(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
海外から輸入された原油は、一旦、原油備蓄基地で貯留され、必要に応じて精製工程に送られる。貯留に用いるタンクは定期的に点検する必要があり、その際には貯蔵されていた原油が全量引抜かれ、タンク内が洗浄される。タンクの洗浄方法としては、加温した原油でタンク内に蓄積したスラッジを洗い流すCrude Oil Washing法(以下COWとする)が広く適用されている。COWではスラッジと水が原油に混ざった温水洗浄スロップと呼ばれる洗浄廃液が排出される。
【0003】
温水洗浄スロップには原油タンクに蓄積した鉄や砂などのスラッジ、原油に含まれるワックスやアスファルテン等の高沸点の炭化水素類が含まれており、温水洗浄スロップは適切な処理でこれらを分離・処理することが望ましい。
【0004】
一方、温水洗浄スロップに含まれる油は原油由来であるため、これを回収し、精製することが資源の有効活用や廃棄物量低減の観点から望ましい。しかし、水分やスラッジを含んだ油はそのまま原油精製工程に供給することが困難であり、スラッジや水分を除いた油を回収することが望ましい。
【0005】
本来、原油精製工程は大量の水分を含んだ原油を処理することを想定しておらず、温水洗浄スロップのような水やスラッジが混入した油を大量に精製する場合、温水洗浄スロップに含まれる水や塩類などの影響により、精製設備の腐食や、油水分離が困難などの問題がある。このため、温水洗浄スロップは少量ずつ処理されており、未処理の温水洗浄スロップを長期間にわたって貯留タンクに保管しておかなければならないという課題があった。このため、温水洗浄スロップを多量に処理できる装置の開発が求められていた。
【0006】
こうした要請に応えるべく、従来から様々な油水分離方法が提案されている。例えば、水と油の比重差を利用し、一定の滞留時間を持つ水槽に原水を供給し、油を浮上させるAPIや、傾斜板を利用したCPIと呼ばれる油水分離装置が実用化されている。
【0007】
しかしながら、このような比重差を利用した油水分離装置では、分離のために装置内で長時間廃水を滞留させる必要があり、装置が大型化するとともに、処理時間が長いという問題があった。また、スロップに含まれる油と水はワックスや原油中の界面活性作用を持つ成分や浮遊物質の存在により、水中では油滴、油中では水滴がそれぞれエマルジョン化して安定して存在する場合がある。このような状態では比重差を用いた分離方法を用いても油と水を十分に分離することが困難である問題があった。この点、遠心分離機を用いれば、短時間で油水分離を行うことが可能となる。
【0008】
例えば、特許文献1では、水を含んだ油を遠心分離機に供給し、短時間で水と油を分離する方法が開示されている。特許文献2においても遠心分離により水分を含む油から水とスラッジを分離する方法が開示されている。こうした遠心分離機を利用した油水分離方法は、比重差による油水分離よりも、比較的短時間で行うことができるという長所がある。
【0009】
特許文献3には、アニオン性界面活性剤と無機凝集剤を油含有排水に添加し、40℃〜50℃に加温後、予め油のフロックを形成してから非イオン性界面活性剤(エマルジョンブレーカーに相当)を添加し、遠心分離することで油から水とスラッジを分離する方法が提案されている。特許文献4は、遠心分離による油水分離技術が背景技術として記載されているが、この技術で回収される油の含水率が高いことが課題として指摘されている。
【0010】
特許文献5には、固形分や塩分含む原油から固形分や塩分を除去する方法が開示され、原油に加温した水を添加し、さらにエマルジョンブレーカーを添加後、撹拌機でこれらをよく混合することが記載されている。混合液は、静置型分離槽に供給されて脱塩された油分と水や固形分が分離される。
【0011】
特許文献6には、凝集剤を添加後、加熱し、遠心分離する構成が開示されている。特許文献7は、凝集剤を添加後、加温し、解乳化剤(エマルジョンブレーカー)を添加後に遠心分離する構成が記載されている、特許文献8には、エマルジョン破壊した後、加熱或いは遠心分離することが記載されている。特許文献9は、エマルジョンブレーカー(鉱油乳濁液分離剤)の例が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、含油廃液を75℃〜92℃に加熱した後、遠心分離機で油と水とスラッジに分離する。発生したスラッジと水はキルンで焼却して処分しており、分離した水の量が多いと燃焼が困難となり、助燃剤などが必要になる課題がある。
【0014】
