(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜3のような従来の方法では、重金属の回収処理で生じた多量の処理後排液を河川等に放流するに際し、水質汚濁防止上の適切な処理をしてから放流する必要があり、その廃液処理のためのコストが嵩むという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、焼却灰から鉛、亜鉛、銅等の有用重金属類を効率よく回収することができ、重金属の回収処理後の焼却灰や処理後排液については、セメントの製造工程等で有効利用することが可能な、焼却灰の重金属回収方法及び焼却灰の重金属回収処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の焼却灰の重金属回収方法は、焼却灰にグリコールを加えてスラリーにするスラリー化工程と、前記スラリーを撹拌して焼却灰に含まれる重金属を溶出させる溶出工程と、前記重金属を溶出させた前記スラリーを固液分離する固液分離工程と、前記固液分離後の液部を中和して前記重金属を含む凝集・沈殿物を形成させる中和工程と、前記凝集・沈殿物を固液分離により回収する回収工程とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の焼却灰の重金属回収方法によれば、焼却灰にグリコールを加えてスラリーとし、そのスラリーを撹拌して焼却灰に含まれる重金属を溶出させた後、固液分離によりその液部を得、さらにその液部を中和して重金属を含む凝集・沈殿物を形成させて、これを固液分離により回収するので、比較的簡素な処理工程であっても、焼却灰から鉛、亜鉛、銅等の有用重金属類を効率よく回収することができる。そして、重金属の回収処理後の焼却灰は、セメントクリンカ原料等として好適に利用され得る。また、重金属の回収処理で生じた処理後排液(廃グリコール)は、セメントの製造工程の燃料代替や粉砕助剤代替等として好適に利用され得る。
【0010】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、前記グリコールがエチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールからなる群から選ばれたいずれか1種以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、前記グリコールの源として、該グリコールの含有量が20質量%以上であるグリコール含有組成物を用いることが好ましい。これによれば、廃不凍液(廃クーラント)等であっても有効に使用可能である。
【0012】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、前記固液分離工程における固液分離後の固部を回収する工程をさらに備え、その固部として回収した重金属を溶出させた焼却灰は、セメント原料としてセメントの製造工程で利用するためのものであることが好ましい。これによれば、重金属の回収処理後の焼却灰をセメントクリンカ原料等として利用することにより、資源の有効利用に資する。
【0013】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、前記回収工程における固液分離後の液部を回収する工程をさらに備え、その液部として回収した使用後グリコールは、燃料代替又は粉砕助剤代替としてセメントの製造工程で利用するためのものであることが好ましい。これによれば、重金属の回収処理で生じた処理後排液(廃グリコール)をセメントの製造工程で再利用することにより、資源を有効利用することができるとともに、その廃液処理のコストが抑えられる。
【0014】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、前記溶出工程でのスラリーのpHが10以上13以下であることが好ましい。これによれば、重金属をより効果的に溶出させることができ、その結果、焼却灰から鉛、亜鉛、銅等の有用重金属類を更により効率よく回収することができる。
【0015】
一方、本発明のもう1つは、焼却灰とグリコールを含むスラリーを撹拌して該焼却灰から重金属を溶出させる混合撹拌装置と、重金属溶出後の焼却灰を含むスラリーを固液分離する第1固液分離装置と、前記第1固液分離装置を経て回収された液部を中和して前記重金属を含む凝集・沈殿物を形成させる中和反応槽と、前記凝集・沈殿物を含む前記中和後の前記液部を固液分離する第2固液分離装置とを備えることを特徴とする焼却灰の重金属回収処理システムを提供するものである。
【0016】
