特許第6809987号(P6809987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スキャンポファーマ合同会社の特許一覧 ▶ スキャンポ・アーゲーの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809987
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】脂肪酸誘導体の製造法
(51)【国際特許分類】
   C07C 405/00 20060101AFI20201221BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
   C07C405/00 504T
   !C07B61/00 300
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-114416(P2017-114416)
(22)【出願日】2017年6月9日
(62)【分割の表示】特願2013-558842(P2013-558842)の分割
【原出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-200932(P2017-200932A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2017年7月7日
【審判番号】不服2019-16532(P2019-16532/J1)
【審判請求日】2019年12月6日
(31)【優先権主張番号】61/503,742
(32)【優先日】2011年7月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518022673
【氏名又は名称】スキャンポファーマ合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501131276
【氏名又は名称】スキャンポ・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】Sucampo AG
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】松川 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 隆司
(72)【発明者】
【氏名】古田島 博之
(72)【発明者】
【氏名】福屋 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】半田 道玄
(72)【発明者】
【氏名】坂田 賢哉
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 齊藤 真由美
【審判官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−45231(JP,A)
【文献】 特開2007−211011(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/001387(WO,A1)
【文献】 J.Am.Chem.Soc.,vol.128,(2006),p.8412−8413
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D, C07C
REGISTRY/CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
Aは、−COOHまたはそのベンジルエステル;
Bは、−CH−CH−;
Raは、−CH−CH−CH−CH−CH−CH;そして、
Rbは、−CF−CH−CH−CH−CHまたは−CF−CH−CH(CH)−CH−CH
ある]
で表される脂肪酸誘導体の製造法であって、アザアダマンタン−N−オキシル誘導体および酸化される水酸基1モル当量に対して0.05〜0.5モル当量のハロゲン化塩の存在下で、式(II)
【化2】
A、B、RaおよびRbは前記と同義である。]
で表される化合物を共酸化剤と反応させる工程を含み、
該アザアダマンタン−N−オキシル誘導体が、2−アザアダマンタン−N−オキシルまたは1−メチル−2−アザアダマンタン−N−オキシルであり、
該ハロゲン化塩が、臭化カリウムであり、
該共酸化剤が、次亜塩素酸ナトリウムである、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品として、あるいは医薬品の合成中間体として有用な脂肪酸誘導体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸誘導体はヒトまたは他の哺乳類の組織または器官に存在する有機カルボン酸であり、広範囲の生理学的活性を有する。天然に存在する脂肪酸誘導体には、その一般構造として、式(A)に示すプロスタン酸骨格を有するものが含まれる。
【化1】
【0003】
脂肪酸誘導体、例えば上記のようなプロスタン酸骨格を有するプロスタグランジン誘導体の製造において、水酸基の酸化反応は重要な反応工程のひとつとなる。水酸基の酸化方法としては、多くの方法が知られている。
【0004】
スワン(Swern)酸化はプロスタグランジン合成に慣用的に用いられている反応であるが、超低温の反応温度(−70〜−40℃)で操作できる特殊な製造設備を必要とする。また、分子中にカルボキシル基を有する脂肪酸誘導体の場合、副反応により望まない副生成物が主たる生成物となりうる(例えば、特許文献1、特に、比較例1を参照のこと;この文献は引用により本明細書中に包含される)。この問題を避けるため、スワン酸化前のカルボキシル基への保護基導入、および酸化後の保護基の脱保護が必要となり、結果として、これらの付加的な工程により、製造工程が長くかつ冗長になる問題がある。
