特許第6809695号(P6809695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809695
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】非同期FRA
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20201221BHJP
   H04L 7/00 20060101ALI20201221BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   G01R31/00
   H04L7/00 870
   G01R19/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-167774(P2016-167774)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-36089(P2018-36089A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128094
【氏名又は名称】株式会社エヌエフホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100083725
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100140349
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 継立
(74)【代理人】
【識別番号】100153305
【弁理士】
【氏名又は名称】畝本 卓弥
(74)【代理人】
【識別番号】100206933
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 正樹
(72)【発明者】
【氏名】堀米 順一
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−155870(JP,A)
【文献】 特開2000−069495(JP,A)
【文献】 特開平04−080667(JP,A)
【文献】 特開昭62−204166(JP,A)
【文献】 特開昭60−028306(JP,A)
【文献】 特開昭57−144471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/00、
31/24−31/25、
19/00−19/32、
25/00−25/08、
27/00−27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の二位相同期検波器を具備し、
前記二位相同期検波器が同じ周波数で位相が90度だけ異なる2つの参照信号でそれぞれが動作する2つの同期検波器と、直交座標−極座標変換器とを具備し、
前記同期検波器のそれぞれが、
被測定信号の入力部と、
前記被測定信号と前記参照信号を乗算する乗算器と、
前記乗算器の出力を参照信号の周期の整数倍の時間で積分し、前記時間ごとに出力する積分器を具備し、
前記直交座標−極座標変換器が、前記2つの同期検波器の2つの出力を直交座標上の2成分としたとき、これを極座標表示における絶対値と偏角の2つの出力を得る変換部を具備し、
前記複数の二位相同期検波器の中の2つの組み合わせから得られる絶対値および偏角の値から、前記絶対値の比と偏角の差を出力し、該出力の少なくとも1つにローパスフィルタを通過させて複数の被測定信号間の参照信号成分のベクトル比を求めることを特徴とする非同期FRA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、参照信号と被測定信号の周波数が異なっても動作する非同期FRA(Frequency Response Analyzer:周波数特性分析器)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、雑音などが混入した信号の中から特定周波数の信号の振幅および位相を検出するには、同期検波(位相検波ともいう)という手法が用いられている。
まず、基本的な同期検波器の構成にもとづき、特定周波数の信号検出の原理を説明する。
基本的な同期検波器の構成を図13(a)に示す。この図13(a)において、参照信号Vrsおよび被測定信号Vinがそれぞれ、
Vrs=2sin(2π・fr・t) ・・・・・・(1)
Vin=Va・sin(2π・fin・t+θin) ・・・・・・(2)
とし、周波数fr、finを持つ正弦波とする。
乗算器MはVrsとVinの積を出力し、この乗算器Mの出力Vin・Vrsは、
Vin・Vrs
=Va・sin(2π・fin・t+θin)・2sin(2π・fr・t)
=Va・[cos{2π・(fin−fr)・t+θin}
−cos{2π・(fin+fr)・t+θin}]・・・・(3)
となる。つまり、乗算器Mによれば、被測定信号Vinが被測定信号Vinの振幅Vaと位相θinの情報を持つ2つの周波数(fin−fr)および(fin+fr)の信号の和の形に変換されることがわかる。
【0003】
この乗算器Mの出力Vin・Vrsはローパスフィルタ(LPF)に入力される。このLPFでは、式(3)で表わされた2つの周波数の信号のうち、周波数fin+fr(高い方の周波数)の成分が十分に減衰され、周波数fin−fr(低い方の周波数)の成分はほとんどそのまま通過する。
このLPFの出力Vsは、
Vs=Va・cos{2π・(fin−fr)・t+θin}・・・・(4)
となる。
【0004】
特に、被測定信号Vinの周波数finと参照信号Vrsの周波数frが同じ(fin=frである)であれば、
Vs=Va・cosθin ・・・・・・(5)
となる。したがって、被測定信号Vinの振幅Vaと位相θinの情報のみを持つ、時間に依存しない出力、すなわち直流出力が得られることがわかる。
このように同期検波器によれば、被測定信号Vinから参照信号Vrsと同じ周波数成分の振幅および位相の情報を持った直流信号を取り出すことができる。
【0005】
この同期検波器は、参照信号Vrsが正弦波であることを例として挙げたが、あらゆる周期関数は基本周期およびその整数分の1の周期をもつ正弦波の重ねあわせで表現できることから、参照信号として正弦波の代わりにたとえば、矩形波などの周期関数であっても、その周期信号に含まれる正弦波に応じて動作をする同期検波器となる。
乗算器をたとえば、アナログ回路で構成する場合、被測定信号に正弦波を乗算する乗算器を構成することは高価になるが、反転増幅器とアナログスイッチを使用して被測定信号に等価的に矩形波を乗算する手法は、安価に且つ容易に実現でき、同期検波器としてよく用いられる。
【0006】
また図13(b)のように、参照信号Vrsに位相がπ/2(=90°)異なる正弦波、すなわち余弦波であるVrc=2cos(2πfr・t)を使用し、この参照信号Vrcと被測定信号Vinを乗算器Mで乗算すると、
Vin・Vrc
=Va・sin(2π・fin・t+θin)・2cos(2π・fr・t)
=Va・[sin{2π・(fin+fr)・t+θin}
+sin{2π・(fin−fr)・t+θin} ・・・・・・(6)
となる。
この乗算結果から参照信号Vrsに余弦波を用いた場合にも、被測定信号Vinが図13(a)の場合と同様に、(fin−fr)および(fin+fr)の2つの周波数成分に変換されることがわかる。
【0007】
そして、被測定信号Vinの周波数finと参照信号Vrsの周波数frが同じ(fin=fr)であれば、LPFの出力Vcは、
Vc=Va・sinθin ・・・・・・(7)
