【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業マッチングプランナープログラム「企業ニーズ解決試験」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載の有機絶縁性薄膜の製造方法であって、少なくとも表面が導電性を有する被電着体上に電着法により前記イオン性樹脂と架橋剤とを含む前記有機絶縁性薄膜の前駆体を析出させる工程と、前記の前駆体を熱処理する工程とを含む、有機絶縁性薄膜の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の有機絶縁性薄膜を用いたキャパシタの構造の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの構造の一例を示す模式断面図である。
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図3A】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
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図3B】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
【
図3C】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
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図3D】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
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図3E】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
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図3F】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
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図3G】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
【
図3H】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
【
図3I】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
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図3J】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
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図3K】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
【
図3L】本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの製造工程の一例を示す模式断面図である。
【
図4】本発明の一実施例であり、印加電圧と本発明の有機絶縁性薄膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施例であり、本発明の有機絶縁性薄膜の誘電率と周波数との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施例であり、印加電圧とリーク電流密度との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の一実施例であり、本発明の有機絶縁性薄膜の断面プロファイルを示す図である。
【
図9】本発明の一実施例であり、本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタアレイの構造を示す写真である。
【
図10】本発明の一実施例であり、本発明の有機絶縁性薄膜を用いた有機トランジスタの伝達特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面等を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の有機絶縁性薄膜は、イオン性樹脂の架橋体からなり、厚さが5nm以上1μm未満であり、電界強度2.5MV/cmにおけるリーク電流密度が10
−8A/cm
2以下である、ことを特徴とするものである。
【0015】
本発明で用いるイオン性樹脂とは、水溶液中で少なくとも部分的に解離して、正または負に荷電するイオン性基を有する樹脂であり、正に荷電するカチオン性基を含む樹脂(以下、カチオン性樹脂という)、または負に荷電するアニオン性基を含む樹脂(以下、アニオン性樹脂という)である。
【0016】
