特許第6809590号(P6809590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6809590
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】衛生用品
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/08 20060101AFI20201221BHJP
   A47K 10/42 20060101ALI20201221BHJP
   A47K 10/20 20060101ALI20201221BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20201221BHJP
   C09D 125/04 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B65D83/08 A
   A47K10/42 A
   A47K10/20 A
   C09D133/00
   C09D125/04
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-195456(P2019-195456)
(22)【出願日】2019年10月28日
【審査請求日】2019年11月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】清水 遥絵
【審査官】 種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−030513(JP,A)
【文献】 特開2009−083866(JP,A)
【文献】 特開2002−275788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/08
A47K 10/20
A47K 10/42
C09D 125/04
C09D 133/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液が塗布されたティシュペーパの折り重ねられたシート群が箱に収容された衛生用品であって、
前記箱の底壁部,天壁部及び四方の立壁部のうちの少なくとも前記底壁部の外表面の少なくとも一部に、前記ティシュペーパの前記薬液が前記箱の外面から外部に漏出することを防止又は抑制するための塗材が塗布されており、
前記塗材は、第1塗材と前記第1塗材上に塗布された第2塗材との二層からなり、
前記第2塗材は、熱硬化性樹脂のコート剤である
ことを特徴とする衛生用品。
【請求項2】
前記箱の前記底壁部及び四方の前記立壁部の外表面の少なくとも一部に前記塗材が塗布されている
ことを特徴とする請求項1に記載された衛生用品。
【請求項3】
前記第1塗材はアクリル系又はスチレン系の塗材である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された衛生用品。
【請求項4】
前記コート剤はアクリル系樹脂である
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載された衛生用品。
【請求項5】
前記コート剤は、プレスコートにより形成されている
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載された衛生用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート群が箱に収容された衛生用品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、箱入りのティシュペーパのように、シートの折り重ねられたシート群(シート束)が箱に収容され、その箱の取出口からポップアップ方式でシートが取り出される衛生用品が知られている。このような衛生用品の中に、保湿ティシュペーパのように、シートが薬液を含んでいるものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−39308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、保湿ティシュペーパの保湿成分(保湿用薬液)のように、シートに含まれている薬液は、時間の経過とともにシートの外部に放出されていき、薬液の含有量が減少して薬液の効果が低下する。保湿ティシュペーパの場合、ティシュペーパの保湿成分が減少して保湿性が低下する。衛生用品の箱は、一般に紙製であるため、保湿成分等の薬液が箱に移行し、さらに箱の表面(外表面)まで移行して、外気中に漏出する。この結果、シートの薬液含有量の減少が促進され、薬液の効果の低下も進んでしまう。
