特許第6810001号(P6810001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810001
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】高周波伝送線路
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/08 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   H01P5/08 A
   H01P5/08 L
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-161276(P2017-161276)
(22)【出願日】2017年8月24日
(65)【公開番号】特開2019-41213(P2019-41213A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2019年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 一正
(72)【発明者】
【氏名】脇田 和弥
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−056719(JP,A)
【文献】 特表2005−513761(JP,A)
【文献】 特開2016−072818(JP,A)
【文献】 特開平07−221512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の誘電体層(L1〜L3)を有する多層基板(2,2a〜2e)と、
予め設定された伝送方向と異なる方向に並べられた複数の線路部(30)であって、それぞれが前記多層基板の2つの外面のそれぞれに前記伝送方向に沿って形成された信号線路(3,4)を含む複数の線路部と、
前記複数の線路部のそれぞれに配置され、前記2つの外面のそれぞれに形成された前記信号線路の間を接続する複数の信号ビア(5)と、
前記多層基板に含まれ、前記複数の誘電体層の間に配置され、前記複数の信号ビアのそれぞれを中心とした領域である複数の伝送領域(61)の周囲を覆うグランドプレーン(6)と、
前記複数の線路部のそれぞれを伝送する高周波信号が対応する前記伝送領域を伝送する際に、前記高周波信号を前記伝送領域に閉じ込めるための複数の金属部(80,80a,70)と、を備え、
前記複数の金属部は、少なくとも1層の前記誘電体層を積層方向に貫通して前記グランドプレーンと導通し、且つ、前記伝送方向に延伸して設けられ、且つ、前記異なる方向において、前記複数の信号ビアのそれぞれを挟むように、2つの信号ビアの間に1つの金属部が配置されており、
前記複数の金属部のそれぞれは、前記伝送方向に沿って並べられた複数のグランドビア(7,8)を含む、
高周波伝送線路。
【請求項2】
積層された複数の誘電体層(L1〜L3)を有する多層基板(2,2a〜2e)と、
予め設定された伝送方向と異なる方向に並べられた複数の線路部(30)であって、それぞれが前記多層基板の2つの外面のそれぞれに前記伝送方向に沿って形成された信号線路(3,4)を含む複数の線路部と、
前記複数の線路部のそれぞれに配置され、前記2つの外面のそれぞれに形成された前記信号線路の間を接続する複数の信号ビア(5)と、
前記多層基板に含まれ、前記複数の誘電体層の間に配置され、前記複数の信号ビアのそれぞれを中心とした領域である複数の伝送領域(61)の周囲を覆うグランドプレーン(6)と、
前記複数の線路部のそれぞれを伝送する高周波信号が対応する前記伝送領域を伝送する際に、前記高周波信号を前記伝送領域に閉じ込めるための複数の金属部(80,80a,70)と、を備え、
前記複数の金属部は、少なくとも1層の前記誘電体層を積層方向に貫通して前記グランドプレーンと導通し、且つ、前記伝送方向に沿って形成され、且つ、前記複数の信号ビアのそれぞれを挟むように配置され、
前記複数の信号ビアの各々は、当該信号ビアを挟む2つの金属部と疑似同軸線路構造を形成し、
前記複数の金属部のうちの少なくとも一部の金属部は、隣り合う前記信号線路の間に配置されて、隣り合う前記疑似同軸線路構造により共有され、
