【実施例】
【0056】
次に実験例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0057】
[実験例1]
(生体試料中の対象タンパク質の対象メチオニン残基の酸化レベルの検討)
健常非喫煙者(C)18名と2型糖尿病患者(DM)23名、腎不全合併2型糖尿病患者(RF)12名、健常喫煙者(S)9名の血清を対象に、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)、イムノグロブリンGの定常領域の後述するメチオニン残基における、酸化されていないメチオニン残基と酸化されたメチオニン残基との量比(Met(O)/Met(%)、以下「酸化比」という。)をLC−MS分析により測定した。
【0058】
なお、イムノグロブリンGには、イムノグロブリンG1、イムノグロブリンG2、イムノグロブリンG3及びイムノグロブリンG4の4種類のアイソフォームが存在する。本実験例では、イムノグロブリンG1の定常領域の第135番目のメチオニン(Met−135)、イムノグロブリンG2の定常領域の第131番目のメチオニン(Met−131)、イムノグロブリンG3の定常領域の第182番目のメチオニン(Met−182)、及びイムノグロブリンG4の定常領域の第132番目のメチオニン(Met−132)を対象メチオニン残基とした。これらのイムノグロブリンのメチオニン残基は、後述する酵素消化後に、同一のアミノ酸配列を有するペプチド上に存在することになるため、混合物として測定した。
【0059】
表1に、被験者の医学的特徴を示す。実験は、北里大学医学部の倫理委員会に承認を得(B15−181)、全ての被験者から書面で同意を得たうえで行った。
【0060】
【表1】
【0061】
(血清試料の採取)
まず、各被験者から血液試料を採取した。血液は肘正中静脈から採取し、凝血促進剤を含む容器に入れて室温で凝固させた後、2,000×gで15分間、室温で遠心した。続いて、血清を回収し、使用するまで−30℃で保存した。
【0062】
(血清試料の還元アルキル化)
続いて、凍結保存していた血清を融解し、融解した血清2μLに、200mM重炭酸トリエチルアンモニウム/12mMデオキシコール酸ナトリウム/12mMラウリル硫酸ナトリウムを20μL添加し、更に200mMトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩/120mM重炭酸トリエチルアンモニウムを2μL添加し、50℃で30分間インキュベートした。この結果、還元剤であるトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩により、血清試料中のタンパク質のチオール基が還元された。
【0063】
続いて、375mMヨードアセトアミドを2μL添加し、得られた混合液を暗所で30分間インキュベートした。この結果、アルキル化剤であるヨードアセトアミドにより、血清試料中のタンパク質のチオール基がアルキル化された。
【0064】
(血清試料のトリプシン消化)
続いて、100ng/μLのリシルエンドペプチダーゼを2μL及び100ng/μLのトリプシンを2μL添加し、37℃で24時間インキュベートした。この結果、血清試料中のタンパク質がペプチドに分解された。続いて、アセトニトリル50μLと5%トリフルオロ酢酸50μLを添加し、19,000×gで15分間遠心し、上清をLC−MS解析に供した。
【0065】
(酸化比の解析)
Met(O)/Met(%)(酸化比)を測定するためには、まず、トリプシン消化した血清試料を、HPLC装置(型式「Nanospace SI−2 HPLC system」、資生堂)に取り付けた内径2.0mm×50mmのカラム(型式「CAPCELL PACK MGIII−H S3」、資生堂)に注入した。カラム温度は45℃に維持した。
【0066】
移動相Aとして0.05%ギ酸を使用し、移動相Bとして0.05%ギ酸/90%アセトニトリルを使用した。移動相の流速を200μL/分とし、移動相のグラジエントを次のようにプログラムした。0%B(0〜3分)、0〜55.5%B(3〜40分)、55.5〜80%B(40〜40.1分)、80%B(40.1〜45分)。
【0067】
続いて、ペプチドを、HPLCからイオントラップ・フーリエ変換ハイブリッド質量分析装置(型式「LTQ−Orbitrap Discoverer」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に導入し、m/z 400における質量分解能30,000でフルスキャンMSスペクトル(m/z 300〜2,000)を取得し、目的のペプチドのメチオニン残基のMet(O)/Met(%)(酸化比)を解析した。
【0068】
