(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810006
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】バッテリ駆動式電動巻き上げ機
(51)【国際特許分類】
B66D 3/20 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
B66D3/20 H
B66D3/20 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-176584(P2017-176584)
(22)【出願日】2017年9月14日
(65)【公開番号】特開2019-52009(P2019-52009A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】安田 悠
【審査官】
三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−056998(JP,A)
【文献】
特開2016−222401(JP,A)
【文献】
特開2017−124928(JP,A)
【文献】
特開平06−312896(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0211966(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00−5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を牽引するための牽引部材が巻回される回転体と、
前記回転体を回転駆動させるための電動モータと、
前記電動モータに電力を供給するためのバッテリと、
を備え、
前記バッテリの給電による前記電動モータの正逆回転駆動によって前記回転体を正逆回転させて前記回転体に対する牽引部材の巻き取り及び繰り出しを行なうバッテリ駆動式電動巻き上げ機であって、
前記電動モータの駆動を制御する駆動制御部と、
前記バッテリの蓄電残量を検出するためのバッテリ残量検出部と、
前記電動モータの回転駆動方向を検出するモータ駆動方向検出部、及び/又は、前記回転体からの前記牽引部材の繰り出し量を検出するための繰り出し量検出部と、
を備え、
前記駆動制御部は、前記バッテリ残量検出部からの検出情報によって前記バッテリの蓄電残量が所定の閾値以下であることが検出されると、前記電動モータの駆動を制限するとともに、前記モータ駆動方向検出部からの検出情報及び/又は前記繰り出し量検出部からの検出情報に基づいて前記閾値を変更することを特徴とするバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項2】
前記バッテリ残量検出部は、前記バッテリの電圧降下に基づいて前記バッテリの蓄電残量を検出することを特徴とする請求項1に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項3】
前記閾値が前記電動モータの起動を許可するための基準となる起動可能電圧であり、前記駆動制御部は、前記バッテリ残量検出部からの検出情報によって前記バッテリの出力電圧が前記起動可能電圧以下であることが検出されると、前記電動モータの駆動を制限することを特徴とする請求項2に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項4】
前記バッテリ残量検出部は、インピーダンストラック方式又はクーロンカウンタ方式によって前記バッテリの蓄電残量を検出することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項5】
前記駆動制御部は、前記繰り出し量検出部からの検出情報によって前記回転体からの前記牽引部材の繰り出し量が所定量以上であることが検出されると、前記閾値の値を下げることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項6】
前記駆動制御部は、前記繰り出し量検出部からの検出情報によって前記回転体からの前記牽引部材の繰り出し量が所定量以下であることが検出されると、前記閾値の値を下げることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項7】
前記駆動制御部は、前記モータ駆動方向検出部により検出される前記電動モータの回転駆動方向が牽引部材巻き取り方向であるときの前記閾値を牽引部材繰り出し方向であるときの前記閾値よりも小さく設定することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項8】
