特許第6809897号(P6809897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809897
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20201221BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20201221BHJP
   H01M 8/0258 20160101ALI20201221BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20201221BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20201221BHJP
【FI】
   H01M4/86 M
   H01M4/86 B
   H01M4/86 H
   H01M4/90 X
   H01M8/0258
   H01M8/1004
   !H01M8/10 101
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-246631(P2016-246631)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-101533(P2018-101533A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】野田 一樹
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−193777(JP,A)
【文献】 特開2005−243295(JP,A)
【文献】 特開2016−195105(JP,A)
【文献】 特表2012−501062(JP,A)
【文献】 特開2013−182809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜に接触しているアノード電極触媒層と
記アノード電極触媒層に接触しているフッ素化ポリマー層と
を含み、前記アノード電極触媒層が前記電解質膜と前記フッ素化ポリマー層の間にある膜電極接合体であって、
前記アノード電極触媒層は、ナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを含む複数のナノ構造要素を有し、
前記フッ素化ポリマー層はネットワーク状に分散した全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子を含む、膜電極接合体。
【請求項2】
アノードガス拡散層をさらに含み、前記フッ素化ポリマー層が、前記アノード電極触媒層と前記アノードガス拡散層の間にある、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記フッ素化ポリマー層の面密度が15μg/〜30μg/の範囲にある、請求項1又は2のいずれかに記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子がポリテトラフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の少なくとも1つを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子の平均粒径が50nm〜100nmである、請求項1〜のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記針状ミクロ構造担体ウィスカーの、ウィスカー断面の平均直径が100nm以下であり、平均アスペクト比が3:1以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記アノード電極触媒層が、前記針状ミクロ構造担体ウィスカー及び前記ナノスコピック触媒粒子の少なくとも1つの上に担持された酸素発生反応触媒粒子をさらに含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の膜電極接合体と、並行流路及び対向櫛形流路の少なくとも1つを有するアノードセパレータとを含む、固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アノード電極、高分子電解質膜(PEM)及びカソード電極を一体化した膜電極接合体(MEA)を備える固体高分子形燃料電池では、水素ガスなどの燃料ガスと空気などの酸化剤ガスとの電気化学反応によって燃料電池の運転時に水が生成する。生成した水が液体水として膜電極接合体の電極内に過剰に滞留すると、アノード電極又はカソード電極に含まれる触媒への燃料ガス又は酸化剤ガスの供給が液体水により阻害される、いわゆる「フラッディング」が発生する。そのため、膜電極接合体の電極内からの排水を容易にすることが望まれている。
【0003】
膜電極接合体関係の技術としては、例えば、以下のようなものがある。一つは、「アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置されたイオン交換膜からなる高分子電解質膜とを有しており、かつ、前記アノード及び/又は前記カソードが触媒とイオン交換樹脂とを含有する触媒層とガス拡散層基材とを有するガス拡散電極からなる固体高分子型燃料電池用膜・電極接合体の製造方法であって、前記イオン交換膜の少なくとも一方の面上に、触媒層を形成する触媒層形成工程と、前記触媒層上に、イオン交換基を実質的に有しない溶媒可溶性含フッ素重合体の溶液にカーボンブラックを分散させた液を用いて撥水性カーボン層を形成する撥水性カーボン層形成工程と、前記撥水性カーボン層に、ガス拡散層基材を隣接して配置するガス拡散層基材配置工程と、を含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜・電極接合体の製造方法」である。
【0004】
また、例えば「固体高分子型電解質膜と、該電解質膜を挟持するように配設された燃料極及び空気極とを備え、前記空気極は前記電解質膜側から反応層とガス拡散層とを有し、該ガス拡散層において前記反応層側の表面に撥水性材料を含んだ生成水調整層が備えられる燃料電池において、該生成水調整層と前記反応層との間に中間層が備えられ、該中間層は撥水性材料と親水性材料とを有し、前記生成水調整層側から前記反応層にむけて前記撥水性材料の濃度が小さくなるよう該撥水性材料濃度に勾配が設けられている、ことを特徴とする燃料電池」である。
【発明の概要】
【0005】
膜電極接合体の電極触媒層に使用されるナノ構造化薄膜(Nanostructured Thin Film、NSTF)触媒は、ナノスコピック触媒粒子を担持する針状のミクロ構造担体ウィスカーを含む複数のナノ構造要素を有する。ナノスコピック触媒粒子は、針状のミクロ構造担体ウィスカー上に白金をコーティングすることにより形成された層から構成されるナノ構造を有する。ナノスコピック触媒粒子は、白金と、例えばニッケル、コバルト、マンガン又は鉄とを交互に針状のミクロ構造担体ウィスカー上にコーティングすることにより形成される多層から構成されるナノ構造を有してもよい。NSTF触媒において、白金を含む連続薄膜は、燃料電池の電極として重要ないくつもの役割を果たしている。それらの役割として例えばアノード電極での解離吸着、プロトン輸送及び電子輸送が挙げられる。
【0006】
