(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記照明装置は、当該生物の成長に必要であるとして設定された光の光量密度又は照度が確保された照射範囲である育成照射範囲を、当該生物成長範囲内に限定する照射範囲限定手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の生物育成システム。
前記照明装置は、当該光源から放射された光の広がりを制限する壁面と、当該光源の位置から当該壁面の下端までの高さを変更可能な、前記照射範囲変更手段としての壁面高変更部とを更に有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の生物育成システム。
当該光学デバイスは、複数備えられていて、当該光学デバイスから放射された光の光量密度又は照度の分布について、当該分布が互いに異なる少なくとも2つの種類に分類されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の生物育成システム。
生物の育成単位毎に当該育成単位の成長する範囲である生物成長範囲が設定されていて複数の当該生物成長範囲が配列した生物成長基台を、放射した光によって照明可能な生物育成用照明装置であって、
当該生物成長範囲の直上となる領域毎に、当該領域内となるように配置された1つ以上の光源と、
当該光源から放射された光を所定の配光角に制御する配光角制御レンズ部と、複数の微小レンズが配列しており、配光角の制御された光を分散させた上で育成対象へ向けて放射する微小レンズ配列部とを含むレンズを備えた1つ以上の光学デバイスと
を有し、
当該光学デバイスは、当該光源及当該レンズの光学的関係を変更可能な光学関係変更部であって、当該生物の成長に必要であるとして設定された光の光量密度又は照度が確保された照射範囲である育成照射範囲を、当該生物の成長に合わせて変更可能とする照射範囲変更手段としての光学関係変更部を更に備えており、
前記光学関係変更部は、当該光学的関係を変更することによって、当該光源から当該レンズを介して放射された、配光角の制御された且つ分散した光による当該育成照射範囲を変更可能とする
ことを特徴とする生物育成用照明装置。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の構成要素は、同一の参照番号を用いて示される。また、構成要素によっては、互いに異なる形態であっても、同一種類であれば共通の参照番号を用いて示されている。さらに、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0032】
[生物育成システム]
図1は、本発明による生物育成システムの一実施形態を示す斜視図である。なお、
図1及び以後の図面中には装置等の向きの指標となるXYZ座標軸が適宜示されている。
【0033】
図1に示したように、本実施形態における植物育成システム1は、
(a)育成のための人工光を発生させる照明装置10と、
(b)照明装置10から放射された人工光を浴びて成長する育成対象生物としての野菜が並べられた、生物成長基台としての植物栽培槽11と
を備えており、照明装置10によって野菜(育成対象生物)に人工光を照射し、この野菜を育成する生物育成システムである。
【0034】
ここで、照明装置10は、装置基台10aと、複数の装置基板10bと、照明制御部10cとを有している。このうち、複数の装置基板10bは、装置基台10aの植物栽培槽11側に配置されており、各装置基板10bの植物栽培槽11側の面には、少なくとも1つ(
図1では8つ)のLED(Light Emitting Diode)光源101が設置されている。従って、本実施形態において、各装置基板10bは平面型LED照明デバイスであると見なすことも可能である。
【0035】
なお、装置基台10aは、例えば、ステンレス又はアルミ合金製であってもよく、さらに、塗装やメッキで被覆したアルミ合金等の金属板とすることもできる。また、装置基板10bは、装置基台10aの植物栽培槽11側の面に、高い導熱性を有する接着剤を用いて接着されていてもよい。このような構成により、LED光源101から発生する多量の熱を、装置基台10aを介して放散させ易くすることができる。
【0036】
また、植物栽培槽11は、本実施形態において、野菜を水耕栽培するための栽培槽であり、槽上面には、野菜の1株1株が、碁盤目(四角格子)状に配列して並んでいる。具体的には、植物栽培槽11には水耕液が入れられており、さらに、四角格子状に並んだ複数の育成穴の各々に野菜の1株が設置されていてもよい。または、培地ビン等の培地容器を四角格子状に並べ、各培地容器に育成対象生物を入れていてもよい。ここで、配列の形態も四角格子状に限定されるものではなく、三角格子状等、種々の配列形態が採用可能である。ただし、生産性を向上させたり、野菜や培地ビンに成長したキノコの収穫等の種々の作業を自動化したりすることを考えると、収穫用等の機械による作業性の観点から育成対象を四角格子(碁盤目)状に配列することがより好ましい場合も少なくない。
【0037】
さらに、植物栽培槽11では、野菜(生物)の育成単位である1株毎に、当該1株(育成単位)の成長する(XY面内での)範囲である「生物成長範囲」が設定されており、結局、槽上面には、複数の「生物成長範囲」が四角格子状に配列した形となっている。
【0038】
なお、「生物成長範囲」は、育成経験に基づいてその面積・範囲が設定されてもよい。その形状も
図1のように四角形に限定されるものではなく、円形等種々の形状に設定可能である。いずれにしても、「生物成長範囲」は、育成対象生物が成長して収穫までの間に占めると想定される面積範囲を含むものであることが好ましい。また、植物栽培槽11における野菜(生物)の育成単位(1株)の配置から見て、設定された「生物成長範囲」が明確ではない場合は、育成単位(1株)の位置を中心とした、収穫までの間に占めると想定される最大の面積範囲を「生物成長範囲」とすることができる。
【0039】
さらに、配置された「生物成長範囲」が互いに部分的に重畳している場合もあり得るものとする。これは、例えば、育成対象の野菜が成長して、隣り合う株の葉が一部重なったり、育成対象の隣り合うキノコ同士が一部入り乱れたりする場合に起こり得るケースである。
【0040】
