特許第6810236号(P6810236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6810236無溶媒反応型接着組成物及びこれを用いたタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810236
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】無溶媒反応型接着組成物及びこれを用いたタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 109/00 20060101AFI20201221BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20201221BHJP
   B29D 30/06 20060101ALI20201221BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20201221BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20201221BHJP
   B29D 30/52 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C09J109/00
   C09J11/06
   B29D30/06
   B60C11/00 B
   B60C1/00 Z
   B29D30/52
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-225549(P2019-225549)
(22)【出願日】2019年12月13日
(65)【公開番号】特開2020-125456(P2020-125456A)
(43)【公開日】2020年8月20日
【審査請求日】2019年12月13日
(31)【優先権主張番号】10-2019-0013411
(32)【優先日】2019年2月1日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514040088
【氏名又は名称】ハンコック タイヤ アンド テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANKOOK TIRE & TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】崔 錫 柱
(72)【発明者】
【氏名】李 大 一
【審査官】 小出 輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−111563(JP,A)
【文献】 特表2008−505238(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0329927(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 109/00
B29D 30/06
B29D 30/52
B60C 1/00
B60C 11/00
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブタジエンポリオールと、
少なくとも一つのチオール基を含む複数の活性水素基を有する化合物と、
ラジカル開始剤と、
を含む無溶媒反応型接着組成物。
【請求項2】
前記ポリブタジエンポリオールを90〜95重量部、前記のチオール基を含む複数の活性水素基を有する化合物を5〜10重量部、前記ラジカル開始剤を0.1〜5重量部含むことを特徴とする請求項1に記載の無溶媒反応型接着組成物。
【請求項3】
前記ポリブタジエンポリオールは、ポリマー鎖が、cis−1,4−ポリブタジエンポリオール、trans−1,4−ポリブタジエンポリオール、1,2−ポリブタジエンポリオール、及びヒドロキシル−ターミネーテッドポリブタジエンからなる群より選ばれるいずれか1つまたはこれらのうち、2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の無溶媒反応型接着組成物。
【請求項4】
前記のチオール基を含む複数の活性水素基を有する化合物は、脂肪族チオール化合物または芳香族チオール化合物であることを特徴とする請求項1に記載の無溶媒反応型接着組成物。
【請求項5】
前記ラジカル開始剤は、光開始剤、過酸化物開始剤、及びアゾ化合物からなる群より選ばれるいずれか1つまたはこれらのうち、2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の無溶媒反応型接着組成物。
【請求項6】
(S1)タイヤトレッド用加硫ゴムの表面に接着組成物を塗布するステップと、
(S2)前記接着組成物の層の上にポリウレタンプレポリマーの層または塊(かたまり)を形成させるステップと、
(S3)前記(S2)ステップの結果物を加熱して硬化させるステップと
を含み、
前記接着組成物は、請求項1〜5のいずれか1項の無溶媒反応型接着組成物であるタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無溶媒反応型接着組成物及びこれを用いたタイヤの製造方法に関し、非極性加硫ゴムと極性ポリウレタン素材を化学的に結合するための無溶媒反応型接着組成物及びこれを用いたタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加硫ゴムは、一般的にジエン単量体から得られた高分子システムに硫黄を用いて網状構造を導入することによって弾性を実現したゴムである。加硫ゴムは、弾性と耐久性及び経済性に優れ、各種タイヤ、ローラ、靴底、自動車部品などの素材として広く用いられている。
【0003】
このような加硫ゴムは、自動車部品、タイヤ、靴などの様々な製品の製造に使用する場合、単一素材で要求性能を満たすことが制限的であるため、他の素材部品等とともに複合化することが必要であり、このような場合、接着剤を用いた接合が求められる。
【0004】
加硫ゴムの原料は、天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などであって、ほとんど極性が低い非極性の特徴を有したものなどである。
【0005】
一方、加硫ゴムの短所を補完する素材は、極性の高い、ポリウレタンなどの素材である場合が多い。このような素材と加硫ゴムの接合のために表面の物理的結合を利用する一般的な接着剤を使用する場合、要求性能を実現し難いという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、加硫ゴムのような非極性弾性体とポリウレタンのような極性弾性体とが接合された部品が、厳しい条件でも持続的に接着力を維持できるようにする無溶媒反応型接着組成物を提供することにある。
