特許第6809498号(P6809498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フジテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000002
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000003
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000004
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000005
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000006
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000007
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000008
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000009
  • 特許6809498-乗客コンベアの搬送体取外し工具 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809498
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】乗客コンベアの搬送体取外し工具
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20201221BHJP
   B66B 23/12 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B66B31/00 D
   B66B23/12 F
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-61235(P2018-61235)
(22)【出願日】2018年3月28日
(65)【公開番号】特開2019-172414(P2019-172414A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2019年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100199761
【弁理士】
【氏名又は名称】福屋 好泰
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 紘子
(72)【発明者】
【氏名】本田 規朗
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 昌彦
【審査官】 三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−182058(JP,A)
【文献】 特開平09−040349(JP,A)
【文献】 実開昭61−102478(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00−31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の搬送体が無端状に連結されて循環走行しながら乗客を搬送する無端搬送体の走行路の両側に設置された欄干の外周部分を、当該無端搬送体と同期してハンドレールが周回走行する乗客コンベアにおいて、前記搬送体の取外し作業に用いる乗客コンベアの搬送体取外し工具であって、
長手を有する把持部と、
前記把持部長手方向の第1端部側に設けられ、当該長手方向に対し交差方向へ鉤状に屈曲した鉤状部と、
前記鉤状部よりも厚みが薄く、当該鉤状部から前記把持部側へ突出した突出部と、
前記把持部の前記第1端部と前記鉤状部との間の部分が前記把持部の長手中心軸に対して膨出した膨出部と、
を有し、
前記突出部が、前記長手中心軸と同軸上にあることを特徴とする乗客コンベアの搬送体取外し工具。
【請求項2】
前記把持部の前記第1端部とは反対側の第2端部に、当該把持部よりも厚みが薄い薄肉部を有することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの搬送体取外し工具。
【請求項3】
前記膨出部は、前記鉤状部側部分が前記把持部の前記第1端部側部分よりも縮幅していることを特徴とする請求項に記載の乗客コンベアの搬送体取外し工具。
【請求項4】
前記突出部の前記把持部側端部は、角部が面取りされていることを特徴とする請求項1から請求項の何れか1項に記載の乗客コンベアの搬送体取外し工具。
【請求項5】
前記把持部の幅方向端部は、角部が面取りされていることを特徴とする請求項1から請求項の何れか1項に記載の乗客コンベアの搬送体取外し工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアの搬送体取外し工具に関し、特に、無端状に連結されて循環走行する搬送体である踏段やパレットの取外しに用いる手動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベア、例えば、エスカレータは、無端状に連結された複数の踏段を含む無端搬送体が階上と階下の間を循環走行しながら乗客を搬送する。
