(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
紫外線を照射する工程が、酸素を含み、オゾンを含まない雰囲気中にて、ポリアミド成形体に波長180〜190nmおよび波長250〜260nmの紫外線を照射する工程である、請求項1または2記載のポリアミド複合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法の第1工程は、ポリアミド成形体の表面に対して波長250〜260nmの紫外線を含む紫外線を照射して、紫外線照射面を有するポリアミド成形体を得る工程である。
【0011】
ポリアミド成形体の形状および大きさは、目的とする複合体の形状および大きさによって決まるものであり、フィルム、シート、平板(平面形状が多角形の平板、円板、平面形状が不定形の平板など)、立体物などを使用することができる。
目的とする複合体となるように組み合わせる複数のポリアミド成形体の形状および大きさは、同一のものでもよいし、異なるものでもよい。
【0012】
ポリアミド成形体は、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12のほか、ポリアミド1010、ポリアミド46、ポリアミドMXD、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド6I、ポリアミドM5T、ポリアミド6/66、ポリアミド1212、ポリアミド66/6T、ポリアミド66/6I、ポリアミド6T/6I/66などの共重合体から選ばれる1または2以上からなる成形体が好ましい。
ポリアミド成形体は、同じポリアミドからなる複数の成形体を組み合わせてもよいし、異なるポリアミドからなる複数の成形体を組み合わせてもよいし、同じポリアミドからなる複数の成形体と異なるポリアミドからなる複数の成形体を組み合わせてもよい。
【0013】
ポリアミド成形体は、ポリアミドと他の熱可塑性樹脂のアロイからなる成形体にすることもできる。
他の熱可塑性樹脂としては、ポリアミドと相溶性があるものが好ましいが、相溶性がないものでもよく、その場合には相溶化剤を併用する。
他の熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。
ポリアミドと他の熱可塑性樹脂のアロイからなる成形体にするときは、前記アロイ中のポリアミド含有量が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
【0014】
ポリアミド成形体は、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維、前記ガラス繊維を除く無機繊維、金属繊維から選ばれる繊維状充填剤を含有しているものを使用することができる。また、前記した各繊維の金属めっき繊維も使用することができる。
さらに繊維状充填剤を含むポリアミド成形体としては、特許第5592775号公報に記載の炭素繊維と芳香族ポリアミド樹脂または脂肪族ポリアミド樹脂を含む複合体からなる炭素繊維テープを使用することもできる。
炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、レーヨン系などからなるものが好ましく、ガラス繊維は、E−ガラス、D−ガラスなどからなるものが好ましく、有機繊維は、超高分子ポリエチレン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、液晶性芳香族ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アラミド繊維(ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドなど)、綿、ジュートなどのセルロース繊維などが好ましく、無機繊維はボロン繊維、鉱物繊維などが好ましく、金属繊維はステンレス、黄銅などからなるものが好ましい。
【0015】
ポリアミド成形体には、公知の熱可塑性樹脂用の各種添加剤を含有させることができる。
前記添加剤としては、酸化防止剤、耐熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、加水分解抑制剤、可塑剤、着色剤、難燃化剤、発泡剤、造核剤、タルク、シリカおよび顔料などの粉末状の無機充填材、滑剤、展着剤などを挙げることができる。