【0007】
そして、本発明の他の目的は、前記接着組成物を用いて加硫ゴムタイヤ用トレッドとポリウレタン素材のゴムを化学的に結合させたタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一側面による無溶媒反応型接着組成物は、ポリブタジエンポリオールと、チオール−エン反応を行うための少なくとも一つのチオール基、及び、イソシアネート基と反応するための、少なくとも一つの活性水素基(水酸基、アミノ基、またはチオール基)を有するポリブタジエン改質用化合物と、ラジカル開始剤とを含む。
【0009】
ここで、前記無溶媒反応型接着組成物100重量部は、前記ポリブタジエンポリオールを90〜95重量部、前記チオール基を有する化合物を5〜10重量部、前記ラジカル開始剤を0.1〜5重量部含むものでありうる。
【0010】
そして、前記ポリブタジエンポリオールは、ポリマー鎖が、cis−1,4−ブタジエン、trans−1,4−ブタジエン、及び1,2−ブタジエンの少なくとも1つまたは2つ、特にはこれら全てを含み、末端に、1級水酸基、または2級水酸基が導入された水酸基末端(ヒドロキシル−ターミネーテッド)ポリブタジエンである。
【0011】
そして、前記のチオール基を有するポリブタジエン改質用化合物は、脂肪族チオール化合物または芳香族チオール化合物でありうる。
【0012】
そして、前記ラジカル開始剤は、光開始剤、過酸化物開始剤、及びアゾ化合物からなる群より選ばれるいずれか1つまたはこれらのうち、2種以上の混合物でありうる。
【0013】
一方、本発明の他の側面によるタイヤの製造方法は、(S1)タイヤトレッド用加硫ゴムの表面に接着組成物を塗布するステップと、(S2)前記接着組成物の層の上にポリウレタンプレポリマーの層または塊(かたまり)を形成させるステップと、(S3)前記(S2)ステップの結果物を加熱して硬化させるステップとを含み、前記接着組成物は、前述した本発明に係る無溶媒反応型接着組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る接着組成物は、非極性加硫ゴムと化学的に結合が可能なポリブタジエンポリオールと、極性ポリウレタン素材の形成に参加できるチオール基含有の改質用化合物とを含んでおり、加硫ゴムとポリウレタンとの間の界面で化学的結合を介して高い接着力の実現が可能となる。
【0015】
また、従来の接着組成物とは異なり、有機溶媒を含んでいないので、環境親和的である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例に係る、ポリブタジエンポリオール(Hydroxyl terminated polybutadiene、HTPB)と、チオール基を有する化合物(HS−CHCHOH)とが、ラジカル開始剤によりチオール−エンクリック反応を起こすことを示す図である。
図2】本発明の一実施例に係る、チオール化合物のチオール基と、ポリウレタンプレポリマーとの化学反応によりポリウレタンを形成させる反応を示す図である。
図3】本発明の一実施例に係る、水酸基を含む化合物と、ポリウレタンプレポリマーとの化学反応によりポリウレタンを形成させる反応を見示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0018】
本発明の一側面による無溶媒反応型接着組成物は、ポリブタジエンポリオールと、少なくとも一つのチオール基を含む複数の活性水素基を有するポリブタジエン改質用化合物と、ラジカル開始剤とを含む。
【0019】
前記ポリブタジエンポリオールは、非極性加硫ゴムと化学的に結合が可能である。まず、ポリブタジエンポリオールは、ブタジエンを重合して得られるオリゴマーであって、加硫ゴムに対する親和性に優れ、被着面によく塗布され、加硫ゴムをよく濡(ぬ)らす。そして、オリゴマーに形成された後にも、残っている二重結合が加硫ゴムの二重結合と化学的な結合を可能とする。また、ポリブタジエンポリオールに導入されている水酸基は、加硫ゴムと接合させようとする、ポリウレタンなどの極性の弾性素材の形成に参加できる反応性を有することができる。このような多重的な反応性は、被着面間での化学的結合によって高い接着力の実現が可能となる。
【0020】
一方、前記ポリブタジエンポリオールは、一般的に重量平均分子量が10,000g/mol以下であるが、常温の粘度が高くて単独で使用が難しいため、本発明では、チオール基を有する化合物をさらに含む。
【0021】
前記チオール基を有する化合物は、前記ポリブタジエンポリオールの高い粘度を低めながら、ポリブタジエンポリオールとの反応はもちろん、ポリウレタンなどの極性弾性素材の形成に参加することができる。このようなチオール基を有する化合物は、いわゆるチオール−エンクリック(thiol−ene click)反応を通じて、二重結合と共有結合を形成でき、ポリウレタン素材の生成にも参加できる反応性を有し、粘度が低く、ポリブタジエンポリオールとの相溶性を示す。
【0022】
図1は、ポリブタジエンポリオール(Hydroxyl terminated polybutadiene、HTPB)とチオール基とを有する化合物(HS−CHCHOH)がラジカル開始剤によりチオール−エンクリック反応が起こることを示す。このようなチオール−エンクリック反応が起こるためには、ラジカル開始剤が必要である。
【0023】
図2は、チオール化合物とポリウレタンプレポリマーとの化学反応によりポリウレタンを形成させる反応を見せる図であり、図3は、水酸基を有する化合物とポリウレタンプレポリマーとの化学反応によりポリウレタンを形成させる反応を示す図である。図2及び図3のような反応を通じて、極性のポリウレタンプレポリマーと接合をなす界面で、化学的反応が起こり、強い接着力を実現できる。
【0024】
ここで、前記無溶媒反応型接着組成物は、前記ポリブタジエンポリオールを90〜95重量部、前記の少なくとも一つのチオール基を含む複数の活性水素基を有するポリブタジエン改質用化合物を5〜10重量部、前記ラジカル開始剤を0.5〜5重量部含むものでありうる。
【0025】
前記ポリブタジエンポリオールの含量が90重量部未満、前記チオール基を有する化合物の含量が10重量部を超過すれば、ポリブタジエンポリオールと、チオール基を有する化合物との間で相分離を起こすために問題になるうるのであり、前記ポリブタジエンポリオールの含量が95重量部を超過し、前記チオール基を有する化合物の含量が5重量部未満であれば、低い接着強度を示しうる。
【0026】
