特許第6809589号(P6809589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6809589
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ジフルオロエチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/358 20060101AFI20201221BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C07C17/358
   C07C21/18
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-194916(P2019-194916)
(22)【出願日】2019年10月28日
【審査請求日】2020年10月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高桑 達哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 治
(72)【発明者】
【氏名】加留部 大輔
【審査官】 奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−515118(JP,A)
【文献】 米国特許第5051536(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第108299153(CN,A)
【文献】 CRAIG, N. C. et al.,Thermodynamics of cis-trans isomerizations. The 1,2-difluoroethylenes,Journal of the American Chemical Society,1961年,Vol.83,pp.3047-3050
【文献】 WAMPLER, F. B.,The SO2(3B1) photosensitized isomerization of cis- and trans-1,2-difluoroethylene,International Journal of Chemical Kinetics,1976年,Vol.8,pp.511-517
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/358
C07C 21/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器に、トランス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(E))及び/又はシス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))を含む組成物を供給し、600℃以上の反応温度で、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う工程を含む、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法。
【請求項2】
前記異性化反応は、触媒不存在下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応器に、トランス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(E))及び/又はシス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))を含む組成物を供給し、触媒不存在下で、200℃以上の反応温度で、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う工程を含む、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法。
【請求項4】
前記異性化反応では、反応器に、HFO−1132(Z)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(E)を製造する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記異性化反応では、反応器に、HFO−1132(E)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(Z)を製造する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記異性化反応後、蒸留により、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)とに分離する工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記分離する工程の後、HFO−1132(Z)を前記異性化反応にリサイクルする工程を含み、再び、反応器に、HFO−1132(Z)、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(E)を製造する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記分離する工程の後、HFO−1132(E)を前記異性化反応にリサイクルする工程を含み、再び、反応器に、HFO−1132(E)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(Z)を製造する、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はジフルオロエチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、ヨウ素を触媒として用いHFO−1132(Z)を気相中で接触させることによりHFO−1132(E)に異性化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society,1961,vol.83,3047
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
効率的にHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
【0006】
項1.
反応器に、トランス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(E))及び/又はシス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))を含む組成物を供給し、600℃以上の反応温度で、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う工程を含む、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法。
【0007】
項2.
前記異性化反応は、触媒不存在下で行う、前記項1に記載の製造方法。
【0008】
項3.
反応器に、トランス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(E))及び/又はシス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))を含む組成物を供給し、触媒不存在下で、200℃以上の反応温度で、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う工程を含む、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法。
【0009】
項4.
前記異性化反応では、反応器に、HFO−1132(Z)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(E)を製造する、前記項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0010】
項5.
前記異性化反応では、反応器に、HFO−1132(E)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(Z)を製造する、前記項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0011】
項6.
前記異性化反応後、蒸留により、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)とに分離する工程を含む、前記項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【0012】
項7.
前記分離する工程の後、HFO−1132(Z)を前記異性化反応にリサイクルする工程を含み、再び、反応器に、HFO−1132(Z)、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(E)を製造する、前記項6に記載の製造方法。
【0013】
項8.