したがって、こうした衛生用品の商品性を向上させるうえで、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような課題に着目して創案されたもので、シートに含まれている薬液の減少を抑制し、長期にわたって薬液の効果を得ることができるようにした衛生用品を提供することを目的の一つとする。なお、本目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用および効果であって、従来の技術では得られない作用および効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、シートに含まれている薬液の減少は、シートを収容する箱から外部に薬液が漏出することが大きな要因であり、箱から外部への薬液の漏出を抑制することで、シートに含まれている薬液の減少を抑制し、長期にわたって薬液の効果を得ることができるとの知見を得て、本発明を創案した。
【0007】
本発明の衛生用品は、薬液が塗布されたティシュペーパの折り重ねられたシート群が箱に収容された衛生用品であって、前記箱の底壁部,天壁部及び四方の立壁部のうちの少なくとも前記底壁部の外表面の少なくとも一部に、前記ティシュペーパの前記薬液が前記箱の外面から外部に漏出することを防止又は抑制するための塗材が塗布されており、前記塗材は、第1塗材と前記第1塗材上に塗布された第2塗材との二層からなり、前記第2塗材は、熱硬化性樹脂のコート剤であることを特徴としている。
【0008】
前記箱の前記底壁部及び四方の前記立壁部の外表面の少なくとも一部に前記塗材が塗布されていることが好ましい。
前記第1塗材はアクリル系又はスチレン系の塗材であることが好ましい
記コート剤はアクリル系樹脂であることが好ましい。
前記コート剤は、プレスコートにより形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本件の衛生用品によれば、シートに含まれている薬液の減少を抑制し、長期にわたって薬液の効果を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態にかかる箱入りのティシュペーパ(衛生用品)の構成を模式的に示す斜視図である。
図2】一実施形態にかかるティシュペーパが折り重ねられた状態を説明する斜視図である。
図3】一実施形態にかかる箱入りのティシュペーパの製造工程の一部を示す斜視図である。
図4】一実施形態にかかる箱入りのティシュペーパのシート収容工程を示す縦断面図である。
図5】一実施形態にかかる箱入りのティシュペーパの箱の表面の塗材の塗布状態を説明する図であり、(a)はその斜視図、(b)はその横断面図〔図5(a)のA−A矢視断面図〕である。
図6】一実施形態にかかる箱入りのティシュペーパにおいて箱の内面の平滑度が規定されていることによる効果を説明する縦断面図であって、(a1)〜(a3)は実施形態にかかるものであり、(b1)〜(b3)は比較例にかかるものである。
図7】一実施形態にかかる箱入りのティシュペーパにおいて箱の表面の塗材が塗布されていることによる効果を説明する縦断面図であって、(a)は実施形態にかかるものであり、(b)は比較例にかかるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態としての衛生用品を説明する。
本衛生用品では、シート群が箱に収容されている。このシート群は折り重ねられた複数のシートから構成され、これらのシートが箱の取出口からポップアップ方式で取り出される。
上記の衛生用品としては、箱入りのティシュペーパをはじめ、箱入りのキッチンペーパあるいはトイレットペーパといった紙製のシートが箱に収容された衛生用の物品が挙げられる。下記の一実施形態では、箱入りのティシュペーパ(以下「箱ティシュ」と略称する)を衛生用品の例に挙げる。
【0012】
[I.一実施形態]
[1.基本的な構成]
はじめに、図1を参照して、箱ティシュ1の基本的な構成を説明する。