【0003】
無端搬送体は、踏段の走行路に付設された無端状のローラチェーンを左右一対有する。左右のローラチェーンは、複数のシャフトによって相互に連結されている。シャフトの各々は、チェーン周方向に間隔をあけて、それぞれ、左側のローラチェーンと右側のローラチェーンの間に架設されている。踏段の各々は、それぞれ対応するシャフトに回動可能に取り付けられて、無端状に連結されている。
【0004】
この踏段のシャフトへの取付け態様の一例として、特許文献1には、シャフトに遊挿された円筒形スリーブに踏段を取り付ける態様が開示されている。踏段の上階側部分には、スリーブに取り付けられる取付部が左右一対設けられている。この取付部には、円弧状断面を有する嵌合溝が形成されている。嵌合溝の円弧径は、シャフト半径より大きく、スリーブが「中間ばめ」される大きさに設定されている。また、嵌合溝の開口幅は、シャフト径より広く、スリーブの外径より狭く設定されている。取付部には、また、固定ピンが挿通される挿通孔が開設されている。一方、左右のスリーブにも、また、固定ピンが挿し込まれる貫通孔がそれぞれ開設されている。
【0005】
上記構成を有する踏段は、以下のようにして、シャフトに取り付けられる。まず、左右の取付部各々の嵌合溝にシャフトが嵌まった状態で、左右のスリーブをそれぞれ対応する取付部側へスライドさせて嵌合溝に嵌め込む。そして、取付部各々の挿通孔に挿通された固定ピンを、対応するスリーブ各々の貫通孔に挿し込んで固定することで、嵌合溝に嵌め込まれたスリーブのスライドが拘束される。その結果、取付部がスリーブに左右両側とも固定され、踏段がシャフトの軸心回りに回動可能に取り付けられることとなる。
【0006】
また、上記した円筒形スリーブに替えて、フランジ付きスリーブが用いられることもある。この場合、スリーブ近傍のシャフト部分に取り付けた公知のクランプ金具が、スリーブのスライドを拘束するストッパーの機能を果たすので、スリーブへの穴開け加工が不要になるといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−167154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、エスカレータの保守点検や修理を行う際、踏段をシャフトから取り外す場合がある。その際、取り外す踏段の取付部とスリーブの固定を解除するため、左右の取付部各々の嵌合溝に嵌め込まれたスリーブをそれぞれ上記とは逆向きにスライドさせ、嵌合溝から抜き出す作業が必要となる。
【0009】
しかしながら、既設のエスカレータでは、踏段の走行方向が反転する反転部分において隣接する踏段の間にできる僅かな隙間を通じて、無端状に連結された踏段の手前側から、奥側にあるスリーブにアクセスしなければならない。このため、マイナスドライバーのような汎用工具を用いて上記作業を行うにしても、作業性に難がある。
【0010】
なお、いわゆるパレット式動く歩道の場合においても、無端状に連結されて循環走行する搬送体がパレットである点が上記したエスカレータと相違するものの、パレットのシャフトへの取付け態様は上記したエスカレータの踏段と同様である。したがって、上記した課題は、エスカレータに限らず、他の形式の乗客コンベアであるパレット式動く歩道にも共通するものである。
【0011】
上記した課題に鑑み、本発明は、既設の乗客コンベアにおいて、搬送体を取り外す際の作業性を改善する乗客コンベアの搬送体取外し工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明に係る乗客コンベアの搬送体取外し工具は、複数の搬送体が無端状に連結されて循環走行しながら乗客を搬送する無端搬送体の走行路の両側に設置された欄干の外周部分を、当該無端搬送体と同期してハンドレールが周回走行する乗客コンベアにおいて、前記搬送体の取外し作業に用いる乗客コンベアの搬送体取外し工具であって、長手を有する把持部と、前記把持部長手方向の第1端部側に設けられ、当該長手方向に対し交差方向へ鉤状に屈曲した鉤状部と、前記鉤状部よりも厚みが薄く、当該鉤状部から前記把持部側へ突出した突出部と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、前記把持部の前記第1端部とは反対側の第2端部に、当該把持部よりも厚みが薄い薄肉部を有することを特徴とする。
【0014】
さらに、前記把持部の前記第1端部と前記鉤状部との間の部分が前記把持部の長手中心軸に対して膨出した膨出部を有し、前記突出部が、前記長手中心軸と同軸上にあることを特徴とする。
【0015】
また、前記膨出部は、前記鉤状部側部分が前記把持部の前記第1端部側部分よりも縮幅していることを特徴とする。
【0016】
上記構成に加えて、前記突出部の前記把持部側端部は、角部が面取りされていることを特徴とする。
【0017】
