【文献】
Carol Creutz and Mei H. Chou,Binding of Catechols to Mononuclear Titanium(IV) and to 1- and 5-nm TiO2 Nanoparticles,Inorganic Chemistry,2008年,Vol. 47,pp. 3509-3514
【文献】
Beatriz Ballesteros, Gema de la Torre, Tomas Torres, Gordon L. Hug, G. M. Aminur Rahman and Dirk M. Guldi,Synthesis and photophysical characterization of a titanium(IV) phthalocyanine-C60 supramolecular dyad,Tetrahedron,2006年,Vol. 62,pp. 2097-2101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、部分的に、置換カテコラート配位子を有する配位化合物を含有する組成物を対象とする。また本開示は、部分的に、置換カテコラート配位子を有する配位化合物を含有する電解液を対象とする。また本開示は、部分的に、置換カテコラート配位子を有する配位化合物を含有する電解液を含むフロー電池を対象とする。
【0016】
本開示は、全てが本開示の一部を成す添付図面及び実施例に関連付けて以下の記載を参照することによって、更に容易に理解することができる。本開示が、本明細書に記載及び/又は図示する具体的な製品、方法、条件、又はパラメータに限定されないことは理解されよう。更に、本明細書で用いる用語は一例としてのみ特定の実施形態を記載するためのものであり、特に指定のない限り限定を意図していないことは理解されよう。同様に、特に明記しない限り、組成物を対象とする本明細書における記載はその組成物の固体及び液体の双方を指すことを意図し、それらには、その組成物を含有する溶液及び電解質、並びにそのような溶液及び電解質を含有する電気化学セル、フロー電池、及び他のエネルギー貯蔵システムが含まれる。更に、本開示が電気化学セル、フロー電池、又は他のエネルギー貯蔵システムについて記載する場合、電気化学セル、フロー電池、又は他のエネルギー貯蔵システムを動作させるための方法についても暗示的に記載されると認められることは認識されよう。
【0017】
また、本開示のいくつかの特徴は、明確さのために本明細書では別個の実施形態の文脈で記載するが、相互に組み合わせて単一の実施形態で提供され得ることは認められよう。すなわち、明らかに両立できないか又は具体的に除外される場合を除いて、個々の実施形態は他のいずれかの実施形態(複数の実施形態)と両立可能であると考えられ、そのような組み合わせは別の実施形態であると見なされる。逆に、簡潔さのために単一の実施形態の文脈で記載する本開示の様々な特徴は、別個に又はいずれかのより小さい組み合わせ(sub-combination)により提供され得る。また、ある特定の実施形態を一連のステップの一部として又はより一般的な構造の一部として記載する場合があるが、各ステップ又はサブ構造はそれ自体が独立した実施形態であると見なすことも可能である。
【0018】
特に明記しない限り、リスト内の各要素及びそのリスト内の各要素の全ての組み合わせが別個の実施形態として解釈されることは理解されよう。例えば「A、B、又はC」と提示される実施形態のリストは、「A」、「B」、「C」、「AもしくはB」、「AもしくはC」、「BもしくはC」、又は「A、B、もしくはC」という実施形態を含むものとして解釈される。
【0019】
本開示において、文脈上明らかに他の意味を示す場合を除いて、単数形の冠詞「a(1つの)」、「an(1つの)」、及び「the(その)」は、対応する複数の言及も含み、特定の数値に対する言及は少なくともその特定の値を含む。このため、例えば「1つの材料」は、そのような材料及びその均等物の少なくとも1つに対する言及である。
【0020】
一般的に、「約」という用語の使用は、開示される主題が達成しようとする所望の特性に応じて変動し得る近似値を示し、機能に基づいて文脈に依存して解釈される。従って当業者は、ある程度の変動をケースバイケースで解釈することができる。場合によっては、特定の値を表す場合に用いられる有効桁数が、「約」という用語によって許容される変動の代表的な技法となり得る。他の場合には、一連の値での段階的な変化を用いて、「約」という用語によって許容される変動の範囲を決定することができる。更に、本開示における全ての範囲は包括的で組み合わせ可能であり、ある範囲内に示した値に対する言及はその範囲内の全ての値を含む。
【0021】
上述のように、大規模で高効率の動作が可能なエネルギー貯蔵システムが非常に望ましいことがある。電気化学エネルギー貯蔵システム、特にフロー電池は、この点で大きな関心を生んでいるが、その動作特性には改善の余地が大きい。後述するように、フロー電池の正及び/又は負の電解液内の活性材料を変更して、改善された動作特性をこれらの電気化学エネルギー貯蔵システムに与えることができる。この点に関して金属リガンド配位化合物(metal-ligand coordination compound)が特に有益である可能性があり、特に望ましい配位化合物の様々なクラスについて後述する。また、そのような配位化合物の1つ以上を含有する電解液を組み込むことができる例示的なフロー電池、並びにそれらの使用及び動作特性についても、以下に例として記載する。
【0022】
本明細書にて、「活性材料(active material)」、「電気活性材料(electroactive material)」、「レドックス活性材料(redox-active material)」という用語、又はそれらの別の形(variant)の用語は、電気化学エネルギー貯蔵システムの動作中に酸化状態が変化する材料を指す。そのような材料は、電気化学エネルギー貯蔵システムで用いられる場合、水性電解質に溶解した形態で存在し得るが、懸濁液又はスラリ内でも使用できる。本明細書にて、「溶液(solution)」という用語は、少なくとも部分的に溶解している状態を指す。多くの場合、電気化学エネルギー貯蔵システムの貯蔵容量(エネルギー密度)は存在している活性材料の量に依存するので、高溶解度の電解液が望ましいことがある。動作の観点からは、循環する粒子の堆積を避けるため、フロー電池では自由に溶解できる活性材料が極めて望ましい場合がある。
【0023】
フロー電池の様々な実施形態では、酸化状態が可変であるために遷移金属が正及び/又は負の活性材料を構成することができる。達成できる複数の酸化状態を循環させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。この点に関して、ランタニド元素も同様に用いることができる。
【0024】
遷移金属又はランタニドの配位化合物は、フロー電池の電解液内の活性材料として使用される場合、特に有利であり得る。本明細書にて、「配位化合物(coordination compound)」という用語は、1つ以上の配位子によって、特に少なくとも1つのキレート配位子によって錯体を形成する金属イオンを指す。本明細書にて、「キレート配位子(chelating ligand)」という用語は、2か所以上のロケーションで同時に金属イオンに結合する配位子を指す。この配位子の化学的性質は、連結された(ligate)金属イオンの酸化還元電位を変化させることができ、その結果、配位化合物を含有する電解液を組み込んだフロー電池の動作特性をある程度調整することが可能となる。また、配位化合物では、連結されない(non-ligated)金属イオンに比べ、溶解度プロファイルが変化している可能性がある。電解液のpH及び配位子の性質に応じて、電解液内の配位化合物の溶解度は、これに対応する連結されない金属イオンの溶解度よりも高く又は低くなり得る。
【0025】
カテコラート配位子は、フロー電池の電解液内に組み込まれる配位化合物を形成するため特に望ましい要素(entity)であり得る。しかしながら、非置換カテコラート配位子は比較的疎水性であり、非置換カテコラート配位子から形成される配位化合物は水性電解液において比較的低い飽和濃度を有し得る。非置換カテコラート複合体の低い飽和濃度の結果として、フロー電池が低いエネルギー密度を有する可能性がある。
【0026】
本発明者は、フロー電池で用いられる電解液、特に水性電解液において高い飽和溶解度レベルを与えることができる様々な置換カテコラート及びそれらの配位化合物を特定した。本明細書にて、「置換カテコラート(substituted catecholate)」という用語は、少なくとも1つの芳香環位置がヘテロ原子官能基で置換されたカテコール化合物(例えば1,2−ジヒドロキシベンゼン)を指す。本明細書にて、「ヘテロ原子官能基(heteroatom functional group)」という用語は、O又はNを含有する任意の原子グループを指す。置換カテコラート配位子のヘテロ原子官能基(複数のヘテロ原子官能基)は、非置換カテコラートを含有する配位化合物に比べ、配位子を含有する配位化合物の溶解度及び/又は溶解度のpH依存性を改善することができる。本明細書にて、「非置換カテコラート(unsubstituted catecholate)」又は単に「カテコラート(catecholate)」という用語を用いる場合、開環した芳香環位置のいずれもそれ以上置換されていないカテコール化合物を指す。適切な置換カテコラート及びそれらの配位化合物についての更なる説明は以下で行う。