特許文献2では、含油廃液から、浮上分離と沈降分離により粗大な粒子を除去した後、遠心分離機で油と水とスラッジに分離している。ここでは、油の含水率を低減するために分離油を100℃程度に加温し、水分を蒸発させており、油の含水率を下げるために必要なエネルギー量が大きくなってしまう。また、分離した水は焼却処理しているため、分離水量が多いと消費エネルギーが過大になる。
【0015】
特許文献3では、アニオン性界面活性剤と無機凝集剤を油含有排水に添加する必要があり、薬剤の添加量が増加し、2種類の薬剤を使用するコスト面や添加の手間など課題が残っていた。また、発生した分離水に汚濁物質が残留している場合、活性汚泥処理法により処理するため、設備が過大になる。
【0016】
特許文献4では、回収される油の含水率が高いことが課題であった。特許文献5では、静置型分離槽は処理対象の混合液を静置し、油と水や固形物の比重差を利用して分離するため、処理時間に時間がかかることや、処理量が多い場合、分離槽の容量を大きくする必要がある。
【0017】
特許文献6では、乳化した含油廃液を分離するため、エマルジョンブレーカーを添加し油水分離を促進させた後、油を分離し、さらに二段目の油水分離により油と水と固形分を分離する。本方式では油水分離設備が二組必要であるため設備が過大になる点や分離した水が汚染されている場合、処理が必要になる。
【0018】
特許文献7では、含油廃液を分離するため、加温処理とろ過処理を行った後、遠心分離機で油と水とスラッジに分離する。分離した油はさらに遠心分離機で油と水とスラッジに分離し、分離した水もさらに遠心分離機で油と水とスラッジに分離される。本方式は遠心分離機が複数台必要となるため、設備が過大になる点や分離した水を再度遠心分離処理することでスラッジと油を分離するが、水と比重差が小さい汚染物質は十分除去しきれない。
【0019】
特許文献8では、乳化した含油廃液から油と水を分離するために添加するエマルジョンブレーカーに関して記載されているが、分離された水処理についての記述がなく、分離水が汚染されている場合、さらに処理が必要となる。特許文献9では、エマルジョンブレーカーのみの開示に過ぎす、具体的な遠心分離を用いた処理方法は示されていない。
【0020】
このように、従来においては、原油の種類によっては原油含有廃液スロップ中で原油がエマルジョンを形成し、遠心分離機による分離方法では分離し難い場合があった。本発明者らが行った試験においても、前述した各特許文献の方法によって原油含有廃液スロップを単純に遠心分離しても油と水が分離しない場合があり、短時間で油水分離が完了する遠心分離の特徴を生かしたより確実な原油含有廃液の油水分離処理方法が求められていた。
【0021】
また、遠心分離を利用して水と油を分離する方法は、様々な手法が各特許文献により提案されているが、例えば温水洗浄スロップから油を分離し、これを精製して利用する場合、回収油中の含水率は低いことが望ましいものの、回収油中の含水率の低減には限界があり依然、課題が残っている。
【0022】
発明者らは、これらの課題を解決するために検討を行い、特願2017−036731において、原油含有廃液の処理方法を提案した。この提案では、原油含有廃液を遠心分離する前にあらかじめ加温し、さらに凝集剤とエマルジョンブレーカーを添加した後に遠心分離する。これにより、遠心分離後に回収される油(以下、「軽液」という)の含水率を1%程度まで低減することが可能であり、従来遠心分離機では困難とされていた回収油中の含水率を低減することを可能とするものである。
【0023】
しかしながら、この提案では、原油含有廃液を分離した後に得られる水(以下、「重液」という)にはスラッジや油が依然残留する場合があるため、そのまま環境中に排出することは困難な性状であり、より良好な水質の分離水が得られる処理方法が求められた。
【0024】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、スロップのような原油含有廃液中の油と水とを効率よく回収し、凝集剤の使用量を低減でき、さらに、分離された排水の水質を更に改善することができる原油含有廃液の処理方法及び原油含有廃液の処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原油含有廃液を遠心分離機によって油水分離した後に得られる重液に対して凝集剤を添加するか、又は膜ろ過処理を実施することにより、得られる処理水の性状が改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、原油を含有する廃液を45〜65℃に加温する加温工程と、加温された廃液にエマルジョンブレーカーを添加するエマルジョンブレーカー添加工程と、エマルジョンブレーカーが添加された廃液を遠心分離し、油を主成分とする軽液と、水を主成分とする重液とスラッジとの三成分に分離する遠心分離工程と、遠心分離工程で得られた重液に凝集剤を添加し、該重液中に残留する油分及びスラッジを凝集させる凝集剤添加工程とを備えた原油含有廃液の処理方法が提供される。