【0005】
酸化活性種である塩化クロロジメチルスルホニウムまたはスワン酸化の反応試薬(ジメチルスルホキシドおよび塩化オキサリル)から発生する塩素イオンやジメチルスルホニウムイオンにより、スワン酸化によって得られるケトンのα位が塩素化および/またはメチルチオ化される事がある。
特に、生成するケトンのα位の酸性度が高い、またはケト−構造がエノール形に変化する傾向がある場合、α-クロロ誘導体などの副生成物が発生しやすい。
【0006】
クロロ誘導体やメチルチオ誘導体などの副生成物は、カラムクロマトグラフィーを用いて所望の生成物から除去するのが非常に難しい場合がある。晶析による精製があまり効率的でない場合、結晶化を繰り返す必要がある。また、それらの副生成物は最終生成物への後続工程における反応、特に触媒水素化および水素化分解を阻害する場合がある。また、スワン酸化では強い臭気を持つジメチルスルフィドが副生するため、悪臭防止のため、排ガス洗浄塔、活性炭吸着塔などの設備が必要となる。
【0007】
クロム酸などの重金属試薬を使用する従来の酸化方法は、カルボキシル基を有する化合物の酸化に使用できる。しかし、多くの重金属は、有毒であり、医薬品の工業的生産方法としては適さない場合もある。
【0008】
デス−マーチン(Dess-Martin)酸化もカルボキシル基を有する化合物を酸化するのに使用できるが、この酸化試薬の熱および衝撃に対する感受性が報告されている(非特許文献1、この文献は引用により本明細書中に包含される)。また、この酸化試薬を工業原料として市場から入手することは容易ではなく、工業的生産方法として適しているとはいえない。
【0009】
TEMPO酸化も、水酸基の酸化に使用できる。この反応は、比較的マイルドな条件下で容易に行うことができるため、超低温反応設備、排ガス洗浄塔などの設備が不要であり、高純度の目的物を効率的に製造することができる方法として知られている(特許文献1、この文献は引用により本明細書中に包含される)。しかし、TEMPO酸化にはいくつかの問題があることが知られている。例えば、TEMPOの酸化体、すなわちTEMPOの活性形態は、構造的安定性に難があり、触媒の必要量が比較的多くなる。また、嵩高い基質を酸化する場合、十分な反応性が得られない。かかる反応を促進するために、1モル当量の水酸基に対して1.0〜2.0モル当量の臭化ナトリウム、臭化カリウム、テトラブチルアンモニウムブロマイドまたはテトラブチルアンモニウムクロライドなどのハロゲン化塩の反応への添加が通常行われる。しかし、それらのハロゲン塩は、臭化物類似体のような副生成物を発生させることがある。
【0010】
以上のような現状において、工業生産への利用上問題がなく、副生成物の発生を抑制可能な、水酸基酸化方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006−0036108号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Chem. Eng. News, July 16, 3, 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、脂肪酸誘導体を製造する新規な方法であって、比較的マイルドな条件下で行うことの出来る方法を提供することである。
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アザアダマンタン−N−オキシル誘導体の存在下で、共酸化剤を用いて合成中間体を酸化させることにより、脂肪酸誘導体を効率的に製造できることを見出した。本発明の方法によれば、特殊な装置を必要とせず、安価で入手容易な共酸化剤を用いて、望まない副生成物の生成を抑制しながら、所望の脂肪酸誘導体を合成することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、式(I)
【化2】
ただし、X、YおよびZのうち、少なくとも1つは、
【化3】
であり;
Aは、−CH、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
Bは、単結合、−CH−、−CH−CH−、−CH=CH−または−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−;
Raは、非置換またはハロゲン原子、低級アルキル、低級アルコキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素基(脂肪族炭化水素基の1つ以上の炭素原子は任意に酸素原子、窒素原子あるいは硫黄原子で置換されていてもよい);そして、
Rbは、水素原子;非置換またはハロゲン、オキソ、水酸基、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環または複素環オキシで置換された、飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素基;シクロ(低級)アルキル基;シクロ(低級)アルキルオキシ基;アリール基;アリールオキシ基;複素環基;複素環オキシ基;]
で表される脂肪酸誘導体の製造法であって、アザアダマンタン−N−オキシル誘導体の存在下で、式(II)
【化4】
ただし、X、YおよびZのうち、少なくとも1つは、