ここで、照明装置10の各装置基板10bは、この配列した「生物成長範囲」の直上(−Z方向)の位置に配置されている。また、各装置基板10bの(XY面内の)面積範囲は、「生物成長範囲」の直上となる(XY面内の)領域に含まれるように設定されている。これにより、照明装置10で使用されるLED光源101は、「生物成長範囲」の直上となる領域毎に、当該領域内に含まれる形で配置されることになる。
【0041】
ただし、装置基板10bの面積範囲が「生物成長範囲」の直上領域からはみ出ていることも可能である。また、装置基板10b同士が連結部位を介して又は直接に連結していてもよく、さらには一体化していてもよい。この場合、LED光源101は、装置基板10bの面積範囲のうち、「生物成長範囲」の直上領域となる範囲内に配置される。
【0042】
これにより、LED光源101の直下(+Z方向)における光量密度(例えば後述する光量子束密度)の高い又は極大となる照射領域が、野菜の株と株との中点位置にくることがなくなり、無駄となる照射光の量を低減することが可能となる。なお、以下、光量(光量子束)は、単位時間当たりに照射される光(光量子)の量(数)を意味するものとする。さらに、このLED光源101直下の照射領域が確実に「生物成長範囲」に含まれるので、各LED光源101からの最大光量密度(最大光量子束密度)の照射光が野菜の育成(光合成)に確実に使用されることになる。従って、野菜の各株の受ける光量が、成長に十分な量として安定したものとなる。さらに、LED光源101直下の照射領域では、照射光における垂直成分(Z軸方向成分)の割合が十分に高い。これにより、照射光の光線方向に成長する傾向を有する野菜が、不要に広がらずに安定して成長することも可能となる。その結果、植物育成システム1によれば、より少ない消費電力の下、育成度合いのばらつきを抑制することができるのである。また、不要に広がった野菜を例えば機械で収穫する際に棄損してしまうといった事態も回避することができる。なお、農作物の商品価値を決める1つのパラメータが、育成度合いの均一度である。従って、植物育成システム1によれば、商品価値の高い農作物を生産することも可能となるのである。
【0043】
ちなみに、上述したように、隣り合う「生物成長範囲」が互いに一部重畳しているケースでは、隣り合う「生物成長範囲」のそれぞれの直上領域に配置されたLED光源101は、照射対象の育成単位(1株)が互いに異なるにもかかわらず、近接していることもあり得る。このような場合でも、それぞれのLED光源101では、あくまで照射対象の育成単位に合わせて、その設置位置や照射光の光量分布が設定されることも好ましい。
【0044】
また、照明装置10は、照射光遮蔽板10sと、開閉機構部10mとを更に有することも好ましい。照射光遮蔽板10sは、照明装置10から放射される光のうち、装置10と植物栽培槽11との間のスペースから漏れ出ようとする光を反射させて、植物栽培槽11に向かわせ、照射光を効率良く利用するための補助器具である。照射光遮蔽板10sは、例えばアルミやステンレス等の金属製であって、照射光遮蔽板10sの当該スペース側の反射面は、反射率の高い状態に加工されていることも好ましい。また、照射光遮蔽板10sは、反射面に光を反射する被膜を施したプラスチック板又は樹脂板とすることもできる。
【0045】
本実施形態では、照射光遮蔽板10sの一辺が、開閉機構部10mを介して装置基台10aの端部に取り付けられている。これにより、例えば、作業者が植物栽培槽11に対して作業を行う際には照射光遮蔽板10sを全開し、当該作業を行い易くすることも可能となる。
【0046】
また、この開閉機構部10mの駆動を制御して、照射光遮蔽板10sが装置10と植物栽培槽11との間のスペースを覆う程度を調節することもできる。これにより、このスペースにおける空気の流れを調節することが可能となる。
【0047】
実際、人工光による植物の育成においては、植物の光合成を促進させるために、二酸化炭素を含む空気を絶えず外部から供給することが大事となる。本実施形態では、この照射光遮蔽板10sの位置を調節することによって、漏れ出る照射光を反射させつつ、遮蔽板10sと植物栽培槽11との間に適度な隙間を形成している。これにより、LED光源101の発する熱で暖められた空気が装置基台10aに設けられた通気部分から上空へ逃げるに伴い、外部の新たな空気が、形成されたこの隙間から供給されるのである。その結果、二酸化炭素不足から生じる作物の障害、例えばレタスの葉に生じる異常な色ムラ等を防止することも可能となる。
【0048】
LED光源101は、市販のLED素子とすることができ、装置基板10bの光源設置面(XY面)に、電力供給のための(
図1では破線で表示された)配線とともに設置されている。使用されるLED素子における放射光波長のタイプとしては、育成対象生物に合わせて種々のものが使用可能である。本実施形態では、白色タイプのLED素子が使用されている。この白色LED素子から放射される光のスペクトルは、通常、波長400ナノメートル(nm)台の青色スペクトルピークと波長600nm台の赤色スペクトルピークとを有している。
【0049】
一般に、植物で行われる光合成は、波長が600nm台の赤色光によって促進される。さらに、波長が400nm台の青色光によって、種子の発芽、花の芽の分化、開花、子葉の成長、葉緑素の合成、節間の伸長、及び葉の成長が促される。このように、これらの波長を有する赤色光及び青色光は、植物の育成に必須のものとなる。このため、LED光源101として、赤色LED素子及び青色LED素子を組み合わせて採用することもできる。また、白色LED素子もこのような赤色光及び青色光を発生させるのであり、赤色LED素子及び青色LED素子に代えて、一般的な照明に使用されている白色LED素子を利用することによっても、植物を十分に成長させることができるのである。
【0050】
ここで、装置基板10bに設置される光源は、LED光源に限定されるものではなく、例えば、電球やボール状蛍光灯、さらには比較的長手方向寸法の小さい蛍光灯や、ハロゲンランプ等を用いることも可能である。しかしながら、育成対象に合わせて光量(光量子束)及び波長特性を制御し易いLED光源を用いることが多くの場合に好ましい。
【0051】
照明制御部10cは、装置基板10bに発光のための電力を供給し、さらに、この供給する電力の量を制御することによって、装置基板10bに設置されたLED光源101から発生する照射光の光量(光量子束)及びその密度分布を制御する。このような制御は、装置基板10b毎に行われることも好ましく、さらに、1つの装置基板10bに設置されたLED光源101の各々について、又は当該LED光源101の所定のグループ毎に、実施されてもよい。なお、照明制御部10cは、本実施形態では装置基台10aの外部に設けられているが、装置基台10aに設置されていてもよく、また、装置基板10b毎に個別に設けられていてもよい。
