特許第6809666号(P6809666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6809666表面処理が施されたポリエステルフィルムおよび透明ガスバリア性蒸着フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809666
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】表面処理が施されたポリエステルフィルムおよび透明ガスバリア性蒸着フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20201221BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20201221BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C08J7/00 302
   C08J7/00CFD
   B32B27/36
   B32B9/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-204267(P2016-204267)
(22)【出願日】2016年10月18日
(65)【公開番号】特開2018-65900(P2018-65900A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 祐紘
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−157918(JP,A)
【文献】 特開2016−084494(JP,A)
【文献】 特開2013−103373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00− 7/18
B32B 1/00− 43/00
C08J 5/00− 5/22
C23C 14/00− 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空装置内において、アノードレイヤー型のイオン源によりイオン照射が行われ、ロール状に巻き取られた後に大気中に取り出された長尺の厚さ12μmのポリエステルフィルムであり、下記(1)式を満足する表面処理が施されたポリエステルフィルム。
1%≦ΔT≦15%・・・(1)
ΔT(%):ポリエステルフィルム10枚の波長400nmにおける光線透過率のイオン照射前後の差
【請求項2】
真空装置内において、アノードレイヤー型のイオン源によりイオン照射が行われ、ロール状に巻き取られた後に大気中に取り出された長尺の厚さ12μmのポリエステルフィルムであり、下記(2)式を満足する表面処理が施されたポリエステルフィルム。
2.5≦ΔE≦18.5・・・(2)
ΔE:ポリエステルフィルム10枚のイオン照射前後のCIE1976L***表色系における色差
【請求項3】
真空装置内において、アノードレイヤー型のイオン源によりイオン照射が行われ、ロール状に巻き取られた後に大気中に取り出された長尺の厚さ12μmのポリエステルフィルムであり、下記(1)式、および(2)式を満足する表面処理が施されたポリエステルフィルム。
1%≦ΔT≦15%・・・(1)
ΔT(%):ポリエステルフィルム10枚の波長400nmにおける光線透過率のイオン照射前後の差
2.5≦ΔE≦18.5・・・(2)
ΔE:ポリエステルフィルム10枚のイオン照射前後のCIE1976L***表色系における色差
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルフィルムの表面処理が施された面上に真空蒸着により金属酸化物を形成することを特徴とする透明ガスバリア性蒸着フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着により金属酸化物を積層することにより優れたガスバリア性能と密着強度を発現することができる表面処理が施されたポリエステルフィルム、およびこのフィルムを用いた透明ガスバリア性蒸着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムに真空蒸着法等の形成手段により、アルミニウム、酸化アルミニウムや酸化珪素などの金属や金属酸化物を蒸着したガスバリア性蒸着フィルムが環境対応性に優れた包装材料として広範に使用されている。なかでも金属酸化物を蒸着したものは、耐湿熱性に優れ、透明であることから内容物が視認でき、電子レンジ適性による利便性から広範囲に使用されている。
【0003】