【化5】
であり;
A、B、RaおよびRbは前記と同義である。]
で表される化合物を共酸化剤と反応させる工程を含む方法を提供する。
【0016】
上記RaおよびRbの定義における「不飽和」の語は、主鎖および/または側鎖の炭素原子間の結合として、少なくとも1つまたはそれ以上の2重結合および/または3重結合を孤立、分離または連続して含むことを意味する。通常の命名法に従って、連続する2つの位置間の不飽和結合は若い方の位置番号を表示することにより示し、連続しない2つの位置間の不飽和結合は、両方の位置番号を表示して示す。
【0017】
「低〜中級脂肪族炭化水素」の語は、炭素原子数1〜14の直鎖または分枝鎖(ただし、側鎖は炭素数1〜3のものが好ましい)を有する炭化水素を意味し、好ましくはRaの場合炭素数1〜10、特に6〜10の炭化水素であり、Rbの場合炭素数1〜10、特に1〜8の炭化水素である。
【0018】
「ハロゲン」の語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子を包含する。
【0019】
「低級」の語は、特にことわりのない限り炭素原子数1〜6を有する基を意味する。
【0020】
「低級アルキル」の語は、炭素原子数1〜6の直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを含む。
【0021】
「低級アルコキシ」の語は、低級アルキルが上記と同意義である低級アルキル−O−を意味する。
【0022】
「低級アルカノイルオキシ」の語は、式RCO−O−(ここで、RCO−は上記のような低級アルキルが酸化されて生じるアシル、例えばアセチル)で示される基を意味する。
【0023】
「低級シクロアルキル」の語は、炭素原子3個以上を含む上記のような低級アルキル基が閉環して生じる基であり、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを含む。
【0024】
「シクロ(低級)アルキルオキシ」の語は、シクロアルキルが上述と同意義である、式シクロアルキル−O−で表される基を意味する。
【0025】
「アリール」の語は、置換されていてもよい芳香族炭化水素環基を包含し、好ましくは単環性の、例えばフェニル、トリル、キシリルが例示される。置換基としては、ハロゲン、ハロゲン置換低級アルキル基(ここで、ハロゲンおよび低級アルキル基は前記の意味)が含まれる。
【0026】
「アリールオキシ」の語は、式ArO−(ここで、Arは上記のようなアリール基)で示される基を意味する。
【0027】
「複素環」としては、置換されていてもよい炭素原子および窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる1種または2種のヘテロ原子を1乃至4個、好ましくは1乃至3個含む、5乃至14員、好ましくは5乃至10員の、単環式乃至3環式、好ましくは単環式の複素環基が例示される。複素環基としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、フラザニル基、ピラニル基、ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、2−ピロリニル基、ピロリジニル基、2−イミダゾリニル基、イミダゾリジニル基、2−ピラゾリニル基、ピラゾリジニル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、インドリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、プリニル基、キナゾリニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズイミダゾリニル基、ベンゾチアゾリル基、フェノチアジニル基などが例示される。この場合、置換基としてはハロゲン、ハロゲン置換低級アルキル基(ここで、ハロゲンおよび低級アルキル基は前記の意味)が例示される。
【0028】
「複素環オキシ」の語は、式HcO−(ここでHcは上記のような複素環基)で示される基を意味する。
【0029】
Aの「官能性誘導体」の語は、塩(好ましくは、医薬上許容し得る塩)、エーテル、エステルおよびアミド類を含む。
【0030】
適当な「医薬上許容し得る塩」としては、慣用される非毒性塩を含み、無機塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、有機塩基との塩、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、リジン塩、プロカイン塩、カフェイン塩等)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩、リジン塩等)、テトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の反応によってまたは塩交換によって製造し得る。
【0031】
