2/gである。30m
2/g未満の比表面積では、活物質との接触面積が減少するため、導電性が取れなくなり、内部抵抗が上昇することになる。600m
2/g超の比表面積になると、塗料化に必要となる溶媒量が増えるため、電極密度を向上させることがより困難になり、合剤層の高容量化に適さない。また、カーボンナノチューブ類のアスペクト比は、好ましくは10〜1000である。アスペクト比が大きいと、形成される繊維の構造が円筒チューブ状に近づき、1本の繊維における繊維軸方向の導電性は向上するが、構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が低くなるため、隣接繊維間の導電性が悪化する。一方、アスペクト比が小さいと構造単位胴部を構成するグラファイト網面の開放端が繊維外周面に露出する頻度が高くなるため、隣接繊維間の導電性は向上するが、繊維外周面が、繊維軸方向に短いグラファイト網面が多数連結して構成されるため、1本の繊維における繊維軸方向の導電性が損なわれる。
【0081】
第三の導電助剤の添加量は、活物質の比表面積や導電助剤の種類や組合せにより最適化されるが、合剤層全体に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末は、第一の導電助剤である繊維状炭素、場合によっては第二の導電助剤である非繊維状炭素を含んでおり、第三の導電助剤が添加されなくても、蓄電デバイスとして十分な性能が発現する。
【0082】
前記負極用の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。特に限定されることはないが、ポリフッ化ビニリデンの分子量は、好ましくは2万〜20万である。電極合剤層の結着性を確保する観点から、2.5万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、5万以上であることがさらに好ましい。活物質と導電助剤との接触を妨げずに導電性が確保する観点から、15万以下であることが好ましい。特に活物質の比表面積が10m
2/g以上の場合には、分子量は10万以上であることが好ましい。
【0083】
結着剤の添加量は、活物質の比表面積や導電助剤の種類や組合せにより最適化を行うが、通常、合剤層全体に対して、好ましくは0.2〜15質量%である。結着性を高め合剤層の強度を確保する観点から、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。合剤層における活物質比率の減少を抑制し、合剤層の単位質量および単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量を低減させない観点から、結着剤の添加量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0084】
前記負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、焼成炭素、あるいはそれらの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を被覆させたもの等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により負極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、前記負極集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。
【0085】
前記負極は、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末、結着剤、必要に応じて第三の導電助剤に溶剤を加えて、これらを混合・混練し、さらに溶剤を加えながら粘度を調節して塗料化した後、前記負極集電体上に塗布し、乾燥、圧縮することによって得ることができる。
【0086】
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末、結着剤、必要に応じて添加する第三の導電助剤を溶剤中に混合する方法としては、特に限定されることはないが、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末と導電助剤と結着剤を同時に溶剤中で混合する方法、導電助剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を追加混合する方法、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末のスラリーと導電助剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法などが挙げられる。これらの合剤層構成材料を合剤層に均一に分散させて存在させるには、導電助剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法および負極活物質スラリーと導電助剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法が好ましい。
【0087】
溶剤としては、水や有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなど非プロトン性有機溶媒を単独、または2種類以上混合したものが挙げられ、好ましくはN−メチルピロリドンである。
【0088】
溶剤に水を用いる場合には、結着剤を凝集させないために、結着剤は、最終的に所望の粘度に調整する段階で添加することが好ましい。また、負極集電体としてアルミニウムを用いた場合、塗料のpHが高くなると、アルミニウムの腐食が起こるため、酸性化合物を加えて、腐食が起こらないpHまで下げることが好ましい。酸性化合物としては、無機酸や有機酸のどちらも使用できる。無機酸としては、好ましくはリン酸、ホウ酸、シュウ酸であり、より好ましくはシュウ酸である。有機酸としては、好ましくは有機カルボン酸である。また、アルミニウムの腐食を防ぐ方法として、アルミニウム集電体の表面にカーボンなど耐アルカリ性のあるものを被覆させたアルミニウム集電体を用いるのが好ましい。
【0089】
溶剤に有機溶媒を用いる場合には、結着剤をあらかじめ有機溶媒に溶解させて使用することが好ましい。
【0090】
