(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つの前記被覆層(5)の層厚(15)は半径方向内側の表面(17)の領域で当該表面(17)のDIN EN ISO4287:2010の算術粗さ平均値Raの2倍よりも大きいことを特徴とする、請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のすべり軸受部材(1)。
すべり軸受部材裏面(8)における少なくとも1つの前記被覆層(5)の層厚(19)は半径方向内側の表面(17)の領域における少なくとも1つの前記被覆層(5)の層厚(15)の0.1倍から0.5倍の間であることを特徴とする、請求項1〜7のうちいずれか1項に記載のすべり軸受部材(1)。
少なくとも1つの前記被覆層(5)の錫ベース合金は0重量%から3重量%の間の銅および/またはアンチモンおよび0.01重量%から10重量%の間のビスマスおよび/または鉛を含んでいることを特徴とする、請求項1〜12のうちいずれか1項に記載のすべり軸受部材(1)。
少なくとも1つの前記被覆層(5)におけるβ錫粒子(13)は少なくとも1つの前記被覆層(5)の層厚(15)の10%から90%の間の平均粒度を有していることを特徴とする、請求項1〜13のうちいずれか1項に記載のすべり軸受部材(1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高負荷をうけるラジアルすべり軸受の慣らし運転段階中における摺動層の局所的な過負荷を低減し、ないしは回避することにある。
【0008】
高負荷をうけるラジアルすべり軸受は、特に、上記の説明区分によれば、高速回転および中速回転をするエンジンで採用されるラジアルすべり軸受である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、冒頭に述べたすべり軸受部材において、少なくとも1つの第1の錫ベース合金が、5以上、25以下の強度指数FIを有しており、少なくとも1つの別の錫ベース合金が、0.3以上、3以下の強度指数FIを有しており、摺動層の強度指数は、摺動層の上に直接配置される、少なくとも1つの被覆層の強度指数の少なくとも5倍であり、強度指数FIは次式
【0010】
【数1】
【0011】
によって定義され、式中、文字CはCu,Ni,Agの元素のうちの少なくとも1つを表し、文字SはSbおよび/またはAsおよび/または非金属粒子を表し、文字BはPb,Bi,Te,Tlの元素のうちの少なくとも1つを表し、ωはそれぞれの文字C,SおよびBに割り当てられる錫ベース合金の構成要素の合計割合を表すことによって解決される。
【0012】
このとき利点となるのは、少なくとも1つの別の錫ベース合金からなる強度の低い被覆層が、慣らし運転中に迅速に摩耗することである。ただしこのとき、摩滅した粒子が潤滑油とともに運び出されるのではなく、ないしは全面的に運び出されるのではなく、この軟質の層の比較的高い延性に基づき、摺動層の表面の波形の平坦化が行われる。その下に配置されている強度指数の高い摺動層は、その際に少なくとも1つの被覆層のための支持をするように作用する。これに加えてこの層構造は、すべり軸受部材の慣らし運転の後、機械的な加工により生じた少なくとも1つの摺動層の表面の谷部の中で、強度指数の低い少なくとも1つの被覆層が少なくとも部分的に維持されるという利点がある。それによりこの層は、すべり軸受部材の通常動作のときにそのトライボロジー挙動に関して、特にすべり軸受部材の異物粒子の埋設能力ないし潤滑挙動に関して協同作用する。このとき少なくとも1つの摺動層の波形の隆起部によって、谷部の少なくとも1つの別の錫ベース合金のための支持作用が実現される。これに加えて被覆層は、軸受表面の凸部に合わせた軸受表面の適合化も広面積にわたって改善する。このような適合化の必要性は、表面の凸部、底面穴、軸受形状の表面ジオメトリーの相違(たとえば真円度、円錐度、本体相互のアライメント)によってもたらされる。このような相違は、当然ながら、各コンポーネントのサイズにともなって増大する。従来技術から知られる「錫フラッシュ」は、慣らし運転段階で急速に摩耗落ちするので、このような要求事項を十分に満たすことができない。
【0013】
すべり軸受部材の1つの実施態様では、少なくとも1つの被覆層が少なくともすべり軸受部材裏面にも配置されることが意図されていてよい。少なくとも1つの被覆層は、すべり軸受部材の残りの層を包み込むのが特別に好ましい。それにより、1工程で、すべり軸受部材裏面だけでなく、少なくとも1つの摺動層の半径方向内側の表面にも少なくとも1つの別の錫ベース合金を設けることが可能であり、少なくとも1つの別の錫ベース合金が、半径方向内側の表面上で上に述べた効果を惹起するが、すべり軸受部材裏面では同時に腐食防止部としても利用することができる。このように、すべり軸受部材の前面と裏面での同時の析出により、すべり軸受部材を製造するときの相応の時間節約を実現することができる。少なくとも1つの被覆層が他の層を全面的に包み込み、すなわち、それにより少なくとも1つの被覆層が軸方向の端面にも析出される実施態様にも、同様のことが当てはまる。ただしこのケースでは、少なくとも1つの被覆層はアキシャルすべり面としても作用する。
【0014】
すべり軸受部材のさらに別の好ましい実施態様では、少なくとも1つの被覆層は少なくとも半径方向内側の表面の領域で軸受内径の少なくとも5×10
-6から軸受内径の50×10
