特許第6809839号(P6809839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809839
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/00 20060101AFI20201221BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B60C15/00 G
   B60C15/00 H
   B60C15/06 Q
   B60C15/06 C
   B60C15/06 F
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-157169(P2016-157169)
(22)【出願日】2016年8月10日
(65)【公開番号】特開2018-24322(P2018-24322A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 優
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−045333(JP,A)
【文献】 特開2003−054226(JP,A)
【文献】 特開2007−210363(JP,A)
【文献】 特開2013−001283(JP,A)
【文献】 特開2006−347394(JP,A)
【文献】 特開2013−248950(JP,A)
【文献】 特開2010−202000(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、一対の前記ビード部の間で架け渡されるように設けられたカーカスとを備える空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスが、少なくとも1層のターンアッププライと、少なくとも1層のダウンプライとを含み、
前記ターンアッププライが、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部に至り、前記ビード部に埋設されたビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられており、
前記ダウンプライが、前記ターンアッププライの巻き上げられた部分のタイヤ幅方向外側を覆うとともに、前記ビードコアの側方で終端しており、
前記ビード部の外壁面を形成するゴムチェーハーと前記ダウンプライとの間にゴムパッドが設けられており、
前記ゴムチェーハーと前記ゴムパッドとのモジュラス差が3MPa以内であり、且つ、前記ゴムパッドの引裂強さが22MPa以上であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビードコアは、対向する2辺がタイヤ幅方向と平行である六角形の断面形状を有しており、
前記ダウンプライの終端部が、前記ビードコアの前記六角形のタイヤ幅方向最外側の頂点の位置から前記ビードコアの底部までの高さの範囲内に配置されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ビードコアは、対向する2辺がタイヤ幅方向と平行である六角形の断面形状を有しており、
前記ゴムパッドのタイヤ径方向内側の端部が、前記ビードコアの前記六角形のタイヤ幅方向最外側の頂点の位置と同じ高さか、それよりもタイヤ径方向外側に配置されている請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ゴムパッドのタイヤ径方向外側の端部が、前記ゴムチェーハーのタイヤ径方向外側の端部からタイヤ径方向に5mm以上離して配置されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイドウォール部の外壁面を形成するサイドゴムと前記ゴムチェーハーとの界面の露出位置の高さにおいて、前記ゴムパッドの厚みよりも前記ゴムチェーハーの厚みの方が大きい請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップダウン構造のカーカスを備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2層のターンアッププライと1層のダウンプライとを含むアップダウン構造(2アップ1ダウン構造)のカーカスを備えた空気入りタイヤが記載されている。ダウンプライは、ビード部に埋設されたビードコアの周りで巻き上げられることなく、ビードコアの近傍で終端するようにして設けられる。このようなアップダウン構造のカーカスを備えた空気入りタイヤでは、剛性段差が小さくなるため、剛性バランスに比較的優れる。
