特許第6809681号(P6809681)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許68096812−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドの遊離塩基の結晶多形
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809681
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドの遊離塩基の結晶多形
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/04 20060101AFI20201221BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20201221BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C07D401/04CSP
   A61K31/4439
   A61P7/06
【請求項の数】9
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2016-568465(P2016-568465)
(86)(22)【出願日】2015年2月5日
(65)【公表番号】特表2017-505347(P2017-505347A)
(43)【公表日】2017年2月16日
(86)【国際出願番号】US2015014589
(87)【国際公開番号】WO2015120133
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2018年2月5日
【審判番号】不服2019-7043(P2019-7043/J1)
【審判請求日】2019年5月29日
(31)【優先権主張番号】61/937,393
(32)【優先日】2014年2月7日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/937,404
(32)【優先日】2014年2月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515252271
【氏名又は名称】グローバル ブラッド セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】リ,チェ
(72)【発明者】
【氏名】ペアレント,ステファン,ディー
(72)【発明者】
【氏名】ヒューストン,トラビス
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 瀬良 聡機
【審判官】 関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/102142(WO,A1)
【文献】 芦澤一英 編,医薬品の多形現象と晶析の科学,丸善プラネット株式会社,2002年9月20日,p.3−16,273−278
【文献】 仲井由宣 外1名編,新製剤学,株式会社南山堂,1984年4月25日,p.102−103,232−233
【文献】 岡野定舗 編,新・薬剤学総論(改訂第3版),株式会社南江堂,1987年4月10日,p.111
【文献】 西垣貞男 著,調剤学−基礎と応用−,株式会社南山堂,1977年9月20日,p.142−145
【文献】 日本化学会 編,実験化学講座(続)2 分離と精製,丸善株式会社,1967年1月25日,p.159−178,186−187
【文献】 Chong−Hui Gu 外3名,international journal of pharmaceutics,2004年,Vol.283,p.117−125
【文献】 第十六改正 日本薬局方,2011年,p.64−68 2.58 粉末X線回折測定法,p.2070
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D401/04
REGISTRY STN,CAPLUS STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物1:
【化1】
の結晶であって、
13.37°、14.37°、19.95°及び23.92°2θ(各々±0.2°2θ)の粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)を有する、粉末X線回折パターンによって特徴付けられる、結晶。
【請求項2】
示差走査熱量測定により計測したとき、97±2℃の吸熱ピークによって特徴付けられる、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の結晶と薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項4】
対象中におけるヘモグロビンSの酸素親和性を増加させるための医薬品を製造するための、請求項1又は2に記載の結晶の使用。
【請求項5】
鎌状赤血球貧血を治療するための医薬品を製造するための、請求項1又は2に記載の結晶の使用。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の結晶を含む、ヘモグロビンSの酸素親和性増加剤。
【請求項7】
ヘモグロビンSの酸素親和性を増加させるための、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の結晶を含む、鎌状赤血球貧血治療剤。
【請求項9】
鎌状赤血球貧血を治療するための、請求項3に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドは、式:
【化1】
を有する化合物である。
【背景技術】
【0002】
鎌状赤血球症は赤血球の障害であり、特にアフリカ系及び地中海沿岸諸国の人々の間に見られる。鎌状赤血球症の基礎は鎌状ヘモグロビン(HbS)に見出され、これは、ヘモグロビン(Hb)の一般的なペプチド配列と比べて点突然変異を含む。
【0003】
ヘモグロビン(Hb)は、肺から全身の様々な組織及び器官に酸素分子を運ぶ。ヘモグロビンは立体構造を変化させることによって酸素の結合及び放出を行う。鎌状ヘモグロビン(HbS)は、グルタミン酸がバリンに置き換えられる点突然変異を含むため、HbSが重合を起こし易くなり、HbSを含有する赤血球にその特徴的な鎌形が付与される。鎌状赤血球はまた、正常な赤血球と比べて硬く、その柔軟性の欠如が血管の閉塞を招き得る。Hb又はHbSなどの異常なHbが媒介する障害を治療することのできる治療薬、例えば2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドが必要とされている。
【0004】
ヒトの治療に用いられる場合、2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドなどの治療剤、又はその塩の結晶形が、長期にわたり、且つ薬剤の様々な製造バッチ間で、その多形の及び化学的な安定性、溶解度、及び他の物理化学的特性を保つことが重要である。物理化学的特性が時間とともに及びバッチ間で変化する場合、治療有効用量の投与が問題となり、毒性の副作用又は効果のない治療がもたらされ、特に所与の多形が使用前に分解する場合には化合物は活性が低下し、不活性となり、又は毒性となる。従って、安定な、再現性良く製造される、且つ治療剤としてのその使用に有利な物理化学的特性を有する結晶性薬剤の形を選択することが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、当該技術では、薬剤のどの結晶形が所望の特性の組み合わせを有し、且つヒト投与に好適であるか、及びかかる結晶形の薬剤をどのように作製すればよいかを予測することは、依然としてできていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
無溶媒和物
本発明は、一部には、化合物1のHCl塩が不均化し又はHClを失い、水中における
化合物1のHCl塩の不均化により遊離塩基が発生するという発見から生じるものであり、不均化は、湿式粉砕で高湿度に曝露したとき、及び水と直接接触させると(例えばスラリー)容易であった。化合物1の硫酸塩もまた、水で沈殿させるとき、ジメチルスルホキシド及びメタノールなどのある種の溶媒から不均化する。HClの揮発は、乾燥状態に曝露する数時間の間に明瞭に認められた。例えば、30℃で12時間以内に遊離塩基への部分変換が観察された。従って、化合物1の遊離塩基は、対応するHCl又は硫酸塩及びその他の塩と比較して安定性がより高い化学物質をもたらす。
【0007】
ここで、2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド(又は化合物1)、即ち化合物1の遊離塩基は、1つ以上の結晶性無溶媒和物形として得られ得ることが発見されており、それらのうちのいくつかは、ここでは結晶フォームI、フォームII及びマテリアルNと称される。好ましい実施形態において、化合物1の遊離塩基は、結晶性無水形などの結晶性無溶媒和物である。化合物1の遊離塩基は、その対応する塩形態、例えば化合物1のHCl塩から得ることができる。
【0008】
遊離塩基の3つの無水結晶形が同定されており、遊離塩基フォームI、II、及びマテリアルNと称される。概してスラリーから初めに遊離塩基フォームIの核形成が起こることが見出されている。スラリー時間を長くすると、遊離塩基フォームIから、フォームIと比べて熱力学的に安定性がより高い相である遊離塩基フォームIIへの転移を生じさせることができる。さらに、室温で遊離塩基マテリアルNがフォームI及びIIと比べてより安定的であり得ることが見出されている。
【0009】
遊離塩基マテリアルNはフォームIIとエナンチオトロピックな関係にあることが分かったとともに、特定の転移温度(本明細書では約40〜42℃と推定される)で可逆的に転移し得る。転移温度より上では、遊離塩基フォームIIがフォームI及びマテリアルNと比べて最も安定した形であるように見える。従って、40℃より低い動作温度下、例えば30℃では、化合物1の遊離塩基は主にマテリアルNとして存在し、いくらかの残存するフォームIIを有し得る。従って、40℃より高い動作温度、例えば50℃では、化合物1の遊離塩基は主にフォームIIとして存在し、いくらかの残存するマテリアルNを有し得る。40℃では、マテリアルNとフォームIIとの間に認め得る変換はほとんど見られない。これは、ある種の溶媒中にあり且つ固体状態にある遊離塩基のスラリーに該当することが企図される。一実施形態において、化合物1の1つ以上の結晶性遊離塩基形は、結晶形の製造及び保管に好適な条件下で多形転移を起こさない。
【0010】
フォームI
一実施形態において、化合物1の結晶性遊離塩基は結晶フォームIを含み、フォームIは、示差走査熱量測定により計測したとき(97±2)℃の吸熱ピークによって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIは、示差走査熱量測定により計測したとき(97±2)℃の吸熱ピーク未満の温度で実質的に熱イベントがないことによって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIは、12.82°、15.74°、16.03°、16.63°、17.60°、25.14°、25.82°及び26.44°±0.2°2θの1つ以上の粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIは、図3のものと実質的に同様の粉末X線回折パターン(Cu Kα線)によって特徴付けられる。
【0011】
別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIは、12.82°、15.74°、16.03°、16.63°、17.60°、25.14°、25.82°及び26.44°(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも1つの粉末X線
回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIは、12.82°、15.74°、16.03°、16.63°、17.60°、25.14°、25.82°及び26.44°(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも2つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIは、12.82°、15.74°、16.03°、16.63°、17.60°、25.14°、25.82°及び26.44°(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも3つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。
【0012】
別の実施形態において、フォームIは、以下に表にまとめるとおりの1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上のピークによって特徴付けられる。
【0013】
【表1】
【0014】
フォームII
別の実施形態において、結晶性化合物1遊離塩基は結晶フォームIIを含み、フォームIIは、示差走査熱量測定により計測したとき(97±2)℃の吸熱ピークによって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIIは、示差走査熱量測定により計測したとき(97±2)℃の吸熱ピーク未満の温度で熱イベントが実質的にないことによって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIIは、13.37°、14.37°、19.95°又は23
.92°2θの1つ以上の粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIIは、図5のものと実質的に同様の粉末X線回折パターン(Cu Kα線)によって特徴付けられる。
【0015】
別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIIは、13.37°、14.37°、19.95°及び23.92°2θ(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIIは、13.37°、14.37°、19.95°及び23.92°2θ(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも2つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶フォームIIは、13.37°、14.37°、19.95°及び23.92°2θ(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも3つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。
【0016】
別の実施形態において、フォームIIは、以下に表にまとめるとおりの1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上のピークによって特徴付けられる。
【0017】
【表2】
【0018】
一部の実施形態では、結晶性化合物1の遊離塩基は結晶フォームIIを含む。一部の好ましい実施形態では、結晶性化合物1の遊離塩基は、化合物1の結晶フォームIIと、25モル%、10モル%又は5モル%未満の結晶フォームI、結晶マテリアルN又は非晶形とを含む。
【0019】
好ましい実施形態において、結晶フォームIIは、ヘプタン中に化合物1の遊離塩基を含むスラリーから調製され、このスラリーから結晶フォームIIが形成され、ろ過される。従って、一部の実施形態では、結晶フォームIIは残留(1〜500ppm)ヘプタンを含む。別の好ましい実施形態において、結晶フォームIIは、水中に化合物1の遊離塩
基を含むスラリーから調製され、このスラリーから結晶フォームIIが形成され、ろ過される。
【0020】
結晶フォームI又はマテリアルNと比べて、結晶フォームIIにはいくつかの利点がある。例えば、結晶フォームIIは、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(good manufacturing practices:GMP)プロトコルに好適な、ヘプタン中に化合物1の遊離塩基を含むスラリーから調製することができる。さらに、最も好ましい実施形態において、結晶フォームIIは、水中に化合物1の遊離塩基を含むか又は水中に化合物1のHCl塩を含むスラリーから調製してもよく、このようにして再結晶の間の溶媒の必要性を低下させ又はなくすことができる。従って、一部の実施形態では、化合物1の結晶フォームIIは、500ppm未満、100ppm、50ppm未満又は10ppm未満の有機溶媒を含む。また、フォームIIはマテリアルNと比べてサイズリダクション時、例えば粉砕時に凝集する傾向が低い。そのため、フォームIIはマテリアルNと比べて高い流動性を有する。マテリアルN(即ち、フォームN)と比べたフォームIIの特定の例示的且つ非限定的な利点を、以下の表に示す。
【0021】
【表3】
【0022】
マテリアルN
別の実施形態において、結晶性化合物1遊離塩基は結晶マテリアルNを含み、マテリアルNは、示差走査熱量測定により計測したとき(95±2)℃の吸熱ピークによって特徴付けられる。用語「マテリアルN」、「フォームN」及び「多形フォームN」は、本明細書では同義的に使用される。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶マテリアルNは、示差走査熱量測定により計測したとき(95±2)℃の吸熱ピーク未満の温度で熱イベントが実質的にないことによって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶マテリアルNは、11.65°、11.85°、12.
