(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インプット軸、アウトプット軸、前記インプット軸に入力される動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構、前記無段変速機構と前記アウトプット軸との間で動力を伝達する第1経路に介在される第1係合要素、および前記無段変速機構と前記アウトプット軸との間で動力を伝達する第2経路に介在される第2係合要素を含み、
前記第1係合要素の係合および前記第2係合要素の解放により第1モードが構成され、前記第1係合要素の解放および前記第2係合要素の係合により第2モードが構成され、
前記無段変速機構の変速比が一定値をとるときに、前記第1係合要素および前記第2係合要素に差回転が生じないように構成された変速機を搭載した車両において、
前記変速機を制御する制御装置であって、
前記第1係合要素と前記第2係合要素との係合の切り替えによる前記第1モードと前記第2モードの切り替えの際に、係合側の前記第1係合要素または前記第2係合要素に差回転が生じている状態で、解放側の前記第2係合要素または前記第1係合要素の伝達トルク容量を下げる解放制御手段と、
解放側の前記第2係合要素または前記第1係合要素の伝達トルク容量が下げられた後、係合側の前記第1係合要素または前記第2係合要素に生じている差回転が所定値まで小さくなったことに応じて、係合側の前記第1係合要素または前記第2係合要素の伝達トルク容量を上昇させて、当該伝達トルク容量が前記無段変速機構のベルト伝達トルク容量よりも小さい状態を一時的に保持した後、係合側の前記第1係合要素または前記第2係合要素を完全係合させる係合制御手段とを含む、制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速機において、駆動源の動力を2系統に分割して伝達する構成は、出願人も提案している。
【0005】
その提案に係る構成には、無段変速機構、スプリット変速機構(平行軸式歯車機構)および遊星歯車機構が含まれる。無段変速機構は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。無段変速機構のプライマリ軸には、インプット軸に入力されるエンジンの動力が伝達される。無段変速機構のセカンダリ軸は、遊星歯車機構のサンギヤに接続されている。スプリット変速機構は、インプット軸の動力が伝達/遮断されるスプリットドライブギヤと、スプリットドライブギヤとギヤ列を構成し、遊星歯車機構のキャリアと一体回転するスプリットドリブンギヤとを備えている。遊星歯車機構のリングギヤには、アウトプット軸が接続されている。アウトプット軸の回転は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の駆動輪に伝達される。
【0006】
この変速機では、前進走行時における動力伝達モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードが設けられている。
【0007】
ベルトモードでは、インプット軸とスプリットドライブギヤとの間での動力の伝達/遮断を切り替える第1クラッチが解放されて、スプリットドライブギヤが自由回転状態(フリー)にされ、遊星歯車機構のキャリアが自由回転状態にされる。また、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとを結合/分離する第2クラッチが係合されて、サンギヤとリングギヤとが結合される。そのため、無段変速機構から出力される動力により、サンギヤおよびリングギヤが一体的に回転し、アウトプット軸がリングギヤと一体的に回転する。したがって、ベルトモードでは、変速機全体の変速比(インプット軸の回転数/アウトプット軸の回転数)であるユニット変速比が無段変速機構の変速比(ベルト変速比)と一致する。
【0008】
スプリットモードでは、第2クラッチが解放されて、遊星歯車機構のサンギヤとリングギヤとの結合が解除される。そのため、無段変速機構から出力される動力により、サンギヤが回転する。一方、第1クラッチが係合されて、インプット軸からスプリットドライブギヤに動力が伝達され、その動力がスプリットドライブギヤからスプリットドリブンギヤを介することにより一定のスプリット変速比で変速されて、遊星歯車機構のキャリアに入力される。そのため、スプリットモードでは、ベルト変速比が大きいほどユニット変速比が小さくなり、スプリット変速比以下の変速比を実現することができる。
【0009】
ユニット変速比がスプリット変速比を跨いで変更される場合、そのユニット変速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えが伴う。このモードの切り替えは、第1クラッチと第2クラッチとの係合の切り替えにより達成される。ベルト変速比とスプリット変速比とがずれている状態では、サンギヤとキャリアとの間に差回転が生じているので、第1クラッチと第2クラッチとの係合の切り替えをベルト変速比がスプリット変速比とほぼ一致する変速比まで変速された時点(同期点またはその近傍)で行えば、差回転による変速ショックの発生を防止することができる。
【0010】
ただし、スプリットモードでアクセルペダルが素早くかつ大きく踏み込まれることによるキックダウンが要求される場合、ベルト変速比をスプリット変速比まで変速してから第1クラッチと第2クラッチとの係合の切り替えを行ったのでは、変速レスポンスが悪い。そのため、キックダウンが要求される場合には、第1クラッチの伝達トルク容量を下げて、第1クラッチを滑らせることにより、無段変速機構から出力される回転(サンギヤの回転)を吹き上がらせて、その回転とアウトプット軸の回転(リングギヤの回転)との差回転がなくなった時点で第2クラッチが係合される。
【0011】
しかしながら、第2クラッチを係合させる油圧の指示圧と実圧とのばらつき、第2クラッチのクラッチクリアランスやそれを解消するがた詰めに要する時間のばらつきなどにより、サンギヤとリングギヤとに大きな差回転が生じている状態で第2クラッチが係合される場合がある。この場合、ベルトにイナーシャトルクが発生して、ベルトが滑る懸念がある。
【0012】
