特許第6809899号(P6809899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809899
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09J 151/06 20060101AFI20201221BHJP
   C09J 145/00 20060101ALI20201221BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20201221BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20201221BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20201221BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C09J151/06
   C09J145/00
   C09J123/00
   C09J7/00
   B32B27/32 101
   B32B27/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-253370(P2016-253370)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-104583(P2018-104583A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】林 義晃
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−080792(JP,A)
【文献】 特開2000−327878(JP,A)
【文献】 特開2011−225800(JP,A)
【文献】 特開2015−123642(JP,A)
【文献】 特開2000−313090(JP,A)
【文献】 特開平09−193308(JP,A)
【文献】 特開2013−123814(JP,A)
【文献】 特開2015−089619(JP,A)
【文献】 特開2015−189070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00−201/10
B32B27/00
B32B27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂としてのエチレンの単独重合体及び/又はエチレン・α−オレフィン共重合体を不飽和カルボン酸又はその無水物でグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂(A)と、
環状ポリオレフィン系樹脂(B)と
を少なくとも含有することを特徴とする接着性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、飽和或いは不飽和の脂環構造を有する単量体を(共)重合成分として含む単独重合体又は共重合体である
請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、ノルボルネン系(共)重合体である
請求項1又は2に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、樹脂固形分の総量に対して、10〜50質量%含まれ、
前記(B)成分が、樹脂固形分の総量に対して、5〜70質量%含まれる
請求項1〜3のいずれか一項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)及び(B)成分以外のポリオレフィン系樹脂(C)をさらに含有し、
前記(C)成分が、前記(B)成分100質量部に対して、7〜900質量部含まれる
請求項1〜4のいずれか一項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着性樹脂組成物をフィルム状に加工してなる、接着フィルム。
【請求項7】
極性を有する樹脂を含有する樹脂層と、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の接着性樹脂組成物を含有し、前記樹脂層と接するように配置された接着層と、
を少なくとも備えることを特徴とする、積層体。
【請求項8】
前記樹脂層が、極性基を有するオレフィン系ポリマー、ポリアミド樹脂、及びエチレン・ビニルアルコール共重合体よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する
請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記樹脂層が、ガスバリア性樹脂層である
請求項7又は8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の積層体を延伸してなる、
延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引裂性及び接着性に優れる樹脂組成物、並びに、この樹脂組成物を用いた接着フィルム、積層体及び延伸フィルム等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、方向性のある易引裂性とともに、十分なヒートシール強度、包装機械適性、低吸着性等を実現するために、環状ポリオレフィン系樹脂と環状構造を有さないポリオレフィン系樹脂とを含有する樹脂層の使用が提案されている。そして、この樹脂層をポリオレフィン系樹脂層やヒートシール層等と積層することにより、ヒートシール強度や適度な剛性等を兼ね備えた積層体が提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、環状ポリオレフィン系樹脂と環状構造を有さないポリオレフィン系樹脂とを含有する中間層とその両面にポリオレフィン系樹脂層やヒートシール層とを有する多層フィルムが提案されている。また、特許文献2には、環状ポリオレフィン系樹脂と環状構造を有さないポリオレフィン系樹脂とを含有するフィルムと樹脂フィルムとを、特定構造のバリア性接着剤を用いて多層化してなるバリア性ラミネートフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−089619号公報