【0027】
本発明に係る原油含有廃液の処理方法は一実施態様において、凝集剤が添加された重液を固液分離処理し、処理水と固形物とを得る固液分離工程を更に備える。
【0028】
本発明に係る原油含有廃液の処理方法は別の一実施態様において、固液分離工程が、凝集剤が添加された重液を浮上分離処理し、浮上汚泥と処理水とを得ることを含む。
【0029】
本発明に係る原油含有廃液の処理方法は更に別の一実施態様において、固液分離工程が、凝集剤が添加された重液を、重力の作用を受けて水中で沈降処理し、処理水と固形物とを得ることを含む。
【0030】
本発明は別の一側面において、原油を含有する廃液を45〜65℃に加温する加温工程と、加温された廃液にエマルジョンブレーカーを添加するエマルジョンブレーカー添加工程と、エマルジョンブレーカーが添加された廃液を遠心分離し、油を主成分とする軽液と、水を主成分とする重液とスラッジとの三成分に分離する遠心分離工程と、遠心分離工程で得られた重液を膜ろ過処理する膜ろ過処理工程とを備えた原油含有廃液の処理方法が提供される。
【0031】
本発明は更に別の一側面において、原油を含有する廃液を混合タンクに導入し、該混合タンクからの廃液を45〜65℃に加温する加温手段と、混合タンクと加温手段との間で廃液を循環させる循環手段と、加温された廃液にエマルジョンブレーカーを添加するエマルジョンブレーカー添加手段と、エマルジョンブレーカーが添加された廃液を遠心分離し、油を主成分とする軽液と、水を主成分とする重液とスラッジとの三成分に分離する遠心分離機と、遠心分離機から得られた重液に凝集剤を添加し、該重液中に残留する油分及びスラッジを凝集させる凝集剤添加手段と、凝集剤が添加された重液を固液分離処理する固液分離手段とを備えた原油含有廃液の処理装置が提供される。
【0032】
本発明は更に別の一側面において、原油を含有する廃液を混合タンクに導入し、該混合タンクからの廃液を45〜65℃に加温する加温手段と、混合タンクと加温手段との間で廃液を循環させる循環手段と、加温された廃液にエマルジョンブレーカーを添加するエマルジョンブレーカー添加手段と、エマルジョンブレーカーが添加された廃液を遠心分離し、油を主成分とする軽液と、水を主成分とする重液とスラッジとの三成分に分離する遠心分離機と、遠心分離機から得られた重液を膜ろ過処理する膜ろ過手段とを備えた原油含有廃液の処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、スロップのような原油含有廃液中の油と水とを効率よく回収し、凝集剤の使用量を低減でき、さらに、分離された排水の水質を更に改善することができる原油含有廃液の処理方法及び原油含有廃液の処理装置が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら本発明の第1〜第4の実施の形態について説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0036】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置は、
図1に示すように、原油を含有する廃液(以下「原油含有廃液」という)を貯留する混合タンク1と、混合タンク1内の原油含有廃液を加温する加温手段2と、加温された原油含有廃液にエマルジョンブレーカーを添加するエマルジョンブレーカー添加手段3と、エマルジョンブレーカーが添加された原油含有廃液を遠心分離する遠心分離機4と、遠心分離機4から得られる水を主成分とする重液に凝集剤を添加し、重液中に残留する油分及びスラッジを凝集させる凝集剤添加手段6とを備える。
【0037】
本発明において処理対象とされる原油含有廃液としては、以下に限定されるものではないが、例えばCOWにおいて発生したスラッジと水が原油に混ざった温水洗浄スロップなどが挙げられる。
【0038】
温水洗浄スロップには原油由来のワックス成分や界面活性を持つ成分が含まれる。このような廃液では水と油の界面にワックス成分や界面活性を持つ成分が集まり、水と油が直接接触しにくい状態を形成する。この状態は水中に微小な油滴が安定して存在するO/W型エマルジョンもしくは油中に微小な水滴が安定して存在するW/O型エマルジョンと呼ばれる。
