特許第6809924号(P6809924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809924
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】排熱利用システム
(51)【国際特許分類】
   F27D 17/00 20060101AFI20201221BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20201221BHJP
   C21D 1/63 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   F27D17/00 101A
   F28D20/00 G
   C21D1/63
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-18895(P2017-18895)
(22)【出願日】2017年2月3日
(65)【公開番号】特開2018-124042(P2018-124042A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】光洋サーモシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】竹村 昌展
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮介
(72)【発明者】
【氏名】上田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】橋本 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真之佑
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−121790(JP,A)
【文献】 特開2010−048440(JP,A)
【文献】 特開2013−113478(JP,A)
【文献】 特開昭59−041786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 17/00
C21D 1/63
F28D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に所定の熱処理を施すための熱処理部と、
化学反応によって発熱反応を生じるように構成された化学蓄熱材と、
前記熱処理部とは別に設けられた熱源からの熱を前記化学蓄熱材に与えるための熱供給路と、
を備え、
前記化学蓄熱材は、前記熱供給路からの熱伝達による熱エネルギーと、前記発熱反応によって生じた熱エネルギーと、を前記熱処理部に与えるように構成されていることを特徴とする、排熱利用システム。
【請求項2】
請求項1に記載の排熱利用システムであって、
前記化学蓄熱材と前記熱処理部との間に配置される遮断扉をさらに備え、
前記遮断扉は、前記化学蓄熱材と前記熱処理部との間を遮断した状態と、前記化学蓄熱材と前記熱処理部との間の遮断を解除した状態と、を切替可能に構成されていることを特徴とする、排熱利用システム。
【請求項3】
請求項2に記載の排熱利用システムであって、
前記遮断扉は、断熱材を母材として含んでいることを特徴とする、排熱利用システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の排熱利用システムであって、
前記発熱反応を発生させる流体を前記化学蓄熱材に供給するための流体供給機構と、
前記遮断扉を駆動するための扉駆動機構と、
前記流体供給機構による前記化学蓄熱材への前記流体の供給、および、前記扉駆動機構による前記遮断扉の駆動を制御する制御部と、
をさらに備えていることを特徴とする、排熱利用システム。
【請求項5】
請求項4に記載の排熱利用システムであって、
前記制御部は、前記流体供給機構が前記流体を前記化学蓄熱材に供給する動作、および、前記扉駆動機構が前記遮断扉を駆動する動作を、異なるタイミングで開始させるように構成されていることを特徴とする、排熱利用システム。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の排熱利用システムであって、
前記熱源は、焼入炉の冷却槽を含み、
前記熱供給路は、前記冷却槽から前記化学蓄熱材へ前記冷却槽の熱を送るように構成されていることを特徴とする、排熱利用システム。
【請求項7】
請求項6に記載の排熱利用システムであって、
前記熱供給路は、前記冷却槽に貯められた冷却用液が通過する液体用通路と、前記冷却槽内の空間内の温められた気体が通過する気体用通路と、を含んでいることを特徴とする、排熱利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理のための装置に関連して設けられる排熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理の1つとして、焼入処理が挙げられる。焼入処理は、850℃程度の高温に加熱された金属製の被処理物を、約100℃の焼入油に投入することで、当該被処理物を急冷する。焼入処理では、被処理物は、急冷されることで、大量の熱を焼入油に奪われることとなる。その結果、焼入油の温度が上昇する。また、焼入油が貯められている油槽の上部空間の気体の温度も上昇する。そして、焼入油は、一定の温度を維持するために、熱交換器で冷却される。上部空間の高温の気体は、水冷ジャケット(熱交換器)によって冷却されるか、または、廃棄されている。
【0003】
上記の熱交換器が焼入油から奪う熱エネルギーと、油槽の上部空間に生じる気体の熱エネルギーの合計は、例えば、数百kgの金属が約850℃から約100℃付近まで冷却される際に放出する熱エネルギーに相当し、非常に大きい。このような大量の熱エネルギーを有効活用することは、重要である。
【0004】
