特許第6809853号(P6809853)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809853
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   E04H9/02 341C
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-181292(P2016-181292)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-44397(P2018-44397A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(72)【発明者】
【氏名】余田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 新一
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−073620(JP,A)
【文献】 特開平02−154825(JP,A)
【文献】 特開平05−141463(JP,A)
【文献】 特開2003−041805(JP,A)
【文献】 中国実用新案第204491891(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置用のベースと、該ベースに積層ゴムを介して水平方向に変位可能に支持されたウェイトと、前記ベースに対して前記ウェイトを所定位置に復元させる補助ばねとを備える制振装置であって、
前記ウェイトは、受体と、該受体に収容される複数のウェイト部材とで構成され、
前記積層ゴムは、中心部に中空部が形成され
前記受体は、上部に開口するC形鋼または溝形鋼で形成され、前記開口内に、板材で形成された前記複数のウェイト部材を積層して収容する、もしくは、ブロック材で形成された前記複数のウェイト部材を並設して収容することを特徴とする制振装置。
【請求項2】
長方形の平面を有する棒状のウェイト、該ウェイトを支持しつつウェイトに水平方向の復元力を与える積層ゴム、前記ウェイトの水平方向の固有振動数を調整するための補助ばね、及び前記ウェイトの過大変位と脱落を防止するためのストッパーとを備える制振装置であって、
前記ウェイトは、受体と、該受体に収容される複数のウェイト部材とで構成され、
前記積層ゴムは、中心部に中空部が形成され
前記受体は、上部に開口するC形鋼または溝形鋼で形成され、前記開口内に、板材で形成された前記複数のウェイト部材を積層して収容する、もしくは、ブロック材で形成された前記複数のウェイト部材を並設して収容することを特徴とする制振装置。
【請求項3】
前記積層ゴムは、前記中空部にプラグが挿入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記プラグは、高減衰ゴムで形成されていることを特徴とする請求項に記載の制振装置。
【請求項5】
前記複数のウェイト部材は、前記受体にボルトナットで固定されることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記受体は、前記積層ゴムの取付部を備えることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の制振装置。
【請求項7】
前記制振装置は、前記ベースで建築物の梁間に固定されることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物で使用される制振装置に係り、特に、風や交通振動及び小地震等による建築物の水平方向の振動を減少させる建築物用の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物が受ける風や自動車、鉄道、飛行機による交通振動等による建築物が水平方向に振動する問題は、居住性等を著しく害している。特に一般の住宅、とりわけプレハブ住宅等の小規模建築物においては揺れを防止する手段が強く望まれている。そこで、これらの揺れを小さくするための受動的制振装置や能動的制振装置が考案され、一部実用化されている。一般に、受動的制振装置に対して能動的制振装置は効果が大きい。しかしながら、従来の能動的制振装置は比較的大規模なビル、タワー等を対象としており、その仕様としては、ウェイト重量数トン〜数100トン、固有振動数0.2〜1.0Hz程度、最大変位±300〜±1000mm程度である。
