(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6809580
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫装置および方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20201221BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-143799(P2019-143799)
(22)【出願日】2019年8月5日
【審査請求日】2019年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸久
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−42557(JP,A)
【文献】
特開2011−167916(JP,A)
【文献】
特開2011−194812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/00−35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に配置される複数のそれぞれのセクタモールドの外周面に取り付けられるセグメントと、上側サイドモールドの上面に取り付けられる上部プレートと、下側サイドモールドの下面に取り付けられる下部プレートと、それぞれのセグメントの外周側に配置されるコンテナリングと、前記上部プレートの上方に配置されて前記コンテナリングに連結されるボルスタープレートと、このボルスタープレートを上下移動させる加圧機構とを備えて、前記ボルスタープレートを下方移動させることにより、前記上部プレートと前記下部プレートとの間で、それぞれの前記セクタモールドが環状に組み付けられるとともに、これらセクタモールドが前記上側サイドモールドと前記下側サイドモールドとにより上下に挟まれて閉型される構成にしたタイヤ加硫装置において、
前記ボルスタープレートと前記コンテナリングとの間に介在して前記ボルスタープレートと前記コンテナリングとを連結させる連結体と、加圧流体を供給する流体供給部とを有し、前記コンテナリングが前記ボルスタープレートに対して上下方向にスライド可能に前記連結体に保持されて、前記ボルスタープレートの上下位置が閉型位置に維持された状態で、前記流体供給部により供給された前記加圧流体によって前記コンテナリングが前記ボルスタープレートに対して下方移動することにより、それぞれの前記セクタモールドの上面に前記上側サイドモールドが押圧されつつ、それぞれの前記セクタモールドが環状に組み付けられて閉型される構成にしたことを特徴とするタイヤ加硫装置。
【請求項2】
前記加圧流体の供給圧力を制御する制御部を有する請求項1に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項3】
前記ボルスタープレートが前記閉型位置よりも上方の待機位置にある時には、前記コンテナリングは前記連結体に吊設されて、前記ボルスタープレートに対して下方へのスライドが規制されて上方にスライド可能に保持されていて、前記ボルスタープレートが前記閉型位置に維持された状態で前記加圧流体が供給される前には、前記コンテナリングは前記ボルスタープレートに対して上方へのスライドが規制されて下方にスライド可能に保持されている請求項1または2に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項4】
前記加圧流体を供給する供給ラインが前記連結体に周方向間隔をあけて複数箇所に接続される請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ加硫装置。
【請求項5】
環状に配置される複数のそれぞれのセクタモールドの外周面にセグメントを取付け、上側サイドモールドの上面に上部プレートを取り付け、下側サイドモールドの下面に下部プレートを取り付け、それぞれのセグメントの外周側にコンテナリングを配置して、前記上部プレートの上方に前記コンテナリングが連結されたボルスタープレートを配置して、前記下側サイドモールドにグリーンタイヤを横倒し状態で載置し、待機位置の前記ボルスタープレートを加圧機構により閉型位置に下方移動させることにより、前記上部プレートと前記下部プレートとの間で、それぞれの前記セクタモールドを環状に組み付けるとともに、これらセクタモールドを前記上側サイドモールドと前記下側サイドモールドとにより上下に挟んで、前記グリーンタイヤを内部に閉じ込めて閉型し、前記グリーンタイヤを加圧および加熱することにより加硫するタイヤ加硫方法において、