箱ティシュ1には、複数のティシュペーパ(シート)10が折り重ねられた状態で箱20に収容されている。
【0013】
箱20は、高さ方向に対面する天壁部21および底壁部22とこれらの壁部21,22の高さ方向に連設される2つの側壁部23,24及び2つの端壁部25,26とが設けられた直方体状をなしている。この箱20には、ティシュペーパ10の取出口Aが天壁部21に設けられている。
【0014】
なお、側壁部23,24は箱20の長手方向に延びる立壁部であり、端壁部25,26は箱20の長手方向端部の立壁部である。端壁部25,26は,天壁部21,底壁部22及び側壁部23,24から連設された各フラップを重ね合わせて貼り合わせることによって形成される。
【0015】
ティシュペーパ10は、箱20の取出口Aからポップアップ方式で取り出される。このため、箱20に収容されたティシュペーパ10は、ポップアップ方式で順繰りに取り出されるように複数が折り重ねられている。具体的には、上下に隣接するティシュペーパ10どうしが互いに折り重ねられている。
【0016】
以下、図2を参照して、複数のティシュペーパ10が折り重ねられた状態を説明する。ここでは、上下に隣接する三つのティシュペーパ10について、下記のティシュペーパ10A,10B,10Cを例に挙げる。
・上ティシュペーパ10A:上側のティシュペーパ10
・中ティシュペーパ10B:真ん中のティシュペーパ10
・下ティシュペーパ10C:下側のティシュペーパ10
【0017】
ティシュペーパ10A,10B,10Cのそれぞれは、折曲線Lで二つ折りにされている。上下に隣接するティシュペーパ10A,10B,10Cの折曲線Lは、互いに反対側に配置されている。図2では、上ティシュペーパ10Aの折曲線Lおよび下ティシュペーパ10Cの折曲線Lが右下側に配置され、中ティシュペーパ10Bの折曲線Lが左上側に配置された例を示す。
【0018】
また、ティシュペーパ10A,10B,10Cのそれぞれは、折曲線Lに対して上側の面部(以下「上面部」と称する)11A,11B,11Cと、折曲線Lに対して下側の面部(以下「下面部」と称する)12A,12B,12Cと、に大別される。
さらに、上ティシュペーパ10Aの下面部12Aは、中ティシュペーパ10Bの上面部11Bよりも下側であって、下ティシュペーパ10Cの上面部11Cよりも上側に重ね合わせられている。このように上下に隣接するティシュペーパ10A,10Bの面部11B,12Aどうしが引っ掛かるように重ね合わせられることにより、引き出された上ティシュペーパ10Aの下面部12Aによって中ティシュペーパ10Bの上面部11Bも引き出される。
【0019】
このティシュペーパ10は、薄膜状の枚葉紙(以下「プライ」と称する)が複数枚重ね合わせられて一組のシートをなす。ここでは、二枚のプライで一組(いわゆる2プライ)のティシュペーパ10を例示する。
このように二枚のプライが重ね合わせられた一組のティシュペーパ10が一枚のシートをなし、図1に示すように、箱20に収容される複数組のティシュペーパ10(すなわち複数枚のシート)がシート群100をなしている。複数組のティシュペーパ10は層状の束に集合しているので、このシート群をシート束(或いは、ティシュ束)100という。
【0020】
箱ティシュ1を構成するティシュペーパ10は、以下に例示する各工程を順次実施することによって製造される。なお、本実施形態のティシュペーパ10は、保湿剤や柔軟剤等の薬液(保湿用薬液)を含浸させた、いわゆる保湿ティシュペーパである。保湿ティシュペーパの場合には、製造工程に以下の薬液塗布工程を含むが、薬液を含浸させない通常のティシュペーパ(非保湿ティシュペーパ)の場合には、製造工程に薬液塗布工程は含まない。
・抄紙工程:パルプ繊維の懸濁したスラリーから原紙を抄造する工程
・薬液塗布工程:抄造された原紙に対して保湿剤や柔軟剤等の薬液を塗布する工程
・積層工程:薬液が塗布された原紙どうしを重ね合わせる工程
・折畳工程:原紙の重ね合わせられた原紙組を折り畳んで重ね合わせる工程
なお、通常は上記の各工程により折曲線Lの延びる方向(長手方向)にシート束100が複数組分の長さを有する大きなシート束が製造され、これを長手方向の切断し分割して1つの箱ティシュ1を構成するシート束100が形成される。
【0021】
箱ティシュ1を構成する箱20は、所定の素材(原紙)を用いて、以下に例示する各工程を順次実施することによって製造される。