【特許文献2】特開2013−123814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、ガスバリア性や水蒸気バリア性等については何ら考慮されておらず、例えば酸素や水蒸気等の透過による公衆衛生の担保が未解決である。そのため、特許文献1に記載された多層フィルムは、食品衛生法の観点からは食品包装材としての適用が困難であり、また、薬機法の観点からは医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品等としての適用が困難である等の問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載されたバリア性ラミネートフィルムは、各種のバリア性に優れるとされているものの、バリア性接着剤を被接着面に塗工し、必要に応じて乾燥処理を行った後、各種ラミネーション処理を行う必要があり、さらにはラミネートフィル作製後に硬化促進処理(エージング処理)が事実上必須である等、加工方法が限られる。そのため、特許文献2の技術は、より層数の多い多層構成の積層体への対応が困難であり、さらには、特殊なバリア性接着剤を用いる必要があり、接着される樹脂層に使用できる樹脂が限られる等、設計自由度が少ないといった問題があった。
【0007】
以上のとおり、従来提案されている樹脂製積層体は、易引裂性、ヒートシール強度、及び剛性は兼ね備えるがガスバリア性を有していないものや、特殊なバリア性接着剤等を使用してバリア性を付与したバリア性ラミネートフィルムの様な設計自由度の少ないもの等である。一方、近年のユニバーサルデザイン化傾向の中で、社会的弱者(高齢者、幼児、障害者等)に対する配慮として、易開封性、易引裂性が重要視されているが、食品等の包装材への適用に至っては十分に満足できる包装材は得られていない。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされてものであり、その目的は、極性基を有するオレフィン系ポリマー、ポリアミド樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体等の極性を有する樹脂に対する優れた接着強度、易引裂性及び良好な取扱性を兼ね備え、これにより積層体の設計自由度を高めることが可能な、接着性樹脂組成物、並びに、これを用いた接着フィルム、積層体及び延伸フィルム等を提供することにある。
【0009】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂と環状ポリオレフィン系樹脂とを併用した新規配合組成の樹脂組成物を見出し、この接着性樹脂組成物を用いることで上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
【0011】
[1]ポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂(A)と、環状ポリオレフィン系樹脂(B)とを少なくとも含有することを特徴とする接着性樹脂組成物。
[2]前記(B)成分が、飽和或いは不飽和の脂環構造を有する単量体を(共)重合成分として含む単独重合体又は共重合体である[1]に記載の接着性樹脂組成物。
[3]前記(B)成分が、ノルボルネン系(共)重合体である[1]又は[2]に記載の接着性樹脂組成物。
[4]前記(A)成分が、樹脂固形分の総量に対して、10〜50質量%含まれ、前記(B)成分が、樹脂固形分の総量に対して、5〜70質量%含まれる[1]〜[3]のいずれか一項に記載の接着性樹脂組成物。
[5]前記(A)及び(B)成分以外のポリオレフィン系樹脂(C)をさらに含有し、前記(C)成分が、前記(B)成分100質量部に対して、7〜900質量部含まれる[1]〜[4]のいずれか一項に記載の接着性樹脂組成物。
[6][1]〜[5]のいずれか一項に記載の接着性樹脂組成物をフィルム状に加工してなる、接着フィルム。
【0012】
[7]極性を有する樹脂を含有する樹脂層と、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の接着性樹脂組成物を含有し、前記樹脂層と接するように配置された接着層と、を少なくとも備えることを特徴とする、積層体。
[8]前記樹脂層が、極性基を有するオレフィン系ポリマー、ポリアミド樹脂、及びエチレン・ビニルアルコール共重合体よりなる群から選択される少なくとも一種を含有する[7]に記載の積層体。
[9]前記樹脂層が、ガスバリア性樹脂層である[7]又は[8]に記載の積層体。
[10][7]〜[9]のいずれか一項に記載の積層体を延伸してなる、延伸フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、極性基を有するオレフィン系ポリマー、ポリアミド樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体等の極性を有する樹脂に対して優れた接着強度、引裂性及び良好な取扱性を兼ね備えた接着性樹脂組成物及び接着フィルムを実現でき、これにより樹脂積層体の作製時の設計自由度を高めることができる。また、本発明によれば、前記接着性樹脂組成物からなる層と極性を有する樹脂からなる層とを有し、層間接着強度及び引裂性に優れる積層体や延伸フィルム等を実現できる。したがって、本発明に係る積層体や延伸フィルム等は、ハムやソーセージ等の畜肉包装フィルム等の食品包装材、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品等の医療用包装材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明の実施態様の例(代表例)であり、本発明は以下の説明に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。さらに、(共)重合体は、1のみ重合成分からなる単独重合体、2以上の共重合成分からなる共重合体の双方を包含する意味で用いる。
【0015】
<接着性樹脂組成物>
本実施形態の接着性樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂(A)と、環状ポリオレフィン系樹脂(B)とを少なくとも含有することを特徴とする。
【0016】
<変性ポリオレフィン系樹脂(A)>
本明細書において、「変性ポリオレフィン系樹脂」とは、ポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性した樹脂を意味する。ここで「グラフト変性」とは、ポリオレフィン系樹脂に、不飽和カルボン酸又はその誘導体を結合させることを意味する。なお、変性ポリオレフィン系樹脂における不飽和カルボン酸又はその誘導体の結合位置は、特に限定されず、ポリオレフィン系樹脂の主鎖末端及び側鎖の少なくとも一方に導入されていればよい。
