特許第6810310号(P6810310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6810310-マグロ属魚類仔稚魚用飼料組成物 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810310
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】マグロ属魚類仔稚魚用飼料組成物
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20201221BHJP
   A23K 10/26 20160101ALI20201221BHJP
   A23K 10/14 20160101ALI20201221BHJP
【FI】
   A23K50/80
   A23K10/26
   A23K10/14
【請求項の数】18
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-40252(P2019-40252)
(22)【出願日】2019年3月6日
(65)【公開番号】特開2019-154432(P2019-154432A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2019年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2018-43619(P2018-43619)
(32)【優先日】2018年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年12月 1日付け日経産業新聞(第1面)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年12月 3日付け日本経済新聞電子版(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2413841001122017X11000/)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年10月 4日付けみなと新聞(第1面)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年10月 4日付けみなと新聞電子版(http://www.minato−yamaguchi.co.jp/minato/e−minato/articles/73319)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年 9月13日付け日経産業新聞(第9面)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年 9月16日付け日本経済新聞電子版(https://www.nikkei.com/article/DGXKZO21033560S7A910C1X91000/)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月11日付け週刊現代(第80及び81頁)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月12日付け現代ビジネスプレミアム(http://gendai.ismedia.jp/articles/−/53396)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月22日放送の日本テレビ「News every ぷらまいッ「広がる国産魚ユニーク販売も」」
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年12月11日付けフィード・ワン株式会社第2四半期決算説明資料(http://www.net−presentations.com/2060/20171127/html5player.html)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年 2月 7日付けダイアモンド・オンライン(http://diamond.jp/articles/−/158742)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月27日に東京都中央区八重洲1−3−7 八重洲ファーストフィナンシャルビル2Fベルサール八重洲Room B+Cでフィード・ワン株式会社によって開催された2018年3月期第2四半期決算説明会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年 9月16日付けNIKKEI ASIAN REVIEW(https://asia.nikkei.com/J apan−Update/Baby−bluefin−respond−eagerly−to−new−feed)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月24日放送の日本放送協会「NHK松山支局 ひめポン」
(73)【特許権者】
【識別番号】515320499
【氏名又は名称】フィード・ワン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若杉 郷臣
(72)【発明者】
【氏名】北村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】入江 奨
(72)【発明者】
【氏名】岡松 一樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 亘
(72)【発明者】
【氏名】秋元 淳志
(72)【発明者】
【氏名】富田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 樹志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄真
(72)【発明者】
【氏名】信太 茂春
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敦一
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−32694(JP,A)
【文献】 熊井英水・宮下盛・小野征一郎,近畿大学プロジェクト クロマグロ完全養殖,成山堂書店,2010年 3月28日,第60頁〜第70頁
【文献】 循環資源利用促進特定課題研究開発基金事業 ホタテウロの利用技術開発 ホタテウロを原料とした新たな魚類摂餌促進物質の製造技術開発,地方独立行政法人北海道立総合研究機構,2015年 2月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 − 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウロ分解産物、またはウロエキス、その濃縮物、乾燥物もしくは希釈物(以下、ウロエキス等と総称する)を含む、マグロ属魚類の仔稚魚用飼料組成物。