前記ボルスタープレートと前記コンテナリングとの間に連結体を介在させて前記ボルスタープレートと前記コンテナリングとを連結して、前記コンテナリングを前記ボルスタープレートに対して上下方向にスライド可能に前記連結体に保持し、前記ボルスタープレートを前記待機位置から下方移動させて前記閉型位置に維持した状態で、流体供給部から供給した加圧流体によって前記コンテナリングを前記ボルスタープレートに対して下方移動させることにより、それぞれの前記セクタモールドの上面に前記上側サイドモールドを押圧しつつ、それぞれの前記セクタモールドを環状に組み付けつけて閉型することを特徴とするタイヤ加硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ加硫装置および方法に関し、さらに詳しくは、タイヤ加硫用モールドをより確実に型閉めすることができ、品質の優れたタイヤを製造することができるタイヤ加硫装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤを製造する際には、型閉めしたモールド内でグリーンタイヤを加硫する。セクショナルタイプのモールドは、上側サイドモールド、下側サイドモールドおよび複数のセクタモールドで構成されていて、それぞれが密着するように閉型される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
それぞれのセクタモールドは下方移動するコンテナリングによって中心機構に向かって押圧されて環状に組み付けられる。環状に組み付けられたそれぞれのセクタモールドと、下側サイドモールドとは密着するように組み付けられる。一方、上側サイドモールドは、上側サイドモールドの上面に取付けられた上部プレートとともに上下移動する。この上部プレートが、コンテナリングが取り付けられているボルスタープレートの下方に配置されていると、モールドを型閉めした状態では、上部プレートの上面がボルスタープレートによって下方に押圧される。
【0004】
型閉めした状態でそれぞれのセクタモールドどうしの間にすき間が発生すると、そのすき間から、横倒し状態でモールドの中に配置されているグリーンタイヤの未加硫ゴムが流出して加硫したタイヤの品質に影響が生じる。そこで、この構造の加硫装置では、それぞれのセクタモールドどうしの間のすき間の発生を防止するため、それぞれのセクタモールドをコンテナリングによってより強く押圧する必要がある。これを実現するには型閉めする際に、ボルスタープレートの下方移動が上部プレートによって規制されないようにする必要があり、ボルスタープレートによる上部プレートに対する押圧よりも、コンテナリングによるそれぞれのセクタモールドに対する押圧が優先される。
【0005】
これに伴って、ボルスタープレートの下面と上部プレートの上面との間にすき間が発生し易くなる。このすき間が大きい程、加硫中にグリーンタイヤが内圧を受けると、上側サイドモールドが上部プレートとともに上方移動する量が大きくなって、環状に組み付けられたそれぞれのセクタモールドの上面と上側サイドモールドの下面のとの間にすき間が発生する。即ち、モールドをすき間なく確実に型閉めした状態に維持できなくなる。その結果、加硫されたタイヤでは、それぞれのセクタモールドの上面と上側サイドモールドの下面のとの間のすき間に起因して上側のサイド部に段差が形成される。加硫されたタイヤの上側サイド部と下側サイド部とでこの段差の有無の違いが生じるため、タイヤ品質を向上させるには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−54212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、タイヤ加硫用モールドをより確実に型閉めすることができ、品質の優れたタイヤを製造することができるタイヤ加硫装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のタイヤ加硫装置は、環状に配置される複数のそれぞれのセクタモールドの外周面に取り付けられるセグメントと、上側サイドモールドの上面に取り付けられる上部プレートと、下側サイドモールドの下面に取り付けられる下部プレートと、それぞれのセグメントの外周側に配置されるコンテナリングと、前記上部プレートの上方に配置されて前記コンテナリングに連結されるボルスタープレートと、このボルスタープレートを上下移動させる加圧機構とを備えて、前記ボルスタープレートを下方移動させることにより、前記上部プレートと前記下部プレートとの間で、それぞれの前記セクタモールドが環状に組み付けられるとともに、これらセクタモールドが前記上側サイドモールドと前記下側サイドモールドとにより上下に挟まれて閉型される構成にしたタイヤ加硫装置において、前記ボルスタープレートと前記コンテナリングとの間に介在して前記ボルスタープレートと前記コンテナリングとを連結させる連結体と、加圧流体を供給する流体供給部とを有し、前記コンテナリングが前記ボルスタープレートに対して上下方向にスライド可能に前記連結体に保持されて、前記ボルスタープレートの上下位置が閉型位置に維持された状態で、前記流体供給部により供給された前記加圧流体によって前記コンテナリングが前記ボルスタープレートに対して下方移動することにより、それぞれの前記セクタモールドの上面に前記上側サイドモールドが押圧されつつ、それぞれの前記セクタモールドが環状に組み付けられて閉型される構成にしたことを特徴とする。
【0009】
本発明のタイヤ加硫方法は、環状に配置される複数のそれぞれのセクタモールドの外周面にセグメントを取付け、上側サイドモールドの上面に上部プレートを取り付け、下側サイドモールドの下面に下部プレートを取り付け、それぞれのセグメントの外周側にコンテナリングを配置して、前記上部プレートの上方に前記コンテナリングが連結されたボルスタープレートを配置して、前記下側サイドモールドにグリーンタイヤを横倒し状態で載置し、待機位置の前記ボルスタープレートを加圧機構により閉型位置に下方移動させることにより、前記上部プレートと前記下部プレートとの間で、それぞれの前記セクタモールドを環状に組み付けるとともに、これらセクタモールドを前記上側サイドモールドと前記下側サイドモールドとにより上下に挟んで、前記グリーンタイヤを内部に閉じ込めて閉型し、前記グリーンタイヤを加圧および加熱することにより加硫するタイヤ加硫方法において、前記ボルスタープレートと前記コンテナリングとの間に連結体を介在させて前記ボルスタープレートと前記コンテナリングとを連結して、前記コンテナリングを前記ボルスタープレートに対して上下方向にスライド可能に前記連結体に保持し、前記ボルスタープレートを前記待機位置から下方移動させて前記閉型位置に維持した状態で、流体供給部から供給した加圧流体によって前記コンテナリングを前記ボルスタープレートに対して下方移動させることにより、それぞれの前記セクタモールドの上面に前記上側サイドモールドを押圧しつつ、それぞれの前記セクタモールドを環状に組み付けつけて閉型することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加圧機構を用いてボルスタープレートを下方移動させて閉型位置に維持した状態にすることで、それぞれのセクタモールドと上側サイドモールドと下側サイドモールドとを概ね閉型させる。さらに、ボスルタープレートに対して上下方向にスライド可能に連結体に保持されているコンテナリングを、加圧流体を利用してボルスタープレートに対して単独で下方移動させることで、それぞれのセクタモールドの上面に上側サイドモールドを押圧しつつ、それぞれのセクタモールドを環状に組み付けつけて閉型する。そのため、ボルスタープレートを閉型位置に維持した状態にして、それぞれのセクタモールドが上側サイドモールドと下側サイドモールドとに押圧されて両者の間に挟まれた状態で、周方向に隣り合うセクタモールドどうしの間にすき間があったとしても、コンテナリングを単独でさらに下方移動させることで、そのすき間を無くしてそれぞれのセクタモールドを環状に組み付けることができる。このとき、ボルスタープレートの上下位置は閉型位置に維持されているので、モールドを確実に型閉めした状態にできる。これに伴い、加硫工程におけるタイヤ両サイド部の仕上がりに差異が生じ難くなり、品質の優れたタイヤを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】開型している状態の本発明のタイヤ加硫装置の左半分を縦断面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1の連結体およびコンテナリングを平面視で例示する説明図である。
【
図3】
図1のセクタモールド、セグメントを平面視で例示する説明図である。
【
図4】
図1のボルスタープレートを下方移動させて各セグメントを下部プレートに載置した状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図5】