となる。この場合も被測定信号Vinの振幅Vaと位相θinの情報のみを持つ、時間に依存しない出力、すなわち直流出力が得られることがわかる。
【0008】
このことから、位相がπ/2(=90°)だけ異なる参照信号Vrsによる同期検波を行えば、被測定信号Vinの振幅Vaおよび参照信号Vrsを基準とした被測定信号Vinの位相θinを得ることもできる。
【0009】
ところで、参照信号Vrsの周波数frと被測定信号Vinの周波数finが異なるとき(fin≠fr)には、frより低い周波数、frより高い周波数の2つの周波数成分(fin−fr)および(fin+fr)の交流信号が現れる。
【0010】
このうち、どちらか一方の周波数の信号のみをバンドパスフィルタやローパスフィルタを用いて取り出し、被測定信号Vinの振幅Vaや位相θinの情報を得る手法はヘテロダイン検波という。
ヘテロダイン検波は、AMラジオやFMラジオなどに代表される放送や無線通信の分野で、変調された信号の復調方法として広く用いられている。
これらを横軸に周波数、縦軸に振幅を取ってグラフで表すと、図13(a)および(b)の(ア)(イ)(ウ)(エ)は、同期検波の原理を表す図13(c)中およびヘテロダイン検波の原理を表す図13(d)中のそれぞれ以下のものとなる。
(ア):被測定信号Vin。
(イ):参照信号VrsもしくはVrc。
(ウ):(fin−fr)、(fin+fr)の2つの周波数成分の信号。
(エ):フィルタにより取り出された周波数(fin−fr)の信号。
【0011】
図13(a)および(b)に示す同期検波器内のローパスフィルタについて、後述するFRA(周波数特性分析器)に用いられる方式として、図14に示すように、参照信号の周期Tr(=周波数frの逆数)もしくはその整数n倍の時間で平均化する積分器Iを考える。
この積分器Iの演算によるローパスフィルタは、n・Trの間の有限時間分のみの入力から出力を得るデジタル信号処理により実現されるので、移動平均フィルタの一種である。
この積分器Iの演算によりVaおよびθinを演算すれば、n・Trの時間ごとに1回の割合で図13に示す出力VsやVcを得ることができる。
このように、参照信号の周期Trのn倍の時間で平均化するとき、この平均化を整数nを使って積分回数n回、と表現することもあり、以下では積分回数をこのような意味で用いる。
【0012】
次に、既述の振幅および位相の情報を持つ2つの信号から、振幅Vaおよび位相θinの各値を得る方法を説明する。
まず、fin=frの場合、Va・cosθinとVa・sinθinの2つの信号は図15(a)に示すように、2次元平面上において、大きさVaで水平軸からのなす角θinのベクトルの水平軸及び垂直軸方向のベクトルの成分と幾何学的に解釈することができる。
このように考えると、図15(b)に示すように、直交座標−極座標変換器Trcの構成により、出力Vおよびθとして被測定信号Vinの振幅Vaおよび位相θinが得られる。
すなわち、
【数1】
【数2】
である。
ここで、atan(Y,X)は、X、Y座標XY平面上のベクトルについて、X軸の正側となす偏角を求める4象限逆正接関数である。
【0013】
次にfin≠frの場合、被測定信号の位相θinと、参照信号VrsおよびVrcとの間の位相関係が時間とともに変化すると考えればよく、その場合、位相の測定値θは、
θ=atan(Vc,Vs)=θin+2π(fin−fr)t ・・・・(10)
となり、時間に依存する測定結果が得られる。
【0014】
さらに、図16のように、この直交座標‐極座標変換器Trcの入力側に同期検波器Dis、Dicとして2つの積分型同期検波器Di(図13に示す同期検波器Dの2つでもよい)を備え、周波数frが同じで、位相が正弦波と余弦波の関係でπ/2(=90°)異なる参照信号とすれば、正弦波の参照信号Vrsの位相を基準位相とし、測定結果として被測定信号Vinの参照信号の周波数frと同じ周波数成分の振幅および位相が得られる二位相同期検波器Dxyとなる。
以上はある1つの被測定信号Vinに対して、参照信号Vrsの周波数成分の振幅、参照信号Vrsの位相を基準とした被測定信号Vinの位相を測定する原理について説明した。
【0015】
この二位相同期検波器の複数を使用すれば、複数の被測定信号Vin間の振幅比Goおよび位相差θdの測定ができることを以下に説明する。
図17は、図16に示すような二位相同期検波器Dxyを2組備え、2つの被測定信号Vin1、Vin2のそれぞれを別の二位相同期検波器Dxy1、Dxy2で測定する構成を示している。
さらに、二位相同期検波器Dxy1、Dxy2で得られた各振幅Va1、Va2および各位相θin1、θin2から、振幅比Go、位相差θdを演算し、測定結果を出力するように構成されている。
Go=Va1/Va2 ・・・・・・・・・・・・(11)
θd=θin1―θin2 ・・・・・・・・・・・・(12)
【0016】
図17に示すように、複数の入力を備え、各入力部に入力された複数の被測定信号Vin間について、参照信号Vrsと同じ周波数成分同士のベクトル比の測定に特化した測定装置として周波数特性分析器(Frequency Response Analyzer:FRA)がある。
周波数特性分析器としては、図17で示した構成に加え、図18図19の中で示された、FRA内部の参照信号Vrsと同期した内蔵発振器OSCを持つものもあるが、そのようなものはここでは発振器付周波数特性測定器OSC−FRA、発振器OSCの出力を構成に含んでいないものをFRAとして、OSC−FRAとFRAの両者を区別する。
【0017】
OSCーFRAの測定例として、図18に示すように、増幅器やフィルタなどに外部から参照信号Vrsと同じ周波数の信号である発振器OSCからの出力を入れ、増幅器やフィルタなどの出力信号を2つの被測定信号入力Vin1、Vin2として入力して測定すると、この増幅器やフィルタなどの利得や位相特性を測定することができる。
また、図19に示すように、電気部品Zの両端電圧と、電気部品Zと直列に接続されたシャント抵抗の両端電圧を、FRAの2つの被測定信号Vin1、Vin2として入力して振幅比Goおよび位相差θdを測定、さらに振幅比の測定結果をシャント抵抗の抵抗値Rで割れば、電気部品Zのインピーダンスを、位相を含めて測定することができる。
図18および図19に示すように、FRAでは、被測定信号Vin1、Vin2の振幅や位相を測定する場合、参照信号Vrsの周波数と同期した信号である発振器OSCからの出力を直接、もしくは発振器OSCの出力を、増幅器を介して出力する形で信号源とし、被測定信号Vinの周波数finと参照信号Vrsの周波数frを一致する状態で測定するのが一般的である。
以上はアナログ/デジタルを区別することなく、同期検波、FRAおよびOSC−FRAの基本的な構成、その動作原理を説明した。近年、フィルタなど各構成要素をデジタル回路やデジタル演算手段によって実現した計測器が普及しており、FRAおよびOSC−FRAもその例外ではない。むしろ演算を主とした測定方法であれば、たとえば、被測定信号の入力部をA/Dコンバータで数値に変換し、その後の同期検波器などの構成要素を演算処理で行ってもよいし、乗算器Mまでをアナログ回路とし、そこでA/D変換を行い、ローパスフィルタ以降を数値演算で処理してもよい。
出力もアナログ信号である必要はないし、処理形態も画面に数値表示としたり、外部制御コマンドによりパーソナルコンピュータで測定結果を表すための数値を取得してもよい。
斯かるFRA(周波数特性分析器)に関し、その構成や使用態様は既に知られている(特許文献1の図2および段落0014〜段落0027や非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2015−155870号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】周波数特性分析器 技術解説集(2008年3月発行、株式会社エヌエフ回路設計ブロック)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、振幅や位相差の測定について、被測定信号Vinと参照信号Vrsの周波数にずれがある場合、このずれに応じた大きさでかつ時間的な変化で測定誤差を生じ、高確度な測定ができないという課題があった。