【0052】
さらに、照明制御部10cは、照明のONとOFFとを所定の周期で切り替え、必要な時間だけ照明を行って無駄な消費電力を抑制することも好ましい。例えば、育成対象が植物である場合において、人間にも眠らずに活動している時間帯が存在するように、通常、植物にも光合成を効果的に行う時間帯が存在する。この場合、照明制御部10cは、例えば、LED点灯時間のDuty調節機能を有する電気回路を備えていて、光合成を効果的に行うことのできる時間を中心として照射光発生時間を制御することも好ましい。
【0053】
なお、本発明によって育成可能な育成対象生物は当然に、野菜等の植物に限定されるものではない。例えば、培地ポットを利用して、キノコ等の菌類を育成対象とすることも可能である。さらに、成長に光が必要であってかつ成長の際に移動することがないか又は移動が容器内に留まるような微生物等の生物を育成することもできる。
【0054】
図2は、本発明による生物育成システムの他の実施形態を示す斜視図、及びZX面による断面図である。
【0055】
図2(A)によれば、本実施形態の植物育成システム1’は、
図1に示した1対の照明装置10及び植物栽培槽11を含む複数の植物育成システム1を、XY面内で連結させた構成を有する生物育成システムである。この植物育成システム1’の有する照明装置10’は、その結果、複数の照明装置10の連結体となっており、同システム1’の植物栽培槽11’も、複数の植物栽培槽11の連結体となっている。この連結の仕方、すなわち連結に参加するシステム1の数や連結体のXY面での形状は、事業規模や使用場所に応じて、相当に自由に設計可能となっている。
【0056】
なお、図示していないが、この連結体としての植物育成システム1’を上下方向(Z軸方向)にも積み重ねて、多段構造の植物育成システムを構成することも可能である。
【0057】
図2(B)には、植物育成システム1’(植物育成システム1)のZX面による断面が模式的に示されている。同図によれば、複数の装置基板10bがそれぞれ、装置基台10aの植物栽培槽11側(+Z側)の面上であって、植物栽培槽11に配列した複数の育成対象の野菜の直上となる位置に設置されている。
【0058】
ここで、各装置基板10bのLED光源101から放射される照射光による植物栽培槽11上での照射範囲のうち、育成対象の野菜の成長に必要であるとして設定された光の光量密度(光量子束密度)又は照度が確保された照射範囲が「育成照射範囲」10gとして設定されている。本実施形態において、照明装置10’(照明装置10)は、この育成照射範囲10gが、野菜1株毎に設定されている生物成長範囲11b内に含まれるように、照射光の光量密度(光量子束密度)の分布を制御していることも好ましい。これにより、各装置基板10bのLED光源101で発生させた照射光のうち、育成対象の成長に必要な光量を有する照射光が、より確実に当該育成対象に照射されることになり、無駄な電力消費を抑制した効率的な育成を実施することが可能となる。
【0059】
育成照射範囲10gは、例えば、光合成光量子束密度(PPFD)が110.0μmol・m
−2・s
−1以上となる照射範囲として設定することができる。当然に、この閾値は育成対象種別や育成目標等に応じて適宜設定可能である。ここで、PPFDは、光合成にかかわる葉緑素(クロロフィル)が吸収可能な波長400〜700nmの光量子束の密度である。従って、PPFDという一種の光量密度の単位を用いることによって、その照射光が引き起こす光合成反応の量、すなわち植物の育成度合いがより正確に表されることになる。ただし、変更態様として、PPFDの代わりに、光合成放射束密度(単位:W・m
−2)や照度(単位:lx)等を用いて育成照射範囲10gを設定することも可能である。
【0060】
また、育成照射範囲10gの形状も、例えば設定された生物成長範囲11bに合わせて決定してもよい。例えば、生物成長範囲11bが楕円形であれば、PPFDが設定閾値以上となる最大の楕円形範囲を育成照射範囲10gとすることができる。または、PPFDが設定閾値に等しい等高線で囲まれた範囲を育成照射範囲10gに設定してもよい。
【0061】
ちなみに、
図2(B)によれば、本実施形態において、LED光源101は、隣り合う野菜の株(育成単位)の中間位置(又は中点位置)の直上となる領域以外の領域内にのみ配置されていることが理解される。ここで、本実施形態では、基板10b間のスペース又は基板10b間の境界がこの中間位置(中点位置)の直上領域に該当する。これにより、各LED光源101からの最大PPFDの照射光が、野菜の育成(光合成)により確実に使用されることになる。従って、野菜の各株の受ける光量が、成長に十分な量の下で安定する。その結果、無駄な電力消費を抑制しつつ、育成度合いのばらつきを低減することが可能となる。
【0062】
なお、各装置基板10b上のLED光源101への電力の供給を制御し、野菜の成長に合わせて光合成を促進させるために、照射光量を増大させていくことも好ましい。この場合、照射光量の増大に伴い、育成照射範囲10gも拡大することになる。
【0063】
図2(C)には、装置基板10bの装置基台10aへの装着についての変更態様が示されている。同図によれば、装置基台10aにエンボス加工が施されており、形成された凹部に装置基板10bが埋め込まれている。エンボス加工は金型や石膏型を用いて行われてもよい。エンボス加工を施すことによって、装置基台10aが薄い軽量の金属板であっても機械強度を高めることができる。また、装置基台10aをエンボス構造にすることによって、装置基板10bを突出させずに設置することが可能となる。これにより、例えば、
図2(C)に示したように、例えばアクリルやポリカーボネート製の透明プラスチック板やガラス板からなる透光板10tを、耐水性接着剤を用いて装置基台10aに接着し、装置基板10bを防水封止することもできる。
【0064】
[照明装置:照射範囲限定手段]
図3は、本発明に係る照明装置の発光機能部分における複数の実施形態を示すZX面による断面図、及び下方から(−Z方向を)見た際の模式図である。
【0065】