本発明の目的は、モード切替時におけるベルト滑りの発生を抑制できる、変速機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するため、本発明に係る変速機の制御装置は、インプット軸、アウトプット軸、インプット軸に入力される動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構、無段変速機構とアウトプット軸との間で動力を伝達する第1経路に介在される第1係合要素、および無段変速機構とアウトプット軸との間で動力を伝達する第2経路に介在される第2係合要素を含み、第1係合要素の係合および第2係合要素の解放により第1モードが構成され、第1係合要素の解放および第2係合要素の係合により第2モードが構成され、無段変速機構の変速比が一定値をとるときに、第1係合要素および第2係合要素に差回転が生じないように構成された変速機を搭載した車両において、変速機を制御する制御装置であって、第1係合要素と第2係合要素との係合の切り替えによる第1モードと第2モードの切り替えの際に、係合側の第1係合要素または第2係合要素(以下、この欄において「係合側の係合要素」という。)に差回転が生じている状態で、解放側の第2係合要素または第1係合要素(以下、この欄において「解放側の係合要素」という。)の伝達トルク容量を下げる解放制御手段と、解放側の係合要素の伝達トルク容量が下げられた後、係合側の係合要素に生じている差回転が所定値まで小さくなったことに応じて、係合側の係合要素の伝達トルク容量を上昇させて、当該伝達トルク容量が無段変速機構のベルト伝達トルク容量よりも小さい状態を一時的に保持した後、係合側の係合要素を完全係合させる係合制御手段とを含む。
【0014】
この構成によれば、第1係合要素と第2係合要素との係合の切り替えによる第1モードと第2モードの切り替えの際には、まず、係合側の係合要素に差回転が生じている段階で、解放側の係合要素の伝達トルク容量が下げられる。これにより、解放側の係合要素が半クラッチ状態となって、解放側の係合要素に滑りが発生し、無段変速機構側の回転が吹き上がって、係合側の係合要素に生じている差回転が急速に小さくなる。
【0015】
係合側の係合要素に生じている差回転が所定値まで小さくなると、係合側の係合要素の伝達トルク容量が上げられて、係合側の係合要素が完全係合される。係合側の係合要素の伝達トルク容量が上げられる途中で、その伝達トルク容量が無段変速機構のベルト伝達トルク容量よりも小さい伝達トルク容量に一時的に保持され、その後、係合側の係合要素の伝達トルク容量が再び上げられる。これにより、係合側の係合要素に生じている差回転が大きい状態で係合側の係合要素が完全係合することを抑制でき、かかる完全係合によるイナーシャトルクの発生を抑制できる。その結果、ベルト滑りの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、モード切替時におけるベルト滑りの発生を抑制することができる。また、モード切替時に係合側の第1係合要素または第2係合要素に生じている差回転を急速に小さくすることができるので、モード切替に要する時間を短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0020】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0021】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3および変速機4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0022】
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
【0023】
トルクコンバータ3は、ポンプインペラ21、タービンランナ22およびロックアップクラッチ(ロックアップ機構)23を備えている。ポンプインペラ21には、E/G出力軸11が連結されており、ポンプインペラ21は、E/G出力軸11と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。タービンランナ22は、ポンプインペラ21と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。ロックアップクラッチ23は、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結/分離するために設けられている。ロックアップクラッチ23が係合されると、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが直結され、ロックアップクラッチ23が解放されると、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが分離される。
【0024】
ロックアップクラッチ23が解放された状態において、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ21が回転する。ポンプインペラ21が回転すると、ポンプインペラ21からタービンランナ22に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ22で受けられて、タービンランナ22が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ22には、E/G出力軸11の動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。
【0025】
ロックアップクラッチ23が係合された状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ21およびタービンランナ22が一体となって回転する。
【0026】
変速機4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2系統に分割してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2系統の動力伝達経路を構成するため、変速機4は、無段変速機構33、逆転ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
【0027】
