(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809548
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】空気入りラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20201221BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20201221BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
B60C9/20 E
B60C9/00 L
B60C9/22 C
B60C9/00 B
B60C9/22 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-20582(P2019-20582)
(22)【出願日】2019年2月7日
(65)【公開番号】特開2020-128118(P2020-128118A)
(43)【公開日】2020年8月27日
【審査請求日】2020年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】張替 紳也
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−154304(JP,A)
【文献】
特開2004−224277(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/035771(WO,A1)
【文献】
特開昭56−082608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00、9/18−9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、前記スチールコードの断面積S(mm2 )と前記スチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりの前記スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積として算出されるスチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内であり、
前記ベルトカバー層は、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードで構成され、前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されていることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記素線の本数Mが2本であり、前記スチールコードが1×2構造を有することを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記素線の本数Mが1本であり、前記スチールコードが単線構造を有することを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記有機繊維コードがポリエステル繊維で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードからなるベルトカバー層を備えた空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上することを可能にした空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車用又は小型トラック用の空気入りラジアルタイヤにおいては、一対のビード部間にカーカス層が装架され、トレッド部におけるカーカス層の外周側に複数層のベルト層が配置され、ベルト層の外周側にタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回された複数本の有機繊維コードを含むベルトカバー層が配置されている。このようなベルトカバー層に使用される有機繊維コードはナイロン繊維コードが主流であるが、近年、ナイロン繊維コードに比べて高弾性であり、かつ安価なポリエチレンテレフタレート繊維コード(以下、PET繊維コードと言う)を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような高弾性のPET繊維コードからなるベルトカバー層を用いた場合、走行時に空気入りタイヤに生じる振動の周波数が車両と共振を起こしにくい帯域にずれる傾向があり、その結果、中周波ロードノイズを効果的に抑制することができる。
【0003】
一方で、ベルトカバー層に高弾性のPET繊維コードを用いた場合、隣接するベルト層を構成する補強コードとの物性差(弾性率や荷重負荷時の伸びの違い)に起因して、ベルト層とベルトカバー層との間でセパレーションが生じやすくなる虞がある。そのため、ベルトカバー層(高弾性のPET繊維コード)による前述のロードノイズ抑制効果を得ながら、ベルト層とベルトカバー層との間のセパレーションに対する耐久性を向上する対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−63312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、有機繊維コードからなるベルトカバー層を備えた空気入りラジアルタイヤであって、ロードノイズを効果的に低減しながら、耐久性を向上することを可能にした空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、前記ベルト層は、M本の素線からなる1×M構造を有するスチールコードで構成され、前記素線の本数Mが1本〜6本であり、前記スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上であり、前記スチールコードは前記ベルト層の層間で互いに交差するようにタイヤ周方向に対して傾斜して配列されており、
