【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、本発明に係る実験結果の概要説明をもって、実施例とする。
<クリーム状形態の豆乳由来の脂質含有凝集物(半固体状豆乳製素材)の冷凍に関する実験>
<1.目的>
本発明半固体状豆乳製素材の冷凍方法・解凍方法による冷凍耐性を、電気特性測定および官能評価により試験する。なお、豆腐を用いたクリーム状粉砕物を比較例として用いる。
【0027】
<2.実験方法>
<2.−1 クリーム状形態の豆乳由来の脂質含有凝集物(半固体状豆乳製素材)の調製>
半固体状豆乳製素材(以下、「豆乳クリーム」ともいう)の調製は、上記特許文献2に記載の方法により行った。その概要は下記〔A〕に示す豆乳製素材製造方法の通りである。
〔A〕含脂大豆から加熱抽出された安定したコロイド分散系を形成している豆乳を凝集過程に供することにより、該豆乳よりも高濃度に脂質を含有した成分である脂質含有凝集物が生成し、これが該豆乳中に分散してなる豆乳製素材を得る豆乳製素材製造方法であって、該含脂大豆としてNSI(水溶性窒素指数)80以上の大豆を使用し、該凝集過程は、調製時の十分な加熱によって安定したコロイド分散系を形成している豆乳に対して熱による凝集やタンパク質分解酵素処理を行わずに凝集剤を添加する過程であり、該脂質含有凝集物はタンパク質含量に対する脂質含量の割合が65重量%以上100重量%未満であり、粘度変化率{(凝集後の見かけの粘度−凝集前の見かけの粘度)/凝集前の見かけの粘度}が25℃において5〜100を示す豆乳製素材が得られることを特徴とする、豆乳製素材製造方法。
【0028】
また、下記は豆乳クリーム調製例である。
豆乳は、全脂大豆(NSI=87.9)を用いて、一晩浸漬後加水しながらグラインダーで磨砕して得た生呉を、蒸煮缶を通しながら100℃程度で十分加熱して煮呉とし、スクリュープレス型のろ過装置でおからを分離して得た。当豆乳の固形分含量は11.4%、タンパク質含量は5.5%、脂質含量は3.9%であった。当豆乳1,000mLをビーカーに入れて恒温水槽で25℃に保温した後、スターラーで強く撹拌しながら5%(w/v)アスコルビン酸を滴下し、粘度上昇を見ながらpH5.69で滴下を止め、25℃での遠心分離に供した。遠心前の豆乳の粘度変化率(25℃)は43.9であった。遠心後沈殿相約505gを得た。当沈殿相(豆乳クリーム)のテクスチャーはクリーム状となった。
【0029】
<2.−2 比較例試料の調製>
充填豆腐をオスターブレンダーを用いて粉砕し、クリーム状の豆腐粉砕物とした。
【0030】
<2.−3 冷凍方法>
−80℃の冷凍が可能な冷凍庫(フリーザー)を用いて行った。実験は、豆乳クリームおよび豆腐粉砕物を、任意の冷凍速度で冷凍して行った。試験した冷凍温度は、−15℃、−20℃、−30℃、−60℃、−80℃である。
<2.−4 冷凍速度の測定方法>
67×67×35mmの豆乳クリーム試料の中心に温度ロガーを設置し、試料をフリーザーに入れて、芯温が室温から0℃近くまで下降する際の温度差を所要時間(分)で除した。すなわち、冷凍速度は下記の通りである。
冷凍速度:フリーザーに入れて冷凍を行った際に、試料中心が1分間で下がる温度
<2.−5 解凍速度の測定方法>
試料をフリーザーから取り出して、芯温が0℃近くまで上昇する際の温度差を所要時間で除した。
【0031】
<2.−6 解凍方法>
凍結した豆乳クリームの解凍方法は下記の通りとした。
冷蔵解凍:家庭用冷蔵庫(8℃)に試料を入れ、約8時間かけて行う解凍
室温解凍:室内(約20℃)で解凍
流水解凍:流水(約10℃)中で解凍
温水解凍:温かい流水(約30℃)中で解凍
<2.−7 離水率の測定方法>
豆乳クリームおよび豆腐粉砕物の冷凍試料について、家庭用冷蔵庫(8℃)に入れて解凍した際の離水率を測定した。測定方法は次の通りとした。解凍後の試料をザルにあけ、ドリップ量を測定した。ドリップ量と冷凍庫内での蒸発量を離水量とし、離水量を冷凍前の試料重量で除した値を離水率とした。
【0032】
<2.−8 凍結物の静電容量Cの測定>
LCRメータを用い、周波数を0.012kHzから20kHzまで変えて、試料凍結物の静電容量Cを測定した。周波数を横軸に、静電容量を縦軸にとりグラフをプロットし、得られた累乗近似曲線(C∝f^n)の指数を近似曲線指数−nとした。