前記駆動制御部は、前記モータ駆動方向検出部により検出される前記電動モータの回転駆動方向が牽引部材繰り出し方向であるときの前記閾値を牽引部材巻き取り方向であるときの前記閾値よりも小さく設定することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項9】
前記バッテリの蓄電残量が前記閾値以下のときにその旨を警告して表示する警告表示部を更に備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項10】
前記駆動制御部は、前記バッテリ残量検出部からの検出情報によって前記バッテリの蓄電残量が前記閾値以下であることが検出されると、前記電動モータを牽引部材巻き取り方向に回転させて前記牽引部材を前記回転体に対して所定量巻き取った後、前記警告表示部に警告表示を行なわせることを特徴とする請求項9に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【請求項11】
前記回転体及び前記電動モータを有する巻き上げ機本体と、前記駆動制御部、前記モータ駆動方向検出部、前記バッテリ残量検出部、及び、前記繰り出し量検出部を有する制御装置と、前記バッテリとが一体のユニットを形成することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のバッテリ駆動式電動巻き上げ機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリを電力供給源として作動する電動モータにより牽引部材を巻き上げて(巻き取って)及び繰り降ろして(繰り出して)対象物を昇降させるためのバッテリ駆動式電動巻き上げ機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの駆動力を利用して寝具、梱包類、仮設足場、建造物、漁労具等の対象物を所定位置まで巻き上げたり、降ろしたりする電動巻き上げ機は従来から一般的に知られている。
【0003】
このような電動巻き上げ機は、一般に、電動モータの正回転によって牽引部材を回転体に巻き取るとともに、電動モータの逆回転によって牽引部材を回転体から繰り出すことにより、牽引部材に結合される対象物を昇降させることができるようになっている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−020831号
【特許文献2】特開平9−183593号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このように電動モータの正逆回転によって牽引部材を回転体に対して繰り出す及び巻き取る電動巻き上げ機がバッテリ駆動式である場合、すなわち、バッテリを電力供給源として作動する電動モータにより牽引部材を巻き上げて及び繰り出して対象物を昇降させる場合には、バッテリ切れに伴う問題を考慮しなければならない。
【0006】
これに関連して、例えば、バッテリ駆動式電動巻き上げ機によって牽引部材を昇降させて対象物としての例えば荷物の揚げ降ろしを行なう場合には、一般的に、荷揚げ方向の駆動が荷降ろし方向の駆動よりも大負荷(したがって大電流)となり、したがって、荷揚げ駆動時(大電流時)の方がバッテリの消耗(バッテリの電圧低下)が大きいため、バッテリ切れの時期によって(例えば、バッテリ切れの時期が荷揚げ駆動時か荷降ろし駆動時かによって)バッテリ切れが直面する問題の深刻さに格段の差が生じ得る。
【0007】
すなわち、牽引部材を回転体に完全に巻き取った状態でバッテリ切れが起きる場合には、その後の荷降ろし作業を行なうことができないだけであるが、牽引部材を回転体に巻き取っている最中又は牽引部材を回転体から繰り出している最中にバッテリ切れが生じると、荷物が牽引部材によって電動巻き上げ機から吊り下げられたままの状態で放置されることになり、バッテリの交換又は充電を行なうことができない場合には、その荷物の回収に支障を来す。特に、前述したように荷揚げ駆動が荷降ろし駆動よりも大負荷(したがって大電流)であることを考えると、バッテリ切れ直前でも荷降ろし駆動は続けられることが多く、そのため、バッテリ残量によっては荷降ろしを完了させることができるが、その際の牽引部材の繰り出し量(バッテリ残量)によっては、その後の荷揚げ駆動時にバッテリ切れが生じて荷物の回収が困難又は不可能になることもあり得る。
【0008】
したがって、バッテリ切れの時期を推測して牽引部材の巻き取り途中又は繰り出し途中でのバッテリ切れを防止する必要があるが、バッテリ切れの時期(バッテリが完全に放電されてバッテリの蓄電残量がゼロになる(起電力を失う)時期)は、バッテリ残量(蓄電残量)だけでなく、モータの回転駆動方向(大電流を要する荷揚げ駆動時(牽引部材の巻き取り方向)か小電流で済む荷降ろし駆動時(牽引部材の繰り出し方向)か否か)やモータの駆動時間(牽引部材の繰り出し残量又は巻き取り残量)等によっても大きく左右される。そのため、作業者がバッテリ残量だけでバッテリ切れの時期を推測することは難しい。