本発明の焼却灰の重金属回収処理システムによれば、焼却灰とグリコールを含むスラリーを撹拌して該焼却灰から重金属を溶出させる混合撹拌装置と、重金属溶出後の焼却灰を含むスラリーを固液分離する第1固液分離装置と、第1固液分離装置を経て回収された液部を中和して重金属を含む凝集・沈殿物を形成させる中和反応槽と、その中和により形成させた重金属を含む凝集・沈殿物を中和後の液部から固液分離する第2固液分離装置を備えるので、簡素な構成であっても、焼却灰から鉛、亜鉛、銅等の有用重金属類を効率よく回収することができる。そして、重金属の回収処理後の焼却灰は、セメントクリンカ原料等として好適に利用され得る。また、重金属の回収処理で生じた処理後排液(廃グリコール)は、セメントの製造工程の燃料代替や粉砕助剤代替等として好適に利用され得る。
【0017】
本発明の焼却灰の重金属回収処理システムにおいては、前記第1固液分離装置を経てその固部として回収した、重金属を溶出させた焼却灰を、セメント製造設備に搬送するための搬送装置をさらに備えることが好ましい。
【0018】
本発明の焼却灰の重金属回収処理システムにおいては、前記第2固液分離装置を経てその液部として回収した使用後グリコールを貯留するための貯留槽をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の焼却灰の重金属回収方法によれば、焼却灰にグリコールを加えてスラリーとし、そのスラリーを撹拌して焼却灰に含まれる重金属を溶出させた後、固液分離によりその液部を得、さらにその液部を中和して重金属を含む凝集・沈殿物を形成させて、これを固液分離により回収するので、比較的簡素な処理工程であっても、焼却灰から鉛、亜鉛、銅等の有用重金属類を効率よく回収することができる。そして、重金属の回収処理後の焼却灰は、セメントクリンカ原料等として好適に利用され得る。また、重金属の回収処理で生じた処理後排液(廃グリコール)は、セメントの製造工程の燃料代替や粉砕助剤代替等として好適に利用され得る。
【0020】
本発明の焼却灰の重金属回収処理システムによれば、焼却灰とグリコールを含むスラリーを撹拌して該焼却灰から重金属を溶出させる混合撹拌装置と重金属溶出後の焼却灰を含むスラリーを固液分離する第1固液分離装置と、第1固液分離装置を経て回収された液部を中和して重金属を含む凝集・沈殿物を形成させる中和反応槽と、その中和により形成させた重金属を含む凝集・沈殿物を中和後の液部から固液分離する第2固液分離装置を備えるので、簡素な構成であっても、焼却灰から鉛、亜鉛、銅等の有用重金属類を効率よく回収することができる。そして、重金属の回収処理後の焼却灰は、セメントクリンカ原料等として好適に利用され得る。また、重金属の回収処理で生じた処理後排液(廃グリコール)は、セメントの製造工程の燃料代替や粉砕助剤代替等として好適に利用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明が適用される焼却灰は、都市ごみ等の可燃性廃棄物を減容するために焼却した際の残渣であり、いわゆるごみ焼却施設等で発生した燃え殻をいうが、それに限らず、例えば、バグフィルタ等の公害防止設備で排ガスから除去されたばいじんである飛灰や、焼却灰が埋設されている最終処分場より掘り起こされた焼却灰なども含む。より具体的には、重金属類の含有量(乾燥質量基準)が、例えば、鉛であれば300ppm以上、亜鉛であれば500ppm以上、及び/又は銅であれば300ppm以上である焼却灰に適用することが好ましい。焼却灰の重金属類の含有量は、例えば、一般的な蛍光X線分析のファンダメンタルパラメータ法、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」等を準用して測定することができる。なお、一般に、焼却灰に含まれる重金属類としては、上記以外にも、カドミウム、クロム、マンガン等が挙げられる。
【0023】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、まず、焼却灰にグリコールを加えてスラリーにする(スラリー化工程)。
【0024】
その際、焼却灰には、空き缶や針金等の金属類、ガラス類、さらには、紙や木片などの未燃物が含まれている場合があり、これらをあらかじめ除去することが好ましい。また、焼却灰は塊状物であるため、重金属回収効率の向上の観点からは、あらかじめ適当な粉砕手段や篩を用いて平均粒径を500μm以下に調整して用いることが好ましく、200μm以下に調整して用いることがより好ましい。また、この焼却灰の粒径調整作業において、並行して上記異物類の除去作業を行うのが作業効率の観点から好ましい。
【0025】