箱20の原紙には、坪量が250g/m以上且つ450g/m以下の範囲であって、厚みが300μm以上且つ600μm以下の範囲である紙材(例えばコートボール等)が用いられるが、本箱ティシュ1の箱20では、箱20の内面となる原紙の裏面が所定の平滑性を有しているものが適用されている。また、原紙は所定の形状に型取りされているものとする。
・印刷工程(第1塗材塗布工程):原紙の外面(外表面)に印刷を施す工程
・コーティング工程(第2塗材塗布工程):印刷された外面にコーティングを施す工程
・型抜き工程:所定の展開形状に型抜きするとともに折り曲げ罫線や取出口のミシン目を形成する工程
・窓貼り工程:取出口Aを塞ぐフィルムを貼り付ける工程
・胴貼り工程:胴周り部分の端部相互を糊付ける工程
【0022】
なお、胴周り部分とは、天壁部21,底壁部22及び側壁部23,24からなる筒状に形成される部分であり、胴周り部分の端部とは、通常底壁部22の一縁部及び側壁部23の一縁部である。
また、胴貼り工程を経て得られる箱20は、立体的に起立される前のシート状のものである。
【0023】
このようにして形成されたシート束100及び箱20は、箱20を立体的に起立させる起立工程と、シート束100を箱20内に収容させる工程(シート収容工程)と、箱20の端壁部25,26を構成する各フラップを貼り付けて封止する封止工程とからなる製箱工程を経て、箱ティシュ1が完成する。
【0024】
図3は箱ティシュ1の製造工程におけるこの製箱工程を示す斜視図であり、図3に示すように、コンベアC1,C2等が配備された搬送ラインL1,L2が隣接して平行に設けられ、箱20は搬送ラインL1に沿って、シート束100は搬送ラインL2に沿って、それぞれ搬送される。箱20もシート束100も搬送方向に同位置となるように、所定間隔で搬送ラインL1,L2上に供給され、搬送ラインL1,L2上を等速で同一方向に搬送される。
【0025】
製箱工程に供給される箱20は立体的に起立される前のシート状のものであり、起立工程P1では、このシート状の箱20が搬送ラインL1を搬送されながら側壁部23,24が底壁部22に対して垂直に起立されて立体化される。これにより、天壁部21,底壁部22及び側壁部23,24で囲まれて、シート束100を収容する直方体状の内部空間27が形成される。この時には、箱20の端壁部25,26を構成する各フラップはまだ折り曲げられず、端壁部25,26は開放状態にある。
【0026】
端壁部25,26を構成する各フラップは、図示しないフラップ閉動機構によって閉動されるが、シート束100を箱20の空間27内に収容させる際には、少なくともシート束100を空間27内に差し入れる側の端壁部26は開放状態とする。図3に示す例では、シート束100を空間27内に差し入れる側と反対側の端壁部25は、一部のフラップが閉鎖側に折り曲げられている。
【0027】
シート収容工程P2では、シート束100が、箱20の端壁部26側の開口から、押し棒31によって空間27内に押し込まれる。図4はこのシート束100が空間27内に押し込まれる状況を順次示す縦断面図であり、搬送ラインL1,L2の基面の高さは、同一又はほぼ同一に設定されている。シート束100は、図4(a)〜(c)に示すように、押し棒31によって押されて、搬送ラインL1,L2を搬送される方向と直交する方向にスライドしながら隣接する箱20の空間27内に押し込まれる。
【0028】
なお、箱20の内側における高さ寸法である内寸h1と、シート束100の高さ寸法である外寸h2との比である寸法比(外寸/内寸)が、0.85よりも大きく1.00よりも小さく設定されている。したがって、シート収容工程P2において、箱20の内部へのシート束100の収容を、シート束100の上面を箱20の天壁部21の内面20Aに接触させることなく行える。また、箱20の内部において、シート束100の上方に微小な隙間が生じる(図5(b)参照)。
【0029】
次の封止工程P3では、端壁部25,26を構成する各フラップが図示しないフラップ閉動機構によって順次閉動される。このとき、所要のフラップの表面部分には図示しない接着剤供給装置から接着剤が供給され、この接着剤によって互いに重合するフラップの面どうしが接着され開口が封止されて、端壁部25,26が形成される。
以下、箱ティシュ1において特徴がある箱20について、さらに詳しく説明する。
【0030】
[2.原紙の裏面(箱20の内面20A)の平滑性]