-6までの範囲から選択された層厚を有しており、少なくとも1つの被覆層の層厚は1.5μm以上、15μm以下であることが意図されていてよい。すなわちこの実施態様により、前述した絶対的な限界値内で、少なくとも1つの被覆層の層厚を決定するにあたり、軸受内径と軸受クリアランスも考慮される。それにより、少なくとも2つの異なる錫ベース合金からなる層構造との協同作用で潤滑剤膜の摩滅をより良く防止することができ、それにより、慣らし運転段階でのすべり軸受部材の損傷をいっそう効果的に防ぐことができる。
【0015】
さらに別の実施態様では、少なくとも1つの被覆層の層厚は半径方向内側の表面の領域で、DIN EN ISO4287:2010に定める当該表面の算術粗さ平均値Raの2倍よりも大きくなっており、および/または少なくとも1つの被覆層の層厚は半径方向内側の表面の領域で、DIN EN ISO4287:2010に定める当該表面の平均最大高さ粗さRzの2倍よりも小さくなっていることを意図することができる。少なくとも1つの被覆層の層厚は、これら両方の条件が該当するように選択されるのが好ましい。 一方ではRaを考慮することで、少なくとも1つの被覆層の下の比較的硬い摺動層の慣らし運転中におけるネガティブな影響をいっそう低減することができ、他方ではRzを考慮することで、少なくとも1つの被覆層が少なくとも1つの摺動層による十分な支持作用を維持できる。
【0016】
すべり軸受部材裏面における少なくとも1つの被覆層の層厚は、半径方向内側の表面の領域における少なくとも1つの被覆層の層厚の0.1倍から0.5倍であり得る。すべり軸受部材は軸受シートで回転するべきでなく、すべり軸受部材裏面の少なくとも1つの別の層は2つの硬質の素材の間に配置され、すなわちすべり軸受部材の支持層と軸受マウントの素材との間に配置され、さらには、すべり軸受部材裏面には軸受マウントとすべり軸受部材の間のミクロ運動しか予想されないので、すべり軸受部材裏面における少なくとも1つの被覆層の層厚が低減されるのが好ましい。すべり軸受部材裏面における少なくとも1つの被覆層は摩滅することが意図されないからである。層厚を低減することで、少なくとも1つの被覆層に対する支持層の支持作用をより良く有効にすることができる。他方では、すべり軸受部材裏面における少なくとも1つの被覆層により、すべり軸受部材にとっての腐食防止も実現することができる。
【0017】
さらに別の実施態様では、層厚は、VDA2007「ドミナント波形の幾何学的な製品仕様、表面性質、定義、および特性量」に基づく測定方法によるドミナント波形プロフィルWDcの平均高さの0.3倍から5倍、特に1倍から2倍の大きさであることが意図されていてよい。
【0018】
少なくとも1つの摺動層および少なくとも1つの被覆層の錫ベース合金は、それ自体公知であるようにβ錫粒子を含む。このとき、少なくとも1つの摺動層および/または少なくとも1つの被覆層の互いに当接する少なくとも2つの層におけるβ錫粒子の優先配向がほぼ同じであると好ましく、互いに当接する両方の層は摺動層と被覆層であるのが好ましい。このとき、最高の配向指数を有する被覆層のX線回折強度が摺動層の最高の配向指数を有するX線回折強度でもあり、もしくは、最高の配向指数を有する摺動層の3つのX線回折強度のうちの1つであり、または、特に被覆層の2番目および/または3番目に高い配向指数を有するX線回折強度も、摺動層の2番目および/または3番目の配向指数を有するX線回折強度であると特別に好ましい。このとき1.5以下、特に2以下の指数を有するX線回折強度は、アライメントが低すぎるとして無視される。それにより、互いに結合された両方の層の結合強度を改善することができる。互いに当接する層の境界面のところで、一方の層の粒子が他方の層の「隙間」へ良好に嵌り合うことによって、一種の噛合効果が観察されるからである。
【0019】
少なくとも1つの摺動層の錫ベース合金は0重量%から40重量%のアンチモンおよび/または0重量%から25重量%の銅を含んでいるのが好ましく、それにより、少なくとも1つの摺動層が、一方では摩滅に由来する異物粒子に対する良好な埋設能力を有し、他方では相応に高い強度を有する。
【0020】
少なくとも1つの被覆層の錫ベース合金は、0重量%から3重量%の銅および/またはアンチモンと、0.01から10重量%のビスマスおよび/または鉛とを含むことができ、それにより、少なくとも1つの被覆層をいっそう容易に変形可能に構成することができる。このことはひいては、すべり軸受部材の慣らし運転段階中における少なくとも1つの被覆層を有する少なくとも1つの摺動層の波形の上に挙げた平坦化効果に対してプラスに作用する。
【0021】
少なくとも1つの被覆層はβ錫粒子のただ1つの粒子層を有することを意図することができ、それにより、少なくとも1つの摺動層の表面の波形の谷部で少なくとも1つの被覆層の結合強度を改善することができる。
【0022】
別の実施態様では、少なくとも1つの被覆層のβ錫粒子は、少なくとも1つの被覆層の層厚の10%から90%の間の平均粒度を有することが意図される。この範囲内の平均粒度を有するβ錫粒子の構成により、β錫粒子からなるマトリクスをいっそう容易に変形可能に構成することができ、それによってマトリクスがそれ自体として低い強度指数を有することになる。それにより、少なくとも1つの被覆層の強度指数の範囲から逸脱することなしに、それ自体として強度向上をさせるようにマトリクスに対して作用するいっそう高い割合の別の元素を合金添加し、そのようにして、少なくとも1つの被覆層のトライボロジー特性を他の合金元素を通じて改善することが可能である。