NSTF触媒は連続薄膜構造を有するため、白金の単位質量あたりの表面積は白金のナノ粒子がカーボンブラック粒子の表面上に分散した一般的な白金/カーボン触媒よりも小さい。NSTF触媒は一般的な白金/カーボン触媒よりも高い比活性を有するが、この好ましくない特徴によりその高い比活性が相殺される場合がある。そのため、NSTF触媒においては、燃料ガス及び酸化剤ガスが触媒に到達できるように、白金の表面を液体水で被覆されない状態を維持することが望ましい。言い換えると、フラッディングによる性能低下は、NSTF触媒において特に対処しなければならない課題である。フラッディングの発生はセパレータの流れ場の設計に密接に関連している。一般に、長さが短く断面積の大きい流路では、その中を通る燃料ガス及び/又は酸化剤ガスの流速が低くなりフラッディングが起こりやすい。
【0007】
NSTF触媒は、アノード電極触媒として使用すると、スタートアップ/シャットダウン(SU/SD)サイクルを通じたカソード電極触媒の劣化を軽減する優れた効果を示す。しかしながら、上記のとおりNSTF触媒をアノード電極触媒として有する膜電極接合体はフラッディングの影響を大きく受けるため、その動作湿度範囲は使用するセパレータの種類によって変動する。
【0008】
本開示は、湿度変化に対する堅牢性(ロバストネス)を有する、NSTF触媒をアノード電極触媒として含む膜電極接合体、及びそのような膜電極接合体を含む固体高分子形燃料電池を提供する。
【0009】
本開示の例示的な一実施態様によれば、電解質膜と、前記電解質膜に接触しているアノード電極触媒層と、アノードガス拡散層と、前記アノード電極触媒層と前記アノードガス拡散層の間で前記アノード電極触媒層に接触しているフッ素化ポリマー層とを含む膜電極接合体であって、前記アノード電極触媒層は、ナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを含む複数のナノ構造要素を有し、前記フッ素化ポリマー層はネットワーク状に分散した全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子を含む、膜電極接合体が提供される。
【0010】
本開示の別の例示的な実施態様によれば、上記膜電極接合体と、並行流路及び対向櫛形流路の少なくとも1つを有するアノードセパレータとを含む、固体高分子形燃料電池が提供される。
【0011】
本開示によれば、湿度変化に対する堅牢性(ロバストネス)を有する、NSTF触媒をアノード電極触媒として含む膜電極接合体、及びそのような膜電極接合体を含む固体高分子形燃料電池を得ることができる。
【0012】
詳細には、膜電極接合体のいくつかの実施態様では、フッ素化ポリマー層がネットワーク状に分散した全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子を含むため、燃料ガス例えば水素ガスがアノード電極触媒層の触媒表面に到達するための経路が、液体水により遮断又は閉塞されることを防止することができる。そのような膜電極接合体を含む固体高分子形燃料電池では、過加湿条件下、例えば起動時に燃料電池が低温であるために結露しやすい条件下で燃料電池が使用される場合、又はセパレータの流れ場の設計が液体水の排出に不利である場合であっても、燃料電池の出力性能、例えばセル電圧を高めることができる。
【0013】
本開示の膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池は、例えば燃料電池の起動/停止が繰り返し行われて燃料電池が低温状態になることがある自動車用途、又は寒冷地の定置用途に有利に使用することができる。
【0014】
上述の記載は、本開示の全ての実施態様及び本開示に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一実施態様の膜電極接合体の概略断面図である。
図2】フッ素化ポリマー層のネットワーク状に分散したテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(以下[FEP]とする。)粒子のSEM写真(1000倍)である。
図3】フッ素化ポリマー層のネットワーク状に分散したFEP粒子のSEM写真(5000倍)である。
図4】水排出試験の結果を示すグラフである。
図5】温度感受性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の代表的な実施態様を例示する目的で、図面を参照しながらより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施態様に限定されない。図面の参照番号について、異なる図面において類似する番号が付された要素は、類似又は対応する要素であることを示す。
【0017】
本開示において「膜電極接合体」とは、電解質膜、典型的には高分子電解質膜と、当該電解質膜に隣接する、少なくとも1つであるがより典型的には2つ又はそれ以上の電極とを含む、膜及び電極を含む構造を意味する。
【0018】
「ナノ構造要素」(nanostructured element)とは、表面の少なくとも一部分に触媒材料を含む、針状で別個の(discrete)微細構造を意味する。
【0019】
「ミクロ構造」(microstructure)とは、別個(discrete)のマイクロスコピック構造を意味する。「マイクロスコピック」(microscopic)とは、少なくとも一方向の寸法(dimension)が1μm以下である構造をいう。
【0020】
「別個の」(discrete)とは、一体性を有する要素であって他の要素とは別個に存在することが識別できる要素に言及する目的で使用されるが、これらの要素が互いに接触している場合も含まれる。
【0021】
「ナノスコピック触媒粒子(nanoscopic catalyst particle)」とは、標準的なX線回折スキャンの2θの回折ピーク半値幅から測定した場合に、少なくとも一方向の寸法が15nm以下であるか、又は結晶サイズが15nm以下である触媒材料の粒子を意味する。
【0022】
「針状」(acicular)とは、平均断面幅に対する長さの比が3倍以上であることを意味する。
【0023】
本開示の一実施態様の膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜に接触しているアノード電極触媒層と、アノードガス拡散層と、アノード電極触媒層とアノードガス拡散層の間でアノード電極触媒層に接触しているフッ素化ポリマー層とを含む。
【0024】
図1に、本開示の例示的な一実施態様による膜電極接合体10の概略断面図を示す。膜電極接合体10では、電解質膜12の上側にアノード電極触媒層14が配置されており電解質膜12とアノード電極触媒層14が接触している。その上にはアノードガス拡散層16及びフッ素化ポリマー層18が配置されており、フッ素化ポリマー層18はアノード電極触媒層14とアノードガス拡散層16の間でアノード電極触媒層14に接触している。図1では、電解質膜12の下側にカソード電極触媒層24及びカソードガス拡散層26がさらに配置されている。
【0025】
電解質膜として、イオン伝導性ポリマーを含む高分子電解質膜を使用することができる。イオン伝導性ポリマーは、高分子骨格に結合したアニオン性官能基例えばスルホン酸基、カルボン酸基又はホスホン酸基、有利にはスルホン酸基を含むことができる。イオン伝導性ポリマーは、イミド基、アミド基又は他の酸性官能基を含むこともできる。
【0026】