さらには、前記把持部の幅方向端部は、角部が面取りされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る乗客コンベアの搬送体取外し工具によれば、把持部長手方向の第1端部側に設けられた鉤状部から把持部側へ突出した突出部を有するため、隣接する搬送体の間の僅かな隙間からでも、搬送体の手前側からでは視認できないような搬送体の奥側まで簡単にアクセスできる。したがって、マイナスドライバーのような汎用工具を用いて作業を行う場合と比較して、搬送体を取り外す際の作業性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る乗客コンベアの搬送体取外し工具の使用対象となる動く歩道の一例を示す概略構成図である。
図2】上記動く歩道の図1におけるA−A線断面図である。
図3】上記動く歩道の構成部品であるパレットの(a)平面図および(b)左拡大側面図である。
図4】上記乗客コンベアの搬送体取外し工具の斜視図である。
図5】上記乗客コンベアの搬送体取外し工具の(a)側面図、(b)底面図および(c)背面図である。
図6】上記乗客コンベアの搬送体取外し工具によるパレットの取外し手順を説明するための図である。
図7】上記乗客コンベアの搬送体取外し工具によるパレットの取外し手順を説明するための図である。
図8】上記乗客コンベアの搬送体取外し工具によるパレットの取外し手順を説明するための図である。
図9】上記乗客コンベアの搬送体取外し工具によるパレットの取外し手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る乗客コンベアの搬送体取外し工具(以下、単に「工具」という。)10について、図面を参照しながら説明する。工具10(図4)を用いた作業対象となる乗客コンベアには、エスカレータや動く歩道があるが、ここでは、パレット式動く歩道(以下、単に「動く歩道」という。)を例にして説明する。
【0021】
〔パレット式動く歩道〕
動く歩道100は、図1に示すように、複数のパレット102,104,…106,108が無端状に連結された無端搬送体110を有する。無端搬送体110は、乗降口112,114の間の区間を循環走行しながら、パレット102,104,…106,108に乗った乗客を搬送する。本例に示す動く歩道100は、乗降口112側から乗降口114側へ乗客を搬送するものとする。
【0022】
無端搬送体110の走行路の両側には、欄干116(図1には片側のみ図示)が設置されている。欄干116の外周部分には、無端搬送体110と同期して周回走行するハンドレール118が設けられている。無端搬送体110、欄干116の各々は、支持構造体であるトラス120に支持されている。
【0023】
乗降口112下方のトラス120内側には、機械室M1が設けられている。乗降口112とは反対側にある乗降口114下方のトラス120内側にも、また、機械室M2が設けられている。機械室M1には、モータ(不図示)の駆動力によって回転駆動する駆動スプロケットSP1が設置されている。一方、機械室M2には、駆動スプロケットSP1の回転によって従動回転する従動スプロケットSP2が設置されている。機械室M1,M2の各々は、通常、フロアプレート(不図示)で塞がれている。
【0024】
図1及び図2に示すように、無端搬送体110は、無端状のローラチェーン122,124(図1では不図示)を左右一対有する。無端搬送体110の走行方向に向かって左側のローラチェーン122は、駆動スプロケットSP1と従動スプロケットSP2との間に掛け渡されている。右側のローラチェーン124も、同様に、駆動スプロケットSP1、従動スプロケットSP2と各々同心回転する一対のスプロケット(いずれも不図示)の間に掛け渡されている。
【0025】
上記した左右のローラチェーン122,124は、複数のシャフト126A,126B…126C,126Dによって相互に連結されている。シャフト126A,126B,…126C,126Dの各々は、ローラチェーン122,124の周方向に間隔をあけて、それぞれ、左側のローラチェーン122と右側のローラチェーン124の間に架設されている。シャフト126A,126B,…126C,126D各々の両端には、それぞれ、ローラ128A,128B、…130A,130B(図1では不図示)が取り付けられている。
【0026】
トラス120の内側には、無端搬送体110の走行路に沿って、往路側のガイドレール132,134、帰路側のガイドレール136,138が、それぞれ左右に設置されている。左側のローラチェーン122を構成するローラ128A,130Aは、ガイドレール132,136上を走行し、右側のローラチェーン124を構成するローラ128B,130Bは、ガイドレール134,138上を走行する。
【0027】
図2に示すように、シャフト126Aの両端側には、左右一組ずつ合計4つのフランジ付きスリーブ140A,140B、142A,142Bが遊挿されている。フランジ付きスリーブ140A,140B、142A,142Bの各々は、シャフト126A中程側にそれぞれのフランジ部分が配置されている。左側の組のフランジ付きスリーブ140A,142Aの両側には、クランプ金具144A,146Aがそれぞれ固定されている。右側の組のフランジ付きスリーブ140B,142Bの両側にも、同様に、クランプ金具144B,146Bがそれぞれ固定されている。