【0027】
従って、本開示の置換カテコラート及びそれらの配位化合物は、フロー電池で用いられる高濃度電解液を望ましく提供することができる。高濃度電解液は、連結されない遷移金属イオン、又は非置換カテコラート配位子もしくは他の低溶解度配位子のみを含有する配位化合物を用いて達成できるものに比べ、フロー電池のエネルギー密度及び他の動作特性を改善することができる。
【0028】
有利な点として、本開示の置換カテコラート配位子は、比較的単純な一連の有機反応によって合成的に生成することができる。以下の
図2に、本開示の置換カテコラート配位子のいくつかの生成に使用できる例示的な有機反応を示す。当業者は、代替的な合成経路、又は以下の
図2に示すもの以外の任意の置換カテコラート配位子を生成するための合成経路を容易に決定することができる。
【0029】
従って、置換カテコラート配位子の配位化合物を含有する組成物、及びそのような配位化合物を含有する電解液について、本明細書で説明する。また、本開示の様々な実施形態では、置換カテコラート配位子及びそれらの配位化合物を含有する電解液を組み込んだフロー電池も想定される。
【0030】
様々な実施形態において、置換カテコラート配位子を有する配位化合物を含有する組成物について本明細書で説明する。置換カテコラート配位子は、中性又は塩の形態で以下の構造を有することができる。
【0032】
Zは、A
1R
A1、A
2R
A2、A
3R
A3、及びCHOから成る群から選択されるヘテロ原子官能基である。変数nは1から4までの範囲の整数であり、1以上のZが開環した芳香環位置で置換カテコラート配位子に結合するようになっている。2以上のZが存在する場合、各Zは同一であるか又は異なる。A
1は、−(CH
2)
a−、又は−(CHOR)(CH
2)
a−であり、R
A1は、−OR
1、又は−(OCH
2CH
2O)
bR
1であり、aは0から約6までの範囲の整数であるが、aが0でありR
A1が−OR
1である場合、R
1はHでないという条件があり、bは1から約10までの範囲の整数である。A
2は、−(CH
2)
c−、又は−CH(OR
2)(CH
2)
d−であり、R
A2は、−NR
3R
4、炭素結合アミノ酸、又は−C(=O)XR
5であり、Xは、−O−、又は−NR
6−であり、cは0から約6までの範囲の整数であり、dは0から約4までの範囲の整数である。A
3は、−O−、又は−NR
2−であり、R
A3は、−(CHR
7)
eOR
1、−(CHR
7)
eNR
3R
4、−(CHR
7)
eC(=O)XR
5、又は−C(=O)(CHR
7)
fR
8であり、eは1から約6までの範囲の整数であるが、A
3が−O−である場合、eは1でないという条件があり、fは0から約6までの範囲の整数である。Rは、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、又はC
1−C
6カルボキシアルキルである。R
1は、H、メチル、エチル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、又はC
1−C
6カルボキシアルキルである。R
2、R
3、R
4、及びR
6は、H、C
1−C
6アルキル、又はヘテロ原子置換C
1−C
6アルキルから成る群から別個に選択される。R
5は、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、エステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、又は−(CH
2CH
2O)
bR
1である。R
7はH又はOHである。R
8は、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したヒドロキシ酸、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したポリグリコール酸、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、炭素結合アミノ酸、又は−(OCH
2CH
2O)
bR
1である。
【0033】
「塩の形態(salt form)」という用語に関して、この用語は、プロトン化又は脱プロトンされ得るZの任意の官能基を指すものとして理解されるべきである。同様に、「中性の形態(neutral form)」という用語は、非荷電のZに関連して理解されるべきである。
【0034】
更に、本開示の置換カテコラート配位子の1,2−ジヒドロキシル官能基は、配位化合物において金属イオンに連結された場合に脱プロトンされることは理解されよう。本開示全体を通して、便宜上、置換カテコラート配位子のプロトン化「遊離配位子(free ligand)」の形態を示す。
【0035】
本開示の置換カテコラート配位子は、芳香環の開環位置を置換する1、2、3、又は4のZヘテロ原子官能基を有し得る。2つ以上のZが存在する場合、各Zヘテロ原子官能基は同一又は異なるものであり得る。より具体的な実施形態では、置換カテコラート配位子は、1、2、又は3のZヘテロ原子官能基を有することができ、その構造は以下に示すものの1つである。
【0037】
更に具体的な実施形態では、置換カテコラート配位子は1つのZ官能基を有することができ、その構造は以下に示すものの1つである。
【0039】
更に具体的な実施形態では、置換カテコラート配位子は、以下の化学式を有することができる。
【0041】
上述のように、Zは、置換カテコラート配位子及びそれらの配位化合物の溶解度を向上させることができる様々なヘテロ原子官能基を含み得る。そのようなヘテロ原子官能基を組み込んだ置換カテコラート配位子の様々なクラスの説明のための例は以下の通りである。
【0042】
いくつかの実施形態において、ZはA
1R
A1とすることができ、ここでA
1は、−(CH
2)
a−、又は−(CHOR)(CH
2)
a−であり、R
A1は、−OR
1、又は−(OCH
2CH
2O)
bR
1であり、aは0から約6までの範囲の整数であり、bは1から約10までの範囲の整数である。A
1が−(CH
2)
aであり、aが0である場合、R
A1は置換カテコラートの芳香環に直接結合されることは理解されよう。同様に、A
1が−(CHOR)(CH
2)
a−であり、aが0である場合、R
A1は、−(CHOR)基を介在させて間接的に芳香環に結合されることは理解されよう。本開示のいくつかの実施形態では、aは0であり得る。本開示の他の様々な実施形態では、aは1から6、又は1から4、又は0から4、又は1から3までの範囲であり得る。
【0043】
本開示の置換カテコラート配位子において、Rは、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、又はC
1−C
6カルボキシアルキルである。R
1は、H、メチル、エチル、C
3−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
3−C
6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、又はC
1−C
6カルボキシアルキルである。すなわち、R
A1の少なくとも一部は、R
A1の残部に、A
1に、又は置換カテコラート配位子の芳香環に、エーテル結合又はエステル結合により結合したポリオール構造によって、規定することができる。例示的なポリオール及びそれらの様々な結合モードについては、以下で更に検討する。本開示の様々な実施形態のいずれかに存在し得る例示的なC
1−C
6アルキル基は、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、2,2−ジメチルブチル、ヘキシル、イソヘキシル等を含み得る。本明細書にて、「ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル(heteroatom-substituted C
1-C
6 alkyl)」という用語は、その水素原子の1つ以上が酸素含有又は窒素含有官能基に置き換えられた直鎖又は分岐鎖アルキル基を指す。また、本明細書にて、「ヘテロ原子置換C
1−C
6(heteroatom-substituted C
1-C
6)」は、その骨格炭素原子及び付随する水素原子の1つが酸素含有又は窒素含有官能基に置き換えられた直鎖又は分岐鎖アルキル基を指す。
【0044】
A
1R
A1に関して、以下の条件がある。すなわち、aが0であり、R
A1が−OR
1である場合、R
1はHでない。
【0045】