【0003】
グリーンタイヤを成形する過程では、ビードロックセグメントがビード部を両側から強く圧着した際に、ダウンプライの終端部がビード底面から突き出てしまう、いわゆる突き出し不良を起こすことがある。これに対し、ダウンプライの終端部をビード底面から離して配置することが考えられるが、その場合には、グリーンタイヤを加硫する段階で、張力の作用によりダウンプライがタイヤ径方向外側に引っ張られて動いてしまう、いわゆる抜け不良を起こすことがあった。
【0004】
特許文献2には、カーカスを包むように設けられたチェーハーのタイヤ幅方向外側に、低発熱性や加工性を向上しうるチェーハーパッドを配置した空気入りタイヤが記載されている。また、特許文献3には、ターンアッププライの巻き上げられた部分のタイヤ幅方向外側に、スコーチ性や生産性を向上しうるチェーハーパッドを配置した空気入りタイヤが記載されている。但し、これらは、アップダウン構造における上記不良の問題に関して、その解決手段を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−137506号公報
【特許文献2】特開2009−292309号公報
【特許文献3】特開2009−292310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダウンプライの突き出し不良と抜け不良の発生を抑制できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、一対の前記ビード部の間で架け渡されるように設けられたカーカスとを備える空気入りタイヤにおいて、前記カーカスが、少なくとも1層のターンアッププライと、少なくとも1層のダウンプライとを含み、前記ターンアッププライが、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部に至り、前記ビード部に埋設されたビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられており、前記ダウンプライが、前記ターンアッププライの巻き上げられた部分のタイヤ幅方向外側を覆うとともに、前記ビードコアの側方で終端しており、前記ビード部の外壁面を形成するゴムチェーハーと前記ダウンプライとの間にゴムパッドが設けられているものである。
【0008】
このタイヤでは、ダウンプライの終端部がビードコアの側方で終端するとともに、そのダウンプライのタイヤ幅方向外側にゴムパッドが設けられているため、ビード部の圧着に起因したダウンプライの突き出し不良の発生が抑制される。しかも、そのゴムパッドとターンアッププライの巻き上げられた部分とでダウンプライが挟まれているので、グリーンタイヤ加硫時に引っ張られたダウンプライが大きく動かず、ダウンプライの抜け不良の発生が抑制される。
【0009】
前記ダウンプライの終端部が、前記ビードコアの最大幅位置から前記ビードコアの底部までの高さの範囲内に配置されているものが好ましい。かかる構成によれば、ダウンプライの抜け不良の発生をより効果的に抑制できる。
【0010】
前記ゴムパッドのタイヤ径方向内側の端部が、前記ビードコアの最大幅位置と同じ高さか、それよりもタイヤ径方向外側に配置されているものが好ましい。かかる構成によれば、ビードコアの周辺(特にビード底面の近傍)でのゴム量が過多になることを防いで、ゴム欠損や亀裂を伴うビード部での不具合(ビードピンチと呼ばれる)の発生を抑制できる。
【0011】
前記ゴムパッドのタイヤ径方向外側の端部が、前記ゴムチェーハーのタイヤ径方向外側の端部からタイヤ径方向に5mm以上離して配置されているものが好ましい。かかる構成によれば、ゴムパッドの端部がゴムチェーハーの端部から適度に離して配置されるので、部材間の段差が小さくなり、その周辺でのエア溜まりの形成が抑えられるとともに、ゴム流れが良好になる。その結果、エア入りの発生や、ベアと呼ばれるゴム欠損の発生が抑制される。
【0012】
前記サイドウォール部の外壁面を形成するサイドゴムと前記ゴムチェーハーとの界面の露出位置の高さにおいて、前記ゴムパッドの厚みよりも前記ゴムチェーハーの厚みの方が大きいものが好ましい。かかる構成によれば、ゴムパッドの厚みが大きくなり過ぎないため、ビードピンチの発生を抑制するうえで有効である。
【0013】
