特許第6810538号(P6810538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特許6810538表面粗化金属部材の製造方法および金属/樹脂複合構造体の製造方法
<>
  • 特許6810538-表面粗化金属部材の製造方法および金属/樹脂複合構造体の製造方法 図000003
  • 特許6810538-表面粗化金属部材の製造方法および金属/樹脂複合構造体の製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810538
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】表面粗化金属部材の製造方法および金属/樹脂複合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 1/00 20060101AFI20201221BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20201221BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20201221BHJP
   C23F 1/14 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C23F1/00 104
   B32B15/08 N
   B29C45/14
   C23F1/14
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-112169(P2016-112169)
(22)【出願日】2016年6月3日
(65)【公開番号】特開2017-218615(P2017-218615A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】富田 嘉彦
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−162115(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/157289(WO,A1)
【文献】 特開昭52−009642(JP,A)
【文献】 特開2011−067971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物により構成された熱可塑性樹脂部材との射出成形による接合のために用いられる表面粗化金属部材を製造するための製造方法であって、
少なくとも金属部材の前記熱可塑性樹脂部材との接合部表面を、40℃以上60℃未満の温水に接触させる温水処理工程を含み、
少なくとも前記金属部材の前記接合部表面を酸性水溶液および/または塩基性水溶液により洗浄する工程の後に、前記温水処理工程をおこない、
前記表面粗化金属部材はアルミニウムおよびアルミニウム合金から選択される一種または二種以上の金属材料により構成されたものであり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、およびポリアセタール樹脂から選択される一種または二種以上を含む表面粗化金属部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面粗化金属部材の製造方法において、
前記温水が、イオン交換水、純水、または蒸留水である表面粗化金属部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の表面粗化金属部材の製造方法により表面粗化金属部材を作製する工程(A)と、
前記表面粗化金属部材の前記接合部表面に接するように、熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物により構成された熱可塑性樹脂部材を射出成形し、前記表面粗化金属部材と前記熱可塑性樹脂部材を接合させる工程(B)と、
を含み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、およびポリアセタール樹脂から選択される一種または二種以上を含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項に記載の金属/樹脂複合構造体の製造方法において、
前記工程(B)の後に、得られた金属/樹脂複合構造体を構成する金属部材の表面に酸化被膜を形成する工程(C)をさらに含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面粗化金属部材の製造方法および金属/樹脂複合構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種部品の軽量化の観点から、金属の代替品として樹脂が使用されている。しかし、全ての金属部品を樹脂で代替することは難しい場合も多い。そのような場合には、金属成形体と樹脂成形体を接合一体化することで新たな複合部品を製造することが考えられる。しかしながら、金属成形体と樹脂成形体を工業的に有利な方法で、かつ高い接合強度で接合一体化できる技術は実用化されていない。
【0003】
近年、金属成形体と樹脂成形体を接合一体化する技術として、金属部材の表面に微細な凹凸を形成させたものに、その金属部材と親和性を有する極性基を持つエンジニアリングプラスチックを接合させることが検討されている(例えば、特許文献1〜6等)。
【0004】
特許文献1〜6には、例えば、金属部材をヒドラジン水溶液で浸漬処理することによって、その表面に凹部を形成した後、該処理面に熱可塑性樹脂を接合させる技術が開示されている。また、特定の温度を有する湯水で処理することによって、金属表面に水酸基含有被膜を形成する方法も開示されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−216425号公報
【特許文献2】特開2009−6721号公報
【特許文献3】国際公開第2003/064150号パンフレット
【特許文献4】特開2010−064496号公報
【特許文献5】特開2012−066383号公報
【特許文献6】特開2005−119005号公報