そして、前記ラジカル開始剤が0.1重量部未満であれば、開始剤の含量が必要レベルに未逹のため、円滑な反応が発生しないことがあり、5重量部を超過すれば、あまりにも早い反応のために、正しい接着剤の塗布が不可能な場合がある。
【0027】
一方、本発明の無溶媒反応型接着組成物を製造するための前記ポリブタジエンポリオールのポリマー鎖は、cis−1,4−ポリブタジエン、trans−1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、及び、これらのうちの2つ以上が共重合した形態からなる群より選ばれるいずれか1つでありうる。
【0028】
そして、前記チオール基を有するポリブタジエン改質用化合物は、脂肪族チオール化合物または芳香族チオール化合物でありうる。
【0029】
より具体的には、前記のチオール基を有するポリブタジエン改質用化合物の非限定的な例として、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,7−ヘプタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、2−メルカプトエタノール、アミノエタンチオール、2−(ブチルアミノ)エタンチオール、3−(メチルチオ)プロピルアミン、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、トリス[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、2,2’−(エチレンジオキシ)ジエタンチオールなどの脂肪族チオール化合物と、芳香族チオール化合物などを挙げることができる。好ましくは、約500g/mol以下の重量平均分子量を有する低分子量のチオール化合物でありうる。
【0030】
そして、前記ラジカル開始剤は、紫外線によって活性化される光開始剤、加熱による分解を利用する過酸化物開始剤、及びアゾ化合物からなる群より選ばれるいずれか1つまたはこれらのうち、2種以上の混合物でありうる。
【0031】
前記光開始剤では、ベンゾインエーテル(例えば、ベンゾインメチルエーテルまたはベンゾインブチルエーテル)、アセトフェノン誘導体(例えば、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンまたは2,2−ジエトキシアセトフェノン)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アシルホスフィンオキシド誘導体、及びアシルホスホネート誘導体(例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ジフェニル−2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド、イソプロポキシフェニル−2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド、またはジメチルピバロイルホスホネート)が含まれる。
【0032】
そして、過酸化物開始剤では、ヒドロペルオキシド(例えば、クメン、tert−ブチルまたはtert−アミルヒドロペルオキシド)、ジアルキルペルオキシド(例えば、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、またはシクロヘキシルペルオキシド)、ペルオキシエステル(例えば、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルモノペルオキシマレエート、またはジ−tert−ブチルペルオキシフタレート)、及びジアシルペルオキシド(例えば、ベンゾインペルオキシドまたはラウリルペルオキシド)が含まれ得る。
【0033】
また、ペルオキシカーボネート(例えば、tert−ブチルペルオキシ2−エチルヘキシルカーボネート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、またはジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート)、及び、ケトンペルオキシド(例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、及びシクロヘキサノンペルオキシド)が含まれ得る。
【0034】
そして、アゾ化合物では、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチロアミジン)ジヒドロクロリド、及び2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、有機または無機ペルオキシド、例えば、ジアセチルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジアミルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(o−トルオイル)ペルオキシド、スクシニルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート、tert−ブチルペルマレーネート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペルピバレート、tert−ブチルペルオクトエート、tert−ブチルペルネオデカノエート、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、及びジイソプロピルペルオキシジカルバメートが含まれ得る。
【0035】
このようなラジカル開始剤は、一般的に単量体組成物の総量(本件の場合、(i)液状ポリブタジエンと、(ii)少なくとも一つのチオール基を含む複数の活性水素基を有するポリブタジエン改質用化合物と、(iii)重合開始剤とのトータル)を基準に0.1重量%〜5重量%の量で使用されることができ、より好ましくは、単量体組成物の総量を基準に0.1重量%〜3重量%の量で使用されることができる。
【0036】
一方、本発明の他の側面によるタイヤの製造方法は、(S1)タイヤトレッド用加硫ゴムの表面に接着組成物を塗布するステップと、(S2)前記接着組成物を塗布した面の上にポリウレタンプレポリマーの層などを形成させるステップと、(S3)前記(S2)ステップの結果物を加熱するステップとを含み、前記接着組成物は、前述した本発明の無溶媒反応型接着組成物であることを特徴とする。
【0037】
このような方法によれば、タイヤトレッド用加硫ゴムとポリウレタンプレポリマーとの間に化学的結合がなされて、2つの素材間に完璧な接着力の実現が可能となる。
【0038】
このとき、前記(S1)ステップ以後、(S2)ステップ以前に接着組成物によるチオール−エンクリック反応が進行され得るように110℃で30分間熱処理することができる。