エーテルの例としてはアルキルエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテルおよび1−シクロプロピルエチルエーテル等の低級アルキルエーテル、オクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテルおよびセチルエーテル等の中級または高級アルキルエーテル、オレイルエーテルおよびリノレニルエーテル等の不飽和エーテル、ビニルエーテル、アリルエーテル等の低級アルケニルエーテル、エチニルエーテルおよびプロピニルエーテル等の低級アルキニルエーテル、ヒドロキシエチルエーテルおよびヒドロキシイソプロピルエーテル等のヒドロキシ(低級)アルキルエーテル、メトキシメチルエーテルおよび1−メトキシエチルエーテル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル、および例えばフェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジメトキシフェニルエーテルおよびベンズアミドフェニルエーテル等の所望により置換されたアリールエーテル、ベンジルエーテル、トリチルエーテル、ベンズヒドリルエーテル等のアリール(低級)アルキルエーテルが挙げられる。
【0032】
エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステルおよび1−シクロプロピルエチルエステル等の低級アルキルエステル、ビニルエステルおよびアリルエステル等の低級アルケニルエステル、エチニルエステルおよびプロピニルエステル等の低級アルキニルエステル、ヒドロキシエチルエステル等のヒドロキシ(低級)アルキルエステル、メトキシメチルエステルおよび1−メトキシエチルエステル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエステルのような脂肪族エステルおよび例えばフェニルエステル、トシルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジメトキシフェニルエステル、ベンズアミドフェニルエステル等の所望により置換されたアリールエステル、ベンジルエステル、トリチルエステル、ベンズヒドリルエステル等のアリール(低級)アルキルエステルが挙げられる。
【0033】
Aのアミドとしては、式−CONR’R”で表される基を意味する。ここで、R’およびR”はそれぞれ水素原子、低級アルキル、アリール、アルキル−あるいはアリール−スルホニル、低級アルケニルまたは低級アルキニルであり、例えば、メチルアミド、エチルアミド、ジメチルアミド等のモノ−もしくはジ−低級アルキルアミド、アニリドおよびトルイジドのようなアリールアミド、メチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミドおよびトリルスルホニルアミド等のアルキル−もしくはアリール−スルホニルアミド等が挙げられる。
【0034】
好ましいAの例は、−COOH、その医薬上許容し得る塩、エステル、アミドである。
【0035】
好ましいBは、−CH−CH−であり、いわゆる13,14−ジヒドロタイプ誘導体と称される構造を有するものである。
【0036】
好ましいRaは炭素数1〜10の炭化水素であり、特に好ましくは炭素数6〜10の炭化水素である。また、炭化水素基における1つ以上の炭素原子は、任意に酸素原子、窒素原子あるいは硫黄原子で置換されていてもよい。
【0037】
Raの具体例としては、例えば、次のものが挙げられる。
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−O−CH−、
−CH−CH=CH−CH−O−CH−、
−CH−C≡C−CH−O−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
など。
【0038】
好ましいRbは、水素原子であるか、または、フッ素などのハロゲン原子が置換した炭素数1〜10、好ましくは1〜8の炭化水素である。
【0039】
本願の明細書および特許請求の範囲において、「水酸基の保護基」とは、酸化から水酸基を保護するために導入される官能基を意味し、この目的に適合する限り、特に限定されないが、例えばメチル基、メトキシメチル基、エチル基、1-エトキシエチル基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリル基、テトラピラニル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、ホルミル基、アセチル基、置換アセチル基、ベンゾイル基、置換ベンゾイル基、メチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、t-ブチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基などが挙げられる。
【0040】
本発明に用いるアザアダマンタン−N−オキシル誘導体としては、
2−アザアダマンタン−N−オキシル(AZADO)
1−メチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル(1−Me−AZADO)、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、共酸化剤にて、反応系中において、2−アザアダマンタン−N−オキシル(AZADO)や1−メチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル(1−Me−AZADO)などから得られる活性酸化種と同じ化学種を生成する化学物質も、アザアダマンタン−N−オキシル誘導体に含まれる。その例としては、2−ヒドロキシ−2−アザアダマンタン(AZADOL[Nissan Chemical Industries, Ltd.の登録商標])、2−ヒドロキシ−1−メチル−2−アザアダマンタン(1−Me−AZADOL)などが挙げられるが、これらに限定されるものでは無い。
【0041】