前記分離する工程の後、HFO−1132(E)を前記異性化反応にリサイクルする工程を含み、再び、反応器に、HFO−1132(E)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(Z)を製造する、前記項6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、効率的にHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示におけるHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法において、効率的にHFO−1132(Z)からHFO−1132(E)を生産する製造設備の概略図である。
図2】本開示におけるHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法において、効率的にHFO−1132(E)からHFO−1132(Z)を生産する製造設備の概略図である。
図3】本開示におけるHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法において、反応温度と、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)の平衡定数との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従来、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造において、HFO−1132(E)(沸点:−52℃)は、その沸点が、ジフルオロメタン(HFC−32)(沸点:−51.7℃)と近く、HFO−1132(Z)(沸点:−26℃)は、その沸点が、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)(沸点:−20.0℃)と近く、沸点差を利用して、蒸留により分離する方法では、膨大なエネルギーを必要としていた。
【0017】
そこで、本開示は、前記課題を解決する手段を提供することを課題とする。具体的には、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法において、熱反応により、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行い、両者の20℃以上の沸点差を利用して、蒸留を組み合わせることで、両者の分離に必要なトータルエネルギー消費量を下げて、より効率的にHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を得る方法を提供することを課題とする。
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った処、反応器に、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を供給し、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う時に、(a)600℃以上の反応温度で行う、或は(b)触媒不存在下で、200℃以上の反応温度で行う、異性化が可能であることを見出した。また異性化反応を行う工程と、所望の異性体を分離する工程とを組み合わせることによって、前記課題を解決できることを見出した。本開示はそれら知見に基づいて、更に検討を加えることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
【0019】
1.異性化反応
本開示の製造方法は、反応器に、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を供給し、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う時に、600℃以上の反応温度で行う、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法である(図1及び2)。
【0020】
本開示の製造方法は、また、反応器に、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を供給し、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う時に、触媒不存在下で、200℃以上の反応温度で行う、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法である(図1及び2)。
【0021】
本開示の製造方法は、好ましくは、前記異性化反応では、反応器に、HFO−1132(Z)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(E)を製造する。
【0022】
本開示の製造方法は、好ましくは、前記異性化反応では、反応器に、HFO−1132(E)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(Z)を製造する。
【0023】
本開示の製造方法では、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う。この異性化反応は、以下の反応式に従う。E−異性体はZ−異性体よりも熱力学的に安定性が低い為、この平衡はZ−異性体側に傾いている。
【0024】
【化1】
【0025】