前記複数の金属部のそれぞれは、前記伝送方向に沿って並べられた複数のグランドビア(7,8)を含む、
高周波伝送線路。
【請求項3】
積層された複数の誘電体層(L1〜L3)を有する多層基板(2,2a〜2e)と、
予め設定された伝送方向と異なる方向に並べられた複数の線路部(30)であって、それぞれが前記多層基板の2つの外面のそれぞれに前記伝送方向に沿って形成された信号線路(3,4)を含む複数の線路部と、
前記複数の線路部のそれぞれに配置され、前記2つの外面のそれぞれに形成された前記信号線路の間を接続する複数の信号ビア(5)と、
前記多層基板に含まれ、前記複数の誘電体層の間に配置され、前記複数の信号ビアのそれぞれを中心とした領域である複数の伝送領域(61)の周囲を覆うグランドプレーン(6)と、
前記複数の線路部のそれぞれを伝送する高周波信号が対応する前記伝送領域を伝送する際に、前記高周波信号を前記伝送領域に閉じ込めるための複数の金属部(80,80a,70)と、を備え、
前記複数の金属部は、少なくとも1層の前記誘電体層を積層方向に貫通して前記グランドプレーンと導通し、且つ、前記伝送方向に沿って形成され、且つ、前記異なる方向において、前記複数の信号ビアのそれぞれを挟むように、前記複数の信号ビアと交互に配置されており、
前記複数の金属部のそれぞれは、前記伝送方向に沿って並べられた複数のグランドビア(7,8)を含み、
前記複数のグランドビアは、径の異なる複数種類のグランドビアを含み、
1つの前記信号ビアを挟む2つの前記金属部(80)に含まれる前記グランドビアのそれぞれの一部は、当該信号ビアを中心とした円上に配置されており、
前記複数種類のグランドビアは、小グランドビア(7)と、前記小グランドビアよりも径の大きな大グランドビア(8)と、を含み、
前記複数の信号ビアは一列に配置されており、
前記複数の金属部(80)に含まれる複数の前記小グランドビアは、前記複数の信号ビアが配置された列上に、前記複数の信号ビアのそれぞれを挟むように配置されている、
高周波伝送線路。
【請求項4】
積層された複数の誘電体層(L1〜L3)を有する多層基板(2,2a〜2e)と、
予め設定された伝送方向と異なる方向に並べられた複数の線路部(30)であって、それぞれが前記多層基板の2つの外面のそれぞれに前記伝送方向に沿って形成された信号線路(3,4)を含む複数の線路部と、
前記複数の線路部のそれぞれに配置され、前記2つの外面のそれぞれに形成された前記信号線路の間を接続する複数の信号ビア(5)と、
前記多層基板に含まれ、前記複数の誘電体層の間に配置され、前記複数の信号ビアのそれぞれを中心とした領域である複数の伝送領域(61)の周囲を覆うグランドプレーン(6)と、
前記複数の線路部のそれぞれを伝送する高周波信号が対応する前記伝送領域を伝送する際に、前記高周波信号を前記伝送領域に閉じ込めるための複数の金属部(80,80a,70)と、を備え、
前記複数の金属部は、少なくとも1層の前記誘電体層を積層方向に貫通して前記グランドプレーンと導通し、且つ、前記伝送方向に延伸して設けられ、且つ、前記異なる方向において、前記複数の信号ビアのそれぞれを挟むように、2つの信号ビアの間に1つの金属部が配置されており、
前記複数の金属部(70)のそれぞれは、金属の壁面を有し、長手方向が前記伝送方向となるように形成された溝である、
高周波伝送線路。
【請求項5】
前記複数のグランドビアは、径の異なる複数種類のグランドビアを含み、
1つの前記信号ビアを挟む2つの前記金属部(80)に含まれる前記グランドビアのそれぞれの一部は、当該信号ビアを中心とした円上に配置されている、
請求項1又は2に記載の高周波伝送線路。
【請求項6】
前記複数種類のグランドビアは、小グランドビア(7)と、前記小グランドビアよりも径の大きな大グランドビア(8)と、を含み、
前記複数の信号ビアは一列に配置されており、
前記複数の金属部(80)に含まれる複数の前記小グランドビアは、前記複数の信号ビアが配置された列上に、前記複数の信号ビアのそれぞれを挟むように配置されている、
請求項に記載の高周波伝送線路。
【請求項7】
1つの前記信号ビアを挟む2つの前記金属部は、当該信号ビアに接続された前記信号線路に対して線対称となるように形成されている、
請求項1〜のいずれか1項に記載の高周波伝送線路。
【請求項8】