【0003】
ウェイトの支持方法としては、大別して(1)レール・ローラー方式(2)ふり子方式(3)多段積層ゴム方式の3つがあり、減衰装置としてはオイルダンパーが主に用いられている。これらの装置はおのずと大型とならざるをえず、その結果、コストが増大するため、一般の小規模建築物への適用は難しかった。
【0004】
プレハブ住宅用制振装置の仕様は、ウェイト重量数100kgf、固有振動数3〜7Hz程度、最大変位数10mm程度であるが、従来の方法をそのままスケールダウンさせても不都合が生じる場合がある。例えば
(1)レール・ローラー方式では、ウェイト重量に比べ、ころがり抵抗等が大きくなるため、微少振動に対して性能が低下する。
(2)ふり子方式では、ふり子の長さが短くなりすぎる。
(3)多段積層ゴム方式では重量が軽く、変位も少ないので、多段にする必要がない。
また、減衰装置としてのオイルダンパーも、シール抵抗等により適さない。さらに設置スペースが限られているため、スペースに合わせた形状にする必要があるが、きわめて困難である。このように、本発明が主として対象とするプレハブ住宅等の比較的小規模建造物に有効な水平方向用制振装置は未だ開発されていないのが現状である。
【0005】
また、従来の建築物制振装置として、長方形断面を有する棒状のウェイト、ウェイトを支持しつつウェイトに水平方向の復元力を与える積層ゴム、ウェイトの水平方向運動に対して減衰力を与える減衰材、ウェイトの水平方向の固有振動数を調整するための補助ばね及びウェイトの過大変位と脱落を防止するためのストッパーからなる建築物の水平方向振動を低減する制振装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−128229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1に記載の制振装置では、積層ゴムで支持されたウェイトは、図1に示されるように、角パイプ中の上面に断面が長方形の錘を固定したものであり、重量を微調整することが難しく、製造も煩雑であると共に、角パイプ内の上面に重量の大きい錘を複数のボルトナット等で固定する作業は作業性の悪いものであった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、建築物、特にユニット建物に対する水平方向の振動を効果的かつ低コストで低減しうる制振装置を提供することにある。また、重量物であるウェイトを複数の部材で構成し、ウェイトの重量を建物形状に応じて、最適に調整することができる制振装置を提供することにある。さらに、製造が容易でコストダウンが可能な制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明に係る制振装置は、設置用のベースと、該ベースに積層ゴムを介して水平方向に変位可能に支持されたウェイトと、前記ベースに対して前記ウェイトを所定位置に復元させる補助ばねとを備え、前記ウェイトは、受体と、該受体に収容される複数のウェイト部材とで構成され、前記積層ゴムは、中心部に中空部が形成され、前記受体は、上部に開口するC形鋼または溝形鋼で形成され、前記開口内に、板材で形成された前記複数のウェイト部材を積層して収容する、もしくは、ブロック材で形成された前記複数のウェイト部材を並設して収容することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る制振装置の他の態様としては、長方形の平面を有する棒状のウェイト、該ウェイトを支持しつつウェイトに水平方向の復元力を与える積層ゴム、前記ウェイトの水平方向の固有振動数を調整するための補助ばね、及び前記ウェイトの過大変位と脱落を防止するためのストッパーとを備え、前記ウェイトは、受体と、該受体に収容される複数のウェイト部材とで構成され、前記積層ゴムは、中心部に中空部が形成され、前記受体は、上部に開口するC形鋼または溝形鋼で形成され、前記開口内に、板材で形成された前記複数のウェイト部材を積層して収容する、もしくは、ブロック材で形成された前記複数のウェイト部材を並設して収容することを特徴とする。
