特許第6809964号(P6809964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809964
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20201221BHJP
   B65G 49/07 20060101ALI20201221BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B25J9/10 A
   B65G49/07 D
   H01L21/68 A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-68580(P2017-68580)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-167380(P2018-167380A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】上田 光介
【審査官】 樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−312728(JP,A)
【文献】 特開2014−124739(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0265110(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10
B65G 49/07
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の搬送対象を保持するハンド部と当該ハンド部に連結されたアーム部とを有する搬送ロボットを制御する制御装置であって、
前記アーム部による前記搬送対象の移動時に、前記アーム部の先端側の水平方向の軸である先端軸に掛かるモーメントのうち、移動に伴う慣性力に応じた第1モーメントと、重力に応じた第2モーメントとが打ち消し合うように、かつ、前記ハンド部に関する前記搬送対象の法線方向の速度成分である法線速度成分が小さくなるように、前記先端軸における角度である傾斜角と、前記ハンド部の上下方向の速度である垂直速度とを制御する制御部を備えた制御装置。
【請求項2】
前記アーム部による前記搬送対象の移動時に、前記第1モーメントと前記第2モーメントとが打ち消し合うように、かつ、前記法線速度成分が小さくなるように、前記傾斜角と前記垂直速度とを算出する算出部をさらに備え、
前記制御部は、前記アーム部による前記搬送対象の移動時に、前記算出部によって算出された傾斜角及び垂直速度を用いて前記アーム部を制御する、請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記アーム部による前記搬送対象の移動時に、前記第1モーメントと前記第2モーメントとが釣り合うように、前記アーム部を制御する、請求項1または請求項2記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記アーム部による前記搬送対象の移動時に、前記ハンド部の移動方向が前記搬送対象の面方向となるように、前記アーム部を制御する、請求項1から請求項3のいずれか記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の搬送対象を搬送する搬送ロボットを制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、搬送ロボットによって基板を搬送する際に、ハンドの高速移動に伴う基板とハンドとの位置ずれを防止するため、加速時には進行方向に対して前方に向かってハンドを下傾斜させ、減速時には進行方向に対して後方に向かってハンドを下傾斜させるように制御することが行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ハンドを傾斜させることができる搬送ロボットとしては、例えば、特許文献2に記載されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−006064号公報
【特許文献2】意匠登録第1507859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
搬送ロボットでは、ロボットの姿勢によって停止中や動作中に各軸に掛かる負荷が異なる。したがって、加速時や減速時などに特定の軸に大きな負荷の掛かることがあり得る。具体的には、上記特許文献2に記載された搬送ロボットのように、基端側に配置された垂直アーム部の先端に2個の水平アーム部が接続されている場合には、その垂直アーム部の先端側の軸(基端側から3番目の軸)においては、停止中にはほとんど負荷が掛からないが、その先端側の軸を水平方向に移動させる際には加速や減速に応じて急激に負荷が掛かることになる。さらに、搬送ロボットが搬送対象を移動させている際には、その移動に伴って、搬送対象に空気抵抗が作用することになり、その結果として、垂直アーム部の先端側の軸に空気抵抗に応じた負荷も掛かることになる。そのような搬送対象の移動に伴って特定の軸に掛かる負荷を軽減したいという要望があった。
一般的に言えば、搬送ロボットにおいて、搬送対象の移動に伴って特定の軸に発生する負荷を軽減したいという要望があった。
【0006】
本発明は、上記状況に応じてなされたものであり、搬送対象の移動に伴って搬送ロボットの特定の軸に発生する負荷を低減することができる、搬送ロボットの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明による制御装置は、板状の搬送対象を保持するハンド部とハンド部に連結されたアーム部とを有する搬送ロボットを制御する制御装置であって、アーム部による搬送対象の移動時に、アーム部の先端側の水平方向の軸である先端軸に掛かるモーメントのうち、移動に伴う慣性力に応じた第1モーメントと、重力に応じた第2モーメントとが打ち消し合うように、かつ、ハンド部に関する搬送対象の法線方向の速度成分である法線速度成分が小さくなるように、先端軸における角度である傾斜角と、ハンド部の上下方向の速度である垂直速度とを制御する制御部を備えたものである。
