特許第6809764号(P6809764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6809764半固体状豆乳製素材凍結物、その製造方法、半固体状豆乳製素材解凍物、およびそれを得る方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809764
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】半固体状豆乳製素材凍結物、その製造方法、半固体状豆乳製素材解凍物、およびそれを得る方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/00 20210101AFI20201221BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20201221BHJP
   A23L 3/365 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   A23L11/00 Z
   A23L3/36 A
   A23L3/365 Z
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-152815(P2017-152815)
(22)【出願日】2017年8月8日
(65)【公開番号】特開2019-30244(P2019-30244A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2020年2月7日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591009004
【氏名又は名称】太子食品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】井戸川 詩織
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】塚田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智幸
【審査官】 平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−128410(JP,A)
【文献】 特開2013−240288(JP,A)
【文献】 特開2005−315835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/00−11/30
A23L 3/36− 3/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーム状形態の豆乳由来の脂質含有凝集物(以下、「半固体状豆乳製素材」という。)がタンパク質変性防止剤無添加で、かつ冷凍速度0.4℃/分以上にて―60℃以下―80℃以上に凍結されてなる半固体状豆乳製素材凍結物であって、
該半固体状豆乳製素材凍結物の品質判断に用いる下記<Q>に示す−nの値が0.4以下であり、
解凍後の離水率が10%以下であり、かつ解凍後にクリーム状の物性を保持できる
ことを特徴とする、半固体状豆乳製素材凍結物。
<Q> −nは、LCRメータにより測定された周波数0.012〜20kHz帯域における静電容量Cの累乗近似曲線(C∝f^n)の指数(以下、「近似曲線指数」という。)
【請求項2】
前記LCRメータ測定が4端子法により行われることを特徴とする、請求項1に記載の半固体状豆乳製素材凍結物。
【請求項3】
前記脂質含有凝集物は、下記〔A〕記載の方法により製造された豆乳製素材から分離されたものであることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物。
〔A〕含脂大豆から加熱抽出された安定したコロイド分散系を形成している豆乳を凝集過程に供することにより、該豆乳よりも高濃度に脂質を含有した成分である脂質含有凝集物が生成し、これが該豆乳中に分散してなる豆乳製素材を得る豆乳製素材製造方法であって、該含脂大豆としてNSI(水溶性窒素指数)80以上の大豆を使用し、該凝集過程は、調製時の十分な加熱によって安定したコロイド分散系を形成している豆乳に対して熱による凝集やタンパク質分解酵素処理を行わずに凝集剤を添加する過程であり、該脂質含有凝集物はタンパク質含量に対する脂質含量の割合が65重量%以上100重量%未満であり、粘度変化率{(凝集後の見かけの粘度−凝集前の見かけの粘度)/凝集前の見かけの粘度}が25℃において5〜100を示す豆乳製素材が得られることを特徴とする、豆乳製素材製造方法。
