特許第6809918号(P6809918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809918
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】金属成形品の熱処理方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/24 20060101AFI20201221BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20201221BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20201221BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20201221BHJP
   C21D 1/70 20060101ALI20201221BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20201221BHJP
【FI】
   B22F3/24 A
   B22F3/105
   B22F3/16
   B22F3/24 J
   B22F3/24 102Z
   C22F1/10 A
   C21D1/70 Z
   B33Y10/00
【請求項の数】17
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-15275(P2017-15275)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-123366(P2018-123366A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宏介
(72)【発明者】
【氏名】原口 英剛
(72)【発明者】
【氏名】谷川 秀次
(72)【発明者】
【氏名】北村 仁
(72)【発明者】
【氏名】種池 正樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】大原 利信
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/045036(WO,A1)
【文献】 特開平10−195556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形品の熱処理方法であって、
前記金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点が高い形状保持層が前記金属成形品の表面に形成されるように前記金属成形品の処理を行う形状保持層形成ステップと、
前記形状保持層形成ステップによって前記形状保持層を形成した後に、前記金属成形品に対して第1温度T1で第1熱処理を施す第1熱処理ステップと、を含み、
前記固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとし、前記形状保持層の融点をTmとすると、
前記形状保持層形成ステップ及び前記第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われ、
前記形状保持層形成ステップでは、前記金属成形品に対して前記第1温度T1よりも低い第2温度T2で第2熱処理を施す第2熱処理ステップを含むことを特徴とする金属成形品の熱処理方法。
【請求項2】
前記固相線温度Tsよりも50℃低い温度を基準温度Tbとすると、
前記第1熱処理ステップは、Tb≦T1を満たすように行われることを特徴とする請求項1に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項3】
前記固相線温度Tsよりも50℃高い温度を基準温度Tcとすると、
前記第1熱処理ステップは、T1≦Tcを満たすように行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項4】
前記固相線温度Tsよりも30℃高い温度を基準温度Tdとすると、
前記第1熱処理ステップは、T1≦Tdを満たすように行われることを特徴とする請求項3に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項5】
前記金属成形品は、Ni基耐熱合金、Co基耐熱合金、又はFe基耐熱合金のうち少なくともいずれか一つを含む、を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項6】
前記金属成形品は、鋳造、鍛造、および3次元積層造形のいずれか一つの製法によって製造されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項7】
前記第2熱処理と前記第1熱処理とを同一の熱処理炉内で連続的に行うことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項8】
前記第2熱処理は、10−3Torr以上の圧力下で行うことを特徴とする請求項1から請求項7の何れか一項に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項9】
前記第2熱処理によって、前記金属成形品の表面に、前記金属成形品と雰囲気ガス成分との反応層、該反応層の形成に伴い生成する前記金属成形品の一部の成分元素の欠乏層、又は前記反応層と前記欠乏層の両方を、前記形状保持層として形成することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項10】
前記第2熱処理によって、前記金属成形品の表面に、前記反応層としての酸化スケールと、前記酸化スケールの形成に伴い生成する前記欠乏層の両方を、前記形状保持層として形成することを特徴とする請求項9に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項11】
金属成形品の熱処理方法であって、
前記金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点が高い形状保持層が前記金属成形品の表面に形成されるように前記金属成形品の処理を行う形状保持層形成ステップと、
前記形状保持層形成ステップによって前記形状保持層を形成した後に、前記金属成形品に対して第1温度T1で第1熱処理を施す第1熱処理ステップと、を含み、
前記固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとし、前記形状保持層の融点をTmとすると、
前記形状保持層形成ステップ及び前記第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われ、
前記形状保持層形成ステップは、溶射、蒸着又はスラリー浸漬法によって前記金属成形品の表面をコーティングするコーティングステップを含むことを特徴とする金属成形品の熱処理方法。
