特許第6810530号(P6810530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルペンの特許一覧

<>
  • 特許6810530-巻取装置 図000002
  • 特許6810530-巻取装置 図000003
  • 特許6810530-巻取装置 図000004
  • 特許6810530-巻取装置 図000005
  • 特許6810530-巻取装置 図000006
  • 特許6810530-巻取装置 図000007
  • 特許6810530-巻取装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810530
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】巻取装置
(51)【国際特許分類】
   A43C 11/00 20060101AFI20201221BHJP
   A43B 23/02 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   A43C11/00
   A43B23/02 104
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-75374(P2016-75374)
(22)【出願日】2016年4月4日
(65)【公開番号】特開2017-184964(P2017-184964A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】398022279
【氏名又は名称】株式会社アルペン
(74)【代理人】
【識別番号】100129698
【弁理士】
【氏名又は名称】武川 隆宣
(72)【発明者】
【氏名】河野 文義
【審査官】 石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−518731(JP,A)
【文献】 特開2015−000293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43C 11/00
A43B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に複数個のドラム側歯部を環状に配置して備えた紐巻取ドラムと、
当該紐巻取ドラムを回転可能に保持する筒状の収納部を備え、当該収納部の内周面に環状ギヤが形成されたベース部材と、
前記ドラム側歯部と噛合する複数個のダイヤル側歯部と、前記環状ギヤの内側から当該環状ギヤと係合する複数個のラチェット爪と、を備えたダイヤル部材と、
当該ダイヤル部材をその回転軸方向に沿って移動可能な状態で前記ベース部材に装着するための軸部材と、
前記ダイヤル部材の前記ダイヤル側歯部を前記紐巻取ドラムの前記ドラム側歯部と噛合した状態に維持するためのバネ部材と、
を備えた巻取装置であって、
前記ダイヤル部材は、前記各ラチェット爪の上側の本体部に空洞部を設け、さらに前記ラチェット爪の下方に突出するように前記ダイヤル側歯部を設けることで、前記ダイヤル側歯部と前記各ラチェット爪とを一体成形にて備えており、さらに、
前記ダイヤル部材は、その回転中心を中心として、互いに90度離間した位置にて前記ラチェット爪が計4個形成されており、当該ラチェット爪の形成位置から45度離れた位置に前記バネ部材を収納するバネ収納部が互いに180度離間した位置にて計2個形成されていることを特徴とする巻取装置。
【請求項2】
前記ダイヤル部材は、前記バネ部材を収納するバネ収納部を前記ラチェット爪の形成位置と重ならない内側位置に備えており、かつ、当該バネ収納部は前記ダイヤル部材の上面にて開口していることを特徴とする請求項1に記載の巻取装置。
【請求項3】
前記バネ部材は、略U字状に形成されており、その一端部が前記軸部材の側部にて軸支され、他端部が前記バネ収納部の内側面にて支持されており、前記ダイヤル部材がその回転軸方向に沿って移動すると、前記ダイヤル側歯部が前記ドラム側歯部から離脱した状態から噛合した状態となる間の位置において、圧縮方向が切り替わるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の巻取装置。
【請求項4】