【0011】
前記のごとく構成された本発明の制振装置は、ウェイトを複数のウェイト部材と、該ウェイト部材を収容する受体で構成するため、1つの重量の大きい部材で構成する場合と比較して重量物を分割することができ、施工性を向上させることができる。また、複数のウェイト部材を加減して受体に収容することで、建物の構造や規模に合わせてウェイトの重量を最適に調整することができる。さらに、積層ゴムの中心部に中空部が形成されているため軽量に構成でき、コストダウンできるとともに、ウェイトの水平方向の変位を効果的に減衰させることができる。
【0012】
また、本発明に係る制振装置では、前記受体は、上部に開口するC形鋼または溝形鋼で形成され、前記開口内に板材で形成された複数のウェイト部材を積層して収容するため、ウェイトの作製が容易となる。
【0013】
さらに、本発明に係る制振装置では、前記受体は、上部に開口するC形鋼または溝形鋼で形成され、前記開口内に、ブロック材で形成された前記複数のウェイト部材を並設して収容するため、ウェイトの作製が容易となる。
【0014】
また、前記積層ゴムは、前記中空部にプラグが挿入されていることが好ましく、前記プラグは、高減衰ゴムで形成されていることが好ましい。この構成によれば、積層ゴムの中空部に高減衰ゴム等で形成されたプラグが挿入されるため、ウェイトの水平方向の変位を効果的に減衰させることができる。
【0015】
前記複数のウェイト部材は、前記受体にボルトナットで固定されることが好ましい。この構成によれば、ウェイトを構成する複数のウェイト部材は、受体にボルトナットで固定されて一体化するため、所定の重量を有する1つのウェイトとして制振機能を発揮することができる。
【0016】
また、前記受体は、前記積層ゴムの取付部を備えると好適である。この構成によれば、ウェイトを構成する受体と積層ゴムとを効率良く連結すると共に、ウェイトの支持部を補強して安定して支持できる。
【0017】
さらに、前記制振装置は、前記ベースで建築物の梁間に固定されることが好ましい。この構成によれば、制振装置のベースを建築物の梁間に固定に固定して、制振装置を効率良く建築物に設置できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の制振装置は、その主要部品であるウェイトを容易に作製することができると共に、コストを低減することができる。また、ウェイトの重量を容易に調整することができ、設置する建物の規模、形状等に合わせて最適な固有振動数に設計することができる。さらに、積層ゴムの中心部に中空部が形成されるため軽量化とコストダウンを達成でき、中空部に高減衰ゴム等のプラグを挿入するとウェイトの水平方向の変位を効果的に減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る制振装置の一実施形態を示し、(a)は一部を省略した平面図、(b)はその正面図。
図2図1の要部拡大平面図。
図3図2の正面図。
図4図3の左側面図。
図5図1から図4の制振装置で使用する積層ゴムを示し、(a)は斜視図、(b)は中央縦断面図、(c)は製造過程を示す断面図。
図6】本発明に係る制振装置の他の実施形態の要部平面図。
図7図6の正面図。
図8図7の左側面図。
図9】本発明に係る制振装置のさらに他の実施形態の要部平面図。
図10図9の正面図。
図11図10の左側面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る制振装置の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る制振装置の一部を省略した平面図と正面図、図2は、図1の要部拡大平面図、図3は、図2の正面図、図4は、図3の左側面図、図5は積層ゴムの斜視図、中央縦断面図及び製造過程を示す断面図である。
【0021】
図1〜5において、制振装置1は、建築物が受ける風や、自動車、鉄道車両等の移動に伴い発生する交通振動等による水平方向の振動を低減するものである。制振装置1は、基本的には建築物に固定するための設置用のベース2,2を備え、ベース2,2に対して水平方向に相対変位可能に支持されたウェイト10を備えている。ウェイト10は、その長辺方向であるX方向と、これに直交するY方向とで形成される水平面に沿ってベース2,2に対して相対変位可能に支持されている。