また、イオン性樹脂の架橋体とは、アニオン性樹脂またはカチオン性樹脂の反応性基と架橋剤との間の反応により生成する化学結合を介して架橋された構造体である。
【0017】
アニオン性樹脂は、少なくとも、アニオン性基としてのカルボキシル基を含み、さらに架橋剤と反応する反応性基としての水酸基を含む樹脂である。具体例としては、(メタ)アクリル酸系樹脂やマレイン酸系樹脂等のカルボキシル基含有ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、またはそれらの複数の混合物を挙げることができる。好ましくは、カルボキシル基含有ビニル系樹脂である。
【0018】
カルボキシル基含有ビニル系樹脂としては、カルボキシル基含有ビニル単量体と水酸基含有ビニル単量体との共重合体が好ましい。カルボキシル基含有ビニル単量体としては、アクリル酸、α−クロロアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸等を1種または複数種組み合わせて用いることができる。好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸である。また、水酸基含有ビニル単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート等を1種または複数種組み合わせて用いることができる。好ましくは、2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。カルボキシル基含有ビニル系樹脂は、酸価が15〜160、水酸価が20〜250の範囲となるように、上記のカルボキシル基含有ビニル単量体と上記の水酸基含有ビニル単量体との共重合させたものを用いることができる。また、カルボキシル基含有ビニル系樹脂は、必要に応じて、カルボキシル基含有ビニル単量体と水酸基含有ビニル単量体以外に、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート、スチレン、α−アルキルスチレン、α−クロロスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、酢酸ビニル等の単量体を1種以上含んでもよい。
【0019】
一方、カチオン性樹脂は、少なくとも、カチオン性基として第1級アミノ基、第2級アミノ基、および第3級アミノ基等のアミノ基、または第4級アンモニウム塩基を含み、さらに架橋剤成分と反応する反応性基としての水酸基を含む樹脂である。具体例としては、カチオン性(メタ)アクリル系樹脂等のアミノ基含有ビニル系樹脂、アミン付加エポキシ樹脂等を挙げることができる。好ましくは、カチオン性(メタ)アクリル系樹脂である。
【0020】
アミノ基含有ビニル系樹脂としては、アミノ基含有ビニル単量体と水酸基含有ビニル単量体との共重合体が好ましい。アミノ基含有ビニル単量体としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等を1種または複数種組み合わせて用いることができる。好ましくは、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートまたはN,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートである。また、水酸基含有ビニル単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート等を1種または複数種組み合わせて用いることができる。好ましくは、2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。また、アミノ基含有ビニル系樹脂は、必要に応じて、アミノ基含有ビニル単量体と水酸基含有ビニル単量体以外に、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート、スチレン、α−アルキルスチレン、α−クロロスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、酢酸ビニル等の単量体を1種以上含んでもよい。
【0021】
また、アミン付加エポキシ樹脂は、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ポリアミン等のアミン化合物をエポキシ樹脂と反応させて、カチオン性基をエポキシ樹脂に導入したものである。第1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、モノエタノールアミン、n−プロパノールアミン、イソプロパノールアミン等を挙げることができる。第2級アミンとしては、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジn−プロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン等を挙げることができる。第3級アミンとしては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等を挙げることができる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等を挙げることができる。好ましいアミン化合物は、第2級アミンまたは第3級アミンである。