【0021】
従来のFRAを用いた測定では、OSC−FRAの形態で使用され、被測定信号Vinと参照信号Vrsが同期していることを前提にしており、測定対象である信号成分が直流成分に変換され、交流成分を積分器やローパスフィルタを通し直流分のみを取り出す処理を行っている。
このような処理において、被測定信号Vinと参照信号Vrsの周波数のずれで生じる誤差がどのように、どの程度の大きさで起こるのかを定量的な面も含めて説明する。
【0022】
たとえば、商用電源には周波数50Hzや60Hzが存在しており、測定対象によっては、もともと特定の周波数を持っている場合がある。
このような信号を被測定信号Vinとし、参照信号Vrsの周波数を50Hzや60Hzに設定にし、測定に図13に示す同期検波器や、図16に示す二位相同期検波器を用いたとする。
この場合、商用電源の周波数と、同期検波器の参照信号Vrsの周波数は一致せず、相対的なずれが生じることがほとんどである。
【0023】
被測定信号Vinの周波数finと参照信号Vrsの周波数frが異なる場合、図13(a)(b)に示す乗算器Mの各出力(ウ)は、式(3)(6)で与えられ、fin−frおよびfin+frの2つの周波数成分を持つ交流信号となる。
この信号を図14に示すように、参照信号Vrsの周期の定数倍の区間で積分する積分器で構成したローパスフィルタを通過させた場合を考える。
この場合、finがfrの1以外の整数倍のとき(たとえばfr=50Hzでfinが100Hzや150Hzというような場合)、正弦波の周期性から積分器からなるローパスフィルタの出力は0となる。
【0024】
周波数が上記にあてはまらない場合には、ローパスフィルタを通過させれば、信号に減衰は生じても0にはならない。
ここで、複数の信号源間の周波数のずれが測定結果に与える影響を定量的に扱うため、ずれの度合いを表すパラメータδを導入する。
被測定信号Vinの周波数finを、参照信号Vrsおよびδを用いて表せば、
fin=(1+δ)fr ・・・・・・・・・・・・(13)
となる。
たとえば、fr=50Hzでδ=+0.01であれば、被測定信号Vinの周波数finが1%(=0.01×100%)、参照信号Vrsの周波数frより高いことを表わす。
これを具体的に示すと、
fin=(1+0.01)×50Hz=50.5Hz ・・・・・・(14)
となる。
【0025】
図13(a)(b)に示す同期検波器によれば、被測定信号Vinの周波数がfrではなくfinであれば、乗算器の出力はそれぞれ式(3)(6)で与えられる。
式(3)(6)中のfinを(1+δ)frと置き換えると、同期検波器における出力Vs、Vcは、それぞれ以下の式(15)(16)で表すことができる。
【数3】
【数4】
ただし、図13(a)(b)に示す同期検波器中のローパスフィルタは、図15に示す積分器Iの構成である。
【0026】
ここで、式(15)(16)にあらわれるsinc(x)の関数は、下記の式(17)で定義される関数である。
【数5】
【0027】
また、式(15)(16)で与えられるVsとVcを、図15(b)に示す直交座標−極座標変換器Trcに入力した場合の、振幅Vおよび位相θを計算すると、以下のように表わすことができる。
【数6】
【数7】
【0028】
式(18)(19)がどのように振る舞う関数かを考えると、まず、sinc(δnπ)および|sinc(δnπ)|は、正弦波関数をその引数で割った形で定義される、図20に示すように振る舞う偶関数である。
図20では引数をπの定数倍の形で表わしており、引数が0のときは1、引数が0以外の時は絶対値が常に1より小さく、引数が0を除いたπの整数倍のとき0となる関数である。
特にδ=0と置いてみると、Vs、Vc、Vは
Vs=Va・cosθin ・・・・・・・・・(20)
Vc=Va・sinθin ・・・・・・・・・(21)
V=Va ・・・・・・・・・(22)
θ=atan(sinθin,cosθin)=θin ・・・・(23)
となり、fin=frとした場合と同じ結果になることが確認できる。
δ≠0の場合、すなわちfin≠frの場合は、sin、cosそれぞれの同相成分の測定結果として、
・振幅Vaに、δとnで決まる、sinc関数などで表わされる係数がかかる
・位相がδnπずれた形(θin→θin+δnπ)となる
ことがわかる。
【0029】
また、振幅Vは式(18)から、
(1)δnが0以外の整数となる場合には0となる(すなわち測定感度がなくなる。)
(2)θinに対してπ(=180°)の周期をもつ周期関数となる
ということもわかる。
【0030】
同期検波器で振幅と位相は、以下のような幾何学的解釈に基づいた処理が行われる。
平面のベクトルを
【数8】
、そのx軸、y軸方向の成分としてそれぞれVs、Vcのうち共通の係数で割ったcosθin、sinθinとする。 すなわち、
【数9】
と表すと、図21(a)のように、
【数10】
のX軸からの偏角はθinを表わし、θinを0から2πまで変化させてみると、
【数11】
はこの平面上で半径1の円を描く。
【0031】
次に、fin≠frの場合で、上記と同様に幾何学的な考察をする。
この場合の平面のベクトルを
【数12】
、そのX軸、Y軸方向の成分としてそれぞれVs、Vcのうち共通の係数で割ったものとすると、
【数13】

【数14】
と表せる。
この
【数15】
は、(θin+δnπ)をパラメータとして、図21(b)のような実線部の楕円を表わすベクトル方程式になっている。
【0032】
そして、この場合、(θin+δnπ)は、
【数16】
の偏角(=位相の測定値)ではなく、図21(b)の楕円とともに描かれている点線の補助円上の点を表わすベクトルの偏角であり、θin、nおよびδに応じて決まる偏角のずれφが存在する。
【0033】
すなわち被測定信号Vinとして、θinの位相を持つ、参照信号Vrsの周波数frとはδの割合だけずれた周波数fin=(1+δ)frの信号を非同期で検波すると、同期検波器における位相測定値θは、以下のようになる。
θ=atan((1+δ)sin(θin+δnπ),cos(θin+δnπ))
・・・・・・・・・(26)
ここで、θを、θin+δnπからのずれφを使って表す、すなわち
θ=θin+δnπ+φ ・・・・・・・・・(27)
としてφを定義すると、φは、図21(b)や図22中に示した偏角を表わす。
すなわち、φは、finとfrが非同期であることに起因する位相測定値のずれ分を表わすことがわかる。
【0034】
そして、式(26)(27)より、φは
tan(θin+δnπ+φ)=(1+δ)tan(θin+δnπ)
φ=atan((1+δ)sin(θin+δnπ)、cos(θin+δnπ))
−(θin+δnπ) ・・・・・・・・・(28)
という形となる。
【0035】
ただし、ここで|δ|<1であれば、atanにより求まる位相は、θin+δnπと同じ象限であることと、sin(x)をcos(x)で除した関数であるtan(x)が周期πの周期関数であることを考慮すると、既述のφはθinを変数と考えたとき、周期πの周期関数となる、すなわち、θinの関数としてのφは、
φ(θin)=φ(θin+π) ・・・・・・・・・(29)
を満たす。
【0036】
上記を踏まえて、参照信号Vrsとは非同期の同じ周波数fin(=(1+δ)fr)を持つ2つの信号Vin1、Vin2を図17に示す構成で、振幅比と位相差を測定する場合を考える。