ガスバリア性蒸着フィルムを構成する基材フィルムには、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに代表されるポリエステルフィルムが、強度、耐熱性、寸法安定性、厚さの均一性などに優れているため、好適に用いられている。これらポリエステルフィルムには蒸着膜との密着強度を向上させるための前処理が一般的に行われており、グロー放電処理、常圧プラズマ処理、コロナ放電処理などのプラズマ処理や、無機物との接着性の良いポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などからなる下地層をコーティングにより形成することが行われている(特許文献1)。
【0004】
近時、食品安全性への高い要求により、ハイレトルト処理条件による加熱殺菌処理が行われるようになってきている。最近では135℃以上の温度によるハイレトルト処理によっても、ポリエステルフィルムと蒸着膜との密着強度が保持できるポリエステルフィルムが必要となっており、従来の表面処理では対応できなくなってきている。
【0005】
このためのフィルム基材の表面処理技術として、プラズマ処理よりも高いエネルギーのイオンを照射する方式が注目されており、非特許文献1には大面積基板への対応が可能なリニアイオン源が開示されている。特許文献2には、プラスチックフィルムにイオン注入層が形成され、その上にガスバリア層、透明導電層が形成された透明導電性ガスバリアフィルムが開示されているが、耐溶剤性を目的とするものであり、耐湿熱性に優れたガスバリア性蒸着フィルムを目的とするものではなかった。
【0006】
特許文献3には、ポリエステルフィルムの少なくとも片面の表層にイオン照射による改質層を設け、その上に金属酸化物層、保護層が順次設けられた耐湿熱性に優れたガスバリア性蒸着フィルムが開示されている。また、この耐湿熱性ガスバリア性蒸着フィルムの製造方法として、真空蒸着装置において、ポリエステルフィルムの繰出し部と蒸着部との間にリニアイオン源を設置し、ポリエステルフィルムの全幅に同時にイオン照射することにより、ポリエステルフィルム表層の組成を変化させて改質し、同時に金属酸化物を蒸着することを特徴とする製造方法が開示されている。本方法は、イオン照射と金属酸化物の蒸着を同時に行うため、一見生産性に優れるが、イオン照射と金属酸化物蒸着を同時に行うことによる問題があることが判ってきた。すなわち、イオン照射のためのイオン源の動作圧力には適正な範囲があり、イオン源の設置されている領域は通常、金属酸化物を蒸着する領域と隔壁で隔てられ、真空排気もそれぞれ独立で行われているが、金属酸化物を蒸着する領域の圧力によりイオン源の設置されている領域の圧力は大きく影響を受け、このため、イオン源の動作圧力の適正な範囲を外れ、イオン照射によっても目的とする密着強度が十分に得られないという問題が判ってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−210208号公報
【特許文献2】特開2008−270115号公報
【特許文献3】特開2014−223788号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】佐々木徳康他著「リニアイオン源の開発」ULVAC TECHNICAL JOURNAL、No.63 2005年、p.26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このようなイオン照射と真空蒸着を連続的に行う従来技術の問題点を解決するものであり、真空蒸着により金属酸化物を積層することにより、優れたガスバリア性能と密着強度を発現する表面処理が施されたポリエステルフィルム、およびこのフィルムを用いた透明ガスバリア性蒸着フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するため以下の構成とする。
【0011】
第1の発明は、真空装置内において、アノードレイヤー型のイオン源によりイオン照射が行われ、ロール状に巻き取られた後に大気中に取り出された厚さ12μmのポリエステルフィルムであり、下記(1)式を満足する表面処理が施されたポリエステルフィルムである。
【0012】
1%≦ΔT≦15%・・・(1)
ΔT(%):ポリエステルフィルム10枚の波長400nmにおける光線透過率のイオン照射前後の差。
【0013】
第2の発明は、真空装置内において、アノードレイヤー型のイオン源によりイオン照射が行われ、ロール状に巻き取られた後に大気中に取り出された厚さ12μmポリエステルフィルムであり、下記(2)式を満足する表面処理が施されたポリエステルフィルムである。
【0014】
2.5≦ΔE≦18.5・・・(2)
ΔE:ポリエステルフィルム10枚のイオン照射前後のCIE1976L***表色系における色差。
【0015】
第3の発明は、真空装置内において、アノードレイヤー型のイオン源によりイオン照射が行われ、ロール状に巻き取られた後に大気中に取り出された厚さ12μmのポリエステルフィルムであり、下記(1)式、および(2)式を満足する表面処理が施されたポリエステルフィルムである。
【0016】
1%≦ΔT≦15%・・・(1)
ΔT(%):ポリエステルフィルム10枚の波長400nmにおける光線透過率のイオン照射前後の差
2.5≦ΔE≦18.5・・・(2)
ΔE:ポリエステルフィルム10枚のイオン照射前後のCIE1976L***表色系における色差。
【0017】
第4の発明は、上記のいずれかのポリエステルフィルムの表面処理が施された面上に真空蒸着により金属酸化物を形成することを特徴とする透明ガスバリア性蒸着フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、イオン照射と真空蒸着を分けることによって、安定したイオン照射をポリエステルフィルムに施すことができ、イオン照射により表面処理が施された面上に金属酸化物を蒸着することで、優れたガスバリア性能と密着強度を得ることができる。また、イオン照射により表面処理が施されたポリエステルフィルムを一旦大気中に取り出し、光学特性を評価することで、表面処理の効果を確認することができ、従来技術によるイオン照射と蒸着の連続プロセスで問題となっていたイオン照射時の圧力変動による表面処理効果の不安定さを排除することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0020】
本発明の表面処理が施されたポリエステルフィルムは、真空装置内において、アノードレイヤー型のイオン源によりイオン照射が行われ、ロール状に巻き取られた後に大気中に取り出されたポリエステルフィルムである。
【0021】
真空装置とは、後の工程である真空蒸着のための真空装置と兼用であってもよく、別の真空装置であってもよいが、長尺のポリエステルフィルムロールの巻出し軸、走行系、巻取り軸、およびアノードレイヤー型のイオン源を内蔵し、該イオン源の適正な動作圧力を維持できる真空排気システムが備わったものである必要がある。
【0022】
本発明における、イオン照射に用いるイオン源は、アノードレイヤー型のイオン源であり、走行させるポリエステルフィルムの幅方向に均一にイオンの照射が可能であって、真空装置内に設置できるコンパクトなものが望ましい。
【0023】
一般的なイオン源によるイオン照射の形状は円形であり、フィルム幅方向に均一なイオン照射とするには幅方向に複数のイオン源を配置して使用することが必要であるが、複数のイオン源間の干渉の影響や、イオン照射の幅方向の均一性に課題がある。一方で細長いという意味のリニア型と呼ばれるイオン源は、1台のイオン源の長手方向をフィルム幅方向に配置することで、フィルムの幅方向に均一な処理を行うことができることから好ましく用いることができる。このリニア型の代表的なものが、技術文献1で解説されている本発明で用いるアノードレイヤー型のものである。すなわちレーストラック状の間隙部の間隙幅方向に磁場を形成し、開口部背面に配置されたアノードに間隙部(カソード)に対して正の電圧を印加し、間隙部磁場に基づく電子のホール運動によりプラズマを強化するとともにイオンの加速を行う方式のイオン源である。イオン発生部であるレーストラック形状をフィルムの幅方向に長く伸ばすことでリニア形状が得られ、フィルム幅方向に均一なイオン照射を行うことができる。
【0024】
アノードレイヤー型イオン源の動作圧力は1×10―1Pa以下であるが、5×10―2Paを超える圧力ではイオン束が拡散するためにイオン照射量が不十分となり、目的とする密着強度が得られにくい。そのため、5×10―2Pa以下に圧力を維持し、イオン束を収束させ、十分なイオン照射量でフィルム表層の改質をすることが好ましい。なお、アノードレイヤー型のイオン源の動作圧力の下限は8×10−3Paであり、これ未満だと放電が発生しないか、安定しない。
【0025】
本発明において、ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂からなるフィルムであって、無延伸のものであっても良く、常法により一軸延伸または二軸延伸されたものであってもよいが、機械的強度や寸法安定性の点から二軸延伸されたものが好ましい。またポリエステルとは、ジカルボン酸とジオールの両モノマーを原料に、縮重合によるポリエステル結合により重合した樹脂であり、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略称することがある。)、ポリエチレンナフタレートが代表的なものである。ポリエステルフィルムの厚さは9〜25μmが好ましい。