図4のボルスタープレートをさらに下方の閉型位置に移動させた状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図6】
図5のコンテナリングをさらに下方移動させてモールドを型閉めしている状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図7】
図6のセクタモールドおよびセグメントを平面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のタイヤ加硫装置および方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1〜
図3に例示する本発明のタイヤ加硫装置1(以下、加硫装置1という)は、複数のセグメント6と、上部プレート2と、下部プレート4と、コンテナリング11と、コンテナリング11に連結されたボルスタープレート3と、ボルスタープレート3を上下移動させる加圧機構5と、下部プレート4の平面視の中心部に配置される中心機構13とを備えている。さらに、この加硫装置1は、加圧機構5とは独立して稼働してボルスタープレート3に対してコンテナリング11を単独で上下方向にスライドさせることができる上下スライド機構7を備えている。
【0014】
この加硫装置1には、タイヤ加硫用モールド15(以下、モールド15という)が取り付けられる。モールド15は、円環状の上側サイドモールド15aと円環状の下側サイドモールド15bと複数のセクタモールド15cとで構成されている。グリーンタイヤTは横倒し状態で、下側サイドモールド15bに載置されてモールド15の中に配置される。
図1、3は、モールド15が開型している状態を例示している。
【0015】
中心機構12を構成する中心ポスト12aは、上側サイドモールド15aおよび下側サイドモールド15bの中心CLに配置されている。中心ポスト12aには上下に間隔をあけて円盤状のクランプ部14が取り付けられている。それぞれのクランプ部14には、円筒状の加硫用ブラダ13の上端部、下端部が把持されている。
【0016】
上部プレート2には、その下面に上側サイドモールド15aの上面が対向して取り付けられている。上側サイドモールド15aはその下面によって、横倒し状態のグリーンタイヤTの上側サイド部Suを加硫成形する。上部プレート2は上側サイドモールド15aとともに上下移動する。
【0017】
下部プレート4には、その上面に下側サイドモールド15bの下面が対向して取り付けられている。下側サイドモールド15bはその上面によって、横倒し状態のグリーンタイヤTの下側サイド部Sdを加硫成形する。下部プレート4は不動状態で地盤ベースに固定されている。
【0018】
それぞれのセグメント6は中心機構12(中心CL)を中心にして環状に配置されている。それぞれのセグメント6には、その内周側にセクタモールド15cの外周面が対向して取り付けられている。それぞれのセグメント6の外周面は、外周側から内周側に向かって上方に傾斜する傾斜を有している。セクタモールド15cはその内周面によって、横倒し状態のグリーンタイヤTのトレッド部を加硫成形する。
【0019】
円環状のコンテナリング11は、中心機構12(中心CL)を中心にした環状体であり、環状に配置されているセグメント6の外周側で上下移動する。コンテナリング11が上下移動することにより、コンテナリング11の内周傾斜面とそれぞれのセグメント6の外周傾斜面とが摺動する。そして、下方移動するコンテナリング11の内周面により、それぞれのセグメント6の外周面が押圧されることで、それぞれのセクタモールド15cがセグメント6とともに中心CLに対して近接移動する。
【0020】
ボルスタープレート3は上部プレート2の上方に配置されて、後述する連結体8を介してコンテナリング11の上端部に連結されている。ボルスタープレート3の上面には加圧機構5が接続されている。加圧機構5としては油圧シリンダ等のシリンダ機構を用いることができる。加圧機構5のシリンダロッドの上下方向の進退移動によってボルスタープレート3を上下移動させることができる。
【0021】
上下スライド機構7は、この実施形態ではボルスタープレート3とコンテナリング11との間に介在する連結体8と、加圧流体Fを供給する流体供給部9と、加圧流体Fの供給圧力を制御する制御部10とを有している。流体供給部9は、加圧流体Fの収容タンクと圧送駆動機などを有する供給源9aと、供給源9aから延在する供給ライン9bと供給ライン9bの先端に取付けられた着脱部9cとを有している。加圧流体Fとしては、作動油や水などの各種液体や、空気など各種気体を用いることができるが非圧縮性である液体を用いるとよい。加硫装置1に予め備わっている油圧配管や空気圧配管を流れる加圧流体Fを用いるのが便利である。