前記軸部材は、円柱状に形成されており、略U字状に形成された前記バネ部材の一端部が当該軸部材の側部にて軸支されるものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紐を巻き取るための巻取装置に関するものであって、運動用の靴、ビジネスシューズ、子供用の靴など、各種の靴の靴紐を締め付けたり、鞄を閉じるための紐を締め付けたりするのに適した巻取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図6及び図7に示すように、靴Sの靴紐Wを締め付けるのに適した巻取装置として、ダイヤル(円盤状のつまみ)を回転することによって紐巻取ドラムに対して靴紐Wを巻き付けることができ、ダイヤルを引くことで、ダイヤルと紐巻取ドラムとの係合状態を解除して靴紐の締め付けをワンタッチで解除することができる靴紐巻取装置100が提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
上記特許文献1、2に記載されている靴紐巻取装置100においては、「上面に複数個のドラム側歯部111を環状に配置して備えた紐巻取ドラム101と、前記紐巻取ドラム101を回転可能に保持する筒状の収納部121を備え、当該収納部121の内周面に環状ギヤ122が形成されたベース部材102と、前記ドラム側歯部111と噛合する複数個のダイヤル側歯部131と、前記環状ギヤ122と係合する複数個のラチェット爪132と、を有する部材103と、円盤状のダイヤル部材104と、当該ダイヤル部材104をその回転軸方向に沿って移動可能な状態で前記ベース部材102に装着するための軸部材105と、前記ダイヤル側歯部131を前記ドラム側歯部111から離脱した状態から噛合した状態となるまで前記ダイヤル部材104を前記紐巻取ドラム101側へ付勢するバネ部材106」を備えている。
【0004】
そして、前記ダイヤル側歯部131とラチェット爪132を有する部材103と、前記ダイヤル部材104とは、部材103を構成する樹脂の一部を爪状に形成した部分103aの弾性変形を利用して組み付けることで一体化されている。
【0005】
これら従来の靴紐巻取装置100は、小型で軽量であることが求められており、巻き取られた靴紐Wによって紐巻取ドラム101に大きな力が加わったり、使用の際に靴や段差などに当たってしまうことがあり、ダイヤル側歯部131とラチェット爪132を有する部材103とダイヤル部材104との組み付け部分が損傷し、組み付け状態を維持できなくなったり、装置が正常に作動しなくなるという問題がある。
【0006】
また、特許文献3に記載の巻取装置においては、ダイヤル部材に形成されているラチェット爪が上下方向を向いており、かかるラチェット爪を用いると、紐巻取ドラムを収納するベース部材の外径が太くなり、装置全体が大型化してしまうという問題がある。
さらに、特許文献3に記載の巻取装置においては、ダイヤル部材に形成されているラチェット爪が上下方向を向いており、装置全体の上下方向のサイズ(高さ)が大きくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−293号公報
【特許文献2】特開2015−297号公報
【特許文献3】米国特許第7954204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、巻取装置において、紐巻取ドラムを回転駆動するための歯部とラチェット爪とを有する部材と、ダイヤル部材との組み付け部分が損傷し、組み付け状態を維持できなくなったり、装置が正常に作動しなくなるということである。
そして、本発明の目的は、紐巻取ドラムを回転駆動するための歯部とラチェット爪とを有する部材の強度、耐久性及び信頼性を高めた巻取装置を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、紐巻取ドラムを回転駆動するためのダイヤル部材を、歯部とラチェット爪とを有する一体成形されたものとし、部品点数を削減するとともに、バネ部材をもコンパクトな形態にて組み込むことができ、かつ、強度と耐久性に優れた巻取装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、略U字状のバネ部材をダイヤルを回転可能に支持する軸部材にて軸支することで、耐久性と信頼性に優れ、かつ、ダイヤル部材をバランス良く付勢することができる巻取装置を提供し、さらには当該軸部材によってバネ部材を強固に支持できる巻取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、「上面に複数個のドラム側歯部を環状に配置して備えた紐巻取ドラムと、当該紐巻取ドラムを回転可能に保持する筒状の収納部を備え、当該収納部の内周面に環状ギヤが形成されたベース部材と、前記ドラム側歯部と噛合する複数個のダイヤル側歯部と、前記環状ギヤの内側から当該環状ギヤと係合する複数個のラチェット爪と、を備えたダイヤル部材と、当該ダイヤル部材をその回転軸方向に沿って移動可能な状態で前記ベース部材に装着するための軸部材と、前記ダイヤル部材の前記ダイヤル側歯部を前記紐巻取ドラムの前記ドラム側歯部と噛合した状態に維持するためのバネ部材と、を備えた巻取装置であって、
