特許第6810057号(P6810057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810057
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20201221BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   G01N27/12 C
   G01N27/12 B
   G01N33/497 A
   G01N33/497 C
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-561359(P2017-561359)
(86)(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公表番号】特表2018-515786(P2018-515786A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(86)【国際出願番号】US2016034191
(87)【国際公開番号】WO2016191501
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2019年5月22日
(31)【優先権主張番号】62/166,236
(32)【優先日】2015年5月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライ,グアンシー
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−513110(JP,A)
【文献】 BINIONS Russell et al.,Discrimination Effects in Zeolite Modified Metal Oxide Semiconductor Gas Sensors,IEEE Sensors Journal,2011年 5月,Vol.11, No.5,pp.1145-1151
【文献】 WANG L. et al.,Nanosensor Device for Breath Acetone Detection,Sensor Letters,2010年,Vol.8, No.5,pp.709-712
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガス及び第2のガスを検出するセンサ素子であって、
前記第1のガスおよび前記第2のガスの存在に対して有感である電気伝導性を有する半導体検知材料と、
前記第1のガスの動的分子径よりも大きくかつ前記第2のガスの動的分子径の1.5倍よりも小さい細孔直径を有する細孔を含有する多孔質材料と、
を含み、
前記センサ素子が、前記多孔質材料が前記第2のガスよりも前記第1のガスの多くを吸着するように構成され、その結果、前記センサ素子による前記第2のガスの検出が、前記センサ素子による前記第1のガスの検出と比較してより有感であり、
前記第1のガスがアセトン、エタノール、メタン、HOのいずれかであり、
前記第2のガスがイソプレンであり、
前記多孔質材料がゼオライトを含み、
前記半導体検知材料が、重量で約0.01%から10%のホウ素をドープされた多結晶性n型半導体材料を含み、
前記多結晶性n型半導体材料がWOを含む、
センサ素子。
【請求項2】
前記細孔直径が約4.6Åから約9Åの範囲にある、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記細孔直径が約5.1Åから約5.5Åの範囲にある、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記センサの、前記第2のガス対前記第1のガスの感度比が少なくとも1.5である、請求項1〜のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記WOが重量で約0.1%から約0.3%のホウ素をドープされている、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記WOがε−WOである、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項7】
前記ゼオライトがZSM−5、ZSM−11、ゼオライトY、ZSM−12、ベータゼオライト、またはチタンシリカライトTS−1を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項8】
前記ゼオライトがZSM−5を含む、請求項に記載のセンサ素子。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載のセンサ素子を含むガスセンサ。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載のセンサ素子を含むイソプレンセンサ。