前記ゴムチェーハーと前記ゴムパッドとのモジュラス差が3MPa以内であり、且つ、前記ゴムパッドの引裂強さが22MPa以上であるものが好ましい。ゴムパッドは、走行中に負荷が掛かる箇所に配置されるため、ゴムチェーハーと同等のモジュラスを有することが好適である。また、ゴムパッドは、捩れたり伸びたりする部位を構成するので、このように高い引裂強さを有することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線半断面図
図2図1のタイヤのビード部を拡大して示す断面図
図3】本発明の他の実施形態におけるビード部を示す断面図
図4】本発明の他の実施形態におけるビード部の要部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1,2に示す空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、ビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3と、一対のビード部1の間で架け渡されるように設けられたカーカス4とを備える。更に、このタイヤTは、ビード部1の外壁面を形成するゴムチェーハー5と、サイドウォール部2の外壁面を形成するサイドゴム6と、タイヤTの内壁面を形成するインナーライナーゴム7とを備える。
【0017】
インナーライナーゴム7は、空気が充填されるタイヤTの内部空間に面しており、空気圧を保持するために空気透過性の低いゴムで形成されている。サイドウォール部2において、インナーライナーゴム7はカーカス4の内周側(後述するターンアッププライ41の内周側)に直接的に貼り付けられており、それらの間に他の部材は介在していない。
【0018】
ビード部1には、ビードコア1aとビードフィラー1bが埋設されている。ビードコア1aは、ゴムで被覆したワイヤを積層巻回した収束体により構成され、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。本実施形態では、ビードコア1aが六角形の断面形状を有する。ビードフィラー1bは、タイヤ径方向外側に向けて先細りに形成され、ビードコア1aのタイヤ径方向外側に配置されている。ビードフィラー1bの先端は、カーカス4の巻き上げ端41Eよりもタイヤ径方向外側に配置されている。
【0019】
カーカス4は、いわゆるアップダウン構造を有しており、少なくとも1層のターンアッププライ41と、少なくとも1層のダウンプライ42とを含む。本実施形態では、ターンアッププライ41とダウンプライ42をそれぞれ1層ずつ含んだ1アップ1ダウン構造である。カーカス4を構成する各プライは、それぞれ、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列した複数のコードをゴム被覆して形成されている。該コードの材料には、スチールなどの金属や、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維が好適に使用される。
【0020】
ターンアッププライ41は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至り、ビードコア1aの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられている。別の言い方をすると、ターンアッププライ41は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至る本体部に、ビードコア1a及びビードフィラー1bのタイヤ幅方向外側に配置された巻き上げ部を一連に設けてある。
【0021】
ダウンプライ42は、ターンアッププライ41の巻き上げられた部分(即ち、上記の巻き上げ部)のタイヤ幅方向外側を覆うとともに、ビードコア1aの周りで巻き上げられることなく、ビードコア1aの側方で終端している。本実施形態では、ダウンプライ42が、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至り、トレッド部3ではタイヤ幅方向に連続して延びている。但し、これに限られず、ダウンプライ42は、トレッド部3でタイヤ幅方向に分断した、いわゆる中抜き構造でも構わない。
【0022】
ダウンプライ42の終端部42Eは、ビードコア1aの頂部から底部までの高さの範囲R内に配置される。本実施形態では、終端部42Eがビードコア1aの底部の高さに配置されており、これよりもタイヤ径方向内側には配置されない。かかる構成によれば、ダウンプライ42の終端部42Eがビード底面1cから適度に離されるため、グリーンタイヤ成形時のビード部1の圧着に起因したダウンプライ42の突き出し不良の発生が抑制される。その反面、張力の作用によってダウンプライ42が動きやすくなるため、抜け不良の発生が懸念される。