【0023】
少なくとも1つの被覆層は電解析出されるのが好ましい。それにより、指向性の粒子成長の構成をより良く制御可能だからである。これに加えて、それにより上に挙げた少なくとも2つの側での、好ましくは全面的に包み込む、少なくとも1つの被覆層の析出もいっそう容易に具体化することができる。
【0024】
さらに、少なくとも1つの被覆層は少なくとも1つの摺動層の上に直接配置されることが意図されていてよく、それにより、すべり軸受部材支持割合および慣らし運転時間の短縮および慣らし運転時間中のすべり軸受部材の改善された支持能力に関して、上に述べた効果をいっそう改善することができる。
【0025】
本発明のより良い理解のために、以下の図面を参照しながら本発明を詳しく説明する。
図面はそれぞれ簡素化された模式的な図を示している:
【発明を実施するための形態】
【0027】
はじめに断っておくと、別々に説明されている実施形態においても、同じ部品には同じ符号ないし同じ部品名称が付されており、説明全体に含まれている開示は、同じ符号ないし同じ部品名称をもつ同じ部品にも内容に即して転用することができる。説明の中で選択している位置指定、たとえば上側、下側、側方なども、直接的に記載ならびに図示されている図面を対象とするものであるが、このような位置指定も位置変更をすれば内容に即して新たな位置に転用することができる。
【0028】
図1には、金属製のすべり軸受部材1、特にラジアルすべり軸受部材が側面図として示されている。これはすべり軸受部材本体2を有している。すべり軸受部材本体2は、支持層3と、その上に配置された少なくとも1つの軸受金属層3aと、その上に配置された少なくとも1つの摺動層4と、少なくとも1つの摺動層4の上に配置された少なくとも1つの被覆層5(被覆層)とをこの順番で含んでおり、ないしは支持層3と、少なくとも1つの摺動層4と、これと結合された少なくとも1つの被覆層5とで成り立っている。少なくとも1つの被覆層5は、少なくとも1つの摺動層4の上に直接配置されて、これと結合されるのが好ましい。
【0029】
摺動層4および被覆層5に関わる「少なくとも1つの」という概念により、摺動層4が異なる組成の複数の個別層から構成されていてよく、および/または被覆層5が異なる組成の複数の個別層から構成されていてよく、ないしは、これら複数の個別層で成り立っていてよいことを表現するものとする。あるいは、摺動層4および/または被覆層5の少なくともいくつかの合金元素の濃度が、すべり軸受部材1の半径方向内側の表面へと向かう方向で連続的に減少または増加していくことも考えられる。これらすべてのケースにおいて摺動層4および被覆層5の組成は、表1に掲げるこれら両方の層の一般的な組成についての以下の記載に準じて、これらが摺動層4全体および被覆層5全体の個々の合金元素の平均の量割合を表していると理解されるものとする。
【0030】
さらに摺動層4は、特に支持層3を形成する支持部材の上で直接配置されることが可能であり、すなわちそれによって軸受金属層3aが省略される。このような直接コーティングは、たとえばコンロッドアイで適用される。少なくとも1つの被覆層5は、この実施態様の場合にも摺動層4の上に配置される。場合により、この実施態様では支持部材と少なくとも1つの摺動層4との間に結合層および/または拡散遮蔽層を配置することができる。
【0031】
図1に破線で示すところに見られるとおり、すべり軸受部材本体2は追加の層、たとえば少なくとも1つの被覆層4と少なくとも1つの摺動層3との間に配置された少なくとも1つの中間層6も有することができる。少なくとも1つの中間層6は、たとえば拡散遮蔽層および/または少なくとも1つの結合層であってよい。
【0032】
さらに、少なくとも1つの被覆層5が少なくとも1つの摺動層4の半径方向内側の表面7に配置されるだけでなく、
図1に同じく破線で示すように、少なくとも1つの被覆層5がすべり軸受部材裏面8にも配置されることが可能である。そのさらに別の実施態様では、少なくとも1つの被覆層5は、すべり軸受部材本体2の少なくとも近似的にすべての、ないしはすべての表面に、すなわち軸方向の端面9および/または半径方向の端面10にも、配置されることが意図されていてよい。
【0033】
すべり軸受部材1は、少なくとも1つの他のすべり軸受部材とともに、−設計上の構造に応じて1つを超える別のすべり軸受部材が存在し得る−、それ自体知られているようにすべり軸受を形成する。このとき、すべり軸受の作動時に比較的高い負荷をうけるすべり軸受部材は、本発明に基づくすべり軸受部材1によって形成されるのが好ましい。あるいは、少なくとも1つの別のすべり軸受部材のうち少なくとも1つが、本発明に基づくすべり軸受部材1によって形成されるという選択肢もある。
【0034】
図1に示すすべり軸受部材1はハーフシェルの形態で構成されている。さらに、すべり軸受部材1がすべり軸受ブッシュとして構成されることが可能である。このケースでは、すべり軸受部材1が同時にすべり軸受となる。さらにはこれ以外の分割、たとえば3分割という選択肢もあり、それにより、すべり軸受部材1は2つの他のすべり軸受部材と1つのすべり軸受をなすように組み合わされ、これら両方の他のすべり軸受部材のうち少なくとも1つは同じくすべり軸受部材1として構成されていてよい。このケースでは、すべり軸受部材は180°の角度範囲ではなく120°の角度範囲を覆う。
【0035】
特にすべり軸受部材1は、自動車産業ないし上記の説明に準ずるエンジンで適用するために意図される。
【0036】