【請求項4】
乳化剤無添加、増粘剤その他の品質改良剤無添加、および食品油脂無添加であることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物。
【請求項5】
下記〔B〕以外の一または複数の副原料が添加されていることを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物。
〔B〕乳化剤、増粘剤その他の品質改良剤、食品油脂
【請求項6】
請求項1、2、3のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材を、タンパク質変性防止剤、乳化剤、増粘剤その他の品質改良剤または食品油脂のいずれをも添加することなく冷凍速度0.4℃/分以上にて―60℃以下―80℃以上に凍結し、解凍後の離水率が10%以下であって、解凍後にクリーム状の物性を保持できる凍結物を得ることを特徴とする、半固体状豆乳製素材凍結物製造方法。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物が解凍されたものであることを特徴とする、半固体状豆乳製素材解凍物。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物の解凍物を得る方法であって、空気中に静置した状態で解凍することを特徴とする、半固体状豆乳製素材解凍物を得る方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半固体状豆乳製素材凍結物、その製造方法、半固体状豆乳製素材解凍物、およびそれを得る方法に係り、特に、タンパク質変性防止剤を含まない豆乳素材の凍結物ならびにその解凍物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
豆乳を素材とした冷菓等の食品においては従来、凍結変性による食感の悪くなるのを防止するための方法が提案されてきている。たとえば後掲特許文献1には、多様な風味を付与でき、風味付けの汎用性が高い固形物を連続相中に含有する複合冷菓として、豆乳・凝固剤・タンパク質変性防止剤を含む豆腐をベースとするゲル粒子を用い、さらに糖類・着味原料を含む構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−159752号公報「連続相中に固形物を有する複合冷菓」
【特許文献2】特開2015−128410号公報「豆乳製素材、豆乳製二次素材、それらの製造方法および豆乳製加工品」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当該文献にも示される通り、豆乳を素材とした冷菓等の凍結物にはタンパク質変性防止剤が含まれる。これは、タンパク質変性防止剤を含まない豆乳の凍結物は食感がボソボソになるという欠点を有するからである。たとえば、デンプン、ショ糖やトレハロース等の少糖類、オリゴ糖、デキストリン、ゼラチン、ジェランガム等の増粘多糖類がタンパク質変性防止剤として、0.05〜30重量%程度用いられるのが通常である。また、タンパク質変性防止剤その他の添加物多用によりタンパク質含有率が低下する場合には、硬さ補強のためにトランスグルタミナーゼを併用するといったこともなされている。
【0005】
しかし、タンパク質変性防止剤を用いなくても解凍後に食感を損なわない凍結物を得られるような凍結技術があれば、結局は本来の香味を損なってしまうことになるタンパク質変性防止剤添加を不要とすることができる。また、タンパク質変性防止剤添加に伴う別の添加物の添加も不要とすることができる。このような、タンパク質変性防止剤やその他の添加物を用いずに凍結物を製造できる技術が求められている。
【0006】
また、凍結物では一般に、これを解凍した際のドリップの発生が問題となる。ドリップの発生は、解凍物の風味を著しく損なう上に外観上も好ましくなく、商品価値も下げてしまう。したがって、解凍した際にドリップ発生を極力低減することのできる凍結技術、解凍技術が求められる。
【0007】
また、上記文献1開示技術は豆腐をベースとする凍結物であるが、豆乳由来のクリーム状形態の脂質含有凝集物、すなわち「豆乳クリーム」自体(出願人による上記特許文献2参照)を凍結物とし、これを解凍した際にドリップ発生を極力低減することのできるような凍結技術、解凍技術が求められる。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、豆乳由来のクリーム状形態の脂質含有凝集物、すなわち「豆乳クリーム」自体を凍結物とし、これを解凍した際にドリップ発生を極力低減することのできるような凍結技術、解凍技術を提供することである。また本発明の課題は、解凍した際にドリップ発生を極力低減でき、クリーム状の物性を保持することのできる、豆乳由来のクリーム状形態の脂質含有凝集物の凍結技術、解凍技術を提供することである。