該反応におけるアザアダマンタン−N−オキシル誘導体の使用量は、酸化される出発化合物または式(II)の化合物に対して、0.0005〜1.0倍モル、好ましくは0.001〜0.1倍モル程度である。
【0042】
本発明に用いる共酸化剤としては、以下のスキームに示すように、(i)アザアダマンタン−N−オキシル誘導体をその活性酸化種に変換させることができ、また(ii)基質の酸化に伴って生成する還元型のアザアダマンタン誘導体(2−ヒドロキシ−2−アザアダマンタンなど)を、活性酸化種に再変換することができるものであり、例えば、次亜塩素酸などの次亜ハロゲン酸またはその塩、亜臭素酸などの亜ハロゲン酸またはその塩、ヨードベンゼンアセテートなどの多価ヨウ素を有する化合物、3−クロロ−過安息香酸などの過酸類、N−クロロスクシンイミドなどのN−ハロゲン置換スクシンイミド類などが挙げられる。
【化6】
【0043】
該反応における共酸化剤の量は、酸化される水酸基1モル当量に対して、1.0〜3モル当量であり、好ましくは、1.1〜2モル当量であり、より好ましくは1.1〜1.5モル当量でありうる。
【0044】
該反応は、有機溶媒、水系溶媒またはこれらの混合溶媒、もしくは有機溶媒と水系溶媒の2相溶媒中で行われる。
【0045】
用いる有機溶媒としては、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ジクロロメタンなどのハロゲン含有溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒等が挙げられる。
【0046】
水系溶媒は、炭酸水素ナトリウムなどのpH調整剤やリン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH緩衝剤を含有することができる。
【0047】
本発明においては、その反応性の向上を目的として、臭化ナトリウム、臭化カリウム、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライドなどのハロゲン化塩を添加することができる。
【0048】
添加するハロゲン化塩の量は、酸化される水酸基1モル当量に対して、0.05〜0.5モル当量程度でありうるが、これに限定されない。これに対して、アザアダマンタン−N−オキシル誘導体の代わりにTEMPO(テトラメチルピペリジン−1−オキシル)を用いる場合、酸化される水酸基の1モル当量に対して、TEMPO 1.0〜2.0モル当量が必要とされる。
【0049】
本発明における反応温度は、−10〜50℃であり、好ましくは0〜20℃程度でありうる。
【0050】
以下、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1
【化7】
アルコール体(1)(0.210g, 0.37mmol)をトルエン(1.5ml)に溶解し、AZADO(2mg/mlトルエン溶液, 0.3ml, 0.0037mmol)を加えて、氷浴で0℃に冷却した。3%炭酸水素ナトリウム水(2.19ml, 0.74mmol)、臭化カリウム(4.4mg, 0.037mmol)を加え、次いで、約1.9M-次亜塩素酸ナトリウム水(0.47ml, 0.89mmol)を滴下した。2時間攪拌し、飽和チオ硫酸ナトリウム水を加えて、酢酸エチルで3回抽出した。抽出液を希塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水、食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過して減圧濃縮した。残渣をシリカゲルフラッシュカラム (カラム:BW-300SP;60g、酢酸エチル:ヘキサン = 1:2) で精製し、化合物(2)を無色油状物として得た。
収量 0.2006g(96.2%)。
1H-NMR (400MHz in CDCl3, TMS=0ppm) δ: 0.92(3H, t, J=7.1Hz), 1.20-2.38(27H, m), 2.35(2H, t, J=7.5Hz), 2.68-3.05(3H, m), 3.47-3.55(1H, m), 3.78-3.91(1.5H, m), 4.15(0.5H, q, J=7.4Hz), 4.58-4.59(0.5H, m), 4.67-4.69(0.5H, m), 5.11(2H, s), 7.29-7.39(5H, m).
【0052】
実施例2
【化8】
アルコール体(1)(0.210g, 0.37mmol)をトルエン(1.5ml)に溶解し、1-Me-AZADO(2mg/mlトルエン溶液, 0.3ml, 0.0037mmol)を加えて、氷浴で0℃に冷却した。3%炭酸水素ナトリウム水(2.19ml, 0.74mmol)、臭化カリウム(4.4mg, 0.037mmol)を加え、次いで約1.9M-次亜塩素酸ナトリウム水(0.47ml, 0.89mmol)を滴下し、20時間攪拌した。実施例1と同様に後処理、精製を行い、化合物(2)を無色油状物として得た。
収量 0.2036g (97.6%)。
1H-NMR (400MHz in CDCl3, TMS=0ppm) δ: 0.92(3H, t, J=7.2Hz), 1.20-2.38 (27H, m), 2.35(2H, t, J=7.5Hz), 2.68-3.05(3H, m), 3.47-3.54(1H, m), 3.78-3.91(1.5H, m), 4.15(0.5H, q, J=7.4Hz), 4.58-4.59(0.5H, m), 4.67-4.69(0.5H, m), 5.11(2H, s), 7.30-7.39(5H, m).
