特許第6809503号(P6809503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809503
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20201221BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20201221BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20201221BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20201221BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20201221BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20201221BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C08J3/20 BCEQ
   C08K3/36
   C08K3/22
   C08K5/548
   C08K3/06
   C08L91/00
   C08L9/00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-102370(P2018-102370)
(22)【出願日】2018年5月29日
(65)【公開番号】特開2019-206642(P2019-206642A)
(43)【公開日】2019年12月5日
【審査請求日】2019年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕記
(72)【発明者】
【氏名】高木 亮佑
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−189650(JP,A)
【文献】 特開2016−191018(JP,A)
【文献】 特開2005−041926(JP,A)
【文献】 特開2011−063690(JP,A)
【文献】 特開2005−068332(JP,A)
【文献】 特開2012−153759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
C08K 3/06
C08K 3/22
C08K 3/36
C08K 5/548
C08L 9/00
C08L 91/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部にシリカ40〜220質量部および酸化亜鉛を配合し、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤
(Cp2p+1)t(Cp2p+1O)3-t-Si-Cq2q-S-C(O)-Cr2r+1 ・・・(1)
(式(1)中、pは1〜3の整数、qは1〜3の整数、rは1〜15の整数、tは0〜2の整数を表す。)
を前記シリカ量に対し5〜18質量%配合したゴム組成物の製造方法であって、ミキサーに前記シリカおよびシランカップリング剤を共に投入し、混合した後、前記ミキサーに前記ジエン系ゴムおよび酸化亜鉛を投入、混練することを特徴とするタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記シリカおよびシランカップリング剤と共に、カーボンブラックおよび/またはアロマオイルを投入し、混合することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記シリカおよびシランカップリング剤の投入時にアロマオイルを投入、混合した後、または前記シリカおよびシランカップリング剤を投入、混合し、前記ジエン系ゴムを投入、混合した後にアロマオイルを投入、混合した後、次いで前記酸化亜鉛を投入、混合することを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記シリカ、シランカップリング剤ジエン系ゴムおよび酸化亜鉛を混合する第一段階の混合工程と、その後に加硫系配合剤を混合する最終段階の混合工程を行うとともに、前記第一段階の混合工程の混合終了温度が150℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットグリップ性能、低転がり抵抗性および加工性に優れたタイヤ用ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤには、安全性を高めるためウェットグリップ性能に優れ、かつ燃費性能を高くするため転がり抵抗を小さくすることが求められている。例えばウェットグリップ性能および低転がり性を改良するためタイヤ用ゴム組成物にシリカを配合し動的粘弾性特性を改質することが知られている。
【0003】