ところで、熱エネルギーを回収して利用するための構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の構成は、高温の排気ガスを排出する廃熱源と、この廃熱源に連結された連結管を介して廃熱源の排気ガスが供給される熱処理炉と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−14515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、廃熱源からの熱エネルギーを溜めておくことができず、廃熱源からの熱エネルギーは、廃熱源の発熱時にのみ利用できるに過ぎない。その結果、実質的に利用できる廃熱が少なく、また、廃熱を利用するタイミングが制限されてしまう。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みることにより、より多くの排熱を利用できるとともに、排熱を利用するタイミングの自由度の高い排熱利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる排熱利用システムは、被処理物に所定の熱処理を施すための熱処理部と、化学反応によって発熱反応を生じるように構成された化学蓄熱材と、前記熱処理部とは別に設けられた熱源からの熱を前記化学蓄熱材に与えるための熱供給路と、を備え、前記化学蓄熱材は、前記熱供給路からの熱伝達による熱エネルギーと、前記発熱反応によって生じた熱エネルギーと、を前記熱処理部に与えるように構成されている。
【0009】
この構成によると、熱処理部とは別に設けられた(独立して設けられた)熱源から熱伝達によって与えられた熱を、化学蓄熱材で蓄積できる。このように、化学蓄熱材は、熱源からの熱を熱伝達によって蓄積するとともに、発熱反応に利用できる。これにより、熱源からの排熱をより多く利用できる。また、化学蓄熱材は、発熱反応を生じるタイミングを自由に設定できる。このため、熱源からの排熱が熱伝達によって化学蓄熱材に与えられたタイミングとは別のタイミングで、化学蓄熱材から熱処理部へ熱を伝達できる。これにより、排熱を利用するタイミングを自由に設定できる。以上の次第で、本発明によると、より多くの排熱を利用できるとともに、排熱を利用するタイミングの自由度の高い排熱利用システムを実現できる。
【0010】
(2)前記排熱利用システムは、前記化学蓄熱材と前記熱処理部との間に配置される遮断扉をさらに備え、前記遮断扉は、前記化学蓄熱材と前記熱処理部との間を遮断した状態と、前記化学蓄熱材と前記熱処理部との間の遮断を解除した状態と、を切替可能に構成されている場合がある。
【0011】
この構成によると、遮断扉による開閉動作によって、化学蓄熱材から熱処理部へ熱を与えるタイミングを自由に設定できる。例えば、化学蓄熱材への蓄熱時には、遮断扉を、化学蓄熱材と熱処理部との間を遮断した遮断状態とすることができる。遮断状態では、熱源からの熱エネルギーが化学蓄熱材に蓄積されている間、化学蓄熱材から熱が熱処理部に逃げてしまうことを抑制できる。これにより、化学蓄熱材により多くの熱エネルギーを蓄積できる。そして、化学蓄熱材から熱処理部へ熱を与える際には、遮断扉を、化学蓄熱材と熱処理部との間の遮断を解除した解除状態にすることができる。これにより、化学蓄熱材に十分な量の熱エネルギーが溜められた後で化学蓄熱材から熱処理部へ熱エネルギーを与えることができる。このように、遮断扉が設けられていることにより、より多くの排熱を利用できるとともに、排熱を利用するタイミングの自由度の高い排熱利用システムを実現できる。
【0012】
(3)前記遮断扉は、断熱材を母材として含んでいる場合がある。
【0013】
上記の構成によると、化学蓄熱材と熱処理部との間での熱エネルギーの意図しない無駄な移動が生じることを、より確実に抑制できる。
【0014】
(4)前記排熱利用システムは、前記発熱反応を発生させる流体を前記化学蓄熱材に供給するための流体供給機構と、前記遮断扉を駆動するための扉駆動機構と、前記流体供給機構による前記化学蓄熱材への前記流体の供給、および、前記扉駆動機構による前記遮断扉の駆動を制御する制御部と、をさらに備えている場合がある。
【0015】
上記の構成によると、化学蓄熱材が蓄熱する際における遮断扉の配置と、化学蓄熱材が放熱する際における遮断扉の配置のそれぞれについて、制御部による制御を実現できる。これにより、化学蓄熱材の発熱を開始するタイミングと、遮断扉を開ける(遮断状態から解除状態へ移行する)タイミングと、を制御部によって連動させることができる。これにより、化学蓄熱材の熱エネルギーをより効率よく熱処理部に伝達できる。その結果、より多くの排熱を利用できるとともに、排熱を利用するタイミングの自由度の高い排熱利用システムを実現できる。
【0016】
(5)前記制御部は、前記流体供給機構が前記流体を前記化学蓄熱材に供給する動作、および、前記扉駆動機構が前記遮断扉を駆動する動作を、異なるタイミングで開始させるように構成されている場合がある。
【0017】
上記の構成によると、例えば、流体供給機構が化学蓄熱材への流体の供給を開始することで、化学蓄熱材における発熱反応を開始させることができる。そして、化学蓄熱材での発熱量が十分に大きくなったタイミングで、遮断扉を開けることにより、化学蓄熱材で蓄積された熱エネルギーをより効率よく熱処理部に伝達できる。一方、例えば、化学蓄熱材における発熱反応の開始直後から遮断扉を開けることにより、熱処理部の昇温を化学蓄熱材によってより迅速に行うこともできる。
【0018】
(6)前記熱源は、焼入炉の冷却槽を含み、前記熱供給路は、前記冷却槽から前記化学蓄熱材へ前記冷却槽の熱を送るように構成されている場合がある。
【0019】
上記の構成によると、焼入炉において焼入対象物が冷却槽に投入されることで、焼入対象物から大量の熱エネルギーが冷却槽内に放出される。この大量の熱エネルギーを、化学蓄熱材で効率よく蓄積できる。その結果、より多くの排熱を熱処理部で利用できる。
【0020】
(7)前記熱供給路は、前記冷却槽に貯められた冷却用液が通過する液体用通路と、前記冷却槽内の空間内の温められた気体が通過する気体用通路と、を含んでいる場合がある。
【0021】
上記の構成によると、焼入対象物から冷却用液に放出された大量の熱エネルギーを、液体用通路を通じて化学蓄熱材に与えることができる。さらに、冷却槽内の高温の気体の持つ熱エネルギーを、気体用通路を通じて化学蓄熱材に与えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、より多くの排熱を利用できるとともに、排熱を利用するタイミングの自由度の高い排熱利用システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る排熱利用システムの模式図であり、第1熱処理部および第2熱処理部等については、側面から見た状態を示しており且つ一部を断面で示している。
図2】排熱利用システムの模式図であり、第1熱処理部および第2熱処理部等については、平面から見た状態を示しており且つ一部を断面で示している。
図3】排熱利用システムにおける熱処理動作の一例を示すフローチャートである。
図4】遮断扉が開いた状態を示す、排熱利用システムの模式図である。
図5】排熱利用システムの別の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る排熱利用システム1の模式図であり、第1熱処理部2および第2熱処理部3等については、側面から見た状態を示しており且つ一部を断面で示している。図2は、排熱利用システム1の模式図であり、第1熱処理部2および第2熱処理部3等については、平面から見た状態を示しており且つ一部を断面で示している。
【0026】
図1および図2を参照して、排熱利用システム1は、第1被処理物101の熱処理によって生じた熱エネルギーを排熱として利用しつつ、第2被処理物102の熱処理を行うように構成されている。本実施形態では、排熱利用システム1は、第1被処理物101に焼入処理を行うとともに、第2被処理物102に焼戻処理を行うためのシステムである。本実施形態では、各被処理物101,102が、歯車、シャフト等の金属部材である形態を例に説明する。
【0027】
排熱利用システム1は、第1熱処理部2と、第2熱処理部3と、蓄熱ユニット4と、制御部5と、を有している。
【0028】
第1熱処理部2は、第1被処理物101に熱処理を施すために用いられる。第2熱処理部3は、第2被処理物102に熱処理を施すために用いられる。第1被処理物101と第2被処理物102は、同一部材であってもよい。第1被処理物101と第2被処理物102とが同一部材の場合、第1被処理物101は、第1熱処理部2で熱処理された後、第2被処理物102として第2熱処理部3で熱処理を施される。なお、第1被処理物101と第2被処理物102は、互いに異なる部材であってもよい。
【0029】
第1熱処理部2は、本実施形態では、焼入炉であり、第1被処理物101に焼入処理を施すように構成されている。第1被処理物101は、予め850℃程度に熱せられた状態で、第1熱処理部2に投入されることで急冷される。
【0030】
第1熱処理部2は、第2熱処理部3とは別に設けられた(独立して設けられた)熱源としての冷却槽6を有している。
【0031】
冷却槽6は、例えば、箱形形状に形成されており、底壁6aと、底壁6aから上方に延びる側壁6bと、側壁6bの上部に配置された天壁6dと、を有している。
【0032】
冷却槽6には、冷却用液7が溜められている。冷却用液7は、例えば、油である。なお、冷却用液7として、水、ポリマー等、油以外の液体が用いられてもよい。冷却槽6における冷却用液7の液面の高さ位置は、冷却槽6の空間6cの上端位置よりも低く設定されている。これにより、冷却槽6内において、冷却用液7の上方に、気体が存在する空間6cが存在している。冷却槽6および冷却用液7は、高温の第1被処理物101が投入されることで発熱し、熱源として機能する。
【0033】
第2熱処理部3は、本実施形態では、焼戻炉であり、第2被処理物102に焼戻処理を施すように構成されている。第2被処理物102は、第2熱処理部3において、約150℃〜200℃程度まで加熱されることで、焼戻処理を施される。第2熱処理部3は、第1熱処理部2に隣接して配置されている。第1熱処理部2と第2熱処理部3との距離は、例えば、数m程度に設定される。なお、第1熱処理部2と第2熱処理部3とは、1つの筐体(図示せず)に収容されて1つのユニットを形成していてもよい。
【0034】
第2熱処理部3は、第2被処理物102に熱処理を行うための熱処理室8と、台座9と、ヒータ10と、を有している。
【0035】
熱処理室8は、中空の箱形形状に形成されており、底壁8a、底壁8aの上方に配置された天壁8b、および、底壁8aと天壁8bとの間に延びる側壁8c、を含んでいる。熱処理室8の側壁8cには、搬送用扉8dが設けられており、この搬送用扉8dを通して、第2被処理物102を熱処理室8に設けられた第1配置空間11に出し入れ可能である。
【0036】
第1配置空間11は、焼戻処理時に上述の温度まで加熱される空間である。第1配置空間11は、熱処理室8内において第2被処理物102を配置するための空間として形成されている。第1配置空間11には、第2被処理物102が載せられる台座9が設置されている。台座9は、例えば、底壁8aに載せられている。第1配置空間11の一部に、第2被処理物102が配置される。第2被処理物102は、台座9に設置されることで、化学蓄熱材24(詳細は後述)と向かい合う。そして、第2被処理物102と化学蓄熱材24との間に、遮断状態の遮断扉22(詳細は後述)が配置される。第2被処理物102が第1配置空間11内に配置された状態で、第2被処理物102の昇温(加熱)が行われる。
【0037】
本実施形態では、熱処理室8の側壁8cは、全体として、平面視で略矩形状に形成されている。この側壁8cの一部は、隔壁13を形成している。隔壁13は、蓄熱ユニット4の化学蓄熱材24が設置される第2配置空間12と、熱処理室8内の第1配置空間11とを隔離するために設けられている。隔壁13に、熱伝達用開口部14が形成されている。熱伝達用開口部14は、蓄熱ユニット4からの熱が伝えられる部分であり、隔壁13の一部を貫通するように形成されている。第1配置空間11内に、ヒータ10が配置されている。
【0038】
ヒータ10は、熱処理室8内の第1配置空間11の雰囲気および第2被処理物102を加熱するために設けられている。ヒータ10として、電熱ヒータ、および、ガスバーナを例示できる。なお、ヒータ10は、熱処理室8内の温度を所定の温度まで上昇できればよく、具体的な構成は限定されない。ヒータ10は、例えば棒状に形成されており、平面視で台座9を挟むようにして複数(本実施形態では、6つ)配置されている。上記の構成を有する第2熱処理部3の熱処理室8に、蓄熱ユニット4で溜められた排熱が与えられる。
【0039】
蓄熱ユニット4は、第1熱処理部2の冷却槽6における熱エネルギーを排熱として溜めておくために設けられている。蓄熱ユニット4は、第1熱処理部2および第2熱処理部3に接続されている。
【0040】
蓄熱ユニット4は、蓄熱材室21と、遮断扉22と、扉駆動機構23と、化学蓄熱材24と、熱反応用流体供給機構26と、熱供給路28と、を有している。
【0041】
蓄熱材室21は、化学蓄熱材24を収容している。蓄熱材室21は、中空の箱形形状に形成されており、底壁21a、底壁21aの上方に配置された天壁21b、および、底壁21aと天壁21bとの間に延びる側壁21c、を含んでいる。
【0042】