【請求項2】
前記仔稚魚は、孵化後10日齢以上70日齢以下又は全長8mm以上300mm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記仔稚魚は、孵化後17日齢以上70日齢以下又は全長11mm以上300mm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記稚魚は、孵化後20日齢以上70日齢以下又は全長18mm以上300mm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末を含む、請求項1から4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ウロエキス等を、飼料組成物中、乾物換算値として1.0〜5.0質量%含む、請求項1から5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
遊離アミノ酸の総量が18,000〜100,000mg/kgである、請求項1〜6の何れか1項に記載の組成物。
【請求項8】
遊離アミノ酸の総量が40,000〜80,000mg/kgである、請求項1〜6の何れか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末を、乾物換算値で30質量%〜90質量%含む、請求項5〜8の何れか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末を、乾物換算値で50質量%〜80質量%含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
ウロエキス等を含む、マグロ属魚類の仔稚魚用摂餌促進剤。
【請求項12】
遊離アミノ酸の総量が乾物換算値として14質量%〜40質量%である、請求項11に記載の摂餌促進剤。
【請求項13】
ウロ分解産物、またはウロエキス、その濃縮物、乾燥物もしくは希釈物と、酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末とを配合することを含む、マグロ属の仔稚魚用飼料組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10の何れか1項に記載の組成物、或いは請求項11又は12に記載の摂餌促進剤を給与する、マグロ属魚類の仔稚魚の飼育方法。
【請求項15】
前記飼料組成物は、酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末を含む、請求項14に記載の飼育方法。
【請求項16】
孵化後10日齢以上70日齢以下又は全長8mm以上300mm以下までの任意の仔稚魚の期間に、前記飼料組成物又は前記摂餌促進剤を給与する、請求項14又は15に記載の飼育方法。
【請求項17】
孵化後17日齢以上70日齢以下又は全長11mm以上300mm以下までの任意の仔稚魚の期間に、前記飼料組成物又は前記摂餌促進剤を給与する、請求項14又は15に記載の飼育方法。
【請求項18】
孵化後20日齢以上70日齢以下又は全長18mm以上300mm以下までの任意の稚魚の期間に、前記飼料組成物又は前記摂餌促進剤を給与する、請求項14又は15に記載の飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロ属魚類の仔稚魚用飼料組成物に関する。より具体的には、ホタテガイのウロエキスまたはその濃縮物等を含み、マグロ属魚類の仔稚魚に対する嗜好性が高く、マグロ属魚類の仔稚魚の成長を増進し生残率を高める飼料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マグロ属魚類の資源量は世界的な需要増大に伴い減少傾向にあり、資源保護の必要性が高まっている。特に我が国はマグロ属魚類を大量に消費しており、日本近海においては世界的に見ても高い漁獲圧を掛けている状況にある。また、蓄養方式による養殖技術が発達したことにより、養殖用種苗として幼魚の積極的な採捕が行われ、資源量の減少に拍車が掛っている。そのため、マグロ属魚類の捕獲には国際的な制限が設けられており、その規制も年々強化されつつある。また、蓄養についても、天然種苗に依存した養殖枠は今後一切追加しない等の規制が設けられている。このようなマグロ資源管理・規制を背景として、天然の漁獲に依存しないマグロ属魚類の増養殖技術の開発が望まれている。
【0003】
このような天然種苗依存型養殖に対して、近年では蓄養中のマグロから受精卵を得て人工孵化させ、稚魚を成魚まで育てて再び産卵させる完全養殖も行われるようになり、天然のマグロ資源の保護と、成魚の安定した供給体制の構築に期待が寄せられている(非特許文献1の第60頁、特許文献1の背景技術等)。
【0004】
マグロ属魚類の完全養殖における種苗生産では、従来、受精卵を陸上の水槽で孵化させたのち、生物餌料を給与していた。その典型例は、孵化後3日齢からシオミズツボワムシを、8日齢からアルテミアを、14日齢からマダイ、イシダイ、又はシロギス等の孵化仔魚を給与するものであった。また、稚魚にまで成長した20日齢からは、生シラスや細断した冷凍イカナゴ等の生餌を与えて育成してきた。細断した生餌の給与は、嗜好性や成長性に優れる反面、冷凍状態からの細断作業が煩雑で、飼育環境を汚し易く、かつ栄養素の流出が懸念される等の問題がある。そのため、マグロ属魚類稚魚の生産現場からは実用的な配合飼料の開発が強く望まれている。
【0005】
しかし、マダイ、ヒラメ、ブリ等の他の海産魚類の仔稚魚に一般的に用いられている配合飼料は、マグロ属魚類の仔稚魚に対する嗜好性が低く、これをマグロ属魚類の仔稚魚に与えても容易には摂餌しない。また、仮に摂餌しても現行の配合飼料の消化性はマグロ属魚類の仔稚魚にとって著しく悪いことから、成長や生残率が低く実用的ではない。そのため、マグロ属魚類の仔稚魚に対する嗜好性や消化性を高め、成長や生残率を改善するための研究が進められている(非特許文献1の第61頁から85頁、特許文献1の0004〜0007等)。
【0006】
マグロ属魚類の仔稚魚用としては、現在、詳細は不明であるが魚粉を高い含有量(80質量%)で含む配合飼料が利用されている(非特許文献2)。
【0007】