【0009】
以上を考えると、バッテリ駆動式電動巻き上げ機においては、機体側でバッテリ切れの時期を推測して、牽引部材の繰り出し及び/又は巻き取りを続けるべきか否か、次の繰り出し作業及び/又は巻き取り作業を事前に禁止すべきか否か等を自動的に決定することにより、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を最小限に抑えることが極めて重要になってくる。
【0010】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を最小限に抑えることができるバッテリ駆動式電動巻き上げ機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、対象物を牽引するための牽引部材が巻回される回転体と、前記回転体を回転駆動させるための電動モータと、前記電動モータに電力を供給するためのバッテリとを備え、前記バッテリの給電による前記電動モータの正逆回転駆動によって前記回転体を正逆回転させて前記回転体に対する牽引部材の巻き取り及び繰り出しを行なうバッテリ駆動式電動巻き上げ機であって、前記電動モータの駆動を制御する駆動制御部と、前記バッテリの蓄電残量を検出するためのバッテリ残量検出部と、前記電動モータの回転駆動方向を検出するモータ駆動方向検出部、及び/又は、前記回転体からの前記牽引部材の繰り出し量を検出するための繰り出し量検出部とを備え、前記駆動制御部は、前記バッテリ残量検出部からの検出情報によって前記バッテリの蓄電残量が所定の閾値以下であることが検出されると、前記電動モータの駆動を制限するとともに、前記モータ駆動方向検出部からの検出情報及び/又は前記繰り出し量検出部からの検出情報に基づいて前記閾値を変更することを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、バッテリの蓄電残量(例えば、バッテリの電圧降下に基づいて検出されてもよい)が所定の閾値(例えば、電動モータの起動を許可するための基準となる起動可能電圧(例えば、バッテリ出力電圧)など)以下であることが検出されると、電動モータの駆動が制限される(例えば、電動モータの回転駆動方向が一方向のみに制限される、電動モータの駆動が禁止されるなど)ため、すなわち、バッテリが切れる前にバッテリ切れの兆候を事前に把握して、電動モータの駆動を制限するため、牽引部材を回転体に巻き取っている最中又は牽引部材を回転体から繰り出している最中にバッテリ切れが生じる事態(したがって、巻き上げ対象物が牽引部材によって電動巻き上げ機から吊り下げられたままの状態で放置される事態)を回避できるだけでなく、バッテリ切れの時期に影響を及ぼす電動モータの回転駆動方向及び/又は牽引部材の繰り出し量に基づいて閾値が変更されるようになっているため、状況に応じて変動し得るバッテリ切れの時期を高い精度で把握して、適切な対応をとること、例えば、牽引部材の繰り出し及び/又は巻き取りを続けるべきか否か、次の繰り出し作業及び/又は巻き取り作業を事前に禁止すべきか否か等を自動的に決定することも可能となる。したがって、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を最小限に抑えることができるようになる。
【0013】
なお、上記構成において、駆動制御部は、繰り出し量検出部からの検出情報によって回転体からの牽引部材の繰り出し量が所定量以上であることが検出されると、前記閾値の値を下げてもよい。このように、牽引部材の繰り出し量が所定量以上であるときに、前記閾値を下げることによって電動モータの駆動を制限する基準を緩めると、特に牽引部材を繰り出している最中に例えばバッテリ切れ直前になってもその牽引部材の繰り出し作業を中断させることなく継続させて対象物の降下作業を完了させることもできる。これは、例えば、回転体からの牽引部材の繰り出し量が多いがために、巻き上げて対象物を回収すること(大負荷(大電流)の巻き取り駆動を強制的に行なうこと)が難しく、むしろ対象物を目標地点に降ろすことができる確率の方が高いバッテリ残量において、小負荷(小電流)の牽引部材の繰り出し作業をそのまま継続させることで、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避することができるため、有益である。
【0014】