【0026】
本発明の表面処理が施されたポリエステルフィルムは、ロール状に巻き取られた後に大気中に取り出されたポリエステルフィルムである。すなわち、イオン照射の後に連続的に金属酸化物を蒸着するのでなく、ロール状に巻き取った後、大気中に取り出すことがポイントである。
【0027】
金属酸化物を蒸着するための反応性蒸着とは、金属蒸着雰囲気中に酸素ガスを導入し、基材フィルム表面上での反応により金属酸化物を形成する蒸着方法であるが、反応性蒸着を行うフィルム幅、蒸着速度によって酸素ガスの導入量を変更するため、真空蒸着装置内の圧力は、蒸着条件によって変動する。このため、このイオン照射と同時に反応性蒸着を行う場合、イオン照射に適当な圧力を設定することが極めて難しい。さらに、反応性蒸着の開始時には、金属蒸発源の熱負荷により蒸着真空装置内壁からの放出ガス量が多くなり、圧力が大幅に高くなることからもイオン照射を一定の条件で実施することは、困難である。
【0028】
本発明においては、上述のごとく表面処理が施されたポリエステルフィルムを一旦大気中に取り出すことで、表面処理の効果を確認することができる。すなわち、本発明の表面処理が施されたポリエステルフィルムにおいて、1%≦ΔT≦15%という関係を確認することが重要である。ここで、ΔT(%)とは、ポリエステルフィルム10枚の波長400nmにおける光線透過率のイオン照射前後の差である。フィルムを10枚とする理由は、表面処理による光線透過率の変化が小さいために感度を上げるためである。また、可視光線の範囲において短波長側の400nmでの変化が大きいため、400nmでの光線透過率に着目する。光線透過率差ΔTが1%未満であると目的とする密着強度が得られない場合があり、15%を超えてると、密着強度のさらなる向上がない場合があり、黄色味が増大し、透明ガスバリア性蒸着フィルムとした場合の色目が悪く、透明性が不十分となる場合がある。
【0029】
また、本発明の表面処理が施されたポリエステルフィルムにおいて、2.5≦ΔE≦18.5という関係を確認することも重要である。ここでΔE*とは、ポリエステルフィルム10枚のイオン照射前後のCIE1976L***表色系における色差である。ΔEが2.5未満であると目的とする密着強度が得られない場合があり、18.5を超えると密着強度のさらなる向上がない場合があり、黄色味が増大し、透明ガスバリア性蒸着フィルムとした場合の色目が悪く、透明性が不十分となる場合がある。なお、ΔEは、L*、a*、b*のイオン照射前後の変化分ΔL*、Δa*、Δb*から以下のように計算できる。
【0030】
ΔE*={(ΔL*+(Δa*+(Δb*1/2
また、本発明は、上記の表面処理が施されたポリエステルフィルムを用い、表面処理が施された面上に真空蒸着により金属酸化物を形成することを特徴とする透明ガスバリア性蒸着フィルムの製造方法である。すなわち、イオン照射により表面処理が施され、大気中に取り出されたポリエステルフィルムロールを、真空蒸着装置に装填し、表面処理が施された面に真空蒸着で金属酸化物を形成する。
【0031】
本発明において、ポリエステルフィルムに表面処理を行って大気に取り出し後、真空蒸着装置に装填するまでの時間は特に限定されない。ポリエステルフィルムロールを架け替えるための時間および前述した400nmの光線透過率差ΔTまたはΔEを確認するための時間のいずれか長い方から、半年程度の長い期間まで、加工の都合に応じて期間を設定できる。すなわち、通常の大気圧下のコロナ放電処理や減圧下の低温プラズマ処理などでは、基材フィルム表面にのみ官能基を付与し、形成された官能基と蒸着された金属酸化物との化学的な結合により密着強度を向上させる効果が重要とされてきたため、表面処理を行った後に経時で官能基量が減少するため、表面処理を行った後なるべく早く蒸着を行うことが肝要とされてきた。このため、1つの真空装置内でプラズマ処理を行って、そのまま連続的に蒸着を行うことが通例であった。しかし、本発明によるイオン照射においてはイオンのエネルギーにより基材ポリエステルの分子鎖の一部が分解され、酸素や水素が排除されることで炭素リッチな層が形成されることが想定され、炭素リッチな層は、金属酸化物層との親和性が高く、金属酸化物層の密着性が確実なものとなると考えられる。また、官能基を重要としない上記の密着メカニズムが、表面処理を行った後、長時間が経過しても表面処理効果が持続する理由と考えられる。後記の実施例で示すように、表面処理後3ヶ月経過後であっても処理効果が全く減衰せずに持続する。
【0032】