グリコールとしては、グリコール類化合物に属するものであればよく、特にその種類等に制限はない。典型的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。グリコールは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、グリコールは、かかる含有量が20質量%程度以上であれば、本発明に有効に使用可能である。よって、そのグリコールの源(ソース)としては、例えば、廃不凍液(廃クーラント)等のグリコール含有組成物を用いてもよい。この場合、グリコールの含有量が20質量%以上100質量%未満のものを用いることが好ましく40質量%以上100質量%未満のものを用いることがより好ましい。このような範囲のグリコール含有組成物を用いることで、廃不凍液(廃クーラント)等の有効利用を図ることができる。一方で、グリコールの含有量が上記範囲未満であると、焼却灰から鉛、亜鉛、銅等の重金属を溶出させにくい場合がある。あるいは、グリコールの源(ソース)として含水グリコールを用いることもできる。この場合、そのグリコールの含有量が20質量%以上100質量%未満のものを用いることが好ましく、20質量%以上80質量%以下のものを用いることがより好ましい。このような範囲のグリコール含有組成物を用いることで、グリコールの使用量を抑えることができると同時に、水溶性塩の形態で焼却灰に含有される鉛、亜鉛、銅等の重金属の溶出が効率よく生じる。
【0026】
上記スラリー化工程における焼却灰とグリコールの割合としては、焼却灰(通常は固体状)の質量をA質量部とし、グリコール(通常は液体状)の質量(グリコール含有組成物を用いる場合は当該組成物全体の質量)をB質量部としたときの、そのA/B質量比が1/2〜1/20であることが好ましく、1/2〜1/10であることがより好ましい。焼却灰の量が上記範囲を超えると、スラリー化しにくくなると共に、焼却灰からの鉛、亜鉛、銅等の重金属の溶出効率が悪くなる場合がある。グリコール(グリコール含有組成物)の量が上記範囲を超えると、重金属回収の効率がそれほど向上しない一方で、処理後排液(廃グリコール)の量が不必要に増加してしまう。
【0027】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、次いで、上記スラリーを撹拌して焼却灰に含まれる鉛、亜鉛、銅等の重金属を溶出させる(溶出工程)。
【0028】
上記溶出工程でのスラリーの温度は、5℃以上100℃以下であることが好ましく、50℃以上100℃以下であることがより好ましい。スラリーの温度が上記範囲内であれば、焼却灰の鉛、亜鉛、銅等の重金属をより効率的に溶出させることができる。一方で、スラリーの温度が5℃を下回ると、焼却灰から十分な量の重金属が溶出するのに要する時間が長時間化する場合がある。また、スラリーの温度が100℃を超える場合には、温度管理のための特別な設備が必要となる。
【0029】
上記溶出工程でのスラリーのpHは、10以上13以下であることが好ましく、11以上13以下であることがより好ましい。スラリーのpHが上記範囲内であれば、焼却灰の鉛、亜鉛、銅等の重金属をより効率的に溶出させることができる。一方で、スラリーのpHが10を下回ると、焼却灰中の鉛、亜鉛、銅等の重金属が不溶化してしまい溶出が困難となる場合がある。通常、焼却灰は塩基性を呈するので、pH調整剤を使用しなくても前記スラリーは10以上13以下のpHとなるが、鉛、亜鉛、銅等の重金属の溶出が効率的に生じる高pH域となるように苛性ソーダなどの一般的なpH調整剤を使用して、スラリーのpHを調整してもよい。この場合、苛性ソーダは水溶液として用いるのが好ましい。なお、スラリーのpHが13を超える場合には、かかるpH調整剤の使用量が過多となり、作業効率も悪くなる。
【0030】
上記溶出工程におけるスラリーの撹拌時間は、15分〜150分であることが好ましく、30分〜60分であることがより好ましい。スラリーの撹拌時間が上記範囲内であれば、焼却灰の鉛、亜鉛、銅等の重金属を十分に溶出させることができる。一方で、スラリーの撹拌時間が15分未満では、焼却灰から十分な量の重金属が溶出されない場合がある。また、スラリーの撹拌時間が150分を超えると、溶出工程に要する時間が長いために重金属回収処理の作業効率が低下する。
【0031】
上記溶出工程におけるスラリーの撹拌のための手段は、上記スラリーを撹拌できるものであればよく、特に制限されない。例えば、撹拌装置付きの完全混合槽や回転ドラム式混合槽などの混合撹拌装置が好適に使用され得る。完全混合槽を用いる場合は、混合槽は1槽型でも複槽型(直列または並列)でもよく、回転ドラム式混合槽を用いる場合は、スラリーをそのまま撹拌してもよいし、あるいは粉砕媒体を用いてもよい。なお、スラリー撹拌のための手段は、上記スラリー化工程において、焼却灰にグリコールを加えてスラリーにするための混合撹拌手段を兼ねていてもよい。
【0032】