このような構成により、先端軸よりも基端側のアームによるハンド部の移動時に第1モーメントと第2モーメントとが打ち消し合うようにすることによって、先端軸に掛かるモーメントを低減することができる。また、ハンド部に関する法線速度成分が小さくなることによって、搬送時に搬送対象の法線方向に掛かる空気抵抗を小さくすることができ、その結果、例えば、その空気抵抗に応じて先端軸に掛かるモーメントを低減したり、搬送対象の脱落を防止したりすることができる。
【0008】
また、本発明による制御装置では、アーム部による搬送対象の移動時に、第1モーメントと第2モーメントとが打ち消し合うように、かつ、法線速度成分が小さくなるように、傾斜角と垂直速度とを算出する算出部をさらに備え、制御部は、アーム部による搬送対象の移動時に、算出部によって算出された傾斜角及び垂直速度を用いてアーム部を制御してもよい。
このような構成により、算出部によって算出された結果を用いて搬送ロボットを制御することができる。そのため、例えば、搬送ロボットの状況等に応じてリアルタイムで傾斜角や垂直速度を制御することもできるようになる。
【0009】
また、本発明による制御装置では、制御部は、アーム部による搬送対象の移動時に、第1モーメントと第2モーメントとが釣り合うように、アーム部を制御してもよい。
このような構成により、アーム部による搬送対象の移動時においても、先端軸にモーメントが実質的に掛からないようにすることができる。
【0010】
また、本発明による制御装置では、制御部は、アーム部による搬送対象の移動時に、ハンド部の移動方向が搬送対象の面方向となるように、アーム部を制御してもよい。
このような構成により、アーム部による搬送対象の移動時に搬送対象が受ける空気抵抗を最小にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明による制御装置によれば、アーム部による搬送対象の移動時に先端軸に掛かるモーメントを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態による搬送ロボットシステムを示す図
図2】搬送ロボットにおけるハンド部の水平方向の移動について説明するための図
図3A】ハンド部の移動時の慣性力等について説明するための図
図3B】ハンド部の移動時の空気抵抗について説明するための図
図3C】ハンド部の移動時の空気抵抗について説明するための図
図4】同実施の形態における先端軸のモーメントについて説明するための図
図5】同実施の形態における先端軸の上下方向の移動について説明するための図
図6】同実施の形態による制御装置の動作を示すフローチャート
図7】同実施の形態による搬送ロボットの設置の一例を示す図
図8】同実施の形態における先端軸の重心等について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による制御装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による制御装置は、搬送ロボットのハンド部を、加速に応じた慣性力に起因するモーメントと重力に起因するモーメントとが打ち消し合う方向に傾斜させると共に、搬送対象への風圧が小さくなるようにハンド部の上下方向の速度を制御するものである。
【0014】
図1は、本実施の形態による搬送ロボットシステム100の構成を示す模式図である。本実施の形態による搬送ロボットシステム100は、制御装置1と、搬送対象を搬送する搬送ロボット2とを備える。
【0015】
搬送ロボット2は、基部20と、基部20に一端が接続され、モータによって駆動される関節によって連結された複数のアームを有するアーム部40と、アーム部40の先端側に連結されたハンド部26とを備える。アーム部40は、第1アーム21、第2アーム22、及び第3アーム23を有する垂直アーム部41と、第4アーム24、及び第5アーム25を有する水平アーム部42とを備える。
【0016】
垂直アーム部41が有する第1アーム21の基端側は、第1軸31によって、回動可能に基部20に支持されている。基部20は、例えば、床等に固定されていることが好適である。第1アーム21の先端側は、第2アーム22の基端側と第2軸32によって回動可能に連結されている。第2アーム22の先端側は、第3アーム23の基端側と第3軸33によって回動可能に連結されている。第1から第3のアーム21〜23によって、垂直方向にアームが作動する多関節の垂直アーム部41が構成されている。第1軸31、第2軸32、第3軸33の各回転軸は、水平方向に延びる回転軸であってもよい。また、それらの各回転軸は、平行であってもよい。また、それらの各回転軸は、それぞれモータによって駆動されることが好適である。なお、垂直アーム部41は、図2で示すように、第3軸33を水平方向に移動させることができる。第3アーム23は、水平アーム部42の基端側が回動可能に連結される回転ベース23aを先端側に有している。第3アーム23は、垂直アーム部41が停止している場合には、垂直方向に延びるように、すなわち回転ベース23aの上面が水平方向となるように第3軸33において制御されることが好適である。水平アーム部42が水平多関節マニピュレータとして動作できるようにするためである。また、第3アーム23の位置が移動されている場合、すなわちアーム部40の先端側が垂直アーム部41によって移動されている場合には、第3軸33より先端側の各軸は回動されないことが好適である。
【0017】