蓄熱材室21は、金属および断熱材の少なくとも一方を用いて形成されている。蓄熱材室21の底壁21a、天壁21bおよび側壁21cは、例えば、鋼材等の板部材で形成された中空の筐体に、断熱材を収容することで形成されている。このような断熱材として、ガラスファイバー、ロックウール、ケイ酸カルシウム、セラミックファイバー、アルミナファイバー等で成形された断熱材を例示できる。
【0043】
側壁21cは、全体として、平面視で例えばU字状に形成されており、熱処理室8の隔壁13と協働して、環状(本実施形態では、四角環状)の壁部を形成している。蓄熱材室21の底壁21aは、熱処理室8の底壁8aと連続している。蓄熱材室21の天壁21bは、熱処理室8の天壁8bと連続している。このような構成により、蓄熱材室21内に、第2配置空間12が設けられている。
【0044】
第2配置空間12は、化学蓄熱材24が配置される空間として形成されている。第2配置空間12は、第1配置空間11に隣接しており、第1配置空間11へ直接に熱を伝達することができる。本実施形態では、第1配置空間11と第2配置空間12とが直接連続するように配置されていることで、第2配置空間12から第1配置空間11への流体の移動のための専用の流体通路を設ける必要が無い。なお、第2配置空間12からの熱を強制的に第1配置空間11に伝達するための、ファン等の送風部材が、第1配置空間11または第2配置空間12内に設けられていてもよい。
【0045】
蓄熱材室21(化学蓄熱材24)と熱処理室8との間に、遮断扉22が配置されている。
【0046】
遮断扉22は、化学蓄熱材24と熱処理室8との間を遮断した遮断状態と、化学蓄熱材24と熱処理室8との間の遮断を解除した解除状態と、を切替可能に構成されている。換言すれば、遮断扉22は、第1配置空間11と第2配置空間12との間を遮断した遮断状態と、第1配置空間11と第2配置空間12との間の遮断を解除した解除状態と、を切替可能に構成されている。遮断扉22は、金属および断熱材の少なくとも一方を用いて形成されている。遮断扉22は、例えば、鋼材等の板部材で形成された中空の筐体に、断熱材を母材として収容することで形成されている。このような断熱材として、上述の断熱材を例示できる。遮断扉22の許容温度は、熱処理室2内の流体の設計上の最高温度より高く設定されている。
【0047】
遮断扉22は、本実施形態では、垂直に延びている。遮断扉22は、熱処理室2の隔壁13に形成された開口部14に、スライド可能に設置されている。これにより、遮断扉22は、隔壁13に対してスライドすることで、遮断状態と解除状態とに切り替わる。図1および図2では、遮断状態が示されている。
【0048】
遮断状態では、遮断扉22は、熱処理室8の隔壁13の開口部14の縁部と全周に亘って接触する位置としての遮断位置P21に配置されることで、第1配置空間11と第2配置空間12との間を全域に亘って遮断する。これにより、第1配置空間11と第2配置空間12との間における、熱および流体の移動が遮断される。遮断扉22が第1配置空間11と第2配置空間12との間を全域に亘って遮断することで、化学蓄熱材24に意図しない熱反応が生じることをより確実に抑制できる。
【0049】
解除状態では、遮断扉22は、少なくとも一部が開口部14から退避した位置P22(図4参照)に配置されることで、第1配置空間11と第2配置空間12とを連続させる。これにより、流体および熱は、第1配置空間11と第2配置空間12との間を移動可能となる。なお、遮断扉22は、上記の構成に限定されない。例えば、遮断扉22は、熱処理室2の隔壁13の開口部14を覆うように配置され一部に貫通孔部が形成されたベース部材と、このベース部材に支持され前記貫通孔部を開閉するシャッター部材と、を含んでいてもよい。
【0050】
遮断扉22は、扉駆動機構23によって駆動される。扉駆動機構23は、例えば蓄熱材室21に設置されている。扉駆動機構23は、例えば、電動モータと、電動モータの回転出力を直線運動に変換するラックアンドピニオン機構等の運動変換機構と、を含んでいる。そして、扉駆動機構23は、上記電動モータの駆動によって、遮断扉22を遮断状態の位置P21または解除状態の位置P22に配置する。なお、扉駆動機構23は、遮断扉22を遮断状態の位置P21と解除状態の位置P22とに変位させることが可能であればよく、具体的な構成は限定されない。
【0051】
化学蓄熱材24は、蓄熱材室21の例えば底壁21a上に配置されている。なお、化学蓄熱材24は、図示しない台座に載せられていてもよい。化学蓄熱材24は、第2熱処理部3の直ぐ隣に設置されており、伝熱部材を介することなく、直接的に第2被処理物102を加熱可能である。本実施形態では、2つの化学蓄熱材24(24a,24b)が設けられている。これらの化学蓄熱材24を総称していう場合、単に化学蓄熱材24という。化学蓄熱材24a,24bは、互いに隣接して配置されている。
【0052】
化学蓄熱材24は、流体を曝されることで化学反応によって発熱反応を発生可能な部材である。本実施形態では、化学蓄熱材24は、熱供給路28を介した冷却槽6からの熱伝達による熱エネルギーと、発熱反応によって生じた熱エネルギーとを、第2熱処理部3および第2被処理物102に与えるように構成されている。各化学蓄熱材24は、全体として例えば、四角柱のブロック状に形成されている。本実施形態では、各化学蓄熱材24は、流体との接触面積を可及的に大きくするために、粉末状のままの状態で、対応するケース25(25a,25b)に収容されている。各ケース25は、銅等の熱伝導性に優れた材料を用いて中空の柱状に形成されており、本実施形態では、四角柱状に形成されている。なお、化学蓄熱材24は、当該化学蓄熱材24に供給される流体に曝されることが可能に構成されていればよく、具体的な形状は限定されない。
【0053】
化学蓄熱材24は、発熱反応および吸熱反応を制御するため、雰囲気を調整できるように構成されている。このため、雰囲気の加熱促進時は、化学蓄熱材24に発熱促進剤が与えられることで発熱反応を生じる。また、化学蓄熱材24の吸熱促進時には、化学蓄熱材24に吸熱促進剤が与えられることで吸熱反応が生じる。本実施形態では、発熱促進剤として、水蒸気、もしくは水蒸気を含む空気、N、Ar等のガスを用い、また、吸熱促進剤として、乾燥ガス、例えば水蒸気を含まない乾燥空気、N、Ar等のガスを用いる形態を例に説明するけれども、この通りでなくてもよい。また、発熱促進剤と吸熱促進剤に水蒸気や乾燥ガス以外のものを用いる化学蓄熱材が化学蓄熱材24として用いられてもよい。
【0054】