支持層3は鋼材でできているのが好ましいが、これ以外の適当な素材、たとえば青銅などでできていてもよい。
【0037】
軸受金属層3aは、この目的のために従来技術から知られているような銅ベース合金またはアルミニウムベース合金からなる。たとえば軸受金属層3aはDIN ISO 4383に定める銅ベースの合金、たとえばCu−Sn10%,Cu−Al10%−Fe5%−Ni5%,Cu−Zn31%−Si,Cu−Pb24%−Sn2%,Cu−Sn8%−Bi10%,Cu−Sn4%−Znなどからなる。
【0038】
少なくとも1つの中間層6は、この目的のために従来技術から知られる素材からなる。
【0039】
少なくとも1つの摺動層4は、少なくとも1つの第1の錫ベース合金からなる。少なくとも1つの被覆層5は、少なくとも1つの別の錫ベース合金からなる。少なくとも1つの第1の錫ベース合金と少なくとも1つの別の錫ベース合金は、いずれもβ錫粒子と、Cu,Ni,Ag,Sb,Pb,Bi,Te,Tlを含む、またはこれらからなる群に属する1つまたは複数の元素とからなるマトリクスからなる。さらに、このような少なくとも1つの元素の代替として、またはその追加として、非金属粒子が少なくとも1つの第1の錫ベース合金および/または少なくとも1つの別の錫ベース合金に含まれていてもよい。非金属粒子は特に無機粒子、たとえばAl
2O
3,Si
3N
4,TiO
2,SiCなどである。無機粒子は0.05μmから5μmの間、特に0.1μmから2μmの間の最大の粒子サイズを有するのが好ましい。
【0040】
最大の粒子サイズは規格ISO13320:2009に準ずるレーザ回折によって判定される。
【0041】
図2には、粗さプロフィル(図の左側の部分)と支持割合曲線(図の右側の部分)が示されている。これにより、本発明の根底にある問題を詳しく説明することにする。
【0042】
上に説明したとおり、高負荷のかかるラジアルすべり軸受では強化された表面コーティングが用いられる。基材がコーティングされた後の精密中ぐりやブローチといった通常の最終加工は、溝の形成に基づき、半径方向ないし軸方向で表面の波形を引き起こす。このようなミクロの波形は、強化された表面コーティングにおいて、動作開始時に極端に高い局所的な負荷をもたらす。表面の起伏により、シャフトは主として溝先端部によって、きわめて薄い、状況によっては摩滅した油膜を介して支承される。
【0043】
図2の左側の部分には、精密中ぐりで生じるような軸方向の粗さプロフィルが示されている。
【0044】
精密中ぐりスピンドルの回転によって波形が生じ、たとえば0.1−0.2mmの波形先端部の間の間隔11が1回転ごとの送りによって生じる。
【0045】
このような波形に本来のランダムな粗さが重なり合うが、その帯域幅はしばしばプロフィル高さのごく一部−本例ではおよそ4分の1−を占めるにすぎず、その様子は
図2に波形の「ジグザグ形の」プロフィルによって図示されている。
【0046】
図2の右側には、左側に示す粗さプロフィルに対する支持割合曲線(アボット曲線)が示されている。
【0047】
粗さピークのわずかな可塑変形と摩耗により、本例ではすべり軸受部材の慣らし運転の開始時には、軸受表面の接触面積のわずか約20%の部分で軸が支持されている(支持割合20%)。
【0048】
潤滑剤が、力の一部を、軸受表面の凹凸面の低いところに位置するプロフィル領域へも伝達するが、特に、低粘性の薄い潤滑油を使用した場合にはこの割合が低くなる。
【0049】
すなわち約2倍(支持割合50%)から5倍(支持割合20%)だけ高い負荷が表面で予想される。強化されたコーティングの卓越した耐摩耗性により、慣らし運転段階、すなわちプロフィルの約80%(したがって潤滑剤を考慮に入れれば表面の約100%)がシャフトの支持に貢献するまでの時間が、大幅に遅くなる。
【0050】
約2倍から5倍だけ高くなった局所的な負荷は、強化された層の疲労強度も上回り、その結果、早期の損傷へとつながる。
【0051】
約0.1mmの間隔での表面の小規模な誤差だけが局所的な支持割合を低減させるわけではなく、ミリメートル(たとえばエッジ部)やセンチメートル(摺動面の壁厚変動)の間隔での類似する大きさの形状誤差も、支持割合に不都合な影響を及ぼす。
【0052】
高負荷をうけるすべり軸受部材のこのような問題をより良く統御できるようにするために、本発明に基づくすべり軸受部材1は、少なくとも1つの摺動層4と、好ましくは少なくとも1つの摺動層4の上に直接配置される少なくとも1つの被覆層5からからなる組み合わせを有している。これに関して
図3には、
図1のすべり軸受部材1の一部分が示されている。この図面から明らかなとおり、少なくとも1つの被覆層5は、少なくとも1つの別の摺動層4の表面7の波形に倣って形成される。
【0053】
このとき少なくとも1つの摺動層4は、少なくとも1つの第1の錫ベース合金でできており、少なくとも1つの第1の錫ベース合金は少なくとも5以上、かつ25以下、特には10以上、かつ25以下の強度指数FIを有している。少なくとも1つの被覆層5は少なくとも1つの別の錫ベース合金でできているが、この錫ベース合金は少なくとも0.3以上、かつ3以下、特には0.3以上、かつ1.5以下の強度指数FIを有するにすぎない。
【0054】
このような両方の層の組み合わせによって、少なくとも1つの被覆層5の数マイクロメートルの摩耗が、支持割合の明らかな改善およびこれにともなって局所的な過負荷の明らかな低減をもたらすことが実現される。
強度指数FIは次式
【数2】