前記高周波信号の周波数は50GHz以上である、
請求項1〜のいずれか1項に記載の高周波伝送線路。
【請求項9】
前記複数の信号ビアのうち隣り合う信号ビアの間隔は、前記高周波信号の波長の半分以下の間隔である、
請求項1〜のいずれか1項に記載の高周波伝送線路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多層基板の積層方向に高周波信号を伝送する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多層の配線基板の両面に形成された信号線パターンを信号ビアで接続し、信号ビアを中心とした円に沿って、接地電位を有するグランドビアを配置することによって、高周波伝送線路を形成する技術が記載されている。このように形成された高周波伝送線路を用いると、高周波信号を配線基板の積層方向へ低損失で伝送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−50680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記高周波伝送線路を複数のアンテナ素子を有するアンテナ、特に広角アンテナの給電に適用する場合、グレーティングローブを抑制するため、各アンテナ素子に給電する信号線路の間隔を1/2波長以下にすることが望ましい。しかしながら、上記高周波伝送線路を複数並べて配置する場合、信号線路の間隔を十分に狭くしようとすると、隣接する高周波伝送線路のグランドビアが互いに重なってしまうため、信号線路の間隔を十分に狭くすることはできない。つまり、上記高周波電線路を複数並べても、信号線路の間隔を十分に狭くできないため、複数のアンテナ素子を有するアンテナの給電に適用することが難しいという問題がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、複数のアンテナ素子を有するアンテナの給電に適用可能な高周波伝送線路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、多層基板(2,2a〜2e)と、複数の線路部(30)と、複数の信号ビア(5)と、グランドプレーン(6)と、複数の金属部(80,80a,70)と、を備える。多層基板は、積層された複数の誘電体層(L1,L2,L3)を有する。複数の線路部(30)は、予め設定された伝送方向と異なる方向に並べられており、それぞれが多層基板の2つの外面のそれぞれに伝送方向に沿って形成された信号線路(3,4)を含む。複数の信号ビアは、複数の線路部のそれぞれに配置され、2つの外面のそれぞれに形成された信号線路の間を接続する。グランドプレーンは、多層基板に含まれ、複数の誘電体層の間に配置され、複数の信号ビアのそれぞれを中心とした領域である複数の伝送領域(61)の周囲を覆う。複数の金属部は、複数の線路部のそれぞれを伝送する高周波信号が対応する伝送領域を伝送する際に、高周波信号を伝送領域に閉じ込めるために設けられている。複数の金属部は、少なくとも1層の誘電体層を積層方向に貫通してグランドプレーンと導通し、且つ、伝送方向に沿って形成され、且つ、伝送方向と異なる方向において、複数の信号ビアのそれぞれを挟むように、複数の信号ビアと交互に配置されている。
【0007】
本開示によれば、複数の金属部が、複数の信号ビアのそれぞれに接続された信号線路と同様に、伝送方向に沿って形成されている。そして、複数の金属部は、伝送方向と異なる方向において、複数の信号ビアのそれぞれを挟むように、複数の信号ビアと交互に配置されている。よって、金属部を介して隣り合う信号ビアは、その間の金属部を共有して、疑似同軸線路構造を構成することができる。したがって、信号ビアごとに円形に沿って金属部を配置する場合と比べて、複数の線路部の間隔を十分に狭くすることができる。また、隣り合う信号ビアの間には金属部が配置されるため、伝送損失の低減且つ隣り合う信号ビアとの高アイソレーションを実現することができる。よって、複数のアンテナ素子を有するアンテナの給電に適用することができる。
【0008】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の高周波伝送線路の平面図である。