上記混合撹拌装置には、スラリーを加温するための加温装置をさらに備えることができる。これにより、スラリーの温度を鉛、亜鉛、銅等の重金属の溶出に最適な温度に管理することができ、焼却灰からの重金属回収処理をより効率的に行うことができる。
【0033】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、次いで、上記鉛、亜鉛、銅等の重金属を溶出させたスラリーを固液分離する(固液分離工程)。
【0034】
上記固液分離工程におけるスラリーの固液分離のための手段は、上記スラリーを固液分離できるものであればよく、特に制限されない。例えば、フィルタプレス、加圧ドラムフィルタ、ロールプレス、ベルトフィルタなどの汎用の固液分離装置が好適に使用され得る。ただし、固液分離性能と操作の簡便性の両観点からは、フィルタプレスや加圧ドラムフィルタのような加圧式のものがより好ましい。
【0035】
上記固液分離工程で分離された、上記固液分離後の固部(重金属を溶出させた焼却灰)は、その固形分が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。固形分が上記範囲未満であると、溶出させた鉛、亜鉛、銅等の重金属の分離が不十分となり、重金属回収の目的が十分に達成できない場合がある。
【0036】
上記固液分離工程で分離された、上記固液分離後の液部(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属が溶存している)は、その重金属濃度が高いほど、重金属の回収効率が高まるので好ましいが、具体的には、例えば、鉛又は銅についていえば1mg/L以上が好ましく、10mg/L以上がより好ましい。亜鉛についていえば5mg/L以上が好ましく、25mg/L以上がより好ましい。
【0037】
上記固液分離工程で分離された、上記固液分離後の液部(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属が溶存している)中の鉛、亜鉛、銅等の重金属の溶存濃度の確認は、JIS K 0102「工場排水試験方法」に準じた試験で行うことができ、フレーム原子吸光法、電気加熱原子吸光法、ICP発光分光分析法、又はICP質量分析法のいずれか一つの方法を用いれば、例えば、鉛、亜鉛及び銅の全ての分析が可能である。ただし、いずれの方法を使用するにしても、分析試料の前処理が煩雑であり、さらに一般的なセメント製造工場には設置されていない分析装置を準備しなければならず、何よりもかかる濃度分析値に高い精度が要求されることはほとんどない。よって、分析操作の簡便性及び測定結果が短時間で得られる利便性の観点からは、例えば、株式会社共立理化学研究所製の「パックテスト(登録商標)」のような簡易分析方法の使用が好ましい。具体的には、この「パックテスト(登録商標)」を使用した場合、鉛については「パックテストSPK−Pb」(商品名、株式会社共立理化学研究所製)、亜鉛については「パックテストWAK−Zn」(商品名、株式会社共立理化学研究所製)、銅については「パックテストWAK−Cu」(商品名、株式会社共立理化学研究所製)などを用いて分析することができる。
【0038】
本発明の好ましい態様においては、上記固液分離工程で分離された、上記固液分離後の液部(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属が溶存している)を、上記溶出工程に使用するグリコール(もしくはグリコール含有組成物)として、再使用するようにしてもよい。上記溶出工程においてグリコール(もしくはグリコール含有組成物)を再使用し、あるいはそれを繰り返すことで、上記固液分離後の液部に含まれる鉛、亜鉛、銅等の重金属の溶存濃度が高まり、本固液分離工程の後工程である中和工程及び回収工程における一作業あたりの重金属回収量を増量させることができる。
【0039】
本発明の好ましい態様においては、また、上記固液分離工程における固液分離後の固部を回収するようにしてもよい。そして、その固部として回収した重金属を溶出させた焼却灰を、セメントクリンカ原料等としてセメントの製造工程で利用するようにしてもよい。これによれば、重金属類を含む焼却灰を原料にして、その重金属類を低減させてなるセメント原料を提供することができ、資源の有効利用に資する。
【0040】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、次いで、上記固液分離工程で分離された、上記固液分離後の液部(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属が溶存している)を中和して、鉛、亜鉛、銅等の重金属を含む凝集・沈殿物を形成させる(中和工程)。
【0041】
