(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記雑音信号分離部は、前記第1指向性信号および前記第2指向性信号と、前記第1および第2のマイクロホンユニットの前記出力信号との関係を示す関係式から導出される、前記第1雑音信号および前記第2雑音信号と前記個別雑音信号との関係式に従って、前記第1雑音信号および前記第2雑音信号を変換することにより、前記個別雑音信号を得る、
請求項1に記載の雑音抽出装置。
前記第2の雑音信号抽出部は、前記第2指向性信号を、前記第1および第2のマイクロホンユニットの前記出力信号を指向性合成して生成し、前記第2指向性信号に含まれる前記第2雑音信号を抽出する、
請求項1に記載の雑音抽出装置。
前記第1および第2の信号減算部は、前記第1音響信号を、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれの出力信号として、前記第1の雑音信号抽出部および前記第2の雑音信号抽出部に出力し、
前記第1の雑音信号抽出部および前記第2の雑音信号抽出部は、前記第1音響信号を指向性合成した信号である第3指向性信号に含まれる第3雑音信号および前記第1音響信号を前記第3指向性信号とは指向性合成の条件が異なる指向性合成した信号である第4指向性信号に含まれる第4雑音信号を抽出して前記雑音信号分離部に出力し、
前記雑音信号分離部は、前記第3雑音信号および前記第4雑音信号を、前記第1音響信号に含まれる前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離して、前記第1および第2の信号減算部に出力し、
前記第1および第2の信号減算部は、前記雑音信号分離部から出力された前記第1音響信号に含まれる前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号を、前記第1音響信号から減算する、
請求項11に記載のマイクロホン装置。
空間的に異なる位置に設けられ、音を収音するための第1および第2のマイクロホンユニットの出力信号を指向性合成した信号である第1指向性信号に含まれる第1雑音信号を抽出する第1の雑音信号抽出ステップと、
前記第1指向性信号とは指向性合成の条件が異なる第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を得る第2の雑音信号抽出ステップと、
前記第1雑音信号と前記第2雑音信号とを、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離する雑音信号分離ステップとを含む、
雑音抽出方法。
空間的に異なる位置に設けられ、音を収音するための第1および第2のマイクロホンユニットの出力信号を指向性合成した信号である第1指向性信号に含まれる第1雑音信号を抽出する第1の雑音信号抽出ステップと、
前記第1指向性信号とは指向性合成の条件が異なる第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を得る第2の雑音信号抽出ステップと、
前記第1雑音信号と前記第2雑音信号とを、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離する雑音信号分離ステップとを、
コンピュータに動作させるためのプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の基礎となった知見)
2つ以上のマイクロホンユニットの出力信号を信号処理して出力を得るマイクロホン装置では、音を収音するためのマイクロホンユニットに混入する振動雑音、風雑音またはマイクロホンユニット固有雑音など2つ以上のマイクロホンユニットで個別に発生する雑音がある。ここで、振動雑音は、例えば手に持って操作した際にマイクロホンに伝わるタッチノイズ、およびマイクロホンユニットの筺体の振動など振動によるノイズである。風雑音は、風がふいた際に、マイクロホンを構成する振動板を動かすノイズなど風によるノイズである。マイクロホンユニット固有雑音は、マイクロホンを構成する例えばエレクトレットコンデンサマイク(ECM)に内蔵されているFETなどで発生する熱雑音など、マイクロホンユニット固有が発するノイズである。
【0012】
また、当該マイクロホン装置における2つ以上のマイクロホンユニットそれぞれにおいて個別に発生する雑音は、マイクロホンユニット間で相関のない(無相関な)信号である。一方、当該マイクロホン装置が収音する音波は、複数のマイクロホンユニット間で相関がある信号である。音波は複数のマイクロホンユニット間で相関がある信号であることから、2つのマイクロホンユニットの出力信号を信号処理することによって合成した音圧傾度型の指向性信号は、上記のような雑音に弱くなることが知られている。
【0013】
特許文献1に記載の雑音抽出装置では、上述したように、2つのマイクロホンユニットの出力信号を信号処理して得た音圧傾度型の単一指向性の指向性信号が、無指向性の指向性信号と比較して雑音感度が高いことを利用し、複数種類の指向性信号から音波成分を相殺して雑音信号を抽出する。つまり、特許文献1に記載の雑音抽出装置は、複数のマイクロホンユニットの出力信号を合成した指向性信号に含まれる雑音信号を抽出することができる。
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の音抽出装置では、2つのマイクロホンユニットの出力信号それぞれに混入するマイクロホンユニットで個別に発生する雑音信号をマイクロホンユニット毎(個別)に推定できないという課題がある。
【0015】
さらに、近年、音源分離、適応ビームフォーマまたは音源探査などにおいて、マイクロホンユニットの出力信号を用いてアレイ信号処理を行ことも多くなっており、個々のマイクロホンユニットの信号に含まれる雑音信号を抽出する必要がある。
【0016】
そこで、発明者らは、これらのことを鑑み、個々のマイクロホンユニットで発生する雑音信号を抽出することができる雑音抽出装置等を想到した。
【0017】
すなわち、本発明の一態様に係る雑音抽出装置は、空間的に異なる位置に設けられ、音を収音するための第1および第2のマイクロホンユニットと、前記第1および第2のマイクロホンユニットの出力信号を指向性合成した信号である第1指向性信号に含まれる第1雑音信号を抽出する第1の雑音信号抽出部と、前記第1指向性信号とは指向性合成の条件が異なる第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を得る第2の雑音信号抽出部と、前記第1雑音信号と前記第2雑音信号とを、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離する雑音信号分離部を備える。
【0018】
この構成により、空間的に異なる位置に設けられた2つ以上のマイクロホンユニットについて、音響信号に混入する振動雑音、風雑音やマイクロホンユニット固有雑音などの雑音信号をマイクロホンユニット毎に抽出することができる。
【0019】
ここで、例えば、記雑音信号分離部は、前記第1指向性信号および前記第2指向性信号と、前記第1および第2のマイクロホンユニットの前記出力信号との関係を示す関係式から導出される、前記第1雑音信号および前記第2雑音信号と前記個別雑音信号との関係式に従って、前記第1雑音信号および前記第2雑音信号を変換することにより、前記個別雑音信号を得るとしてもよい。
【0020】
また、例えば、前記第2の雑音信号抽出部は、前記第2指向性信号を、前記第1および第2のマイクロホンユニットの前記出力信号を指向性合成して生成し、前記第2指向性信号に含まれる前記第2雑音信号を抽出するとしてもよい。
【0021】
ここ、例えば、前記第1の雑音信号抽出部および第2の雑音信号抽出部は、前記第1および第2のマイクロホンユニットの前記出力信号を指向性合成して、雑音感度が異なるが、音圧に対する指向特性が一致し、かつ、音響的中心位置が一致する、2つの指向性信号を生成する指向性合成部と、前記2つの指向性信号の一方から他方を減算することで、前記一方の指向性信号から、音響成分を打ち消して、雑音成分の振幅値を抽出する信号相殺演算部と前記2つの指向性信号の雑音感度の高い方の前記指向性信号に加算された主軸方向が異なる単一指向性の2つの信号のうちの一方と前記信号相殺演算部の出力信号とから雑音波形信号を復元して出力する信号復元部とを備えるとしてもよい。
【0022】
また、例えば、前記第1指向性信号の指向性主軸方向と、前記第2指向性信号の指向性主軸方向とは、互いに逆方向であるとしてもよい。
【0023】
また、例えば、前記第2雑音信号は、前記第1雑音信号を逆位相にしたものであり、前記第2の雑音信号抽出部は、前記第1の雑音信号抽出部から出力された前記第1雑音信号を逆位相にすることにより前記第2雑音信号を得るとしてもよい。
【0024】
また、例えば、前記第1指向性信号の指向性主軸方向と、前記第2指向性信号の指向性主軸方向とは、同一方向であり、前記第1指向性信号と前記第2指向性信号とは、前記第1および第2のマイクロホンユニットの前記出力信号を指向性合成する際の合成係数が異なるとしてもよい。
【0025】
また、例えば、前記合成係数は、利得値であり、前記第1指向性信号と前記第2指向性信号とは、記第1および第2のマイクロホンユニットのうちの一方の出力信号に異なる利得値が乗算して指向性合成された信号であるとしてもよい。
【0026】
また、例えば、前記個別雑音信号は、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する風雑音および振動雑音のうち少なくとも一つを含む雑音を示す信号であるとしてもよい。