【0023】
上述のように、終端部42Eは、ビードコア1aの頂部と同じ高さか、それよりもタイヤ径方向内側に配置される。これよりもタイヤ径方向外側に配置されると、走行中のダウンプライ42に張力が発生しにくくなり、アップダウン構造の性能が十分に発揮されない。また、終端部42Eは、ビードコア1aの底部と同じ高さか、それよりもタイヤ径方向外側に配置される。これよりもタイヤ径方向内側に配置されると、グリーンタイヤの成形時に突き出し不良を発生しやすくなるうえ、その加硫時に終端部42Eが屈曲してゴム流れの悪化を引き起こし、ベアの発生原因となる。
【0024】
ダウンプライ42の抜け不良の発生をより効果的に抑制する観点から、ダウンプライ42の終端部42Eは、ビードコア1aの最大幅位置からビードコア1aの底部までの高さの範囲R’内に配置されていることが好ましい。
【0025】
このタイヤTでは、ダウンプライ42の突き出し不良と抜け不良の発生を抑えるため、ゴムチェーハー5とダウンプライ42との間にゴムパッド8を設けてある。ゴムパッド8は、ビードフィラー1bの側方に位置し、ダウンプライ42のタイヤ幅方向外側に貼り付けられている。このゴムパッド8とターンアッププライ41の巻き上げられた部分とでダウンプライ42が挟まれているので、グリーンタイヤ加硫時に引っ張られたダウンプライが大きく動かず、ダウンプライ42の抜け不良の発生が抑制される。
【0026】
ゴムパッド8は、その中央部で厚みが相対的に大きく、その両端部で厚みが相対的に小さい三日月形の断面形状を有する。ゴムパッド8の最大厚みは、ダウンプライ42の突き出し不良の発生を抑えるうえで、1.5mm以上であることが好ましい。また、ゴムパッド8の最大厚みは、ビードピンチの発生を抑えるうえで、5.0mm以下であることが好ましい。なお、ゴムパッド8などの厚みは、ダウンプライ42に対する垂線に沿って測定されるものとする。
【0027】
更に、ビードピンチの発生を抑制する観点から、サイドゴム6とゴムチェーハー5との界面の露出位置Pの高さにおいて、ゴムパッド8の厚みT8よりもゴムチェーハー5の厚みT5の方が大きいことが好ましい。厚みT8,T5は、上述のようにダウンプライ42に対する垂線に沿って測定される厚みであり、該垂線は露出位置Pを通る。
【0028】
ゴムパッド8の長さL8は、例えばタイヤ断面高さTHの20〜40%の範囲に設定される。この長さL8は、ゴムパッド8の一方の端部8aから他方の端部8bまでのタイヤ径方向距離として求められる。本実施形態において、ゴムパッド8のタイヤ径方向内側の端部8aは、露出位置Pよりもタイヤ径方向内側に位置し、終端部42Eよりもタイヤ径方向外側に位置する。また、ゴムパッド8のタイヤ径方向外側の端部8bは、露出位置Pよりもタイヤ径方向外側に位置し、ビードフィラー1bの先端やターンアッププライ41の巻き上げ端41Eよりもタイヤ径方向内側に位置する。
【0029】
ゴムパッド8の端部8aは、ビードコア1aの最大幅位置と同じ高さか、それよりもタイヤ径方向外側に配置されていることが好ましい。これにより、ビードコア1aの周辺(特にビード底面1cの近傍)でゴム量が過多になることを防いで、ビードピンチの発生を抑制できる。端部8aは、ダウンプライ42の終端部42Eから適度に離して、例えばタイヤ径方向に5.0mm以上離して配置されることが好ましい。これにより部材間の段差を小さくして、エア入りの発生やゴム流れの悪化を抑制できる。
【0030】
ゴムパッド8の端部8bは、ゴムチェーハー5のタイヤ径方向外側の端部5Eから適度に離して、例えばタイヤ径方向に5mm以上離して配置されることが好ましい。これにより部材間の段差を小さくして、エア入りの発生やゴム流れの悪化を抑制できる。本実施形態では、端部8bがゴムチェーハー5の端部5Eよりもタイヤ径方向外側に位置する例を示すが、後述する別実施形態(図3参照)のように端部8bが端部5Eよりもタイヤ径方向内側に位置するものでも構わない。
【0031】
ゴムパッド8の端部8bは、ビードフィラー1bの先端から適度に離して、例えばタイヤ径方向に5mm以上離して配置されることが好ましい。これらが接近していると、それらの端部の周辺に窪みができてエアが溜まり、エア入りが発生しやすくなる。また、そのような窪みが形成されると、ゴム流れの悪化を引き起こし、ベアの発生原因となる恐れがある。
【0032】