【0039】
エマルジョン中の油滴(W/O型エマルジョンの場合は水滴)は安定化しており、APIやCPIなどの単純な比重差による分離方式では分離が困難である。そのため、本発明においては、遠心分離機4を用いて比重差により油水分離を促進することを基本とする。
【0040】
混合タンク1及び加温手段2は循環手段15により接続されている。混合タンク1内に貯留された原油含有廃液は、循環手段15を介して加温手段2へ供給され、加温されて混合タンク1へ循環するようになっている。加温手段2としては、原油含有廃液を加温するための装置であれば特に限定されないが、熱交換器などが好適に用いられる。加温手段2は、例えば、外部からの熱源として加熱用蒸気が供給され、混合タンク1から供給された原油含有廃液を所定の温度に加温できるようになっている。
【0041】
混合タンク1に貯留された原油含有廃液は、加温手段2によって加温されることによりその粘度が低下し、原油含有廃液中に含まれる界面活性剤層の流動性が増して乱れやすくなる。これにより、油水分離をより効率良く行うことができるという効果が期待できる。また、原油含有廃液に含まれる浮遊物質は、ワックス類と共に油滴(または水滴)の周りを覆うことでエマルジョンを安定化させる役割をもつ。加温により浮遊物質に付着したワックス類が油相に溶解除去されることでも、エマルジョンが不安定化する効果が期待できる。
【0042】
原油含有廃液の加温温度は、原油含有廃液中の成分によって適宜設定されるが、一般に原油含有廃液の温度が上がると、原油中の油成分の揮発が促進されるため、65℃以下とすることが好ましい。一方、原油含有廃液の温度が60℃を超えると、一般に引火しにくいとされる重油の引火点を超える場合があるため、原油含有廃液の加温は、60℃以下、更には55℃以下にとどめることが望ましい。原油含有廃液の加温温度の下限値は、加温による上述の作用効果やエマルジョンブレーカー添加による軽液の含水率低下の影響を考慮すると、45℃以上、より好ましくは50℃以上とすることが好ましい。
【0043】
混合タンク1と遠心分離機4との間にはエマルジョンブレーカーの注入点があり、この注入点からエマルジョンブレーカー添加手段3により、エマルジョンブレーカーが注入される。エマルジョンブレーカーは原油含有廃液中の油滴(または水滴)の表面の界面活性剤層に入り込み、界面活性剤層を乱れやすくする効果を持つ。このため、油滴同士が衝突する際に合一しやすくなり、結果として油滴(または水滴)が粗大化し分離が促進される。なお、上述した加温による原油含有廃液の粘度の低下はエマルジョンブレーカーの分散や界面活性剤層へのエマルジョンブレーカーの混合が容易になるという効果も期待できる。
【0044】
エマルジョンブレーカーとしては、原油含有廃液中のエマルジョンを破壊するものであれば特に限定はなく、カチオン性のエマルジョンブレーカーやアニオン性のエマルジョンブレーカーやノニオン性のエマルジョンブレーカー等が挙げられる。これらを複数添加してもよい。
【0045】
アニオン性のエマルジョンブレーカーとしては、硫酸エステル型及びスルホン酸型のアニオン性エマルジョンブレーカー等が挙げられる。エステル型及びスルホン酸型のアニオン性エマルジョンブレーカーとしては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(好適にはポリオキシアルキレンが、平均付加モル数1〜5のオキシエチレン)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(好適にはアルキル基の炭素数8〜22)、ジアルキルスルホサクシネート塩、石油スルホン酸塩及びアルキルナフタレンスルホン酸塩(好適にはアルキル基が炭素数0〜5)等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上のものである。これらの塩でもよく、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)塩、及びアルカリ土類金属(カルシウム、バリウム等)塩、第3級アミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン及びポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0046】