【請求項11】
哺乳動物呼気中のイソプレンレベルを決定する方法であって、
請求項10に記載のイソプレンセンサを哺乳動物の呼気に暴露することを含む、方法。
【請求項12】
前記哺乳動物がヒトである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
呼気分析装置であって、
哺乳動物呼気の受け取りのために構成された容器と、前記容器内に配置されかつ前記容器内のガスと物理的接触をする請求項1〜のいずれか1項に記載のセンサ素子とを含む、呼気分析装置。
【請求項14】
哺乳動物呼気中のイソプレンの含量を選択的に決定するように構成される、請求項13に記載の呼気分析装置。
【請求項15】
請求項10に記載のイソプレンセンサと哺乳動物によって吐出される呼気の一部分とを含む、医療診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
いくつかの態様は医療装置に関し、呼気成分の定性的または定量的分析のための酸化物組成物にもまた関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の病および身体的状態は哺乳動物呼気中のある種のガスの存在と関連し得る。ヒト呼気中に最も豊富なVOCの中には、エタノール、アセトン、およびイソプレンがある。アセトンは人体中の脂肪燃焼のバイオマーカーであり、イソプレンはコレステロール合成のバイオマーカーである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
それゆえに、種々の身体的状態を有する通院患者の診断およびセルフモニタリングに用いられ得るポータブル装置への使用のために、哺乳動物呼気中などの低い濃度を検出し得るイソプレンセンサの需要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
いくつかの態様はセンサ素子を包含し、第1のガスおよび第2のガスの存在に対して有感である電気伝導性を有する半導体検知材料と、第1のガスの動的分子径よりも大きくかつ第2のガスの動的分子径の1.5倍よりも小さい細孔直径を有する細孔を含有する多孔質材料とを含み、センサ素子が、多孔質材料が第2のガスよりも第1のガスの多くを吸着するように構成され、その結果、センサ素子による第2のガスの検出が、センサ素子による第1のガスの検出と比較してより有感である。いくつかの態様は、このセンサ素子を含むガスセンサを包含する。いくつかの態様は、このセンサ素子を含むイソプレンセンサを包含する。
【0005】
いくつかの態様は呼気分析装置を包含し、哺乳動物呼気の受け取りのために構成された容器と、容器内に配置されかつ容器内のガスと物理的接触をする本明細書に記載されるセンサ素子とを含む。
【0006】
いくつかの態様は医療診断システムを包含し、本明細書に記載されるガスセンサまたは呼気分析装置と哺乳動物によって吐出される呼気の一部分とを含む。
【0007】
いくつかの態様は、哺乳動物呼気中のイソプレンレベルなどのガスのレベルを決定する方法を包含し、請求項18のイソプレンセンサを哺乳動物の呼気に暴露することを含む。
【0008】
これらおよび他の態様が以下により詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本明細書に記載される装置のいくつかの態様の平面図である。
図2】本明細書に記載される装置のある態様の立面図である。
図3】本明細書に記載される装置のある態様の立面図である。
図4】本明細書に記載される装置のいくつかの態様の模式図である。
図5】本明細書において用いられる検査装置の模式図である。
図6】実施例に記載されるセンサの態様のアセトンおよびイソプレン試料に対する抵抗率の応答を図示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一般的に、本明細書に記載されるガスセンサは、別のものよりも1つのガスを選択的に検出するために用いられ得る。例えば、それらはアセトンなどの他のガスよりもイソプレンを検出することに有用であり得る。それゆえに、ガスセンサはイソプレンセンサであり得る。
【0011】
選択的なイソプレンセンサなどのこれらのガスセンサにとって1つの重要な用途は、ヒト呼気などの哺乳動物呼気中のイソプレンレベルなどのガスレベルを決定することである。例えば、ガスセンサは、例えば(個人などの)哺乳動物にガスセンサ上で、それに対して、またはその中に息を吐かせることによって哺乳動物の呼気に暴露され得る。
【0012】
特に、本明細書に記載されるガスセンサは、第1のガス(例えばアセトン)の存在下において第2のガス(例えばイソプレン)を選択的に検出することに有用である。しかしながら、ガスセンサは、第2のガスとしてのイソプレン、アセトン、エタノールのいずれかを第1のガスとしての他のもののいずれかの存在下においてもまた検出し得る。
【0013】
