(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第一実施形態(基本)]
本発明は、色収差を利用することで、微小な被写体の位置を特定したり、微小な被写体の姿勢を特定したりすることができるが、これら具体的な形態の説明をする前に、その前提となる色収差を利用するのに必要な画像データの処理方法を第一実施形態として説明する。
【0013】
[後ピン]
図1(a)において、微小な被写体Aが、レンズ系Lの光軸Jの位置Oに置かれ、被写体Aの像A1は、位置B1の結像面C上に結像されている。被写体Aはレンズ系Lの焦点一致面の位置Fより、レンズ系Lに近い側の位置Oにあるので、被写体Aに対してはレンズ系Lの焦点が合っていない。なお、
図1(a)の配置のように、レンズ系Lの焦点一致面の位置Fが被写体Aの後方、つまりレンズ系Lから遠い側にある状態を、以後「後ピン」と称することがある。
【0014】
被写体Aから発した光線1は、レンズ系Lを通過すると波長によって屈折角が違うことにより、赤色Rの光線2、緑色Gの光線3、青色Bの光線4に別れる色の分散が生じる。なお、赤色Rを実線、緑色Gを一点鎖線、青色Bを二点鎖線で示している。また、ここでは、三原色のみを示しているが、この中では、屈折角は、波長の長い赤色Rが小さく、波長の短い青Bが大きい。
色の分散が生じることにより、結像面Cの上には
図1(b)に示す観察写真、及び、
図1(c)に示す模式的図に示す色収差が像A1に形成される。
【0015】
以上のように、レンズ系Lと被写体Aの位置関係が後ピンの状態にあるときは、最外郭の側から赤色R、緑色G、青色Bの順に、つまり、長波長の色の順に、色収差が形成される。
なお、
図1(a)において、仮に、被写体Aが、焦点一致面の位置Fに置かれたとすれば、被写体Aから発した光線5(破線)はレンズ系Lを通過後であっても色が分散することがほとんどないので、色収差は生じることなく、結像面Cの上には鮮明な像A1が形成される。
【0016】
なお、
図1(a)は、簡便化のためにレンズ系Lを1枚のレンズで構成した例を示しているが、例えば、図示は省略するが、高倍率にするために対物レンズと結像レンズを組み合わせたとしても、同様の光路をたどることは言うまでもない。
【0017】
[前ピン]
次に、
図1(d)は、
図1(a)とは逆に、微小な被写体Aはレンズ系Lの焦点一致面の位置Fより、レンズ系Lから遠い側の位置Oに置かれる例を示している。なお、被写体Aがレンズ系Lの光軸Jの位置Oに置かれ、被写体Aの像A1が位置B1の結像面C上に結像されているものの、被写体Aに対してレンズ系Lの焦点が合っていない点は、
図1(a)と同じである。
図1(d)の配置のように、レンズ系Lの焦点一致面の位置Fが被写体Aの前方であるレンズ系Lに近い側にある状態を、以後「前ピン」と称することがある。
【0018】
前ピンにおいては、被写体Aの像A1に現れる色収差は、上述の後ピンと色の配列が逆になり、最外郭から青色B、緑色G、赤色Rの順に、つまり、短波長の色の順に、色収差が形成される。
【0019】
以上のように、レンズ系Lと被写体Aの位置関係が前ピンの状態にあるときは、輪郭部の最外郭が青色B、次いで、緑色G、赤色Rの順に、つまり、短波長の色の順に、色収差が形成される。
【0020】
以上で説明したように、被写体の位置の相違に応じて色収差が相関する。そこで本発明は、レンズ系を通して被写体の色収差が反映された画像を撮影する撮影ステップと、撮影された画像を処理して、色収差に基づく色成分を認識する認識ステップと、認識された色成分を解析する解析ステップと、を備える画像データの処理方法を提案する。