血清アルブミンの第111番目のメチオニンの酸化比は、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるペプチドの酸化型及び非酸化型の量比に基づいて算出した。また、血清アルブミンの第147番目のメチオニンの酸化比は、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるペプチドの酸化型及び非酸化型の量比に基づいて算出した。また、イムノグロブリンG1の定常領域の第135番目のメチオニンの酸化比は、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチドの酸化型及び非酸化型の量比に基づいて算出した。
【0069】
図1(a)は、各被験者の血清アルブミンの第111番目のメチオニンにおける酸化比の解析結果を示すグラフである。また、
図1(b)は、各被験者の血清アルブミンの第147番目のメチオニンにおける酸化比の解析結果を示すグラフである。また、
図1(c)は、各被験者のイムノグロブリンG1の定常領域の第135番目のメチオニンにおける酸化比の解析結果を示すグラフである。
【0070】
図1中、「C」は健常非喫煙者の結果であることを表し、「DM」は2型糖尿病患者の結果であることを表し、「RF」は腎不全合併2型糖尿病患者の結果であることを表し、「S」は健常喫煙者の結果であることを表す。
【0071】
また、各群の酸化比のレベルを比較するために、One way ANOVA及びそれに続くMann−Whitney U post hocテストを行った。
図1中、「*」は相関係数(p値)5%未満で有意差があることを表し、「**」はp値0.5%未満で有意差があることを表し、「***」はp値0.01%未満で有意差があることを表す。
【0072】
その結果、血清アルブミンの2種類のメチオニン残基(Met−111、Met−147)の酸化比は、健常非喫煙者群より2型糖尿病の両群(腎不全なし、腎不全合併)で有意に高値を示すことが明らかとなった。また、健常喫煙者群の酸化比も、健常非喫煙群と比較して有意に高値を示すことが明らかとなった。また、イムノグロブリンG1の定常領域のメチオニン残基(Met−135)の酸化比も、糖尿病患者群では健常者群に比べて有意に高値を示すことが明らかとなった。
【0073】
また、この結果から、血清アルブミンの2種類のメチオニン残基(Met−111、Met−147)及びイムノグロブリンG1の定常領域のメチオニン残基(Met−135)の酸化比を、2型糖尿病の診断に応用できることが明らかとなった。
【0074】
また、血清アルブミンの2種類のメチオニン残基(Met−111、Met−147)の酸化比により、糖尿病と腎不全の病態を区別できることが明らかとなった。
【0075】
[実験例2]
(血糖値の変動が酸化ストレスレベルに与える影響の検討)
糖尿病では血糖値の変動が大きくなると酸化ストレスレベルを上昇させることが知られている。そこで、血糖値の変動と酸化比との関連を検討した。
【0076】
まず、持続血糖計測装置を用いて、糖尿病患者の血糖値を48時間にわたって測定した。続いて、血糖値の変動の最も正確な指標として、全ての血糖値のデータの標準偏差(48時間血糖標準偏差)を求めた。
【0077】
続いて、得られた48時間血糖標準偏差の数値に基づいて、糖尿病患者を、血糖標準偏差低値群(n=11)、中間群、高値群(n=12)の3群に分類し、低値群と高値群を比較した。
【0078】
図2(a)は、低値群及び高値群の糖尿病患者の平均血糖値を表すHbA1c(%)を示すグラフである。また、
図2(b)は、低値群及び高値群の糖尿病患者の血清アルブミン(Met−111)の酸化比の測定結果を示すグラフである。
図2中、「*」は相関係数(p値)5%未満で有意差があることを表す。
【0079】
その結果、低値群及び高値群の糖尿病患者の間で、HbA1cの値には有意差が認められなかったにもかかわらず、高値群では血清アルブミン(Met−111)の酸化比(Met(O)/Met値)が低値群より有意に高値を示すことが明らかとなった。
【0080】
以上の結果から、血清アルブミン(Met−111)の酸化比(Met(O)/Met(%))を測定することにより、血糖値の変動による酸化ストレスレベルの上昇も検出することができることが明らかとなった。この結果は、実験例1の方法により、生体の酸化ストレスレベルを正確に測定できることを更に支持するものである。
【0081】
[実験例3]
(メチオニン残基の酸化レベルの安定性の検討1)
メチオニン残基の酸化レベルは多くの実験条件下で変動しやすいと考えられている。そこで、試料中のタンパク質の還元アルキル化工程及び酵素消化工程において、メチオニン残基の酸化レベルが変動するか否かについて検討した。
【0082】
モニター用のペプチドとして、大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物を使用し、これに含まれる、配列番号6に記載のペプチド及び配列番号7に記載のペプチドを解析の対象とした。