図2図1においてII−II線で切断した断面図である。
図3】シミュレーションによって求めた周波数に対する伝送損失を示すグラフである。
図4】シミュレーションによって求めた周波数に対するアイソレーションを示すグラフである。
図5】第2実施形態の高周波伝送線路の平面図である。
図6】第3実施形態の高周波伝送線路の平面図である。
図7】第4実施形態の高周波伝送線路の平面図である。
図8図7においてVIII−VIII線で切断した断面図である。
図9】第5実施形態の高周波伝送線路の平面図である。
図10図9においてX−X線で切断した断面図である。
図11】第6実施形態の高周波伝送線路の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.構成]
本開示の高周波伝送線路10は、2つのアンテナ素子を有する広角アンテナの各アンテナ素子への給電に適用されることを想定している。また、高周波伝送線路10は、周波数が50GHz以上の高周波信号の伝送に適用されることを想定している。
【0011】
まず、高周波伝送線路10の構成について、図1及び図2を参照して説明する。高周波伝送線路10は、多層基板2と、2つの線路部30と、2つの信号ビア5と、3つのグランドビア部80と、を備える。以下では、多層基板2の平面に平行な方向をx方向とy方向とし、多層基板2の平面に垂直な方向をz方向とする。x方向とy方向は互いに垂直な方向である。そして、x方向を多層基板2の平面上における高周波信号の伝送方向とする。
【0012】
多層基板2は、2層の誘電体層L1,L2と、誘電体層L1,L2を挟む3層のパターン層P1〜P3と、を有する。以下では、パターン層P1〜P3のうち、多層基板2の外面に配置されたパターン層P1,P3を外層と称し、誘電体層L1とL2との間に配置されたパターン層P2を中間層と称する。
【0013】
2つの線路部30は、それぞれ、高周波信号を伝送する信号線路3と信号線路4とを備える。信号線路3は、伝送方向に沿って、外層P1に形成された導体パターンである。信号線路4は、伝送方向に沿って、外層P3に形成された導体パターンである。信号線路3,4には、例えば、エッチング等によって形成された銅箔が用いられる。2つの信号線路3は、外層P1においてy方向に並べられており、隣り合う信号線路3の間隔は距離Rとなっている。また、2つの信号線路4は、外層P3においてy方向に並べられており、隣り合う信号線路4の間隔は距離Rとなっている。そして、1つの線路部30に含まれる信号線路3,4の先端は、誘電体層L1,L2を挟んで対向する位置に配置されている。
【0014】
2つの信号ビア5は、それぞれ、金属製の導体であり、2つの線路部30のそれぞれに配置され、対向する信号線路3の先端と信号線路4の先端との間を接続する。2つの信号ビア5は、y方向において、一列に配置されており、隣り合う信号ビア5の中心の間隔は距離Rとなっている。また、各信号ビア5の径は、距離Rよりも小さく、信号線路3,4の線幅よりも大きく形成されている。
【0015】
グランドプレーン6は、銅箔等を用いて中間層P2に形成された導体パターンであり、接地電位に接続されている。グランドプレーン6は、2つの誘電体層L1,L2が当接する面のうち、2つの伝送領域61の周囲を覆い、2つの伝送領域61を除く範囲の全体を覆うように形成されている。2つの伝送領域61は、2つの信号ビア5のそれぞれを中心とした領域である。本実施形態では、2つの伝送領域61は、2つの信号ビア5を中心とした円形の領域である。
【0016】
2つの線路部30のそれぞれと対応する伝送領域61は、2つのアンテナ素子のそれぞれへの給電路になっている。つまり、各アンテナ素子の給電路は、y方向に距離Rの間隔で並べて形成されている。距離Rは、高周波伝送線路10を伝送する高周波信号の波長の半分以下の距離となっている。本実施形態では、高周波伝送線路10は77GHzの高周波信号を伝送する。また、ここでの波長は、実効波長のことである。
【0017】
3つのグランドビア部80は、x方向に沿って形成されており、且つ、y方向において、2つの信号ビア5のそれぞれを挟むように、2つの信号ビア5と交互に配置されている。3つのグランドビア部80は、それぞれ、各線路部30を伝送する高周波信号が、対応する信号ビア5の周囲の伝送領域61を伝送する際に、高周波信号を伝送領域に閉じ込めるための金属部材である。つまり、3つのグランドビア部80は、信号ビア5とそれを挟むように配置された2つのグランドビア部80とで、疑似同軸線路構造を形成するための金属部材である。