前記スチールコードの断面積S(mm2 )と前記スチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりの前記スチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積として算出されるスチールコード量Aが5.0〜8.0の範囲内であり、前記ベルトカバー層は、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードで構成され、前記有機繊維コードはタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻回されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ベルトカバー層に2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードを用いることで、走行時に空気入りタイヤに生じる振動の周波数を車両と共振を起こしにくい帯域にずらすことができ、中周波ロードノイズを低減し、騒音性能を向上することができる。一方で、ベルト層として、上述の構造と物性を有して初期伸びの小さいスチールコードを用いているので、ベルト層とベルトカバー層との層間のセパレーションを効果的に防止することができ、耐久性を向上することができる。
【0008】
本発明においては、スチールコードの断面積S(mm
2 )とスチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりのスチールコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積として算出されるスチールコード量A
は5.0〜8.0の範囲内であ
る。これにより、ベルト層の構造が良好になるので、ベルト層とベルト補強層との層間のセパレーションを防止して、耐久性を向上するには有利になる。
【0009】
本発明においては、素線の本数Mが2本であり、スチールコードが1×2構造を有する仕様にすることが好ましい。或いは、素線の本数Mが1本であり、スチールコードが単線構造を有する仕様にすることが好ましい。いずれの仕様であっても、その構造によって初期伸びを効果的に小さくすることができるため、ベルト層とベルト補強層との層間のセパレーションを防止して、耐久性を向上するには有利になる。
【0010】
本発明においては、有機繊維コードがポリエステル繊維で構成されることが好ましい。このようにポリエステル繊維を用いることで、その優れた物性(高弾性率)により、効果的にロードノイズ性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りラジアルタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】ベルトコードの構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0014】
図示の例では、トレッド部1の外表面にタイヤ周方向に延びる複数本(図示の例では4本)の主溝が形成されているが、主溝の本数は特に限定されない。また、主溝の他にタイヤ幅方向に延びるラグ溝を含む各種の溝やサイプを形成することもできる。
【0015】
左右一対のビード部3間にはタイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含むカーカス層4が装架されている。各ビード部には、ビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面略三角形状のビードフィラー6が配置されている。カーカス層4は、ビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。これにより、ビードコア5およびビードフィラー6はカーカス層4の本体部(トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分)と折り返し部(各ビード部3においてビードコア5の廻りに折り返されて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分)とにより包み込まれている。カーカス層4の補強コードとしては、例えばポリエステル繊維コードが好ましく使用される。
【0016】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード7Cを含み、かつ層間で補強コード7Cが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コード7Cのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コード7Cとしてはスチールコードが使用される(以下の説明では、「補強コード7C」を「スチールコード7C」という場合がある)。
【0017】
特に、本発明では、ベルト層7を構成するスチールコード7Cは、
図2に示すように、
M本の素線7sからなる1×M構造(図示の例では1×2構造)を有する。本発明において、素線7sの本数Mは1本〜6本である。つまり、本発明のスチールコード7Cは、1本の素線7sからなる1×1構造(即ち、単線構造)を有するか、或いは、M本(2〜6本)の素線7sを撚り合わせて構成された1×M構造を有する。特に、1×1構造(単線構造)や図示の1×2構造は、撚り構造に起因する初期伸びが小さく、素線7sとそのコートゴムとの間に生じる応力が小さくなるため、好適に採用することができる。
【0018】
また、本発明のスチールコード7Cは、5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa以上、好ましくは150GPa〜200GPaである。尚、スチールコード7Cの5N〜50N負荷時の引張弾性率とは、タイヤから採取したスチールコード7Cの引張試験を行ったときに得られる荷重‐歪み曲線の荷重5N〜50Nの範囲における傾き(荷重/歪み)を、コードを構成する素線7sの断面積の和で割ることで得た数値である。
【0019】
ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上とロードノイズの低減を目的として、ベルトカバー層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。本発明では、ベルトカバー層8は、ベルト層7の全域を覆うフルカバー層8aを必ず含み、任意でベルト層7の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層8bを含む構成にすることができる(図示の例では、フルカバー層8aおよびエッジカバー層8bの両方を含む)。ベルトカバー層8は、少なくとも1本の有機繊維コードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成するとよく、特にジョイントレス構造とすることが望ましい。
