特許第6810041号(P6810041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6810041バクテリオファージ粒子上に環状ペプチドを提示する新規の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810041
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】バクテリオファージ粒子上に環状ペプチドを提示する新規の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20201221BHJP
   C40B 40/10 20060101ALI20201221BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20201221BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20201221BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20201221BHJP
   C12P 21/04 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C12N7/01
   C40B40/10ZNA
   C12N15/09 Z
   C12N15/62 Z
   C12N15/63 Z
   C12P21/04
【請求項の数】15
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2017-533929(P2017-533929)
(86)(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公表番号】特表2018-500352(P2018-500352A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】EP2015080738
(87)【国際公開番号】WO2016102434
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年8月2日
(31)【優先権主張番号】14199588.6
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516260866
【氏名又は名称】ランティオペプ ベスローテン ヴェンノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】LanthioPep B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ウルバン,ヨハネス ヘルベルト
(72)【発明者】
【氏名】モースマイヤー,マルクス アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ボースマ,チブ
(72)【発明者】
【氏名】プラッズラー,ヨゼフ
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0184177(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0164339(US,A1)
【文献】 特表2003−502304(JP,A)
【文献】 特表2013−540429(JP,A)
【文献】 Journal of Molecular Biology,2004年,Vol.340,p.587-597
【文献】 FEBS Letters,2000年,Vol.480,p.231-234
【文献】 Journal of Molecular Biology,2000年,Vol.300,p.213-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法において、
(a)前駆体環状ペプチドをコードする核酸配列を保有する宿主細胞を提供するステップと;
(b)前記前駆体環状ペプチドの発現を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(c)前記前駆体環状ペプチド内の1つまたは複数のアミノ酸残基を酵素により脱水するステップと;
(d)システインまたはリジンへの前記1つまたは複数の脱水された残基の結合によって1つまたは複数の分子内結合を形成し、それにより環状ペプチドを形成するステップと;
(e)前記宿主細胞内でバクテリオファージ粒子を産生させるステップと
を含み、前記バクテリオファージ粒子は、前記表面上に前記環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着していることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記核酸配列は、バクテリオファージ粒子のコートタンパク質と、翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列とをさらにコードすることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記宿主細胞は、翻訳後修飾(PTM)酵素をコードする1つまたは複数の核酸配列をさらに保有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の方法において、前記翻訳後修飾(PTM)酵素は、ランチペプチドシンセターゼであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2乃至4の何れか1項に記載の方法において、前記翻訳後修飾(PTM)酵素は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、および/あるいは二機能性LanM型酵素または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法において、前記リーダー配列は、LanA前駆体ペプチドのリーダー配列であるか、LanA前駆体ペプチドに由来するリーダー配列であるか、またはLanA前駆体ペプチドのコンセンサスモチーフを有するリーダー配列であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記リーダー配列は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素によって認識されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法において、前記1つまたは複数の脱水されたアミノ酸残基は、デヒドロアラニン(Dha)またはデヒドロブチリン(Dhb)であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の方法において、前記分子内結合は、チオエーテル架橋またはリジノアラニン架橋であることを特徴とする方法。
【請求項10】
バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸において、前記核酸は、
(a)前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質と;
(b)翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列と;
(c)前駆体環状ペプチドと
をコードし、
前記前駆体環状ペプチドをコードする前記核酸は、前記バクテリオファージ粒子の前記コートタンパク質のC末端に位置決めされ、
前記前駆体環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって分子内結合を形成することができることを特徴とする核酸。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸において、前記リーダー配列は、LanA前駆体ペプチドのリーダー配列であるか、LanA前駆体ペプチドに由来するリーダー配列であるか、またはLanA前駆体ペプチドのコンセンサスモチーフを有するリーダー配列であることを特徴とする核酸。
【請求項12】
ベクターにおいて、請求項10または11に記載の核酸を含むことを特徴とするベクター。
【請求項13】
バクテリオファージ粒子において、コートタンパク質のC末端に付着した環状ペプチドをその表面上に提示することを特徴とするバクテリオファージ粒子。
【請求項14】
請求項13に記載のバクテリオファージ粒子の多様なコレクションにおいて、前記バクテリオファージ粒子のそれぞれは、前記バクテリオファージ粒子の前記コートタンパク質のC末端に付着した環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含むことを特徴とする多様なコレクション。
【請求項15】
所望の特性を有する環状ペプチドを得る方法において、
(a)請求項14に記載のバクテリオファージ粒子の多様なコレクションを提供するステップと;
(b)前記多様なコレクションをスクリーニングし、かつ/または前記多様なコレクションから選択して、前記所望の特性を有する環状ペプチドを提示する少なくとも1つのバクテリオファージ粒子を得るステップと
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファージコートタンパク質のC末端においてバクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状ペプチドは、環状環構造をとるポリペプチド鎖であり、複数の生物学的活性、例えば抗菌活性、免疫抑制活性、または抗腫瘍活性を有することが知られている。自然界に見出されるいくつかの環状ペプチドが診療所で用いられており、例えば抗細菌グラミシジンS、チロシジン、およびバンコマイシン、またはシクロスポリンAが免疫抑制活性を有する。生物学的活性を有する天然の環状ペプチドによって促されて、遺伝的方法および合成方法の両方による人工環状ペプチドの開発に向けた努力がなされてきた。
【0003】
環状構造を有する生体分子の新興クラスは、リボソーム合成されるペプチドである。これは、生物学的に活性なペプチドを形成するために、広範囲にわたる翻訳後修飾を必要とする。リボソーム合成されるほとんどの天然ペプチドは、リーダーペプチドおよびコアペプチドで構成される前駆体として翻訳される。リーダーは、認識配列として機能し、かつ酵素機構を動員して、コアペプチドの特定の残基に翻訳後修飾(PTM)を導入する。
【0004】
これにより、ヘテロ環化またはマクロ環化、脱水、アセチル化、グリコシル化、ハロゲン化、プレニル化、およびエピマー化等の翻訳後修飾は、そのようなペプチドの生物学的活性を出現させるだけでなく、このペプチドクラスの多くの典型的なメンバーに見出される優れた安定性に直接寄与するため、そのペプチドを薬物開発にとって魅力的な候補としている。
【0005】
グラム陽性菌によって産生されて主にグラム陽性菌に作用する、リボソーム合成されて翻訳後修飾される固有の抗生ペプチドの群をランチペプチドおよびランチビオティックが形成する(総説について、Knerr and van der Donk,Annu.Rev.Biochem.2012.81:479−505参照)。天然のランチビオティック、例えばナイシンまたはサブチリンが十分に研究されており、食品業界において、乳製品、例えばチーズを製造して保存するのに商業的に用いられている。
【0006】
抗菌活性を有するペプチドのサブクラスとしてのランチペプチドおよびランチビオティックは、チオエーテルアミノ酸、ランチオニン(Lan)および3−メチルランチオニン(MeLan)によって形成される分子内チオエーテル架橋または環を含有し、これらは、そのようなペプチドをタンパク質分解から保護して、耐熱性の増大を付与する。チオエーテル架橋の導入は、セリンまたはトレオニンの酵素による脱水で始まり、それぞれ不飽和デヒドロアラニン(Dha)およびデヒドロブチリン(Dhb)に至った後、システインチオールの分子内マイケル付加が続き、ランチペプチドシンセターゼ(クラスIについて、LanBおよびLanC、クラスIIについてLanM、クラスIIIについてLanKC、およびクラスIVについてLanL)によって媒介される。クラスIランチペプチドにおいて、セリン/トレオニンの脱水および以降の環化がそれぞれLanB型デヒドラターゼおよびLanC型シクラーゼによって実行される一方、クラスIIランチペプチドにおいて、単一の二機能性LanM型酵素は、両方の反応を実行する。興味深いことに、不飽和Dhaは、化学反応性が高く、低刺激性の塩基性条件下でシステインまたはリジンの側鎖と容易に反応して、非立体選択的チオエーテル架橋およびリジノアラニン架橋がそれぞれ生じ得る。クラスIIIおよびクラスIVのランチペプチドの生合成は、それぞれ多機能性LanKCおよびLanL型酵素によって支持され、これらは、アミノ末端ホスホSer/ホスホThrリアーゼドメイン、キナーゼ様中央ドメイン、およびカルボキシ末端LanC様ドメイン(シクラーゼ)によって特徴付けられる(van der Donk et al.2014 Current Opinion in Structural Biology 2014,29:58−66)。
【0007】
ここ数年にわたり、ランチペプチド生合成の原則は、環状構造を有する人工生物活性ペプチドの発見および生成にますます適応した。
【0008】
最初に、2004年に、ランチペプチド合成酵素は、PTM、例えばチオエーテル架橋を通常未修飾のペプチド中に導入して、ペプチドの安定性を向上させ、かつ/またはその活性を変えるのに有利に用いられ得ると提唱された(Kuipers et al.2004.J.Biol.Chem.279,22176−22182)。国際公開第2006/062398号パンフレットにおいて、従来のランチビオティック酵素複合体の一部ではない単離されたランチビオティックデヒドラターゼ、例えばLanBにより、注目するペプチドが宿主細胞中で脱水され得ることが示された。さらに、修飾チオエーテル架橋含有ペプチドが、その天然の宿主における専用のランチビオティックトランスポータ以外のタンパク質輸出系によって分泌され得ることが実証された。
【0009】
後に、国際公開第2012/005578号パンフレットにおいて、チオエーテル架橋含有ペプチドが、ランチビオティックの生合成および輸出機構を発現する宿主細胞(例えばラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis))の表面によって容易に産生され、かつ表面上に提示され得ることが実証された。
【0010】
より詳細には、国際公開第2012/005578号パンフレットは、N末端ランチビオティックリーダー配列、デヒドロ残基含有ポリペプチドまたはチオエーテル含有ポリペプチドに翻訳後修飾されることになる注目するアミノ酸配列、およびC末端荷電膜アンカリングドメインを含む融合ペプチドをコードする発現ベクターを提供する。また、所望の活性を有する環化ペプチドについてスクリーニングするための提示ライブラリが示唆された。しかしながら、本来、ランチビオティックを産生することができるグラム陽性宿主細胞、特に乳酸菌上での提示のみが可能であった。
【0011】
タンパク質輸出機構が異なるグラム陰性菌を必要とする、ファージディスプレイ等の当該技術分野において知られている他の提示系は、選択肢として考えられなかったため、先行技術において可能でなかった。
【0012】