【0039】
そして、前記(S3)ステップは、ポリウレタンの硬化のために110℃で12時間の間なされることができる。
【0040】
一方、本発明のタイヤトレッド用加硫ゴムの原料ゴムは、天然ゴム、合成ゴム、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つでありうる。
【0041】
前記天然ゴムは、一般的な天然ゴムまたは変性天然ゴムでありうる。
【0042】
前記一般的な天然ゴムは、天然ゴムとして知られたものであれば、いずれも使用されうるのであり、原産地などが限定されない。前記天然ゴムは、シス−1,4−ポリイソプレンを主体として含むが、要求特性に応じてトランス−1,4−ポリイソプレンを含むこともできる。したがって、前記天然ゴムには、シス−1,4−ポリイソプレンを主体として含む天然ゴムの他に、例えば、南米産アカテツ科のゴムの一種であるバラタなど、トランス−1,4−イソプレンを主体として含む天然ゴムも含むことができる。
【0043】
前記変性天然ゴムは、前記一般的な天然ゴムを変性または精製したものを意味する。例えば、前記変性天然ゴムでは、エポキシ化天然ゴム(ENR)、脱タンパク天然ゴム(DPNR)、水素化天然ゴムなどを挙げることができる。
【0044】
そして、前記合成ゴムは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、変性スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム(BR)、変性ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つでありうる。
【0045】
このうちでも、前記原料ゴムは、スチレン−ブタジエンゴム(Styrene Butadiene Rubber、SBR)とブタジエンゴム(Butadiene Rubber、BR)との混合物を含むことが原料ゴム使用によるタイヤの耐摩耗性能及び燃費性能の改善効果の面で好ましいことができる。
【0046】
そして、補強性充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、またはこれらの混合物を使用できる。
【0047】
一方、前記タイヤトレッド用加硫ゴム組成物は、選択的に追加的な加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、軟化剤、遅延剤、または粘着剤などの各種の添加剤をさらに含むことができる。前記各種の添加剤は、本発明の属する分野において通常的に使用されるものであれば、いずれも使用することができ、これらの含量は、通常的なタイヤトレッド用ゴム組成物で使用される配合比によるので、特に限定されない。
【0048】
前記加硫剤としては、硫黄系加硫剤を好ましく使用することができる。前記硫黄系加硫剤は、粉末硫黄(S)、不溶性硫黄(S)、沈降硫黄(S)、コロイド(colloid)硫黄等の無機加硫剤を使用できる。前記硫黄系加硫剤では、具体的に元素硫黄または硫黄を作り出す加硫剤、例えば、アミンジスルフィド(amine disulfide)、高分子硫黄などを使用できる。
【0049】
前記加硫剤は、前記原料ゴム100重量部に対して0.5〜4.0重量部で含まれることが、適切な加硫効果として原料ゴムが熱にあまり敏感でなく、化学的に安定なようにするという点で好ましい。
【0050】
前記加硫促進剤は、加硫速度を促進したり、初期加硫ステップで遅延作用を促進する促進剤(accelerator)を意味する。
【0051】
前記加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、キサンタート系、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。
【0052】
前記スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つのスルフェンアミド系化合物を使用できる。
【0053】
前記チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアゾールジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩、2−メルカプトベンゾチアゾールの銅塩、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2−(2,6−ジエチル4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つのチアゾール系化合物を使用できる。
【0054】
前記チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つのチウラム系化合物を使用できる。
【0055】
前記チオウレア系加硫促進剤としては、例えば、チオカルバミド、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジオルトトリルチオ尿素、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つのチオウレア系化合物を使用できる。
【0056】
前記グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、オルトトリルビグアナイド、ジフェニルグアニジンフタレート、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つのグアニジン系化合物を使用できる。
【0057】
前記ジチオカルバミン酸系加硫促進剤としては、例えば、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛、ジプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛とピペリジンとの錯塩、ヘキサデシルイソプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、オクタデシルイソプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン、ジメチルジチオカルバミン酸セレニウム、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジアミルジチオカルバミン酸カドミウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つのジチオカルバミン酸系化合物を使用できる。
【0058】