また、上記構成において、駆動制御部は、繰り出し量検出部からの検出情報によって回転体からの牽引部材の繰り出し量が所定量以下であることが検出されると、前記閾値の値を下げてもよい。このように、牽引部材の繰り出し量が所定量以下であるときに、前記閾値を下げることによって電動モータの駆動を制限する基準を緩めると、特に牽引部材を巻き取っている最中に例えばバッテリ切れ直前になってもその牽引部材の巻き取り作業を中断させることなく継続させて対象物の巻き上げ作業を完了させることもできる。これは、例えば、回転体に対する牽引部材の巻き取り量が多く、巻き取り作業が間もなく完了する状態であるにもかかわらずバッテリ切れ直前となるようなバッテリ残量において、牽引部材のそれ以上の巻き取りを許容して対象物の巻き上げ作業を完了させることで、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避することができるため、有益である。
【0015】
また、上記構成において、駆動制御部は、モータ駆動方向検出部により検出される電動モータの回転駆動方向が牽引部材巻き取り方向であるときの前記閾値を牽引部材繰り出し方向であるときの前記閾値よりも小さく設定してもよい。このように、牽引部材繰り出し時の前記閾値よりも牽引部材巻き取り時の前記閾値を小さくして、牽引部材巻き取り時の電動モータ駆動制限基準を牽引部材繰り出し時の電動モータ駆動制限基準よりも緩めるようにすれば、バッテリ残量が少ない場合に、牽引部材の巻き取りを繰り出しよりも優先させて対象物を巻き上げることができる。これは、特に回転体に対する牽引部材の巻き取り量が多く、巻き取り作業が間もなく完了する状態であるにもかかわらずバッテリ切れ直前となるようなバッテリ残量において、牽引部材のそれ以上の巻き取りを許容して対象物の巻き上げ作業を完了させることで、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避することができるため、有益である。
【0016】
また、上記構成において、駆動制御部は、モータ駆動方向検出部により検出される電動モータの回転駆動方向が牽引部材繰り出し方向であるときの前記閾値を牽引部材巻き取り方向であるときの前記閾値よりも小さく設定してもよい。このように、牽引部材巻き取り時の前記閾値よりも牽引部材繰り出し時の前記閾値を小さくして、牽引部材繰り出し時の電動モータ駆動制限基準を牽引部材巻き取り時の電動モータ駆動制限基準よりも緩めるようにすれば、バッテリ残量が少ない場合に、牽引部材の繰り出しを巻き取りよりも優先させて対象物を降下させることができる。これは、特に回転体からの牽引部材の繰り出し量が多いがために、巻き上げて対象物を回収すること(大負荷(大電流)の巻き取り駆動を強制的に行なうこと)が難しく、むしろ対象物を目標地点に降ろすことができる確率の方が高いバッテリ残量において、小負荷(小電流)の牽引部材の繰り出し作業をそのまま継続させることで、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避することができるため、有益である。
【0017】
また、上記構成において、バッテリ駆動式電動巻き上げ機は、バッテリの蓄電残量が閾値以下のときにその旨を警告して表示する警告表示部を更に備えることが好ましい。このような警告表示部を設ければ、作業者は、バッテリ切れを事前に把握できる。この場合、駆動制御部は、バッテリ残量検出部からの検出情報によってバッテリの蓄電残量が閾値以下であることが検出されると、電動モータを牽引部材巻き取り方向に回転させて牽引部材を回転体に対して所定量巻き取った後、警告表示部に警告表示を行なわせることが好ましい。このようにすると、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避しつつ、作業者に対してバッテリ切れを事前に報知できる。
【0018】
また、上記構成では、回転体及び電動モータを有する巻き上げ機本体と、駆動制御部、モータ駆動方向検出部、バッテリ残量検出部、及び、繰り出し量検出部を有する制御装置と、バッテリとが一体のユニットを形成することが好ましい。このようなユニット化は、小型軽量化を可能にし、携帯性にも優れる。
【0019】
なお、このようなバッテリ駆動式電動巻き上げ機は、寝具、梱包類、仮設足場、建造物、漁労具等の対象物を所定位置まで巻き上げたり、降ろしたりするために使用できるほか、ドローンに搭載してドローンから荷物を降ろし或いは上空のドローンへと荷物を巻き上げるなど、その適用分野は限定されない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、牽引部材による対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を最小限に抑えることができるバッテリ駆動式電動巻き上げ機が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバッテリ駆動式電動巻き上げ機の一例を示す概略的な斜視図である。