ファージディスプレイのストーリーは、繊維状ファージが、遺伝子IIIタンパク質(pIII)中に挿入される外来タンパク質フラグメントを許容し、およびまたファージ表面上にタンパク質フラグメントを示すという実証に基づいて、1985年に始められた(Smith,1985)。Ladnerは、その概念を、ファージの表面上に提示される(ポリ)ペプチドおよび/またはタンパク質のレパートリのスクリーニングに拡張し(国際公開第1988/06630号パンフレット;国際公開第1990/02809号パンフレット)、それ以来、ファージディスプレイは劇的な進歩を経て実質的な業績をもたらした。(ポリ)ペプチド/タンパク質ファージディスプレイライブラリを構築し、かつスクリーニングする種々のフォーマットが開発されており、多数の総説記事および学術論文がこれらの開発を包含および要約している(例えば、Kay et al.,1996;Dunn,1996;McGregor,1996)。ペプチドまたはタンパク質を繊維状バクテリオファージ表面に固定するために、ほとんどの場合、ファージコートタンパク質への遺伝的融合が使用される。好ましいのは、遺伝子IIIタンパク質(Parmley&Smith,1988)またはそのフラグメント(Bass et al.,1990)、および遺伝子VIIIタンパク質(Greenwood et al.,1991)への融合である。ある場合において、遺伝子VIが用いられ(Jespers et al.,1995)、最近では、遺伝子VIIおよび遺伝子IXの組合せがFvフラグメントの提示に用いられた(Gao et al.,1999)。
【0013】
これまで、ジスルフィド結合を介して安定化した線状(ポリ)ペプチドおよび環状ペプチドのみがファージ上で良好に提示された(国際公開第2000/077194号パンフレット、国際公開第2009/098450号パンフレット参照)。より最近では、国際公開第2012/019928号パンフレットにおいて、pIIIのN末端に融合したMicrovividrin Kの線状前駆体がファージ上に提示された。提示された線状前駆体の翻訳後修飾は、同起源の修飾酵素を含有する細胞溶解物とのファージのその後のインキュベーションによって達成された。しかしながら、国際公開第2012/019928号パンフレットは、ランチペプチドの提示が可能な開示を提供しておらず、また、ファージアセンブリ前に翻訳後修飾を受けたペプチドの提示を教示していない。
【0014】
したがって、古典的なファージディスプレイに対して、細菌からの環状の翻訳後修飾ペプチドの提示を翻訳する必要がある。
【発明の概要】
【0015】
先行技術において、細菌上でのチオエーテル架橋含有ペプチドの提示が成功することが実証された。しかしながら、提示用の細菌の使用に重大な不利点が付随する。例えば、グラム陽性菌、例えばラクトコッカス・ラクティス(L.lactis)は、エレクトロポーレーションに関して、形質転換効率が引き下げられ、かつ凝集する傾向がある。これにより、その取扱いは困難なものとなり、結果は不安定なものとなる。したがって、典型的なファージディスプレイライブラリは、1012個を超える異なるクローンを有することが知られているが、ラクトコッカス・ラクティス(L.lactis)を介して提示されるライブラリは、約10個を越える多様性を上回ることができない。
【0016】
したがって、本開示の基礎となる技術的課題は、ファージ粒子上での環状ペプチドの提示を可能にする単純で信頼性が高い系を開発することである。この技術的課題の解決策は、本明細書中で特徴が描写される実施形態を提供することによって達成される。本開示は、環状ペプチドをファージコートタンパク質のC末端に付着させて、ファージ表面上での前記環状ペプチドの提示を可能にする。したがって、C末端ファージディスプレイは、pVIIIコートタンパク質上の(Held et al.,2004&Weiss et al.,2000)、およびまたpIIIコートタンパク質上の(Fuh et al.,2000)線状ペプチドについて示されたが、ファージコートタンパク質のC末端を介した環状ペプチドまたは翻訳後修飾ペプチドの提示は言及または示唆されなかった。通常、従来のファージディスプレイは、提示用のファージコートタンパク質のN末端を用いており、環状ペプチドがファージコートタンパク質のC末端を介してのみ効果的に提示され得ることは予想されなかった。
【0017】
より詳細には、本開示は、バクテリオファージ粒子上に環状ペプチドを提示する方法であって、
(a)前駆体環状ペプチドをコードする核酸配列を保有する宿主細胞を提供するステップと;
(b)前記前駆体環状ペプチドの発現を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(c)前駆体環状ペプチド内の1つまたは複数のアミノ酸残基を酵素により脱水するステップと;
(d)システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって1つまたは複数の分子内結合の形成し、それにより環状ペプチドを形成するステップと;
(e)前記宿主細胞内でバクテリオファージ粒子を産生させるステップと
を含み、前記バクテリオファージ粒子は、表面上に前記環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している、方法を含む。
【0018】
一態様において、環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む。別の態様において、環状ペプチドは、システイン残基またはリジン残基への1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む。別の態様において、環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水されたアミノ酸残基の結合によって形成される分子内結合を含む。
【0019】
したがって、本開示は、ファージ上に環状ペプチドを示すことができる。本開示の技術的なアプローチ、すなわちファージコートタンパク質のC末端への環状ペプチドの付着は、先行技術によって記載または示唆されていない。
【0020】
したがって、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法であって、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している、方法に関する。さらに、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に提示される環状ペプチドの大きいライブラリを作成し、かつそれをスクリーニングすることを可能にする。
【0021】
多くの場合、そのような方法を用いて環状ペプチドを示すことが有利である。環状ペプチドを含むライブラリを提示する、特許請求される方法に有用性がある。
【0022】
さらに、特許請求される方法を用いることにより提示される環状ペプチドを含むライブラリに有用性がある。そのようなライブラリは、注目する標的に対してスクリーニングされ得る、広範囲にわたる環状ペプチドを含む。
【0023】
開示される方法の利用により、ペプチド中の本質的にあらゆる所望の位置に分子内結合を導入することが可能となる。特に関心がもたれるのは、生物学的活性を有するペプチド、例えば治療用途が意図されるペプチドである。なぜなら、1つまたは複数の分子内結合の導入は、一般に、ペプチドの生物安定性を増大させるからである。さらに、環状構造体が用いられて、ペプチドの生物学的活性、例えば抗原特異性、受容体結合親和性、抗菌活性、または酵素特異性を変えることができる。注目するペプチドは、例えば、アゴニストペプチド、アンタゴニストペプチド、アミド化ペプチド、ホルモン、酵素阻害物質、酵素活性化因子、受容体リガンド、抑制ペプチド、ランチビオティックタンパク質、ウイルスタンパク質、真核生物タンパク質、それらの突然変異体(例えば、特定の位置での修飾を可能にするように特異的に設計されている)、それらの模倣体、相同体、または機能的フラグメント均等物である。そのような方法は、環状ペプチドに基づいて、治療的に関連がありかつ治療的に活性がある分子を同定するのに用いることもでき、またはそのような分子を特徴付けるために用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、Factor Xa切断リポータアッセイが、大腸菌(E.coli)中で発現された環状ペプチドの修飾状態を確認することを示す。NisAリーダー配列を収容する、発現された可溶性ペプチドの修飾状態が、ELISAベースのFactor Xa切断リポータアッセイを用いて、修飾NisB/NisC酵素の共発現の存在下または不在下において大腸菌(E.coli)細胞溶解物中で評価された。NisB/NisC共発現の不在下(Lan酵素なし)で産生される、ASWIEGRWCN−モチーフ(配列番号1;Factor Xa認識配列に下線を引いている)を含有するペプチドがほぼFactor Xaによって完全に切断されている一方、NisB/NisCの共発現は、デヒドロアラニン(脱水されたセリン)からシステインへのチオエーテル架橋の酵素的導入およびFactor Xa切断耐性の原因となる(左のパネル)。セリン(真ん中のパネル)残基またはシステイン(右のパネル)残基のアラニンへの突然変異は、NisB/NisC共発現の存在下ですら酵素によるチオエーテル架橋形成を妨げて、ペプチドをFactor Xa感受性にする。Factor Xa耐性(残ったシグナル[%])は、独立して産生された3つの細胞溶解物由来の未処理サンプル(Xaなし)と比較して算出された。
図2図2は、pIIIのC末端に対するNisAリーダー含有前駆体ペプチドの融合体が、酵素による環化(チオエーテル架橋形成)のための基質であり、その後、ファージ粒子上に提示されることを示す。(A)pIIIのC末端またはN末端に、ASWIEGRWCNモチーフ(配列番号1)を有する同じNisAリーダー含有ペプチドを融合させたファージミドを用いてファージ粒子が産生され、Factor Xa切断リポータアッセイにかけられた。NisB/NisC共発現の存在下で産生され、ファージ上に提示されるC末端融合体は、大部分がFactor Xa切断に耐性であり、これは、プロデューサ細胞中での酵素による修飾およびその後のファージ粒子中への組込みを示している(左のパネル)。対照的に、ファージ上に提示された同じペプチドのN末端融合体は、NisB/NisC共発現の存在下で産生された場合ですらFactor Xa感受性である(右のパネル)。(B)C末端pIII融合体のコアペプチドにおけるセリン(左のパネル)残基またはシステイン(右のパネル)残基のアラニンへの突然変異は、NisB/NisC共発現の存在下ですら酵素によるチオエーテル架橋形成を妨げて、提示されるペプチドをFactor Xa感受性にする。Factor Xa耐性(残ったシグナル[%])は、独立して産生された3つのファージサンプル由来の未処理サンプル(Xaなし)と比較して算出された。(C)マルトース結合タンパク質(MBP)のC末端またはN末端に融合させた、(A)に示される同じNisAリーダー含有前駆体ペプチドを発現する大腸菌(E.coli)株の細胞溶解物が産生され、Factor Xa切断リポータアッセイにかけられた。MBPのC末端への前駆体ペプチドの融合は、NisB/NisC共発現の存在下で産生される場合、大部分がFactor Xa切断耐性であり、これにより、酵素による修飾が確認される。NisB/NisC共発現の不在下で同じペプチド融合体は検出され得ず(n.d.)、迅速なターンオーバーを示している可能性がある(左のパネル)。MBPに対する前駆体ペプチドのN末端融合体は、NisB/NisC共発現に関係なく高いレベルで蓄積したが、Factor Xa切断アッセイによって判断されるように、酵素により修飾されなかった(右のパネル)。結果は、キャリアタンパク質のC末端に対する前駆体ペプチドの融合体が広く適用可能であり、およびN末端融合と対照的に、酵素機構による効率的な修飾を支持することを示唆している。
図3図3は、pIIIのC末端に対するProcAリーダー含有前駆体ペプチドの融合体が、酵素による環化(チオエーテル架橋形成)のための基質であり、その後、ファージ粒子上に提示されることを示す。pIIIのC末端に、ASWIEGRWCNモチーフ(配列番号1;S/C;または同起源のT/CおよびS/A誘導体)を有するProcAリーダー含有ペプチドを融合させたファージミドを用いてファージ粒子が産生され、Factor Xa切断リポータアッセイにかけられた。ProcM酵素共発現の存在下で産生されるS/C(左のパネル)残基またはT/C(真ん中のパネル)残基を含有するC末端ペプチド融合体は、Factor Xa切断に対する耐性を示し、これにより、それぞれデヒドロアラニン(S/C)およびデヒドロブチリン(T/C)由来の酵素によるチオエーテル架橋形成およびその後のファージ粒子中への組込みが示される。対照的に、S/A残基を有する融合体は、チオエーテル形成のための基質でなく、ProcMの存在下で産生される場合ですらXa感受性のままである(右のパネル)。Factor Xa耐性(残ったシグナル[%])は、独立して産生された3つのファージサンプル由来の未処理サンプル(Xaなし)と比較して算出された。
図4図4は、腸内細菌ファージM13 g3p(pIII)およびg8p(pVIII)タンパク質の野生型アミノ酸配列を示す。pIIIタンパク質の配列(配列番号2;UniProt−ID:P69168)およびpVIIIタンパク質の配列(配列番号3;UniProt−ID:P69541)においてシグナルペプチド(ボールド体)および膜貫通ドメイン配列(ボールド体、下線)が強調されている。
図5図5は、NisAリーダー配列およびProcAリーダー配列を含有するペプチド融合体の酵素による環化(チオエーテル架橋形成)およびファージディスプレイ、ならびにpIIIのC末端上での可変的な環サイズを示す。(A)ファージ粒子は、pIIIのC末端に、ASWIEGRECN−モチーフ(配列番号11)、ASWAAIEGRAECN−モチーフ(配列番号12)、ASWAAAIEGRAAAECN−モチーフ(配列番号13)、またはASWAAGAAIEGRAAGAAECN−モチーフ(配列番号:14)(それぞれ構築体i,i+7、i,i+10、i,i+13、およびi,i+17;Factor Xa切断部位に下線を引いている)を有するNisAリーダー含有ペプチドを融合させたファージミドを用いて産生され、Factor Xa切断リポータアッセイにかけられた。NisB/C酵素共発現の存在下で産生されたC末端ペプチド融合体は、セリン/システイン間隔によって決定される環サイズから独立して、Factor Xa切断に対する耐性を示す。Factor Xa耐性(残ったシグナル[%])は、独立して産生された3つのファージサンプル由来の未処理サンプル(Xaなし)と比較して算出された。(B)(A)と同様であるが、ProcAリーダー配列を含有し、かつProcM酵素共発現の存在下または不在下で産生されたpIIIペプチド融合体である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
用語「バクテリオファージ」は、ファージの複製に必要とされる核酸を含有するタンパク質コートからなるパッケージを形成する細菌ウイルスを指す。核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、二本鎖であっても一本鎖であってもよく、線状であっても環状であってもよい。バクテリオファージ、例えばラムダファージまたは繊維状ファージ(例えば、M13、fd、またはf1)は、当業者に周知である。用語「バクテリオファージ粒子」は、本開示に従う粒子、すなわち環状ペプチドを提示する粒子を指す。コートタンパク質は、バクテリオファージのアセンブリ中に様々な核酸配列をパッケージし得、但し、パッケージングシグナルを含むことを条件とする。
【0026】