シリカを含有するゴム組成物のウェットグリップ性能および低転がり抵抗性をより優れたものにするため、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を改良すべく、シランカップリング剤を配合したり、予め表面処理を施したシリカを用いることが知られている。しかし、シリカとシランカップリング剤を配合すると、ゴム組成物の粘度が高くなり、加工性が低下することがある。特許文献1,2は、ゴム組成物の構成成分を逐次投入および/または分割混練することによりシリカの分散性を改良することを提案している。しかし、表面処理シリカを使用したり、逐次投入および/または分割混練を行うことは工数が増加し、生産コストが高くなるという問題があった。また、ゴム組成物の加工性の課題は、必ずしも十分に解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−151018号公報
【特許文献2】特開2016−169268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ウェットグリップ性能、低転がり抵抗性および加工性に優れたタイヤ用ゴム組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、ジエン系ゴム100質量部にシリカ40〜220質量部および酸化亜鉛を配合し、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を前記シリカ量に対し5〜18質量%配合したゴム組成物の製造方法であって、
(Cp2p+1)t(Cp2p+1O)3-t-Si-Cq2q-S-C(O)-Cr2r+1 ・・・(1)
(式(1)中、pは1〜3の整数、qは1〜3の整数、rは1〜15の整数、tは0〜2の整数を表す。)
ミキサーに前記シリカおよびシランカップリング剤を共に投入し、混合した後、前記ジエン系ゴムおよび酸化亜鉛を投入、混練することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、シリカおよび特定のシランカップリング剤の全量をミキサーに投入し混合した後、ジエン系ゴムを投入し混練するようにしたので、シリカおよびシランカップリング剤が接触しやすくすると共に、ミキサーの温度を低くさせてジエン系ゴムを投入した後、高いせん断力がかかるようにしてシリカの分散性を一層良好にすることができ、ウェットグリップ性能、低転がり抵抗性および加工性に優れたタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。
【0008】
本発明の製造方法は、シリカおよびシランカップリング剤と共に、カーボンブラックおよび/またはアロマオイルを投入し混合することができる。またシリカおよびシランカップリング剤の投入時にアロマオイルを投入、混合した後、または前記シリカおよびシランカップリング剤を投入、混合し、前記ジエン系ゴムを投入、混合した後にアロマオイルを投入、混合した後、次いで酸化亜鉛を投入、混合することができる。
【0009】
前記シリカ、シランカップリング剤ジエン系ゴムおよび酸化亜鉛を混合する第一段階の混合工程と、その後に加硫系配合剤を混合する最終段階の混合工程を行うとき、前記第一段階の混合工程の混合終了温度が150℃以上であるとよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一般的にタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、ジエン系ゴム、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、カーボンブラック、アロマオイル、および加硫系配合剤を除く配合剤を、混合、混練する混練工程(第一段階の混合工程)と、第一段階の混合工程の後、得られた混合物を冷却してから加硫系配合剤を混合する工程(最終段階の混合工程)の少なくとも2つの工程からなる。本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、上述した混練工程(第一段階の混合工程)を、1番目にシリカおよびシランカップリング剤の全量をミキサーに投入し混合するステップと、この1番目の投入・混合ステップの後、シリカおよびシランカップリング剤を含むミキサーにジエン系ゴムを投入、混練する、2番目の投入・混合ステップからなる少なくとも2つのステップで構成することを特徴とする。なお、酸化亜鉛は、ジエン系ゴムと同時に投入、混練してもよいし、ジエン系ゴムを投入した後、キープ混合時に投入し、混合してもよい。
【0011】