【0017】
グラフト変性する原料として用いるポリオレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体、エチレンと他のモノマーとの共重合体、プロピレンと他のモノマーとの共重合体等が挙げられ、他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセン等の炭素数3〜20のα−オレフィンや、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する(以下、同様とする)。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のエチレン単独重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、エチレン・ヘキセン共重合体、エチレン・オクテン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキセン共重合体、エチレン・プロピレン・オクテン共重合体、エチレン・ブテン・ヘキセン共重合体、エチレン・ブテン・オクテン共重合体、エチレン・ヘキセン・オクテン共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体、及び、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のエチレン系(共)重合体;プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ヘキセン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体等のプロピレン系(共)重合体;ブテン系(共)重合体等が挙げられる。
【0019】
ここで、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、ブテン系共重合体とは、それぞれ、エチレン、プロピレン、又はブテンをモノマー単位の50モル%以上の組成で含有する重合体を意味する。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることがきる。
【0020】
これらの中でも、エチレン系(共)重合体であるエチレン単独重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体や、プロピレン系(共)重合体であるプロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体が安価で容易に入手することができ、経済性に優れるため好ましい。機械的特性の観点から、エチレン単独重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体がより好ましい。
【0021】
グラフト変性する原料として用いるポリオレフィン系樹脂の密度は、特に限定されないが、0.85g/cm以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm以上であり、一方、0.96g/cm以下が好ましく、より好ましくは0.95g/cm以下である。また、ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、成形性の点から、0.01〜50g/10分が好ましく、より好ましくは0.1〜10g/10分である。ここで、ポリオレフィン系樹脂のMFRは、ポリオレフィン系樹脂がエチレン系(共)重合体又はブテン系(共)重合体の場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味し、ポリオレフィン系樹脂がプロピレン系(共)重合体の場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味する。
【0022】
本実施形態で用いる変性ポリオレフィン系樹脂は、前記のポリオレフィン系樹脂が不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性されている。ここでいう不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、代表的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、特に限定されないが、代表的には酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が挙げられる。
【0023】
不飽和カルボン酸の誘導体の具体例としては、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N,N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミド、マレイミド、Nブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等が挙げられる。不飽和カルボン酸又はその誘導体は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることができる。これらのうち、特にマレイン酸又はその無水物が、電子密度が低く反応性が高いことから好適である。
【0024】
ポリオレフィン系樹脂のグラフト変性は、従来公知の種々の方法で行うことができる。変性方法としては、溶融させたポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる溶融変性法、溶媒に溶解させたポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその誘導体を添加してグラフト共重合させる溶液変性法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらのうち、衛生性の観点から、溶媒を使用しなくてもよい溶融変性法が好ましく、押出機を用いてグラフト変性することがより好ましい。なお、効率よくグラフト変性するためには、ラジカル開始剤の存在下に変性することが好ましい。
【0025】
ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物又はアゾ化合物が好ましく、有機過酸化物が特に好ましい。具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,4−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレエート、2,2−ビス(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン等のジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(トルイルパーオキシ)ヘキサン等のパーオキシエステル類;ジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等が挙げられるが、これらに特に限定されない。ラジカル開始剤は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることができる。
【0026】
これらの中でも、半減期が1分となる分解温度が100℃以上であるラジカル開始剤がグラフト変性効率の観点から好ましい。具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類、又は、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類が好ましい。ラジカル開始剤の使用量は、特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.001〜1質量部の割合が好ましい。
【0027】
変性ポリオレフィン系樹脂中の不飽和カルボン酸又はその誘導体の含有割合(以下、「グラフト率」と呼ぶ場合がある。)は、特に限定されないが、変性ポリオレフィン系樹脂の総量に対して、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、一方、20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下である。使用する変性ポリオレフィン系樹脂、不飽和カルボン酸又はその誘導体によっても変動するが、グラフト率が前記好ましい値の下限値未満では、極性を有する樹脂との接着性が劣る傾向にあり、一方、前記好ましい値の上限値超過では、グラフト化の際にポリオレフィン系樹脂自体が一部架橋して成形性が低下すると同時に、フィッシュアイや異物発生等により製品外観が悪化する傾向にある。
【0028】
ここで、グラフト率の測定は、変性ポリオレフィン系樹脂をそのまま厚さ100μmのシートにプレス成形して試験サンプルとし、赤外線吸収スペクトル法を用い、樹脂中のカルボン酸又はその誘導体特有の吸収から求めることができる。具体的には、1900〜1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することにより求めることができる。なお、ポリオレフィン系樹脂のグラフト変性においては、ポリオレフィン系樹脂と未反応の不飽和カルボン酸又はその誘導体も残留し得るが、本明細書におけるグラフト率とは、上記の通り、変性ポリオレフィン系樹脂を上記の方法で測定した際の値を意味するものとする。
【0029】
変性ポリオレフィン系樹脂の密度は、特に限定されないが、0.85g/cm以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm以上であり、一方、0.96g/cm以下が好ましく、より好ましくは0.95g/cm以下である。また、変性ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、0.01〜3000g/10分が好ましく、より好ましくは0.1〜2500g/10分である。ここで、変性ポリオレフィン系樹脂のMFRは、ポリオレフィン系樹脂がエチレン系(共)重合体又はブテン系(共)重合体の場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味し、ポリオレフィン系樹脂がプロピレン系(共)重合体の場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味する。
【0030】
<環状ポリオレフィン系樹脂(B)>
本明細書において、環状ポリオレフィン系樹脂とは飽和或いは不飽和の脂環構造を有する単量体を(共)重合成分として含む単独重合体又は共重合体を意味する。飽和或いは不飽和の脂環構造としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン等の単環式シクロアルカン;シクロプロペン、シクロブテン、シクロプロペン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環式シクロアルケン;ビシクロウンデカン、デカヒドロナフタレン等の二環式アルカン;ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環式アルケン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。環状ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、例えば、ノルボルネン系(共)重合体、ビニル脂環式炭化水素(共)重合体、環状共役ジエン(共)重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系(共)重合体が好ましい。ノルボルネン系(共)重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」という。)、ノルボルネン系単量体とエチレンや炭素数3〜20のα−オレフィン等とを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」という。)等が挙げられる。さらに、COP及びCOCの水素添加物は、特に好ましい。なお、環状ポリオレフィン系樹脂の質量平均分子量は、特に限定されないが、5,000〜500,000が好ましく、より好ましくは7,000〜300,000である。
【0031】
前記ノルボルネン系(共)重合体と原料となるノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を有する脂環族系単量体である。このようなノルボルネン系単量体としては、例えば、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデテトラシクロドデセン、ジシクロペンタジエン、ジメタノテトラヒドロフルオレン、フェニルノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、メトキシカルボニルテトラシクロドデセン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらのノルボルネン系単量体は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることができる。