用語「核酸」は、一本鎖または二本鎖の形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、およびそれらのポリマーを指す。この用語は、既知のヌクレオチド類似体、または修飾バックボーン残基もしくは連結体(linkage)を含有する核酸を包含し、これらは、合成され、天然に存在し、非天然に存在し、参照核酸と類似の結合特性を有し、かつ参照ヌクレオチドと同様に代謝される。特に明記しない限り、特定の核酸配列はまた、暗黙的に、その保存的に修飾された変異体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を明示的に示される配列と同様に包含する。具体的には、以下に詳述されるように、1つまたは複数の選択された(または全ての)コドンの第3の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することにより、縮重コドン置換が達成され得る(Batzer et al.(1991)Nucleic Acid Res.19:5081;Ohtsuka et al.(1985)J.Biol.Chem.260:2605−2608;およびRossolini et al.(1994)Mol.Cell.Probes 8:91−98)。本明細書中に開示される特定の核酸配列またはベクターは、バクテリオファージまたはバクテリオファージ粒子のアセンブリ中に、バクテリオファージコートタンパク質によってパッケージされる能力を有する。好ましくは、前記核酸配列または前記ベクターは、バクテリオファージの天然に存在するゲノムに由来し、例えば、繊維状ファージの場合、ファージベクターおよびファージミドベクターを含む。後者は、プラスミドの特徴に加えて、パッケージングシグナル、およびファージの複製起点を含有するプラスミドである。
【0027】
用語「ペプチド」は、50個以下のアミノ酸を有する分子を意味する。
【0028】
用語「(ポリ)ペプチド」は、ペプチド結合を介して連結する複数の、すなわち2個以上のアミノ酸の1つまたは複数の鎖からなる、50個を超えるアミノ酸を有する分子を意味する。
【0029】
用語「タンパク質」は、(ポリ)ペプチドの少なくとも一部が、その(ポリ)ペプチド鎖内かつ/またはその間に二次構造、三次構造、または四次構造を形成することによって定義される立体配置を有するかまたは得ることができる(ポリ)ペプチドを指す。この定義は、天然に存在するタンパク質、または少なくとも部分的に人工のタンパク質等のタンパク質、および全タンパク質のフラグメントまたはドメインを含み、但し、これらのフラグメントまたはドメインが、先に記載されるように定義される立体配置を得ることができることを条件とする。
【0030】
用語「チオエーテル」または「チオエーテル架橋」は、各分子にある2つの異なる炭素またはヘテロ原子に結合する硫黄原子を指す。一実施形態において、チオエーテル架橋は、1つまたは複数のセリン残基またはトレオニン残基の翻訳後脱水および前記脱水された残基のシステインへの結合後に形成される。一実施形態において、チオエーテル架橋は、ランチオニン架橋またはメチルランチオニン架橋である。ランチオニンは、化学式(HOOC−CH(NH)−CH−S−CH−CH(NH)−COOH)である非タンパク質構成アミノ酸であり、チオエーテル架橋によってβ炭素原子上に架橋される2つのアラニン残基で構成される。メチルランチオニンは、化学式(HOOC−CH(NH)−CH(CH)−S−CH−CH(NH)−COOH)である非タンパク質構成アミノ酸である。
【0031】
用語「リジノアラニン架橋」は、デヒドロアラニンのリジン残基との相互作用を指す。本明細書では、リジノアラニン架橋は、例えばpHの調整により、酵素的にまたは非酵素的に誘導される。「リジノアラニン」は、修飾アミノ酸N6−(DL−2−アミノ−2−カルボキシエチル)−L−リジンを指す。
【0032】
本明細書中で用いられる用語「分子内結合」は、分子外の(外生の)構造体を組み込まず、かつ化学的プロセシング、例えばジスルフィド架橋形成(例えば還元反応による)、付加環化、またはシュタウディンガー反応を除外しない、ペプチド配列内のアミノ酸の側鎖間の共有結合を指す。本明細書では、分子内結合は、1つまたは複数の脱水された残基のシステインまたはリジンへの結合により形成され得る。一実施形態において、前記1つまたは複数の脱水された残基は、デヒドロアラニン(Dha)またはデヒドロブチリン(Dhb)である。本明細書では、分子内結合は、リジノアラニン架橋またはチオエーテル架橋によって形成され得る。本開示の一実施形態において、分子内結合は、ランチオニン架橋によって形成される。本開示の別の実施形態において、分子内結合は、メチルランチオニン架橋によって形成される。本開示の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、ペプチド配列内に形成される。本開示の実施形態において、ペプチド配列内の分子内結合は、安定した環構造を形成する。一実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は、酵素により形成される。一実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は、ランチペプチドシンセターゼによって形成される。一実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は、シクラーゼによって形成される。一実施形態において、前記シクラーゼは、LanC型シクラーゼ、あるいは二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素である。別の実施形態において、前記LanC型シクラーゼは、NisC(Uniprot登録番号:Q03202)、SpaC、MibC、PepC、EpiC、またはその機能的均等物である。別の実施形態において、前記二機能性LanM型酵素は、ProcM(登録番号NP_894083)、LctM、MutM、BovM、LanM1/2、CinM、HalM1/2、CyanM1〜4、またはその機能的均等物である。別の実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は非酵素的に形成される。さらなる実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は塩基性条件下で形成される。別の実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は穏やかな塩基性条件下で形成される。別の実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は塩基性条件下で形成される。別の実施形態において、前記塩基性条件は、pH7.5、pH8、pH8.5、pH9、pH9.5、pH10、pH10.5、pH11、pH11.5、pH12、pH12.5、pH13、pH13.5、またはpH14である。さらなる実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は、酵素により、例えばランチペプチドシンセターゼにより、かつ塩基性条件下で形成される。
【0033】
本明細書では、用語「環状ペプチド」は、1つまたは複数の分子内結合によって形成される二次構造を有する、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドのストレッチを指す。アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドの完全なストレッチは、環状である必要はない。本開示の実施形態において、環状ペプチドは、単環ペプチドまたは多環ペプチドである。別の実施形態において、環状ペプチドは、天然に存在するペプチドまたは人工ペプチド、および全タンパク質のフラグメントまたはドメインであるペプチド等のペプチドを含む。さらなる実施形態において、環状ペプチドは、アミド化された環状ペプチドである。
【0034】
用語「多環」または「多環構造」は、少なくとも2つ、3つ、4つ、または5つの分子内結合を有する構造を指す。本開示に従って用いられるペプチドの長さに応じて、より複雑な二次ペプチド構造が達成され得る。
【0035】
用語「前駆体環状ペプチド」は、本明細書中の本開示に従う環状ペプチドを形成する能力があるアミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドのストレッチを指す。より詳細には、本開示に従う前駆体環状ペプチドは、分子内結合を形成するための少なくとも1つまたは複数のセリンまたはトレオニン、および1つまたは複数のシステインまたはリジンを含む。
【0036】
用語「脱水された残基」は、反応分子からの水分子の損失に関与する化学反応を経た修飾アミノ酸残基を指す。一実施形態において、「脱水された残基」は、脱水されたセリンまたは脱水されたトレオニンである。別の実施形態において、「脱水された残基」は、デヒドロアラニン(Dha)またはデヒドロブチリン(Dhb)である。一実施形態において、1つまたは複数のセリンまたはトレオニンの脱水は、ランチペプチドシンセターゼによって実行される。一実施形態において、1つまたは複数のセリンまたはトレオニンの脱水は、デヒドラターゼによって実行される。一実施形態において、酵素による前記脱水は、LanB型デヒドラターゼにより、あるいは二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素によって実行される。一実施形態において、前記LanB型デヒドラターゼは、NisB(Uniprot登録番号:P20103)、EpiB、SpaB、MibB、PepB、またはそれらの機能的均等物である。別の実施形態において、前記二機能性LanM型酵素は、ProcM(登録番号NP_894083)、LctM、MutM、BovM、LanM1/2、CinM、HalM1/2、CyanM1〜4、またはそれらの機能的均等物である。
【0037】
本明細書中で用いられる用語「リーダー」または「リーダー配列」は、翻訳後修飾(PTM)酵素にとっての認識モチーフを指すものとする。本開示の実施形態において、リーダー配列は、翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識される。本開示の実施形態において、リーダー配列は、ランチペプチドシンセターゼによって認識される配列である。別の実施形態において、リーダー配列は、翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列に由来し得るコンセンサスモチーフを有する。本開示の別の実施形態において、リーダー配列は、LanA前駆体ペプチドに由来する配列である。本開示の別の実施形態において、リーダー配列は、LanA前駆体ペプチドに由来し得るコンセンサスモチーフを有する。本開示の別の実施形態において、リーダー配列は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、および/あるいは二機能性LanM型酵素または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素によって認識される配列である。
【0038】
本明細書中で用いられる用語「翻訳後修飾酵素」または「PTM酵素」は、例えば、生物学的に活性なペプチドの生合成において、プロセシング機構の一部として、天然リボソームペプチドを特異的に修飾する、翻訳されたペプチドの構造的変更を誘導する酵素を指すものとする。このクラスは、複数の型の酵素を含み、カルボキシレートアミンリガーゼ、シクラーゼ、デヒドロゲナーゼ、シクロデヒドラターゼデカルボキシラーゼ、エピメラーゼ、ヒドロキシラーゼ、ペプチダーゼ、デヒドラターゼ、リアーゼ、キナーゼ、トランスフェラーゼ、エステラーゼ、オキシゲナーゼ、およびイソメラーゼ、特にランチオニン結合形成酵素、細胞溶解素形成酵素、シアノバクチン形成酵素、チオペプチド形成酵素、コノペプチド形成酵素、ミクロビリジン形成酵素、シクロチド形成酵素、バクテリオシン形成酵素、およびサブチロシン形成酵素が挙げられる。好ましくは、本明細書中で用いられるPTM酵素は、ランチペプチドシンセターゼである。好ましくは、本明細書中で用いられるPTM酵素は、デヒドラターゼ、シクラーゼ、またはデヒドラターゼ活性もしくはリアーゼ活性/キナーゼ活性およびシクラーゼ活性を備える二機能性酵素もしくは多機能性酵素である。より好ましいのは、本明細書中で用いられるPTM酵素が、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素、あるいはそれらの機能的均等物である。
【0039】
ペプチドまたはタンパク質の用語「機能的均等物」は、ペプチドまたはタンパク質の機能の1つまたは複数、好ましくは実質的に全てを共有するものを意味する。好ましくは、そのような機能は、生物学的機能、好ましくは酵素的機能、例えばデヒドラターゼ活性および/またはシクラーゼ活性である。
【0040】
用語「バクテリオファージ粒子の表面」は、バクテリオファージ粒子の一部を指し、これは、粒子が含有される培地と接触しており、かつアクセス可能である。表面は、適切な宿主細胞内でのファージ産生中にアセンブルされるファージコートの一部であるタンパク質(粒子のタンパク質コートのメンバー)によって判定される。
【0041】
ファージディスプレイは、ペプチド変異体またはタンパク質変異体のライブラリがファージビリオンの外側に発現される一方で、各変異体をコードする遺伝的材料が内側に存在する選択技術を説明する。これは、各変異体タンパク質配列と、これをコードするDNAとの物理的連結を生じさせ、これにより、所定の標的分子(抗体、酵素、細胞表面受容体等)への結合親和性に基づく、パニングと呼ばれるインビトロ選択プロセスによる迅速な分配(partitioning)が可能となる。その最も単純な形態において、パニングは、ファージディスプレイされたペプチドのライブラリを、標的でコーティングされたプレート(またはビーズ)上でインキュベートし、結合していないファージを洗い流し、かつ特異的に結合したファージを溶出することによって実行される。次に、溶出されたファージは、さらなる結合/増幅サイクルを通して増幅されて取られて、結合配列に有利なようにプールが富化される。少数のラウンド後、個々のクローンがDNA配列決定およびELISAによって特徴付けられる。
【0042】
用語「ファージミド」は、細菌の複製起点、例えばCoIE 1、およびバクテリオファージの遺伝子間領域のコピーを有するプラスミドベクターを指す。ファージミドは、繊維状バクテリオファージが挙げられる、知られているあらゆるバクテリオファージに基づいてよい。プラスミドはまた、一般に、抗生物質耐性の選択マーカーを含有することとなる。このベクター中にクローニングされるDNAのセグメントは、プラスミドとして増殖することができる。このベクターを保有する細胞に、ファージ粒子の産生に必須の全遺伝子が提供されると、プラスミドの複製モードがプラスミドDNAの一本鎖のコピーを生成して、ファージ粒子をパッケージするローリングサークル複製に変わる。ファージミドは、感染性ファージ粒子または非感染性ファージ粒子を形成し得る。この用語は、異種ポリペプチドがファージ粒子の表面上に提示されるように、遺伝子融合体として異種ポリペプチド遺伝子に連結するファージコートタンパク質遺伝子、またはそのフラグメントを含有するファージミドを含む(Sambrook et al. 417)。
【0043】
用語「ファージベクター」は、異種遺伝子を含有し、かつ複製が可能なバクテリオファージの二本鎖反復可能形態を指す。ファージベクターは、ファージの複製およびファージ粒子の形成を可能にするファージの複製起点を有する。ファージは、好ましくは、繊維状バクテリオファージ、例えばM13、f1、fd、Pf3ファージ、またはそれらの誘導体、ラムドイドファージ、例えばラムダ、21、phi80、phi81.82、424.434等、またはそれらの誘導体、バキュロウイルスまたはその誘導体、T4ファージまたはその誘導体、T7ファージウイルスまたはその誘導体である。細胞からのDNAの調製は、宿主細胞の培養体からプラスミドDNAを単離することを意味する。DNAの調製に一般的に用いられる方法は、Sambrook et al.の第125〜133節に記載される大スケールおよび小スケールのプラスミド調製である。DNAの調製後、DNAは、Sambrook et al.の第140節に記載されるような、当該技術分野において周知の方法によって精製されてよい。
【0044】