【0018】
3つのグランドビア部80のそれぞれは、1つの小グランドビア7と、小グランドビア7よりも径の大きな2つの大グランドビア8とを含む。小グランドビア7及び大グランドビア8は、多層基板2を積層方向に貫通し、且つ、グランドプレーン6と導通している。本実施形態では、信号ビア5の径は、小グランドビア7の径よりも大きく、且つ、大グランドビア8の径よりも小さく形成されている。また、本実施形態では、グランドビア部80が金属部に相当する。
【0019】
同一のグランドビア部80に含まれる1つの小グランドビア7と2つの大グランドビア8は、x方向において、2つの大グランドビア8が小グランドビア7を挟むように配置されている。そして、小グランドビア7の中心と2つの大グランドビア8の中心は、同一線上に位置するように配置されている。
【0020】
また、3つのグランドビア部80に含まれる3つの小グランドビア7は、2つの信号ビア5が配置された列上に、2つの信号ビア5のそれぞれを挟むように配置されている。3つの小グランドビア7の中心と2つの信号ビアの中心は、同一線上に配置されている。
【0021】
また、2つの信号ビア5のそれぞれを挟む2つのグランドビア部80は、挟んでいる信号ビア5に接続された信号線路3,4に対して線対称となるように構成されている。ここで、2つの信号ビア5を第1信号ビアと第2信号ビアとし、第1信号ビアと第2信号ビアとの間のグランドビア部80を第2グランドビア部、第2グランドビア部とともに第1信号ビアを挟むグランドビア部80を第1グランドビア部、残りのグランドビア部80を第3グランドビア部とする。第2グランドビア部は、第1信号ビアに接続された信号線路3,4に対して、第1グランドビア部と線対称となっているとともに、第2信号ビアに接続された信号線路3,4に対して、第3グランドビア部と線対称となっている。
【0022】
さらに、2つの信号ビア5のそれぞれを挟む2つのグランドビア部80に含まれる、2つの小グランドビア7及び4つの大グランドビア8は、挟んでいる信号ビア5を中心とする円C1上に配置されている。つまり、第1信号ビアを中心とする円C1上に、第1グランドビア部及び第2グランドビア部が配置されており、第2信号ビアを中心とする円C1上に、第2グランドビア部と第3グランドビア部が配置されている。第2グランドビア部は、第1信号ビアを中心とする円C1、及び第2信号ビアを中心とする円C1の両方の円上に配置されている。よって、第2グランドビア部は、隣り合う第1信号ビアと第2信号ビアとに共有されている。
【0023】
具体的には、小グランドビア7のランドの一部と、大グランドビア8のランドの一部が、信号ビア5を中心とする円C1上に位置するように、各小グランドビア7及び各大グランドビア8が配置されている。
【0024】
このように構成された高周波伝送線路10をアンテナの給電に用いる場合、2つの信号線路4からそれぞれ高周波信号を供給すると、供給された高周波信号は、それぞれ、信号線路4から伝送領域61を介して信号線路3へ伝送され、各アンテナ素子へ供給される。
【0025】
[1−2.効果]
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)3つのグランドビア部80が、2つの線路部30と同様に、伝送方向に沿って形成されている。そして、3つのグランドビア部80は、伝送方向と異なる方向において、2つの信号ビア5のそれぞれを挟むように、2つの信号ビア5と交互に配置されている。よって、グランドビア部80を介して隣り合う信号ビア5は、その間のグランドビア部80を共有することができる。したがって、信号ビア5ごとに円に沿ってグランドビア部80を設置する場合と比べて、2つの線路部30の間隔を十分に狭くすることができる。また、隣り合う信号ビア5の間にはグランドビア部80配置されるため、伝送損失の低減且つ隣り合う信号ビア5に対する高アイソレーションを実現することができる。よって、複数のアンテナ素子を有するアンテナの給電に適用することができる。
【0026】