【特許文献7】特開2008−162115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、特許文献1〜7に開示されているような方法で得られた金属/樹脂複合構造体は、耐食性や耐摩耗性、耐傷性等を向上させるために金属/樹脂複合構造体における金属部材の表面に酸化被膜を形成する処理をおこなうと、金属部材と樹脂部材との接合強度が低下してしまうことが明らかになった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、酸化被膜形成処理後の金属部材と樹脂部材との接合強度の低下を抑制できる金属部材を得るための製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、酸化被膜形成処理後の金属部材と樹脂部材との接合強度の低下を抑制できる金属部材を得るため鋭意検討した。その結果、金属部材の熱可塑性樹脂部材との接合部表面を、特定の温度範囲の温水に接触させる処理をおこなうことにより、酸化被膜形成処理後の金属部材と樹脂部材との接合強度の低下を抑制できる金属部材が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す表面粗化金属部材の製造方法および金属/樹脂複合構造体の製造方法が提供される。
【0010】
[1]
熱可塑性樹脂または上記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物により構成された熱可塑性樹脂部材との接合のために用いられる表面粗化金属部材を製造するための製造方法であって、
少なくとも金属部材の上記熱可塑性樹脂部材との接合部表面を、40℃以上60℃未満の温水に接触させる温水処理工程を含む表面粗化金属部材の製造方法。
[2]
上記[1]に記載の表面粗化金属部材の製造方法において、
少なくとも上記金属部材の上記接合部表面を酸性水溶液および/または塩基性水溶液により洗浄する工程の後に、上記温水処理工程をおこなう表面粗化金属部材の製造方法。
[3]
上記[1]または[2]に記載の表面粗化金属部材の製造方法において、
上記温水が、イオン交換水、純水、または蒸留水である表面粗化金属部材の製造方法。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の表面粗化金属部材の製造方法において、
上記表面粗化金属部材は鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、スズ、スズ合金、チタンおよびチタン合金から選択される一種または二種以上の金属材料により構成されたものである表面粗化金属部材の製造方法。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の表面粗化金属部材の製造方法により表面粗化金属部材を作製する工程(A)と、
上記表面粗化金属部材の上記接合部表面に接するように、熱可塑性樹脂または上記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物により構成された熱可塑性樹脂部材を成形し、上記表面粗化金属部材と上記熱可塑性樹脂部材を接合させる工程(B)と、
を含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
[6]
上記[5]に記載の金属/樹脂複合構造体の製造方法において、
上記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、およびポリアセタール樹脂から選択される一種または二種以上を含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
[7]
上記[5]または[6]に記載の金属/樹脂複合構造体の製造方法において、
上記工程(B)の後に、得られた金属/樹脂複合構造体を構成する金属部材の表面に酸化被膜を形成する工程(C)をさらに含む金属/樹脂複合構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化被膜形成処理後の金属部材と樹脂部材との接合強度の低下を抑制できる金属部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体の構造の一例を模式的に示した外観図である。
図2】本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体を製造する過程の一例を模式的に示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、文中の数字範囲を示す「A〜B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0014】
図1は、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の構造の一例を模式的に示した外観図である。
本実施形態に係る表面粗化金属部材103の製造方法は、熱可塑性樹脂(P1)または熱可塑性樹脂(P1)を含む樹脂組成物(P2)により構成された熱可塑性樹脂部材105との接合のために用いられる表面粗化金属部材103を製造するための製造方法であって、少なくとも金属部材の熱可塑性樹脂部材105との接合部表面104を、40℃以上60℃未満の温水に接触させる温水処理工程を含む。
【0015】
金属部材の熱可塑性樹脂部材105との接合部表面104に対して、40℃以上60℃未満の温水に接触させる処理をおこなうことにより、酸化被膜形成処理後の金属部材と樹脂部材との接合強度の低下を抑制できる金属部材が得られる理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。