箱20を製造する原紙の裏面(すなわち、箱20の内面20A)の平滑性については、平滑性を数値で表した平滑度が用いられ、箱20の内面20Aの少なくとも一部の平滑度が、予め設定された平滑性の下限である基準値と同等又はより平滑性の高い値であるものとされている。
【0031】
紙の表面の平滑性を評価する平滑度には、スムースター平滑度,ベック平滑度,王研式平滑度など種々のものがあり、いずれの平滑度も使用可能であるが、本実施形態では、平滑度に、スムースター平滑度(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法の規格No.5−1)を用いている。
【0032】
本実施形態にかかるスムースター平滑度の値は、以下のJIS P8110,P8111,P8117の規格にしたがって、試験用紙の採取し、標準状態を設定し、試験を実施して、さらに、試験で得られたデータを、以下のJIS Z8401,Z9041−1の規格にしたがって処理することで取得している。
・JIS P8110(紙及び板紙−平均品質を測定するためのサンプリング方法)
・JIS P8111(紙,板紙及びパルプ−調湿及び試験のための標準状態)
・JIS P8117(紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレー法)
・JIS Z8401(数値の丸め方)
・JIS Z9041−1(データの統計的な解釈方法−第1部:データの統計的記述)
【0033】
スムースター平滑度は、平滑度測定ヘッドに試験用紙を装着し、平滑度測定ヘッドを規定の条件で吸引減圧した時の圧力値(単位はkPa、あるいはmmHg又はTorr)であって、平滑性が高いほど減圧されるため値が小さくなる。このため、上記の平滑性の下限である基準値は、スムースター平滑度の値としては上限値となる。そこで、本実施形態では、箱20の内面20Aの少なくとも一部のスムースター平滑度が、この上限値以下とされている。
【0034】
なお、ベック平滑度や王研式平滑度は、通常、空気が紙面の凹凸に応じた間隙を通り抜ける時間数(秒数)であり、凹凸間隙が小さいほど、つまり、平滑性が高いほど、時間がかかる。このため、平滑性の下限である基準値は、ベック平滑度の値や王研式平滑度の値では、下限値となる。そこで、ベック平滑度を採用する場合は、箱20の内面20Aの少なくとも一部のベック平滑度が、この下限値以上とされ、王研式平滑度を採用する場合は、箱20の内面20Aの少なくとも一部の王研式平滑度が、この下限値以上とされる。
【0035】
スムースター平滑度の上限値の設定は、シート束100を箱20に収容させるシート収容工程では、箱20の内部空間に、箱20の一端の開口からシート束100をスライドさせて挿入して収容させる際に、シート束100が箱20の内面20Aに対して滑らかに滑りながら移動するようにするためのものである。
【0036】
つまり、箱20の内面20Aのスムースター平滑度を低くすれば(平滑性を高くすれば)、シート束100が箱20の内面20Aに対して滑らかに滑りながら箱20の内部空間に収容されるため、シート束100のティシュペーパ10に折れや撚れが発生し難く、ティシュペーパ10が箱20の内面20Aに擦れることで生じる紙粉の発生も少なくなる。このような観点からは、箱20の内面20Aのスムースター平滑度が低いほど(平滑性が高いほど)有効であるが、内面20Aのスムースター平滑度を低くしようとすると製造コストが増大するので、所要の効果を得られる平滑性の下限基準値として、スムースター平滑度の上限値を設定している。
【0037】
ティシュペーパ10の折れや撚れの発生や、ティシュペーパ10が擦れることで生じる紙粉の発生は、ティシュペーパ10の特性にも依存する。つまり、シート束100が滑り易ければ、箱20の内面20Aのスムースター平滑度が比較的高くてもティシュペーパ10の折れや撚れの発生や紙粉の発生は少なく、箱20の内面20Aのスムースター平滑度の上限値は比較的大きな値でもよい。しかし、シート束100が滑り難ければ、箱20の内面20Aのスムースター平滑度が低くなければティシュペーパ10の折れや撚れの発生や紙粉の発生は多くなり、箱20の内面20Aのスムースター平滑度の上限値は比較的小さな値としなくてはならない。
【0038】
