(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換する上記の誤差増幅信号Eaによって駆動されるインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備えている。
【0017】
リアクトルWLは、上記の出力電圧Eを平滑する。このリアクトルWLのインダクタンス値は、例えば100μHである。
【0018】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを交互に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0019】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0020】
出力電圧設定回路ERは、予め定めた出力電圧設定信号Erを出力する。出力電圧検出回路EDは、上記の出力電圧Eを検出し平滑して、出力電圧検出信号Edを出力する。
【0021】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の出力電圧設定信号Er及び上記の出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0022】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間にあると判別してHighレベルになり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0023】
正送加速期間設定回路TSURは、予め定めた正送加速期間設定信号Tsurを出力する。
【0024】
正送減速期間設定回路TSDRは、予め定めた正送減速期間設定信号Tsdrを出力する。
【0025】
逆送加速期間設定回路TRURは、予め定めた逆送加速期間設定信号Trurを出力する。
【0026】
逆送減速期間設定回路TRDRは、予め定めた逆送減速期間設定信号Trdrを出力する。
【0027】
正送ピーク値設定回路WSRは、予め定めた正送ピーク値設定信号Wsrを出力する。
【0028】
溶滴サイズ相関値算出回路PDは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の電流検出信号Idを入力として、以下に示す1)又は2)の一方を選択して処理して、溶滴サイズ相関値信号Pdを出力する。短絡期間が開始した時点において、直前のアーク期間の時間長さが長くなるほど、短絡発生時の溶滴サイズは大きくなる。また、直前のアーク期間中の溶接電流Iwの積分地が大きくなるほど、短絡発生時の溶滴サイズは大きくなる。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)の時間長さを計測して、溶滴サイズ相関値信号Pdとして出力する。
2)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)の期間中は、Pd=∫Id・dtの積分を行い、溶滴サイズ相関値信号Pdとして出力する。
【0029】
基準値設定回路Prは、予め定めた基準値信号Prを出力する。この基準値信号Prは、平均送給速度(平均溶接電流値)に連動して設定される。基準値信号Prは、外乱のない安定した溶接状態のときのアーク期間の時間長さ又は電流積分地を実験によって算出して設定される。
【0030】
相関値誤差増幅回路EPは、上記の溶滴サイズ相関値信号Pd及び上記の基準値信号Prを入力として、溶滴サイズ相関値信号Pd(+)と基準値信号Pr(−)との誤差を増幅して、相関値誤差増幅信号Epを出力する。
【0031】
逆送ピーク値設定回路WRRは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の相関値誤差増幅信号Epを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点において、予め定めた逆送ピーク値の標準値と相関値誤差増幅信号Epとを加算して修正し、逆送ピーク値設定信号Wrrを出力する。この回路によって、溶滴サイズ相関値信号Pdが基準値信号Prよりも小さいとき(短絡発生時の溶滴サイズが標準サイズよりも小さいとき)は、逆送ピーク値設定信号Wrrは標準値よりも小さくなるように変化する。他方、Pd>Prとなる短絡発生時の溶滴サイズが標準サイズよりも大きいときは、逆送ピーク値設定信号Wrrは標準値よりも大きくなるように変化する。
【0032】
送給速度設定回路FRは、上記の正送加速期間設定信号Tsur、上記の正送減速期間設定信号Tsdr、上記の逆送加速期間設定信号Trur、上記の逆送減速期間設定信号Trdr、上記の正送ピーク値設定信号Wsr、上記の逆送ピーク値設定信号Wrr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、以下の処理によって生成された送給速度パターンを送給速度設定信号Frとして出力する。この送給速度設定信号Frが0以上のときは正送期間となり、0未満のときは逆送期間となる。
1)正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu中は0から正送ピーク値設定信号Wsrによって定まる正の値の正送ピーク値Wspまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
2)続いて、正送ピーク期間Tsp中は、上記の正送ピーク値Wspを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
3)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)からHighレベル(短絡期間)に変化すると、正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsdに移行し、上記の正送ピーク値Wspから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