【0022】
アニオン性樹脂またはカチオン性樹脂に用いる架橋剤としては、アニオン性樹脂またはカチオン性樹脂が含む水酸基と反応可能な反応性基を複数含む化合物を用いることができる。具体的には、アミノ樹脂やブロックイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0023】
アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。アミノ樹脂のアミノ基とアニオン性樹脂に含まれる水酸基との間の縮合反応により、架橋反応が進行するからである。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂が好ましい。メラミン樹脂としては、メラミンをホルムアルデヒドでメチロール化したメチロールメラミン樹脂や、そのメチロール基をモノアルコールでアルコキシ化したアルコキシメチロールメラミン樹脂や、イミノ基を有する上記のメチロールメラミン樹脂又は上記のアルコキシメチロールメラミン樹脂を挙げることができる。上記のアルコキシ化において用いるモノアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール等の1種または複数種を挙げることができる。好ましいメラミン樹脂としては、メトキシメチロールメラミン樹脂、ブトキシメチロールメラミン樹脂、メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂、イミノ基含有メトキシメチロールメラミン樹脂、およびイミノ基含有ブトキシメチロールメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0024】
また、ブロックイソシアネート化合物とは、ブロック剤により、遊離のイソシアネート基が封鎖されたイソシアネート化合物である。ブロックイソシアネート化合物は、加熱により、ブロック剤が解離することで、イソシアネート基と、アニオン性樹脂の水酸基とが反応して架橋反応が進行する。この時、イソシアネート基と水酸基との反応により、ウレタン結合が形成される。イソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4'−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の芳香族、脂肪族又は脂環族イソシアネート化合物や、これらのビウレット体、これらのイソシアヌレート体、トリメチロールプロパンと上記のイソシアネート化合物との反応物であるアダクト体等を挙げることができる。好ましいイソシアネート化合物は、脂肪族又は脂環族イソシアネート化合物と、これらのビウレット体、これらのイソシアヌレート体、トリメチロールプロパンとこれらのイソシアネート化合物との反応物であるアダクト体である。また、好ましい脂肪族又は脂環族イソシアネート化合物は、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、またはイソホロンジイソシアネートである。
【0025】
また、ブロックイソシアネート化合物に用いるブロック剤としては、例えば、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム等のラクタム系化合物や、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物、フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物、3,5−ジメチルピラゾール、3,5−ジイソプロピルピラゾール等のピラゾール系化合物、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン化合物、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等の脂肪族アルコール類、フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系化合物を挙げることができる。好ましいブロック剤は、ラクタム系化合物、オキシム系化合物、またはピラゾール系化合物、より好ましくはε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム、または3,5−ジメチルピラゾールである。
【0026】