【0027】
また、上記目的を達成するために、本発明の一形態に係るマイクロホン装置は、上記態様のいずれかに記載の雑音抽出装置と、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれの出力信号から前記個別雑音信号を減算することにより、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで観測される音響成分の信号である音響信号を得る第1と第2の信号減算部を備える。
【0028】
また、本発明の一形態に係るマイクロホン装置は、上記態様に記載の雑音抽出装置と、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれの出力信号から前記個別雑音信号を減算することにより、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで観測される音響成分の信号である第1音響信号を得る第1および第2の信号減算部とを備え、前記第1および第2の信号減算部は、前記第1音響信号を、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれの出力信号として、前記雑音抽出装置に出力することにより、前記雑音抽出装置から出力された前記第1音響信号に含まれる前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号を、前記第1音響信号から減算することにより、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで観測される音響成分の信号である第2音響信号を得る。
【0029】
ここで、例えば、前記第1および第2の信号減算部は、前記第1音響信号を、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれの出力信号として、前記第1の雑音信号抽出部および前記第2の雑音信号抽出部に出力し、前記第1の雑音信号抽出部および前記第2の雑音信号抽出部は、前記第1音響信号を指向性合成した信号である第3指向性信号に含まれる第3雑音信号および前記第1音響信号を前記第3指向性信号とは指向性合成の条件が異なる指向性合成した信号である第4指向性信号に含まれる第4雑音信号を抽出して前記雑音信号分離部に出力し、前記雑音信号分離部は、前記第3雑音信号および前記第4雑音信号を、前記第1音響信号に含まれる前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離して、前記第1および第2の信号減算部に出力し、前記第1および第2の信号減算部は、前記雑音信号分離部から出力された前記第1音響信号に含まれる前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号を、前記第1音響信号から減算するとしてもよい。
【0030】
なお、本発明は、装置として実現するだけでなく、このような装置が備える処理手段を備える集積回路として実現したり、その装置を構成する処理手段をステップとする方法として実現したり、それらステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、そのプログラムを示す情報、データまたは信号として実現したりすることもできる。そして、それらプログラム、情報、データおよび信号は、CD−ROM等の記録媒体やインターネット等の通信媒体を介して配信してもよい。
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0032】
(実施の形態1)
[雑音抽出装置100]
図1は、実施の形態1における雑音抽出装置100の構成を示すブロック図である。なお、以降の説明においては、時間領域の信号については信号名の頭文字を小文字とし、周波数領域の信号については信号名の頭文字を大文字として説明を行う。また、xm0(n)をxm0と表記し、Xm0(ω)をXm0と表記して説明を行う。
【0033】
図1に示す雑音抽出装置100は、第1のマイクロホンユニット11と、第2のマイクロホンユニット12と、第1の雑音信号抽出部101と、第2の雑音信号抽出部102と、雑音信号分離部201とを備える。
【0034】
[第1のマイクロホンユニット11、第2のマイクロホンユニット12]
第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12は、空間的に異なる位置に設けられ、音を収音する。第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12はそれぞれ、収音した音波の信号を出力する。本実施の形態では、第1のマイクロホンユニット11は、収音した音波の信号として出力信号um1を第1の雑音信号抽出部101および第2の雑音信号抽出部102に出力する。同様に、第2のマイクロホンユニット12は、収音した音波の信号として出力信号um2を第1の雑音信号抽出部101および第2の雑音信号抽出部102に出力する。なお、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12の2つのマイクユニット間距離dは、以下で音圧傾度型の指向性合成を行うために、例えば5mm〜20mm程度であればよい。
【0035】
[第1の雑音信号抽出部101]
図2は、実施の形態1における第1の雑音信号抽出部101の詳細構成を示すブロック図である。
【0036】
第1の雑音信号抽出部101は、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12の出力信号を指向性合成した信号である第1指向性信号に含まれる第1雑音信号を抽出する。本実施の形態では、第1の雑音信号抽出部101は、
図1に示すように、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1および第2のマイクロホンユニット12の出力信号um2が入力され、合成した指向性信号に含まれる雑音信号xn1を出力する。
【0037】
より具体的には、第1の雑音信号抽出部101は、
図2に示すように、第1の指向性合成部20、第2の指向性合成部30、第3の指向性合成部40、第1の信号絶対値演算部71、第2の信号絶対値演算部72、第3の信号絶対値演算部73、信号相殺演算部80および信号復元部90を備える。なお、第1雑音信号は、雑音信号xn1に該当し、第1指向性信号は第2の指向性合成部30が出力する信号xm1に該当する。
【0038】
<第1の指向性合成部20>
図3Aは、第1の指向性合成部20が出力する信号xm0の指向特性図である。
【0039】
第1の指向性合成部20は、
図2に示すように、信号の加算すなわち加算型の指向性合成を行う信号加算部22と、ゲインを調整することで信号を増幅する信号増幅部23とを有する。より具体的には、第1の指向性合成部20は、出力信号um1と出力信号um2とを信号加算部22で加算し、さらに信号増幅部23で増幅した信号xm0を出力する。このようにして、第1の指向性合成部20は、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1および第2のマイクロホンユニット12の出力信号um2を用いて、振動や風雑音の雑音に対して感度が低い無指向性の指向性合成を行った信号xm0を得る。信号xm0は、例えば
図3Aに示すような無指向性の指向特性を有する。ここで、
図3Aは、第1の指向性合成部20が出力する信号xm0のポーラパターンを示す図であり、信号xm0の感度を指向特性の方向ごとに示している。第1の指向性合成部20が出力する信号xm0は、加算型の指向性合成により信号処理されており、その音圧感度の絶対値は高い。一方で、振動雑音、風雑音またはマイクロホンユニット固有雑音などマイクロホンユニットで個別に発生する雑音に対する感度は相対的に低くなる。
【0040】
<第2の指向性合成部30>
図3Bは、第2の指向性合成部30が出力する信号xm1の指向特性図である。
【0041】
第2の指向性合成部30は、
図2に示すように、信号を遅延させる信号遅延部31と、信号の減算すなわち音圧傾度型の指向性合成を行う信号減算部32と、信号の周波数特性を補正する周波数特性補正部33とを有する。より具体的には、第2の指向性合成部30は、出力信号um2を信号遅延部31で遅延時間τだけ遅延させて信号減算部32で出力信号um1から減算し、さらに周波数特性補正部33で周波数特性を補正した信号xm1を出力する。
【0042】
このようにして、第2の指向性合成部30は、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1および第2のマイクロホンユニット12の出力信号um2を用いて、振動や風雑音の雑音に対して感度が高い音圧傾度型の指向性合成を行った信号xm1を得る。
【0043】
信号xm1は、例えば
図3Bに示すような指向特性を有する。ここで、
図3Bは、第2の指向性合成部30が出力する信号xm1のポーラパターンを示す図であり、信号xm1の感度を指向特性の方向ごとに示している。第2の指向性合成部30が出力する信号xm1の指向特性は、
図3Bに示すように、指向軸正面が、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12を結ぶ線上において第1のマイクロホンユニット11の方向に向いたものとなる。信号xm1は、上述したように音圧傾度型(減算型)の指向性合成により信号処理されていることから、その音圧感度の絶対値は加算型に比して低くなる。一方で、振動雑音、風雑音またはマイクロホンユニット固有雑音などマイクロホンユニットで個別に発生する雑音に対する感度は相対的に高くなる。