用語「コートタンパク質」は、バクテリオファージ粒子の表面上に存在するタンパク質、または少なくともその一部を意味する。機能的な観点から、コートタンパク質は、宿主細胞内でのファージアセンブリプロセス中にバクテリオファージ粒子を伴い、かつ別の宿主細胞に感染するまでアセンブルされたファージを伴ったままである、あらゆるタンパク質である。繊維状バクテリオファージの場合、前記野生型タンパク質は、遺伝子IIIタンパク質(pIII)、遺伝子VIタンパク質(pVI)、遺伝子VIIタンパク質(pVII)、遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)、および遺伝子IXタンパク質(pIX)である。コートタンパク質は、主要なコートタンパク質であってもよく、またはマイナーなコートタンパク質であってもよい。「主要な」コートタンパク質は、ファージコート中にタンパク質が10コピー以上存在するコートタンパク質、例えば主要なコートタンパク質pVIIIである。主要なコートタンパク質は、1ファージあたり何十コピー、何百コピー、またはさらに何千コピーも存在してよい。マイナーなコートタンパク質は、ファージコート中に1ファージあたり10コピー未満存在し、例えばマイナーなコートタンパク質pIIIである。
【0045】
用語「野生型コートタンパク質」は、天然に存在するバクテリオファージのファージコートを形成するコートタンパク質を指す。繊維状バクテリオファージの近縁メンバー間、例えば、f1、fd、M13間の差異を含む配列が当業者に周知である(例えば、Kay et al.,1996参照)。繊維状バクテリオファージの場合、前記野生型タンパク質は、例えば遺伝子IIIタンパク質(pIII)、遺伝子VIタンパク質(pVI)、遺伝子VIIタンパク質(pVII)、遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)、および遺伝子IXタンパク質(pIX)である。一実施形態において、本開示は、前記コートタンパク質がバクテリオファージの野生型コートタンパク質である、方法に関する。
【0046】
さらに好ましい実施形態において、前記コートタンパク質は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の切断型変異体であり、前記切断型変異体は、前記コートタンパク質の、バクテリオファージ粒子のタンパク質コート中への組込みを引き起こす前記野生型コートタンパク質の少なくとも一部を含む。
【0047】
用語「切断型変異体」は、先で言及される野生型タンパク質に由来し、野生型配列の少なくとも一部の欠失によって修飾されているタンパク質を指す。これは、バクテリオファージ突然変異体において見出され(Crissman&Smith,1984)、または標準的なファージディスプレイ法の過程で生じた(例えば、Bass et al.,1990;Krebber,1996)変異体、例えば切断型遺伝子IIIタンパク質(pIII)または遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)の変異体を含む。例えば、前記切断型変異体は、遺伝子IIIタンパク質(pIII)または遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)のCTドメインからなってもよく、またはそれを含んでもよい。本開示に従う切断型変異体を同定するために、検出タグが変異体に融合されてもよく、または変異体の存在下で形成されるバクテリオファージ粒子のファージコート中に変異体が組み込まれているかを判定するアッセイがセットアップされてもよい。
【0048】
さらに他の好ましい実施形態において、前記コートタンパク質は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の修飾変異体であり、前記修飾変異体は、バクテリオファージ粒子のタンパク質コート中に組み込まれる能力がある。
【0049】
本開示に従う、野生型タンパク質の修飾を達成する方法は、当業者に周知であり、標準的なクローニング技術および/または突然変異誘発技術を含む。本開示に従う方法で用いられる野生型タンパク質の修飾変異体をコードする核酸分子の構築法、ファージベクターおよび/またはファージミドベクターの構築が挙げられる、前記核酸分子を含むベクターの構築法、前記修飾タンパク質の発現を引き起こすかまたは可能にする、適切に選択された宿主細胞中への前記ベクターの導入法は、当該技術分野において周知である(例えば、Sambrook et al.,1989;Ausubel et al.,1999;Kay et al.,1996参照)。本開示に従う修飾変異体を同定するために、検出タグが変異体に融合されてもよく、または変異体の存在下で形成されるバクテリオファージ粒子のファージコート中に変異体が組み込まれる能力があるかを判定するアッセイがセットアップされてもよい。
【0050】
さらに他に好ましいのは、前記バクテリオファージが繊維状バクテリオファージである方法である。繊維状バクテリオファージ、例えばM13、fd、またはf1が当業者に周知である。
【0051】
繊維状バクテリオファージの場合、バクテリオファージ粒子の前記コートタンパク質が野生型コートタンパク質pIIIであるか、またはそれに由来する方法が特に好ましい。
【0052】
さらに好ましいのは、バクテリオファージ粒子の前記コートタンパク質が野生型コートタンパク質pIIIであるか、またはそれに由来する方法である。好ましくは、野生型タンパク質に対応する修飾タンパク質の一部は、対応する野生型配列と比較して、約40%、好ましくは約50%、好ましくは約60%、好ましくは約70%、好ましくは約80%、最も好ましくは約90%を超えるアミノ酸同一性を示す。
【0053】
所定のポリペプチド配列の用語「N末端」は、所定のポリペプチド配列のN末端残基から、またはその近くで始まる、所定のポリペプチド配列の連続した長さである。所定のポリペプチドのN末端が長さによって定義され得る。同様に、所定のポリペプチド配列の用語「C末端」は、所定のポリペプチド配列のC末端残基においてまたはその近くで終わる、所定のポリペプチド配列の連続した長さである。所定のポリペプチドのC末端が長さによって定義され得る。一実施形態において、本開示は、コートタンパク質のC末端に言及する。好ましい実施形態において、コートタンパク質のC末端は、前記コートタンパク質の膜貫通ドメインのC末端に位置決めされるアミノ酸またはアミノ酸配列である。別の実施形態において、コートタンパク質のC末端は、前記コートタンパク質の膜貫通ドメインのC末端に位置決めされるアミノ酸またはアミノ酸配列であり、前記コートタンパク質は、遺伝子IIIタンパク質(pIII、配列番号2;Uniprot:P69168)または遺伝子VIIIタンパク質(pVIII;配列番号3;Uniprot:P69541)である。一実施形態において、遺伝子IIIタンパク質(pIII)のC末端は、アミノ酸配列LRNKES(配列番号4)またはその誘導体もしくは修飾変異体である。別の実施形態において、遺伝子IIIタンパク質(pIII)のC末端は、膜貫通ドメインのC末端に位置決めされ、アミノ酸配列LRNKES(配列番号4)の1つまたは複数のアミノ酸を含む。別の実施形態において、遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)のC末端は、アミノ酸配列TSKAS(配列番号5)、またはその誘導体もしくは修飾変異体である。別の実施形態において、遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)のC末端は、膜貫通ドメインのC末端に位置決めされ、アミノ酸配列TSKAS(配列番号5)の1つまたは複数のアミノ酸を含む。遺伝子IIIタンパク質(pIII)および遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)の概観スキームが図4に示される。
【0054】
本開示の一実施形態において、タンパク質コートメンバーのC末端は、環状ペプチドに付着しており、前記環状ペプチドをバクテリオファージ粒子の表面上に提示する。
【0055】
好ましい実施形態において、(ポリ)ペプチド/タンパク質を提示するバクテリオファージ粒子は、(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列を含有する。
【0056】
本開示に関連して、用語「発現を引き起こすかまたは可能にする」は、核酸配列が発現されるような条件下で宿主細胞を培養することを説明する。本開示に従う(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸分子の構築法、前記核酸分子を含むベクターの構築法、前記ベクターの適切に選択された宿主細胞中への導入法、(ポリ)ペプチド/タンパク質の発現を引き起こすかまたは可能にする方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Sambrook et al.,1989;Ausubel et al.,1999参照)。さらに、周知であるのは、適切な宿主細胞内での後代バクテリオファージまたはバクテリオファージ粒子の生成に必要とされる遺伝的材料の導入法、および前記後代バクテリオファージまたは前記バクテリオファージ粒子の生成を引き起こすかまたは可能にする方法である(例えば、Kay et al.,1996参照)。バクテリオファージ粒子の産生を引き起こすかまたは可能にするステップは、例えばファージミドを利用する場合、適切なヘルパーファージの使用を必要としてよい。
【0057】
別の実施形態において、本開示は、本開示に従う核酸配列を含むベクターに関する。
【0058】
さらなる実施形態において、本開示は、本開示に従う核酸配列または本開示に従うベクターを含有する宿主細胞に関する。
【0059】
本開示に関連して、用語「宿主細胞」は、異種タンパク質の生産に一般的に用いられる多数のもののうちの任意のものであってよく、以下に限定されないが、細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)(Ge et al.,1995)もしくは枯草菌(Bacillus subtilis)(Wu et al.,1993)、菌類、例えば酵母(Horwitz et al.,1988;Ridder et al.,1995)もしくは糸状菌(Nyyssoenen et al.,1993)、植物細胞(Hiatt&Ma,1993;Whitelam et al.,1994)、昆虫細胞(Potter et al.,1993;Ward et al.,1995)、または哺乳類細胞(Trill et al.,1995)が挙げられる。
【0060】
さらに他の好ましい実施形態において、本開示は、本開示に従う核酸配列、本開示に従うベクターによってコードされる、または本開示に従う宿主細胞によって産生される、野生型バクテリオファージのコートタンパク質の修飾変異体に関する。修飾変異体は、クローニング、発現、またはタンパク質輸送に必要とされるアミノ酸残基をさらに含んでよい。クローニングに必要とされるアミノ酸残基は、適切なベクター中への核酸配列のクローニングを可能にするように組み込まれる、制限エンドヌクレアーゼ用の認識配列を含む核酸配列によってコードされる残基を含んでよい。発現に必要とされるアミノ酸残基は、(ポリ)ペプチド/タンパク質の溶解度または安定性の増大をもたらす残基を含んでよい。タンパク質輸送に必要とされるアミノ酸残基は、大腸菌(E.coli)のペリプラズムへの修飾変異体の輸送を担うシグナル配列、および/または前記シグナル配列の効率的な切断を促進するアミノ酸残基を含んでよい。先で言及されるクローニング、発現、タンパク質輸送、精製、および/または検出目的に必要とされるさらなるアミノ酸残基が当業者に多数周知である。
【0061】
「バクテリオファージ粒子の多様なコレクション」は、「ライブラリ」または「複数」と呼ばれてもよい。本開示に関連して、そのようなライブラリのメンバーは、それぞれライブラリの異なるメンバーを提示する。本開示に関連して、用語「多様なコレクション」は、組成、特性、および/または配列の少なくとも一部が異なる少なくとも2つの粒子または分子のコレクションを指す。例えば、環状ペプチドの多様なコレクションは、配列の少なくとも1つのアミノ酸位置が異なる環状ペプチドのセットである。そのような多様なコレクションは、種々の方法で、例えば、出発(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列の少なくとも1つのコドンのランダム突然変異誘発により、エラープローンPCRを用いて、出発(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列を増幅することにより、または本開示に従う方法において、宿主細胞として突然変異誘発株を用いることにより得られ得る。ペプチドの多様なコレクションの生成のためのこれらの方法、およびさらなるまたは代わりの方法が当業者に周知である。
【0062】
本開示に関連して、用語「所望の特性」は、多様なコレクションの1つのメンバーが有するべき、および多様なコレクションをスクリーニングかつ/または選択するための基礎を形成する所定の特性を指す。そのような特性は、標的への結合、標的のブロッキング、標的媒介反応の活性化、酵素活性等の特性、および当業者に知られているさらなる特性を含む。所望の特性のタイプに応じて、当業者であれば、スクリーニングおよび/または選択を実行するためのフォーマットおよび必須のステップを同定することができるであろう。
【0063】
最も好ましいのは、前記所望の特性が注目する標的への結合である、方法である。
【0064】
当業者に周知の種々の方法でバクテリオファージ粒子上に提示される、例えば、固相バイオパニング用の表面上にコーティングされる、溶液中のバイオパニング用の磁気ビーズ等の粒子に結合される、または細胞全体バイオパニングもしくは組織切片上でのバイオパニングのために細胞表面上に提示される、環状ペプチドの前記多様なコレクションに注目する前記標的が示されてよい。前記標的に結合したバクテリオファージ粒子は、当業者に周知の種々の方法により、例えば適切なバッファによる溶出により、pH勾配もしくは塩勾配を用いることにより、または可溶性の標的を用いた特異的な溶出により回収され得る。
【0065】
用語「の近くに」は、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質のN末端またはC末端からの、両方の場合を考慮に入れた最大15個、より好ましくは最大10個のアミノ酸のストレッチを指す。
【0066】
詳細な説明および実施形態
本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法に関し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着しており、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む。
【0067】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法であって、
(a)前駆体環状ペプチドをコードする核酸配列を含む核酸配列を保有する宿主細胞を提供するステップと;
(b)前記前駆体環状ペプチドの発現を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(c)前駆体環状ペプチド内の1つまたは複数のアミノ酸残基を酵素により脱水するステップと;
(d)システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって1つまたは複数の分子内結合を形成し、それにより環状ペプチドを形成するステップと;
(e)前記宿主細胞内でバクテリオファージ粒子を産生させるステップと
を含み、前記バクテリオファージ粒子は、表面上に前記環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している、方法に関する。
【0068】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法であって、
(a)前駆体環状ペプチドをコードする核酸配列を保有する宿主細胞を提供するステップと;