【0032】
前記ノルボルネン系共重合体(COC)は、前記ノルボルネン系単量体と共重合可能なオレフィンとを共重合したものであり、このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素原子数2〜20個を有するオレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン;1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらのオレフィンは、1種類のみ単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることができる。
【0033】
また、前記ノルボルネン系共重合体(COC)中のノルボルネン系単量体の含有比率は、特に限定されないが、30〜60モル%が好ましく、より好ましくは40〜50モル%である。含有比率がこの範囲にあれば、フィルムの剛性、引裂性、加工安定性に優れる接着性樹脂組成物が得られ易い傾向にある。
【0034】
前記環状ポリオレフィン系樹脂として用いることができる市販品として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、ポリプラスチックス社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる(これらは、いずれも登録商標である。)。
【0035】
<他のポリオレフィン系樹脂(C)>
本実施形態の接着性樹脂組成物は、上述した変性ポリオレフィン系樹脂及び環状ポリオレフィン系樹脂以外の、ポリオレフィン系樹脂(以降において、「他のポリオレフィン系樹脂」ともいう。)をさらに含有していることが好ましい。ここで、他のポリオレフィン系樹脂とは、不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト変性されていない非環状のポリオレフィン系樹脂を意味する。接着性樹脂組成物が他のポリオレフィン系樹脂を含有することにより、積層体とした際の接着性や耐熱性が向上する傾向にある。
【0036】
他のポリオレフィン系樹脂としては、前記した、変性ポリオレフィン系樹脂の原料として用いるポリオレフィン系樹脂そのものを用いることができる。ポリオレフィン系樹脂は、1種類のみ単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることができる。ここで用いる他のポリオレフィン系樹脂は、変性ポリオレフィン系樹脂の原料として用いるポリオレフィン系樹脂と同一であっても異なっていてもよく、その組み合せは任意であるが、相溶性や汎用性の観点から、これらは同一系統のポリオレフィン系樹脂又は同一のポリオレフィン系樹脂が好ましい。積層体としての接着性がより向上される傾向にある。
【0037】
他のポリオレフィン系樹脂の密度は、特に限定されないが、0.85g/cm以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm以上であり、一方、0.96g/cm以下が好ましく、より好ましくは0.95g/cm以下である。また、他のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、成形性の点から0.01〜50g/10分が好ましく、より好ましくは0.1〜10g/10分である。なお、他のポリオレフィン系樹脂のMFRは、他のポリオレフィン系樹脂がエチレン系(共)重合体又はブテン系(共)重合体の場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味し、他のポリオレフィン系樹脂がプロピレン系(共)重合体の場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味する。
【0038】
<接着性樹脂組成物>
本実施形態の接着性樹脂組成物は、樹脂成分として、上述した変性ポリオレフィン系樹脂(A)及び環状ポリオレフィン系樹脂(B)を必須成分として含有する。これらの含有割合は、所望性能に応じて適宜設定でき、特に限定されない。引裂性や接着性能等の観点から、接着性樹脂組成物の樹脂固形分の総量に対して、(A)成分が10〜50質量%、(B)成分が5〜70質量%含まれることが好ましく、(A)成分が15〜45質量%、(B)成分が10〜50質量%含まれることがより好ましい。
【0039】
また、本実施形態の接着性樹脂組成物が、さらに他のポリオレフィン系樹脂(C)を含む場合、(C)成分の含有割合は、引裂性、接着性能、耐熱性等の観点から、環状オレフィン系樹脂成分(B)100質量部に対して、7質量部以上が好ましく、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは100質量部以上、特に好ましくは200質量部以上であり、一方、900質量部以下が好ましく、より好ましくは800質量部以下、さらに好ましくは700質量部以下、特に好ましくは600質量部以下である。他のポリオレフィン系樹脂(C)を上記好ましい含有量で含有することにより、積層体とした際の接着性や耐熱性が向上される傾向にある。さらには、成分(A)〜(C)を含有する接着性樹脂組成物を予めマスターバッチとして製造しておき、これを他のポリオレフィン系樹脂(C)で適宜希釈することによって種々の配合比率の接着性樹脂組成物とすれば、様々な用途に対してそれぞれ最適化した接着性樹脂組成物を簡便に製造することができるという大きな効果がある。
【0040】
別言すれば、本実施形態の接着性樹脂組成物が上記(A)〜(C)成分を含有する場合、これらの含有割合は、引裂性、接着性能、耐熱性等の観点から、接着性樹脂組成物の樹脂固形分の総量に対して、(A)成分が10〜50質量%、(B)成分が5〜60質量%、(C)成分が30〜70質量%含まれることが好ましく、(A)成分が15〜45質量%、(B)成分が10〜50質量%、(C)成分が35〜65質量%含まれることがより好ましい。
【0041】