【
図2】
図1のバッテリ駆動式電動巻き上げ機(特に制御装置)のブロック図である。
【
図3】
図2の制御装置の制御動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図2の制御装置の他の制御動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図2の制御装置の他の制御動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図2の制御装置の他の制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るバッテリ駆動式電動巻き上げ機の一実施形態について具体的に説明する。
図1及び
図2に示されるように、本実施形態に係るバッテリ駆動式電動巻き上げ機1は、電動モータ2と、電動モータ2の正逆回転駆動によって正逆回転されて巻き上げ対象物を牽引するための牽引部材L(
図2参照)を巻き取る及び/又は繰り出す(巻回する)筒状の回転体4と、回転体4を収容保持するハウジング6とを備える。この場合、回転体4は、軸受(図示せず)を介してハウジング6に回転可能に支持され、また、回転体を回転駆動させる電動モータ2は、例えばモータハウジングに収容された状態で筒状の回転体4の内側に回転不能に支持固定されてもよく、好ましくはハウジング6に例えば取り外し可能に装着される例えば再充電可能な電源(以下、バッテリBという)によって給電(電力が供給)される。すなわち、このバッテリ駆動式電動巻き上げ機1では、バッテリBの給電による電動モータ2の正逆回転駆動によって回転体4を正逆回転させて回転体4に対する牽引部材Lの巻き取り及び繰り出しを行なうようになっている。
【0023】
なお、牽引部材Lとしては、バッテリ駆動式電動巻き上げ機1の用途に応じて、ワイヤ、チェーン、ロープ等を挙げることができる。
【0024】
また、電動モータ2及び回転体4は、動力伝達機構(動力伝達経路)10によって互いに動力伝達可能に連結されている。この場合、動力伝達機構10は、電動モータ2の回転を回転体4側に伝達するが回転体4の回転を電動モータ2側に伝達しない双方向クラッチを有してもよく、また、電動モータ2からの動力を減速して回転体4に伝える減速機構を備えてもよい。
【0025】
なお、本実施形態に係るバッテリ駆動式電動巻き上げ機1には、回転体4に対して牽引部材Lを平行に巻回するためのレベルワインド装置40が設けられる。このレベルワインド装置40は、電動モータ2が回転駆動されると、それに連動して、回転体4から繰り出される牽引部材Lを挿通する案内体42が左右に往復移動するよう構成されており、牽引部材Lの巻き取り動作に伴って、回転体4に対して牽引部材Lを均等に巻回する機能を有する。
【0026】
また、本実施形態に係るバッテリ駆動式電動巻き上げ機1は、
図2に示されるように、電動モータ2の駆動を制御する駆動制御部10と、バッテリBの蓄電残量を検出するためのバッテリ残量検出部11と、電動モータ2の回転駆動方向を検出するモータ駆動方向検出部13と、回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量を検出するための繰り出し量検出部12とを有する制御装置15を備える。また、バッテリ駆動式電動巻き上げ機1は、バッテリBの蓄電残量が後述するように閾値以下になるときにその旨を警告して表示する警告表示部14を更に備える。この警告表示部14は、図示のように制御装置15に含まれていてもよく或いは含まれていなくてもよい。
【0027】
また、本実施形態では、回転体4及び電動モータ2を有する巻き上げ機本体Mと、駆動制御部10、モータ駆動方向検出部13、バッテリ残量検出部11、及び、繰り出し量検出部12を有する制御装置15と、バッテリBとが一体のユニットUを形成するようになっている。この場合、制御装置15は、例えばハウジング6に組み込まれる。
【0028】
ここで、駆動制御部10としては、例えばCPU等の一般的な公知の制御器が挙げられる。また、バッテリBの蓄電残量を検出するためのバッテリ残量検出部11は、例えば、バッテリBの電圧降下に基づいてバッテリBの蓄電残量を検出する方法が挙げられる。この場合、バッテリBの電位差を直接読み取る構成や、電気回路中に設けたシャント抵抗の電位差を読み取る構成が考えられる。その他、使用した電流を積算していくことで、満充電からの使用電力を測定するクーロンカウンタ方式、クーロンカウンタ方式を電池の経時変化や環境変化を学習により補正する電池セル・モデリング方式、及び、バッテリのインピーダンスを常時記録していくインピーダンストラック方式などがある。また、モータ駆動方向検出部13は例えば以下のように実施できる。