【0053】
実施例3
【化9】
アルコール体(3)(0.200g, 0.34mmol)をトルエン(1.4ml)に溶解し、AZADO(2mg/mlトルエン溶液, 0.25ml, 0.0034mmol)を加えて、氷浴で0℃に冷却した。3%炭酸水素ナトリウム水(2.04ml, 0.69mmol)、臭化カリウム(4.1mg, 0.034mmol)を加え、次いで約1.9M-次亜塩素酸ナトリウム水(0.43ml, 0.82mmol)を滴下して、6時間攪拌した。実施例1と同様に後処理、精製を行い、ベンジル 7−[(1R,2R,3R)−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−オキソオクチル)−5−オキソ−3−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(4)を、無色油状物として得た。
収量 0.1919g(96.6%)。
1H-NMR (400MHz in CDCl3, TMS=0ppm) δ: 0.88(3H, t, J=7.4Hz), 0.97(3H, d, J=6.5Hz), 1.20-2.38(26H, m), 2.35(2H, t, J=7.5Hz), 2.68-3.05(3H, m), 3.47-3.54(1H, m), 3.78-3.91(1.5H, m), 4.15(0.5H, q, J=7.4Hz), 4.58-4.59(0.5H, m), 4.67-4.69(0.5H, m), 5.11 (2H, s), 7.30-7.39(5H, m).
【0054】
実施例4
【化10】
アルコール体(3)(0.200g, 0.34mmol)をトルエン(1.4ml)に溶解し、1-Me-AZADO(2mg/mlトルエン溶液, 0.25ml, 0.0034mmol)を加えて、氷浴で0℃に冷却した。3%炭酸水素ナトリウム水(2.04ml, 0.69mmol)、臭化カリウム(4.1mg, 0.034mmol)を加え、次いで約1.9M-次亜塩素酸ナトリウム水(0.43ml, 0.82mmol)を滴下して、15時間攪拌した。実施例1と同様に後処理、精製を行い、ベンジル 7−[(1R,2R,3R)−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−オキソオクチル)−5−オキソ−3−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(4)を、無色油状物として得た。
収量 0.1973g(99.3%)。
1H-NMR (400MHz in CDCl3, TMS=0ppm) δ: 0.88(3H, t, J=7.4Hz), 0.97(3H, d, J=6.1Hz), 1.20-2.38(26H, m), 2.35(2H, t, J=7.5Hz), 2.68-3.05(3H, m), 3.47-3.54(1H, m), 3.78-3.91(1.5H, m), 4.15(0.5H, q, J=7.4Hz), 4.58-4.59(0.5H, m), 4.67-4.69(0.5H, m), 5.11(2H, s), 7.29-7.39 (5H, m).
【0055】
アルコール体(3)の合成
【化11】
ジメチル ((5S)−3,3−ジフルオロ−5−メチル−2−オキソヘプチル)ホスホネート(A)(74.7g, 274mmol)の、t−ブチルメチルエーテル(1120ml)溶液に、水酸化リチウム一水和物(11.5g, 273mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。メチル 7−[(1R,2R,3R,5S)−5−アセトキシ−2−ホルミル−3−(2−テトラヒドロピラニル−オキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(B)(64.02g, 160.6mmol)のt−ブチルメチルエーテル(278ml)溶液、水(21.7ml)を加え、約31時間加熱還流した(内部温度:約53℃)。室温に冷却後、該溶液に水(351ml)を加え、撹拌し、静置して2層に分液した。水層を酢酸エチル(234ml)で2回抽出した。有機層を合わせ、飽和塩化ナトリウム水(351ml)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウム(55g)で乾燥させた。減圧下で濃縮後、残渣をシリカゲルカラム (Fuji Silysia BW-300: 2110g; 酢酸エチル: ヘキサン=l : 4〜1:2)で精製した。不純物を含む画分をシリカゲルカラム (Fuji Silysia BW-300: 850g; 酢酸エチル: ヘキサン=l:4〜1:2)で再精製し、メチル 7−[(1R,2R,3R,5S)−5−アセトキシ−2−((E)−(6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−オキソ−1−オクテニル)−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(C)を、淡黄色油状物として得た。(75.03g; 137.8mmol; 収率: 85.8%)。
1H-NMR (200MHz, CDCl3) : δ (ppm) : 0.88 (3H, t, J =7.3Hz), 0.97 (3H, t, J=6.4Hz), 2.07 (3H, s), 2.15-1.03 (23H, m), 2.28 (2H, t, J=7.5Hz), 2.87-2.36 (2H, m), 3.50-3.31 (1H, m), 3.66 (3H, s), 3.88-3.60 (1H, m), 4.19-3.93 (1H, m), 4.61-4.46 (1H, m), 5.19-5.09 (1H, m), 6.63 (0.5H, d, J=15.6Hz), 6.68 (0.5H, d, J=15.6Hz), 7.05 (0.5H, dd, J=15.6, 7.0Hz), 7.10 (0.5H, dd, J=15.6, 6.5Hz).