通常、積層体の接着層に用いられる接着性樹脂組成物は、成形時や二次加工時の成形歪みや残留歪みによる残留応力及び積層体を変形させる際に発生する応力を緩和するため、接着性樹脂に隣り合う被着体より柔軟であることが良好な接着性能を発現するのに必要な要件となってくる。しかしながら、このような接着性能の発現のために必須である柔軟な分子構造では、一般にガス透過性が高くなってしまう。また、積層体の接着層以外の層が易引裂性を有していても、接着層が前述の様に柔軟であると他の層よりも伸び易く接着層のみが容易に引裂けない状況が発生する。すなわち接着層が易引裂性を有しないことにより、接着性、ガスバリア性、易引裂性に優れる積層体を提供することが出来ない状況であった。
【0042】
かかる状況の下、本発明者らは、樹脂成分として変性ポリオレフィン系樹脂(A)及び環状ポリオレフィン系樹脂(B)を必須成分とする、新たな配合組成の接着性樹脂組成物を開発した。環状ポリオレフィン系樹脂(B)は、高い剛性や強度を有することが特徴的であるものの、光学特性が大きく異なり透明性が大きく阻害されることが容易に予想されることから、接着性樹脂組成物を構成する樹脂成分としては変性ポリオレフィン系樹脂(A)との併用は不適当であると考えられてきた。すなわち本発明は、従来において接着性樹脂組成物として併用することが不適当であると考えられていた2成分、すなわち変性ポリオレフィン系樹脂(A)及び環状ポリオレフィン系樹脂(B)を用い、さらに必要に応じて他のポリオレフィン系樹脂(C)をも配合して、積層体とした際の接着性、接着強度、易引裂性のトレードオフの関係を打破したものである。
【0043】
<その他の成分>
本実施形態の接着性樹脂組成物は、本発明の効果を著しく妨げない範囲で、上述の成分(A)〜(C)以外に、添加剤や他の樹脂等(以下、これらを総称して「その他の成分」という場合がある。)を含有していてもよい。その他の成分は、1種類のみ単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることができる。
【0044】
添加剤の具体例としては、プロセス油、加工助剤、可塑剤、結晶核剤、衝撃改良剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、相溶化剤、耐熱安定剤、耐候安定剤(酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等)、カーボンブラック、着色剤(顔料、染料等)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これら添加剤を用いる場合のその含有量は、特に限定されないが、接着性樹脂組成物の総量に対して、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.2質量%以上であり、また、5質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下である。なお、これらの添加剤は、本実施形態の接着性樹脂組成物をマスターバッチとして用いる場合には、前記した含有量の2〜50倍、好ましくは3〜30倍の濃度で含有させることもできる。
【0045】
難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別される。これらの中でも、非ハロゲン系難燃剤が好ましい。具体的には、金属水酸化物、リン系難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0046】
その他の成分として用いる他の樹脂の具体例としては、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、及びポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂等が挙げられる。
【0047】
本実施形態の接着性樹脂組成物は、上記各成分を従来公知の方法、たとえば、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合する方法、このような方法で混合して得られた混合物を、さらに一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練した後、造粒或いは得られた樹脂塊を粉砕する方法等によって得ることができる。また、ニーダーやロールを用いて混合することもできる。これらの方法で接着性樹脂組成物を製造する際の製造条件は特に限定されず、常法にしたがって行えばよい。
【0048】
接着性樹脂組成物の密度は、特に限定されないが、成形性等の観点から、0.85g/cm以上が好ましく、より好ましくは0.87g/cm以上であり、一方、0.96g/cm以下が好ましく、より好ましくは0.95g/cm以下である。また、接着性樹脂組成物のメルトフローレイト(MFR)は、特に限定されないが、成形性等の観点から、0.01〜50g/10分が好ましく、より好ましくは0.1〜10g/10分である。なお、接着性樹脂組成物のMFRについても前記と同様、接着性樹脂組成物がエチレン又はブテンを主成分とする場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味し、接着性樹脂組成物がプロピレンを主成分とする場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味する。ここで主成分とは、接着性樹脂組成物に含まれる樹脂成分(A)〜(C)において、50質量%以上含まれる系統成分を意味する。
【0049】
上記のような各成分を含有する本実施形態の接着性樹脂組成物は、種々の樹脂との接着性が良好であり、特に、極性基を有するオレフィン系ポリマー、ポリアミド樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体等の、極性基を含有する樹脂に対して高い接着性能を発揮する。そのため、本実施形態の接着性樹脂組成物は、これらの極性基を含有する樹脂からなる樹脂層に対する接着剤として、或いはこれをフィルム状に加工した接着フィルムとして、好適に用いることができる。
【0050】
<積層体>
次に、本実施形態の積層体について説明する。
本実施形態の積層体は、上述した本実施形態の接着性樹脂組成物を含有する接着層(以下、「接着性樹脂組成物層」という場合がある。)を含むものである。好ましい態様としては、接着層と他の層とを少なくとも有し、これらが接するように配置された2層又は3層以上の積層構造を有する積層体である。とりわけ、接着層とガスバリア性樹脂層とを少なくとも有し、これらが接するように配置された2層又は3層以上の積層構造を有する積層体が好ましい。積層体の形状としては、特に限定されず、積層シート、積層フィルム、積層ボトル等のいずれの態様も採ることができる。