すなわち、本実施形態で用いる電動モータ2はDCモータであるため、端子に正方向に電圧を印加すれば正方向に回転し、逆方向に電圧を印加すれば逆方向に回転する。したがって、端子に印加する電圧の正逆を検出することで、電動モータ2の駆動方向を検出できる。つまり、電動モータ2の駆動部そのものがモータ駆動方向検出部13を兼ねている。また、回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量を検出するための繰り出し量検出部12は、例えば、回転体4にロータリーエンコーダを取り付けることで実現できる。牽引部材Lの伸びや緩みを無視すれば、牽引部材Lの繰り出し量は、回転体4の回転量によって一意的に決まるため、ロータリーエンコーダによって回転を検出することで測定可能である。
【0029】
また、本実施形態において、制御装置15の駆動制御部10は、バッテリ残量検出部11からの検出情報によってバッテリBの蓄電残量が所定の閾値以下であることが検出されると、電動モータ2の駆動を制限するとともに、モータ駆動方向検出部13からの検出情報及び/又は繰り出し量検出部12からの検出情報に基づいて閾値を変更する(閾値の値を下げる又は上げる)ようになっている。この場合、閾値は、電動モータ2の起動を許可するための基準となる起動可能電圧であってもよく、駆動制御部10は、バッテリ残量検出部11からの検出情報によってバッテリBの出力電圧が前記起動可能電圧以下であることが検出されると、電動モータ2の駆動を制限する(例えば、電動モータ2の回転駆動方向を一方向のみに制限する、電動モータ2の駆動を禁止する等)。
【0030】
より具体的には、駆動制御部10は、例えば
図3に示されるような制御ステップを実行する。すなわち、まず、駆動制御部10は、繰り出し量検出部12からの検出情報によって回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量が所定量以上であるか否かを判断する(ステップS1)。これにより、回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量が所定量以上である場合(ステップS1の判断がYESの場合)、駆動制御部10は閾値の値を下げる(ステップS2)。例えば、牽引部材Lの繰り出し量が5m以下の場合に前記起動可能電圧が11Vに設定されている場合、牽引部材Lの繰り出し量が5〜20mの範囲内になると、前記起動可能電圧を10.5Vまで下げ、牽引部材Lの繰り出し量が20m以上になると、前記起動可能電圧を10Vまで下げるといったように閾値を段階的に下げる。
【0031】
一方、回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量が所定量以上でない場合(ステップS1の判断がNOの場合)、駆動制御部10は、現在の閾値を維持し、閾値の変更を行なわない。
【0032】
続いて、駆動制御部10は、バッテリ残量検出部11からの検出情報によってバッテリBの蓄電残量が所定の閾値以下であるか否かを判断する(ステップS3)。これにより、バッテリBの蓄電残量が所定の閾値以下である場合(ステップS1の判断がYESの場合)、駆動制御部10は電動モータ2の駆動を制限する(ステップS4)。例えば、この場合には電動モータ2のその後の駆動を禁止する。或いは、バッテリBの蓄電残量が所定の閾値以下である場合、駆動制御部10は、電動モータ2を牽引部材巻き取り方向に回転させて牽引部材Lを回転体4に対して強制的に所定量巻き取った後、警告表示部14に警告表示を行なわせてもよい(ステップS5)。無論、警告表示の後に電動モータ2を牽引部材巻き取り方向に駆動させて(又は駆動させることなく)電動モータ2の駆動を禁止するようにしてもよく、或いは、警告表示と同時に電動モータ2を牽引部材巻き取り方向に駆動させて(又は駆動させることなく)電動モータ2の駆動を禁止するようにしてもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態のバッテリ駆動式電動巻き上げ機1によれば、バッテリBの蓄電残量が所定の閾値以下であることが検出されると、電動モータ2の駆動が制限されるため、すなわち、バッテリBが切れる前にバッテリ切れの兆候を事前に把握して、電動モータ2の駆動を制限するため、牽引部材Lを回転体4に巻き取っている最中又は牽引部材Lを回転体4から繰り出している最中にバッテリ切れが生じる事態(したがって、巻き上げ対象物が牽引部材Lによって電動巻き上げ機から吊り下げられたままの状態で放置される事態)を回避できるだけでなく、バッテリ切れの時期に影響を及ぼす電動モータ2の回転駆動方向及び/又は牽引部材Lの繰り出し量に基づいて閾値が変更されるようになっているため、状況に応じて変動し得るバッテリ切れの時期を高い精度で把握して、適切な対応をとること、例えば、牽引部材Lの繰り出し及び/又は巻き取りを続けるべきか否か、前述したフローチャートに示されるように次の繰り出し作業及び/又は巻き取り作業を事前に禁止すべきか否か等を自動的に決定することが可能となる。したがって、牽引部材Lによる対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を最小限に抑えることができるようになる。