08°、16.70°、19.65°又は23.48°2θの1つ以上の粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶マテリアルNは、図7のものと実質的に同様の粉末X線回折パターン(Cu Kα線)によって特徴付けられる。
【0023】
別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶マテリアルNは、11.65°、11.85°、12.08°、16.70°、19.65°及び23.48°2θ(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶マテリアルNは、11.65°、11.85°、12.08°、16.70°、19.65°及び23.48°2θ(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも2つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。別の実施形態において、結晶性化合物1の遊離塩基の結晶マテリアルNは、11.65°、11.85°、12.08°、16.70°、19.65°及び23.48°2θ(各々±0.2°2θ)から選択される少なくとも3つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる。
【0024】
別の実施形態において、マテリアルNは、以下に表にまとめるとおりの1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上のピークによって特徴付けられる。
【0025】
【表4】
【0026】
一部の実施形態では、結晶性化合物1の遊離塩基は、化合物1の結晶マテリアルNと、25モル%、10モル%又は5モル%未満の結晶フォームI又はII又は非晶形とを含む。
【0027】
別の実施形態において、結晶マテリアルNは、メチル第三ブチルエーテル(MTBE)中に化合物1の遊離塩基を含むスラリーから調製され、このスラリーから結晶マテリアルNが形成され、ろ過される。従って、一部の実施形態では、結晶マテリアルNは残留(1〜500ppm)MTBEを含む。
【0028】
結晶フォームI又はIIと比べて、結晶マテリアルNにはいくつかの利点がある。例えば、結晶マテリアルNは、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)プロトコルに好適な、MTBE中に化合物1の遊離塩基を含むスラリーから調製することができる。
【0029】
一部の実施形態では、結晶性無溶媒和物形は、水、ヘプタン、イソプロピルエーテル(IPE)、MTBE、及びトルエン、及びその他の溶媒との接触に対して安定している。
【0030】
その組成物の実施形態の別の一つにおいて、本発明は、薬学的に許容可能な賦形剤と結晶性化合物1遊離塩基とを含む医薬組成物を提供し、この医薬組成物は、フォームI、フォームII又はマテリアルNの1つ以上を含む。
【0031】
その方法の実施形態の一つにおいて、本発明は、フォームI、フォームII及び/又はマテリアルNを例えば含む化合物1の固体結晶性遊離塩基の調製方法を提供する。
【0032】
その方法の実施形態のさらに別の一つにおいて、対象におけるヘモグロビンSの酸素親和性を増加させる方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に、フォームI、フォームII及び/又はマテリアルNを例えば含む化合物1の結晶性遊離塩基の治療有効量を投与するステップを含む。
【0033】
その方法の実施形態のさらに別の一つにおいて、対象における鎌状赤血球貧血に関連する酸素欠乏を治療する方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に、フォームI、フォームII及び/又はマテリアルNを例えば含む化合物1の結晶性遊離塩基の治療有効量を投与するステップを含む。
【0034】
かかる治療のいずれにおいても、治療される患者にとっての、フォームI、フォームII及び/又はマテリアルNを例えば含む化合物1の遊離塩基の有効量は、当該技術分野において既に開示されている。
【0035】
溶媒和物
本発明は、一部には、化合物1の遊離塩基の無溶媒和多形が、種々の溶媒、好ましくは特定の炭化水素溶媒、水及びエーテル類以外の溶媒と溶媒和多形を形成するという発見から生じるものである。
【0036】
化合物1の結晶性遊離塩基の(例えば、アセトン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ジオキサン、エタノール、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン(MEK)及びテトラヒドロフランからの)溶媒和物を例えば中間体として使用して、化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物を再生成することもまた企図される。かかる方法には、限定なしに、溶媒和物を真空条件に供するステップ;及び/又は塩を生成してそれを水中で不均化させることにより無溶媒和物を形成するステップ;及び/又はヘプタン、ジイソ
プロピルエーテル(IPE)、tert−メチルブチルエーテル(MTBE)及びトルエンなどの、溶媒和物を形成し難い溶媒で溶媒和物をスラリー化又は洗浄するステップが含まれ得る。
【0037】
その組成物の実施形態の別の一つにおいて、本発明は、薬学的に許容可能な賦形剤と本明細書に提供される溶媒和結晶形の1つ以上とを含む医薬組成物を提供する。
【0038】
その方法の実施形態の一つにおいて、本発明は、本明細書に提供される溶媒和結晶形の調製方法を提供する。
【0039】
その方法の実施形態のさらに別の一つにおいて、対象におけるヘモグロビンSの酸素親和性を増加させる方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に、本明細書に提供される溶媒和結晶形の1つ以上の治療有効量を投与するステップを含む。
【0040】
その方法の実施形態のさらに別の一つにおいて、対象における鎌状赤血球貧血に関連する酸素欠乏を治療する方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に、本明細書に提供される溶媒和結晶形の1つ以上の治療有効量を投与するステップを含む。
【0041】
かかる治療のいずれにおいても、治療される患者にとっての化合物1の遊離塩基の有効量は、当該技術分野において既に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】水中で5分間スラリー化する前(上)及び後(下)の結晶性HCl塩のXRPDプロファイルである。
図2】遊離塩基フォームI(上)、フォームII(中央)、及びマテリアルN(下)のXRPDプロファイルである。
図3】遊離塩基フォームIのXRPDプロファイル及び企図される指数付けである。
図4】遊離塩基フォームIの熱特性である。
図5】遊離塩基フォームIIのXRPDプロファイル及び企図される指数付けである。
図6】遊離塩基フォームIIの熱特性である。
図7】遊離塩基マテリアルNのXRPDプロファイルである。
図8】遊離塩基マテリアルNの熱特性である。
図9】遊離塩基フォームI、II、及びマテリアルNの間のエネルギー−温度図を示す。各結晶形のエンタルピー(H)及び自由エネルギー(G)の等圧線が温度の関数として示される。ΔHは融解熱である;Tは転移温度である;mは融解温度である;添え字I、II、及びNは多形を指す。*この試験条件下では、6℃未満及び推定転移温度TN−IIを超えるフォームIの自由エネルギー等圧線をグラフに表すには、利用可能な情報が不十分であった;等圧線は、mII未満の温度でGと交差するものと思われ、フォームIがフォームII(この場合TI−IIが6℃未満で起こる)及び/又はマテリアルN(この場合TI−NがTI−II未満で起こるか又はTN−IがTN−II超で起こるかのいずれかであり、但し両方ではない)とエナンチオトロピックであり得る可能性を考慮し得る。自由エネルギー等圧線は互いに1回交わることができるのみである。
図10】遊離塩基フォームI(下)、II(中央)、及びマテリアルN(上)の13C固体NMRスペクトルを示す。フォームIは非対称単位当たり1個の分子を含む。マテリアルNは非対称単位当たり4個の分子を含む。13C固体NMRスペクトルによって観察されるとおり、フォームII及びNは250K〜340Kで転移を起こさなかった。化学シフトは温度に伴い僅かに変化する(グラフ上は示されない)。
図11】遊離塩基フォームI(下)、II(中央)、及びマテリアルN(上)のN固体NMRスペクトルを示す。
図12】遊離塩基マテリアルNの示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す。
図13】遊離塩基フォームIIのDSC曲線を示す。
図14】遊離塩基フォームIのDSC曲線を示す。
図15】複数の温度における化合物1の遊離塩基の成熟実験のXRPDプロファイルを示す。
図16】溶媒和マテリアルEの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図17】溶媒和マテリアルFの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図18】溶媒和マテリアルGの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図19】溶媒和マテリアルHの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図20】溶媒和マテリアルJの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図21】溶媒和マテリアルKの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図22】溶媒和マテリアルLの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図23】溶媒和マテリアルMの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図24】溶媒和マテリアルOの企図されるXRPDプロファイルを示す。
図25】化合物1の遊離塩基の企図される同形溶媒和物のXRPDプロファイル比較を示す。上から下に:アセトンからのマテリアルE;ACNからのマテリアルF;DCMからのマテリアルG;ジオキサンからのマテリアルH;EtOHからのマテリアルJ;IPA/水からのマテリアルK(IPAからもまた得られる);及びTHFからのマテリアルL、MEKからのマテリアルM。
【発明を実施するための形態】
【0043】
上述のとおり、本発明は、一部には、化合物1の安定な遊離塩基に関し、詳細には、遊離塩基フォームI、フォームII又はマテリアルNに関する。しかしながら、本発明をさらに詳細に考察する前に、以下の用語を定義する。
【0044】
定義
本明細書で使用されるとき、以下の用語は以下の意味を有する。
【0045】
単数形「a」、「an」、及び「the」などは、文脈上特に明確に指示されない限り複数の指示対象を含む。従って、例えば「化合物(a compound)」に対する言及には、単一の化合物及び複数の異なる化合物の両方が含まれる。
【0046】
用語「約」は、範囲を含めた数値の表記、例えば、温度、時間、量、及び濃度の前に使用されるとき、±10%、±5%又は±1%だけ変動し得る近似を示す。
【0047】
「投与」は、患者に薬剤を導入することを指す。治療量を投与することができ、治療量は治療を行う医師などにより決定され得る。経口投与経路が好ましい。化合物又は医薬組成物に関連して使用されるとき、関連する用語及び語句「投与する」及び「〜の投与」(及び文法上の等価語)は、直接投与(これは患者への医療専門家によるか又は患者による自己投与による投与であり得る)、及び/又は間接的な投与(これは薬物を処方する行為であり得る)の両方を指す。例えば、患者に薬物を自己投与するよう指図する医師及び/又は患者に薬物の処方箋を提供する医師は、患者に薬物を投与している。いずれにしても、投与は、患者に対する薬物の送達を伴う。
【0048】
化合物1の「結晶性無溶媒和物」は、例えば、本明細書に開示されるとおりのフォームI、フォームII又はマテリアルNなどの、2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドの遊離塩基の結晶固体形である。フォームI、フォームII又はマテリアルNの結晶格子の各々は、実質的に結晶化溶媒を含まない。しかしながら、存在するいかなる溶媒も結
晶格子内には含まれず、溶媒は結晶格子外にランダムに分布する。従って、フォームI、フォームII又はマテリアルNのバルク結晶は、1つ以上の溶媒、例えばその合成又は結晶化に用いられる溶媒を結晶格子外に少量含有し得る。上記で用いられているとおりの「実質的に含まない」及び「少量」は、好ましくは10,000百万分率(ppm)未満、又はより好ましくは500ppm未満の溶媒の存在を指す。
【0049】
化合物1の「結晶性溶媒和物」は、2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドの遊離塩基の結晶固体形であり、ここでは結晶格子が1つ以上の結晶化溶媒を含む。
【0050】
「特徴付け」は、化合物の固体形を同定するため、例えば、その固体形が非晶質か又は結晶性か、及びそれが非溶媒和型か又は溶媒和型かを同定するために用いられ得るデータを入手することを指す。固体形を特徴付けるプロセスには、当業者がある固体形を同じ物質を含む他の固体形と区別し得るように、多形結晶形に関して収集されたデータを分析することが関わる。固体形の化学的アイデンティティは、多くの場合に13C NMR又はH NMRなどの溶液法で決定され得る。これらは物質、及び溶媒和物の溶媒分子を同定する助けとなり得るが、かかる溶液法それ自体は固体状態に関する情報を提供しない。しかしながら、固体構造に関する情報を提供し、且つ多形固体形間を区別するために用いることのできる固体解析法、例えば、単結晶X線回折、粉末X線回折(XRPD)、固体核磁気共鳴(SS−NMR)、及び赤外線及びラマン分光法、並びに熱的技法、例えば、示差走査熱量測定(DSC)、固体13C−NMR、熱重量測定(TG)、融点、及びホットステージ顕微鏡法がある。