水平アーム部42が有する第4アーム24の基端側は、第5軸35によって、回動可能に回転ベース23aに接続されている。なお、第4アーム24の基端側は、厳密には、第5軸35と同軸である第4軸34を介して、回転ベース23aに接続されている。したがって、水平アーム部42の基端側は、旋回軸である第4軸34によってθ方向に旋回可能に回転ベース23aに接続されていることになる。第5アーム25の基端側は、第6軸36によって、回動可能に第4アーム24の先端側に連結されている。ハンド部26の基端側は、第7軸37によって、回動可能に第5アーム25の先端側に連結されている。第4及び第5アーム24,25によって、水平方向にアームが作動する多関節の水平アーム部42が構成されている。第4軸34、第5軸35、第6軸36、第7軸37の各回転軸は、回転ベース23aの上面が水平方向である場合に、垂直方向(鉛直方向)に延びる回転軸であってもよい。また、それらの各回転軸は、平行であってもよい。旋回軸である第4軸34は、モータによって駆動されることが好適である。第5軸35、第6軸36、第7軸37は、例えば、1つのモータと、そのモータの駆動力を伝達する伝達手段とによって駆動されてもよく、各軸がそれぞれモータによって駆動されてもよい。その伝達手段は、例えば、ベルトとプーリによって構成されてもよく、複数のギヤによって構成されてもよい。そのような構成により、例えば、ハンド部26が、直線的に移動されてもよい。すなわち、第5軸35、第6軸36、第7軸37は、例えば、ハンド部26の先端側を直線的に移動させるように駆動されてもよい。その場合には、旋回軸である第4軸34によって、その直線の方向が変更されることになる。
【0018】
ハンド部26は、板状の搬送対象を保持することができるものである。搬送対象は、例えば、半導体基板やガラス基板など基板であってもよく、その他の薄板状のものであってもよい。ハンド部26は、搬送時に搬送対象がずれたり落ちたりしないように搬送対象を固定できるチャック機構を有してもよく、または、そうでなくてもよい。後者の場合には、例えば、搬送対象は、ハンド部26に載置されるだけであってもよい。ハンド部26が有するチャック機構は、例えば、把持機構であってもよく、吸着機構であってもよい。なお、アーム部40は、2以上の水平アーム部を有していてもよい。また、本実施の形態による搬送ロボット2のように、基端側の垂直アーム部41、及び、先端側の水平アーム部42を有するアーム部40と、そのアーム部40の先端に連結されたハンド部26とを有する多関節ロボットは、上記特許文献1,2等に記載されており、すでに公知であるため、その詳細な説明を省略する。
【0019】
図2で示されるように、搬送ロボット2が停止している場合であって、第3アーム23より先端側の部分に関する重心50が、第3軸33の鉛直上方に存在する場合には、第3軸33にはほとんどモーメント(トルク)が掛かっていないことになる。なお、本実施の形態では、搬送ロボット2の停止時に第3アーム23よりも先端側の重心50が、第3軸33の鉛直上方に存在する場合について主に説明し、そうでない場合については後述する。それに対して、図2の実線で示される位置から破線で示される位置までハンド部26等が水平方向に移動する場合には、その移動の加速度に応じた慣性力が重心50に掛かることになり、その慣性力に応じたモーメントが第3軸33に掛かることになる。その第3軸33に掛かる負荷は、移動の加速度の絶対値が大きくなるほど、より大きくなる。近年、搬送スピードを向上させることが求められており、急加速、急減速を行うことが多くなってきている。そのため、各軸に掛かる負荷(トルク)も大きくなる傾向にある。そのような大きな負荷に耐えるようにするためには、第3軸33を駆動するモータとして、出力の高いモータを使用する必要がある。一方、そのような出力の高いモータを、垂直アーム部41の先端側の軸である第3軸33を駆動するために用いた場合には、第1軸31及び第2軸32の負荷が大きくなるという問題があった。なぜなら、出力が高いほど、モータの重量はより大きくなるからである。したがって、第3軸33を駆動するために高出力のモータを採用するためには、第1軸31や第2軸32を駆動するためのモータも高出力のものにする必要があり、搬送ロボット2が全体として大型化してしまうという問題があった。そのため、第3軸33を駆動するためのモータの出力を小さく抑えると共に、大きな加速度にも耐えられるようにすることが求められる。そのことを実現するためには、例えば、図3Aで示されるように、第3軸33において、先端側を傾斜させ、重心50に掛かる慣性力に応じたモーメントと、重力に応じたモーメントとが打ち消し合うようにすることが考えられる。すなわち、図3Aにおいて、慣性力のうち、第3軸33に掛かるモーメントに効く成分であるM1と、重力のうち、第3軸33に掛かるモーメントに効く成分であるM2とが打ち消し合うようにすることによって、第3軸33に掛かるモーメントを小さくすることができる。一方、図3Bで示されるように第3軸33において先端側を傾斜させた場合には、進行方向と逆方向に空気抵抗が発生することになる。そして、その空気抵抗に応じて図3Bの実線の矢印で示される力が新たに重心50に加わることになり、その空気抵抗に応じた力のうち、破線の矢印で示す成分が、第3軸33にモーメントとして作用することになる。また、例えば、図3Cで示されるように、進行方向が図3Bとは逆方向である場合には、空気抵抗に応じて図3Cの実線の矢印で示される力が搬送対象51に加わることになる。その空気抵抗に応じた力のうち、破線の矢印で示す成分が、搬送対象51をハンド部26から離す方向に作用することになり、その成分が大きい場合には、搬送対象51が脱落する恐れがある。また、搬送対象51が脱落しなかったとしても、図3Bの場合と同様に、空気抵抗に応じたモーメントが第3軸33に作用することになる。そのように、空気抵抗に応じて第3軸33に掛かるモーメントが低減され、また、空気抵抗に応じて搬送対象51に作用する、搬送対象51をハンド部26から離す方向の力が低減されるようにするためには、搬送対象51の移動方向が、搬送対象51の面方向となるようにすればよい。そのことは、例えば、図3B図3Cにおいて、水平方向の移動に、垂直方向(Z方向)を加えることによって実現することができる。なお、その垂直方向の移動に応じて垂直方向に慣性力が作用することも考えられる。したがって、水平方向の移動及び垂直方向の移動に伴う慣性力に応じた第1モーメントと、重力に応じた第2モーメントとが釣り合うようにすると共に、ハンド部26の移動方向が搬送対象51の面方向となるようにすることが求められる。それらを実現する、第3軸33の傾斜角を算出する方法について、図4を参照しながら説明する。
