特許第6809963号(P6809963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6809963-ハニカム構造体 図000006
  • 特許6809963-ハニカム構造体 図000007
  • 特許6809963-ハニカム構造体 図000008
  • 特許6809963-ハニカム構造体 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809963
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20201221BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20201221BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B01J35/04 301C
   B01J35/04 301G
   F01N3/28 301P
   B01J32/00ZAB
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-68344(P2017-68344)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-167218(P2018-167218A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】青木 洋一
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/129644(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/125770(WO,A1)
【文献】 特開昭63−020038(JP,A)
【文献】 特開平08−238431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86,53/90,53/94−53/96
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一端面から第二端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように、当該セルの延びる方向に直交する断面において格子状に配設された多孔質の隔壁、及び前記隔壁を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム構造部を備え、
複数の前記セルは、前記第一端面側及び前記第二端面側の端部が共に開口したものであり、
前記隔壁は、前記セル内に延びるように突出し、且つ、前記セルの延びる方向に連続して設けられた、突起部を有し、
複数の前記セルのうちの1以上の前記セルは、前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記セルの周縁を構成するそれぞれの前記隔壁から、当該セル内に前記突起部が突出するように構成された特定セルであり、且つ、
前記特定セルは、前記セルの延びる方向に直交する断面において、当該特定セルの周縁を構成する2つの前記隔壁を延長した際の交点と、当該2つの前記隔壁に設けられたそれぞれの前記突起部の底部及び頂部の各2点とを結んで形成される五角形の面積に対して、前記交点を含む5〜50%の範囲に、前記隔壁と同材質の多孔質材料が配設されている、ハニカム構造体。
【請求項2】
前記交点を含む5〜50%の範囲に前記多孔質材料が配設されて構成される部分を多孔質材料配設角部とするとき、前記セルの周縁を構成する隣り合う2つの前記隔壁の交点の総数に対する、前記多孔質材料配設角部の総数の割合が、50〜100%である、請求項1に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。更に詳しくは、排ガス浄化用の触媒を担持する触媒担体として特に好適に利用することが可能なハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、社会全体で環境問題に対する意識が高まっており、燃料を燃焼して動力を生成する技術分野では、燃料の燃焼時に発生する排ガスから、窒素酸化物等の有害成分を除去する様々な技術が開発されている。そして、有害成分を除去する様々な技術としては、例えば、自動車のエンジンから排出される排ガスから、窒素酸化物等の有害成分を除去する様々な技術が開発されている。こうした排ガス中の有害成分の除去の際には、触媒を用いて有害成分に化学反応を起こさせて比較的無害な別の成分に変化させるのが一般的である。そして、排ガス浄化用の触媒を担持するための触媒担体として、ハニカム構造体が用いられている。
【0003】