タイヤ用ゴム組成物の製造方法は、第一段階の混合工程を、ミキサーにシリカおよびシランカップリング剤の全量を1番目に投入し混合するステップを行うことにより開始する。これによりシリカおよびシランカップリング剤を互いに接触しやすくし、シランカップリング剤がより効果的にシリカに作用するようになる。これにより従来、別の工程でシリカの表面処理を施す場合と比べ、工数を削減し生産コストを低減することができる。またシリカおよびシランカップリング剤を先に混合することにより、ミキサーの温度を低下させ、次にジエン系ゴムを混練するときの温度を下げ、ミキサー内の混練強度をより大きくしシリカの分散性をよりよくすることができる。最初にジエン系ゴムをミキサーに投入、混練した後、各種配合剤を投入、混練するという従来の第一段階の混合工程では、ジエン系ゴムの混練によりミキサー内の温度が高くなりジエン系ゴムの粘度が低下するので、後からシリカを投入、混練するとき高いせん断力をかけることができないため、シリカを良好に分散させることができない。
【0012】
ミキサーに投入するシリカおよびシランカップリング剤の量は、シリカ量に対するシランカップリング剤が5〜18質量%、好ましくは6〜15質量%になるようにする。シランカップリング剤の配合量をシリカ量の5質量%以上にすることによりシリカの分散を改良することができる。またシランカップリング剤の配合量をシリカ量の18質量%以下にすることによりシランカップリング剤同士の縮合を抑制し、所望の硬度や強度を有するゴム組成物を得ることができる。
【0013】
シリカおよびシランカップリング剤の混合は、通常タイヤ用ゴム組成物の製造に用いられるミキサーを使用することができる。またミキサーを構成するローターの形式は噛み合い式、非噛み合い式のいずれでもよい。ローターの回転数は、タイヤ用ゴム組成物を製造するときの通常の回転数に設定することができる。
【0014】
タイヤ用ゴム組成物の製造方法において、シリカおよびシランカップリング剤を混合する温度は、好ましくは20〜90℃、より好ましくは30〜70℃にすることができる。特に混合するときの上限温度を70℃にすることにより、このステップに続き、ジエン系ゴムを投入、混練するステップを行うことにより、せん断力を大きくしシリカの分散性を良好にすることができる。シリカおよびシランカップリング剤の混合温度は、ミキサーの温度により調節することができる。ミキサーの温度は、好ましくは10〜90℃、より好ましくは20〜70℃にするとよい。
【0015】
シリカおよびシランカップリング剤を混合する時間は、好ましくは5秒〜2分、より好ましくは20秒〜90秒にすることができる。混合時間を20秒以上にすることにより、シリカおよびシランカップリング剤を混合し十分に接触させることができる。また混合時間を90秒以下にすることにより生産性の低下を抑制することができる。
【0016】
タイヤ用ゴム組成物の製造方法において、シリカおよびシランカップリング剤の混合を終えたミキサーに、ジエン系ゴムを投入し混練する。ミキサーへのジエン系ゴムの投入は、通常の投入条件の範囲内で行うことができる。またシリカおよびシランカップリング剤とジエン系ゴムを混練する条件も通常の範囲内で行うことができる。
【0017】
タイヤ用ゴム組成物の製造方法において、シリカおよびシランカップリング剤と共に、カーボンブラックおよび/またはアロマオイルを投入し混合することができ、転がり抵抗をより小さくし、耐摩耗性をより大きくすることができる。シリカおよびシランカップリング剤と同時に、カーボンブラックおよびアロマオイルをミキサーに投入するときの混合条件は、上記と同じにすることができる。
【0018】
また、カーボンブラックおよび/またはアロマオイルは、シリカおよびシランカップリング剤の投入時の他、ジエン系ゴムの投入と同時に投入してもよいし、ジエン系ゴムを投入、混練した後に投入してもよい。なお、カーボンブラックおよびアロマオイルは、互いに異なるタイミングで投入し、混合することができる。アロマオイルは、シリカおよびシランカップリング剤の投入時、またはジエン系ゴムを投入、混練した後に、投入し、混合するとよく、更に好ましくはシリカおよびシランカップリング剤と共に、投入するとよい。
【0019】
酸化亜鉛は、ジエン系ゴムと同時に投入、混練してもよいし、ジエン系ゴムを投入した後、キープ混合時に投入し、混合してもよい。またアロマオイルとの関係では、アロマオイルを投入、混合した後、酸化亜鉛を投入、混合するとよい。例えば、アロマオイルをシリカおよびシランカップリング剤と共に1番目に投入、混合したとき、酸化亜鉛をジエン系ゴムと共に2番目に投入、混練してもよいし、ジエン系ゴムを2番目に投入、混練した後で、酸化亜鉛を3番目に投入、混練してもよい。また、ジエン系ゴムを2番目に投入、混練し、アルマオイルを3番目に投入、混合したとき、酸化亜鉛を4番目に投入、混合するとよい。酸化亜鉛をアロマオイルの後に、投入、混合することにより、加硫速度の遅延を少なくすることができる。
【0020】