【0044】
第2の指向性合成部30が出力する信号xm1は、一般的な音圧傾度型指向性合成の式を用いて、下記の(式1)のように示すことができる。Xm1,Um1,Um2は、時間領域で表現される信号xm1,um1,um2を周波数領域で表現したものである。
【0046】
ここで、τは遅延時間を示す。例えば単一指向性の信号を合成する場合、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12の間の距離であるマイク素子間距離をd、音速をcとしたとき、τ=d/cが設定される。また、Aは発散を防止するための係数で、1より小さい値が設定される。
【0047】
上記の(式1)において、信号遅延部31は「e
-jωτ」の演算を行い、信号減算部32は分子の「−」すなわち分子のマイナス演算子の演算を行い、周波数特性補正部33は「1/(1-A・e
-jωτ」の演算を行うことに対応する。
【0048】
<第3の指向性合成部40>
図3Cは、第3の指向性合成部40が出力する信号xm2の指向特性図である。
【0049】
第3の指向性合成部40は、
図2に示すように、信号を遅延させる信号遅延部41と、信号の減算すなわち音圧傾度型の指向性合成を行う信号減算部42と、信号の周波数特性を補正する周波数特性補正部43とを有する。より具体的には、第3の指向性合成部40は、出力信号um1を信号遅延部41で遅延時間τだけ遅延させて信号減算部42で出力信号um2から減算し、さらに周波数特性補正部43で周波数特性を補正した信号xm2を出力する。
【0050】
このようにして、第3の指向性合成部40は、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1および第2のマイクロホンユニット12の出力信号um2を用いて、振動や風雑音の雑音に対して感度が高い音圧傾度型の指向性合成を行った信号xm2を得る。
【0051】
信号xm2は、例えば
図3Cに示すような指向特性を有する。ここで、
図3Cは、第3の指向性合成部40が出力する信号xm2のポーラパターンを示す図であり、信号xm2の感度を指向特性の方向ごとに示している。第3の指向性合成部40が出力する信号xm2の指向特性は、
図3Cに示すように、指向軸正面が、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12を結ぶ線上において第2のマイクロホンユニット12の方向に向いたものとなる。信号xm2は、信号xm1と同様に音圧傾度型(減算型)の指向性合成により信号処理されていることから、その音圧感度の絶対値は加算型に比して低くなる。一方で、振動雑音、風雑音またはマイクロホンユニット固有雑音などマイクロホンユニットで個別に発生する雑音に対する感度は相対的に高くなる。
【0052】
第3の指向性合成部40が出力する信号xm2は、一般的な音圧傾度型指向性合成の式を用いて、下記の(式2)のように示すことができる。Xm2,Um1,Um2は、時間領域で表現される信号xm2,um1,um2を周波数領域で表現したものである。
【0054】
ここで、遅延時間τ、係数Aは、(式1)で説明したのと同様である。
【0055】
上記の(式2)において、信号遅延部41は「e
-jωτ」の演算を行い、信号減算部42は分子の「−」すなわち分子のマイナス演算子の演算を行い、周波数特性補正部43は「1/(1-A・e
-jωτ」の演算を行うことに対応する。
【0056】
<第1の信号絶対値演算部71>
第1の信号絶対値演算部71は、第1の指向性合成部20の出力信号の絶対値を演算する。本実施の形態では、第1の信号絶対値演算部71は、第1の指向性合成部20から出力された信号xm0の絶対値を演算した信号|xm0|を信号相殺演算部80に出力する。
【0057】
<第2の信号絶対値演算部72>
第2の信号絶対値演算部72は、第2の指向性合成部30の出力信号の絶対値を演算する。本実施の形態では、第2の信号絶対値演算部72は、第2の指向性合成部30から出力された信号xm1の絶対値を演算した信号|xm1|を信号相殺演算部80に出力する。
【0058】
<第3の信号絶対値演算部73>
第3の信号絶対値演算部73は、第3の指向性合成部40の出力信号の絶対値を演算する。本実施の形態では、第3の信号絶対値演算部73は、第3の指向性合成部40から出力された信号xm2の絶対値を演算した信号|xm2|を信号相殺演算部80に出力する。
【0059】
<信号相殺演算部80>
信号相殺演算部80は、
図2に示すように、信号の加算を行う信号加算部81と、信号の減算を行う信号減算部82とを有する。より具体的には、信号相殺演算部80は、第1の信号絶対値演算部71から出力された信号|xm0|、第2の信号絶対値演算部72から出力された信号|xm1|、および、第3の信号絶対値演算部73から出力された信号|xm2|が入力される。信号相殺演算部80は、入力されたこれらの信号から、音波に対する音響信号成分を相殺する演算を行うことで雑音信号振幅を示す信号nv1を抽出し、信号復元部90に出力する。
【0060】
信号相殺演算部80が出力する信号nv1は、下記の(式3)のように示すことができる。つまり、信号相殺演算部80では、(式3)に示される演算を行う。Nv1,Xm0,Xm1,Xm2は、時間領域で表現される信号nv1,xm0,xm1,xm2を周波数領域で表現したものである。
【0062】
上記の(式3)において、信号加算部81は「+」すなわちプラス演算子の演算を行い、信号減算部82は「−」すなわちマイナス演算子の演算を行うことに対応する。
【0063】
ここで、上記の(式3)における|Xm0(ω)|の項は、振動や風雑音の雑音に対する感度が低く、音波に対して無指向性を有する指向性信号を示す。また、上記の(式3)における(|Xm1(ω)|+|Xm2(ω)|)は、振動や風雑音の雑音に対する感度が高く、音波に対して無指向性を有する指向性信号を示す。
図2において、(|Xm1(ω)|+|Xm2(ω)|)の項は、信号加算部81が、第2の指向性合成部30および第3の指向性合成部40から出力される主軸方向が異なる単一指向性の2つの信号(信号xm1,xm2)を加算して、当該雑音に対する感度が高く、音波に対して無指向性を示す指向性信号を生成することに該当する。そして、信号相殺演算部80では、これら性質を使って、音波の成分を相殺して雑音信号振幅を示す信号nv1を抽出する。すなわち、
図2において、上記の(式3)は、信号相殺演算部80が、雑音感度が異なるが音圧に対する指向特性が一致し、かつ、音響的中心位置が一致する、上記の2つの指向性信号の一方から他方を減算するで、一方の指向性信号から、音響成分を打ち消して、雑音成分の振幅値を抽出することに該当する。
【0064】
<信号復元部90>
信号復元部90は、2つの指向性信号の雑音感度の高い方の指向性信号に加算された主軸方向が異なる単一指向性の2つの信号(信号xm1,xm2)のうちの一方と信号相殺演算部80により出力された信号nv1とから雑音波形信号を復元して出力する。
【0065】
本実施の形態では、信号復元部90は、
図2に示すように、信号の符号(周波数領域処理を行う場合には位相)を抽出する信号符号抽出部91と、信号の乗算を行う信号乗算部92とを有する。より具体的には、信号復元部90は、第2の指向性合成部30から出力された信号xm1を信号符号抽出部91で符号(周波数領域処理を行う場合には位相)を抽出して、信号乗算部92において雑音信号振幅を示す信号nv1 と乗算して、雑音信号xn1を得る(復元する)。信号復元部90は、復元した雑音信号xn1を雑音信号分離部201に出力する。
【0066】
このようにして、第1の雑音信号抽出部101は、第2の指向性合成部30から出力される単一指向性を示す指向性信号である信号xm1に含まれる雑音信号xn1を得ることができる。
【0067】
[第2の雑音信号抽出部102]
図4は、実施の形態1における第2の雑音信号抽出部102の詳細構成を示すブロック図である。
図2と同様の要素には同一の符号を付している。
【0068】
第2の雑音信号抽出部102は、第1指向性信号とは指向性合成の条件が異なる第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を得る。具体的には、第2の雑音信号抽出部102は、第2指向性信号を、第1のマイクロホンユニット11の出力信号および第2のマイクロホンユニット12の出力信号を指向性合成して生成し、第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を抽出する。ここで、第1指向性信号の指向性主軸方向と、第2指向性信号の指向性主軸方向とは、互いに逆方向である。本実施の形態では、第2の雑音信号抽出部102は、
図1に示すように、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1および第2のマイクロホンユニット12の出力信号um2が入力される。そして、第2の雑音信号抽出部102は、第1の雑音信号抽出部101が出力する雑音信号xn1を含んでいた指向性信号とは異なる指向特性を示す指向性信号に含まれる雑音信号xn2を出力する。
【0069】
より具体的には、第2の雑音信号抽出部102は、