金属のガスバリア層としては、蒸着やスパッタ法により形成することができる種々の金属があげられるが、実用的なものはアルミニウムである。また金属酸化物としては、金属や金属酸化物を蒸着しながら酸素と反応させる反応性蒸着法により透明な皮膜を形成するものであり、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛などが代表的なものとしてあげられる。
【0033】
本発明における目的とする密着強度及び耐湿熱性とは、135℃、40分のハイレトルト処理条件で、プラスチックフィルム積層品を加熱処理しても、密着強度を保持する特性のことである。
【0034】
本発明においてハイレトルト処理後の密着強度は、2.5N/15mm以上であることが好ましい。2.5N/15mm未満であると、ハイレトルト処理を行った際、密着強度が低下する可能性がある。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
なお実施例および比較例は次のようにしてサンプル作成と評価を行った。
【0037】
(1)400nmにおける光線透過率差の評価方法
イオン照射前のポリエステルフィルム、およびイオン照射して巻き取り大気中に取り出したポリエステルフィルムをそれぞれ10枚積層し、波長400nmの光線透過率を、紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所製UV−3600)で測定してそれぞれT(%)、T(%)とし、その差ΔT=(T―T)(%)を計算した。
【0038】
(2)色差の評価方法
色差は、CIE1976L*a*b*表色系を使用して、下式ΔE*で表すことができ、上記(1)同様イオン照射前後のポリエステルフィルムをそれぞれ10枚積層し、色を、分光測色計(コニカミノルタ社製CM−2600)でL***測定し、それぞれの変化量から計算した。
【0039】
ΔE*={(ΔL*+(Δa*+(Δb*1/2
なお測定は、正反射光条件(SCE)で実施した。C光源をポリエステルフィルムに当てて、観察視野10°(CIE1964)で測定を行った。
【0040】
(3)密着強度(N/15mm)の評価方法
透明ガスバリア性蒸着フィルムと厚さ60μmのポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製ZK100)をラミネートした。接着剤の主剤としてポリエステルポリオール(東洋モートン(株)製、AD−503)50重量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート(東洋モートン(株)製、CAT−10)2.5重量部、溶剤として酢酸エチル50重量部を室温で撹拌しながら混合し、バーコーターで透明ガスバリア性蒸着フィルムの蒸着面に塗布し、熱風オーブンで乾燥後ポリプロピレンフィルムと積層し、72時間エージングした。その積層品を15mm幅にカットし、135℃の条件下で40分間のハイレトルト処理を行い、24時間40℃の条件下で保管後、引っ張り試験器((株)エー・アンド・デイ製“テンシロン”)で剥離角度をポリプロピレンフィルムのみ180度に曲げて、クロスヘッドスピードを50mm/minでポリエステルフィルムと蒸着膜間の密着強度を測定した。
【0041】
(実施例1)
連続巻取り式蒸着機((株)アルバック製)内において、フィルム繰出し部と蒸着部の間に有効幅3mのリニア型アノードレイヤータイプのイオン源(米Veeco社製)をフィルム走行面から50mmの距離に設置し、厚さ12μm、原反幅2300mm、長さ60000mのPETフィルム(東レ(株)製、“ルミラー”(登録商標)、P60)を速度12m/sで搬送しながら、酸素をイオン源内のアノードとカソード間隙間に0.18L/min、幅方向に均等に導入し、圧力2×10―2Paの条件下、米グラスマン・ハイボルテージ社製直流高圧電源SHタイプを用いてアノード電圧2.0kVを印加し、アノード電流1350mAの条件でイオン照射処理をした。イオン照射して巻き取ったロールを大気中に取り出した後、光線透過率差ΔTと色差ΔEを評価した。ΔTは3.5%、ΔEは5.8であった。
【0042】