タイヤ用ゴム組成物に配合する、加硫系配合剤を除く配合剤は、ジエン系ゴムと同時に投入し混練しても、ジエン系ゴムの混練を終えた後に投入し混合してもよい。加硫系配合剤を除く配合剤としては、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を例示することができる。これら配合剤は、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。例えばカーボンブラックなどのシリカ以外の充填剤をジエン系ゴムの投入と同時に投入、混練したり、ステアリン酸、老化防止剤などの所謂ゴム薬をジエン系ゴムの投入と同時に投入、混練したり、或はジエン系ゴムの混練を終えた後にアロマオイルを投入し混合してもよい。
【0021】
タイヤ用ゴム組成物の製造方法において、ジエン系ゴム、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、カーボンブラック、アロマオイル、および加硫系配合剤を除く配合剤を、混合、混練する混練工程(第一段階の混合工程)の後、得られた混合物を冷却し、加硫系配合剤を混合する工程(最終段階の混合工程)を行う。一段階の混合工程の混合終了温度は、特に制限されるものではないが、好ましくは150℃以上、より好ましくは150〜170℃、さらに好ましくは150〜165℃にするとよい。一段階の混合工程の混合終了温度を150℃以上にすることにより、ゴム組成物の粘度を小さくし、加工性をさらに改良することができる。
【0022】
加硫系配合剤としては、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、加硫遅延剤等を例示することができる。加硫系配合剤を混合する方法は、通常のタイヤ用ゴム組成物の製造方法と同様にして行うことができる。なお、最終段階の混合工程の前に、第一段階の混合工程で得られた混合物を、さらに混練する第二段階の混合工程や第三段階の混合工程を行ってもよい。第二段階の混合工程は、第一段階の混合工程のミキサーから、混練物を取出し、必要に応じ冷却し、同じミキサーまたは別のミキサーに投入し混合するものである。第三段階の混合工程は、第二段階の混合工程で得られた混合物に対し、上記と同様にして混合するものである。第二段階の混合工程および/または第三段階の混合工程では、それぞれの前段階の混合工程で得られた混合物を投入しそのまま混合してもよいし、更に混合物に対し配合剤を追加投入して混合してもよい。本発明において、ジエン系ゴム、アロマオイルおよび酸化亜鉛は、それぞれの全量を第一段階の混合工程に投入し、混合するものとする。ここでジエン系ゴムは、変性されたジエン系ゴムを包含することができる。
【0023】
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部にシリカを40〜220質量部配合し、シランカップリング剤をシリカ量の5〜18質量%配合したものである。
ジエン系ゴムは、通常タイヤ用ゴム組成物に用いられるものであれば特に制限されるものではなく、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。なかでも天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0024】
これらジエン系ゴムは、その分子鎖の末端および/または側鎖がヘテロ原子を有する官能基で変性されたジエン系ゴムでもよい。ヘテロ原子として、酸素、窒素、ケイ素、硫黄等が挙げられる。また、官能基として、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シリル基、アミド基、オキシシリル基、シラノール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、カルボニル基、アルデヒド基、等により、変性された変性ジエン系ゴムでもよい。
【0025】
変性されたジエン系ゴムとして、例えばエポキシ基変性天然ゴム、エポキシ基変性イソプレンゴム、アミノ基変性スチレン−ブタジエンゴム、ヒドロキシ基変性スチレン−ブタジエンゴム、シリル基変性スチレン−ブタジエンゴム、オキシシリル基変性スチレン−ブタジエンゴム、シラノール基変性スチレン−ブタジエンゴム、イミノ基変性スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシル基変性スチレン−ブタジエンゴム、スズ基変性スチレン−ブタジエンゴム、エポキシ基変性スチレン−ブタジエンゴム、等を例示することができる。
【0026】
変性されたジエン系ゴムは、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上含有するとよい。また変性されたジエン系ゴムは、100質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下含有するとよい。変性されたジエン系ゴムの含有量を30質量%以上にすることにより、シリカの分散性をいっそう良好にし、ウェットグリップ性能、低転がり抵抗性および加工性にさらに優れたものにすることができる。
【0027】