センサ素子は半導体検知材料と多孔質材料とを包含し、これは種々のガスセンサ装置に用いられ得る。センサ素子は、多孔質材料が第2のガスよりも第1のガスの多くを吸収するように構成される。それゆえに、哺乳動物(ヒトを包含する)呼気などのガスが分析されるときには、第2のガスのより高い比率が半導体検知材料との接触をする。結果として、センサ素子は第1のガスと比較して第2のガスに対してより有感である。
【0014】
半導体が第1のガスおよび第2のガス両方に対して有感である電気伝導性を有するときに、多孔質材料は特に有用である。例えば、多孔質材料なしでは、第1のガスの存在ゆえに、第2のガスの量が正確に決定されることは困難であり得る。多孔質材料は、第1のガスを含有するガス混合物中に存在するときに第2のガスの量を決定する上で、第1のガスに対する感度が引き起こす問題を縮減し得る。
【0015】
半導体検知材料は、イソプレン、アセトン、またはエタノールなどの対象のガスに対して有感である電気伝導性を有するいずれかの半導体であり得る。例えば、半導体の導電性または抵抗率は、分析されるべきガスの存在下において増大または減少し得る。
【0016】
半導体検知材料はn型半導体を包含し得、これは多結晶性であり得る。いくつかの態様において、n型半導体材料は八面体格子、単斜晶相材料、例えば単斜晶I相材料もしくは単斜晶II相材料、三斜晶相材料、直方晶相材料、正方晶相材料、または立方晶相材料を含み得る。いくつかの態様において、n型半導体材料は自発双極子モーメントを有し得る。
【0017】
いくつかの態様において、n型半導体材料はWOであり得、α相WO(α−WO)、β相WO(β−WO)、δ相WO(δ−WO)、ε相WO(ε−WO)、γ相WO(γ−WO)、立方晶WO、またはその組み合わせを包含する。いくつかの態様において、WOはγ−WOを包含するか、またはそれである。いくつかの態様において、n型半導体はイプシロン相酸化タングステン、ガンマ相酸化タングステン、またはその混合物であり得る。いくつかの態様において、WOはε−WOを包含するか、またはそれである。いくつかの態様において、WOはη−WOを包含するか、またはそれである。
【0018】
いくつかの態様において、半導体はε−WOと第2のn型半導体材料とを含み得る。例えば、ε−WOは重量またはモルパーセンテージでn型半導体材料の少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、90%、95%、99%であり得る。ε−WOおよびγ−WOの組み合わせを含む半導体については、2つの相の比は、約49.34の2シータにおけるε相WOのXRDピーク対約26.44の2シータにおけるγ相WOのXRDピークの比として表され得る。いくつかの態様において、ε−WOの自発双極子は材料格子と関係し得、その結果、格子の変化は双極子の強さを変化させ得る(換言すると、自発分極の変化)。いくつかの態様において、自発双極子モーメントの変化は材料の表面電荷の変化をもたらし得る。
【0019】
所与の標準および作製された試料のx線回折パターンの比較は、試料が特定の相を含むかどうかを決定するために用いられ得るいくつもの方法の1つである。例示的な標準は、国立標準技術研究所(NIST)(ゲイザースバーグ、MD、USA)および/または国際回折データセンター(ICDD、かつては粉末回折標準に関する合同委員会[JCPDS])(ニュータウン・スクエア、PA、USA)によって提供されるXRDスペクトルを包含する。
【0020】
いくつかの態様において、半導体検知材料は可視光を吸収する。例えば、半導体検知材料は600nm以下という吸収端を有し得る。
【0021】
半導体検知材料は、追加の元素をドープまたは担持したn型半導体材料などの半導体材料を包含し得る。ドープされる元素は、化合物の結晶格子に組み込まれる元素を包含し、例えば結晶格子の定められた位置において置換されているか、またはさもなければ結晶中において格子間に包含されている。担持される元素は、非価電子的に組み合わせられる包含される元素、例えば第1の材料および第2の材料の物理的混合物および/または隣接配置を包含する。半導体の検知特性に影響し得るいずれかの元素が半導体材料にドープまたは担持され得る。有用なドーパントの例は、III族元素、例えばB、Al、Ga、Inなど、Cr、Siなどを包含し得る。いくつかの態様において、半導体検知材料にドープまたは担持される元素はBであり得、B、B、B2+、またはB3+を包含する。
【0022】
ドープされる元素は、一般的に合成中に追加される前駆体として提供され得る。いくつかの態様において、ドーパントは、ε相WOの安定性を増大させるために十分に小さいサイズのイオン直径を有し得る。いくつかの態様において、ドーパントは約50pm(1×10−12メートル)未満のイオン直径を有し得る。いくつかの態様において、ドーパントは約5pm、10pm、15pm、20pm、30pm、35pmから、約45pmまで、約50pmまで、約55pmまでのイオン直径を有し得る。ε相WOよりも小さいイオン直径のドーパント分子、例えば約74pmによるドープは、結晶の総体的な単位胞体積を縮小させ得ると考えられる。一般的に90%半導体かつ10%ドーパントのものにおけるイオン種のイオン直径の例が表1に記載されている。