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ22に連結され、タービンランナ22と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0028】
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
【0029】
無段変速機構33は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、無段変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
【0030】
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ(プライマリシーブ)52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油圧室54が形成されている。
【0031】
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ(セカンダリシーブ)56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油圧室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
【0032】
無段変速機構33では、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各油圧室54,58に供給される油圧が制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が連続的に無段階で変更される。
【0033】
具体的には、プーリ比が小さくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ43の可動シーブ52が固定シーブ51側に移動し、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ43に対するベルト45の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が小さくなる。
【0034】
プーリ比が大きくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が下げられる。これにより、セカンダリプーリ44の推力(セカンダリ推力)に対するプライマリプーリ43の推力(プライマリ推力)の比である推力比が小さくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が大きくなる。
【0035】
一方、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の推力は、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44とベルト45との間で滑りが生じない大きさを必要とする。そのため、インプット軸31に入力されるトルクの大きさに応じた推力が得られるよう、セカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧が制御される。
【0036】
逆転ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、逆転ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
【0037】
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリア72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリア72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリア72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0038】
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む。
【0039】
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
【0040】
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリア72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
【0041】
また、変速機4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
【0042】
クラッチC1は、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0043】
クラッチC2は、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0044】
ブレーキB1は、遊星歯車機構35のキャリア72を制動する係合状態と、キャリア72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
【0045】
<変速モード>
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。
図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリア72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
図4は、無段変速機構33による変速比であるベルト変速比と変速機4の全体での変速比であるユニット変速比、つまりインプット軸31とアウトプット軸32との回転数比であるユニット変速比との関係を示す図である。
【0046】
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
【0047】
変速機4は、車両1の前進時の変速モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードを有している。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