酸化亜鉛は、タイヤ用ゴム組成物に通常用いるものを配合することができる。酸化亜鉛の配合量は、ジエン系ゴム100質量に対し、好ましくは1.0〜5.0質量部、より好ましくは1.5〜4.5質量部であるとよい。酸化亜鉛を1.5質量部以上にすることにより、老化による物性低下を抑制できる。また酸化亜鉛を4.5質量部以下にすることにより、加硫速度の遅延を抑制できる。
【0028】
シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。またシリカの表面をシランカップリング剤により表面処理が施された表面処理シリカを使用してもよい。
【0029】
シリカのCTAB吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは150〜300m2/g、より好ましくは160〜260m2/gであるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積を150m2/g以上にすることにより、ゴム組成物の耐摩耗性を確保することができる。またシリカのCTAB吸着比表面積を300m2/g以下にすることにより、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を良好にすることができる。本明細書において、シリカのCTAB比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0030】
シリカは、ジエン系ゴム100質量部に対し40〜220質量部、好ましくは50〜200質量部配合する。シリカの配合量を40質量部以上にすることにより、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を改良することができる。またシリカの配合量を220質量部以下にすることにより、加工性を確保することができる。
【0031】
シランカップリング剤は、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤である。
(Cp2p+1)t(Cp2p+1O)3-t-SiCq2q-S-C(O)-Cr2r+1 ・・・(1)
(式(1)中、pは1〜3の整数、qは1〜3の整数、rは1〜15の整数、tは0〜2の整数を表す。)
【0032】
上記一般式(1)中、シリカとの親和性が高くタイヤ用ゴム組成物の加工性が良好となり、かつタイヤ用ゴム組成物中におけるシリカの分散性が良好となる点でpは2〜3であることが好ましく、2であることがより好ましい。qは、同様の理由で2〜3であることが好ましく、3であることがより好ましい。rは、タイヤ用ゴム組成物の混練時のスコーチタイムが良好となる点で5〜10が好ましく、6〜9がより好ましく、7がさらに好ましい。tは0〜2の整数を表し、0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。このようなシランカップリング剤は、公知の方法により製造することができ、例えば国際公開第99/09036号公報に記載された方法が挙げられる。市販品としては、モメンティブ(Momentive Performance Material)社のNXTシラン等が例示される。
シリカの質量に対するシランカップリング剤の配合量は、前述したとおりである。すなわち、シリカの質量に対し5〜18質量%、好ましくは6〜15質量%にする。
【0033】
タイヤ用ゴム組成物の製造方法は、前記一般式(1)で表されるシランカップリング剤に加え、他のシランカップリング剤を投入することができる。他のシランカップリング剤は、シリカおよび前記一般式(1)で表されるシランカップリング剤と同時に第一段階の混合工程の1番目に投入することができる。また第一段階の混合工程の2番目以降に投入してもよい。さらに第一段階の混合工程の後、最終段階の混合工程の前までの間のいずれかの混合工程で投入することもできる。
【0034】
他のシランカップリング剤は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能な、前記一般式(1)で表されるシランカップリング剤を除く、シランカップリング剤であれば特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤等を例示することができる。他のシランカップリング剤として、例えば、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、等のアミノ基含有シランカップリング剤を例示することができる。
【0035】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、HMF、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは70〜240m2/g、より好ましくは90〜200m2/gであるとよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積を70m2/g以上にすることにより、ゴム組成物の機械的特性および耐摩耗性を確保することができる。またカーボンブラックの窒素吸着比表面積を240m2/g以下にすることにより、低転がり抵抗性を良好にすることができる。本明細書において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217−2に準拠して、測定するものとする。