【0023】
【表1】
【0024】
いくつかの態様においては、ホウ素ドーパント、例えばB、B、B2+、またはB3+が、重量もしくはモルで半導体検知材料の少なくとも約0.0001%、少なくとも約0.01%、少なくとも約0.05%、少なくとも約0.08%、少なくとも約0.10%、最大で約0.15%、最大で約0.2%、最大で約0.225%、最大で約0.4%、最大で約0.5%、最大で約0.75%、最大で約1%、最大で約2%、最大で約5%、最大で約10%、約0.01〜10%、もしくは約0.1〜0.3%、またはこれらの値のいずれかを境とする範囲内のいずれかの重量%またはモル%である量で、半導体材料中に存在し得る。いくつかの態様において、半導体検知材は重量でBの約0.225%を含有する。
【0025】
センサ素子は、第1のガスに対する相対的な感度を改善するやり方で第1のガスを選択的に取り除き得る(例えば吸着する)サイズの細孔材料を含有する、いずれかの多孔質材料を包含し得る。例えば、多孔質材料は、第1のガスの動的分子径よりも大きい直径を有する細孔を含有して、第1のガスのより多くをその中に選択的に保持し得る。用語「動的分子径」は当業者に公知の普通の意味を有し、所与の分子の最も小さい有効寸法の反映であり、所与の分子の動力学的運動およびその原子寸法を考慮に入れる。
【0026】
細孔が、第2のガスの動的分子径の約1.5倍、約1.2倍、または約1.35倍よりも小さい細孔直径または平均細孔直径を有することもまた役立ち得る。
【0027】
対象のいくつかのガスの動的分子径が表2に示されている。
【0028】
【表2】
【0029】
いくつかの態様において、多孔質材料はゼオライトまたは金属有機構造体材料であり得る。好適なゼオライトの例は、細孔の構造体開口が12個の原子を含む大細孔ゼオライト、例えばゼオライトXおよびY、グメリナイト、ゼオライトβ、モルデナイト、オフレタイト、EMT、SAPO−37、およびベリロリン酸塩X、細孔の構造体開口が14個以上の原子を含む超大細孔ゼオライト、例えばクローバライト、細孔の構造体開口が10個の原子を含む中細孔ゼオライト、例えばZSM−5(ペンタシル型ゼオライト)、フェリエライト、輝沸石、およびヴァイネベーネ石、ならびに細孔の構造体開口が8つのまたはより少ない原子を含む小細孔ゼオライト、例えば方沸石、菱沸石、エリオナイト、およびゼオライトAを包含する。いくつかの態様において、ゼオライト材料はZSM−5、ZSM−11、ゼオライトY、ZSM−12、βゼオライト、またはチタンシリカライトTS−1であり得る。いくつかの態様において、ゼオライトはZSM−5を含む。いくつかの態様において、ゼオライト材料のSi/Al比は1〜500であり得る。Si/Al比は材料の酸性および疎水性を決定し、加えて、多孔質材料がどのような分子をより選択的に吸収および反応するのかを決定し得る。比がより高いほど、より疎水性でありかつより酸性でなくなり、それゆえに炭化水素などのより極性でない分子の吸収を選好する。いくつかの態様において、多孔質材料は主として単斜晶の相を有し得る。
【0030】
いくつかの態様において、多孔質材料は、約4.5Åよりも大きい、最大で約8.25Å、最大で約9Å、約4.6〜9Å、約5.1〜5.5Å、約5.4〜5.6Å、約5.5Å、約5Å、約6Å、またはこれらの値のいずれかを境とする範囲内のいずれかの直径である直径または平均直径を有する細孔を含有する。
【0031】
例示的な多孔質材料およびそれらのそれぞれの細孔径が表3に記載されている。
【0032】
【表3】
【0033】
細孔直径が決定され得るいくつものやり方があり、例えば77°KにおけるN吸収による。
【0034】
いくつかの態様において、センサ素子は、少なくとも約1.5、少なくとも約3、少なくとも約4、または少なくとも約5という第2のガス対第1のガスの感度比を有する。「ガス感度」は、検査ガスに暴露された後のセンサの最小抵抗(Rgas)対周囲環境におけるベースライン抵抗(Rair)の比、S=Rgas/Rairから決定され得る。
【0035】