【0016】
ポリアミド成形体の表面に対して紫外線照射するとき、紫外線を照射する面は、次の工程において他のポリアミド成形体と熱融着させる面である。
例えば、ポリアミド成形体が長方形の平板であるとき、長方形の第1面、第1面と厚さ方向反対側の長方形の第2面、4つの側面を有しているが、第1面において他のポリアミド成形体と熱融着させるときは、第1面のみに紫外線を照射して、第1面および第2面の両面において他のポリアミド成形体と熱融着させるときは、第1面と第2面の両方に紫外線を照射する。
なお、4つの側面の一部または全部において他のポリアミド成形体と熱融着させるときは、4つの側面の一部または全部に紫外線を照射する。
【0017】
図1(a)は、ポリアミド成形体10の第1面10aと第2面10bの両方に紫外線を照射する実施形態である。なお、次工程にて熱融着対象となるポリアミド成形体11、12には紫外線照射はしていない。
図2(a)は、ポリアミド成形体10の第1面10aと第2面10bの両方に紫外線を照射し、次工程にて熱融着対象となるポリアミド成形体11の第1面11aのみに紫外線を照射し、次工程にて熱融着対象となるポリアミド成形体12の第1面12aのみに紫外線を照射している実施形態である。
【0018】
紫外線照射工程で照射する紫外線は、波長250〜260nmの紫外線を含むものであればよい。
紫外線照射工程は、
第1紫外線照射工程:オゾンを含む雰囲気中にて、ポリアミド成形体に波長250〜260nmの紫外線を照射する工程と、
第2紫外線照射工程:酸素を含み、オゾンを含まない雰囲気中にて、ポリアミド成形体に波長180〜190nmおよび波長250〜260nmの紫外線を照射する工程のいずれか一つの工程を実施することが好ましい。
【0019】
第1紫外線照射工程におけるオゾンを含む雰囲気は、オゾンのみからなる雰囲気、オゾン濃度が高められた空気雰囲気、オゾン濃度が高められた酸素雰囲気などから選択することができる。
ここで「オゾン濃度が高められた」とは、大気中よりもオゾン濃度が高められていることを意味する。例えば、大気中のオゾン濃度の10倍以上の濃度である。
第1紫外線照射工程では、オゾンを分解して活性酸素を生成させることができる波長250〜260nm(特に254nm)の紫外線を照射する。
【0020】
第2紫外線照射工程における酸素を含み、オゾンを含まない雰囲気は、大気雰囲気でよいが、大気雰囲気よりも酸素濃度が高められた雰囲気にすることもできる。なお、大気中にもオゾンが含まれるがごく微量であるため、本発明では無視できる程度である。
第2紫外線照射工程では、酸素を解離してオゾンを生成させる波長180〜190nm(特に波長185nm)の紫外線と、オゾンを分解して活性酸素を生成させる波長250〜260nm(特に254nm)の紫外線を照射する。
【0021】
ポリアミド成形体に紫外線を照射するときは、次の3つの実施形態のいずれかで実施することができる。
(I)ポリアミド成形体を固定した状態で紫外線光源を移動させながら照射する方法。
(II)紫外線光源を固定した状態でポリアミド成形体を移動させながら照射する方法。
(III)ポリアミド成形体と紫外線光源を互いに異なる方向に移動させながら照射する方法。
【0022】
ポリアミド成形体に紫外線を照射するときの波長を除いた紫外線照射条件は、例えば次のようにすることができる。
消費電力:50〜500W
照射距離(垂直距離):0.1〜10cm
照射時間:0.1〜120分
照射距離は、照射面に対して垂直方向の距離である。照射条件は、要求される接合強度や処理速度に応じて、さらに樹脂劣化も考慮して最適化することができる。場合によっては、環境温度を上げることで、接合強度や処理速度が向上されるようにすることもできる。
【0023】
次の第2工程は、ポリアミド成形体の紫外線照射面とポリアミド成形体の紫外線の非照射面を熱融着させるか、またはポリアミド成形体の紫外線照射面同士を熱融着させる工程である。
熱融着の方法としては、熱プレス方法などを使用することができる。
【0024】
熱プレス方法を使用するときは、
図1(b)または
図2(b)に示すようにポリアミド成形体を組み合わせて熱プレスすることができる。
図1(b)では、ポリアミド成形体10の紫外線照射面10aとポリアミド成形体11の紫外線の非照射面11aを合わせ、ポリアミド成形体10の紫外線照射面10bとポリアミド成形体12の紫外線の非照射面12aを合わせて積層した状態で、いずれか一方向または両方向から熱プレスする。