【請求項12】
前記コーティングステップでは、セラミックス、前記金属成形品の組成の固相線温度よりも高い融点の金属、および前記金属成形品と反応する金属のうち、少なくともいずれか一つを前記金属成形品の表面にコーティングし、
前記コーティングステップでは、前記金属成形品の表面に、コーティング層、前記コーティング層と前記金属成形品との反応層、又は前記コーティング層と前記反応層の両方を、前記形状保持層として形成することを特徴とする請求項11に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項13】
金属成形品の熱処理方法であって、
前記金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点が高い形状保持層が前記金属成形品の表面に形成されるように前記金属成形品の処理を行う形状保持層形成ステップと、
前記形状保持層形成ステップによって前記形状保持層を形成した後に、前記金属成形品に対して第1温度T1で第1熱処理を施す第1熱処理ステップと、を含み、
前記固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとし、前記形状保持層の融点をTmとすると、
前記形状保持層形成ステップ及び前記第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われ、
前記形状保持層形成ステップは、前記金属成形品の表面にメッキ処理を行うメッキステップを含み、
前記メッキステップでは、前記金属成形品の表面に、メッキ層と前記金属成形品との反応層を前記形状保持層として形成することを特徴とする金属成形品の熱処理方法。
【請求項14】
前記第1熱処理ステップの後に、更に前記金属成形品の熱処理を行う後熱処理ステップを更に含むことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項15】
前記後熱処理ステップは、前記金属成形品を加圧しながら熱処理を行う熱間等方加圧ステップを含むことを特徴とする請求項14に記載の金属成形品の熱処理方法。
【請求項16】
金属成形品を成形する成形ステップと、
前記成形ステップによって成形した前記金属成形品に対して請求項1から15のいずれか一項に記載の熱処理方法により熱処理を行う熱処理ステップと、
を備えることを特徴とする金属成形品の製造方法。
【請求項17】
前記成形ステップでは、3次元積層造形により前記金属成形品を成形することを特徴とする請求項16に記載の金属成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属成形品の熱処理方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属成形品の特性を変化させるために、金属成形品に対して熱処理が行われる場合がある。例えば特許文献1には、3次元積層造形(金属積層造形)によって成形された金属成形品に関し、水平方向と上下方向との異方性特性を低減することを目的として、金属材料の再結晶化温度以上の温度で金属成形品を熱処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5901585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属成形品の特性を変化させるために、金属成形品の組成の固相線温度付近の温度又はそれ以上の高温による熱処理を金属成形品に施すことがある。このような熱処理を金属成形品に施す場合、金属成形品に高温による強度低下や部分溶融が生じることがある。図9は、Ni基耐熱合金に対し固相線温度付近の温度で熱処理を加えた結果、粒界に部分溶融が生じた状態を示す図である。このように、金属成形品に高温による強度低下や部分溶融が生じると、金属成形品が変形し、金属成形品の形状を所望の形状に維持できなくなる。
【0005】
本発明の少なくとも一実施形態は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、金属成形品の変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる金属成形品の熱処理方法及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る金属成形品の熱処理方法は、前記金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点が高い形状保持層が前記金属成形品の表面に形成されるように前記金属成形品の処理を行う形状保持層形成ステップと、前記形状保持層形成ステップによって前記形状保持層を形成した後に、前記金属成形品に対して第1温度T1で第1熱処理を施す第1熱処理ステップと、を含み、前記固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとし、前記形状保持層の融点をTmとすると、前記形状保持層形成ステップ及び前記第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われる。
【0007】
上記(1)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、金属成形品の金属組織において液相が出現し始める固相線温度Tsに比較的近い基準温度Ta以上の高温(第1温度T1)にて金属成形品の熱処理を行う場合であっても、第1温度T1及び金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点が高い形状保持層が金属成形品の表面に形成されるため、金属成形品の高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制することができる。よって、固相線温度Ts付近の高温域又は固相線温度Ts以上の高温域での熱処理により、金属成形品の変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。
なお、第1熱処理では、Ta≦T1≦Tmを満たす範囲で、第1温度T1を時間的に変化させてもよいし、第1温度T1を時間によらず一定値に固定してもよい。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記固相線温度Tsよりも50℃低い温度を基準温度Tbとすると、前記第1熱処理ステップは、Tb≦T1を満たすように行われる。
【0009】