(b)前記前駆体環状ペプチドの発現を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(c)前駆体環状ペプチド内の1つまたは複数のアミノ酸残基の酵素による脱水を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(d)システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合による1つまたは複数の分子内結合の形成を引き起こすかまたは可能にすることにより、環状ペプチドを形成するステップと;
(e)前記宿主細胞内でバクテリオファージ粒子を産生させるステップと
を含み、前記バクテリオファージ粒子は、表面上に前記環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している、方法に関する。
【0069】
本開示の一実施形態において、前記核酸配列は、バクテリオファージ粒子のコートタンパク質と、翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列とをさらにコードする。
【0070】
本開示の一実施形態において、宿主細胞は、翻訳後修飾(PTM)酵素をコードする1つまたは複数の核酸配列をさらに保有する。本開示の別の実施形態において、宿主細胞は、翻訳後修飾(PTM)酵素をコードする1つまたは複数の核酸配列をさらに保有し、前記1つまたは複数の核酸配列は、細胞中に人工的に導入されたものである。
【0071】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法であって、
(a)前駆体環状ペプチドをコードする核酸配列を保有し、かつ翻訳後修飾(PTM)酵素をコードする1つまたは複数の核酸配列を保有する宿主細胞を提供するステップと;
(b)前記前駆体環状ペプチドおよび前記1つまたは複数の翻訳後修飾(PTM)酵素の発現を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(c)前駆体環状ペプチド内の1つまたは複数のアミノ酸残基を酵素により脱水するステップと;
(d)システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって1つまたは複数の分子内結合を形成し、それにより環状ペプチドを形成するステップと;
(e)前記宿主細胞内でバクテリオファージ粒子を産生させるステップと
を含み、前記バクテリオファージ粒子は、前記環状ペプチドを表面上に提示し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している、方法に関する。
【0072】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法であって、
(a)前駆体環状ペプチドをコードする核酸配列を保有し、翻訳後修飾(PTM)酵素をコードする1つまたは複数の核酸配列を保有する宿主細胞を提供するステップと;
(b)前記前駆体環状ペプチドおよび前記1つまたは複数の翻訳後修飾(PTM)酵素の発現を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(c)前駆体環状ペプチド内の1つまたは複数のアミノ酸残基の酵素による脱水を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(d)システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合による、1つまたは複数の分子内結合の形成を引き起こすかまたは可能にすることにより、環状ペプチドを形成するステップと;
(e)前記宿主細胞内でバクテリオファージ粒子を産生させるステップと
を含み、前記バクテリオファージ粒子は、前記環状ペプチドを表面上に提示し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している、方法に関する。
【0073】
一実施形態において、ステップc)における酵素による脱水は、翻訳後修飾(PTM)酵素によって引き起こされる。一実施形態において、ステップd)における1つまたは複数の分子内結合の形成は、翻訳後修飾(PTM)酵素によって引き起こされる。一実施形態において、ステップc)における酵素による脱水およびステップd)における1つまたは複数の分子内結合の形成は、翻訳後修飾(PTM)酵素によって引き起こされる。一実施形態において、ステップc)における酵素による脱水およびステップd)における1つまたは複数の分子内結合の形成は、1つの翻訳後修飾(PTM)酵素によって引き起こされる。別の実施形態において、ステップc)における酵素による脱水およびステップd)における1つまたは複数の分子内結合の形成は、様々な翻訳後修飾(PTM)酵素によって引き起こされる。別の実施形態において、ステップc)における酵素による脱水は、翻訳後修飾(PTM)酵素によって引き起こされ、およびステップd)における1つまたは複数の分子内結合は、塩基性条件下で形成される。さらに別の実施形態において、ステップc)における酵素による脱水は、翻訳後修飾(PTM)酵素によって引き起こされ、および1つまたは複数の分子内結合は、宿主細胞内でのバクテリオファージ粒子の産生後に塩基性条件下で形成される。
【0074】
本開示の一実施形態において、前記翻訳後修飾(PTM)酵素は、ランチペプチドシンセターゼである。本開示の別の実施形態において、前記翻訳後修飾(PTM)酵素は、デヒドラターゼ、シクラーゼ、またはデヒドラターゼ活性もしくはリアーゼ活性/キナーゼ活性およびシクラーゼ活性を備える二機能性酵素または多機能性酵素である。好ましい実施形態において、本明細書中で用いられるPTM酵素は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素、あるいはそれらの機能的均等物である。本開示の別の実施形態において、前記翻訳後修飾(PTM)酵素は、デヒドラターゼ、またはリアーゼ/キナーゼ、および/またはシクラーゼである。
【0075】
本開示の一実施形態において、前記1つまたは複数の脱水された残基は、デヒドロアラニン(Dha)またはデヒドロブチリン(Dhb)である。
【0076】
本開示の一実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、ランチペプチドシンセターゼにより、または穏やかな塩基性条件下で形成される。本開示の別の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素により、または穏やかな塩基性条件下で形成される。本開示の一実施形態において、アミノ酸残基の脱水および分子内結合の形成は、ランチオニン架橋形成酵素またはメチルランチオニン架橋形成酵素によって媒介される。
【0077】
本開示の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、ペプチド配列またはポリペプチド配列内に形成される。本開示の実施形態において、ペプチド配列またはポリペプチド配列内の分子内結合は、安定化した環構造を形成する。本開示の一実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、翻訳後修飾されたペプチドまたはポリペプチド内に形成される。本開示の一実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、1つまたは複数の脱水された残基を含むペプチドまたはポリペプチド内に形成される。別の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、ランチペプチドシンセターゼによって修飾されたペプチドまたはポリペプチド内に形成される。別の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、デヒドラターゼ、シクラーゼ、またはデヒドラターゼ活性もしくはリアーゼ活性/キナーゼ活性およびシクラーゼ活性を備える二機能性酵素もしくは多機能性酵素によって修飾されたペプチドまたはポリペプチド内に形成される。別の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素によって修飾されたペプチドまたはポリペプチド内に形成される。別の実施形態において、LanB型デヒドラターゼは、NisB(Uniprot登録番号:P20103)、EpiB、SpaB、MibB、PepB、またはそれらの機能的均等物である。さらなる実施形態において、前記二機能性LanM型酵素は、プロクロロコッカス(Prochlorococcus)属MIT 9313由来のProcM(登録番号NP_894083)、もしくはそのプロクロロコッカス(Prochlorococcus)属MIT 9303由来の近縁の類似体ProcM(登録番号YP_001018107)、CyanM1〜4(登録番号YP_002485891、YP_002483601、YP_002484655、YP_002483742;シアノセイス(Cyanothece)属種PCC 7425由来)、LctM、MutM、BovM、LanM1/2、CinM、HalM1/2、またはその機能的均等物である。
【0078】
一実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は、ランチオニン架橋形成酵素またはメチルランチオニン架橋形成酵素によって形成される。一実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は、シクラーゼによって形成される。一実施形態において、前記シクラーゼは、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素である。
【0079】
別の実施形態において、LanC型シクラーゼは、NisC(Uniprot登録番号:Q03202)、SpaC、MibC、PepC、EpiC、またはそれらの機能的均等物である。さらなる実施形態において、前記二機能性LanM型酵素は、プロクロロコッカス(Prochlorococcus)属MIT 9313由来のProcM(登録番号NP_894083)、もしくはそのプロクロロコッカス(Prochlorococcus)属MIT 9303由来の近縁の類似体ProcM(登録番号YP_001018107)、CyanM1〜4(登録番号YP_002485891、YP_002483601、YP_002484655、YP_002483742;シアノセイス(Cyanothece)属種PCC 7425由来)、LctM、MutM、BovM、LanM1/2、CinM、HalM1/2、またはそれらの機能的均等物である。
【0080】
別の実施形態において、前記1つまたは複数の分子内結合は、穏やかな塩基性条件下で形成される。別の実施形態において、前記穏やかな塩基性条件は、pHが7.5〜11、8〜11、9〜11、10〜11、7.5〜9、8〜9、または9〜10である。別の実施形態において、前記穏やかな塩基性条件は、pH7.5、pH8、pH8.5、pH9、pH9.5、pH10、pH10.5、もしくはpH11、またはそれぞれの間の範囲である。
【0081】
本開示の別の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、チオエーテル架橋である。本開示の別の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合は、ランチオニン架橋またはメチルランチオニン架橋である。本開示の別の実施形態において、1つまたは複数の分子内結合はリジノアラニン架橋である。
【0082】
本開示の一実施形態において、環状ペプチドは、翻訳後修飾されたペプチドまたはポリペプチドである。別の実施形態において、環状ペプチドは、チオエーテル架橋含有ペプチドまたはチオエーテル架橋含有ポリペプチドである。別の実施形態において、環状ペプチドは、ランチオニン架橋含有ペプチドもしくはランチオニン架橋含有ポリペプチド、メチルランチオニン架橋含有ペプチドもしくはメチルランチオニン架橋含有ポリペプチド、またはリジノアラニン架橋含有ペプチドもしくはリジノアラニン架橋含有ポリペプチドである。本開示の別の実施形態において、環状ペプチドは単環または多環である。
【0083】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法であって、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着しており、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含み、前記方法は、
(a)前駆体環状ペプチドをコードする核酸配列を含む核酸配列を保有する宿主細胞を提供するステップと;
(b)前記前駆体環状ペプチドの発現を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(c)1つまたは複数の分子内結合を形成するステップと;
(d)前記宿主細胞内でバクテリオファージ粒子を産生させるステップと
を含む方法に言及する。
【0084】
本開示の一実施形態において、前記コートタンパク質は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質である。別の実施形態において、バクテリオファージ粒子の前記コートタンパク質は、野生型コートタンパク質pIIIもしくは野生型コートタンパク質pVIIIであるかまたはそれに由来する。
【0085】
本開示の一実施形態において、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着する。別の実施形態において、前記環状ペプチドと、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端とは、物理的に結合する。別の実施形態において、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に、遺伝的融合を介してまたは1つもしくは複数の人工的に導入されたシステインによって形成されるジスルフィド結合を介して付着する。
【0086】
本開示の一実施形態において、前記環状ペプチドは、遺伝的融合を介してまたは1つもしくは複数の人工的に導入されたシステインによって形成されるジスルフィド結合を介して、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着する。別の実施形態において、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に遺伝的融合を介して付着する。本開示の別の実施形態において、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に、1つまたは複数の人工的に導入されたシステインによって形成されるジスルフィド結合を介して付着する。
【0087】
本開示の一実施形態において、前記バクテリオファージは、繊維状バクテリオファージである。
【0088】
本開示の一実施形態において、前記環状ペプチドは、最大500、最大400、最大300、最大200、最大100、最大90、最大80、最大70、最大60、最大50、最大40、最大30、最大20、または最大10個のアミノ酸を含む。
【0089】
本開示の別の実施形態において、前記環状ペプチドは、アミド化された環状ペプチドである。さらなる実施形態において、前記アミド化された環状ペプチドは、前記環状ペプチドのC末端にアミド部分を含む。本開示の別の実施形態において、前記環状ペプチドは、C末端アミド化によって翻訳後修飾される。別の実施形態において、アミド化のために修飾されることになるアミノ酸は、後ろにグリシンが続き、これがアミド基を提供する。アミド化は、例えば、グリシンが酸化されてアルファ−ヒドロキシ−グリシンを形成する第1の反応ステップを含む。酸化されたグリシンは、C末端がアミド化されたペプチドおよびN−グリオキシル化ペプチドに分割する。C末端アミド化は、多くのペプチド、例えばニューロペプチドおよびホルモンの生物学的活性に必須であり得る。
【0090】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列に言及し、核酸は、