【0083】
β−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物を、そのまま、又はヒト血清に血清1μLあたり2.5μg添加し、実験例1と同様にして還元アルキル化及びトリプシン消化した後に、それぞれLC−MS解析した。
【0084】
図3(a)は、β−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物を、そのままLC−MS解析し、酸化状態及び非酸化状態の配列番号9に記載のペプチドを定量した結果を示すMSクロマトグラムである。
【0085】
また、
図3(b)は、β−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物を、血清に添加して還元アルキル化及びトリプシン消化した後にLC−MS解析し、酸化状態及び非酸化状態の配列番号9に記載のペプチドを定量した結果を示すMSクロマトグラムである。
【0086】
また、
図3(c)は、β−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物を、そのままLC−MS解析し、酸化状態及び非酸化状態の配列番号10に記載のペプチドを定量した結果を示すMSクロマトグラムである。
【0087】
また、
図3(d)は、β−ガラクトシダーゼのトリプシン消化物を、血清に添加して還元アルキル化及びトリプシン消化した後にLC−MS解析し、酸化状態及び非酸化状態の配列番号10に記載のペプチドを定量した結果を示すMSクロマトグラムである。
【0088】
図3中、酸化されたメチオニン残基を「(O)」で示す。また、
図3中、酸化されたメチオニン残基を含む各ペプチドのピークの上に、縦軸を10倍に拡大したピークを示す。
【0089】
その結果、
図3(a)及び
図3(b)を比較して、酸化状態と非酸化状態の配列番号9に記載のペプチドのMSクロマトグラムのピーク面積の比がほぼ同じであることが明らかとなった。
【0090】
また、同様に、
図3(c)及び
図3(d)を比較して、酸化状態と非酸化状態の配列番号10に記載のペプチドのMSクロマトグラムのピーク面積の比がほぼ同じであることが明らかとなった。
【0091】
この結果から、還元アルキル化工程及び酵素消化工程を含む試料調製工程では、メチオニン残基の酸化レベルがあまり変動しないことが明らかとなった。この結果は、メチオニン残基の酸化レベルは変動しやすいと考えられていることから意外なものであった。この結果は、実験例1の方法により、生体の酸化ストレスレベルを正確に測定できることを更に支持するものである。
【0092】
[実験例4]
(メチオニン残基の酸化レベルの安定性の検討2)
試料調製時間、血清調製条件、試料の凍結融解により、メチオニン残基の酸化レベルが変動するか否かについて検討した。
【0093】
《試料調製時間の検討》
メチオニン残基の酸化比を正確に測定するためには、試料中のタンパク質を完全に酵素消化することが必要である。そこで、4人の健常非喫煙者由来の血清試料のトリプシン消化時間を、18、21及び24時間と変化させた以外は実験例1と同様にして、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)、イムノグロブリンGの定常領域のメチオニン(イムノグロブリンG1のMet−135、イムノグロブリンG2のMet−131、イムノグロブリンG3のMet−182及びイムノグロブリンG4のMet−132の合計)における、酸化されていないメチオニン残基と酸化されたメチオニン残基との量比(Met(O)/Met(%))(酸化比)をLC−MS分析により測定した。
【0094】
図4(a)は、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)及びイムノグロブリンGの定常領域のメチオニンの酸化比の測定結果を示すグラフである。
【0095】
その結果、酵素消化時間を変化させても、メチオニン残基の酸化レベルがあまり変動しないことが明らかとなった。
【0096】
《血清調製条件の検討》
血清調製時の血液凝固時間を変えることにより、血清中のタンパク質のメチオニン残基の酸化レベルが変動するか否かについて検討した。
【0097】
6人の健常非喫煙者由来の血液の凝固時間を、0、0.5、1、2及び6時間と変化させて血清試料を調製し、実験例1と同様にして、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)、イムノグロブリンGの定常領域のメチオニン(イムノグロブリンG1のMet−135、イムノグロブリンG2のMet−131、イムノグロブリンG3のMet−182及びイムノグロブリンG4のMet−132の合計)における、酸化されていないメチオニン残基と酸化されたメチオニン残基との量比(Met(O)/Met(%))(酸化比)をLC−MS分析により測定した。