【0036】
カーボンブラックは、ジエン系ゴム100質量部に対し好ましくは5〜100質量部、より好ましくは10〜80質量部配合することができる。カーボンブラックの配合量を5質量部以上にすることにより、ゴム組成物の機械的特性および耐摩耗性を確保することができる。またカーボンブラックの配合量を100質量部以下にすることにより、低転がり抵抗性を確保することができる。
【0037】
タイヤ用ゴム組成物は、シリカ、カーボンブラック以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填材としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムを挙げることができる。これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0038】
アロマオイルとしては、例えば、ASTM D2140に準拠して求められた芳香族系炭化水素の質量百分率が15質量%以上のものが好適に使用される。すなわち、その分子構造的に芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素を含有することができ、芳香族系炭化水素の含有比率が15質量%以上のものが好ましく、17質量%以上のものがより好ましい。また、アロマオイル中の芳香族系炭化水素の含有比率は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下であるとよい。
【0039】
アロマオイルの市販品としては、例えば昭和シェル石油社製エキストラクト4号S、出光興産社製のAC−12、AC−460、AH−16、AH−24、AH−58、ジャパンエナジー社製のプロセスNC300S、プロセスX−140などが挙げられる。
【0040】
タイヤ用ゴム組成物において、アロマオイルの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し好ましくは3〜50質量部、より好ましくは5〜40質量部であるとよい。アロマオイルの配合量を3質量部以上にすることにより、低転がり抵抗性を確保することができる。また、アロマオイルの配合量を50質量部以下にすることにより、耐摩耗性を確保することができる。
【0041】
タイヤ用ゴム組成物は、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またかかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0042】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
表3に示す配合を有するゴム組成物1〜3について、製造方法を異ならせてタイヤ用ゴム組成物の製造を行った。以下の実施例および比較例で調製されるゴム組成物は、表1〜2の「ゴム組成物の処方」の欄に示された、表3の対応するゴム組成物の配合を有する。表3のゴム組成物の配合は、ジエン系ゴム(SBR)100質量部に対する配合量を記載し、各成分の略号並びに第一段階および第二段階、最終段階のいずれの混合工程でミキサーに投入したかを記載した。実施例3および比較例3を除くゴム組成物の製造において、第一段階の混合で、表3の「第一段階の混合」の欄に記載した各成分の全量をミキサー(容量1.7リットルの密閉式バンバリーミキサー、神戸製鋼社製)に表1〜2に示す「1番目の投入」「2番目の投入」「3番目の投入」および「4番目の投入」の順番で投入し混練し、混練物を得、ミキサーから放出して冷却した。冷却の後、混練物を再度ミキサーに投入し、表2の「最終段階の混合」の欄に記載した各成分を投入し混合することにより、9種類の製造方法でゴム組成物を調製した(実施例1,2,4〜7、標準例、比較例1〜2)。なお、実施例3および比較例3のゴム組成物の製造では、第一段階の混合で、表3の「第一段階の混合」の欄に記載したカップリング剤1または酸化亜鉛を除く成分の全量をミキサー(容量1.7リットルの密閉式バンバリーミキサー、神戸製鋼社製)に表1〜2に示す「1番目の投入」「2番目の投入」「3番目の投入」および「4番目の投入」の順番で投入し混練し、混練物を得、ミキサーから放出して冷却した。冷却の後、混練物を再度ミキサーに投入し、第二段階の混合として、カップリング剤1または酸化亜鉛、を投入し混練し、混練物を得、ミキサーから放出して冷却した。冷却の後、混練物を再度ミキサーに投入し、表3の「最終段階の混合」の欄に記載した各成分を投入し混合することにより、実施例3および比較例3のゴム組成物を調製した。
【0044】