本開示の製造方法では、異性化反応に供することにより、HFO−1132(E)又はHFO−1132(Z)の含有割合が変化した組成物が得られる。本開示の製造方法では、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応における平衡関係を利用することにより、いずれかの化合物の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。
【0026】
HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物
本開示の製造方法では、異性化の原料として用いられる、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物は、その他の成分を含んでも良い。その他の成分としては、上記異性化反応を著しく妨げない限り、特に限定されず、幅広く選択することができる。
【0027】
その他の成分の例として、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を得る過程で混入した不純物、及び生成した副生成物等が含まれる。混入した不純物には、原料に含まれる不純物等が含まれる。
【0028】
原料として用いられる、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を得る方法として、例えば、ハロゲン化エタンを脱ハロゲン化水素反応又は脱ハロゲン化反応に供することにより得る方法等が挙げられる。
【0029】
上記反応において用いられるハロゲン化エタンとしては、特に限定されず、幅広く選択できる。具体例として、以下のハロゲン化エタン等が挙げられる。これらのハロゲン化エタンは、冷媒、溶剤、発泡剤、噴射剤等の用途として広く使用されており、一般に入手可能である。
【0030】
1,1,2−トリフルオロエタン(CHFCHF:HFC−143)
1−ブロモ−1,2−ジフルオロエタン(CHFBrCHF)
1−クロロ−1,2−ジフルオロエタン(CHClFCHF)
1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエタン(CHClFCHClF)
1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCHF
1−クロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(CHClFCHF
本開示の製造方法では、特に、HFO−1132(E)の製造方法とする時、原料として、HFO−1132(Z)を使用することで、効果的に、HFO−1132(Z)からHFO−1132(E)への異性化反応を進めることができる。
【0031】
本開示の製造方法では、特に、HFO−1132(Z)の製造方法とする時、原料として、HFO−1132(E)を使用することで、効果的に、HFO−1132(E)からHFO−1132(Z)への異性化反応を進めることができる。
【0032】
本開示では、フルオロメタン類を含むガスを、熱分解を含む反応(前記フルオロメタン類の熱分解を伴う合成反応)に供することで、HFO−1132(E)を含むガス(ガス組成物)を得ることができる。
【0033】
前記フルオロメタン類を含むガスとして、好ましくは、クロロジフルオロメタン(CHClF:HCFC−22)、クロロフルオロメタン(CHClF:HCFC−31)、ジフルオロメタン(CH:HFC−32)及びフルオロメタン(CHF:HFC−41)からなる群から選択される少なくとも一種のフルオロメタン類である。
【0034】
本開示の製造方法では、異性化の原料として、HCFC−22、HCFC−31、HFC−32及びHFC−41からなる群から選択される少なくとも一種のフルオロメタン類を含むガスを、熱分解を含む反応(前記フルオロメタン類の熱分解を伴う合成反応)に供することで得られるガス(ガス組成物)を用いても良い。本開示の製造方法は、言い換えると、前記フルオロメタン類を含むガスを、熱分解を含む反応に供した後、得られるHFO−1132(E)を含むガス(ガス組成物)を精製する方法を包含する。
【0035】
前記フルオロメタン類を含むガスは、中でも、副生物の分離、精留等の工程数を減らせることや炭化水素系の副生物の生成を抑制する観点から、好ましくはHFC−32である。
【0036】
前記フルオロメタン類を含むガスは、好ましくは、水蒸気含有量が1体積%以下である。前記フルオロメタン類を含むガスは、水蒸気含有量が1体積%以下であるものを用いることで、得られるHFO−1132(E)を含むガス中のR1132(E)の選択率が向上する。前記フルオロメタン類を含むガスは、好ましくは、水蒸気を含有しないものであり、より好ましくは、実質的に前記フルオロメタン類のみから構成されるものである。
【0037】
本明細書において、「転化率」とは、目的化合物がHFO−1132(E)である時、反応器に供給されるフルオロメタン類のモル量に対する、反応器出口からの流出ガス(=前記熱分解を伴う合成反応後のガス)に含まれる、フルオロメタン類以外の化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0038】
また、前記「選択率」とは、目的化合物がHFO−1132(E)である時、反応器出口からの流出ガス(=前記熱分解を伴う合成反応後のガス)に含まれる、フルオロメタン類以外の化合物の合計モル量に対する当該流出ガスに含まれる目的化合物(HFO−1132(E))のモル量の割合(モル%)を意味する。
【0039】
前記フルオロメタン類を含むガスに対して、不活性ガスを希釈ガスとして用いて希釈して用いても良い。前記フルオロメタン類を含むガスは、フルオロメタン類の転化率、及びHFO−1132(E)の選択率の双方をよりも向上させることができる点で、好ましくは、窒素、アルゴン、ハイドロフルオロカーボン及び二酸化炭素からなる群から選択される少なくとも一種の不活性ガスの含有量が10体積%〜90体積%としても良い。
