特許第6810316号(P6810316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6810316
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】プラズマ加工装置用直流パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20201221BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   H02M7/48 A
   H05H1/46 R
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-76476(P2020-76476)
(22)【出願日】2020年4月23日
【審査請求日】2020年4月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 敏一
(72)【発明者】
【氏名】伏谷 周一
(72)【発明者】
【氏名】木村 智
(72)【発明者】
【氏名】小西 庸平
(72)【発明者】
【氏名】吉住 拓也
【審査官】 遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−220471(JP,A)
【文献】 米国特許第04719556(US,A)
【文献】 特開2019−103276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42− 7/98
H05H 1/00− 1/54
H02M 9/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ加工のためのプラズマを含む容量性負荷回路に直流パルス電圧を印加するプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
a)直流電圧を発生する電源部と、
b)前記電源部による直流電圧が与えられる高電位線と低電位線との間に接続された電源コンデンサと、
c)前記高電位線と低電位線との間に接続された、第1スイッチング部と第2スイッチング部とが直列に接続された直列回路と、
d)前記第1及び第2のスイッチング部の接続部と電圧出力端との間に接続された共振リアクトルと、
e)導通時に前記電圧出力端から前記第1スイッチング部の高電位端への一方向に電流を流すことが可能である第3スイッチング部と、
f)導通時に前記第2スイッチング部の低電位端から前記電圧出力端への一方向に電流を流すことが可能である第4スイッチング部と、
g)前記電圧出力端と低電位線との間に接続された共振コンデンサと、
h)前記第1スイッチング部と前記第2スイッチング部を所定のデッドタイムを挟んで相補的にオン動作させる制御部と、
を備え、前記制御部は、前記第1スイッチング部をオンしたとき、前記共振リアクトル及び前記共振コンデンサに流れる電流により該コンデンサが充電され、前記電圧出力端の電位が前記第1スイッチング部の高電位端の電位を超えて前記第3スイッチング部が導通する状態が所定時間続くまで前記第1スイッチング部のオン動作を継続させ、他方、前記第2スイッチング部をオンしたとき、前記共振コンデンサの充電時とは逆方向に前記共振リアクトルを流れる電流により前記共振コンデンサの充電電圧が下がり、前記電圧出力端の電位が前記第2スイッチング部の低電位端の電位を下回って前記第4スイッチング部が導通する状態が所定時間続くまで前記第2スイッチング部のオン動作を継続させるように、前記第1スイッチング部と前記第2スイッチング部をそれぞれオン動作させるプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【請求項2】
前記第3スイッチング部及び前記第4スイッチング部はそれぞれダイオードである、請求項1に記載のプラズマ加工装置用直流パルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種のプラズマ加工装置に用いられる直流パルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体プロセスを始めとする様々な分野において、プラズマを利用して対象物に対しエッチング、スパッタリングなどの加工処理を施すプラズマ加工装置が用いられている。こうしたプラズマ加工装置において、プラズマを生成したり、プラズマに電力を供給したり、或いは、プラズマ中の荷電粒子を加速したりするために、直流パルス電圧を利用するものが従来知られている。
【0003】