WO化合物は、例えばナノ粉末形態で、多くの異なる方法によって調製され得、熱プラズマ(直流であり、高周波誘導結合プラズマ(RF−ICP)を包含する)、ソルボサーマル、固体反応、熱分解(火炎噴霧)、および燃焼を包含する。2014年1月4日出願の「Supported Photocatalyst and method of production」と題するPCT出願(PCT/US2013/010201)に記載されている燃焼合成法は有用である。なぜなら、高い温度は、ホウ素を酸化タングステン格子中にドープする助けになり得るか、またはイプシロン相酸化タングステンの安定化に寄与し得るからである。よって、燃焼担持プロセスが好ましい。例えば、WOナノ粉末を調製するときには、水中の追加の添加物、例えばメタタングステン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、および/またはグリシンの分散液(水中に5〜20wt%固体)が、2流体アトマイザを用いてプラズマ体積中に噴霧され得る。好ましくは、前駆体は水中に約20wt%固体まで存在し得る。プラズマは、約25kWプレート電力においてアルゴン、窒素、および/または酸素ガスによって作動させられ得る。それから、プラズマからの凝縮蒸気から形成された粒子がフィルタ上に集められ得る。いくつかの態様において、BETを用いて測定される粒子表面積は約1m/gから約500m/g、約15m/gから30m/g、または約20m/gまでの範囲である。いくつかの態様において、得られたWOは約200℃から約700℃または約300℃から約500℃に加熱され得る。
【0036】
いくつかのセンサ素子は図1によって表される構造を有し得る。図1において、センサ素子10は第1の電極14および第2の電極18を含み得る。図1によって表される構造を有するセンサについては、検知材料16、例えばn型半導体材料が第1および第2の電極の間に配置される。いくつかの態様において、n型半導体材料は第1および第2の電極と接触するかまたはそれらを電気的に接続し得る。いくつかの態様において、n型半導体材料は、第1および第2の電極の間におよび/またはそれら両方と物理的に接触して配置され得る。
【0037】
図2に示されているように、センサ素子10は、基板12上に配置された複数の電極指14A〜Eを含む第1の電極を含み得る。いくつかの態様においては、第2の電極もまた電極指を含み得、例えば、示されているように電極指14A〜Eおよび18A、18Bが相互嵌合し得る。いくつかの態様においては、ヒータ素子13A、13Bが電極に近接して配置され得る。いくつかの態様において、相互嵌合した指同士は、ギャップにまたがる電気回路を半導体材料によって閉じることを可能にするために十分に近い。いくつかの態様においては、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、または少なくとも5つの相互嵌合した指があり得る。
【0038】
電極同士、例えば第1の電極および第2の電極の間の距離は、検出されるべき対象の被検成分ガスの存在によって引き起こされる導電性の変化を許すいずれかの好適な距離、例えば0.01〜100milの間、約0.1〜25milの間、または約0.5〜10milの間であり得る。
【0039】
いくつかの態様においては、多孔質材料19の層が複数の電極指14A、14B、14Cおよび半導体材料16に隣接し得る。いくつかの態様においては、多孔質材料19の層が複数の電極指14A〜14Eおよび半導体材料16に接触してあり得る。いくつかの態様においては、多孔質材料の層または複数の多孔質材料部分(19A〜E)が半導体材料16の上に配置され得る。いくつかの態様においては、多孔質材料の層が、検知材料の表面の20〜99%、および/または30〜98%、および/または40〜95%、および/または50〜90%をカバーする。いくつかの態様において、多孔質材料および検知材料は1つの層として混合されている。
【0040】
第1および第2の電極は導電性材料から形成され得る。いくつかの態様において、電極は金[Au]、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、および/またはそのいずれかの混合物であり得る。
【0041】
センサ素子が機能する温度は、異なる半導体材料、ドーパント、被担持成分、および/または助触媒によって影響され得る。いくつかの態様において、電極14および18は基板12上に配置される。いくつかの態様において、いずれかのドーパントおよび/または助触媒と組み合わせられたn型半導体組成物はスラリーを形成させられ得る。スラリーは電極および基板上において滴下コーティングされ得る。いくつかの態様において、余剰のスラリーがガスセンサ素子から取り除かれ得、その結果、図2のように残りのn型半導体スラリーが電極間のギャップを埋める。
【0042】
いくつかの態様において、センサ素子は温度のある範囲内において成分ガスの存在を検出し得る。いくつかの態様において、センサ素子は、約200〜400℃、約200〜220℃、約220〜240℃、約240〜260℃、約260〜280℃、約280〜300℃、約300〜320℃、約320〜340℃、約340〜360℃、約360〜380℃、もしくは約380〜400℃の間、またはこれらの値のいずれかを境とする範囲内のいずれかの温度において、成分ガスの存在を検出し得る。いくつかの態様において、センサ素子は室温において成分ガスの存在を検出し得る。
【0043】