【0040】
前記ハイドロフルオロカーボンとして、例えば、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)及びペンタフルオロエタン(R125)からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0041】
前記熱分解を含む反応の加熱方法は、公知の方法を使用できる。前記熱分解を含む反応の反応温度は、フルオロメタン類の転化率、及びHFO−1132(E)の選択率の双方を向上させる点で、好ましくは、750℃〜1,050℃程度であり、より好ましくは、800℃〜900℃程度である。
【0042】
前記熱分解を含む反応の反応圧力は、フルオロメタン類の転化率、及びHFO−1132(E)の選択率の双方を向上させる点で、好ましくは、0MPaG〜0.6MPaG(ゲージ圧)程度であり、よりが好ましくは、0MPaG〜0.3MPaG(ゲージ圧)程度である。前記反応圧力の下限値は、例えば0.01MPaG、0.1MPaG等に設定することができる。
【0043】
前記熱分解を含む反応の反応時間は、フルオロメタン類の種類、反応温度、反応圧力等によって適宜設定することができる。前記反応時間は、フルオロメタン類の熱分解が促進されてHFO−1132(E)が効率よく得られる点、副反応が抑制され、且つフルオロメタン類の熱分解が促進されて生産性が良好となる点で、好ましくは、0.2秒〜3秒程度であり、より好ましくは、0.5秒〜1秒がより好ましい。
【0044】
前記熱分解を含む反応は、好ましくは、鉄含有量が10質量%以下の金属製反応容器を用いて行う。前記反応器は、例えば、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)、インコロイ(INCOLLOY)等をはじめとする腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。前記反応器の中でも、応器内壁へのコーキングの発生を抑制することもできる点で、より好ましくは、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)等の鉄含有量が10質量%以下の金属製反応容器を用いる。
【0045】
反応条件
本開示の製造方法では、反応器で、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う時に、つまり、HFO−1132(E)からHFO−1132(Z)への異性化反応、或は、HFO−1132(Z)からHFO−1132(E)への異性化反応では、副生成物の生成を抑制する観点から、600℃以上の反応温度で行う。
【0046】
前記反応温度を600℃以上に設定することで、異性化反応が速やかに進行させることができ、短い滞留時間で異性化の平衡転化率に達することが可能である。
【0047】
前記異性化反応は、600℃以上の反応温度で行う時に、好ましくは、触媒不存在下で行う。
【0048】
本開示の製造方法では、反応器で、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う時に、副生成物の生成を抑制する観点から、触媒不存在下で、200℃以上の反応温度で行う。
【0049】
本開示の製造方法では、異性化反応を600℃以上の反応温度で行う場合や、触媒不存在下で、200℃以上の反応温度で行う場合、前記異性化反応の反応温度の上限は、HFO−1132(E)又はHFO−1132(Z)の収率を上げると共に、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)の分解を抑え、他の化合物に転化されることを防ぐという点で、好ましくは900℃程度である。
【0050】
本開示の製造方法では、異性化反応の反応時間(滞留時間)は特に限定されず、適宜設定することができる。前記異性化反応は、広範な滞留時間に亘って行うことができ、好ましくは、滞留時間は、約0.1秒〜から約600秒、より好ましくは約0.2秒〜約60秒の範囲であり、より好ましくは約0.4秒〜約10秒の範囲である。
【0051】
本開示の製造方法では、異性化反応の反応器の圧力は特に限定されず、適宜設定することができる。反応圧力が高いとタール等の重合物の生成が促進される為、適当な圧力を設定することができる。通常は常圧〜0.2MPaG程度の範囲とし、好ましくは常圧〜0.1MPaG程度の範囲とすれば良い。本開示の製造方法では、圧力は、より好ましくは0.005MPaG〜0.05MPaG程度の範囲である。本開示の製造方法では、圧力については表記が無い場合はゲージ圧とする(ゲージ圧p:MPaG)。
【0052】
気相連続流通式
本開示の製造方法では、異性化反応を、好ましくは気相で行う。異性化反応を行う反応器として、管型反応器を用いた気相連続流通式で行うことが好ましい。気相連続流通式で行う場合は、装置、操作等を簡略化できることから、経済的に有利である。流通式で反応を行う場合には、例えば、反応器に異性化の原料として用いられる、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を供給し、ヒーター若しくは冷却器にて適切な反応温度に設定し、一定時間反応することが好ましい。
【0053】
本開示の製造方法では、異性化反応する工程は、流通式の反応容器で行うことにより、効率的にHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を得ることができる。異性化反応は、反応器に原料を連続的に仕込み、その反応器から目的化合物を連続的に抜き出す流通式によっても実施することができる。