図3(A)に示した実施形態では、装置基台10aに複数の基台凹部10avが形成されており、各基台凹部10av内の上部(−Z側)に、装置基板10bが設置されている。基台凹部10avの(XY面内における)開口部の形状は、同図のように楕円状であってもよく、その他、例えば育成対象の生物成長範囲11bの形状に合わせた形状等、種々の形状に設定可能である。また、透光板10tが、各基台凹部10avに蓋をして防水封止する形で設置されていてもよい。
【0066】
この装置基板10bのLED光源101から放射された照射光のうち、育成対象の野菜に向かう方向(+Z方向)から見て所定以上に広がって進行する照射光は、基台凹部10avの内面である壁面10awに反射して進路を制限される。すなわち、所定以上の反射率を有するように加工されたこの壁面10awによって、LED光源101から放射された照射光の広がりが制限される。
【0067】
ここで、すでに説明したように、育成対象の生物(野菜)の成長に必要であるとして設定された光の密度又は照度が確保された照射範囲を「育成照射範囲」10gとしているが、この育成照射範囲10gを如何に育成上必要な範囲に収めるかが、システムの効率化や、高収穫化、さらには電力消費の低減にとって重要となる。
【0068】
図3(A)に示した基台凹部10avは、この育成照射範囲10gを所定範囲内に限定する照射範囲限定手段となっている。具体的には、基台凹部10avの内側の壁面10awが照射範囲限定機能を果たしている。ここで、基台凹部10av(の壁面10aw)は、育成照射範囲10gを、設定された生物成長範囲11b(
図2(B))内に限定することも好ましい。これにより、育成に必要な光量密度(光量子束密度)をもった照射光がより確実に育成対象の成長のために使用されるので、消費電力をより低減しつつ、育成単位(1株)毎に十分な育成度合いを達成することが可能となる。
【0069】
なお、各基台凹部10av内の装置基板10bに複数(例えば4つ)のLED光源101が設置されている場合において、育成対象の野菜の成長前期では、そのうちの一部(例えば2つ)を発光させてより狭い育成照射領域10gを形成することも好ましい。次いで、成長後期に入った際には、全ての(例えば4つ全部の)LED光源101を発光させてより広い育成照射領域10gを実現することも好ましい。さらに、LED光源101の発光させる数を3段階以上に分け、育成照射領域10gを多段階で変化させることも可能である。
【0070】
次に、
図3(B)に示した実施形態では、装置基台10a上に設置された各装置基板10bの脇となる位置に、装置基板10bを挟むようにルーバ10wの対が設けられている。ルーバ10wは、本実施形態においてY軸方向に伸長した遮光板であるが、装置基板10b毎に分離した板であってもよく、また、装置基板10bの4辺を取り囲むように設置されていてもよい。また、図示されていないが、透光板が、ルーバ10wの下端(+Z側の端)を覆って防水封止する形で設置されていてもよい。
【0071】
この装置基板10bのLED光源101から放射された照射光のうち、育成対象の野菜に向かう方向(+Z方向)から見て所定以上に広がって進行する照射光、特にX軸方向に広がる照射光は、ルーバ10wの内面である壁面10wwに反射して進路を制限される。すなわち、所定以上の反射率を有するように加工されたこの壁面10wwによって、LED光源101から放射された照射光の広がりが制限される。
【0072】
すなわち、このルーバ10wも、育成照射範囲10gを所定範囲内に限定する照射範囲限定手段となっている。具体的には、ルーバ10wの内側の壁面10wwが照射範囲限定機能を果たしている。ここで、ルーバ10w(の壁面10ww)は、育成照射範囲10gを、設定された生物成長範囲11b(
図2(B))内に限定することも好ましい。これにより、育成に必要な光量密度をもった照射光がより確実に育成対象の成長のために使用されるので、消費電力をより低減しつつ、育成単位(1株)毎に十分な育成度合いを達成することが可能となる。
【0073】
なお、各ルーバ10w対に挟まれた装置基板10bに複数(例えば4つ)のLED光源101が設置されている場合において、育成対象の野菜の成長前期では、そのうちの一部(例えば2つ)を発光させてより狭い育成照射領域10gを形成することも好ましい。次いで、成長後期に入った際には、全ての(例えば4つ全部の)LED光源101を発光させてより広い育成照射領域10gを実現することも好ましい。さらに、LED光源101の発光させる数を3段階以上に分け、育成照射領域10gを多段階で変化させることも可能である。
【0074】
次に、
図3(C)に示した実施形態では、装置基台10a上に、装置基板10bとレンズ10zとを備えた光学デバイス10dが形成されている。ここで、レンズ10zは、装置基板10bのLED光源101から放射された光の進路を変更する光学部であり、凸レンズ機能を有することも好ましい。レンズ10zの(XY面内における)形状は、同図のように円形であってもよく、その他、例えば育成対象の生物成長範囲11bの形状に合わせて、角の丸められた四角等、種々の形状に設定可能である。また、レンズ10zとして複数の微小レンズが配列したマイクロレンズ系を用いてもよい。
【0075】
ここで、マイクロレンズ系は、本願発明者等を発明者に含む特許5641544号に記載された、「配光角制御レンズ部」及び「微小レンズ配列部」の1つ又は複数の組を有する光学系であってもよい。この「配光角制御レンズ部」は、LED光源から放射された光が入射後に集光される入射面を有しており、入射した光を所定の配光角に制御する。また、「微小レンズ配列部」は、配光角制御レンズ部における入射面とは反対側の出射位置をレンズ配列面として配列した複数の微小レンズを含み、配光角の制御された光を、レンズ配列面を介して受光して分散させて放射する。このような構成を用いることによって、広がり(配光角)の制御された均一化した照射光を、育成対象に照射することが可能となる。
【0076】
なお、「微小レンズ配列部」は、微小レンズの曲率半径やピッチに関して等方的であってもよく、異方性を有していてもよい。ここで、これらの曲率半径やピッチを調整することによって、照射光が栽培槽上面に形成する照射領域の形状(照射形状)を制御することができる。すなわち、育成対象に適した照明形状を実現することが可能となる。例えば、育成対象の生物成長範囲11bが矩形又は矩形に近い形状である場合、「微小レンズ配列部」の曲率半径やピッチを調整して、矩形の(矩形に近い)照明形状を形成することができるのである。これにより、無駄となる照射光を低減し、エネルギー効率の良い育成を実現することも可能となる。