この場合、Vin1、Vin2それぞれについて上記での考察を当てはめれば、振幅比Go’と位相差θd’は、
【数17】
【数18】
という形となる。
【0037】
以上から、被測定信号Vinの周波数finと参照信号Vrsの周波数frが非同期であった場合、被測定信号Vin自体の本来の振幅比(Va1/Va2)や位相差θd=(θin1−θin2)に対して、被測定信号Vinの位相θin1、θin2や、周波数のずれの度合いδ、積分回数nをパラメータとした測定誤差が発生することがわかる。
【0038】
式だけではイメージしづらいので、|δ|<<1と考えた場合の近似式と、いくつかの具体的な値でどの程度の誤差になるのかをシミュレーションで示す。
まず計算結果を近似するに当たり、|x|<<1(たとえば、5%、0.05程度以下)の場合に成り立つ近似式として、
(1+x)n≒1+nx ・・・・・・・・・(32)
を用い、さらに、逆数はn=−1、√はn=1/2の場合であることを考慮に入れGo’およびθd’の式(30)(31)に対して(32)で与えられる1次近似を用いる。
まずGo’の式(30)について考える。
【数19】
ただしψは、
ψ=atan((1−cos2θd),sin2θd)・・・・・・・・・(34)
で定義される、被測定信号Vin間の位相差θdのみで決まる定数である。
Go’は|δ|<<1のとき(33)のように近似でき、2つの被測定信号Vin間の位相差θd(=θin1−θin2)に対し、以下のような振る舞いになる。
θdが0もしくはπ(=180°)、つまり同じ向きもしくは逆向きのベクトルの測定であれば、式(33)の根号の中の1−cos2θdは0となるため、式(33)の大括弧[ ]の中身は1となり被測定信号Vin間の本来の振幅比Goに対して、Go’には1次近似の範囲では誤差はあらわれない。
θdが±π/2(=±90°)の時は、式(33)の根号の中の1−cos2θdは最大値である2となるため、式(33)の大括弧[ ]の中は、参照信号Vrsを基準にした被測定信号Vinの位相に応じて、最大約(1±δ)の範囲で値の差異が生じる。
【0039】
以上のことから、Go’をθdの関数と考えたとき、θdに対してπ(=180°)の周期をもつ周期関数として近似的に見えるような振る舞いが観測されることがわかる。
また、位相差の測定値θd’は、θinが、
【数20】
ここで、
【数21】
の近似を用いると、φは、
【数22】
と、φをδに関して一次近似できる。
【0040】
このことを用いると、θ’in1、θ’in2はそれぞれ、
【数23】
と1次近似できる。
よって、|δn|<<1のとき、θd’は、
【数24】
と一次近似でき、θd’もGo’と同様にθdを中心とした正弦波状の振る舞いを示すことがわかる。
θd’は、2つの被測定信号Vin間の位相差θdにより、振幅比Go’と同様に、θdが0もしくはπ(=180°)であれば、(1−cos2θd)が0となることから、θd’の測定値に誤差はあらわれない(図21(b)で幾何学的に示したように、この場合はこの近似に限らず、厳密にこうなる)。
【0041】
一方、θdが±π/2(=±90°)の時は、(1−cos2θd)が2となるため、参照信号Vrsを基準にした被測定信号Vinの位相に応じて、最大約(1±δ)の範囲で相対誤差が生じる。
【0042】
Go’およびθd’について、これらのことを確かめるため、厳密解である式(30)(31)と近似解である式(33)(39)を比較したグラフを図23に示す。
被測定信号Vinの位相差θdにより測定結果の経時変化の様子が異なることが、近似した式でほぼ再現できていることがわかる。
【0043】
これらの結果からみると、主に参照周波数frと被測定信号Vinの周波数fin間のずれの度合いδが10%以下(0.1以下)であれば、近似解は厳密解をほぼ完全に再現し、振幅特性を定量的に考察することが可能、δが30%程度でもおおよその特性を定性的に考えることは十分可能であることがわかる。
【0044】
このように、被測定信号Vinの周波数finと参照信号Vrsの周波数frの間に相対的なずれ(1+δ)があると、振幅比や位相差測定の際に、被測定信号Vin間の位相差に依存し、かつずれδにほぼ比例するような形で測定誤差が発生する。
また、θin2は参照信号Vrsを基準としたときの被測定信号Vin2の位相である。
参照信号の周波数と被測定信号との周波数がfin=(1+δ)frの形でずれていた場合、積分器Iにおいて1回の測定結果が得られる間(n・Trの時間が経過する間)に、参照信号の位相に対して、被測定信号Vinの位相θin2はδn・2π(δn回転)だけ進む。
【0045】
すなわちθin2は、参照信号Vrsの位相を基準として考えた時、時刻tの関数θin2(t)として、以下のように変化するという形で表すことができる。
θin2(t)=θin2(0)+δn・2π・t/(n・Tr)
=θin2(0)+(2π・δ/Tr)・t
=θin2(0)+(2π・δ・fr)・t ・・・・(40)
このように表すと、式(33)(39)で表わされる振幅比Go’や位相差θd’の測定結果の時間経過は、式中のcosの引数中のθin2が2倍されていることにも注意すると、積分回数nによらず、周波数2δ・fr(もしくは周期Tr/(2δ))で、真値Go(=Va1/Va2)およびθd(=θin1−θin2)を中心に、ほぼ正弦波の形で時間変化することがわかる。
【0046】
このことを改めて式として書くと、Go’およびθd’の周波数をfmeasとしたとき、
fmeas = 2δ・fr ・・・・・・・・(41)
と、参照信号Vrsの周波数とずれに比例した周波数の形で表せる。
【0047】
そこで、本発明の目的は、被測定信号の周波数finと参照信号の周波数frがずれているときに、2つの被測定信号間の振幅比および位相差の測定値が周期的に時間変化してしまうという課題に鑑み、同期検波器やFRAによる測定において、被測定信号の周波数finと参照信号Vrsの周波数frが同期を取られていない場合にも、2つの被測定信号Vin間の振幅比および位相差の測定値を安定した出力が得られる非同期FRAを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0048】
上記課題を解決するため、本発明の非同期FRAの一側面によれば、複数の二位相同期検波器を具備し、前記二位相同期検波器が同じ周波数で位相が90度だけ異なる2つの参照信号でそれぞれが動作する2つの同期検波器と、直交座標−極座標変換器とを具備し、前記同期検波器のそれぞれが、被測定信号の入力部と、前記被測定信号と前記参照信号を乗算する乗算器と、前記乗算器の出力を参照信号の周期の整数倍の時間で積分し。前記時間ごとに出力する積分器を具備し、前記直交座標−極座標変換器が、前記2つの同期検波器の2つの出力を直交座標上の2成分としたとき、これを極座標表示における絶対値と偏角の2つの出力を得る変換部を具備し、前記複数の二位相同期検波器の中の2つの組み合わせから得られる絶対値および偏角の値から、前記絶対値の比と偏角の差を出力し、該出力の少なくとも1つにローパスフィルタを通過させて複数の被測定信号間の参照信号成分のベクトル比を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0061】
本発明の非同期FRAによれば、被測定信号の周波数fin と参照信号の周波数fr間に同期関係がなくても、振幅比および位相差を測定でき、安定した測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態を示す図である。
図2図2は、本発明の第1の実施の形態でのシミュレーション結果を示す図である。
図3図3は、本発明の第1の実施の形態での別のシミュレーション結果を示す図である。
図4図4は、本発明の第2の実施の形態を示す図である。