【0022】
ベース2,2は、ウェイト10の両端部を支持するものであり、制振装置1を建築物に固定するための固定部2a,2aと、ウェイト10の両端部を囲む形状の枠部2b,2bとを備えており、側面視ロ形の枠部2bの内部にウェイト10の両端部が位置して、ウェイト10が枠部2bに接触せずに水平方向に変位できるような形状となっている。ベース2,2の固定用の貫通孔を介して建築物の柱や梁にベース2,2を固定するものである。
【0023】
ウェイト10はベース2,2に対して積層ゴム3,3により水平方向に相対変位可能に支持されている。積層ゴム3,3はウェイト10の長手方向の両端部の下方に位置しており、ベース2,2とウェイト10との間に設置され、ウェイト10の荷重を支持するものである。積層ゴム3,3としては天然ゴムを用いることが好ましく、特に摩擦の少ない積層ゴムが好ましい。特に摩擦の少ない積層ゴムを用いると、制振装置1に微少振動が加わったときにでもウェイト10が変位して制振機能を発揮できるので好ましい。積層ゴム3は、ベース2,2に対するウェイト10の水平方向の変位に対して、変位を抑制すると共に復元力を与える機能を有するものである。積層ゴムはゴムと金属板とを積層したものでもよい。
【0024】
制振装置1で使用する2個の積層ゴム3,3は同一構成なので、一方の積層ゴム3について詳細に説明する。積層ゴム3は上下に位置する円板3a,3aと、円板3a,3a間に固着された円柱状の積層体3bと、円板3a,3aと積層体3bの中心部を積層方向に貫通して円柱形に形成された中空部3cとを備えている。上下の円板3a,3aは鉄板等で形成され、外周部には4つの取付孔が形成されている。積層体3bはゴム層と鋼板とを積層した積層ゴムが用いられているが、積層ゴムだけでもよく、高減衰ゴム層を積層したものでもよい。積層ゴム3は中心部に中空部3cが形成されているため、軽量化できるとともにコストダウンできる。
【0025】
本実施の形態では、積層ゴム3の中心を積層方向に貫通する中空部3cには、円柱形のプラグ4が隙間なく圧入状態に挿入されており、プラグ4は高減衰ゴムで形成されている。プラグ4は高減衰ゴムに限られるものでなく、天然ゴム、シリコーンゴム等の適宜の材料で形成してもよい。プラグ4は図5(c)に示されるように、大径の円柱部4aと小径の円柱部4bとを連続した段付き円柱体に形成されており、大径の円柱部4aの直径が積層ゴム3の中空部3cの内径と一致する、あるいは僅かに大きく設定されている。この段付き円柱体を中空部3cに挿入して二点鎖線で示す切断線に沿って切断して積層ゴム3を完成させることができる。
【0026】
積層ゴム3は、上方の円板3aはY方向の2つの貫通孔に六角穴付きボルト3d,3dを座金とともに挿入してウェイト10の下面に固定し、X方向の2つの貫通孔に六角穴付きボルト3e,3eを座金とともに挿入してベース2の上面に固定することで、ウェイト10をベース2,2上に設置することができる。このように、ボルトを交差させて積層ゴム3,3を制振装置1に効率良く設置することができる。また、積層ゴムの設置に六角穴付きボルトを使用することで、六角レンチ等の細い工具を使うことができ、組立性が向上する。
【0027】
本実施の形態では、積層ゴム3の中心部を貫通する中空部3cに減衰材として高減衰ゴムからなるプラグ4を挿入しているため、減衰材として例えばダンパーをウェイト10とベース2,2との間に別個に設置する必要がなく、構成を簡単にできるとともに制振装置1の製造組立が容易となる。また、積層ゴム3とプラグ4とを一体化しているため、組立品質が安定し、性能を安定させることができ減衰材としてのプラグ4の耐久性を向上できる。さらに、プラグ4によるウェイト10の水平方向変位を効率良く収束させることができる。
【0028】
積層ゴム3の中心部を貫通する減衰材としてのプラグ4は、例えば粘弾性を有する樹脂で構成され、高減衰ゴムが好適である。プラグ4はベース2,2に対するウェイト10の水平方向の変位に対して減衰力を与える機能を有するものである。プラグ4は粘性体、粘弾性体等が用いられ、具体的にはSBR、NBR、シリコーンゴムなどの各種合成ゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステルなどのプラスチック材料よりなるものでもよい。