【0034】
特に、本実施形態において、駆動制御部10は、繰り出し量検出部12からの検出情報によって回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量が所定量以上であることが検出されると、閾値の値を下げる(電動モータの駆動を制限する基準を緩める)ようにしているため、特に牽引部材Lを繰り出している最中に例えばバッテリ切れ直前になってもその牽引部材Lの繰り出し作業を中断させることなく継続させて対象物の降下作業を完了させることもできる。これは、例えば、回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量が多いがために、巻き上げて対象物を回収すること(大負荷(大電流)の巻き取り駆動を強制的に行なうこと)が難しく、むしろ対象物を目標地点に降ろすことができる確率の方が高いバッテリ残量において、小負荷(小電流)の牽引部材Lの繰り出し作業をそのまま継続させることで、牽引部材Lによる対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避することができるため、有益である。
【0035】
また、本実施形態のバッテリ駆動式電動巻き上げ機1は、バッテリBの蓄電残量が閾値以下のときにその旨を警告して表示する警告表示部14を備えているため、作業者は、バッテリ切れを事前に把握できる。また、本実施形態のバッテリ駆動式電動巻き上げ機1では、回転体4及び電動モータ2を有する巻き上げ機本体Mと、駆動制御部10、モータ駆動方向検出部13、バッテリ残量検出部11、及び、繰り出し量検出部12を有する制御装置15と、バッテリBとが一体のユニットUを形成している。このようなユニット化は、小型軽量化を可能にし、携帯性にも優れる。
【0036】
図4には、駆動制御部10による制御ステップの第1の変形例が示されている。図示のように、この変形例では、
図3のステップS1がステップS11に置き換わっている。すなわち、駆動制御部10は、繰り出し量検出部12からの検出情報によって回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量が所定量以下であるか否かを判断する(ステップS11)。これにより、回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量が所定量以下である場合(ステップS11の判断がYESの場合)、駆動制御部10は閾値の値を下げる(ステップS2)。例えば、前述したように牽引部材Lの繰り出し量の複数の範囲にわたって起動可能電圧を段階的に下げる(例えば、繰り出し量が多くなるにつれて閾値の値を段階的に上げる)ようにしてもよい。なお、それ以降のステップS3〜S5は
図3の場合と同じである。
【0037】
このように、牽引部材Lの繰り出し量が所定量以下であるときに、閾値を下げることによって電動モータ2の駆動を制限する基準を緩めると、特に牽引部材Lを巻き取っている最中に例えばバッテリ切れ直前になってもその牽引部材Lの巻き取り作業を中断させることなく継続させて対象物の巻き上げ作業を完了させることもできる。これは、例えば、回転体4に対する牽引部材Lの巻き取り量が多く、巻き取り作業が間もなく完了する状態であるにもかかわらずバッテリ切れ直前となるようなバッテリ残量において、牽引部材Lのそれ以上の巻き取りを許容して対象物の巻き上げ作業を完了させることで、牽引部材Lによる対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避することができるため、有益である。
【0038】
図5には、駆動制御部10による制御ステップの第2の変形例が示されている。図示のように、この変形例では、