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末、結着剤、必要に応じて添加する第三の導電助剤に溶剤を加えて、混合・混練する装置としては、例えば、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置、ビーズミル、高速旋回型ミキサ、粉体吸引連続溶解分散装置などを用いることができる。また、固形分濃度が高い状態で、混合・混練を開始し、段階的に固形分濃度を下げて塗料の粘度を調整することが好ましく、その場合は、粘度に応じて、その粘度に適した前記混合・混練装置を使い分けることが好ましい。なお、混合・混練を開始する段階の固形分濃度は、好ましくは60〜90質量%、さらに好ましくは70〜90質量%である。60質量%未満では、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末、結着剤、必要に応じて添加する第三の導電助剤を均一分散させるのに十分なせん断力を得ることが難しく、90質量%超では装置の負荷が大きくなりやすい。
【0091】
<正極>
正極は、正極集電体の片面または両面に、正極活物質、導電助剤および結着剤を含む合剤層を有する。
【0092】
前記正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が使用され、例えば、活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物やリチウム含有オリビン型リン酸塩などが挙げられ、これらの正極活物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO
2、LiMn
2O
4、LiNiO
2、LiCo
1−xNi
xO
2(0.01<x<1)、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
1/2Mn
3/2O
4等が挙げられ、これらのリチウム複合酸化物の一部は他元素で置換してもよく、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも1種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、あるいは、これらの他元素を含有する化合物を被覆することができる。リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiNiPO
4、LiMnPO
4、LiFe
1−xM
xPO
4(MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、およびCdから選ばれる少なくとも1種であり、xは、0≦x≦0.5である。)等が挙げられる。
【0093】
前記正極用の導電助剤および結着剤としては、負極と同様のものが挙げられる。前記正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により正極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。
【0094】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒中に電解質塩を溶解させたものである。この非水電解液には特に制限は無く、種々のものを用いることができる。
【0095】
前記電解質塩としては、非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiPO
2F
2、LiN(SO
2F)
2、LiClO
4等の無機リチウム塩、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiCF
3SO
3、LiC(SO
2CF
3)
3、LiPF
4(CF
3)
2、LiPF
3(C
2F
5)
3、LiPF
3(CF
3)
3、LiPF
3(iso−C
3F
7)
3、LiPF
5(iso−C
3F
7)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF
2)
2(SO
2)
2NLi、(CF
2)
3(SO
2)
2NLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF
6、LiBF
4、LiPO
2F
2、およびLiN(SO
2F)
2であり、最も好ましい電解質塩はLiPF
6である。これらの電解質塩は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの電解質塩の好適な組み合わせとしては、LiPF
6を含み、更にLiBF
4、LiPO
2F
2、およびLiN(SO
2F)
2から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましい。
【0096】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0097】
一方、前記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル、アミド、リン酸エステル、スルホン、ラクトン、ニトリル、S=O結合含有化合物等が挙げられ、環状カーボネートを含むことが好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネートおよび鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0098】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネートから選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネートから選ばれる一種以上が、50C充電レート特性の向上効果や高温保存時のガス発生量を低減する観点からより好適であり、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよび2,3−ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好適である。全環状カーボネート中のアルキレン鎖を有する環状カーボネートの割合が55体積%〜100体積%であることが好ましく、60体積%〜90体積%であることが更に好ましい。
【0099】
したがって、前記非水電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネートから選ばれる一種以上の環状カーボネートを含む非水溶媒に、LiPF
6、LiBF
4、LiPO
2F
2、およびLiN(SO
2F)
2から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩を含む電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることが好ましく、前記環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよび2,3−ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好ましい。
【0100】