【0077】
この装置基板10bのLED光源101から放射されてレンズ10zに入射した光は、レンズ10zのレンズ作用によってその広がり具合を小さくされた照射光として、育成対象の野菜に向かう。すなわち、このレンズ10zも、育成照射範囲10gを所定範囲内に限定する照射範囲限定手段となっている。ここで、レンズ10zは、育成照射範囲10gを、設定された生物成長範囲11b(
図2(B))内に限定することも好ましい。これにより、育成に必要な光量密度をもった照射光がより確実に育成対象の成長のために使用されるので、消費電力をより低減しつつ、育成単位(1株)毎に十分な育成度合いを達成することが可能となる。
【0078】
また、以上に説明したようにレンズ10zを使用することによって、照射光の広がり具合をレンズの設計によって相当に自由に制御することが可能となる。その結果、例えば、育成対象の植物の成長後の高さに応じて、照明装置10と植物栽培槽11(
図2)とのZ軸方向での間隔(高さ)を、十分に大きくとることもできる。
【0079】
なお、各光学デバイス10dに複数(例えば4つ)のLED光源101が設置されている場合において、育成対象の野菜の成長前期では、そのうちの一部(例えば2つ)を発光させてより狭い育成照射領域10gを形成することも好ましい。次いで、成長後期に入った際には、全ての(例えば4つ全部の)LED光源101を発光させてより広い育成照射領域10gを実現することも好ましい。さらに、LED光源101の発光させる数を3段階以上に分け、育成照射領域10gを多段階で変化させることも可能である。
【0080】
図4は、基台凹部10av内に装置基板10bを装着した照明装置10を用いて行われた照射シミュレーション実験の一実施例を示す模式図及びグラフである。
【0081】
図4(A)には、本実施例において使用されたシステムの構成が概略的に示されている。同図によれば、本シミュレーションでは、800×1000mm
2のサイズの装置基板10bが4×3枚の計12枚だけ四角格子状に配列した照明装置10を用いて、照射実験が行われた。また、この照明装置10の装置基台10aには、12個の基台凹部10avが設けられており、各基台凹部10avに1枚ずつ装置基板10bが設置されていた。
【0082】
さらに、各装置基板10bには、4つのLED光源101が中央部に集合して設けられていた。これらのLED光源101と植物栽培槽11の上面位置(照射位置)との距離は200mmであった。ここで、本実施例では、育成対象の野菜であるレタスの成長に必要な光合成光量子束密度(PPFD)として110μmol・m
−2・s
−1が確保された照射範囲を育成照射範囲10gとしている。
【0083】
図4(B)に、照射シミュレーション実験の結果として、植物栽培槽11の上面位置における、照射光のXY面内PPFD分布を示す。同図によれば、装置基板10bの直下となる12個の領域において、育成対象の成長に十分である120μmol・m
−2・s
−1以上のPPFDが実現している。一方、これらの12個の領域の中間位置では、100μmol・m
−2・s
−1以下のPPFDとなる領域が存在している。
【0084】
図4(C)に、同じく照射シミュレーション実験の結果としてLED光源101直下の位置を含む植物栽培槽11の上面位置における、照射光のX軸方向PPFD分布(「凹部有り」の線)を示す。
【0085】
同図に示すように、本実施例の照明装置10からの照射光によれば、各装置基板10bの直下の位置に、少なくとも110μmol・m
−2・s
−1のPPDFの確保された育成照射範囲10gが確実に形成されている。また、照射光が野菜(レタス)の育成に使用されることのない装置基板10b間の中間領域では、PPDFが110μmol・m
−2・s
−1未満となっており、無駄な照射光が低減していることが理解される。このような本実施例におけるPPDFの必要領域への効果的な集中は、基台凹部構成を採用したことによって促進されているのである。
【0086】
[照明装置:照射範囲変更手段]
図5は、本発明に係る照明装置の発光機能部分における他の実施形態を示すZX面による断面図である。
【0087】
図5(A)に示した実施形態では、装置基台10aに、Z軸方向の高さの異なる2種類の基台凹部である第1の基台凹部10av1と、第2の基台凹部10av2とが形成されている。例えば、育成対象の野菜の直上にこれら両者の1対が形成されていることも好ましい。さらに、複数の対が設けられていてもよい。また、Z軸方向の高さの互いに異なる3種類以上の基台凹部が隣接し合って形成されていてもよい。
【0088】
本実施形態において、第1の基台凹部10av1と第2の基台凹部10av2とは隣接して形成されており、また、第1の基台凹部10av1の凹部におけるZ軸方向の深さ(高さ)la1は、第2の基台凹部10av2における深さ(高さ)la2よりも大きい。ここで、この深さは、光源101の位置から壁面10aw(基台凹部)の下端までのZ軸方向での距離(高さ)となる。さらに、第1及び第2の基台凹部10av1及び10av2の各々における内部の上部には、装置基板10bが設置されている。また、透光板10tが、これらの基台凹部に蓋をして防水封止する形で設置されていてもよい。
【0089】
このような構成によって、例えば、育成対象の野菜の成長初期段階では、第1の基台凹部10av1に設置された装置基板10bのLED光源101によって、より狭い第1の育成照射範囲10g1を有する照射光を当該野菜に照射する一方、当該野菜の成長後期段階では、第2の基台凹部10av2に設置された装置基板10bのLED光源101によって、より広い第2の育成照射範囲10g2を有する照射光を当該野菜に照射することができる。その結果、育成の全般にわたって無駄な電力消費を抑制しつつ、効率の良い育成を実現することが可能となるのである。
【0090】
ここで、上述した
(a)第1の基台凹部10av1の光源101と、この第1の基台凹部10av1の内側の壁面10awとの組、及び
(b)第2の基台凹部10av2の光源101と、この第2の基台凹部10av2の内側の壁面10awとの組