上記中和工程における中和のための手段は、上記固液分離工程で分離された、上記固液分離後の液部(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属が溶存している)を中和できるものであればよく、特に制限されない。例えば、中和剤として酸を加えて、上記液部のpHを酸性側にシフトさせる。これにより、上記液部に溶存している鉛、亜鉛、銅等の重金属を、典型的には例えばその水酸化物等として析出、沈殿させることができ、ひいてはその重金属を含む凝集・沈殿物を形成させることができる。中和後のpHを8以上9.5以下とすることがより好ましい。一方で、pHが8を下回る場合、あるいは9.5を上回る場合では、上記重金属を含む凝集・沈殿物を効率的に形成させることが困難となる場合がある。
【0042】
上記中和工程で用いられる酸としては、特に制限はないが、典型的には例えば、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、ギ酸等が挙げられる。中でも、反応速度の観点から、硫酸、硝酸、塩酸の使用が好ましく、特には、溶存カルシウムとの副生成物を生じないという観点から、硝酸、塩酸の使用がさらに好ましい。酸は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上記中和工程における温度条件は、0℃以上40℃以下であることが好ましく、10℃以上30℃以下がより好ましい。温度条件が上記範囲内であれば、上記液部に溶存している鉛、亜鉛、銅等の重金属を、典型的には例えばその水酸化物等として、効果的に析出、沈殿させることができる。一方で、上記中和工程における温度条件が0℃を下回る場合、中和反応速度が低下して効率が低下する場合があり、さらに40℃を上回る場合では、中和剤として添加した酸の揮発によって効率が低下する場合がある。
【0044】
上記中和工程においては、中和反応の効率を高める目的で、撹拌しつつ中和を行ってもよい。その撹拌のための手段は特に制限されず、一般的な撹拌装置付きの完全混合槽や回転ドラム式混合槽などの混合撹拌装置が好適に使用され得る。
【0045】
上記中和工程における中和時間は、15分〜120分であることが好ましく、30分〜90分であることがより好ましい。中和時間が上記範囲内であれば、上記液部に溶存している鉛、亜鉛、銅等の重金属を、典型的には例えばその水酸化物等として、効果的に析出、沈殿させることができる。一方で、中和時間が15分未満では、中和反応が不十分となり、上記重金属を含む凝集・沈殿物を効率的に形成させることが困難となる場合がある。また、中和時間が120分を超えると、中和工程に要する時間が長いために重金属回収の作業効率が低下する。
【0046】
本発明の焼却灰の重金属回収方法においては、次いで、上記中和工程で形成された、上記重金属を含む凝集・沈殿物を固液分離により回収する(回収工程)。
【0047】
上記回収工程において、上記重金属を含む凝集・沈殿物を回収するための手段は、かかる凝集・沈殿物を分離可能な手段であればよく、その方法は特に制限されない。例えば、フィルタプレス、加圧ドラムフィルタ、ロールプレス、ベルトフィルタなどの汎用の固液分離装置が好適に使用され得る。ただし、固液分離性能と操作の簡便性の両観点からは、フィルタプレスや加圧ドラムフィルタのような加圧式のものがより好ましい。
【0048】
本発明の好ましい態様においては、上記回収工程における固液分離後の液部(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属が回収され除かれている)を回収するようにしてもよい。そして、その液部として回収した処理後排液(廃グリコール)を、例えば、セメントクリンカの焼成工程の安定運転が確保される範囲内で燃料代替としたり、製造するセメントの塩素含有量等が品質上許容される範囲内でセメントの仕上粉砕工程での粉砕助剤の代替としたりして、再利用することができる。その際、水分含有量が80質量%程度であって、その他の成分も複合的に含有する組成物の状態であっても、必要に応じて、直接に、あるいはその全量をこれらのセメント製造工程で有効利用して処理することが可能である。よって、従来、鉱酸などを使用した焼却灰からの重金属回収処理では煩雑な作業として必須であった、重金属の回収処理で生じた多量の処理後排液について排水基準を満たすように適正化処理する作業を、省略し、あるいは少なくとも省力化することができる。
【0049】
以下、図面を参照して、本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に説明する実施形態よって、なんら限定されるものではない。
【0050】