【0020】
特に、本発明では、ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードとして、2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%〜4.0%である有機繊維コードが使用される。有機繊維コードを構成する有機繊維の種類は特に限定されないが、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維などを用いることができ、なかでもポリエステル繊維を好適に用いることができる。また、ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)、ポリブチレンテレフタレート繊維(PBT)、ポリブチレンナフタレート繊維(PBN)を例示することができ、PET繊維を好適に用いることができる。尚、本発明において、2.0cN/dtex負荷時の伸びは、JIS‐L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、2.0cN/dtex負荷時に測定される試料コードの伸び率(%)である。
【0021】
このように、特定の構造および物性を有するスチールコード7Cからなるベルト層7と、特定の物性を有する有機繊維コードからなるベルトカバー層8を組み合わせて用いることで、ロードノイズ性能を向上しながら、耐久性を向上することができる。即ち、ベルトカバー層8においては、有機繊維コードの物性によって、走行時に空気入りタイヤに生じる振動の周波数を車両と共振を起こしにくい帯域にずらすことができ、ロードノイズ性能を向上することができる。一方、ベルト層7においては、上述の構造と物性を有して初期伸びの小さいスチールコード7Cを用いているので、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションを効果的に防止することができ、耐久性を向上することができる。
【0022】
このとき、ベルト層7を構成するスチールコード7Cの素線7sの本数Mが6本を超えると撚り構造が安定せず、初期伸びが悪化する。ベルト層7を構成するスチールコード7Cの5N〜50N負荷時の引張弾性率が130GPa未満であると、スチールコード7Cの初期伸びを低減することができず、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションを防止する効果が得られない。ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びが2.0%未満であると、有機繊維コードの耐疲労性が低下し、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションに対する耐久性が低下する。ベルトカバー層8を構成する有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びが4.0%を超えると、ロードノイズ性能を充分に向上することができない。
【0023】
スチールコード7Cの断面積S(mm
2 )とスチールコード7Cの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりのスチールコード7Cの打ち込み本数E(本/50mm)との積をスチールコード量Aと定義すると、このスチールコード量Aは好ましくは5.0〜8.0の範囲内であるとよい。これにより、ベルト層の構造が良好になるので、ベルト層とベルト補強層との層間のセパレーションを防止して、耐久性を向上するには有利になる。スチールコード量Aが5.0未満であると、ベルト層7に占めるスチールコード7Cの割合が減少するため、操縦安定性が低下する虞がある。スチールコード量Aが8.0を超えると、ベルト層7とベルトカバー層8との層間のセパレーションを防止する効果が充分に得られない。スチールコード7Cの断面積Sや打ち込み本数Eの個々の数値範囲は特に限定されないが、スチールコード7Cの断面積Sは例えば0.08mm
2 〜0.30mm
2 、打ち込み本数Eは例えば20本/50mm〜60本/50mmに設定することができる。
【0024】
ベルト補強層8を構成する有機繊維コードとして、ポリエチレンテレフタレート繊維コード(PET繊維コード)を用いる場合、100℃における44N負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)〜5.5cN/(tex・%)の範囲にあるPET繊維コードを用いることが好ましい。このように特定の物性のPET繊維コードを用いることで、空気入りラジアルタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。PET繊維コードの100℃における44N負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)未満であると、中周波ロードノイズを十分に低減することができない。PET繊維コードの100℃における44N負荷時の弾性率が5.5cN/(tex・%)を超えると、コードの耐疲労性が低下してタイヤの耐久性が低下する。尚、本発明において、100℃での44N負荷時の弾性率[N/(tex・%)]は、JIS‐L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、荷重―伸び曲線の荷重44Nに対応する点における接線の傾きを1tex当たりの値に換算することで算出される。
【0025】
ベルト補強層8を構成する有機繊維コードとして、ポリエチレンテレフタレート繊維コード(PET繊維コード)を用いる場合、更に、PET繊維コードの100℃における熱収縮応力が0.6cN/tex以上であることが好ましい。このように100℃における熱収縮応力を設定することで、空気入りラジアルタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力が0.6cN/texよりも小さいと走行時のタガ効果を充分に向上することができず、高速耐久性を十分に維持することが難しくなる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力の上限値は特に限定されないが、例えば2.0cN/texにするとよい。尚、本発明において、100℃での熱収縮応力(cN/tex)は、JIS‐L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件100℃×5分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの熱収縮応力である。