図4に示すように、第1の指向性合成部20、第2の指向性合成部30、第3の指向性合成部40、第1の信号絶対値演算部71、第2の信号絶対値演算部72、第3の信号絶対値演算部73、信号相殺演算部80および信号復元部95を備える。なお、第2雑音信号は雑音信号xn2に該当し、第2指向性信号は第3の指向性合成部40が出力する信号xm2に該当する。
【0070】
図4に示す第2の雑音信号抽出部102は、
図2に示す第1の雑音信号抽出部101と比較して、信号復元部95の構成と、第3の指向性合成部40から出力された指向性信号である信号xm2が信号復元部95に入力される点とが異なる。以下、
図2に示す第1の雑音信号抽出部101と異なる部分について説明する。
【0071】
<信号復元部95>
信号復元部95は、
図4に示すように、信号の符号(周波数領域処理を行う場合には位相)を抽出する信号符号抽出部96と、信号の乗算を行う信号乗算部97とを有する。より具体的には、信号復元部95は、第3の指向性合成部40から出力された信号xm2を信号符号抽出部96で符号(周波数領域処理を行う場合には位相)を抽出して、信号乗算部97において雑音信号振幅を示す信号nv1と乗算して、雑音信号xn2を得る(復元する)。信号復元部95は、復元した雑音信号xn2を雑音信号分離部201に出力する。
【0072】
このようにして、第2の雑音信号抽出部102は、第3の指向性合成部40から出力される単一指向性を示す指向性信号である信号xm2に含まれる雑音信号xn2を得ることができる。第3の指向性合成部40から出力される信号xm2と第2の指向性合成部30が出力する信号xm1とは、
図3Bおよび
図3Cを用いて説明したように、指向性主軸方向が異なる。つまり、第2の雑音信号抽出部102と第1の雑音信号抽出部101とでは、指向性主軸方向が異なる指向性信号(信号xm2,xm1)に含まれる雑音信号(雑音信号xn2,xn1)が抽出される。
【0073】
[雑音信号分離部201]
図5は、実施の形態1における雑音信号分離部201の詳細構成を示すブロック図である。
【0074】
雑音信号分離部201は、第1雑音信号と第2雑音信号とを、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12それぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離する。雑音信号分離部201は、第1指向性合成信号および第2指向性合成信号と、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12の出力信号との関係を示す関係式から導出される、第1雑音信号および第2雑音信号と個別雑音信号との関係式に従って、第1雑音信号および第2雑音信号を変換することにより、個別雑音信号を得る。本実施の形態では、雑音信号分離部201は、
図1に示すように、第1の雑音信号抽出部101と第2の雑音信号抽出部102から出力された雑音信号xn1および雑音信号xn2が入力される。そして、雑音信号分離部201は、雑音信号xn1および雑音信号xn2を、第1のマイクロホンユニット11と第2のマイクロホンユニット12にそれぞれに個別に含まれる雑音を示す個別雑音信号un1および個別雑音信号un2に分離して出力する。
【0075】
より具体的には、雑音信号分離部201は、
図5に示すように、信号遅延部211と、信号加算部212と、周波数特性補正部213と、信号遅延部221と、信号加算部222と、周波数特性補正部223とを有する。
【0076】
信号遅延部211および信号遅延部221は、入力された信号を遅延させて出力する。具体的には、信号遅延部211は、第2の雑音信号抽出部102から出力された雑音信号xn2を遅延時間τだけ遅延させて信号加算部212に出力する。信号遅延部221は、第1の雑音信号抽出部101から出力された雑音信号xn1を遅延時間τだけ遅延させて信号加算部222に出力する。
【0077】
信号加算部212および信号加算部222は、入力された信号の加算を行う。具体的には、信号加算部212は、第1の雑音信号抽出部101から出力された雑音信号xn1と、信号遅延部211により出力された遅延時間τだけ遅延された雑音信号xn2とを加算して、周波数特性補正部213に出力する。信号加算部222は、信号遅延部221により出力された遅延時間τだけ遅延された雑音信号xn1と、第2の雑音信号抽出部102から出力された雑音信号xn2とを加算して、周波数特性補正部223に出力する。
【0078】
周波数特性補正部213および周波数特性補正部223は、信号の周波数特性を補正する。具体的には、周波数特性補正部213は、信号加算部212から出力された信号の周波数特性を補正することで得た個別雑音信号un1を出力する。周波数特性補正部223は、信号加算部222から出力された信号の周波数特性を補正することで得た個別雑音信号un2を出力する。
【0079】
以下、2通りの指向性信号(信号xm1,xm2)に含まれる2つの雑音信号xn1,xn2を、2つのマイクロホンユニットそれぞれの出力信号um1,um2に含まれる個別雑音信号un1,un2に変換できることについて説明する。
【0080】
第1、第2のマイクロホンユニット11、12の出力信号um1,um2と、第2の指向性合成部30、第3の指向性合成部40が出力する信号xm1,xm2との関係は、上記の(式1)および(式2)をまとめて表現することで、下記の(式4)のように表せる。
【0082】
指向性信号である信号xm1,xm2から第1、第2のマイクロホンユニットの出力信号um1,um2を導出する関係式は、上記の(式4)の両辺に逆数および逆行列を掛けることで、下記の(式5)のように表現できる。
【0084】
さらに、上記の(式5)において、右辺と左辺とを入れ替えて整理すると、下記の(式6)のように表せる。
【0086】
なお、(式5)の左辺の逆行列を計算する場合において導出時に上記の(式1)および(式2)と同様の発散防止の係数Aを用いた。
【0087】
上記の(式6)に示される関係式は、2通りの指向性信号である信号xm1,xm2から第1、第2のマイクロホンユニットの出力信号um1,um2を得る変換式である。
【0088】
そこで、2通りの指向性信号である信号xm1,xm2に含まれる雑音信号xn1,xn2を上記の(式6)に代入すると、下記の(式7)に示される変換式(関係式)が得られる。つまり、下記の(式7)に示される変換式を用いれば、2通りの指向性信号である信号xm1,xm2に含まれる雑音信号xn1,xn2から、第1、第2のマイクロホンユニットの出力信号um1,um2に含まれる個別雑音信号un1,un2を得ることができる。
【0090】
このように、雑音信号xn1,xn2と個別雑音信号un1、un2との関係式を示す上記の(式7)は、指向性信号である信号xm1,xm2と、第1、第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号um1,um2との関係を示す関係式から導出することができる。
【0091】
すなわち、雑音信号分離部201は、雑音信号xn1,xn2と個別雑音信号un1,un2との関係式を示す上記の(式7)に従って、雑音信号xn1,xn2を変換することにより、個別雑音信号un1,un2を得ることができる。
図5に示す雑音信号分離部201は、上記の(式7)をブロック図にしたものに相当する。上記の(式7)において、信号遅延部211,221は信号を遅延時間τだけ遅延させるために「e
-jωτ」の演算を行い、信号加算部212,222は、行列演算の加算部分の演算を行うことに対応する。周波数特性補正部213,223(EQ2)は、上記の(式7)の係数Aが含まれる項すなわち下記の(式8)の右辺の演算を行うことに対応する。
【0093】
[効果等]
以上のように、本実施の形態によれば、個々のマイクロホンユニットで個別に発生する個別雑音信号を抽出することができる雑音抽出装置100を実現できる。
【0094】
より具体的には、第1,第2の雑音信号抽出部101,102において、第1,第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号um1,um2から、それぞれ指向性方向が逆向きの指向性信号である信号xm1,xm2に含まれる雑音信号xn1,xn2を抽出する。そして、雑音信号分離部201において、雑音信号xn1,xn2を、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれ個別に含まれる個別雑音信号un1,un2に変換(分離)して出力する。このようにして、本実施の形態における雑音抽出装置100は、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれに個別に混入している雑音成分を抽出することができる。
【0095】
上記特許文献1に開示される雑音抽出装置でも、2つのマイクロホンユニットの出力信号から合成される指向性信号に含まれる振動や風雑音の雑音信号を抽出できる。しかし、上記特許文献1に開示される雑音抽出装置では、1通りの指向性信号に含まれる1つの雑音信号を導出しているに過ぎないので、指向性合成前の2つのマイクロホンユニットそれぞれに含まれる個別の雑音信号を導出することはできない。指向性合成前の2つのマイクロホンユニットそれぞれに含まれる個別の雑音信号を導出するためには、未知数が2であることから、1つの雑音信号では導出することはできないからである。
【0096】