によって定義され、式中、文字CはCu,Ni,Agの元素のうちの少なくとも1つを表し、文字SはSbおよび/または非金属粒子を表し、文字BはPb,Bi,Te,Tlの元素のうちの少なくとも1つを表し、ωはそれぞれの文字C,SおよびBに割り当てられる錫ベース合金の構成要素の合計割合を表す。
【0055】
被覆層5の0.3の強度指数のもとでは、純錫層を有するものと比較したときのすべり軸受部材1のトライボロジー挙動の大幅な改善は観察できなかった。その理由はおそらく、工業的な純錫であっても当然ながら不純物を有していることにある。錫は今日、通常99.95%超の純度で入手できる。それぞれ約0.005−0.01%の鉛、アンチモン、ビスマス(3つの主不純物元素)による個別不純物は標準である。電解製造プロセスが適用される場合、アンチモンとビスマスの各元素は通常さらに少なくなる。これらはアノードからわずかにしか電解質に溶解しないからである。それにより、たとえばいわゆる錫フラッシュのために使用される析出した錫は、いっそう低い含有率の「不純物」を有している。すなわち少なくとも0.3の強度指数は、通常の不純物を含む純錫によっては実現できないのである。
【0056】
鉛、アンチモン、またはビスマスによるドーピングのない錫合金は、低温保管されるときの同素変態に対して十分な程度に保護されない。合計で、0.04%の鉛、ビスマス、およびアンチモンの含有によって、変態開始までの時間と変態速度を十分に遅延させることができる。
【0057】
被覆層5の強度指数が3超においては、被覆層の適合化能力が、高い強度によって低減する。
【0058】
さらに、少なくとも1つの摺動層4と少なくとも1つの被覆層5の間に移行領域が構成されることが可能である。この理由により、本明細書では「少なくとも1つの摺動層4」ないし「少なくとも1つの被覆層5」という表現を使用している。それにより、摺動層4および/または被覆層5を多層に構成されたものとみなすことができるからである。
【0059】
摺動層4と被覆層5の間の移行領域は、少なくとも3以上5以下の強度指数FIを有することができる。
【0060】
それにより、摺動層4と被覆層5からなる層システムを、半径方向への強度指数が傾斜変化する勾配層として構成することも可能である。
【0061】
移行領域は、被覆層5の層厚15よりも大きくない層厚を有するのが好ましい。したがって、被覆層5の層厚15について上に挙げた値が移行領域にも当てはまる。
【0062】
摺動層4も少なくとも0.04%の鉛、ビスマス、およびアンチモンの合計割合を含んでいるのが好ましい。
【0063】
摺動層4の強度指数FIが5未満であるとき、摺動層は、すべり軸受部材1の希望される特性プロフィルに相当するのではない耐摩耗性を有する。その一方で、その適合化能力と汚れ埋設能力(慣らし運転された状態のときも含む)は、25を超える強度指数では明らかに低下する。
【0064】
少なくとも1つの被覆層5は電解析出されるのが好ましい。少なくとも1つの摺動層4も、電解析出されるのが好ましい。電解析出はそれ自体として公知であるので、この点に関しては、錫ベース合金の電解析出の条件の範囲内において本件明細書に取り入れられる、たとえば出願人に由来するオーストリア特許第509111B1号明細書やオーストリア特許第509867B1号明細書などの関連する従来技術を参照されたい。
【0065】
少なくとも1つの被覆層5の析出後、たとえば精密中ぐりによるすべり軸受部材1の最終加工は行われないのが好ましく、ないしは、最終加工はもはや必要ない。
【0066】
少なくとも1つの被覆層5をすべり軸受裏面8にも、ないしはすべり軸受部材1のその他の表面にも、特に視覚的に魅力があり、錆の形成に対して防護された薄い錫フラッシュの形態で析出しようとする場合、このことは、すべり軸受部材1の半径方向内側の面での少なくとも1つの被覆層5の析出と組み合わせることができる。このとき層厚は、すべり軸受部材裏面8のところで低減させることができ、それは、半径方向内側と半径方向外側とで電流の強さおよび/またはコーティング時間が相応に相違するように選択されることによる。
【0067】
非金属粒子は、それぞれの電解浴に添加して、錫とともに析出させることができる。
【0068】
少なくとも1つの摺動層4および少なくとも1つの被覆層5のそれぞれの強度指数は、それぞれの層の組成を通じて調整することができる。一般に、これらの層は下記の表1に掲げる個々の構成要素の割合を有しており、残りを錫が形成して100重量%になる。表1ならびに全般に説明全体の量割合に関するすべての数字指定は(明文による何らかの別段の記載がない限り)、重量%の単位で理解されるべきものである。
【0070】
組成に関するこれらの記載は、摺動層4および被覆層5の錫ベース合金が、いずれの場合にも、表1のこれらの合金元素のうち少なくとも1つを含むと理解されるべきものである。そうしないと、これらの層の希望される強度指数が実現されないからである。すなわち、摺動層4のための純錫および被覆層5のための純錫は除外される。
【0071】
すべり軸受部材1の好ましい実施態様では、少なくとも1つの摺動層4の錫ベース合金は2重量%から12重量%の間のアンチモンおよび/または2重量%から12重量%の銅を含んでおり、および/または少なくとも1つの被覆層5の錫ベース合金は0重量%から0.5重量%の銅、または0重量%から0.5重量%のアンチモン、または0重量%から0.5重量%の銅とアンチモン、および0.01から10重量%のビスマス、または0.01から2重量%の鉛、または0.01から10重量%のビスマスと鉛を含むことが意図されていてよい。