4)続いて、逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru中は0から逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる負の値の逆送ピーク値Wrpまで直線状に加速する送給速度設定信号Frを出力する。
5)続いて、逆送ピーク期間Trp中は、上記の逆送ピーク値Wrpを維持する送給速度設定信号Frを出力する。
6)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)からLowレベル(アーク期間)に変化すると、逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdに移行し、上記の逆送ピーク値Wrpから0まで直線状に減速する送給速度設定信号Frを出力する。
7)上記の1)〜6)を繰り返すことによって正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frが生成される。
【0033】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0034】
減流抵抗器Rは、上記のリアクトルWLと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、リアクトルWL及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。
【0035】
トランジスタTRは、上記の減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0036】
くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値が基準値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応した基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応する基準値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0037】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0038】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0039】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは、低レベル電流設定信号Ilrとなる電流制御設定信号Icrを出力する。
2)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化すると、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流設定値となり、その後は予め定めた短絡時傾斜で予め定めた短絡時ピーク設定値まで上昇してその値を維持する電流制御設定信号Icrを出力する。
3)その後に、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、低レベル電流設定信号Ilrの値となる電流制御設定信号Icrを出力する。
【0040】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr及び上記の電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0041】
小電流期間回路STDは、上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点から予め定めた電流降下時間が経過した時点でHighレベルになり、その後に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)になるとLowレベルになる小電流期間信号Stdを出力する。
【0042】
電源特性切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の短絡判別信号Sd及び上記の小電流期間信号Stdを入力として、以下の処理を行い、誤差増幅信号Eaを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して予め定めた遅延期間が経過した時点までの期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
2)その後のアーク期間中は、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
3)その後のアーク期間中に小電流期間信号StdがHighレベルとなる期間中は、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力する。
この回路によって、溶接電源の特性は、短絡期間、遅延期間及び小電流期間中は定電流特性となり、それ以外のアーク期間中は定電圧特性となる。
【0043】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(E)は小電流期間信号Stdの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0044】
同図(A)に示す送給速度Fwは、
図1の送給速度設定回路FRから出力される送給速度設定信号Frの値に制御される。送給速度Fwは、
図1の正送加速期間設定信号Tsurによって定まる正送加速期間Tsu、短絡が発生するまで継続する正送ピーク期間Tsp、
図1の正送減速期間設定信号Tsdrによって定まる正送減速期間Tsd、
図1の逆送加速期間設定信号Trurによって定まる逆送加速期間Tru、アークが発生するまで継続する逆送ピーク期間Trp及び