上記(2)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、金属成形品の金属組織において液相が出現し始める固相線温度Tsにより近い基準温度Tb以上の高温(第1温度T1)にて金属成形品の熱処理を行う場合であっても、第1温度T1及び金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点Tmが高い形状保持層が金属成形品の表面に形成されるため、金属成形品の高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制することができる。よって、固相線温度Ts付近の高温域又は固相線温度Ts以上の高温域での熱処理により、金属成形品の変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記固相線温度Tsよりも50℃高い温度を基準温度Tcとすると、前記第1熱処理ステップは、T1≦Tcを満たすように行われる。
【0011】
上記(3)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、形状保持層が金属成型品の変形を抑制し、過度な高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制することができる。
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記固相線温度Tsよりも30℃高い温度を基準温度Tdとすると、前記第1熱処理ステップは、T1≦Tdを満たすように行われる。
【0013】
上記(4)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、形状保持層が金属成型品の変形を抑制し、過度な高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制することができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記金属成形品は、Ni基耐熱合金、Co基耐熱合金、又はFe基耐熱合金のうち少なくともいずれか一つを含む。
【0015】
上記(5)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、金属成形品が、Ni基耐熱合金、Co基耐熱合金、又はFe基耐熱合金のうち少なくともいずれか一つを含む場合において、金属成形品の変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。例えば、主に高温環境で使用されるNi基耐熱合金、Co基耐熱合金、およびFe基耐熱合金で特に重要な特性である、高温での強度特性を、変形を伴わずに変化させることができる。
【0016】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記金属成形品は、鋳造、鍛造、および3次元積層造形のいずれか一つの製法によって製造されている。
【0017】
上記(6)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、金属成形品が、鋳造、鍛造、および3次元積層造形のいずれか一つの製法によって製造されている場合において、金属成形品の変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。鋳造、鍛造、および3次元積層造形では、それらの中でも特に3次元積層造形では、複雑形状の金属成型品を製造可能であるが、上記(6)に記載の熱処理方法を用いれば、複雑形状に起因して発現する機能を損なわずに、金属成型品の特性を変化させることができる。
【0018】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)から(6)のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記形状保持層形成ステップでは、前記金属成形品に対して前記第1温度T1よりも低い第2温度T2で第2熱処理を施す第2熱処理ステップを含む。
【0019】
上記(7)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、このように、上記第1温度T1よりも低い第2温度T2で金属成形品に第2熱処理を施すことで、金属成形品の表面に形状保持層を容易に形成することができる。なお、第2熱処理では、上記第1温度T1よりも低い温度範囲で、第2温度T2を時間的に変化させてもよいし、第2温度T2を時間によらず一定値に固定してもよい。
【0020】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記第2熱処理と前記第1熱処理とを同一の熱処理炉内で連続的に行う。
【0021】
上記(8)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、第2熱処理を完了した後の金属成形品を熱処理炉から取り出して第1熱処理用の別の熱処理炉に移動させる手間が省ける。これにより、工数を増やすことなく、形状保持層の形成が可能となる。
【0022】
(9)幾つかの実施形態では、上記(7)又は(8)に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記第2熱処理は、10−3Torr以上の圧力下で行う。
【0023】
通常、金属成形品の熱処理を行う場合、例えば、雰囲気ガス中の成分との反応を抑制する観点から、10−3Torr未満の低圧条件下(高真空度)にて熱処理が行われる。
これに対し、上記(9)に記載の熱処理方法は、上記のように敢えて10−3Torr以上の圧力下で第2熱処理を行うことで、雰囲気ガス中の成分との反応により成形品の表面に形状保持層を積極的に形成するものである。これにより、形状保持層を効果的に金属成形品の表面に形成し、第1熱処理時における金属成形品の変形を抑制することができる。
【0024】
(10)幾つかの実施形態では、上記(7)から(9)のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記第2熱処理によって、前記金属成形品の表面に、前記金属成形品と雰囲気ガス成分との反応層、該反応層の形成に伴い生成する前記金属成形品の一部の成分元素の欠乏層、又は前記反応層と前記欠乏層の両方を、前記形状保持層として形成する。
【0025】
上記(10)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、上記反応層、上記欠乏層又はそれらの両方を形状保持層として機能させることが可能となり、第1熱処理時における金属成形品の変形を容易に抑制することができる。
【0026】
(11)幾つかの実施形態では、上記(10)に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記第2熱処理によって、前記金属成形品の表面に、前記反応層としての酸化スケールと、前記酸化スケールの形成に伴い生成する前記欠乏層の両方を、前記形状保持層として形成する。
【0027】
上記(11)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、上記反応層としての酸化スケールと上記欠乏層の両方を形状保持層として機能させることが可能となり、第1熱処理時における金属成形品の変形を容易に抑制することができる。