まず、温水処理をおこなうことによって、金属部材表面が溶解し、次いで、水酸化物が析出して金属部材の接合部表面104に表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間のアンカー効果を効果的に発現できる、水酸基含有皮膜により構成された微細凹凸構造が形成される。このような水酸基含有皮膜は、40℃以上60℃未満の温水処理によって形成されると、酸化被膜形成処理に対してより安定な結晶構造になると考えられる。すなわち、金属部材の熱可塑性樹脂部材105との接合部表面104に対して、40℃以上60℃未満の温水に接触させる処理をおこなうことにより、金属部材の接合部表面104に、酸化被膜形成処理に対して安定な水酸基含有被膜により構成された微細凹凸構造が形成されるため、酸化被膜形成処理後の金属/樹脂複合構造体106における表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合力の低下を抑制させることができると考えられる。
【0016】
以下、熱可塑性樹脂部材105、表面粗化金属部材103の製造方法、および金属/樹脂複合構造体106の製造方法の順に説明する。
【0017】
[熱可塑性樹脂部材]
以下、本実施形態に係る熱可塑性樹脂部材105について説明する。
熱可塑性樹脂部材105は熱可塑性樹脂(P1)または熱可塑性樹脂(P1)を含む樹脂組成物(P2)により構成されている。樹脂組成物(P2)は、樹脂成分として熱可塑性樹脂(P1)と、必要に応じて充填材(B)と、含む。さらに、樹脂組成物(P2)は必要に応じてその他の配合剤を含む。
【0018】
(熱可塑性樹脂(P1))
熱可塑性樹脂(P1)としては特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール−ポリ塩化ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー、アミノポリアクリルアミド樹脂、イソブチレン無水マレイン酸コポリマー、ABS、ACS、AES、AS、ASA、MBS、エチレン−塩化ビニルコポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニルグラフトポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素化エチレンポリプロピレン樹脂、PFA、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリパラメチルスチレン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、オリゴエステルアクリレート、キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグルタミン酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、ポリアセタール樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0019】
これらの中でも、熱可塑性樹脂(P1)としては、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合強度向上効果をより効果的に得ることができる観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、およびポリアセタール樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0020】
上記ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを重合して得られる重合体を特に限定なく使用することができる。
上記ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィンとしては、例えば、エチレン、α−オレフィン、環状オレフィン等が挙げられる。
【0021】
上記α−オレフィンとしては、炭素原子数3〜30、好ましくは炭素原子数3〜20の直鎖状または分岐状のα−オレフィンが挙げられる。より具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。
【0022】
上記環状オレフィンとしては、炭素原子数3〜30の環状オレフィンが挙げられ、好ましくは炭素原子数3〜20である。より具体的には、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン等が挙げられる。
【0023】
上記ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィンとして好ましくは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。これらのうち、より好ましくは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンであり、さらに好ましくはエチレンまたはプロピレンである。
【0024】
上記ポリオレフィン系樹脂は、上述したオレフィンを一種単独で重合して得られたもの、または二種以上を組み合わせてランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合して得られたものであってもよい。
【0025】
また、上記ポリオレフィン系樹脂としては、直鎖状のものであっても、分岐構造を導入したものであってもよい。
【0026】
上記ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)等が挙げられる。
【0027】
上記ポリアミド系樹脂としては、例えば、PA6、PA12等の開環重合系脂肪族ポリアミド;PA66、PA46、PA610、PA612、PA11等の重縮合系ポリアミド;MXD6、PA6T、PA9T、PA6T/66、PA6T/6、アモルファスPA等の半芳香族ポリアミド;ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(m−フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)等の全芳香族ポリアミド、アミド系エラストマー等が挙げられる。
【0028】
(充填材(B))
樹脂組成物(P2)は、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との線膨張係数差の調整や熱可塑性樹脂部材105の機械的強度の向上、ヒートサイクル特性の向上等の観点から、充填材(B)をさらに含んでもよい。