前記ダイヤル部材は、前記各ラチェット爪の上側の本体部に空洞部を設け、さらに前記ラチェット爪の下方に突出するように前記ダイヤル側歯部を設けることで、前記ダイヤル側歯部と前記各ラチェット爪とを一体成形にて備えている巻取装置。」を最も主要な特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明の巻取装置は、前記ダイヤル部材が、その回転中心を中心として、互いに90度離間した位置にて前記ラチェット爪が計4個形成されており、当該ラチェット爪の形成位置から45度離れた位置に前記バネ部材を収納するバネ収納部が互いに180度離間した位置にて計2個形成されていることを主要な特徴とするものである。
本発明の巻取装置において、前記ダイヤル部材は、前記バネ部材を収納するバネ収納部
を前記ラチェット爪の形成位置と重ならない内側位置に備えており、かつ、当該バネ収納
部は前記ダイヤル部材の上面にて開口しているものであってもよい。
【0013】
本発明の巻取装置において、前記バネ部材は、略U字状に形成されており、その一端部が前記軸部材の側部にて軸支され、他端部が前記バネ収納部の内側面にて支持されており、前記ダイヤル部材がその回転軸方向に沿って移動すると、前記ダイヤル側歯部が前記ドラム側歯部から離脱した状態から噛合した状態となる間の位置において、圧縮方向が切り替わるものであるものであってもよい。
前記軸部材は、円柱状に形成されており、略U字状に形成された前記バネ部材の一端部が当該軸部材の側部にて軸支されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成した本発明は、ベース部材に形成された環状ギヤの内側から水平方向にて当該環状ギヤと係合する複数個のラチェット爪を採用するコンパクトな形態の巻取装置において、前記ダイヤル部材の前記各ラチェット爪の上側の本体部に空洞部を設けることにより、前記ダイヤル側歯部と前記各ラチェット爪とを一体成形にて製造することが可能となる。
従って、紐に大きな張力を加えるためのダイヤル部材が合成樹脂からなる小型で複雑形状で軽量なものであっても、紐による大きな張力とバネ部材による付勢力に耐える強度と耐久性を有するものとすることが可能となる。また、巻取装置を構成する部品点数を削減し、製造コストを削減することもできる。
【0015】
本発明の巻取装置において、前記ダイヤル部材が、前記バネ部材を収納するバネ収納部を前記ラチェット爪の形成位置と重ならない内側位置に備えており、かつ、当該バネ収納部は前記ダイヤル部材の上面にて開口しているものとすることで、ダイヤル部材を可能な限りコンパクトな形態とすることができ、かつ、バネ部材をダイヤル部材の上面側からダイヤル部材に組み付けることができ、巻取装置の組み立て作業やメンテナンスを効率良く行うことができる。
【0016】
本発明の巻取装置において、前記ダイヤル部材が、その回転中心を中心として、互いに90度離間した位置にて前記ラチェット爪が計4個形成されており、当該ラチェット爪の形成位置から45度離れた位置に前記バネ部材を収納するバネ収納部が互いに180度離間した位置にて計2個形成されているものとすることで、ラチェット爪とバネ収納部とをバランス良く、かつ、無駄なくスペースを活用して巻取装置の小型・軽量化を図ることができ、耐久性及び信頼性に優れた巻取装置を提供することができる。
【0017】