それに対して、本実施の形態における雑音抽出装置では、異なる2通りの指向性信号それぞれに含まれる2つの雑音信号を抽出していることから、指向性合成前の2つのマイクロホンユニットそれぞれに含まれる個別の雑音信号を導出することができる。そこで、本実施の形態における雑音抽出装置100では、上述したように、第1の雑音信号抽出部101および第2の雑音信号抽出部102において、異なる2通りの指向性信号それぞれに含まれる2つの雑音信号を抽出する。そして、雑音信号分離部201において、抽出した2つの雑音信号を各マイクロホンユニットに個別に混入している雑音成分に対応する個別雑音信号に分離する信号処理を行う。このようにして、本実施の形態における雑音抽出装置100は、個々のマイクロホンユニットで個別に発生する個別雑音信号un1,un2を抽出することができる。
【0097】
なお、個別雑音信号un1,un2は、上述した振動雑音、風雑音またはマイクロホンユニット固有雑音を示すが、マイクロホンユニットが接続されたアンプなどでマイクロホンユニットで個別に発生する雑音を示すとしてもよい。
【0098】
(変形例1)
図6は、実施の形態1の変形例1における雑音信号抽出部103の詳細構成を示すブロック図である。
図2および
図4と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0099】
なお、上記の実施の形態において、雑音抽出装置100は、第1の雑音信号抽出部101と第2の雑音信号抽出部102とを備えるとして説明したが、これに限らない。
図6に示すように、第1の雑音信号抽出部101および第2の雑音信号抽出部102に代えて、第1の雑音信号抽出部101および第2の雑音信号抽出部102において共通する構成をまとめた雑音信号抽出部103を備えるとしてもよい。
【0100】
(変形例2)
なお、上記の実施の形態において、第1の雑音信号抽出部101および第2の雑音信号抽出部102は、第1の指向性合成部20〜第3の指向性合成部40を備えるとして説明したが、これに限らない。第1の指向性合成部20〜第3の指向性合成部40、第1の信号絶対値演算部71〜第3の信号絶対値演算部73および信号加算部81を一つの指向性合成部とし、信号相殺演算部は信号の加算を行う信号加算部81を備えるのみとしてもよい。
【0101】
この場合、当該指向性合成部は、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1および第2のマイクロホンユニット12の出力信号um2を指向性合成して、雑音感度が異なるが、音圧に対する指向特性が一致し、かつ、音響的中心位置が一致する2つの指向性信号を生成するとすればよい。ここで、2つの指向性信号は、上記の(式3)における(|Xm1(ω)|+|Xm2(ω)|)の項が示す指向性信号と、|Xm0(ω)|の項が示す指向性信号である。
【0102】
そして、本変形例における信号相殺演算部は、2つの指向性信号の一方から他方を減算することで、前記一方の指向性信号から、音響成分を打ち消して、雑音成分の振幅値を抽出すればよい。
【0103】
これにより、信号復元部90は、2つの指向性信号の雑音感度の高い方の指向性信号に加算された主軸方向が異なる単一指向性の2つの信号(xm1、xm2)のうちの一方と当該信号相殺演算部の出力信号とから雑音波形信号を復元して出力することができる。
【0104】
(実施の形態2)
[雑音抽出装置100A]
図7は、実施の形態2における雑音抽出装置100Aの構成を示すブロック図である。なお、
図1、
図2および
図5と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0105】
図7に示す雑音抽出装置100Aは、実施の形態1における雑音抽出装置100に対して、第2の雑音信号抽出部102がなく、信号符号反転部105が追加されている点で構成が異なる。
【0106】
信号符号反転部105は、第1の雑音信号抽出部101から出力された第1雑音信号を逆位相にすることにより第2雑音信号を得る。本実施の形態では、信号符号反転部105は、第1の雑音信号抽出部101が出力する雑音信号xn1の符号を反転させて得た雑音信号xn2を雑音信号分離部201に出力する。なお、信号符号反転部105は、第2の雑音信号抽出部102が出力する雑音信号xn2を第1の雑音信号抽出部101の出力の符号を反転させたもので置き換えることから、第2の雑音信号抽出部102の一例ということもできる。
【0107】
[効果等]
第2の雑音信号抽出部102の出力を、第1の雑音信号抽出部101の出力の符号を反転させたもので置き換えることができる理由について説明する。
【0108】
実施の形態1で説明したように、雑音信号xn1は、第2の指向性合成部30が出力する音圧傾度型の単一指向性の特性を有する信号xm1に含まれる雑音成分である。同様に雑音信号xn2は、第3の指向性合成部40が出力する音圧傾度型の単一指向性の特性を持つ信号xm2に含まれる雑音成分である。
【0109】
ここで、信号xm1と信号xm2とは、上記の(式1)と(式2)とで示される。上記の(式1)および(式2)において、遅延時間τ=0すなわち
図2および
図4に示す信号遅延部31と信号遅延部41との信号遅延量をゼロとする。この場合、例えば第1のマイクロホンユニット11の出力信号xm1または第2のマイクロホンユニット12の出力信号xm2で観測される風雑音や振動雑音の雑音信号は、(式1)と(式2)との関係から、互いに符号が反転したものであることが分かる。
【0110】
ここで、(式1)と(式2)とにおいて異なるのは遅延時間τが片方に掛かる部分であるがその影響は小さいと考えることができる。例えば、音波のようにマイクロホンユニット間で相関があり、かつ、2信号の減算を行うような場合には位相差の大きさが2信号の減算後の信号振幅に大きく影響する。なお、このことは、音圧傾度型の指向性の原理に等しい。しかしながら、雑音成分はマイクロホンユニット間での相関がないため、遅延時間τは雑音信号振幅値に影響しない。
【0111】
また、音圧傾度型の指向性合成を行う場合、2つのマイクユニット間距離dは、通常、5mm〜20mm程度であることが多い。そのため、遅延時間τによる時間ずれすなわち、遅延時間τ=d/cの値は、扱う信号の波長に比べて十分小さいので、雑音信号xn2は、xn1にマイナス演算子を乗じたものと近似することができる。
【0112】
以上のように、本実施の形態によれば、個々のマイクロホンユニットで個別に発生する個別雑音信号を抽出することができる雑音抽出装置100Aを実現できる。
【0113】
より具体的には、第1,第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号um1,um2から、第1の雑音信号抽出部101で雑音信号xn1を抽出し、信号符号反転部105で第1の雑音信号抽出部101が抽出した雑音信号xn1の符号を反転させた雑音信号xn2を得る。そして、雑音信号分離部201は、雑音信号xn1,xn2を、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれ個別に含まれる個別雑音信号un1,un2に変換(分離)して出力する。このようにして、本実施の形態における雑音抽出装置100Aは、第1、第2のマイクロホンユニット11,12それぞれに個別に混入している雑音成分を抽出することができる。
【0114】
また、本実施の形態における雑音抽出装置100Aは、第2の雑音信号抽出部102の構成を省略して、信号符号反転部105にその機能を持たせることができる。これにより、より低演算の構成で第1、第2のマイクロホンユニット11,12それぞれに個別に混入している雑音成分を抽出することができる。
【0115】
(実施の形態3)
[雑音抽出装置100B]
図8は、実施の形態3における雑音抽出装置100Bの構成を示すブロック図である。
図1と同様の構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0116】
図8に示す雑音抽出装置100Bは、実施の形態1における雑音抽出装置100と比較して、第1の雑音信号抽出部101Bと第2の雑音信号抽出部102Bとにおける指向性合成の条件が異なる。具体的には、実施の形態1および実施の形態2では、第1の雑音信号抽出部101と第2の雑音信号抽出部102とにおける指向性合成の条件の違いは、指向性の主軸方向が逆向きであった。これに対して、実施の形態3では、第1の雑音信号抽出部101Bと第2の雑音信号抽出部102Bとにおける指向性合成の条件の違いは、マイクロホンユニット間の信号レベルの差異であるとしている。
図8では、第1の雑音信号抽出部101Bから出力される信号をxn11とし、第2の雑音信号抽出部102Bから出力される信号をxn12と表現する。
【0117】
[第1の雑音信号抽出部101B]
第1の雑音信号抽出部101Bは、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12の出力信号を指向性合成した信号である第1指向性信号に含まれる第1雑音信号を抽出する。
【0118】
図9は、実施の形態3における第1の雑音信号抽出部101Bの詳細構成例を示すブロック図である。
図2と同様の構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0119】
図9に示す第1の雑音信号抽出部101Bは、
図2に示す第1の雑音信号抽出部101に対して、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1をα1倍増幅する信号増幅部13が追加されている点で構成が異なる。なお、第1雑音信号は、雑音信号xn11に該当し、第1指向性信号は第2の指向性合成部30が出力する信号xm11に該当する。第2の指向性合成部30が出力する信号xm11の指向特性は、例えば、