図1は、本発明に係る焼却灰の重金属回収処理システムの一実施形態を示す概略構成図である。この実施形態に係る焼却灰の重金属回収処理システム1(以下、単に「処理システム1」という場合がある。)は、焼却灰A1の供給装置2と、グリコールないしグリコール含有組成物からなり、重金属溶出のための溶媒として用いられるグリコール類G1の供給装置3と、供給装置2から供給された焼却灰A1と供給装置3から供給されたグリコール類G1からスラリーSを生成して撹拌する混合撹拌装置4と、混合撹拌装置4から排出されたスラリーSを固液分離する第1固液分離装置5と、第1固液分離装置5を経てその固部として回収した、鉛、亜鉛、銅等の重金属を溶出させた焼却灰A2を、ロータリーキルンでのクリンカ焼成工程等のセメント製造工程へ搬送するための搬送装置6と、第1固液分離装置5から排出されたグリコール類G2(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属が溶存している)を中和処理する中和反応槽7と、中和反応槽7から排出されたグリコール類G3(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属の凝集・沈殿物を含む)を固液分離する第2固液分離装置8と、第2固液分離装置8から排出された廃グリコール類G4(グリコールを含み、鉛、亜鉛、銅等の重金属が回収され除かれている)を溜める貯留槽である中継タンク9とを備えている。なお、本発明に係る焼却灰の重金属回収処理システムにおいては、
図1に示す実施形態の構成のうち、少なくとも混合撹拌装置4、第1固液分離装置5、中和反応槽7及び第2固液分離装置8を備えることによって、最低限必要な構成を満たすこともできる。
【0051】
図1に示す実施形態においては、その供給装置2は、ホッパーと、焼却灰A1を所定質量又は所定容量で供給するための供給機構とを有し、混合撹拌装置4に焼却灰A1を供給する。この供給装置2には、ホッパーに焼却灰A1の貯槽が付設されていてもよく、さらに、かかる貯槽の上流側に焼却灰から金属類等を除去するための異物除去設備や、焼却灰を所定の粒度にするための粉砕分級設備が付設されていてもよい。これらの異物除去設備や粉砕分級設備は、受入れた焼却灰の状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。供給装置2による焼却灰A1の供給方式としては、ベルト式、スクリュー式、振動式、テーブル式等が挙げられる。
【0052】
図1に示す実施形態においては、その供給装置3によって、保管容器中のグリコール類G1を、例えば、供給装置2による焼却灰A1の供給量(質量)の2倍〜20倍程度の質量となるように供給するようにしている。供給装置2またはグリコール類G1の保管容器には、グリコール類G1を加温するための加熱設備が付設されていてもよい。加熱設備としては、インライン型やシェル型の汎用の液体加熱用ヒーター等を使用すればよい。
【0053】
図1に示す実施形態においては、その混合撹拌装置4において、焼却灰A1とグリコール類G1を混合してスラリーSを生成する処理、並びに、そのスラリーS中の焼却灰A1から鉛、亜鉛、銅等の重金属を溶出させる処理が行われるようになっている。すなわち、かかる混合撹拌装置4は、その内部にスラリー撹拌装置として撹拌翼41が付設されており、この撹拌翼41によって、焼却灰A1とグリコール類G1を混合し、その混合によって生成されたスラリーSを撹拌することができるようにしている。撹拌翼41としては、例えば、一般的なスクリュー型のもの等を使用すればよい。
【0054】
さらに、この実施形態の混合撹拌装置4では、その内部に加熱設備42と温度計43が付設されており、この加熱設備42によって、温度計43で測定されるスラリーSの温度を制御することができるようにしている。加熱設備42としては、例えば、散気装置を使用して排ガス等の高温ガスをスラリーS中に供給するものや、一般的な低周波誘導加熱装置等を使用すればよい。
【0055】
図1に示す実施形態においては、その第1固液分離装置5には、図示しないスラリー輸送装置によって、混合撹拌装置4から排出されたスラリーSが搬送されるようになっている。スラリー輸送装置としては、一般的なスラリー用渦巻きポンプ、ピストンポンプ、モーノポンプ等を使用すればよい。そして、搬送されたスラリーSは、この第1固液分離装置5により、重金属を溶出させた焼却灰A2と、焼却灰A1から溶出させた鉛、亜鉛、銅等の重金属が溶解している、グリコール類G2とに分離される。第1固液分離装置5としては、フィルタプレス、加圧葉状ろ過装置、スクリュープレス、ベルトプレス等の一般的なろ過装置等を使用すればよい。
【0056】
図1に示す実施形態においては、上記第1固液分離装置5には搬送装置6が連設されており、固液分離後の固部として回収された焼却灰A2を、ロータリーキルンでのクリンカ焼成工程等のセメント製造工程へ搬送するようにしている。搬送装置6としては、ベルトコンベアやスクリューコンベアなどの低含水粉体輸送に係る汎用の搬送装置等を使用すればよい。