【0029】
制振装置1は、ウェイト10の水平方向の固有振動数を調整するための補助ばね5を備えている。ウェイト10は、例えば制振装置1に交通振動等が伝達されたとき、前記X方向と、これに直交するY方向とで形成される水平面に沿って、ベース2,2に対して相対的に水平方向に変位するものであり、補助ばね5は、X方向に沿って固定される4つの引張ばね5a、5bと、Y方向に沿って固定される4つの引張ばね5c、5dとを備え、ウェイト10の水平方向変位を復元させるものである。
【0030】
具体的には、ウェイト10の受体15(後述する)を構成するC形鋼16の側面から4つの突起部16aが突設され、この突起部とベース2の枠部2bに固定された支持材2cとの間に4つの引張ばね5a、5bがX方向に沿って張設されている。また、ウェイト10の一方の端面の端部材17(後述する)から1つの突起部17aが突設され、この突起部を中心としてベース2の枠部2bの支持材2cとの間に2つの引張ばね5c、5dがY方向に沿って張設され、ウェイト10の他方の端面の端部材17から1つの突起部17aが突設され、この突起部を中心としてベース2の枠部2bに固定された支持材2cとの間に2つの引張ばね5c、5dがY方向に沿って張設されている。
【0031】
引張ばね5a、5b、5c、5dから構成される補助ばね5は、これらの張力を調整することでウェイト10をベース2の枠部2b、2b内の所定位置に、枠部2b、2bに接触することなく配置することができるものである。また、補助ばね5は制振装置1のベース2,2に対してウェイト10を所定位置に保持する機能を有するものであり、ウェイト10が水平方向に変位したときに所定の位置に復元させる機能を有するものである。引張ばね5a、5bはX方向に機能し、引張ばね5c、5dはY方向に機能する。
【0032】
制振装置1は、強い地震等によるウェイト10の過大変位と脱落を防止するためのストッパー6,6を備えている。ストッパー6,6は金属角棒で形成され、ベース2,2の枠部2b,2bの内側に所定の距離L(図3参照)だけ離してウェイト10の下面に固定されている。したがって、図3に示すように、ウェイト10は長辺方向(X方向)に沿って距離Lだけ移動するとストッパー6,6がベース2の枠部2bに当って移動が阻止され、それ以上変位できない構成となっている。また、Y方向については、ウェイト10は枠部2bの内面に当るまで移動することができる構成となっている。したがって、ストッパー6,6はウェイト10の過大変位と脱落を防止するためのものである。
【0033】
本実施形態の制振装置1は、ウェイト10の仮固定装置を備えている。この仮固定装置はベース2,2の枠部2b,2bの上面に鉛直方向にねじ込まれた2本の固定ボルト7,7で構成される。固定ボルト7,7はウェイト10の上面に位置しており、固定ボルトをねじ込むことによりウェイト10を下方に押圧してロックするものである。ウェイト10を固定することにより、制振装置1の搬送時にウェイト10の水平移動を防止することができ、安定した搬送が可能となる。
【0034】
ウェイト10は基本的には長方形の平面を有する棒状であり、受体15と、この受体15に収容される複数のウェイト部材11,12…とで構成されている。受体15は上方が開口するC形鋼16で形成され、C形鋼16の長手方向(X方向)の両端部を端部材17,17で閉じた上方開口のケース状の形状となっている。本実施形態では、端部材17,17はC形鋼16の端部に溶接で固定されている。
【0035】
受体15を構成するC形鋼16の両端部には金属板材で形成された積層ゴム3,3の取付部18,18が固定されている。取付部18,18はC形鋼16の底部に溶接等で固着され、取付部には積層ゴム3,3の上部を固定するネジ部が形成されている。積層ゴム3,3の下部はベース2,2に固定ネジで固定される。このように、積層ゴム3,3はベース2,2と、ウェイト10を構成するC形鋼16に固着された取付部18,18との間に固定され、ウェイト10を水平方向に変位ができるように固定している。取付部18,18は重量物であるウェイト10を支持するため受体15を補強している。
【0036】