センサ素子は、低い濃度で、例えば約0.0005〜5ppm、約0.001〜10ppm、約0.005〜2.5ppm、約0.01〜5ppm、約0.05ppm〜0.5ppm、約0.1ppm〜1.0ppm、0.25ppm、0.5ppmの範囲内で、またはこれらの値のいずれかを境とする範囲内のいずれかの濃度で存在する対象の被検成分ガスの存在を検出し得る。
【0044】
図3は、センサシステム100のある態様を図示している。いくつかの態様において、センサ素子10の第1の電極14および第2の電極18は抵抗率モニター22に電気的に接続される。いくつかの態様において、電極および/または半導体に密な近接をした被検成分、例えばイソプレンおよびアセトンの存在は、電極14および18の間の電気伝導性を変化させまたは回路の抵抗を減少させ、回路の測定される抵抗率の変化を提供する。いくつかの態様においては、電極に密な近接をして存在する被検成分、例えばイソプレンおよびアセトンの量と回路によって示される抵抗の変動との間の測定可能な相関が達成され得る。いくつかの態様において、抵抗率の変化は、検査される試料中に存在する被検成分の100パーツ・パー・ミリオン(ppm)あたり少なくとも約152メガオームであり得る。読み取りは、コンピュータ制御のマルチメータを用いて絶対抵抗値およびその変化を直接的に測定することによって得られる。
【0045】
図4は、ガスのある体積中の成分ガス、例えばイソプレンの存在を検出するためのセンサシステムの別の態様を図示している。システムは、評価されるべきガスの体積を含有するためのチャンバー5とその中に配置されたセンサ素子10とを含み得る。いくつかの態様において、チャンバー5はガス9の流入を許すためのガス入口11を含み得る。いくつかの態様において、チャンバー5はガスの流出を許すガス出口13を含み得る。いくつかの態様において、装置は電源20とガスセンサ素子から受け取られるデータを分析するための測定装置30とを含み得る。
【0046】
図5は、実施例に記載されているように体積ガス中のアセトン/イソプレンの存在を検出するためのガスセンサシステムの模式図を図示している。
【0047】
次の態様が企図される。
態様1.センサ素子であって、
第1のガスおよび第2のガスの存在に対して有感である電気伝導性を有する半導体検知材料と、
第1のガスの動的分子径よりも大きくかつ第2のガスの動的分子径の1.5倍よりも小さい細孔直径を有する細孔を含有する多孔質材料と、
を含み、
センサ素子が、多孔質材料が第2のガスよりも第1のガスの多くを吸着するように構成され、その結果、センサ素子による第2のガスの検出が、センサ素子による第1のガスの検出と比較してより有感である。
態様2.態様1のセンサ素子であって、細孔直径が約4.6Åから約9Åの範囲にある。
態様3.態様1のセンサ素子であって、細孔直径が約5.1Åから約5.5Åの範囲にある。
態様4.態様1のセンサ素子であって、半導体検知材料が重量で約0.01%から10%のホウ素をドープされた多結晶性n型半導体材料を含み、半導体材料が600nm以下の吸収端を有し、半導体材料が第1および第2の電極両方と物理的に接触する。
態様5.態様1、2、3、または4のセンサ素子であって、第1のガスがアセトンである。
態様6.態様1、2、3、4、または5のセンサ素子であって、第2のガスがイソプレンである。
態様7.態様1、2、3、4、5、または6のセンサ素子であって、センサの、第2のガス対第1のガスの感度比が少なくとも1.5である。
態様8.態様4、5、6、または7のセンサ素子であって、多結晶性n型半導体材料がWOを含む。
態様9.態様8のセンサ素子であって、WOが重量で約0.1%から約0.3%のホウ素をドープされている。
態様10.態様8のセンサ素子であって、WOがγ−WOである。
態様11.態様8のセンサ素子であって、WOがε−WOである。
態様12.態様8のセンサ素子であって、WOがη−WOである。
態様13.態様1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12のセンサ素子であって、多孔質材料がゼオライトまたは金属有機構造体を含む。
態様14.態様13のセンサ素子であって、ゼオライトがZSM−5、ZSM−11、ゼオライトY、ZSM−12、ベータゼオライト、またはチタンシリカライトTS−1を含む。
態様15.態様14のセンサ素子であって、ゼオライトがZSM−5を含む。
態様16.態様14または15のセンサ素子であって、ゼオライト材料のSi/Al比が1から500の範囲にある。
態様17.ガスセンサであって、態様1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16のセンサ素子を含む。
態様18.イソプレンセンサであって、態様1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16のセンサ素子を含む。
態様19.哺乳動物呼気中のイソプレンレベルを決定する方法であって、態様18のイソプレンセンサを哺乳動物の呼気に暴露することを含む。