【0022】
連結体8は、ボルスタープレート3の下面から下方に突出する外周側の係合部8aおよび内周側の係合部8aと、それぞれの係合部8aの間で下方に突出する円環状のディスタンスリング8bとを有している。外周側の係合部8aおよび内周側の係合部8aは、ボルスタープレート3の周方向に等間隔を開けた4か所に設置されている。外周側の係合部8aとディスタンスリング8bと内周側の係合部8aとを横断して連通するボルト等の固定具8eによって、それぞれの係合部8a、8とディスタンスリング8bとが結合されている。係合部8a、8aは4か所に限らず、例えば3カ所以上に設置される。ディスタンスリング8bの下端部は環状突部になっていて、この環状突部の側面にはシールリング8bが周方向に延在している。
【0023】
また、加圧流体Fが流れる流路8cが、ディスタンスリング8bの内部に形成されている。この流路8cは、
図2に例示するようにディスタンスリング8bに沿って環状に延在するとともに、周方向に間隔をあけた複数か所(この実施形態では周方向に90°の等間隔で4か所)で、
図1に例示するようにディスタンスリング8bの下端面に開口している。ディスタンスリング8bの外周面にある流路8cの開口には着脱部9cが着脱自在に装着される。この開口に着脱部9cを装着することで供給ライン9bと流路8cとが連通する。着脱部9cは必要な時に連結体8の外周面にある流路8cの開口に装着され、この開口に常時装着させる必要はない。
【0024】
コンテナリング11の上面には、周方向全周に連続する環状溝部11aと、上方に突出する係合部11bとが形成されている。環状溝部11aにはディスタンスリング8bの下端部を形成する環状突部が嵌合する。この環状突部が環状溝部11aに嵌合することで、ディスタンスリング8bの環状突部の下面とコンテナリング11の環状溝部11aの底面との間には流路8cに連通する気密性(水密性)が高い環状の空間が形成されている。尚、シールリング8dは、環状溝部11aの側面に設けることもできる。
【0025】
コンテナリング11の内周側の係合部11aおよび外周側の係合部11bはそれぞれ、連結体8の対応する係合部8a、8aと係合する。これにより、それぞれの係合部8a、8aによってディスタンスリング8bとコンテナリング11とが上下スライド可能に連結された状態になっている。即ち、コンテナリング11はボルスタープレート3に対して上下方向にスライド可能に連結体8に保持されている。
図1に例示する開型状態では、コンテナリング11は自重が作用して、連結体8に対して上下方向に所定の最大のすき間g1を有して連結体8に吊設されている。これにより、コンテナリング11は、ボルスタープレート3に対して下方へのスライドが規制されつつ、上方にスライド可能に保持されている。
【0026】
流体供給部9により加圧流体Fが供給ライン9aを通じて連結体8の流路8cに供給されると、供給された加圧流体8はディスタンスリング8bの環状突部の下面とコンテナリング11の環状溝部11aの底面との間に溜まる。コンテナリング11が連結体8に対して上下方向の最大のすき間g1よりも小さなすき間を有して、或いは、すき間なく連結体8に保持されている場合は、供給された加圧流体Fによる圧力によってコンテナリング11は連結体8(ボルスタープレート3)に対して下方移動する。下方移動させたコンテナリング11は、加圧流体Fによる圧力(供給圧力)を小さくする、或いは、大気開放することで上方移動する。
【0027】
次に、この加硫装置1を用いて、グリーンタイヤTを加硫して空気入りタイヤを製造する方法の一例を説明する。
【0028】
グリーンタイヤTを加硫する際には、
図1、
図3に例示するようにモールド15を開型した状態で、横倒し状態のグリーンタイヤTを中心機構12に挿通させて、シェーピング圧力で膨張させた加硫用ブラダ13によってグリーンタイヤTを保持する。このグリーンタイヤTを下側サイドモールド15bに載置する。この時、ボルスタープレート3は待機位置にあり、上述したように、コンテナリング11は連結体8に対して上下方向に所定のすき間g1を有して連結体8に吊設されている。
【0029】
次いで、
図4に例示するように加圧機構5によって、ボルスタープレート3を下方移動させることで、上部プレート2、上側サイドモールド15a、連結体8およびコンテナリンング11を一体的に下方移動させる。これにより、それぞれのセグメント6を下部プレート4に載置する。この工程では、連結体8とコンテナリング11との上下方向の所定のすき間g1が維持されている。