一例としてここで示したのは、レンズ系Lを介して被写体Aを撮影し、撮影された像A1の最外郭の色が赤Rであることを認識すれば、この認識は後ピンを示しているので、撮影された被写体Aは焦点一致面の位置Fよりレンズ系Lに近いところに位置していることを特定できる。同様に、最外郭の色が青Bのときは前ピンであるから、このときの被写体Aは焦点一致面の位置Fよりレンズ系Lに遠いところに位置していることを特定できる。しかし、後述する第三実施形態で示すように、色収差に基づく色成分を認識し、認識された色成分を解析することにより、表裏の形状が異なる被写体が表向きなのか、それとも、裏向きなのかを特定することもできる。
【0021】
なお、色収差は、被写体を観察するときの照射光に含まれる波長成分に起因するので、照射光の発光スペクトル分布によっては、色収差のパターンが自然光を照射光とする場合と異なることがある。例えば、仮に、照明光が、自然光から赤Rの波長領域が抜き取られたような発光スペクトルの場合である。しかし、この場合でも、レンズ系Lと被写体Aの配置が後ピンであれば、最外郭に赤Rの色収差が現れないだけで、色収差による緑色G及び青色Bの配列は、自然光の場合と変わらない。つまり、照射光が変わったとしても、後ピンであれば最外郭から長波長の色から短波長の色の順に並び、逆に、前ピンであれば最外郭から短波長の色から長波長の色の順に並ぶ、という原則は変わらない。
【0022】
[第二実施形態(位置の特定)]
次に、本発明の第二実施形態について添付図を参照して説明する。
第二実施形態では、第一実施形態を発展させ、被写体Aとして花粉を用い、その位置を特定する具体的な手法を説明する。
【0023】
図2(a)は、レンズ系Lを介して被写体A(胡蝶蘭の花粉)をCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサで画像データ化したものである。
図2(a)の画像には、4つの胡蝶蘭の花粉10〜13が写されている。
本実施形態の画像データ処理では、撮影した4つの花粉10〜13に対して、グレースケール処理、2値化処理等を施し、花粉の画像領域のみの色情報を残した上で、それ以外の背景を除去する。
図2(b)は、背景を除去した、各花粉の画像に対し、それを囲む外接四角形によって位置を特定した状態を示している。
【0024】
次に、例えば、
図2(b)の花粉10に着目し、花粉10の画像領域を抜き取る。
図3(a)は、花粉10の画像を形成している画素領域の一部を示したものである。
なお、CCD画像素子は、R,G,B(赤,緑,青)の3要素で構成され、各色の強弱の組み合わせによって中間色が表現されるようになっている。また、本発明において、画素とは、R,G,Bの3要素を備える表示要素の最小の単位を意味する。
【0025】
次に、
図3(a)に示すように、花粉10の画像を形成している画像領域に含まれている、全ての画素P(P1〜PN)のそれぞれにおけるR,G,Bの三原色の画素値(画素出力の値)を求める。次いで、それぞれの画素について、最も画素値の大きい色(R,G,B)を一つ選択し、
図3(b)に示すように、選択された色(R,G,B)のいずれかで当該画素Pを代表させる。
【0026】
例えば、
図3(a)に示す例では、画素P1の中で最も画素値の大きいRが、また、画素P3の中で最も画素値の大きいGが大文字で記載されている。
次に、
図3(b)に示すように、画素P(P1〜PN)の色を、画素値が最も大きい色(R,G,B)のいずれかで代表させることで、花粉10の新たな画像を生成する。この新たな画像を解析することで、被写体である花粉10の位置を特定する。
【0027】
続いて、花粉10の新たな画像の領域に含まれる赤、緑及び青のそれぞれで代表される画素の数であるNR,NG,NBをカウントし、各NR,NG,NBの比較を行う。
【0028】
花粉10の画像が後ピンの状態で撮影されていれば、一例として、花粉10の画像領域に含まれる長波長側の色の数が多くなる。したがって、赤で代表される画素の数NRと青で代表される画素の数NBを比較して、赤画素数NRの方が多ければ、花粉10は、焦点一致面の位置Fよりレンズ系Lに近い側に位置していること、つまり後ピンであることを特定できる。