(2)隣り合う信号ビア5が、隣り合う信号ビア5の間に配置され、伝送方向に沿って並べられた1つの小グランドビア7及び2つの大グランドビア8を共有することができる。
【0027】
(3)各グランドビア部80が径の異なる小グランドビア7と大グランドビア8とを含むことにより、小グランドビア7と大グランドビア8とを、伝送方向沿った方向に配置するとともに、信号ビア5を中心とした円上に配置することができる。これにより、信号ビア5と小グランドビア7及び大グランドビア8とで構成される疑似同軸線路構造の効果を、高めることができる。
【0028】
(4)3つの小グランドビア7を2つの信号ビア5が配置された列上に配置することにより、2つの信号ビア5の間隔、ひいては、2つの線路部30の間隔を狭くすることができる。
【0029】
(5)信号ビア5を挟む2つのグランドビア部が、その信号ビアに接続された信号線路3,7に対して線対称となるように形成されているため、高周波信号の伝送性能を高めることができる。
【0030】
(6)50GHz以上の高い周波数の高周波信号を伝送する場合でも、2つの信号ビア5及び2つの線路部30の間隔を十分に狭くすることができる。
(7)信号ビア5及び線路部30の間隔を、高周波信号の波長の半分以下の距離にすることができる。そのため、高周波伝送線路10を2つのアンテナ素子を有するアンテナの給電に適用した場合に、グレーティングローブの発生を抑制することができる。ひいては、高周波伝送線路10を広角アンテナの給電に好適に適用することができる。
【0031】
[1−3.シミュレーション]
図3は、高周波伝送線路10の伝送損失をシミュレーションによって求めた結果を示すグラフである。比較のため、信号ビアを中心とした円に沿って、複数のグランドビアを配置した比較例の特性も示す。ここでの伝損失には、信号線路3,4及び伝送領域を伝送した際の損失を含む。図3から、複数のグランドビアをx方向に沿って配置している本実実施形態と、信号ビア5を中心とする円に沿って配置した比較例との差が、0.1dB程度の差しかないことがわかる。よって、本実施形態は、比較例と同程度の伝送性能を実現していることがわかる。
【0032】
また、図4は、2つの線路部30のうちの一方の線路部30に高周波信号を供給した場合に、他方の線路部30に漏れる高周波信号の電力を示すグラフである。図4から、隣接する線路部30への高周波信号の漏れは十分に抑制されていることがわかる。つまり、高周波伝送線路10を2つのアンテナ素子への給電に適用した場合に、2つのアンテナ素子間の十分なアイソレーションを得られることがわかる。
【0033】
[第2実施形態]
[2−1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0034】
前述した第1実施形態の高周波伝送線路10では、多層基板2に、1つの小グランドビア7と2つの大グランドビア8とを含むグランドビア部80が形成されていた。これに対し、図5に示すように、第2実施形態の高周波伝送線路10aでは、多層基板2aに、3つの小グランドビア7を含むグランドビア部80aが形成されている点で、第1実施形態と相違する。つまり、グランドビア部80aは、グランドビア部80における大グランドビア8の位置にも、小グランドビア7が配置されている。
【0035】
そのため、高周波伝送線路10aにおいて、信号ビア5を挟む2つのグランドビア部80aに含まれる6つの小グランドビアは、その信号ビア5を中心とした円C1上に配置されていない。よって、高周波伝送線路10aは、高周波伝送線路10ほどの伝送損失の低減効果は奏しないもの、3つのグランドビア部80aが2つの信号ビア5のそれぞれを挟むように配置されているため、ある程度の伝送損失の低減効果は奏する。
【0036】
[2−2.効果]
以上説明した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)〜(2)、(4)〜(7)の効果を奏する。
【0037】
[3.第3実施形態]
[3−1.第1実施形態との相違点]
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0038】