従来、このようなハニカム構造体として、流体の流路となる複数のセルを区画する多孔質の隔壁を有するハニカム構造部を備えたものが提案されている。このようなハニカム構造体として、隔壁の幾何学的表面積を増大させることを目的として、隔壁より内方に突出するフィン(fin)を設けたハニカム構造体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−266298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなハニカム構造体は、隔壁に設けられたフィンにより、隔壁の幾何学的表面積を増大させることができる。しかし、隣り合う2つのフィンの間において、排ガスの流れの淀みが生じ易く、特に高流量時(具体的には、空間速度8300(1/時間)以上程度)において、触媒との接触性が悪化する要因となっていた。特に、特許文献1のようなハニカム構造体においては、セルを構成する各辺に対して、同数のフィンを配設することが良いとされおり、排ガスの流れの淀みが極めて生じ易く、高流量時における浄化性能の悪化を抑制することができないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明によれば、排ガス浄化用の触媒を担持する触媒担体として特に好適に利用することが可能なハニカム構造体が提供される。特に、セル内における排ガスの流れの淀みが生じ難く、触媒担体として利用した際に、浄化性能の向上が期待されるハニカム構造体が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム構造体が提供される。
【0008】
[1] 第一端面から第二端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように、当該セルの延びる方向に直交する断面において格子状に配設された多孔質の隔壁、及び前記隔壁を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム構造部を備え、
複数の前記セルは、前記第一端面側及び前記第二端面側の端部が共に開口したものであり、
前記隔壁は、前記セル内に延びるように突出し、且つ、前記セルの延びる方向に連続して設けられた、突起部を有し、複数の前記セルのうちの1以上の前記セルは、前記セルの延びる方向に直交する断面において、前記セルの周縁を構成するそれぞれの前記隔壁から、当該セル内に前記突起部が突出するように構成された特定セルであり、且つ、
前記特定セルは、前記セルの延びる方向に直交する断面において、当該特定セルの周縁を構成する2つの前記隔壁を延長した際の交点と、当該2つの前記隔壁に設けられたそれぞれの前記突起部の底部及び頂部の各2点とを結んで形成される五角形の面積に対して、前記交点を含む5〜50%の範囲に、前記隔壁と同材質の多孔質材料が配設されている、ハニカム構造体。
【0009】
[2] 前記交点を含む5〜50%の範囲に前記多孔質材料が配設されて構成される部分を多孔質材料配設角部とするとき、前記セルの周縁を構成する隣り合う2つの前記隔壁の交点の総数に対する、前記多孔質材料配設角部の総数の割合が、50〜100%である、前記[1]に記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハニカム構造体は、セル内に突出するように設けられた突起部を有するものであるため、隔壁の幾何学的表面積を増大させることができる。特に、本発明のハニカム構造体は、排ガスの流れの淀みが生じ難く、触媒担体として利用した際に、浄化性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のハニカム構造体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明のハニカム構造体の一実施形態の流入端面を模式的に示す平面図である。
図3図2に示す流入端面の一部を拡大して模式的に示す平面図である。
図4】従来のハニカム構造体における流入端面の一部を拡大して模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0013】