【0028】
(12)幾つかの実施形態では、上記(1)から(11)のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記形状保持層形成ステップは、溶射、蒸着又はスラリー浸漬法によって前記金属成形品の表面をコーティングするコーティングステップを含む。
【0029】
上記(12)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、金属成形品の表面に形成されたコーティング層、コーティング層と金属成形品との反応層、又はコーティング層と反応層の両方が形状保持層として機能し、第1熱処理時における金属成形品の変形を容易に抑制することができる。また、コーティング材の種類によっては、第1熱処理の後に表面加工で容易に除去することが可能である。例えば、セラミックスコーティングの1種であるシリカコーティングを採用する場合、アルカリ溶融等によって容易に除去することが可能である。
【0030】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記コーティングステップでは、セラミックス、前記金属成形品の組成の固相線温度よりも高い融点の金属、および前記金属成形品と反応する金属のうち、少なくともいずれか一つを前記金属成形品の表面にコーティングし、前記コーティングステップでは、前記金属成形品の表面に、コーティング層、前記コーティング層と前記金属成形品との反応層、又は前記コーティング層と前記反応層の両方を、前記形状保持層として形成する。
【0031】
上記(13)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、セラミックス、金属成形品の組成の固相線温度よりも高い融点の金属、および金属成形品との反応層のうち、少なくともいずれか一つを含むコーティング層、当該コーティング層と金属成形品との反応層、又は当該コーティング層と当該反応層の両方が形状保持層として機能し、第1熱処理時における金属成形品の変形を容易に抑制することができる。
【0032】
(14)幾つかの実施形態では、上記(1)から(13)のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記形状保持層形成ステップは、前記金属成形品の表面にメッキ処理を行うメッキステップを含み、前記メッキステップでは、前記金属成形品の表面に、メッキ層と前記金属成形品との反応層を前記形状保持層として形成する。
【0033】
上記(14)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、金属成形品の表面に形成されたメッキ層と金属成形品との反応層が形状保持層として機能し、第1熱処理時における金属成形品の変形を容易に抑制することができる。また、金属成形品とメッキ層との高い密着性を実現することができ、緻密な形状保持層の形成が可能となる。
【0034】
(15)幾つかの実施形態では、上記(1)から(14)のいずれか一項に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記第1熱処理ステップの後に、更に前記金属成形品の熱処理を行う後熱処理ステップを更に含む。
【0035】
上記(15)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、後熱処理によって金属成形品の特性を適切に変化させることができる。
【0036】
(16)幾つかの実施形態では、上記(15)に記載の金属成形品の熱処理方法において、前記後熱処理ステップは、前記金属成形品を加圧しながら熱処理を行う熱間等方加圧ステップを含む。
【0037】
上記(16)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、金属成形品の組成に応じて、例えば金属成形品の内部欠陥の除去等の効果を得ることができる。
【0038】
(17)本発明の少なくとも一実施形態に係る金属成形品の製造方法は、金属成形品を成形する成形ステップと、前記成形ステップによって成形した前記金属成形品に対して上記(1)から(16)のいずれか一項に記載の熱処理方法により熱処理を行う熱処理ステップと、を備える。
【0039】
上記(17)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、(1)から(16)のいずれか一項に記載の熱処理方法により熱処理を行う熱処理ステップを備えるため、金属成形品の変形が抑制され、所望の形状及び特性を有する金属成形品を製造することができる。
【0040】
(18)幾つかの実施形態では、上記(17)に記載の金属成形品の製造方法において、前記成形ステップでは、3次元積層造形により前記金属成形品を成形する。
【0041】
上記(18)に記載の金属成形品の熱処理方法によれば、金属成形品を3次元積層造形によって成形する場合において、金属成形品の変形が抑制され、3次元積層造形で得られる非常に複雑な形状を維持しつつ所望の特性を有する金属成形品を製造することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、金属成形品の変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる金属成形品の熱処理方法及び製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】一実施形態に係る金属成形品の製造方法を示すフローチャートである。
図2】形状保持層形成ステップを説明するための図である。
図3】温度(℃)と液相の割合(mol%)との関係を示す図である。
図4】一実施形態に係る金属成形品の製造方法を示すフローチャートである。
図5】一実施形態に係る金属成形品の製造方法を示すフローチャートである。
図6】金属成形品の変形を防ぐために好ましい形状保持層の厚さを決定する方法を説明するための図である。
図7】金属成形品の表面に形成された形状保持層を示す断面図である。
図8】比較例に係る金属成形品が部分溶融により変形した状態を示す断面図である。
図9】Ni基耐熱合金に対し固相線温度付近の温度で熱処理を加えた結果、粒界に部分溶融が生じた状態を示す図である。
図10】スラリー浸漬法を説明するためのフローチャートである。
図11】スラリー浸漬工程を説明するための図である。
図12】サンディング工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0045】
図1は、一実施形態に係る金属成形品の製造方法を示すフローチャートである。
まず、S11にて、金属部材の造形処理を行うことにより金属成形品を成形する(成形ステップ)。
【0046】