(a)前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質と、
(b)翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列と、
(c)前駆体環状ペプチドと
をコードし、
前駆体環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に位置決めされ、
前記前駆体環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合による分子内結合を形成することができる。
【0091】
本開示の一実施形態において、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる前記核酸配列は、シグナル配列をさらにコードする。
【0092】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列を含むベクターに言及し、核酸は、
(a)前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質と、
(b)翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列と、
(c)前駆体環状ペプチドと
をコードし、
前駆体環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に位置決めされ、
前記前駆体環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合による分子内結合を形成することができる。
【0093】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列に言及し、核酸は、N末端からC末端まで、N−(ファージコートタンパク質)−(翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列)−(前駆体環状ペプチド)−Cの配置を有する。
【0094】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列を含むベクターに言及し、核酸は、N末端からC末端まで、N−(ファージコートタンパク質)−(翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列)−(前駆体環状ペプチド)−Cの配置を有し、NはN末端であり、CはC末端である。
【0095】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列に言及し、核酸は、N末端からC末端まで、N−(シグナル配列)−(ファージコートタンパク質)−(翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列)−(前駆体環状ペプチド)−Cの配置を有する。
【0096】
一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列を含むベクターに言及し、核酸は、N末端からC末端まで、N−(シグナル配列)−(ファージコートタンパク質)−(翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列)−(前駆体環状ペプチド)−Cの配置を有し、NはN末端であり、CはC末端である。
【0097】
本開示の別の実施形態において、ベクターは、輸出シグナルをコードする1つまたは複数の核酸配列をさらに含む。本開示の別の実施形態において、ベクターは、誘導プロモータをコードする1つまたは複数の核酸配列をさらに含む。一実施形態において、本開示は、本明細書中に開示される核酸配列またはベクターを含む宿主細胞に言及する。
【0098】
別の実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列を含むベクターに言及し、核酸は、ファージコートタンパク質をコードし、前記ファージコートタンパク質は、翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列の近くにコードされる。
【0099】
別の実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列を含むベクターに言及し、翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列は、前駆体環状ペプチドの近くにコードされる。
【0100】
さらなる実施形態において、本開示は、核酸配列を含むベクターに言及し、前記核酸配列上で、ファージコートタンパク質が、翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列の近くにコードされ、前記リーダー配列は、前駆体環状ペプチドの近くにコードされる。本開示の実施形態において、近くに、核酸の対応するトリプレットによってコードされる15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1個のアミノ酸を指す。
【0101】
別の実施形態において、前記前駆体環状ペプチドは、1つまたは複数の分子内結合を形成するための少なくとも1つまたは複数のセリンまたはトレオニン、および1つまたは複数のシステインまたはリジンを含む。別の実施形態において、核酸によってコードされるバクテリオファージ粒子の前記コートタンパク質は、野生型コートタンパク質pIIIもしくは野生型コートタンパク質pVIIIであるか、またはそれに由来する。
【0102】
一実施形態において、本開示は、本明細書中に開示される方法によって得られる、表面上に環状ペプチドを提示するバクテリオファージ粒子に言及する。一実施形態において、本開示は、表面上に環状ペプチドを提示するバクテリオファージ粒子に言及し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着しており、前記環状ペプチドは、分子内結合を含む。一実施形態において、本開示は、表面上に環状ペプチドを提示するバクテリオファージ粒子に言及し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着しており、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む。
【0103】
別の実施形態において、前記バクテリオファージ粒子は、前記環状ペプチドを形成することができる、前駆体環状ペプチドをコードする1つまたは複数の核酸配列を含むベクターをさらに含む。別の実施形態において、前記バクテリオファージ粒子は、本明細書中に開示されるベクターを含む。
【0104】
一実施形態において、本開示は、本明細書中に開示されるバクテリオファージ粒子の多様なコレクションに言及する。一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の多様なコレクションに言及し、前記バクテリオファージ粒子は、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着する環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、分子内結合を含む。別の実施形態において、前記バクテリオファージ粒子は、それぞれ環状ペプチドの多様なコレクションから環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、分子内結合を含む。一実施形態において、本開示は、バクテリオファージ粒子の多様なコレクションに言及し、前記バクテリオファージ粒子は、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着する環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む。別の実施形態において、前記バクテリオファージ粒子は、それぞれ環状ペプチドの多様なコレクションから環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む。
【0105】
一実施形態において、本開示は、所望の特性を有する環状ペプチドを得る方法であって、
(a)本明細書中に開示されるバクテリオファージ粒子の多様なコレクションを提供するステップと;
(b)前記多様なコレクションをスクリーニングし、かつ/または前記多様なコレクションから選択して、前記所望の特性を有する環状ペプチドを提示する少なくとも1つのバクテリオファージ粒子を得るステップと
を含む方法に言及する。
【0106】
一実施形態において、本開示は、所望の特性を有する環状ペプチドを得る方法であって、
(a)バクテリオファージ粒子の多様なコレクションを提供するステップであって、前記バクテリオファージ粒子は、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む、ステップと;
(b)前記多様なコレクションをスクリーニングし、かつ/または前記多様なコレクションから選択して、前記所望の特性を有する環状ペプチドを提示する少なくとも1つのバクテリオファージ粒子を得るステップと
を含む方法に言及する。
【0107】
本開示の一実施形態において、前記所望の特性は、注目する標的への結合である。
【0108】
別の実施形態において、本開示は、所望の特性を有する環状ペプチドを得る方法であって、
(a)バクテリオファージ粒子の多様なコレクションを提供するステップであって、前記バクテリオファージ粒子は、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む、ステップと;
(b)前記多様なコレクションをスクリーニングし、かつ/または前記多様なコレクションから選択して、前記所望の特性を有する環状ペプチドを提示する少なくとも1つのバクテリオファージ粒子を得るステップと
を含み、ステップ(b)は、
(ba)バクテリオファージ粒子の前記多様なコレクションを注目する標的と接触させるステップと;
(bb)注目する標的に結合していないバクテリオファージ粒子を溶出するステップと;
(bc)注目する標的に結合しているバクテリオファージ粒子を溶出するステップと
をさらに含む方法に言及する。
【0109】
一実施形態において、本開示は、所望の特性を有する環状ペプチドを得る方法であって、
(a)バクテリオファージ粒子の多様なコレクションを提供するステップであって、前記バクテリオファージ粒子は、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している環状ペプチドの多様なコレクションから環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む、ステップと;
(b)前記多様なコレクションをスクリーニングし、かつ/または前記多様なコレクションから選択して、前記所望の特性を有する環状ペプチドを提示する少なくとも1つのバクテリオファージ粒子を得るステップと
を含む方法に言及する。
【0110】
本開示の一実施形態において、前記所望の特性は、注目する標的への結合である。
【0111】
別の実施形態において、本開示は、所望の特性を有する環状ペプチドを得る方法であって、
(a)バクテリオファージ粒子の多様なコレクションを提供するステップであって、前記バクテリオファージ粒子は、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している環状ペプチドの多様なコレクションから環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む、ステップと;
(b)前記多様なコレクションをスクリーニングし、かつ/または前記多様なコレクションから選択して、前記所望の特性を有する環状ペプチドを提示する少なくとも1つのバクテリオファージ粒子を得るステップと
を含み、ステップ(b)は、
(ba)バクテリオファージ粒子の前記多様なコレクションを注目する標的と接触させるステップと;
(bb)注目する標的に結合していないバクテリオファージ粒子を溶出するステップと;
(bc)注目する標的に結合しているバクテリオファージ粒子を溶出するステップと
をさらに含む方法に言及する。
【0112】
Lan酵素
現在、いくつかのランチオニン架橋形成酵素またはメチルランチオニン架橋形成酵素、およびそれらの遺伝子が知られている:
1.LanB型デヒドラターゼは、酵素のC末端を構成することが示されており、セリンおよびトレオニンの脱水ステップを触媒することが提唱されている。
2.LanC型シクラーゼは、システインチオールの付加を触媒する。シクラーゼ構成要素のLanCは、亜鉛金属タンパク質であり、その結合金属が求核付加のためにチオール基質を活性化することが提唱されている。
3.LanM型酵素は、二機能性のデヒドラターゼおよびシクラーゼである。これは、ランチビオティック合成の間、前駆体ペプチドの脱水および環化の両方を担う。
4.LanD酸化デカルボキシラーゼ型酵素は、エピデルミンのC末端メソランチオニンのシステイン残基からの2還元当量の除去を触媒して、〜C==C〜二重結合を形成する。
5.LanKC型多機能性酵素は、リアーゼドメイン、キナーゼドメイン、およびシクラーゼドメインを含有するが、シクラーゼドメインにおいて、典型的な亜鉛リガンドを欠いている。
6.LanL型多機能性酵素は、リアーゼドメイン、キナーゼドメイン、および金属リガンド含有シクラーゼドメインを含有する。
7.LanP型ペプチダーゼは、ランチビオティックからリーダーペプチドを隔離している。
8.ABCトランスポータに融合したLanT型ペプチダーゼ;前駆体ペプチドの切断は、分泌プロセスの一部として、トランスポータによって媒介される。
9.デヒドラターゼおよびデヒドロゲナーゼのLtnM型およびLtnJ型は、D−アラニンの形成に関与する。
10.CinXは、シンナマイシン生合成の間、アスパラギンを水酸化する。
【0113】
例えば、ランチビオティック(ランチオニン架橋またはメチルランチオニン架橋を含む抗生ペプチド)の形成において、ランチビオティック合成酵素は、膜結合複合体において組織化されると記載されている(Siegers et al.1996.J.Biol.Chem.271,12294−12301;Kiesau et al.1997.J.Bacteriol.179,1475−1481;Sahl et al.1998.Annu.Rev.Microbiol.52:41−7)。そのような複合体は、ランチビオティックトランスポータ(LanT)、脱水された酵素(LanB;デヒドラターゼとも呼ばれる)、およびシクラーゼ(LanC)で構成される。一部のランチビオティックの場合、二機能性酵素(LanM)が、脱水ステップおよび環化ステップの両方を実行する。リボソーム合成される前駆体ペプチド中のN末端ランチビオティックリーダーペプチドは、脱水された酵素、または脱水および環形成の両方を実行する酵素で始まるランチビオティック酵素の認識シグナルである。リーダーペプチドは、ランチビオティック複合体に結合して、前駆体ペプチドをランチビオティック酵素の付近に持ち込むと考えられている。先行技術(例えば国際公開第2006/062398号パンフレット参照)は、例えば、デヒドラターゼによって翻訳後脱水されることになる注目するペプチドを生産するための融合タンパク質中の、いくつかのランチビオティックリーダーペプチドおよびその使用を開示している。国際公開第2006/062398号パンフレットに従えば、リーダーペプチドおよび修飾されることになるペプチドは、SEC輸出シグナルのような非ランチビオティック輸出シグナル後にある。輸出シグナルおよびリーダーペプチドは、細胞アンカー配列、例えばLPTX−ソルターゼ認識モチーフによって分離されてよい。
【0114】