【0054】
本開示の製造方法では、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間で異性化反応を実施する場合、異性化反応を行った後でE体とZ体とを分離する必要がある為、連続式反応装置を使用することによって、分離工程も連続化することができ、生産設備の効率化を図ることができる。例えば、分離工程で、蒸留塔を使用することで、図1図2で表す連続式反応装置を用いて、連続的に反応・分離を実施することが可能である。
【0055】
本開示の製造方法では、異性化反応を、希釈ガス存在下で行うことが好ましい。希釈ガスとしては、酸素、Nガス、ヘリウムガス、HFガス、アルゴンガス等を用いることができ、特にコストの点で、Nガスが好ましい。
【0056】
希釈ガス存在下で異性化反応を行う為には、反応器に希釈ガスを供給することが良い。供給量は、適宜設定することができる。HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)の合計量に対して、希釈ガスのモル比は、好ましくは0.01〜3.0となるように、より好ましくは0.1〜2.0となるように、更に好ましくは0.2〜1.0となるように供給することが良い。
【0057】
反応器出口ガスには、目的物であるHFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)の他に、副生成物としてHFO−1132aが含まれ得る。反応器出口ガスには、更に、未反応のHFC−143、及び/又は原料の転移反応により生成したHFC−143aが含まれ得る。
【0058】
触媒不存在下
本開示の製造方法では、反応器で、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を行う時に、好ましくは、触媒不存在下(触媒を使用せずに)行う。異性化反応を、触媒不存在下で行うことで、副生成物の生成を抑制することが可能である。本開示の製造方法は、触媒を必須としないことで、経済的に有利な、つまり、経済的なコストを低く抑えることが可能な、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法である。
【0059】
2.分離する工程
本開示の製造方法では、前記異性化反応後、蒸留により、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)とに分離する工程を含む、ことが好ましい。
【0060】
HFO−1132(E)(トランス体)の沸点は−52℃であり、HFO−1132(Z)(シス体)の沸点は−26℃である。本開示の製造方法では、特に、HFO−1132(Z)からHFO−1132(E)を製造する時、HFO−1132(E)(沸点:−52℃)は、HFO−1132(Z)(沸点:−26℃)や、副生成物であるHFC−134(沸点:−20.0℃)と、その沸点の差を利用して、効率的に蒸留により分離することができる。この操作により、HFO−1132(E)を連続的に効率良く生産することが可能となる。
【0061】
本開示の製造方法では、特に、HFO−1132(E)からHFO−1132(Z)を製造する時、HFO−1132(Z)(沸点:−26℃)は、HFO−1132(E)(沸点:−52℃)や、副生成物であるHFC−32(沸点:−51.7℃)と、その沸点の差を利用して、効率的に蒸留により分離することができる。この操作により、HFO−1132(Z)を連続的に効率良く生産することが可能となる。
【0062】
3.リサイクルする工程
本開示の製造方法では、HFO−1132(E)又はHFO−1132(Z)のいずれかの含有割合がより高められた組成物を回収する為に、前記分離する工程で得られた、HFO−1132(E)を主成分とするストリーム、又は、HFO−1132(Z)を主成分とするストリームとを、前記異性化反応にリサイクルすることができる。
【0063】
本開示の製造方法では、好ましくは、前記分離する工程の後、HFO−1132(Z)を前記異性化反応にリサイクルする工程を含み、再び、反応器に、HFO−1132(Z)、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(E)を製造する。
【0064】
この様に、HFO−1132(Z)をリサイクルして用いることで、リサイクル後の異性化反応において、HFO−1132(E)の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。
【0065】
また、本開示の製造方法では、好ましくは、前記分離する工程の後、HFO−1132(E)を前記異性化反応にリサイクルする工程を含み、再び、反応器に、HFO−1132(E)を、又は、HFO−1132(E)及びHFO−1132(Z)を含む組成物を、供給し、HFO−1132(Z)を製造する。
【0066】
この様に、HFO−1132(E)をリサイクルして用いることで、リサイクル後の異性化反応において、HFO−1132(Z)の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。
【0067】
4.異性化反応と蒸留による分離とを同時進行する工程
本開示の製造方法では、前記異性化反応と、蒸留によりHFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との分離とを同時に実施する(反応蒸留)ことも可能である。本開示の製造方法では、HFO−1132(Z)とHFO−1132(E)との異性化反応を実施する場合、気相連続式反応装置を使用することによって、蒸留塔で、異性化反応を行いつつ、効率良く蒸留によって、HFO−1132(E)又はHFO−1132(Z)を連続的に得ることができ、設備も経済的である。