【0020】
図4では、あらかじめ決められた速度に応じて第3軸33が水平方向に移動される場合に、第1及び第2モーメントが釣り合うように第3アーム23より先端側が傾斜され、また、移動方向が搬送対象51の面方向となるように上下方向の速度が加えられている場合について示している。なお、その上下方向の速度に応じて、上下方向の加速度も発生することになる。図4において、第3アーム23より先端側について、図中の左方向が正となる水平加速度aで加速され、図中の下方向が正となる垂直加速度aで加速されているとする。そのため、重心50には、図中の右方向が正となる水平慣性力maと、図中の上方向が正となる垂直慣性力maとが掛かることになる。なお、mは、第3アーム23より先端側の質量である。すなわち、第3アーム23からハンド部26までの質量の合計が「m」である。また、第3軸33の角度である傾斜角をφとしている。なお、その傾斜角φは、平面状の搬送対象51が水平方向である場合に0となる角度である。停止時に第3アーム23よりも先端側の重心50が、第3軸33の鉛直上方に存在する搬送ロボット2の場合には、第3軸33と重心50とを結ぶ直線と、鉛直方向とのなす角度も傾斜角φとなる。なお、その傾斜角は鋭角である。また、図3Cのように傾斜する場合には、傾斜角φは、負の値になるものとする。また、第3アーム23より先端側について、図中の左方向が正となる水平速度vと、図中の下方向が正となる垂直速度vとを合成した速度vの方向は、図4で示されるように、水平速度vとなす角度がφとなるものとする。なぜなら、ハンド部26等は、搬送対象51の面方向に移動する必要があるからである。
【0021】
図4において、慣性力に応じた第1モーメントと、重力に応じた第2モーメントとが釣り合うためには、次式が成り立つことが必要である。なお、gは重力定数である。
(mg−ma)sinφ=macosφ
上式を変形すると、次式のようになる。
tanφ=a/(g−a) (1)
【0022】
また、水平速度vと、垂直速度vと、傾斜角φとの関係から、次式が得られる。
tanφ=v/v (2)
上記式1,2より、次式が得られる。
/(g−a)=v/v (3)
【0023】
また、水平加速度aと水平速度vとの関係、及び垂直加速度aと垂直速度vとの関係は、次式のようになる。
=dv/dt (4−1)
=dv/dt (4−2)
上記式3,4−1,4−2より、次式が得られる。
×dv/dt=v(g−dv/dt) (5)
【0024】
なお、式5の左辺は、通常、既知である。なぜなら、ハンド部26は、あらかじめ決められた水平速度によって移動するからである。そのため、式5の左辺をα(t)とし、変数である時間tを明記すると、
dv(t)/dt=g−α(t)/v(t) (6)
の微分方程式が得られる。この式6で示される微分方程式を数値解析によって解くことにより、v(t)を得ることができる。なお、v(t)の初期値は「0」としてもよい。また、上記式2から、
φ(t)=tan−1(v(t)/v(t)) (7)
であるため、得られたv(t)と、既知であるv(t)とを式7に代入することによって、φ(t)も算出することができる。このようにして、垂直速度v(t)と、第3軸33の傾斜角φ(t)とを得ることができるため、あらかじめ決められた水平速度vに応じて第3アーム23より先端側を移動させる際に、垂直速度v(t)に応じて第3軸33を上下方向に移動させ、また、傾斜角φ(t)に応じて第3軸33を回動させることによって、第3軸33において、第1及び第2モーメントが釣り合い、また、ハンド部26が搬送対象51の面方向に移動するようにすることができる。なお、移動の開始から終了までの垂直速度vの積分結果(すなわち、移動の開始時点を基準とする上下方向への移動距離)は、通常「0」になると考えられるため、あらかじめ決められた水平速度vと、算出された垂直速度vとに応じた移動を行うことによって、あらかじめ決められた水平速度vのみに応じた移動を行った場合と同じ結果になると考えられる。一方、仮に算出された垂直速度vに応じた移動によって、移動終了時点において、あらかじめ決められた水平速度vのみに応じた移動を行った場合と上下方向の位置が異なる場合には、その差分を補正するため、移動終了後に第3軸33の位置を上下方向に移動させてもよい。
【0025】
図5を用いて、アーム部40の先端側の水平方向の移動に応じた、第3軸33に関する鉛直方向の高さの変化と傾斜の変化とについて説明する。図5は、第3軸33の高さの時間変化と、第3軸33における先端側の傾斜の時間変化とを示す図である。水平方向の移動について、ハンド部26が加速されている期間である加速期間においては、ハンド部26の進行方向が搬送対象51の面方向となるようにするため、第3軸33の高さは徐々に低くなる。また、加速時には、加速に伴う慣性力に応じた第1モーメント(図5の第3軸33では、反時計回りに作用する。)と、重力に応じた第2モーメント(図5の第3軸33では、時計回りに作用する。)とが釣り合うようにするため、アーム部40の先端側は、進行方向の水平成分の前方側(図5の右側)が、進行方向の水平成分の後方側(図5の左側)よりも下方となるように傾斜されることになる。