【0051】
化合物の固体形を「特徴付ける」には、例えば、化合物の固体形に関するXRPDデータを収集し、形のXRPDピークを比較し得る。例えば、3つの固体形、例えばフォームI及びII及びマテリアルNのみを比較して、フォームII又はマテリアルNパターンではピークが現れない場合にフォームIパターンがある角度でピークを示すとき、当該の化合物の当該のピークがフォームIをフォームII及びマテリアルNと区別し、さらにはフォームIを特徴付ける働きをする。例えばフォームIを他の既知の形と区別するピークの集合は、フォームIの特徴付けに用い得るピークの集合である。当業者は、固体形を特徴付ける方法が、同じ分析技法を用いる複数の方法を含め、往々にして複数あることを認識するであろう。形の特徴付けには、最大で全回折パターンに至るまでのさらなるピークもまた用いることができ、しかし必須ではない。全XRPDパターンの範囲内にあるあらゆるピークをかかる形の特徴付けに用い得るが、形の特徴付けには当該のデータの一部を用いてもよく、及び典型的には、一部が用いられる。
【0052】
XRPDパターンは、x軸に回折角(典型的には°2θ)及びy軸に強度をとるx−yグラフである。このパターン内のピークを使用して結晶固体形を特徴付け得る。あらゆるデータ測定と同様に、XRPDデータには変動性がある。データは多くの場合に、ピークの強度を含めるよりむしろ、専らピークの回折角によって表され、これは、ピーク強度が試料調製に特に敏感であり得るため(例えば、粒度、含水量、溶媒含量、及び好ましい配向効果が、どれだけ敏感かに影響する)、従って異なる条件下で調製された同じ物質の試料が僅かに異なるパターンを生み出し得る(この変動性は通常、回折角の変動性より大きい)という理由からである。回折角の変動性もまた、試料調製に敏感であり得る。他の変動性要因は、装置パラメータ及び生のX線データの処理に由来する:異なるX線装置は異なるパラメータを使用して動作し、それらが同じ固体形からの僅かに異なるXRPDパターンをもたらし、同様に、異なるソフトウェアパッケージが異なる形でX線データを処理し、これもまた変動性をもたらす。これらの及び他の変動性要因は、製薬技術分野の当業者に公知である。かかる変動性要因のため、XRPDパターンの回折角に±0.2°2θの変動性を割り当てることが通例である。
【0053】
「含んでいる(comprising)」又は「〜を含む(comprises)」は、組成物及び方法が記載される要素を含むが、他の要素を排除しないことを意味するように意図される。「〜から本質的になる(consisting essentially
of)」は、組成物及び方法を定義するために用いられるとき、記載される目的上その組み合わせにとって本質的に重要な他の要素を排除することを意味するものとする。従って、本明細書に定義するとおりの要素から本質的になる組成物は、特許請求される発明の基本的な且つ新規の1つ又は複数の特徴に実質的に影響を及ぼさない他の材料又はステップを排除しない。「〜からなる(consisting of)」は、他の成分及び実質的な方法ステップの痕跡量を超える要素を排除することを意味するものとする。これらの移行句の各々により定義される実施形態は、本発明の範囲内にある。
【0054】
フォームII及びマテリアルNは、(約42℃の)転移温度でエナンチオトロピックである。この転移温度未満では、化合物1の遊離塩基のマテリアルNが、フォームI及びIIと比べてより熱力学的安定性の高い形である。この転移温度より上では、化合物1の遊離塩基のフォームIIが、フォームI及びマテリアルNと比べてより熱力学的安定性の高い形である。
【0055】
「室温」は(22±5)℃を指す。
【0056】
「治療有効量」又は「治療量」は、病態に罹患している患者に投与されたとき、意図される治療効果、例えば、患者におけるその病態の1つ以上の症状の軽減、改善、緩和又は消失を有し得る薬物又は薬剤の量を指す。治療有効量は、治療される対象及び病態、対象の体重及び年齢、病態の重症度、選択される詳細な組成物又は賦形剤、従うべき投与レジメン、投与タイミング、投与法などに応じて異なる場合があり、これらは全て、当業者によって容易に決定され得る。必ずしも1用量の投与で完全な治療効果が現れるものではなく、一連の用量を投与した後にのみ現れることもある。従って、治療有効量は1回以上の投与で投与され得る。例えば、及び限定なしに、薬剤の治療有効量は、ヘモグロビンSに関連する障害を治療するというコンテクストでは、患者におけるヘモグロビンSに関連する障害の1つ以上の症状を緩和し、改善し、軽減し、又は消失させる薬剤の量を指す。
【0057】
「治療」、「治療している」、及び「〜を治療する」は、疾患、障害、又は病態及び/又はその症状の有害な又は任意の他の望ましくない効果を低減し又は改善するため薬剤によって疾患、障害、又は病態に作用することとして定義される。治療は、本明細書で使用されるとき、ヒト患者の治療を包含し、且つ以下を含む:(a)その疾患に罹り易いと判断されているが、その病態を有するとの診断はまだ受けていない患者において病態が発生するリスクを低下させること、(b)病態の発症を妨げること、及び/又は(c)病態を取り除くこと、即ち病態の消失を生じさせること及び/又は病態の1つ以上の症状を取り除くこと。本発明の目的上、有益な又は所望の臨床結果としては、限定はされないが、多系列での血液学的改善、所要輸血回数の減少、感染の減少、出血の減少などが挙げられる。
【0058】
フォームI、II及びマテリアルNの同定
化合物1のHCl塩を様々なストレス条件に供すると、水中でのHCl塩の不均化が遊離塩基を生じることが観察された。遊離塩基の少なくとも3つの無水結晶形が同定されており、遊離塩基フォームI、II、及びマテリアルNと称される。遊離塩基フォームIの核形成が概して最初に起こること、及びスラリー時間を長くすると、遊離塩基フォームIから、フォームIと比べて熱力学的安定性がより高い相である遊離塩基フォームIIへの転移が引き起こされることが見出された。さらに、室温では、フォームI及びIIと比べて遊離塩基マテリアルNが最も安定した形と見られることが見出された。遊離塩基マテリ
アルNはフォームIIに対してエナンチオトロピック活性を有することが分かり、特定の転移温度(本明細書では約42℃と推定される)で可逆的に転移し得る。転移温度より上では、フォームI及びマテリアルNと比べて遊離塩基フォームIIが最も安定した形と見られる。
【0059】
固体核磁気共鳴データに一部基づけば、3つの形は全て結晶性であり、個別的な多形結晶形である。図10及び図11を参照のこと。フォームIは非対称単位当たり1個の分子を含み、フォームIIは非対称単位当たり2個の分子を含み、及びフォームNは非対称単位当たり4個の分子を含む。図1115Nスペクトルを参照のこと。
【0060】
フォームI、II及びマテリアルNの無溶媒和物
一実施形態において、本発明は、化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物を提供する。化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物は、フォームI、フォームII及び/又はマテリアルN多形のうちの1つ以上を含み得る。一部の実施形態では、化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物はフォームII多形を含み得る。好ましくは、化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物はフォームII及び/又はマテリアルN多形を含み得る。より好ましくは、化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物はマテリアルN多形を含み得る。さらにより好ましくは、化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物は化合物1遊離塩基の溶媒和多形を実質的に含まない。さらになおもより好ましくは、化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物は化合物1遊離塩基の他の無溶媒和物多形を実質的に含まない。構成成分を「実質的に含まない」とは、本明細書で使用されるとき、当該の構成成分の最大約5%、より好ましくは約3%、及びさらにより好ましくは約1%を含有することを指す。本明細書で使用されるとき、溶媒和物には水和物形態も同様に含まれる。
【0061】
化合物1の溶媒和物
一態様において、化合物1:
【化2】
の結晶性溶媒和物が提供される。
【0062】
一部の実施形態では、結晶性溶媒和物は化合物1の無溶媒和多形を実質的に含まない。
【0063】
化合物1の遊離塩基による溶解度及びスクリーニング実験の多くが、何らかの溶媒との溶媒和物の形成として特徴付けられる固体の沈殿をもたらした。これらの条件下で、ヘプタン、ジイソプロピルエーテル(IPE)、tert−メチルブチルエーテル(MTBE)及びトルエンを含む4つの溶媒によっては化合物1の遊離塩基からの溶媒和物は観察されなかった。アセトン(マテリアルE)、アセトニトリル(マテリアルF)、ジクロロメタン(マテリアルG)、ジオキサン(マテリアルH)、エタノール(マテリアルJ)、イソプロピルアルコール又は水とイソプロピルアルコールとの混合物(マテリアルK)、テトラヒドロフラン(マテリアルL)、メチルエチルケトン「MEK」(マテリアルM)、酢酸エチル(マテリアルO)及びジメチルスルホキシド「DMSO」(マテリアルP)を含む9つの溶媒においては、化合物1の遊離塩基から溶媒和物が観察された。溶媒和物の
大部分(即ち、マテリアルE〜H、J〜M、O及びP)は同形であることが企図される。一部の実施形態では、結晶性溶媒和物は、マテリアルE、マテリアルF、マテリアルG、マテリアルH、マテリアルJ、マテリアルK、マテリアルL、マテリアルM、マテリアルO又はマテリアルPのうちの1つ以上を含む。
【0064】
マテリアルEは、8.69、11.73、12.10、15.26、16.11、17.45、22.39、22.55及び23.70±0.20から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けることができる。マテリアルFは、8.47、8.81、12.75、13.17、14.92、15.63、17.01 23.73、及び24.07±0.20から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けることができる。マテリアルGは、8.47、11.45、12.62、14.66、15.69、17.01、18.47、20.32、22.61、23.08、23.43及び23.70±0.20から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けることができる。マテリアルHは、8.61、11.67、15.33、16.28、17.28、22.58、23.51及び25.77±0.20から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けることができる。マテリアルJは、8.52、8.88、12.79、15.04、15.61、17.11、22.81、23.87、24.17、24.62及び26.44±0.20から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けることができる。マテリアルKは、8.52;8.83、11.35、15.04、15.74、17.11、23.46、23.58、24.08及び25.99±0.20から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けることができる。マテリアルLは、8.61、8.78、11.67、14.94、15.28、16.14、17.30、22.75、23.71及び26.05±0.20から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けることができる;及びマテリアルMは、7.74、10.05、12.82、15.33、16.80、20.82、21.14、25.80及び26.97±0.20から選択される少なくとも1つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けることができる。
【0065】
溶媒和物(アセトン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ジオキサン、エタノール、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、MEK、テトラヒドロフラン又はDMSOなどのもの)を例えば中間体として使用することにより、溶媒和物を真空条件に供するステップ;及び/又はHCl塩を再生成してHClを不均化させるステップ;及び/又はヘプタン、ジイソプロピルエーテル(IPE)、tert−メチルブチルエーテル(MTBE)及びトルエンなどの、溶媒和物を形成し難い溶媒で溶媒和物を洗浄するステップを含むいくつかの方法で化合物1の遊離塩基結晶性無溶媒和物を再生成し得る。
【0066】
【表5】
【0067】
本明細書に提供される様々な溶媒和物の特定の企図されるピークを以下の表にまとめる。ある種のピーク、好ましくは重複しない小角のピークであって、強度が大きいピークは、同定されなかった。ピークは、試料中の好ましい配向の状態が未知である範囲内で決定された。
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
【表8】