【0098】
図4(b)は、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)及びイムノグロブリンGの定常領域のメチオニンの酸化比の測定結果を示すグラフである。
【0099】
その結果、血清調製時の血液凝固時間を変化させても、メチオニン残基の酸化レベルがあまり変動しないことが明らかとなった。
【0100】
《試料の凍結融解の検討》
試料を繰り返し凍結融解することにより、血清中のタンパク質のメチオニン残基の酸化レベルが変動するか否かについて検討した。
【0101】
4人の健常非喫煙者由来の血清試料を、0、1及び4回凍結融解し、実験例1と同様にして、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)、イムノグロブリンGの定常領域のメチオニン(イムノグロブリンG1のMet−135、イムノグロブリンG2のMet−131、イムノグロブリンG3のMet−182及びイムノグロブリンG4のMet−132の合計)における、酸化されていないメチオニン残基と酸化されたメチオニン残基との量比(Met(O)/Met(%))(酸化比)をLC−MS分析により測定した。
【0102】
図4(c)は、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)及びイムノグロブリンGの定常領域のメチオニンの酸化比の測定結果を示すグラフである。
【0103】
その結果、試料の凍結融解を繰り返しても、メチオニン残基の酸化レベルがあまり変動しないことが明らかとなった。
【0104】
以上の結果は、様々な条件下においても生体試料中のタンパク質のメチオニン残基の酸化レベルがあまり変動しないことを更に支持するものである。この結果は、メチオニン残基の酸化レベルは変動しやすいと考えられていることから意外なものであった。この結果は、実験例1の方法により、生体の酸化ストレスレベルを正確に測定できることを更に支持するものである。
【0105】
[実験例5]
(メチオニン残基の酸化レベルの安定性の検討3)
採血時間、喫煙、ビタミンCの摂取により、血清試料中のメチオニン残基の酸化レベルが変動するか否かについて検討した。
【0106】
《採血時間の検討》
4人の健常非喫煙者から、1日に9回(午前3時、午前6時、午前7時、午前8時、午前9時、午後4時、午後6時、午後8時及び午後11時)採血して血清試料を調製し、実験例1と同様にして、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)、イムノグロブリンGの定常領域のメチオニン(イムノグロブリンG1のMet−135、イムノグロブリンG2のMet−131、イムノグロブリンG3のMet−182及びイムノグロブリンG4のMet−132の合計)における、酸化されていないメチオニン残基と酸化されたメチオニン残基との量比(Met(O)/Met(%))(酸化比)をLC−MS分析により測定した。
【0107】
図5(a)は、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)及びイムノグロブリンGの定常領域のメチオニンの酸化比の測定結果を示すグラフである。
【0108】
その結果、メチオニン残基の酸化レベルが日内であまり変動しないことが明らかとなった。
【0109】
《喫煙の検討》
6人の健常喫煙者から、喫煙直前、喫煙後15分、喫煙後30分及び喫煙後60分に採血して血清試料を調製し、実験例1と同様にして、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)、イムノグロブリンG1の定常領域の第135番目のメチオニン(Met−135)における、酸化されていないメチオニン残基と酸化されたメチオニン残基との量比(Met(O)/Met(%))(酸化比)をLC−MS分析により測定した。
【0110】
図5(b)は、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)及びイムノグロブリンGの定常領域のメチオニン(イムノグロブリンG1のMet−135、イムノグロブリンG2のMet−131、イムノグロブリンG3のMet−182及びイムノグロブリンG4のMet−132の合計)の酸化比の測定結果を示すグラフである。
図5(b)中、矢印は喫煙した時間を示す。
【0111】
その結果、喫煙によりメチオニン残基の酸化レベルがあまり急激には変動しないことが明らかとなった。
【0112】
《ビタミンCの摂取の検討》