有用なイオン伝導性ポリマーの例として、高度にフッ素化された、典型的には全フッ素化された、フルオロカーボン系材料が挙げられる。そのようなフルオロカーボン系材料として、テトラフルオロエチレンと、1種以上のフッ素化された酸官能性コモノマーとの共重合体が挙げられる。フルオロカーボン系樹脂は、ハロゲン、強酸及び塩基に対して高い化学的安定性を有する。例えば、燃料電池のカソード電極に高い耐酸化性又は耐酸性が望まれるときは、スルホン酸基、カルボン酸基、又はホスホン酸基を有するフルオロカーボン系樹脂、特にスルホン酸基を有するフルオロカーボン系樹脂を有利に使用することができる。スルホン酸基を有するフルオロカーボン系樹脂の例として、DYNEON(登録商標)樹脂(3M Company, St. Paul, MNより入手可能)、NAFION(登録商標)樹脂(E. I. du Pont de Nemours and Company, Wilmington, DEより入手可能)、FLEMION(登録商標)樹脂(Asahi Glass Co., Ltd., Tokyo, Japanより入手可能)、及びACIPLEX(登録商標)樹脂(Asahi Kasei Chemicals, Tokyoより入手可能)が挙げられる。いくつかの実施態様ではイオン伝導性ポリマーのスルホン酸基当量は500以上1200以下の範囲、600以上1150以下の範囲、又は800以上1100以下の範囲とすることができる。
【0027】
電解質膜は、イオン伝導性ポリマーと組み合わせた多孔質膜を含む複合膜であってもよい。多孔質膜は、イオン伝導性ポリマーの少なくとも1種類の溶液を注入又は吸収可能な十分な多孔性と、燃料電池の動作条件に耐える十分な強度を有することが望ましい。そのような多孔質膜の例として、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、フッ素化ポリマー例えば延伸膨張(expanded)ポリテトラフルオロエチレンの多孔質膜が挙げられる。多孔質膜が、例えば米国特許第4,539,256号(Shipman)明細書、第4,726,989号(Mrozinski)明細書、第4,867,881号(Kinzer)明細書、第5,120,594号(Mrozinski)明細書及び第5,260,360号(Mrozinski他)明細書に記載されているような熱誘起相分離(TIPS)により作製された微多孔質フィルムであってもよい。TIPSによって微多孔質フィルムを作製するのに適したポリマーとして、例えば高密度及び低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリ(メチルメタクリレート)のアクリル系ポリマー、フッ素化ポリマー例えばポリ(フッ化ビニリデン)が挙げられる。
【0028】
いくつかの実施態様では、電解質膜の厚さは、一般に1μm以上50μm以下の範囲、5μm以上40μm以下の範囲、又は10μm以上30μm以下の範囲とすることができる。
【0029】
アノード電極触媒層は、ナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを含む複数のナノ構造要素を有する。ナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを含むナノ構造要素を有する電極触媒層は、例えば、米国特許第5,338,430号(Parsonage他)明細書、第5,879,827号(Debe他)明細書、第6,040,077号(Debe他)明細書、第6,319,293号(Debe他)明細書及び国際公開第2001/011704号(Spiewak他)明細書、並びに米国特許出願第2002/0004453号(Haugen他)明細書に、その構造及び製造方法が記載されている。
【0030】
例えば、ナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを含むナノ構造要素を有する電極触媒層は、以下のようにして作製することができる。最初に、必要に応じて表面にテクスチャを付与したポリイミドフィルム(DuPont Electronics, Wilmington, DEより商品名「KAPTON」で入手可能)の基材を準備する。次に、当該基材上に、多核芳香族炭化水素及び複素環式芳香族化合物(Morrison and Boyd, Organic Chemistry, Third Edition, Allyn and Bacon, Inc. (Boston: 1974), Chapter 31を参照)から選択される担体材料を堆積する。例えば、このような担体材料としては、ナフタレン、フェナントレン、ペリレン、アントラセン、コロネン、ピレン、N,N’−ジ(3,5−キシリル)ペリレン−3,4:9,10−ビス(ジカルボキシイミド)(例えばAmerican Hoechst Corp., Somerset, NJより「C. I. PIGMENT RED 149」という商品名で入手可能、以下「ペリレンレッド」ともいう)が使用することができる。典型的にはペリレンレッドを担体材料として用い、それを真空蒸着、スパッタリング、物理気相堆積、化学気相堆積、熱昇華(ペリレンレッドの場合は典型的には熱昇華)によって堆積する。いくつかの実施態様では、ペリレンレッドを含有する、均一に配向した針状ミクロ構造担体ウィスカーを形成する場合、ペリレンレッドの堆積中、基材の温度を0℃以上30℃以下とする。このようにして堆積される担体材料層の厚さは、一般に1nm以上1μm以下であり、いくつかの実施態様では0.03μm以上0.5μm以下である。
【0031】
その後、堆積された担体材料を減圧下でアニールすることによって、担体材料層の形状が物理的に変化し、多数の針状ミクロ構造担体ウィスカーが基材上で層状に並んで形成される。針状ミクロ構造担体ウィスカーは、一般に、基材表面から垂直方向に略均一に配向する。配向状態は、例えばアニールの温度、圧力、時間、担体材料の種類、担体材料層の厚さによって決定される。いくつかの実施態様では、担体材料がペリレンレッドの場合、アニールは温度160℃以上270℃以下の範囲、減圧下(約1×10−3Torr未満)で、10分以上6時間以下で行う。ペリレンレッドの担体材料層の厚さが0.05μm以上(いくつかの実施態様では0.15μm以上)の場合、堆積したペリレンレッドを昇華により失うことなく針状ミクロ構造担体ウィスカーに変換するためには、アニール温度は245℃以上270℃以下の範囲とする。
【0032】
個々の針状ミクロ構造担体ウィスカーの長さ及び形状は、実質的に同じであってもよく、異なっていてもよい。いくつかの実施態様ではウィスカー断面の平均直径が実質的に均一である。「ウィスカー断面の平均直径」とは、ウィスカーの主軸に沿った横断面寸法の平均値を意味する。いくつかの実施態様ではウィスカー断面の平均直径は20nm以上1μm以下の範囲であり、又は20nm以上100nm以下の範囲である。ウィスカーの主軸に沿った長さをウィスカー長さと定義した場合に、いくつかの実施態様ではそのウィスカー長さは0.1μm以上50μm以下の範囲であり、0.1μm以上5μm以下の範囲であり、又は0.1μm以上3μm以下の範囲である。
【0033】
いくつかの実施態様では針状ミクロ構造担体ウィスカーの平均アスペクト比は、3:1以上100:1以下の範囲であり、4:1以上50:1以下の範囲であり、又は5:1以上20:1以下の範囲である。本明細書における「平均アスペクト比」とは、上述のウィスカー長さをウィスカー断面の平均直径で割った値を、複数のミクロ構造担体ウィスカーについて平均した値である。いくつかの実施態様において基材上の針状ミクロ構造担体ウィスカーの面積数密度は、0.1ウィスカー/μm以上1000ウィスカー/μm以下の範囲であり、又は1ウィスカー/μm以上100ウィスカー/μm以下の範囲である。
【0034】