態様20.態様19の方法であって、哺乳動物がヒトである。
態様21.呼気分析装置であって、哺乳動物呼気の受け取りのために構成された容器と、容器内に配置されかつ容器内のガスと物理的接触をする態様1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16のセンサ素子とを含む。
態様22.態様21の呼気分析装置であって、哺乳動物呼気中のイソプレンの含量を選択的に決定するように構成される。
態様23.医療診断システムであって、態様17のイソプレンセンサと哺乳動物によって吐出される呼気の一部分とを含む。
【実施例】
【0048】
センサ材料の開発およびキャラクタリゼーション:
【0049】
例1:ホウ素ドープイプシロン相WOを作る
2014年5月28日出願の米国仮特許出願62/003,753および2015年12月3日公開の米国公開No.2015/0346190に記載されているように作られたホウ素ドープ酸化タングステンの約20mgを2mlエタノールと混合し、60minソニケーションした。分散液の約10μlアリコートをセンサ素子上に滴下した(0.1×0.1インチ電極、Al基板、10mil厚。検知電極材料は金であり、電極間隔1mil、指幅4mil、指長さ0.1インチ。3つの電極対を有する。大体36オームの抵抗を有する基板の裏側の一対のPt抵抗加熱電極。P/N614、Synkeraテクノロジーズ、コロラド、USA)。センサ素子をホットプレート上で約140℃において加熱し、それぞれの追加の滴下の間に乾燥した。分散液の大体80μLを用いた。それから、元の滴下コーティングしたセンサ(S1およびS2)を、300W出力電力のフルスペクトルキセノンランプ下で約120℃において約60分間ベーキングした。
【0050】
例2:ゼオライトによって改変したセンサの作製
センサは例1の同じ手順に従って作製し、それから、上に記載されているセンサ材料素子上に配置される多孔質層の追加によってさらに改変した。ゼオライト材料ZSM−5(Si/Al比26、ACSマテリアル、メドフォード、MA)の約20mgを2mlエタノールと混合し、60分間ソニケーションした。分散液の約5μlアリコートを例1に記載されている元のセンサ上に滴下した。センサをホットプレート上で約140℃において加熱し、それぞれの追加の滴下の間に乾燥した。大体40μL分散液を用いた。それから、ゼオライトによって改変したセンサ(S3−ZSM−5)を、300W出力電力のフルスペクトルキセノンランプ下で約120℃において約60分間ベーキングした。
【0051】
例3:ゼオライトによって改変したセンサの作製
別の態様においては、元のセンサを例2に記載されている同じやり方で改変した。ただし、ゼオライト材料をゼオライトYと取りかえている(S4−Y)。
【0052】
例4:センサ評価のセットアップ:
上の例に記載されているように構築されたセンサ素子1(SE−1)を、ガス入口をセンサ表面の大体5cm上にして、約30mLの体積を有する検査チャンバー内に置いた。検知電極はマルチメータ(テクトロニクスDMM4050、6.1/2桁高精度マルチメータ、テクトロニクスInc.、ビーバートン、OR、USA)に接続し、抵抗率(オーム)を周囲大気条件下において測定するように設定し、加熱電極を5.8Vおよび0.161Aの電源に接続した。加熱素子は、センサ表面において約380℃の作動温度を維持する熱を作る。センサを周囲大気環境においてこの電圧で約30分間加熱し、安定な抵抗率ベースラインを達成した。
【0053】
約1.5L/分で40℃水浴を通過することによって、約90%の相対湿度を有する高湿合成空気[CAS132259−10−0]、エアガスLLC、サンマルコス、CA、USA)の流れを作った。15ppmアセトン/合成空気(MesaスペシャルティーGases&Equipment、ロングビーチ、CA、USA)を高湿合成空気と1:15比で混合することによって1ppmアセトン/空気ガスを作り、それから容器中にさまざまな時間、例えば10sec、約8sec、約5sec放出し、センサ素子の抵抗の変化を記録した。この検査ガスの条件は、ヒト呼気をシミュレーションするように設定した。アセトンガスの注入の後に、センサを周囲環境においてその元の抵抗まで回復させた。100ppmイソプレン/合成空気(MesaスペシャルティーGases&Equipment、ロングビーチ、CA、USA)を高湿合成空気と1:100比で混合することによって1ppmイソプレン/空気ガスを作り、同じ様式で検査した。
【0054】
このガスに対する感度は、検査ガスに暴露された後のセンサの最小抵抗(Rgas)対周囲環境におけるベースライン抵抗(Rair)の比、S=Rgas/Rairとして定義される。値がより小さいほど、センサはより高い感度を有する。
【0055】
例5:アセトンおよびイソプレン感度についてのセンサ評価