バンバリーミキサーの温調は、60℃に設定した状態で、各種原料の温度は、常温(23℃)で混合を開始する。第一段階の混合において、混合条件として、1番目に投入した成分の混合時間及びの混合完了後の温度と2番目に投入した成分の混合初期温度を表1および2に記載した。2、3、4番目に投入した成分の混合時間は、それぞれ1分間とした。第一段階の混合で得られた混練物の機外での空冷は23℃になるまで冷却した。実施例3および比較例3の第二段階の混合において、混合条件として、混合時間は3分間とし、第二段階の混合で得られた混練物の機外での空冷は23℃になるまで冷却した。加硫剤を配合した後の混合(最終段階の混合)は、バンバリーミキサーで1.5分間とした。
【0045】
得られたタイヤ用ゴム組成物のムーニー粘度を下記の方法で測定した。またタイヤ用ゴム組成物を、所定形状の金型(内寸;長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成した。得られた加硫ゴム試験片を使用して、以下に示す試験方法でウェット性能、転がり抵抗性および耐摩耗性を測定した。
【0046】
ムーニー粘度
得られたゴム組成物のムーニー粘度をJIS K6300−1:2001に準拠して、ムーニー粘度計にてL形ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃の条件で測定した。得られた結果は、標準例の値を100とする指数で表わし表1の「加工性」の欄に示した。ムーニー粘度の指数が95以下であるとき、ムーニー粘度が低く、加工性が良好であることを意味する。
【0047】
ウェット性能および転がり抵抗性[0℃および60℃のtanδ]
得られた加硫ゴム試験片の動的粘弾性を、岩本製作所(株)製の粘弾性スペクトロメーターを用い、伸張変形歪率10±2%、振動数20Hz、温度0℃および60℃の条件にて測定し、tanδ(0℃)およびtanδ(60℃)を求めた。得られた結果は、標準例の値をそれぞれ100にする指数として表1,2の「ウェット性能」および「転がり抵抗性」の欄に記載した。ウェット性能の指数が110以上であるとき、tanδ(0℃)が大きくウェットグリップ性能が優れることを意味する。また転がり抵抗性の指数が95以下であるとき、tanδ(60℃)が小さく低発熱性であり、タイヤにしたとき転がり抵抗が小さいことを意味する。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
表3において、使用した原材料の種類は、以下の通りである。
・SBR:スチレンブタジエンゴム(未変性品)、日本ゼオン社製Nipol 1502
・シリカ:ローディア社製ZEOSIL PREMIUM 200MP、CTAB吸着比表面積が203m2/g
・シランカップリング剤1:スルフィド系シランカップリング剤、エボニック デグサ社製Si69、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
・シランカップリング剤2:一般式(1)で表されるシランカップリング剤、モメンティブ(Momentive Performance Material)社製NXTシラン、次式により表される。
(CH3CH2O)3−Si−C36−S−C(O)−C612CH3
・カーボンブラック:キャボットジャパン社製ショウブラックN339
・アロマオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・老化防止剤1:Solutia Europe社製Santoflex 6PPD
・老化防止剤2:Nocil Limited社製PILNOX TDQ
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粒硫黄(硫黄の含有量95.24質量%)
・加硫促進剤−1:住友化学社製ソクシノールD−G(DPG)
・加硫促進剤−2:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ-G(CZ)
【0052】
表2から明らかなように実施例1〜7の製造方法により得られたゴム組成物は、ウェットグリップ性能(0℃のtanδ)、低転がり抵抗性(60℃のtanδ)および加工性を改良することが確認された。
【0053】
表1から明らかなように、比較例1のゴム組成物の製造方法は、標準例のゴム組成物の製造方法において、2番目に投入したシランカップリング剤1を、一般式(1)で表されるシランカップリング剤2に変更したが、標準例の製造方法と同様に、1番目のSBRの投入によりミキサーの温度が上昇した。比較例1の製造方法では、ゴム組成物のウェット性能の改良効果が、実施例1〜7で得られたゴム組成物に比べて劣る。
比較例2のゴム組成物の製造方法は、1番目の投入したシランカップリング剤1が一般式(1)で表されないので、ゴム組成物のウェット性能および転がり抵抗性の改良効果が、実施例1〜7で得られたゴム組成物に比べて劣る。
比較例3のゴム組成物の製造方法は、酸化亜鉛を第二段階の混合工程に投入し、混合したので、加工性が劣る。