は、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gを所定範囲内、好ましくは生物成長範囲11b内で変更可能とする照射範囲変更手段と捉えることができる。変更態様として、Z軸方向での深さについて上記(a)及び(b)の組と異なる第3の組やそれ以上の組が設けられていることも好ましい。すなわち、これらの複数の組は、光源101の位置から壁面10awの下端までの高さ(Z軸方向での深さ)について、当該高さ(深さ)が互いに異なる3種類以上に分類されることも好ましい。この場合、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gをより多段階で(より細かく)調整することが可能となる。
【0091】
次に、
図5(B)に示した実施形態では、装置基台10aに形成された基台凹部10avの内側上部に装置基板10bが設置され、さらに、基台凹部10av内における装置基板10bのZ軸方向での位置を変えることができる基板駆動部10nが設けられている。基板駆動部10nは、例えば、回転モータ若しくはリニアモータと、ギア、ベルト若しくはチェーン等とを用いて、又はチューブを介して油圧等を与えることによって、又は作業者の手動によって、装置基板10bをZ軸方向に移動させる機構とすることができる。
【0092】
この基板駆動部10nは、装置基板10bの光源101の位置から凹部内側の壁面10awの下端までのZ軸方向での高さlaを変更可能な壁面高変更部である。このように、照射光の反射する基台凹部10avの壁面10awの高さを変更させることによって、LED光源101から放射された照射光の広がり具合、すなわち育成照射範囲10gを変更することができるので、基板駆動部10nは、照射範囲変更手段であると捉えることもできる。
【0093】
このような基板駆動部10nを利用することによって、基台凹部10avの深さlaを変更して、装置基板10bの光源101から放射される照射光の広がり具合を変え、従って、育成照射範囲10gを変化させることができる。これにより、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gを所定範囲内、好ましくは生物成長範囲11b内で適宜変更することが可能となるのである。その結果、育成の全般にわたって無駄な電力消費を抑制しつつ、効率の良い育成を実現することができる。
【0094】
図6は、本発明に係る照明装置の発光機能部分における更なる他の実施形態を示すZX面による断面図である。
【0095】
図6(A)に示した実施形態では、装置基台10aに、Z軸方向の高さの異なる2種類のルーバ対である第1のルーバ10w1の対と、第2のルーバ10w2の対とが、それぞれ装置基板10bを間に挟む形で設置されている。例えば、育成対象の野菜の直上に、第1のルーバ10w1の対と第2のルーバ10w2の対とが隣接して設置されていることも好ましい。さらに、Z軸方向の高さの互いに異なる3種類以上のルーバ対が隣接し合って設置されていてもよい。
【0096】
本実施形態において、第1のルーバ10w1対における光源101の位置からルーバ下端までのZ軸方向での距離(高さ)lw1は、第2のルーバ10w2対における距離(高さ)lw2よりも大きくなっている。このような構成によって、例えば、育成対象の野菜の成長初期段階では、第1のルーバ10w1対の間に設置された装置基板10bのLED光源101によって、より狭い第1の育成照射範囲10g1を有する照射光を当該野菜に照射する一方、当該野菜の成長後期段階では、第2のルーバ10w2対の間に設置された装置基板10bのLED光源101によって、より広い第2の育成照射範囲10g2を有する照射光を当該野菜に照射することができる。その結果、育成の全般にわたって無駄な電力消費を抑制しつつ、効率の良い育成を実現することが可能となるのである。
【0097】
ここで、上述した
(a)第1のルーバ10w1対の間の光源101と、この第1のルーバ10w1対の内側の壁面10wwとの組、及び
(b)第2のルーバ10w2対の間の光源101と、この第2のルーバ10w2対の内側の壁面10wwとの組
は、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gを所定範囲内、好ましくは生物成長範囲11b内で変更可能とする照射範囲変更手段と捉えることができる。変更態様として、壁面10wwの下端までの(Z軸方向での)高さについて上記(a)及び(b)の組と異なる第3の組やそれ以上の組が設けられていることも好ましい。すなわち、これらの複数の組は、光源101の位置から壁面10wwの下端までの高さについて、当該高さが互いに異なる3種類以上に分類されることも好ましい。この場合、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gをより多段階で(より細かく)調整することが可能となる。
【0098】
次に、
図6(B)に示した実施形態では、1対のルーバ10wが、装置基台10aに設置された装置基板10bを間に挟む位置で装置基台10aから+Z方向に突出している。また、この1対のルーバ10wは、+Z軸方向に突出した高さ(突出量)が、ルーバ駆動部10qによって変更可能なように構成されている。具体的には、例えば、装置基台10aにY軸方向に伸長した縦長の孔が2つ開いていて、この2つの孔をそれぞれ貫通する形で1対のルーバ10wが取り付けられていてもよい。ここで、ルーバ駆動部10qは、例えば、回転モータ若しくはリニアモータと、ギア、ベルト若しくはチェーン等とを用いて、又はチューブを介して油圧等を与えることによって、又は作業者の手動によって、1対のルーバ10wをZ軸方向に移動させる機構とすることができる。
【0099】
このルーバ駆動部10qは、装置基板10bの光源101の位置からルーバ10w内側の壁面10wwの下端までのZ軸方向での高さlwを変更可能な壁面高変更部である。このように、照射光の反射するルーバ10wの壁面10wwの高さを変更することによって、LED光源101から放射された照射光の広がり具合、すなわち育成照射範囲10gを変更することができるので、ルーバ駆動部10qは、照射範囲変更手段であると捉えることもできる。
【0100】
このようなルーバ駆動部10qを利用することによって、ルーバ10wの高さを変更して、装置基板10bの光源101から放射される照射光の広がり具合を変え、従って、育成照射範囲10gを変化させることができる。これにより、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gを所定範囲内、好ましくは生物成長範囲11b内で適宜変更することが可能となるのである。その結果、育成の全般にわたって無駄な電力消費を抑制しつつ、効率の良い育成を実現することができる。