また、熊井らは、アラニン、リジン及びイノシン酸の組み合わせ、又はグルタミン酸、ヒスチジン及びイノシン酸の組み合わせを摂餌促進剤として含む配合飼料が、マグロ稚魚に対する嗜好性を高め、成長を改善することを開示している(特許文献1、非特許文献1)。具体的には、基本飼料(ビタミンフリーカゼイン、スケトウダラ肝油、ホワイトデキストリン、ビタミン混合物、ミネラル混合物、カルボキシメチルセルロースからなる)に、イノシン酸2Na塩、グルタミン酸およびヒスチジン塩酸塩1水和物混合物を添加した配合飼料で、摂餌促進活性が最も高く、マアジ合成エキスより高く、次いで、基本飼料に、イノシン酸2Na塩、アラニンおよびリジン塩酸塩混合物を添加した配合飼料で摂餌促進活性が高く、基本飼料に、イノシン酸2Na塩、アラニン、リジン塩酸塩、グルタミン酸およびヒスチジン塩酸塩1水和物を添加した配合飼料では、摂餌促進活性がむしろ低くなることが示されている(特許文献1の表13等、非特許文献1の第62頁および第63頁)。また、イノシン酸と上記4種アミノ酸混合物との何れか一方を欠く配合飼料では、摂餌促進活性が非常に低くなることも示されている(特許文献1の表13等、非特許文献1の第62頁および第63頁)。
イノシン酸のアルカリ金属塩とヒスチジンは、我が国において飼料用途として利用できるものがなく、また、これらは養魚用飼料の添加物としては高価である。従って、より安価な摂餌促進剤が求められている。
【0008】
ホタテウロは、ホタテガイ(Mizuhopecten yessoensis)の中腸腺を主とする貝柱以外の軟体部であり、加工時に発生する副産物である。副産物の一部は食用利用されているが、特に中腸腺は重金属のカドミウムを多く含むため、食用には不向きであり、北海道では、年間3万トンの殆どが堆肥化や焼却・埋め立てによる廃棄処分もしくはセメント原料化されている。
【0009】
これらを有効活用するため、ホタテガイ加工場で発生するホタテウロを自己消化又は蛋白質分解酵素により加水分解して得られる分解産物から不溶成分およびカドミウムを十分に低減又は除去したウロエキスを魚類用飼料に添加して幾つかの魚種に給与する試みが行われている(非特許文献3乃至5)。
【0010】
まず、マダイ(Pagrus major)稚魚およびクロソイ(Sebastes schlegelii Hilgendorf,1880)稚魚に、乾物換算値で、0質量%、1.0質量%及び2.0質量%のウロエキスを添加した飼料を給与したところ、ウロエキスの添加量に依存して飼料の総摂餌量が増え、成長が改善されたことが報告されている(非特許文献3および4)。
他方、ブリ(Seriola quinqueradiata)の2歳魚に、乾物換算値で0.4質量%(水分量が60質量%のものを1.0質量%)のウロエキスを添加した飼料を給与したところ、無添加飼料に比べて日間摂餌率が高まり、成長も改善されたことが報告されている一方(非特許文献5)、乾物換算値で1.0質量%及び2.0質量%のウロエキスを添加した飼料を給与した試験では、逆に成長が悪化したことが報告されている(非特許文献3)。
また、マツカワ(Verasper moseri)稚魚に、乾物換算値で0質量%、1.0質量%及び2.0質量%のウロエキスを添加した飼料を給与したところ、1.0質量%の添加した飼料で最も優れた増重率と飼料効率が得られ、2.0質量%の添加した飼料では増重率と飼料効率が無添加飼料とほぼ同じであったことが報告されている(非特許文献3および4)。
さらに、マガレイ(Pseudopleuronectes herzensteini)稚魚に、乾物換算値で0質量%、1.0質量%及び2.0質量%のウロエキスを添加した飼料を給与したところ、用量依存的に成長が悪化したことが報告されている(非特許文献3)
また、魚等に用いる飼料で、遊離アミノ酸が多くなると飼料効率が悪くなるので遊離アミノ酸が生成し難い飼料が望ましいとの報告もある(特許文献2)。
なお、非特許文献3および4で行なわれた試験で用いた基礎飼料(ウロエキスを添加する前の飼料)は、遊離アミノ酸を0.3〜1.6質量%含むものである。
【0011】
これらの報告では、ウロエキスの遊離アミノ酸含有量が多いことから、一部の魚種ではウロエキスの添加がアミノ酸過多による成長悪化の原因になり、ウロエキスの添加によって成長の改善が認められた魚種でも、有効性が認められる含有量は様々であり、過剰な添加量はむしろ成長を悪化させることが述べられている。このため、遊離アミノ酸量の多い基礎飼料では、ウロエキスの添加量によってアミノ酸過多になることが予想される。また、いずれの試験でも、ウロエキスの飼料への添加が生残率に及ぼす影響については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−223164号公報
【特許文献2】WO2004−014145
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】近畿大学プロジェクト クロマグロ完全養殖 熊井 英水、宮下 盛、小野征一郎 共編著 成山堂書店 平成22年3月28日発行
【非特許文献2】日清丸紅飼料(株)製造「鮪心」の添付文書
【非特許文献3】地方独立行政法人 北海道立総合研究機構,2015,循環資源利用促進特定課題研究開発基金事業報告書:27−42
【非特許文献4】平間ら、2013、第24回廃棄物資源循環学会研究発表会公演論文集:339−340
【非特許文献5】入江ら、2014,平成26年度日本水産学会春季大会講演要旨集:183
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の状況において、マグロ属魚類の仔稚魚に適する様々な飼料原料を探索したところ、ホタテガイのウロ分解産物またはウロエキス等を添加した飼料で摂餌が促進され、成長および生残率が改善されることを見出し、本発明に到った。
すなわち、本発明は、その一の実施形態で、ウロ分解産物、又はウロエキス、その濃縮物、乾燥物もしくは希釈物(以下、ウロエキス等と総称することがある)を含む、マグロ属魚類の仔稚魚用の飼料組成物を提供する。
本発明はまた、他の実施形態で、ウロ分解産物、又はウロエキス等を含む、マグロ属魚類の仔稚魚用の摂餌促進剤を提供する。
本発明は、さらに他の実施形態で、このような飼料組成物又は摂餌促進剤を製造する方法、並びにこのような飼料組成物または摂餌促進剤を利用してマグロ属魚類の仔稚魚を飼育する方法を提供する。
【0015】
ここで、本願明細書で用いる幾つかの用語について定義する。
(1)本願明細書で用いる際「ホタテウロ」とは、ホタテガイ(Mizuhopecten yessoensis)の少なくとも中腸腺を含む貝柱以外の軟体部の全部又は一部を意味する。従って、本願明細書では、中腸腺のみでもそれ以外の軟体部を含む場合でも「ホタテウロ」と称する。
(2)本願明細書で用いる際「ウロ分解産物」とは、ホタテウロを自己消化又は添加した蛋白質分解酵素により加水分解して得られる分解産物を意味する。
(3)本願明細書で用いる際「ウロエキス」とは、ウロ分解産物から少なくとも一部の不溶成分を除去した組成物を意味する。本願明細書では、少なくとも一部の不溶成分を除去した組成物に酸を添加して更に加水分解した加水分解エキスも「ウロエキス」に含まれるものとする。