ゲノムマイニング戦略は、最近詳細に記載されたように、当業者により、新規のリーダーペプチドおよびその同起源の修飾Lan酵素を同定するのに使用され得る(Qi Zhang,Xiao Yang,Huan Wang,Wilfred A.van der Donk(2014)ACS Chem.Biol.,2014,9,2686−2694)。Lan酵素は、配列類似性、類似のドメイン構造、および非常に保存されたモチーフによって特徴付けられる。例えば、現在まで知られているいくつかのLan酵素は、活性部位の亜鉛イオンの結合を支持するシクラーゼドメイン中に「CHG」モチーフを含有する。他に、Zn2+配位を支持する「CCG」モチーフを含有することが同定された。Lan酵素配列および保存されたモチーフをクエリとして用いれば、新規のLan酵素が、BlastPサーチにより他の生物において同定され得る。新規のLan酵素が同定されると、その同起源の基質のLanA前駆体ペプチドが容易に検出される。なぜなら、それらは、通常、同じゲノムクラスターにおいて直近にコードされており、短いオープンリーディングフレームおよび他のLanAに対する配列類似性によって特徴付けられるからである。
【0115】
リーダー配列
あらゆるタイプのリーダー配列が、本開示を実行するのに用いられ得、但し、デヒドラターゼによって認識され得ることを条件とする。別の実施形態において、そのようなリーダー配列はまた、ランチオニン架橋またはメチルランチオニン架橋を形成することができるシクラーゼによって認識される。リーダー配列のアミノ酸配列は、公開データベースおよび刊行物から入手可能であり、Plat A.et al.2013 Curr Protein Pept Sci.2013 Mar;14(2):85−96およびPlat A.et al.;Appl Environ Microbiol.2011 Jan;77(2):604−11に記載されるようなリーダー配列およびリーダーコンセンサス配列が挙げられる。
【0116】
一実施形態において、前記リーダー配列は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素によって認識されるリーダー配列であるか、またはそのコンセンサスモチーフを有する。
【0117】
別の実施形態において、本開示のリーダー配列は、LanA前駆体ペプチドのリーダー配列、またはLanA前駆体ペプチドに由来する既知のリーダー配列のアミノ酸配列アラインメントに由来し得るコンセンサスモチーフを有する。さらなる実施形態において、前記リーダー配列は、LanA前駆体ペプチドのリーダー配列であり、LanA前駆体ペプチドに由来するリーダー配列であるか、またはLanA前駆体ペプチドのコンセンサスモチーフを有するリーダー配列であり、前記リーダー配列は、ランチペプチドシンセターゼによって認識される。さらなる実施形態において、前記リーダー配列は、LanA前駆体ペプチドのリーダー配列であり、LanA前駆体ペプチドに由来するリーダー配列であるか、またはLanA前駆体ペプチドのコンセンサスモチーフを有するリーダー配列であり、前記リーダー配列は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素によって認識される。
【0118】
LanA前駆体ペプチドのアミノ酸配列は、公開データベースから入手可能であり、以下のLanA前駆体ペプチドが挙げられる。
NisA(ナイシン、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis))
ProcA(プロクロロシン、プロクロロコッカス・マリナス(Prochlorococcus marinus)MIT9313;プロクロロコッカス・マリナス(Prochlorococcus marinus)MIT9303)
SpaS(サブチリン;枯草菌(Bacillus subtilis)ATCC 6633)
LctA(ラクチシン481;ラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis))
MutA(ミュータシンII、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans))
MibA(ミクロビスポリシン、ミクロビスポラ・コラリナ(Microbispora corallina))
BovA(ボビシンHJ50;ウシ連鎖球菌(Streptococcus bovis)HJ50)
LanA1/2(リケニシジン、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis))
CinA(シンナマイシン、ストレプトマイセス・シンナモネウス(Streptomyces cinnamoneus)DSM 40005)
HalA1/2(ハロデュラシン、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans))
CyanA(命名なし、シアノセイス(Cyanothece)属種PCC 7425)
Pep5(表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis))
EpiA(エピデルミン、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis))
【0119】
国際公開第2006/062398号パンフレットの表1Aおよび表1Bは、そのようなリーダーペプチドの例示的なアラインメントを示している。当業者であれば、アラインされた配列から、例えば公開されているまたは市販のアラインメントソフトウェア、例えばVector NTIのAlignXを用いてコンセンサスモチーフを導くことができるであろう。リーダー配列コンセンサスモチーフが、少なくとも5、より好ましくは少なくとも10、最も好ましくは少なくとも15個の知られているリーダーペプチド配列のアラインメントに由来することが好ましい。このように得られたコンセンサスモチーフは、その後、リーダーペプチド活性、すなわちデヒドラターゼおよびセリン脱水またはトレオニン脱水による認識について、当該技術分野において知られている方法を用いて確認され得る。所定の標的配列の脱水は、Maldi−TOF MSを用いて監視され得る。
【0120】
リーダーペプチドコンセンサス配列は、種々のコンセンサス配列、例えばコンセンサスモチーフX1−D/E−E−V/L−S/T−D/E−X2−E−L−D/Eを含んでよく、X1は、あらゆる疎水性アミノ酸であり、X2は、あらゆるアミノ酸である。例えば、配列LEEVSEQELD(配列番号7)を含む。別の実施形態において、リーダー配列は、コンセンサスモチーフF−D/E/N−L−D/E/N−X3を含み、X3はL、I、またはVである。例えば、配列LFDLDL(配列番号8)またはFNLDV(配列番号9)を含む。リーダーはまた、例えば、コンセンサスI/L−L/F−D/E/N−L−Q−D/N/A/S/T−L/M−D/Eを含有してもよく、ILELQNLD(配列番号10)を含む。リーダーペプチドは、コンセンサス配列、例えばFNLDV(配列番号9)に続く、コンセンサス配列と、修飾されることになる前駆体ペプチドとの間のスペーサー配列で構成されてよい。このスペーサー配列は、修飾されることになる部分を各酵素の触媒中心の圏内に持ち込む(Annechien Plat,Leon D.Kluskens,Anneke Kuipers,Rick Rink,Gert N.Moll(2010))。N末端ドメインおよびスペーサーは、ナイシンリーダーペプチドの機能性にとって十分である(Appl.Environ.Microbiol.77,604−611)。
【0121】
多くのクラスII LanAリーダーペプチドは、配列類似性に基づいてN11P、TIGR03898およびN11Pのファミリーに割り当てられる一方、他のメンバーは、現在、ファミリー割当てを欠いている。別の実施形態において、リーダー配列はProcAリーダーに由来し、これは、現在、プロクロロコッカス(Prochlorococcus)属MIT 9313においてコードされる29個の非常に保存されたメンバー、およびプロクロロコッカス(Prochlorococcus)属MIT 9303においてコードされる別の15個のメンバーを含み、これらは全てリーダーペプチドのN11Pファミリーに割り当てられ、および同起源の株においてコードされる単一の修飾ProcM酵素の基質である。ほとんどのProcAリーダー配列は、注目すべきことに、長く(60アミノ酸を超える)、および全体的に高い保存性に起因して明確な最小のコンセンサス配列を有していない。しかしながら、ProcA2.8の親の63残基リーダー配列の23残基バージョンへのN末端切断は、ProcMにより媒介される酵素による前駆体ペプチド修飾を完全に支持しており、これは、リーダー配列の大部分が重要でないこと、および機能的な最小配列が容易に導かれ得ることを示している。
【0122】
別の実施形態において、リーダー配列は、NisA(ナイシン、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis))もしくはProcA(プロクロロシン、プロクロロコッカス・マリナス(Prochlorococcus marinus)MIT9313またはプロクロロコッカス・マリナス(Prochlorococcus marinus)MIT9303)リーダー配列であるか、またはNisAもしくはProcAリーダー配列に由来し得るコンセンサスモチーフを有する。
【0123】
本明細書中に開示されるさらなる実施形態:
1.バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示する方法であって、
(a)前駆体環状ペプチドをコードする核酸配列を保有する宿主細胞を提供するステップと;
(b)前記前駆体環状ペプチドの発現を引き起こすかまたは可能にするステップと;
(c)前駆体環状ペプチド内の1つまたは複数のアミノ酸残基を酵素により脱水するステップと;
(d)システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された前記残基の結合によって1つまたは複数の分子内結合を形成し、それにより環状ペプチドを形成するステップと;
(e)前記宿主細胞中でバクテリオファージ粒子を産生させるステップと
を含み、前記バクテリオファージ粒子は、表面上に前記環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している、方法。
2.前記核酸配列は、バクテリオファージ粒子のコートタンパク質と、翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列とをさらにコードする、実施形態1の方法。
3.宿主細胞は、翻訳後修飾(PTM)酵素をコードする1つまたは複数の核酸配列をさらに保有する、先行する実施形態の1つの方法。
4.前記翻訳後修飾(PTM)酵素は、ランチペプチドシンセターゼである、実施形態2〜3の1つの方法。
5.前記翻訳後修飾(PTM)酵素は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、および/あるいは二機能性LanM型酵素または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素である、実施形態2〜4の1つの方法。
6.前記リーダー配列は、LanA前駆体ペプチドのリーダー配列であるか、LanA前駆体ペプチドに由来するリーダー配列であるか、またはLanA前駆体ペプチドのコンセンサスモチーフを有するリーダー配列である、実施形態2〜5の1つの方法。
7.前記リーダー配列は、LanB型デヒドラターゼ、LanC型シクラーゼ、二機能性LanM型酵素、または多機能性LanKCもしくはLanL型酵素によって認識される、実施形態6の方法。
8.前記リーダー配列は、NisAリーダー配列もしくはProcAリーダー配列であるか、またはそのコンセンサスモチーフを有する、実施形態2〜7の1つの方法。
9.1つまたは複数の分子内結合は、シクラーゼにより、または穏やかな塩基性条件下で形成される、先行する実施形態の1つの方法。
10.脱水された残基は、デヒドロアラニン(Dha)またはデヒドロブチリン(Dhb)である、先行する実施形態の1つの方法。
11.分子内結合は、チオエーテル架橋またはリジノアラニン架橋である、先行する実施形態の1つの方法。
12.前記コートタンパク質は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質である、先行する実施形態の1つの方法。
13.バクテリオファージ粒子の前記コートタンパク質は、野生型コートタンパク質pIIIもしくは野生型コートタンパク質pVIIIであるか、またはそれに由来する、実施形態12の方法。
14.前記環状ペプチドは、遺伝的融合を介してまたは1つもしくは複数の人工的に導入されたシステインによって形成されるジスルフィド結合を介して、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着している、先行する実施形態の1つの方法。
15.バクテリオファージ粒子の表面上に環状ペプチドを提示することができる核酸配列であって、核酸は、
(a)前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質と;
(b)翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列と;
(c)前駆体環状ペプチドと
をコードし、
前駆体環状ペプチドをコードする核酸は、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に位置決めされ、
前記前駆体環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合により、分子内結合を形成することができる、核酸配列。
16.N末端からC末端まで以下の配置:
N−(ファージコートタンパク質)−(翻訳後修飾(PTM)酵素によって認識されるリーダー配列)−(前駆体環状ペプチド)−C
を有する、実施形態15の核酸配列。
17.前記リーダー配列は、LanA前駆体ペプチドのリーダー配列であるか、LanA前駆体ペプチドに由来するリーダー配列であるか、またはLanA前駆体ペプチドのコンセンサスモチーフを有するリーダー配列である、実施形態15〜17の核酸配列。
18.前駆体環状ペプチドは、少なくとも1つまたは複数のセリンまたはトレオニン、および1つまたは複数のシステインまたはリジンを含む、実施形態15〜17の1つの核酸配列。
19.実施形態15〜18の核酸を含むベクター。
20.実施形態15〜18の1つの核酸配列または実施形態19のベクターを含む宿主細胞。
21.実施形態1〜14の1つに従う方法によって得られる、環状ペプチドを表面上に提示するバクテリオファージ粒子。
22.環状ペプチドを表面上に提示するバクテリオファージ粒子であって、前記環状ペプチドは、前記バクテリオファージ粒子のコートタンパク質のC末端に付着しており、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む、バクテリオファージ粒子。
23.前記環状ペプチドを形成することができる前駆体環状ペプチドをコードする1つまたは複数の核酸配列を含むベクターをさらに含む、実施形態21または22のバクテリオファージ粒子。
24.前記ベクターは、実施形態19のベクターである、実施形態23のバクテリオファージ粒子。
25.実施形態21〜24の何れか1つのバクテリオファージ粒子の多様なコレクションであって、前記バクテリオファージ粒子は、それぞれ環状ペプチドの多様なコレクションから環状ペプチドを提示し、前記環状ペプチドは、システインまたはリジンへの1つまたは複数の脱水された残基の結合によって形成される分子内結合を含む、多様なコレクション。
26.所望の特性を有する環状ペプチドを得る方法であって、
(a)実施形態25のバクテリオファージ粒子の多様なコレクションを提供するステップと;
(b)前記多様なコレクションをスクリーニングし、かつ/または前記多様なコレクションから選択して、前記所望の特性を有する環状ペプチドを提示する少なくとも1つのバクテリオファージ粒子を得るステップと
を含む方法。
27.実施形態26の方法であって、前記所望の特性は、注目する標的への結合である、方法。
【実施例】