前記アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系加硫促進剤では、例えば、アセトアルデヒド−アニリン反応物、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物、ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒド−アンモニア反応物、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるアルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系化合物を使用できる。
【0059】
前記イミダゾリン系加硫促進剤としては、例えば、2−メルカプトイミダゾリンなどのイミダゾリン系化合物を使用でき、前記キサンタート加硫促進剤では、例えば、ジブチルキサントゲン酸亜鉛などのキサンタート化合物を使用できる。
【0060】
前記加硫促進剤は、加硫速度促進を介しての生産性増進及びゴム物性の増進を極大化させるために、前記原料ゴム100重量部に対して0.5〜4.0重量部で含まれることができる。
【0061】
一方、前記加硫促進助剤は、前記加硫促進剤と併用して、その促進効果を完全にするために使用される配合剤であって、無機系加硫促進助剤、有機系加硫促進助剤、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。
【0062】
前記無機系加硫促進助剤としては、酸化亜鉛(ZnO)、炭酸亜鉛(zinc carbonate)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化鉛(lead oxide)、水酸化カリウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。前記有機系加硫促進助剤では、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、パルミチン酸、リノール酸、オレイン酸、ラウリン酸、ジブチルアンモニウム−オレート(dibutyl ammonium oleate)、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。
【0063】
特に、前記加硫促進助剤として、前記酸化亜鉛と前記ステアリン酸とを共に使用することができ、この場合、前記酸化亜鉛が前記ステアリン酸に溶けて、前記加硫促進剤と有効な複合体(complex)を形成し、加硫反応中、有利な硫黄を作り出すことにより、ゴムの架橋反応を容易にする。
【0064】
前記酸化亜鉛と前記ステアリン酸とを共に使用する場合、適切な加硫促進助剤としての役割のために、各々前記原料ゴム100重量部に対して1〜5重量部及び0.5〜3重量部で使用することができる。前記酸化亜鉛と前記ステアリン酸との含量が前記範囲未満である場合、加硫速度が遅くて、生産性が低下することがあり、前記範囲を超過する場合、スコーチ現象が発生して物性が低下することがある。
【0065】
一方、前記老化防止剤は、酸素によってタイヤが自動酸化される連鎖反応を停止させるために使用される添加剤である。前記老化防止剤では、アミン系、フェノール系、キノリン系、イミダゾール系、カルバミン酸金属塩、ワックス、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを適宜選択して使用することができる。
【0066】
前記アミン系老化防止剤としては、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチル)−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジアリール−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−シクロヘキシルp−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−オクチル−p−フェニレンジアミン、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。前記フェノール系老化防止剤では、フェノール系である2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−イソブチリデン−ビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。前記キノリン系老化防止剤では、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン及びその誘導体を使用でき、具体的に、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、6−アニリノ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、6−ドデシル−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。前記ワックスでは、好ましく、ワックスハイドロカーボンを使用できる。
【0067】
そして、前記老化防止剤は、老化防止作用の他に、ゴムに対する溶解度が大きくなければならず、揮発性が小さく、ゴムに対して不活性でなければならず、加硫を阻害してはいけないなどの条件を考慮するとき、前記原料ゴム100重量部に対して1〜10重量部で含まれることができる。
【0068】
一方、前記軟化剤は、ゴムに可塑性を付与させて、加工を容易にするためにまたは加硫ゴムの硬度を低下させるためにゴム組成物に添加されるものであり、ゴム配合時やゴム製造時に使用されるオイル類、その他の材料を意味する。前記軟化剤は、加工オイル(Process oil)またはその他、ゴム組成物に含まれるオイル類を意味する。前記軟化剤では、石油系オイル、植物油脂、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できるが、これに限定されるものではない。
【0069】
前記石油系オイルとしては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族系オイル、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。
【0070】
前記パラフィン系オイルの代表的な例として、ミチャンオイル株式会社のP−1、P−2、P−3、P−4、P−5、P−6などを挙げることができ、前記ナフテン系オイルの代表的な例では、ミチャンオイル株式会社のN−1、N−2、N−3などを挙げることができ、前記芳香族系オイルの代表的な例では、ミチャンオイル株式会社のA−2、A−3などを挙げることができる。