S11において、金属成形品は、例えば、Ni基耐熱合金、Co基耐熱合金、Fe基耐熱合金、又はその他の金属部材で構成される。また、金属成形品は、鋳造、鍛造、および3次元積層造形のいずれか一つの製法によって製造される。
【0047】
次に、S12において、図2に示すように、金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点Tmが高い形状保持層が金属成形品の表面に形成されるように金属成形品の処理を行う(形状保持層形成ステップ)。なお、固相線とは、多成分系の温度─組成図において、固体と液体が平衡である領域と,固体が安定して存在する領域との境界を示す線であり、固相線温度Tsとは、図3に示すように、固体が溶け始める温度(液相の割合が0から上昇し始める点の温度)を意味する。図3は、温度(℃)と液相の割合(mol%)との関係を示す図である。なお、形状保持層形成ステップの詳細については後述する。
【0048】
形状保持層形成ステップによって形状保持層を形成した後に、S13において、金属成形品に対して第1温度T1で第1熱処理を施す(第1熱処理ステップ)。ここで、固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとすると、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われる。なお、第1熱処理では、Ta≦T1≦Tmを満たす範囲で、第1温度T1を時間的に変化させてもよいし、第1温度T1を時間によらず一定値に固定してもよい。また、固相線温度Tsよりも70℃低い温度を基準温度Teとすると、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップは、Te≦T1≦Tmを満たすように行われてもよい。
【0049】
次に、S14において、金属成形品の後熱処理を行う(後熱処理ステップ)。
S14では、金属成形品の後熱処理として、金属成形品の真空熱処理を行ってもよいし、金属成形品を加圧しながら熱処理を行う熱間等方加圧(HIP:hot isostatic pressing)処理を行ってもよいし、これら二つの両方を行ってもよい。
【0050】
次に、S15において、形状保持層の除去が必要か否かに基づき、金属成形品の表面加工を行うか否かを判断する。S15において表面加工が必要と判断されれば、S16において形状保持層の除去を含む金属成形品の表面加工を行うことで金属部品が完成する。S15において表面加工が不要と判断されれば表面加工を行うことなく金属部品が完成する。
【0051】
以上に示したフローでは、金属成形品の金属組織において液相が出現し始める固相線温度Tsに比較的近い基準温度Ta以上の高温(第1温度T1)にて金属成形品の熱処理を行う場合であっても、第1温度T1及び金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点が高い形状保持層が金属成形品の表面に形成されるため、金属成形品の変形を抑制することができる。よって、固相線温度Ts付近の高温域又は固相線温度Ts以上の高温域での熱処理により、金属成形品の高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。
【0052】
一実施形態では、固相線温度Tsよりも50℃低い温度を基準温度Tbとすると、S13に示した第1熱処理ステップは、Tb≦T1≦Tmを満たすように行われる。
【0053】
このように、金属成形品の金属組織において液相が出現し始める固相線温度Tsにより近い基準温度Tb以上の高温(第1温度T1)にて金属成形品の熱処理を行う場合であっても、金属成形品の表面に形成した形状保持層によって金属成形品の部分溶融による変形を抑制することができる。よって、固相線温度Ts付近の高温域又は固相線温度Ts以上の高温域での熱処理により、金属成形品の部分溶融による変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。なお、固相線温度Tsよりも30℃低い温度をTfとすると、第1熱処理ステップは、Tf≦T1≦Tmを満たすように行われてもよい。
【0054】
一実施形態では、固相線温度Tsよりも50℃高い温度を基準温度Tcとすると、S13に示した第1熱処理ステップは、T1≦Tcを満たすように行われる。このようにT1≦Tcを満たすように第1熱処理を行うことによって、過度な高温による金属成形品の強度低下を抑制し、金属成形品の変形を抑制することができる。
【0055】
一実施形態では、固相線温度Tsよりも30℃高い温度を基準温度Tdとすると、S13に示した第1熱処理ステップは、T1≦Tdを満たすように行われる。このようにT1≦Tdを満たすように第1熱処理を行うことによって、過度な高温による金属成形品の強度低下を抑制し、金属成形品の変形を抑制することができる。なお、固相線温度Tsよりも20℃高い温度をTgとすると、第1熱処理ステップは、T1≦Tgを満たすように行われてもよい。
【0056】
次に、形状保持層形成ステップの詳細について説明する。
一実施形態では、形状保持層形成ステップでは、金属成形品に対して第1温度T1よりも低い第2温度T2で第2熱処理を施すことで形状保持層を形成する。このように、第1温度T1よりも低い第2温度T2で金属成形品に第2熱処理を施すことで、金属成形品の表面に形状保持層を容易に形成することができる。なお、第2熱処理では、第1温度T1よりも低い温度範囲で、第2温度T2を時間的に変化させてもよいし、第2温度T2を時間によらず一定値に固定してもよい。また、第1温度T1よりも10℃低い温度を基準温度Thとすると、形状保持層形成ステップでは、基準温度Thよりも低い第2温度T2で第2熱処理を施すことで形状保持層を形成してもよい。
【0057】
一実施形態では、形状保持層形成ステップの第2熱処理と第1熱処理ステップの第1熱処理とを同一の熱処理炉内で連続的に行う。これにより、第2熱処理を完了した後の金属成形品を熱処理炉から取り出して第1熱処理用の別の熱処理炉に移動させる手間が省ける。これにより、工数を増やすことなく、形状保持層の形成が可能となる。
【0058】
一実施形態では、第2熱処理は、10−3Torr以上(好ましくは10−2Torr以上)の低真空度の圧力下で行う。通常、金属成形品の熱処理を行う場合、例えば、雰囲気ガス中の成分との反応を抑制する観点から、10−3Torr未満の低圧条件下(高真空度)にて熱処理が行われる。これに対し、上記のように敢えて10−3Torr以上の低真空度の圧力下で第2熱処理を行って雰囲気ガス中の成分との反応により成形品の表面に形状保持層を積極的に形成することにより、形状保持層を効果的に金属成形品の表面に形成し、第1熱処理時における金属成形品の変形を抑制することができる。S12に係る第2熱処理では、金属成形品の表面に、金属成形品と雰囲気ガス成分との反応層、該反応層の形成に伴い生成する金属成形品の一部の成分元素の欠乏層、又は該反応層と該欠乏層の両方を、形状保持層として形成する。例えば、金属成形品の表面に反応層としての酸化スケールを積極的に形成することで、金属成形品の一部の成分元素(例えば金属成形品がNi基耐熱合金で構成されている場合には、AlやCr等)の欠乏層が酸化スケールの下層に形成される。これにより、酸化スケールと元素の欠乏層の両方を形状保持層として機能させることが可能となり、第1熱処理時における金属成形品の部分溶融による変形を容易に抑制することができる。