なお、後ピンであることを特定するには、赤画素数NRと緑画素数NGを比較してもよいし、緑画素数NGと青画素数NBを比較してもよい。いずれの場合でも、長波長側の色の画素の数が短波長側の色の画素の数より多ければ、花粉10は、焦点一致面の位置Fよりレンズ系Lに近い側に位置していることを特定できる。これは、次に説明する前ピンの特定についても同様に当てはまる。
【0029】
一方、花粉10の画像が前ピンの状態で撮影されていれば、花粉10の画像領域に含まれる短波長側の色の数が多くなる。したがって、赤画素数NRと青画素数NBを比較して、青画素数NBの方が多ければ、花粉10は、焦点一致面の位置Fよりレンズ系Lから遠いところに位置していること、つまり前ピンであることを特定できる。
【0030】
以上の説明では、色で代表される画素の数を比較することを説明したが、この比較と等価である色画素数の比によって花粉10の位置を特定することもできる。
図4を参照して説明する。
【0031】
図4は、花粉10を光軸Jに沿って、焦点一致面の位置Fから前後に変化させたときの、花粉10の画像領域に含まれる赤画素数NR(第一比較データ)と緑画素数NG(第二比較データ)の比であるRG比H=(NR/NG)をグラフ化して示した一例である。この検証実験では、花粉10の移動は1μmのステップで行っている。また、この検証に用いた顕微鏡の被写界深度は±1.2μmである。
横軸Xの原点は焦点一致面の位置Fにとってあり、正方向は後ピンの方向(花粉10がレンズ系Lに近づく方向)、負方向は前ピンの方向(花粉10がレンズ系Lから遠ざかる方向)に規定されている。
【0032】
図4に示されるように、RG比Hは、正方向に行くほど増加傾向を示し40μm付近でピークとなり、その後、緩やかな低下傾向を示している。また、負方向に行くと−20μm付近で最小となり、その後は緩やかな増加傾向を示している。そして、この例では、レンズ系Lの被写界深度付近におけるRG比Hは0.8の値を示している。つまり、本例におけるRG比Hの閾値(第一閾値)を0.8とすることができ、この閾値と実測したRG比H(第一実測比)を比較し、実測したRG比Hが0.8より大きければ当該被写体は後ピンにあり、実測したRG比Hが0.8以下であれば当該被写体は前ピンであることを特定できる。
【0033】
ここでは、RG比Hの閾値が0.8の例を示したが、撮影する被写体Aやレンズ系Lによってこの値は異なることがある。したがって、位置を特定したい被写体Aのそれぞれについて、撮影の条件を特定した上で、
図4に示したようなデータを取得して閾値を求めることが望ましい。
【0034】
以上のように、撮影された画像データの色収差をデジタル処理して色成分を認識するとともに、解析することにより、色収差が肉眼では迷い易い中間色になって現れたとしても、色成分を正確に把握することができるので、位置を特定する精度を上げることができる。
【0035】
[第三実施形態(裏表の特定)]
次に、第三実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
第二実施形態は、色収差によって被写体Aの位置を特定するものであったが、本実施形態は微小な被写体Aの姿勢、特に裏表を特定するという点で、第二実施形態と異なる。
【0036】
第三実施形態は、微小な被写体Aとして胡蝶蘭の花粉20を取り上げる。
図5から分かるように、胡蝶蘭の花粉20はほぼ半球状の形態をなし、平面上に置けば、表側が上を向いているか、または、裏側が上を向いているかのどちらかであり、側面を下にして立ち姿になることは殆ど起こらない。
【0037】
第三実施形態では、このように任意の向きに置かれた複数の胡蝶蘭の花粉20のそれぞれが、上向きになっているのが表側なのかそれとも裏側なのかの姿勢を特定することが目的である。
【0038】
第三実施形態においても、第二実施形態のときと同様に、複数の花粉20を撮影して画像を取得する。次いで、グレースケール処理、2値化処理等を経て、画像データから花粉20の周囲の背景を除去する。ただし、
図6を参照して説明するように、第二実施形態とはRG比Hの求め方が相違する。