すなわち、ハンド部26等は、進行方向の水平成分に対して前方に向かって下方に傾斜されることになる。一方、減速時には、減速に伴う慣性力に応じた第1モーメント(図5の第3軸33では、時計回りに作用する。)と、重力に応じた第2モーメント(図5の第3軸33では、反時計回りに作用する。)とが釣り合うようにするため、アーム部40の先端側は、進行方向の水平成分の前方側(図5の右側)が、進行方向の水平成分の後方側(図5の左側)よりも上方となるように傾斜されることになる。すなわち、ハンド部26等は、進行方向の水平成分に対して後方に向かって下方に傾斜されることになる。また、加速も減速も行われていない定速時や静止時には、アーム部40の先端側は、進行方向や搬送対象51の面方向が水平方向とされることになる。したがって、静止時から加速されて定速移動となる場合には、アーム部40の先端側は、水平方向から徐々に前傾することになり、その後、徐々に前傾の程度が小さくなって水平方向に戻ることになる。また、定速移動から減速されて停止する場合には、アーム部40の先端側は、水平方向から徐々に後傾することになり、その後、徐々に後傾の程度が小さくなって水平方向に戻ることになる。なお、傾斜や水平等は、ハンド部26によって保持されている搬送対象51の面方向に関する傾斜や水平等であると考えてもよい。また、ハンド部26に搬送対象51が保持されていない場合には、ハンド部26に搬送対象51が保持されていると仮定した場合における搬送対象51の面方向に関する傾斜や水平等であると考えてもよい。
【0026】
図1で示されるように、制御装置1は、搬送ロボット2を制御するものであり、記憶部11と、算出部12と、制御部13とを備える。
記憶部11では、例えば、教示された経路や、その経路に応じて移動する際の速度などが記憶されていてもよい。その経路や速度は、例えば、ハンド部26の所定の位置に関する経路や速度であってもよい。具体的には、水平速度v(t)があらかじめ記憶部11で記憶されていてもよい。その水平速度vは、例えば、教示経路を用いて算出されたものであってもよい。また、記憶部11では、算出部12によって算出された垂直速度v(t)や傾斜角φ(t)なども記憶されてもよく、その他の情報が記憶されてもよい。
【0027】
記憶部11に情報が記憶される過程は問わない。例えば、記録媒体を介して情報が記憶部11で記憶されるようになってもよく、通信回線等を介して送信された情報が記憶部11で記憶されるようになってもよく、入力デバイスを介して入力された情報が記憶部11で記憶されるようになってもよく、算出部12によって算出された情報が記憶部11で記憶されるようになってもよい。記憶部11での記憶は、RAM等における一時的な記憶でもよく、または、長期的な記憶でもよい。記憶部11は、所定の記録媒体(例えば、半導体メモリや磁気ディスクなど)によって実現されうる。
【0028】
算出部12は、アーム部40による搬送対象51の移動時に、アーム部40の先端軸に掛かるモーメントのうち、移動に伴う慣性力に応じた第1モーメントと、重力に応じた第2モーメントとが釣り合うように、かつ、ハンド部26の移動方向が搬送対象51の面方向となるように、先端軸の傾斜角と、ハンド部26の垂直速度とを算出する。ここでのアーム部40による搬送対象51の移動時とは、アーム部40の垂直アーム部41による搬送対象51の移動時である。したがって、通常、その移動時には、水平アーム部42は、動作しないものとする。また、アーム部40の先端軸とは、アーム部40の先端側の軸である。先端軸は、移動時に第1及び第2モーメントが釣り合うようにできる軸であるため、通常、水平方向の軸、すなわち水平方向に延びる軸である。また、静止時には、先端軸に負荷が掛からないことが好適である。なお、先端軸は、アーム部40の最も先端の軸でなくてもよい。上記のような条件を満たすアーム部40の軸のうち、最も先端側の軸が先端軸であると考えてもよい。図1で示される搬送ロボット2では、第3軸33が先端軸となる。第1及び第2モーメントが釣り合うとは、両モーメントが同じ大きさで逆向きとなり、互いに相殺することである。なお、その釣り合いは、実質的であればよく、例えば、第1及び第2モーメントに誤差程度の差が生じていてもよい。先端軸の傾斜角とは、先端軸における角度である。その傾斜角は、上記φのように、ワールド座標系における、先端軸よりも先端側の部分(例えば、第3アーム23等)の角度であることが好適である。その傾斜角は、例えば、静止時、すなわち先端軸にモーメントが掛かっていない時の角度を基準(例えば、0度)とする角度であってもよい。上記φは、そのような角度となっている。ハンド部26の垂直速度とは、ハンド部26の上下方向の速度である。上記説明では、v(t)が垂直速度である。算出部12は、上記のように、記憶部11で記憶されている水平速度v(t)を用いて上記式6の微分方程式を数値計算によって解くことによって、垂直速度v(t)を取得することができる。また、その計算した垂直速度v(t)と、記憶部11で記憶されている水平速度v(t)とを用いることによって、上記式7により、傾斜角φ(t)を算出することができる。算出部12は、取得した垂直速度v(t)、傾斜角φ(t)を記憶部11に蓄積してもよい。
【0029】