本発明の巻取装置において、前記バネ部材が、略U字状に形成されており、その一端部が前記軸部材の側部にて軸支され、他端部が前記バネ収納部の内側面にて支持されており、前記ダイヤル部材がその回転軸方向に沿って移動すると、前記ダイヤル側歯部が前記ドラム側歯部から離脱した状態から噛合した状態となる間の位置において、圧縮方向が切り替わるものとした場合には、ダイヤル側歯部がドラム側歯部から離脱した状態であるか、噛合した状態であるかを明確なものとすることができ、かつ、それぞれの状態を維持することができるため、使用し易い巻取装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明の巻取装置において、前記軸部材が、円柱状に形成されており、略U字状に形成された前記バネ部材の一端部が当該軸部材の側部にて軸支されるものとした場合には、軸部材によってバネ部材を強固に支持することができ、強度、耐久性及び信頼性に優れた巻取装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は本発明を具体化した靴紐巻取装置の斜視図と、その構成部品を示す分解斜視図である。
図2図2は本発明を具体化した靴紐巻取装置の断面図であって、(A)は靴紐巻取装置のダイヤル部材がロック位置にある状態を示す断面図、(B)は靴紐巻取装置のダイヤル部材が解除位置にある状態を示す断面図である。
図3図3は本発明を具体化した靴紐巻取装置のダイヤル部材を示し、(A)はダイヤル部材の斜視図、(B)はダイヤル部材の平面、(C)はダイヤル部材の底面図である。
図4図4は本発明を具体化した靴紐巻取装置のダイヤル部材に軸部材とバネ部材を組み込んだ状態を示し、(A)はダイヤル部材の斜視図、(B)はダイヤル部材の平面図である。
図5図5(A)〜(E)は本発明を具体化した靴紐巻取装置の軸部材を示し、(A)は軸部材の斜視図、(B)は軸部材の正面図、(C)は軸部材の斜視図、(D)は軸部材の底面図、(E)は軸部材の側面図である。
図6図6は従来の靴紐巻取装置を備えた靴の斜視図、及び、靴紐巻取装置の断面図である。
図7図7は従来の靴紐巻取装置の構成部品を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、以下において説明する実施形態などによって好適に具体化することができる
ものであり、「上面に複数個のドラム側歯部32を環状に配置して備えた紐巻取ドラム3
と、当該紐巻取ドラム3を回転可能に保持する筒状の収納部22を備え、当該収納部22
の内周面に環状ギヤ24が形成されたベース部材2と、前記ドラム側歯部32と噛合する
複数個のダイヤル側歯部42と、前記環状ギヤ24の内側から当該環状ギヤ24と係合す
る複数個のラチェット爪41と、を備えたダイヤル部材4と、当該ダイヤル部材4をその
回転軸方向に沿って移動可能な状態で前記ベース部材2に装着するための軸部材5と、前
記ダイヤル部材4の前記ダイヤル側歯部42を前記紐巻取ドラム3の前記ドラム側歯部3
2と噛合した状態に維持するためのバネ部材6と、を備えた巻取装置1であって、
前記ダイヤル部材4は、前記各ラチェット爪41の上側の本体部4aに空洞部43を設
け、さらに、前記ラチェット爪41の下方に突出するように前記ダイヤル側歯部42を設
けることで、前記ダイヤル側歯部42と前記各ラチェット爪41とを一体成形にて備えて
いる巻取装置1」である。
さらに、本発明の巻取装置1は、そのダイヤル部材4における、前記ラチェット爪41の形成位置と、前記バネ部材6を収納するバネ収納部44の形成位置に特徴を有するものである。
【0021】
以下、本発明の巻取装置を運動靴などの靴紐を巻き取るための靴紐巻取装置について具体化した一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の靴紐巻取装置1を示し、図6に示す従来の靴紐巻取装置100と同様に、靴に装着することができ、ワイヤー状の靴紐Wによって靴Sの甲部を締め付けることができるようになっている。
【0022】
靴紐巻取装置1は、図1図5に示すように、ベース部材2と、靴紐を巻き取るための紐巻取ドラム3と、前記紐巻取ドラム3を回転駆動するための円盤状のダイヤル部材4と、前記ダイヤル部材4を前記ベース部材2に装着するために前記ベース部材2に対して回転自在に固定される軸部材5と、当該軸部材5にて一端部が軸支された2個のバネ部材6などから構成されている。
【0023】
前記ベース部材2は、薄板状のフランジ21が、前記紐巻取ドラム3を回転可能に収納するための有底円筒状の紐巻取ドラム収納部22の底部周囲に突出するように形成されることで全体が一体成形されており、当該フランジ21が、靴に縫い付け固定されることで靴紐巻取装置1を靴に固定することができるようになっている。
【0024】
前記紐巻取ドラム収納部22は、その底部中央に前記紐巻取ドラム3を軸支するための回転軸23が突設されており、また、当該紐巻取ドラム収納部22の上部にはその内周面に沿って環状ギヤ24が形成されている。