(1)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の一の実施形態は、図1図3に示すハニカム構造体100である。このハニカム構造体100は、柱状のハニカム構造部10を備えている。ハニカム構造部10は、多孔質の隔壁1、及び隔壁1を囲繞するように配設された外周壁20を有している。隔壁1は、第一端面11から第二端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を取り囲むように、当該セル2の延びる方向に直交する断面において格子状に配設されている。隔壁1は、セル2内に延びるように突出し、且つ、セル2の延びる方向に連続して設けられた、突起部21を有している。そして、複数のセル2のうちの1以上のセル2は、特定セル2aを含んでいる。この特定セル2aは、セル2の延びる方向に直交する断面において、セル2の周縁を構成するそれぞれの隔壁1から、当該セル2内に突起部21が突出するように構成されている。更に、セル2の延びる方向に直交する断面において、当該特定セル2aの周縁を構成する2つの隔壁1を延長した際の交点を交点Kとする。そして、セル2の延びる方向に直交する断面において、交点Kと、上記2つの隔壁1に設けられたそれぞれの突起部21の底部A及び頂部Bの各2点とを結んで形成される五角形の領域(多孔質材料配設領域30)の面積を基準面積Sとする。このとき、ハニカム構造体100には、上記五角形の領域(多孔質材料配設領域30)内に、隔壁1と同材質の多孔質材料が配設されて多孔質材料配設角部31が形成されている。ここで、多孔質材料配設角部31は、多孔質材料配設領域30の面積である基準面積Sに対して、交点Kを含む5〜50%の範囲に配設されている。つまり、上記基準面積Sに対して、交点Kを含む5〜50%の範囲に多孔質材料が配設されて構成される部分を「多孔質材料配設角部」とする。即ち、突起部が設けられ且つ多孔質材料配設角部を有するセルが「特定セル」に該当する。
【0014】
このハニカム構造体100は、セル2内に突出するように設けられた突起部21を有するものであるため、隔壁1の幾何学的表面積を増大させることができる。
【0015】
特に、ハニカム構造体100は、排ガスの高流量時においても排ガスの流れに淀みが生じ難く、触媒担体として利用した際に、浄化性能の向上を図ることができる。具体的には、従来、フィンを設けたハニカム構造体は、セル2の角部(図4中、ドットで示す領域のような角部分)において、排ガスの流れの淀みが生じ易く、特に高流量時に触媒との接触性が悪化する要因となっていた。なお、この角部では、隔壁表面に近い領域程、排ガスの流れの淀みが生じ易い。この点、ハニカム構造体100は、所定の条件を満たす特定セル2aが形成されているため、上述の通り、排ガスの高流量時においても排ガスの流れに淀みが生じ難くなる。つまり、特定セル2aに多孔質材料配設角部31が形成されることにより、排ガスの流れに淀みが生じることを予め防止することができる。このようにすることで、特定セルにおいて排ガスと触媒との接触性が改善され、その結果、ハニカム構造体100の浄化性能の向上が達成される。
【0016】
更に、排ガスの流れの淀んでいる部分に担持されている触媒は、排ガスの浄化に寄与する程度が小さいため、触媒を担持させる効果が十分に得られず、触媒が無駄になっている。特定セル2aを形成することで、触媒が無駄になることを防止することができる。
【0017】
(1−1)隔壁:
隔壁1は、セル2の延びる方向に直交する断面において格子状に配設されたものである。この隔壁1は、「格子状」に配設されたものであり、隔壁を構成する一の壁と他の壁の交点部分には角部が存在することになる。つまり、隔壁1によって区画形成されるセル2の断面形状は、突起部21が無いとすれば、例えば四角形や六角形などの多角形となり得る。このとき、上記多角形の頂点は、角を有する(角が面取りされていない)形状となることを意味する。そして、本発明のハニカム構造体においては、上記格子状に配設された隔壁の所定の位置に、多孔質材料が配設されるという構成を有する。このような構成とすることで、上述の通り、排ガスの高流量時においても排ガスの流れに淀みが生じ難くなり、ハニカム構造体100の浄化性能の向上が達成される。
【0018】
ハニカム構造体100は、隔壁1が突起部21を有している。そのため、ハニカム構造体100に触媒を担持させると、ハニカム構造体100は、突起部21が設けられている分だけ、突起部21が設けられていないハニカム構造体に比べて触媒の担持面積が増える。その結果、触媒と排ガスとの接触性が高まり、排ガスの浄化性能が向上することになる。この突起部21は、セル2の延びる方向に直交する断面において、セル2の周縁を構成するそれぞれの隔壁1から、当該セル2内に突出するものである。
【0019】
突起部21は、セルの延びる方向に直交する断面における形状について特に制限はない。例えば、三角形、四角形などの多角形状、半円形状などとすることができる。これらの中でも、三角形状であることが好ましい。三角形状であると、触媒担持面積を確保しつつ(他の形状の場合と同程度としつつ)他の形状に比べて圧力損失の増加を抑制することができる。
【0020】