第3実施形態の高周波伝送線路10bは、前述した第1実施形態の高周波伝送線路10よりもさらに小グランドビア7が追加されている点で、第1実施形態と異なる。図6に示すように、高周波伝送線路10bの多層基板2bには、3つのグランドビア部80に加えて、8つの小グランドビア7が形成されている。
【0039】
ここで、3つのグランドビア部80のうち、2つの信号ビア5の中間に配置されているグランドビア部80を中間グランドビア部、残りの2つのグランドビア部80を外側グランドビア部とする。追加された8つの小グランドビア7のうち4つは、x方向において、2つの外側グランドビア部の両側に1つずつ配置されている。また、残りの4つの小グランドビア7は、x方向において、中間グランドビア部の両側に2つずつ配置されている。また、8つの小グランドビア7は、中心線LLに対して線対称になるように配置されている。中心線LLは、中間グランドビア部に含まれる1つの小グランドビア7と2つの大グランドビア8の中心を通る線である。つまり、高周波伝送線路10aは、高周波伝送線路10と比べて、信号ビア5ごとに4つの小グランドビア7が追加されている。
【0040】
[3−2.効果]
以上説明した第3実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)〜(7)の効果を奏するとともに、第1実施形態よりも小グランドビア7を増やしたことにより、第1実施形態よりもさらに伝送損失を低減させることができる。
【0041】
[4.第4実施形態]
[4−1.第1実施形態との相違点]
第4実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0042】
図7に示すように、第4実施形態の高周波伝送線路10cは、さらに、層間ビア9が追加されている点で、第1実施形態と異なる。図7は、高周波伝送線路10cの一部を省略して、1つの信号ビア5とその信号ビア5を挟む2つのグランドビア部80を示している。実際には、高周波伝送線路10cは、高周波伝送線路10と同様に、2つの信号ビア5及び2つの線路部30と3つのグランドビア部80とを備える。
【0043】
図7及び図8に示すように、高周波伝送線路10cの多層基板2cは、3層の誘電体層L1〜L3と、誘電体層L1〜L3のそれぞれを挟む4層のパターン層P1〜P4と、を有する。以下では、パターン層P1〜P4のうち、多層基板2cの外面に配置されたパターン層P1,P4を外層と称し、それ以外のパターン層P2,P3を中間層と称する。
【0044】
外層P1,P4には、2つの線路部30が形成されている。そして、中間層P2,P3には、それぞれグランドプレーン6が形成されている。さらに、多層基板2cには、線路部30ごとに2つの層間ビア9が形成されている。各層間ビア9は、誘電体層L2を貫通し、中間層P2,P3に形成された2つのグランドプレーン6を相互に導通させるように形成されている。
【0045】
また、線路部30ごとに形成された2つの層間ビア9は、xy平面上において、信号線路3,4に重なる位置に配置されている。2つの層間ビア9のうちの1つは、信号線路3に重なる位置に配置されており、残りの1つは信号線路4に重なる位置に配置されている。つまり、層間ビア9は、外層P1,P4に線路部30が形成されているために、多層基板2cを貫通させることができない位置に形成されている。
【0046】
[4−2.効果]
以上説明した第4実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)〜(7)の効果を奏するとともに、層間ビア9を追加したことにより、第1実施形態よりもさらに伝送損失を低減させることができる。
【0047】
[5.第5実施形態]
[5−1.第4実施形態との相違点]
第5実施形態は、基本的な構成は第4実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0048】
第5実施形態の高周波伝送線路10dも、線路部30ごとに2つの層間ビア9が形成されているが、各層間ビア9は多層基板2dの2つの外面のうちの一方に露出している点で、第4実施形態と異なる。
【0049】
図9及び図10に示すように、多層基板2dには、線路部30ごとに2つの層間ビア9が形成されている。2つの層間ビア9のうちの1つは、xy平面上において、信号線路3に重なる位置に配置されており、残りの1つは信号線路4に重なる位置に配置されている。