ノニオン性のエマルジョンブレーカーとしては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物・ホルマリン縮合物、ポリアルキレングリコール共重合物、アルキルアミンのアルキレンオキシド付加物、ポリエーテルポリオール系ウレタン樹脂、ポリアミン化合物例えばN−ポリオキシエチレンポリアルキレンポリアミン等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上のものである。
【0047】
エマルジョンブレーカーを廃液に添加する場合においては、アルキルフェノール縮合物が含まれていることが好ましい。本発明者らは、エマルジョンブレーカーとしてアルキルフェノール縮合物を用いることにより、遠心分離による油水分離を、より効果的に行うことができることを確認した。アルキルフェノール縮合物としては、例えば、アルキルフェノール縮合物のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0048】
エマルジョンブレーカーの添加量としては、事前に小スケールで添加試験を実施し適切な添加量を決めることが望ましい。一例として、原油含有廃液に対して0〜40mg/Lとすることが好ましい。
【0049】
なお、
図1では省略したが、エマルジョンブレーカーを原油含有廃液とよく混合するために、エマルジョンブレーカーの注入地点と遠心分離機4との間にラインミキサーや撹拌槽などの撹拌設備を設置することも可能である。エマルジョンブレーカーを混合タンク1で添加し、加温のための循環手段15を利用して、エマルジョンブレーカーと原油含有廃液を混合しても良い。原油含有廃液を、混合タンク1と加温手段2との間で循環させることにより温度が安定し、如いてはエマルジョンブレーカーの効果を安定的に得ることができる。
【0050】
エマルジョンブレーカーが添加された原油含有廃液は、遠心分離機4へ供給される。遠心分離機4としては、三相分離型の遠心分離機4を適用することが望ましい。遠心分離機4に供給された原油含有廃液は、油を主成分とする液体(軽液)と、水を主成分とする液体(重液)と、スラッジの三成分に分離される。
【0051】
スラッジは系外へ排出され、軽液は軽液タンク5へ貯留される。なお、遠心分離機4での三成分の分離には、遠心分離機4の回転数や原油含有廃液の供給量が影響することから、実際の原油廃液性状に合わせて最適な処理条件を決定することが望ましい。
【0052】
遠心分離機4から発生した軽液は含水率が下がり、スラッジも分離されているため、原油タンクや精製工程に供給することで有効活用することができる。遠心分離により、重液には水の他に油分やスラッジの一部が混入する。このため、重液そのままでは環境中に放流することはできないため、本発明では更に重液に対して処理を行う。
【0053】
即ち、第1の実施の形態に係る処理装置では、遠心分離工程で得られた重液に対し、凝集剤添加手段6から凝集剤を添加し、重液中に残留する油分及びスラッジを凝集させる凝集剤添加処理を行う。凝集剤添加処理が行われた重液中から凝集物を除去することで、分離された排水の水質を更に改善することができる。
【0054】
凝集剤とは原油含有廃液中の粒子や油滴を凝集させるために添加される添加物をいい、例えば、高分子凝集剤や無機塩類からなる凝集剤が挙げられる。高分子凝集剤としては、原油含有廃液中の粒子の表面電荷等を考慮し、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、及びノニオン系高分子凝集剤のいずれか又は複数を適宜選択すればよい。また、無機塩類から成る凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸ばん土)やポリ塩化アルミニウム、塩化鉄、ポリ硫酸鉄などが適用可能である。
【0055】
カチオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリアミン系、ポリイミン系、ポリジアリルジアルキルアンモニウムクロライド、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物等が挙げられる。特に好ましいのは、ポリアミン系凝集剤である。本発明者らは、凝集剤としてポリアミン系凝集剤を用いることにより、遠心分離による油水分離を、短時間で効率よく確実に行うことができることを確認している。ポリアミン系凝集剤としては、例えば、ポリアミン系縮合物が挙げられる。
【0056】
アニオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩等が挙げられる。また、ノニオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0057】