本明細書にて、「ポリオール(polyol)」という用語は、2以上のアルコール官能基を有する任意の化合物を指す。任意選択的に、ポリオール内にアミン及びカルボキシル酸のような追加のヘテロ原子官能基が存在することもある。このため、未変性グリコール(unmodified glycol)及び多官能基ポリオールのアミノアルコール及びヒドロキシ酸類似体も、「ポリオール」という用語によって包含される。本明細書にて、「多官能基ポリオール(higher polyol)」という用語は、3以上のアルコール官能基を有するポリオールを指す。R
A1内に存在し得る例示的なポリオールは、グリコールを含むC
2−C
6ポリオール、多官能基ポリオール、及び単糖を含む。「ポリオール」という用語と同様、「単糖」という用語は、ベースの単糖及びこのベースの単糖の対応する糖アルコール、糖酸、及びデオキシ糖の双方を含み、これらの材料の開鎖又は閉鎖形態を含むものとして理解される。
【0046】
本開示の様々な実施形態において存在し得る例示的なポリオールは、例えば、1,2−エタンジオール(エチレングリコール)、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール(galacitol)、フシトール、イジトール、イノシトール、グリコールアルデヒド、グリセルアルデヒド、1,3−ジヒドロキシアセトン、エリトロース、トレオース、エリトルロース、アラビノース、リボース、リキソース、キシロース、リブロース、キシルロース、アロース、アルトローズ、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、デオキシリボース、ラムノース、フコース、グリセリン酸、キシロン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、イズロン酸、酒石酸(tartartic acid)、ガラクタル酸、及びグルカル酸を含む。また、これらの化合物の任意のエナンチオ異性体及び/又はジアステレオマー形態、更に、形成される場合はそれらの開環又は閉環の形態も、本開示の「ポリオール」という用語に包含される。
【0047】
A
1R
A1に関する更に具体的な実施形態は、例えば、aが0又は1であり、A
1が−(CH
2)
a−であり、R
A1が−OR
1であり、上記の条件があるもの、更に、aが0又は1であり、A
1が−(CH
2)
a−であり、R
A1が−(OCH
2CH
2O)
bR
1であるものを含むことができる。
【0048】
A
1R
A1に関する更に具体的な実施形態において、適切な置換カテコラート配位子は以下を含むことができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、ZはA
2R
A2であり、この場合、A
2は、−(CH
2)
c−、又は−(CH
2OR
2)(CH
2)
d−であり、R
A2は、−NR
3R
4、炭素結合アミノ酸、又は−C(=O)XR
5であり、Xは、−O−、又は−NR
6−であり、cは0から約6までの範囲の整数であり、dは0から約4までの範囲の整数である。R
2、R
3、R
4、及びR
6は、H、C
1−C
6アルキル、又はヘテロ原子置換C
1−C
6アルキルから成る群から個別に選択される。同様に、R
5は、H、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、エステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、又は−(CH
2CH
2O)
bR
1であり、ここでR
1は上記のように規定される。いくつかの実施形態では、cは0から4、又は1から5、又は1から4、又は1から3の範囲とすることができる。いくつかの実施形態では、dは0から3、又は0から2、又は1から3の範囲とすることができる。
【0051】
炭素結合アミノ酸に関して、様々な実施形態では、アミノ酸はそれらのα炭素(すなわちカルボキシル酸及びアミノ官能基に隣接している)によって炭素結合することができる。本明細書にて、「アミノ酸(amino acid)」という用語は、任意選択的に保護された形態で、少なくとも1つのアミン基及び1つのカルボキシル酸基を含有する任意の原子団を指す。更に具体的な実施形態では、「アミノ酸」という用語は、そのオリゴマーを含めて、D形態又はL形態の天然に存在するアミノ酸を指す。存在し得る例示的な天然に存在するアミノ酸は、例えばアルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、イソロイシン(isolucine)、ルイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン、並びにそれらの合成誘導体を含む。これらのアミノ酸及び他のものは、以下で更に検討するように、エステル結合又はアミド結合した形態で存在し得る。
【0052】
A
2R
A2に関する更に具体的な実施形態が含み得るものは、例えば、A
2が−(CH
2)
c−であり、cが1から6まで、又は1から3までの範囲の整数であり、R
A2が−NR
3R
4であり、R
3及びR
4がH又はCH
3であるもの、A
2が−(CH
2)
c−であり、cが0であり、R
A2が−NR
3R
4であり、R
3及びR
4がH又はCH
3であるもの、A
2が−(CH
2)
c−であり、cが0であり、R
A2が−C(=O)XR
5であり、XがOであり、R
5が、エステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合により結合したアミノアルコール、又はエステル結合により結合したアミノ酸であるもの、A
2が−CH(OR
2)(CH
2)
d−であり、R
2がHであり、dが1から4までの範囲の整数であり、R
A2が−NR
3R
4であり、R
3及びR
4がH又はCH
3であるもの、A
2が−CH(OR
2)(CH
2)
d−であり、R
2がHであり、dが1から4までの範囲の整数であり、R
A2が−C(=O)XR
5であり、XがOであり、R
5が、エステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合により結合したアミノアルコール、又はエステル結合により結合したアミノ酸であるもの、である。
【0053】
A
2R
A2に関する更に具体的な実施形態において、適切な置換カテコラート配位子は以下を含むことができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、ZはA
3R
A3であり、この場合、A
3は、−O−、又は−NR
2−であり、R
A3は、−(CHR
7)
eOR
1、−(CHR
7)
eNR
3R
4、−(CHR
7)
eC(=O)XR
5、又は−(C=O)(CHR
7)
eR
8であり、eは1から約6までの範囲の整数であり、fは0から約6までの範囲の整数であり、R
7はH又はOHであり、R
8は、h、C
1−C
6アルキル、ヘテロ原子置換C
1−C
6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC
2−C
6ポリオール、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したヒドロキシ酸、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したポリグリコール酸、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、炭素結合アミノ酸、又は−(OCH
2CH
2O)
bR
1である。本開示の他の様々な実施形態では、eは2から6、又は1から4、又は1から3の範囲とすることができる。本開示の他の様々な実施形態では、fは1から6、又は1から4、又は0から4、又は1から3の範囲とすることができる。
【0056】
A
3R
A3に関して、以下の条件がある。すなわち、A
3が−O−である場合、eは1でない。
【0057】
A
3R
A3に関する更に具体的な実施形態が含み得るものは、例えば、A
3が−O−であり、R
A3が−(CHR
7)
eOR
1であり、eが2から6までの範囲の整数であるもの、A
3が−O−であり、R
A3が−(CHR
7)
eNR
3R
4であり、eが1から6までの範囲の整数であるもの、A
3が−O−であり、R
A3が−(CHR
7)
eC(=O)OR
5であり、eが2から6までの範囲の整数であるもの、A
3が−O−であり、R
A3が−C(=O)(CHR
7)
fR
8であり、fが0から6又は1から6までの範囲の整数であるものである。
【0058】
A
3R
A3に関する更に具体的な実施形態において、適切な置換カテコラート配位子は以下を含むことができる。
【0060】
本開示の他の様々な実施形態において、本開示の置換カテコラート配位子は、以下の例示的な構造に示すように、CHOである1以上のZを有することができる。
【0062】
本開示の他の更に具体的な実施形態において、置換カテコラート配位子は、以下から選択される構造を有することができる。
【0064】
本開示の他の更に具体的な実施形態において、置換カテコラート配位子は、以下から選択される構造を有することができる。
【0066】
本開示の他の様々な実施形態において、置換カテコラート配位子は、以下の構造を有する3,4−ジヒドロキシマンデル酸とすることができる。