【0028】
同様に、シャフト126Aの下側にあるシャフト126Cの両端側にも、左右一組ずつ合計4つのフランジ付きスリーブ148A,148B、150A,150Bが、各々のフランジ部分をシャフト126C中程側にして遊挿されている。また、左側の組のフランジ付きスリーブ148A,150Aの両側には、クランプ金具152A,154Aがそれぞれ固定されており、右側の組のフランジ付きスリーブ148B,150Bの両側にも、クランプ金具152B,154Bがそれぞれ固定されている。その他のシャフト126B,…126Dについても同様である。
【0029】
無端搬送体110を構成するパレット102,104,…106,108の各々は、それぞれ対応するシャフト126A,126B,…126C,126Dに回動可能に取り付けられて、無端状に連結されている。
【0030】
ここで、パレット102,104,…106,108各々の構成は、基本的に同じであり、シャフト126A,126B,…126C,126Dへの取付け態様もまた同じである。よって、パレット102,104,…106,108各々の構成については、パレット102を代表例として、図3を参照しながら説明することとする。
【0031】
図3に示すように、パレット102は、踏面にクリートが形成された踏板102Aを有する。踏板102Aは、踏面周縁のクリート部分を除き、平面視で長方形状をしている。
【0032】
踏板102Aの裏面には、支持プレート102B,102Cが固定されている。支持プレート102B,102Cの各々は、踏板102Aの長手方向に延在する縦板部102B−1,102C−1を含む。縦板部102B−1と縦板部102C−1との間には、L字プラケット(不図示)を介して、連結プレート102Dが固定されている。
【0033】
縦板部102B−1には、シャフト126A側に取り付けられる取付部102E,102Fが左右一対設けられている。左側の取付部102Eには、下向きに開口した円弧状断面を有する嵌合溝102E−1が形成されている。この嵌合溝102E−1の円弧径は、シャフト126Aの半径より大きく、スリーブ140Aが「中間ばめ」される大きさに設定されている。嵌合溝102E−1の開口幅W1は、シャフト126Aの外径より広く、スリーブ140Aの外径より狭く設定されている。
【0034】
右側の取付部102Fにも、また、上記した左側の取付部102Eと同様、下向きに開口した円弧状断面を有する嵌合溝102F−1が形成されている。この嵌合溝102F−1の円弧径および開口幅の寸法設計は、上記した嵌合溝102E−1と同様である。すなわち、嵌合溝102F−1の円弧径は、シャフト126Aの半径より大きく、対応するスリーブ140Bが「中間ばめ」される大きさに設定されている。また、嵌合溝102F−1の開口幅W1は、シャフト126Aの外径より広く、スリーブ140Bの外径より狭く設定されている。
【0035】
一方、縦板部102C−1には、シャフト126Aに隣接するシャフト126B側に掛合される掛合部102G,102Hが左右一対設けられている。左側の掛合部102Gには、水平方向に開口し、溝底が円弧状の切欠き溝102G−1が形成されている。この切欠き溝102G−1の開口幅W2は、スリーブ142Aの外径よりも若干大きく設計されている。切欠き溝102G−1の溝深さDは、パレット102の走行方向が反転する際のシャフト126Bに対するパレット102の移動代を考慮した寸法設計になっている。
【0036】
右側の掛合部102Hにも、また、上記した左側の掛合部102Gと同様、水平方向に開口し、溝底が円弧状の切欠き溝102H−1が形成されている。この切欠き溝102H−1の開口幅W2および溝深さDの寸法設計は、上記した切欠き溝102G−1と同様である。すなわち、切欠き溝102H−1の開口幅は、対応するスリーブ142Bの外径よりも若干大きく設計されている。また、切欠き溝102H−1の溝深さは、パレット102の走行方向が反転する際のシャフト126Bに対するパレット102の移動代を考慮した寸法設計になっている。
【0037】
パレット102では、左右の掛合部102G,102Hが、それぞれ、左右の取付部102E,102Fよりも踏板102Aの長手端部側に配置されている。これにより、一つのシャフトに、パレットの取付部と、そのパレットに隣接する別のパレットの掛合部が、シャフトの軸心方向に位置を違えて合計4か所に取り付けられるように構成されている。
【0038】
図2に示すシャフト126Aを例に挙げると、シャフト126Aには、内側にあるスリーブ140A,140B部分にパレット102の取付部102E,102Fが取り付けられる。また、外側にあるスリーブ142A,142B部分には、パレット102に隣接したパレット104(図1)の掛合部104G,104Hが取り付けられる。なお、図2では、煩雑さを避けるため、パレット102の取付部102E,102Fの図示を省略している。
【0039】
次に、図1から図3を適宜参照しながら、パレット102の取付け作業について簡単に説明する。上記構成を有するパレット102は、以下のようにして、シャフト126Aとシャフト126Bの間に取り付けられる。まず、左右の掛合部102G,102H各々の切欠き溝102G−1,102H−1を、それぞれ、シャフト126B(図1)の左右両端部側のスリーブ(不図示)に掛け合わせる。