【0056】
【化12】
メチル 7−[(1R,2R,3R,5S)−5−アセトキシ−2−((E)−(6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−オキソ−1−オクテニル)−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(C)(76.78g, 141.0mmol)の酢酸エチル(357ml)溶液に、5%-パラジウム炭素(7.30g)を加え、溶液を室温および大気圧下で水素化した。該反応混合物を濾過し、濾液を減圧下で濃縮し、メチル 7−[(1R,2R,3R,5S)−5−アセトキシ−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−オキソオクチル)−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(D)(72.69g; 133.0mmol; 収率: 94.3%)を無色油状物として得た。
【0057】
メチル 7−[(1R,2R,3R,5S)−5−アセトキシ−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−オキソオクチル)−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(D)(72.56g, 132.7mmol)のメタノール(290ml)溶液を、約−20℃に冷却し、水素化ホウ素ナトリウム(5.00g, 132.2mmol)を加えた。約35分間撹拌した後、酢酸(7.5ml, 131mmol)を滴下し、減圧下で濃縮した。残渣に水(326ml)を加え、酢酸エチル(226ml)で3回抽出した。有機層を合わせ、3%塩化ナトリウム水(323ml)、飽和塩化ナトリウム水(323ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウム(40.6g)で乾燥させた。該溶液を減圧下で濃縮し、メチル 7−[(1R,2R,3R,5S)−5−アセトキシ−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−ヒドロキシオクチル)−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(E)(73.01g; 定量的収量)を無色油状物として得た。
【0058】
【化13】
メチル 7−[(1R,2R,3R,5S)−5−アセトキシ−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−ヒドロキシオクチル)−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(E)(132.5mmol)のエタノール(213ml)溶液を、氷上で冷却し、24% 水酸化ナトリウム水溶液(135ml, 1029mmol)を滴下した。室温で約3.5時間撹拌後、減圧下で濃縮した。残渣を水(281ml)およびt−ブチルメチルエーテル(141ml)と混合し、氷上で冷却した。6M-塩酸を滴下してpH 3〜4に調整し、酢酸エチル(281ml)で3回抽出した。有機層を合わせ、次いで水(281ml)で2回洗浄後、飽和塩化ナトリウム水(338ml)で洗浄した。無水硫酸マグネシウム(50g)で乾燥後、該溶液を減圧下で濃縮し、粗製7−[(1R,2R,3R,5S)−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−ヒドロキシオクチル)−5−ヒドロキシ−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタン酸(F)を白色固体として得た。精製せずに、全量を次の工程で用いた。
【0059】
【化14】
アセトニトリル(319ml)中の粗製7−[(1R,2R,3R,5S)−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−6−メチル−3−ヒドロキシオクチル)−5−ヒドロキシ−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタン酸(F)に、ジイソプロピルエチルアミン(68.9ml, 368mmol)、臭化ベンジル(46.7ml, 366mmol)を加え、室温で約13.5時間撹拌した。該反応混合物を減圧下で濃縮し、酢酸エチル(369ml)、水(283ml)を残渣に加え、撹拌し、静置して2層に分液した。水相を酢酸エチル(226ml)で2回抽出した。有機層を合わせ、1M-塩酸(339ml)、飽和炭酸水素ナトリウム水(339ml)、飽和塩化ナトリウム水(339ml)で洗浄した。無水硫酸マグネシウム(50g)で乾燥させた後、該溶液を減圧下で濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラム(Fuji Silysia BW-300: 2400g; 酢酸エチル: ヘキサン=l : 2)で精製し、ベンジル 7−[(1R,2R,3R,5S)−2−((6S)−4,4−ジフルオロ−3−ヒドロキシ−6−メチルオクチル)−5−ヒドロキシ−3−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(3)(76.16g; 130.7mmol; 収率: 98.7%)を無色油状物として得た。
1H-NMR (200MHz., CDCl3) : δ (ppm) : 0.88 (3H, t, J=7.5Hz), 0.98(3H, d, J=6.2Hz), 1.21-2.47 (30.5H, m), 2.35(2H, t, J=7.5Hz), 2.81(0.5H, d, J=6.4Hz), 3.46-4.14 (5H, m), 4.61-4.66(1H, m), 5.11 (2H, s), 7.30-7.39 (5H, m).