未改変のセンサS1−2ならびに対応するゼオライトZSM−5によって改変したセンサS3およびゼオライトYによって改変したセンサS4の0.5ppmアセトンならびに0.5ppmイソプレンに対する感度が表4に示されている。これは、ゼオライトコーティングなしでは、未改変のセンサがアセトンおよびイソプレン両方に対して高度に有感であるということを示している。結果として、それらの2つのガスの間では選択性の欠如があり、混合ガス試料、例えばヒト呼気中のアセトンまたはイソプレンどちらかの濃度の正確な測定を困難にする。センサがゼオライト層によって改変された後に、それはイソプレンの高い感度を維持するが、アセトンの感度をかなり減少させる。これは、アセトンおよびイソプレンガスの混合物中またはヒト呼気中のイソプレン単独の正確な測定を可能にし得、それゆえに高度に選択的で有感なイソプレンセンサを提供する。S3(ZSM−5によって改変)はアセトンに対してイソプレンのより良好な選択性を示し、これはおそらくZSM−5の細孔径がアセトン分子の平均直径よりも大きくかつイソプレンのものよりも小さいからである。結果として、イソプレンはZSM−5によって吸着され得ない。ゼオライトYはアセトンおよびイソプレン両方に対する感度を縮減する。しかしながら、アセトンに対する感度の縮減はより大きい。これは、ゼオライトYの細孔径はアセトンおよびイソプレンの平均直径よりも大きいが、アセトン分子はより小さいので、ゼオライトYによってより容易に吸着されるからであり得る。
【0056】
【表4】
【0057】
別様に示されていない限り、本明細書および請求項において用いられる成分の量、分子量などの特性、反応条件などを表現する全ての数は、全ての場合に用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。従って、それと反対に示されていない限り、本明細書および添付の請求項において示される数的パラメータは、得られることを求められる所望の特性に応じて変わり得る概算である。少なくとも、請求項の範囲への均等論の適用を限定しようとするものとしてではなく、それぞれの数的パラメータは、少なくとも、報告される有効数字の数に照らし、普通の丸め手法を適用することによって解釈されるべきである。
【0058】
本開示の態様を記載する文脈において(特に、次の請求項の文脈において)用いられる用語「a」、「an」、「the」、および同様の指示物は、本明細書において別様に示されていないかまたは文脈によって明白に否定されない限り、単数形および複数形両方をカバーすると解釈されるべきである。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書において別様に示されていないかまたはさもなければ文脈によって明白に否定されない限り、いずれかの好適な順序で行われ得る。本明細書において提供されるいずれかおよび全ての例または例示的な文言(例えば、「などの」)の使用は、単に本開示の態様をより良く説明することを意図されており、いずれかの請求項の範囲に限定を課さない。本明細書におけるいかなる文言も、いずれかの請求されていない要素が本開示の態様の実施に必須であることを示すものとして解釈されるべきではない。
【0059】
本明細書において開示されている代替的な要素または態様の群は限定として解釈されるべきではない。それぞれの群構成要素は、個別に、または群の他の構成要素もしくは本明細書に見いだされる他の要素とのいずれかの組み合わせで参照および請求され得る。便宜性および/または特許性の理由で、ある群の1つ以上の構成要素がある群において包含または削除され得るということが予期される。いずれかのかかる包含または削除が起こるときには、本明細書は改変された群を含有すると見なされ、それゆえに、添付の請求項において用いられる全てのマーカッシュ群の記述要件を満たす。
【0060】
本開示の態様を実施するための本発明者に既知のベストモードを包含するある種の態様が本明細書に記載されている。当然のことながら、それらの記載されている態様の変形は先述の記載を読み取ることによって当業者には明らかとなろう。本発明者は、当業者がかかる変形を適宜使用することを予想し、本発明者は、本開示の態様が具体的に本明細書に記載されるものとは別様に実施されることを意図する。従って、請求項は、適用法令によって認められる請求項に記載される主題の全ての改変および均等物を包含する。その上、上に記載されている要素のいずれかの組み合わせは、本明細書において別様に示されていないかまたはさもなければ文脈によって明白に否定されない限り、その全てのあり得る変形において企図される。
【0061】
結びに、本明細書において開示される態様は請求項の原理を例示しているということが理解されるべきである。使用され得る他の改変は請求項の範囲内である。それゆえに、限定ではなく例として、代替的な態様が本明細書の教示に従って利用され得る。従って、請求項は、示され記載されているままの態様には限定されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6