(4)本願明細書で用いる際「アミノ酸」とは、アミノ基とカルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物を意味し、本願明細書で用いる際「遊離アミノ酸」とは、ウロ分解産物またはウロエキス等で検出されるアミノ酸を意味し、これには、ホタテウロが元来含有するアミノ酸、並びにホタテウロの加水分解によって生成するアミノ酸の両方が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の飼料組成物(ウロエキスを添加、酵素処理魚粉及び酵素処理イカ粉末の配合無し)を給餌したクロマグロの稚魚と、比較例1の飼料組成物(ウロエキスの添加無し、酵素処理魚粉及び酵素処理イカ粉末の配合無し)を給餌したクロマグロ稚魚の試験期間終了時の平均全長(mm)を示すグラフである。
図2】実施例1の飼料組成物を給餌したクロマグロの稚魚と、比較例1の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚の試験期間終了時の平均体重(g)を示すグラフである。
図3】実施例1の飼料組成物を給餌したクロマグロの稚魚と、比較例1の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚の試験期間中の生残率(%)の推移を示すグラフである。
図4】実施例2の飼料組成物(ウロエキスを添加、酵素処理魚粉/酵素処理イカ粉末の配合)を給餌したクロマグロの稚魚と、比較例2の飼料組成物(市販のマグロ仔稚魚用配合飼料)を給餌したクロマグロ稚魚の試験期間終了時の平均全長(mm)を示すグラフである。
図5】実施例2の飼料組成物を給餌したクロマグロの稚魚と、比較例2の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚の試験期間終了時の平均体重(g)を示すグラフである。
図6】実施例2の飼料組成物を給餌したクロマグロの稚魚と、比較例2の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚の試験期間中の生残率(%)の推移を示すグラフである。イシダイ孵化仔魚を与えていた稚魚に19日齢から各飼料組成物も給餌し始め、21日齢からはイシダイ孵化仔魚を与えず各飼料組成物のみを給餌し、30日齢まで11日間飼育した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明によるマグロ属魚類の仔稚魚用飼料組成物又は摂餌促進剤、これらを製造する方法、並びにこれらを利用してマグロ属魚類の仔稚魚を飼育する方法を具体的に説明する。
【0018】
1.マグロ属魚類の仔稚魚用飼料組成物又は摂餌促進剤
本発明によるマグロ属魚類の仔稚魚用飼料組成物およびマグロ属魚類の仔稚魚用摂餌促進剤は、摂餌促進成分として、ウロ分解産物、またはウロエキス、濃縮物、乾燥物もしくは希釈物を含み、本発明によるマグロ属魚類の仔稚魚用飼料組成物は、通常、更にタンパク質源となる原料、脂肪源となる原料およびその他の原料を含む。
【0019】
ウロ分解産物は、ホタテウロの加水分解産物であり、ウロエキスは、ウロ分解産物から少なくとも一部の不溶成分を除去した水溶液または懸濁液である。ウロエキスは、完全に不溶成分を除去した組成物が好ましいが、一部の不溶成分が残存した懸濁液でもよい。ウロ分解産物およびウロエキスは、遊離アミノ酸が多く、ウロエキスの遊離アミノ酸総量は、ウロエキス乾燥物換算値で通常14質量%〜40質量%であり、多くの場合30質量%以上である。また、ウロエキスは、多数の種類の遊離アミノ酸を含み、以下のような特徴的なアミノ酸等の組成を有する。ウロ分解産物およびウロエキスは、蛋白質を構成し得る20個のアミノ酸を、乾物換算で13質量%〜39質量%含み、多く含まれる遊離アミノ酸は、グリシン、ロイシン、グルタミン酸であり、トリプトファン、ヒスチジン、シスチンは少ない。
【0020】
【表1】

なお、タウリン、スレオニン、グルタミン酸、グリシン、アラニン、バリン、メチオニン、リジン、アルギニン、トリプトファン等は、合成品がウロ分解産物、ウロエキス等または飼料組成物に添加されることがある。
ウロ分解産物およびウロエキスは、乾燥物換算で、粗蛋白質を45質量%〜55質量%、粗脂肪を2質量%〜4質量%、粗灰分を26質量%〜32質量%、その他の未知成分を11質量%〜17質量%含有する。また、ウロエキスは、イノシン酸を含む核酸成分を殆ど含まないという特徴を有する。
【0021】
上記遊離アミノ酸の総量、アミノ酸組成および各アミノ酸の含有量は、ウロエキスが生ウロから得たものか、加熱処理後のウロから得たものかによって変わり、前者の場合、遊離アミノ酸の総量が多くなり、通常、ウロ分解産物またはウロエキス乾燥物換算値で30質量%〜40質量%(蛋白質を構成し得る20個のアミノ酸の総量:29質量%〜39質量%)となる。他方、後者の場合には、遊離アミノ酸の総量が少なくなり、通常、ウロ分解産物またはウロエキス乾燥物換算値で14質量%〜30質量%(蛋白質を構成し得る20個のアミノ酸の総量:13質量%〜29質量%)となる。
【0022】
ウロエキスの濃縮物は、ウロエキスから水を揮発して他の成分の濃度(例えば、組成物中の遊離アミノ酸の総量は、14質量%〜40質量%となる。)を高めた組成物であり、ウロエキスの乾燥物は、ウロエキスから水を実質的に総て揮発した組成物である。ウロエキスの希釈物は、水などの溶媒を添加して、含有成分の濃度を低減(例えば、組成物中の遊離アミノ酸の総量は、3質量%〜4質量%となる。)させた組成物である。
【0023】
本発明による飼料用組成物では、通常、タンパク質源となる原料を含有し、そのような原料としては、例えば、魚粉、酵素処理魚粉、イカ粉末(イカミール)、酵素処理イカ粉末、オキアミミール、エビミール、濃縮大豆蛋白、大豆油粕、乾燥おから、小麦グルテン、コーングルテンミール、DDGS(Distiller’s dried grains with solubles)等が挙げられる。
本発明の好ましい実施形態による飼料用組成物では、タンパク質源として、酵素処理魚粉および/または酵素処理イカ粉末を含む。
酵素処理した魚粉およびイカ粉末は、遊離アミノ酸濃度が高く、これをウロエキス等と組合せた場合には、非常に遊離アミノ酸濃度の高い飼料となるが、予想外にも、この組み合わせを含む飼料では、マグロ属魚類の仔稚魚に対して高い嗜好性を有する事が分かった。この結果、酵素処理した原料を用いて、マグロ属魚類の仔稚魚にとって消化し易く、成長率および生残率を改善する飼料を提供することができる。
【0024】
本発明の飼料用組成物では、タンパク質源として、酵素処理魚粉および酵素処理イカ粉末の一方を含んでもよく、両方を含んでもよい。酵素処理魚粉は、マグロに対して高い嗜好性を有する点で好ましいが、価格が高騰しているので、この一部を酵素処理イカ粉末で置き代えることも好ましい。酵素処理イカ粉末も遊離アミノ酸含有量が高く、酵素処理魚粉の一部又は全部を置き代えても、高い嗜好性は維持され、成長率および生残率の優れた飼料とすることができる。