【0068】
様々な実施形態において、本開示の組成物は、上記で規定した置換カテコラート配位子から選択される少なくとも1つの置換カテコラート配位子を有する配位化合物を含むことができる。更に具体的な実施形態において、配位化合物は以下の式を有することができる。
D
gM(L
1)(L
2)(L
3)
ここで、Mは遷移金属であり、DはNH
4+又はテトラアルキルアンモニウム(C
1−C
4アルキル)、Na
+、K
+、又はそれらの任意の組み合わせであり、gは1から6までの範囲の整数であり、L
1、L
2、及びL
3は配位子であり、L
1、L
2、及びL
3の少なくとも1つは本明細書にて規定したような置換カテコラート配位子である。
【0069】
いくつかの実施形態において、L
1、L
2、及びL
3の少なくとも2つは、本明細書にて規定したような置換カテコラート配位子である。他の様々な実施形態では、L
1、L
2、及びL
3の各々は本明細書にて規定したような置換カテコラート配位子である。多数の置換カテコラート配位子が存在する場合、置換カテコラート配位子は同一又は異なるものであり得る。
【0070】
いくつかの実施形態において、置換カテコラート配位子は、非置換カテコラート配位子と一緒に存在し得る。いくつかの実施形態において、L
1、L
2、及びL
3の少なくとも2つを置換カテコラート配位子とすることができ、L
1、L
2、及びL
3の1つ以上を非置換カテコラート配位子とすることができる。すなわち、より具体的な実施形態では、L
1及びL
2を置換カテコラート配位子とし、L
3を非置換カテコラート配位子とすることができる。いくつかの実施形態では、L
1、L
2、及びL
3の1つを置換カテコラート配位子とし、L
1、L
2、及びL
3の2つを非置換カテコラート配位子とすることができる。すなわち、L
1を置換カテコラート配位子とし、L
2及びL
3を非置換カテコラート配位子とすることができる。
【0071】
更に他の様々な実施形態では、L
1、L
2、及びL
3の少なくとも1つを置換カテコラート配位子とし、置換カテコラート配位子でないL
1、L
2、及びL
3の任意のものは、非置換カテコラート、アスコルビン酸塩、クエン酸塩、グリコール酸塩、ポリオール、グルコン酸塩、ヒドロキシ酪酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フタル酸塩、サルコシン酸塩、サリチル酸塩、シュウ酸塩、尿素、ポリアミン、アミノフェノラート、アセチルアセトネート、及び乳酸塩から選択することができる。更に別の様々な実施形態では、L
1、L
2、及びL
3の少なくとも2つを置換カテコラート配位子とし、置換カテコラート配位子でないL
1、L
2、及びL
3のいずれも、非置換カテコラート、アスコルビン酸塩、クエン酸塩、グリコール酸塩、ポリオール、グルコン酸塩、ヒドロキシ酪酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フタル酸塩、サルコシン酸塩、サリチル酸塩、シュウ酸塩、尿素、ポリアミン、アミノフェノラート、アセチルアセトネート、及び乳酸塩から選択することができる。化学的に実現可能である場合、前記のリストに規定した配位子は、C
1−6アルコキシ、C
1−6アルキル、C
1−6アルケニル、C
1−6アルキニル、5もしくは6員環のアリール基もしくはヘテロアリール基、ボロン酸もしくはその誘導体、カルボキシル酸もしくはその誘導体、シアノ、ハロゲン化物、ヒドロキシル、ニトロ、スルホン酸塩、スルホン酸もしくはその誘導体、ホスホン酸塩、ホスホン酸もしくはその誘導体、又はポリエチレングリコール等のグリコールから選択される少なくとも1つの基によって任意選択的に置換可能であることは認められよう。アルカノアートは、これらの配位子のアルファ、ベータ、及びガンマ形態のいずれかを含む。ポリアミンは、限定ではないが、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及びジエチレントリアミン五酢酸(DPTA)を含む。
【0072】
本開示の配位化合物において任意選択的に存在し得る単座配位子の他の例は、例えばハロゲン化物、シアン化物、カルボニル又は一酸化炭素、窒化物、オキソ、ヒドロキソ、水、硫化物、チオール、ピリジン、ピラジン等を含む。本開示の配位化合物において任意選択的に存在し得る二座配位子の他の例は、例えばビピリジン、ビピラジン、エチレンジアミン、ジオール(エチレングリコールを含む)等を含む。本開示の配位化合物において任意選択的に存在し得る三座配位子の他の例は、例えばテルピリジン、ジエチレントリアミン、トリアザシクロノナン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等を含む。他の許容可能な配位子は、キノン、ヒドロキノン、ビオロゲン、アクリジニウム、多環芳香族炭化水素、及びそれらの組み合わせを含み得る。
【0073】
一般に、本明細書に記載する配位化合物には任意の遷移金属が存在し得る。いくつかの実施形態において、遷移金属は、Al、Cr、Ti、及びFeから選択することができる。本開示の目的のため、Alは遷移金属であると見なされる。更に具体的な実施形態において、遷移金属はTiとすることができる。他の適切な遷移金属及び主族金属は、例えばCa、Co、Cu、Mg、Mn、Mo、Ni、Pd、Pt、Ru、Sn、Zn、Zr、V、及びそれらの任意の組み合わせを含むことができる。様々な実施形態において、遷移金属がその酸化及び還元形態の双方である場合、配位化合物は非ゼロ酸化状態の遷移金属を含むことができる。
【0074】
他の様々な実施形態では、本明細書における電解液について説明する。電解液は、上記で規定したような少なくとも1つの置換カテコラート配位子を含有する配位化合物である活性材料を含むことができる。すなわち、本開示の電解液は、上記で説明した様々な組成物を活性材料として含み得る。
【0075】
更に別の様々な実施形態では、本明細書におけるフロー電池について説明する。フロー電池は、上記で規定したような少なくとも1つの置換カテコラート配位子を含有する配位化合物である活性材料を含む電解液を組み込むことができる。すなわち、本開示のフロー電池は、上記で説明した様々な組成物を活性材料として含有する電解液を含むことができる。ここに開示する電解液を利用した場合の例示的なフロー電池及びそれらの動作特性に関して、例示的な開示を以下に提示する。
【0076】
更に具体的な実施形態では、本開示の電解液は水溶液とすることができる。本明細書にて、「水溶液(aqueous solution)」又は「水性電解質(aqueous electrolyte)」という用語は、水が主成分である任意の溶液を指し、少量の成分として水混和性の有機溶剤を含有する溶液を含む。存在し得る例示的な水混和性の有機溶剤は、例えば、任意選択的に1つ以上の表面活性剤の存在下のアルコール及びグリコールを含む。更に具体的な実施形態では、水溶液は少なくとも約98重量パーセントの水を含有することができる。他の更に具体的な実施形態では、水溶液は、少なくとも約55重量パーセントの水、又は少なくとも約60重量パーセントの水、少なくとも約65重量パーセントの水、少なくとも約70重量パーセントの水、少なくとも約75重量パーセントの水、少なくとも約80重量パーセントの水、少なくとも約85重量パーセントの水、少なくとも約90重量パーセントの水、又は少なくとも約95重量パーセントの水を含有し得る。いくつかの実施形態では、水溶液は水混和性の有機溶剤を含まず、溶剤としての水のみから成ることができる。
【0077】
上述の溶剤及び配位化合物活性材料に加えて、本開示の電解液は1つ以上の可動イオンを含むことができる。いくつかの実施形態では、可動イオンはプロトン、ヒドロニウム、又は水酸化物を含み得る。本開示の他の様々な実施形態では、プロトン、ヒドロニウム、又は水酸化物以外のイオンを、単独で又はプロトン、ヒドロニウム、又は水酸化物と一緒に輸送することができる。そのような追加の可動イオンは、例えばアルカリ金属又はアルカリ土類金属カチオン(例えばLi
+、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、及びSr
2+)、及びハロゲン化物(例えばF
−、Cl
−、又はBr
−)を含むことができる。他の可動イオンは、例えばアンモニア及びテトラアルキルアンモニウムイオン、カルコゲニド、リン酸塩、リン酸水素、ホスホン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、過塩素酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、及びそれらの任意の組み合わせを含むことができる。いくつかの実施形態では、可動イオンの約50%未満が、プロトン、ヒドロニウム、又は水酸化物を構成することができる。他の様々な実施形態では、可動イオンの約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満、又は約2%未満が、プロトン、ヒドロニウム、又は水酸化物を構成することができる。
【0078】