【0071】
しかし、最近、環境意識の高調とともに、前記芳香族系オイルに含まれたポリサイクリックアロマティック炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons、以下、PAHsという)の含量が3重量%以上であるときは、癌誘発可能性が高いものとして知られているところ、TDAE(treated distillate aromatic extract)オイル、MES(mild extraction solvate)オイル、RAE(residual aromatic extract)オイル、または重質ナフテン性オイルを好ましく使用することができる。
【0072】
特に、前記軟化剤として使用するオイルは、前記オイル全体に対してPAHs成分の総含量が3重量%以下であり、動粘度が95以上(210°F SUS)、軟化剤内の芳香族成分が15〜25重量%、ナフテン系成分が27〜37重量%、及びパラフィン系成分が38〜58重量%であるTDAEオイルを好ましく使用することができる。
【0073】
前記TDAEオイルは、前記TDAEオイルを含むタイヤトレッドの低温特性、燃費性能を優れたものにしながらも、PAHsの癌誘発可能性などの環境的要因に対しても有利な特性を有する。
【0074】
前記植物油脂としては、ひまし油、綿実油、亜麻仁油、キャノーラ油、大豆油、パーム油、ヤシ油、落花生油、パイン油、パインタール、トール油、コーン油、米ぬか油、紅花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカダミアナッツ油、サフラワー油、桐油、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。
【0075】
前記軟化剤は、前記原料ゴム100重量部に対して0〜20重量部で使用することが原料ゴムの加工性を良くするという点で好ましい。
【0076】
一方、前記遅延剤としては、フタル酸無水物、サリチル酸、ナトリウムアセテート、N−シクロヘキシルチオフタルイミド、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つを使用できる。前記遅延剤は、前記原料ゴム100重量部に対して0.1〜0.5重量部でありうる。
【0077】
そして、前記粘着剤は、ゴムとゴムとの間の接着(tack)性能をさらに向上させ、充填剤のようなその他の添加剤等の混合性、分散性、及び加工性を改善させてゴム組成物の物性向上に寄与する。
【0078】
前記粘着剤としては、ロジン(rosin)系樹脂またはテルペン(terpene)系樹脂といった天然樹脂系粘着剤、並びに、石油樹脂、コールタール(coal tar)由来の樹脂、または、アルキルフェノール系樹脂などの合成樹脂系粘着剤を使用できる。
【0079】
前記ロジン系樹脂は、ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つでありうる。前記テルペン系樹脂は、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つでありうる。
【0080】
前記石油樹脂は、脂肪族系樹脂、酸改質脂肪族系樹脂、脂環族系樹脂、水添脂環族系樹脂、芳香族系(C)樹脂、水添芳香族系樹脂、C−C共重合樹脂、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つでありうる。
【0081】
前記コールタール由来の樹脂は、クマロン−インデン樹脂(coumarone−indene resin)でありうる。
【0082】
前記アルキルフェノール樹脂は、p−tert−アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂またはレゾルシノールホルムアルデヒド樹脂でありうるし、前記p−tert−アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂は、p−tert−ブチル−フェノールホルムアルデヒド樹脂、p−tert−オクチル−フェノールホルムアルデヒド、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるいずれか1つでありうる。
【0083】
前記粘着剤は、前記原料ゴム100重量部に対して2〜4重量部で含まれることができる。前記粘着剤の含量が前記原料ゴム100重量部に対して2重量部未満であれば、接着性能が不利になる可能性があり、4重量部を超過すれば、ゴム物性が低下する恐れがある。
【0084】
一方、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、競走用タイヤ、飛行機タイヤ、農機械用タイヤ、オフロード(off−the−road)タイヤ、トラックのタイヤ、またはバスのタイヤなどでありうる。また、前記タイヤは、ラジアル(radial)タイヤまたはバイアス(bias)タイヤでありうる。
【0085】
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、種々の相違した形態で実現されうるのであり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0086】
[製造例:接着組成物の製造]
下記表1のような組成で接着組成物を製造した。下記の接着組成物は、有機溶媒を含まない。
【0087】
【表1】
【0088】
(単位:重量比)
・2,2′-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール
【0089】
[実験例:接着力測定]
前記実施例で製造された接着組成物による接着力測定のために、タイヤトレッド用素材として使用される典型的な加硫合成ゴムと、Shore A硬度が95の水準であるポリウレタン弾性体との間の接着力を測定した。
【0090】
まず、前記組成を有する接着組成物を加硫合成ゴムに0.001g/inで塗布した後、接着組成物が加硫ゴムの表面に十分に濡(ぬ)れ広がるとともに、チオール−エンクリック反応が進行され得るように110℃で30分間熱処理した。
【0091】
次いで、イソシアネート(NCO)含量が8.5重量%であるエーテル系のポリウレタンプレポリマーと、1,4−ブタンジオールとの混合物を塗布し、これの硬化のために110℃で12時間にわたって維持した後、ポリウレタンと加硫ゴムとの間の接着力を測定して、下記の表2に示した。
【0092】
【表2】
【0093】
前記表2において確認できるように、本願の接着組成物により高い接着力を実現でき、特に、接着力評価の際、界面で破壊が起こらず、加硫ゴムで破壊が起こることに鑑みて、界面では完璧に接合されたことを確認することができた。