図1の逆送減速期間設定信号Trdrによって定まる逆送減速期間Trdから形成される。さらに、正送ピーク値Wspは
図1の正送ピーク値設定信号Wsrによって定まり、逆送ピーク値Wrpは
図1の逆送ピーク値設定信号Wrrによって定まる。この結果、送給速度設定信号Frは、正負の略台形波波状に変化する送給パターンとなる。
【0045】
[時刻t1〜t4の短絡期間の動作]
正送ピーク期間Tsp中の時刻t1において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)に変化する。時刻t1の直前のアーク期間中に、溶滴サイズ相関値信号Pdが算出されている。時刻t1において、短絡期間が開始すると、
図1の相関値誤差増幅回路EPによって、溶滴サイズ相関値信号Pdと基準値信号Prとの誤差増幅値が算出されて、相関値誤差増幅信号Epが出力される。この信号が
図1の逆送ピーク値設定回路WRRに入力されて、逆送ピーク値設定信号Wrrが出力される。逆送ピーク値設定信号Wrrは以下のように変化する。例えば、逆送ピーク値Wrpの標準値は40m/minに設定され、溶滴サイズ相関値信号Pdに基づく変化幅は、±10m/min程度である。
1)Pd<Pr(直前のアーク期間の時間長さ又は電流積分値が基準値よりも小さいとき)
逆送ピーク値Wrpは、予め定めた標準値よりも小さくなるように変化する。
2)Pd>Pr(直前のアーク期間の時間長さ又は電流積分値が基準値よりも大きいとき)
逆送ピーク値Wrpは、標準値よりも大きくなるように変化する。
【0046】
時刻t1において短絡期間が開始すると、時刻t1〜t2の予め定めた正送減速期間Tsdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の正送ピーク値Wspから0まで減速する。例えば、正送減速期間Tsd=1msに設定される。
【0047】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは時刻t2〜t3の予め定めた逆送加速期間Truに入り、0から上記の逆送ピーク値Wrpまで加速する。この期間中は短絡期間が継続している。例えば、逆送加速期間Tru=1msに設定される。
【0048】
時刻t3において逆送加速期間Truが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送ピーク期間Trpに入り、上記の逆送ピーク値Wrpになる。逆送ピーク期間Trpは、時刻t4にアークが発生するまで継続する。したがって、時刻t1〜t4の期間が短絡期間となる。逆送ピーク期間Trpは所定値ではないが、4ms程度となる。
【0049】
同図(B)に示すように、時刻t1〜t4の短絡期間中の溶接電流Iwは、予め定めた初期期間中は予め定めた初期電流値となる。その後、溶接電流Iwは、予め定めた短絡時傾斜で上昇し、予め定めた短絡時ピーク値に達するとその値を維持する。
【0050】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが短絡時ピーク値となるあたりから上昇する。これは、溶接ワイヤ1の逆送及び溶接電流Iwによるピンチ力の作用により、溶接ワイヤ1の先端の溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0051】
その後に溶接電圧Vwの電圧上昇値が基準値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、
図1のくびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。
【0052】
くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、
図1の駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり
図1の減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、
図1の電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrの値に小さくなる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは短絡時ピーク値から低レベル電流値へと急減する。そして、溶接電流Iwが低レベル電流値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、トランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、アーク再発生から予め定めた遅延期間が経過するまでは低レベル電流値を維持する。したがって、トランジスタTRは、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から溶接電流Iwが低レベル電流値に減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので一旦減少した後に急上昇する。上述した各パラメータは、例えば以下の値に設定される。初期電流=40A、初期期間=0.5ms、短絡時傾斜=2ms、短絡時ピーク値=400A低レベル電流値=50A、遅延期間=1ms。
【0053】
[時刻t4〜t7のアーク期間の動作]
時刻t4において、溶接ワイヤの逆送及び溶接電流Iwの通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増するので、同図(D)に示すように、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化する。アーク期間が開始すると、溶滴サイズ相関値信号Pdの算出が開始し、アーク期間が終了するまで継続する。
【0054】
時刻t4において、アーク期間が開始すると、時刻t4〜t5の予め定めた逆送減速期間Trdに移行し、同図(A)に示すように、送給速度Fwは上記の逆送ピーク値Wrpから0まで減速する。