別の実施形態において、本明細書に記載する電解液は、限定ではないが、緩衝剤、支持電解質、粘度調整剤、湿潤剤、又はそれらの任意の組み合わせのような1つ以上の追加の添加剤を含み得る。例示的な緩衝剤は、限定ではないが、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(hepes)、ピペラジン−N,N’−ビス(エタンスルホン酸)(pipes)、又はそれらの任意の組み合わせを含むことができる。適切な緩衝剤及び他の追加の添加剤の他の例は、当業者にはよく知られている。
【0079】
本開示の電解液は、約1から約4までの範囲内の任意のpHを示し得る。更に具体的な実施形態では、本開示の電解液は、上述の配位化合物を含有することができると共に、約1から約13、又は約2から約12、又は約4から約10、又は約6から約8、又は約1から約7、又は約7から約13、又は約8から約13、又は約9から約14、又は約10から約13、又は約9から約12の範囲のpHを有することができる。電解液に適したpH範囲は、所与のpHにおける配位化合物及び/又は配位子の安定性及び溶解度に基づいて選択することができ、そのような検討事項は当業者によって決定すればよい。
【0080】
いくつかの実施形態において、本開示の電解液は、少なくとも約0.5Mの配位化合物の濃度、更に具体的には0.5Mから約3Mまでの範囲の濃度を有し得る。更に具体的な実施形態において、本開示の水性電解液は、水溶液中の配位化合物の濃度を0.5Mから約3Mの範囲とすることができる。他の様々な実施形態では、電解液中の配位化合物の濃度は、特に水性電解液において、最大で約0.5M、又は最大で約1M、又は最大で約1.5M、又は最大で約2M、又は最大で約2.5M、又は最大で約3Mとすることができる。更に具体的な実施形態において、電解液中の配位化合物の濃度は、約0.5Mから約3M、又は約1Mから約3M、又は約1.5Mから約3M、又は1Mから約2.5Mの範囲とすることができる。他の更に具体的な実施形態では、配位化合物の濃度は、水性電解液において約1Mから約1.8Mの範囲とすることができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、本開示の電解液は、フロー電池内で高い開回路電圧を与えることができる。例えば、電解液が置換カテコラート配位子のチタン配位化合物を含有する場合、開回路電圧は少なくとも約0.8V、又は少なくとも約0.9V、又は少なくとも約1.0V、又は少なくとも約1.1V、又は少なくとも約1.2V、又は少なくとも約1.3V、又は少なくとも約1.4V、又は少なくとも約1.5V、又は少なくとも約1.6V、又は少なくとも約1.7V、又は少なくとも約1.8V、又は少なくとも約1.9V、又は少なくとも約2.0Vとすることができる。これらの開回路電圧は、電解液を組み込んだフロー電池において実現することができる。
【0082】
これより、前述の配位化合物及び電解液を組み込むことができる例示的なフロー電池について更に詳しく説明する。本開示のフロー電池は、いくつかの実施形態において、数時間の持続的な充電又は放電サイクルに適している。従って、それらを用いて、エネルギー供給/需要プロファイルを平滑化すること、並びに(例えば太陽エネルギー及び風力エネルギー等の再生可能エネルギー源からの)間欠的な発電資産を安定化させるための機構を提供することができる。このため、本開示の様々な実施形態は、そのような長い充電又は放電時間が望ましいエネルギー貯蔵用途を含むことは認められよう。例えば、非限定的な例において、本開示のフロー電池を配電網に接続して、再生可能エネルギー統合(renewables integration)、ピーク負荷シフト、配電網の安定化(grid firming)、ベースロード発電及び消費、エネルギー裁定取引、伝送及び配電資産繰り延べ、弱い配電網のサポート、周波数調整、又はそれらの任意の組み合わせを可能とする。配電網に接続されない場合、本開示のフロー電池は、例えば遠隔キャンプ、前進作戦基地、オフグリッド電気通信、遠隔センサ等、及びそれらの任意の組み合わせのための電力源として使用可能である。
【0083】
更に、本明細書による開示は、概してフロー電池を対象とするが、他の電気化学エネルギー貯蔵媒体も、本明細書に記載される電解液、特に静止(stationary)電解液を利用するものを組み込み得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、本開示のフロー電池は、第1の水性電解質に接触している負極を収容する第1のチャンバと、第2の水性電解質に接触している正極を収容する第2のチャンバと、第1及び第2の電解質間に配置されたセパレータと、を含むことができる。電解質チャンバはセル内で個別の貯蔵槽を与え、第1及び/又は第2の電解質は、それぞれの電極及びセパレータに接触するように電解質チャンバを循環する。各チャンバ及びそれに関連付けられた電極及び電解質は、対応する半電池を画定する。セパレータは以下を含むいくつかの機能を提供する。例えば、(1)第1及び第2の電解質の混合に対するバリアとして作用する。(2)正極と負極との短絡を低減又は防止するように電子的に絶縁する。(3)正及び負の電解質チャンバ間のイオン輸送を容易にし、これによって充電及び放電サイクル中の電子輸送を平衡させる。負極及び正極は、充電及び放電中に電気化学反応が起こり得る表面を与える。充電又は放電サイクル中、電解質は別個の貯蔵タンクから対応する電解質チャンバを介して輸送することができる。充電サイクルでは、セルに電力を印加することで、第2の電解質に含有される活性材料で1以上の電子酸化を生じさせると共に、第1の電解質内の活性材料で1以上の電子還元を生じさせることができる。同様に、放電サイクルでは、第2の電解質が還元されると共に第1の電解質が酸化されて電力を生成する。
【0085】
更に具体的な実施形態において、本開示の例示的なフロー電池は、(a)第1の配位化合物を含有する第1の水性電解質と、(b)第2の配位化合物を含有する第2の水性電解質と、(c)前記第1及び第2の水性電解質間に位置決めされたセパレータと、(d)第1及び第2の水性電解質内の可動イオンと、を含むことができる。以下で詳述するように、セパレータはアイオノマー膜であり、100ミクロン未満の厚さを有し、第1及び第2の配位化合物と同じ符号の正味の電荷を関連付けることができる。いくつかの実施形態において、第1及び第2の配位化合物の少なくとも一方は、上述のように置換カテコラート配位子を含むことができる。他の様々な実施形態において、第1及び第2の配位化合物の一方は、フェリシアン化物〔Fe(CN)
63−〕/フェロシアン化物〔Fe(CN)
64−〕のレドックス対を用いることができる。更に具体的な実施形態では、フェリシアン化物/フェロシアン化物レドックス対を第1の配位化合物として用い、第2の配位化合物は、置換カテコラート配位子を含有する配位化合物、特にこれらのタイプの配位子を含有するチタン配位化合物とすることができる。
【0086】
図1は例示的なフロー電池の概略を示す。活性材料及び他のコンポーネントが単一のアセンブリに収容される典型的な電池技術(例えばLi−イオン、Ni−金属水素化物、鉛酸等)とは異なり、フロー電池は、貯蔵タンクから電気化学スタックを介して(例えばポンピングによって)レドックス活性エネルギー貯蔵材料を輸送する。この設計特徴は、エネルギー貯蔵容量から電気エネルギー貯蔵システム電力を切り離すので、著しい設計の柔軟性とコストの最適化が可能となる。
【0087】
図1に示すように、フロー電池システム1は電気化学セルを含むことができ、これは、この電気化学セルの2つの電極10及び10’を隔てるセパレータ20(例えば膜)を特徴(feature)として含む。電極10及び10’は適宜、金属、炭素、グラファイト等の伝導性材料から形成される。タンク50は第1の活性材料30を収容し、これは酸化状態と還元状態との間で循環することができる。例えば第1の活性材料30は、置換カテコラート配位子を含有する配位化合物とすることができる。
【0088】
ポンプ60は、タンク50から電気化学セルへの第1の活性材料30の輸送に作用する。また、フロー電池は適宜、第2の活性材料40を収容する第2のタンク50’も含む。第2の活性材料40は、活性材料30と同一の材料とするか又は異なるものとすることができる。例えば第2の活性材料40は、上記のようにフェリシアン化物/フェロシアン化物であり得る。第2のポンプ60’は、第2の活性材料40の電気化学セルへの輸送に作用することができる。また、ポンプは、電気化学セルからタンク50及び50’へ活性材料を戻す輸送に作用させるようにも使用可能である(
図1には示していない)。例えばサイフォン等、流体輸送に作用する他の方法によって適宜、第1及び第2の活性材料30及び40を電気化学セル内へ及び電気化学セル外へ輸送することも可能である。また、
図1には電源又は負荷70も示されている。これは、電気化学セルの回路を完了させ、ユーザがセルの動作中に電気を収集又は貯蔵することを可能とする。
【0089】
図1に、フロー電池の特定の非限定的な実施形態を示す。従って、本開示の精神と一致するフロー電池は、