【0009】
さらに本発明の課題は、タンパク質変性防止剤を用いなくても解凍後に食感を損なわない凍結物を得られるような、豆乳由来のクリーム状形態の脂質含有凝集物の凍結技術、解凍技術を提供することである。加えて本発明の課題は、凍結変性防止剤を不要としながら、その他の原料を制約なく添加することのできる、豆乳由来のクリーム状形態の脂質含有凝集物の凍結技術、解凍技術を提供することである。また、豆乳由来クリーム状形態の脂質含有凝集物の凍結物の、高精度な品質評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は上記課題について検討した結果、本発明者は検討の結果、豆乳を凝集剤で見かけの粘度が50Pa・S−1程度で分離した脂質含有物に急速冷凍下で冷凍耐性があることを見出した。また、半固体のクリーム状の本凝集物を凍結した際におけるLCRメータ4電極端子による評価において、キャパシタンスの周波数が0.012〜20kHzの範囲において−nが0.4以下であり、これを満たす凍結物は解凍後の離水が少なく、豆腐ベースではなく豆乳ベースの、食感の良いゾル状となることを見出した。そして、これらに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0011】
〔1〕 クリーム状形態の豆乳由来の脂質含有凝集物(以下、「半固体状豆乳製素材」という。)がタンパク質変性防止剤無添加で、かつ冷凍速度0.4℃/分以上にて―60℃以下―80℃以上に凍結されてなる半固体状豆乳製素材凍結物であって、
該半固体状豆乳製素材凍結物の品質判断に用いる下記<Q>に示す−nの値が0.4以下であり、
解凍後の離水率が10%以下であり、かつ解凍後にクリーム状の物性を保持できる
ことを特徴とする、半固体状豆乳製素材凍結物。
<Q> −nは、LCRメータにより測定された周波数0.012〜20kHz帯域における静電容量Cの累乗近似曲線(C∝f^n)の指数(以下、「近似曲線指数」という。)
〔2〕 前記LCRメータ測定が4端子法により行われることを特徴とする、〔1〕に記載の半固体状豆乳製素材凍結物。
〔3〕 前記脂質含有凝集物は、下記〔A〕記載の方法により製造された豆乳製素材から分離されたものであることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物。
〔A〕含脂大豆から加熱抽出された安定したコロイド分散系を形成している豆乳を凝集過程に供することにより、該豆乳よりも高濃度に脂質を含有した成分である脂質含有凝集物が生成し、これが該豆乳中に分散してなる豆乳製素材を得る豆乳製素材製造方法であって、該含脂大豆としてNSI(水溶性窒素指数)80以上の大豆を使用し、該凝集過程は、調製時の十分な加熱によって安定したコロイド分散系を形成している豆乳に対して熱による凝集やタンパク質分解酵素処理を行わずに凝集剤を添加する過程であり、該脂質含有凝集物はタンパク質含量に対する脂質含量の割合が65重量%以上100重量%未満であり、粘度変化率{(凝集後の見かけの粘度−凝集前の見かけの粘度)/凝集前の見かけの粘度}が25℃において5〜100を示す豆乳製素材が得られることを特徴とする、豆乳製素材製造方法。
〔4〕 乳化剤無添加、増粘剤その他の品質改良剤無添加、および食品油脂無添加であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物。
【0012】
〔5〕 下記〔B〕以外の一または複数の副原料が添加されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物。
〔B〕乳化剤、増粘剤その他の品質改良剤、食品油脂
〔6〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材を、タンパク質変性防止剤、乳化剤、増粘剤その他の品質改良剤または食品油脂のいずれをも添加することなく冷凍速度0.4℃/分以上にて―60℃以下―80℃以上に凍結し、解凍後の離水率が10%以下であって、解凍後にクリーム状の物性を保持できる凍結物を得ることを特徴とする、半固体状豆乳製素材凍結物製造方法。