また、特に、全電解質塩の濃度が0.5M以上2.0M以下であり、前記電解質塩として、少なくともLiPF
6を含み、更に0.001M以上1M以下のLiBF
4、LiPO
2F
2、及びLiN(SO
2F)
2から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩が含まれる非水電解液を用いることが好ましい。LiPF
6以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合が0.001M以上であると、蓄電デバイスの高温環境下での充放電サイクル特性を向上させる効果や、充放電サイクル後のガス発生量低減効果が発揮されやすく、1.0M以下であると高温環境下での充放電サイクル特性を向上させる効果や、充放電サイクル後のガス発生量低減効果が低下する懸念が少ないので好ましい。LiPF
6以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.03M以上、最も好ましくは0.04M以上である。その上限は、好ましくは0.8M以下、さらに好ましくは0.6M以下、特に好ましくは0.4M以下である。
【0101】
また、前記非水溶媒は、適切な物性を達成するために、混合して使用されることが好ましい。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとラクトンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとエーテルの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状エステルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとニトリルとの組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネートとS=O結合含有化合物との組合せ等が挙げられる。
【0102】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、およびエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、およびジブチルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチル、および酢酸エチル(EA)から選ばれる1種又は2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0103】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチルおよび酢酸エチル(EA)から選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0104】
また、鎖状カーボネートを用いる場合には、2種以上を用いることが好ましい。さらに対称鎖状カーボネートと非対称鎖状カーボネートの両方が含まれるとより好ましく、対称鎖状カーボネートの含有量が非対称鎖状カーボネートより多く含まれると更に好ましい。
【0105】
鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60〜90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下するなどして高温環境下での充放電サイクル特性を向上させる効果や、充放電サイクル後のガス発生量低減効果が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0106】
鎖状カーボネート中に対称鎖状カーボネートが占める体積の割合は、51体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。その上限としては、95体積%以下がより好ましく、85体積%以下であると更に好ましい。対称鎖状カーボネートにジメチルカーボネートが含まれると特に好ましい。また、非対称鎖状カーボネートはメチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。上記の場合に一段と高温環境下での充放電サイクル特性を向上させる効果や、充放電サイクル後のガス発生量低減効果が向上するので好ましい。
【0107】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、高温環境下での充放電サイクル特性を向上させる効果や、充放電サイクル後のガス発生量低減効果を高める観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90〜45:55が好ましく、15:85〜40:60がより好ましく、20:80〜35:65が特に好ましい。
【0108】
<リチウム電池の構造>
本発明のリチウム電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極および単層又は複層のセパレータを有するコイン型電池、さらに、正極、負極およびロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池等が一例として挙げられる。
【0109】
前記セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース紙、ガラス繊維紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド微多孔膜などが挙げられ、2種以上を組み合わせて構成された多層膜としたものも用いることができる。またこれらのセパレータ表面にPVDF、シリコン樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウムなどの金属酸化物の粒子などをコーティングすることもできる。前記セパレータの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01〜10μmである。前記セパレータの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5〜300μmである。
【実施例】
【0110】
次に、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を構成するリチウムチタン複合酸化物がLi
4Ti
5O
12を主成分とするチタン酸リチウムである場合について、実施例および比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせを包含する。特に、実施例の非水電解液構成する溶媒の組み合わせに限定されるものではない。以下に記載の実施例、比較例に挙げる物性値の詳細について記載する。
【0111】
(各種物性測定方法)