【0060】
実施例5
【化15】
アルコール体(5)(0.233g, 0.49mmol)をトルエン(1.6ml)に溶解し、AZADO(2mg/mlトルエン溶液, 0.35ml, 0.0049mmol)を加えて、氷浴で0℃に冷却した。中性リン酸緩衝液(2.0ml)、臭化カリウム(5.8mg, 0.049mmol)を加え、次いで約1.9M-次亜塩素酸ナトリウム水(0.62ml, 1.17mmol)を滴下して、0℃で1時間攪拌した。実施例1と同様に後処理、精製を行い、化合物(6)を無色油状物として得た。
収量 0.2009g(90.3%)。
1H-NMR (400MHz in CDCl3, TMS=0ppm) δ: 0.93(3H, t, J=7.2Hz), 1.22-2.38(28H, m), 2.34(2H, t, J=7.6Hz), 2.69-3.05(3H, m), 3.48-3.56(1H, m), 3.79-3.92(1.5H, m), 4.15(0.5H, q, J=7.3Hz), 4.59-4.60(0.5H, m), 4.68-4.70(0.5H, m).
【0061】
実施例6
【化16】
アルコール体(7)(0.200g, 0.50mmol)をジクロロメタン(1.4ml)に溶解し、AZADO(2mg/mlトルエン溶液, 0.2ml, 0.0049mmol)に加え、次いで[ビス(アセトキシ)ヨード]ベンゼン(BAIB)(0.1769g, 0.560mmol)を加えて、室温で5時間攪拌した。実施例1と同様に後処理、精製を行い、化合物(8)を無色油状物として得た。
収量 0.1900g (95.5%)。
1H-NMR (400MHz in CDCl3, TMS=0ppm) δ: 1.19-2.18(18H, m), 2.07(3H, s), 2.29(2H, t, J=7.5Hz), 2.32-2.43(1H, m), 2.81-3.01(1H, m), 3.41-3.50(1H, m), 3.66(3H, s), 3.76-3.83(1H, m), 4.36-4.46(1H, m), 4.54-4.60(1H, m), 5.11-5.17(1H, m), 9.78(1H, dd, J=3.1, 20.9Hz).
【0062】
比較例1(Swern酸化)
【化17】
塩化オキサリル(56.9ml, 652mmol)のジクロロメタン(634ml)溶液を、ドライアイス/メタノール浴で冷却し、ジメチルスルホキシド(DMSO)(92.5ml, 1303mmol)を滴下し、30分間攪拌した。ベンジル 7−[(1R,2R,3R,5S)−2−(4,4−ジフルオロ−3−ヒドロキシオクチル)−5−ヒドロキシ−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(1)(74.21g, 130.5mmol)のジクロロメタン(198ml)溶液を滴下し、約1.5時間攪拌した。その後、撹拌しながらトリエチルアミン(273ml, 1959mmol)を該反応混合物に滴下し、0℃まで昇温した。飽和塩化アンモニウム水(594ml)を反応液に加えた。該反応混合物を攪拌し、静置後分液した。水相をジクロロメタンで2回抽出した。有機相を合わせ、0.1N-塩酸(594ml)、水(594ml)、飽和重曹水(594ml)および飽和食塩水(594ml)で順次洗浄した。無水硫酸マグネシウム(48mg)で乾燥後、減圧濃縮した。残渣を適量の酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:10)に溶解し、不溶物を濾過した。濾液を蒸発させ、シリカゲルカラム(Fuji Silysia Chemical Ltd, BW-300 2260g, 酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製し、ベンジル 7−[(1R,2R,3R)−2−(4,4−ジフルオロ−3−オキシオクチル)−5−オキシ−3−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(2)(69.22g, 122.6mmol, 収率95.3%)を得た。
【0063】
比較試験例
実施例1と比較例1で得られた生成物中の不純物を調べた。Swern酸化では、ケトン化合物(2)の14-メチルチオ体および14-クロロ体などの類縁物が生成する。これらの不純物の量を調べた。結果は以下表1に示す。
【表1】
【0064】
上の結果に示すように、Swern酸化では、14-メチルチオ体および14-クロロ体が生成する。これらの不純物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる除去が困難であり、最終生成物の純度を低下させうる。一方、AZADO酸化ではこれらの不純物が発生せず、すなわち、高純度な生成物を得ることができる。
【化18】