凝集剤の添加量はあらかじめ原油含有廃液を遠心分離処理し、得られた重液を用いて小スケールの処理試験を実施し、適切な添加量を決めることが望ましい。凝集剤添加量の一例としては、浮遊物質濃度3400mg/L、化学的酸素要求量(COD)1800mg/Lの重液に対し100〜200mg/Lとすることが好ましい。
【0058】
凝集剤が添加された重液は、固液分離手段7に供給されて固液分離処理され、処理水と固形物(スラッジ)とが得られる。固液分離手段7としては、重液中に凝集した凝集物を除去できる態様であれば特に制限されない。例えば、重力沈降分離、遠心分離、浮上分離、凝集分離、膜分離等を利用した装置が固液分離手段7として利用可能である。
【0059】
本発明の第1の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置及び処理方法によれば、原油含有廃液を遠心分離機4で遠心分離する前に、エマルジョンブレーカーが添加され混合されているため、原油含有廃液の油と水を効率よく、短時間で、確実に分離、回収することができる。
【0060】
更に、遠心分離後に発生する重液には凝集剤が添加されるが、エマルジョンブレーカーが添加混合されることにより遠心分離効率が向上しているため、重液に残留する油分やスラッジの量も少ない。よって、凝集剤の添加量も少なくて済む。遠心分離後の重液に含まれる油分やスラッジは凝集剤により凝集させこれを分離させることで、良好な水質の処理水を得ることができる。
【0061】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置及び処理方法は、
図2に示すように、混合タンク1、遠心分離機4、軽液タンク5及び固液分離手段7に接続された臭突9を更に備える。
【0062】
また、
図2に示す処理装置では、固液分離手段7として、凝集剤が添加された重液を、重力の作用を受けて水中で沈降処理し、処理水と固形物とを得る沈殿池が配置されている。他は第1の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置及び処理方法と実質的に同様であるので記載を省略する。
【0063】
原油含有廃液は揮発性の油を含むため、加温された際に揮発成分の蒸発量が多くなる。特に低沸点の成分が蒸発・気化して大気中に拡散すると引火のおそれもある。第2の実施の形態に係る処理装置及び処理方法においては、混合タンク1、遠心分離機4、軽液タンク5、固液分離手段7を密閉構造とし、発生したガスをラインAを介して臭突9に導き、安全な環境下で拡散させる。或いは、
図2では臭突9を図示しているが、臭突9の代わりにラインAを介して別途安全な処理設備に吸引させる。これにより、より安全に処理装置を運転することができる。
【0064】
原油含有廃液中に含まれる揮発成分の濃度によっては、揮発成分が爆発下限値を超えることも考えられるため、必要に応じて臭突9や配管に逆火防止装置を設けることが望ましい。更に、揮散した油成分が処理装置の周りに滞留しないよう、各処理装置を密閉し、可燃性ガスが漏えいしにくい構造とすることが望ましい。もしくは各処理装置から揮散したガスを吸引し、安全な場所で揮散させるような構造とすることが望ましい。混合タンク1や遠心分離機4を密閉して窒素ガスで置換し、引火しにくい環境に維持することも好ましい。軽液や回収油は静電気で引火することもあるので、遠心分離機4や原油含有廃液が流れる配管は接地することが望ましい。
【0065】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置及び処理方法は、
図3に示すように、固液分離手段として、凝集剤が添加された重液を浮上分離処理し、浮上汚泥と処理水とを得る浮上分離手段10が用いられる。他は第1の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置及び処理方法と実質的に同様であるので記載を省略する。
【0066】
遠心分離後の重液に含まれる成分によっては、例えば、重液中の油分の割合が高い場合には、凝集剤添加により発生する凝集汚泥の比重が軽く、浮上する場合もある。第3の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置及び処理方法によれば、固液分離手段7として浮上分離手段10を用いることで、凝集汚泥を処理水からより効率的に分離することができ、処理水の水質を向上させることができる。
【0067】
浮上分離手段10の具体例としては、例えば加圧浮上方式や常圧浮上方式を用いた種々の浮上分離手段10を用いることができる。固液分離手段として、