【0048】
ベルトモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリア72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
【0049】
インプット軸31に入力される動力は、逆転ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、
図3および
図4に示されるように、ユニット変速比がベルト変速比(無段変速機構33のプライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
【0050】
スプリットモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが直結されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリア72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
【0051】
インプット軸31に入力される動力は、逆転ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、遊星歯車機構35のサンギヤ71に伝達される。一方、インプット軸31に入力される動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリア72に増速されて伝達される。
【0052】
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比(スプリット変速比)は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリア72の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、
図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、
図4に示されるように、無段変速機構33のベルト変速比が大きいほど、変速機4のユニット変速比が小さくなる。
【0053】
ベルトモードおよびスプリットモードにおけるアウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
【0054】
車両1の後進時のリバースモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリア72が制動される。
【0055】
インプット軸31に入力される動力は、逆転ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリア72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6Rおよび駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
【0056】
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0057】
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、ROMおよびRAM、データフラッシュ(フラッシュメモリ)などが内蔵されている。
図2には、変速機4を制御するための1つのECU101のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU101と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU101を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0058】
ECU101には、制御に必要な各種センサが接続されている。その一例として、ECU101には、プライマリ軸41の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するプライマリ回転センサ111、セカンダリ軸42の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するセカンダリ回転センサ112、アウトプット軸32の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するアウトプット回転センサ113および変速機4のセカンダリ圧(セカンダリプーリ44の可動シーブ56に作用する油圧)に応じた検出信号を出力する油圧センサ114が接続されている。
【0059】
ECU101では、プライマリ回転センサ111、セカンダリ回転センサ112、アウトプット回転センサ113および油圧センサ114の各検出信号から、プライマリ回転数(プライマリ軸41の回転数)、セカンダリ回転数(セカンダリ軸42の回転数)、アウトプット回転数(アウトプット軸32の回転数)およびセカンダリ圧が取得される。また、ECU101では、他のECUから情報が取得される。そして、ECU101により、各種のセンサから取得される情報、他のECUから入力される情報などに基づいて、変速機4の変速制御などのため、トルクコンバータ3および変速機4を含むユニットの各部に油圧を供給するための油圧回路に含まれる各種のバルブなどが制御される。
【0060】
<変速制御>
変速機4のユニット変速比は、ECU101によるベルト変速比の制御により変更される。ユニット変速比の制御では、まず、変速線図に基づいて、アクセル開度および車速に応じた目標回転数が設定される。変速線図は、アクセル開度および車速と目標回転数との関係を定めたマップであり、ECU101のROMに格納されている。アクセル開度および車速の情報は、たとえば、エンジン2を制御するエンジンECUからECU101に送信される。目標回転数が設定されると、インプット軸31に入力される回転数を目標回転数に一致させる目標変速比が求められ、目標変速比に応じた目標ベルト変速比が設定される。
【0061】