プラズマ加工装置において直流パルス電圧を印加する対象は、プラズマを介した電極や被加工物などであり、一般的には容量性の負荷である。こうした容量性負荷回路に直流パルス電圧を印加する電源装置として、特許文献1に記載の装置が知られている。この装置は、直流電源と、二つのスイッチング素子とを含み、その二つのスイッチング素子が相補的にオン・オフ動作すると、直流電源の出力電圧−V0(一般には数百〜千V以上)と接地電位(0V)とが交互に出力端に現れ、波高値がV0である負極性の直流パルス電圧が生成される。また、特許文献1には、直流パルス電圧を容量性負荷回路に印加するだけでなく、別のスイッチング素子と共振回路とを用い、容量性負荷回路に蓄積されたエネルギを電源装置側に回生する構成も開示されている。
【0004】
しかしながら、こうした電源装置では、容量性負荷回路に印加される直流パルス電圧の立上り及び立下りが緩慢になり、その結果として、プラズマ加工の精度低下をもたらすという問題があった。これに対し、本出願人は、直流パルス電圧の立上り及び立下りの特性を改善することが可能な電源装置として、特許文献2に記載の装置を提案した。この電源装置では、リアクトルと容量性負荷回路を含む共振回路での共振を利用して、直流パルス電圧の立上り波形及び立下り波形を形成している。これにより、単にスイッチング素子等により電源電圧と接地電位とを切り替える場合に比べて、立上り及び立下リの特性を改善することができる。また、特許文献2に記載の電源装置では、特許文献1に記載の電源装置と同様に、容量性負荷回路に蓄積されたエネルギを電源装置側に回生し、エネルギの有効利用を図ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018−107904号公報
【特許文献2】特許第6613411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、特許文献2に記載の直流パルス電源装置では、複数の直流電源が必要であり、回路素子が多く構成が複雑である。また、共振を利用して電圧が電源電圧付近にまで立ち上がった時点で直流電源による出力電圧に切り替わるようにスイッチング素子を制御する必要があり、制御も複雑になる傾向にある。
【0007】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、回路構成が単純で且つ制御も簡単でありながら、直流パルス電圧の立上り及び立下りの特性を改善することができるプラズマ加工装置用直流パルス電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明は、プラズマ加工のためのプラズマを含む容量性負荷回路に直流パルス電圧を印加するプラズマ加工装置用直流パルス電源装置であって、
a)直流電圧を発生する電源部と、
b)前記電源部による直流電圧が与えられる高電位線と低電位線との間に接続された電源コンデンサと、
c)前記高電位線と低電位線との間に接続された、第1スイッチング部と第2スイッチング部とが直列に接続された直列回路と、
d)前記第1及び第2のスイッチング部の接続部と電圧出力端との間に接続された共振リアクトルと、
e)導通時に前記電圧出力端から前記第1スイッチング部の高電位端への一方向に電流を流すことが可能である第3スイッチング部と、
f)導通時に前記第2スイッチング部の低電位端から前記電圧出力端への一方向に電流を流すことが可能である第4スイッチング部と、
g)前記電圧出力端と低電位線との間に接続された共振コンデンサと、
h)前記第1スイッチング部と前記第2スイッチング部を所定のデッドタイムを挟んで相補的にオン動作させる制御部と、
を備え、前記制御部は、前記第1スイッチング部をオンしたとき、前記共振リアクトル及び前記共振コンデンサに流れる電流により該コンデンサが充電され、前記電圧出力端の電位が前記第1スイッチング部の高電位端の電位を超えて前記第3スイッチング部が導通する状態が所定時間続くまで前記第1スイッチング部のオン動作を継続させ、他方、前記第2スイッチング部をオンしたとき、前記共振コンデンサの充電時とは逆方向に前記共振リアクトルを流れる電流により前記共振コンデンサの充電電圧が下がり、前記電圧出力端の電位が前記第2スイッチング部の低電位端の電位を下回って前記第4スイッチング部が導通する状態が所定時間続くまで前記第2スイッチング部のオン動作を継続させるように、前記第1スイッチング部と前記第2スイッチング部をそれぞれオン動作させるものである。
【0009】
本発明に係る直流パルス電源装置において、第1及び第2スイッチング部としては例えば電力用MOSFET等のスイッチング素子を用いることができる。一方、第3及び第4スイッチング部としてはスイッチング素子を用いてもよいが、所定の順方向電圧の下で導通するダイオードを用いることができる。また、高電位線及び低電位線は、いずれか一方を接地電位とすることができる。
【0010】