【0039】
図6(a)は、撮影された花粉20の画像データの一部を示したものである。
第三実施形態のデータ処理では、先ず、花粉20の画像を形成しているそれぞれの画素を構成している色(R,G,B)のそれぞれの画素値を累積した値を求める。
例えば、
図6(a)の画素の配置に対して、
図6(b)に示すように、各画素に含まれる色(R,G,B)のそれぞれに識別番号を振り、その上で、R,G,Bのそれぞれの画素値を、存在する画素の分だけ累積する。なお、ここでは、色の識別番号が画素値を表すものとし、例えば、画素P1の赤R,青B,緑Gのそれぞれの画素値をR1,B1,G1とする。つまり、
図6の例において、赤色Rの画素値(第一色成分の画素値)の累積値DR(第三比較データ)=ΣRiは、R1+R2+R3…+Rnで求められ、青色Bの画素値(第二色成分の画素値)の累積値DB(第四比較データ)=ΣBiは、B1+B2+B3…+Bnで求められる。
次いで、RG比H(第二実測比)=DR/DBを算出する。
【0040】
以上のように算出したRG比Hについて、ここでは閾値(第二閾値)を1とし、RG比Hが1より大きければ、赤色Rの画素値の累積値DRが青色Bの画素値の累積値DBより大きいことになり、花粉20は表向き(
図5(a),(b))と判定する。花粉20が表向きになっている場合は、長波長の赤色Rの光が孔21と溝22に焦点が当たり易くなりその結果として赤色Bの画素値が高くなるためである。
【0041】
逆に、RG比Hが1以下の場合は、青色Bの画素値の累積値DBが赤色Rの画素値の累積値DRが大きいことになり、花粉20の裏向き(
図5(c),(d))と判定する。花粉20が裏向きになっている場合、孔21や溝22が現れない部分が撮影されるあるため、波長の短い青色Bの焦点が当たり易くなりその結果として青色Bの画素値が高くなるためである。
【0042】
以上の判定基準に基づいて、実際に判定した結果を示す。
画像は花粉20が焦点一致面に存在する場合(
図7(a))と焦点一致面から外れた場合(
図8(a))の二種類を撮影した。
結果を
図7(b)および
図8(b)に示すが、焦点一致面に存在する場合と焦点一致面から外れている場合のいずれにおいても、花粉が表向きの場合には、可視光での赤の波長は長いため、溝または孔に赤の焦点が当たりやすくなり、赤色の割合が多くなる。逆に、裏向きの場合には、孔21または溝22がなく、半球体であるため,波長が短い青色の焦点が当たりやすくなり、青色の割合が多くなる。
図9(a)に
図7の画像データにおけるRGB出力結果を、また、
図9(b)に
図8の画像データにおけるRGBの出力結果を示す。
なお、
図7(b)及び
図8(b)において、Rを付した四角が表向きの判断結果であり、Bを付した四角が裏向きの判断結果である。焦点の合否に関わらず、表向きと裏向きを確実に判定している。
【0043】
以上説明したように、第三実施形態は、色収差を含む画像データを処理することによって、被写体の姿勢を判定できることを示している。なお、ここでは花粉20を例にしているが、本発明は、表裏の形状に相違があることに基づいて、表裏のそれぞれの色収差に相違がある被写体に広く適用できる。
【0044】
[第四実施形態(マイクロマニピュレーションシステムへの適用)]
本発明の第四実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
第四実施形態は、色収差の画像データの処理によって位置を判定する手法を、マイクロマニピュレーションシステム50に適用するものである。マイクロマニピュレーションシステム50は、顕微鏡の視野内において、微小な被写体に対してエンドエフェクタEを用いて微細作業を行うためのシステムである。
【0045】
第四実施形態に係るマイクロマニピュレーションシステム50は、