〔7〕 〔1〕、 〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物が解凍されたものであることを特徴とする、半固体状豆乳製素材解凍物。
【0013】
〔8〕 〔1〕、 〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の半固体状豆乳製素材凍結物の解凍物を得る方法であって、空気中に静置した状態で解凍することを特徴とする、半固体状豆乳製素材解凍物を得る方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半固体状豆乳製素材凍結物、その製造方法、半固体状豆乳製素材解凍物、およびそれを得る方法は上述のように構成されるため、これらによれば、豆乳由来のクリーム状形態の脂質含有凝集物自体を凍結物とし、これを解凍した際にドリップ発生を大幅に低減することのできる、豆乳ベースの凍結物を得ることができる。そして、解凍した際にクリーム状の物性、食感、香味を保持した半固体状豆乳製素材凍結物を得ることができる。
【0015】
さらに本発明によれば、タンパク質変性防止剤を用いなくても解凍後に食感を損なわない凍結物を得ることができる。加えて本発明によれば、凍結変性防止剤を不要としながら、その他の原料を制約なく添加することのできる半固体状豆乳製素材凍結物を提供することができる。また本発明によれば、豆乳由来クリーム状形態の脂質含有凝集物の凍結物について、その品質を高精度に評価することができ、本発明半固体状豆乳製素材凍結物の製造において品質を維持でき、安定的な製造に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の全体構成を示す概念図である。
図2】半固体状豆乳製素材凍結物における静電容量Cの周波数依存性試験結果を示すグラフである。
図3】本発明実施例における凍結物の静電容量測定方法を示す写真図である。
図4】本発明実施例における凍結物の静電容量C測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の全体構成を示す概念図である。図示するように本発明の半固体状豆乳製素材凍結物3は、クリーム状形態の豆乳由来の脂質含有凝集物(半固体状豆乳製素材)1が凍結されてなるものであって、キャパシタンスの周波数0.012〜20kHz帯域における静電容量Cの累乗近似曲線の指数(近似曲線指数)−nが0.4以下であり、解凍後の離水率が10%以下であることを、主たる構成とする。
【0018】
本発明凍結物3に係る半固体状豆乳製素材1は、上記文献2開示の製造方法により得ることができる。すなわち、下記〔A〕記載の方法により製造された豆乳製素材から、半固体状豆乳製素材1を分離し、得ることができる。
〔A〕含脂大豆から加熱抽出された安定したコロイド分散系を形成している豆乳を凝集過程に供し、それによって、該豆乳よりも高濃度に脂質を含有した成分である脂質含有凝集物を生成させ、これが該豆乳中に分散してなる豆乳製素材を得る豆乳製素材製造方法。ここで、該含脂大豆としてはNSI(水溶性窒素指数)80以上の大豆を使用することとしてもよい。ただしこれに限定されない。また、該凝集過程は、調製時の十分な加熱によって安定したコロイド分散系を形成している豆乳に対して熱による凝集やタンパク質分解酵素処理を行わずに凝集剤を添加する過程とすることができる。ただしこれに限定されない。また、該脂質含有凝集物は、タンパク質含量に対する脂質含量の割合が65重量%以上100重量%未満とすることができる。ただしこれに限定されない。また、半固体状豆乳製素材1分離に用いる豆乳製素材としては、粘度変化率{(凝集後の見かけの粘度−凝集前の見かけの粘度)/凝集前の見かけの粘度}が25℃において5〜100を示すものとすることができる。ただしこれに限定されない。
【0019】
かかる構成の本発明半固体状豆乳製素材凍結物3は、凍結前のクリーム状の物性、食味および香味が解凍後においても十分に維持される。解凍後の本凍結物3(半固体状豆乳製素材解凍物5)は、これを食すために口に入れて、クリーム状のなめらかな食感が再現される。しかもドリップが極めて少なく、良好な解凍状態を提供することができる。
【0020】
本発明半固体状豆乳製素材凍結物3はまた、下記〔B〕に列挙する添加物のうち少なくともいずれかを無添加とすることができる。
〔B〕乳化剤、増粘剤その他の品質改良剤、食品油脂
つまり本発明半固体状豆乳製素材凍結物3は、下記〔C〕〜〔I〕のいずれかの仕様とすることができる。
〔C〕乳化剤無添加
〔D〕品質改良剤無添加
〔E〕食品油脂無添加
〔F〕乳化剤および品質改良剤無添加
〔G〕乳化剤および食品油脂無添加
〔H〕品質改良剤および食品油脂無添加