【0071】
【表9】
【0072】
【表10】
【0073】
【表11】
【0074】
【表12】
【0075】
【表13】
【0076】
【表14】
【0077】
医薬組成物
その組成物の実施形態の別の一つにおいて、本発明は、薬学的に許容可能な賦形剤と、好ましくはフォームI、フォームII及び/又はマテリアルN多形のうちの1つ以上を含む、化合物1の結晶性遊離塩基無溶媒和物とを含む医薬組成物を提供する。
【0078】
かかる組成物は、種々の投与経路用に製剤化することができる。経口送達に好適な組成物が恐らく最も高い頻度で用いられるが、用いられ得る他の経路には、静脈内、動脈内、肺、直腸、経鼻、腟、舌、筋肉内、腹腔内、皮内、頭蓋内、皮下及び経皮経路が含まれる。本明細書に記載される任意の化合物の投与に好適な剤形としては、錠剤、カプセル、丸薬、散剤、エアロゾル、坐薬、非経口剤、及び経口液、例えば、懸濁液、溶液及びエマルションが挙げられる。徐放剤形もまた、例えば経皮パッチの形態で用いられ得る。剤形はいずれも、当該技術分野で標準的な方法を用いて調製され得る(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th ed.,A.Oslo editor,Easton Pa.1980を参照のこと)。
【0079】
薬学的に許容可能な賦形剤は非毒性であり、投与を助け、且つ本発明の化合物の治療利益に悪影響を及ぼさない。かかる賦形剤は、概して当業者に利用可能な任意の固体、液体、半固体、又はエアロゾル組成物の場合には気体の賦形剤であってもよい。本発明における医薬組成物は当該技術分野において公知の方法を用いて従来手段により調製される。
【0080】
本明細書に開示される組成物は、医薬製剤中に一般的に用いられる任意の媒体及び賦形剤、例えば、タルク、アラビアゴム、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、カカオ脂、水性又は非水性溶媒、油、パラフィン誘導体、グリコール等と併せて使用され得る。着色剤及び香味剤もまた製剤、特に経口投与用の製剤に添加され得る。溶液は、水又は生理学的に適合性の有機溶媒、例えばエタノール、1,2−プロピレングリコール、ポリグリコール、ジメチルスルホキシド、脂肪アルコール、トリグリセリド、グリセリンの部分エステルなどを使用して調製され得る。
【0081】
固体の医薬賦形剤としては、デンプン、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、タルク、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳などが挙げられる。液体及び半固体の賦形剤は、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール及び様々な油、例えば石油、動物、植物又は合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等から選択され得る。特定の実施形態において、本明細書に提供される組成物は、α−トコフェロール、アラビアゴム、及び/又はヒドロキシプロピルセルロースの1つ以上を含む。
【0082】
一実施形態において、本発明は、本明細書に提供される化合物の有効量を含む薬物デポー又はパッチなどの徐放製剤を提供する。別の実施形態において、パッチはアラビアゴム又はヒドロキシプロピルセルロースを別々に又は組み合わせて、α−トコフェロールの存在下にさらに含む。好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロースは10,000〜100,000の平均分子量(MW)を有する。より好ましい実施形態において、ヒドロキシプロピルセルロースは5,000〜50,000の平均MWを有する。
【0083】
本発明の化合物及び医薬組成物は、単独で、又は他の化合物との組み合わせで使用され得る。別の薬剤を伴い投与されるとき、共投与は、両方の薬理効果が患者において同時に現れる任意の方法であってよい。従って、共投与は、本発明の化合物及び他の薬剤の両方の投与に単一の医薬組成物、同じ剤形、又はさらには同じ投与経路が用いられる必要はなく、又は2つの薬剤が厳密に同じ時点で投与される必要はない。しかしながら、共投与は、最も好都合には、同じ剤形及び同じ投与経路により、実質的に同じ時点で達成され得る
。明らかに、かかる投与は最も有利には、本発明における新規医薬組成物中の両方の活性成分を同時に送達することにより実施する。
【0084】
調製及び治療方法
無溶媒和物
別の態様において、本発明は、化合物1の結晶性遊離塩基無溶媒和物の調製方法を提供する。一実施形態において、本明細書には、化合物1のHCl塩を水とスラリー化し又は接触させるステップと、HClの解離により化合物1の遊離塩基を生じさせるステップとを含む、化合物1の結晶性遊離塩基の調製方法が提供される。一実施形態において、調製される化合物1の結晶性遊離塩基無溶媒和物は、フォームI、フォームII及びマテリアルNの1つ以上を含む。
【0085】
その方法の実施形態のさらに別の一つにおいて、対象におけるヘモグロビンSの酸素親和性を増加させる方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に化合物1の結晶性遊離塩基の治療有効量を投与するステップを含む。一部の実施形態では、化合物1の結晶性遊離塩基は無溶媒和物である。一実施形態において、化合物1の結晶性遊離塩基は、フォームI、フォームII及びマテリアルNの1つ以上を含む。
【0086】
その方法の実施形態のさらに別の一つにおいて、対象における鎌状赤血球貧血に関連する酸素欠乏を治療する方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に化合物1の結晶性遊離塩基の治療有効量を投与するステップを含む。一部の実施形態では、化合物1の結晶性遊離塩基は無溶媒和物である。一実施形態において、化合物1の結晶性遊離塩基は、フォームI、フォームII及びマテリアルNの1つ以上を含む。
【0087】
本発明のさらなる態様において、鎌状赤血球症の治療方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に化合物1の結晶性遊離塩基の治療有効量を投与するステップを含む。一部の実施形態では、化合物1の結晶性遊離塩基は無溶媒和物である。一実施形態において、化合物1の結晶性遊離塩基は、フォームI、フォームII及びマテリアルNの1つ以上を含む。本発明のさらに別の態様において、癌、肺障害、脳卒中、高所病、潰瘍、褥瘡、アルツハイマー病、急性呼吸器疾患症候群、及び創傷の治療方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に化合物1の結晶性遊離塩基の治療有効量を投与するステップを含む。一部の実施形態では、化合物1の結晶性遊離塩基は無溶媒和物である。一実施形態において、化合物1の結晶性遊離塩基は、フォームI、フォームII及びマテリアルNの1つ以上を含む。
【0088】
かかる治療において、治療される患者に対する化合物1の結晶性遊離塩基の投薬は、当該技術分野において既に開示されている。
【0089】
溶媒和物
別の態様において、本発明は、化合物1の結晶性遊離塩基溶媒和物の調製方法を提供する。一部の実施形態では、化合物1の本明細書に記載されるとおりの(例えば、化合物1のHCl塩を水中にスラリー化することにより得られるとおりの)遊離塩基無溶媒和物を、溶媒の混合物を含めた、本明細書に提供されるとおりの溶媒と接触させて、溶媒和物を調製する。溶媒又は溶媒の混合物。従って、溶媒は単一の溶媒又は実質的に単一の溶媒又は溶媒の混合物であってもよい。溶媒の混合物が使用される場合、その溶媒混合物の個々の構成溶媒の1つ以上を有する溶媒和物が生成され得る。一部の実施形態では、溶媒には、モノ、ジ又はそれより多価のアルコール又はアルカノールなどのアルコール溶媒が含まれる。一部の実施形態では、溶媒には、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩化溶媒が含まれる。一部の実施形態では、溶媒には、アルカノン及びシクロアルカノンなどのケトン溶媒が含まれる。特定の溶媒としては、限定なしに、場合により水を含む、メタノール、
エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、アセトニトリル、アセトン、ジクロロメタン、ジオキサン、又はテトラヒドロフラン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0090】
別の態様において、対象におけるヘモグロビンSの酸素親和性を増加させる方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に化合物1の結晶性溶媒和物の治療有効量を投与するステップを含む。
【0091】
別の態様において、鎌状赤血球貧血に関連する酸素欠乏の治療方法が提供され、この方法は、それを必要としている対象に化合物1の結晶性溶媒和物の治療有効量を投与するステップを含む。
【実施例】
【0092】
以下の例は、化合物1フォームI無溶媒和物の遊離塩基の調製、特徴付け、及び特性を記載する。特に指定されない限り、温度は全てセルシウス度(℃)であり、以下の略記は以下の定義を有する:
DSC 示差走査熱量測定
DVS 動的蒸気収着
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
NA 該当なし
ND 未検
Q 単位時間当たりに溶解した割合
RH 相対湿度
RSD 残差標準偏差
RRT 相対保持時間
SS−NMR 固体核磁気共鳴
TGA 熱重量分析
TG−IR 熱重量赤外分析
XRPD 粉末X線回折
VT−XRPD 可変温度粉末X線回折
【0093】
化合物1を調製するための合成経路
以下に概略的に記載し且つその後に詳説するとおり、式(I)の化合物を合成した。
【化3】
【0094】
実施例1:化合物15の合成
【化4】
0℃でDCM(50ml)中2−ブロモベンゼン−1,3−ジオール(5g、26.45mmol)の溶液に、DIPEA(11.54mL、66.13mmol)及びMOMCl(4.42mL、58.19mmol)を添加した。混合物を0℃で1.5時間撹拌し、次に室温に加温した。溶液をDCMで希釈し、飽和NaHCO、ブラインで洗浄し、乾燥させて濃縮すると粗生成物が得られ、これをカラム(ヘキサン/EtOAc=4:1)で精製することにより、所望の生成物15.58g(90%)を得た。
【0095】
実施例2:化合物13〜15の合成
【化5】
−78℃でTHF(150mL)中2−ブロモ−1,3−ビス(メトキシメトキシ)ベンゼン(15)(19.9g、71.8mmol)の溶液に、BuLi(2.5M、31.6mL、79.0mmol)を滴下して添加した。この溶液を−78℃で25分間撹拌し(白濁した混合物が生じる)、次にそれを0℃に加温し、25分間撹拌した。反応混合物はゆっくりと均一になった。この溶液に0℃でDMFを添加した。25分後、HPLCは反応の完了を示した。混合物を飽和NH4Cl(150mL)でクエンチし、エーテル(300mL)で希釈した。有機層を分離し、水層をエーテル(2×200mL)でさら
に抽出し、有機層を合わせ、ブラインで洗浄し、乾燥させて濃縮すると粗生成物が得られ、これを粉砕することにより、14.6gの所望の生成物を得た。次にろ液を濃縮し、カラムで精製することにより、さらなる0.7gを得た。全質量は15.3gである。
【0096】
実施例3:レソルシノール11からの化合物13の合成
【化6】
機械的スターラーを備えた三つ口丸底フラスコに、窒素雰囲気下で0.22molのNaH(鉱油中50%懸濁液)を入れた。NaHを2部分量(100mL)のn−ヘキサン、次に300mLの乾燥ジエチルエーテルで洗浄した;次に80mLの無水DMFを添加した。次に100mLのジエチルエーテル中に溶解した0.09molのレソルシノール11を滴下して添加し、混合物を撹拌下に室温で30分間放置した。次に0.18molのMOMClをゆっくりと添加した。撹拌下室温で1時間後、250mLの水を添加し、有機層をジエチルエーテルで抽出した。抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(NaSO)、次に濃縮すると粗生成物が得られ、これをシリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、化合物12(93%収率)を得た。
【0097】
三つ口丸底フラスコに、窒素雰囲気下で110mLのn−ヘキサン、0.79molのBuLi及び9.4mLのテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を入れた。この混合物を−10℃で冷却し、0.079molのビス−フェニルエーテル12をゆっくりと添加した。得られた混合物を−10℃で2時間、磁気撹拌下に放置した。次に温度を0℃に上昇させ、0.067molのDMFを滴下して添加した。1時間後、pHが酸性になるまでHCl水溶液を添加した;次に混合物をエチルエーテルで抽出した。合わせた抽出物をブラインで洗浄し、乾燥させ(NaSO)、濃縮することにより、アルデヒド13(84%)を得た。
2,6−ビス(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(13):融点58〜59℃(n−ヘキサン);IR(KBr)n:1685(C=O)cm−1H−NMR(400MHz,CDCl)δ3.51(s,6H,2 OCH),5.28(s,4H,2
OCHO),6.84(d,2H,J=8.40Hz,H−3,H−5),7.41(t,1H,J=8.40Hz,H−4),10.55(s,1H,CHO);MS,m/e(相対強度)226(M+,3),180(4),164(14),122(2),92(2),45(100);分析C1114計算値:C,58.40;H,6.24.実測値:C,57.98;H,6.20.