【0094】
以上から、本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲は、これに限定されるものではなく、次の請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に属するものである。
【0095】
本発明の好ましい一実施形態においては、下記のとおりである。
【0096】
一般の乗用車及びバス・トラックのタイヤには、主として、加硫ゴムによる空気入りタイヤが用いられているが、フォークリフトなどには、ウレタン樹脂などによるタイヤが多く用いられている。一方、建機、農機などでは、加硫ゴムによるタイヤトレッドの内側に、非発泡の弾性ウレタン樹脂を充填させたソリッドタイヤや、弾性ウレタン樹脂発泡体を充填形成させた発泡ウレタン充填タイヤも用いられている。なお、ここでの、加硫ゴムによるタイヤトレッドは、スチールベルトを内部に含むことができ、また、サイドウォールの少なくとも一部も加硫ゴムにより一体に成形することもできる。また、タイヤの種類によっては、加硫ゴムと弾性ウレタン樹脂などとを積層させたゴム積層物を用いることも考えられている。さらには、加硫ゴムなどによるタイヤトレッドの内側に、ウレタン樹脂などの弾性樹脂からなるスポークを配列したエアレスタイヤも提案されている。また、場合によっては、タイヤトレッドを弾性ウレタン樹脂で形成することで路面上での摩耗による汚染を減少させるとともに、樹脂製トレッドの内側に、加硫ゴムの部材を含む部材を配置することも考えられる。一方、小型で電動式の自動走行車やシェアリング用乗用車などでは、ウレタン樹脂と、加硫ゴムとの積層により、適当な物性を実現することもありうる。
【0097】
このように、加硫ゴムの部材と、ウレタン樹脂の部材とを積層するためには、加硫ゴムの部材を、加硫により形成した後に、加硫ゴムの表面に、液状のウレタンプレポリマーを接触させた状態で、このウレタンプレポリマーを硬化させることができる。ところが、このような場合にも、加硫ゴムの表面は、通常、ウレタンプレポリマーとの親和性が低く、また、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基と反応する反応基を持たない。そのため、ウレタンプレポリマーを硬化させた後に生じるウレタン樹脂弾性体との接着性が十分でないことがありうる。そこで、加硫ゴムの表面を粗面化しておくか、または、加硫ゴム及びウレタン樹脂の両者に対して接着性の高いコーティング層を設けておくことが考えられる。しかし、これらはコスト増加の原因となるか、そうでない場合に、接着性が不十分となりうる。
【0098】
本件発明者らは、上記課題の解決を試みる中で、加硫ゴムとの親和性の高い液状ポリブタジエンを用いるとともに、液状ポリブタジエンに、イソシアネート基と反応する反応基を導入するとの着想を得た。そして、このような反応基の導入のために、図1のようなチオール−エン反応(Thiol-ene Reaction;チオール−エンクリック反応)を用いた。すなわち、液状ポリブタジエンのポリマー鎖中に存在する二重結合に、チオール基を反応させるのであり、このように反応を行う少なくとも一つのチオール基と、イソシアネート基と反応する少なくとも一つの活性水素基(特には、水酸基、アミノ基、またはチオール基)とを有するポリブタジエン改質用化合物を用いる。なお、チオール−エンクリック反応は、通常、ラジカル重合開始剤(特には熱重合開始剤)を用いて行われており、この開始剤によって生じたチイルラジカル(thiyl radical)が付加する連鎖機構で進行するとされている。
【0099】
ポリブタジエン改質用化合物としては、分子量(g/mol)が50〜1000、特には700以下、500以下、400以下または300以下の低分子化合物を用いることができる。分子量が異なる複数の化合物を混合して用いる場合、重量平均分子量が、上記のような上限値を有するようにすることができる。ポリブタジエン改質用化合物としては、一つの直鎖または分岐鎖をなす短い分子鎖部分(例えば、50〜200g/mol)の末端に、チオール基やその他の活性水素基を有する化合物を用いることができる。ここでの分子鎖部分は、例えば、炭素数が3〜20、特には3〜12の脂肪族鎖や、その一部がエーテル基で置換されたポリエーテルなどの含エーテル分子鎖でありうる。または、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、イソシアヌル酸トリス(2-ヒドロキシエチル)、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの各ヒドロキシル基に、3−メルカプトプロピオネート、メルカプトアセタート(チオグリコレート)などが結合した形の化合物でありうる。
【0100】
液状ポリブタジエンは、25℃で液体であり、重量平均分子量(Mw)が、好ましくは、20,000g/mol以下、特には10,000g/mol以下である。多分散度(polydispersity)、すなわち、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値は、通常、1.1〜3、例えば1.2〜2.6である。一つの直鎖状をなすものの他、分岐を含み、ポリマー末端の数が、例えば2〜3のものを用いることができる。液状ポリブタジエンの分子量分布及び分岐度は、例えば、GPC(SEC)システム(一具体例にて、昭光サイエンス(株)のProminence 501)を、多角度光散乱(MALS)検出器、及び、粘度検出器(一具体例にて、それぞれ、Wyatt TechnologyのDAWN(登録商標)、及び、ViscoStar)を用いて評価することができる。この際、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とし、40℃にて、ポリスチレンゲルカラム(一具体例にて、Polymer Laboratories社のPLgel Olexis 2本+PLgel mixed-C 1本)を用いることができる。
【0101】
液状ポリブタジエンのポリマー鎖は、cis−1,4結合と、trans−1,4結合と、1,2−ビニル結合とを含む。ここで、1,2−ビニル結合のモル比率は10〜95%、trans−1,4結合のモル比率は、5〜85%とすることができる。好ましい一の具体的な実施形態において、反応性が、より高い1,2−ビニル結合のモル比率が、50%以上、または60%以上、特には、70%以上、80%以上、または90%以上のものを用いることができる。
【0102】