〔I〕乳化剤、品質改良剤および食品油脂無添加
【0021】
これに加えて本発明半固体状豆乳製素材凍結物3においては、タンパク質変性防止剤を無添加とすることができる。上述の通り、タンパク質変性防止剤としては通常、デンプン、ショ糖やトレハロース等の少糖類、オリゴ糖、デキストリン、ゼラチン、ジェランガム等の増粘多糖類が0.05〜30重量%程度用いられるが、これらがクリーム状の半固体状豆乳製素材1の香味や食感に及ぼす影響は看過できない。それでも従来は、タンパク質の凍結変性による解凍後の食感悪化を防止するために、タンパク質変性防止剤の添加は欠かせなかった。しかし本発明では、これを用いなくても解凍後の食感悪化が生じない。つまり本発明によれば、タンパク質変性防止剤を添加する必要がなく、添加によって香味等を損なうことを回避することができ、品質を向上させることができる。
【0022】
上記〔B〕の各添加物の一または複数を無添加としたり、タンパク質変性防止剤を無添加とすることができる一方、それら以外の一または複数の副原料を、本発明半固体状豆乳製素材凍結物3には制約なく含めるものとすることができる。たとえば、甘味料として糖類(ショ糖、オリゴ糖、液糖、ソルビットなど)・水飴・高甘味度甘味料(アスパルテーム、ステビオサイドなど)、その他の着味用原料として食塩などの調味料、香辛料、香料、果実・野菜・茶・香草・チョコレート等の粉末・搾汁物・乾燥物など、あるいは着色料などを、適宜組み合わせたり、あるいは単独で用いることができる。
【0023】
なお、半固体状豆乳製素材1に、タンパク質変性防止剤、乳化剤、増粘剤その他の品質改良剤または食品油脂のいずれも添加することなくこれを半固体状豆乳製素材凍結物製造過程P1によって凍結し、解凍後の離水率が10%以下の凍結物3を得る半固体状豆乳製素材凍結物製造方法もまた、本発明の範囲内である。また、半固体状豆乳製素材凍結物3が解凍されてなる半固体状豆乳製素材解凍物5も、半固体状豆乳製素材凍結物3を空気中に静置した状態で解凍する半固体状豆乳製素材解凍過程P2による解凍物製造方法も、本発明の範囲内である。
【0024】
また、半固体状豆乳製素材凍結物品質評価過程E3によって半固体状豆乳製素材凍結物3の品質を評価する方法も、本発明の範囲内である。すなわち、LCRメータで周波数0.012〜20kHz帯域における半固体状豆乳製素材凍結物3の静電容量Cを測定し、その累乗近似曲線の指数(近似曲線指数)−nを得て、その値により半固体状豆乳製素材凍結物の品質を判断する方法である。実施例で後述するように具体的には、−n値が0.4以下の場合に良品質であると判断すればよい。また、LCRメータ測定は4端子法により行うものとすることができる。本発明評価方法により、半固体状豆乳製素材凍結物3について、その品質を高精度かつ簡便に評価することができる。
【0025】
本発明評価方法について、さらに説明する。
図2は、半固体状豆乳製素材凍結物における静電容量Cの周波数依存性試験結果を示すグラフである。実施例に後述する方法により、−15℃、−20℃、−80℃の凍結物について半固体状豆乳製素材凍結物の静電容量Cを測定したところ、半固体状豆乳製素材凍結物のCが、周波数0.012〜20kHzの領域において、周波数のべき乗で表現できることを見出した。すなわち、C∝f^nでfittingすると、−15℃では−n=0.88となったのに対し、−80℃では−n=0.36となった。離水率と−nをプロットしたところ、両者には相関が認められた。凍結状態が不適切な場合には離水が顕著であることから、凍結状態の−nを測定することによって凍結状態の良否が判別できることが明らかとなった。これは、凍結食品一般に適用できるものと考えられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、本発明に係る実験結果の概要説明をもって、実施例とする。
<クリーム状形態の豆乳由来の脂質含有凝集物(半固体状豆乳製素材)の冷凍に関する実験>
<1.目的>
本発明半固体状豆乳製素材の冷凍方法・解凍方法による冷凍耐性を、電気特性測定および官能評価により試験する。なお、豆腐を用いたクリーム状粉砕物を比較例として用いる。
【0027】
<2.実験方法>
<2.−1 クリーム状形態の豆乳由来の脂質含有凝集物(半固体状豆乳製素材)の調製>
半固体状豆乳製素材(以下、「豆乳クリーム」ともいう)の調製は、上記特許文献2に記載の方法により行った。その概要は下記〔A〕に示す豆乳製素材製造方法の通りである。