【0026】
上述のような物性を有するPET繊維コードを得るために、例えばディップ処理を適正化すると良い。つまり、カレンダー工程に先駆けて、PET繊維コードには接着剤のディップ処理が行われるが、2浴処理後のノルマライズ工程において、雰囲気温度を210℃〜250℃の範囲内に設定し、コード張力を2.2×10
-2N/tex〜6.7×10
-2N/texの範囲に設定することが好ましい。これにより、PET繊維コードに上述のような所望の物性を付与することができる。ノルマライズ工程におけるコード張力が2.2×10
-2N/texよりも小さいとコード弾性率が低くなり、中周波ロードノイズを十分に低減することができず、逆に6.7×10
-2N/texよりも大きいとコード弾性率が高くなり、コードの耐疲労性が低下する。
【実施例】
【0027】
タイヤサイズが225/60R18であり、
図1に例示する基本構造を有し、ベルト層を構成するスチールコードの構造、スチールコードの5N〜50N負荷時の引張弾性率、スチールコードの断面積Sとスチールコードの長手方向と直交する向きの幅50mm当たりのスチールコードの打ち込み本数Eとの積として算出されるスチールコード量A、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードに用いられた有機繊維の種類、有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びを、表1〜2のように異ならせた従来例1、比較例1〜4、実施例1〜10のタイヤを製作した
(尚、スチールコード量Aが「5.0〜8.0」の範囲から外れる実施例6および10はそれぞれ参考例である)。
【0028】
いずれの例においても、ベルトカバー層は、1本の有機繊維コード(ナイロン66繊維コードまたはPET繊維コード)を引き揃えてコートゴムで被覆してなるストリップをタイヤ周方向に螺旋状に巻回したジョイントレス構造を有している。ストリップにおけるコード打ち込み密度は50本/50mmである。また、有機繊維コード(ナイロン66繊維コードまたはPET繊維コード)はそれぞれ1100dtex/2の構造を有する。
【0029】
表1,2の「有機繊維の種類」の欄については、ナイロン66繊維コードの場合を「N66」、PET繊維コードの場合を「PET」と表示した。
【0030】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、ロードノイズ性能、ベルト層とベルトカバー層とのセパレーションに対する耐久性、操縦安定性を評価し、その結果を表1,2に併せて示した。
【0031】
ロードノイズ性能
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付けて、排気量2500ccの乗用車(前輪駆動車)の前後車輪として装着し、空気圧を230kPaとし、運転席の窓の内側に集音マイクを設置し、アスファルト路面からなるテストコースを平均速度50km/hの条件で走行させた際の周波数315Hz付近の音圧レベルを測定した。評価結果としては、従来例を基準とし、その基準に対する変化量(dB)を示した。尚、変化量が0dB〜−1dBでは、実質的にロードノイズの低減効果が得られていないことを意味する。
【0032】
耐久性
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのリムに装着し、内圧280kPaで酸素封入した状態で、室温70℃に保持されたチャンバー内に2週間保持した後、内部の酸素を解放し、空気を170kPaにて充填する。このように前処理された試験タイヤを、直径が1707mmの室内ドラム試験機を用い、周辺温度を38±3℃に制御し、走行速度50km/h、スリップ角0±3°、JATMA最大荷重の70%±40%の変動条件下で、荷重とスリップ角を0.083Hzの矩形波で変動させて100時間、5000km走行させた。走行後に、タイヤを分解してベルト層とベルトカバー層との層間におけるセパレーションの量(mm)を測定した。評価結果は、セパレーションの量が3mm以下の場合を「良」、セパレーションの量が3mm超5mm以下の場合を「可」、セパレーションの量が5mm超の場合を「不可」とする3段階で示した。評価結果が「良」または「可」であれば充分な耐久性が得られたことを意味し、「良」の場合は特に優れた耐久性を示したことを意味する。
【0033】
操縦安定性
各試験タイヤをリムサイズ18×7Jのホイールに組み付けて、排気量2500ccの乗用車(前輪駆動車)の前後車輪として装着し、空気圧を230kPaとし、乾燥路面からなるテストコースにて、操縦安定性について5人のテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1の結果を3点(基準)とする5点法で採点し、最高点と最低点を除いた3名のテストドライバーの点数の平均値を示した。この点数が大きいほどロードノイズ性能(官能測定)が優れることを意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1,2から判るように、実施例1〜10のタイヤは、基準となる従来例1との対比において、ロードノイズ性能を向上し、且つ、耐久性および操縦安定性を維持または向上した。一方、比較例1は、ベルト層を構成するスチールコードの引張弾性率が小さいため、ベルト層とベルトカバー層とのセパレーションを防止できず、充分な耐久性が得られなかった。比較例2は、ベルトカバー層を構成する有機繊維コードの2.0cN/dtex負荷時の伸びが大きすぎるため、ロードノイズ性能の改善効果が得られなかった。比較例3は、ベルトカバー層の2.0cN/dtex負荷時の伸びが小さすぎるため、ベルト層とベルトカバー層とのセパレーションを防止できず、充分な耐久性が得られなかった。比較例4は、ベルトカバー層の2.0cN/dtex負荷時の伸びが大きすぎるため、ロードノイズ性能の改善効果が充分に得られず、また操縦安定性が低下した。
【符号の説明】
【0037】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
7C 補強コード(スチールコード)
7s 素線
8 ベルトカバー層
CL タイヤ赤道