化学蓄熱材24として、酸化マグネシウム/水系のケミカルヒートポンプを例示できる。酸化マグネシウム/水系のケミカルヒートポンプは、以下のような可逆的な化学反応を利用することで、水和発熱反応を行うことが可能であり、また、本実施形態では、脱水吸熱反応可能に構成されている。
MgO+HO⇔Mg(OH) 、 ΔH=−81.0kJ/モル…(1)
【0055】
上記(1)式中、右方向への反応は酸化マグネシウムの水和発熱反応である。一方、上記(1)式中、左方向への反応は水酸化マグネシウムの脱水吸熱反応である。このように、化学蓄熱材24は、水酸化マグネシウムの脱水吸熱反応によって熱エネルギーを蓄積できる。そして、化学蓄熱材24に蓄積された熱エネルギーは、酸化マグネシウムの水和反応によって、熱エネルギーとして第2配置空間12に放出される。このような原理によって、化学蓄熱材24は、ケミカルヒートポンプとして機能する。
【0056】
化学蓄熱材24として、酸化カルシウム/水系のケミカルヒートポンプが用いられてもよい。酸化カルシウム/水系のケミカルヒートポンプは、例えば、以下のような可逆的な化学反応を利用することで、熱反応を生じるように構成されている。
CaO+HO⇔Ca(OH)…(2)
【0057】
また、化学蓄熱材24として、マグネシウム−ニッケルを用いたケミカルヒートポンプが用いられてもよい。マグネシウム−ニッケルを用いたケミカルヒートポンプは、例えば、以下のような可逆的な化学反応を利用することで、熱反応を生じるように構成されている。
Mg0.5Ni0.5O+HO⇔Mg0.5Ni0.5(OH)…(3)
【0058】
また、化学蓄熱材24として、塩化カルシウム/水系のケミカルヒートポンプが用いられてもよい。塩化カルシウム/水系のケミカルヒートポンプは、例えば、以下のような可逆的な化学反応を利用することで、熱反応を生じるように構成されている。
CaCl+nHO⇔CaCl・nHO…(4)
【0059】
化学蓄熱材24は、発熱時の水蒸気温度と、脱水時の乾燥用ガスの温度とが異なっている。また、水和発熱反応時の化学蓄熱材24の温度域に対応する水蒸気量または水蒸気分圧と、脱水吸熱反応時の化学蓄熱材24の温度域に対応する水蒸気量または水蒸気分圧とが、異なっている。
【0060】
化学蓄熱材24には、熱反応用流体供給機構26が接続されている。
【0061】
熱反応用流体供給機構26は、化学蓄熱材24に水和発熱反応または脱水吸熱反応を生じさせる流体(媒体)を化学蓄熱材24に供給するために設けられている。化学蓄熱材24に水和発熱反応を発生させる際、熱反応用流体供給機構26は、化学蓄熱材24に水蒸気を供給する。一方、化学蓄熱材24に脱水吸熱反応を発生させる際、熱反応用流体供給機構26は、化学蓄熱材24に乾燥用ガスを供給する。
【0062】
熱反応用流体供給機構26は、水和発熱反応用ガス路としての水蒸気路29と、脱水吸熱反応用ガス路としての乾燥用ガス路30と、これら水蒸気路29および乾燥用ガス路30に接続された供給管31と、を有している。
【0063】
水蒸気路29は、水蒸気が通過する配管である。水蒸気路29の一端は、ボイラー等の図示しない水蒸気発生源に接続されており、水蒸気を供給される。水蒸気路29の他端には、電磁弁を用いて形成された開閉弁32が接続されている。
【0064】
乾燥用ガス路30は、乾燥用ガスが通過する配管である。乾燥用ガス路30の一端は、乾燥した空気を導入するブロワ(図示せず)に接続されている。このブロワは、乾燥した空気を送風することで、当該乾燥した空気を乾燥用ガスとして乾燥用ガス路30に送るように構成されている。なお、乾燥用ガス路30は、乾燥用ガスを収容したガスタンク(図示せず)に接続されていてもよい。乾燥用ガス路30の他端には、電磁弁を用いて形成された開閉弁33が接続されている。
【0065】
供給管31は、水蒸気または乾燥用ガスを化学蓄熱材24に導入するために設けられており、蓄熱材室21の底壁21aを貫通している。供給管31の一端は、2本に分かれており、それぞれ、蓄熱材室21の外部において、対応する開閉弁32,33に接続されている。供給管31の他端は、2本に分かれており、それぞれ、第2配置空間12において、対応する化学蓄熱材24a,24bのケース25a,25bの底部に接続されている。これにより、供給管31内の流体は、ケース25a,25b内に供給され、対応する化学蓄熱材24a,24bに曝される。
【0066】
各ケース25には、ケース25内の流体を排出するための排出管39が接続されている。排出管39は、対応するケース25a,25bの天壁および蓄熱材室21の天壁21bを貫通するように設けられており、ケース25a,25b内の流体を蓄熱材室21の外部に排出する。蓄熱材室21の外部において、各排出管39の中間部には、電磁弁を用いて形成された開閉弁38が設けられている。上記の構成を有する熱反応用流体供給機構26に関連して、熱供給路28が設けられている。
【0067】
熱供給路28は、第2熱処理部3とは別に設けられた熱源としての第1熱処理部2からの熱を化学蓄熱材24に与えるために設けられている。熱供給路28は、第1熱処理部2の冷却槽6に存在する流体を化学蓄熱材24に向けて送ることで、冷却槽6からの熱を化学蓄熱材24に送る。そして、熱供給路28は、冷却槽6から化学蓄熱材24に送られた流体を再び冷却槽6に戻す。
【0068】
熱供給路28は、冷却槽6に貯められた冷却用液7が通過する液体用通路41と、冷却槽6内の空間内の温められた気体(吸熱型炉気等の雰囲気ガス、蒸気等)が通過する気体用通路45と、を含んでいる。本実施形態では、液体用通路41は、化学蓄熱材24aへ冷却用液7を供給し、気体用通路45は、化学蓄熱材24bへ冷却槽6内の気体を供給するように構成されている。なお、各通路41,45の何れもが、化学蓄熱材24a,24bの双方に流体を供給する構成が採用されてもよい。
【0069】
液体用通路41は、配管を用いて形成されており、往路42と、熱伝達部43と、復路44と、を有している。
【0070】
往路42は、冷却槽6内の冷却用液7を冷却槽6から化学蓄熱材24aへ向けて送り出すために設けられている。往路42の一端は、冷却槽6の下部に接続されており、冷却用液7を取り込むように配置されている。冷却槽6および蓄熱材室21の外部において、往路42の中間部には、電磁弁を用いて形成された開閉弁34が設けられているとともに、液体用ポンプ49が設けられている。液体用ポンプ49は、冷却用液7を、往路42、熱伝達部43、復路44を通して冷却槽6に循環させるために設けられている。液体用ポンプ49は、液体の搬送に適したポンプである。このようなポンプとして、例えば、容積型ポンプ、ターボ型ポンプを例示できる。また、往路42の中間部は、蓄熱材室21の側壁21cを貫通している。往路42の他端は、熱伝達部43の一端に連続している。