図1の構成とは様々な面で異なることがある。一例として、フロー電池システムは、固体、気体、及び/又は液体に溶解した気体である1つ以上の活性材料を含むことができる。活性材料は、大気に開放しているか又は単に大気への通気口を設けたタンク又は容器に貯蔵することができる。
【0090】
本明細書にて、「セパレータ(separator)」及び「膜(membrane)」という用語は、電気化学セルの正極と負極との間に配置されたイオン的に伝導性で電気的に絶縁性の材料のことである。セパレータは、いくつかの実施形態では多孔性膜、及び/又は他の様々な実施形態ではアイオノマー膜とすることができる。いくつかの実施形態において、セパレータはイオン的に伝導性のポリマーから形成可能である。
【0091】
ポリマー膜はアニオン又はカチオン伝導電解質とすることができる。「アイオノマー」と記載される場合、この用語は、電気的に中性の反復単位及びイオン化反復単位の双方を含むポリマー膜を指し、イオン化反復単位はポリマー骨格のペンダントであってこれに共有結合している。一般に、イオン化単位の部分は約1モルパーセントから約90モルパーセントまでの範囲とすることができる。例えばいくつかの実施形態では、イオン化単位の含有量は約15モルパーセント未満であり、他の実施形態では、イオン含有量はより多く、例えば約80モルパーセント超である。更に別の実施形態では、イオン含有量は、例えば約15から約80モルパーセントの範囲のように中間範囲によって規定される。アイオノマー内のイオン化反復単位は、スルホン酸塩、カルボキシル酸塩等のアニオン官能基を含むことができる。これらの官能基は、アルカリ又はアルカリ土類金属のような一価、二価、又はより高い原子価のカチオンによって電荷平衡させることができる。アイオノマーは、付着された又は埋め込まれた第4級アンモニウム、スルホニウム、ホスファゼニウム、及びグアニジンの残基又は塩を含有するポリマー組成物も含み得る。適切な例は、当業者にはよく知られている。
【0092】
いくつかの実施形態において、セパレータとして有用なポリマーは、高度にフッ素化された又はペルフルオロ化(perfluorinated)されたポリマー骨格を含むことができる。本開示において有用ないくつかのポリマーは、テトラフルオロエチレンのコポリマー及び1つ以上のフッ素化された、酸性−官能性コモノマーが含まれ得る。これらは、DuPont社からNAFION(商標)ペルフルオロポリマー電解質として市販されている。他の有用なペルフルオロポリマーには、テトラフルオロエチレン及びFSO
2−CF
2CF
2CF
2CF
2−O−CF=CF
2のコポリマー、FLEMION(商標)及びSELEMION(商標)が含まれ得る。
【0093】
更に、スルホン酸基(又はカチオン交換スルホン酸基)で改質した実質的な非フッ素化膜も使用可能である。このような膜は実質的に芳香族の骨格を有するものを含み、例えばポリスチレン、ポリフェニレン、ビフェニルスルホン(BPSH)、又はポリエーテルケトン及びポリエーテルスルホン等の熱可塑性物質を含むことができる。
【0094】
電池−セパレータ式の多孔性膜も、セパレータとして使用可能である。それらは固有のイオン伝達機能を持たないので、通常そのような膜は機能のために添加物を含浸させる。これらの膜は典型的に、ポリマー、無機充填剤、及び開放孔の組み合わせを含む。適切なポリマーは、例えば高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むことができる。適切な無機充填剤は、炭化ケイ素マトリックス材料、二酸化チタン、二酸化シリコン、リン化亜鉛、及びセリアを含むことができる。
【0095】
セパレータは、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリ(ビニルクロリド)、ビニルポリマー、及び置換ビニルポリマーから形成することも可能である。これらは単独で、又は前述のポリマーのいずれかと組み合わせて使用できる。
【0096】
多孔性セパレータは非伝導性の膜であり、電解質が充填された開放流路を介して2つの電極間での電荷輸送を可能とする。この透過性は、化学物質(例えば活性材料)がセパレータを介して一方の電極から他方の電極へ移動し、交差汚染及び/又はセルエネルギー効率の低下を引き起こす確率を上昇させる。この交差汚染の程度は、いくつかの特徴の中でも特に、孔のサイズ(有効径及び流路長)、孔の特性(疎水性/親水性)、電解質の性質、及び孔と電解質との間の濡れの程度によって決まり得る。
【0097】
多孔性セパレータの孔のサイズの分布は一般に、活性材料が2つの電解液間を横断することを実質的に防止するのに充分なものである。適切な多孔性膜は、約0.001nmから20マイクロメートル、より典型的には約0.001nmから100nmの平均孔サイズ分布を有し得る。多孔性膜の孔のサイズ分布は重要である場合がある。換言すると、多孔性膜は、極めて小さい直径(ほぼ1nm未満)の第1の複数の孔と、極めて大きい直径(ほぼ10マイクロメートル超)の第2の複数の孔と、を含むことができる。孔のサイズが大きいと、活性材料の横断量が増大する可能性がある。多孔性膜が活性材料の横断を実質的に防止する能力は、平均孔サイズと活性材料のサイズとの相対的な差によって決まり得る。例えば、活性材料が配位化合物において金属中心である場合、配位化合物の平均直径は多孔性膜の平均孔サイズよりも約50%大きい可能性がある。一方、多孔性膜が実質的に均一な孔サイズを有する場合、配位化合物の平均直径は多孔性膜の平均孔サイズよりも約20%大きい可能性がある。同様に、配位化合物が少なくとも1つの水分子と更に配位結合される場合、配位化合物の平均直径は大きくなる。少なくとも1つの水分子の配位化合物の直径は一般に流体力学直径である考えられる。そのような実施形態では、流体力学直径は一般に平均孔サイズより少なくとも約35%大きい。平均孔サイズが実質的に均一である場合、流体力学半径は平均孔サイズよりも約10%大きい可能性がある。
【0098】
いくつかの実施形態において、セパレータは安定性を高めるため補強材料も含むことができる。適切な補強材料は、ナイロン、コットン、ポリエステル、結晶シリカ、結晶チタニア、非晶質シリカ、非晶質チタニア、ゴム、アスベスト、木材、又はそれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0099】
本開示のフロー電池内のセパレータは、約500マイクロメートル未満、約300マイクロメートル未満、約250マイクロメートル未満、約200マイクロメートル未満、約100マイクロメートル未満、約75マイクロメートル未満、約50マイクロメートル未満、約30マイクロメートル未満、約25マイクロメートル未満、約20マイクロメートル未満、約15マイクロメートル未満、又は約10マイクロメートル未満の膜厚を有し得る。適切なセパレータは、セパレータが100マイクロメートルの厚さを有する場合に、フロー電池が約85%超の電流効率及び100Ma/cm
2の電流密度で動作可能であるものを含み得る。別の実施形態では、フロー電池は、セパレータが約50マイクロメートル未満の厚さを有する場合に99.5%超の電流効率で、セパレータが約25マイクロメートル未満の厚さを有する場合に99%超の電流効率で、セパレータが約10マイクロメートル未満の厚さを有する場合に98%超の電流効率で動作することができる。従って、適切なセパレータは、フロー電池が60%超の電圧効率及び100Ma/cm
2の電流密度で動作できるものを含む。別の実施形態では、適切なセパレータは、フロー電池が70%超、80%超、又は90%超の電圧効率で動作できるものを含み得る。
【0100】
セパレータを介した第1及び第2の活性材料の拡散率は、約1×10
−5モルcm
−2day
−1未満、約1×10
−6モルcm
−2day
−1未満、約1×10
−2モルcm
−2day
−1未満、約1×10
−9モルcm
−2day
−1未満、約1×10
−11モルcm
−2day
−1未満、約1×10
−13モルcm
−2day
−1未満、又は約1×10
−15モルcm
−2day
−1未満とすることができる。
【0101】
また、フロー電池は、第1及び第2の電極と電気的な通信状態にある外部の電気回路を含み得る。この回路は動作中にフロー電池を充電及び放電することができる。第1の活性材料、第2の活性材料、又はこれら双方の活性材料の正味のイオン電荷の符号に対する言及は、動作中のフロー電池の条件下でのレドックス活性材料の酸化形態及び還元形態の双方における正味のイオン電荷の符号に関係する。フロー電池の別の例示的な実施形態によって以下が提供される。すなわち、(a)第1の活性材料は、正味の正又は負の電荷が関連付けられ、システムの負の動作電位の範囲内の電位に対して酸化又は還元形態を与えることができ、これによって得られる第1の活性材料の酸化又は還元形態が第1の活性材料と同じ電荷符号(正又は負)を有し、アイオノマー膜も同じ符号の正味のイオン電荷を有するようになっている、(b)第2の活性材料は、正味の正又は負の電荷が関連付けられ、システムの正の動作電位の範囲内の電位に対して酸化又は還元形態を与えることができ、これによって得られる第2の活性材料の酸化又は還元形態が第2の活性材料と同じ電荷符号(正又は負の符号)を有し、アイオノマー膜も同じ符号の正味のイオン電荷を有するようになっている、又は(a)及び(b)の双方である。第1及び/又は第2の活性材料とアイオノマー膜の電荷の一致は、高い選択性を与えることができる。より具体的には、電荷の一致によって、第1又は第2の活性材料に起因すると考えられるアイオノマー膜を通過するイオンのモル流速(molar flux)を、約3%未満、約2%未満、約1%未満、約0.5%未満、約0.2%未満、又は約0.1%未満とすることができる。「イオンのモル流速(molar flux of ions)」という用語は、アイオノマー膜を通過して、外部の電気/電子の流れに関連した電荷を平衡化させるイオンの量を指す。すなわち、フロー電池は、アイオノマー膜によって活性材料を実質的に遮断しながら動作することができるか又は動作する。