【0055】
時刻t5において逆送減速期間Trdが終了すると、時刻t5〜t6の予め定めた正送加速期間Tsuに移行する。この正送加速期間Tsu中は、同図(A)に示すように、送給速度Fwは0から上記の正送ピーク値Wspまで加速する。この期間中はアーク期間が継続している。例えば、正送加速期間Tsu=1msに設定される。
【0056】
時刻t6において正送加速期間Tsuが終了すると、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送ピーク期間Tspに入り、上記の正送ピーク値Wspになる。この期間中もアーク期間が継続している。正送ピーク期間Tspは、時刻t7に短絡が発生するまで継続する。したがって、時刻t4〜t7の期間がアーク期間となる。そして、短絡が発生すると、時刻t1の動作に戻る。正送ピーク期間Tspは所定値ではないが、4ms程度となる。正送ピーク値Wspは、例えば50m/minに設定される。
【0057】
時刻t4においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。他方、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t4から遅延期間の間は低レベル電流値を継続する。その後、溶接電流Iwは増加して高電流値となる。この高電流値となるアーク期間中は、
図1の電圧誤差増幅信号Evによって溶接電源のフィードバック制御が行われるので、定電圧特性となる。
【0058】
時刻t4にアークが発生してから予め定めた電流降下時間が経過する時刻t61において、同図(E)に示すように、小電流期間信号StdがHighレベルに変化する。これに応動して、溶接電源は定電圧特性から定電流特性に切り換えられる。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは低レベル電流値に低下し、短絡が発生する時刻t7までその値を維持する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwも低下する。小電流期間信号Stdは、時刻t7に短絡が発生するとLowレベルに戻る。電流降下時間は5ms程度に設定されるので、時刻t61のタイミングは正送ピーク期間Tsp中となる。
【0059】
実施の形態1の発明においては、短絡期間が開始した時点における溶滴サイズと相関する値(溶滴サイズ相関値信号Pd)に基づいて、逆送ピーク値Wrpが変化する。すなわち、溶滴サイズが標準サイズよりも小さいほど、逆送ピーク値Wrpは小さくなり、溶滴サイズが標準サイズよりも大きいほど、逆送ピーク値Wrpは大きくなる。短絡発生時の溶滴サイズが小さいときは、逆送ピーク値Wrpを小さくすることによって、スパッた発生量を削減することができる。逆に、短絡発生時の溶滴サイズが大きいときは、逆送ピーク値Wrpを大きくすることによって、スパッた発生量を削減することができる。
【0060】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、溶滴サイズ相関値信号と予め定めた閾値との比較結果に基づいて送給速度の逆送ピーク値を変化させるものである。
【0061】
図3は、本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、上述した
図1と対応しており、同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1の基準値設定回路Prを削除し、
図1の相関値誤差増幅回路EPを相関値比較回路CPに置換し、
図1の逆送ピーク値設定回路WRRを第2逆送ピーク値設定回路WRR2に置換したものである。以下、同図を参照してこれらのブロックについて説明する。
【0062】
相関値比較回路CPは、上記の溶滴サイズ相関値信号Pdを入力として、溶滴サイズ相関値信号Pdが予め定めた下限閾値未満のときは相関値比較信号Cp=1を出力し、溶滴サイズ相関値信号Pdが予め定めた上限閾値以上のときは相関値比較信号Cp=2を出力し、溶滴サイズ相関値信号Pdが下限閾値以上かつ上限閾値未満のときは相関値比較信号Cp=0を出力する。
【0063】
第2逆送ピーク値設定回路WRR2は、上記の短絡判別信号Sd及び上記の相関値比較信号Cpを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点において、相関値比較信号Cp=1のときは予め定めた逆送ピーク値の標準値を所定値だけ小さくなるように修正し、相関値比較信号Cp=2のときは逆送ピーク値の標準値を所定値だけ大きくなるように修正し、相関値比較信号Cp=0のときは逆送ピーク値の標準値をそのままの値で、逆送ピーク値設定信号Wrrとして出力する。この回路によって、相関値比較信号Cp=1(短絡発生時の溶滴サイズが標準サイズよりも小さい)ときは、逆送ピーク値設定信号Wrrは標準値よりも小さくなるように変化する。Cp=2(短絡発生時の溶滴サイズが標準サイズよりも大きい)ときは、逆送ピーク値設定信号Wrrは標準値よりも大きくなるように変化する。Cp=0(短絡時の溶滴サイズがほぼ標準サイズ)のときは、逆送ピーク値設定信号Wrrは標準値のままである。
【0064】
本発明の実施の形態2に係るアーク溶接制御方法を示す
図3の溶接電源における各信号のタイミングチャートは、上述した
図2と同様であるので説明は繰り返さない。但し、溶滴サイズ相関値信号Pdに基づく逆送ピーク値Wrpの修正方法が上述したように異なっている。
【0065】
上述した実施の形態2の発明によれば、相関値と予め定めた閾値との比較結果に基づいて送給速度の逆送ピーク値を変化させる。これにより、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。実施の形態2の発明では、溶滴サイズ相関値信号Pdが適正範囲にあるときは逆送ピーク値は変化しないので、溶接状態の変化が穏やかになるという効果を奏する。