突起部21は、セルの延びる方向に直交する断面において、根元部分の角度θが、40〜70°であることが好ましく、45〜65°であることが更に好ましい。上記角度が上記範囲内であると、触媒コート時に触媒が突起部の根元に厚く溜まりにくく触媒コート後の表面積を広くすることができ、排ガスの浄化性能が向上する。上記角度が上記下限値未満であると、突起部の高さを同じにしようとする場合、突起部の容積が増えることになる。そのため、ハニカム構造体の熱容量が増大するので、触媒が活性温度に到達するまでに時間がかかり、排ガスの浄化性能が悪化するおそれがある。上記角度が上記上限値超であると、触媒コート時に触媒が突起部の根元に多く溜まるおそれがある。つまり、突起部の根元に触媒の厚い層が形成される傾向がある。そのため、この触媒層の下層部(隔壁に近い部分)の触媒は有効に使われないおそれがある。突起部の角度は、以下のように測定する。まず、突起部の最も高い位置から底辺Fまでの最短距離である「突起部の高さH」を求める。そして、この「突起部の高さH」の1/2の位置にて底辺Fと平行な直線を引き、この直線と底辺Fを除く三角形の各辺(側面)の交点Kを求める。その後、この交点Kにおける、側面との接線を引き、本接線と底辺Fがなす角度を求め、これを角度θとする。なお、突起部の角度は、隔壁の表面と突起部の側面とのなす角度のうち鋭角の方の角度をいう。
【0021】
セルの水力直径に対する突起部21の高さの割合は、4〜40%であることが好ましく、4〜30%であることが更に好ましい。各突起部の高さは、同じであっても良いし、異なっていてもよい。また、セルの水力直径とは、各セルの断面積及び周長に基づき、4×(断面積)/(周長)によって計算される値である。セルの断面積とは、ハニカム構造体の中心軸方向に垂直な断面に現れるセルの形状(断面形状)の面積を指し、セルの周長とは、そのセルの断面形状の周囲の長さ(当該断面を囲む閉じた線の長さ)を指す。
【0022】
突起部21は、その数について特に制限はなく、1つのセルを構成する各隔壁に任意の数だけ設けることができる。なお、各隔壁に設ける突起部21の数は、具体的には、1〜3個とすることができ、3個以下であることがよい。即ち、特定セルにおいて、一辺あたりに設けられている突起部の個数が3個以下であることが好ましい。このようにすると、排ガスが、隣り合う突起部の間を更に良好に流れ、高流量時においても排ガスの淀みが生じ難く、浄化性能を向上させる観点において有効である。つまり、突起部21の数が4個以上であると、隣り合う突起部の間隔が狭くなり過ぎ、圧力損失が増大する傾向があるためである。
【0023】
突起部21の位置は、特に制限されることなく適宜決定することができる。例えば、突起部21の位置は、突起部21が設けられる辺を等分するような位置とすることができる。例えば、図3では、各辺に設けられた2つの突起部21は、これらの各辺を三等分するように配置されている例を示している。
【0024】
隔壁1の厚さは、40〜230μmであることが好ましく、40〜178μmであることが更に好ましい。隔壁の厚さが下限値未満であると、機械的強度が不足するおそれがある。上限値超であると、ハニカム構造体の圧力損失が上昇するおそれがある。なお、隔壁の厚さは、突起部が設けられていない部分の厚さのことである。
【0025】
隔壁1の材料としては、特に制限はない。例えば、セラミックを主成分とすることが好ましい。具体的には、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、及び炭化珪素−コージェライト系複合材料からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
(1−2)セル:
本発明のハニカム構造体は、複数のセルのうちの1以上のセルが特定セルである。この特定セルは、突起部が突出するように構成され、且つ、多孔質材料配設角部が形成された内側の空間(流体の流路)である。本発明のハニカム構造体は、特定セルにおいて排ガスの高流量時に排ガスの流れに淀みが生じることが防止され、触媒と排ガスとの接触性が高くなる。その結果、ハニカム構造体における排ガスの浄化性能が向上することになる。
【0027】
多孔質材料配設領域は、セル2の延びる方向に直交する断面において、以下のように形成される「五角形の領域」をいう。この「五角形の領域」は、図3に示すように、当該特定セル2aの周縁を構成する2つの隔壁1を延長した際の交点K(基準交点K)と、当該2つの隔壁1に設けられたそれぞれの突起部21の底部A及び頂部Bの各2点とを結んで形成される。本発明においては、この多孔質材料配設領域30の面積を基準面積Sとするとき、基準面積Sに対して、多孔質材料配設角部31(基準交点Kを含む5〜50%の範囲に多孔質材料が配設されて構成された部分)が形成されることが必要である。なお、基準交点Kは、互いに隣り合う2つの隔壁1を延長した際の交点のことである。また、底部A及び頂部Bは、互いに交差する上記2つの隔壁1にそれぞれ設けられた突起部21のうち、基準交点Kに最も近い突起部(基準突起部21a)の底部A及び頂部Bをいう。そして、「底部」は、セル2の延びる方向に直交する断面において、基準突起部21aの側面(基準交点Kに近い方の側面(近傍側面21x))と隔壁1の表面1xとの交点をいう。更に、「頂点」は、セル2の延びる方向に直交する断面において、基準突起部21aの近傍側面21x上における、隔壁1の表面1xから最も高い位置にある点をいう。また、「交点を含む」とは、セル2の延びる方向に直交する断面において、多孔質材料配設角部31の輪郭線が基準交点Kを通ることをいう。なお、多孔質材料配設角部31を、交点を含む範囲とすることにより、排ガスの高流量時に排ガスの流れに淀みが生じることが防止される。即ち、多孔質材料は、多孔質材料配設領域内における「交点を含む範囲」に配設されることが重要である。