図3Bに示すように、主軸方向は正面0°すなわち指向軸正面が、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12を結ぶ線上において第1のマイクロホンユニット11の方向に向いたものとなる。
【0120】
ここで、マイクロホンユニット間の信号レベルに差がある場合に音圧傾度型の指向性合成を行うと、指向特性に対する影響は低域の指向特性が鈍る(無指向性に近づく)方向に変化する。例えば、マイクロホンユニット間距離d=10mmで、α1の値である利得値が1.0から数%〜10%程度であれば、指向性への影響は極低域に現れ、実用帯域において指向性の劣化は問題にならない。そのため、第1の雑音信号抽出部101Bは、第1と第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号に小さなレベル差を与えた上で、第1の雑音信号抽出部101と同様の信号処理を行えば、同様に、第2の指向性合成部30が出力する信号xm11に含まれる雑音信号xn11を抽出することができる。
【0121】
第2の指向性合成部30が出力する信号xm11は下記の(式9)のように示すことができる。Xm11、Um1、Um2は、時間領域で表現される信号xm11、um1、um2を周波数領域で表現したものである。
【0123】
ここで、α1は信号増幅部13の利得値を示す。その他の項は(式1)で説明した通りである。
【0124】
[第2の雑音信号抽出部102B]
第2の雑音信号抽出部102Bは、第1指向性信号とは指向性合成の条件が異なる第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を得る。具体的には、第2の雑音信号抽出部102Bは、第2指向性信号を、第1のマイクロホンユニット11の出力信号および第2のマイクロホンユニット12の出力信号を指向性合成して生成し、第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を抽出する。ここで、第1指向性合成信号の指向性主軸方向と、第2指向性合成信号の指向性主軸方向とは、同一方向である。また、第1指向性合成信号と第2指向性合成信号とは、第1、第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号を指向性合成する際の合成係数が異なる。本実施の形態では、合成係数は、利得値である。そのため、第1指向性合成信号と第2指向性合成信号とは、第1、第2のマイクロホンユニットのうちの一方の出力信号に異なる利得値が乗算して指向性合成された信号である。
【0125】
図10は、実施の形態3における第2の雑音信号抽出部102Bの詳細構成例を示すブロック図である。
図4、
図9と同様の構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0126】
図10に示す第2の雑音信号抽出部102Bは、
図4に示す第2の雑音信号抽出部102に対して、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1をα2倍増幅する信号増幅部23が追加されている点と、第2の指向性合成部30が出力する信号が入力される信号復元部90に変更されている点で構成が異なる。換言すると、
図10に示す第2の雑音信号抽出部102Bは、
図9に示す第1の雑音信号抽出部101Bと同様の構成となっており、利得α1の信号増幅部13を利得α2の信号増幅部23になっている点が異なる。そこで、
図10では、第2の指向性合成部30が出力する信号をxm12とし、第3の指向性合成部40が出力する信号をxm22とし、
図9と異なるように表現している。
【0127】
よって、第2の雑音信号抽出部102Bは、
図10に示すように、第2の指向性合成部30が出力する信号xm12に含まれる雑音信号xn12を抽出することができる。なお、第2雑音信号は、雑音信号xn12に該当し、第2指向性信号は第2の指向性合成部30が出力する信号xm12に該当する。第2の指向性合成部30が出力する信号xm12の指向特性は、例えば、
図3Bに示すように、主軸方向は正面0°すなわち指向軸正面が、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12を結ぶ線上において第1のマイクロホンユニット11の方向に向いたものとなる。
【0128】
また、第2の指向性合成部30が出力する信号は、下記の(式10)のように示すことができる。Xm12、Um1、Um2は、時間領域で表現される信号xm12、um1、um2を周波数領域で表現したものである。
【0130】
ここで、α2は信号増幅部13の利得値を示す。その他の項は(式1)で説明した通りである。
【0131】
[雑音信号分離部201B]
図11は、実施の形態3における雑音信号分離部201Bの詳細構成例を示すブロック図である。
【0132】
雑音信号分離部201Bは、第1雑音信号と第2雑音信号とを、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12それぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離する。雑音信号分離部201Bは、第1指向性合成信号および第2指向性合成信号と、第1のマイクロホンユニット11および第2のマイクロホンユニット12の出力信号との関係を示す関係式から導出される、第1雑音信号および第2雑音信号と個別雑音信号との関係式に従って、第1雑音信号および第2雑音信号を変換することにより、個別雑音信号を得る。
【0133】
本実施の形態では、雑音信号分離部201Bは、
図8に示すように、第1の雑音信号抽出部101Bと第2の雑音信号抽出部102Bから出力された雑音信号xn11および雑音信号xn12が入力される。そして、雑音信号分離部201Bは、雑音信号xn11および雑音信号xn12を、第1のマイクロホンユニット11と第2のマイクロホンユニット12にそれぞれに個別に含まれる雑音を示す個別雑音信号un1および個別雑音信号un2に分離して出力する。より具体的には、雑音信号分離部201Bは、
図11に示すように、信号遅延部231と、信号遅延部232と、信号減算部233と、周波数特性補正部234と、信号増幅部241と、信号増幅部242と、信号減算部243と、周波数特性補正部244とを有する。
【0134】
信号遅延部231および信号遅延部232は、入力された信号を遅延させて出力する。具体的には、信号遅延部231は、第1の雑音信号抽出部101Bから出力された雑音信号xn11を遅延時間τだけ遅延させて信号減算部233に出力する。信号遅延部232は、第2の雑音信号抽出部102Bから出力された雑音信号xn12を遅延時間τだけ遅延させて信号減算部233に出力する。
【0135】
信号増幅部241および信号増幅部242は、入力された信号の増幅を行う。具体的には、信号増幅部241は、第1の雑音信号抽出部101Bから出力された雑音信号xn11を利得α2で増幅して、信号減算部243に出力する。信号増幅部242は、第2の雑音信号抽出部102Bから出力された雑音信号xn12を利得α1で増幅して、信号減算部243に出力する。
【0136】
信号減算部233および信号減算部243は、入力された信号の減算を行う。具体的には、信号減算部233は、信号遅延部232から出力された遅延時間τだけ遅延された雑音信号xn12から、信号遅延部231から出力された遅延時間τだけ遅延された雑音信号xn11を減算して、周波数特性補正部234に出力する。信号減算部243は、信号増幅部242から出力された利得α1で増幅された雑音信号xn12から、信号増幅部241から出力された利得α2で増幅された雑音信号xn11を減算して、周波数特性補正部244に出力する。
【0137】
周波数特性補正部234および周波数特性補正部244は、信号の周波数特性を補正する。具体的には、周波数特性補正部234は、信号減算部233から出力された信号の周波数特性を補正することで得た個別雑音信号un1を出力する。周波数特性補正部244は、信号減算部243から出力された信号の周波数特性を補正することで得た個別雑音信号un2を出力する。
【0138】
以下、2通りの指向性信号(信号xm11,xm12)に含まれる2つの雑音信号xn11,xn12を、2つのマイクロホンユニットそれぞれの出力信号um1,um2に含まれる個別雑音信号un1,un2に変換できることについて説明する。ここで、信号xm11と信号xm12は、上述したように共に指向性の主軸方向が正面0°で、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1に掛かる利得値がα1とα2で異なる指向性信号である。
【0139】
第1,第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号um1,um2と、第1,第2の雑音信号抽出部101B,102Bにおける第2の指向性合成部30が出力する信号xm11,xm12との関係は、上記の(式9)および(式10)をまとめて表現することで、下記の(式11)のように表せる。
【0141】
(式11)を変形して整理すると、下記の(式12)に示されるように、指向性信号である信号xm11,xm12から第1,第2のマイクロホンユニットの出力信号um1,um2を導出する関係式が得られる。
【0143】
上記の(式12)に示される関係式は、2通りの指向性信号である信号xm11、xm12から第1、第2のマイクロホンユニットの出力信号um1、um2を得る変換式である。