イオン照射して巻き取ったPETフィルムロールを大気中に24時間保管後、同じ連続巻取り式蒸着機の繰出し部に取り付け、蒸着前の到達圧力5×10−2Paまで真空引きした。つぎにPETフィルムを10m/sの速度で走行させ、粒状アルミニウム(駒沢金属(株)製、純度99.99%)の入ったるつぼを高周波誘導加熱して、蒸着部に酸素10L/minを導入して透過率モニターの設定値80%で投入電力を調節して蒸発量を設定し、酸化アルミニウム層をイオン照射面上に形成した。なお透過率モニターは、350nmの波長における光線透過率を測定するものであり、イオン照射を行っていないPETフィルムを通した際の値を100%として校正を行った。この時の蒸着部の真空度は1×10−1Paであり、この時の冷却ドラムの温度は−30℃であった。これにより、イオン照射面上に10nm厚の酸化アルミニウム層を設けた透明ガスバリア性蒸着フィルムを製造した。また、イオン照射して巻き取ったロールを大気中に1ヶ月保管後、前記蒸着条件で酸化アルミニウム蒸着し、イオン照射面上に10nm厚の酸化アルミニウム層を設けた透明ガスバリア性蒸着フィルムを製造した。前者の透明ガスバリア性蒸着フィルムのレトルト処理後の密着強度は4.2N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、4.1N/15mmであり、良好な結果であった。
【0043】
さらに、イオン照射して巻き取ったロールを大気中に3ヶ月保管後、前記蒸着条件で酸化アルミニウム蒸着し、イオン照射面上に10nm厚の酸化アルミニウム層を設けた透明ガスバリア性蒸着フィルムを製造した。レトルト処理後の密着強度は、3.5N/15mmであり、良好な結果であった。
【0044】
(実施例2)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.17L/min、圧力を1×10−2Paに変更し、アノード印加電圧を2.0kV、アノード電流を960mAとしてイオン照射を行った。ΔTは2.2%、ΔEは4.1であった。
【0045】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は3.5N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、3.2N/15mmであり、良好な結果であった。
【0046】
(実施例3)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.21L/min、圧力を4×10−2Paに変更し、アノード印加電圧を2.0kV、アノード電流を1880mAとしてイオン照射を行った。ΔTは5.2%、ΔEは6.5であった。
【0047】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は4.3N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、4.1N/15mmであり、良好な結果であった。
【0048】
(実施例4)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.18L/min、圧力を2×10−2Paと同じにし、アノード印加電圧を1.5kV、アノード電流を1020mAとしてイオン照射を行った。ΔTは1.5%、ΔEは4.2であった。
【0049】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は3.5N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、3.0N/15mmであり、良好な結果であった。
【0050】
(実施例5)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.18L/min、圧力を2×10−2Paと同じにし、アノード印加電圧を2.5kV、アノード電流を1520mAとしてイオン照射を行った。ΔTは9.1%、ΔEは10.2であった。
【0051】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は4.4N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、4.3N/15mmであり、良好な結果であった。
【0052】
(実施例6)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.17L/min、圧力を1×10−2Paに変更し、アノード印加電圧を1.5kV、アノード電流を750mAとしてイオン照射を行った。ΔTは1.4%、ΔEは2.8であった。
【0053】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は2.8N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、2.7N/15mmであり、良好な結果であった。
【0054】
(実施例7)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.21L/min、圧力を4×10−2Paに変更し、アノード印加電圧を2.5kV、アノード電流を2300mAとしてイオン照射を行った。ΔTは12.0%、ΔEは15.1であった。