〔1.粒度分布〕
本発明に係る各粉末の粒度分布の測定には、レーザ回折・散乱型粒度分布測定機(日機装株式会社、マイクロトラックMT3300EXII)を用いた。測定試料の調整には、チタン酸リチウムの原料スラリー、および混合スラリーの場合はエタノールを、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の場合はイオン交換水を、それぞれ測定溶媒として用いた。50mlの測定溶媒に約50mgの試料を投入し、さらに界面活性剤である0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を1cc添加し、得られた測定用スラリーを超音波分散機で処理した。分散処理が施された測定用スラリーを測定セルに収容して、さらに測定溶媒を加えてスラリー濃度を調整した。スラリーの透過率が適正範囲になったところで粒度分布測定を行った。
【0112】
〔2.繊維状炭素の平均直径および平均アスペクト比〕
繊維状炭素の平均直径D(nm)と平均繊維長L(nm)は、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末のSEM画像から算出した。SEM画像中の繊維状炭素100本の直径の平均値とアスペクト比の平均値を、繊維状炭素の平均直径および平均アスペクト比とした。アスペクト比はL(繊維長)/D(繊維直径)として計算される。
【0113】
〔3.XRD〕
測定装置として、CuKα線を用いたX線回折装置(株式会社リガク製、RINT−TTR−III型)を用いた。X線回折測定の測定条件は、測定角度範囲(2θ):10°〜90°、ステップ間隔:0.02°、測定時間:0.25秒/ステップ、線源:CuKα線、管球の電圧:50kV、電流:300mAとした。
【0114】
チタン酸リチウムのメインピーク強度(回折角2θ=18.1〜18.5°の範囲内の(111)面由来ピーク強度)、アナターゼ型二酸化チタンのメインピーク強度(回折角2θ=24.7〜25.7°の範囲内の(101)面由来ピーク強度)、ルチル型二酸化チタンのメインピーク強度(回折角2θ=27.2〜27.6°の範囲内の(110)面由来ピーク強度)、およびLi
2TiO
3のピーク強度(回折角2θ=43.5〜43.8°の範囲内の(−133)面由来ピーク強度)を測定した。またLi
2TiO
3の(−133)面由来ピーク強度に100/80を乗じてLi
2TiO
3のメインピーク強度((002)面相当のピークの強度)を算出した。そして、チタン酸リチウムのメインピーク強度を100としたときの、前記のルチル型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン、およびLi
2TiO
3のメインピーク強度の相対値を算出した。
【0115】
〔4.リチウムチタン複合酸化物粉末の結晶子径(D
X)〕
本発明のチタン酸リチウム粉末の結晶子径(D
X)は、CuKα線を用いたX線回折装置(株式会社リガク製、RINT−TTR−III型)を用いて測定した。測定条件を、測定角度範囲(2θ):15.8°〜21.0°、ステップ間隔:0.01°、測定時間:1秒/ステップ、線源:CuKα線、管球の電圧:50kV、電流:300mAとして得られたリチウムチタン複合酸化物の(111)面のピーク半値幅からScherrerの式、すなわち以下の式(1)より求めた。なお、半値幅の算出においては、回折装置の光学系による線幅を補正する必要があり、この補正にはシリコン粉末を使用した。
D
X = K・λ/( FW(S)・cosθ
c) ・・・(1)
FW(S)^D = FWHM^D − FW(I)^D
FW(I)=f0+f1×(2θ)+f2×(2θ)
2
θ
c=(t0+t1×(2θ)+t2(2θ)
2)/2
K:Scherrer定数(0.94)
λ:CuKα
1線の波長(1.54059Å)
FW(S):試料固有の半値幅(FWHM)
FW(I):装置固有の半値幅(FWHM)
D:デコンボリューションパラメータ(1.3)
f0=5.108673E−02
f1=1.058424E−04
f2=6.871481E−06
θ
c:ブラッグ角の補正値
t0=−3.000E−03
t1=5.119E−04
t2=−3.599E−06
【0116】
〔5.リチウムチタン複合酸化物粉末のBET比表面積(m
2/g)〕
本発明のリチウムチタン複合酸化物粉末のBET比表面積の測定は、上述の<リチウムチタン複合酸化物粉末の比表面積相当径D
BET>で説明した方法で、繊維状炭素を含む炭素質物質を除去した後のリチウムチタン複合酸化物粉末について行った。このリチウムチタン複合酸化物粉末について、株式会社マウンテック製、全自動BET比表面積測定装置、商品名「Macsorb HM model−1208」を使用し、液体窒素を用いて一点法でBET比表面積を測定した。
【0117】
〔6.リチウムチタン複合酸化物粉末の比表面積相当径(D
BET)〕
比表面積相当径(D
BET)は、粉末を構成する全ての粒子が同一径の球と仮定して、下記の式(2)より求めた。ここで、D
BETは比表面積相当径(μm)、ρ
Sはチタン酸リチウムの真密度(g/cc)、Sは〔5.リチウムチタン複合酸化物粉末のBET比表面積(m
2/g)〕で説明した方法で測定されたBET比表面積(m
2/g)である。
D
BET = 6/(ρ
S×S) ・・・(2)
【0118】
〔7.平均円形度〕
円形度は、粒子を2次元平面に投影したときの球形度の指標であり、球形度に代わる指標である。本発明においては、本発明の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末の二次粒子について、測定対象の粒子の周囲長に対する、測定対象の粒子と同じ面積を持つ真円の周囲長を百分率で表した値を各粒子の円形度として求め、その平均値を平均円形度とした。測定対象の粒子の周囲長は、SEM画像を画像処理することにより求め、円形度は下記の式(3)で求めた。50個の粒子の円形度の平均値を平均円形度とした。
円形度=(測定対象の粒子と同じ面積をもつ真円の周囲長)/(測定対象の粒子の周囲長)×100(%) ・・・(3)
【0119】
〔8.熱重量分析(TG)〕
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の炭素含有率(質量%)の測定を以下に説明する熱重量分析により行った。示差熱熱重量同時測定装置(HITACHITG/DTA7300)を使用して、以下の試験条件で示差熱−熱重量同時分析測定(TG−DTA)を行い、本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の炭素含有率(質量%)を求めた。
<試験条件>
雰囲気:大気
昇温速度:20℃/分
測定温度:室温〜900℃
【0120】
〔9.X線光電子分光分析(XPS)〕