【0144】
ここで、2通りの指向性信号である信号xm11、xm12に含まれる雑音信号xn11、xn12を上記の(式12)に代入すると、下記の(式13)に示される変換式(関係式)が得られる。つまり、下記の(式13)に示される変換式を用いれば、2通りの指向性信号である信号xm1、xm2に含まれる雑音信号xn11、xn12から、第1、第2のマイクロホンユニットの出力信号に含まれる個別雑音信号un1,un2を得ることができる。
【0146】
このように、雑音信号xn11、xn12と個別雑音信号un1、un2との関係式を示す上記の(式13)は、指向性信号である信号xm11、xm12と、第1、第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号um1,um2との関係を示す関係式から導出することができる。
【0147】
すなわち、信号分離部201Bは、雑音信号xn11,xn12と個別雑音信号un1,un2との関係式を示す上記の(式13)に従って、雑音信号xn11、xn12を変換することにより、個別雑音信号un1,un2を得ることができる。
図11に示す雑音信号分離部201Bは、上記の(式13)をブロック図にしたものに相当する。上記の(式13)において、信号遅延部231、232は、信号を遅延時間τだけ遅延させるために「e
-jωτ」の演算を行う。信号増幅部241,242は、行列演算のα2,α1とに対応し、信号を利得α2,α1で増幅する演算を行う。信号減算部233,243は、行列の1列目のマイナス符号すなわち行列演算の減算部分の演算を行うことに対応する。周波数特性補正部234,244は、(EQ2)は、上記の(式13)の係数Aが含まれる項すなわち下記の(式14)の右辺の演算を行うことに対応する。
【0149】
[効果等]
以上のように、本実施の形態によれば、個々のマイクロホンユニットで個別に発生する個別雑音信号を抽出することができる雑音抽出装置100Bを実現できる。
【0150】
より具体的には、第1,第2の雑音信号抽出部101B,102Bにおいて、第1,第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号um1,um2から、それぞれ指向性方向が同一でマイクロホンユニット間の信号利得差が異なる指向性信号である信号xm11,xm12に含まれる雑音信号xn11,xn12を抽出する。そして、雑音信号分離部201において、指向性信号に含まれる雑音信号xn11,xn12を、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれに個別に含まれる個別雑音信号un1,un2に変換して出力する。このようにして、本実施の形態における雑音抽出装置100Bは、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれに個別に混入している雑音成分を抽出することができる。
【0151】
ここで、実施の形態1における雑音信号分離部201と本実施の形態における雑音信号分離部201Bの違いについて説明する。
【0152】
実施の形態1における
図5に示す雑音信号分離部201では、2つの雑音信号xn1,xn2に対する2つの出力信号un1,un2への変換はそれぞれ対象性を持つ。
図5に示す雑音信号分離部201では、例えば雑音信号xn1の推定誤差が、遅延時間τだけ信号遅延したものとともに信号un1,un2に伝播する。同様に雑音信号xn2の推定誤差も遅延時間τだけ信号遅延したものとともに信号un1,un2に伝播する。このことは、誤差成分については、信号間の遅延時間τとなる到来方向の音波と区別がつかなくなる現象が発生することを意味する。なぜなら、平面波が仮定できるある程度遠方からの音波は、第1,第2のマイクロホンユニット11,12に等しい音圧レベルで到来することになるため、到来方向による時間差のみの意味を持つことになるからである。
【0153】
一方、本実施の形態における
図11に示す信号分離部201Bでは、例えば入力される信号xn11に誤差があっても、時間遅延τおよび利得値α2が掛かるため音波とは区別が付く状態で信号un1,un2へと伝播する。つまり、
図11に示す雑音信号分離部201Bでは、誤差成分が音波と異なる振る舞いをするという利点がある。
【0154】
なお、本実施の形態において、第1の雑音信号抽出部101Bおよび第2の雑音信号抽出部102Bでは共に第2の指向性合成部30が出力する指向性信号に含まれる雑音信号を抽出するとして説明したが、これに限らない。実施の形態1と同様に、例えば第2の雑音信号抽出部102Bにおいて第3の指向性合成部40が出力する指向性信号に含まれる雑音信号を抽出し、第1の雑音信号抽出部101Bにおいて第2の指向性合成部30が出力する指向性信号に含まれる雑音信号を抽出するとしてもよい。すなわち、異なる方向に指向性主軸を持つ信号を使って、それぞれ指向性方向が逆向きでかつマイクロホンユニット間の信号利得差が異なる組み合わせとしてもよい。
【0155】
(実施の形態4)
以下、実施の形態1〜3で説明した雑音抽出装置100、雑音抽出装置100Aまたは雑音抽出装置100Bを有するマイクロホン装置1000について説明する。
【0156】
[マイクロホン装置1000]
図12は、実施の形態4におけるマイクロホン装置1000の構成の一例を示すブロック図である。
図1等と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0157】
図12に示すマイクロホン装置1000は、第1のマイクロホンユニット11と、第2のマイクロホンユニット12と、信号減算部15と、信号減算部16と、第1の雑音信号抽出部101と、第2の雑音信号抽出部102と、雑音信号分離部201とを備える。すなわち、マイクロホン装置1000は、実施の形態1における雑音抽出装置100の構成と、信号減算部15と信号減算部16とを備える。なお、
図12では、マイクロホン装置1000が雑音抽出装置100の構成を備える場合について示しているが、これに限らない。マイクロホン装置1000は、実施の形態2における雑音抽出装置100Aの構成または実施の形態3における雑音抽出装置100Bの構成を備えるとしてもよい。
【0158】
[信号減算部15、16]
信号減算部15,16は、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれの出力信号um1,um2から個別雑音信号un1,un2を減算することにより、第1,第2のマイクロホンユニットそれぞれで観測される音響成分の信号である音響信号um1´,um2´を得る。本実施の形態では、信号減算部15は、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1から、雑音信号分離部201により出力された個別雑音信号un1を減算して得た音響信号um1'を出力する。信号減算部16は、第2のマイクロホンユニット12の出力信号um2から、雑音信号分離部201により出力された個別雑音信号un2を減算して得た音響信号um2'を出力する。
【0159】
雑音信号分離部201により出力された個別雑音信号un1は、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1に含まれる振動雑音、風雑音またはユニット固有雑音の雑音信号の成分である。そのため、信号減算部15は、出力信号um1から個別雑音信号un1を減じることにより、第1のマイクロホンユニット11の出力信号um1から雑音成分が除去された音響信号um1'を得ることができる。同様に信号減算部16は、出力信号um2から個別雑音信号un2を減じることにより、第2のマイクロホンユニット12の出力信号um2から雑音成分が除去された音響信号um2'を得ることができる。
【0160】
[効果等]
以上のように、本実施の形態によれば、個々のマイクロホンユニットに含まれる個別雑音信号を抽出し、マイクロホンユニットの出力信号から雑音成分を除去した音響信号を得ることができるマイクロホン装置1000を実現できる。これにより、耐振動性能、耐風雑音性能および低固有雑音性能に優れたマイクロホン装置を実現できる。
【0161】
(変形例)
[マイクロホン装置1000A]
図13は、実施の形態4の変形例におけるマイクロホン装置1000Aの構成の一例を示すブロック図である。
図8および
図12と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0162】
図13に示すマイクロホン装置1000Aは、第1のマイクロホンユニット11と、第2のマイクロホンユニット12と、第1段部1001と、第2段部1002とを備える。第1段部1001および第2段部1002はそれぞれ、信号減算部15と、信号減算部16と、第1の雑音信号抽出部101Bと、第2の雑音信号抽出部102Bと、雑音信号分離部201Bと、を備える。すなわち、第1段部1001および第2段部1002はそれぞれ、実施の形態3における雑音抽出装置100Bの構成と、信号減算部15と、信号減算部16とを備える。このように、マイクロホン装置1000Aは、実施の形態3における雑音抽出装置100Bの構成、信号減算部15および信号減算部16を多段に接続した構成を備える。
【0163】