この環状ギヤ24は、前記ダイヤル部材4に形成した4本の細長い板状のラチェット爪41と協働してラチェット機構を構成し、靴紐を巻き付ける方向(正回転)にのみ前記ラチェット爪41が移動できるように、断面が「のこぎり歯」状に形成されている。
【0025】
さらに、前記ベース部材2には、前記紐巻取ドラム収納部22の内底部に開口する靴紐引出口25が2ヶ所形成され、前記紐巻取ドラム3に両端部が固定されて巻き付けられた靴紐を前記紐巻取ドラム収納部22から外部に引き出すことができるようになっている。
前記紐巻取ドラム3は、その中央部に回転軸受部31が形成されており、当該回転軸受部31の内面側には、前記ベース部材2の前記回転軸23が挿入され、紐巻取ドラム収納部22内にて紐巻取ドラム3が回転可能となっている。
【0026】
前記紐巻取ドラム3の上面には、前記回転軸受部31を中心としてその周囲に環状に複数のドラム側歯部32が形成されており、前記ダイヤル部材4の下面に形成された後記するダイヤル側歯部42と噛合することで、前記ダイヤル部材4の回転を前記紐巻取ドラム3に伝達できるようになっている。
【0027】
前記ダイヤル部材4の下面側には、細長い棒状の4本のラチェット爪41が等間隔にて形成されている。従って、各ラチェット爪41は、前記ダイヤル部材4の回転中心を中心として互いに90度離間して配置されている。
このラチェット爪41は、その先端部と、先端部から若干基端部寄りの位置の外面に形成された突部41aが、前記紐巻取ドラム収納部22の上部内周面に形成された環状ギヤ24とその内側から係合するようになっている。
なお、本実施形態においては、180度離間した2本のラチェット爪41にのみ突部41aを設けている。
このように、ラチェット爪41の形状を2本変えることで、ダイヤル部材4の本体部4aが分断されることなくつながり、ダイヤル部材4の強度を高めることができる。
【0028】
前記ダイヤル部材4の下面側には、前記各ラチェット爪41の内側位置において、かつ、当該ラチェット爪41の下方に突出するように、前記ダイヤル部材4の回転中心(軸穴46)を中心として環状に複数のダイヤル側歯部42が形成されており、前記ドラム側歯部32と噛合することができるようになっている。
【0029】
前記ダイヤル部材4は、上下方向に移動することで、当該ダイヤル部材4の回転を紐巻取ドラム3に伝達できるロック状態と、紐巻取ドラム3が自由に回転できるようにダイヤル部材4から紐巻取ドラム3を切り離した解除状態とを実現することができるようになっている。
【0030】
さらに、前記ダイヤル部材4は、前記各ラチェット爪41の上側の本体部4aに空洞部43を備えている。従って、前記ダイヤル側歯部42と前記各ラチェット爪41とを一体成形にて製造することが可能となっている。
このため、前記ダイヤル部材4を靴紐による大きな張力とバネ部材6による付勢力に耐える強度と耐久性を有するものとすることが可能となる。
また、靴紐巻取装置1の部品点数を削減し、その製造コストを削減し、かつ、組立作業を効率化することもできる。
【0031】
前記ダイヤル部材4は、前記バネ部材6を収納するバネ収納部44を前記ラチェット爪41の形成位置と重ならない内側位置(中心寄りの位置)に備えており、かつ、当該バネ収納部44は前記ダイヤル部材4の上面にて開口している。
特に、本実施形態において、前記バネ収納部44と前記各空洞部43との間には壁が形成されており、前記バネ収納部44と他の空間を形成する4箇所の前記空洞部43とは接続されていない。従って、前記ダイヤル部材4の本体部4aの強度を高く維持することができる。
さらに、ダイヤル部材4をコンパクトな形態とすることができ、かつ、バネ部材6をダイヤル部材4の上面側からダイヤル部材4に組み付けることができ、靴紐巻取装置1の組み立て作業を効率良く行うことができる。
【0032】
前記ダイヤル部材4は、本実施形態において、前記ラチェット爪41の形成位置から45度離れた位置に前記バネ部材6を収納する前記バネ収納部44が互いに180度離間した位置にて計2個形成されている。
従って、ラチェット爪41とバネ収納部44とをバランス良くコンパクトに配置でき、かつ、小さなダイヤル部材4のスペースを無駄なく活用して靴紐巻取装置1の小型・軽量化を図ることができるばかりか、強度、耐久性及び信頼性に優れた靴紐巻取装置1を提供することができる。
【0033】