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の粒子表面の炭素含有率に代わる指標として、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末について、X線光電子分光分析により、炭素とチタンとの原子比(炭素/チタン)を測定した。X線光電子分光分析による炭素とチタンとの原子比(炭素/チタン)の測定は、アルバック・ファイ製PHI1800型X線光電子分光装置を用いて、以下の試験条件にて行った。
<試験条件>
X線源:AlKα 400W
分析領域:2.0mm×0.8mm
【0121】
〔10.二次粒子の平均圧縮強度〕
球状二次粒子の圧縮試験を、島津製微小圧縮試験機MCT−510を用いて以下の試験条件にて行った。
<試験条件>
試験圧子:FLAT50
測定モード:圧縮試験
試験力: 4.9[mN]
負荷速度:0.0446[mN/秒]
【0122】
そして、球状二次粒子の圧縮強度(Cs[MPa])を、以下の式(4)により算出した。
Cs=2.48P/πd
2 ・・・(4)
P:試験力[N]、d:粒子径(mm)
【0123】
本実施形態では、得られた球状二次粒子のうち、粒径がD50(μm)の±3μm以内である二次粒子10個について、上述の測定を行い、測定値の平均値を球状二次粒子の平均圧縮強度とした。
【0124】
〔11.1−メチル−2−ピロリドン吸油量〕
本発明の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末のN−メチルピロリドン吸油量は、試薬液体としてNMP(1−メチル−2−ピロリドン)を使用して、JIS K6217−4(2008)に準拠した方法で測定した。
【0125】
〔12.電極合剤層の電解液保液率〕
本発明の電極シートの電極合剤層の電解液保液率を次のようにして測定した。電極シートを16mmφの大きさに切り出し、室温にて非水電解液{1M LiPF
6/PC}に10分間浸した。このあと、電極シートを非水電解液{1M LiPF
6/PC}から取り出し、表面に付着した非水電解液{1M LiPF
6/PC}を吸湿性の不織布で電極に損傷を与えないように静かに拭き取り、電極合剤層中に残留した非水電解液{1M LiPF
6/PC}の質量を測定し、体積に換算した。電解液保液率は、以下の式(5)に示すように、電極合剤層中に残留した非水電解液の体積を電極合剤層の体積で除して値を百分率にして算出した。
電解液保液率(%)=(電極合剤層に残留した)非水電解液{1M LiPF
6/PC})の体積(cm
3))/(電極合剤層の体積(cm
3))×100 ・・・(5)
【0126】
(実施例1)
<チタン酸リチウムの原料スラリーの調製>
チタン酸リチウムの原料であるLi
2CO
3(平均粒径:4.6μm)とTiO
2(比表面積:9.2m
2/g)を、Tiに対するLiの原子比Li/Ti:0.83になるように秤量し、TiO
2に対して0.1質量%のポリビニルアルコール(PVA)と共に、固形分濃度41質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌してスラリーを作製した。このスラリーを、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、形式:ダイノーミル KD−20BC型、アジテーター材質:ポリウレタン、ベッセル内面材質:ジルコニア、ビーズ材質:ジルコニア、ビーズ外径:0.65mm、ベッセル内ビーズ充填率:80体積%)を使用して、アジテーター周速13m/秒、スラリーフィード速度55kg/時の条件で、ベッセル内圧が0.03MPa以下になるように制御しながら、粉砕・混合を行い、チタン酸リチウムの原料スラリーを調製した。得られたチタン酸リチウムの原料スラリーについて、レーザ回折・散乱型粒度分布測定機にてD95を測定すると、0.9μmであった。
【0127】
<多層カーボンナノチューブの合成>
イオン交換水中に、金属元素のモル比がCo:Mg:Al=8:66:26となるように、硝酸コバルト〔Co(NO
3)
2・6H
2O:分子量291.03〕、硝酸マグネシウム〔Mg(NO
3)
2・6H
2O:分子量256.41〕、硝酸アルミニウム〔Al(NO
3)
3・9H
2O:分子量375.13〕を溶解させ、塩基性条件下で攪拌混合した。その後、生成した沈殿物のろ過、洗浄、乾燥を行った。これを500℃に加熱して1時間焼成した後、乳鉢で粉砕し、置換固溶によるスピネル構造を持つ触媒を取得した。次いで、石英製反応管に、石英ウール製の支持体を設け、その上に触媒を散布した。He雰囲気中で管内温度を550℃に加熱した後、CO、H
2からなる混合ガス(容積比:CO/H
2=99.0/1.0)を原料ガスとして反応管の下部から1.28L/分の流量で7時間流し、多層カーボンナノチューブを得た。得られた多層カーボンナノチューブは、触媒の質量に対して15倍の収量であった。
【0128】
<多層カーボンナノチューブスラリーの調製>
得られた多層カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロース(CMC)とイオン交換水を、質量比として1.0:0.8:98.2となるように調合・撹拌してスラリーを作成した。このスラリーを、ビーズミル(淺田鉄工社製、形式:PICOMILL PCM−LR型、アジテーター材質:窒化珪素、ベッセル内面材質:ジルコニア)を使用して、ジルコニア製(外径:1.0mm)のビーズをベッセルに80体積%充填し、アジテーター周速8m/秒、スラリーフィード速度30〜50ml/分で、ベッセル内圧が0.06MPa以下になるように制御しながら、粉砕した。
【0129】
<混合スラリーの調製>
次いで、チタン酸リチウムの原料スラリーと多層カーボンナノチューブスラリーを、チタン酸リチウムの原料と多層カーボンナノチューブの質量比が99.5:0.5となるように混合し、固形分が15%となるようにイオン交換水を加えて混合・撹拌した。このスラリーを、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、形式:ダイノーミル KD−20BC型、アジテーター材質:ポリウレタン、ベッセル内面材質:ジルコニア)を使用して、ジルコニア製(外径:0.65mm)のビーズをベッセルに80体積%充填し、アジテーター周速13m/秒、スラリーフィード速度55kg/時で、ベッセル内圧が0.05MPa以下になるように制御しながら、混合を行った。
【0130】
<スプレードライ法による噴霧・造粒>
得られた混合スラリーを、二流体ノズルスプレードライヤーにて噴霧・乾燥し、造粒粉末を得た。プリス社製スプレードライヤー「P260TN−31HOP」を用いて入口温度235℃,出口温度110℃、噴霧圧力0.5MPa、スラリー供給速度50kg/時として噴霧乾燥し、造粒粉末を得た。
【0131】
<焼成>