次に、目標ベルト変速比およびインプット軸31に入力される入力トルクに基づいて、無段変速機構33におけるベルト滑りを防止するのに必要なセカンダリ推力が設定される。入力トルクは、エンジントルクにトルクコンバータ3のトルク比を乗じることにより算出される。エンジントルクは、たとえば、エンジンECUによりアクセル開度およびエンジン回転数から推定され、エンジンECUからECU101に送信される。トルク比は、トルクコンバータ3の速度比に応じたトルク増幅率であり、その速度比は、タービン回転数をエンジン回転数で除した除算値である。
【0062】
そして、目標ベルト変速比および入力トルクに応じた推力比(=セカンダリ推力/プライマリ推力)が設定される。そして、セカンダリ推力および推力比からプライマリ推力が設定される。
【0063】
その後、その設定されたプライマリ推力およびセカンダリ推力から、プライマリプーリ43の可動シーブ52にプライマリ推力を与える油圧であるプライマリ圧およびセカンダリプーリ44の可動シーブ56にセカンダリ推力を与える油圧であるセカンダリ圧の指令値が設定され、各指令値に基づいて、目標ベルト変速比と実ベルト変速比との偏差が零に近づくように、プライマリプーリ43の油圧室54およびセカンダリプーリ44の油圧室58にそれぞれ供給される油圧が制御される。実ベルト変速比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
【0064】
<モード切替制御>
ユニット変速比がスプリット変速比を跨いで変更される場合、そのユニット変速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替え(以下、単に「モード切替」という。)が伴う。モード切替は、クラッチC1,C2の係合の切り替えにより達成される。すなわち、クラッチC1,C2に供給される油圧の制御により、解放状態のクラッチC1(係合側)が係合され、係合状態のクラッチC2(解放側)が解放されることにより、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられる。逆に、係合状態のクラッチC1(解放側)が解放され、解放状態のクラッチC2(係合側)が係合されることにより、スプリットモードからベルトモードに切り替えられる。
【0065】
図6は、スプリットモードからベルトモードへのモード切替時におけるセカンダリ回転数、アウトプット回転数、クラッチC1,C2に供給される油圧、エンジントルク、ベルト伝達トルク容量、およびクラッチC1,C2の各伝達トルク容量の時間変化を示す図である。
【0066】
ユニット変速比がスプリット変速比からずれている状態では、セカンダリ回転数とアウトプット回転数とに回転数差、つまりセカンダリ軸42(サンギヤ71)とアウトプット軸32(リングギヤ73)とに差回転が生じている。
【0067】
そのため、モード切替の際には、ユニット変速比がスプリット変速比まで変速されてからクラッチC1,C2の係合が切り替えられる。
【0068】
しかしながら、スプリットモードでの車両1の走行中に、運転者の加速要求によりアクセルペダルが素早くかつ大きく踏み込まれて、ユニット変速比の目標変速比がスプリット変速比よりも大きい値に設定された場合、変速レスポンスが重視されて、ユニット変速比がスプリット変速比と一致しないまま、モード切替のため、クラッチC1,C2の係合が切り替えられる。
【0069】
このとき、ECU101により、解放側のクラッチC1の伝達トルク容量が入力トルクを下回るように、クラッチC1に供給される油圧が下げられる(時刻T1)。
【0070】
クラッチC1の伝達トルク容量が入力トルクを下回ることにより、クラッチC1が反クラッチ状態となって、クラッチC1に滑りが発生し、無段変速機構33のプライマリ回転数およびセカンダリ回転数が吹き上がる。その結果、セカンダリ回転数とアウトプット回転数との回転数差が小さくなる。
【0071】
セカンダリ回転数とアウトプット回転数との回転数差が所定値まで小さくなると、ECU101により、クラッチC2に供給される油圧が上げられる(時刻T2)。このとき、クラッチC2に供給される油圧(指示圧)は、クラッチC2が完全係合する油圧まで一気に上げられるのではなく、クラッチC2の伝達トルク容量がベルト伝達トルク容量よりも小さい状態となる油圧で一時的に保持される。ベルト伝達トルク容量は、ベルト変速比、プライマリ回転数およびセカンダリ圧から算出することができる。
【0072】
そして、クラッチC2の伝達トルク容量がベルト伝達トルク容量よりも小さい状態が所定時間続いた後、ECU101により、クラッチC2に供給される油圧(指示圧)がクラッチC2が完全係合する油圧まで上げられる(時刻T3)。
【0073】
<作用効果>
以上のように、スプリットモードからベルトモードへのモード切替時には、係合側のクラッチC2の両側、つまりセカンダリ軸42(サンギヤ71)とアウトプット軸32(リングギヤ73)とに差回転が生じている段階で、解放側のクラッチC1の伝達トルク容量が下げられる。これにより、クラッチC1が半クラッチ状態となって、クラッチC1に滑りが発生し、無段変速機構33側の回転が吹き上がって、セカンダリ軸42とアウトプット軸32との差回転が急速に小さくなる。
【0074】
セカンダリ軸42とアウトプット軸32との差回転が所定値まで小さくなると、クラッチC2の伝達トルク容量が上げられる。その途中で、クラッチC2の伝達トルク容量が無段変速機構33のベルト伝達トルク容量よりも小さい伝達トルク容量に一時的に保持される。その後、所定時間が経過すると、クラッチC2の伝達トルク容量が再び上げられる。これにより、セカンダリ軸42とアウトプット軸32との差回転が大きい状態でクラッチC2が完全係合することを抑制でき、かかる完全係合によるイナーシャトルクの発生を抑制できる。その結果、ベルト滑りの発生を抑制することができる。
【0075】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0076】
たとえば、スプリットモードからベルトモードへのモード切替時の制御を取り上げたが、本発明に係る制御は、ベルトモードからスプリットモードへの切替時、つまり解放状態のクラッチC1が係合され、係合状態のクラッチC2が解放される際にも適用可能である。
【0077】
また、ECU101には、
図5に示される各種のセンサ111〜114以外のセンサが接続されていてもよいし、センサ111〜114のうちの一部は、他のECUに接続されていてもよい。
【0078】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。