【0098】
実施例4:化合物16の合成
【化7】
THF(105mL)(溶媒はNでパージした)中2,6−ビス(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(13)(15.3g、67.6mmol)の溶液に、濃HCl(12N、7mL)をN下で添加し、次にそれをN下で1.5時間さらに撹拌した。この
溶液に、ブライン(100mL)及びエーテル(150ml)を添加した。有機層を分離し、水層をエーテル(2×200mL)でさらに抽出した。有機層を合わせ、ブラインで洗浄し、乾燥させて濃縮すると粗生成物が得られ、これをカラム(300g、ヘキサン/EtOAc=85:15)で精製することにより、所望の生成物16(9.9g)を黄色の液体として得た。
【0099】
実施例5:化合物17の合成
【化8】
DMF(120mL)(DMF溶液はNで10分間パージした)中2−ヒドロキシ−6−(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(16)(10.88g、59.72mmol)の溶液に、KCO(32.05g、231.92mmol)及び3−(クロロメチル)−2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジンヒドロクロリド(10)(15.78g、57.98mmol)を添加した。この混合物を65℃で1.5時間加熱し、室温に冷却し、氷水(800mL)中に流し込んだ。沈殿した固体をろ過によって単離し、乾燥させて濃縮することにより、所望の生成物(17、18g)を得た。
【0100】
実施例6:化合物(I)の合成
【化9】
THF(135mL、溶液はNでパージした)中2−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)−6−(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(17)(18g、47.19mmol)の溶液に、濃HCl(12N、20mL)を添加した。溶液を室温で3時間撹拌したところでHPLCが反応の完了を示した。この混合物を水(1.2L)中NaHCO(15g)の溶液に添加し、得られた沈殿物をろ過によって回収し、乾燥させることにより粗固体を得て、これをカラム(DCM/EtOAc=60:40)によりさらに精製することにより、純粋生成物(15.3g)を得た。
【0101】
実施例7:化合物I(遊離塩基)及びそのHCl塩形態の合成
化合物(I)遊離塩基(40g)を、光延条件下でのアルコール中間体7と2,6−ジヒドロキシベンズアルデヒド9とのカップリングから得た。以下にも手順を提供する:
【化10】
【0102】
実施例8:光延カップリングによる化合物(I)の合成
窒素不活性雰囲気でパージし及び維持した2000mL三つ口丸底フラスコに、テトラヒドロフラン(1000mL)中[2−[1−(プロパン−2−イル)−1H−ピラゾール−5−イル]ピリジン−3−イル]メタノール(7)(70g、322.18mmol、1.00当量)の溶液を入れた。この反応混合物に、2,6−ジヒドロキシベンズアルデヒド(9)(49.2g、356.21mmol、1.10当量)及びPPh(101g、385.07mmol、1.20当量)を添加した。続いてテトラヒドロフラン(200ml)中DIAD(78.1g、386.23mmol、1.20当量)の溶液を撹拌しながら滴下して添加した。得られた溶液を室温で一晩撹拌した。得られた溶液を500mLのHOで希釈した。得られた溶液を3×500mLのジクロロメタンで抽出し、合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて真空下で濃縮した。この残渣を、EA:PE(1:50−1:3)を溶離液として含むシリカゲルカラムに加え、粗生成物を生じさせた。この粗生成物を1/1.5の比のi−プロパノール/HOから再結晶化させた。これにより、40g(37%)の2−ヒドロキシ−6−([2−[1−(プロパン−2−イル)−1H−ピラゾール−5−イル]ピリジン−3−イル]メトキシ)ベンズアルデヒドが淡黄色の固体として得られた。この化合物は80〜82℃の融点を呈した。MS(ES,m/z):338.1[M+1].H NMR(300MHz,DMSO−d6)δ11.72(s,1H),10.21(s,1H),8.76(d,J=3.6Hz,1H),8.24(d,J=2.7Hz,1H),7.55(m,3H),6.55(m,3H),5.21(s,2H),4.65(m,1H),1.37(d,J=5.1Hz,6H).H NMR(400MHz,CDCl)δ11.96(s,1H),10.40(s,1H),8.77(dd,J=4.8,1.5Hz,1H),8.00(d,J=7.8Hz,1H),7.63(d,J=1.8Hz,1H),7.49−7.34(m,2H),6.59(d,J=8.5Hz,1H),6.37(d,J=1.8Hz,1H),6.29(d,J=8.2Hz,1H),5.10(s,2H),4.67(sep,J=6.7Hz,1H),1.50(d,J=6.6Hz,6H).
【0103】
別の手法では、化合物(I)遊離塩基の複数のバッチを多グラム量(20g)で調製する。この経路の利点はモノ保護2,6−ジヒドロキシベンズアルデヒド(16)の使用であり、これはビスアルキル化副産物の可能性を効果的になくす。2つの出発点、ブロモレゾルシノール(14)又はレソルシノール(11)から2,6−ジヒドロキシベンズアルデヒド(16)のモノ−MOMエーテルを得ることができる[手順はJournal of Organic Chemistry,74(11),4311−4317;2009に記載される]。ステップ及び手順を全て、以下に提供する。フェノール系アルデヒド基が存在するため、フェノール及び/又はアルデヒド基の酸化を回避するよう注意しなければならない(即ち、全ての反応を窒素などの不活性ガス下で行う)。
【0104】
化合物I HCl塩の調製:アセトニトリル(275mL)中化合物I(55.79g、165.55mmol)の溶液を窒素で10分間フラッシュし、次にこの溶液に、室温で3NのHCl水溶液(62mL)を添加した。添加後、混合物をさらに10分間撹拌し
、次に大部分のアセトニトリル(約200mL)を約32℃のロータリーエバポレータで蒸発させることにより除去し、残った溶液をアセトン−ドライアイス浴中で冷却することにより凍結して凍結乾燥させ、化合物I HCl塩(59.4g)を得た。
【0105】
実施例9:化合物1のHCl塩の特徴付け
【0106】
【表15】
【0107】
実施例10:水に曝露した化合物1のHCl塩の物理的安定性
【0108】
【表16】
【0109】
実施例11:粉砕での化合物1のHCl塩の物理的安定性
【0110】
【表17】
【0111】
実施例12:高温及び/又は真空に曝露した化合物1のHCl塩の物理的安定性
【0112】
【表18】
【0113】
実施例13:水中における化合物1のHCl塩の不均化による化合物1の遊離塩基の生成(出発物質は化合物1のHCl塩である)
【0114】
【表19】
【0115】
実施例14:化合物1の遊離塩基のフォームIの特徴付け
【0116】
【表20】
【0117】
実施例15:化合物1の遊離塩基のフォームIIの特徴付け
【0118】
【表21】
【0119】
実施例16:化合物1の遊離塩基のマテリアルNの特徴付け
【0120】
【表22】
【0121】
実施例17:遊離塩基フォームIとIIとの間の競合的相互変換スラリー
【0122】
【表23】
【0123】
実施例18:遊離塩基フォームIIとマテリアルNとの間の競合的相互変換スラリー
【0124】
【表24】
【0125】
実施例19:選択した実験方法
指数付け:XRPDパターンは有標SSCIソフトウェアを使用して指数付けする。図中に赤色のバーで示される許容されるピーク位置と、観察されたピークとの間の一致が、整合性のある単位胞の決定を示す。指数付け及び構造の精緻化は、「SSCI非cGMP活性のための手順(Procedures for SSCI Non−cGMP Activities)」に基づき実施される計算機による研究である。仮の指数付けの解を確認するためには、結晶学的単位胞内の分子充填モチーフを決定しなければならない。分子充填の試みは実施しなかった。
【0126】
示差走査熱量測定(DSC):TA Instruments Q2000示差走査熱量計を使用してDSCを実施した。温度校正はNISTトレーサブルインジウム金属を使用して実施した。試料をアルミニウムDSCパンに入れ、蓋をして、重量を正確に記録した。試料パンとして構成された秤量済みのアルミニウムパンをセルの基準側面に置いた。各サーモグラムのデータ取得パラメータ及びパン構成が、この報告のデータセクションにある画像中に表示される。サーモグラム上の方法コードは、開始及び終了温度並びに加熱速度の略記である;例えば、−30−250−10は、「−30℃から250℃まで、10℃/分」を意味する。以下に、パン構成に関する各画像で用いられる略記を要約する:Tzeroクリンプパン(T0C);及びリッドはクリンプなし(NC)。
【0127】
動的蒸気収着(DVS):VTI SGA−100蒸気収着分析器で動的蒸気収着(DVS)データを収集した。校正標準としてNaCl及びPVPを使用した。分析前に試料は乾燥させなかった。窒素パージ下10%RHずつの増分で5から95%RHまでの範囲にわたり吸着及び脱着データを収集した。分析に用いた平衡の判定基準は5分間で0.0100%未満の重量変化とし、最大平衡時間は3時間とした。試料の初期含水量に関してデータは補正しなかった。
【0128】
顕微鏡法
ホットステージ顕微鏡法:SPOT Insight(商標)カラーディジタルカメラを備えたLeica DM LP顕微鏡に取り付けたLinkamホットステージ(FTIR 600)を使用して、ホットステージ顕微鏡法を実施した。温度校正はUSP融点標準を使用して実施した。試料をカバーガラス上に置き、その試料の上に第2のカバーガラスを置いた。ステージの加熱に伴い、直交偏光子及び一次赤色補正板を有する20×0.40N.A.長作動距離対物レンズを使用して各試料を目視で観察した。画像は、SPOTソフトウェア(v.4.5.9)を使用して取得した。
【0129】
偏光顕微鏡法:実験の過程で、形態及び複屈折を観察するため、直交偏光を有する顕微鏡を利用して、生じた試料を観察した。試料は倍率40倍で目視観察した。
【0130】
H溶液核磁気共鳴(H NMR)
SSCI:NMR分光法用の試料を適切な重水素化溶媒中の約5〜50mg溶液として調製した。具体的な取得パラメータは、SSCIでランを行った試料のデータセクションにある各試料の第1フルスペクトルのプロット上に掲載される。
【0131】
Spectral Data Solutions:Spectral Data Solutions(下請業者)を使用してランを行った試料について、溶液H NMRスペクトルはVarianUNITYINOVA−400分光計(H ラーモア周波数=399.8MHz)において周囲温度で取得された。具体的な取得パラメータは、スペクトルデータシート上及び試料のスペクトルの各データプロット上に掲載される。