【0040】
続いて、踏板102Aをシャフト126Bの軸心まわりに回動させ、左右の取付部102E,102F各々の嵌合溝102E−1,102F−1にシャフト126Aが嵌まった状態にする。このとき、シャフト126A中程側のクランプ金具144A,144Bは緩められており、スリーブ140A,140Bの各々は、シャフト126Aの軸心方向へスライドできるようになっている。
【0041】
そして、スリーブ140A,140Bの各々を、それぞれ対応する取付部102E,102F側へスライドさせて、各々のフランジ部分が取付部102E,102Fに当接するまで、嵌合溝102E−1,102F−1に嵌め込む。このとき、左側の組のスリーブ140Aとスリーブ142Aとの間、および、右側の組のスリーブ140Bとスリーブ142Bとの間には、それぞれ、僅かな隙間が形成されるようになっている。
【0042】
最後に、クランプ金具144A,144Bを、それぞれ、スリーブ140A,140B各々のフランジ部分に当接する位置で固定する。その結果、取付部102E,102Fがスリーブ140A,140Bに左右両側とも固定され、相互に隣接するシャフト126Aとシャフト126Bの間に、パレット102が取り付けられることとなる。
【0043】
上記した取付け手順により、その他のパレット104,…106,108についても、各々対応するシャフト126B…126C,126Dに取り付けられる。このように、無端搬送体110を構成するパレット102,104,…106,108の各々は、それぞれ対応するシャフト126A,126B,…126C,126Dに取り付けられて、無端状に連結されている。
【0044】
上記構成からなる無端搬送体110は、往路と帰路の間で、その走行方向が反転する区間において、相互に隣接するパレット102,104,…106,108の間に僅かな隙間が形成されるようになっている。
【0045】
〔搬送体取外し工具〕
上記のように無端状に連結されたパレット102,104,…106,108の取外し作業に用いる工具10について、図4および図5を参照しながら説明する。
【0046】
工具10は、図4図5に示すように、ある一定の厚みを有する金属板材を所要の形状に切削加工してなる、全体的に細長い形状をした金属製の手動工具である。工具10は、矢印Xで示す方向に長手を有する把持部12を含む。把持部12の幅方向端部は、角部が面取りされている。
【0047】
把持部12長手方向の第1端部12A側には、鉤状部14が設けられている。鉤状部14は、把持部12長手方向に対し直交方向へ鉤状(フック状)に屈曲している。この鉤状部14には、その一部から把持部12側へ向けて突出した突出部16が設けられている。
【0048】
突出部16は、鉤状部14よりも厚みが薄くなっている。突出部16の把持部12側端部は、角部が面取りされており、把持部12側へ近づくにつれて厚みが漸減したテーパ形状をしている。突出部16の長さLは、上記した嵌合溝102E−1,102F−1の開口幅W1(図3(b))と同程度である。
【0049】
把持部12の第1端部12Aと鉤状部14との間の部分には、膨出部18が設けられている。この膨出部18は、把持部12の長手中心軸Cに対して段状に膨出している。膨出部18は、鉤状部14側の部分18Aが、把持部12の第1端部12A側の部分18Bよりも縮幅した形状になっている。
【0050】
把持部12の第1端部12Aとは反対側の第2端部12Bには、薄肉部20が形成されている。薄肉部20は、把持部12よりも厚みが薄くなっている。
【0051】
上記の形状をした工具10では、突出部16が、把持部12の長手中心軸Cと同軸上に配置されるように設計されている。
【0052】
〔取外し手順〕
次に、上記構成を有する工具10を用いたパレット取外し手順について、パレット102をシャフト126Aとシャフト126Bから取り外す場合を例にとり、図6から図9を参照しながら説明する。なお、説明の便宜上、パレット102は、図1に示す位置から、無端搬送体110の走行方向が反転する機械室M1側の反転区間まで移動した位置にあるものとする。
【0053】
はじめに、パレット102の右側部分における取外し作業を説明する。図6(a)の部分拡大図に示すように、まず、クランプ金具144Bを緩めて内側(シャフト126Aの中程側)へスライドさせ、スリーブ140Bを嵌合溝102F−1(図3)から抜き出すためのスライド代を確保しておく。
【0054】
続いて、図6(a)に示すように、工具10を、鉤状部14がシャフト126Aの軸心方向(水平方向)を向いた姿勢にして、パレット102とパレット104の間に形成された隙間Gに挿入する。このとき、工具10は、スリーブ140Bよりも内側に挿入する。
【0055】
そして、工具10を反時計方向に回転させると、図6(b)に示すように、鉤状部14がシャフト126Aの奥側まで挿し込まれた状態になる。工具10には、鉤状部14側の部分18Aが縮幅した膨出部18が設けられているため、シャフト126Aに対する干渉を上手く回避することができる。また、膨出部18が段状になっているため、踏板102Aとの間の干渉も回避できる。