保湿ティシュの場合、非保湿ティシュの場合よりもシート束100が滑り難い。そこで、このスムースター平滑度の上限値は、保湿ティシュを収容する場合の方が非保湿ティシュを収容する場合よりも低く設定される。つまり、保湿ティシュを収容する場合の方が非保湿ティシュを収容する場合よりも平滑性が高く設定される。
【0039】
本実施形態では、保湿ティシュの場合の箱20の内面20Aの全てのスムースター平滑度の上限値を20kPaに(つまり、内面20Aのスムースター平滑度を20kPa以下に)設定している。なお、非保湿ティシュの場合のスムースター平滑度の上限値を30kPaに(つまり、内面20Aのスムースター平滑度を30kPa以下に)設定する。
【0040】
なお、箱20の内面20Aとなる原紙の裏面のスムースター平滑度を低くする(すなわち、平滑性を高める)手法には、裏面でも平滑性が高い抄造方法を選択したり、填料を用いたり、カレンダリング(塗工)を行ったりするなど、公知の技術を採用できる。もちろん、スムースター平滑度の上限値が比較的高い場合には、スムースター平滑度を低くするための特別な処理が不要の場合もある。
【0041】
[3.原紙の表面(箱20の外面20B)の構造]
上記のように、印刷工程(第1塗材塗布工程)及びコーティング工程(第2塗材塗布工程)において、原紙の表面に第1塗材としてのインキが塗布され、さらに、原紙の表面に第2塗材としてのコート剤が塗布される。インキとしては、アクリル系又はスチレン系のインキが用いられる。コート剤としては、熱硬化性樹脂であるアクリル系樹脂が用いられている。これにより、図5(a),(b)に示すように、箱20の外面20Bには、アクリル系又はスチレン系のインキからなる第1塗材層28とアクリル系樹脂からなる第2塗材層29とが形成される。
【0042】
図5(a)に示すように、本実施形態では、第1塗材層28は文字を含むドット模様で示す箇所(箱20の外面20B全面)に形成されており、第2塗材層29は第1塗材層28に重合するように箱20の外面20B全面に形成されている。図5(a)において、ドット模様は第1塗材層28及び第2塗材層29が形成されている状態を示している。
【0043】
このように、塗材層28,29を設けているのは、保湿ティシュペーパ10に含まれている薬液が箱20の外面から外部に漏出することを防止又は抑制するためである。つまり、保湿ティシュペーパ10に含まれている薬液は、時間の経過とともに保湿ティシュペーパ10の外部に放出されていく。箱20に塗材層28,29が形成されていると、薬液が保湿ティシュペーパ10の外部に放出されても、塗材層28,29によって、保湿ティシュペーパ10の薬液が箱20から外部に漏出し難くなり箱20の内部に残存しているため、保湿ティシュペーパ10の薬液の外部への放出が抑えられる。
【0044】
なお、保湿ティシュペーパ10に含まれている薬液が箱20から外部に漏出することを防止又は抑制するためだけであれば、箱20の内面20Aに塗材層を形成してもよいが、塗材としてのインキは、箱20の外観にデザイン性を与えたり、文字情報を表示したりする機能があり、薬液の漏出防止以外の効果もある。また、塗材としてのコート剤も、箱20の外観を向上させたり、箱20を保護したりする機能もあり、薬液の漏出防止以外の効果もある。そこで、本箱ティシュ1では箱20の外面20Bに塗材層を形成している。
【0045】
[4.作用および効果]
本実施形態にかかる衛生用品としての箱ティシュ1は、上記のように構成されており、箱20の内面20Aの平滑性の設定、及び、箱20の外面20Bに塗材層28,29を形成した構造によって以下のような効果を得ることができる。
【0046】
[4.1.箱20の内面20Aの平滑性による作用および効果]
保湿ティシュの場合の箱20の内面20Aのスムースター平滑度を20kPa以下に設定しているので、保湿ティシュペーパ10の箱20内への挿入性が向上し、箱ティシュ1内の保湿ティシュペーパ10(シート)に折れや撚れの発生が抑制又は防止される効果や、箱20内に含まれる紙粉が少なくなる効果を得ることができる。
【0047】
図6はこの平滑性による作用および効果を説明するシート収容工程P2における箱20及びシート束100の縦断面図であり、図6(a1)〜(a3)は箱20の内面20Aのスムースター平滑度が基準値(20kPa)以下である本実施形態の場合を示し、図6(b1)〜(b3)は箱20の内面20Aのスムースター平滑度が基準値(20kPa)よりも大きい(平滑性が低い)比較例の場合を示す。
【0048】