【0102】
本開示の電解液を組み込んだフロー電池は、以下の動作特性の1つ以上を有することができる。すなわち、(a)フロー電池の動作中、第1又は第2の活性材料は、アイオノマー膜を通過するイオンのモル流速の約3%未満を含む。(b)往復電流効率は、約70%超、約80%超、又は約90%超である、(c)往復電流効率は約90%超である、(d)第1の活性材料、第2の活性材料、又は双方の活性材料の正味のイオン電荷の符号は、活性材料の酸化及び還元形態の双方において同じであり、アイオノマー膜の符号と一致する。(e)アイオノマー膜は、約100μm未満、約75μm未満、約50μm未満、又は約250μm未満の厚さを有する。(f)フロー電池は、約60%超の往復電圧効率で、約100mA/cm
2より大きい電流密度で動作することができる。(g)電解液のエネルギー密度は、約10Wh/L超、約20Wh/L超、又は約30Wh/L超である。
【0103】
場合によっては、ユーザが、単一の電池セルから利用可能であるよりも高い充電又は放電電圧を望むことがある。このような場合、各セルの電圧が累積的となるようにいくつかの電池セルを直列に接続する。これによってバイポーラスタックを形成する。導電性であるが無孔性の材料(例えばバイポーラプレート)を用いて、隣接する電池セルを接続してバイポーラスタックにすることで、隣接セル間で電子輸送を可能としながら流体又は気体の輸送を防ぐことができる。個々のセルの正極コンパートメント及び負極コンパートメントは、スタック内で共通の正及び負の流体マニホルドを介して流体接続することができる。このように、個々のセルを直列に積層して、DC用途又はAC用途への変換に適した電圧を得ることができる。
【0104】
追加の実施形態では、セル、セルスタック、又は電池を、より大型のエネルギー貯蔵システム内に組み込むことができる。この大型システムは、これらの大型ユニットの動作に有用なパイピング及び制御装置を適宜含んでいる。そのようなシステムに適したパイピング、制御装置、及び他の機器は当技術分野において既知であり、例えば、各チャンバの内外に電解液を移動させるために各チャンバと流体連通したパイピング及びポンプと、充電及び放電した電解質を保持するための貯蔵タンクと、を含み得る。また、本開示のセル、セルスタック、及び電池は、動作管理システムも含むことができる。動作管理システムは、コンピュータ又はマイクロプロセッサのような任意の適切なコントローラデバイスとすればよく、様々なバルブ、ポンプ、循環ループ等のいずれかの動作を設定する論理回路を含み得る。
【0105】
より具体的な実施形態において、フロー電池システムは、フロー電池(セル又はセルスタックを含む)と、電解質を収容及び輸送するための貯蔵タンク及びパイピングと、制御ハードウェア及びソフトウェア(安全システムを含み得る)と、電力調節ユニットと、を含むことができる。フロー電池セルスタックは、充電及び放電サイクルの変換を達成し、ピーク電流を決定する。貯蔵タンクは正及び負の活性材料を収容し、このタンクの体積がシステムに貯蔵されるエネルギー量を決定する。制御ソフトウェア、ハードウェア、及び任意選択的な安全システムは、フロー電池システムの安全で自律的かつ効率的な動作を保証するためのセンサ、緩和装置、及び他の電子/ハードウェア制御装置及び安全装置を適宜含む。電力調節ユニットは、エネルギー貯蔵システムの最前部で用いて、入力及び出力する電力をエネルギー貯蔵システム又はその用途のために最適な電圧及び電流に変換することができる。配電網に接続されたエネルギー貯蔵システムの例では、充電サイクルにおいて、電力調節ユニットは入力AC電気をセルスタックに適した電圧及び電流のDC電気に変換することができる。放電サイクルにおいて、スタックはDC電力を生成し、電力調節ユニットはこのDC電力を配電網の用途に適した電圧及び周波数のAC電力に変換する。
【0106】
上記で他に規定がないか又は当業者による他の理解がない限り、以下の段落における規定は本開示に適用可能である。
【0107】
本明細書にて、「エネルギー密度(energy density)」という用語は、活性材料において単位体積当たりに貯蔵できるエネルギー量を指す。エネルギー密度は、エネルギー貯蔵の理論上のエネルギー密度であり、下記式1によって計算することができる。
エネルギー密度=(26.8A−h/モル)×OCV×〔e
−〕 (1)
ここで、OCVは50%充電状態の開回路電位であり、(26.8A−h/モル)はファラデー定数であり、〔e
−〕は99%充電状態で活性材料に貯蔵される電子の濃度である。活性材料が主として、正及び負の双方の電解質について原子種又は分子種である場合、〔e
−〕は下記式2によって計算することができる。
〔e
−〕=〔活性材料〕×N/2 (2)
ここで、〔活性材料〕は、負又は正の電解質のうちどちらか低い方の活性材料のモル濃度であり、Nは、活性材料の1分子当たりに輸送される電子の数である。「電荷密度(charge density)」という関連用語は、それぞれの電解質が含む全電荷量を指す。所与の電解質について、電荷密度は下記式3によって計算することができる。
電荷密度=(26.8A−h/モル)×〔活性材料〕×N (3)
ここで、〔活性材料〕及びNは上記で定義した通りである。
【0108】
本明細書にて、「電流密度(current density)」という用語は、電気化学セルに流れる全電流をセルの電極の幾何学的面積で除算したものであり、一般的にmA/cm
2の単位で表される。
【0109】
本明細書にて、「電流効率(current efficiency)」(I
eff)という用語は、セルの放電時に生成される全電荷と充電中に移動する全電荷との比として記述できる。電流効率は、フロー電池の充電状態の関数であり得る。いくつかの非限定的な実施形態において、電流効率は約35%から約60%の充電状態範囲にわたって求めることができる。
【0110】
本明細書にて、「電圧効率(voltage efficiency)」という用語は、所与の電流密度において観察される電極電位とその電極の半電池電位との比(×100%)として記述できる。電圧効率は、電池充電ステップ、放電ステップ、又は「往復電圧効率(round trip voltage efficiency)」について記述することができる。所与の電流密度における往復電圧効率(V
eff,rt)は、式4を用いて、放電時のセル電圧(V
discharge)及び充電時の電圧(V
charge)から計算できる。
V
EFF,RT=V
discharge/V
charge×100% (4)
【0111】
本明細書にて、「負極(negative electrode)」及び「正極(positive electrode)」という用語は、充電及び放電サイクルの双方においてそれらが動作する実際の電位とは無関係に、負極が正極に比べて負の電位で(またその逆で)動作するか又は動作することが設計もしくは意図されるように、相対的に規定された電極である。負極は、可逆水素電極に対して負の電位で実際に動作するか又は動作することが設計もしくは意図される場合があり、そうでない場合もある。本明細書に記載するように、負極は第1の電解液に関連付けられ、正極は第2の電解液に関連付けられている。負極及び正極に関連付けられた電解液は、それぞれネゴライト(negolyte)及びポソライト(posolyte)と記載されることがある。
【実施例】
【0112】
上述の置換カテコラート配位子は、従来の結合反応を用い、都合よく入手できる出発物質を用いて調製することができる。例えば、1,2,3トリヒドロキシベンゼン及び1,2,4トリヒドロキシベンゼンは市販されており、官能化して本明細書に記載する置換カテコラート配位子のいくつかを調製することができる。同様に、d,l−3,4−ジヒドロキシマンデル酸、プロトカテクアルデヒド、又はプロトカテク酸(例えば
図2を参照のこと)を、本明細書に記載する置換カテコラート配位子のいくつかを調製するための出発物質として使用できる。場合によっては、例えば更に官能化させる前にエチレン又はプロプレングリコールとの反応によって、カテコール組織の1,2−ヒドロキシルを保護することが有用であり得る。非循環的な保護基戦略を用いることも可能である。同様に、α−ヒドロキシカテコールカルボン酸(catecholcarboxylic acid)、カテコールアミン、ポリオール、ポリオルカルボキシ酸(polyolcarboxy acid)、アミノ酸、及びアミンも、市場から又は合成することによって利用可能であり、置換カテコラート配位子の調整に用いることができる。