得られた造粒粉末を、付着防止機構を備えたロータリーキルン式焼成炉(炉芯管長さ:4m、炉芯管直径:30cm、外部加熱式)の原料供給側から炉心管内に導入し、窒素雰囲気中で乾燥し、焼成した。このときの、炉心管の水平方向からの傾斜角度を2度、炉心管の回転速度を20rpm、焼成物回収側から炉心管内に導入する窒素の流速を20L/分として、炉心管の加熱温度を、原料供給側:860℃、中央部:860℃、焼成物回収側:860℃とし、焼成物の、加熱域での滞留時間を26分とした。その後、炉心管の焼成物回収側から回収した焼成物を、篩(目の粗さ:75μm)分けし、篩を通過した繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を収集した。
【0132】
得られた繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の物性を[各種物性測定方法]で説明した方法で測定した。以上の実施例1の製造条件(原料混合物のD95を含む)および繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末の物性を、他の実施例、比較例と併せて表1および表2に示す。なお、表中のABとはアセチレンブラックのことである。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
<特性評価用非水電解液の調製>
特性を評価するための電池に用いる非水電解液は、次のように調製した。エチレンカーボネート(EC):プロピレンカーボネート(PC):メチルエチルカーボネート(MEC):ジメチルカーボネート(DMC)(体積比)=10:20:20:50の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPF
6を1M、LiPO
2F
2を0.05Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した。
【0136】
<評価電極シートの作製>
活物質として実施例1の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を95質量%、アセチレンブラック(第三の導電助剤)を2質量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を3質量%の割合で含有する塗料を次のように作製した。あらかじめ1−メチル−2−ピロリドン溶剤に溶解させたポリフッ化ビニリデンとアセチレンブラックと1−メチル−2−ピロリドン溶剤を遊星式撹拌脱泡装置にて混合した後、繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を加え、更に1−メチル−2−ピロリドン溶剤を加え全固形分濃度が56質量%となるように調製し、遊星式撹拌脱泡装置にて混合して塗料を調整した。得られた塗料をアルミニウム箔上に塗布し、乾燥させて評価電極片面シートを作製した。また、得られた塗料をアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥させて評価電極両面シートを作製した。
【0137】
<コイン電池の作製>
前記評価電極片面シートを直径14mmの円形に打ち抜き、プレス加工した後、120℃で5時間真空乾燥することによって評価電極を作製した。このとき片面の合剤層の厚さは32μmで、合剤量は70g/m
2であった。作製した評価電極と金属リチウム(厚み0.5mm、直径16mmの円形に成形したもの)をグラスフィルター(ワットマン製 GA−100とGF/Cの2枚重ね)を介して対向させ、評価するための電池用として調製した、前記特性評価用非水電解液を、それぞれ加えて封止することによって、2030型コイン型電池を作製した。
【0138】
<初期充放電効率の測定(室温)>
25℃の恒温槽内にて、上述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、0.2mA/cm
2の電流密度で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05mA/cm
2の電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cm
2の電流密度で2Vまで放電させる定電流放電を行った。この時の放電容量を初回放電容量(mAh/g)とした。結果を表2に示す。
【0139】
<対極シートの作製>
上述の<評価電極シートの作製>と同様な作製方法において、活物質として、コバルト酸リチウム粉末を90質量%、アセチレンブラック(導電助剤)を5質量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5質量%の割合で含有する塗料を調整し、アルミニウム箔上に塗布、乾燥させた後、反対面にも塗料を塗布、乾燥させて対極両面シートを作製した。
【0140】
<ラミネート電池の作製>
前記評価電極両面シートをプレス加工し、所定の電極密度とした後、打ち抜き、リード線接続部分を有する合剤層が縦4.2cm横5.2cmの負極を作製した。このとき片面の合剤層の厚さは32μmで、合剤量は70g/m
2であった。前記対極両面シートをプレス加工した後、打ち抜き、リード線接続部分を有する合剤層が縦4cm横5cmの正極を作製した。このとき片面の合剤層の厚さは40μmで、合剤量は68g/m
2であった。作製した負極と正極を、微多孔性ポリエチレンフィルム製セパレータを介して対向させ、積層し、アルミ箔のリード線を正負極共に接続し、前記特性評価用非水電解液を、それぞれ加えてアルミラミネートで真空封止することによって、45℃充放電サイクル及び充放電サイクル後のガス発生評価用のラミネート型電池を作製した。このラミネート型電池の容量は200mAhで、負極と正極の容量の比(負極容量/正極容量比)は1.1であった。
【0141】
<サイクル試験、およびガス発生量の測定>
25℃の恒温槽内にて、上述の<ラミネート電池の作製>で説明した方法で作製したラミネート電池に、40mAで2.75Vまで充電を行い、さらに2.75Vで充電電流が10mAの電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、40mAの電流で1.4Vまで放電させる定電流放電を3サイクル行った。ラミネート電池を恒温槽から取り出し、アルキメデス法にて、ラミネート電池の体積(サイクル試験前のラミネート電池の体積)を測定した。その後、恒温槽の温度を45℃にして、200mAで2.75Vまで充電を行い、さらに2.75Vで充電電流が10mAの電流になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、200mAの電流で1.4Vまで放電させる定電流放電を500サイクル行った。1サイクル目の放電容量を、500サイクル目の放電容量で除して500cyc放電容量維持率[45℃]を算出した。その後、恒温槽の温度を25℃にして、1時間保存した。次に、ラミネート電池を恒温槽から取り出し、ラミネート電池の体積(保存後のラミネート電池の体積)をアルキメデス法で測定した。サイクル試験後のラミネート電池の体積からサイクル試験前のラミネート電池の体積を差し引いて、ガス発生量[45℃]を算出した。結果を表2に示す。