〔A〕含脂大豆から加熱抽出された安定したコロイド分散系を形成している豆乳を凝集過程に供することにより、該豆乳よりも高濃度に脂質を含有した成分である脂質含有凝集物が生成し、これが該豆乳中に分散してなる豆乳製素材を得る豆乳製素材製造方法であって、該含脂大豆としてNSI(水溶性窒素指数)80以上の大豆を使用し、該凝集過程は、調製時の十分な加熱によって安定したコロイド分散系を形成している豆乳に対して熱による凝集やタンパク質分解酵素処理を行わずに凝集剤を添加する過程であり、該脂質含有凝集物はタンパク質含量に対する脂質含量の割合が65重量%以上100重量%未満であり、粘度変化率{(凝集後の見かけの粘度−凝集前の見かけの粘度)/凝集前の見かけの粘度}が25℃において5〜100を示す豆乳製素材が得られることを特徴とする、豆乳製素材製造方法。
【0028】
また、下記は豆乳クリーム調製例である。
豆乳は、全脂大豆(NSI=87.9)を用いて、一晩浸漬後加水しながらグラインダーで磨砕して得た生呉を、蒸煮缶を通しながら100℃程度で十分加熱して煮呉とし、スクリュープレス型のろ過装置でおからを分離して得た。当豆乳の固形分含量は11.4%、タンパク質含量は5.5%、脂質含量は3.9%であった。当豆乳1,000mLをビーカーに入れて恒温水槽で25℃に保温した後、スターラーで強く撹拌しながら5%(w/v)アスコルビン酸を滴下し、粘度上昇を見ながらpH5.69で滴下を止め、25℃での遠心分離に供した。遠心前の豆乳の粘度変化率(25℃)は43.9であった。遠心後沈殿相約505gを得た。当沈殿相(豆乳クリーム)のテクスチャーはクリーム状となった。
【0029】
<2.−2 比較例試料の調製>
充填豆腐をオスターブレンダーを用いて粉砕し、クリーム状の豆腐粉砕物とした。
【0030】
<2.−3 冷凍方法>
−80℃の冷凍が可能な冷凍庫(フリーザー)を用いて行った。実験は、豆乳クリームおよび豆腐粉砕物を、任意の冷凍速度で冷凍して行った。試験した冷凍温度は、−15℃、−20℃、−30℃、−60℃、−80℃である。
<2.−4 冷凍速度の測定方法>
67×67×35mmの豆乳クリーム試料の中心に温度ロガーを設置し、試料をフリーザーに入れて、芯温が室温から0℃近くまで下降する際の温度差を所要時間(分)で除した。すなわち、冷凍速度は下記の通りである。
冷凍速度:フリーザーに入れて冷凍を行った際に、試料中心が1分間で下がる温度
<2.−5 解凍速度の測定方法>
試料をフリーザーから取り出して、芯温が0℃近くまで上昇する際の温度差を所要時間で除した。
【0031】
<2.−6 解凍方法>
凍結した豆乳クリームの解凍方法は下記の通りとした。
冷蔵解凍:家庭用冷蔵庫(8℃)に試料を入れ、約8時間かけて行う解凍
室温解凍:室内(約20℃)で解凍
流水解凍:流水(約10℃)中で解凍
温水解凍:温かい流水(約30℃)中で解凍
<2.−7 離水率の測定方法>
豆乳クリームおよび豆腐粉砕物の冷凍試料について、家庭用冷蔵庫(8℃)に入れて解凍した際の離水率を測定した。測定方法は次の通りとした。解凍後の試料をザルにあけ、ドリップ量を測定した。ドリップ量と冷凍庫内での蒸発量を離水量とし、離水量を冷凍前の試料重量で除した値を離水率とした。
【0032】
<2.−8 凍結物の静電容量Cの測定>
LCRメータを用い、周波数を0.012kHzから20kHzまで変えて、試料凍結物の静電容量Cを測定した。周波数を横軸に、静電容量を縦軸にとりグラフをプロットし、得られた累乗近似曲線(C∝f^n)の指数を近似曲線指数−nとした。図3は、凍結物の静電容量測定方法を示す写真図である。凍結物のC測定は、断熱性のある発泡スチロール製容器内にて、図示するように冷却済みの保冷剤40の上に置かれたステンレス製シャーレ41内に豆乳クリーム凍結物30等の凍結物試料を置き、これに電極を通す孔の設けられた測定補助板42を載せ、当該孔を通してLCRメータ10の電極15を凍結物試料に差込み、行った。なお、−80℃凍結の試料の場合は、保冷剤40に替えてドライアイスを用いた。図示する通り、測定は4端子法により行った。
【0033】
<2.−9 官能評価>
冷蔵豆乳クリームを基準として、官能評価を行った。冷蔵豆乳クリームとしては、家庭用冷蔵庫(8℃)にて冷蔵したものを用いた。
冷蔵豆乳クリームを0とした際のべたつき、飲み込みやすさ、口中の残留物の多さ、豆腐くささを、−3、−2、−1、0、1、2、3 の7段階で評価した。各項目は、その程度が大きいほど大きな数値を与えることとした。つまり、数値が大きいほど、べたつく/飲み込みやすい/残留物が多い/豆腐くささがある、となる。また、官能評価の各項目の二乗を合計した値を官能評価係数とした。これが0に近いほど、冷凍前の冷蔵豆乳クリームに近い品質であるとみることができる。
【0034】