【0072】
すべり軸受部材1の別の好ましい実施態様では、少なくとも1つの摺動層4および/または少なくとも1つの被覆層5の錫ベース合金は、表1に掲げる合金元素の、特に錫、アンチモン、およびビスマスの各元素の、少なくとも0.04重量%、特に少なくとも0.3重量%の合計割合を含んでいることが意図されていてよく、この層ないしこれらの層におけるこれらの元素の占める割合の上限は前掲の指定によって定義される。
【0073】
下記の表には、いくつかの比較例ならびに本発明に基づくすべり軸受部材1の実施例が示されている。
【0074】
さまざまな態様の被覆層5をすべり軸受ハーフシェル(幅25mm、直径80mm)に塗布し、動的なすべり軸受試験を施した。使用したすべり軸受シェルは不都合な表面性質を有している(Ra=0.7μm、Rq=0.8μm、Rz=2.8μm、Rt=3μm)。
【0075】
それぞれ2回の試験を実施した。1つは摺動面の傾斜のない試験であり(態様1)、第2の試験は0.5μm/mmだけ摺動面の傾斜のある試験である(態様2)。これら2回の試験は、理想的に一直線上に並ばない穴がある場合や、たとえば屈曲したコンロッドの場合に発生するような極端な負荷をエッジに対して及ぼす。態様1の試験は摩耗と顕微鏡所見に基づいて判定し、態様2の試験は目視と顕微鏡検査により判定した。個別評価を実験ごとに総合評価数0−5としてまとめた(0=非常に悪い、5=非常に良い)。
【0076】
より良い比較可能性のために、すべり軸受部材1の層構造は摺動層4を含めて一定に保ち、被覆層5だけを変化させた。
【0077】
コーティングの厚みは別段の断りがない限り20μmで同じく一定に保ち、摺動層4の厚みを含むとともに、本発明に基づく例では被覆層5の厚みを含む。
【0078】
組成の列において、元素ごとの数字はそのパーセンテージの質量割合を意味する(たとえばSnTe1は、1重量%のテルルを含む錫を意味する)。略語FIは強度指数を表す。左欄において、構造についての表では数字5は被覆層5を表し、数字4は摺動層4を表す。結果の表において、左列で数字1は態様1を表し、数字2は態様2を表す。これらの命名法は、明細書全体の例に関する表に当てはまる。
【0080】
被覆被覆層5が薄すぎ、摺動層4が軟質すぎたことが明らかである。
【0082】
被覆被覆層5が軟質すぎたことが明らかである。
【0085】
この層構造では摺動層4が軟質すぎた。
【0097】
比較例2と比べたとき、すべり軸受部材1の支持能力の改善が実現された。
【0099】
この例では比較例3と比べたとき、すべり軸受部材1の支持能力の改善が実現された。
【0101】
比較例4と比べたとき、ここでは両方の試験態様に関わる改善が示された。
【0103】
比較例6と比べたとき、ここではすべり軸受部材1の耐久性に関わる改善が示された。
【0105】
比較例7と比べたとき、疲れ亀裂に関わる改善が実現された。
【0107】
比較例8と比べたとき、すべり面に対して法線方向の摩耗は大きくなっているものの、試験態様2に関わる改善が実現された。
【0109】
比較例9と比べたとき、傾斜していない支承に関しても傾斜した支承に関しても改善が示された。
【0111】
これらの結果を参照すると明らかなとおり、これらの実施態様は傾斜している支承について非常に適していない。
【0113】
高いSbを含む。
これらの結果は上記の例9に類似しているが、ここでは傾斜した支承に関わる改善が実現されている。
【0115】
このすべり軸受部材1は例9に類似する支持能力を示す。
【0117】
摺動層4に対して相対的に被覆被覆層5の非常に大きい厚みによって、すべり面に対して法線方向の負荷に関わる摩耗が増大している。
【0119】
例12のこの構造は両方の試験態様に関して良好な結果を示しており、それにより、傾斜していない支承でも、傾斜した支承でも双方に適用することができる。
【0121】
さらに、コンロッドアイの直接コーティングされた底面穴を用いた2つの実験も行い、その際には両方のケースとも、完成した穴内径は試験軸受と同様であったが、摺動層4と被覆層5の合計厚さは、明らかに大きい40μmの層厚を有していた。
これらの実験ではコーティングは、付着を仲介する薄い中間層を備える鋼材に直接塗布された。
【0126】
すでに述べたとおり、摺動層4は、それぞれ異なる組成の複数の部分層が組み合わされていてよい。それにより、これらの部分層の強度指数がすべり軸受部材裏面8に向かう方向で高くなっていくことが可能である。同様のことは少なくとも1つの被覆層5にも当てはまる。個々の部分層の組成は、各表に掲げる例に準じて、ないしは一般に表1に掲げる錫ベース合金の個々の構成要素の割合の値に準じて、選択することができる。
【0127】
以下に一例として、複数の部分層からなる摺動層4および被覆層5の製造について説明する。掲げている電解質への考えられる添加物に関しては、オーストリア特許第509112B1号明細書を参照指示し、この点に関して同明細書を明文をもって引用する。
【0128】
実施例16
摺動層4を析出するための電解質
Sn.....50g/L(テトラフルオロホウ酸錫(II)として)
Sb.....7g/L(三フッ化アンチモンとして)
Cu.....7g/L(テトラフルオロホウ酸銅として)
【0130】
被覆層5を析出するための電解質
Sn.....40g/L(テトラフルオロホウ酸錫(II)として)
Sb.....0.5g/L(三フッ化アンチモンとして)
Cu...0.2g/L(テトラフルオロホウ酸銅として)