本発明に係る直流パルス電源装置において、電源コンデンサ、第1スイッチング部及び第2スイッチング部を含む直列回路、第3スイッチング部、及び第4スイッチング部は、直流パルス電圧のハイレベル及びローレベルに対応する、それぞれ略一定の電圧(ゼロ電圧を含む)を出力する際の主電圧発生回路を構成する。一方、電源コンデンサ、第1スイッチング部及び第2スイッチング部を含む直列回路、共振リアクトル、共振コンデンサ、及び容量性負荷回路中の容量成分は、直流パルス電圧のハイレベルからローレベルへの、及びその逆の電圧変化の際の共振回路を構成する。即ち、上記特許文献2に記載の電源装置では、共振のためのスイッチング素子が配置されたレッグ回路と主電圧発生のためのスイッチング素子が配置されたレッグ回路とが別々であるのに対し、本発明では、共振のためのレッグ回路と主電圧発生のためのレッグ回路とが共通である。
【0011】
本発明に係る直流パルス電源装置において、電源コンデンサは電源部の出力電圧値に充電される。例えば、直流パルス電圧を電位0から電位V1(電源部の出力電圧値)まで立ち上げる際に、第1スイッチング部がオンされると、共振リアクトルと、共振コンデンサ及び容量性負荷回路中の容量成分とのLC共振による共振電流が流れ、該共振コンデンサを充電する。これにより、電圧出力端の電圧は立ち上がる。共振電流を供給する電源コンデンサの共振初期電圧はV1であるため、電圧出力端の電圧は電圧上昇の局面では最大で2×V1、電圧下降の局面では最小で−V1になろうとする。ところが、電圧出力端の電圧がV1を超えると第3スイッチング部がオンし、電圧出力端から第1スイッチング部の高電位端へ電流が流れる。そのため、電圧出力端の電圧はV1にクランプされ、略一定に維持される。
【0012】
直流パルス電圧を電位V1から電位0にまで立ち下げる際に、第2スイッチング部がオンされると、LC共振による共振電流が共振リアクトルを先とは逆方向に流れ、電圧出力端の電圧は低下する。上述したように電圧下降の局面では電圧出力端の電圧は最小で−V1になろうとするが、電圧出力端の電圧が0を下回ると第4スイッチング部がオンし、第4スイッチング部を通して第2スイッチング部の低電位端側から電圧出力端へと電流が流れる。そのため、電圧出力端の電圧は0Vにクランプされ、略一定に維持される。
【0013】
このようにLC共振によって流れる共振電流により、電圧出力端の電位つまり共振コンデンサの充電電圧は上昇したり下降したりするが、特許文献2のような半波共振方式ではなく、実質的に共振波形の立上り及び立下りのスロープの一部のみを利用した部分共振方式である。また、LC共振による電圧上昇局面及び電圧下降局面の途中での電圧クランプによって、電圧上昇局面から電圧一定局面への移行、及び、電圧下降局面から電圧一定局面への移行を実施している。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る直流パルス電源装置によれば、上述したように、共振と主電圧発生のためのレッグ回路を共通にしているため、回路構成が単純であり、使用する回路素子の数を少なくすることができる。また、電圧や電流を検知しながら、その検知結果に基いてスイッチングの切替えを行うような煩雑な制御も不要である。一方で、LC共振を利用した迅速な電圧上昇及び電圧降下が可能であるので、直流パルス電圧の立上り及び立下りの特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態である直流パルス電源装置の概略回路構成図。
図2】本実施形態の直流パルス電源装置の要部の動作波形図。
図3】本実施形態の直流パルス電源装置における電流の流れを示す模式図。
図4】変形例である直流パルス電源装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態であるプラズマ加工装置用直流パルス電源装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施形態の直流パルス電源装置の概略回路構成図、図2は本実施形態の直流パルス電源装置の要部の動作波形図、図3は本実施形態の直流パルス電源装置における電流の流れを示す模式図である。
【0017】
本実施形態の直流パルス電源装置は、プラズマエッチング装置やプラズマスパッタリング装置において生成されるプラズマを含む容量性負荷回路に、直流パルス電圧を印加するものである。ここでは、負荷キャパシタ50と負荷抵抗51との並列回路で容量性負荷回路5を簡易的に(又は等価的に)示している。この容量性負荷回路5は、直流パルス電源装置の正極性出力端23と負極性出力端24との間に接続されている。
【0018】
本実施形態の直流パルス電源装置は、図1に示すように、直流電圧源10、電源ダイオード11、平滑リアクトル12、電源コンデンサ13、第1スイッチング部14、第1ダイオード15、第2スイッチング部16、第2ダイオード17、共振リアクトル18、第3ダイオード19、第4ダイオード20、共振コンデンサ21、ダンピング抵抗22、及び、制御部30、を含む。