本発明において、より高い絶縁性を確保する観点から、イオン性樹脂と架橋剤の好ましい組み合わせとしては、より優れた絶縁性を確保する観点から、アニオン電着の場合、(メタ)アクリル酸系樹脂とメラミン樹脂である。(メタ)アクリル酸系樹脂は、カルボキシル基含有ビニル単量体としてアクリル酸またはメタクリル酸を含むものであり、水酸基含有ビニル単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。メラミン樹脂としては、メトキシメチロールメラミン樹脂、ブトキシメチロールメラミン樹脂、メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂、イミノ基含有メトキシメチロールメラミン樹脂、イミノ基含有ブトキシメチロールメラミン樹脂、およびイミノ基含有メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種、さらに好ましくはメトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂である。また、カチオン電着の場合は、より優れた絶縁性を確保する観点から、カチオン性(メタ)アクリル系樹脂とメラミン樹脂である。カチオン性(メタ)アクリル系樹脂は、アミノ基含有ビニル単量体として、好ましくはN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートまたはN,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートを含み、水酸基含有ビニル単量体としては、好ましくは2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートを含む。メラミン樹脂としては、メトキシメチロールメラミン樹脂、ブトキシメチロールメラミン樹脂、メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂、イミノ基含有メトキシメチロールメラミン樹脂、イミノ基含有ブトキシメチロールメラミン樹脂、およびイミノ基含有メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種、さらに好ましくはイミノ基含有メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂である。
【0027】
(製造方法)
次に、本発明の有機絶縁性薄膜の製造方法について説明する。本発明の有機絶縁性薄膜の製造方法は、電着法を用いる製造方法であって、少なくとも表面が導電性を有する被電着体上に電着法により前記イオン性樹脂と架橋剤とを含む前記有機絶縁性薄膜の前駆体を析出させる工程(以下、電着工程という)と、前記の前駆体を熱処理する工程(以下、熱処理工程という)とを含むものである。
【0028】
電着工程では、被電着体である作用極と対極とを、電着槽内の電着液に浸漬し、所定時間、電圧を印加することで、電着液中のイオン性樹脂と架橋剤とを作用極の表面に析出させる。なお、アニオン電着の場合には作用極は陽極となり、カチオン電着の場合には作用極は陰極となる。
【0029】
電着液は、水系溶媒中に、イオン性樹脂と架橋剤を溶解またはコロイド状に分散させたものである。水系溶媒は、水を主溶媒として、イソプロピルアルコール、ノルマルブタノール、イソブタノール、2−エチルへキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類や、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類またはそれらの混合物を0.1重量部から10重量部含むことができる。
【0030】
アニオン電着を行う場合には、上記のアニオン性樹脂を用いる。また、カチオン電着を行う場合、上記のカチオン性樹脂を用いる。また、架橋剤には、上記のアミノ樹脂やブロックイソシアネート化合物を用いることができる。電着液中のイオン性樹脂と架橋剤の配合割合は、イオン性樹脂と架橋剤の全固形分に対して、イオン性樹脂は、40〜90重量%、好ましくは50〜80重量%である。また、架橋剤は、60〜10重量%、好ましくは50〜20重量%である。
【0031】
上記のアニオン性樹脂を水系溶媒中に溶解または分散させるためには、アニオン性樹脂のアニオン性基であるカルボキシル基の少なくとも一部を塩基で中和する必要がある。その塩基としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、トリ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、などのアルカノールアミン類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのアルキレンポリアミン類、エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン類、ピペラジン、モルホリン、ピラジン、ピリジン等の有機アミンや水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基を用いることができる。これらの塩基は、カルボキシル基に対して、中和率が30〜90%となるように添加すればよい。
【0032】
また、カチオン性樹脂の場合、カチオン性基の中和には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、2−エチルブタン酸、オクチル酸等の有機酸や、硫酸、リン酸等の無機酸を用いることができる。好ましくは、酢酸または乳酸である。これらの酸は、カチオン性基に対して、中和率が30〜90%となるように添加すればよい。
【0033】