【0132】
熱重量分析(TGA)
TA Instruments 2950熱重量分析器を使用してTG分析を実施した。温度校正はニッケル及びAlumel(商標)を使用して実施した。各試料をアルミニウムパンに置き、TGファーネスに挿入した。ファーネスを窒素パージ下で加熱した。データ取得パラメータは、この報告のデータセクション中、各サーモグラムの上に表示される。サーモグラム上の方法コードは、開始及び終了温度並びに加熱速度の略記である;例えば、25−350−10は、「25℃から350℃まで、10℃/分」を意味する。初期温度として0の使用は、周囲温度で開始された試料ランを示す。
【0133】
XRPD分析
INEL:Inel XRG−3000回折計でXRPDパターンを収集した。Cu Kα線の入射ビームは微小焦点管及び放物面グレーデッド多層膜ミラーを使用して生成した。分析前に、シリコン標準(NIST SRM 640d)を分析してSi 111ピーク位置を確認した。試料の標本を薄壁ガラス毛管に充填し、ビームストップを使用して空気からのバックグラウンドを最小限に抑えた。回折パターンは、Windif v.6.6ソフトウェア及び120°の2θレンジの湾曲型位置敏感Equinox検出器を使用して透過配置で収集した。各パターンのデータ取得パラメータは、この報告のデータセクション中にある画像の上に表示される。
【0134】
PANalytical透過:PANalytical X’Pert PRO MPD回折計で、Optix微小長焦点線源を使用して発生させるCu線の入射ビームを使用して、XRPDパターンを収集した。楕円面グレーデッド多層膜ミラーを使用してCu Kα X線の焦点を標本を通して検出器に合わせた。分析前にシリコン標本(NIST SRM 640d)を分析してSi 111ピーク位置を確認した。試料の標本を3μm厚の膜の間に挟み、透過配置で分析した。ビームストップ、短い散乱線除去エクステンション、及び散乱線除去ナイフエッジを使用して、空気により生じるバックグラウンドを最小限に抑えた。入射ビーム及び回折ビームにソーラースリットを使用して、軸発散からの広がりを最小限に抑えた。標本から240mmに位置する走査型位置敏感検出器(X’Celerator)及びData Collectorソフトウェアv.2.2bを使用して回折パターンを収集した。各パターンのデータ取得パラメータは、ミラー前の発散スリット(DS)及び入射ビーム散乱線除去スリット(SS)を含め、この報告のデータセクション中にある画像の上に表示される。
【0135】
PANalytical反射:PANalytical X’Pert PRO MPD回折計で、微小長焦点線源及びニッケルフィルタを使用して生成されるCu Kα線の入射ビームを使用して、XRPDパターンを収集した。回折計は、対称ブラッグ−ブレンターノ配置を使用して構成した。分析前にシリコン標本(NIST SRM 640d)を分析して、観察されたSi 111ピーク位置がNIST認証位置と一致することを確
認した。試料の標本は、シリコンゼロバックグラウンド基板の中心に置いた薄い環状の層として調製した。散乱線除去スリット(SS)を使用して、空気から生じるバックグラウンドを最小限に抑えた。入射ビーム及び回折ビームにソーラースリットを使用して、軸発散からの広がりを最小限に抑えた。試料から240mmに位置する走査型位置敏感検出器(X’Celerator)及びData Collectorソフトウェアv.2.2bを使用して回折パターンを収集した。各パターンのデータ取得パラメータは、発散スリット(DS)及び入射ビームSSを含め、この報告のデータセクション中にある画像の上に表示される。
【0136】
近似溶解度:秤量した試料を、室温で試験溶媒のアリコートによって処理した。添加の合間に混合物を超音波処理し、溶解を促進した。試験材料の完全な溶解は目視検査により決定した。完全な溶解をもたらすために使用した溶媒総量に基づき溶解度を推定した。次に一部の試料を加熱し、完全な溶解を目視で観察した。多過ぎる溶媒アリコートを使用するため、又は溶解速度が遅いことに起因して、実際の溶解度は計算値より高くなり得る。実験中に溶解が起こらなかった場合、溶解度は「未満」として表される。僅か1つのアリコートを加えた結果として完全な溶解が達成された場合、溶解度は「超過」として表される。
【0137】
逆溶媒添加:化合物1/有機溶媒溶液を、化合物1がそれに対して難溶性又は不溶性であると決定された溶媒と接触させた。これらの逆溶媒添加を加えたことで、溶媒系の溶解度の低下及び結晶化の誘導が促進された。
【0138】
冷却及び徐冷:選択した溶媒又は溶媒/逆溶媒系中に溶液を調製した。核形成を生じさせるため、これらの溶液を様々な時間にわたり冷蔵庫内で室温未満で冷蔵した。固体の存在又は非存在に注目した。固体が分析に十分な量で観察された時点で材料の単離を行った。不十分な量しか存在しない場合、フリーザーでさらなる冷却を実施した。試料は分析用に湿潤粉末或いは乾燥粉末として単離した。
【0139】
圧縮:KBrダイ及びCarver液圧プレスを利用して、選択した試料を圧縮した。ダイシャフトに約20分間にわたり10000ポンドの加荷重を加えた。
【0140】
溶液からの結晶化:周囲条件で飽和溶液を作成し、次にキャップをした。化合物1の遊離塩基の評価中にこれらの系から核形成が起こったことが観察された。
【0141】
高速蒸発:選択した溶媒中に溶液を調製し、アリコートを添加する合間に撹拌して溶解を助けた。目視観察により判断するとき混合物が完全な溶解に達したところで、溶液をキャップをしていないバイアル中周囲温度で又は窒素下周囲条件で蒸発させた。形成された固体を評価のため単離した。
【0142】
粉砕:選択した材料を、Reitchミルを利用して粉砕した。この材料をメノウ内張り粉砕容器に装入し、続いてメノウボールを加えた。次にこの容器をミルに置き、1/30秒の頻度で約30分間粉砕した。約10分毎に粉砕を停止し、壁から材料をこすり落としてから、さらに粉砕した。
【0143】
スラリー:所与の溶媒に、過剰な固体が存在するように十分な固体を加えて、溶液を調製した。次にこの混合物を、密閉したバイアル内において周囲温度又は高温で撹拌した。所与の時間後、固体を分析のため単離した。
【0144】
温度及び相対湿度ストレス:選択した材料に、高い相対湿度及び/又は温度でストレスを加えた。相対湿度ジャー(所望の相対湿度を生じさせるために用いられる飽和塩溶液)
を利用して、選択した試料を保管した。評価の間、湿度の効果を調べるため以下の相対湿度ジャーを利用した:75%RH(NaCl)及び60%(NaBr)。利用した温度は、周囲温度、30、40、60、及び100〜125℃であった。
【0145】
真空:選択した材料に、減圧下で設定時間にわたりストレスを加えた。最初のストレス適用は、インハウスの真空システムで、絶対圧力示度<500mTorr、典型的には30〜50mTorr(0.030〜0.05mm Hg)によって行った。さらなる真空ストレス適用を、可搬式実験用バキューム及びブリードを利用することによりプロセス中に予想されるものと同様の条件をシミュレートして、48mmHgで行った。
【0146】
実施例20:HCl塩の不均化
水中におけるHCl塩の不均化を利用して遊離塩基を生じさせた。初めに遊離塩基フォームIの核形成が起こる。スラリー時間を長くすると、フォームI、遊離塩基フォームIIと比べて熱力学的安定性がより高い相への転移が引き起こされる。
【0147】
遊離塩基の3つの無水材料が同定された;遊離塩基フォームI、II、及びマテリアルN。室温では、遊離塩基マテリアルNがフォームI及びIIと比べて最も安定した形であるように見える。遊離塩基マテリアルNはフォームIIに対してエナンチオトロピックであり、特定の転移温度(約42℃と推定される)で可逆的に転移し得る。転移温度より上では、遊離塩基フォームIIがフォームI及びマテリアルNと比べて最も安定した形であるように見える。
【0148】
HCl塩(「HClフォームI」と称される)を様々なストレス条件に供し、XRPDによりモニタして物理的安定性を評価した。考察したとおり、HCl塩のDVS実験中に不均化が起こり、これは高湿度に曝露されたときの不安定性を示している。さらに、湿式粉砕又は水と直接接触しているとき(例えばスラリー)、XRPDによって同定される遊離塩基フォームI又はIIの存在により示されるとおり、不均化が明らかである。加熱時及び/又は真空を加えたときのHClの揮発及び損失は、XRPDによって同定される遊離塩基フォームIの存在により示され、同様に、これらの条件における不安定性を示している。
・水との接触により、材料の淡黄色から白色への可視的な色の変化が生じた;物理的変化もまた顕微鏡によって観察された。即時の不均化が起こる。XRPD分析により、水スラリー(約5分)から得られた材料が遊離塩基フォームIであると同定された。スラリーである時間を長くした場合には、遊離塩基フォームIIもまた明らかになる。
・乾燥状態に曝露して数時間以内にHClの揮発が明らかであった。XRPDにより、30℃(12時間後)、40℃(6時間後)、及び40℃/48mmHg(6時間後)で遊離塩基フォームIへの変換が観察された。
・遊離塩基マテリアルCは、高温を伴うより極限的な条件で明らかになる。HClフォームIを125℃まで加熱すると、酸性の揮発性物質の損失(試料の上に保持したpH試験紙を用いることにより目視で判断される)が引き起こされる。XRPD分析により、得られた試料は、HClフォームI、遊離塩基フォームI、及び遊離塩基マテリアルCの混合物であると同定される。HCl塩を真空下で60℃に6日間曝露すると、同じ結果がもたらされる。マテリアルCの性質は確立されていない。
【0149】
HCl塩は水中で直ちに不均化することが示された。この現象を利用して遊離塩基を生じさせた。初めに遊離塩基フォームIの核形成が起こる。スラリー時間を長くすると、フォームI、遊離塩基フォームIIと比べて熱力学的安定性がより高い相への転移が引き起こされる。
・20mlバイアルに266.4mgのHClフォームIを入れ、10mLの水と接触させた。淡黄色の材料の色が白色に変化するまで試料を超音波処理した。得られた固体を
ろ過により収集し(水を吸引する)、10mLの水でリンスした。窒素パージを試料に約10分間吹き付けた後、乾固するまで周囲温度で真空に一晩曝露した。得られた材料をXRPDによって分析し、遊離塩基フォームIであると決定した。
・250ml三角フラスコに6.0250グラムのHClフォームIを入れ、220mLの水と接触させた。試料を約5分間超音波処理して材料を分散させた。音波処理中、黄色の材料の色が白色に変化した。撹拌子を加え、試料を700RPMで約10分間撹拌した。固体をろ過によって収集し、220mLの水でリンスした後、続いて試料を約10分間窒素パージした後、周囲温度で真空に曝露した。試料をこの条件で約24時間乾燥させて、5.1834グラムの材料を生じさせた。得られた材料をXRPDによって分析し、遊離塩基フォームIと遊離塩基マテリアルDとの混合物であると決定した(マテリアルDの性質は確立されていない)。
【0150】
遊離塩基フォームIIの生成に用いられる手順を以下に記載する。