【0029】
充填材(B)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維等の有機繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、セルロース繊維からなる群から一種または二種以上を選ぶことができる。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。
【0030】
充填材(B)の形状は特に限定されず、繊維状、粒子状、板状等どのような形状であってもよい。
【0031】
熱可塑性樹脂部材105が充填材(B)を含む場合、その含有量は、熱可塑性樹脂部材105全体を100質量%としたとき、通常5質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは20質量%以上80質量%以下である。
【0032】
充填材(B)は、熱可塑性樹脂部材105の剛性を高める効果の他、熱可塑性樹脂部材105の線膨張係数を制御できる効果がある。特に、本実施形態の表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との複合体の場合は、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105とで形状安定性の温度依存性が大きく異なることが多いので、大きな温度変化が起こると複合体に歪みが掛かりやすい。熱可塑性樹脂部材105が上記充填材(B)を含有することにより、この歪みを低減することができる。また、上記充填材(B)の含有量が上記範囲内であることにより、靱性の低減を抑制することができる。
【0033】
本実施形態において、充填材(B)は繊維状充填材であることが好ましく、ガラス繊維および炭素繊維であることがより好ましく、ガラス繊維であることが特に好ましい。
これにより、成形後の熱可塑性樹脂部材105の収縮を抑制することができるため、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との接合をより強固なものとすることができる。
【0034】
(その他の配合剤)
樹脂組成物(P2)には、個々の機能を付与する目的でその他の配合剤を含んでもよい。
上記配合剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃性改質剤等が挙げられる。
【0035】
(樹脂組成物(P2)の製造方法)
樹脂組成物(P2)の製造方法は特に限定されず、一般的に公知の方法により製造することができる。例えば、以下の方法が挙げられる。まず、上記熱可塑性樹脂(P1)と、必要に応じて上記充填材(B)と、さらに必要に応じて上記その他の配合剤とを、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機等の混合装置を用いて、混合または溶融混合することにより、樹脂組成物(P2)が得られる。
【0036】
[表面粗化金属部材の製造方法]
次に、表面粗化金属部材103の製造方法について説明する。
以下、表面粗化金属部材103の製造方法の一例を示す。ただし、本実施形態に係る表面粗化金属部材103の製造方法は、以下の例に限定されない。
【0037】
本実施形態に係る表面粗化金属部材103の製造方法は、熱可塑性樹脂(P1)または熱可塑性樹脂(P1)を含む樹脂組成物(P2)により構成された熱可塑性樹脂部材105との接合のために用いられる表面粗化金属部材103を製造するための製造方法であって、少なくとも金属部材の熱可塑性樹脂部材105との接合部表面104を、40℃以上60℃未満の温水に接触させる温水処理工程を含む。
【0038】
表面粗化金属部材103を構成する金属材料は特に限定されないが、例えば、鉄、鉄鋼材、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、亜鉛、亜鉛合金、スズ、スズ合金、チタンおよびチタン合金等を挙げることができる。これらの中でも、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛、亜鉛合金、スズおよびスズ合金等が好ましい。これらは単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、軽量かつ高強度の点から、アルミニウム(アルミニウム単体)およびアルミニウム合金が好ましく、アルミニウム合金がより好ましい。
アルミニウム合金としては、JIS H4000に規定された合金番号1050、1100、2014、2024、3003、5052、6061、6063、7075等の展伸用合金、AC5A、AC4C等の鋳物用合金、ADC12等のダイカスト用合金が好ましく用いられる。
【0039】
表面粗化金属部材103の形状は、熱可塑性樹脂部材105と接合できる形状であれば特に限定されず、例えば、平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等とすることができる。また、これらの組み合わせからなる構造体であってもよい。
また、熱可塑性樹脂部材105と接合する接合部表面104の形状は、特に限定されないが、平面、曲面等が挙げられる。
【0040】
表面粗化金属部材103は、金属材料を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって上述した所定の形状に加工された後に、後述する粗化処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。
【0041】
(0)前処理工程
まず、後述する温水処理工程(1)の前に、少なくとも金属部材の接合部表面に対して前処理をおこない、金属部材の表面に付着した油脂や、酸化被膜を除去することが好ましい。
このような前処理としては、例えば、ブラスト処理やローレット加工等の物理的処理;レーザースキャニング加工等のレーザー処理;侵食性水溶液または侵食性懸濁液による洗浄処理等が挙げられる。これらの方法の中でも、侵食性水溶液として酸性水溶液および/または塩基性水溶液を用いる洗浄処理が好んで採用される。
【0042】