なお、ここでは、第1及び第2モーメントが釣り合うようになり、かつ、ハンド部26の移動方向が搬送対象51の面方向となるように、傾斜角や垂直速度が算出される場合について説明したが、そうでなくてもよい。第1及び第2モーメントが完全に釣り合わなくても、先端軸に掛かる負荷を低減することができ、また、ハンド部26の移動方向が搬送対象51の面方向に完全に一致しなくても、空気抵抗に応じたモーメントや搬送対象51を脱落させる方向に作用する力を低減することができ、その結果、出力の高いモータを先端軸に用いなくてよくなる効果や、搬送対象51の脱落を防止できる効果を得ることができるからである。したがって、算出部12は、アーム部40による搬送対象51の移動時に、例えば、第1モーメントと第2モーメントとが打ち消し合うように、かつ、法線速度成分が小さくなるように、傾斜角と垂直速度とを算出してもよい。なお、第1モーメントと第2モーメントとが打ち消し合うようにとは、結果として、第1及び第2モーメントが互いに弱め合う方向に作用するようにすることであり、一方のモーメントが他方のモーメントによって完全に相殺されなくてもよい(すなわち、第1及び第2モーメントは釣り合わなくてもよい)。ただし、算出された傾斜角や垂直速度に応じた制御を行うことによって、その制御を行わない場合よりも先端軸に掛かる負荷が低減される程度に、第1及び第2モーメントが互いに打ち消し合うことが好適である。また、法線速度成分とは、ハンド部26に関する速度成分であり、ハンド部26によって保持される搬送対象51(この搬送対象51は、実際に保持されていてもよく、または、そうでなくてもよい。)の法線方向の速度成分である。法線速度成分が小さくなるとは、算出された傾斜角や垂直速度に応じた制御を行うことによって、その制御を行わない場合よりもハンド部26の法線速度成分が小さくなることを意味している。また、その制御を行うことによって、ハンド部26の移動方向と搬送対象51の法線方向とのなす角度(小さい方の角度である)が、その制御を行わない場合よりも大きくなることになる。その結果として、ハンド部26の移動に応じて搬送対象51の法線方向に掛かる空気抵抗が低減されることになる。上記のように、アーム部40による搬送対象51の移動時に、第1モーメントと第2モーメントとが打ち消し合うように、かつ、法線速度成分が小さくなるように、傾斜角と垂直速度とを算出する場合には、算出部12は、例えば、あらかじめ決められた離散的な値の集合から、傾斜角の候補や垂直速度の候補を選択し、その選択した傾斜角の候補や垂直速度の候補に応じた第1及び第2モーメントの合成結果が、あらかじめ決められた閾値より小さくなるのであれば、その選択した傾斜角の候補や垂直速度の候補を、実際の制御で用いる最終的な傾斜角や垂直速度とするようにしてもよい。また、算出部12は、例えば、アーム部40による搬送対象51の移動時に、上下方向の移動がないと仮定して、第1及び第2モーメントが釣り合うように傾斜角を算出し、その後、第1及び第2モーメントの合成結果が、あらかじめ決められた閾値を超えない範囲となるように、垂直速度を決定してもよい。このようにすることで、第1及び第2モーメントの合成結果は少なくとも閾値を超えないことになり、また、上下方向の移動も行われるため、空気抵抗の影響を少なくとも低減することができるようになる。
【0030】
制御部13は、アーム部40による搬送対象51の移動時に、算出部12によって算出された傾斜角及び垂直速度を用いてアーム部40を制御する。すなわち、ハンド部26によって保持された搬送対象51を垂直アーム部41によって移動させる際に、制御部13は、先端軸の角度が算出された傾斜角となり、先端軸の上下方向の速度が算出された垂直速度となるように制御する。その制御は、通常、垂直アーム部41の各軸を制御することによって行われる。なお、制御部13は、算出された傾斜角及び垂直速度となるように、アーム部40を制御することによって、結果として、第1モーメントと第2モーメントとが打ち消し合うように、かつ、ハンド部26に関する法線速度成分が小さくなるように、先端軸の傾斜角とハンド部26の垂直速度とを制御することになる。また、第1モーメントと第2モーメントとが釣り合うように算出された傾斜角及び垂直速度を用いてアーム部40を制御する場合には、制御部13は、第1モーメントと第2モーメントとが釣り合うように制御することになる。また、ハンド部26の移動方向が搬送対象の面方向となるように算出された傾斜角及び垂直速度を用いてアーム部40を制御する場合には、制御部13は、ハンド部26の移動方向が搬送対象の面方向となるように制御することになる。なお、制御部13は、先端軸以外のアーム部40の各軸に関する制御も行うものとする。例えば、制御部13は、搬送対象51をスロット等に対して出し入れするために、水平アーム部42の各軸や、旋回軸である第4軸34を制御してもよい。また、アーム部40の各軸を制御する際に、制御部13は、サーボコントローラを介してその制御を行ってもよい。
【0031】
なお、ここでは、算出部12が、搬送ロボット2の動作前にあらかじめ垂直速度v(t)や傾斜角φ(t)を算出する場合について説明したが、そうでなくてもよい。算出部12は、リアルタイムでそれらの算出を行ってもよい。その場合には、算出部12は、例えば、式6の微分方程式を解く際に、最新の水平速度vや垂直速度v等を用いてもよい。また、第1及び第2モーメントが釣り合わなくてもよい場合や、ハンド部26の移動方向が搬送対象51の面方向とならなくてもよい場合には、算出部12は、例えば、次のようにして傾斜角や垂直速度を算出してもよい。算出部12は、ある時刻tの実際の水平速度vと垂直速度vとを用いて上記式7によって算出した傾斜角φを、次の時刻ti+1における傾斜角として用いてもよい。また、算出部12は、その算出した傾斜角φと、ある時刻tの実際の水平加速度aとを用いて上記式1によって垂直加速度aを算出し、その垂直加速度aを用いて、次の時刻ti+1における垂直速度vを算出してもよい。そして、制御部13は、その算出された傾斜角φと垂直速度vとを用いてアーム部40を制御してもよい。なお、時刻ti+1=t+Δtであり、Δtは、大きくない値であることが好適である。
【0032】