【0057】
図1に示す実施形態においては、上記第1固液分離装置5を経て、その固液分離後の液部として回収されたグリコール類G2が、図示しない送液装置によって、中和反応槽7に搬送されるようになっている。そのための送液装置としては、遠心ポンプ、プロペラポンプ、ロータリーポンプ等の一般的な送液ポンプを使用すればよい。そして、搬送されたグリコール類G2は、この中和反応槽7において中和される結果、グリコール類G2に溶存していた鉛、亜鉛、銅等の重金属が、典型的には例えばその水酸化物等となって析出、沈殿する。
【0058】
また、
図1に示す実施形態においては、グリコール類G2を供給装置3へ搬送するための送液管L1が設けられている。この送液管L1を通じて、グリコール類G2を供給装置3に搬送してグリコール類G1として再使用することができるようにしている。そのための送液装置としては、遠心ポンプ、プロペラポンプ、ロータリーポンプ等の一般的な送液ポンプを使用すればよい。グリコール類G2をグリコール類G1として再使用し、あるいはそれを繰り返すことで、グリコール類G2中の鉛、亜鉛、銅等の重金属の溶存濃度が高まり、以降の工程における一作業あたりの重金属の回収効率を高めることができる。
【0059】
図1に示す実施形態においては、その中和反応槽7には、中和に用いる酸類aの保存容器71を備え、かかる酸類aを中和反応槽7に供給するための供給装置72が付設されており、中和反応槽7に酸類aの適当量が供給されるようになっている。また、中和反応槽7の内部にはpH計73が付設されており、このpH計73で測定されるグリコール類G2のpHによって、必要に応じて酸類aの中和反応槽7への供給量が制御され得る。
【0060】
さらに、この中和反応槽7には、槽内にグリコール類G2の撹拌装置として撹拌翼74が付設されていてもよい。この撹拌翼74によってグリコール類G2の中和反応が槽内全体で均整に行われるため、中和処理をより効率よく実施できる。撹拌翼74としては、例えば、一般的なスクリュー型のもの等を使用すればよい。
【0061】
図1に示す実施形態においては、中和処理後のグリコール類G3は、図示しない送液装置によって、第2固液分離装置8に搬送されるようになっている。そのための送液装置としては、遠心ポンプ、プロペラポンプ、ロータリーポンプ等の一般的な送液ポンプを使用すればよい。そして、搬送されたグリコール類G3は、第2固液分離装置8により、上記中和反応槽7において形成させた鉛、亜鉛、銅等の重金属を含む凝集・沈殿物と、残液である廃グリコール類G4とに分離される。第2固液分離装置8としては、フィルタプレス、加圧葉状ろ過装置、スクリュープレス、ベルトプレス等の一般的なろ過装置等を使用すればよい。
【0062】
図1に示す実施形態においては、上記第2固液分離装置8を経て、その固液分離後の液部として回収された廃グリコール類G4が、図示しない送液装置によって、中継タンク9に搬送されるようになっている。そのための送液装置としては、遠心ポンプ、プロペラポンプ、ロータリーポンプ等の一般的な送液ポンプを使用すればよい。そして、例えば、廃グリコール類G4のグリコールの含有量が20質量%以上の場合などには、中継タンク9を経由して、必要に応じて送液管L1を介して、グリコール類G1の供給装置3に搬送して再使用することができるようにしている。中継タンク9を経由せずに、第2固液分離装置8から直接にグリコール類G1の供給装置3に搬送して再使用してもよい。あるいは、供給装置3に搬送する前に精製処理を施してグリコールの含有量を高めたうえで、グリコール類G1の供給装置3に搬送して再使用してもよい。その精製処理の方式としては、例えば、一般的な蒸留方式等を使用すればよい。
【0063】
また、廃グリコール類G4はセメントの製造工程において再利用することができる。例えば、再利用の用途の1つとして、セメントクリンカの焼成用燃料の代替が挙げられる。これは、グリコール類G4が有する引火性を利用するものである。その際、水分含有量が80質量%程度であって、その他の成分も複合的に含有する組成物の状態であっても、セメントクリンカの焼成用燃料の代替として有効に再利用が可能である。
【0064】
さらに、グリコール類G4の再利用に関する他の用途として、セメントの仕上粉砕工程での粉砕助剤の代替用途が挙げられる。通常、粉砕効率の向上を目的として、セメントの仕上粉砕工程ではジエチレングリコール等の粉砕助剤が、セメントクリンカと石こうの合計量100質量部に対して0.01〜0.05質量部添加されている。この粉砕助剤には、例えば、特開2009−78953号公報に開示されているように、エチレングリコールとジエチレングリコールの混合物等、広くグリコール類含有組成物が使用可能である。その際、水分含有量が80質量%程度であって、その他の成分も複合的に含有する組成物の状態であっても、セメントの仕上粉砕工程での粉砕助剤の代替として有効に再利用が可能である。