【0019】
直流電圧源10は電圧値がV1である直流電圧を出力するものであり、順方向接続である電源ダイオード11及び平滑リアクトル12を介して、電源コンデンサ13の一端(高電圧側端子)と、第1スイッチング部14と第2スイッチング部16との直列回路の一端に接続されている。その直列回路と電源コンデンサ13の他端はいずれも接地されている。第1ダイオード15は第1スイッチング部14に、第2ダイオード17は第2スイッチング部16に、それぞれ逆並列に接続されている。スイッチング部14、16は電力用MOSFETなどの半導体スイッチング素子から成り、その場合、第1、第2ダイオード15、17はその半導体スイッチング素子の寄生ダイオードを利用することができる。
【0020】
第3ダイオード19と第4ダイオード20とは直列に接続され、第4ダイオード20のアノードは接地され、第3ダイオード19のカソードは第1スイッチング部14と電源コンデンサ13との接続点に接続されている。共振リアクトル18は、第1スイッチング部14と第2スイッチング部16との接続点であるノードN1と、第3ダイオード19と第4ダイオード20との接続点であるノードN2との間に接続されている。共振コンデンサ21はノードN2と接地端との間に接続され、ダンピング抵抗22はノードN2と正極性出力端23との間に接続されている。
【0021】
制御部30は、制御信号G1、G2により二つのスイッチング部14、16のオン・オフ動作を制御する。この制御部30は、例えばCPU、ROM、RAM、タイマなどから成るマイコン(マイクロコンピュータ)を含み、予め与えられたプログラムに従った処理を実行することで、上記各制御信号を生成する構成を採ることができる。
【0022】
この直流パルス電源装置は、基本的には、接地電位である0Vと直流電圧源10の出力電圧であるV1との二つの電圧レベルの矩形波電圧を容量性負荷回路50に対し出力する。但し、負荷が容量性であるため、単に電源電圧と接地電位とを切り替えるだけであると、限流抵抗が必要になりRC積分回路を構成する。そのため、負荷に加わる電圧波形の立上り及び立下りが緩慢になる。それに対し、この直流パルス電源装置では、LC共振を利用して、より詳しくはLC共振による共振波形を部分的に利用して、立上り及び立下りの高速化を図っている。
【0023】
図1に加え、図2及び図3を参照しつつ、本実施形態の直流パルス電源装置の動作を説明する。図2において、Lo(i)は共振リアクトル18に流れる電流、Co(v)は共振コンデンサ21の電圧、Co(i)+Cp(i)は共振コンデンサ21に流れる電流と容量性負荷回路5のキャパシタ50に流れる電流との和、Rd(i)はダンピング抵抗22に流れる電流つまりは出力電流である。Co(v)は出力電圧Voとほぼ等しい。
【0024】
第1スイッチング部14は、制御信号G1(図2(a))がハイレベルであるt1〜t2期間だけオンする。第2スイッチング部16は、制御信号G2(図2(b))がハイレベルであるt3〜t0期間だけオンする。t0〜t1期間及びt2〜t3期間は制御信号G1、G2が共にローレベルであるデッドタイムであり、デッドタイムを挟んで二つのスイッチング部14、15は相補的にオン動作する。
【0025】
この直流パルス電源装置の動作は、大略α(α1、α2)、β(β1、β2)、γ(γ1、γ2)の三つのモードに集約され得る。このうち、αは共振リアクトル18のエネルギが電源(厳密には電源コンデンサ13)に回生される電源回生モードである。βは、共振リアクトル18と、共振コンデンサ21とキャパシタ50との並列回路(以下、この並列回路を「容量並列回路」という)と、を含むLC共振回路において共振が生じる共振モードである。また、γは、共振リアクトル18のエネルギがダイオードクランプ回路に循環する短絡モードである。
【0026】
時刻t0において制御信号G2がハイレベルからローレベルに変化すると、第2スイッチング部16がターンオフし、第1スイッチング部14及び第2スイッチング部16が共にオフ状態になる。この期間、つまりα1モードのうちの前半であるt0〜t1期間では、図3(a)に示すように、共振リアクトル18に蓄積されたエネルギに由来する電流Lo(i)が、共振リアクトル18→第1ダイオード15→電源コンデンサ13→第4ダイオード20→共振リアクトル18、という経路で流れる。つまり、電流Lo(i)は図1において共振リアクトル18を左方向に流れる。これにより、共振リアクトル18の両端電圧Lo(v)は概ね電源コンデンサ13の充電電圧つまりはV1にクランプされる。
【0027】
その後、時刻t1において制御信号G1がローレベルからハイレベルに変化すると、第1スイッチング部14がターンオンする。すると、電流Lo(i)が0になるα1モードの終了時点まで、第1スイッチング部14と第1ダイオード15とが同時に通電した状態で、電流Lo(i)は共振リアクトル18→第1スイッチング部14及び第1ダイオード15→電源コンデンサ13→第4ダイオード20→共振リアクトル18、という経路で流れ続ける。但し、このときの第1スイッチング部14のターンオン動作は、第1ダイオード15が通電状態であるのでゼロ電圧スイッチング(ZVS)である。