また、本実施の形態では、制御装置1が算出部12を有しており、その算出部12によって算出された傾斜角や垂直速度を用いてアーム部40が制御される場合について説明したが、そうでなくてもよい。上記のとおり、水平速度v(t)を用いて垂直速度v(t)と傾斜角φ(t)とがあらかじめ算出されている場合には、制御部13は、そのあらかじめ算出された垂直速度v(t)と傾斜角φ(t)とを記憶部11から読み出すことによって、アーム部40を制御することができる。したがって、そのような場合には、制御装置1は、算出部12を備えておらず、水平速度v(t)と、垂直速度v(t)と、傾斜角φ(t)とが記憶されている記憶部11と、それらの情報を用いてアーム部40を制御する制御部13とを備えているものであってもよい。そのような場合であっても、制御部13が記憶部11で記憶されている水平速度v(t)や垂直速度v(t)等を用いてアーム部40を制御することによって、第1モーメントと第2モーメントとが打ち消し合うように、かつ、ハンド部26に関する法線速度成分が小さくなるように、先端軸の傾斜角とハンド部26の垂直速度とを制御することになる。なお、制御装置1が算出部12を有していない場合であっても、記憶部11で記憶されている垂直速度v(t)や傾斜角φ(t)は、上記説明のように、算出部12による算出方法と同様の方法によって算出されたものであってもよい。
【0033】
次に、搬送ロボットシステム100の動作について図6のフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートの説明では、記憶部11において、水平速度vがあらかじめ記憶されているものとする。
(ステップS101)算出部12は、記憶部11で記憶されている水平速度v(t)を読み出す。
【0034】
(ステップS102)算出部12は、読み出した水平速度v(t)を用いて、例えば、式6の微分方程式を数値解析によって解くことにより、垂直速度v(t)を算出する。その算出された垂直速度v(t)は、記憶部11に蓄積されてもよい。
【0035】
(ステップS103)算出部12は、読み出した水平速度vと、算出した垂直速度v(t)とを式7に代入することによって、傾斜角φ(t)を算出する。その算出された傾斜角φ(t)は、記憶部11に蓄積されてもよい。
【0036】
(ステップS104)制御部13は、垂直アーム部41による搬送対象51の移動時に、搬送ロボット2のアーム部40の先端軸である第3軸33が、記憶部11で記憶されている水平速度v(t)、及び算出部12によって算出された垂直速度v(t)で移動し、その第3軸33の角度が傾斜角φ(t)となるように制御する。この制御によって、先端軸に掛かる慣性力に応じたモーメントが低減され、また、移動に応じた搬送対象51の法線方向の速度成分が低減されたハンド部26の移動を実現することができることになる。
【0037】
なお、図6のフローチャートにおける処理は一例であり、その他の方法によって搬送ロボット2の制御が行われてもよい。例えば、算出部12は、傾斜角φ(t)を算出した後に、垂直速度v(t)を算出してもよい。また、制御部13は、水平アーム部42に関する制御等を行ってもよい。
【0038】
以上のように、本実施の形態による制御装置1によれば、搬送ロボット2が搬送対象51を搬送する際に先端軸に発生する負荷を低減することができる。そのため、先端軸を駆動するモータとして、高出力のものを使用しなくてもよいことになり、アーム部40の軽量化を図ることができる。その結果として、アーム部40の基端側の各軸を駆動するモータとしても、高出力のものを使用しなくてよいことになり、全体として、アーム部40が大型化しないようにすることができる。また、アーム部40の各軸を駆動するモータの容量低下に応じて、アーム部40のコスト削減を実現することもできる。また、モータを低出力のものとできることによって、モータを動作させるドライバも低出力のものを使用することができるようになり、搬送ロボットシステム100全体として、小型化及び低コスト化を実現できる。さらに、その結果として、搬送ロボット2の動作時のモータ電流を低減することができ、消費電力の削減も実現することができる。また、ハンド部26の移動時における法線速度成分が小さくなるように制御されることによって、空気抵抗に応じて先端軸に発生するモーメントを低減することができると共に、搬送対象51がハンド部26から脱落しないようにすることができる。また、算出部12を備えていることによって、例えば、リアルタイムで傾斜角や垂直速度を算出することもできるようになる。さらに、第1及び第2モーメントが釣り合うように傾斜角や垂直速度を算出することによって、先端軸における負荷低減の効果を高めることができる。また、ハンド部26の移動方向が搬送対象51の面方向となるように傾斜角や垂直速度を算出することによって、空気抵抗に応じて発生するモーメントや、搬送対象51を脱落させる方向に働く力を最小にすることができる。搬送対象51の法線方向に働く空気抵抗を最小にすることによって、例えば、非常に薄い搬送対象51が搬送時に破損しないようにすることもできる。
【0039】
なお、ハンド部26が搬送対象51を保持していない場合には、図3Bを用いて説明した、空気抵抗に応じたモーメントの影響はそれほど大きくならず、また、図3Cを用いて説明した、空気抵抗による搬送対象51の脱落も起きないことになる。通常、搬送対象51の面積と比較して、ハンド部26の面積は小さいからである。したがって、ハンド部26が搬送対象51を保持していない場合と、保持している場合とで先端軸に関する制御を変更してもよい。具体的には、ハンド部26が搬送対象51を保持している場合には、上記説明のようにして算出された傾斜角や垂直速度を用いた制御を行い、ハンド部26が搬送対象51を保持していない場合には、垂直速度v=垂直加速度a=0として算出された傾斜角を用いた制御を行うようにしてもよい。後者の場合には、ハンド部26の移動時に先端軸は上下方向には移動されないことになる。なお、教示された経路が上下方向の移動も含む場合には、ハンド部26が搬送対象51を保持していない場合であっても、先端軸は、上下方向にも移動されることになる。その場合には、上記式1に、式4−1,4−2によって算出された垂直加速度aと垂直速度vとを代入することによって傾斜角φを算出してもよい。
【0040】