【0101】
図7は、本発明に係る照明装置の発光機能部分における更なる他の実施形態を示すZX面による断面図である。
【0102】
図7(A)に示した実施形態では、装置基台10aに、放射される光の光量密度(光量子束密度)又は照度の分布の異なる2種類の光学デバイスである第1の光学デバイス10d1と、第2の光学デバイス10d2とが設置されている。例えば、育成対象の野菜の直上に、第1の光学デバイス10d1と第2の光学デバイス10d2とが隣接して設置されていることも好ましい。さらに、放射される光の光量密度(光量子束密度)又は照度の分布の互いに異なる3種類以上の光学デバイスが隣接し合って設置されていてもよい。
【0103】
本実施形態において、第1の光学デバイス10d1における装置基板10bのLED光源101とレンズ10zとのZ軸方向での距離lz1は、第2の光学デバイス10d1における同距離lz2よりも大きい。その結果、第1の光学デバイス10d1から放射される照射光の光量密度(光量子束密度)の分布は、第2の光学デバイス10d2における分布よりもより狭くなった形となっている。
【0104】
このような構成によって、例えば、育成対象の野菜の成長初期段階では、第1の光学デバイス10d1によって、より狭い第1の育成照射範囲10g1を有する照射光を当該野菜に照射する一方、当該野菜の成長後期段階では、第2の光学デバイス10d2によって、より広い第2の育成照射範囲10g2を有する照射光を当該野菜に照射することができる。その結果、育成の全般にわたって無駄な電力消費を抑制しつつ、効率の良い育成を実現することが可能となるのである。
【0105】
ここで、第1の光学デバイス10d1及び第2の光学デバイス10d2の組は、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gを所定範囲内、好ましくは生物成長範囲11b内で変更可能とする照射範囲変更手段と捉えることができる。変更態様として、放射される光の光量密度(光量子束密度)又は照度の分布について、第1の光学デバイス10d1及び第2の光学デバイス10d2の組と異なる第3の組やそれ以上の組が設けられていることも好ましい。すなわち、これらの複数の組は、放射される光の密度又は照度の分布について、当該分布が互いに異なる3種類以上に分類されることも好ましい。この場合、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gをより多段階で(より細かく)調整することが可能となる。
【0106】
なお、本実施形態の光学デバイスでは、レンズ10zは同一径及び同一曲率のものが共通して使用されており、装置基板10b(LED光源101)とレンズ10zとの距離が互いに異なっている。しかしながら、変更態様として、レンズ10zとの距離が互いに同一であって又は異なっていて、レンズ10zの曲率又は径の互いに異なる光学デバイスを採用することも可能である。いずれにしても、これらの複数の光学デバイスが全体として、育成照射範囲10gを変更可能とするものであればよい。
【0107】
また、変更態様として、(基板10bに設置された)1つ又は複数のLED光源101と、1つ又は複数の光学デバイスとの組合せが設置されていてもよい。この場合、LED光源101からの照射光が、より広い育成照射範囲10gを提供することになる。さらに、1つの装置基板10bにおいて、例えば、中央部にLED光源101を設置する一方、縁部に光学デバイスを設置してもよい。この場合、基板直下の領域から外れる(漏れる)照射光の光量が低減するように設計することが可能となる。
【0108】
次に、
図7(B)に示した実施形態では、光学デバイス10dにおけるレンズ10zを下端部に備えた筐体10dwが、装置基台10aに設置された装置基板10bを中に含みながら、装置基台10aから+Z方向に突出している。また、この筐体10dwは、+Z軸方向に突出した高さ(突出量)が、レンズ駆動部10pによって変更可能なように構成されている。具体的には、例えば、装置基台10aに半円周相当の孔が2つ開いていて、この2つの孔をそれぞれ貫通する形で、筐体10dwの2つに分かれた中間部分が取り付けられていてもよい。ここで、レンズ駆動部10pは、例えば、回転モータ若しくはリニアモータと、ギア、ベルト若しくはチェーン等とを用いて、又はチューブを介して油圧等を与えることによって、又は作業者の手動によって、筐体10dwをZ軸方向に移動させる機構とすることができる。
【0109】
このレンズ駆動部10pは、LED光源101とレンズ10zとの光学的関係を変更可能な光学関係変更部である。このように、LED光源101とレンズ10zとの光学的関係を変更することによって、LED光源101から放射された照射光の広がり具合、すなわち育成照射範囲10gを変更することができるので、レンズ駆動部10pは、照射範囲変更手段であると捉えることもできる。
【0110】
このようなレンズ駆動部10pを利用することによって、レンズ10zの高さを変更して、装置基板10bの光源101から放射される照射光の広がり具合を変え、従って、育成照射範囲10gを変化させることができる。これにより、育成対象の成長に合わせて、育成照射範囲10gを所定範囲内、好ましくは生物成長範囲11b内で適宜変更することが可能となるのである。その結果、育成の全般にわたって無駄な電力消費を抑制しつつ、効率の良い育成を実現することができる。
【0111】
なお、本実施形態の光学デバイスでは、光源とレンズ10zとのZ軸方向での距離lzを変更することによって育成照射範囲10gを変化させている。しかしながら、変更態様として、曲率若しくは径が変更可能なレンズを用いて、又は曲率若しくは径の互いに異なる複数のレンズを差し替え可能な光学系を用いて、育成照射範囲10gを変化させることも可能である。さらに、レンズ10zとして凸レンズを使用せず、LED光源(LED素子)101に直接マイクロレンズを装着した形態も実施可能である。このような形態によっても育成照射範囲10gを変更することができる。
【0112】
図8は、本発明に係る照明装置の装置基板における他の実施形態を示す模式図である。
【0113】