【0028】
図1において共振リアクトル18を左方向に流れる電流Lo(i)が0になり、β1モードに移行すると、電源コンデンサ13に蓄積されたエネルギによる電流Lo(i)が、電源コンデンサ13→第1スイッチング部14→共振リアクトル18→容量並列回路→電源コンデンサ13、という経路で、LC共振の電流として流れる。そして、共振コンデンサ21の充電電圧(つまりはノードN2の電圧)が上昇し、その電圧が電源コンデンサ13の充電電圧つまりV1を超えると、第3ダイオード19が順方向バイアスされて導通する。
【0029】
また、β1モードでは、負荷抵抗51に流れる負荷電流Rp(i)はRp(i)=(V1+Lo (v))/Rp=Co(v)/Rpであり(但し、Rpは負荷抵抗51の抵抗値)、これは、電源コンデンサ13→第1スイッチング部14→共振リアクトル18→負荷抵抗51→電源コンデンサ13、という経路で流れる。
【0030】
第3ダイオード19が導通するとγ1モードに移行する。γ1モードでは、第1スイッチング部14及び第3ダイオード19が共に導通しており、電流Lo(i)は、図3(c)に示したような、共振リアクトル18→第3ダイオード19→第1スイッチング部14→共振リアクトル18という経路で、循環電流として流れる。このときには、ノードN2の電圧は第3ダイオード19によって電圧V1にクランプされるので、略V1一定に固定される。一方、負荷電流Rp(i)=V1/Rpは、電源コンデンサ13→第1スイッチング部14→共振リアクトル18→負荷抵抗51→電源コンデンサ13、という経路で流れる。
【0031】
次いで、時刻t2において制御信号G1がハイレベルからローレベルに変化すると、第1スイッチング部14がターンオフし、第1スイッチング部14及び第2スイッチング部16が共にオフ状態になる。この期間、つまりα2モードのうちの前半であるt2〜t3期間では、図3(d)に示すように、共振リアクトル18に蓄積されたエネルギに由来する電流Lo(i)が、共振リアクトル18→第3ダイオード19→電源コンデンサ13→第2ダイオード17→共振リアクトル18、という経路で流れる。これにより、ノードN2の電圧は電源コンデンサ13の充電電圧V1にクランプされ続ける。
【0032】
その後、時刻t3において制御信号G2がローレベルからハイレベルに変化すると、第2スイッチング部16がターンオンする。すると、電流Lo(i)が0になるα2モードの終了時点まで、第2スイッチング部16と第2ダイオード17とが同時に通電した状態で、共振リアクトル18→第3ダイオード19→電源コンデンサ13→第2スイッチング部16及び第2ダイオード17→共振リアクトル18、という経路で電流Lo(i)が引き続き流れる。但し、このときの第2スイッチング部16のターンオン動作は、第2ダイオード17が通電状態であるのでゼロ電圧スイッチング(ZVS)である。
【0033】
図1において共振リアクトル18を右方向に流れる電流Lo(i)が0になり、β2モードに移行すると、電流Loは、容量並列回路→共振リアクトル18→第2スイッチング部16→容量並列回路、という経路で共振電流として流れる。一方、負荷電流Rp(i)=Lo(v)/Rp=Co(v)/Rpは、共振リアクトル18→負荷抵抗51→第2スイッチング部16及び第2ダイオード17→共振リアクトル18、という経路で流れる。これにより、共振コンデンサ21の充電電圧、つまりノードN2の電圧は、V1から0に向かって急速に低下する。そして、共振コンデンサ21の充電電圧が0を下回った時点で第4ダイオード20が導通する。それ以降、負荷電流Rp(i)は、容量並列回路→負荷抵抗51→容量並列回路、という経路で循環電流として流れる。
【0034】
第4ダイオード20が導通するとγ2モードに移行する。γ2モードでは、第2スイッチング部16及び第4ダイオード20が共に導通しており、電流Lo(i)は、共振リアクトル18→第2スイッチング部16→第4ダイオード20→共振リアクトル18、という経路で循環電流として流れる。
【0035】
本実施形態の直流パルス電源装置では、以上の動作が繰り返されることで、0とV1との二つの電圧レベルの直流パルス電圧を容量性負荷回路5に出力することができる。
なお、ダンピング抵抗22は回路の寄生インダクタンス及び容量のダンピング用であって、場合によっては省略することができる。
【0036】
図1に示した直流パルス電源装置における各素子の定数等のパラメータ値は、例えば次のように定めることができる。