【0025】
本発明の飼料用組成物では、酵素処理魚粉について特に制限はないが、好ましくは、ニシン目ニシン科(Clupeidae)、ニシン目カタクチイワシ科(Engraulidae)、スズキ目アジ科(Carangidae)およびスズキ目サバ科(Scombridae)から選択される1種以上の魚粉の酵素処理産物である。より具体的には、例えば、マイワシ(Sardinops melanostictus)、カタクチイワシ(Engraulis japonicus)、アンチョビー(ニシン目カタクチイワシ科(Engraulidae)に属する)などのイワシ科の魚、マサバ(Scomber japonicus)、ゴマサバ(Scomber australasicus)などのサバ科の魚、チリマアジ(Trachurus murphyi)、マアジ(Trachurus japonicus)、マルアジ(Decapterus maruadsi)などのアジ科の魚、および大西洋ニシン(Clupea harengus)などのニシン科の魚の酵素処理魚粉が挙げられる。中でも、アミノ酸バランスや保存性の点で、アジ科の魚の酵素処理魚粉を40〜100質量%含む酵素処理魚粉が好ましく、70〜100質量%含む酵素処理魚粉がより好ましく、80〜100質量%含む酵素処理魚粉が更に好ましい。特に、チリマアジ(Trachurus murphyi)を主体(酵素処理魚粉の50%質量以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上)とする魚の酵素処理魚粉が好ましい。このような酵素処理魚粉としては、例えば、チリのSOCIEDAD PESQUERA LANDES S.A.製のBIO−CP(ナガセサンバイオ(株)販売)が挙げられる。
【0026】
本発明の飼料用組成物では、酵素処理イカ粉末についても特に制限はないが、好ましくは開眼目アカイカ科のアメリカオオアカイカ(Dosidicus gigas)を原材料として製造される酵素処理イカ粉末が好ましい。例えば、チリのSOCIEDAD PESQUERA LANDES S.A.製のBIO−CP GS(ナガセサンバイオ(株)販売)が挙げられる。
【0027】
本発明の飼料用組成物では、脂肪源となる原料を含んでよく、そのような原料としては、例えば、魚油、オキアミ油、イカ油、植物油等を挙げることができ、成長率の向上の点で魚油、またはオキアミ油が好ましく、オキアミ油が特に好ましい。また、本発明の飼料用組成物では、更に他の原料を含んでよく、そのような原料としては、例えば、大豆レシチン、フスマ、小麦粉、脱脂糠、コーンコブミール、でんぷん類、飼料用酵母、酵母抽出物、ビタミン類、ミネラル類、増粘剤、タウリン等を挙げることができる。
【0028】
本発明の飼料組成物におけるウロエキス等の含有量は、マグロ属魚類、特にその仔稚魚に対する嗜好性、および生残率の向上という点から、飼料組成物中の他の原料(例えば、酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末)に由来する遊離アミノ酸量に応じて変えることができ、通常、乾物換算値で、飼料組成物中1.0〜5.0質量%を含み、好ましくは1.2〜4.0質量%含み、より好ましくは、1.6〜3.0質量%を含み、特に好ましくは2.0〜2.5質量%含む。
【0029】
本発明の好ましい実施形態による飼料組成物において、酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末は、マグロ属魚類、特にその仔稚魚に対する嗜好性、消化性、栄養価、および生残率の向上という点から、飼料組成物中に、通常、乾物換算で30〜90質量%含み、好ましくは40〜80質量%含み、より好ましくは50〜80質量%含む。
タンパク質源となる原料の37.5〜100質量%を、酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末とすることが好ましく、タンパク質源となる原料の50〜100質量%を、酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末とすることがより好ましい。また、組成物中のタンパク質源原料の含有量は、50〜85質量%が好ましく、60〜80質量%がより好ましい。
【0030】
本発明の飼料組成物において、脂肪源となる原料は、通常3〜15質量%を含み、好ましくは5〜8質量%を含む。また、本発明の飼料組成物において、その他の原料は、通常、2〜40質量%を含み、好ましくは8〜30質量%を含む。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によるマグロ属魚類用飼料組成物では、上述の通り、ウロエキス等と酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末とを含むことから、組成物中の遊離アミノ酸の含有量が高いという特徴を有する。具体的には、本発明の好ましい実施形態によるマグロ属魚類用飼料組成物では、通常、遊離アミノ酸含有量が18,000〜100,000mg/kgであり、24,000〜90,000mg/kgであり、30,000〜85,000mg/kgであり、好ましくは40,000〜80,000mg/kgである。
また、本発明の好ましい実施形態によるマグロ属魚類仔稚魚用飼料組成物は、カドミウム含有量が1mg/kg以下であり、本発明の好ましい実施形態によるマグロ属魚類仔稚魚用摂餌促進剤は、カドミウム含有量が3mg/kg以下である。
【0032】
従って、本発明の一の実施形態では、乾物換算値として、1.0〜5.0質量%のウロエキス等と、30質量%〜90質量%の酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末とを含む、マグロ類仔稚魚用飼料組成物が提供され、より好ましい実施形態では、乾物換算値として、1.6質量%〜3.0質量%のウロエキス等と、40質量%〜80質量%の酵素処理魚粉及び/又は酵素処理イカ粉末とを含み、遊離アミノ酸含有量が30,000〜85,000mg/kgである、マグロ属魚類用飼料組成物が提供され、これらの実施形態では、3〜15質量%の脂質源原料と、2〜40質量%のその他の原料とを含んでよく、好ましくはカドミウム含有量が1mg/kg以下である。
【0033】
本発明の飼料組成物及び摂餌促進剤は、その形態について特に制限はなく、固形形態、および液体形態のいずれの形態とすることもできる。また、固形形態の組成物等としては、ペレット状、クランブル状、顆粒状、粉末状、モイストペレット状の組成物等が挙げられる。また、液体形態の組成物等としては、ウロエキス等(乾燥物を除く)それ自体、これらに更に他の成分を加えた液状組成物が挙げられる。
【0034】