第1段部1001では、第1,第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号um1,um2が入力され、第1,第2のマイクロホンユニット11,12の出力信号um1,um2から雑音成分を除去した音響成分um1',um2'を得て、第2段部1002に出力する。より具体的には、第1段部1001の信号減算部15,16は、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれで観測される音響成分の信号である音響信号um1´,um2´を得る。そして、第1段部1001の信号減算部15,16は、音響信号um1´,um2´を、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれの出力信号として、第2段部1002に出力する。
【0164】
第2段部1002では、第1段部1001から出力された音響信号um1',um2'が入力される。第2段部1002では、音響信号um1',um2'から、第1段部1001において誤差要因などによって除去しきれなかった残留雑音を抽出し、音響信号um1',um2から、抽出した残留雑音を除去した音響成分um1",um2"を得て出力する。
【0165】
より具体的には、第2段部1002の第1の雑音信号抽出部101Bおよび第2の雑音信号抽出部102Bは、音響信号um1',um2'を指向性合成した信号に含まれる残留雑音を抽出して第2段部1002の雑音信号分離部201Bに出力する。ここで、例えば、第2段部1002の第1の雑音信号抽出部101Bおよび第2の雑音信号抽出部102Bは、音響信号um1',um2'を指向性合成した信号である第3指向性信号に含まれる残留雑音である第3雑音信号と、第3指向性信号とは指向性合成の条件が異なる指向性合成した信号である第4指向性信号に含まれる残留雑音である第4雑音信号を抽出して第2段部1002の雑音信号分離部201Bに出力する。第2段部1002の雑音信号分離部201Bは、音響信号um1',um2'を指向性合成した信号に含まれる残留雑音である上記の雑音信号を、音響信号um1',um2'に含まれる第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離して、第2段部1002の信号減算部15,16に出力する。第2段部1002の信号減算部15,16は、第2段部1002の雑音信号分離部201Bから出力された音響信号um1',um2'に含まれる個別雑音信号を、音響信号um1',um2'から減算する。このようにして、第2段部1002は、第1,第2のマイクロホンユニット11,12それぞれで観測される音響成分の信号である音響信号um1’’,um2’を得ることができる。
【0166】
なお、マイクロホン装置1000Aは、
図13に示されるように、実施の形態3における雑音抽出装置100Bの構成、信号減算部15および信号減算部16を2段に接続した構成について説明したが、これに限らず、3段以上の多段であってもよい。
【0167】
[効果等]
以上のように、本変形例のマイクロホン装置1000Aによれば、マイクロホン装置1000と比較して、さらに雑音成分の除去性能を高めることができる。これにより、さらに、耐振動性能、耐風雑音性能および低固有雑音性能に優れたマイクロホン装置を実現できる。
【0168】
なお、本変形例のマイクロホン装置1000Aでは、第1段部の実施の形態3における雑音抽出装置100Bの構成を有するのが好ましい。第1段部の実施の形態3における雑音抽出装置100Bの構成から出力される個別雑音信号un1,un2が、個別雑音信号間で音波と同様の関係にならないためである。
【0169】
(その他の実施の形態)
図14は、実施の形態4におけるマイクロホン装置が利用可能なアプリケーションの例を示す図である。すなわち、実施の形態4等で説明したマイクロホン装置は、
図14に示すようなビデオムービー700において、耐振動性能、耐風雑音性能および低固有雑音性能に優れたマイクロホン装置として利用できる。
【0170】
また、上記実施の形態1〜3等で説明した雑音抽出装置は、マイクロホンの出力信号に含まれる振動雑音を抽出できるので、マイクロホンの出力信号から振動のみを精度良く検知できる。したがって、上記実施の形態1〜3等で説明した振動雑音抽出装置は、振動センサや複合センサとして利用できる。
【0171】
また、上記実施の形態1〜3等で説明した雑音抽出装置を、適応ビームフォーマ、音源分離や音源探査などのマイクロホンアレイ信号処理の前処理として利用してもよい。これにより、適応ビームフォーマ、音源分離や音源探査などのマイクロホンアレイ信号処理において耐振動性能、耐風雑音性能および低固有雑音性能を高めることができる。
【0172】
以上、本発明の態様に係る雑音抽出装置およびマイクロホン装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0173】
また、以下に示す形態も、本発明の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0174】
(1)上記の雑音抽出装置およびマイクロホン装置を構成する構成要素の一部は、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニット、ディスプレイユニット、キーボード、マウスなどから構成されるコンピュータシステムであってもよい。前記RAMまたはハードディスクユニットには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、その機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
【0175】
(2)上記の雑音抽出装置およびマイクロホン装置を構成する構成要素の一部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0176】
(3)上記の雑音抽出装置およびマイクロホン装置を構成する構成要素の一部は、各装置に脱着可能なICカードまたは単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカードまたは前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカードまたは前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカードまたは前記モジュールは、その機能を達成する。このICカードまたはこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
【0177】
(4)また、上記の雑音抽出装置およびマイクロホン装置を構成する構成要素の一部は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号をコンピュータで読み取り可能な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray(登録商標) Disc)、半導体メモリなどに記録したものとしてもよい。また、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
【0178】
また、上記の雑音抽出装置およびマイクロホン装置を構成する構成要素の一部は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号を、電気通信回線、無線または有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
【0179】
(5)本発明は、上記に示す方法であるとしてもよい。また、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。ここで、例えば、本発明の一形態に係る雑音抽出方法は、空間的に異なる位置に設けられ、音を収音するための第1および第2のマイクロホンユニットの出力信号を指向性合成した信号である第1指向性信号に含まれる第1雑音信号を抽出する第1の雑音信号抽出ステップと、前記第1指向性信号とは指向性合成の条件が異なる第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を得る第2の雑音信号抽出ステップと、前記第1雑音信号と前記第2雑音信号とを、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離する雑音信号分離ステップとを含むとしてもよい。また、本発明の一形態に係るプログラムは、空間的に異なる位置に設けられ、音を収音するための第1および第2のマイクロホンユニットの出力信号を指向性合成した信号である第1指向性信号に含まれる第1雑音信号を抽出する第1の雑音信号抽出ステップと、前記第1指向性信号とは指向性合成の条件が異なる第2指向性信号に含まれる第2雑音信号を得る第2の雑音信号抽出ステップと、前記第1雑音信号と前記第2雑音信号とを、前記第1および第2のマイクロホンユニットそれぞれで個別に発生する雑音を示す信号である個別雑音信号に分離する雑音信号分離ステップとをコンピュータに動作させるとしてもよい。
【0180】
(6)また、本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
【0181】
(7)また、前記プログラムまたは前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、または前記プログラムまたは前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0182】
(8)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。