・20mlバイアルに477.5mgのHClフォームIロット20を入れ、20mLの水と接触させた。淡黄色の材料の色が白色に変化するまで試料を超音波処理した。少量の試料(遊離塩基フォームIとIIとの混合物)をシードとして添加した。撹拌子を加え、試料を200RPMで8日間撹拌した。得られた固体をろ過によって収集し(水を吸引する)、15mLの水でリンスした。試料を乾固するまで周囲温度で真空に一晩曝露した。得られた材料をXRPDによって分析し、遊離塩基フォームIIであると決定した。
【0151】
実施例21:フォームI、フォームII、及びフォームNの遊離塩基の追加的な調製手順化合物1の遊離塩基からHCl塩への変換
基本手順:MEK(5vol)中の化合物1の遊離塩基の溶液を濃HCl(1.5eq)でゆっくりと処理する。得られたスラリーを0〜5℃に1時間冷却し、ろ過する。固体をMEK(1vol)で洗浄する。30〜35℃で真空乾燥させる。
【0152】
調製A:上記の基本手順に従い35gの粗化合物1を処理することにより、HCl塩が淡黄色の固体として提供された(32.4g、82%収率、HPLCにより99.8%純度)。
【0153】
化合物1のHCl塩からの遊離塩基フォームIの調製
基本手順:DIW(10vol)中の化合物1のHCl塩のスラリーを5分間〜2時間激しく撹拌する。スラリーをろ過し、DIW(2×1vol)で洗浄し、漏斗上で乾燥させ、次に30〜35℃でさらに真空乾燥させる。
【0154】
調製A:上記の基本手順に従い1時間撹拌した後、化合物1のHCl塩32gを処理することにより、遊離塩基が淡黄色の固体として提供された(27.3g、95%収率、HPLCにより99.8%純度;DSCはフォームIを示す)。
【0155】
調製B:上記の基本手順に従い1時間撹拌した後、化合物1のHCl塩39gを処理することにより、遊離塩基が淡黄色の固体として提供された(31.8g、90%収率、HPLCにより>99.9%純度))。
【0156】
調製C:従って、化合物1のHCl塩(134g)を、材料が微細分散した白色スラリーのように見えるまで水(10vol)中で激しく撹拌した。ろ過して乾燥させた後、白色結晶性固体(116g、96%回収率、HPLCにより>99.9%純度)を単離した。
【0157】
調製D:この実験の目的は、化合物1、HClから遊離塩基を調製することであった。従って、化合物1のHCl塩(65.3g)を、材料が微細分散した白色スラリーのよう
に見えるまで水(10vol)中で激しく撹拌した。ろ過して乾燥させた後、白色結晶性固体(57.5g、97.6%回収率、HPLCにより>99.9%純度)を単離した。
【0158】
GBT000440遊離塩基フォームIからのGBT000440遊離塩基フォームIIの調製
基本手順:認められた溶媒(例えばヘプタン又は水)(10vol)中に化合物1フォームIの遊離塩基のスラリーを1〜7日間撹拌する。スラリーをろ過し、DIW(2×1vol)で洗浄し、漏斗上で乾燥させ、次に30〜35℃でさらに真空乾燥させる。
【0159】
調製A:従って、化合物1、フォームIの遊離塩基(114g)を35℃でn−ヘプタン(10vol)中に撹拌した。4日後、XRPDは、材料がフォームIIであることを示した。スラリーをろ過し、乾燥させることにより、110gのオフホワイトの固体が提供された。
【0160】
調製B:化合物1の遊離塩基(5g)を室温でヘプタン(10vol 50mL)中にスラリー化した。4日後、このスラリーをろ過することにより、オフホワイトの固体が提供された。
【0161】
調製C:化合物1の遊離塩基(5.8kg)を室温でヘプタン(10vol)中にスラリー化した。2日後、このスラリーをろ過し、2×2volのn−ヘプタンで洗浄することにより、4.745kgのフォームIIがオフホワイトの固体として提供された。
【0162】
調製D:化合物1の遊離塩基(5g)を水中にスラリー化した。4日後、このスラリーをろ過することにより、オフホワイトの固体が提供された。
【0163】
GBT000440遊離塩基フォームI又はフォームIIからのGBT000440遊離塩基フォームNの調製
基本手順:化合物1、フォームIの遊離塩基のスラリーを室温で少なくとも4日間、MTBE(4vol)中に撹拌する。4日後、このスラリーをろ過することにより、オフホワイトの固体が提供される。XRPDを得て多形がマテリアルNであると確認する。
【0164】
調製A:上記の基本手順に従い、化合物1、フォームIの遊離塩基(48TRS079)27gを18〜23℃で4日間、MTBE中に撹拌した。DSCにより、それがマテリアルNであるはずであると示された。22.2gの淡黄色の固体が単離された(82%回収率、HPLCにより99.9純度)。XRPD分析を計画した。
【0165】
調製B:上記の基本手順に従い、化合物1、フォームIの遊離塩基31gを18〜23℃で4日間、3vol MTBE中に撹拌した。
【0166】
調製C:化合物1、フォームIの遊離塩基(13KWB023、1g)を室温でMTBE(5vol)中にスラリー化した。スラリーにマテリアルN(50mg)をシードした。4日後、このスラリーをろ過することにより、オフホワイトの固体が提供された。DSCにより、融点がマテリアルNと同じであることが示された。
【0167】
調製D:この実験の目的は、化合物1、フォームIIの遊離塩基をマテリアルNに変換することであった。従って、化合物1の遊離塩基(0.5g)を18〜23℃で5volのジ−n−プロピルエーテル中に撹拌した。2日後、DSCは、マテリアルNについて観察されるパターンと一致した。XRPD分析により、マテリアルNが形成されたことが確認された。
【0168】
調製E:化合物1、フォームIIの遊離塩基(5g)に、室温でジイソプロピルエーテル(5vol、25mL)を添加した。4日後、スラリーをろ過することにより、オフホワイトの固体が提供された。DSCはマテリアルNを示す。
【0169】
実施例22:溶媒ベースの予備スクリーニング
化合物1の遊離塩基の最も安定した形を決定するため、迅速な溶媒ベースのスクリーニングを実施した。この試験は、これらの材料が様々な結晶形で存在する傾向についての予備的評価もまた提供する。生成された固体は偏光顕微鏡法(PLM)により観察し、及び/又は粉末X線回折(XRPD)により分析して、得られたXRPDパターンを化合物1の既知のパターンと比較した。
【0170】
可能な場合、XRPDパターンを指数付けした。指数付けは、回折パターンにおいてピーク位置を与えられた結晶学的単位胞のサイズ及び形状を決定するプロセスである。この用語は、個々のピークに対するミラー指数表記の割当てから名前が付けられている。XRPDの指数付けはいくつかの目的を果たす。パターン中の全てのピークが単一の単位胞により指数付けされる場合、これは、試料が単一の結晶相を含むことの強力なエビデンスである。指数付けの解を所与とすれば、単位胞体積は直接計算することができ、且つその溶媒和状態の決定に有用であり得る。指数付けはまた、結晶形のロバストな記述でもあり、特定の熱力学的状態点における当該の相についてのあらゆる利用可能なピーク位置の要約を提供する。
【0171】
これらの材料に関連するピークの目視検査に基づくときユニークな結晶XRPDパターンを呈する材料に、文字記号を与えた。この文字記号は、十分な特徴付けデータを利用できない場合には、仮に語句「マテリアル」と関連付けられる。この命名法は、ユニークなXRPDパターンの識別を助けるために用いられるに過ぎず、その材料の化学量論、結晶相純度、又は化学的純度が既知であることを含意するものではない。マテリアルは、さらに、材料の相純度(XRPDパターンの指数付け又は単結晶構造解明によって得られる)及び化学的アイデンティティ/純度(プロトンNMR分光法によって得られる)が決定される場合、ローマ数字記号を備えた形で表される(即ち、遊離塩基マテリアルA=遊離塩基フォームI)。
【0172】
3つの無水材料が同定された:フォームI、II、及びマテリアルN。室温では、フォームI及びIIと比べて、マテリアルNが最も安定した形であるように見える。マテリアルNはフォームIIに対してエナンチオトロピックであり、特定の転移温度(約42℃と推定される)で可逆的に転移し得る。転移温度より上では、フォームI及びマテリアルNと比べて、フォームIIが最も安定した形であるように見える。
【0173】
マテリアルC及びDを用いると、XRPDパターン中に観察されるいくつかのさらなる低強度ピークが同定され、これらは主に、化合物1の遊離塩基フォームI又は化合物1のHClフォームIと遊離塩基フォームIとの混合物で構成される。
【0174】
実施例23:無水無溶媒和物形
フォームI
遊離塩基フォームIは、遊離塩基の準安定性の無水相であり、水中でのHCl塩の不均化から直ちに形成される。フォームIの代表的なXRPDパターンの指数付けに成功しており、単位胞体積は無水遊離塩基と一致する。XRPDパターンと、提供される遊離塩基の過去のパターンとの目視比較は、材料が同様であり得ることを示している;しかしながら、過去のパターンは潜在的な混合物からのさらなるピークを呈するように見える。
【0175】
H NMRスペクトルは化合物1の化学構造と一致する。約2.5ppmにおける化
学シフトは(NMR溶媒中に残留プロトンがあるため)DMSOに割り当てられる。残留溶媒と関連付け得るピークは見られず、上記の指数付けの解から決定された無水単位胞体積及び以下に考察するTGAによって観察された無視し得る程度のwt%減少と一致した。
【0176】
サーモグラム(TG)データは、100℃まで0.2%の無視し得る程度の、無水形と一致する重量減少を示す。DSCは、オンセット約97℃の単一の吸熱を呈する(フォームIIで観察されるものと同様)。この吸熱は、ホットステージ顕微鏡法による融解と一致する。しかしながら、その融解に先行して、粒度及び複屈折の変化が明らかであった;可能性のある相変化が起こった。結果的に、相変化が起こり且つ遊離塩基フォームIIのものと同様の吸熱が観察された場合、観察された融解は真に、フォームIのものでなく、得られた相のもの、最も高い可能性ではフォームIIのものであると推測することができる。
【0177】
DVS等温線は、フォームIが吸湿性ではないことを示す。収着/脱着を通じて0.2%の無視し得る程度の重量増加及び減少が観察された。XRPDにより、DVS実験から回収された材料は主として遊離塩基フォームIであり、いくつかのさらなるピークを有した。これらのさらなるピークを遊離塩基マテリアルDと命名した。マテリアルDの性質は不明である;しかしながら、別の1つ又は複数の相の出現は、フォームIが高湿度条件で(周囲温度で)物理的に安定していない可能性が高いことを示している。
【0178】
フォームII
遊離塩基フォームIIは遊離塩基の無水相である。フォームIIはマテリアルNとエナンチオトロピックな関係にあり、ここでフォームIIは、42℃の推定転移温度より上で熱力学的に安定した形である。フォームIIは、既知の溶媒和物を形成しない溶媒;例えばヘプタン、IPE、MTBE、又はトルエン中で;フォームIの短時間スラリー変換(ここでは結晶化動力学により、安定性がより高い形の核形成が遅延する)又は高温スラリー(42℃を上回る)によって生じさせることができる。フォームIIの代表的なXRPDパターンの指数付けが成功したとともに、単位胞体積は化合物1の無水遊離塩基と一致する。