【0030】
次いで、
図5に例示するように加圧機構5によってボルスタープレート3を閉型位置までさらに下方移動させる。この工程では、下方移動するコンテナリング11の内周傾斜面によりそれぞれのセグメント6の外周傾斜面を押圧して、それぞれのセグメント6とともにそれぞれのセクタモールド15cを中心CLに向かって移動させる。
【0031】
また、ボルスタープレート3とともに、上部プレート2、上側サイドモールド15aが一体的に下方移動するので、中心CLに向かって移動したそれぞれのセクタモールド15cの上面を上側サイドモールド15aが押圧する。これにより、上部プレート2と下部プレート4の上下間で、それぞれのセクタモールド15cが概ね環状に組み付けられて、上側サイドモールド15aと下側サイドモールド15bとにより上下に挟まれ、モールド15はグリーンタイヤTを内部に閉じ込めてほぼ閉型した状態になる。
【0032】
ボルスタープレート3がこの閉型位置にあるときは、それぞれのセクタモールド15cの上面を上側サイドモールド15aが押圧していて、それぞれのセクタモールド15cが上側サイドモールド15aおよび下側サイドモールド15bと圧着している状態である。ボルスタープレート3の上下位置はこの閉型位置に維持される。
【0033】
それぞれのセグメント6の外周傾斜面を押圧したコンテナリング11は、ボルスタープレート3(連結体8)とそれぞれのセグメント6とに挟まれることで、ボルスタープレート3(連結体8)に対して上方移動する。このコンテナリング11の上方移動によって、コンテナリング11と連結体8との上下方向のすき間g1が無くなる。そのため、ボルスタープレート3が閉型位置にあるときは、コンテナリング1はボルスタープレート3(連結体8)に対して上方へのスライドが規制されて下方にスライド可能に連結体8に保持される。
【0034】
この状態では、それぞれのセクタモールド15cと上側サイドモールド15aおよび下側サイドモールド15bとは十分に押圧されているが、周方向に隣り合うセクタモールド15cどうしがすき間なく強固に環状に組み付けられていない場合もある。そこで、
図6に例示するように、ボルスタープレート3を閉型位置に維持した状態で、流体供給部9から加圧流体Fを連結体8の流路8cに供給する。供給された加圧流体Fによる圧力によってコンテナリング11は単独でボルスタープレート3(連結体8)に対して下方移動する。
図6では、ボルスタープレート3(連結体8)に対してコンテナリング11が下方移動することで、コンテナリング11と連結体8とに上下方向のすき間g2が生じている(すき間g2≦すき間g1)。
【0035】
このコンテナリング11の下方移動に伴って、それぞれのセグメント6(セクタモールド15c)は中心CLに向かって押圧されて、それぞれのセクタモールド15cを強固に環状に組み付ける。即ち、環状に組み付けられている状態のそれぞれのセクタモールド15cを、上下スライド機構7を用いて増し締めする。これにより、それぞれのセクタモールド15cの上面に上側サイドモールド15aを押圧しつつ、それぞれのセクタモールド15cを強固に環状に組み付けつけてモールド15を閉型する。
【0036】
この閉型状態を維持しながら、閉型したモールド15の中では、グリーンタイヤTの内側で加硫用ブラダ13をさらに膨張させて、グリーンタイヤTに所定の内圧を付与するとともに、所定の温度で加熱して加硫を行う。グリーンタイヤTを所定時間、加硫することで空気入りタイヤが完成する。
【0037】
グリーンタイヤTの加硫中には、閉型したモールド15の内側からモールド15を開型させようとする力が作用するが、この開型させようとする力には、加圧機構5および上下スライド機構7によって生じる閉型力によって対抗する。ボルスタープレート3(連結体8)に対するコンテナリング11の下方移動量(すき間g2の大きさ)は、制御部10によって加圧流体Fの供給圧力を制御することで調整することができる。そこで、加硫するグリーンタイヤTの予め把握している加硫条件等に基づいて、加圧流体Fの供給圧力を適正範囲に制御すればよい。
【0038】