次に、例えば真空蒸着、スパッタリング、物理気相堆積、又は化学気相堆積によって、針状ミクロ構造担体ウィスカーの表面に導電性の触媒材料を堆積する。触媒材料として、例えば、Au、Ag、Pt、Os、Ir、Pd、Ru、Rh、Sc、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、及びZrの遷移金属;例えば、Bi、Pd、In、Sb、Sn、Zn、及びAlの低融点金属;例えば、W、Re、Ta、及びMoの高融点金属、及びこれらの合金又は混合物が挙げられる。いくつかの実施態様ではPt又はPtの合金(例えばPtと、Co、Mn及びRuから選択される1種以上の金属との合金)が使用される。触媒材料の堆積方法は、例えば、米国特許第5,338,430号(Parsonage他)明細書、第5,879,827号(Debe他)明細書、第5,879,828号(Debe他)明細書、第6,040,077号(Debe他)明細書及び第6,319,293号(Debe他)明細書並びに米国特許出願公開第2002/0004453号(Haugen他)明細書に記載されている。このようにして、針状ミクロ構造担体ウィスカーの表面に、ある方向の寸法が数nm、例えば2nm〜10nmである触媒材料の微粒子が形成されて、針状ミクロ構造担体ウィスカーの表面の少なくとも一部が触媒材料で被覆される。触媒材料の被膜の厚さは、一般に0.2nm以上50nm以下の範囲であり、又は1nm以上20nm以下の範囲である。触媒材料の被膜は、同一の針状ミクロ構造担体ウィスカーの表面上の複数の領域で不連続に存在していてもよい。針状ミクロ構造担体ウィスカーを支持する基材表面に対して、ほぼ垂直方向から入射するように触媒材料を堆積した場合、より小さな別個のナノスコピック触媒粒子が針状ミクロ構造担体ウィスカーの側面から成長する場合がある。このようなフラクタル状構造を有する触媒粒子の表面積は理論上の最大値により近づくため、より少ない触媒材料で高い触媒活性を達成することができる。
【0035】
触媒粒子が、組成、合金度及び/又は結晶度が異なる2種以上の触媒材料の交互層を含んでもよい。例えば米国特許第5,879,827号(Debe他)明細書及び米国特許第7,419,741号(Vernstrom他)明細書には、Ptと第2の材料とを針状ミクロ構造担体ウィスカー上に交互に堆積することにより形成されるナノ構造を含む三元触媒が記載されている。第2の材料は、例えばNi、Co、Mn、Fe及びこれらの合金を含むことができる。触媒材料の交互層は、例えば、複数のターゲットから(例えば、Irは第1のターゲットからスパッタリングされ、Ptは第2のターゲットからスパッタリングされ、Ruは第3のターゲット(存在する場合)からスパッタリングされる)、又は二種以上の元素を含むターゲットから、スパッタリングすることにより形成することができる。
【0036】
いくつかの実施態様では、触媒粒子は、膜電極接合体の有効領域において、0.5μg/cm以上200μg/cm以下の範囲、1μg/cm以上100μg/cm以下の範囲、又は5μg/cm以上50μg/cm以下の範囲で存在する。
【0037】
アノード電極触媒層が、針状ミクロ構造担体ウィスカー及びナノスコピック触媒粒子の少なくとも1つの上に担持された酸素発生反応触媒粒子をさらに含んでもよい。酸素発生反応触媒粒子は、水の電気分解を優先的に生じさせることにより、燃料電池の起動/停止サイクルの間、又は燃料電池の異常動作中に、アノード電極において燃料(例えば水素)が欠乏しているときに発生するアノード電極触媒層の劣化、又はアノード電極触媒層に隣接するアノードガス拡散層に含まれるカーボンの酸化によるアノードガス拡散層の腐食を防止することができる。
【0038】
酸素発生反応触媒粒子は、例えばIr、Ru若しくはPdの金属若しくはその酸化物、又はこれらの合金若しくは複合酸化物を含むことができる。例示的な一実施態様では酸素発生反応触媒粒子は酸化イリジウム(IrO)を含む。
【0039】
酸素発生反応触媒粒子は、例えばIr、Ru若しくはPdの単体金属若しくはそれらの合金、又は例えばIr、Ru若しくはPdの金属酸化物、金属水酸化物若しくは有機金属錯体の金属化合物を、例えば真空蒸着、スパッタリング、物理気相堆積、又は化学気相堆積によって、針状ミクロ構造担体ウィスカーの表面、又はナノスコピック触媒粒子の上に堆積することにより形成することができる。堆積後に必要に応じてアニールを行ってもよい。酸素発生反応触媒粒子の形成は、触媒粒子の形成と同時に行ってもよく、触媒粒子の形成後に行ってもよい。
【0040】
いくつかの実施態様では、酸素発生反応触媒粒子は、膜電極接合体の有効領域において、0.5μg/cm以上100μg/cm以下の範囲、1μg/cm以上80μg/cm以下の範囲、又は5μg/cm以上50μg/cm以下の範囲で存在する。
【0041】
このようにして得られたナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを、上記電解質膜に適用することによって、電解質膜と当該ウィスカーを含むナノ構造要素を有する電極触媒層とから構成される、触媒被覆膜(CCM)を形成することができる。例えば、ナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを表面に有する基材を、当該ウィスカーが電解質膜の表面と向かい合うように電解質膜の上に配置し、得られた積層体を、例えばラミネータを用いて加熱及び加圧し、その後基材を除去することによって、当該ウィスカーが電解質膜に埋め込まれた状態で、基材から電解質膜に当該ウィスカーを転写することができる。
【0042】
アノードガス拡散層(GDL)として、ガス透過性と導電性を備えた基材を使用することができる。基材のみをGDLとして使用してもよく、基材表面にコーティングを施したものを使用することもできる。GDLの基材として、反応ガスを通過させながら電極触媒層から電流を集めることが可能な任意の材料が使用することができる。GDLは、ガス状反応物質及び水蒸気が電極触媒層及び電解質膜へと接近する細孔を提供し、電極触媒層中で生成した電流を収集して外部負荷に電力を提供する。GDLとして一般にカーボンペーパーを使用することができる。GDLとして、例えば炭素又は金属の導電性材料のメッシュ、多孔質ウェブ又は多孔質布地も使用することができる。GDLに従来知られている方法を用いて撥水処理を施してもよい。撥水処理に使用される撥水性材料として、フッ素化ポリマー例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン若しくはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、及びポリオレフィン例えばポリエチレン又はポリプロピレンが挙げられる。好適に使用することができるGDLとして、三菱レイヨン株式会社(日本国東京都千代田区)より入手できるカーボンペーパー(U105、厚さ240μm)が挙げられる。
【0043】
GDLの表面にカーボン層を形成してもよい。GDL上に形成されるカーボン層は、カーボン粒子及び撥水剤を含む組成物を用いて形成することができる。カーボン層を使用すると、燃料電池においてGDLと隣接して配置される電極触媒層中の水分を、毛管現象を利用して外部に排出することができる。カーボン層は電極触媒層に向かうGDLの面に形成することが有利である。
【0044】