本発明の飼料組成物または摂餌促進剤を給与する「マグロ属魚類」は、分類学上サバ科魚類の中のマグロ属(Thunnus)に属する魚類であり、クロマグロ(Thunnus thynnus (Linnaeus))、キハダマグロ(Thunnus albacares (Bonnaterre))、メバチマグロ(Thunnus obesus (Lowe))、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga (Bonnaterre))、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii (Castelnau))、コシナガマグロ(Thunnus tonggol (Bleeker))、タイセイヨウマグロ(Thunnus atlanticus (Lesson))が含まれる。増養殖産業上、特に、クロマグロ(Thunnus thynnus (Linnaeus))、タイヘイヨウクロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)及びミナミマグロ(Thunnus maccoyii)が重要であり、これらのマグロの飼育に好適に用いることができる。
【0035】
また、マグロ属魚類の仔稚魚は、典型的には、孵化後おおむね10日齢からおおむね70日齢まで、又はおおむね全長8mmからおおむね300mmまでのマグロ属魚類であり、稚魚は、典型的には、孵化後おおむね20日齢からおおむね70日齢、又はおおむね全長18mmからおおむね300mmのマグロ属魚類である。本発明の飼料組成物または摂餌促進剤はこのような仔稚魚、特に、孵化後17日齢以降、又は全長11mm以上の仔稚魚に有効である。
【0036】
2.飼育方法
本発明の飼料組成物または摂餌促進剤は、マグロ属魚類の仔稚魚への給与方法について特に制限は無く、例えば、単独で、給与時に他の飼料と混合して、または他の飼料と組み合わせて別々に給与することができる。組み合せる飼料としては、例えば、他の配合飼料、生物餌料、生餌が挙げられ、給与スケジュールとしては、典型的には、以下のスケジュールが挙げられる。
1)孵化後10日齢以上70日齢以下又は全長8mm以上300mm以下までの任意の仔稚魚の期間に、本発明の飼料組成物または摂餌促進剤を給与する。
2)孵化後17日齢以上70日齢以下又は全長11mm以上300mm以下までの任意の仔稚魚の期間に、本発明の飼料組成物または摂餌促進剤を給与する。
3)孵化後20日齢以上70日齢以下又は全長18mm以上300mm以下までの任意の稚魚の期間に、本発明の飼料組成物または摂餌促進剤を給与する。
より具体的には、以下の給与スケジュールが挙げられる。
4)おおむね孵化後10日齢以降又はおおむね全長8mm以上の任意の仔魚の時期から、好ましくはおおむね孵化後17日齢以降又はおおむね全長11mm以上の任意の仔稚魚の時期から、70日齢以下又は300mm以下までの任意の仔魚の時期まで、生物餌料に代え、本発明の飼料組成物を給与する。
5)おおむね孵化後10日齢以降又はおおむね全長8mm以上の任意の仔魚の時期から、好ましくはおおむね孵化後17日齢以降又はおおむね全長11mm以上の任意の仔稚魚の時期から、70日齢以下又は300mm以下までの任意の稚魚の時期まで、本発明の飼料組成物と生物餌料又は生餌を併用する。
6)おおむね孵化後10日齢以降又はおおむね全長8mm以降の任意の仔魚の時期から、好ましくはおおむね孵化後17日齢以降又はおおむね全長11mm以上の任意の仔稚魚の時期から、生物餌料と本発明の飼料組成物とを併用し、生物餌料に対する本発明の飼料組成物の給与頻度又は給与量の比率を高くしていき、70日齢以下又は300mm以下までの任意の稚魚の時期までに、本発明の飼料組成物に切り替える。
7)おおむね孵化後10日齢以降又はおおむね全長8mm以上の任意の仔魚の時期から、好ましくはおおむね孵化後17日齢以降又はおおむね全長11mm以上の任意の仔稚魚の時期から、生物餌料と本発明の飼料組成物とを併用し、おおむね20日齢以降又はおおむね全長18mm以降の1週間以内の任意の稚魚の時期から本発明の飼料組成物に切り替える。
8)おおむね孵化後20日齢以降又はおおむね全長18mm以降の稚魚の時期から、生物餌料と本発明の飼料組成物とを併用し、おおむね25日齢またはおおむね全長30mmで本発明の飼料組成物に切り替える。
9)おおむね孵化後10日齢以降又はおおむね全長8mm以降の任意の仔魚の時期から、好ましくはおおむね孵化後17日齢以降又はおおむね全長11mm以上の任意の仔稚魚の時期から、生物餌料と本発明の摂餌促進剤および他の配合飼料とを併用し、生物餌料に対する摂餌促進剤および他の配合飼料の給与頻度又は給与量の比率を高くしていき、おおむね20日齢以降又はおおむね全長18mm以降の1週間以内の任意の稚魚の時期までに摂餌促進剤および配合飼料に切り替える。
10)おおむね孵化後20日齢以降又はおおむね全長18mm以降の稚魚の時期に、生物餌料と本発明の摂餌促進剤および他の配合飼料とを併用し、おおむね25日齢またはおおむね全長30mmまでの任意の稚魚の時期に本発明の摂餌促進剤と他の配合飼料との併用に切り替える。
このような給餌スケジュールでは、生物餌料から円滑に本発明の飼料組成物へ移行させることができる。より具体的には、本発明の飼料組成物の高い嗜好性により、生き餌と同様の摂餌レベルで本発明の飼料組成物へ移行でき、消化性にも優れるため、移行期の減耗が抑制され、より高い生残率を達成することができる。また、本発明の飼料組成物は、生物餌料、および生餌の少なくとも一部の代替飼料として利用することができ、この場合、給与者が生餌の細断作業などの餌料調製作業が不要となり軽労化が図られると共に、生餌による飼育環境の汚染も軽減することができる。
【0037】
3.製造方法
本発明の飼料組成物は、ウロ分解産物またはウロエキス等を、任意選択で、上述したタンパク質源原料、脂肪源原料、その他の原料と伴に配合して製造でき、本発明の摂餌促進剤は、ウロエキス等それ自体としたり、ウロ分解産物またはウロエキス等を飼料組成物に利用される原料に添加し又は吸着させて製造することができる。
【0038】
ウロ分解産物は、ホタテウロを自己消化又は蛋白質分解酵素を添加して加水分解して得られ、ウロエキスはウロ分解産物から少なくとも不溶成分の一部を除去して得ることができる。ホタテウロは、通常ホタテガイを加工する際に副産物として発生するので、これを利用すればよい。ホタテウロは、生であっても加熱処理されたものでも利用でき、加熱処理方法についても特に制限はなく、例えば、蒸気又は煮沸により加熱処理することができる。
【0039】