前記軸部材5は、前記ダイヤル部材4を前記ベース部材2に対して回転自在に装着するために、ネジ7によって前記ベース部材2に回転可能に固定されるものであって、前記ダイヤル部材4を前記ベース部材2に接近させたロック位置と当該ベース部材2から離した解除位置との間で移動可能な状態で保持し案内することができるようになっている。
【0034】
前記軸部材5は、円柱状に形成されており、その軸心方向と直交する方向にて当該軸部材5の上端部付近において、180度離れて対向する2つの側部を切り欠いて形成した軸受部51に対し、前記バネ部材6に形成した直線状の一端部(軸部61)が挿入されることで、当該バネ部材6を回動可能に軸支するようになっている。
さらに、前記軸部材5が円柱状であるため、前記軸受部51の強度を高めることができる。
また、本実施形態において、前記バネ部材6は前記軸部材5の側部において逆方向(点対称の位置)に装着されている。
【0035】
前記バネ部材6は、全体が略U字形に湾曲形成されており、湾曲した他端側のバネ部62が、前記ダイヤル部材4の前記バネ収納部44の内面に設けた係止部45に常時当接するようになっている。
また、前記バネ部材6の他端部(バネ部62)は、前記バネ収納部44の開口部に形成した抜止突部44aによって前記バネ収納部44から抜け出さないようになっている。
【0036】
そして、前記ダイヤル部材4がロック位置から解除位置まで上下方向に移動することで、紐巻取ドラム3をロック状態から解除状態に切替可能としている。
さらに、当該ロック位置と解除位置との間の位置に前記バネ部材6のバネ部62が最も強く圧縮される反転位置が存在するように設定されている。
【0037】
前記ダイヤル部材4の上側には、薄い円盤状のカバー部材8が嵌合し、靴紐巻取装置1の内部にゴミなどが入り込まないようになっている。
なお、前記カバー部材8の中央部には透孔81が形成されており、この透孔81を介してカバー部材8の内側(下側)のネジ7を操作してベース部材2から紐巻取ドラム3、ダイヤル部材4、軸部材5及びバネ部材6を取り外せるようになっている。
【0038】
前記靴紐巻取装置1とともに使用するワイヤー状の靴紐としては、摩擦抵抗が少ない樹脂製の靴紐、又は、金属製の素線を撚り合わせたワイヤーロープに樹脂被覆したものなどを好適に用いることができる。
【0039】
次に、上記にて説明した靴紐巻取装置1の各部品を組み付けて製造する方法について説明する。
まず、靴紐巻取装置1のベース部材2に紐巻取ドラム3を装着するため、2ヶ所の靴紐引出口25にそれぞれ靴紐の先端を挿入し、紐巻取ドラム収納部22の内側からその靴紐の両端部を引き出す。
そして、靴紐の両端部を紐巻取ドラム3に固定し、紐巻取ドラム3を紐巻取ドラム収納部22内に配置する。
【0040】
次に、ダイヤル部材4に軸部材5及びバネ部材6を組み付ける。
この場合、前記バネ部材6は、前記軸部材5が前記ダイヤル部材4の中央部に形成された軸穴46に挿入される際に、当該バネ部材6のバネ部62がダイヤル部材4の前記バネ収納部44に挿入されて前記ダイヤル部材4に組み付けられる。
なお、軸部材5の上端部に形成したフランジ52がダイヤル部材4の軸穴46の縁に当接するため、ダイヤル部材4が軸部材5から外れることはなく、また、ダイヤル部材4と軸部材5とのがたつきが防止される。
【0041】
上記手順にてダイヤル部材4、軸部材5及びバネ部材6を組み付けた後、ネジ7を軸部材5の軸心に沿って透設したネジ挿入孔53に挿通し、軸部材5などをベース部材2に装着する。
最後にカバー部材8をダイヤル部材4の上側に嵌め込むことで、靴紐巻取装置1を組み付けることができる。
メンテナンス又は修理のために靴紐巻取装置1を分解する際には、カバー部材8の透孔81からネジ回しを挿入し、ネジ7を外すことで、組み付けられたダイヤル部材4、軸部材5及びバネ部材6をベース部材2から取り外すことができる。
【0042】
なお、本実施形態の靴紐巻取装置1において各部材を構成する材料としては、強度、耐久性、弾力性などを考慮し、一例として以下のものを用いたが、これらの材料に限定されるものではない。
ベース部材2・・・ナイロン
紐巻取ドラム3、軸部材5・・・POM(ポリアセタール)
ダイヤル部材4・・・ナイロンとその周囲にTPE(熱可塑性エラストマー)
バネ部材6・・・ステンレス鋼
ネジ7・・・炭素鋼
カバー部材8・・・ABS樹脂
【0043】
上記のように構成された靴紐巻取装置1の使用方法について説明する。