図5図5は、本発明の第3の実施の形態を示す図である。
図6図6は、本発明の第4の実施の形態を示す図である。
図7図7は、本発明の第5の実施の形態を示す図である。
図8図8は、本発明の第6の実施の形態を示す図である。
図9図9は、本発明の第7の実施の形態を示す図である。
図10図10は、本発明の第7の実施の形態でのシミュレーションの概要を示す図である。
図11図11は、本発明の第7の実施の形態でのシミュレーション結果を示す図である。
図12図12は、本発明の第8の実施の形態を示す図である。
図13図13は、同期検波の原理を示す図である。
図14図14は、ローパスフィルタを積分器で構成した例を示す図である。
図15図15は、同期検波器の出力と振幅・位相の関係を示す図である。
図16図16は、二位相同期検波器の構成例を示す図である。
図17図17は、FRAの原理を示す図である。
図18図18は、利得、周波数特性の測定を示す図である。
図19図19は、インピーダンスの測定を示す図である。
図20図20は、sinc関数を示す図である。
図21図21は、同期時と非同期時の被測定信号のベルトルの軌跡を示す図である。
図22図22は、ベクトルの軌跡を示す図である。
図23図23は、さまざまなδによる測定結果のシミュレーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0064】
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る同期検波器を示す図である。第1の実施の形態は、ひとつの信号に対してひとつの同期検波器を構成している。
この第1の実施の形態に係る同期検波器は、積分器IによってローパスフィルタLPFを構成した同期検波器Di(図14)にトリガ検出器Tが追加されたトリガ付積分型同期検波器Ditにより構成され、トリガ信号のタイミングに合わせて参照信号Vrsの位相が所定の位相たとえば0°から始まるトリガ付同期検波器Dtである。
【0065】
トリガ検出器Tは一例として、入力である被測定信号Vinがあらかじめ設定した所定レベルを通過するタイミングをロジック信号として出力する。
このトリガ検出器Tの出力は、参照信号Vrsを発生する参照信号発生部Q、および積分器IによるローパスフィルタLPFに加えられている。
参照信号発生部Qは、トリガ検出器Tからのトリガ信号により、決められた位相たとえば、正弦波の0°から開始する参照信号Vrsを出力する。
また参照信号発生部Qは、正弦波と余弦波など、あらかじめ設定された任意の位相の複数の出力をするものであってもよい。
【0066】
積分器Iも同様にトリガ検出器Tからのトリガ信号により積分動作を開始し、積分開始時点における参照信号Vrsの位相は常に同じ(ここで挙げた例では0°)となる。
積分器Iは、参照信号Vrsの周期Tr(周波数frの逆数)と積分回数nの積n・Trの時間積分および積分区間の平均値であるn・Trによる除算を行い、その結果として出力信号Vsを出力する。
【0067】
図2は、同期検波器Dtの構成により、参照信号の周波数frを50.00Hz、AC100Vrms、積分器Iの積分回数nを1として、被測定信号を周波数のずれδが0.001(0.1%、fin=50.05Hz)、0.01(1%、fin=50.5Hz)、0.1(10%、fin=55Hz)としたシミュレーション結果を示している。
この結果から、既述の従来の技術で生じた周波数のずれδによる測定値の振動が現れていないことがわかる。
ただし、本実施形態では、|δ|(周波数のずれ)が大きくなると、δ=0.1のときでは、被測定信号の100Vrmsに対して、出力Vsはおよそ90Vrmsが測定されているように、測定値自体のずれも大きくなっていることがわかる。
【0068】
また、図3は、周波数のずれはδ=−0.001(fin=49.95Hz)で、被測定信号Vinと実効値が等しく、その実効値が100Vrmsであるガウシアンノイズを重畳し、積分回数nを1、10、100とした場合を示している。積分回数を増やせば、雑音の影響が軽減され、測定ごとの測定値のばらつきが小さくなることがわかる。
なお、積分回数100回では測定出力が90Vrms程度になっている。これはnδ=−0.1となり、式(18)で表わされるように、δのn倍がずれとして測定されるからである。
【0069】
〔第2の実施の形態〕
図4は、第2の実施の形態に係る同期検波器を示す図である。
この第2の実施の形態に係る同期検波器Dtjでは、第1の実施の形態に実効値測定部Vおよび判定器Jが追加されている。
実効値測定部Vは同期検波器以外の実効値測定手段であり、入力される被測定信号Vinの実効値を出力する。この実効値測定部Vはたとえば、平均値検波による実効値換算や、サーマルコンバータを用いた熱電変換型など、被測定信号Vinの実効値を測定する手段などに用いることができる。
判定器Jは、同期検波器および実効値測定部の各出力を入力し、それらの差異があらかじめ設定した判定基準内にあるか否かの判定結果を出力する。
【0070】
同期検波と別の方法で測定した被測定信号Vinの実効値Vrmsと、トリガ付同期検波器Dtで測定した実効値Vsについて、測定条件が理想状態たとえば、参照信号Vrsの周波数frと被測定信号Vinの周波数finが一致し(fr=fin)、かつ被測定信号Vinが単一の正弦波であれば、各実効値Vrms、Vsは一致する。
この理想状態からずれた状態、たとえば、finとfrがずれていれば、第1の実施の形態で考察してきたように、測定結果も被測定信号Vinの実効値からずれてくる。また、被測定信号Vinがノイズ成分や周波数finの高調波成分を多く含む信号であれば、測定結果の信頼性は低下する。
【0071】
実効値測定部Vおよび判定器Jを備えれば、たとえば、実効値Vs、Vrms間の差異があらかじめ設定した判定基準以上であれば、測定値の信頼性が低い、という警告を判定器Jより出力し、測定結果の妥当性判断が可能になる。
たとえば、判定基準を10%に設定した場合、第1の実施の形態でのシミュレーション結果に示すように、実効値Vsの測定結果は、周波数のずれの絶対値|δ|がおよそ0.1以上であるような場合に警告を発すればよい。
ここで挙げた10%という数字は判定基準の一例に過ぎず、被測定信号Vinの実効値と測定値Vsに対する周波数のずれδの影響を示す具体的な値は式(18)に示す通りである。
ただし、被測定信号Vinにノイズが含まれる場合には、実効値測定部Vの測定値Vrmsにはノイズや高調波成分を含む値となる。
【0072】
〔第3の実施の形態〕
図5は、第3の実施の形態に係る同期検波器を示す図である。
この第3の実施の形態に係る同期検波器は、第2の実施の形態に係る実効値判定およびトリガ付同期検波器Dtjの入力部に、参照信号Vrsの周波数frに近い周波数を通過帯域とするフィルタFを追加した同期検波器Dtjfである。
第2の実施形態では、被測定信号Vinに含まれる周波数finの正弦波以外の成分も実効値測定部Vにより測定される。
被測定信号Vinの周波数finと、参照信号Vrsの周波数frのずれが測定結果にどのように影響しているかを判定器Jの主たる判定要素とする場合には、被測定信号Vinに含まれる周波数fin以外の成分であるノイズや高調波成分を、実効値測定部Vに入力する前にフィルタFで除去することが好ましい。
このフィルタFは、遮断すべき信号の性質により、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタのいずれでもよい。
また、商用電源の周波数によるハムの除去など、除去したいノイズ源が限定される用途には、バンドエリミネーションフィルタを使用してもよい。