図3のステップS1がステップS21に置き換わっている。すなわち、駆動制御部10は、モータ駆動方向検出部13により検出される電動モータ2の回転駆動方向が牽引部材巻き取り方向であるか否かを判断する(ステップS21)。これにより、電動モータ2の回転駆動方向が牽引部材巻き取り方向である場合(ステップS21の判断がYESの場合)、駆動制御部10は、この巻き取り方向の閾値を、電動モータ2の回転駆動方向が牽引部材繰り出し方向であるときの閾値よりも小さく設定する(ステップS2;すなわち、例えば、巻き取り方向と繰り出し方向とで閾値設定テーブルを切り換える(繰り出し方向の閾値設定テーブル[例えば、牽引部材繰り出し量5m以下で起動可能電圧が11V;牽引部材繰り出し量5〜20mで起動可能電圧が10.5V;牽引部材繰り出し量20m以上で起動可能電圧が10V]と繰り出し方向よりも閾値の値が低く設定されている巻き取り方向の閾値設定テーブル[例えば、牽引部材繰り出し量5m以下で起動可能電圧が10V;牽引部材繰り出し量5〜20mで起動可能電圧が9.5V;牽引部材繰り出し量20m以上で起動可能電圧が9V]とを切り換える))。なお、それ以降のステップS3〜S5は
図3の場合と同じである。
【0039】
このように、牽引部材繰り出し時の閾値よりも牽引部材巻き取り時の閾値を小さくして、牽引部材巻き取り時の電動モータ駆動制限基準を牽引部材繰り出し時の電動モータ駆動制限基準よりも緩めるようにすれば、バッテリ残量が少ない場合に、牽引部材Lの巻き取りを繰り出しよりも優先させて対象物を巻き上げることができる。これは、特に回転体4に対する牽引部材Lの巻き取り量が多く、巻き取り作業が間もなく完了する状態であるにもかかわらずバッテリ切れ直前となるようなバッテリ残量において、牽引部材Lのそれ以上の巻き取りを許容して対象物の巻き上げ作業を完了させることで、牽引部材Lによる対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避することができるため、有益である。
【0040】
図6には、駆動制御部10による制御ステップの第3の変形例が示されている。図示のように、この変形例では、
図3のステップS1がステップS31に置き換わっている。すなわち、駆動制御部10は、モータ駆動方向検出部13により検出される電動モータ2の回転駆動方向が牽引部材繰り出し方向であるか否かを判断する(ステップS31)。これにより、電動モータ2の回転駆動方向が牽引部材繰り出し方向である場合(ステップS31の判断がYESの場合)、駆動制御部10は、この繰り出し方向の閾値を、電動モータ2の回転駆動方向が牽引部材巻き取り方向であるときの閾値よりも小さく設定する(ステップS2;すなわち、例えば、巻き取り方向と繰り出し方向とで閾値設定テーブルを切り換える(例えば、前述したように巻き取り方向の閾値設定テーブルと巻き取り方向よりも閾値の値が低く設定されている繰り出し方向の閾値設定テーブルとを切り換える))。なお、それ以降のステップS3〜S5は
図3の場合と同じである。
【0041】
このように、牽引部材巻き取り時の閾値よりも牽引部材繰り出し時の閾値を小さくして、牽引部材繰り出し時の電動モータ駆動制限基準を牽引部材巻き取り時の電動モータ駆動制限基準よりも緩めるようにすれば、バッテリ残量が少ない場合に、牽引部材Lの繰り出しを巻き取りよりも優先させて対象物を降下させることができる。これは、特に回転体4からの牽引部材Lの繰り出し量が多いがために、巻き上げて対象物を回収すること(大負荷(大電流)の巻き取り駆動を強制的に行なうこと)が難しく、むしろ対象物を目標地点に降ろすことができる確率の方が高いバッテリ残量において、小負荷(小電流)の牽引部材Lの繰り出し作業をそのまま継続させることで、牽引部材Lによる対象物の昇降途中で対象物の回収が困難となる状況の発生を回避することができるため、有益である。
【0042】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、前述した実施形態では、バッテリの蓄電残量が所定の閾値以下であるときに電動モータの駆動が制限されるが、本発明において、その制限形態は、電動モータの駆動禁止に限定されない。電動モータの回転駆動方向が一方向のみに制限されるなど、その制限形態は任意に設定できる。また、前述した実施形態では、モータ駆動方向検出部からの検出情報及び/又は繰り出し量検出部からの検出情報に基づいて閾値が変更されるが、閾値の変更形態も、段階的、連続的、単発的、複合的に変更されるなど、何ら限定されない。また、閾値を変更するための変更因子も、前述したようにモータ駆動方向検出部からの検出値及び/又は繰り出し量検出部からの検出値だけに限らず、他の情報、例えば牽引部材の張力などに基づいて閾値が変更されてもよい。また、前述した実施形態では、モータ駆動方向検出部及び繰り出し量検出部の両方が設けられているが、モータ駆動方向検出部又は繰り出し量検出部のいずれか一方のみが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 バッテリ駆動式電動巻き上げ機
2 電動モータ
4 回転体
10 駆動制御部
11 バッテリ残量検出部
12 繰り出し量検出部
13 モータ駆動方向検出部
14 警告表示部
15 制御装置
B バッテリ
L 牽引部材
M 巻き上げ機本体
U ユニット