酸性水溶液および/または塩基性水溶液による洗浄処理は、例えば、以下の手順でおこなうことができる。
まず、金属部材を市販の金属部材用脱脂剤の水溶液に、例えば、30〜80℃で1〜10分間浸漬し、その後、金属部材を水洗する。
つづいて、濃度が0.1〜5質量%の酸性水溶液に金属部材を、例えば、30〜80℃で0.1〜10分間浸漬し、その後、金属部材を水洗する。酸性水溶液を使用する目的は主に酸化被膜の除去である。この目的に合う酸性水溶液であれば特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、炭酸等が挙げられる。
次いで、濃度が0.1〜3質量%の塩基性水溶液に金属部材を、例えば、30〜80℃で1〜10分間浸漬し、その後、金属部材を水洗する。塩基性水溶液に使う塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属類の水酸化物、これらが含まれた安価な材料であるソーダ灰(NaCO、無水炭酸ナトリウム)等が挙げられる。また、水酸化アルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba、Ra)類も使用できる。塩基性水溶液に浸漬することにより、金属部材の表面は水素を放ちつつイオンになって溶解し、金属部材の表面は微細なエッチング面になる。
次いで、濃度が0.1〜5質量%の酸性水溶液に金属部材を、例えば、30〜80℃で0.1〜10分間浸漬し、その後、金属部材を水洗する。酸性水溶液を使用する目的はスマット除去ならびに中和である。塩基が金属部材表面に残存すると、本工程に続く粗化処理工程における処理液のpH調整が煩雑になる場合があるので中和が必要となる。また、金属部材内に固溶していた金属が塩基性水溶液の前工程では完全溶解せずに表面近傍に水酸化物その他の組成物となって存在している場合、酸性水溶液に浸漬することでこれらを取り除くこともできる。この目的に合う酸性水溶液であれば特に限定されず、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、フッ化水素酸等が挙げられる。
【0043】
(1)温水処理工程
つづいて、少なくとも金属部材の接合部表面104に対して40℃以上60℃未満の温水に接触させることにより、接合部表面104の温水処理をおこなう。温水処理によって、金属部材表面が溶解し、次いで、水酸化物が析出して金属部材の表面が微細凹凸構造に粗化される。
なお、本実施形態では、40℃以上60℃未満の温水を用いて金属部材を粗化処理する際、金属部材表面の全面を粗化処理してもよく、熱可塑性樹脂部材105が接合される面だけを部分的に粗化処理してもよい。
温水処理における温水の温度は特に限定されないが、40℃以上50℃未満であることがより好ましい。
温水処理の処理時間は通常、5秒〜60分間、好ましくは10秒〜30分間程度である。
【0044】
温水処理に使用する温水は、イオン交換水、純水、または蒸留水であることが好ましい。このような水は溶解しているイオンの量が少ないため、良質な水酸基含有皮膜を形成することができる。
【0045】
温水処理する方法としては、温水中への浸漬や温水のスプレー、水蒸気の噴霧等による処理方法が挙げられる。
このような温水処理により、金属の表面に5nm〜100nm程度の厚さの微多孔質の水酸基含有皮膜が形成される。温水の温度が高いほど処理時間を短くし、温水の温度が低いほど処理時間を長くして、所望の膜厚が得られるように調整することができる。
ここで、水酸基含有皮膜は、金属の表面に温水処理を施すことにより形成でき、水酸化皮膜および/または水和皮膜ということもでき、例えば、金属の水酸化物および/または水和酸化物を含む皮膜である。
【0046】
この温水処理工程を実施することによって、酸化被膜形成処理後の熱可塑性樹脂部材105との接合力を向上させることができる。
【0047】
温水処理工程(1)の後には必要に応じて乾燥が行われる。
【0048】
[金属/樹脂複合構造体の製造方法]
つづいて、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の製造方法について説明する。
金属/樹脂複合構造体106の製造方法は特に限定されないが、少なくとも以下の工程(A)および(B)を含むことが好ましく、必要に応じて以下の工程(C)を含む。
(A)前述した本実施形態に係る表面粗化金属部材103の製造方法により表面粗化金属部材103を作製する工程
(B)表面粗化金属部材103の接合部表面104に接するように、熱可塑性樹脂(P1)または熱可塑性樹脂(P1)を含む樹脂組成物(P2)により構成された熱可塑性樹脂部材105を成形し、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105を接合させる工程
(C)工程(B)の後に、得られた金属/樹脂複合構造体106を構成する金属部材の表面に酸化被膜を形成する工程
すなわち、表面粗化金属部材103に対して、熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)を所望の熱可塑性樹脂部材105の形状になるように成形しながら接合させることにより、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106が得られる。上記(A)の工程については、前述した本実施形態に係る表面粗化金属部材103の製造方法で述べたため、ここでは説明を省略する。
【0049】
熱可塑性樹脂部材105の成形方法としては、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成形方法を採用できる。
【0050】
また、表面粗化金属部材103に熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)皮膜をコーティングした金属部材−熱可塑性樹脂皮膜からなる複合体を製造する場合は、熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)を溶剤に溶解または分散させて樹脂ワニスを調製し、その樹脂ワニスを表面粗化金属部材103に塗布するコーティング法や、その他の各種塗装方法を採用できる。その他の塗装方法としては、焼き付け塗装、電着塗装、静電塗装、粉体塗装、紫外線硬化塗装等を例示できる。