【0179】
H NMRスペクトルは化合物1の化学構造と一致する。約2.5ppmにおける化学シフトは(NMR溶媒中に残留プロトンがあるため)DMSOに割り当てられる。残留溶媒と関連付け得るピークは見られず、上記の指数付けの解から決定された無水単位胞体積及び以下に考察するTGAによって観察された無視し得る程度のwt%減少と一致した。
【0180】
サーモグラム(TG)データは、100℃まで0.1%の無視し得る程度の、無水形と一致する重量減少を示す。DSCは、オンセット約97℃の単一の吸熱(80.1J/g)を呈する。
【0181】
フォームIIは、XRPDによる再分析で、周囲条件で保存して7日後も変化しないままであった。この形は、この条件で、マテリアルNと比べて熱力学的に準安定であることが知られている;しかしながら、多形変換の動力学は、固体状態においては周囲条件で緩徐であり得る。
【0182】
マテリアルN
遊離塩基マテリアルNは、遊離塩基の無水相である。マテリアルNはフォームIIとエナンチオトロピックな関係にあり、ここでマテリアルNは、42℃の推定転移温度未満で熱力学的に安定した形である。場合により、マテリアルNは既知の溶媒和物を形成しない
溶媒;例えばヘプタン、IPE、MTBE、又はトルエン中のスラリーによって;42℃未満の温度で生じさせることができる。以下は、遊離塩基マテリアルNを生じさせるために用いられる実験室規模の手順の例である。
・53.0mgの遊離塩基フォームIを2mLのIPE/遊離塩基溶液(濃度13mg/ml)と接触させた。撹拌子を加え、試料を周囲条件で7日間スラリー化した。溶液を試料からデカントし、残った固体を窒素下で短時間乾燥させた。特徴付けデータは、マテリアルNがユニークな結晶相であることを示している。
【0183】
H NMRスペクトルは化合物1の化学構造と一致する。約2.5ppmにおける化学シフトは(プロトンNMR溶媒中に残留プロトンがあるため)DMSOに割り当てられる。残留溶媒と関連付け得るピークは見られず、以下に考察するTGAによって観察された無視し得る程度のwt%減少と一致した。
【0184】
サーモグラム(TG)データは、100℃まで0.2%の無視し得る程度の、無水形と一致する重量減少を示す。DSCは、オンセット94℃の単一の吸熱(82.8J/g)を呈する。
【0185】
遊離塩基フォームI、II、及びマテリアルNの間の熱力学的関係の仮決定
特徴付けデータは、フォームI、II、及びマテリアルNがユニークな結晶相であることを示している;しかしながら、指数付けにより相純度を確認することに成功したのは、フォームI及びIIのXRPDパターンのみであった。従って、これらの材料間に提案されるいずれの熱力学的関係も作業仮説であり、ここではマテリアルNの相純度が仮定される。
【0186】
固体の相転移は熱力学的に可逆的又は不可逆的であり得る。特定の転移温度(T)で可逆的に転移する結晶形はエナンチオトロピック多形と呼ばれる。結晶形がこれらの条件下で相互変換可能でない場合、その系はモノトロピック(熱力学的に安定した形であるもの)である。多形の相対的な熱力学的安定性及び多形間の関係がエナンチオトロピックかそれともモノトロピックかを予測するための法則がいくつか開発されている。本試験の範囲内では、融解熱法則が適用される。融解熱法則では、高融点の形ほど融解熱が低い場合、それらの2つの形はエナンチオトロピックであり、他の場合にはそれらはモノトロピックであるとされる。
【0187】
室温では、フォームI及びIIと比べてマテリアルNが最も安定した形であるように見える。DSCにより決定される融解熱及び融解に基づけば、マテリアルNはフォームIIに対してエナンチオトロピックであり、特定の転移温度(TN−II)で可逆的に転移し得る。DSCにおいて観察される吸熱に先行してフォームIからフォームIIへの相変化が起こった可能性があるため、フォームIとマテリアルN又はフォームIIのいずれとの関係も、融解熱法則によっては確証的に決定することができない。しかしながら、様々な相互変換スラリーによって、フォームIは6℃からTN−IIの間で最も熱力学的安定性が低い形であることが示された。加えて、フォームIが高温でDSCにおいて(観察される融解より前に)自発的にフォームIIに変換したと仮定すると、フォームIIもまたTN−IIより上でフォームIより安定しているということになるはずである。
【0188】
実施例24:推定転移温度
2つのエナンチオトロピックな関係を有する形の間の推定転移温度は、それらの融解オンセット及び融解熱から以下に示す式に基づき計算することができる。
【数1】
【0189】
マテリアルNとフォームIIとの間は、この式では42℃の転移温度が推定される。要約のため、最も高い安定性から最も低い安定性までの形の相対安定性を以下に示す。
【0190】
【表25】
【0191】
実施例25:エネルギー−温度図
図17のエネルギー−温度図は、ギブズ−ヘルムホルツ式の半定量的図解法であり、ここでは各形のエンタルピー(H)及び自由エネルギー(G)等圧線が温度の関数として表される。
【0192】
実施例26:競合的相互変換スラリー実験
上記のエネルギー−温度図によって示される多形間の熱力学的関係を裏付けるため、相互変換実験を実施した。相互変換又は競合的スラリー実験は、溶液により媒介されるプロセスであり、可溶性の低い(安定性の高い)結晶が、可溶性のより高い結晶形であることを犠牲にして成長する経路を提供する。熱力学的に安定性の高い多形ほど低いエネルギー、従って低い溶解度を有するため、溶媒和物の形成又は分解は別として、相互変換実験から得られるより安定性の高い多形は、使用される溶媒と独立していることが企図される。溶媒の選択は多形変換の動力学に影響を及ぼし、多形結晶形間の熱力学的関係には影響を及ぼさない。
【0193】
相互変換試験の結果は、本明細書に示す仮のエネルギー−温度図と一致する。二成分スラリーを、フォームI及びIIを使用して周囲温度、6℃、及び57℃で調製した。これらの実験の大部分からフォームIIが得られ、この温度範囲内でフォームIIがフォームIと比べてより安定していることが確認された。
【0194】
周囲温度及び6℃で実施した実験のいくつかでは、マテリアルNが得られた。これは特にフォームIとIIとの間の解明をもたらすものではないが、実に、これらの温度では(42℃の推定転移温度未満で実施された)、フォームI及びIIのいずれと比べてもマテリアルNが最も安定した形であるというエビデンスを提供する。この推定転移温度をブラ
ケッティングする温度でフォームIIとマテリアルNとの間のさらなる相互変換スラリーを実施し、フォームIIとマテリアルNとがエナンチオトロピックな関係を有することを確認した。
【0195】
実施例27:固体核磁気共鳴
3つの多形フォームI、II及びマテリアルNについて取得した13C及び15Nスペクトル。図10及び図11を参照のこと。スペクトルは253Kで取得し、計測中に起こる任意の低温転移を防止し、多形結晶形毎に取得パラメータを最適化した。
【0196】
固体核磁気共鳴に基づけば、3つのフォームは全てが結晶性であり、個別的な多形結晶形である。フォームIは非対称単位当たり1個の分子を含み、フォームIIは非対称単位当たり2個の分子を含み、及びフォームNは非対称単位当たり4個の分子を含む。図1115Nスペクトルを参照のこと。
【0197】
実施例28:化合物1の遊離塩基フォームIの化学的及び物理的安定性の評価
主に遊離塩基フォームIで(遊離塩基マテリアルDを伴い)構成される混合物を安定性条件に供し、物理的及び化学安定性を評価した。3つの条件を用いた;開放して25℃/60%RH、開放して40℃/75%RH、及び閉鎖して60℃。物理的安定性はXRPDにより評価した。化学安定性は、適用可能な場合、UPLC及びH NMRによって決定した。材料は曝露から1、7、及び14日後に試験した。
【0198】
遊離塩基フォームIの化学的安定性
遊離塩基安定性試料について、UPLCにより極めて低レベルの不純物の存在が示された。14日の経時後、不純物レベルの有意な上昇はなかった。これは、安定性評価に用いた条件に対する良好な化学的安定性を示すものと思われる。60℃(14日)に曝露された試料のH NMRスペクトルもまた、この結論と一致した。
【0199】
遊離塩基フォームIの物理的安定性
化合物1の遊離塩基は、XRPDによれば、25℃/60%RHで変化しないままであった。しかしながら、他の2つの条件では違いが観察された。遊離塩基マテリアルDによるものである僅かな小さいピークはもはや観察されなかったことから、マテリアルDが準安定であり、高温で持続しないことが示される。加えて、7日の経時後に遊離塩基フォームIIが観察された。これは、本明細書で考察される結論と一致し、遊離塩基フォームIIは遊離塩基フォームIと比べてこれらの温度で安定性が高い。
【0200】
実施例29:化合物1の遊離塩基フォームII及びマテリアルN(フォームN)の物理的安定性の評価
DSCを低速基礎加熱速度で調整し、続いて粉末X線回折を行った。0.02℃ min−1の低速基礎加熱速度を使用した。温度はフォームNが80℃及びフォームIIが90℃であった。曝露は本質的に等温で、物理的形の変化を検出する感度の温度範囲を網羅した。得られた材料を粉末X線回折によって調べた。多形フォームII又は多形フォームN(即ち、マテリアルN)のいずれについても、物理的形の変化は観察されなかった。
【0201】
フォームII及びNを40℃/75%相対湿度(RH)、80℃、80℃/80%RHに9日間曝露し、続いて粉末X線回折を行った。多形フォームII又は多形フォームNのいずれについても、物理的形の変化は観察されなかった。
【0202】
多形フォームIIとフォームNとの間の相互変換に対する熱力学的障壁は高く、いずれの形も物理的安定性は良好である。フォームIIとフォームNとの間に熱的に誘導される相互変換が起こる可能性は低い。
【0203】
実施例30:多形フォームII及びNの相対熱力学的安定性
多形フォームIIとフォームNとの1:1w/w混合物で長期溶媒媒介性成熟試験を実施した。ヘキサンが溶媒評価に良好な媒体を提供した。用いた温度には、−20℃、−10℃、0℃、10℃、20℃、30℃、40℃及び50℃が含まれる。30℃、40℃及び50℃で有意な溶解度の上昇が観察された。−20℃、−10℃、0℃、10℃、20℃での成熟から生じた固体を粉末X線回折によって分析した。いずれの場合も、フォームNへの有意な変換が観察された。
【0204】
フォームNは、フォームIIと比べて20℃以下の温度で熱力学的安定性がより高い。2つのフォーム間のエナンチオトロピックな関係は、約30〜40℃で熱力学的安定性の等価性を呈する可能性が高い。
【0205】
実施例31:フォームNの形態
多形フォームNのバッチの初期試験は針状形態を示す。
【0206】
本発明は具体的な実施形態及び例に関連して記載されているが、当業者には、当該技術及び本開示を考慮することにより、具体的に開示される材料及び方法の均等物もまた本発明に適用可能であること;及びかかる均等物が以下の特許請求の範囲内に含まれるものと意図されることは明らかであろう。
図1
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