図3に示すような浮上分離方式の装置を採用するか、または
図2に示すような沈降分離方式の装置を採用するかの選択は、予め小スケールでの処理試験を実施し、発生した重液の性状に応じて適した方式を採用することが望ましい。
【0068】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置及び処理方法は、
図4に示すように、遠心分離機4から得られる重液を貯蔵する重液貯槽11と、重液貯槽11に接続され、遠心分離機4から得られる重液を膜ろ過処理し、処理水と濃縮水とを得る膜ろ過手段12を備える。
【0069】
なお、
図4に示す処理装置は、
図1〜
図3に示す処理装置とは異なり、遠心分離機4から得られる重液に対して凝集剤を添加しない場合を説明するが、凝集剤添加が必要な場合は
図1〜
図3に示す凝集剤添加手段6を更に配置してもよいことは勿論である。
【0070】
重液貯槽11に一次貯留された重液は、ポンプ13を介して膜ろ過手段12へ供給され、処理水と濃縮水とに分離される。濃縮水は重液貯槽11へ循環される。膜ろ過手段12で使用される分離膜としては、重液に残存する油分とスラッジを分離できる程度の孔径を有する膜であれば適用可能であり、具体的には、精密ろ過膜や限外ろ過膜等が利用可能である。分離膜の材質としては、高分子膜やセラミック膜等が利用可能であり、重液の性状に合わせて分離膜を選定することが好ましい。
【0071】
セラミック膜は耐薬品性や耐久性が高く、油分や鉄、砂などが重液に含まれていても膜材質への影響が小さい点で好ましい。また、セラミック膜は、高分子膜と比較して高い膜透過流束が得られるという特徴もある。一方、高分子膜は、セラミック膜と比較して初期コストが低く済む点で有利である。
【0072】
第4の実施の形態に係る原油含有廃液の処理装置及び処理方法によれば、重液貯槽11に貯留された重液を膜ろ過手段12へ供給し、膜ろ過手段12で膜ろ過処理するとともに、膜ろ過手段12から排出された濃縮液を重液貯槽11へ循環させるため、分離膜の膜面でろ過方向と垂直にクロスフローを形成させることができる。これにより、分離膜表面への閉塞物質の蓄積を抑制することができる。その結果、膜ろ過手段12が備える分離膜の膜汚染を抑制しながら膜ろ過処理を長期に継続することができる。
【実施例】
【0073】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0074】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示すような処理装置を用いて、原油タンクの洗浄から発生した温水洗浄スロップの処理を試みた。試験に供した温水洗浄スロップの含水率は26〜35%、トルエン不溶解分(以下、FS)は約1%であった。
【0075】
処理試験では温水洗浄スロップを約50℃まで加温した。次いで、エマルジョンブレーカー(商品名:ハクトールE−523、伯東株式会社製)を20mg/Lの割合で添加した後、150Lの温水洗浄スロップを400L/hrの流量で三相分離型の遠心分離機に供給した。その結果、得られた軽液の含水率は1.9%であった。
【0076】
図5にエマルジョンブレーカー(E−523)添加量と回収油の含水率の関係の一例を示す。
図5よりエマルジョンブレーカーの添加率の増加に従い回収油の含水率が低下する傾向が認められ、添加率20mg/Lの条件では約1.9%、添加率40mg/Lの条件では約1.1%まで含水率が低下した。
【0077】
この結果より、エマルジョンブレーカーの添加率を増加させることは回収油の含水率低減に有効であることが示された。なお、一般にエマルジョンブレーカーは界面活性剤の一種であり、添加率が過剰になると再び乳化が促進されることが知られている。また、添加量が多くなるとランニングコストもかさむため、本実施例ではエマルジョンブレーカー添加率を20mg/Lとした。
【0078】
図6に原油含有廃液の温度と回収油の含水率の関係の一例を示す。
図6は遠心分離機への供給量が実施例1とは異なるが、原油含有廃液の温度が高くなると回収油の含水率が低下することが確認できた。流量によっても異なるが、45℃以上とすることで含水率を2%以下まで低減できることが確認できた。
【0079】
一方、得られた分離水(重液)の量は約25Lであって、黒色の浮遊物質が含まれており、見かけは黒色の懸濁液であり、その性状は浮遊物質濃度3400mg/L、化学的酸素要求量(COD)は1800mg/Lであった。この重液に凝集剤(商品名:ハクトロンB−733、伯東株式会社製)を25〜400mg/Lの間で添加し、小スケールでの処理試験を実施した。処理試験では500mLの重液に所定量の凝集剤を添加し、6分間撹拌した後、反応液を静置し、沈降分離により処理水(上澄液)を得た。