【0051】
これらの中でも、熱可塑性樹脂部材105の成形方法としては、射出成形法が好ましく、具体的には、表面粗化金属部材103を射出成形金型のキャビティ部にインサートし、熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)を金型に射出する射出成形法により製造することが好ましい。具体的には、以下の(i)〜(iii)の工程を含む方法が好ましい。
(i)熱可塑性樹脂(P1)を準備する工程、または樹脂組成物(P2)を製造する工程
(ii)表面粗化金属部材103を射出成形用の金型内に設置する工程
(iii)熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)を、表面粗化金属部材103の少なくとも一部と接するように、上記金型内に射出成形し、熱可塑性樹脂部材105を成形する工程
以下、各工程について説明する。
【0052】
(i)樹脂組成物(P2)を製造する工程については、上述の樹脂組成物(P2)の製造方法の通りである。
【0053】
次いで、(ii)、(iii)の工程による射出成形方法について説明する。
【0054】
まず、射出成形用の金型を用意し、その金型を開いてそのキャビティ部(空間部)に表面粗化金属部材103を設置する。その後、金型を閉じ、樹脂組成物(P2)の少なくとも一部が表面粗化金属部材103の微細凹凸構造を形成した面に接するように、上記金型内に熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)を射出して固化する。その後、金型を開き離型することにより、金属/樹脂複合構造体106を得ることができる。
【0055】
また、上記(ii)〜(iii)の工程による射出成形にあわせて、射出発泡成形や、金型を急速に加熱冷却する高速ヒートサイクル成形(RHCM、ヒート&クール成形)を併用してもよい。
射出発泡成形の方法として、化学発泡剤を樹脂に添加する方法や、射出成形機のシリンダー部に直接、窒素ガスや炭酸ガスを注入する方法、あるいは、窒素ガスや炭酸ガスを超臨界状態で射出成形機のシリンダー部に注入するMuCell射出発泡成形法があるが、いずれの方法でも樹脂部材が発泡体である金属/樹脂複合構造体106を得ることができる。また、いずれの方法でも、金型の制御方法として、カウンタープレッシャーを使用したり、成形品の形状によってはコアバックを利用したりすることも可能である。
高速ヒートサイクル成形は、急速加熱冷却装置を金型に接続することにより、実施することができる。急速加熱冷却装置は、一般的に使用されている方式で構わない。加熱方法として、蒸気式、加圧熱水式、熱水式、熱油式、電気ヒータ式、電磁誘導過熱式のいずれか1方式またはそれらを複数組み合わせた方式でよい。
冷却方法としては、冷水式、冷油式のいずれか1方式またはそれらを組み合わせた方式でよい。高速ヒートサイクル成形法の条件としては、例えば、射出成形金型を100℃以上250℃以下の温度に加熱し、熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)の射出が完了した後、上記射出成形金型を冷却することが望ましい。
金型を加熱する温度は、熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)を構成する熱可塑性樹脂(P1)によって好ましい範囲が異なり、結晶性樹脂で融点が200℃未満の樹脂であれば、100℃以上150℃以下が好ましく、結晶性樹脂で融点が200℃以上の樹脂であれば、140℃以上250℃以下が望ましい。非晶性樹脂については、50℃以上250℃以下が望ましく、100℃以上180℃以下がより望ましい。
【0056】
次に、表面粗化金属部材103への塗膜の形成方法について説明する。
表面粗化金属部材103への塗膜の形成方法としては、従来用いられている塗膜の形成方法を制限なく利用することができる。
【0057】
例えば、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレー塗装、ディップ塗装、刷毛塗り、ローラー塗り、コーター塗り等の方法によって、上記各種塗料を表面粗化金属部材103の表面に塗布することで行うことができる。
【0058】
本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106は、熱可塑性樹脂部材105を構成する熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)が、表面粗化金属部材103の表面110に形成された微細凹凸構造に進入して表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105が接合し、金属―樹脂界面を形成することにより得られる。
【0059】
すなわち、表面粗化金属部材103の表面110には、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合強度向上に適した微細凹凸構造が形成されているため、接着剤を使用せずに表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接合性確保が可能となる。
具体的には、表面粗化金属部材103の表面110の微細凹凸構造の中に熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)が進入することによって、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間に物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現し、通常では接合が困難な表面粗化金属部材103と、熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)により構成された熱可塑性樹脂部材105と、を強固に接合することが可能になったものと考えられる。
【0060】