アニオン性樹脂およびカチオン性樹脂の分子量は、析出後の樹脂成分の流動を防止し、かつ電着液の分散安定性を向上させる観点から、10,000〜100,000、好ましくは15,000〜60,000の重量平均分子量を有することが好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーション(GPC)法による測定から得られる、ポリスチレン換算の分子量である。
【0034】
なお、必要に応じて、粘度調整剤、分散剤、析出物の表面平滑性を保持するための表面調整剤等の添加剤、架橋反応を促進させるための硬化触媒等を、電着液に加えてもよい。
【0035】
アニオン電着用の電着液としては、上述したように、イオン性樹脂として(メタ)アクリル酸系樹脂を含み、架橋剤としてメラミン樹脂を含むものが好ましい。このような電着液の例として、ハニー化成社から入手できる電着液SR−A−303、SR−A−304、SR−A−309等を挙げることができる。電着液SR−A−303は、アニオン性樹脂が、カルボキシル基含有ビニル単量体と水酸基含有ビニル単量体との共重合体である(メタ)アクリル酸系樹脂であり、メラミン樹脂が、メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂である。アニオン性樹脂とメラミン樹脂の濃度は、電着液中の全固形分に対し、それぞれ、70重量%、30重量%である。なお、SR−A−304は、メラミン樹脂としてイミノ基含有メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂を用いた点が異なり、SR−A−309は、SR−A−303の塩基による中和率が80%に対して中和率が30%である点が異なる。
【0036】
また、カチオン電着用の電着液としては、上述したように、イオン性樹脂としてカチオン性アクリル樹脂を含み、架橋剤としてメラミン樹脂を含むものが好ましい。このような電着液の例として、ハニー化成社から入手できる電着液SR−C−200を挙げることができる。電着液SR−C−200は、カチオン性樹脂が、アミノ基含有ビニル単量体と水酸基含有ビニル単量体との共重合体であるカチオン性アクリル樹脂であり、メラミン樹脂が、イミノ基含有メトキシブトキシ混合メチロールメラミン樹脂である。カチオン性樹脂とメラミン樹脂の濃度は、電着液中の全固形分に対し、それぞれ、70重量%、30重量%である。
【0037】
電着時の電着液の温度は、0℃〜28℃、好ましくは5℃〜28℃、より好ましくは10℃〜26℃である。温度を0℃〜28℃の範囲内に保持することにより、有機絶縁性薄膜の前駆体の粘度低下を防止して、有機絶縁性薄膜の前駆体の電着液中への再溶解または再分散を抑制することができる。
【0038】
電着時の印加電圧と印加時間は、被着体の大きさや形状、対極との間の距離(電極間距離)、電着液の種類等に応じて適宜設定することができるが、nmオーダーの膜厚の有機絶縁性薄膜を得るという観点から、アニオン電着の場合、電着時の印加電圧は1〜100V、より好ましくは1〜50V、さらに好ましくは1〜10Vであり、印加時間は1〜900秒、好ましくは1〜200秒である。また、カチオン電着の場合、電着時の印加電圧は1〜50V、好ましくは1〜10Vであり、印加時間は1〜900秒、好ましくは1〜200秒である。
【0039】
電着終了後、有機絶縁性薄膜の前駆体を含む被電着体を水洗し、熱処理工程に供する。熱処理工程は、大気雰囲気下、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜190℃で、1〜60分間、加熱する。この熱処理により、架橋反応が進行して、有機絶縁性薄膜が生成する。この有機絶縁性薄膜の膜厚は、5nm以上1μm未満である。
【0040】
本発明の有機絶縁性薄膜は電着法を用いて作製することで、スピンコート法等の他のウェットプロセスを用いた場合に比べ、より薄膜化が可能となるとともに、表面の平滑性や付き回り性に優れた薄膜を作製することが可能となる。さらに、本発明の有機絶縁性薄膜は、優れた絶縁性を有しており、室温(20±5℃)で、電界強度2.5MV/cmにおけるリーク電流密度が1×10
−8A/cm
2以下、好ましくは3×10
−9A/cm
2以下である。なお、「付き回り性が優れている」とは、被電着体の各部位の膜厚差が少なく、膜厚が均一であることをいう。
【0041】
以上の通り、本発明の有機絶縁性薄膜は、高い絶縁性を有しているので、電子デバイスにおける絶縁膜として使用できる。例えば、以下に説明するように、キャパシタの絶縁膜、有機トランジスタのゲート絶縁膜、LSIの層間絶縁膜等に用いることができる。
【0042】
(キャパシタ)
本発明の有機絶縁性薄膜をキャパシタの絶縁膜として用いることができる。
図1は、そのキャパシタの構造の一例を示す模式断面図である。キャパシタ1は、絶縁性基板2と、絶縁性基板2上に形成された下部電極3と、下部電極3上に形成された絶縁膜4と、絶縁膜4上に形成された一対の上部電極5,6を有している。上部電極と下部電極には、金、銀、銅、アルミ等の金属を用いることができる。
【0043】
本発明の有機絶縁性薄膜は、電界強度2.5MV/cmにおけるリーク電流密度が10
−8A/cm
2以下であり、nmオーダーまで膜厚を薄くすることが可能である。静電容量は膜厚に反比例することから、キャパシタの絶縁膜に用いた場合でも、十分な絶縁性を確保しながら、高い静電容量を得ることが可能となる。
【0044】