図6(b1)〜(b3)に示すように、箱20の内面20Aのスムースター平滑度が基準値(20kPa)よりも大きく平滑性が低いと、シート束100が箱20の内部に進入するときに、シート束100の一部(この例では最下層の保湿ティシュペーパ10)が箱20の内面20A(この例では底壁部22の内面)と擦れて内面20Aから抵抗力を受けることによって変形し、保湿ティシュペーパ10に折れや撚れが発生する。
【0049】
これに対して、図6(a1)〜(a3)に示すように、箱20の内面20Aのスムースター平滑度が基準値(20kPa)以下であって平滑性が高いと、シート束100が箱20の内部に進入するときに、シート束100が箱20の内面20Aと擦れても内面20Aから受ける抵抗力が小さいため保湿ティシュペーパ10に変形が生じ難く、保湿ティシュペーパ10に折れや撚れが発生し難い。
【0050】
[4.2.箱20の外面20Bに塗材層28,29による作用および効果]
箱20の外面20Bには、アクリル系又はスチレン系のインキからなる第1塗材層28とアクリル系樹脂からなる第2塗材層29とが形成されるため、保湿ティシュペーパ10に含まれている薬液が箱20から外部に漏出することが防止又は抑制される。
【0051】
図7は塗材層28,29による薬液の外部への放出を抑制する効果を説明する箱ティシュ1の部分横断面図であって、図7(a)は箱20の外面20Bに塗材層28,29を備えた本実施形態の場合を示し、図7(b)は塗材層を備えない比較例の場合を示す。
保湿ティシュペーパ10に含まれている薬液が保湿ティシュペーパ10から放出されると、箱20の内面20Aに吸着され箱20の外面20Bへと移動する。
【0052】
図7(b)に示すように、箱20の外面20Bに塗材層を備えていない場合、薬液は、箱20の外面20Bから白矢印で示すように箱20の外部(箱20が接触している物体や外気中)へと漏出される。このため、箱20の内部の薬液は次第に減少していく。したがって、保湿ティシュペーパ10からの薬液の放出が進んで、保湿ティシュペーパ10の保湿性が低下してしまう。
【0053】
一方、図7(a)に示すように、箱20の外面20Bに塗材層28,29を備えている場合、箱20の外面20Bの塗材層28,29が薬液の外部への漏出を阻止するため、箱20の内部の薬液の減少は阻止又は抑制される。箱20の内部に薬液が保持されていると、保湿ティシュペーパ10からの薬液の放出が抑えられ、保湿ティシュペーパ10の保湿性が保持される。
【0054】
また、第2塗材層29であるコーティング層を熱硬化性樹脂で形成しているので、薬剤に対する耐性も強く、箱20外部への薬液の漏出阻止効果が長く継続する。このため、箱ティシュを長期保管しても、保湿ティシュペーパ10の保湿性が保持され、コーティングによる外観の向上も永続する利点がある。
【0055】
[II.その他]
以上、実施形態を説明したが、かかる実施形態は本件の衛生用品の一例であり、適宜変更しうるものである。
例えば、上記実施形態では、箱20の内面20Aの全てのスムースター平滑度を上限値(20kPa)以下に設定しており、シート束100が箱20の内面20Aの何れの部分と擦れても平滑性による作用および効果を得ることができる。
ただし、シート収容工程P2でシート束100が最も内面20Aから影響を受けるのは、箱20の底壁部22の内面20Aであり、次に影響を受けるのは、箱20の側壁部23,24の内面20Aである。この点に着目すれば、底壁部22の内面20Aのみについてスムースター平滑度を上限値以下に設定してもよく、これに加えて、側壁部23,24の内面20Aについてスムースター平滑度を上限値以下に設定してもよい。
【0056】
さらに、スムースター平滑度を上限値以下に設定する対象は、底壁部22の内面20Aの全てでなく一部だけでもよく、側壁部23,24の内面20Aの全てでなく一部だけでもよく、天壁部21の内面20Aの全てでなく一部だけでもよい。つまり、内面20Aから影響を受けやすい箇所に特定して、スムースター平滑度を上限値以下に設定してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、箱20の内寸h1とシート束100の外寸h2との寸法比(外寸/内寸)が、0.85より大きく1.00より小さく設定され、箱20の内寸h1の方がシート束100の外寸h2よりも大きくなっているが、寸法比を例えば1.00以上であって1.2未満とし、箱20の内寸h1よりもシート束100の外寸h2の方を大きくして、シート束100の高さ(ティシュペーパ10の枚数)に対して箱20の高さ寸法を抑えた箱ティシュも製造されている。