【0113】
検討中の配位子を用いて、多種多様な方法によってチタン錯体を調製することができる。例えば、混合塩錯体を含むトリス−カテコラート錯体を既知の方法により調製できる。例えば、Davies, J. A.、Dutramez, S.、J. Am. Ceram. Soc.、1990、73、2570−2572(チタン(IV)オキシ硫酸及びピロカテコールから)、Raymond, K. N.、Isied, S.S.、Brown, L. D.、Fronczek, F. R.、Nibert, J. H.、J. Am. Chem. Soc. 1976、98、1767−1774を参照のこと。ビスカレコラート錯体(例えばナトリウムカリウムチタン(IV)ビスカテコラートモノラクテート、ナトリウムカリウムチタン(IV)ビスカテコラートモノグルコネート、ナトリウムカリウムチタン(IV)ビスカテコラートモノアスコルベート、及びナトリウムカリウムチタン(IV)ビスカテコラートモノシトラート)は、チタンカテコラート二量体、Na
2K
2〔TiO(カテコラート)〕
2から作製することができる。Borgians, B. A.、Cooper, S. R.、Koh, Y. B.、Raymond, K. N.、Inorg. Chem. 1984、23、1009−1016を参照のこと。そのような合成は、少なくとも合成の記載及び電気化学データについて、引用により本願に含まれる米国特許第8753761号明細書及び同第8691413号明細書にも記載されている。
【0114】
下記表1に、様々なチタンビス−及びトリス−カテコラート配位化合物の電気化学データを示す。
【0115】
【表1】
【0116】
開示される実施形態を参照して本開示について記載したが、これらが本開示を例示するに過ぎないことは当業者には容易に認められよう。本開示の精神から逸脱することなく様々な変更を実施可能であることを理解すべきである。本開示を変更して、これまで記載されていないが本開示の精神及び範囲に対応するいかなる数の変形、改変、置換、又は同等の構成も組み込むことができる。更に、本開示の様々な実施形態について記載したが、本開示の態様は記載した実施形態の一部のみを含んでもよいことは理解されよう。従って、本開示は前述の記載によって限定されるものとは見なされない。
なお、本願の出願当初の特許請求の範囲の請求項は以下の通りである。
[請求項1]
中性の形態又は塩の形態で以下の構造
【化4】
を有する置換カテコラート配位子を含む配位化合物を含む組成物であって、
式中、nが1から4までの範囲の整数であり、1以上のZが開環した芳香環位置で前記置換カテコラート配位子に結合するようになっており、2以上のZが存在する場合、各Zは同一であるか又は異なり、
Zが、A1RA1、A2RA2、A3RA3、及びCHOから成る群から選択されるヘテロ原子官能基であり、
A1が、−(CH2)a−、又は−(CHOR)(CH2)a−であり、RA1が、−OR1、又は−(OCH2CH2O)bR1であり、aが0から約6までの範囲の整数であるが、aが0でありRA1が−OR1である場合、R1はHでないという条件があり、bが1から約10までの範囲の整数であり、
Rが、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、又はC1−
C6カルボキシアルキルであり、R1が、H、メチル、エチル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC2−C6ポリオール、又はC1−C6カルボキシアルキルであり、
A2が、−(CH2)c−、又は−CH(OR2)(CH2)d−であり、RA2が、−NR3R4、炭素結合アミノ酸、又は−C(=O)XR5であり、Xが、−O−、又は−NR6−であり、cが0から約6までの範囲の整数であり、dが0から約4までの範囲の整数であり、
R2、R3、R4、及びR6が、H、C1−C6アルキル、又はヘテロ原子置換C1−C6アルキルから成る群から別個に選択され、R5が、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、エステル結合により結合したC2−C6ポリオール、エステル結合により結合したヒドロキシ酸、エステル結合により結合したポリグリコール酸、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エステル結合もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、又は−(CH2CH2O)bR1であり、
A3が、−O−、又は−NR2−であり、RA3が、−(CHR7)eOR1、−(CHR7)eNR3R4、−(CHR7)eC(=O)XR5、又は−C(=O)(CHR7)fR8であり、eが1から約6までの範囲の整数であるが、A3が−O−である場合、eは1でないという条件があり、fが0から約6までの範囲の整数であり、
R7がH又はOHであり、R8が、H、C1−C6アルキル、ヘテロ原子置換C1−C6アルキル、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したC2−C6ポリオール、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したヒドロキシ酸、エーテル結合もしくはエステル結合により結合したポリグリコール酸、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノアルコール、エーテル結合、エステル結合、もしくはアミド結合により結合したアミノ酸、炭素結合アミノ酸、又は−(OCH2CH2O)bR1である、組成物。
[請求項2]
前記配位化合物が以下の式を有し、
DgM(L1)(L2)(L3)
Mが遷移金属であり、Dが、NH4+、Li+、Na+、又はK+であり、gが0から6までの範囲の整数であり、L1、L2、及びL3が配位子であり、L1、L2、及びL3の少なくとも1つが前記置換カテコラート配位子である、請求項1に記載の組成物。
[請求項3]
L1、L2、及びL3の少なくとも2つが置換カテコラート配位子である、請求項2に記載の組成物。
[請求項4]
L1及びL2が置換カテコラート配位子であり、L3が非置換カテコラート配位子である、請求項3に記載の組成物。
[請求項5]
L1が前記置換カテコラート配位子であり、L2及びL3が非置換カテコラート配位子である、請求項2に記載の組成物。
[請求項6]
L1、L2、及びL3の各々が置換カテコラート配位子である、請求項2に記載の組成物。
[請求項7]
前記遷移金属がTiである、請求項2に記載の組成物。
[請求項8]
置換カテコラート配位子でないL1、L2、及びL3の任意選択的なものが、非置換カテコラート、アスコルビン酸塩、クエン酸塩、グリコール酸塩、ポリオール、グルコ酸
塩、ヒドロキシ酪酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フタル酸塩、サルコシン酸塩、サリチル酸塩、シュウ酸塩、尿素、ポリアミン、アミノフェノラート、アセチルアセトネート、及び乳酸塩から個別に選択される1つ以上の配位子を含む、請求項2に記載の組成物。
[請求項9]
前記置換カテコラート配位子が、以下の構造
【化5】
から成る群から選択される構造を有する、請求項1に記載の組成物。
[請求項10]
前記置換カテコラート配位子が、以下の構造
【化6】
から成る群から選択される構造を有する、請求項1に記載の組成物。
[請求項11]
前記置換カテコラート配位子が、以下の構造
【化7】
から成る群から選択される構造を有する、請求項1に記載の組成物。
[請求項12]
請求項1に記載の組成物を含む電解液。
[請求項13]
前記電解液が水溶液である、請求項12に記載の電解液。
[請求項14]
緩衝剤、支持電解質、粘度調整剤、湿潤剤、又はそれらの任意選択的な組み合わせを更に含む、請求項13に記載の電解液。
[請求項15]
前記水溶液が約1から約13までの範囲のpHを有する、請求項13に記載の電解液。
[請求項16]
前記配位化合物が以下の式を有し、
DgM(L1)(L2)(L3)
Mが遷移金属であり、Dが、NH4+、Li+、Na+、又はK+であり、gが0から6までの範囲の整数であり、L1、L2、及びL3が配位子であり、L1、L2、及びL3の少なくとも1つが前記置換カテコラート配位子である、請求項13に記載の電解液。
[請求項17]
前記遷移金属がTiである、請求項16に記載の電解液。
[請求項18]
前記水溶液中の前記配位化合物の濃度が約0.5Mから約3Mまでの範囲である、請求項13に記載の電解液。
[請求項19]
請求項1に記載の組成物を含む電解液を備えるフロー電池。
[請求項20]
前記配位化合物が以下の式を有し、
DgM(L1)(L2)(L3)
Mが遷移金属であり、Dが、NH4+、Li+、Na+、又はK+であり、gが0から6までの範囲の整数であり、L1、L2、及びL3が配位子であり、L1、L2、及びL3の少なくとも1つが前記置換カテコラート配位子である、請求項19に記載のフロー電池。
[請求項21]
前記遷移金属がTiである、請求項20に記載のフロー電池。