【0051】
本実施形態の積層体を製造する方法としては、従来公知の種々の手法を採用することができる。例えば、押出機で溶融させた、個々の溶融樹脂を多層ダイスに供給し、ダイスの中で積層するインフレーションフィルム、T−ダイフィルム、シート、パイプ等を成形する共押出法や、溶融した個々の樹脂を同一金型内にタイムラグを付けインジェクションする、共インジェクション成形等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、各層を構成する樹脂フィルム同士に熱をかけてラミネートすることで、本実施形態の積層体を得ることも可能である。
【0052】
積層体の他の層は、特に限定されないが、極性を有する樹脂からなる層であることが好ましい。ここで、極性を有する樹脂とは、樹脂の分子構造中に極性基や高極性の結合を有する樹脂を意味する。より具体的には、極性基として水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エステル基、イソシアネート基、グリシジル基等の官能基を持つ樹脂、高極性の結合としてエステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、エーテル結合等の結合を持つ樹脂を意味する。極性を有する樹脂の具体例としては、極性基を有するオレフィン系ポリマー層や、ポリアミド樹脂層、エチレン・ビニルアルコール共重合体層等が挙げられる。これらの中でも、ガスバリア性樹脂層として使用し得るポリアミド樹脂層、エチレン・ビニルアルコール共重合体層が好ましい。
【0053】
上記の極性基を有するオレフィン系ポリマーとしては、具体的には、上述した変性ポリオレフィン系樹脂(A)に相当する樹脂のほか、シラン変性ポリオレフィン等が挙げられる。上記のポリアミド樹脂としては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロン6/11、MXDナイロン、アモルファスナイロン、テレフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、融点、剛性等に優れるナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66が好ましい。
【0054】
また、上記のエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、好ましくはエチレン含有量が15〜65モル%、さらに好ましくは25〜48モル%であるエチレン・ビニルアルコール共重合体が望ましい。このような組成を有するエチレン・ビニルアルコール共重合体は、例えばエチレンと酢酸ビニルとの共重合体を鹸化することにより調製することができる。その鹸化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上である。なお、鹸化度の上限は100%である。一般的に、エチレン含有量が少な過ぎると熱分解し易く、溶融成形が困難で、また延伸性にも劣り、且つ吸水し膨潤し易く耐水性が劣る傾向にある。一方、エチレン含有量が多過ぎると、耐ガス透過性が低下する傾向にある。また、鹸化度が低過ぎる場合には、耐ガス透過性が低下する傾向にある。
【0055】
また、本実施形態の積層体は、上述した接着性樹脂組成物からなる接着層、極性を有する樹脂からなる樹脂層に加え、さらにエチレン系ポリマー、プロピレン系ポリマー等から選択される無極性のオレフィン系ポリマーからなる樹脂層を有していてもよい。そのような場合の層構成は任意であるが、特に、無極性のオレフィン系ポリマーからなる樹脂層、接着層、ポリアミド樹脂又はエチレン・ビニルアルコール共重合体等の極性を有する樹脂からなる樹脂層の順に積層された積層体が好ましい。
【0056】
上記無極性のオレフィン系ポリマーとしてのエチレン系ポリマーとしては、エチレン含有量が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80〜100モル%の範囲にあるものが用いられる。このようなエチレン系ポリマーとしては、具体的には、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂等が挙げられる。これらの中でも、低密度ポリエチレン又はEVAが好ましく、特に密度が0.930g/cm以下である直鎖状低密度ポリエチレン又はEVAが好ましく用いられる。
【0057】
上記無極性のオレフィン系ポリマーとしてのプロピレン系ポリマーとしては、プロピレン含有量が50モル%以上の範囲にあるものが用いられる。具体的には、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ヘキセン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体等のプロピレン系重合体等が挙げられる。これらの中でも、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・オクテンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・ブテン・オクテンランダム共重合体、特にプロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテンランダム共重合体が好ましく用いられる。
【0058】
本実施形態の積層体は、延伸した場合でも、接着性と易引裂性が良好に保たれるという特性を有するため、延伸積層体(延伸成形体)の態様でも好適に用いることができる。積層体を延伸して延伸積層体を得る方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、その製法は特に限定されない。また、延伸方向は、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよく、また逐次延伸であっても、同時延伸であってもよい。
【0059】
例えば、前記方法で得られた未延伸の積層体を冷却固化後、インライン、又はアウトラインで60〜160℃の延伸温度まで再加熱し、テンター、プラグ及び圧縮空気等を用い一軸方向、或いは二軸方向に少なくとも面積比で1.5倍以上延伸を行い、一軸又は二軸延伸成形したフィルム、カップ、ボトル等の延伸成形体を得る方法が挙げられる。インフレーションフィルムの場合、インフレーション同時二軸延伸法、ロール及びテンターによる逐次二軸延伸法等が、カップの場合には、金型内で圧縮空気等のみによる圧空成形、プラグと圧縮空気を併用するSPPF成形等が一般的に用いられている。