複数のウェイト部材11,12…は金属板材で形成され、プレめっき鋼板を用いると好ましい。本実施形態では12層に重ねており、ウェイト10の長手方向で2分割して合計24枚のウェイト部材を使用している。このため、ウェイト10を上から見ると、図1に示されるように中央部に隙間sが形成されている。ウェイト10は多数枚のウェイト部材を受体15に収容して積層し、受体15と多数のウェイト部材を貫通するボルトナットで固定したものである。
【0037】
複数のウェイト部材として金属板材は、1番下に置かれる板材11,11と、その上部に板材12,12…が順次置かれ、多数枚構成となっている。1番下に置かれる板材11,11は取付部18,18を避けるため、長手方向の長さが受体15の長さの半分より小さく設定され、他の板材12,12…は受体15の長さの半分と同等に設定されている。積層された多数の板材11,12…は受体15のC形鋼16とともに貫通する貫通孔を通して固定用のボルトナット19,19で固定され、ウェイト10は一体化されている。
【0038】
制振装置1の各構成要素の構造及び機能を更に詳しく説明する。制振装置1は、基本的には構造物有効質量の約0.5〜3.0%程度の質量をもつウェイトの固有振動数を建物の固有振動数とほぼ等しく調整する必要がある。本制振装置1では、この調整をベース2,2とウェイト10の間に設置した積層ゴム3,3と、補助ばね5a,5b…の剛性を調整することにより行っている。また制振装置1には、減衰比にして6〜15%程度の減衰が必要であるが、本装置では積層ゴム3,3の中空部3cに挿入されたプラグ4,4、又は粘弾性体により適度な減衰を与えている。
【0039】
本発明の制振装置1は、建築物の例えば柱と柱の間や、梁と梁の間に設置され、より具体的には天井裏や床下にブラケット、ベース等の取付け用ネジ穴を利用して直接取付けられる場合と、更に取付用治具を介して取付けられる場合がある。取付け個数には特に制限はなく、建築物の規模や形状、及び振動状況により適宜決定されるが、異なる方向に複数個設置するのが効果的である。
【0040】
本発明の制振装置1の外形寸法には特に制限はないが、建物の天井裏、床下、梁の間といった設置場所を考慮して決定される。例えば棒状のウェイト10の長手方向は1mから5m程度、幅が10cmから40cm、高さが8cmから30cm程度の薄くて細長いものが実用的であるが、これに制限されるものではない。上記のような構成をとることで本発明の制振装置1は、プレハブ住宅建築中に梁と梁との間に取付けるのに好適な高さの低い形状とすることができる。制振装置1は最大変位プラスマイナス5mm程度〜10数mm程度に設定され、固有振動数はウェイト10の長辺方向に2〜5Hz程度、短辺方向に1〜4Hz程度の範囲で、建築物に合わせて設定される。
【0041】
本実施形態の制振装置1のウェイト10の作製は、C形鋼16と両端の端部材17,17で構成された受体15に、金属板材で形成された多数のウェイト部材11,12…を受体15の上方開口から順次重ねて載置していく。まず、短尺のウェイト部材11,11を受体15内の積層ゴムの取付部18,18を避けて挿入する。このとき、受体15の中央部にはウェイト部材11,11の間に隙間sができる。このあと、長尺のウェイト部材12,12を端部材17,17の内側に挿入し、同様に隙間sを形成する。さらに、長尺のウェイト部材12,12…を所定の枚数挿入し、所定の枚数を積層したあと、受体15のC形鋼16と積層されたウェイト部材11,12…とを貫通する貫通孔にボルト19,19を挿通してナットで固定する。
【0042】
ウェイト10の重量を調整するときは、ウェイト部材11,12…の枚数を増減して所望の重量に設定し、ボルトナット19,19で固定する。本実施形態では、24枚のウェイト部材11,12…を増減することで重量を微調整することができる。本発明の制振装置1を天井上部の梁間に設置する場合には、例えば桁方向及び妻方向の二方向に各々1本あるいは複数本配置するのが好ましい。本実施形態では、図示していないが合計6本のボルトナット19,19で板材11,12…を固定している。
【0043】