このようにして得られた金属/樹脂複合構造体106は、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との界面への水分や湿気の浸入を防ぐこともできる。つまり、金属/樹脂複合構造体106の付着界面における気密性や水密性を向上させることもできる。
【0061】
本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106の製造方法では、工程(B)の後に、得られた金属/樹脂複合構造体106を構成する金属部材の表面に酸化被膜を形成する工程(C)をさらにおこなってもよい。この場合、熱可塑性樹脂部材105との接合部以外の表面粗化金属部材103の表面に酸化被膜が形成される。これにより、金属/樹脂複合構造体106の耐食性や耐摩耗性、耐傷性等を向上させることができる。
酸化被膜を形成する方法としては特に限定されないが、例えば、アルマイト加工処理等の陽極酸化皮膜処理が挙げられる。陽極酸化皮膜処理で用いる陽極酸化溶液としては、例えば、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、クロム酸等を用いることができる。
【0062】
[金属/樹脂複合構造体の用途]
本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106は、生産性が高く、形状制御の自由度も高いので、様々な用途に展開することが可能である。
さらに、本実施形態に係る金属/樹脂複合構造体106は、高い気密性、水密性が発現するので、これらの特性に応じた用途に好適に用いられる。
【0063】
例えば、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、家具、台所用品等の家財向け用途、医療機器、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品等が挙げられる。
【0064】
より具体的には、樹脂だけでは強度が足りない部分を金属がサポートする様にデザインされた次のような部品である。車両関係では、インスツルメントパネル、コンソールボックス、ドアノブ、ドアトリム、シフトレバー、ペダル類、グローブボックス、バンパー、ボンネット、フェンダー、トランク、ドア、ルーフ、ピラー、座席シート、ラジエータ、オイルパン、ステアリングホイール、ECUボックス、電装部品等が挙げられる。また、建材や家具類として、ガラス窓枠、手すり、カーテンレール、たんす、引き出し、クローゼット、書棚、机、椅子等が挙げられる。また、精密電子部品類として、コネクタ、リレー、ギヤ等が挙げられる。また、輸送容器として、輸送コンテナ、スーツケース、トランク等が挙げられる。
【0065】
また、表面粗化金属部材103の高い熱伝導率と、熱可塑性樹脂部材105の断熱的性質とを組み合わせ、ヒートマネージメントを最適に設計する機器に使用される部品用途、例えば、各種家電にも用いることができる。具体的には、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、エアコン、照明機器、電気湯沸かし器、テレビ、時計、換気扇、プロジェクター、スピーカー等の家電製品類、パソコン、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、タブレット型PC、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、充電器、電池等電子情報機器等が挙げられる。
【0066】
これらについては、金属部材の表面を粗化することによって表面積が増加するため、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との間の接触面積が増加し、接触界面の熱抵抗を低減させることができることに由来する。
【0067】
その他の用途として、玩具、スポーツ用具、靴、サンダル、鞄、フォークやナイフ、スプーン、皿等の食器類、ボールペンやシャープペン、ファイル、バインダー等の文具類、フライパンや鍋、やかん、フライ返し、おたま、穴杓子、泡だて器、トング等の調理器具、リチウムイオン2次電池用部品、ロボット等が挙げられる。
【0068】
以上、本発明の金属/樹脂複合構造体の用途について述べたが、これらは本発明の用途の例示であり、上記以外の様々な用途に用いることもできる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0070】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0071】
なお、図1、2は各実施例の共通の図として使用する。
図1は、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との金属/樹脂複合構造体106の構造の一例を模式的に示した外観図である。
図2は、表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105との金属/樹脂複合構造体106を製造する過程の一例を模式的に示した構成図である。具体的には所定形状に加工され、表面に微細凹凸構造を有する接合部表面(表面処理領域)104が形成された表面粗化金属部材103を射出成形用の金型102内に設置し、射出成形機101により、熱可塑性樹脂(P1)または樹脂組成物(P2)をゲート/ランナー107を通して射出し、微細凹凸構造が形成された表面粗化金属部材103と熱可塑性樹脂部材105とが一体化された金属/樹脂複合構造体106を製造する過程を模式的に示している。
【0072】
(接合強度の評価方法)
引っ張り試験機「モデル1323(アイコーエンジニヤリング社製)」を使用し、引張試験機に専用の治具を取り付け、室温(23℃)にて、チャック間距離60mm、引張速度10mm/minの条件にて測定をおこなった。破断荷重(N)を金属/樹脂接合部分の面積で除することにより接合強度(MPa)を得た。
【0073】
(金属部材の表面粗化処理)
[調製例1]
(前処理)
JIS H4000に規定された合金番号6063のアルミニウム板材(厚み:1.6mm)を、長さ45mm、幅18mmの形状になるように切断した。次いで任意の20枚のアルミニウム板材について、特開2012−066383号の実験例1に記載の方法に準拠して表面処理した。