電源電圧V1:1500V、平滑リアクトル12のインダクタンス:1mH、電源コンデンサ13のキャパシタンス:10μF、共振リアクトル18のインダクタンス:12μH、共振コンデンサ21のキャパシタンス:900pF、ダンピング抵抗22の抵抗値:2Ω、負荷キャパシタ50のキャパシタンス:300pF、負荷抵抗の抵抗値:500Ω、スイッチングパルスの周波数:400kHz
上記パラメータ値で装置動作のコンピュータシミュレーションを行って所望の波形が得られることが確認できた。
【0037】
上記説明から明らかであるように、この電源装置では、LC共振動作時に共振電流を供給するための共振レッグ回路と、出力端に電源電圧又は接地電位を選択的に出力するための主レッグ回路とを共通化している。そのため、共振初期電圧(つまりは共振開始時の電源コンデンサ13の充電電圧)は特許文献2に記載の装置ではV1/2であるのに対しV1である。そのため、LC共振によって、共振コンデンサ21の充電電圧は電圧上昇時には2V1、電圧下降時には−V1になろうとするが、ダイオードのクランプ回路によって、上電圧昇時にV1、電圧下降時に0にクランプさせている。
【0038】
即ち、この装置における共振方式は、共振波形の立上り及び立下りのスロープのそれぞれ一部を用いた部分共振方式であるということができる。この方式の電源装置の利点としては次の点が挙げられる。
(1)共振レッグ回路が不要であるため、回路構成が簡素である。
(2)共振レッグ回路の共振条件に同期させて主レッグ回路を動作させる必要がなく、スイッチング部を駆動するための制御が単純になる。
(3)共振リアクトル18の蓄積エネルギによる電流はダイオード19、20による閉じたクランプ回路を循環するだけであるので高電圧を発生するモードがない。
(4)負荷が短絡した場合、共振リアクトル18が電流源として作用するため、スイッチング部14や第3ダイオード19の破損を回避することができる。
【0039】
図1に示した直流パルス電源装置の構成は一例であり、様々に変形が可能である。
例えば、図1に示した構成の直流パルス電源装置をスタック状に多段の構成とすることにより、一段の回路では実現が難しい高い電圧のパルスを生成することができる。
また、第4ダイオード20により0Vではない別の電圧V2(但しV2<V1)にクランプするように回路構成を変更すれば、0V以外の二つの電圧レベルの直流パルス電圧を生成することが可能である。
【0040】
図4に、上記実施形態の直流パルス発生装置の別の適用例を示す。本装置の構成自体は同じであり、負荷が異なるものである。ここでは、四つのリアクトル60、62、64、66と三つのコンデンサ61、63、65とを含み、容量性負荷回路5に含まれる負荷キャパシタ50と相まって、LC集中分布回路であるパルスフォーミングネットワーク(PFN=Pulse Forming Network)回路が負荷となっている。リアクトルやコンデンサは、直流パルス電源装置とプラズマエッチング装置との間を接続する同軸ケーブル線における寄生容量や寄生インダクタンス、或いは、プラズマエッチング装置に設けられているフィルタのリアクトル及びコンデンサを利用することができる。このPFN回路は特許文献2に記載の装置におけるパルス成形部と同じ機能を有し、入力された直流パルス電圧の立上り及び立下りを高速化するものである。
【0041】
また、上記各実施形態はあくまでも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0042】
10…直流電圧源
11…電源ダイオード
12…電源リアクトル
13…電源コンデンサ
14…第1スイッチング部
15…第1ダイオード
16…第2スイッチング部
17…第2ダイオード
18…共振リアクトル
19…第3ダイオード
20…第4ダイオード
21…共振コンデンサ
22…ダンピング抵抗
23…正極性出力端
24…負極性出力端
5…容量性負荷回路
50…負荷キャパシタ
51…負荷抵抗
【要約】
【課題】直流パルス電圧の立上げ、立下げを迅速に行いつつ、回路構成やスイッチング制御を簡素化する。
【解決手段】本発明の一態様の直流パルス電源装置は、プラズマ加工のためのプラズマを含む容量性負荷回路5に直流パルス電圧を印加するものであり、直流電圧源10と、電源コンデンサ13と、第1スイッチング部14と第2スイッチング部16とが直列接続された直列回路と、共振リアクトル18と、第3ダイオード19と、第4ダイオード20と、共振コンデンサ21と、二つのスイッチング部14、16を所定のデッドタイムを挟んで相補的にオン動作させる制御部30と、を備える。共振リアクトル18及び共振コンデンサ21、負荷キャパシタ50を含むLC共振回路での共振を利用すると共に、第3ダイオード19及び第4ダイオード20による電圧クランプを利用して、立上り及び立下りの高速な直流パルス電圧を容量性負荷回路5に印加する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4