前記の如く構成された本実施形態の制振装置1の動作について以下に説明する。制振装置1では、ウェイト10はベース2,2に対して水平方向に変位可能に支持されている。地震動、交通振動等の水平振動が制振装置1に加わると、ウェイト10はベース2,2に対して水平方向に変位して緩衝機能を発揮する。例えば、制振装置1に、ウェイト10の長手方向であるX方向の振動が加わるとX方向の補助ばね5a、5bが伸縮して緩衝する。また、制振装置1にY方向の振動が加わるとY方向の補助ばね5c、5dが伸縮して緩衝する。X−Y平面における任意の方向の振動が加わると、X方向とY方向の補助ばね5a、5b、5c、5dが伸縮して緩衝する。
【0044】
ウェイト10が水平方向に変位すると、ベース2,2とウェイト10との間に設置された積層ゴム3,3が変形して緩衝すると共に復元力を与え、積層ゴム3,3の中空部に挿入されたプラグ4,4も変形して減衰力を与えて水平振動に対して緩衝する。また、ウェイト10のX方向に沿って張られた補助ばね5a、5bと、Y方向に沿って張られた補助ばね5c、5dによりウェイト10には初期位置に戻すような張力が作用する。
【0045】
本発明の制振装置1では、ウェイト10は受体15に複数のウェイト部材11,12…を収容して構成される。このため、重量の大きいウェイト10を分割し、例えば受体15と複数のウェイト部材に分割して軽量化することができ、搬送や設置作業を容易にすることができる。そして、C形鋼16からなる受体15の上方開口からウェイト部材11,12…を順次重ねて収容し、固定用のボルトナット19,19…で受体15に固定して一体化することができる。
【0046】
また、複数のウェイト部材として、多数枚の金属板材からなるウェイト部材11,12…を積層してボルトナット19で固定してウェイト10を構成するため、鋳造で一体的に製造したウェイトと比較してコストを低減することができる。さらに、金属板材としてプレめっき鋼板を採用可能なため部材の加工性が向上し、かつ耐久性の向上を図り、廉価で制振装置としての機能を実現できる。
【0047】
また、多数枚からなるウェイト部材11,12…を受体15に収容するとき、枚数を加減することでウェイト10の重量を調整することができ、制振装置1の制振機能を調整することができる。具体的には、この制振装置1を設置する建物の形状、規模等に合わせてウェイト10の重量を最適に設定することが容易に行える。そして、重量を調整した状態でボルトナット19,19…を多数のウェイト部材の貫通孔に通して固定することでウェイト10を一体化することができる。
【0048】
さらに、1つの建物に制振装置1を複数個設置し、主たる制振装置に加えてウェイト重量を軽減したタイプを並設することでより幅広い振動に対し、制振機能を強化することができる。この制振装置1を建物の天井部に設置する場合、鋼製天井野縁と一体化して部品点数の削減が可能である。
【0049】
本発明の他の実施形態を図6〜8に基づき詳細に説明する。図6は本発明に係る制振装置の他の実施形態の要部正面図、図7図6の正面図、図8図7の左側面図である。なお、この実施形態は前記した実施形態に対し、ウェイトを水平変位可能に支持するベースと、補助ばねの形態が異なることを特徴とする。そして、他の実質的に同等の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0050】
この実施形態の制振装置1Aは、ベースの形状と、補助ばねの形態が前記の実施形態と異なっている。ベース2A,2Aは平板状であり、この上面に積層ゴムの支持板21とスペーサとを挟んで支持材22,22がねじ止め等で固定されている。支持材22,22はX方向に長い金属角棒で形成されている。積層ゴム3,3はベース2A,2A上の支持板21とウェイト10を構成するC形鋼16の取付部18,18との間に固定される構成となっている。そして、積層ゴム3,3の中空部3c,3cに挿入されたプラグ4,4が減衰機能を有している。また、ウェイト10を構成するC形鋼16の下面に補助ばねを受ける支持棒16bが固定され、C形鋼16の両端部の中央下面には同様に支持棒16cが固定されている。
【0051】
この実施形態では、ベース2A,2Aに固定された支持棒22,22とC形鋼16に固定された支持棒16bとの間にX方向の引張ばね5a、5bが張設され、支持材22,22と支持棒16cとの間にY方向の引張ばね5c、5dが張設されている。また、C形鋼16の下面中央にはストッパー6A、6Aが固定され、ベース2A,2Aと所定の間隔Lで対向している。この実施形態では、ストッパーは金属板材を屈曲したものであり、X方向のみストッパー6A、6Aが設けられている。