【0059】
一実施形態では、第2熱処理は、上記低真空度の圧力下で行う代わりに、大気圧以上の圧力下で行ってもよい。この場合、Nガス、Arガス、又は大気等のガス雰囲気下で第2熱処理を行うことにより、金属成形品と雰囲気ガス成分との反応層(酸化層や窒化層等)、該反応層の形成に伴い生成する金属成形品の一部の成分元素の欠乏層、又は該反応層と該欠乏層の両方が金属成形品の表面に形状保持層として形成される。
【0060】
図4は、一実施形態に係る金属成形品の製造方法を示すフローチャートである。図4に示すフローのうち、S21、S23、S24、S25及びS26は、それぞれ、図1に示したフローのS11、S13、S14、S15及びS16と同様であるため説明を省略する。
【0061】
図4に示すS22では、図1に示したS12と同様に、金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点Tmが高い形状保持層が金属成形品の表面に形成されるように金属成形品の処理を行う(形状保持層形成ステップ;図2参照)が、その形状保持層を形成するための具体的方法が図1を用いて説明した方法と異なる。
【0062】
一実施形態では、図4のS22に示すように、形状保持層形成ステップは、溶射、蒸着又はスラリー浸漬法によって金属成形品の表面をコーティングするコーティングステップを含む。コーティングステップでは、例えば、セラミックス、金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点Tmが高い金属、および金属成形品と反応する金属のうち、少なくともいずれか一つを溶射、蒸着又はスラリー浸漬法により金属成形品の表面にコーティングすることで形状保持層を形成する。コーティングステップでは、金属成形品の表面に、コーティング層、コーティング層と金属成形品との反応層、又はコーティング層と反応層の両方を、形状保持層として形成する。
【0063】
これにより、金属成形品の表面に形成されたコーティング層、コーティング層と金属成形品との反応層、又はコーティング層と反応層の両方が形状保持層として機能し、第1熱処理時における金属成形品の部分溶融による変形を容易に抑制することができる。
【0064】
なお、蒸着によるコーティングを行う場合には、CVDコーティング又はアルミナイズド処理等によって金属成形品の表面にコーティング層を形成してもよい。アルミナイズド処理の方法としては、例えばパック法を用いることができる。パック法では、不活性材料、アルミニウム供給源及びハロゲン化物活性剤を含む粉末混合物を使用したパック工程によってアルミニウム拡散層が金属成形品の表面に形成される。アルミニウム被覆を施す必要のある金属成形品は、上記の粉末混合物と一緒にボックス内に収納され、粉末混合物であるパックで覆われ、当該パックが形状保持層として機能する。
【0065】
また、スラリー浸漬法は、例えば図10に示すように行う。
まず、S41において、図11に示すように、金属成形品をスラリーに浸して、金属成形品の表面をコーティングする(スラリー浸漬工程)。ここで、「スラリー」とは、分散剤によってセラミクスフラワー(セラミクスの小さい粒)を懸濁させた液を意味する。
【0066】
S41の直後に、S42において、図12に示すように、金属部材の表面にスタッコをまぶし、金属成形品の表面にセラミクス層を形成する(サンディング工程)。ここで、「スタッコ」とは、セラミクス粒を意味する。そして、S43において、金属成形品を乾燥させる。さらに、S41〜S43を5〜10回程度繰り返して、金属成形品のコーティングを完了する。
【0067】
なお、図10では、スラリー浸漬工程とサンディング工程の両方を行う例を示したが、他のスラリー浸漬法では、S42のサンディング工程を行わず、S41のスラリー浸漬工程及びS43の乾燥工程のみを行ってもよい。
【0068】
なお、上記コーティングステップによって形状保持層を形成する場合、コーティング材の種類によっては、S26における表面加工で容易に除去することが可能である。例えば、セラミックスコーティングの1種であるシリカコーティングを採用する場合、アルカリ溶融等によって容易に除去することが可能である。
【0069】
図5は、一実施形態に係る金属成形品の製造方法を示すフローチャートである。図5に示すフローのうち、S31、S33、S34、S35及びS36は、それぞれ、図1に示したフローのS11、S13、S14、S15及びS16と同様であるため説明を省略する。
【0070】
図5に示すS32では、図1に示したS12と同様に、金属成形品の組成の固相線温度Tsより融点Tmが高い形状保持層が金属成形品の表面に形成されるように金属成形品の処理を行う(形状保持層形成ステップ;図2参照)が、その形状保持層を形成するための具体的方法が図1を用いて説明した方法と異なる。
【0071】
一実施形態では、図5のS32に示すように、形状保持層形成ステップは、金属成形品の表面にメッキ処理を行うメッキステップを含む。メッキステップでは、金属成形品と反応する金属によって金属成形品の表面にメッキ層を形成する。メッキステップでは、金属成形品の表面に、メッキ層と金属成形品との反応層を形状保持層として形成する。
【0072】
これにより、金属成形品の表面に形成された上記反応層が形状保持層として機能し、第1熱処理時における金属成形品の変形を抑制することができる。また、上記メッキステップによって形状保持層を形成する場合、金属成形品とメッキ層との高い密着性を実現することができ、また、緻密な形状保持層の形成が可能となる。
【0073】
ここで、図1図4又は図5を用いて説明した方法により金属成形品の表面に形状保持層を形成する場合において、金属成形品の部分溶融による変形を防ぐために好ましい形状保持層の厚さについて、例を挙げて説明する。
【0074】
金属成形品の部分溶融による変形を防ぐために好ましい形状保持層の厚さは、固相線温度Tsに比較的近い第1温度T1での第1熱処理時に金属成形品の形状を維持するのに十分な厚さである。
【0075】
例えば、図6に示すように、直径200mm、高さ300mmの円柱形状の金属成形品を、台の上に置いて第1熱処理を行う場合を想定する。ここで、金属成形品の密度ρは8(g/cm)であり、温度及び状態によらず一定であると仮定する。また、金属成形品の表面には形状保持層が形成されており、熱処理温度(第1温度T1)における形状保持層の降伏応力σyが0.2×10〜2×10Paであると仮定する。
【0076】
この場合において、部分溶融により金属成形品の金属の粒界強度が低下し、自重の1〜10%が支えきれず形状保持層の内側にかかることを想定する。ここで、金属成形品の下面は台の上にあるため変形しないと仮定して、周方向の応力のみ考慮する。