【0028】
多孔質材料配設角部は、隔壁1と同材質の多孔質材料からなるものであり、例えば、隔壁と多孔質材料配設角部とは一体に成形してもよいし、隔壁とは別途(即ち一体でなく)形成してもよい。
【0029】
多孔質材料配設角部は、上記のように、多孔質材料配設領域の面積である基準面積Sに対して、交点Kを含む5〜50%の範囲に形成されるものであり、交点Kを含む10〜40%の範囲に形成されるものとすることが好ましく、交点Kを含む10〜30%の範囲に形成されるものとすることが更に好ましい。多孔質材料配設領域内に配設される多孔質材料の割合が上記範囲であることにより、特定セルにおいて排ガスの高流量時に排ガスの流れに淀みが生じることが防止される。その結果、ハニカム構造体における排ガスの浄化性能が向上することになる。
【0030】
1つの特定セルに形成される多孔質材料配設角部の数は、特に制限はなく、セルの角部の全てに多孔質材料配設角部が形成されてもよいし、1つの角部だけに形成されてもよい。つまり、例えば、断面形状が四角形のセルにおいては、図3に示すように4つの角部の全てに多孔質材料配設角部31が形成されてもよいし、角部の1つに多孔質材料配設角部31が形成されてもよい。
【0031】
ここで、セルの周縁を構成する隣り合う2つの隔壁の交点の総数に対する、多孔質材料配設角部31の総数の割合は、50〜100%であることが好ましく、60〜100%であることが更に好ましい。別言すると、上記交点の総数の50%以上において、多孔質材料配設角部31が形成されていることが好ましい。このようにすることで、ハニカム構造体における排ガスの浄化性能が更に向上する。
【0032】
なお、本発明のハニカム構造体には、突起部及び多孔質材料配設角部のいずれも配設されていないセル(即ち、通常セル)が形成されていてもよい。セルの総数に対する通常セルの総数の割合は特に制限はない。
【0033】
多孔質材料配設角部の表面形状(特定セルに露出する表面の形状)は、特に制限はない。例えば、図3では、直線状(平面状)であるが、凹面状または凸面状に湾曲した形状などであってもよい。
【0034】
セルの形状(セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状)は、特に制限はなく、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、あるいは四角形と、六角形又は八角形等との組合せとすることができる。これらの中でも、四角形が好ましい。なお、「セルの形状」は、突起部及び多孔質材料配設角部を設けていない状態の形状をいうものとする。突起部は、隔壁1の表面1xを延長した平面F(図3参照)によって切り取られる部分のことである。
【0035】
(1−3)外周壁:
外周壁20は、隔壁1を囲繞するように配設された壁である。外周壁20は、隔壁1と一体に形成したものであってもよい。
【0036】
外周壁20の厚さは、0.1〜6.0mmであることが好ましく、0.1〜3.0mmであることが特に好ましい。外周壁20の厚さが下限値未満であると、機械的強度が低下することがある。上限値超であると、ハニカム構造体を収容するために、大きなスペースを確保しなければならないことがある。
【0037】
ハニカム構造体100のセル密度は、31〜155個/cmであることが好ましく、43〜148個/cmであることが特に好ましい。セル密度が下限値未満であると、強度が保てないおそれがある。上限値超であると、ハニカム構造体の圧力損失が上昇するおそれがある。
【0038】
(2)ハニカム構造体の製造方法:
本発明のハニカム構造体は、ハニカム成形工程と、焼成工程と、を有する方法により製造できる。以下に各工程について説明する。
【0039】
(2−1)ハニカム成形工程:
本工程においては、セラミック原料を含有するセラミック成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画するように配設された隔壁を有するハニカム成形体を形成する。
【0040】