【0055】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は4.4N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、4.4N/15mmであり、良好な結果であった。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.25L/min、圧力を6×10−2Paに変更し、アノード印加電圧を2.0kV、アノード電流を860mAとしてイオン照射を行った。イオン束が発散し、イオン照射が効率よく行われず、ΔTは0.5%、ΔEは1.5であった。
【0057】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は1.3N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、1.3N/15mmであり、不十分な結果であった。
【0058】
(比較例2)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.18L/min、圧力を2×10−2Paに変更し、アノード印加電圧を1.0kV、アノード電流を530mAとしてイオン照射を行った。ΔTは0.8%、ΔEは2.3であった。
【0059】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は1.5N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、1.5N/15mmであり、不十分な結果であった。
【0060】
(比較例3)
実施例1において、イオン照射時の酸素導入量を0.21L/min、圧力を4×10−2Paに変更し、アノード印加電圧を3.0kV、アノード電流を2580mAとしてイオン照射を行った。ΔTは15.6%、ΔEは19.0であった。
【0061】
透明ガスバリア性蒸着フィルム(イオン照射1日後に蒸着)のレトルト処理後の密着強度は4.4N/15mmであった。また、大気中に1ヶ月保管後の透明ガスバリア性フィルムのレトルト処理後の密着強度は、4.4N/15mmであり、密着強度は良好であったが、フィルムが茶褐色の外観となり、透明性が損なわれたため、使用に耐えないものとなった。
【0062】
(比較例4)
実施例と同じ連続巻取り式蒸着機を用い、イオン照射と反応性蒸着を同時に連続的に行った。PETフィルムを速度10m/sで搬送しながら、酸素をイオン源内のアノードとカソード間隙間に0.18L/min幅方向に均等に導入し、圧力を2×10―2Paに設定した。蒸着部に酸素を8L/min導入したところ、イオン源の圧力は4×10―2Paまで上昇した。アノード電圧1.5kVを印加しイオン照射処理を行いながら、透過率モニターの設定値80%で投入電力を調節して蒸発量を設定し蒸着を開始した。蒸着開始後、長さ20000メートル付近ではイオン源の圧力は7×10―2Paまで上昇し、蒸着の最後には4×10−2Paまで戻った。
【0063】
透明ガスバリア性蒸着フィルム上記蒸着開始後、長さ20000m付近のレトルト処理後の密着強度は1.0N/15mmであり、不十分な結果であった。
【0064】
(比較例5)
イオン照射を実施せず、実施例1における蒸着のみを行った。密着強度は0.2N/15mmであり、不十分な結果であった。
【0065】
実施例、比較例について、工程条件、フィルム特性を表1にまとめた。
【0066】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、イオン照射と蒸着を分けることによって、安定したイオン照射をポリエステルフィルムに施すことができ、イオン照射により表面処理が施された面上に金属酸化物を蒸着することで、優れたガスバリア性能と密着強度を得ることができる。また、イオン照射により表面処理が施されたポリエステルフィルムを一旦大気中に取り出し、光学特性を評価することで、表面処理の効果を確認することができ、従来技術によるイオン照射と蒸着の連続プロセスで問題となっていたイオン照射時の圧力変動による表面処理効果の不安定さを排除することができる。
【0068】
上記の結果、収率良く透明ガスバリア性蒸着フィルムを製造することができ、さらには表面処理を施したポリエステルフィルムを長期間保管し、真空蒸着機の都合により蒸着を行うことで最適な生産計画を組むことができるようになる。
【0069】
本発明は食品分野の包装材料等の分野で利用価値が高い。