【0077】
金属成形品の上面から鉛直下方への高さをhとすると、高さhの位置で自重により金属成形品に発生する応力P1は、P1=ρghによって表され、応力P1の最大値P1maxは、h=300mmの位置で生じ、P1max=ρgh=23537(Pa)となる。よって、自重の1〜10%が形状保持層にかかるとの仮定に基づき、形状保持層の内側にかかる応力P=235〜2354(Pa)となる。
【0078】
また、形状保持層に対して周方向にかかる応力σθは、形状保持層が薄肉円筒形状を有すると仮定し、形状保持層の外径をD、形状保持層の厚さをtとすると、σθ=DP/2tによって算出されるため、23.5/t<σθ<235/t(Pa)という関係式が導出される。この関係式と、σθが形状保持層の降伏応力を越えないために満たすべき関係式(σθ<0.2×10及びσθ<2×10)とを勘案すると、12μm<t<1175μmという関係式が得られる。
【0079】
よって、以上に示した例では、部分溶融による金属成形品の変形を防ぐために好ましい形状保持層の厚さtは、12μm〜1.2mmである。
このように、一実施形態では、第1熱処理中において形状保持膜に作用する推定応力に基づいて、形状保持層の必要厚さを予め決定し、形状保持層形成ステップでは、予め決定された必要厚さ以上の厚さの形状保持膜を金属成形品の表面に形成してもよい。
【0080】
次に、図1に示した金属成形品の製造方法のS11〜S13について、より詳細な具体例1を以下に示す。
まず、S11にて、N基耐熱合金の造形処理を行うことによりNi基耐熱合金の金属成形品を成形する(成形ステップ)。ここでは、側面が10mm四方で長さ70mmの四角柱形状の金属成形品を成形する。なお、示差熱分析によるNi基耐熱合金の固相線温度Tsは1300℃である。
【0081】
次に、S12において、10−3Torrの低真空度で上記金属成形品の第2熱処理を行う(形状保持層形成ステップ)。第2熱処理では、第2温度T2としての温度1200〜1260℃を一定の速さで昇温しながら10分間、上記金属成形品の熱処理を行う。
【0082】
これにより、Ni基耐熱合金の固相線温度Tsより融点Tmが高い形状保持層が上記金属成形品の表面に形成される。ここでは、酸化スケールと、酸化スケールの形成に伴って酸化スケールの下層に生じる元素欠乏層(Al及びCrが欠乏した欠乏層)とが上記金属成形品の表面に形成され、酸化スケール及び元素欠乏層からなる表層が、形状保持層として機能する。本願発明者によれば、厚さ約170μmの形状保持層が形成されたことが確認された(図7参照)。なお、第2熱処理を行う時間は特に限定されないが、好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上行うことにより、形状保持層を良好に形成することができる。
【0083】
次に、S13において、10−3Torrの低真空度で上記金属成形品の第1熱処理を行う(第1熱処理ステップ)。第1熱処理では、第1温度T1としての温度1270℃で24時間、上記金属成形品の第1熱処理を施す(第1熱処理ステップ)。第1熱処理は、第2熱処理の後に上記金属成形品が入った熱処理炉を開けずに、第2熱処理に連続して同一の熱処理炉内で行う。
【0084】
ここで、固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとすると、Ta=1200℃であり、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われる。また、固相線温度Tsよりも50℃低い温度を基準温度Tbとすると、Tb=1250℃であり、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップは、Tb≦T1≦Tmを満たすように行われる。なお、形状保持層が、上記のように複数の層(酸化スケール及び元素欠乏層)からなる場合には、複数の層のうち少なくとも一つの層(好ましくは全ての層)の融点Tmより第1温度T1が小さくなるように、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップが行われる。
【0085】
このように、金属成形品の金属組織において液相が出現し始める固相線温度Tsに比較的近い基準温度Ta以上の高温(第1温度T1)にて金属成形品の熱処理を行う場合であっても、金属成形品の表面に形成した形状保持層によって金属成形品の高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制することができる。よって、固相線温度Tsに近い又は固相線温度Tsを超える高温域での熱処理により、金属成形品の高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。
【0086】
図8は、比較例に係る金属成形品が高温での強度低下と部分溶融により変形した状態を示す断面図である。図8に示す比較例では、上述した四角柱形状を有するNi基耐熱合金の金属成形品について、図1におけるS12の形状保持層形成ステップを行うことなく1270℃で24時間熱処理を行った。この熱処理は、10−4Torrの真空度で行った。図8に示す比較例では、金属成形品の表面には形状保持層が形成されておらず、高温による強度低下と部分溶融に起因して、四角柱形状を有する金属成形品の下部に熱変形が生じた。
【0087】
次に、図1に示した金属成形品の製造方法のS11〜S13について、より詳細な具体例2を以下に示す。
【0088】
まず、S11にて、N基耐熱合金の造形処理を行うことによりNi基耐熱合金の金属成形品を成形する(成形ステップ)。ここでは、側面が10mm四方で長さ70mmの四角柱形状の金属成形品を成形する。なお、示差熱分析によるNi基耐熱合金の固相線温度Tsは1300℃である。
【0089】
S12において、10−3Torrの低真空度で上記金属成形品の第2熱処理を行う(形状保持層形成ステップ)。第2熱処理では、第2温度T2としての温度1200℃で1時間、上記金属成形品の熱処理を行う。
【0090】
これにより、Ni基耐熱合金の固相線温度Tsより融点Tmが高い形状保持層が上記金属成形品の表面に形成される。ここでは、酸化スケールと、酸化スケールの形成に伴って酸化スケールの下層に生じる元素欠乏層(Al及びCrが欠乏した欠乏層)とが上記金属成形品の表面に形成され、酸化スケール及び元素欠乏層からなる表層が、形状保持層として機能する。
【0091】
次に、S13において、10−3Torrの低真空度で上記金属成形品の第1熱処理を行う(第1熱処理ステップ)。第1熱処理では、第1温度T1としての温度1230℃で24時間、上記金属成形品の第1熱処理を施す(第1熱処理ステップ)。第1熱処理は、第2熱処理の後に上記金属成形品が入った熱処理炉を開けずに、第2熱処理に連続して同一の熱処理炉内で行う。
【0092】