【0060】
上記のように延伸して延伸積層体を得た後に、熱固定を行ってもよいし、熱固定をせずに製品としてもよい。すなわち、熱固定を行わない場合は、その後に加熱されたときに応力が開放されて熱収縮する、シュリンクフィルムとして用いることができる。
【0061】
本実施形態の積層体(延伸積層体)の各層の厚みは、要求性能、例えば層構成、用途、最終製品の形状、要求される物性等に応じて、任意に設定することができ、特に限定されない。例えば食品包装用や工業製品包装用のフィルムとして用いる場合、無延伸の積層体の総厚みは、30〜400μmが好ましく、より好ましくは40〜300μm、さらに好ましくは50〜200μmである。また、無延伸の積層体を構成する接着性樹脂組成物層の厚みは、1〜100μmが好ましく、より好ましくは2〜80μm、さらに好ましくは3〜50μmである。また、該用途に用いる場合の延伸積層体(延伸フィルム)の総厚みは、5〜400μmが好ましく、より好ましくは10〜300μm、さらに好ましくは20〜200μmである。また、このとき延伸フィルムを構成する接着性樹脂組成物層の厚みは、0.1〜50μmが好ましく、より好ましくは0.3〜30μm、さらに好ましくは0.5〜20μmである。
【0062】
一方、食品用や衛生品用、一般工業製品用のボトル等の厚みのある成形体として用いる場合、無延伸又は延伸された積層体の総厚みは、0.1〜7mmが好ましく、より好ましくは0.15〜6mm、さらに好ましくは0.2〜5mmである。また、このときの接着性樹脂組成物層の厚みは、3〜300μmが好ましく、より好ましくは4〜200μm、さらに好ましくは5〜100μmである。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0064】
以下の実施例及び比較例で使用した原料は次のとおりである。なお、成分Aにおけるグラフト率は、赤外線吸収スペクトル法を用い、樹脂中のカルボン酸又はその誘導体特有の吸収として、1900〜1600cm-1(C=O伸縮振動帯)のカルボニル特性吸収を測定することによって確認した。
【0065】
<成分A>
・成分A−1: 無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン(グラフト率:0.8質量%、MFR(190℃、2.16kg)0.5g/10分)
<成分B>
・成分B−1: 環状ポリオレフィン系樹脂 TOPAS 8007F−04、MFR(190℃、2.16kg)1.9g/10分、ガラス転移温度78℃(ポリプラスチックス社製)
<成分C>
・成分C−1: ポリエチレン カーネル KF260T(エチレン・プロピレン・ヘキセン共重合体)、MFR(190℃、2.16kg)2.0g/10分(日本ポリエチレン社製)
・成分C−2: ポリエチレン タフマー P0775(エチレン・プロピレン共重合体)、MFR(190℃、2.16kg)0.3g/10分(三井化学社製)
【0066】
(実施例1)
成分A−1を30質量%、成分B−1を10質量%、成分C−1を40質量%、成分C−2を20質量%含有する接着性樹脂組成物として、各成分を事前にドライブレンドにより配合した混合物を、単軸押出機PMS50−32(1V)(D=50mmφ、L/D=32、IKG(株)製)を用いて、温度220℃、スクリュー回転数60rpm、押出量20kg/hで溶融混練した。その後、溶融紺練物を紐状に押し出し、冷却後カッティングし、接着性樹脂組成物のペレットを得た。
【0067】
(実施例2、比較例1)
成分A〜成分Cとして用いた原料及び配合比率を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にして、接着性樹脂組成物の各ペレットを得た。
【0068】
<多層フィルム成形>
上記実施例1及び2並びに比較例1で得られたペレットをそれぞれ接着層の接着性樹脂組成物として用い、株式会社プラコー社製、3種3層共押出Tダイ成形機にて多層フィルム(積層体)を作製した。
層構成は、冷却ロール面に接する側(内層)から外側に向かって、ポリエチレンSF8402(日本ポリエチレン社製、エチレン・ヘキセン共重合体、MFR(190℃、2.16kg)2.6g/10分)/接着性樹脂組成物/エバール(商標)F101A(クラレ社製、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン共重合含量32モル%)とし、各層の厚みは、それぞれ100μm/25μm/25μmとした。成形温度は230℃、成形速度は9m/分に設定した。
【0069】
<接着強度の測定>
上記で得られた積層体を幅10mmの短冊状に切り出して試験片とし、23℃雰囲気下、速度100mm/minにて、T−ピール剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0070】
<単層フィルム成形>
上記実施例1及び2並びに比較例1で得られたペレットをそれぞれ用いて、株式会社GSIクレオス社製、単層Tダイ成形機にて、厚み50μmの単層フィルム(接着フィルム)を得た。成形温度は230度、成形速度は5m/分に設定した。
【0071】
<引裂性試験>
上記で得られた単層フィルムを、JIS K7128に準拠して、それぞれ63mm×76mmの大きさの試験片に切出し、株式会社東洋精機製作所社製、エルメンドルフ引裂試験機を用いて、引裂き強さを測定した。得られた引裂き強さから、以下の基準によって引裂き性を評価した。結果を表1に示す。
◎:引裂き強さが20未満。
〇:引裂き強さが20以上40未満。
×:引裂き強さが40以上。
【0072】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上詳述したとおり、本実施形態の接着性樹脂組成物は、極性を有する樹脂、特に、ポリアミド樹脂及びエチレン・ビニルアルコール共重合体に対して優れた接着強度特性を示す。また、本実施形態の積層体は、優れた接着強度特性を示し、さらに強度、耐熱性及びガスバリア性に優れる。したがって、本実施形態の接着性樹脂組成物及び積層体等は、食用油のハムやソーセージ等の畜肉包装フィルム等の一般食品用の包装材料、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品等の医療用或いは化粧品用の包装材料、外包装材料、ラベル等において、広く且つ有効に利用可能である。