【0124】
実施例1:大腸菌(E.coli)中での可溶性チオエーテル架橋ペプチドの異種発現およびFactor Xa切断リポータアッセイを用いた修飾状態の確認
以下の実施例において、全ての分子生物学的実験は、標準的なプロトコル(Ausubel et al.,1999)に従って実行する。
【0125】
ベクターの構築、およびモデルペプチド(Factor Xa切断部位を含むペプチド)の可溶性発現:
大腸菌(E.coli)中でのチオエーテル架橋ランチビオティックの異種発現が最近記載され、これは、前駆体ペプチドおよび同起源の修飾酵素の共発現によって達成された(Shi et al.,J Am Chem Soc.2011 Mar 2;133(8):2338−41)。本発明者らは、複雑な生体サンプル中での修飾状態の迅速な評価を可能にし、かつ微量の材料のみを必要とするリポーターペプチドを開発した。これらのペプチドは、人工コアペプチドに融合されるリーダーペプチド(例えば、NisA、ProcA等に由来する)で構成され、これは、酵素によるチオエーテル架橋の導入のための基質残基および検出のための2つの親和性タグ(例えばHisタグおよびFLAGタグ)がフランキングするFactor Xaプロテアーゼ切断部位を備える。
【0126】
IPTG誘導Lacプロモータの制御下において、アンピシリン耐性遺伝子およびColE1複製起点を保有する大腸菌(E.coli)発現プラスミド中に、これらのペプチドをコードするDNA配列をクローニングした。生じたプラスミドを、IPTG誘導PLlaco1プロモータの制御下での翻訳後修飾(例えば、NisB/NisC、ProcM等)のための同起源の酵素(ランチペプチドシンセターゼ)をコードする、和合性の第2のプラスミド(クロラムフェニコール耐性、RSF1030複製起点)と組み合わせて、大腸菌(E.coli)株の同細胞内で共維持した。大腸菌(E.coli)株中でのIPTG共誘導と同時に、線状前駆体ペプチドが産生されてから、これを酵素媒介PTM修飾にかけることで、Factor Xa切断部位にフランキングする基質残基の共有結合および安定したチオエーテル架橋の形成が導かれる。
【0127】
発現後、Factor Xaプロテアーゼによるペプチドの処理により、認識部位のアルギニンと、隣接する残基との間のペプチド結合が加水分解する。しかしながら、2つの別々のポリペプチドが生じる代わりに、それぞれが切断部位にフランキングする親和性タグの1つを含有し、安定したチオエーテル架橋は、連結した親和性タグの両方を備える2つのポリペプチドを維持する。
【0128】
したがって、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)におけるFactor Xa切断後の2つの親和性タグの共検出を用いて、モデルペプチドの所望の修飾(環化)を確認することができるが、非修飾ペプチド(線状)について、2つのタグのうちの1つのみを検出可能である。
【0129】
モデルペプチドの修飾状態を監視する際のこのFactor Xa切断リポータアッセイの信頼性を以下に示す(図1)。NisAリーダーペプチドに融合したompAシグナル配列、ならびにASWIEGRWCN(配列番号1)配列(SおよびCは、酵素媒介チオエーテル架橋導入のための基質である;IEGR:Factor Xaの認識モチーフ)にフランキングするHisタグおよびFLAGタグで構成されるコアペプチドを含有するモデルペプチドを、大腸菌(E.coli)MC1061F’中で修飾酵素NisBおよびNisCの共発現の不在下または存在下において発現させた。
【0130】
コントロールとして、突然変異がなければ配列が同じである修飾不能突然変異ペプチド(SからA、またはCからAへの突然変異)を、NisBおよびNisCの不在下または存在下で発現させた。
【0131】
全ての株を37℃、220rpmにおいて初期の対数増殖期まで増殖させて、0.25mM IPTGの付加によってペプチドおよび酵素の発現を誘導し、培養体の増殖を22℃において一晩継続した。細胞溶解物を確立して、各株の可溶性タンパク質画分の4反復を、抗His IgGコーティングした384ウェルプレートに移して、発現したモデルペプチドを、Hisタグを介して捕捉した。洗浄(4×TBS、1×Factor Xa反応バッファ)後、各サンプルの一方の2反復を500nM Factor Xaプロテアーゼで一晩消化したが、他方の2反復を未処理のままにした。プレートをTBSTで洗浄した後、ビオチン化抗FLAG IgGを加えて、無傷のペプチドを、ストレプトアビジン:SULFO−TAG結合体を用いて検出した(Meso Scale Discovery SECTOR Imager 6000を用いて電気化学発光を測定した)。Factor Xa処理なしで得たシグナルを100%(インプット)に設定して、Factor Xa処理後の同サンプルについてシグナル比を算出した(Xa処理後に残ったシグナル[%])。これについて得られた値は、Factor Xa切断耐性ペプチドのパーセンテージを反映しており、チオエーテル架橋形成有効性の直接的な尺度である。
【0132】
図1に示すように、約60%の切断耐性ペプチドがNisB酵素およびNisC酵素の共発現直後に得られるが、修飾酵素の不在下で産生されたペプチドはほぼ完全に切断される(左のパネル)。対照的に、酵素によるチオエーテル架橋形成のための基質ではない、SからA(真ん中のパネル)またはCからA(右のパネル)への突然変異を含有するペプチド変異体は、NisBおよびNisCの共発現の存在下で産生される場合ですらFactor Xaによって完全に切断される。
【0133】
実施例2:前駆体ペプチドを含有するNisAリーダーのpIIIへのC末端融合は、プロデューサ細胞中での酵素によるチオエーテル架橋形成およびファージ上での提示を支持する
ほとんどのファージディスプレイ用途において、注目するタンパク質またはペプチドは、g3p(マイナーなコートタンパク質pIII)またはg8p(主要なコートタンパク質pVIII)のN末端に遺伝的に融合して、それぞれ一価提示および多価提示をもたらす。pIIIおよびpVIIIのN末端は、ファージ粒子体から離れる方に向けられて、これが、注目する推定のリガンドに結合するための提示されるタンパク質またはペプチドのアクセシビリティを支持すると考えられている。
【0134】
しかしながら、N末端上での注目するタンパク質の広く利用される提示に加えて、pIIIおよびpVIIIの対応するC末端上でのファージ提示の稀な例が記載されてきた(Fuh et al.,FEBS Lett.2000 Sep 1;480(2−3):231−4;Held et al.,J Mol Biol.2004 Jul 9;340(3):587−97)。
【0135】
ファージ上の環化されたモデルペプチドの提示について、図1に示すモデル前駆体ペプチド配列を含有する同じNisAリーダーを、ファージg3p(N末端切断型変異体pIII−CT)のN末端およびC末端の両方への遺伝的融合体としてファージミドベクター中にクローニングして、酵素によるペプチド修飾およびファージ粒子上の提示との適合性について試験した。
【0136】
本発明者らは、これらの融合体をコードするファージ粒子を同起源の修飾酵素の共発現の存在下または不在下で産生させて、これをFactor Xa切断リポータアッセイにかけた。
【0137】
まとめると、N末端またはC末端モデルの前駆体ペプチド(NisAリーダーを含有する)のpIIIへの融合のための発現プラスミドを収容する大腸菌(E.coli)MC1061F’細胞を、修飾NisB酵素およびNisC酵素をコードする第2の発現プラスミドの存在下または不在下で3反復増殖させた。培養体を24ウェルプレート内で37℃、220rpmにおいて初期の対数増殖期まで増殖させて、約10の感染多重度においてVCSM13ヘルパーファージを感染させた。感染細胞を遠心分離によって収穫した後、pIII融合体および修飾酵素の発現をIPTG含有培地によって誘導し、22℃において16時間にわたりファージ産生を進めた。遠心分離によるプロデューサ細胞の除去後、ファージ含有上澄みを、抗M13(Santa Cruz)IgGコーティングした384ウェルプレートに4反復移して、主要なコートタンパク質pVIIIを介してファージ粒子を捕捉した。
【0138】
洗浄(4×TBS、1×Factor Xa反応バッファ)後、一方の2反復サンプルを500nM Factor Xaプロテアーゼで一晩消化したが、他方の2反復を未処理のままにした。
【0139】
プレートをTBSTで洗浄した後、ビオチン化抗FLAG IgG(Sigma;N末端pIII融合体について)、またはビオチン化抗His IgG(R&D Systems;C末端pIII融合体について)を加えて、無傷のペプチドを、ストレプトアビジン:SULFO−TAG結合体を用いて検出した(Meso Scale Discovery SECTOR Imager 6000を用いて電気化学発光を測定した)。Factor Xa処理なしで得たシグナルを100%(インプット)に設定して、Factor Xa処理後の同サンプルについてシグナル比を算出した(Xa処理後に残ったシグナル[%])。これについて得られた値は、Factor Xa切断耐性ペプチドのパーセンテージを反映しており、チオエーテル架橋形成有効性の直接的な尺度である。
【0140】
図2Aに示すように、ファージ産生中のNisB酵素およびNisC酵素の共発現は、pIIIのC末端に融合した前駆体ペプチドの酵素によるチオエーテル架橋修飾、およびその後のファージ表面上での環状ペプチドの提示をもたらす(左のパネル)。対照的に、pIIIのN末端への同前駆体ペプチドの融合は、NisB/NisC媒介修飾をもたらさず、環状ペプチドをファージ上で検出することはできなかった(右のパネル)。この発見は、前駆体ペプチド融合キャリアとして、発現された可溶性のマルトース結合タンパク質(MBP)を用いて得た結果によってさらに支持され、C末端へのペプチド融合は、酵素で修飾されたが(図2C、左のパネル)、NisB/NisCは、N末端融合を修飾することができなかった(図2C、右のパネル;サンプル調製およびアッセイセットアップは、本質的に実施例1に記載したものである)。pIIIへのC末端前駆体ペプチド融合の関連で、チオエーテル架橋形成に関与する残基の突然変異、例えば、セリンからアラニン(pIII−NisA−Pep_A/C;図2B、左のパネル)、またはシステインからアラニン(pIII−NisA−Pep_S/A;図2B、右のパネル)は、環状ペプチドの形成および提示を排除している。これは、ペプチド修飾の調整が正確に達成されたことをさらに強調するものである。
【0141】
実施例3:翻訳後修飾ペプチドのC末端pIIIファージディスプレイは、広く適用可能であり、他の酵素系に移すことができる
ファージ構造タンパク質のC末端上での翻訳後修飾ペプチドの提示の記載したアプローチは、以下で概説するように、他の酵素修飾系または半酵素修飾系に容易に適応し得る。別の実施例において、モデル前駆体ペプチドは、プロクロロシン3.3(ProcA3.3)リーダーペプチドおよびコアペプチド配列
(配列番号6;Factor Xa切断部位ならびに翻訳後修飾用のフランキングするS残基およびC残基に下線を引いている)を含有するpIII(プラスミド:pL3C_P3.3_mut10−His)のC末端に融合し、Hisタグが続く。さらなるコントロール構築体において、親のコアペプチドのセリンをトレオニンに(デヒドロブチリンを介したメチルランチオニン形成について試験するために)突然変異させ、またはシステインをアラニンに(酵素によるチオエーテル架橋形成を防止するために)突然変異させた。
【0142】
天然に存在するいくつかのプロクロロシン(ProcA3.3が挙げられる)前駆体を修飾することが知られている二機能性デヒドラターゼ/シクラーゼをコードするプロクロロコッカス(Prochlorococcus)属MIT9313由来のprocM遺伝子を、染色体DNAから増幅して、大腸菌(E.coli)発現プラスミド中にクローニングした。モデル前駆体ペプチドを提示するファージを、先に記載したように、ProcM酵素共発現の存在下または不在下で産生させて、Factor Xa切断リポータアッセイにかけた。Xa切断耐性ペプチド融合体は、二重特異的修飾ProcM酵素の存在下で産生された場合、コア配列を含有するセリン/システイン(ProcA−Pep_S/C−pIII;図3、左のパネル)およびトレオニン/システイン(ProcA−Pep_T/C−pIII;図3、真ん中のパネル)の変異体について検出された。これは、ランチオニンおよびメチルランチオニンをそれぞれ含む環状ペプチドの形成および提示を示している。ここでも、チオエーテル架橋形成に関与するシステインがアラニンに突然変異した場合、環状ペプチドの形成/提示が無効にされた(ProcA−Pep_S/A−pIII;図3、右のパネル)。
【0143】
実施例4:環のサイズが可変的な翻訳後修飾ペプチドのC末端pIIIファージディスプレイ
環のサイズを調整したC末端pIIIペプチド融合体を、酵素的修飾に必要とされるシステインに対して、セリン残基およびトレオニン残基の間隔を調整することによりファージ上に提示することができる。別の実施例において、セリンからシステインまでの間隔が増大したモデル前駆体ペプチドをコードする配列を確立して、pIIIのC末端に融合させた。本明細書では、NisAリーダーペプチドに、FLAGタグ、および
モチーフ(配列番号11)、
モチーフ(配列番号12)、
モチーフ(配列番号13)、または
モチーフ(配列番号14;i,i+7、i,i+10、i,i+13、およびi,i+17の環サイズをそれぞれ可能とする;Factor Xa切断部位に下線を引いている)の何れかが続いて、Hisタグが続き、pIIIのC末端に融合した。同様に、ProcA3.3リーダーペプチドに、HAタグ、および
モチーフ(配列番号11)、
モチーフ(配列番号12)、
モチーフ(配列番号13)、または
モチーフ(配列番号14)の何れかが続いて、Hisタグが続き、pIIIのC末端に融合した。NisAリーダー配列またはProcAリーダー配列を有するモデル前駆体ペプチドを提示するファージをそれぞれ、先に記載したように同起源の修飾NisB/NisC酵素またはProcM酵素の存在下または不在下で産生させて、Factor Xa切断リポータアッセイにかけた。ファージ上に提示されたFactor Xa切断耐性(チオエーテル架橋)ペプチド融合を、NisB/NisC(図5A)およびProcM(図5B)の両方の酵素系を用いて観察した。切断耐性ペプチド融合体のパーセンテージによって判断されるように、試験したペプチドの修飾有効性は、大部分が環のサイズから独立している。
【0144】
実施例は、大腸菌(E.coli)中でのファージpIIIのC末端に融合したリーダー配列含有ペプチドの酵素による翻訳後修飾、およびその後のファージ粒子上での提示を実証している。類似した結果が、ファージの主要コートタンパク質pVIIIへのC末端前駆体ペプチド融合について予想され得る。
【0145】
本明細書に記載したアプローチの広い適用性が容易に明らかである。なぜなら、かなり遠縁の種、例えば乳酸菌およびシアノバクテリアに由来する異なる酵素機構/リーダーペプチド対を、翻訳後修飾を導入するのに効果的に用いることができるからである。同様に、この概念は、機能的に均等である他の前駆体ペプチド/酵素系に拡張することができる。
【0146】
要約すると、NisB等のデヒドラターゼまたはProcM等の二機能性酵素による、セリン残基およびトレオニン残基の非常に化学反応性のデヒドロアラニンおよびデヒドロブチリンそれぞれへの翻訳後脱水、ならびにNisC等のシクラーゼ、またはProcM等の二機能性酵素による環状ペプチドの形成は、ファージディスプレイに適合すると証明された。
【0147】
代わりとして、穏やかなアルカリ条件下において、ファージディスプレイされた、デヒドロアラニンを含有するペプチドは、隣接するシステイン残基およびリジン残基と容易に反応して、それぞれチオエーテル架橋およびリジノアラニン架橋を形成して、ファージ粒子上に提示される、拘束された種々のポリペプチド構築体を形成する。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]