本実施形態では、ゴムチェーハー5とサイドゴム6との界面が、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向内側に傾斜するとともに、ゴムチェーハー5の端部5Eがゴムパッド8に接する。このため、グリーンタイヤ加硫時のゴム流れが比較的良好となるうえ、ゴムチェーハー5とサイドゴム6をダウンプライ42に適切に密着させられる。これに対して、該界面がタイヤ径方向外側に向かってタイヤ幅方向外側に傾斜している場合には、ゴムパッド8とゴムチェーハー5との間にサイドゴム6が配置される構造となり、ゴム流れが悪化する恐れがある。
【0033】
ゴムチェーハー5は、リムフランジと擦過する部位に配置されるため、耐摩滅性に優れたゴムにより形成される。ゴムパッド8は、ゴムチェーハー5とは異なるゴムにより形成され、好ましくは接着性(密着性)に優れたゴムにより形成される。
【0034】
ゴムパッド8は、走行中に負荷が掛かる箇所に配置されるため、ゴムチェーハー5と同等のモジュラスを有することが好適である。具体的には、ゴムチェーハー5とゴムパッド8とのモジュラス差が3MPa以内であることが好ましい。モジュラスの値は、JISK6251に準拠して23±2℃で引張試験を行ったときの300%伸張時の引張応力(300%引張モジュラス)の値とする。
【0035】
また、ゴムパッド8は、ゴムチェーハー5と同等のゴム硬度を有することが好適である。具体的には、ゴムチェーハー5とゴムパッド8とのゴム硬度差が3以内であることが好ましい。ゴム硬度の値は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準拠して23±2℃で測定したゴム硬度の値とする。
【0036】
ゴムパッド8は、捩れたり伸びたりする部位を構成するため、高い引裂強さを有することが望ましい。具体的に、ゴムパッド8の引裂強さは22MPa以上であることが好ましく、これによりダウンプライ42の抜け不良を抑制する効果も高められる。また、ゴムパッド8の引裂強さは、ゴムチェーハー5の引裂強さよりも高いことが好ましく、それらの差は6MPa以上が好ましい。ゴムチェーハー5の引裂強さは、例えば16MPa以上に設定される。引裂強さの値は、JISK6252に準拠してクレセント形試験片を用いて求められる。
【0037】
上述した各寸法値は、タイヤTを正規リムに装着して正規内圧を充填した無負荷の正規状態で測定される。正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim"、或いはETRTOであれば "Measuring Rim" とする。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば"INFLATION PRESSURE" とする。
【0038】
図3に、ゴムパッド8の態様を変えた変形例を示す。この例では、前述の実施形態と比べてゴムパッド8の長さが短く、そのゴムパッド8の端部8bはゴムチェーハー5の端部5Eよりもタイヤ径方向内側に位置する。この構成では、ゴムパッド8の全長がゴムチェーハー5で覆われているため、グリーンタイヤ加硫時の形状変化が小さく、ゴム流れが良好となる。
【0039】
図4に、ゴムパッド8の態様を変えた別の変形例を示す。この例では、ゴムパッド8が略台形の断面形状を有し、ビードコア1aの頂部の高さでゴムパッド8が最大厚みTmを有する。厚みTmは、上述のようにダウンプライ42に対する垂線に沿って測定される厚みであり、該垂線はビードコア1aの頂部の高さにおける外壁面を通る。かかる構成によれば、グリーンタイヤ成形時のビード部1の圧着に起因したダウンプライ42の突き出し不良の発生がより効果的に抑制される。
【0040】
本発明の空気入りタイヤは、カーカスやゴムパッドに関する上記の如き構成以外は、通常の空気入りタイヤと同等であり、従来公知の材料、形状、構造、製法などが何れも本発明に採用することができる。
【0041】
本発明に係る空気入りタイヤは、上記の如きゴムパッドを備えてビード部の耐久性に優れるため、トラックやバス、産業車両、建設車両などの車両重量が重い車両に使用される重荷重用空気入りタイヤとして有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 ビード部
1a ビードコア
1b ビードフィラー
1c ビード底面
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス
5 ゴムチェーハー
6 サイドゴム
7 インナーライナーゴム
8 ゴムパッド
41 ターンアッププライ
42 ダウンプライ
図1
図2
図3
図4