生又は加熱処理されたホタテウロは、ミキサー等により破砕してペースト状にしたものを加水分解に供することが好ましい。また、得られた破砕物は、必要に応じて適当量(例えば、原材料の重量の0.2から5倍に相当する量、典型的には0.6倍量)の水に浸漬する。加水分解は、例えば、破砕物を、水浴中で37℃以上、好ましくは45℃程度に保温し、撹拌しながら酸(例えば5〜18mol/L、典型的には9mol/Lの硫酸、りん酸、塩酸、硝酸又は酢酸、好ましくは硫酸)を徐々に加え、pHを2〜5、好ましくは3〜4に調整して実施する。生ウロの場合はpH3.5〜4.5、典型的にはpH4に、加熱処理されたウロの場合はpH2.5〜3.5、典型的にはpH3に調整することが望ましい。加水分解は、適宜撹拌しながら2時間以上、好ましくは24時間以上、更に好ましくは40時間以上行なうことが望ましい。生のホタテウロを加水分解する場合には、蛋白質分解酵素を添加してもよいが、自己消化で十分である。他方、加熱処理したホタテウロを加水分解する場合は、蛋白質分解酵素(例えば、オリエンターゼAY、エイチビィアイ(株)製)を添加(例えば、ホタテウロの0.1〜2質量%、典型的には0.3質量%)し、分解を促進することが望ましい。
ウロエキスを得る場合には、ウロ加水分解産物から不溶成分を除く。不溶成分の除去は、例えば、遠心分離にかけて不溶成分を沈殿させて、上澄みを回収することで実施可能である。遠心分離は、例えば、遠心加速度:1,600G〜12,000G、時間;20〜30分の条件で行なうことができる。
このような遠心分離後の上澄みは、不溶性成分が残り、懸濁液として得られることがある。このような懸濁液でもウロエキスとして利用可能であるが、さらに不溶性成分を除く処理を行い清澄なウロエキスを得てもよい。例えば、懸濁液を凝集沈殿処理し、不溶性成分を凝集沈殿させる方法で清澄なウロエキスが得られる。具体的には、ポリアクリル酸塩(典型的にはナトリウム塩)の水溶液およびキトサンを希塩酸溶液に溶解した液を、懸濁液に添加して数分間撹拌後、静置または遠心分離し、上澄みを回収することで清澄なウロエキスが得られる。ポリアクリル酸塩は懸濁液100質量部に対して0.001〜0.005質量部添加することが好ましく、0.002〜0.003質量部添加することが好ましい。また、キトサンは懸濁液100質量部に対して0.01〜0.025質量部添加することが好ましく、0.02〜0.03質量部添加することが好ましい。
【0040】
以上の処理により、ウロ分解産物またはウロエキスを得ることができる。ただし、ホタテウロには、通常、比較的高い濃度のカドミウムが含まれるため、これを除く処理を行うことが望ましい。本発明において、ウロ分解産物およびウロエキスからカドミウムを除去する方法については特に制限はなく、化学的方法、イオン交換樹脂を用いる方法、電気的な方法など、公知の方法を適用してカドミウムを除去すればよい。例えば、得られたウロ分解産物またはウロエキスに電極板を入れ、直流電源装置で5Vの定電圧を印加し、約10時間の電解処理を施してカドミウムを電極板に析出させることでカドミウムを除去できる。陰極にはステンレス板を、陽極には酸化イリジウム等の白金族酸化物をチタン板に被覆した不溶性電極を用いることができる。また、電解処理の間は、上澄みを常時撹拌することで効率的にカドミウムが除去することができる。電解処理後は、20w/v%の水酸化ナトリウム溶液を用いて、ウロ分解産物またはウロエキスをpH7に調整することが望ましい。
【0041】
得られたウロエキスは、水分を除去して濃縮液又は乾燥物とすることもできる。濃縮液又は乾燥物は、例えば、減圧又は常圧条件下で水分を蒸発させる方法で得ることができる。乾燥方法は、加温乾燥でもよいし、凍結乾燥でもよい。得られたウロエキスはまた、水等で希釈して適当な濃度にした希釈液としてもよい。ウロエキス、濃縮物及び乾燥物は、輸送面(容量が小さい)で利点を有し、例えば、飼料組成物調製時に希釈して添加する際に、典型的には、水で0.1〜10倍に希釈して使用することができる。
また、得られたウロエキスに酸を加えて加水分解して得られる上清(加水分解エキス)をウロエキスとして用いても良い。この加水分解エキスは、例えば、上述したウロエキスに同量の酸(例えば、りん酸、塩酸、硝酸又は酢酸、好ましくは塩酸)を加えて110℃で24時間加水分解処理後、脱塩処理して得られる。
【0042】
ウロ分解産物またはウロエキス等は、そのまま本発明の摂餌促進剤として他の飼料と併用したり、給与時に他の飼料に添加することができ、或いはそのまま他の原料を含む基礎飼料に添加して、本発明の飼料組成物を調製することができる。他方、ウロ分解産物またはウロエキス等は、これらを賦形剤又はその他の飼料原料に吸着させて摂餌促進剤を調製し、これを他の飼料と併用したり、給与時に他の飼料に添加することができる。また、ウロ分解産物またはウロエキス等を賦形剤又はその他の飼料原料に添加又は吸着させた原料を、他の原料を含む基礎飼料に添加して、本発明の飼料組成物を調製することができる。ウロ分解産物またはウロエキス等を添加又は吸着させる賦形剤、その他の原料としては、例えば、魚粉、酵素処理魚粉、オキアミミール、エビミール、イカ粉末(イカミール)、酵素処理イカ粉末、濃縮大豆蛋白、大豆油粕、乾燥おから、フスマ、小麦粉、脱脂糠、コーンコブミール等を挙げることができる。これらの原料にウロエキス、又はその濃縮物等を吸着させて得られる摂餌促進剤又は原料は、水分が12質量%以下である事が好ましく、必要に応じ更に乾燥することが好ましい。
【0043】
本発明の摂餌促進剤または飼料組成物をペレット状とする場合には、例えば、エクストルーダーやペレットマシン等で押出成型して製造することができ、クランブル状とする場合には、当該ペレット状の摂餌促進剤または飼料組成物を破砕・分級して製造することができる。本発明の摂餌促進剤または飼料組成物を顆粒状とする場合には、例えば、流動層造粒機、攪拌造粒機又は転動造粒機等で成型して得ることができ、粉末状とする場合には、粉末状の原材料を配合・粉砕して得ることができる。また、モイストペレットとする場合には、粉末状摂餌促進剤または飼料組成物に、冷凍イワシ、サバ、サンマ等の生餌を添加・混合した後、前記の押出機等で成型することで得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0045】
ウロエキスの調製
生ホタテウロを凍結状態でミートチョッパーにより細断し、この6kgに温水3.6kgを加えた。次に、それに9mol/Lの硫酸を加えてpHを3.5〜4.0の範囲に調整した後、45℃に加温して24時間撹拌しながら加水分解処理を施した。加水分解処理後、4,000rpm(遠心加速度3,430G)で15分間の遠心分離を行って不溶物を沈殿させ、上清を回収した。上清は、少量の9mol/Lの硫酸を加えてpHを約3.0に調整した後、液温を45℃として5Vの定電圧を印加して10時間の電解処理を施してカドミウムを除去した。カドミウムを除去した上清は、ロータリーエバポレーターを用いて減圧条件下、45℃の温浴上で水分が60質量%まで濃縮し、ウロエキスの完成品とした。
【0046】
ウロエキスを添加したマグロ属魚類用飼料組成物の調製(比較例1及び実施例1)