本発明のキャパシタは、例えば、電子回路の中にトランジスタと同じように作製されるオンチップコンデンサの絶縁膜として用いることができ、メモリ回路、ディスプレイ用マトリクス、静電容量型センサアレイ等に利用できる。特に材料のもつ透過率の高さからディスプレイ用の容量素子として適している。
【0045】
(有機トランジスタ)
本発明の有機絶縁性薄膜を有機トランジスタのゲート絶縁膜として用いることができる。有機トランジスタの構造としては、基板上に、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極の3電極と、ゲート絶縁層と有機半導体層とが少なくとも形成されている薄膜トランジスタであれば、特にその構造は限定されない。
図2は、本発明の有機絶縁性薄膜をゲート絶縁膜として用いた有機トランジスタの構造の一例を示す模式断面図である。有機トランジスタ10は、基板11と、基板11上に形成されたゲート電極12と、ゲート電極12上に形成されたゲート絶縁膜13と、ゲート絶縁膜13上に形成された有機半導体層14と、有機半導体層14上に離間して形成されたソース電極15とドレイン電極16を有している。有機半導体層14がチャンネル領域を形成しており、ゲート電極12に印加される電圧により、ソース電極15とドレイン電極16の間を流れる電流を制御することができる。本発明の有機絶縁性薄膜は、電界強度2.5MV/cmにおけるリーク電流密度が10
−8A/cm
2以下である。そのため、ゲート絶縁膜に用いた場合、薄くても十分な絶縁性を確保することが可能となる。さらに、スピンコート法等の塗布法で形成した場合よりも膜厚を薄くできることから、ゲート容量を大きくすることが可能である。
【0046】
以下、本発明の有機トランジスタの製造方法について
図3A〜
図3Lを参照して説明する。
【0047】
(ゲート電極形成工程)
フォトリソグラフィー法およびリフトオフプロセスを用い、基板11上に金属膜を成膜し、さらにパターニングすることで、ゲート電極12を形成する(
図3A)。基板には、ガラス、プラスチックフィルム等を用いることができる。ゲート電極に用いる導電材料には、金、銀、白金、ニッケル、クロム、アルミニウム等の金属材料や、銀ペースト等の導電性ペーストを用いることができる。ゲート電極は、金属膜を蒸着し、パターニングする方法だけでなく、印刷法で形成する方法を用いることもできる。なお、後述のソース電極とドレイン電極にも、ゲート電極の場合と同様の導電材料を用いることができる。
【0048】
(ゲート絶縁膜形成工程)
ゲート電極を被電着体として、電着と熱処理を行い、電着膜からなるゲート絶縁膜13を形成する(
図3B)。電着は、上述の電着液と電着方法を用いて行うことができる。
【0049】
(有機半導体層形成工程)
ゲート絶縁膜13の全面を覆うように有機半導体層14を形成する(
図3C)。有機半導体としては公知の材料を用いることができる。例えば、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ルブレン等のアセン誘導体や、ジナフト[2,3-b:2´,3´-f]チエノ[3,2-b]チオフェン等のチエノアセン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチェニレン誘導体等を挙げることができる。有機半導体層は、真空蒸着法等の気相法や、スピンコート法等の液相法を用いて形成することができる。
【0050】
(ソース電極およびドレイン電極形成工程)
有機半導体層は基板全面に形成されているが、トランジスタの素子分離を行うために、ゲート絶縁膜上のみに有機半導体層を残すパターニングを行う必要がある。そのパターニングを行って、ソース電極およびドレイン電極を形成する(
図3D〜
図3L)。具体的には、まず、有機半導体層14の保護膜となるAu膜17を真空蒸着法により製膜する(
図3D)。次に、フォトレジスト18を塗布し、フォトリソグラフィーを行う(
図3E)。次に、Au膜17のウエットエッチングと、有機半導体層14の酸素アッシングを行う(
図3F、
図3G)。次に、フォトレジスト18を除去する(
図3H)。次に、ソース電極用とドレイン電極用のAu膜19を真空蒸着法により製膜する(
図3I)。次に、フォトレジスト20を塗布し、フォトリソグラフィーを行う(
図3J)。次に、Au膜19のウエットエッチングを行う(
図3K)。次に、フォトレジスト20を除去して、有機トランジスタ10を得る(
図3L)。
【0051】
なお、上記の製造方法は一例であり、電着法と熱処理を用いてゲート絶縁膜を形成する以外は、有機トランジスタの製造に用いられる公知の種々の方法を用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(電着膜の作製I)
十分に洗浄したガラス基板(17mm×14mm)に厚さ100nmのAl膜を電子線蒸着により成膜し、これを陽極とした。次に、この陽極とPtからなる対極を、電着槽中の電着液(ハニー化成社製SR−A−303)の中に浸漬した。陽極と対極との間に5〜40Vの範囲の電圧を印加して、アニオン電着を行い、陽極のAl膜の表面に電着膜を生成させた。電着液の温度は23℃、通電時間は100秒間とし、電源にはケースレー社製2450ソースメータを用いた。純水により電着膜を流水洗浄した後、熱処理(180℃、30分)を行って架橋させ、有機絶縁性膜を得た。印加電圧のみを変化させた以外は同様の条件で電着と熱処理を行い、膜厚の異なる複数の有機絶縁性膜を得た。