セラミック成形原料に含有されるセラミック原料としては、コージェライト化原料、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、ムライト、チタン酸アルミニウム、からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なお、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料である。そして、コージェライト化原料は、焼成されてコージェライトになるものである。
【0041】
また、セラミック成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して調製することができる。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするハニカム構造体の構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0042】
セラミック成形原料を成形する際には、まず、セラミック成形原料を混練して坏土とし、得られた坏土をハニカム形状に成形する。セラミック成形原料を混練して坏土を形成する方法としては、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては、例えば、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができる。
【0043】
具体的には、口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0044】
口金は、以下のようにして作製したものを用いることが好ましい。即ち、まず、フィンを有さない従来公知のハニカム構造体を作製する際に使用される口金(従来型口金)を用意する。その後、この従来型口金のスリット(隔壁を構成するための隙間)から外側に向かって放電加工で突起部と相補的な領域(坏土が入り込むことによって突起部となる領域)を形成する。更に、従来型口金のスリットの交差部(隔壁の交点となる部分)において、多孔質材料配設角部と相補的な形状の領域を放電加工で形成する。このようにして所定の口金を作製することができる。
【0045】
このような口金を用いることで、本発明のハニカム構造体の条件を満たすことになるハニカム成形体を簡便に作製することができる。
【0046】
ハニカム成形体の形状としては、特に制限はなく、円柱状、楕円状、端面が「正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形等」の多角柱状等を挙げることができる。
【0047】
また、上記成形後に、得られたハニカム成形体を乾燥することができる。乾燥方法は、特に限定されるものではない。例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。これらの中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥または熱風乾燥を単独でまたは組合せて行うことが好ましい。
【0048】
(2−2)焼成工程:
次に、ハニカム成形体を焼成してハニカム焼成体を作製する。ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼したハニカム成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われる。焼成条件(温度、時間、雰囲気等)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1410〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、4〜8時間が好ましい。仮焼、本焼成を行う装置としては、電気炉、ガス炉等を用いることができる。以上のようして得られたハニカム焼成体を、本発明のハニカム構造体とすることができる。なお、ハニカム構造体の製造方法においては、以下に示すような外周コート工程を更に有していてもよい。
【0049】
なお、上述したように、口金を用いて、多孔質材料配設角部を隔壁と一体に形成してもよいが、隔壁と同じ材料の多孔質材料からなるスラリーを用いて多孔質材料配設角部を隔壁とは別体に作製することもできる。具体的には、まず、突起部を有するハニカム成形体を作製し、このハニカム成形体のセル内に上記スラリーを流し込むなどの方法でセルの角部に上記スラリーを堆積させ、その後、上記焼成工程を行うようにしてもよい。
【0050】
(2−3)外周コート工程:
本工程では、得られたハニカム焼成体の外周に、外周コート材を塗布して外周壁を形成する。なお、外周壁は、ハニカム成形体の作製時に、隔壁とともに一体形成により作製してもよい。外周コート工程によって更に外周壁を形成することにより、ハニカム構造体に外力が加わった際にハニカム構造体が欠けてしまうことを防止できる。