ここで、固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとすると、Ta=1200℃であり、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われる。なお、形状保持層が、上記のように複数の層(酸化スケール及び元素欠乏層)からなる場合には、複数の層のうち少なくとも一つの層(好ましくは全ての層)の融点Tmより第1温度T1が小さくなるように、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップが行われる。
【0093】
このように、金属成形品の金属組織において液相が出現し始める固相線温度Tsに比較的近い基準温度Ta以上の高温(第1温度T1)にて金属成形品の熱処理を行う場合であっても、金属成形品の表面に形成した形状保持層によって金属成形品の強度低下による変形を抑制することができる。よって、固相線温度Tsに近い又は固相線温度Tsを超える高温域での熱処理により、金属成形品の強度低下による変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。
【0094】
次に、図1に示した金属成形品の製造方法のS11〜S13について、より詳細な具体例3を以下に示す。
【0095】
まず、S11にて、N基耐熱合金の造形処理を行うことによりNi基耐熱合金の金属成形品を成形する(成形ステップ)。ここでは、側面が10mm四方で長さ70mmの四角柱形状の金属成形品を成形する。なお、示差熱分析によるNi基耐熱合金の固相線温度Tsは1300℃である。
【0096】
S12において、10−1Torrの低真空度で上記金属成形品の第2熱処理を行う(形状保持層形成ステップ)。第2熱処理では、第2温度T2としての温度1200℃で1時間、上記金属成形品の熱処理を行う。
【0097】
これにより、Ni基耐熱合金の固相線温度Tsより融点Tmが高い形状保持層が上記金属成形品の表面に形成される。ここでは、酸化スケールと、酸化スケールの形成に伴って酸化スケールの下層に生じる元素欠乏層(Al及びCrが欠乏した欠乏層)とが上記金属成形品の表面に形成され、酸化スケール及び元素欠乏層からなる表層が、形状保持層として機能する。
【0098】
次に、S13において、10−1Torrの低真空度で上記金属成形品の第1熱処理を行う(第1熱処理ステップ)。第1熱処理では、第1温度T1としての温度1280℃で2時間、上記金属成形品の第1熱処理を施す(第1熱処理ステップ)。第1熱処理は、第2熱処理の後に上記金属成形品が入った熱処理炉を開けて、第2熱処理と非連続で実施する。
【0099】
ここで、固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとすると、Ta=1200℃であり、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われる。なお、形状保持層が、上記のように複数の層(酸化スケール及び元素欠乏層)からなる場合には、複数の層のうち少なくとも一つの層(好ましくは全ての層)の融点Tmより第1温度T1が小さくなるように、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップが行われる。
【0100】
このように、金属成形品の金属組織において液相が出現し始める固相線温度Tsに比較的近い基準温度Ta以上の高温(第1温度T1)にて金属成形品の熱処理を行う場合であっても、金属成形品の表面に形成した形状保持層によって金属成形品の高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制することができる。よって、固相線温度Tsに近い又は固相線温度Tsを超える高温域での熱処理により、金属成形品の高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。
【0101】
次に、図1に示した金属成形品の製造方法のS11〜S13について、より詳細な具体例4を以下に示す。
【0102】
まず、S11にて、N基耐熱合金の造形処理を行うことによりNi基耐熱合金の金属成形品を成形する(成形ステップ)。ここでは、側面が10mm四方で長さ70mmの四角柱形状の金属成形品を成形する。なお、示差熱分析によるNi基耐熱合金の固相線温度Tsは1300℃である。
【0103】
S12において、大気雰囲気で上記金属成形品の第2熱処理を行う(形状保持層形成ステップ)。第2熱処理では、第2温度T2としての温度1000℃で10分間、上記金属成形品の熱処理を行う。
【0104】
これにより、Ni基耐熱合金の固相線温度Tsより融点Tmが高い形状保持層が上記金属成形品の表面に形成される。ここでは、酸化スケールと、酸化スケールの形成に伴って酸化スケールの下層に生じる元素欠乏層(Al及びCrが欠乏した欠乏層)とが上記金属成形品の表面に形成され、酸化スケール及び元素欠乏層からなる表層が、形状保持層として機能する。
【0105】
次に、S13において、10−4Torrの低真空度で上記金属成形品の第1熱処理を行う(第1熱処理ステップ)。第1熱処理では、第1温度T1としての温度1320℃で2時間、上記金属成形品の第1熱処理を施す(第1熱処理ステップ)。第1熱処理は、第2熱処理の後に上記金属成形品が入った熱処理炉を開けて、第2熱処理と非連続で実施する。
【0106】
ここで、固相線温度Tsよりも100℃低い温度を基準温度Taとすると、Ta=1200℃であり、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップは、Ta≦T1≦Tmを満たすように行われる。なお、形状保持層が、上記のように複数の層(酸化スケール及び元素欠乏層)からなる場合には、複数の層のうち少なくとも一つの層(好ましくは全ての層)の融点Tmより第1温度T1が小さくなるように、形状保持層形成ステップ及び第1熱処理ステップが行われる。
【0107】
このように、金属成形品の金属組織において液相が出現し始める固相線温度Tsに比較的近い基準温度Ta以上の高温(第1温度T1)にて金属成形品の熱処理を行う場合であっても、金属成形品の表面に形成した形状保持層によって金属成形品の過度な高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制することができる。よって、固相線温度Tsに近い又は固相線温度Tsを超える高温域での熱処理により、金属成形品の過度な高温での強度低下や部分溶融による変形を抑制しつつ金属成形品の特性を適切に変化させることができる。
【0108】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0109】
P,P1 応力
P1max 最大値
T1 第1温度
T2 第2温度
Ta,Tb,Tc,Td,Te,Tf,Tg,Th 基準温度
Tm 融点
Ts 固相線温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12