<3.実験結果>
<3.−1 近似曲線指数−nと離水率>
図4は、冷凍温度・速度を変えて試験した実施例等における凍結物の静電容量C測定結果を示すグラフである。実施例1〜5、および比較例1を示す。また、表1には、冷凍温度・速度を変えて試験した実施例等における近似曲線指数および離水率を示す。なお図4には、比較例1に加え、豆乳クリーム(18℃、常温保存状態)、豆腐粉砕物(18℃、常温保存状態)の各グラフも示している。これらに示されるように、近似曲線指数−nが0.4以下の試料(実施例4、5)では離水率が10%以下と低くなり、ドリップが少なくて良好な冷凍状態であることが確認された。
【0035】
【表1】
【0036】
<3.−2 官能評価>
表2に、実施例の一部および比較例1について行った官能評価結果を示す。
近似曲線指数−nが0.4以下の試料(実施例4)では、官能評価係数が1.1と低く、冷凍前の豆乳クリームの品質に近い、優れた品質を呈した。その他の実施例1、2も、これに次ぐ良好な品質を示した。一方、豆腐粉砕物を冷凍のち解凍し攪拌した試料(比較例1)は、液状となってしまい、実施例1、2、4の豆乳クリームが備える冷凍・解凍後の回復性は認められなかった。
【0037】
【表2】
【0038】
<3.−3 解凍方法による相違>
表3には、−30℃で冷凍した豆乳クリーム(実施例3)を基準として、解凍方法の相違による離水率の測定結果ならびに粘度の測定結果を示す(実施例3、7〜10、比較例1)。−30℃冷凍の実施例3、7、8を比較すると、家庭用冷蔵庫(8℃)に入れて解凍した場合(実施例3)と、約10℃の流水に浸けて解凍した場合(実施例8)とでは、流水解凍の方が離水率が高くなり、粘度も高くなって硬くなったことが示された。したがって、解凍方法としては流水解凍ではなく、冷蔵状態を用いて行う解凍が好ましいことが確認された。また、室温での解凍も特に問題がないことが示唆された。比較例1は離水率が著しく高かった。
【0039】
一方、−15℃冷凍の豆乳クリーム(実施例9、10)の実験結果によれば、−30℃冷凍の場合(実施例3、7、8)と比較して離水率は高まり、粘度も上昇する傾向がうかがえた。このことから、より良好な解凍物を得るためには、−15℃よりも−30℃での冷凍が望ましいことが示された。なお、前掲表1、2に示した通り、−60℃、−80℃ではより低い離水率や、より高い官能評価結果が得られており、冷凍温度をより低くすることで解凍物の品質を高められる可能性が示唆された。
【0040】
【表3】
【0041】
表4に、一部実施例等の官能評価結果を示す。−15℃で冷凍した豆乳クリーム(実施例9、10)および−60℃で冷凍した豆腐粉砕物(比較例1)について、解凍方法による各官能評価項目および官能評価係数の測定結果である。家庭用冷蔵庫(8℃)に入れて解凍した場合(実施例9)と、約30℃の温かい流水に浸けて解凍した場合(実施例10)では、温水での解凍の方が離水率が高くなり、粘度も高くなり、硬くなった。また官能評価係数も高くなり、冷凍前の品質からより乖離したと判断された。すなわち、温水を用いた解凍方法は好ましくないことが確認された。空気中での解凍(冷蔵解凍・室温解凍)よりも流水での解凍(流水解凍・温水解凍)では、離水率が高く、官能評価係数も高くなって、冷凍前の品質から遠のいた。解凍は、空気中における解凍が望ましいと結論された。
【0042】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の半固体状豆乳製素材凍結物、その製造方法、半固体状豆乳製素材解凍物、およびそれを得る方法によれば、豆乳由来のクリーム状形態の脂質含有凝集物自体を、凍結耐性を有する、優れた食感の凍結物とすることができ、これを解凍した際のドリップ発生を大幅に低減でき、クリーム状の物性を保持することができ、広くアレルゲンフリーの素材としての活用も期待できる。したがって、大豆加工分野、食品製造・利用分野、および関連する全分野において、画期的な、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0044】
1…半固体状豆乳製素材
3、30…半固体状豆乳製素材凍結物(豆乳クリーム凍結物)
5…半固体状豆乳製素材解凍物
10…LCRメータの電極ケーブル
15…LCRメータの電極
30…豆乳クリーム凍結物
40…保冷剤
41…ステンレス製シャーレ
42…測定補助板

E3…半固体状豆乳製素材凍結物品質評価過程
P1…半固体状豆乳製素材凍結物製造過程
P2…半固体状豆乳製素材解凍過程































図1
図2
図3
図4