カーボン粒子として、従来知られているものを使用することができる。そのようなカーボン粒子として、例えばカーボンブラック、黒鉛又は膨張黒鉛が挙げられる。電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、カーボンブラック例えばオイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック又はアセチレンブラックを有利に使用することができる。いくつかの実施態様においてはカーボン粒子の粒径は、10nm以上100nm以下の範囲である。撥水剤として、GDLの撥水処理に用いられる上記撥水性材料と同様のものが使用でき、撥水性及び耐腐食性に優れることから、フッ素化ポリマーが有利に使用することができる。
【0045】
フッ素化ポリマー層はネットワーク状に分散した全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子を含む。「ネットワーク状に分散した」とは、フッ素化ポリマー層を層の主面と直交する方向から、例えばSEMなどの電子顕微鏡を用いて観察したときに、フッ素化ポリマー粒子が密に存在している領域と疎に存在している領域が存在し、密な領域によって疎な領域が囲まれていることを意味する。フッ素化ポリマー粒子は互いに接触していてもよく、接触していなくてもよい。全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子がネットワーク状に分散していることにより、フッ素化ポリマー粒子が疎な領域を燃料ガス例えば水素ガス及び水蒸気が透過することができる一方で、フッ素化ポリマー粒子の有する撥水性により、アノード電極触媒層表面での液体水の連続膜の形成が阻害又は防止される。
【0046】
いくつかの実施態様ではフッ素化ポリマー粒子が密に存在している領域とは、1μmあたり120個〜150個のフッ素化ポリマー粒子が存在している領域と定義される。フッ素化ポリマー粒子が疎に存在している領域とは、1μmあたり0〜20個のフッ素化ポリマー粒子が存在している領域と定義される。いくつかの実施態様では1μmあたりにフッ素化ポリマー粒子が存在しない領域がある。
【0047】
全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子は、フッ素化モノマー例えばテトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)若しくはペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)又はそれらの混合物を重合して得ることができる、1種以上のフッ素化ポリマー、コポリマー及びターポリマー、並びにそれらの架橋物を含んでもよい。例えばフッ素化ポリマー、コポリマー及びターポリマー、並びにそれらの架橋物に、非フッ素化モノマー、例えばエチレン、プロピレン又はブチレンに由来する重合単位が含まれてもよい。
【0048】
いくつかの実施態様では、全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子は、ポリテトラフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の少なくとも1つを含む。これらのポリマーは撥水性が高く特に有用である。
【0049】
いくつかの実施態様では、全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子の平均粒径は、30nm以上200nm以下の範囲、40nm以上150nm以下の範囲、又は50nm以上100nm以下の範囲である。全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子の平均粒径を上記範囲とすることにより、フッ素化ポリマー層の形成時にフッ素化ポリマー粒子のネットワーク形成を促進することができ、また、アノード電極触媒層のナノ構造要素間にある燃料ガスが通過するための微細な空隙にフッ素化ポリマー粒子が埋まってこれらの空隙を遮蔽することを抑制又は防止することができる。
【0050】
いくつかの実施態様では、フッ素化ポリマー層の面密度は、膜電極接合体の有効領域において、10μg/以上50μg/以下の範囲、12μg/以上40μg/以下の範囲、又は15μg/以上30μg/以下の範囲である。フッ素化ポリマー層の面密度を上記範囲とすることにより、膜電極接合体の内部抵抗の過度の上昇を抑えつつ、液体水の連続膜の形成をより効果的に阻害又は防止することができる。
【0051】
フッ素化ポリマー層は、全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子を溶媒に分散して得られた分散液を、膜電極接合体の組み立ての前に、アノード電極触媒層のアノードガス拡散層に向かう面、又はガス拡散層若しくはその上に形成されたカーボン層のアノード電極触媒層に向かう面に塗布し、乾燥することによって形成することができる。分散液は、アノード電極触媒層のアノードガス拡散層に向かう面に塗布することが有利である。このことにより、アノード電極触媒層とフッ素化ポリマー層の密着性を高めて、液体水の連続膜の形成をより効果的に阻害又は防止することができる。
【0052】
全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子の分散液は、例えば、フッ素化ポリマー粒子を水、アルコール例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール又は2−プロパノール、エーテル例えば1,4−ジオキサン又はn−プロピルエーテル、ケトン例えばアセトン又はメチルエチルケトン、エステル例えば酢酸エチル又は酢酸ブチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、フッ素含有化合物例えば炭素数が1〜6のフッ素含有アルコール、炭素数が1〜6のフッ素含有エーテル又は炭素数が1〜6のフッ素含有アルカンの溶媒に、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル又は超音波装置を用いて混合することにより調製することができる。いくつかの実施態様においては溶媒が水又はアルコールを含むことが特に望ましい。この実施態様では、溶媒の極性を高めて、フッ素化ポリマー層の形成時にフッ素化ポリマー粒子のネットワーク形成を促進することができる。
【0053】
分散液の固形分は、0.1質量%以上10質量%以下の範囲、又は0.2質量%以上5質量%以下の範囲とすることができる。分散液を固形分の高い前駆分散液を上記([0052]に記載)溶媒で希釈することで調製してもよい。
【0054】
分散液は、例えばスプレー、ダイコーター、ドクターブレード、バーコーター又はディップによりアノード電極触媒層又はガス拡散層に塗布することができる。分散液をこれらの層表面近傍のみに適用して、膜電極接合体の内部抵抗の過度の上昇を抑えつつ、より少量のフッ素化ポリマー粒子で液体水の連続膜の形成を効果的に阻害又は防止することができることから、分散液をスプレー塗布することが有利である。
【0055】
分散液を塗布した後、加熱又は室温で放置することにより溶媒を揮発させてフッ素化ポリマー層を形成することができる。加熱は従来公知の適当な方法によって行うことができる。いくつかの実施態様においてはフッ素化ポリマー粒子が融解しない程度の温度(例えば200℃までの温度、いくつかの実施態様では150℃までの温度)で行うことが望ましい。
【0056】
膜電極接合体は一般にカソード電極触媒層を有する。カソード電極触媒層は、カーボン粒子に触媒材料が担持された公知のカーボン担持触媒粒子を含むことができる。カーボン担体粒子上の触媒材料は、上述のナノスコピック触媒粒子の触媒材料と同様の材料が使用でき、Pt又はその合金であることが好ましい。カソード電極触媒層中のカーボン担持触媒粒子の含有量は、上述したカーボン担体の腐食消失が実用上問題とならない範囲で適宜決定することができる。カソード電極触媒層として、アノード電極触媒層と同様のナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを含む複数のナノ構造要素を有する電極触媒層を用いることもできる。