液状ポリブタジエンは、好ましくは、分子鎖の末端に、イソシアネート基と反応する活性水素基が導入されたものである。すなわち、1級または2級の水酸基またはアミノ基が導入されたものである。安定性などの点から、特には、水酸基を各末端に導入した水酸基末端(hydroxyl-terminated)ポリブタジエンを用いることができる。液状ポリブタジエンの分子あたりの水酸基の数は、例えば、1.5〜3または1.6〜2.7である。
【0103】
加硫ゴムの表面に、活性水素基を導入するための表面改質組成物(「無溶媒反応型接着組成物」)は、液状ポリブタジエン(特にはポリブタジエンポリオール)100重量部に対して、上記のポリブタジエン改質用化合物を、3〜15重量部、4〜12重量部、または5〜10重量部だけ加えることができる。また、さらに加える上記のラジカル重合開始剤(特には熱重合開始剤)の量を、ポリブタジエン改質用化合物の3〜100重量%、5〜80重量%または10〜50重量%、または、液状ポリブタジエン(特にはポリブタジエンポリオール)100重量部に対して、0.1〜10重量部、0.3〜8重量部、または0.5〜5重量部とすることができる。
【0104】
なお、この表面改質組成物(「無溶媒反応型接着組成物」)には、場合により、上記の粘着剤や、液状のイソプレン―ブタジエン共重合体などを、例えば、液状ポリブタジエン(特にはポリブタジエンポリオール)100重量部に対して、1〜15重量部の範囲で含むこともできる。
【0105】
表面改質組成物(「無溶媒反応型接着組成物」)は、加硫ゴムの表面に、0.1〜10μg/in(6.54cm)、すなわち、0.015〜1.5μg/cmという、非常に少量だけの塗布を行うことができる。この塗布の後、例えば70〜120℃または80〜130℃に加熱して、例えば10分〜3時間または15分〜2時間の加熱を行うことにより、チオールエンクリック反応を行わせることができる。このチオールエンクリック反応により、部分的に、ポリブタジエンのポリマー鎖同士の架橋、及び、加硫ゴムの表面に残存しているジエン部分との反応または架橋も起こりうる。
【0106】
上記のように、加硫ゴムの表面上で、表面改質組成物(「無溶媒反応型接着組成物」)の反応(チオールエンクリック反応)が充分に行われた後、このように改質された表面に接するようにして、ウレタンプレポリマーを含むウレタン反応液を配置する。例えば、加硫ゴムからなるトレッドなどが、モールド内に嵌め込まれた状態で、ウレタン反応液を注入する。そして、加熱によりウレタン架橋反応を行わせる。
【0107】
ウレタンプレポリマーは、ジオール、トリオールなどのポリオールと、低分子量のポリイソシアネートとを反応させて、末端にイソシアネートが残るようにした液状のポリマーである。ここでのポリオールとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはTHFなどを重合させたポリエーテル鎖、及び/または、ポリエステル鎖を含むものを用いることができる。ポリエステル鎖としては、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸などと、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどとを重縮合させたものや、ポリカプロラクトンなどを用いることができる。ウレタンフォームを製造するためのポリオールの分子量(GPC-光散乱法での重量平均分子量)は、例えば1000〜10,000でありうる。また、ここでのポリイソシアネートとしては、TDI, MDI, HDI, XDIなどの一般的なものを用いることができる。
【0108】
上記表1〜2の実施例は、具体的には、下記のとおりに行った。
【0109】
まず、ポリブタジエンポリオールとして、Cray Valley社のKrasol(登録商標) LBH- 2000を用いた。この製品についていた分析値によると、1,2-ビニル結合のモル割合が65%、1,4-トランス結合のモル割合が22.5%、数平均分子量(Mn)が2100、多分散度(Mw/Mn)が1.35、水酸基価が51KOHmg/g、一分子当たりの水酸基の数が1.9〜2.0、25℃でのB型粘度が13Pa・sである。なお、場合によっては、日本曹達(株)のG-2000(1,2-ビニル結合が85%以上、1,4-トランス結合が15%以下、水酸基価が35〜55KOHmg/g)を用いることもできる。
【0110】
非発泡性のポリウレタン弾性体を形成したのであり、ポリウレタンを形成するための、ウレタン反応液は、ウレタンプレポリマーと、鎖延長剤としての1,4−ブタンジオールとを、NCO/OHモル比が1.05となるように混合したものである。ウレタンプレポリマーは、ポリテトラメチレングリコ―ル(数平均分子量Mn=2000;Mitsubishi Chemical CorporationのPTMG 2000)と、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)とをNCO/OHモル比が2.0となるように混合し、85℃で2時間撹拌することで得たものである。上記のウレタン反応液を加熱して硬化させることで、高温(例えば、約180℃)で融解可能なポリウレタンエラストマー(PUE)が得られる。
【0111】
一方、加硫ゴムには、スチレン−ブタジエンゴムと、ブタジエンゴム(cis含量が95%;Kumho PetrochemicalのKBR 01L)とを等重量で混合して加硫させたものを用いた。なお、実験のためには、モールド内にて、フッ素樹脂コーティングをしたアルミニウム板の上に、加硫ゴムの原料組成物を流し込んでから、モールドを閉じ、加熱することで、5mm厚の加硫ゴムのシートを作製した。次いで、モールド内にて、このように作製した加硫ゴムのシートの上に表面改質組成物を塗布し、加熱により反応を行わせた。この後、上記のウレタン反応液を、表面改質後の加硫ゴムのシートの上に均一に塗布し、加熱により硬化させることで、5mm厚のポリウレタンエラストマー(PUE)のシートを形成させた。そして、T形はく離(T-peel)接着力を、JIS K 6854-3:1999に準拠して、縦型の剥離荷重試験機(YEONJIN S-Tech CorporationのTXATM Peel-off Tester)にて、引張速度5mm/分の条件下で引張試験を行った。
【0112】
以上のように、好ましい一実施形態においては、ポリブタジエンポリオールと、少なくとも一つのチオール基を含む複数の活性水素基を有する化合物と、ラジカル開始剤とを含む無溶媒反応型接着組成物を用いる。そして、例えば、加硫ゴムからなるタイヤトレッドの内面に、上記の無溶媒反応型接着組成物を薄く塗布し、加熱して反応させることで、ポリブタジエンポリオールに活性水素基を導入する。そして、この後、ウレタンプレポリマーを含むウレタン反応液を、タイヤトレッドの内面に接するようにして配置した後、加熱硬化することでタイヤを製造する。
図1
図2
図3