【0132】
実施例17
摺動層4を析出するための電解質
Sn.....50g/L(メタンスルホン酸錫(II)として)
Cu...7g/L(テトラフルオロホウ酸銅として)
Bi....5g/L(メタンスルホン酸ビスマスとして)
【0134】
被覆層5を析出するための電解質
Sn.....20g/L(メタンスルホン酸錫(II)として)
Bi.....1g/L(メタンスルホン酸ビスマスとして)
Cu...0.5g/L(テトラフルオロホウ酸銅として)
【0136】
次に、すべり軸受部材1のその他の実施態様について説明する。
【0137】
図4から明らかなように、被覆層5はβ錫粒子13の単一の粒子層12でできている。ここでは被覆層5の錫ベース合金またはその他の構成要素の金属間化合物(フェーズ)14が、ないしは非金属粒子14が、これらのβ錫粒子13の間でその粒子境界のところに埋め込まれていてよい。
図4から明らかなとおり、摺動層4のβ錫粒子13の異なる粒度に基づき、被覆層5との境界面のところに起伏のある摺動層表面が生じていて、被覆層5のβ錫粒子13は摺動層4のβ錫粒子13の上に直接成長している。それにより、摺動層4の上での被覆層5のいっそう高い結合強度をもたらす一種の噛合効果を実現することができる。
【0138】
少なくとも1つの被覆層5におけるβ錫粒子13は、上に述べた理由により、少なくとも1つの被覆層5の層厚15(
図3)の10%から90%の間の平均粒度を有するのが好ましい。
【0139】
平均粒度はレーザ回折により、上に説明したように決定される。
【0140】
さらに、少なくとも1つの摺動層4および/または少なくとも1つの被覆層5の互いに当接する少なくとも2つの層におけるβ錫粒子13の優先配向が等しいと好ましい。特に摺動層4のβ錫粒子と、その上に配置されてこれと結合される被覆層5のβ錫粒子13は、等しい優先配向を有している。このとき、最高の配向指数を有する被覆層5のX線回折強度が、摺動層4の最高の配向指数を有するX線回折強度でもあり、もしくは、最高の配向指数を有する摺動層4の3つのX線回折強度のうちの1つであり、または、特に被覆層5の2番目および/または3番目に高い配向指数を有するX線回折強度も、摺動層4の2番目および/または3番目の配向指数を有するX線回折強度であると特別に好ましい。このとき1.5以下、特に2以下の指数を有するX線回折強度は、アライメントが低すぎるとして無視される。
【0141】
β錫粒子13は、{220}および/または{321}(ミラー指数)に基づく配向であるのが好ましい。
優先配向を定量的に記述するために、配向指数M{hkl}が次の式に準じて利用される:
【数3】
ここでI{hkl}は、摺動層の{hkl}平面についてのXRD強度(X線回折強度)を表し、I
0{hkl}は、完全に非配向の錫粉末試料(ICDD PDF00−004−0673)のXRD強度を表す。
【0142】
回折強度の合算ΣI{hkl}ないしΣI
0{hkl}は同一の領域にわたって行われなければならず、たとえば{200}から{431}までの反射のすべての強度を含まなければならず、このことは、CuKα放射を使用する場合、30°から90°の間の回折角2θを含むすべての反射に相当する。
【0143】
下記の表には、他の合金元素の0.005重量%よりも少ない割合および12.5の強度指数FIを有するSnCu10Sb5の摺動層4(略号QZ2)、他の合金元素の0.005重量%よりも少ない割合および12.5の強度指数FIを有する、他の合金元素の0.005重量%よりも少ない割合と1.3の強度指数とを有する合金SnCu1Bi0.02が被覆層5として上に配置されたSnCu10Sb5の摺動層4(略号QZ4)、および従来技術に相当する摺動層SnCu6Pb1(略号Ref.1)のX線回折強度(行3から5)ならびにこれに対応する配向指数(行6から8)がそれぞれ掲げられている。略号Sn−Ref.は、完全に非配向の錫粉末(ICDD PDF00−004−0673)を表す。
【0145】
下に掲げる試験結果については、QZ02の配向がアライメントa、QZ04の配向がアライメントb、およびRef.1の配向がアライメントcで表されている。
【0148】
ここでβ錫粒子13は、
図4に示すように、長尺状の晶相(ハビトゥス)を有することができ、β錫粒子13はその長軸をもって、すべり軸受部材1の内表面17(
図1)に対して法線方向に配向されていてよい。ここで特に好ましいのは、長尺状のβ錫粒子13は、少なくとも近似的に正方形の断面(被覆層5の摺動面に並行した方向へ)の形態を有し、それにより、粒界の面積規模を低減することができるからである。それによってすべり軸受部材1の支持能力を改善することができる。
【0149】
あるいはこれと同じ理由により、β錫粒子13が少なくとも近似的にサイコロ形の形態を有するのが好ましい場合もあり得る。
【0150】
さまざまな被覆層5を試験する過程で確認されたのは、0.2μm未満のβ錫粒子13の粒度のとき、非常に高い内部応力が被覆層5で発生することである。10μmを超える粒度では、潤滑油の均等な保持や、好ましい潤滑間隙の形成を妨げる表面が生じる。
【0151】
すべり軸受部材1のさらに別の実施態様では、少なくとも1つの被覆層5におけるβ錫粒子13の平均粒度、特に粒度が、摺動層4におけるβ錫粒子13の平均粒度、特に粒度よりも大きいことが意図されていてよい。このことは、たとえば電解析出中に析出パラメータを変更することで実現することができ、それは、たとえば浴温度が引き上げられ、および/または析出速度、および/または電解浴中の錫濃度が引き下げられることによる。すべり軸受部材1の後からの温度処理も、この目的のために行うことができる。