【0051】
外周コート材としては、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、SiC粒子等の無機原料に、有機バインダ、発泡樹脂、分散剤等の添加材を加えたものに水を加えて混練したものなどを挙げることができる。外周コート材を塗布する方法は、「切削されたハニカム焼成体」をろくろ上で回転させながらゴムへらなどでコーティングする方法等を挙げることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
実施例1においては、まず、ハニカム構造体を作製するための成形原料を調製した。セラミック原料に、バインダ、界面活性剤、造孔材、水を添加して成形原料とした。なお、使用したセラミック原料としては、コージェライト化原料である、カオリン、タルク、アルミナを用いた。
【0054】
次に、得られた成形原料をニーダーで混練し、次に、真空土練機で土練して、坏土を形成した。次に、得られた坏土を、口金を用いて、押出成形して、ハニカム成形体を作製した。口金は、突起部及び多孔質材料配設角部が形成された特定セルが形成されるものを用いた。ハニカム成形体は、焼成後において、隔壁の厚さが0.089mmとなり、セル密度が62個/cmとなるものとした。ハニカム成形体のセルの形状は、四角形となるものとした。ハニカム成形体は、円柱状のものとした。円柱状のハニカム成形体の夫々の端面の直径は、焼成後において、118.4mmとなるものであった。なお、上記口金は、作製されるハニカム構造体が表1、表に示す各条件を満たすように設計したものであった。
【0055】
次に、ハニカム成形体を乾燥させて、ハニカム乾燥体を得た。乾燥は、まず、マイクロ波乾燥を行い、その後、熱風の温度120℃において、2時間の熱風乾燥を行った。次に、ハニカム乾燥体の両端部を切断した。
【0056】
次に、得られたハニカム乾燥体を脱脂した。脱脂は、450℃で5時間行った。次に、脱脂したハニカム乾燥体を焼成して、ハニカム焼成体を得た。焼成は、大気中、1425℃で7時間行った。なお、1200℃から1425℃までの昇温は5時間とした。このようにして、実施例1のハニカム構造体を作製した。
【0057】
実施例1のハニカム構造体のセルの延びる方向に直交する断面における、突起部の根元部分の角度θは45°であった。また、突起部の高さHは0.14mmであった。また、セルの延びる方向に直交する断面において、突起部は、表1に示すように各辺上に配置されていた。具体的には、図3に示すように、4つの各辺に2つの突起部が等間隔に配置されていた。また、多孔質材料配設角部の面積は、全ての多孔質材料配設角部において、多孔質材料配設領域の面積である基準面積Sに対して、5%であった(表1、表3中、「多孔質材料の配設面積」の欄に示す)。更に、セルの周縁を構成する隣り合う2つの隔壁の交点の総数に対する、多孔質材料配設角部の総数の割合(多孔質材料配設角部の総数/全交点の数×100)は、50%であった(表1、表3中、「多孔質材料配設角部の総数の割合」の欄に示す)。得られたハニカム構造体は、上記口金の形状が反転した形状と同じ形状であった。
【0058】
なお、プロフィルプロジェクタ(Mitutoyo社製の「小型CNC画像測定機クイックビジョンエルフQV ELF」)と画像解析ソフト(Mitutoyo社製の「QVPAC」)を用いて、突起部の角度θ及び突起部の高さHを測定した。また、突起部の上記辺上の位置の確認を行った。具体的には、まず、ハニカム構造体の端面をプロフィルプロジェクタで撮影し、その後、その画像を二値化処理し、画像解析ソフトの計測機能を使用することで上記測定と確認を行った。
【0059】
突起部の角度については、まず、「突起部の高さH」の1/2の位置にて底辺Fと平行な直線を引き、この直線と底辺Fを除く三角形の各辺(側面)の交点Kを求めた。その後、この交点Kにおける側面との接線を引き、本接線と底辺Fがなす角度を求め、これを角度θとした。なお、「突起部の高さH」は、突起部の最も高い位置から底辺Fまでの最短距離をいう。
【0060】
実施例1のハニカム構造体について、以下の方法で、隔壁厚さ(mm)、隔壁の気孔率(%)、及び、セル密度(個/cm)を測定した。隔壁厚さ(mm)及びセル密度(個/cm)は、上記プロフィルプロジェクタと画像解析ソフトを用いて測定し、隔壁の気孔率(%)は、水銀圧入法により測定した。結果を表1に示す。表1、表3中、「隔壁の気孔率(%)」を「気孔率(%)」と示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1、表3中の「1辺あたりの突起部の数」の欄は、四角形のセルの4辺(第1辺α〜第4辺σ(図3参照))のそれぞれに設けられた突起部の数を示す。表1、表3中、「多孔質材料の配設面積」の欄は、多孔質材料配設領域に多孔質材料を配設した際の多孔質材料の面積を示す。