6人の健常非喫煙者に1000mgのビタミンCを含有するタブレットを1日1個、4日間摂取させ、ビタミンCの摂取開始の直前、摂取開始の2、4、6、24及び96時間後に採血して血清試料を調製し、実験例1と同様にして、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)、イムノグロブリンGの定常領域のメチオニン(イムノグロブリンG1のMet−135、イムノグロブリンG2のMet−131、イムノグロブリンG3のMet−182及びイムノグロブリンG4のMet−132の合計)における、酸化されていないメチオニン残基と酸化されたメチオニン残基との量比(Met(O)/Met(%))(酸化比)をLC−MS分析により測定した。
【0113】
図5(c)は、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)及びイムノグロブリンGの定常領域のメチオニンの酸化比の測定結果を示すグラフである。
図5(c)中、矢印はビタミンCを1000mg摂取した時間を示す。
【0114】
その結果、ビタミンCの摂取によりメチオニン残基の酸化レベルがあまり急激には変動しないことが明らかとなった。
【0115】
以上の結果は、様々な条件下においても生体試料中のタンパク質のメチオニン残基の酸化レベルがあまり変動しないことを更に支持するものである。この結果は、メチオニン残基の酸化レベルは変動しやすいと考えられていることから意外なものであった。この結果は、実験例1の方法により、生体の酸化ストレスレベルを正確に測定できることを更に支持するものである。
【0116】
[実験例6]
(生体試料中の対象タンパク質の酸化されたメチオニン残基の定量分析)
健常非喫煙者の血清を対象に、血清アルブミンの第111番目のメチオニン(Met−111)、血清アルブミンの第147番目のメチオニン(Met−147)における、酸化されたメチオニン残基の濃度を、酸化された上記のメチオニン残基を含む安定同位体標識ペプチドを内部標準として利用してLC−MS分析により測定した。
【0117】
内部標準用のペプチドとして、配列番号6に記載のペプチドの第11番目のアラニン残基及び第12番目のリジン残基の全ての炭素原子並びに窒素原子を安定同位体原子(
13C及び
15N)に置換した安定同位体標識ペプチド、及び配列番号7に記載のペプチドに含まれる2つのフェニルアラニン残基の全ての炭素原子及び窒素原子を安定同位体原子(
13C及び
15N)に置換した安定同位体標識ペプチドを調製した。
【0118】
血清を実験例1と同様にして還元アルキル化及びトリプシン消化した後に、上述した2種類の安定同位体標識ペプチドを血清1μLあたり100pmol(配列番号6)又は200pmol(配列番号7)添加した。すなわち、血清中の濃度がそれぞれ100μM又は200μMとなるように添加し、実験例1と同様にして、界面活性剤の除去処理を行った後にLC−MS分析した。
【0119】
図6(a)は、血清中に存在していた、酸化されたメチオニン残基を含む配列番号6のペプチドのMSクロマトグラムである。また、
図6(b)は、内部標準として血清中の濃度が100μMとなるように血清に添加した、酸化されたメチオニン残基を含む配列番号6の安定同位体標識ペプチドのMSクロマトグラムである。
図6(a)のMSクロマトグラムのピークは、
図6(b)のMSクロマトグラムのピークに比べて非常に強度が小さかったため、
図6(a)のピークの上に、縦軸を20倍に拡大したピークを示した。
【0120】
また、
図6(c)は、血清中に存在していた、酸化されたメチオニン残基を含む配列番号7のペプチドのMSクロマトグラムである。また、
図6(d)は、内部標準として血清中の濃度が200μMとなるように血清に添加した、酸化されたメチオニン残基を含む配列番号7の安定同位体標識ペプチドのMSクロマトグラムである。
図6(c)のMSクロマトグラムのピークは、
図6(d)に比べて非常に強度が小さかったため、
図6(c)のピークの上に、縦軸を40倍に拡大したピークを示した。
【0121】
その結果、
図6(a)及び
図6(b)を比較して、配列番号6のペプチドと配列番号6の安定同位体標識ペプチドのMSクロマトグラムのピーク面積の比から、酸化されたMet−111を含むトリプシン消化血清アルブミン由来ペプチドの血清中の濃度が、約2.7μMであることが明らかとなった。
【0122】
また、
図6(c)及び
図6(d)を比較して、配列番号7のペプチドと配列番号7の安定同位体標識ペプチドのMSクロマトグラムのピーク面積の比から、酸化されたMet−147を含むトリプシン消化血清アルブミン由来ペプチドの血清中の濃度が、約1.3μMであることが明らかとなった。
【0123】
この結果から、酸化されたMet−111及びMet−147を含むそれぞれのトリプシン消化血清アルブミン由来ペプチドの濃度が明らかとなった。この結果は、酸化されたメチオニン残基の絶対量を求めるものであり、実験例1〜実験例5で示した、酸化されていないメチオニン残基と酸化されたメチオニン残基との量比を求める実験とは異なり、生体の酸化ストレスレベルをより直接的に測定することが可能であることを示すものである。