【0057】
膜電極接合体は一般にカソードガス拡散層を有する。カソードガス拡散層としてアノードガス拡散層と同様の材料を使用することができる。
【0058】
膜電極接合体は、本技術分野で公知の方法を用いて作製することができる。例えば、上述したように、電解質膜にナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを適用して触媒被覆膜(CCM)を形成した後、得られた触媒被覆膜をガス拡散層で挟み、必要に応じて例えばホットプレス、ロールプレス、又は接着剤を用いてこれらを圧着することにより、膜電極接合体を作製することができる。
【0059】
上述のように作製した膜電極接合体を、例えば車両の移動体用電源又は定置用電源に利用可能な固体高分子形燃料電池に組み入れることができる。燃料電池は、従来公知の任意の構成を有していてよく、一般に、膜電極接合体をセパレータ及び必要に応じてガスケットのシール材で挟持した構造を有している。膜電極接合体を挟持するセパレータとして、従来公知の任意の材料、例えば、カーボン含有材料例えば緻密カーボングラファイト若しくは炭素板、又は金属材料例えばステンレスを使用することができる。いくつかの実施態様においてセパレータは導電性である。セパレータは燃料ガスと酸化剤ガスとを分離する機能を有してもよい。セパレータに、酸化剤ガス例えば空気、燃料ガス例えば水素ガス、又は生成物を分配するための流路が形成されてもよい。セパレータの厚さ、大きさ及びガス流路の形状は、必要とする燃料電池の出力特性を考慮して、当業者であれば適宜決定することができる。シール材は、膜電極接合体内部のガスが漏えいしないようにシールする機能を有する任意の材料であってよく、例えばシリコーン又はフッ素化ポリマーのような圧縮可能な材料で作ることができる。これらの材料でガラスファイバーなどの強化材を被覆した、強度の高い複合シール材を使用することもできる。
【0060】
一実施態様では、固体高分子形燃料電池は、上記膜電極接合体と、並行流路及び対向櫛形流路の少なくとも1つを有するアノードセパレータとを含む。アノードセパレータは並行流路と対向櫛形流路の組み合わせを含んでもよく、それ以外の流路との組み合わせを含んでもよい。
【0061】
並行流路とは、略平行に配置された第1及び第2のバスバー流路と、これらのバスバー流路間に配置された複数の流路を備えており、これらのバスバー流路が互いに連通するように、複数の流路の一方の端部が第1のバスバー流路に、他方の端部が第2のバスバー流路に接続されたものを意味する。複数の流路は略平行に配置されていてもよい。複数の流路の一部又は全てが屈曲部を含むサーペンタイン流路であってもよい。燃料ガス又は酸化剤ガスが、これらの複数の流路の内部を一方のバスバー流路に接続された端部から他方のバスバー流路に接続された端部に向かって流れるような形状及び配置を、複数の流路が有していてもよい。例示的な一実施態様では、一方のバスバー流路に燃料ガス又は酸化剤ガスの導入口が設けられており、そのバスバー流路から複数の流路を通って他方のバスバー流路に向かって燃料ガス又は酸化剤ガスが流れる。
【0062】
対向櫛形流路とは、複数の流路の一方の端部が1つのバスバー流路と連通するように接続された櫛形流路が2つあり、一方の櫛形流路の複数の流路と他方の櫛形流路の複数の流路とが互い違いに隣接するように配置されたものを意味する。対向櫛形流路では、一般に、一方のバスバー流路に接続されたある流路の内部を燃料ガス又は酸化剤ガスが流れる方向と、その流路に隣接する、他方のバスバー流路に接続された流路の内部を燃料ガス又は酸化剤ガスが流れる方向とが対向する。複数の流路は略平行に配置されていてもよい。複数の流路の一部又は全てが屈曲部を含むサーペンタイン流路であってもよい。一実施態様では、2つのバスバー流路に燃料ガス又は酸化剤ガスの導入口がそれぞれ設けられており、それらのバスバー流路から複数の流路に向かって燃料ガス又は酸化剤ガスが流れる。
【0063】
並行流路及び対向櫛形流路では、例えば、1本の長い流路がセパレータの一つの隅からその隅の対角に位置する他方の隅まで矩形に蛇行するサーペンタイン流路と比較して、ガス流速は一般に低く、液体水の排出において不利である。本開示の膜電極接合体を用いることにより、そのようなガス流速の低い流れ場設計を有するセパレータと組み合わせて燃料電池としたときでも燃料電池の出力性能を高めることができる。
【0064】
いくつかの実施態様では並行流路及び対向櫛形流路の複数の流路の幅は、0.1mm以上3mm以下の範囲、0.2mm以上2mm以下の範囲、又は0.3mm以上1mm以下の範囲とすることができ、深さは、0.1mm以上2mm以下の範囲、0.3mm以上1mm以下の範囲、又は0.5mm以上0.8mm以下の範囲とすることができ、断面積は、0.05mm以上1.5mm以下の範囲、0.08mm以上1mm以下の範囲、又は0.1mm以上0.8mm以下の範囲とすることができる。これらの流路の断面は例えば矩形、正方形、逆台形、くさび形、半円形又は半楕円形の様々な形状とすることができる。これらの流路の長さは膜電極接合体のサイズによって決定されるが、50cmのサイズのいくつかの実施態様では、例えば6cm以上400cm以下の範囲、15cm以上80cm以下の範囲、又は30cm以上50cm以下の範囲である。
【0065】
いくつかの実施態様では、並行流路及び対向櫛形流路のバスバー流路の幅は、0.2mm以上5mm以下の範囲、0.5mm以上3mm以下の範囲、又は1mm以上2mm以下の範囲とすることができ、深さは、0.3mm以上5mm以下の範囲、0.5mm以上3mm以下の範囲、又は0.8mm以上1mm以下の範囲とすることができ、断面積は、0.2mm以上5mm以下の範囲、0.5mm以上3mm以下の範囲、又は0.8mm以上1mm以下の範囲とすることができる。バスバー流路の断面は例えば矩形、正方形、逆台形、くさび形、半円形又は半楕円形の様々な形状とすることができる。バスバー流路の長さは膜電極接合体のサイズによって決定されるが、1cmのサイズのいくつかの実施態様では、例えば5mm以上20mm以下の範囲、8mm以上18mm以下の範囲、又は10mm以上15mm以下の範囲である。
【0066】
燃料電池を、単一の膜電極接合体を含む単セルとして使用してもよく、より高い電圧又は出力を得られるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に接続した燃料電池スタックを形成して使用してもよい。当業者であれば、燃料電池の形状、配置及び電気接続などは、電圧又は出力の所望の電池特性が得られるように適宜決定することができる。
【0067】
本開示のさらなる優位の点及び実施態様は、以下の実施例により示されるが、それらの実施例における特定の材料、数量、その他の条件・詳細は、本開示の範囲を不当に狭めるものと解釈してはならない。特に記載がない限り全ての部分及び割合は質量表記とするものである。
【0068】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本開示はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0069】
[ナノスコピック触媒粒子を担持した針状ミクロ構造担体ウィスカーの製造]