図2(b)では、ポリアミド成形体10の紫外線照射面10aとポリアミド成形体11の紫外線照射面11aを合わせ、ポリアミド成形体10の紫外線照射面10bとポリアミド成形体12の紫外線照射面12aを合わせて積層した状態で、いずれか一方または両方向から熱プレスする。
図1(b)および
図2(b)において、ポリアミド成形体10とポリアミド成形体11またはポリアミド成形体12の二層からなる複合体にすることもできる。
図1および
図2においては、さらに複数のポリアミド成形体を使用することで四層以上からなる多層複合成形体にすることもできる。
四層以上からなる多層複合成形体にするときは、例えば、PA−1/PA−2/PA−1/PA−2/PA−1、PA−1/PA−2/PA−2/PA−2/PA−1のような積層順序の複合体にすることができる。PA−1とPA−2は、ポリアミドの仮定の種類を示すものである。
【0025】
熱プレスの条件は、
図1(b)および
図2(b)に示す三層形態(または四層以上の多層形態)の複合体の場合には、中間層のポリアミド成形体10の融点よりも高い温度で実施することが好ましい。
また、例えばポリアミド成形体10とポリアミド成形体11からなる二層形態の複合体の場合には、ポリアミド成形体11側から熱プレスするとき、ポリアミド成形体10の融点よりも高い温度で実施することが好ましい。
熱プレスの圧力および時間は、ポリアミド成形体同士が密着できる程度であればよい。
【0026】
ポリアミド成形体を組み合わせるときは、ポリアミドが有している物理的性質や化学的性質を考慮して組み合わせることが好ましい。
例えば、吸水性と剛性が高いポリアミド6の成形体を内側にして、両側から吸水性と剛性が低いポリアミド12の成形体を接着して複合体を製造することができる。
【0027】
本発明の製造方法で得られた複合体は、前記複合体を構成する複数のポリアミド成形体間の接着強度が非常に高くなっている。
このように接着強度が高いという効果は、紫外線照射工程に起因するものである。
【0028】
第1紫外線照射工程では、オゾンを分解して活性酸素を生成させることができる波長250〜260nm(特に波長254nm)の紫外線を照射するため、生成した活性酸素によりカルボキシル基が生成し、カルボキシル基濃度が高められたこと、
複数のポリアミド成形体同士を熱融着させたとき、ポリアミドの分子鎖末端のアミノ基と増加されたカルボキシル基により新たなアミド結合が形成されたことによるものと考えられる。
【0029】
第2紫外線照射工程では、酸素を解離してオゾンを生成させる波長180〜190nm(特に波長185nm)の紫外線と、オゾンを分解して活性酸素を生成させる波長250〜260nm(特に波長254nm)の紫外線を照射するため、オゾンを生成させながら、生成したオゾンを分解して活性酸素を生成させることになり、生成した活性酸素によりカルボキシル基が生成し、カルボキシル基濃度が高められたこと、
複数のポリアミド成形体同士を熱融着させたとき、ポリアミドの分子鎖末端のアミノ基と増加されたカルボキシル基により新たなアミド結合が形成されたことによるものと考えられる。
【実施例】
【0030】
実施例1〜4、比較例1
図2(a)、(b)に示す手順でポリアミド複合体を製造した。
ポリアミド6(UBEナイロン1013B,宇部興産(株)製)のシート(60×60mm、厚さ1.2mm)2枚と、ポリアミド12(ダイアミドL1640,ダイセル・エボニック(株)製)のシート(60×60mm、厚さ0.6mm)を用意した。
【0031】
<紫外線照射工程>
図2(a)に示すように、実施例1〜4の1枚のポリアミド12(PA12)のシートの両面の全面と2枚のポリアミド6(PA6)のシートの片面の全面に対して、下記の条件で紫外線を照射した。紫外線の照射には下記の機器を使用した。
機器:PHOTO SURFACE PROCESSOR UVR-200G-SSII(セン特殊光源(株))
POWER SUPPLY UVE-200-1G(セン特殊光源(株))
光源:(石英型低圧水銀ランプ EUV200)(セン特殊光源(株)),消費電力:110W
照射距離(垂直距離):5.5cm
波長:185nmと254nm
照射時間:10分、20分、40分、60分
【0032】
比較例1の未照射(照射時間0分)と実施例
4の60分間照射後におけるPA6とPA12のIRチャートを
図3に示す。