【0063】
[LA−4試験]
作製したハニカム構造体について、以下のようにして、米国Fedral Test ProcedureのLA−4モードに基づく試験を行った。まず、ハニカム構造体の隔壁には、触媒(三元触媒)を200g/L担持させた。触媒を担持したハニカム構造体は電気炉を用い、950℃で12時間エージング処理を行った。次に、触媒を担持させたハニカム構造体を、排気量が2400ccの車両の床下位置に搭載し、LA−4試験を行った。LA−4試験においては、排ガス測定装置(HORIBA社製、型番「MEXA−7400」)を用いて排ガス成分ごとのダイレクトモーダルマスを測定した。また、代表的な排ガス成分としてHCの排出量を測定した。なお、この試験による排ガスの空間速度は、約10000(1/時間)(高流量)であった。
【0064】
なお、ハニカム構造体においては、特に加速から2山目の排ガスの排出量が多くなる。このため、2山目の加速開始時と、2山目の加速終了時のモーダルマス積算値の比を計算し、加速から2山目の前後のHC排出増加量(%)を求めた。結果を表2に示す。なお、表2においては、「LA−4モードに基づく試験において加速から2山目の前後のHC排出増加量」を「LA−4における2山目の前後のHC排出増加量」と表記する。
【0065】
[LA−4試験の判定]
隔壁が突起部を有さないハニカム構造体に対して、隔壁が突起部を有しているハニカム構造体が、Bagエミッションにおいて有利となるためには、加速から2山目の前後のHC排出増加量(%)が35%以下である必要がある。このため、LA−4試験の判定を以下の基準により行った。
判定「良」:加速から2山目の前後のHC排出増加量(%)が35%以下である場合を「良」とする。
判定「不可」:加速から2山目の前後のHC排出増加量(%)が35%超である場合を「不可」とする。
【0066】
また、ハニカム構造体においては、触媒が活性温度に達するのが早いほど、早期に排ガスの浄化が開始されるため、排ガスの排出量が少なくなる。ここで、セルの角部に多孔質材料を配設するほど、ハニカム構造体の重量が増す。その場合、熱容量が大きくなるため、触媒が活性に達するまでの時間が長くなる。その結果、排ガスの排出量が増加する。
【0067】
そして、隔壁が突起部を有さないハニカム構造体に対して、隔壁が突起部を有しているハニカム構造体が、Bagエミッションにおいて有利となるためには、1山目前後のHC排出増加量の割合を175%以下に抑える必要がある。このため、LA−4試験の判定を以下の基準により行った。
判定「良」:1山目前後のHC排出増加量の割合が175%以下である場合を「良」とする。
判定「不可」:1山目前後のHC排出増加量の割合が175%超である場合を「不可」とする。
【0068】
LA−4試験の判定結果について、表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
[総合判定]
LA−4試験の判定に基づいて以下の基準により総合判定を行った。
判定「良」:加速から2山目の前後のHC排出増加量(%)の判定が「良」であり、1山目前後のHC排出増加量の判定が「良」である場合を「良」とする。
判定「不可」:加速から2山目の前後のHC排出増加量(%)の判定、及び1山目前後のHC排出増加量の判定のいずれかが「良」でない場合を「不可」とする。
【0071】
(実施例2〜21、比較例1〜4)
表1、表3に示すように、多孔質材料の配設面積、多孔質材料配設角部の割合、及び、特定セルの割合を変えてハニカム構造体を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
実施例2〜21、比較例1〜4のハニカム構造体についても、実施例1と同様に隔壁厚さ(mm)、隔壁の気孔率(%)、及び、セル密度(個/cm)を測定し、LA−4試験を行った。結果を表2、表4に示す。
【0075】
(結果)
表2、表4に示すように、実施例1〜21のハニカム構造体は、比較例1〜4のハニカム構造体に比べて、排ガスの浄化性能が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のハニカム構造体は、排ガスを浄化する排ガス浄化用の触媒担体として利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1:隔壁、1x:隔壁の表面、2:セル、2a:特定セル、10:ハニカム構造部、11:第一端面、12:第二端面、20:外周壁、21:突起部、21a:基準突起部、21x:近傍側面、30:多孔質材料配設領域、31:多孔質材料配設角部、α:第1辺、β:第2辺、γ:第3辺、σ:第4辺、A:底部、B:頂部、F:底辺(平面)、H:突起部の高さ、K:交点、K:基準交点、S:基準面積。
図1
図2
図3
図4