図10に示すように、エンドエフェクタEを備えるマイクロマニピュレータ53(駆動部)と、エンドエフェクタEの駆動を指令するコントローラ(司令部)54とを備えている。エンドエフェクタEは、マイクロマニピュレータ53に備えられたアクチュエータ(図示省略)により、x軸、y軸及びz軸の3軸方向への駆動ができる。なおマイクロマニピュレーションシステム50は、マイクロマニピュレータ53を2台備えている。
マイクロマニピュレーションシステム50は、顕微鏡57を備えている。光の入射方向(光軸方向)と反対側から被処理体である花粉10を撮影する倒立型顕微鏡は、取得画像に対する照り返しの影響が少ないので、花粉10とエンドエフェクタEのボケ抽出が容易である。
そのため、本実施形態は、倒立型の顕微鏡57を用いる。ただし、このことが正立型の顕微鏡を本発明に用いることを制限するものではない。
顕微鏡57の光軸はz軸と方向が一致しており、この方向がマイクロマニピュレーションシステム50における奥行き方向となる。
【0046】
マイクロマニピュレーションシステム50は、顕微鏡57の上面に設置されるスライドガラス59上に載せられる花粉10及びエンドエフェクタEを光軸方向から撮影するデジタルカメラ(撮影部)51を備える。デジタルカメラ51は、固体撮像素子として、例えばCCDイメージセンサを備えるものを用いるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
マイクロマニピュレーションシステム50は、マイクロマニピュレータ53、コントローラ54、顕微鏡57及びデジタルカメラ51の動作を制御するパーソナルコンピュータ(司令部、以下、PC)56を備える。つまりPC56は、コントローラ54に対して、マイクロマニピュレータ53のエンドエフェクタEが移動すべき方向及び距離に関するデータを送る。
また、表示ディスプレイ55を備えるPC56は、顕微鏡57を介してデジタルカメラ51で花粉10及びエンドエフェクタEを撮影することを指令し、撮影された画像を処理し、また表示ディスプレイ55に表示させる。より具体的な処理、操作手順を、
図11のフローチャート、さらには
図12も参照して説明する。
【0048】
花粉10を載せたスライドガラス59を顕微鏡57の所定位置に設置した後に、ボケ抽出、エンドエフェクタEの位置決め動作の処理手順が開始される。
はじめに、PC56からの指令により、デジタルカメラ51は、花粉10とエンドエフェクタEの画像を撮影する。PC56は撮影された画像(元画像)を取得する(
図11 S101)。
図12(a)に元画像の例を示すが、デジタルカメラ51の焦点が花粉10には合っているが、エンドエフェクタEには合っていないため、エンドエフェクタEに対応する部分に大きなボケが生じている。花粉10にデジタルカメラ51の焦点を合わせる方法については後述する。
【0049】
次に、第二実施形態で説明した同様の手順(
図3(a)参照)により、花粉10の画像を形成している画素領域に含まれている、全ての画素P(P1〜PN)のそれぞれにおけるR,G,Bの三原色の画素値(画素出力の値)を比較し、最も値の大きい色を一つ選択する。続いて、画素P(P1〜PN)の色を、選択された色に代表(
図3(b)参照)させた上で、花粉10の新たな画像を生成する(
図11 S105)。続いて、新たに作成された画像データに含まれる赤画素数NR、緑画素数NG、青画素数NBの数を数え、各数の比較を行う。
【0050】
次いで、第二実施形態で説明したRG比Hを用いて比較する。つまり、実測されたRG比Hが閾値(例えば、0.8)より大きければ当該被写体は後ピンにあり、実測比Hが0.8以下であれば当該被写体は前ピンであると判定できる。
以上のようにして、花粉10の位置を判定する(
図11 S107)。
なお、この花粉10の位置の判定は、次に説明するボケ厚さTeを判定する手順の後に行うこともできる。
【0051】
PC56は、取得した元画像を解析し、画像の明度の差から、二つの異なる閾値を決定する(
図11 S109)。この二つの閾値の決定の仕方は任意であり、予め設定しておくこともできる。
PC56は、元画像に対して二つの閾値を適用することにより、二つの二値化画像を作成する(