図8(A)に示した実施形態では、装置基台10aに設置された装置基板10bは円形状であって、この装置基板10bの光源設置面(XY面)に、複数のLED光源101が同心円状に配列するように設置されている。また、装置基板10bは、育成対象の野菜の1株毎に、生物成長範囲の直上となる位置に配置され、その結果、この基板10b上の複数のLED光源101は、生物成長範囲の直上となる領域毎に、当該領域内に分布する形で配置されている。ここで、育成対象の植物の中心部により多くの光量を集中させたい場合には、複数のLED光源101を、基板10bの中央において密になるように配置してもよい。
【0114】
また、本実施形態では、照明制御部10c(
図1)が、1つの装置基板10bにおける、同心円状に配列した複数のLED光源101に供給する電力を個別に又は所定グループ毎に制御することによって、複数のLED光源101からの照射光による照射範囲を制御することができる。具体的には、
図8(A)において破線で示された配線を用い、配置に係る1つの同心円上に位置するLED光源101群毎に、供給する電力を制御する。
【0115】
例えば、照明制御部10cは、
(a)育成対象の成長前期には、中心位置のLED光源101と最小の同心円上の4つのLED光源101とのみに電力を供給して照射光を発生させて、より狭い第1の育成照射範囲10g1を形成し、一方、
(b)育成対象の成長後期には、全ての(17個の)LED光源101に電力を供給して照射光を発生させて、より広い第2の育成照射範囲10g2を形成する
ことができる。また、その結果、育成の全般にわたって無駄な電力消費を抑制しつつ、効率の良い育成を実現することが可能となる。
【0116】
ここで、当然に、電力を供給する光源に係る同心円をより細かく設定して、育成照射範囲を多段階に制御することもできる。また、例えば、上記(a)の育成対象の成長前期においても、外側の同心円上に配置されたLED光源101にも若干の電力を供給して低光量の照射光を発生させたり、上記(b)の育成対象の成長前期において、内側の同心円上に配置されたLED光源101からの照射光の光量を小さくしたりして、育成対象の成長状況に合わせた所望の光量分布(光量子束分布)を実現することも可能である。
【0117】
このように、本実施形態では、
(a)生物成長範囲の直上領域内に分布するように配置された複数のLED光源101と、
(b)これらの光源101に供給する電力を制御することによって、育成照射範囲を変更可能とする照明制御部10cと
が、照射範囲変更手段として機能しているのである。
【0118】
なお、装置基板10bの形状及びLED光源101の配置は、当然に、以上に説明した実施形態に限定されるものではない。例えば、
図8(B)に示すように、十字状の装置基板10bの光源設置面に複数のLED光源101を分布させてもよい。また、楕円形、菱形、星形といった種々の形状の装置基板10bを採用してもよい。さらには、面発光タイプのLED光源を用いることも可能である。この場合、複数の面発光LED素子を分布させて設置してもよく、比較的大面積の面発光LED素子を1つ設置してもよい。いずれにしても、基板上に分布したLED光源に供給する電力を、個別に、所定グループ毎に又は所定範囲毎に制御することによって、LED光源からの照射光による照射範囲や光量分布を制御することができるものであれば、種々の形態が実施可能である。
【0119】
また、
図8(A)及び
図8(B)に示したような、さらには
図3、
図5、
図6及び
図7に示したような、複数のLED光源101を装置基板10b上で分布させて配置する実施形態において、幾つかの又は全てのLED光源101を、白色光以外の波長特性を有するLED素子とし、育成対象の植物種や成長段階に合わせて、照射する光の波長を制御することも好ましい。
【0120】
さらに、LED光源101として、青色LED素子と赤色LED素子の両方を用い、青色光の光量と赤色光の光量との割合を、育成対象の種別や成長度合いに応じて調整してもよい。さらに、例えば、青色LED素子を用いた光源101を装置基板10bの中央領域に多く配置して、特に植物の発芽からの成長時に十分な量の青色光を供給する一方、赤色LED素子を用いた光源101を装置基板10bの全体に分布するように配置して、特に成長初期を過ぎた植物に対し、光合成に必要な赤色光を十分に供給することもできる。さらには、育成対象がキノコである場合、青色光が成長に高い効果を有する種類に対しては、LED光源101として青色LED素子を用いてもよい。
【0121】
さらにまた、
図3、
図5、
図6、
図7及び
図8を用いて説明した種々の実施形態のうちの2つ、又は3つ以上を組み合わせた実施形態を実施することも可能である。例えば、
図3や
図5(A)及び(B)に示した基台凹部に、
図3(C)や
図7(A)及び(B)に示したレンズ10zを設けた実施形態を実施することができる。
【0122】
さらに、例えば、
(a)
図3(A)に示した基台凹部10avを備えた構成、
(b)
図3(B)に示したルーバ対10wを備えた構成、又は
(c)
図3(C)に示した光学デバイス10dを備えた構成
において、
図8(A)又は(B)に示したような、装置基板10bに設置されたLED光源101を所定グループ毎に個別に制御可能にした実施形態を実施することもできる。このような実施形態では、育成照射範囲10gの制御性が一段と高まるので、より効率的な育成対象の成長を実現することも可能となる。
【0123】
以上、本発明によれば、育成対象の生物の育成単位毎に設定された生物成長範囲の直上
に光源を配置するので、光源の直下における光量密度(光量子束密度)の高い又は極大となる照射領域が、育成単位間の中点位置にくることがなくなり、その結果、無駄となる照射光の量を低減することが可能となる。また、光源直下の照射領域が確実に生物成長範囲に含まれるので、光源からの最大光量密度の照射光が生物の育成に確実に使用されることになる。従って、育成単位の受ける光量が、成長に十分な量の下で安定する。その結果、より少ない消費電力の下、育成度合いのばらつきを抑制することができるのである。
【0124】
なお、育成度合いのばらつきを抑制すれば、育成度合いの均一性の高い、すなわち商品価値の高い農作物を生産することも可能となる。また、育成対象の成長に合わせて照射する光の光量密度分布や波長特性を変化させる実施形態を採用した場合、適切な育成環境の下、より高い品質を有する商品価値の高い農作物を生産することも可能となるのである。
【0125】
なお、以上に述べた実施形態は全て、本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は、他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。