このように加圧機構5を用いてボルスタープレート3を閉型位置に下方移動させてモールド15を概ね閉型して、周方向に隣り合うセクタモールド15cどうしの間にすき間があったとしても、上下スライド機構7を用いてコンテナリング11を単独で下方移動させることで、そのすき間を無くして強固に環状に組み付けることができる。そして、上下スライド機構7を用いて、それぞれのセクタモールド15cを中心CLに向かって押圧しても、ボルスタープレート3の上下位置は閉型位置に維持されているので、それぞれのセクタモールド15cと上側サイドモールド15aおよび下側サイドモールド15bとの密着状態は維持される。したがって、
図7に例示するように、モールド15を加硫中に確実に型閉めした状態にすることが可能になる。
【0039】
その結果、製造されたタイヤの上側のサイド部Suに閉型不良に起因する段差が形成される不具合を回避できる。即ち、加硫工程におけるタイヤ両サイド部の仕上がりに差異が生じ難くなり、品質の優れたタイヤを製造することが可能になる。また、それぞれのセクタモールド15cどうしのすき間からゴムが流出して不要なゴム膜が形成されることも抑制できるのでタイヤの外観品質も向上する。
【0040】
コンテナリング11をボルスタープレート3(連結体8)に対して単独で下方移動させる際に加圧流体Fを使用する構成なので、必要な時に加圧流体Fを流路8cに供給すればよい。それ故、コンテナリング11、連結体8、ボルスタープレート3などの部品に不必要な負荷が常時作用する構造ではないので、部品の変形、摩耗等を抑えるには有利になる。また、加圧流体Fの供給圧力を調整するだけで、コンテナリング11の下方移動量、即ち、環状に組み付けられるそれぞれのセクタモールド15cに対する増し締め力を変更することができ、その変更の程度を広範囲にできるメリットがある。加圧機構5と上下スライド機構7とによる閉型力を逐次適切にバランスさせることができるので、モールド15を確実に型閉めした状態に維持するには有利である。一方、コンテナリング11をスプリング等の付勢力を利用して、ボルスタープレート3(連結体8)に対して単独で下方移動させる構成では、加圧流体Fを使用することによる上述したメリットを得ることができない。
【0041】
上下スライド機構7は、上述した実施形態に限定されない。上下スライド機構7としては、コンテナリング11がボルスタープレート3に対して上下方向にスライド可能に保持されて、ボルスタープレート3の上下位置が閉型位置に維持された状態で、加圧流体Fによってコンテナリング11をボルスタープレート3に対して単独で下方移動させることができる種々の構成を用いることができる。
【0042】
この実施形態では、加圧流体Fを供給する供給ライン9bが連結体8に一か所で接続されているが、連結体8の周方向間隔をあけた複数箇所に供給ライン9bを接続することもできる。これにより、加圧流体Fによって環状のコンテナリング11を押圧する力を周方向に偏りなく付与し易くなる。この実施形態のように、供給ライン9bが連結体8に一か所で接続された構造にすると、着脱部9cの着脱作業が一か所で済むので作業の簡略化になる。供給源9aは1つに限らず複数にして、複数の供給源9aから流路8bに加圧流体Fを供給することもできる。
【符号の説明】
【0043】
1 加硫装置
2 上部プレート
2a フランジ部
3 ボルスタープレート
4 下部プレート
5 加圧機構
6 セグメント
7 上下スライド機構
8 連結体
8a 係合部
8b ディスタンスリング
8c 流路
8d シールリング
8e 固定具
9 流体供給部
9a 供給源
9b 供給ライン
9c 着脱部
10 制御部
11 コンテナリング
11a 環状溝部
11b 係合部
12 中心機構
12a 中心ポスト
13 加硫用ブラダ
14 クランプ部
15 モールド
15a 上側サイドモールド
15b 下側サイドモールド
15c セクタモールド
T グリーンタイヤ
Su 上側サイド部
Sd 下側サイド部
g1、g2 すき間
【要約】
【課題】タイヤ加硫用モールドをより確実に型閉めすることができ、品質の優れたタイヤを製造することができるタイヤ加硫装置および方法を提供する。
【解決手段】各セクタモールド15cの外周面に装着したセグメント6の外周側にコンテナリング11を配置し、上側サイドモールド15aの上面に装着した上部プレート2の上方にボルスタープレート3を配置し、下部プレート4の上面に装着した下側サイドモールド15bにグリーンタイヤを横倒し状態で載置し、加圧機構5によりボルスタープレート3を下方移動させて閉型位置に維持した状態で、ボルスタープレート3に対して上下方向にスライド可能に連結体8に保持されたコンテナリング11を、供給された加圧流体Fによって下方移動させて各セクタモールド15cの上面に上側サイドモールド15aを押圧しつつ、各セクタモールド15c環状に組み付けつけて閉型する。
【選択図】
図6