【0052】
このように構成された制振装置1Aは、前記の実施形態と比べてベース2Aの構成を簡略化している。このため、コストをより低減できると共に、ウェイト10を略ロ字状のベースの枠内に挿入することが不要になるため、組立性を向上できる作用効果がある。ウェイト10の構成については、前記実施形態と同じ構成である。
【0053】
本発明のさらに他の実施形態を図9〜11に基づき詳細に説明する。図9は本発明に係る制振装置のさらに他の実施形態の要部平面図、図10図9の正面図、図11図10の左側面図である。なお、この実施形態は前記した実施形態に対し、ウェイトを水平変位可能に支持するベースが側面視でU字状であることを特徴とする。そして、他の実質的に同等の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0054】
この実施形態の制振装置1Bは、側面視でU字状の支持枠25,25を備えており、支持枠25,25が平板状のベース2B,2Bに固定されている。そして、支持枠25の上端部の内側に対向するように支持材26,26が固定されている。支持材26,26はX方向に長い金属角棒で形成されている。積層ゴム3,3はベース2B,2B上の支持枠25,25の中央平坦部と、ウェイト10を構成するC形鋼16の取付部18,18との間に固定される構成となっている。そして、積層ゴム3,3の中空部3c,3cに挿入されたプラグ4,4が減衰機能を有している。また、ウェイト10を構成するC形鋼16の側面に補助ばねを受ける支持棒16d、16dが固定され、C形鋼16の両端部を閉じる端部材17の中央には同様に支持棒16eが固定されている。
【0055】
この実施形態では、ベース2Bに固定された支持枠25,25の支持棒26,26とC形鋼16の側面に固定された支持棒16d、16dとの間にX方向の引張ばね5a、5bが張設され、支持材26,26と支持棒16eとの間にY方向の引張ばね5c、5dが二重に張設されている。また、C形鋼16の下面中央にはストッパー6B、6Bが固定され、ベース2B,2Bと所定の間隔Lで対向している。この実施形態では、ストッパーは金属板材を屈曲したものである。また、Y方向のストッパーは、支持材26,26が機能し、支持材とC形鋼16の側面との間隙が水平方向変位の許容範囲となる。
【0056】
このように構成された制振装置1Bは、前記の実施形態と比べてベース2B,2Bの構成を簡略化していると共に、U字状の支持枠25,25と、支持材26,26でY方向のストッパーの機能を持たせている。このため、コストをより低減できると共に、ウェイト10をU字状の支持枠25,25の上方開口部に挿入することができるため、組立性を向上できる作用効果がある。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、複数のウェイト部材として、複数枚の金属板材の例を示したが、複数の金属ブロック材を並べて受体に収容し固定するように構成してもよい。また、板材とブロック材を併用してもよい。
【0058】
受体15として、C形鋼16と端部材17,17でケース状とした例を示したが、上方開口の一体化された箱状の受体で構成してもよい。例えば金属板材をプレス成型して底面と、長辺方向の壁面、短辺方向の壁面を一体的に形成した受体でもよい。さらに、金属製の角パイプ内に板材を挿入して固定したものでもよい。また、積層ゴム3の中心部に形成された中空部3cに減衰材としてプラグ4を挿入する例を示したが、プラグを挿入せずに中空のままでもよい。
【符号の説明】
【0059】
1、1A、1B:制振装置、2、2A、2B:ベース、2b:枠部(ストッパー)、3:積層ゴム、3a:円板、3b:積層体、3c:中空部、4:プラグ(減衰材)、5,5a,5b,5c,5d:補助ばね、6,6A,6B:ストッパー、7:固定ボルト(仮固定装置)、10:ウェイト、11,12:板材(ウェイト部材)、15:受体、16:C形鋼、17:端部材、18:積層ゴムの取付部、19:固定用のボルトナット、25:支持枠(ストッパー)
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