実効値判定およびトリガ付同期検波器Dtjに入力する被測定信号Vinを通過させるフィルタFは、アナログ回路、デジタル回路のいずれでもよい。フィルタFをデジタルフィルタとするのであれば、被測定信号VinをA/D変換すればよい。デジタルフィルタであれば、フィルタFをローパスフィルタ、ハイパスフィルタとしたときのカットオフ周波数や、バンドパスフィルタ、バンドパスフィルタにしたときの中心周波数をソフトウェア上で、参照信号の周波数frに連動して変更する構成とすればよい。
なお、この第3の実施の形態の構成は、第1の実施の形態に適用してもよい。
【0073】
〔第4の実施の形態〕
図6は、第4の実施の形態に係る同期検波器を示す図である。
この第4の実施の形態に係る同期検波器Dtjfdは、図5に示す第3の実施の形態に係る2組の同期検波器Dtjf1およびDtjf2を用意し、時間差計測部Tdに2組の同期検波器Dtjf1およびDtjf2からのトリガ信号Ts1およびTs2を入力して、時間差を計測することにより、各同期検波器Dtjfに対するトリガがかかる時間間隔Tdoを測定可能に構成している。
【0074】
また、振幅比演算部Gに2組の同期検波器Dtjf1およびDtjf2からの出力信号Vs1およびVs2を入力して、出力電圧の比を計測することにより、振幅比Goを測定可能に構成している。
【0075】
この例では第3の実施の形態に係る同期検波器Dtjfを組み合わせているが、2組の同期検波器Dtjfは、第1または第2の実施の形態に係る同期検波器Dt、Dtjに置き換えてもよく、同期検波器Dt、Dtj、Dtjfを組み合わせてよい。
【0076】
被測定信号Vinの周波数finが参照信号Vrsの周波数frに十分近い値として考えれば、参照信号Vrsの周期Tr(参照信号Vrsの周波数frの逆数)を2π(=360°)として、時間間隔Tdoから、2π・Tdo/Trにて位相に換算することにより、2つの被測定信号Vin間の位相測定が可能である。
【0077】
また、同じ被測定信号Vinから生成したトリガ信号から次のトリガ信号までの時間Tinを、周波数fr、fin間のずれにあたるδよりも高精度に測定可能であれば、2π・Tdo/Tinとして位相差に換算すれば、ずれδの影響を受けずに2つの被測定信号Vin間の位相差測定が可能である。
【0078】
また、2つの被測定信号Vinの振幅も求めることができるので、振幅演算部Gによって、2つの被測定信号Vin間の振幅比を求めることができる。
【0079】
〔第5の実施の形態〕
図7は、第5の実施の形態に係る同期検波器を示す図である。
図7(a)に示すように、この同期検波器Dttjfdは、第4の実施の形態に係る位相差測定、入力フィルタ、実効値判定およびトリガ付同期検波器Dtjfdの構成を、図7(b)で示す二位相の同期検波器Dttjfに置き換えた同期検波器および位相差演算部Pにより構成されている。
また、図7(b)に示す二位相の同期検波器Dttjfは、図7(c)に示すフィルタFおよび同期検波器Dttjにより構成されている。
図7(c)に示す同期検波器Dttjは、図7(d)に示す二位相の同期検波器Dtt、実効値測定部Vおよび判定器Jにより構成されている。
さらに、図7(d)に示す同期検波器Dttは、二位相同期検波器Dxy、信号発生部Qおよびトリガ検出部Tにより構成されている。
【0080】
この第5の実施の形態(図7(a))に係る同期検波器では、二位相の同期検波器Dttを備えたことにより、それぞれの入力フィルタ、実効値判定およびトリガ付二位相同期検波器Dttjf1、Dttjf2で参照信号Vrsの位相を基準位相とした位相測定が可能である。
そのため、第4の実施の形態に対して、第5の実施の形態(図7(a))では位相θ1およびθ2を用いて両者の位相差θdを演算する位相差演算部Pが備えられている。位相差演算部Pは、位相差θd(=θ1−θ2)の演算結果を出力する。
【0081】
トリガ検出器Tの動作により、参照信号Vrsの位相に対して常に一定の位相関係にある被測定信号Vinの測定が実施される。
たとえば、被測定信号Vin1およびVin2の0Vの立ち上がり部分を基準に、各同期検波器にてトリガをかけた場合、参照信号の0に対して、被測定信号の位相も0の状態から二位相同期検波器による測定が行われるのと等価な測定となる。
【0082】
なお、本実施の形態では、同期検波器が二位相の構成であるため、被測定信号と参照信号の位相が任意であっても、この第5の実施形態では第4の実施の形態までの構成とは異なり、被測定信号Vinの振幅および位相の測定値が得られる。
そのため、トリガ検出器T1やT2がトリガを検出したタイミングで参照信号Vrs、Vrcや積分器Is、Icの動作を同時に開始させる必要はない。
【0083】
この第5の実施の形態では、被測定信号Vinと参照信号Vrsの間に一定の位相差を持たせる遅延をかけて同期検波器を動作させ、その遅延相当分の位相の値を演算で補正してもよい。
ここで、参照信号の周波数frと被測定信号の周波数finが近いとして、|δ|<<1と見なせる場合の1次近似を用いると、図7(a)に示す位相θ1の測定結果は、
【数25】
と表せ、特に、θin1=0のときは、
θ1≒δnπ ・・・・・・・・(43)
となる。
【0084】
すなわち、被測定信号の0°から二位相同期検波器で測定した場合、測定結果はδnπとなる(δnπはラジアン単位での角度。これを度数法(°)に換算するには、この値に180°/π≒57.3°を掛け、またはδnに180°を掛ける)。
【0085】
このことから、図7(a)に示すように、位相θ1やθ2の測定結果は、測定の信頼性を判定する目安になる。
したがって、この同期検波器ではたとえば、以下のような使い方が考えられる。
(1)この位相の測定値から周波数のずれδの値を演算で見積もり、位相が0に近づくように参照周波数frを増減させる。
(2)測定結果である位相が予め設定した判定基準から外れた場合には、振幅や位相の測定結果の信頼性が低いことを警告する。
たとえば、判定基準を±5°以内と決めれば、式(43)のδnπが±5°≒±0.087radの範囲を外れた場合に警報を出す。
ただし、第1から第5までの実施の形態では、被測定信号Vinからトリガ信号を得ることが必要である。
【0086】
〔第6の実施の形態〕
図8は、第6の実施の形態に係るFRAを示す図である。
この第6の実施の形態に係るFRAは、被測定信号Vinの周期に合わせたトリガを得るのが困難な被測定信号Vinの処理に有効である。このFRAでは、図17に示すFRAの出力信号である振幅比および位相差のそれぞれから、振幅比の振動を除去するローパスフィルタLPF−OVおよび位相差の振動を除去するローパスフィルタLPF−OPにより振動成分を除去し、振幅比Goおよび位相差θdを出力する。
振幅比Goおよび位相差θdは、被測定信号Vinの周波数finと参照信号Vrsの周波数frとのずれδに起因し、式(33)(39)により表わされる。
さらに、振幅比Goおよび位相差θdは、式(40)に表されるように、周波数fmeas=2δ・frで振幅比Goの測定出力の振幅、および位相差θdの測定出力の振幅が変化する。
すなわち、測定出力の振幅はずれδおよび参照信号frに比例する。そこで、カットオフ周波数よりも高い周波数に出力振幅が反比例する特性またはこの特性に漸近する特性を備えるローパスフィルタLPFを使用し、このLPFのカットオフ周波数を参照信号fr以下にすれば、ずれδによる測定出力変化を打ち消すことができる。
また、2次以上のローパスフィルタを用いれば、ずれδが大きくなるほど、測定出力の振幅変化より減衰させることができ、その減衰度合いを強めることができ、より安定した測定が可能となる。
このように、参照信号frに応じたカットオフ周波数のローパスフィルタを出力段に設ければ、測定出力の安定化を図ることができる。
【0087】
ただし、この実施の形態では、ずれδに起因する測定値の振動幅、すなわち、式(33)(39)で示した正弦波振幅として与えられる測定値の振動幅を小さくするには、ローパスフィルタのカットオフ周波数をより低くする必要がある。