【0068】
5.好ましい製造方法
好ましいHFO−1132(E)の製造方法(図1
本開示の製造方法では、特に、HFO−1132(Z)からHFO−1132(E)を製造する時、HFO−1132(E)(沸点:−52℃)は、HFO−1132(Z)(沸点:−26℃)や、副生成物であるHFC−134(沸点:−20.0℃)と、その沸点の差を利用して、効率的に蒸留により分離することができる。この操作により、HFO−1132(E)を連続的に効率良く生産することが可能となる。
【0069】
図1に、本開示の製造方法で、特に、HFO−1132(E)の製造方法とする時、原料として、HFO−1132(Z)を使用することで、効果的に、連続的にHFO−1132(Z)からHFO−1132(E)への異性化反応を進め、HFO−1132(E)を生産する製造設備の概略を示す。
【0070】
原料にHFO−1132(Z)を使用し、HFO−1132(Z)からHFO−1132(E)への異性化反応を行う(図1の1、2及び3)。なお、前記原料には、HFO−1132(Z)の他に、HFC−134が含まれていても良い。次に、HFO−1132(Z)とHFO−1132(E)とを分離し、熱回収する(図1の4)。次に、熱回収後の反応器出口ガスを、冷却して液化させた後、蒸留により、HFO−1132(E)を主成分とするストリームと、HFO−1132(Z)を主成分とするストリームとに分離する(図1の5、6及び7)。これら操作を行うことで、目的化合物としてHFO−1132(E)を連続的に生産することが可能となる(図1の6)。
【0071】
次に、HFO−1132(Z)を前記異性化反応にリサイクルして、再び異性化反応に供する工程を含み、HFO−1132(E)を製造する(図1の8及び9)。この様にリサイクル処理を行い、リサイクル後の異性化反応において、HFO−1132(E)の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。これら操作を行うことで、HFO−1132(E)を連続的に生産することが可能となる。
【0072】
HFO−1132(Z)を主成分とするストリームに、HFC−134が含まれる時、別途蒸留等により、HFC−134を分離する(図1の10)。
【0073】
好ましいHFO−1132(Z)の製造方法(図2
本開示の製造方法では、特に、HFO−1132(E)からHFO−1132(Z)を製造する時、HFO−1132(Z)(沸点:−26℃)は、HFO−1132(E)(沸点:−52℃)や、副生成物であるHFC−32(沸点:−51.7℃)と、その沸点の差を利用して、効率的に蒸留により分離することができる。この操作により、HFO−1132(Z)を連続的に効率良く生産することが可能となる。
【0074】
図2に、本開示の製造方法で、特に、HFO−1132(Z)の製造方法とする時、原料として、HFO−1132(E)を使用することで、効果的に、連続的にHFO−1132(E)からHFO−1132(Z)への異性化反応を進め、HFO−1132(Z)を生産する製造設備の概略を示す。
【0075】
原料にHFO−1132(E)を使用し、HFO−1132(E)からHFO−1132(Z)への異性化反応を行う(図2の1、2及び3)。なお、前記原料には、HFO−1132(E)の他に、HFC−32が含まれていても良い。次に、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)とを分離し、熱回収する(図2の4)。次に、熱回収後の反応器出口ガスを、冷却して液化させた後、蒸留により、HFO−1132(Z)を主成分とするストリームと、HFO−1132(E)を主成分とするストリームとに分離する(図2の5、6及び7)。これら操作を行うことで、目的化合物としてHFO−1132(Z)を連続的に生産することが可能となる(図2の6)。
【0076】
次に、HFO−1132(E)を前記異性化反応にリサイクルして、再び異性化反応に供する工程を含み、HFO−1132(Z)を製造する(図2の8及び9)。この様にリサイクル処理を行い、リサイクル後の異性化反応において、HFO−1132(Z)の含有割合がより高められた組成物を得ることができる。これら操作を行うことで、HFO−1132(Z)を連続的に生産することが可能となる。
【0077】
HFO−1132(E)を主成分とするストリームに、HFC−32が含まれる時、別途蒸留等により、HFC−32を分離する(図2の10)。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0079】
実施例1
HFO−1132(E)の製造方法(図1
図1の通り、効率的にHFO−1132(Z)からHFO−1132(E)を生産した。実施例1の製造方法では、HFO−1132(Z)から、触媒を用いず、反応温度750℃の異性化反応により、HFO−1132(E)を製造する時、HFO−1132(E)(沸点:−52℃)は、HFO−1132(Z)(沸点:−26℃)や、副生成物であるHFC−134(沸点:−20.0℃)と、その沸点の差を利用して、通常の蒸留により効率的に分離し、HFO−1132(E)を連続的に効率良く生産した。
【0080】
以下、図1を使って、詳しく説明する。
【0081】
原料として、HFO−1132(Z)の他に、HFC−134を含む組成物を使用した。原料として、当該HFO−1132(Z)を含む組成物を使用し、HFO−1132(Z)からHFO−1132(E)への異性化反応を行った(図1の1、2及び3)。次に、HFO−1132(Z)とHFO−1132(E)とを分離し、熱回収した(図1の4)。次に、熱回収後の反応器出口ガスを、冷却して液化させた後、蒸留により、HFO−1132(E)を主成分とするストリームと、HFO−1132(Z)を主成分とするストリームとに分離した(図1の5、6及び7)。これら操作を行うことで、目的化合物としてHFO−1132(E)を連続的に生産した(図1の6)。