【0050】
信号線路3に重なる位置に配置されている層間ビア9は、誘電体層L1と、中間層P3に形成されたグランドプレーン6と、誘電体層L3とを貫通し、中間層P2,P3に形成された2つのグランドプレーンを相互に導通させるように形成されている。一方、信号線路4に重なる位置に配置されている層間ビア9は、誘電体層L1と、中間層P2に形成されたグランドプレーン6と、誘電体層L1とを貫通し、中間層P2,P3に形成された2つのグランドプレーンを相互に導通させるように形成されている。つまり、2つの層間ビア9は、それぞれ、信号線路3,4が配線されていない側の外面に露出するように形成されている。
【0051】
[5−2.効果]
以上説明した第5実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)〜(7)の効果を奏するとともに、層間ビア9を追加したことにより、第1実施形態よりもさらに伝送損失を低減させることができる。
【0052】
[6.第6実施形態]
[6−1.第1実施形態との相違点]
第6実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0053】
前述した第1実施形態の高周波伝送線路10では、2つの信号ビア5のそれぞれを挟むように、3つのグランドビア部80が形成されていた。これに対して、第4実施形態の高周波伝送線路10eでは、2つの信号ビア5のそれぞれを挟むように3つの溝70が形成されている点で、第1実施形態と異なる。
【0054】
図11に示すように、多層基板2eには、長手方向がx方向となるように、3つの溝70が形成されている。3つの溝70は、それぞれ、多層基板2eを貫通する金属の壁面を有し、xy断面が長方形となる四角筒状に形成されている。各溝70は、信号ビア5に対向する位置近傍を中心にして、x方向に延伸している。本実施形態において、溝70が金属部に相当する。
【0055】
[6−2.効果]
以上説明した第6実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)、(5)〜(7)の効果を奏する。
【0056】
[他の実施形態]
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0057】
(a)上記各実施形態では、2つの信号ビア5及び2つの線路部30を備える高周波伝送線路10,10a〜10eについて説明したが、各実施形態の高周波伝送線路10,10a〜10eは、3つ以上の信号ビア5及び3つ以上の線路部30を備えていてもよい。各実施形態の高周波伝送線路10,10a〜10eが3つ以上の信号ビア5及び3つ以上の線路部30を備えていていれば、3つ以上のアンテナ素子を有するアンテナの給電にも適用することができる。この場合、y方向において、等間隔となるように、信号ビア5、線路部30、グランドビア部80,80a又は溝70を並べればよい。
【0058】
(b)上記各実施形態では、2層又は3層の誘電体層を有する多層基板2,2a〜2eについて説明したが、より多くの誘電体層が積層された多層基板を用いてもよい。この場合、グランドプレーン6が形成される中間層が増える以外は、上記各実施形態と同様の構成となる。
【0059】
(c)上記第4及び第5実施形態では、信号線路3,4に重なる位置にだけ層間ビア9を配置しているが、これ以外の位置にも層間ビア9を配置してもよい。
(d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0060】
(e)上述した高周波伝送線路の他、当該高周波伝送線路を構成要素とするレーダシステム、高周波伝送線路の製造方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0061】
2,2a〜2e…多層基板、3,4…信号線路、5…信号ビア、6…グランドプレーン、10,10a〜10e…高周波伝送線路、30…線路部、61…伝送領域、70…溝、80,80a…グランドビア部、L1〜L3…誘電体層。
図1
図2
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図10
図11