【0071】
熱伝達部43は、冷却用液7の熱を化学蓄熱材24aに伝達するために設けられている。熱伝達部43の外表面は、化学蓄熱材24aに接触するように配置されている。本実施形態では、熱伝達部43は、化学蓄熱材24a内において螺旋状に延びている。このように、熱伝達部43は、化学蓄熱材24aとの接触面積をより多く構成されていることが好ましい。熱伝達部43の他端は、復路44に接続されている。
【0072】
復路44は、冷却用液7を化学蓄熱材24aから冷却槽6へ向けて戻すために設けられている。復路44の一端は、熱伝達部43の他端に接続されているとともに、蓄熱材室21の側壁21cを貫通している。冷却槽6および蓄熱材室21の外部において、復路44の中間部には、電磁弁を用いて形成された開閉弁35が設けられている。復路44の他端は、冷却槽6に接続されており、冷却用液7を冷却槽6に戻すように配置されている。
【0073】
気体用通路45は、配管を用いて形成されており、往路46と、熱伝達部47と、復路48と、を有している。
【0074】
往路46は、第1被処理物101が冷却用液7に投入されることで加熱された冷却槽6内の気体を冷却槽6から化学蓄熱材24bへ向けて送り出すために設けられている。往路46の一端は、冷却槽6の上部に接続されており、冷却槽6の空間6c内の気体を取り込むように配置されている。冷却槽6および蓄熱材室21の外部において、往路46の中間部には、電磁弁を用いて形成された開閉弁36が設けられているとともに、気体用ポンプ50が設けられている。気体用ポンプ50は、気体を、往路46、熱伝達部47、復路48を通して冷却槽6に循環させるために設けられている。気体用ポンプ50は、気体の搬送に適したポンプである。このようなポンプとして、例えば、スクロールコンプレッサを例示できる。また、往路46の中間部は、蓄熱材室21の側壁21cを貫通しており、熱伝達部47の一端に連続している。
【0075】
熱伝達部47は、気体の熱を化学蓄熱材24bに伝達するために設けられている。熱伝達部47の外表面は、化学蓄熱材24bに接触するように配置されている。本実施形態では、熱伝達部47は、化学蓄熱材24b内において螺旋状に延びている。このように、熱伝達部47は、化学蓄熱材24bとの接触面積をより多く構成されていることが好ましい。熱伝達部47の他端は、復路48に接続されている。
【0076】
復路48は、気体を化学蓄熱材24bから冷却槽6へ向けて戻すために設けられている。復路48の一端は、熱伝達部47の他端に接続されているとともに、蓄熱材室21の側壁21cを貫通している。冷却槽6および蓄熱材室21の外部において、復路48の中間部には、電磁弁を用いて形成された開閉弁37が設けられている。復路48の他端は、冷却槽6の上部に接続されており、気体を冷却槽6に戻すように配置されている。
【0077】
上記のヒータ10、扉駆動機構23、開閉弁32〜38、および、ポンプ49,50は、制御部5に電気的に接続されており、当該制御部5によって制御される。
【0078】
制御部5は、所定の入力信号に基づいて、所定の出力信号を出力する構成を有し、たとえば、安全プログラマブルコントローラなどを用いて形成することができる。安全プログラマブルコントローラとは、JIS(日本工業規格) C 0508−1のSIL2またはSIL3の安全機能をもつ公的に認証されたプログラマブルコントローラをいう。なお、制御部5は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含むコンピュータ等を用いて形成されていてもよい。
【0079】
制御部5は、ヒータ10、扉駆動機構23、開閉弁32〜38、および、ポンプ49,50を制御することで、排熱利用システム1における熱処理動作を制御する。その結果、制御部5は、第2熱処理部3の加熱動作、熱反応用流体供給機構26による化学蓄熱材24への水蒸気および乾燥用ガスの択一的供給動作、熱供給路28による冷却槽6から化学蓄熱材24への排熱伝達、および、扉駆動機構23による遮断扉22の駆動を制御する。また、本実施形態では、制御部5は、熱反応用流体供給機構26が流体を化学蓄熱材24に供給する動作、および、扉駆動機構23が遮断扉22を駆動する動作を、異なるタイミングで開始させる。
【0080】
次に、排熱利用システム1における熱処理動作の一例について説明する。図3は、排熱利用システム1における熱処理動作の一例を示すフローチャートである。なお、以下では、フローチャートを参照しながら説明する場合、他の図も適宜参照しながら説明する。
【0081】
排熱利用システム1における熱処理動作が行われていない停止時、制御部5は、全ての開閉弁32〜38を閉じるとともに、ポンプ49,50およびヒータ10を停止し、さらに、遮断扉22が開口部14を閉じた状態にする。そして、排熱利用システム1における熱処理動作においては、まず、第1熱処理部2の熱が化学蓄熱材24へ供給される(ステップS1)。具体的には、作業者等によって第1被処理物101が第1熱処理部2の冷却槽6に投入されることで、冷却槽6内の冷却用液7が第1被処理物101を冷却するとともに、第1被処理物101から熱を受け取る。即ち、冷却槽6内の冷却用液7が加熱されるとともに冷却槽6の上部の空間6cに存在する気体の温度も上昇する。なお、第1熱処理部2の熱が化学蓄熱材24へ供給される間、第2熱処理部3の熱処理室8内において、1つ前の処理フローで熱処理された第2被処理物102の降温動作が行われていてもよい。
【0082】
ステップS1において、制御部5は、熱供給路28における全ての開閉弁34,35,36,37を開くとともに、液体用ポンプ49および気体用ポンプ50を駆動する。これにより、冷却槽6の冷却用液7および気体は、それぞれ、対応する液体用通路41および気体用通路45を通って対応する化学蓄熱材24a,24bに熱を伝達する。これにより、各化学蓄熱材24a,24bが加熱される。
【0083】
次に、制御部5は、ヒータ10による第2被処理物102の加熱を開始させる(ステップS2)。これにより、第2熱処理部3の熱処理室8内の第1配置空間11は、ヒータ10によって加熱される。ヒータ10による加熱動作開始の後、または、ヒータ10による加熱動作開始と同時に、制御部5は、化学蓄熱材24に水和発熱反応を生じさせるための流体を化学蓄熱材24に供給させる(ステップS3)。具体的には、制御部5は、化学蓄熱材24a,24bの各排出管39の開閉弁38を開くとともに、水蒸気路29の開閉弁32を開く。これにより、水蒸気は、水蒸気路29および供給管31を通って各化学蓄熱材24a,24bに供給され、これらの化学蓄熱材24a,24bに曝される。この水蒸気によって、化学蓄熱材24a,24bに水和発熱反応を生じさせる。