【0080】
処理水中のCODと凝集剤添加量との関係を
図7に示す。なお、実施例1においては、浮遊物質濃度については、JISK0102の懸濁物質測定方法に従い、孔径1μmのガラスろ紙のろ過により測定した。また、CODはJISK0102の化学的酸素要求量測定方法に従い100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量の測定方法に従い測定した。
【0081】
図7に示すように、凝集剤を添加することにより処理水のCODが徐々に減少し、所定の添加量を超えると再びCODが増加した。凝集剤添加量を100〜200mg/Lとした場合には処理水CODが最も低くなり、約150mg/Lにまで低下した。
【0082】
図8は、凝集剤添加量と処理水中の浮遊物質濃度との関係を示す。処理水浮遊物質濃度(SS)は凝集剤添加率100mg/Lで8mg/Lに低下した。これらの結果より実施例1での凝集剤添加率は100〜200mg/Lが適切であると考えられた。なお、凝集沈殿後の処理水はやや褐色を帯びた透明な様相であった。
【0083】
(参考例1)
遠心分離工程の前に凝集剤をエマルジョンブレーカーと共に添加した以外は、実施例1と同じ処理装置を用いて温水洗浄スロップを処理した。最初に温水洗浄スロップを約50℃に加温した。次いでエマルジョンブレーカー(商品名:ハクトールE−523、伯東株式会社製)を20mg/L、凝集剤(商品名:ハクトロンB−733、伯東株式会社製)を500mg/Lの割合で添加した後、実施例1と同じ条件で三相分離型の遠心分離機に供給した。得られた重液の浮遊物質濃度は1000mg/L、CODは670mg/Lであった。
【0084】
参考例1では、凝集剤を遠心分離工程の前にエマルジョンブレーカーと共に添加した。参考例1でも凝集剤添加による所定の効果も得られるが、得られた重液の浮遊物質濃度やCODは実施例1よりも高く、実施例1の方が良好な水質の処理水が得られた。また、実施例1と参考例1の試験結果より、凝集剤は、遠心分離前に添加するよりも、遠心分離後に得られた重液に添加する方式が良好な処理水が得られることが確認された。
【0085】
実施例1では発生した重液約25Lに対し、凝集剤を200mg/Lの割合で添加したため、凝集剤の使用量は約5gであったが、参考例1では遠心分離機に供給する温水洗浄スロップ150Lに対し、凝集剤を500mg/Lの割合で添加したため、凝集剤の使用量は合計約75gとなり、実施例1では凝集剤使用量を大幅に削減できた。
【0086】
参考例1では油水分離前の原油含有廃液に凝集剤を添加した。凝集剤は原油含有廃液中のスラッジなどを凝集させるために添加するが、参考例1では遠心分離前の原油含有廃液中のスラッジ全量に対し作用する凝集剤を添加する必要がある。このため、所要凝集剤量が過大となった。また、凝集剤添加量は一般に小スケールで処理試験を実施し決定するが、原油含有廃液では油やスラッジの割合が高く、処理試験による適切な凝集剤添加量の決定が困難である。このため、良好な分離水水質を得ることが難しい。
【0087】
実施例1では遠心分離後の分離水を対象に凝集剤を添加するため、すでにスラッジや油の大部分が除去されている。このため、凝集剤の添加量は参考例1よりも少なくて良い。また、処理試験も容易に実施できるため適切な凝集剤添加量で処理が可能となり、良好な水質を得られた。
【0088】
(実施例2)
実施例2では、
図4に示す処理装置を用いて膜ろ過処理試験を実施した。加温設備や遠心分離機は実施例1と同じ装置を用いた。一方、遠心分離機から排出される分離水(重液)を処理するため、実施例1で用いた凝集沈殿設備の代わりに膜ろ過設備を設けた。
【0089】
膜ろ過手段の前段には、重液貯槽及び加圧ポンプを配置し、膜ろ過手段で得られる濃縮液を重液貯槽に返送した。実施例2では、実施例1と同じ温水洗浄スロップを400L/hrの流量で三相分離型の遠心分離機に供給した。得られた重液を重液貯槽に貯留し膜ろ過試験を実施した。
【0090】
膜ろ過手段には、シリコンカーバイド製の限外ろ過膜(LiqTech社製、直径25mm、流路径3mm×25流路、長さ305mm、公称孔径:0.08μm)のセラミック膜エレメントを用いた。このセラミック膜エレメントを膜ろ過手段の分離膜とし、循環流量2m/秒で重液を循環させてろ過した。重液は約45℃に加温しながら運転した。膜ろ過処理で得られた処理水の水質は、浮遊物質濃度が1mg/L未満、CODが100mg/Lであり、重液は膜ろ過処理でも処理できることを確認できた。