【0082】
次に、HFO−1132(Z)を前記異性化反応にリサイクルして、再び異性化反応に供することで、HFO−1132(E)を製造した(図1の8及び9)。この様にリサイクル処理を行い、リサイクル後の異性化反応において、HFO−1132(E)の含有割合がより高められた組成物を得た。これら操作を行うことで、HFO−1132(E)を連続的に生産した。
【0083】
また、HFO−1132(Z)を主成分とするストリームに、HFC−134が含まれるので、別途蒸留により、HFC−134を分離した(図1の10)。
【0084】
表1に、図1の各ライン1〜10における、HFO−1132(E)(目的化合物)、HFO−1132(Z)、及びHFC−134の組成比を表す。
【0085】
【表1】
【0086】
本開示の製造方法のうち、HFO−1132(E)の製造方法とする時、原料として、HFO−1132(Z)を使用することで、効果的に、連続的にHFO−1132(Z)からHFO−1132(E)を生産することができた。
【0087】
実施例2
HFO−1132(Z)の製造方法(図2
図2の通り、効率的にHFO−1132(E)からHFO−1132(Z)を生産した。実施例1の製造方法では、HFO−1132(E)から、触媒を用いず、反応温度800℃の異性化反応により、HFO−1132(Z)を製造する時、HFO−1132(Z)(沸点:−26℃)は、HFO−1132(E)(沸点:−52℃)や、副生成物であるHFC−32(沸点:−51.7℃)と、その沸点の差を利用して、通常の蒸留により効率的に分離し、HFO−1132(Z)を連続的に効率良く生産した。
【0088】
以下、図2を使って、詳しく説明する。
【0089】
原料として、HFO−1132(E)の他に、HFC−32を含む組成物を使用した。原料として、当該HFO−1132(E)を含む組成物を使用し、HFO−1132(E)からHFO−1132(Z)への異性化反応を行った(図2の1、2及び3)。次に、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)とを分離し、熱回収した(図2の4)。次に、熱回収後の反応器出口ガスを、冷却して液化させた後、蒸留により、HFO−1132(Z)を主成分とするストリームと、HFO−1132(E)(HFC−32を含む)を主成分とするストリームとに分離した(図2の5、6及び7)。これら操作を行うことで、目的化合物としてHFO−1132(Z)を連続的に生産した(図2の6)。
【0090】
次に、HFO−1132(E)を前記異性化反応にリサイクルして、再び異性化反応に供することで、HFO−1132(Z)を製造した(図2の8及び9)。この様にリサイクル処理を行い、リサイクル後の異性化反応において、HFO−1132(Z)の含有割合がより高められた組成物を得た。これら操作を行うことで、HFO−1132(Z)を連続的に生産した。
【0091】
また、HFO−1132(E)を主成分とするストリームに、HFC−32が含まれる時、別途蒸留により、HFC−32を分離した(図2の10)。
【0092】
表2に、図2の各ライン1〜10における、HFO−1132(E)、HFO−1132(Z)(目的化合物)、及びHFC−32の組成比を表す。
【0093】
【表2】
【0094】
本開示の製造方法のうち、HFO−1132(Z)の製造方法とする時、原料として、HFO−1132(E)を使用することで、効果的に、連続的にHFO−1132(E)からHFO−1132(Z)を生産することができた。
【0095】
表3に、反応温度に対し、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)と間の平衡定数の関係を表した。表3の値を、図3のグラフに表した。
【0096】
【表3】
【0097】
実施例3
HFO−1132(Z)の製造方法
表4に、反応温度と、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との平衡比の関係を表した。異性化反応では、反応器に、HFO−1132(E)を供給し、異性化反応を行い、HFO−1132(Z)を製造する時は、触媒を用いず、特に600℃〜900℃程度の反応温度で、HFO−1132(Z)の存在比が大きく成り、良好に異性化反応を進めることができた。
【0098】
【表4】
【0099】
実施例4
HFO−1132(E)の製造方法
表5に、反応温度と、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との平衡比の関係を表した。異性化反応では、反応器に、HFO−1132(Z)を供給し、異性化反応を行い、HFO−1132(E)を製造する時は、特に触媒を用いず600℃〜900℃程度の反応温度で、HFO−1132(E)の存在比が大きく成り、良好に異性化反応を進めることができた。
【0100】
【表5】
【要約】      (修正有)
【課題】効率的にHFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を得る方法の提供。
【解決手段】反応器に、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)を含む組成物を供給し、HFO−1132(E)とHFO−1132(Z)との間の異性化反応を触媒不存在下で行う工程を含む、HFO−1132(E)及び/又はHFO−1132(Z)の製造方法。
【選択図】図1
図1
図2
図3