また、本実施の形態では、搬送ロボット2の基部20が床面等の水平面に設置される場合について説明したが、そうでなくてもよい。図7で示されるように、搬送ロボット2の基部20は、壁面に設置されてもよい。このように、制御対象の搬送ロボット2は、例えば、壁掛け式のものであってもよい。
【0041】
また、本実施の形態では、搬送ロボット2の停止時に第3アーム23よりも先端側の重心50が、第3軸33の鉛直上方に存在する場合につい説明したが、そうでなくてもよい。停止時に重心50が第3軸33の鉛直上方に存在しない場合には、移動時には、例えば、図8で示されるようになる。なお、停止時に重心50が第3軸33の鉛直上方に存在しない場合とは、第3軸33から搬送対象51の法線方向(すなわち、第3アーム23の長手方向)に延びる直線上に、重心50が存在しない場合であると考えてもよい。また、図8は、図4に対応する図面であり、あらかじめ決められた速度に応じて第3軸33が水平方向に移動される場合に、第1及び第2モーメントが釣り合うように第3アーム23より先端側が傾斜され、また、移動方向が搬送対象51の面方向となるように上下方向の速度が加えられている場合について示している。図8の傾斜角φは、図4と同じである。図8において、第3軸33と重心50とを結ぶ直線と、鉛直方向とのなす角度をθとし、第3軸33と重心50とを結ぶ直線と、第3軸33から搬送対象51の法線方向に延びる直線とのなす角度をδとすると、θ=φ+δとなる。そのδは、既知の値である。
【0042】
図8の場合には、上記式1,2は、次式のようになる。
tanθ=a/(g−a) (1')
tanφ=tan(θ−δ)=v/v (2')
また、tan(θ−δ)=(tanθ−tanδ)/(1+tanθtanδ)であるため、上記式3は、次式のようになる。
(a−(g−a)tanδ)/(g−a+atanδ)=v/v (3')
上記式3'と、上記式4−1,4−2とを用い、また、vが既知であることを用いると、この場合にも、v(t)の微分方程式が得られる。したがって、その微分方程式を数値解析によって解くことにより、v(t)を得ることができ、また、φ(t)を得ることができる。このようにして、停止時に第3アーム23よりも先端側の重心50が、第3軸33の鉛直上方に存在しない搬送ロボット2の場合であっても、垂直速度v(t)と、第3軸33の傾斜角φ(t)とを得ることができるため、あらかじめ決められた水平速度vに応じて第3アーム23より先端側を移動させる際に、水平速度v(t)に応じて第3軸33を上下方向に移動させ、また、傾斜角φ(t)に応じて第3軸33を回動させることによって、第3軸33において、第1及び第2モーメントが釣り合い、また、ハンド部26が搬送対象51の面方向に移動するようにすることができるようになる。
【0043】
また、本実施の形態で説明した搬送ロボット2の構成は一例であり、制御装置1は、それ以外の構成を有する搬送ロボットを制御するようにしてもよい。例えば、搬送ロボット2が有する垂直アーム部41や水平アーム部42のリンク数や軸数は問わない。また、制御対象の搬送ロボットは、基端側の垂直アーム部と、その垂直アーム部の先端側に連結された水平アーム部とを有していてもよく、または、そうでなくてもよい。後者の場合には、搬送ロボットは、例えば、垂直アーム部の先端にハンド部が連結されたものであってもよい。
【0044】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0045】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、または、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0046】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、または長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、または、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、または、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0047】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いる閾値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、または、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0048】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、または、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。また、そのプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。また、そのプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、または分散処理を行ってもよい。
【0049】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上より、本発明による制御装置によれば、搬送ロボットが搬送対象を搬送する際に先端軸に発生する負荷を低減できるという効果が得られ、搬送ロボットを制御する制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 制御装置
2 搬送ロボット
11 記憶部
12 算出部
13 制御部
26 ハンド部
40 アーム部
41 垂直アーム部
42 水平アーム部
51 搬送対象
100 搬送ロボットシステム
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8