【0054】
得られた有機絶縁性膜の膜厚を、触針式段差計(ケーエルエー・テンコール社製P−15)を用いて測定した。
図4は、印加電圧と有機絶縁性膜の膜厚との関係を示すグラフである。10V以下の印加電圧で、サブミクロンの膜厚を有する有機絶縁性膜を作製できることを確認した。
【0055】
(キャパシタの作製)
上記の電着膜作製Iで作製した厚さ73nmの有機絶縁性膜に対し、上部電極として、メタルマスクを用いた電子線蒸着によって厚さ100nmのAl膜を形成して、
図1と同様の構造を有するキャパシタを作製した。上部電極の形状は、平面視で直径1mmと直径2mmの円形である。
【0056】
(キャパシタの電気特性)
1.誘電率
作製したキャパシタの電極間のインピーダンスを、日置電機社製ケミカルインピーダンスメータ3532−80を用い、室温(23℃)において、周波数範囲100Hz〜1MHzで測定した。有機絶縁性膜の誘電率の周波数依存性(誘電分散)を
図5に示す。100Hz〜1MHzの周波数範囲で誘電率は3.2〜3.5の範囲であり、誘電分散は比較的小さく、広い周波数域で絶縁性に優れていることを確認した。
【0057】
2.絶縁性
次に、上部電極と下部電極との間に、0〜200Vの電圧を印加し、リーク電流密度を測定した。結果を
図6に示す。電界強度が2.5MV/cm程度まで絶縁破壊を起こさず、高い絶縁破壊電界強度を有していた。またリーク電流密度も10
−9A/cm
2以下と小さく絶縁膜として優れた特性を示していた。
【0058】
また、比較として、絶縁層にスピンコート法で形成した樹脂膜を用いたキャパシタを作製した。樹脂膜には、シグマアルドリッチジャパン合同社製のポリメタクリル酸メチル(PMMA)を用いた。膜厚は56μmである。電界強度が2.5MV/cmにおけるリーク電流密度を測定したところ、1μA/cm
2以上であった。
【0059】
(電着膜の作製II)
フォトリソグラフィー法およびリフトオフプロセスを用い、ガラス基板上に電子線蒸着によって厚さが60nmで幅が30μmのAl膜を形成した。これを陽極として用い、電着膜の作製Iの場合と同様の条件で、電着と熱処理を行い、有機絶縁性薄膜を得た。
【0060】
得られた有機絶縁性膜の膜厚を、上記の触針式段差計を用いて測定した。
図7に、得られた有機絶縁性膜の断面プロファイルを示す。さらに、
図7におけるAl膜の段部の部分拡大図を
図8に示す。Al膜の側壁部分の有機絶縁性膜の厚さがほぼ均一であり、優れた付き回り性を有していた。なお、図中、「Polymer」は析出した電着膜を示し、「Al」はAl膜を示す。
【0061】
(有機トランジスタの作製)
フォトリソグラフィー法およびリフトオフプロセスを用い、大きさが30mm×25mmのガラス基板上に真空蒸着法によって成膜したAl膜をパターニングすることで、ゲート電極を作製した。このゲート電極を被電着体として用い、電着膜の作製Iの場合と同様の条件で、アニオン電着と熱処理を行い、有機絶縁性薄膜からなるゲート絶縁膜(膜厚40nm)を得た。次に、有機半導体層としてジナフト[2,3-b:2´,3´-f]チエノ[3,2-b]チオフェン(DNTT)を真空蒸着法により製膜した。ここで、有機半導体層は基板全面に形成されているが、トランジスタの素子分離を行うために、ゲート絶縁膜上のみに有機半導体層を残すパターニングを行う必要がある。そのため、有機半導体層の保護膜となるAuを真空蒸着法により製膜した後、フッ素系フォトフォトレジストを用いたフォトリソグラフィーとこれに続くAuのウェットエッチおよび有機半導体層の酸素アッシングを行った。フッ素系フォトレジストにはOrthogonal社製OScOR2312を、Auのウェットエッチには関東化学社製AURUM S-50790をそれぞれ用いた。その後、同様に、フッ素系フォトレジストを用いたフォトリソグラフィー法およびウェットエッチングプロセスを用い、有機半導体層上に真空蒸着法によって製膜したAu膜をパターニングすることで、チャネル長が10μm、チャネル幅が200μmとなるように、ソース電極とドレイン電極を作製した。これにより、有機トランジスタアレイ(50×18)を作製した。
【0062】
図9は、作製した有機トランジスタアレイの写真を示し、
図10のグラフは、得られた有機トランジスタの伝達特性を示す。伝達特性の測定は、ドレイン電圧V
Dを−2Vとし、ゲート電圧V
Gを−2Vから1Vまで走査し、ゲート電圧V
G−ドレイン電流I
Dを測定することにより行った。また、(I
D)
1/2とゲート電圧V
Gの間のグラフにおいて、直線部分の延長線とV
G軸との交点から閾値電圧を求めた。
図10中、●印はドレイン電流I
Dを示し、■印はゲート電流I
Gを示し、▲印は(I
D)
1/2を示す。
【0063】
ゲート電流I
Gは数pA程度であり、膜厚の極めて薄い絶縁膜ながら、十分に絶縁性が確保できていることがわかった。また、閾値電圧は−1Vであり、低電圧での駆動が可能である。また、同様の有機トランジスタを合計886個作製したが、いずれもゲート電流I
Gは数百pA以下であり、高い歩留まりを示した。