この場合、シート束100を高さ方向に圧縮させて箱20の内部空間27に収容させるので、天壁部21の内面20Aもシート収容工程P2でシート束100に大きく影響を与える。したがって、この場合、底壁部22の内面20A及び天壁部21の内面20Aのみについてスムースター平滑度を上限値以下に設定してもよい。また、これに加えて、側壁部23,24の内面20Aについてスムースター平滑度を上限値以下に設定してもよい。
【0058】
さらに、スムースター平滑度を上限値以下に設定する対象は、底壁部22の内面20Aの全てでなく一部だけでもよく、側壁部23,24の内面20Aの全てでなく一部だけでもよく、天壁部21の内面20Aの全てでなく一部だけでもよい。つまり、内面20Aから影響を受けやすい箇所に特定して、スムースター平滑度を上限値以下に設定してもよい。
【0059】
上記実施形態では、箱20の外面20Bにアクリル系又はスチレン系のインキからなる第1塗材層28とアクリル系樹脂からなる第2塗材層29とが形成されており、塗材層が二層構造の箇所では特に薬液の外部への漏出を阻止する効果が強まるが、塗材層は一層だけでもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、アクリル系又はスチレン系のインキからなる第1塗材層28を箱20の外面20B全面に設け、アクリル系樹脂からなる第2塗材層29も箱20の外面20B全面全体に設けて薬液の外部への漏出を阻止する効果を高めるようにしているが、第1塗材層28についても第2塗材層29についても箱20の外面20Bの一部に部分的に設けても薬液の外部への漏出を阻止する一定の効果を得ることができる。
【0061】
塗材層を複数(二層以上)設ける場合、各塗材層を箱20の外面20Bに全面的に或いは部分的に設けることができるが、箱20の外面20Bの各部は少なくともいずれかの塗材層で被覆され、外面20B全体としては塗材層で覆われない箇所がないように構成すれば、薬液の外部への漏出を阻止する効果が高まる。もちろん、外面20Bの一部に塗材層で覆われない箇所があったとしても、薬液の外部への漏出を阻止する一定の効果は得られる。
【0062】
また、箱20の底壁部22の外面20Bは、通常、箱20を支持するものの上に接触しているが、箱20の外面20Bが何らかのものに接触していると外面20Bが外気のみと接触している場合よりも薬液の外部への漏出が促進されることが考えられ、この点では、塗材を箱20の底壁部22の外面20Bのみに塗布することも有効である。
【0063】
また、コート剤を塗布する際に、プレスコートを用いてもよい。プレスコートによれば、塗布面にアクリル樹脂等のコート剤を塗布し、鏡面光沢仕上げを施したステンレス板に熱圧着させ、冷却して剥がしとるため処理工程が増えるが、加工面は平滑なので強光沢を得られるため、外観を大きく向上させることができる。
なお、塗材の種類も薬液の外部への漏出を阻止しうるものであればよく、上記実施形態で例示したものに限るものではない。
【符号の説明】
【0064】
1 箱ティシュ
10,10A,10B,10C ティシュペーパ(シート)
11A,11B,11C 上面部
12A,12B,12C 下面部
20 箱
20A 箱20の内面
20B 箱20の外面
21 天壁部
22 底壁部
23,24 側壁部(立壁部)
25,26 端壁部(立壁部)
27 箱20の内部空間(空間)
28 第1塗材層
29 第2塗材層
31 押し棒
100 シート群(シート束,ティシュ束)
A 取出口
L 折曲線
L1,L2 搬送ライン
P1 起立工程
P2 シート収容工程
P3 封止工程
【要約】
【課題】薬液が塗布されたティシュの折り重ねられたシート群が箱に収容された衛生用品において、シートに含まれている薬液の減少を抑制し、長期にわたって薬液の効果を得ることができるようにする。
【解決手段】薬液が塗布されたティシュ10の折り重ねられたシート群100が箱20に収容された衛生用品であって、箱20の底壁部22,天壁部21及び四方の立壁部23〜26のうちの少なくとも底壁部22の外表面20Bの少なくとも一部に塗材28,29が塗布されている。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7