頂点間距離が10μm、深さが6〜7μmのプリズム状の表面構造をポリイミド基材の上に国際公開第2001/011704号(Spiewak他)明細書に開示(2001年2月15日に国際公開)された方法で形成した。ミクロ構造化担体は、N,N’−ジ(3,5−キシリル)ペリレン−3,4:9,10−ビス(ジカルボキシイミド)(有機色素C.I.ピグメントレッド149(クラリアント、ノースカロライナ州シャーロット))をポリイミド基材の上に熱昇華及び真空アニールによって作製した。このような有機ミクロ構造化層の作製方法の詳細は、Materials Science and Engineering, A158 (1992), pp. 1−6、及びJ. Vac. Sci Technol. A, 5(4), July/August, 1987, pp. 1924−16に開示されている。得られたミクロ構造化担体は、ポリイミド基材表面に対して垂直に配向し、ウィスカー断面の直径が30〜50nm、長さが1〜2μmの多数のウィスカーで構成されていた。基材表面の単位面積あたりのウィスカーの面積数密度は約30ウィスカー/μmであった。次に、真空堆積を行ってミクロ構造化担体ウィスカーの表面をPt合金で被覆した。米国特許第5,338,430号(Parsonage他)明細書、第5,879,827号(Debe他)明細書、第5,879,828号(Debe他)明細書、第6,040,077号(Debe他)明細書及び第6,319,293号(Debe他)明細書、並びに米国特許出願公開第2002/0004453号(Haugen他)明細書に記載されたように、基材をドラム上に載置し、次にそのドラムをDCマグネトロンスパッタ源の下で回転させて真空堆積を行った。作製された触媒シートは、酸素還元反応の触媒としてPtを10μg/cm、酸素発生反応の触媒としてIrOを8μg/cm含んでいた。
【0070】
別の実施態様では、次のように針状ミクロ構造担体ウィスカーの製造を行った。ナノ構造のウィスカーは、ペリレンレッド顔料を熱処理することで準備された。ペリレンレッド顔料は、通常200nmの厚さのミクロ構造触媒転写用樹脂基材(MCTS)上に真空蒸着されている。ここにペリレンレッド顔料は、C.I.ピグメントレッド149(PR149)として知られており、クラリアント(米国ノースカロライナ州シャーロット)から入手可能である。(これらの工程の詳細は米国特許第4,812,352号(Debe)明細書に記載されている。)
【0071】
カプトンの製品名でデュポン社(米国デラウェア州ウィルミントン)から入手可能なポリイミド基材上に形成されたMCTSロールがPR149を蒸着する基材として用いられた。MCTS基材表面は、V形状(高さ3μm、間隔6μm)を有していた。100nmのCr層がMCTS表面上にスパッタリング(直流マグネトロン平面スパッターリングターゲットで、Ar雰囲気下大気圧条件)により、好適なウェブスピードでかつ1パスで設けられた。500℃付近で制御された環境下で0.022mg/cm、すなわち220nmの厚みのPR149層を形成するのに十分なPR149の蒸気圧の中を、金属クロムが蒸着されたMCTS基材が搬送されPR149層が形成された。蒸着速度としての質量又は厚さは、当業者に知られた方法で測定することができ、例えば、フィルムの厚さに感度が高い光学的方法又は質量測定に感度が良い水晶オシレーターを用いることができた。PR149の蒸着層は、米国特許第5,039,561号(Debe)明細書に記載されている熱処理を施すことで、ウィスカー層に変換される。PR149は方向性を有した結晶構造を有するウィスカーに変換される。この結晶構造を有するウィスカーは、SEM観察では単位平方μmあたり平均68個のウィスカー密度で存在し、その平均長さは0.6μmであった。
【0072】
[高分子電解質膜(PEM)の製造]
イオン伝導性ポリマー(スルホン酸基当量825)の固形分40%の分散液(3M Company, St. Paul, MNから入手)をポリイミド基材(厚さ50μm)にダイコーターを用いて塗布し、次に200℃で3分間アニールして、厚さ20μmのPEMを作製した。
【0073】
[触媒被覆膜(CCM)の製造]
上記のとおり作製した触媒シートから5cm角(面積25cm)の小片を切り取った。触媒シート上の触媒担持ミクロ構造化担体ウィスカーがPEMに接触するように触媒シートとPEMをスタックし、得られたスタックを加熱した加圧ラミネータに通し、その後ポリイミド基材を除去することにより、アノード電極触媒層でPEMの片面が被覆されたCCMのシートを作製した。
【0074】
[フッ素化ポリマー層の形成]
蒸留水中に固形分55%でテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)の粒子(平均粒径100nm、3M(登録商標)FEP dispersion 6300GM、3M社(米国ミネソタ州セントポール))が分散されたFEP分散液を蒸留水で希釈して、固形分0.5%のFEP分散液を調製した。FEPをCCMにスプレー塗布する前に、86mm角に切り取られたCCMシートの質量を測定した。その後、FEP分散液をCCMのアノード電極触媒層上にスプレーしてフッ素化ポリマー層を形成した。CCMを80℃で10分間乾燥した後、フッ素化ポリマー層で被覆されたCCMシートの質量を再度測定した。CCMシートの質量測定は、測定精度を高めるため恒温恒湿室内にCCMシートを30分間置いてから行った。フッ素化ポリマー層形成前後のCCMシートの質量差をフッ素化ポリマー層の質量とした。図2及び図3にフッ素化ポリマー層に含まれるネットワーク状に分散したFEP粒子のSEM写真(1000倍及び5000倍)を示す。
【0075】
[ガス拡散層(GDL)の作製]
カーボンペーパー(U105、三菱レイヨン株式会社(日本国東京都千代田区)より入手)を5%ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水分散液に浸漬し、次に100℃で20分間乾燥して防水処理を行った。その後、アセチレンブラック(デンカブラック50%プレス品、電気化学工業株式会社(日本国東京都中央区)より入手)をPTFE水分散液と混合し、アセチレンブラックを分散して、撥水層インクを調製した。ドクターブレードを用いて撥水層インクを防水処理したカーボンペーパーに塗布し、100℃で20分間乾燥し、最後に320℃で3分間焼結した。
【0076】
[Pt/カーボンカソード電極触媒層の作製]
カーボンに担持されたPt触媒(CAQ062705AB、Pt0.3mg/cm、エヌ・イー・ケムキャット株式会社(日本国東京都港区)より入手)9.9g、イオン伝導性ポリマー(Nafion DE1021、E. I. du Pont de Nemours and Company, Wilmington, DEより入手)44.4g、及び蒸留水40gをガラスバイアルに入れ、15000rpmで30分均質化して、カソード電極触媒層インクを調製した。
【0077】
得られたカソード電極触媒層インクをGDLに塗布し、乾燥して、カソード電極触媒層で被覆された支持体(CCB)のシートを作製した。
【0078】
[膜電極接合体(MEA)の作製]
CCBシートから正方形で面積50cm(比較例用)又は1cm(実施例用)のCCBの小片を切り取って、CCMのPEM側に配置した。次に、GDLをアノード電極触媒層の上に置いた。ヒートプレス上で、アノード電極触媒層、PEM、及びカソード電極触媒層の周囲で2枚のGDLに挟まれるようにガスケットを配置した。その後、得られたスタックを145℃で10分間加熱圧着してMEAを作製した。
【0079】
[固体高分子形燃料電池(PEFC)単セルの作製]