【0084】
そして、化学蓄熱材24における水和発熱反応の発生から所定時間経過の後、制御部5は、扉駆動機構23に遮断扉22を開かせる(ステップS4、図4参照)。これにより、冷却槽6からの熱伝達によって化学蓄熱材24a,24bに貯められた熱と、化学蓄熱材24a,24bの水和発熱反応によって生じた熱は、開口部14を通して第2熱処理部3の熱処理室8に供給され、熱処理室8内の第1配置空間11が加熱される。すなわち、ヒータ10による加熱に加えて、補助熱源としての化学蓄熱材24a,24bからの熱によって、第2被処理物102が迅速に加熱される。このような加熱動作によって、第2被処理物102が焼戻処理される。
【0085】
そして、化学蓄熱材24における水和発熱反応の開始後所定時間が経過し、化学蓄熱材24の発熱反応が低下するか、または、第2被処理物102に十分な熱が与えられると、熱反応用流体供給機構26による化学蓄熱材24への水蒸気の供給が停止される(ステップS5)。具体的には、制御部5は、水蒸気路29の開閉弁32を閉じることで、化学蓄熱材24への水蒸気の供給を停止させる。
【0086】
次に、制御部5は、扉駆動機構23を駆動させることで、図2に示すように、遮断扉22を閉じる(ステップS6)。これにより、熱処理室8と蓄熱材室21との間における、熱および流体の移動が遮断される。
【0087】
次に、制御部5は、化学蓄熱材24に脱水吸熱反応を生じさせるための流体としての乾燥ガスを化学蓄熱材24に供給する(ステップS7)。具体的には、制御部5は、乾燥用ガス路30の開閉弁33を開く。これにより、乾燥用ガスは、乾燥用ガス路30および供給管31を通って各化学蓄熱材24a,24bに供給され、これらの化学蓄熱材24a,24bに曝される。この乾燥用ガスは、化学蓄熱材24に脱水吸熱反応を生じさせる。これにより、化学蓄熱材24は、次の水和発熱反応のための準備を行う。なお、化学蓄熱材24の脱水吸熱反応の後に遮断扉22が閉じられてもよい。この場合、第2被処理物102の加熱後における熱処理室8の降温工程を、化学蓄熱材24によって促進できる。
【0088】
次に、制御部5は、第2熱処理部3のヒータ10をオフにするとともに、ポンプ49,50を停止し、さらに、熱供給路28の全ての開閉弁34〜37を閉じる(ステップS8)。これにより、冷却槽6から化学蓄熱材24への排熱供給が停止されるとともに、第2熱処理部3における加熱処理が完了する。
【0089】
以上説明したように、排熱利用システム1によると、第2熱処理部3とは別に設けられた(独立して設けられた)熱源としての第1熱処理部2の冷却槽6から熱伝達によって与えられた熱を、化学蓄熱材24で蓄積できる。このように、化学蓄熱材24は、冷却槽6からの熱を熱伝達によって蓄積するとともに、水和発熱反応に利用できる。これにより、冷却槽6からの排熱をより多く利用できる。また、化学蓄熱材24は、熱反応用流体供給機構26からの流体を曝されるタイミングに応じて水和発熱反応を生じることができるので、水和発熱反応を生じるタイミングを自由に設定できる。このため、冷却槽6からの排熱が熱伝達によって化学蓄熱材24に与えられたタイミングとは別のタイミングで、化学蓄熱材24から第2熱処理部3へ熱を伝達できる。これにより、排熱を利用するタイミングを自由に設定できる。以上の次第で、より多くの排熱を利用できるとともに、排熱を利用するタイミングの自由度の高い排熱利用システム1を実現できる。
【0090】
また、排熱利用システム1によると、化学蓄熱材24と第2熱処理部3との間に配置される遮断扉22は、化学蓄熱材24と第2熱処理部3との間を遮断した遮断状態と、化学蓄熱材24と第2熱処理部3との間の遮断を解除した解除状態と、を切替可能に構成されている。この構成によると、遮断扉22による開閉動作によって、化学蓄熱材24から第2熱処理部3へ熱を与えるタイミングを自由に設定できる。例えば、化学蓄熱材24への蓄熱時には、遮断扉22を、化学蓄熱材24と第2熱処理部3との間を遮断した遮断状態とすることができる。遮断状態では、冷却槽6からの熱エネルギーが化学蓄熱材24に蓄積されている間、化学蓄熱材24から熱が第2熱処理部3に逃げてしまうことを抑制できる。これにより、化学蓄熱材24により多くの熱エネルギーを蓄積できる。そして、化学蓄熱材24から第2熱処理部3へ熱を与える際には、遮断扉22を、化学蓄熱材24と第2熱処理部3との間の遮断を解除した解除状態にすることができる。これにより、化学蓄熱材24に十分な量の熱エネルギーが溜められた後で化学蓄熱材24から第2熱処理部3へ熱エネルギーを与えることができる。このように、遮断扉22が設けられていることにより、より多くの排熱を利用できるとともに、排熱を利用するタイミングの自由度の高い排熱利用システム1を実現できる。
【0091】
また、排熱利用システム1によると、遮断扉22は、断熱材を母材として含んでいる。この構成によると、化学蓄熱材24と第2熱処理部3との間での熱エネルギーの意図しない無駄な移動が生じることを、より確実に抑制できる。
【0092】
また、排熱利用システム1によると、制御部5は、流体供給機構26による化学蓄熱材24への流体の供給、および、扉駆動機構23による遮断扉22の駆動を制御するように構成されている。この構成によると、化学蓄熱材24が蓄熱する際における遮断扉22の配置と、化学蓄熱材24が放熱する際における遮断扉22の配置のそれぞれについて、制御部5による制御を実現できる。これにより、化学蓄熱材24の発熱を開始するタイミングと、遮断扉22を開ける(遮断状態から解除状態へ移行する)タイミングと、を制御部5によって連動させることができる。これにより、化学蓄熱材24の熱エネルギーをより効率よく第2熱処理部3に伝達できる。その結果、より多くの排熱を利用できるとともに、排熱を利用するタイミングの自由度の高い排熱利用システム1を実現できる。
【0093】
また、排熱利用システム1によると、制御部5は、流体供給機構26が流体を化学蓄熱材24に供給する動作、および、扉駆動機構23が遮断扉22を駆動する動作を、異なるタイミングで開始させるように構成されている。この構成によると、例えば、流体供給機構26が化学蓄熱材24への流体の供給を開始することで、化学蓄熱材24における水和発熱反応を開始させることができる。そして、化学蓄熱材24での発熱量が十分に大きくなったタイミングで、遮断扉22を開けることにより、化学蓄熱材24で蓄積された熱エネルギーをより効率よく第2熱処理部3に伝達できる。一方、例えば、化学蓄熱材24における水和発熱反応の開始直後から遮断扉22を開けることにより、第2熱処理部3の昇温を化学蓄熱材24によってより迅速に行うこともできる。