【0152】
少なくとも1つの被覆層5のβ錫粒子13は、摺動層4のβ錫粒子13の上に直接成長させるのが好ましい。
【0153】
さらに、少なくとも1つの被覆層5は、摺動層4の少なくとも半径方向内側の表面7(
図3)の領域で、軸受内径16(
図1)の少なくとも5×10
-6から軸受内径16(
図1)の50×10
-6までの範囲から選択された層厚15(
図3)を有していると好ましく、少なくとも1つの被覆層5の層厚15は1.5μm以上、15μm以下、好ましくは2μm以上、10μm以下、特に2.5μm以上、7.5μm以下、更には2μm以上、6μm以下であるのがよい。
【0154】
半径方向内側の被覆層5は、摺動層4と被覆層5から形成される全体層厚の10%から50%の間、特に15%から30%の間である層厚15を有することができる。
【0155】
さらに、摺動層4の層厚が被覆層5の層厚よりも大きく、特に被覆層5の層厚の3倍よりも大きいと好ましい。
【0156】
軸受内径16は半径方向でもっとも内側の表面におけるすべり軸受部材1の直径であり、その様子は
図1から明らかとなる。このとき表面の波形は、波形の半分の高さでの測定によって考慮される。
【0157】
試験結果を参照しながら上に掲げた本発明に基づく例から明らかなとおり、1.5μm未満の層厚のとき、少なくとも1つの被覆層5の上に述べた効果は比較的弱く特徴づけられ、そのため、すべり軸受部材1の支持割合を希望される程度まで高めることができない。そのために、摺動面の局所的な過負荷を、場合によっては不十分にしか回避することができない。その一方で、15μmを超える被覆層5の層厚15では、慣らし運転段階が再び長くなる程度までこの被覆層5が厚くなる。被覆層5の部分的な摩滅のためにいっそう多くの時間が必要になるからである。しかも15μmを超える層厚15では、少なくとも1つの被覆層5の下に位置する、強度の高い摺動層4が、不十分にしか被覆層5に対する支持を提供しなくなる。
【0158】
少なくとも1つの摺動層4の表面性状(表面トポグラフィ)をより良く考慮するために、少なくとも1つの被覆層5の層厚15は、半径方向内側の表面17(
図1)の領域で、この表面17の粗さ算術平均値Ra(DIN EN ISO4287:2010)の2倍よりも大きくなっており、および/または半径方向内側の表面17の領域で、この表面17の平均最大高さRz(DIN EN ISO4287:2010)の2倍よりも小さいことが意図されていてよい。
【0159】
別の実施態様では、少なくとも1つの被覆層5の層厚15(
図3)は、前記のVDA2007に準じて加工方向に対して法線方向で測定したとき、この層5の表面17(
図1)のドミナント波形プロフィルWDcの平均高さ18の0.3倍から5倍、特に1倍から2倍の大きさであることが意図されていてよい。
【0160】
少なくとも1つの被覆層5の厚みと表面粗さとの協同作用を調べるために、上に説明したように実験(傾斜なしでの態様1)を実施した。軸受シェルは、Ra0.3−0.7μmとRz2−5μmの範囲内の粗さを有する。さらに軸受シェルの3分の2において、ドミナント波形をWDc0.5−2.5μmで発見することができた。
【0161】
この軸受シェルを本発明による実施例11に準じてコーティングし、その際に、少なくとも1つの被覆層5の層厚15は0.1から12μmの間で変動していた。
【0162】
図5から7は、SnCu1Sb0.5からなる少なくとも1つの被覆層5の層厚15とそれぞれの粗さパラメータとの比率に依存して試験の結果を示す。ここでは縦軸に、前述の態様1に準ずる試験結果がプロットされている。横軸には、被覆層5の層厚15とRz(
図5)ないしRa(
図6)ないしWdc(
図7)との比率がプロットされている。摺動層4は、この試験についてはSnCu7Sb7BiPbからなっていた。
【0163】
図5ないし
図7から明らかにわかるように、層厚15はRzの2倍よりも小さく、および/またはRaの2倍よりも大きく、および/またはWDc=0.5から5の範囲内にあるのが好ましい。
【0164】
さらに、すべり軸受部材裏面8における少なくとも1つの被覆層5の層厚19(
図1)は、半径方向内側の表面17の領域における少なくとも1つの被覆層5の層厚15の0.1倍から0.5倍であることが意図されていてよい。
【0165】
5μmまたは、これ以上の裏面層厚では作動時の材料の変位のリスクが高くなり、このことは穴の変形や裏面当接部の劣化につながることがある。
【0166】
半径方向内側の被覆層5の層厚15の0.1−0.5倍の範囲は、電解製造プロセスにあたり、裏面でのコーティング時間の中程度の(たとえば係数2−3だけの)短縮により、および/または電流密度の低減により、十分な耐食性を有しているが、材料変位のリスクが高くなることがない層厚19を調整できるという利点を提供する。
【0167】
電流密度を過度に低減すると、たとえば、析出物の組成の大きな変化と、これにともなって耐食作用の低減につながることがある。
【0168】
各実施例はすべり軸受部材1の考えられる実施態様を示しているが、ここで付言しておくと、個々の実施態様の相互のさまざまな組み合わせも可能である。
【0169】
最後に念のため指摘しておくと、すべり軸受部材1の構造のより良い理解のために、すべり軸受部材ないしその構成要素は部分的に寸法どおりでなく、および/または拡大して、および/または縮小して図示されている。