【0142】
以上の、実施例1の繊維状炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を電極シートに用いたラミネート型電池の特性評価結果を、他の実施例、比較例の炭素含有リチウムチタン複合酸化物粉末を電極シートに用いたリチウムイオン二次電池(ラミネート型電池)の特性評価結果と併せて表2に示す。
【0143】
(実施例2〜4)
繊維状炭素としての多層カーボンナノチューブの添加割合を表1に示す割合に変更して混合スラリーを調製したことと、実施例2、3については、チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したこと以外は実施例1と同様の方法で実施例2〜4の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0144】
(実施例5)
表1に示すように、分散剤として、ポリビニルアルコールに代えて、同量のポリカルボン酸アンモニウム塩を用いて、チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したこと以外は実施例2と同様の方法で実施例5の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0145】
(実施例6)
チタン原料に、表1に示す比表面積のTiO
2を用いて、チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したこと以外は実施例2と同様の方法で実施例6の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0146】
(実施例7)
繊維状炭素としての多層カーボンナノチューブの添加割合を表1に示す割合に変更して混合スラリーを調製したことと、造粒粉末の焼成時の最高温度を表1に示す温度に変更したこと以外は実施例6と同様の方法で実施例7の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0147】
(実施例8、9)
チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したことと、造粒粉末の焼成時の最高温度を表1に示す温度に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で実施例8、9の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0148】
(実施例10)
チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したことと、多層カーボンナノチューブと、アセチレンブラックと、CMCとイオン交換水を、質量比で0.5:0.5:0.8:98.2となるように調合・撹拌して、アセチレンブラックを含む多層カーボンナノチューブスラリーを調製したことと、チタン酸リチウムの原料スラリーと、アセチレンブラックを含む多層カーボンナノチューブスラリーとを、チタン酸リチウムの原料と多層カーボンナノチューブとアセチレンブラックの質量比が、「チタン酸リチウムの原料:多層カーボンナノチューブとアセチレンブラックとの合計」=99.0:1.0となるように混合して混合スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例10の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0149】
(実施例11、12)
チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したことと、多層カーボンナノチューブとアセチレンブラックを、各々表1に示す割合で混合したことと、チタン酸リチウムの原料スラリーと、アセチレンブラックを含む多層カーボンナノチューブスラリーとを、チタン酸リチウムの原料と多層カーボンナノチューブとアセチレンブラックの質量比が、「チタン酸リチウムの原料:多層カーボンナノチューブとアセチレンブラックとの合計」=99.0:1.0となるように混合して混合スラリーを調製したこと以外は、実施例10と同様の方法で実施例11、12の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0150】
(実施例13)
チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したこと以外は実施例2と同様の方法で実施例13の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。第三の導電助剤としてのアセチレンブラックの添加割合を表1に示す割合に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0151】
(実施例14〜17)
実施例1で作成した繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を用いて、第三の導電助剤としてのアセチレンブラックの添加割合を表1に示す割合に変更したことと、評価電極シートの電極合剤密度を表1に示す値になるように変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0152】
(実施例18)
チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したことと、繊維状炭素としての多層カーボンナノチューブの添加割合を表1に示す割合に変更して混合スラリーを調製したことと、造粒粉末の焼成時の最高温度を表1に示す温度に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で実施例18の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0153】
(比較例1)
チタン酸リチウムの原料であるLi
2CO
3(平均粒径:4.6μm)とTiO
2(比表面積:9.2m
2/g)を混合し撹拌して作製したスラリーについて、ビーズミルを用いた粉砕・混合を行わなかったこと以外は実施例2と同様の方法で比較例1の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0154】
(比較例2)