上記のようにして得られたウロエキス(水分量が60質量%)を、それぞれ0g及び25g採取し、200gの水道水で希釈し、市販の海産仔稚魚用飼料「アンブローズ600」(フィード・ワン(株)製)の500gに吸着させた。これを80℃の熱風乾燥機により約3時間乾燥した後、26メッシュのJIS標準篩により600μm未満の粒子を除去して試験飼料組成物(比較例1及び実施例1)を得た。比較例1の飼料組成物はウロエキスを含まず、実施例1の飼料組成物は乾物換算値で2.0質量%のウロエキスを含む。なお、「アンブローズ600」の組成は、以下の表2の通りであり(添付文書より転載)、酵素処理魚粉及び酵素処理イカ粉末は含まれない。比較例1の組成物における総遊離アミノ酸含有量は、13,832mg/kgだが、蛋白質を構成できる遊離アミノ酸の総量は11,511mg/kgとなる。
【表2】
【0047】
マグロ稚魚の成長及び生残率に関する試験(1回目)
飼育条件
フィード・ワン(株)にて人工種苗生産した、生餌へ餌付け期間中の21日齢のクロマグロ稚魚(平均全長26mm、平均魚体重0.16g)を0.5トン容FRP水槽(実水量約0.4トン)2基に20尾ずつ収容し、水温28℃の条件下で飼育試験を実施した。光条件が24時間明期のもと、各試験飼料の給餌は、自動給餌機を用いて2時間おきに1日12回行った。飼育期間は29日齢の給餌前までの8日間とし、29日齢の給餌前に実験魚を取り上げて実験終了とした。測定項目は、全長、体重、飼育期間中の死亡尾数(生残率として示す)とした。統計処理はt−検定を行った。
【0048】
試験結果
図1及び図2に示す通り、ウロエキスを添加した実施例1の飼料組成物を給餌したクロマグロの稚魚では、比較例1の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚に比べ、終了時の平均全長及び平均体重が有意に大きく、成長改善効果を認めた。ただし、平均全長で42.5mm、平均体重で0.85gであり、一般的に種苗生産された同日齢のクロマグロ稚魚に比べやや小型であった。
また、表3に示す通り、実施例1の飼料組成物を給餌したクロマグロの稚魚では、日間増体長及び日間増重量は、比較例1の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚より大きかった。
【0049】
【表3】

日間増体長及び日間増重量の算出は、次式に倣った。
日間増体長=(終了時の平均全長−開始時の平均全長)/飼育日数
日間増重量=(終了時の平均体重−開始時の平均体重)/飼育日数
【0050】
また、図3に示す通り、29日齢の生残率は、比較例1の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚が37%であったのに対し、実施例1の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚では73%と顕著に高くなった。
【0051】
ウロエキス、酵素処理魚粉及び酵素処理イカ粉末を含むマグロ属魚類用飼料組成物の調製(実施例2)
表4に示す組成の飼料組成物を作製した(実施例2)。
【0052】
【表4】

ウロエキス、魚油、オキアミエキス、澱粉及び粘結剤を除く各原料を秤量・混合したのち、JIS標準篩30メッシュ以下に粉砕した。次に、これを流動層造粒機((株)大川原製作所製)内で約80℃の熱風で流動しながら、お湯に溶解したウロエキス、魚油、オキアミオイル、オキアミエキス、澱粉及び粘結剤をスプレーし、不定形顆粒を造粒した。造粒物は、0.65mm〜0.82mm、0.82mm〜1.35mm及び1.35mm〜2.00mmの3種類の粒度に分級し、これらを製品とした。
実施例2の飼料組成物は、ウロエキスを乾燥換算値で2質量%含み、酵素処理魚粉及び酵素処理イカ粉末を合計で41質量%含む。総遊離アミノ酸含有量は45,336mg/kgだが、蛋白質を構成できる遊離アミノ酸20成分の総量は42,110mg/kgとなる。
【0053】
マグロ稚魚の成長及び生残率に関する試験(2回目)
飼育方法
近畿大学水産研究所奄美実験場にて人工種苗生産した、配合飼料による餌付け前の19日齢のクロマグロ稚魚(全長18.9mm、体重0.07g)を、3kLのFRP円形水槽(実水量2.5kl)2基に736尾及び633尾収容し、28℃の条件下で飼育試験を実施した。対照区には市販のマグロ仔稚魚用配合飼料(日清丸紅飼料(株)製,鮪心B、C、S2)を比較例2として給餌し、試験区には実施例2の飼料組成物を成長に応じて段階的にサイズを大きくしながら給餌した。比較例2の飼料組成物は、以下の表5に示す組成を有する(比較例2の飼料組成物の添付文書より転載)。
【0054】
【表5】

配合飼料の給餌は19日齢から始め、自動給餌機を用いて6:00〜18:00の間、適宜飽食量を与えて30日齢まで11日間飼育した。また、両試験区とも、20日齢までイシダイ孵化仔魚と各飼料を併用して与え、21日齢以降はイシダイ孵化仔魚を与えず各飼料のみを給餌した。なお、測定項目は、全長、体重、両飼料の嗜好性、飼育期間中の死亡尾数(生残率として示す)とした。
【0055】
成長結果
図4及び図5に示す通り、実施例2の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚では、試験終了時に平均全長は48.6mm、平均体重は1.1gに達した。また、表6に示す通り、実施例2の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚では、日間増体長が2.70mm/日、日間増重量が0.0095g/日に達した。これらの結果は、酵素処理魚粉及び酵素処理イカ粉末を含まない実施例1の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚と比べて、それぞれ、20%、37〜83%、30%及び11%優れる。
【0056】
【表6】
【0057】
嗜好性結果
実施例2及び比較例2の飼料組成物に対する嗜好性を以下の基準に基づき評価した。
【0058】
結果を表7に示す。
【表7】

両飼料に対する嗜好性は、飼育日数が進むにつれ変化した。まず、比較例2の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚の嗜好性は、前期が3点であったが、後期は6点となった。一方、実施例2の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚では、前期は日毎に3点から6点に向上し、後期には最適な摂餌を示す9点に達し、比較例2の飼料組成物よりも高い嗜好性が確認された。
【0059】
生残率結果
図6に示す通り、実施例2の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚ではイシダイ孵化仔魚の給餌を止めた21日齢以降の減耗が緩慢であり、30日齢時で生残率が61%であった。一方、比較例2の飼料組成物を給餌したクロマグロ稚魚では21日齢〜22日齢にかけてやや目立った減耗が見られ、30日齢時の生残率は51%であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6