図11 S111)。
図12(b),(c)に、
図12(a)に示す元画像から作成した二つの二値化画像の例を示している。
図12(b)に示す二値化画像はボケの外周まで含んでいるためエンドエフェクタEに対応する白抜きの領域が大きい。これに対して
図12(c)は、エンドエフェクタEそのものを示している画像とみなされ、ボケをほとんど含んでいないから、白抜きの領域が小さい。二つの閾値は、
図12(b),(c)の例のように、一方の二値化画像はボケを多く含み、他方の二値化画像はボケが微小になるように設定することが肝要である。
【0052】
PC56は、次に、二つの二値化画像から差分画像を作成する(
図11 S113)。二つの二値化画像は、一方の二値化画像はボケを多く含み、他方の二値化画像はボケが微小に作成されたものであるから、その差分画像にはボケに対応する部分が抽出される。
図12(d)に二つの二値化画像から作成された差分画像の例を示すが、エンドエフェクタEに対応する白抜きの部分、つまり二つの二値化画像の差分の領域が、元画像のボケを示している。また、
図12(d)において、花粉10の周囲にも白抜きで示される差分の領域が薄く現れている。
【0053】
PC56は、次に、花粉10の周囲の差分の領域(以下、ボケの領域)の厚さTpとエンドエフェクタEのボケの領域の厚さTeを比較する(
図11 S115)。前述したように、厚さTpに厚さTeが一致すれば、花粉10とエンドエフェクタEはともにデジタルカメラ51の焦点に合うことになる。そうすると、エンドエフェクタEは花粉10とz軸方向(奥行き方向)の位置が一致する。したがって、厚さTpに厚さTeが一致すれば、PC56はz軸方向の位置合わせの処理を終了して、コントローラ54にエンドエフェクタEをx軸方向、y軸方向に移動させることを指令し、花粉10にエンドエフェクタEを接触させる(
図11 S117、S119)。厚さTpに厚さTeが一致しなければ、エンドエフェクタEをz軸方向に移動させる(
図11 S117、S118)。
ここで、エンドエフェクタEをz軸方向に移動させる際は、先に説明したS107の手順で、予め、判定された方向に移動させる。つまり、花粉10が焦点一致面の位置Fより遠い位置にあると判定されていた場合にはエンドエフェクタEを焦点一致面の位置Fに近づける方向、逆に、花粉10が焦点一致面の位置Fより近い位置にあると判定されていた場合にはエンドエフェクタEを焦点一致面の位置Fから遠ざける方向に移動させる。
【0054】
ここで、焦点一致面の前後でボケの厚さが等しい位置があるので、花粉10及びエンドエフェクタEが焦点一致面のどちら側に物体があるのかを特定するのが難しいことがある。ところが、第四実施形態では、焦点一致面に対する花粉10の位置が判定されているので、無駄な時間が費やすことなく、正しい向きにエンドエフェクタEを移動させることができる。
この色収差の画像データ処理による位置判定機能を備えることにより、マイクロマニピュレーションシステム50の処理速度を向上させることができる。
【0055】
図11のS109〜S117の処理を、厚さTpに厚さTeが一致するまで繰り返す。
なお、エンドエフェクタEのボケの厚さTeを判定する場合、マイクロマニピュレーションシステム50はエンドエフェクタEの先端を花粉10に接触させることが目的であることから、先端部分の厚さTeを採用することが好ましい。花粉10の厚さTpは、厚さがほぼ均一なので、花粉10の周方向のいずれの部分で判定してもよい。
【0056】
以上、本発明の好適な形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択し、または、他の構成に適宜変更できる。
例えば、被写体として花粉10を対象としたが、他の微小な物質に広く適用することができる。
また、具体的な用途として示したマイクロマニピュレーションシステム50はあくまで一例であり、他のマイクロマシンに広く適用することができる。