すなわち、第一の1Lのビーカーに市販アルミニウム合金用脱脂剤NE−6(メルテックス社製)と水を投入して60℃、アルミニウム合金用脱脂剤の濃度が7.5質量%の水溶液600mlとした。これにアルミニウム板材20枚を重ならないように7分間浸漬した。浸漬後はよく水洗した。
つづいて、第二の1Lのビーカーに40℃とした1質量%濃度の塩酸水溶液600mlを用意し、これに上記のアルミニウム板材20枚を重ならないように1分間浸漬した。浸漬後はよく水洗した。次いで第三の1Lのビーカーに40℃とした1.5質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液600mlを用意し、水洗後のアルミニム板20枚を重ならないように4分間浸漬した。浸漬後はよく水洗した。次いで、第四の1Lのビーカーに40℃とした3質量%濃度の硝酸水溶液を600ml用意し、これにアルミニウム板材20枚を重ならないように1分間浸漬した。浸漬後はよく水洗した。以上の手順により、前処理アルミニウム板材を得た。
【0074】
[実施例1]
調製例1で調製した前処理アルミニウム板材を45℃の温水(イオン交換水)に30分間浸漬した。得られた金属部材を金属部材1と呼ぶ。
日本製鋼所社製のJ85AD110Hに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内に金属部材1(103)を設置した。次いで、その金型102内に熱可塑性樹脂(P1)として、市販のPBT樹脂(長春社製)を、シリンダー温度250℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た。
また、得られた金属/樹脂複合構造体106をアルカリ脱脂後、50℃の2.0質量%水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬し、その後、6.0質量%の希硝酸により中和した(常温、30秒間)。次いで90質量%リン酸/10質量%硫酸系溶液で86℃、2分間の化学研磨を行った後、6.0質量%希硝酸によってデスマットした。このように前処理された成形体を陽極酸化処理(18質量%硫酸、18℃、39分、1A/dm)した後、染色(奥野製薬Red染料、50℃、8分間)し、Ni封孔(95℃、15分間)、純水湯洗、エアーブローを行うことによって、金属/樹脂複合構造体106の表面に酸化被膜を形成した。
酸化被膜形成前の金属/樹脂複合構造体106および酸化被膜形成後の金属/樹脂複合構造体106についてそれぞれ接合強度を測定した。得られた接合強度の評価結果を表1に示す。
【0075】
[実施例2]
調製例1で調製した前処理アルミニウム板材を55℃の温水(イオン交換水)に10分間浸漬した。得られた金属部材を金属部材2と呼ぶ。
実施例1において、金属部材1の代わりに金属部材2を用いた以外は実施例1と同様に射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た。また、実施例1と同様に金属/樹脂複合構造体106の表面に酸化被膜を形成した。
酸化被膜形成前の金属/樹脂複合構造体106および酸化被膜形成後の金属/樹脂複合構造体106についてそれぞれ接合強度を測定した。得られた接合強度の評価結果を表1に示す。
【0076】
[比較例1]
実施例1において、金属部材1の代わりに調製例1で調製した前処理アルミニウム板材を用いた以外は実施例1と同様に射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た。また、実施例1と同様に金属/樹脂複合構造体106の表面に酸化被膜を形成した。
酸化被膜形成前の金属/樹脂複合構造体106および酸化被膜形成後の金属/樹脂複合構造体106についてそれぞれ接合強度を測定した。得られた接合強度の評価結果を表1に示す。
【0077】
[比較例2]
調製例1で調製した前処理アルミニウム板材を60℃の温水(イオン交換水)に8分間浸漬した。得られた金属部材を金属部材3と呼ぶ。
実施例1において、金属部材1の代わりに金属部材3を用いた以外は実施例1と同様に射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た。また、実施例1と同様に金属/樹脂複合構造体106の表面に酸化被膜を形成した。
酸化被膜形成前の金属/樹脂複合構造体106および酸化被膜形成後の金属/樹脂複合構造体106についてそれぞれ接合強度を測定した。得られた接合強度の評価結果を表1に示す。
【0078】
[比較例3]
調製例1で調製した前処理アルミニウム板材を70℃の温水(イオン交換水)に3分間浸漬した。得られた金属部材を金属部材4と呼ぶ。
実施例1において、金属部材1の代わりに金属部材4を用いた以外は実施例1と同様に射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た。また、実施例1と同様に金属/樹脂複合構造体106の表面に酸化被膜を形成した。
酸化被膜形成前の金属/樹脂複合構造体106および酸化被膜形成後の金属/樹脂複合構造体106についてそれぞれ接合強度を測定した。得られた接合強度の評価結果を表1に示す。
【0079】
[比較例4]
調製例1で調製した前処理アルミニウム板材を80℃の温水(イオン交換水)に3分間浸漬した。得られた金属部材を金属部材5と呼ぶ。
実施例1において、金属部材1の代わりに金属部材5を用いた以外は実施例1と同様に射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た。また、実施例1と同様に金属/樹脂複合構造体106の表面に酸化被膜を形成した。
酸化被膜形成前の金属/樹脂複合構造体106および酸化被膜形成後の金属/樹脂複合構造体106についてそれぞれ接合強度を測定した。得られた接合強度の評価結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【符号の説明】
【0081】
101 射出成形機
102 金型
103 表面粗化金属部材
104 接合部表面
105 熱可塑性樹脂部材
106 金属/樹脂複合構造体
107 ゲート/ランナー
110 表面粗化金属部材の表面
図1
図2