周波数が商用電源の周波数(50Hz〜60Hz)程度で、周波数ずれが1%以下のオーダでの測定を考えると、カットオフ周波数はおよそ1Hz以下であることが望ましい。
【0088】
ローパスフィルタの応答時間がどの程度になるかを以下で考察する。
1次ローパスフィルタのカットオフ周波数を1Hzとした場合、過渡応答の時定数Tcは約0.16s(≒1s/(2π))である。
被測定信号Vin2を一定のレベル入力とし、被測定信号Vin1を0から被測定信号Vin2と同じ振幅に急変させた場合を想定すると、定常状態の出力の95%に達するまでにおよそ時定数Tcの3倍(1−exp(−3)≒0.95)の時間、この場合、およそ0.5秒を要する。
このように、被測定信号Vinが急変してから測定結果が安定するまでの時間は、1次ローパスフィルタの場合で、被測定信号Vinの周期のおよそ25倍が目安となる。
【0089】
この第6の実施の形態では、被測定信号Vin1およびVin2の周波数finが固定でない場合、参照信号Vrsの周波数fr、すなわち測定する周波数に応じてローパスフィルタのカットオフ周波数を変更する必要がある。
そのため、アナログのローパスフィルタでは広い測定周波数帯域に対して測定確度を確保するのが困難である。
デジタルフィルタでは測定周波数をパラメータとし、カットオフ周波数を変更することは比較的容易である。
ローパスフィルタの特性は1次系である必要はないし、急峻な周波数特性をもつローパスフィルタを使用すれば、測定結果が安定するまでに、そのローパスフィルタの過渡応答特性に応じた時間を要する。
【0090】
〔第7の実施の形態〕
図9は、第7の実施の形態に係るFRAを示す図である。
この第7の実施の形態に係るFRAは、参照信号の周期Trを4等分したTr/4ごとに参照信号Vrsの位相が同じ値から始まる4組のFRA1、FRA2、FRA3、FRA4を備え、各FRA1、FRA2、FRA3、FRA4から得られる振幅比および位相差の4つの測定値の平均を取り、その値を振幅比および位相差の測定値として出力する非同期FRAである。
【0091】
この例では、積分回数nは1としている。
この場合、各FRAの積分区間は、
・FRA1:0〜Tr
・FRA2:Tr/4〜5Tr/4
・FRA3:2Tr/4〜6Tr/4
・FRA4:3Tr/4〜7Tr/4
の4通りで、この測定が参照信号の周期TrごとにFRA1〜4のそれぞれで繰り返される。
【0092】
図10は、FRA1〜4のそれぞれの積分区間と、Tr/4周期ごとに4つのFRAの測定値出力が順番に更新される様子を表わしたものである。
図10では簡略化のため、被測定信号を1つ、各FRAの参照信号はVrsのみ示したが、被測定信号はもう1つあり、各FRAの参照信号VrsにはVrsとπ/2(=90°)位相のずれたVrcもある。
【0093】
図11は、周波数fin=(1+δ)fr(δ=0.001、0.01、0.1の3通り)、位相差π/2の被測定信号1、2を図9に示す構成で測定した場合のシミュレーション結果である。
1つの測定で測定結果に現れる振動は平均を取ることでほぼ打ち消しあうので、この平均化処理で振幅比および位相差の測定結果の安定性が大きく改善されることがわかる。
【0094】
ここで、参照信号Vrsの周期を4等分して平均を取ることで、振幅比および位相差の測定出力が改善されることを説明する。
正弦波1周期を任意の位相を起点として2等分したとき、2つの正弦波の値の和は0になる。
これは、1周期の2等分を位相で表現するとπ(=180°)であり、
sin(x+θ)+sin(x+θ+π)
=sin(x+θ)−sin(x+θ)
=0 ・・・・・・・・・・(44)
となることから、容易に証明できる。
【0095】
また、FRAにおける振幅比および位相差の測定出力が式(41)で表わされるfmeasの周波数で振動する理由は、参照信号Vrsの位相を基準としたとき、被測定信号Vinの位相が、式(40)で与えられる形で時間変化をしているためである。
このことは、たとえば、参照信号Vrsの位相π/2(=90°)が異なる2つのFRA、FRA1とFRA2を用意して同じ被測定信号Vinを測定したとすると、FRA1での測定出力に対してFRA2の測定出力は、式(30)(31)もしくは式(33)(39)で表わされた振幅比および位相差中の表式中のθin2の位相をπ/2(=90°)ずらしたときの出力が得られることになる。
【0096】
すなわち、2δfrの周波数で生じる時間変化は、参照信号Vrsの1周期以内の時間差を設けた複数の参照信号を用意すれば、意図的に作り出すことができることになる。
積分周期1周期分の時間は、θin2の2π(=360°)の変化に相当する。
【0097】
そして、式(33)(39)で表わされた振幅比および位相差は、θin2の2πの変化によって2周期分の正弦波となって現れる。
θin2の2π(=360°)の変化が2周期分に相当することから、参照信号Vrsの位相をπ/2(=90°)だけずらし、積分開始時間もその分ずらして動作させたFRAにより測定すれば、相対的にθin2のπ/2だけずらして測定した、式(33)(39)で表わされる振幅比および位相差の測定出力は、式(33)(39)のθin2を引数とする正弦波の半周期分ずれた出力となる。
このように、FRA1とFRA2の出力の正弦波部分は半周期分のずれを持つ出力を行うことがわかる。
【0098】
そして、式(44)で与えられるように、半周期分ずれた正弦波同士の和は常に0になるので、式(33)(39)で表わされた振幅比および位相差のFRA1とFRA2との出力の正弦波部分の和は0となり、正弦波状の変化を打ち消すことができる。
ただし、参照信号Vrsの周波数frと被測定信号Vinの周波数finはずれδを持つので、厳密には、異なる周波数であるため、参照信号Vrsの位相をπ/2(=90°)ずらすことと、θin2の位相をπ/2(=90°)ずらすことは異なる。
【0099】
そのため、FRA1とFRA2の出力の正弦波部分も、正確に半周期分のずれではなく、厳密には半周期からδだけずれたものになる。
この場合、式(44)に相当する値は、
【数26】
となる。
ただし、ニアリイコール(≒)とした過程で、|δ|<<1として1次近似を用いた。
余弦波(cos)は絶対値の最大値が1の関数であるので、式(33)(39)で表わされた振幅比および位相差のFRA1とFRA2それぞれが持つ出力の正弦波部分の振幅は、和を取ることにより、0とはならないまでも元の振幅を1として、最大でもδ程度に小さくできる、ということになる。
【0100】
ところで、FRA1とFRA2それぞれが持つ出力の正弦波部分の振幅は、もともと、参照信号の周波数frと被測定信号の周波数finとのずれδに対して、式(33)(39)で与えられているように、最大でほぼδであるため、FRA1とFRA2の出力を、式(44)に相当する和を取ることで、δの二乗のオーダとなることがわかる。
参照信号1周期分が式(33)(39)で与えられているθin2を引数とする正弦波では2周期分に相当することから、図11に示す結果は、FRA1、FRA2に加え、FRA3、FRA4として参照信号1周期を4等分してFRAを4つ使用してπ/2(=90°)ずつ位相が異なる4組の参照信号で平均を取った結果である。
図11のシミュレーション結果を確認すると、
(a)δ=0.001で、振幅比の平均化後の振幅は0.000001程度。
(b)δ=0.01で、振幅比の平均化後の振幅は0.0001程度。
(c)δ=0.1で、振幅比の平均化後の振幅は0.01程度。
となっており、位相についても、δrad≒57.3°・δを用いれば、式(45)で表わされる結果を裏付けていることがわかる。