チタン原料に表1に示す比表面積のTiO
2を用いて、チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したことと、造粒粉末を、高純度アルミナ製の匣鉢に充填し、マッフル型電気炉を用いて、200℃/時の昇温速度で加熱し、表1に示す条件で保持して焼成したこと以外は実施例2と同様の方法で繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0155】
(比較例3)
チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したことと、造粒粉末の焼成時の最高温度を表1に示す温度に変更したこと以外は実施例2と同様の方法で比較例3の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0156】
(比較例4)
実施例1と同様の方法で調製したチタン酸リチウムの原料スラリーを、多層カーボンナノチューブスラリーなどの導電剤スラリーとの混合も、噴霧・造粒も行わず、実施例1で用いたロータリーキルン式焼成炉と同じ焼成炉を用いて、その原料供給側から炉心管内に導入し、実施例1と同様の条件で乾燥し、焼成した。その後、炉心管の焼成物回収側から回収した焼成物を粉砕し、チタン酸リチウム粉末を収集した。
次に、収集したチタン酸リチウム粉末を、チタン酸リチウムに対して0.1質量%のポリビニルアルコール(PVA)と共に、固形分濃度40質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌してスラリーを作製した。このスラリーと、実施例1と同様の条件で調製した多層カーボンナノチューブスラリーとを、チタン酸リチウムと多層カーボンナノチューブの質量比が99:1.0となるように、実施例1の混合スラリーの調製に用いたビーズミルと同じビーズミルを使用して、実施例1の混合スラリーの調製と同様の条件で混合・撹拌した。得られた、チタン酸リチウムと多層カーボンナノチューブとからなる混合スラリーを、実施例1と同じスプレードライヤーを使用して、実施例1と同様の条件で噴霧乾燥し、チタン酸リチウムと多層カーボンナノチューブとからなる造粒粉末を得た。その後、回収した造粒粉末を、実施例1と同様の方法で篩分けし、篩を通過した粉末を収集し、比較例4の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0157】
(比較例5)
チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したことと、造粒粉末を、高純度アルミナ製の匣鉢に充填し、マッフル型電気炉を用いて、200℃/時の昇温速度で加熱し、表1に示す条件で保持して焼成したこと以外は実施例2と同様の方法で繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0158】
(比較例6)
繊維状炭素としての多層カーボンナノチューブの添加割合を表1に示す割合に変更して混合スラリーを調製したこと以外は実施例2と同様の方法で比較例6の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0159】
(比較例7)
表1に示すように、繊維状炭素として多層カーボンナノチューブに代えて単層カーボンナノチューブを用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で比較例7の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0160】
(比較例8)
チタン酸リチウムの原料のD95が表1に示す値になるようにチタン酸リチウムの原料スラリーを調製したことと、混合スラリーを、噴霧・乾燥せずに、スラリーのまま、直接ロータリーキルン式焼成炉に導入して、乾燥、焼成したこと以外は、実施例2と同様の方法で比較例8の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。
【0161】
(比較例9)
表1に示すように、繊維状炭素を用いず、非繊維状炭素のアセチレンブラックのみを用い、その添加割合をチタン酸リチウムの原料とアセチレンブラックの質量比が99.0:1.0となるように混合スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例9の炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0162】
(比較例10)
実施例1と同様の方法で合成した多層カーボンナノチューブと、スチレン−アクリル系親水性コポリマーでできている分散剤と、アクリル系疎水性ポリマーでできている分散剤と、イオン交換水を、質量比が1.0:0.7:0.1:98.2となるように混合して、多層カーボンナノチューブスラリーを調整した。このスラリーを、ビーズミル(淺田鉄工社製、形式:PICOMILL PCM−LR型、アジテーター材質:窒化珪素、ベッセル内面材質:ジルコニア、ビーズ材質:ジルコニア、ビーズ外径:1.0mm、ベッセル内ビーズ充填率:80体積%)を使用して、アジテーター周速8m/秒、スラリーフィード速度30〜50ml/分の条件で、ベッセル内圧が0.06MPa以下になるように制御しながら、粉砕した。その後、チタン酸リチウムの原料であるLi
2CO
3(平均粒径:4.6μm)とTiO
2(比表面積:9.2m
2/g)とを、Tiに対するLiの原子比Li/Ti:0.83になるように秤量し、前記多層カーボンナノチューブスラリーに、チタン酸リチウムの原料と多層カーボンナノチューブの質量比が99.0:1.0となるように混合し、固形分が15%となるようにイオン交換水を加えた。このスラリーを、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、形式:ダイノーミル KD−20BC型、アジテーター材質:ポリウレタン、ベッセル内面材質:ジルコニア、ビーズ材質:ジルコニア、ビーズ外径:0.65mm、ベッセル内ビーズ充填率:80体積%)を使用して、アジテーター周速13m/秒、スラリーフィード速度55kg/時の条件で、ベッセル内圧が0.05MPa以下になるように制御しながら、混合し、混合スラリーを調製した。以上のように混合スラリーを調製したこと以外は実施例1と同様の方法で比較例10の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末を得た。実施例1と同様の方法で、電極シート、それを用いたラミネート電池を作製した。
【0163】
実施例2〜13および比較例の繊維状炭素含有チタン酸リチウム粉末の物性、その粉末を使用した電極シートの物性、およびその電極シートを用いて作製したリチウムイオン二次電池の特性は表2に示す通りであった。