図3から確認できるとおり、60分間照射後にカルボキシル基が増加しており、PA12のカルボキシル基の増加量の方が大きかった。
【0033】
<熱融着工程>
図2(b)に示すようにPA12のシートの両側をPA6のシートの紫外線照射面で挟んだ状態の三層の積層体にした。
その後、次の条件で熱プレスして、厚さ3mmのポリアミド複合体(ポリアミド積層体)を得た。但し、剥離試験のため、予め中間層になるPA12のシートの一端部側の長さを少し短くして、両側のPAシートの対向面のそれぞれにPTFEテープ(長さ13mm)を貼り付けた状態で熱プレスした。
熱プレス温度:210℃
熱プレス時間:10分
熱プレス圧力:ポリアミド複合体の厚みが3mmを維持できる程度の圧力
【0034】
得られた厚さ3mmのポリアミド複合体を60×9mmの寸法で切り出し、一端部側の2枚のPTFEテープを取り除いたものを試験用複合体シートとして使用した。なお、PTFEテープを貼り付けていた部分は、両側のPA6シートと中間のPA12シートが融着されておらず、分離した状態になっていた。試験用複合シートを使用して、次に示す方法により剥離試験を行った。
試験機:島津製作所製のAUTOGRAPH AGS−J
図4に示すとおり、試験用複合体シート10の一端部10bを万力20にて固定した。
次に、試験用複合体シート10の固定していない端部10aにおいて、いずれか一方のPA6シートと中間層のPA12シートの間に前記試験機のくさび15(
図4(b))を押し当てた状態で負荷(5mm/min)を掛けて行き、剥離に要した荷重を測定した。なお、くさび15の先端部の角度αは約30
度であった。
【0035】
結果を
図5の「荷重−変位線図」(紫外線照射時間10分、60分)と、「荷重−変位線図」の荷重平均値(3回試験したときの平均値)を表1(紫外線未照射、紫外線照射時間10分、20分、40分、60分)に示す。
表1の紫外線照射時間20分と40分は、
図5には示していないが同じ方法で測定したデータを使用している。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例5、6
実施例5はPA12(品番:L1640,低粘度グレード,ダイセル・エボニック(株)製)のシートを使用した。
実施例6はPA12(品番:L1940,中粘度一般グレード,ダイセル・エボニック(株)製)のシートを使用した。
実施例5、6のPA12のシートに対して、実施例1と同条件にて紫外線を60分間照射した。紫外線照射後のシートのIRチャートを
図6に示す。いずれのシートもカルボキシル基が増加したことを確認した。
【0038】
実施例7、8
実施例7、8は、実施例1と同じPA12シートとPA6シートを使用して、実施例
3と同様にして紫外線照射工程と熱融着工程を実施して、ポリアミド複合体を得た。
但し、実施例7は、PA12のシートの両面に紫外線照射をしたが、2枚のPA6のシートには紫外線を照射しなかった。
また、実施例8は、2枚のPA6のシートのそれぞれの片面に紫外線照射をしたが、PA12のシートには紫外線を照射しなかった。
ポリアミド複合体の剥離強度を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
実施例9〜11
実施例9は、ポリアミド(PA)MXD(Reny6002〔登録商標〕,三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)のシートを使用した。
実施例10は、ポリアミド(PA)66(品番:ZytelFE3218,Dupont社製)のシートを使用した。
実施例11は、ポリアミド(PA)612(品番:ベスタミドD16,ダイセル・エボニック(株)製)のシートを使用した。
実施例9〜11のシートに対して、実施例1と同条件にて紫外線を60分間照射した。紫外線照射後のシートのIRチャートを
図7に示す。なお、PAMXDは「Reny」と表示している。いずれのシートもカルボキシル基が増加したことを確認した。
【0041】
実施例12〜15
実施例1〜4で使用したPA12のシート、PA6のシート、実施例9〜11で使用したPAMXD、PA66、PA612のシートを使用した。
実施例1〜4と同様にして紫外線照射工程と熱融着工程を実施して、実施例12〜15のポリアミド複合体を得た。比較例2〜5は、紫外線照射をせずに熱融着のみで製造した。これらの積層体の剥離試験の結果を表3に示す。
【0042】
【表3】