また、この場合で4点の移動平均を取っていることからもわかるように、入力信号に急変や瞬間的なノイズの混入などがあっても、4点分の平均を取れば、ノイズなどによる出力の急変を緩和できる。
【0101】
〔第8の実施の形態〕
図12は、第8の実施の形態に係る非同期FRAを示す図である。
この第8の実施の形態に係る非同期FRAは、半周期位相のずれた正弦波同士の和が0となる式(44)を元にし、第7の実施の形態に係る非同期FRAをより一般化したものである。
【0102】
ところで、sinは1周期を表わす2πを2以上の整数m1で割った値である2π/m1ずつ位相をずらしたm1個のsinの和も式(44)と同様に0となる。
たとえば、位相が2π/3(=120°)ずつずれた3つの同じ振幅の正弦波の和が0となることは、容易にわかる。
さらに一般化して、kを1以上の整数として、sinのk周期を、kの約数でない整数m2で割った値である、k・2π/m2ずつ位相をずらしたm2個のsinの和も式(44)と同様に0となる。
このことは、以下のように示すことができる。
【数27】
ここで、m2がkの約数でないことから、k/m2は整数ではないので、
【数28】
である。
(ちなみにk/m2が整数であれば、この和はexp(jθ)のm2倍となる、つまり初期位相θにおけるcosもしくはsinを単純にm2個足した値となるだけである。)
よって、式(46)の大括弧[ ]内は、初項1、公比が式(47)で与えられる1ではない値、項数がm2の等比数列の和になるので、
【数29】
となることがわかる。
【0103】
ところで、
【数30】
であるから、この関係と式(48)の結果を実部および虚部のそれぞれで比較すれば、kを1以上の整数として、sinのk周期をkの約数でない整数m2で割った値である、k・2π/m2ずつ位相をずらしたm2個のsinの和も式(44)と同様に0となることがわかる。
幾何学的には、複素平面上の0を中心とする円周上に、重ならない形で等間隔にm2個
配置した点における複素数の値を足し合せれば0になり、等間隔がたまたま2πの整数倍にあたり、m2個の点が同じ複素数を表わす場合は、その複素数のm2倍、ということである。
積分回数の1回が参照信号1周期であるTrの時間に相当し、位相に換算すると、式(33)(39)で表わされた振幅比および位相差は、θin2の2πの変化によって2周期分の正弦波に相当する。
【0104】
このことから積分回数n回は振幅比および位相差の測定値の周期の位相に換算すると2n周期分の位相に相当する。
この考えに基づくと、積分回数n回はkに換算すると2nに相当する。
そのことから、式(46)に2nを代入して0になるようなm2としては2nの約数ではない正の整数を選べばよく、第7の実施の形態を一般化した形態としては、以下のような表現となる。
【0105】
FRAの積分回数をn回として、2nの約数ではない整数m2で割った値である、4nπ/m2ずつ位相をずらしたm2個のFRAにて、参照信号の周期Trを2πとして4nπ/m2の位相に相当する時間ずつ時間をずらした測定をFRA1〜FRA(m2)までのそれぞれで測定を行い、それらすべての振幅比および位相差の平均を取ることにより、振幅比および位相差の振動が、FRA単体で測定したときに対してδ程度の比に小さくすることができる。
ただし、このことが成り立つのは|nδ|<<1のときである。
この場合、n周期分の時間を一つの測定区間と考えることは、n周期での積分となる。一つのFRAでの測定結果を得るに当たり、積分回数1回の時に対して雑音成分を1/√nに抑えることができるため、雑音低減とともに高確度化を図ることができる。
【0106】
〔第9の実施の形態〕
第9実施の形態に係る非同期FRAは、第8の実施の形態において、重複する被測定信号Vinと参照信号Vrsの積分を効率的に行ない、演算量を減少させた非同期FRAである。
第7の実施の形態に係る非同期FRAでは、積分回数の1回にあたる時間Trを4区分に分けたが、Trの時間がFRA単体で測定した際に振幅比および位相差の振動2周期分の時間である。
第7の実施の形態の考察では、その冒頭で4つの測定出力の平均ではなく、参照信号Vrsの位相がπ/2(=90°)であるFRA1とFRA2の2つで考察して、振幅比および位相差の振動が2つの平均を取れば、ほぼ0に抑制できることを示した。
【0107】
このように区間を分けたデータすべてを使って平均を取らなくても、振動を抑えることが可能なケースが存在する。
以下に代表的なケースを挙げる。
たとえば、第7の実施の形態において、4つの測定出力すべてではなく、隣り合う2個分のみで平均を取る構成である。
積分回数の1回が2回転分の複素平面上の0を中心とした円上に等間隔に配置した複素数の和に相当するので、そのうちの1回転分の測定出力を用いれば、振幅比および位相差の振動を抑える効果がほぼ同様に得られる。
また、式(48)で和が0になることが示すように、m2点のデータのうちの少なくとも1点分の参照信号Vrsと被測定信号Vinとの積分の結果は、残りの(m2ー1)点分の積分データの利用により生成可能である。
【0108】
さらに、式(44)および図10に示すFRA1とFRA3、もしくはFRA2とFRA4のVrs同士の比較から明らかなように、参照信号Vrsは負号がつくだけの関係なので、Tr/4の区間ごとの積分演算の結果は、FRA1とFRA3、もしくはFRA2とFRA4同士で負号の有無の相違に過ぎないので、いずれかを積分演算をするだけで、その演算結果に−1を掛けるだけで演算処理を済ませることが可能である。
同様に2の2以上のべき乗分割ではその値で分割した区間ごとの積分データを半数だけ演算すれば、残りの半数のFRAについては積分演算が不要となり、データ点数分の膨大な乗算処理を簡略化できる。
2のべき乗でない場合、m2が約数を持つ数であれば、その(約数−1)個分のFRAの測定処理データから残りのデータ生成が可能であるので、約数分の積分演算を減らすことが可能である。
【0109】
また、m2が約数を持つということはその約数による分割と見なす(たとえば、m2=6)の場合、その約数は1、2、3であり、平均化処理として可能な数である3を選び、分割と見なした場合のFRAにあたるデータだけを用いれば(たとえば、FRA1〜6と並んでいて、FRA1、FRA3、FRA5の測定データ)、振幅比、位相差の振動を抑制した測定出力を得ることができる。斯かる演算処理は、平均化によるノイズ抑制の程度に応じ、簡略化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、非同期で動作する非同期FRAであって、信号間の振幅比や位相差の測定に用いることができ、被測定信号の周波数と参照信号の周波数の間に同期関係がなくても、振幅比や位相差を測定することができ、安定した測定結果が得られる。
【符号の説明】
【0111】
Dt 同期検波器、トリガ付き同期検波器
Dit トリガ付き積分型同期検波器
T トリガ検出器
Q 参照信号発生部
M 乗算器
I 積分器
J 判定器
V 実効値測定部
F フィルタ
Dtj 実効値判定およびトリガ付同期検波器
Dtjf 入力フィルタ、実効値判定およびトリガ付同期検波器
Dtjfd 位相差測定、入力フィルタ、実効値判定およびトリガ付同期検波器
Dtjf1、Dtjf2 入力フィルタ、実効値判定およびトリガ付同期検波器
Dttjf1、Dttjf2 入力フィルタ、実効値判定およびトリガ付二位相同期検波器
Td 時間差測定部
G 振幅比演算部
P 位相差演算部
Dttj 実効値判定およびトリガ付二位相同期検波器
FRA 周波数特性分析器
OSC 参照信号と同期した内蔵発振器
OSC−FRA 参照信号と同期した内蔵発振器付周波数特性分析器
LPF−FRA 出力ローパスフィルタ付き周波数特性分析器
LPF−OV、LPF−OP ローパスフィルタ
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