【0065】
なお、
図1に示す実施形態においては、グリコール類G4をセメント製造設備に搬送するための送液管L2が設けられている。すなわち、その送液管L2を通じて、グリコール類G4がクリンカ焼成工程等のセメント製造工程がなされる施設へ搬送されるようになっている。そのための送液装置としては、遠心ポンプ、プロペラポンプ、ロータリーポンプ等の一般的な送液ポンプを使用すればよい。
【0066】
以上説明したように、従来、鉱酸などを使用した焼却灰からの重金属回収処理では、工程で発生する多量の処理後排液を適正化処理する必要があったのに対し、本発明では、重金属回収処理の溶媒としてグリコールを用いるので、重金属回収処理後の処理後排液(廃グリコール)は、必要に応じてその全量をセメントの製造工程で有効利用することが可能である。よって、従来、煩雑な作業として必須であった、重金属の回収処理で生じた多量の処理後排液について排水基準を満たすように適正化処理する作業を、省略し、あるいは少なくとも省力化することができる。
【0067】
本発明により得られた重金属は、様々な用途に用いられる重金属原料として、非常に有用である。なお、回収された重金属は、典型的には例えばその水酸化物等の形態であり、あるいは目的とする重金属以外の他の成分も複合的に含有する場合もあるので、必要に応じてこれを更に、洗浄、分別、精錬等の処理を施して、精製原料と成してもよいことは勿論である。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
<試験例1>
上記に説明した処理システム1による試験を行った。具体的には、以下のようにして試験を行った。
【0070】
焼却灰A1としては、蛍光X線分析(乾燥質量基準)でのPbO量が0.19質量%、ZnO量が1.26質量%、及びCuO量が0.10質量%であるごみ焼却施設からの焼却灰であって、これを、異物除去後に粉砕分級処理を行って500μmふるいを全通したものを調製して用い、グリコール類G1としては、エチレングリコールを使用した。
【0071】
下記表1に示す溶媒の構成、温度、pH、溶媒/焼却灰の質量比の各条件で、生成したスラリーSを60分間撹拌した後、第1固液分離装置5としてフィルタプレスを使用して固液分離し、その液部としてグリコール類G2を、その固部として焼却灰A2を、それぞれを回収した。
【0072】
得られたグリコール類G2のpHを、中和剤として硝酸を使用してpH9に調整し、下記表1に示す所定温度及び所定時間の各条件で中和処理を行なって、凝集・沈殿物が生じたグリコール類G3を得た後、かかるグリコール類G3を第2固液分離装置8としてフィルタプレスを使用して固液分離し、その液部として廃グリコール類G4を、その固部として重金属を含む凝集・沈殿物を、それぞれを回収した。
【0073】
【表1】
【0074】
上記で得られた焼却灰A2について、乾燥処理後に蛍光X線分析を行って鉛、亜鉛及び銅の含有量を確認した。また、別途、上記で得られた廃グリコール類G4について、ICP発光分光分析法を用いて廃グリコール類G4中に溶存する鉛、亜鉛及び銅を分析した。その結果、全ての試料で、廃グリコール類G4中には鉛、亜鉛及び銅は微少量しか検出されず、中和処理及びその後の固液分離により、グリコール類G2に溶存していた鉛、亜鉛及び銅のほぼ全量が回収できたと判断された。すなわち、焼却灰A1と焼却灰A2の差分量が、鉛、亜鉛及び銅の回収量であるとみなすことができた。その結果を表2に示す。
【0075】
【表2-1】
【表2-2】
【0076】
表2に示すように、スラリー化の溶媒として100%エチレングリコールを用いた実施例1、2では、鉛、亜鉛又は銅の回収率は全てが50%を超えており、50%エチレングリコールを用いた実施例3においても、少なくとも45%以上の回収率が得られ、20%エチレングリコールを用いた実施例4、5においても、少なくとも30%以上の回収率が得られた。この回収率は、溶媒に水を用いた比較例1に対して、特に銅と亜鉛が格段に優れていた。これは、水に対して不溶性の形態で焼却灰に含まれている鉛、亜鉛又は銅を、グリコールを少なくとも含む溶媒を使用することでより効率的に溶出させることができたためであると考えられた。
また、実施例4と5の比較から、焼却灰からの鉛、亜鉛又は銅の溶出効果はpHが高いほど良好であり、さらに、実施例1と2の比較から、そのpHの効果は、グリコール使用量を増量することで代替可能であることが明らかとなった。よって、使用可能なグリコールの量や、あるいはセメント製造工程で処理可能なグリコールの量に応じて、スラリーのpHを調整することにより、グリコールの使用量を最適化することが可能であると考えられた。