MEAを2枚の剛直なセパレータで挟んで固体高分子形燃料電池(PEFC)の単セル(セルA及びセルB)を作製した。セパレータは導電性であり、酸化剤ガス及び燃料ガス、又は生成物を分配するための流路を備えていた。
【0080】
セルAの有効領域の面積は1cmであり、セルAのセパレータは並行流路を有していた。具体的には、セルAのセパレータは、長さ28mm、幅0.52mm、深さ0.27mm、断面積0.14mm、断面形状が矩形で略平行に配置された3本のサーペンタイン流路と、長さ10mm、幅1.02mm、深さ3mm、断面積3.06mm、断面形状が矩形であり、これらのサーペンタイン流路を挟んで略平行に配置された2本のバスバー流路とを備えており、これらの3本のサーペンタイン流路の各端部はいずれかのバスバー流路と連通するように接続されていた。各サーペンタイン流路は2つの屈曲部を有していた。
【0081】
セルBの有効領域の面積は50cmであり、セルBのセパレータはサーペンタイン流路と呼ばれる流路を有していた。具体的には、長さ約78cm、幅0.75mm、深さ1mm、断面積0.75mm、断面形状が矩形の並行する4本の流路が、セパレータの一つの隅からその隅の対角に位置する他方の隅まで長辺6.3〜6.7mm、短辺2〜12mmで矩形に蛇行していた。
【0082】
[燃料電池のコンディショニング(活性化方法)]
セルを以下の条件で運転した。
(a)セルを73℃に加熱し、水素(露点70℃)800sccm及び空気(露点70℃)1200sccmをアノードとカソードにそれぞれ導入する。次に、5分間の電圧走査運転(PDS)(0.85V→0.25V→0.85V)及び5分間の電圧保持運転(PSS)(0.4V)のセットを12回繰り返す。
(b)ガスを両方の電極に供給しながら燃料電池の運転を止めて、6時間以上その状態を維持する。
(c)(a)の一連の操作を再度行う。
【0083】
[水排出試験]
アノード側の水素ガス流量を800sccm(1A/cmで当量比2.3倍)、カソード側の空気流量を1800sccm(1A/cmで当量比2.18倍)とした状態でセルBを40℃で10分間保持する。アノードガス流及びカソードガス流の露点を試験全体で40℃に維持する。最後の2分間の10kHzでのACインピーダンスの平均値を記録する。次にセルの温度を50℃、60℃及び70℃の順に上昇させて、それぞれの温度で同様にACインピーダンスの平均値を記録する。
【0084】
アノードの水素ガス流量及びカソードの空気流量をそれぞれ400sccm(1A/cmの当量比で57.4倍)及び1800sccm(1A/cmの当量比で48.2倍)に変更したこと以外は、セルBを用いた試験と同様にしてセルAを用いて試験を行う。
【0085】
[セルAを用いた湿度感受性試験]
セルを以下の条件で運転した。
(a)セルを70℃に加熱し、水素(露点60℃)800sccm及び空気(露点60℃)1200sccmをアノードとカソードにそれぞれ導入する。次に、5分間のPDS(0.85V→0.25V→0.85V)及び5分間のPSS(0.4V)のセットを4回繰り返す。
(b)5分間のPDS(0.85V→0.25V→0.85V)を行い、この間にセルを80℃に加熱する。次に、5分間のPSS(0.4V)を行い、その後回路のリレーを2秒間開放してから閉止し、5分間のPSS(0.4V)を行う。
(c)10秒間の電流保持運転(GSS)(0.5A/cm)及び10秒間のGSS(1.0A/cm)をこの順で行い、次に電流密度を1.5A/cmに増加して10分間保持する。
(d)(b)から(c)の一連の操作を75℃で行う。
(e)(b)から(c)の一連の操作を70℃で行う。
(f)(b)から(c)の一連の操作を65℃で行う。
(g)(b)から(c)の一連の操作を60℃で行う。
(h)(b)から(c)の一連の操作を55℃で行う。
(i)(b)から(c)の一連の操作を50℃で行う。
(j)(b)から(c)の一連の操作を48℃で行う。
【0086】
[MEA構造]
例1〜4及び比較例A〜Cにおけるアノード触媒層の組成、並びにフッ素化ポリマー層の面密度及びMEA中の位置を表1に示す。全ての例及び比較例において、共通のカソード電極触媒層及びGDLを用いた。
【0087】
【表1】
【0088】
比較例CのMEAを用いて行った水排出試験の結果を図4に示す。並行流路を有するセルAを、サーペンタイン流路を有するセルBと比較すると、より高い当量比で運転されている、すなわちガス流量が大過剰であるにも拘わらずセルAのACインピーダンスは低い。このことは、運転中のセルAはセルBよりも湿っており、セルBと比較してガス流により水が排出され難いことを示唆している。
【0089】
例1〜4及び比較例A〜CのMEAを用いて行った湿度感受性試験の結果を図5に示す。同じアノード電極触媒層を用いた例1〜4と比較例A〜Bを比較すると、例1〜4では50℃近辺の低温で過加湿の条件下でセル電圧が増加している。
【0090】
本開示の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本開示の様々な改良及び変更が本開示の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることも当業者には明らかである。本発明の実施態様の一部を以下の項目1〜7に記載する。
[項目1]
電解質膜と、
前記電解質膜に接触しているアノード電極触媒層と、
アノードガス拡散層と、
前記アノード電極触媒層と前記アノードガス拡散層の間で前記アノード電極触媒層に接触しているフッ素化ポリマー層と
を含む膜電極接合体であって、
前記アノード電極触媒層は、ナノスコピック触媒粒子を担持する針状ミクロ構造担体ウィスカーを含む複数のナノ構造要素を有し、
前記フッ素化ポリマー層はネットワーク状に分散した全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子を含む、膜電極接合体。
[項目2]
前記フッ素化ポリマー層の面密度が15μg/cm〜30μg/cmの範囲にある、項目1に記載の膜電極接合体。
[項目3]
前記全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子がポリテトラフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の少なくとも1つを含む、項目1又は2のいずれかに記載の膜電極接合体。
[項目4]
前記全フッ素化又は部分フッ素化ポリマーの粒子の平均粒径が50nm〜100nmである、項目1〜3のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
[項目5]
前記針状ミクロ構造担体ウィスカーの、ウィスカー断面の平均直径が100nm以下であり、平均アスペクト比が3:1以上である、項目1〜4のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
[項目6]
前記アノード電極触媒層が、前記針状ミクロ構造担体ウィスカー及び前記ナノスコピック触媒粒子の少なくとも1つの上に担持された酸素発生反応触媒粒子をさらに含む、項目1〜5のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
[項目7]
項目1〜6のいずれか一項に記載の膜電極接合体と、並行流路及び対向櫛形流路の少なくとも1つを有するアノードセパレータとを含む、固体高分子形燃料電池。
【符号の説明】
【0091】
10 膜電極接合体
12 電解質膜
14 アノード電極触媒層
16 アノードガス拡散層
18 フッ素化ポリマー層
24 カソード電極触媒層
26 カソードガス拡散層
図1
図2
図3
図4
図5