【0056】
続いて、図7(a)に示すように、パレット102の右端側へ工具10をスライドさせて、右側の取付部102Fと、パレット104の右側にある掛合部104Hとの間の位置まで移動させる。そうすると、図7(b)に示すように、鉤状部14に設けられた突出部16が、シャフト126Aに遊挿された右側の組のスリーブ140Bとスリーブ142Bの間に形成された隙間部分に対向する位置に配されることとなる。
【0057】
なお、図7(b)の部分拡大図にも示されているように、このとき、取付部102Fに形成された嵌合溝102F−1の開口部は、シャフト126Aの奥側、すなわち、鉤状部14(突出部16)と対向する側にある。
【0058】
それから、工具10を手前側に引いて、図8に示すように、突出部16をスリーブ140Bとスリーブ142Bの間の隙間部分に差し込む。ここで、当該隙間部分は、シャフト126Aの奥側にあるため、作業者からは視認できないが、突出部16の把持部12側端部は角部が面取りされたテーパ形状をしているので、隙間部分に差し込みやすくなっている。
【0059】
そして、図9(a)に示すように、上記隙間部分に突出部16が差し込まれた状態で、工具10を時計方向に回転させ、突出部16で抉るようにしてスリーブ140Bを少し内側へスライドさせる。このとき、把持部12の長手中心軸Cと同軸上に突出部16が配置されているため、スリーブ140Bに力が伝わりやすくなっている。また、把持部12の幅方向端部は角部が面取りされており、上記回転動作時に作業者の手が痛くなり難い。
【0060】
上記した手順により、スリーブ140Bが少し内側へスライドすると、図9(b)に示すように、取付部102Fとスリーブ140Bのフランジ部分との間に隙間Sができる。この隙間Sは、シャフト126Aの手前側からでも視認できる。そこで、工具10を引き抜いて、今度は、この隙間に、把持部12の第2端部12Bに形成された薄肉部20を差し込む。そして、工具10をパレット102の内側へスライドさせて、図9(c)に示すように、スリーブ140Bを嵌合溝102F−1から抜き出す。
【0061】
上記した一連の手順による取外し作業を、パレット102の左側部分においても行う。これにより、左右の取付部102E,102Fからスリーブ140A,140Bが抜き出された状態となる。この状態で、踏板102Aを回動させて、左右の取付部102E,102Fをシャフト126Aから取り外し、さらに、掛合部102G,102Hをシャフト126Bから引き抜くことにより、パレット102がシャフト126A,126Bから取り外されることとなる。
【0062】
このように、工具10によれば、把持部12の第1端部12A側に設けられた鉤状部14から把持部12側へ突出した突出部16を有するため、パレット102とパレット104の間の僅かな隙間からでも、パレット102の奥側、ひいては、パレット102の手前側からでは視認できないようなシャフト126Aの奥側まで簡単にアクセスできる。したがって、マイナスドライバーのような汎用工具を用いて上記作業を行う場合と比較して、パレット102を取り外す際の作業性を改善することができる。
【0063】
以上、本発明に係る乗客コンベアの搬送体取外し工具を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下のような形態で実施しても構わない。
【0064】
(1)上記実施形態において、鉤状部14は、把持部12の長手方向に対し直交方向へ屈曲していたが、必ずしも直交方向である必要はない。すなわち、把持部の長手方向に対し交差方向へ屈曲した形態の鉤状部を有するものであっても構わない。また、鉤状部は、必ずしも直線的である必要はなく、湾曲した形状であっても勿論構わない。
【0065】
(2)上記実施形態では、膨出部18が把持部12の長手中心軸Cに対して段状に膨出していたが、例えば、円弧状、楕円弧状に膨出した形態の膨出部を有するものであっても構わない。
【0066】
(3)上記実施形態では、突出部16が把持部12の長手中心軸Cと同軸上に配置されていたが、必ずしも同軸上である必要はない。スリーブを抉るようにしてスライドさせる回転動作を行うことができれば、把持部の長手中心軸との位置関係は特に限定されない。
【0067】
(4)上記実施形態において、把持部12は細長い板状をしており、幅方向端部の角部が面取りされたものであったが、把持部の形状、大きさ等が特に限定されるものでないことは言うまでもない
【0068】
(5)上記実施形態では、工具10を用いた作業対象となる乗客コンベアとして、動く歩道100を例にしたが、工具10は、エスカレータの無端搬送体を構成する踏段の取外し作業にも使用することができる。また、緩勾配を有する動く歩道を作業対象とすることとしても勿論構わない。
【0069】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【符号の説明】
【0070】
10 乗客コンベアの搬送体取外し工具
12 把持部
14 鉤状部
16 突出部
18 膨出部
20 薄肉部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9