図3は、凍結物の静電容量測定方法を示す写真図である。凍結物のC測定は、断熱性のある発泡スチロール製容器内にて、図示するように冷却済みの保冷剤40の上に置かれたステンレス製シャーレ41内に豆乳クリーム凍結物30等の凍結物試料を置き、これに電極を通す孔の設けられた測定補助板42を載せ、当該孔を通してLCRメータ10の電極15を凍結物試料に差込み、行った。なお、−80℃凍結の試料の場合は、保冷剤40に替えてドライアイスを用いた。図示する通り、測定は4端子法により行った。
【0033】
<2.−9 官能評価>
冷蔵豆乳クリームを基準として、官能評価を行った。冷蔵豆乳クリームとしては、家庭用冷蔵庫(8℃)にて冷蔵したものを用いた。
冷蔵豆乳クリームを0とした際のべたつき、飲み込みやすさ、口中の残留物の多さ、豆腐くささを、−3、−2、−1、0、1、2、3 の7段階で評価した。各項目は、その程度が大きいほど大きな数値を与えることとした。つまり、数値が大きいほど、べたつく/飲み込みやすい/残留物が多い/豆腐くささがある、となる。また、官能評価の各項目の二乗を合計した値を官能評価係数とした。これが0に近いほど、冷凍前の冷蔵豆乳クリームに近い品質であるとみることができる。
【0034】
<3.実験結果>
<3.−1 近似曲線指数−nと離水率>
図4は、冷凍温度・速度を変えて試験した実施例等における凍結物の静電容量C測定結果を示すグラフである。実施例1〜5、および比較例1を示す。また、表1には、冷凍温度・速度を変えて試験した実施例等における近似曲線指数および離水率を示す。なお
図4には、比較例1に加え、豆乳クリーム(18℃、常温保存状態)、豆腐粉砕物(18℃、常温保存状態)の各グラフも示している。これらに示されるように、近似曲線指数−nが0.4以下の試料(実施例4、5)では離水率が10%以下と低くなり、ドリップが少なくて良好な冷凍状態であることが確認された。
【0035】
【表1】
【0036】
<3.−2 官能評価>
表2に、実施例の一部および比較例1について行った官能評価結果を示す。
近似曲線指数−nが0.4以下の試料(実施例4)では、官能評価係数が1.1と低く、冷凍前の豆乳クリームの品質に近い、優れた品質を呈した。その他の実施例1、2も、これに次ぐ良好な品質を示した。一方、豆腐粉砕物を冷凍のち解凍し攪拌した試料(比較例1)は、液状となってしまい、実施例1、2、4の豆乳クリームが備える冷凍・解凍後の回復性は認められなかった。
【0037】
【表2】
【0038】
<3.−3 解凍方法による相違>
表3には、−30℃で冷凍した豆乳クリーム(実施例3)を基準として、解凍方法の相違による離水率の測定結果ならびに粘度の測定結果を示す(実施例3、7〜10、比較例1)。−30℃冷凍の実施例3、7、8を比較すると、家庭用冷蔵庫(8℃)に入れて解凍した場合(実施例3)と、約10℃の流水に浸けて解凍した場合(実施例8)とでは、流水解凍の方が離水率が高くなり、粘度も高くなって硬くなったことが示された。したがって、解凍方法としては流水解凍ではなく、冷蔵状態を用いて行う解凍が好ましいことが確認された。また、室温での解凍も特に問題がないことが示唆された。比較例1は離水率が著しく高かった。
【0039】
一方、−15℃冷凍の豆乳クリーム(実施例9、10)の実験結果によれば、−30℃冷凍の場合(実施例3、7、8)と比較して離水率は高まり、粘度も上昇する傾向がうかがえた。このことから、より良好な解凍物を得るためには、−15℃よりも−30℃での冷凍が望ましいことが示された。なお、前掲表1、2に示した通り、−60℃、−80℃ではより低い離水率や、より高い官能評価結果が得られており、冷凍温度をより低くすることで解凍物の品質を高められる可能性が示唆された。
【0040】
【表3】
【0041】
表4に、一部実施例等の官能評価結果を示す。−15℃で冷凍した豆乳クリーム(実施例9、10)および−60℃で冷凍した豆腐粉砕物(比較例1)について、解凍方法による各官能評価項目および官能評価係数の測定結果である。家庭用冷蔵庫(8℃)に入れて解凍した場合(実施例9)と、約30℃の温かい流水に浸けて解凍した場合(実施例10)では、温水での解凍の方が離水率が高くなり、粘度も高くなり、硬くなった。また官能評価係数も高くなり、冷凍前の品質からより乖離したと判断された。すなわち、温水を用いた解凍方法は好ましくないことが確認された。空気中での解凍(冷蔵解凍・室温解凍)よりも流水での解凍(流水解凍・温水解凍)では、離水率が高く、官能評価係数も高くなって、冷凍前の品質から遠のいた。解凍は、空気中における解凍が望ましいと結論された。
【0042】
【表4】