靴を履いた後に、靴紐を締め付けるには、靴紐巻取装置1のダイヤル部材4を前記ベース部材2に接近させたロック位置、即ち、ドラム側歯部32とダイヤル側歯部42が係合している状態にてダイヤル部材4を回転操作し、靴紐を紐巻取ドラム3に巻き付ける。
この場合、ダイヤル部材4のラチェット爪41の先端部及び突部41aが環状ギヤ24に当接することで、靴紐が緩む方向に紐巻取ドラム3が回転することはない。
【0044】
また、ロック位置と解除位置の間の位置に前記バネ部材6が最も強く圧縮される反転位置を設定してあるため、ダイヤル部材4がロック位置にある状態では、バネ部材6が図2(A)に示す状態となっており、ダイヤル部材4をロック位置に保持する。
この時、バネ部材6は、軸部材5を持ち上げダイヤル部材4を下に押さえる方向を向いている。
次に、靴紐の締め付けを緩めるには、ドラム側歯部32とダイヤル側歯部42との係合状態を解除する必要があり、靴紐巻取装置1のダイヤル部材4を上側へ引く。
【0045】
この時、バネ部材6は圧縮され、その反発力に抗してさらに上側にダイヤル部材4を引くことで、前記バネ部材6が最も強く圧縮される反転位置を越え、当該ロック位置と解除位置との間でバネ部材6が圧縮される方向が切り替わることにより、ダイヤル部材4をベース部材2から離した解除位置に移動させる(図2(B)に示す状態)。
前記バネ部材6の他端部(バネ部62)は、前記ダイヤル部材4のバネ収納部44の内面に設けた係止部45と常時当接しており、部品の摩耗を防ぐことができる。
【0046】
このように、バネ部材6によってダイヤル部材4がロック位置と解除位置との間で明確に切り替わるため、操作性に優れるばかりか、前記ダイヤル部材4の状態を把握することも容易である。
上記のように前記ダイヤル部材4がロック位置から解除位置に移動すると、紐巻取ドラム3のドラム側歯部32とダイヤル側歯部42との噛合がスムーズに解除され、紐巻取ドラム3が自由に回転できるようになり、靴紐が緩められる。
【0047】
逆に、前記ダイヤル部材4を解除位置からロック位置に移動させるように下方へ押さえ付けると、前記バネ部材6が最も強く圧縮される反転位置を逆向きに越え、紐巻取ドラム3のドラム側歯部32とダイヤル部材4のダイヤル側歯部42とが再び噛合することとなるため、紐巻取ドラム3に靴紐を巻き取って靴紐を締め付けることが可能となる。
【0048】
なお、本明細書中において、「ダイヤル」とは、紐巻取ドラム3を回転駆動するための操作部として機能するものであれば特に形状が限定されるものではなく、多角形状のものであってもよい。
本発明は靴紐を締め付けるための靴紐巻取装置1に限定されるものではなく、鞄や帽子など、他の物品の紐を締め付けるための巻取装置に具体化して実施してもよい。
【0049】
さらに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で巻取装置の各部の材質、形状、寸法、角度、設置位置、大きさ、数などを適宜変更して実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、小型・軽量であって、強度、耐久性、信頼性及び操作性に優れ、物品を使用する際の邪魔になったり、物品の外観デザインを害することなく多種多様な物品に手軽に用いることができる巻取装置として産業上好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 靴紐巻取装置
2 ベース部材
21 フランジ
22 紐巻取ドラム収納部
23 回転軸
24 環状ギヤ
25 靴紐引出口
3 紐巻取ドラム
31 回転軸受部
32 ドラム側歯部
4 ダイヤル部材
4a 本体部
41 ラチェット爪
41a 突部
42 ダイヤル側歯部
43 空洞部
44 バネ収納部
44a 抜止突部
45 係止部
46 軸穴
5 軸部材
51 軸受部
52 フランジ
53 ネジ挿入孔
6 バネ部材
61 軸部(一端部)
62 バネ部(他端部)
7 ネジ
8 カバー部材
81 透孔
100 靴紐巻取装置(従来技術)
101 紐巻取ドラム
111 ドラム側歯部
102 ベース部材
121 収納部
122 環状ギヤ
103 ダイヤル側歯部とラチェット爪を有する部材
103a 爪状に形成した部分
131 ダイヤル側歯部
132 ラチェット爪
104 ダイヤル部材
105 軸部材
106 バネ部材
S 靴
W 靴紐
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7