【0094】
また、排熱利用システム1によると、熱供給路28は、冷却槽6から化学蓄熱材24へ冷却槽6の熱を送るように構成されている。この構成によると、焼入炉である第1熱処理部2において第1被処理物101が冷却槽6に投入されることで、第1被処理物101から大量の熱エネルギーが冷却槽6内に放出される。この大量の熱エネルギーを、化学蓄熱材24で効率よく蓄積できる。その結果、より多くの排熱を第2熱処理部3で利用できる。
【0095】
また、排熱利用システム1によると、冷却槽6に貯められた冷却用液7が通過する液体用通路41と、冷却槽6内の空間内の温められた気体が通過する気体用通路45と、が設けられている。この構成によると、第1被処理物101から冷却用液7に放出された大量の熱エネルギーを、液体用通路41を通じて化学蓄熱材24aに与えることができる。さらに、冷却槽6内の高温の気体の持つ熱エネルギーを、気体用通路45を通じて化学蓄熱材24bに与えることができる。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0097】
(1)上述の実施形態では、主に、第1熱処理部2が焼入炉であり、第2熱処理部3が焼戻炉である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、第1熱処理部2に代えて別の第1熱処理部が設けられ、第2熱処理部3に代えて別の第2熱処理部が設けられた排熱利用システムを採用してもよい。この場合、上記別の熱処理部で行われる熱処理の例として、被処理物を乾燥するための乾燥処理を挙げることができ、また、上記別の第2熱処理部で行われる熱処理の例として、洗浄処理を挙げることができる。この場合、上記別の第1熱処理部は、乾燥装置であり、上記別の第2熱処理部は、洗浄機である。そして、乾燥装置からの排熱は、洗浄機の加熱源として利用することができる。なお、上記別の第1熱処理部と上記別の第2熱処理部とは、同じ熱処理を行う装置であってもよい。また、第1熱処理部2と上記別の第2熱処理部とが設けられる構成が採用されてもよい。このような構成として、第1熱処理部2が焼入炉であり、上記別の第2熱処理部が洗浄機である形態を例示できる。また、上記別の第1熱処理部と第2熱処理部3(焼戻炉)とが設けられる構成を採用してもよい。
【0098】
このように、本発明の排熱利用システムは、第1熱処理部2または上記別の第1熱処理部の排熱を利用して第2熱処理部3または上記別の第2熱処理部の熱処理を行う構成であればよく、具体的な熱処理の種類については、限定されない。
【0099】
(2)また、上述の実施形態では、熱供給路28に液体用通路41および気体用通路45が設けられている形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。液体用通路41および気体用通路45の何れか一方が省略されてもよい。
【0100】
(3)また、上述の実施形態では、冷却槽6内の流体を、熱供給路28を通して化学蓄熱材24に送ることで、冷却槽6の熱を化学蓄熱材24に与える構成を説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。冷却槽6内の熱を化学蓄熱材24a,24bに与えることが可能な構成であれば、他の構成であってもよい。このような構成の一例として、図5に示すように、熱供給路28に代えて、熱供給路28A,28Bを設ける構成を例示できる。
【0101】
熱供給路28A,28Bは、ヒートパイプである。熱供給路28Aの一端は、冷却槽6の下部に接続されており、冷却槽6内の冷却用液7の熱を伝達されるように構成されている。熱供給路28Aの他端は、蓄熱材室21の側壁21cおよびケース25aを貫通し、化学蓄熱材24aに接触している。これにより、冷却槽6内の冷却液7aの熱は、熱供給路28Aを通して化学蓄熱材24aに伝達される。また、熱供給路28Bの一端は、冷却槽6の上部に接続されており、冷却槽6内の気体の熱を伝達されるように構成されている。熱供給路28Bの他端は、蓄熱材室21の側壁21cおよびケース25bを貫通し、化学蓄熱材24bに接触している。これにより、冷却槽6内の気体の熱は、熱供給路28Bを通して化学蓄熱材24bに伝達される。
【0102】
図5に示す構成では、冷却槽6から化学蓄熱材24への熱移動に機械的なポンプを設ける必要が無い。
【0103】
(4)また、上述の実施形態において、化学蓄熱材24に、金属等の比較的大きな比熱を有する部材を熱保持部材として埋設してもよい。熱保持部材は、化学蓄熱材24を収容する蓄熱材ケース25に接触するようにして蓄熱材ケース25の外部に取り付けられてもよい。この熱保持部材は、冷却槽6から伝達された熱エネルギーを物理的に蓄積することで、冷却槽6の排熱をより多く化学蓄熱材24に伝達する機能を発揮できる。
【0104】
(5)また、上述の実施形態では、2つの化学蓄熱材24a,24bが設けられた形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。化学蓄熱材24の数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。
【0105】
(6)以上、本発明の実施形態および変形例について説明したけれども、本発明は、上述した構成の通りでなくてもよい。本発明は、被処理物に所定の熱処理を施すための熱処理部と、化学反応によって発熱反応を生じるように構成された化学蓄熱材と、熱処理部とは別に設けられた熱源からの熱を化学蓄熱材に与えるための熱供給路と、を有していればよく、他の構成は、設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、排熱利用システムとして、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1,1A 排熱利用システム
2 第1熱処理部
3 第2熱処理部(熱処理部)
5 制御部
6 冷却槽(熱源)
7 冷却用液
22 遮断扉
23 扉駆動機構
24 化学蓄熱材
26 熱反応用流体供給機構(流体供給機構)
28,28A,28B 熱供給路
41 液体用通路
45 気体用通路
102 第2被処理物(被処理物)
図1
図2
図3
図4
図5