特許第6810575号(P6810575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810575
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】気化器
(51)【国際特許分類】
   F16L 55/033 20060101AFI20201221BHJP
   F16L 55/04 20060101ALI20201221BHJP
   F17C 7/04 20060101ALI20201221BHJP
   F02M 31/16 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   F16L55/033
   F16L55/04
   F17C7/04
   F02M31/16 D
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-219021(P2016-219021)
(22)【出願日】2016年11月9日
(65)【公開番号】特開2018-76921(P2018-76921A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390038092
【氏名又は名称】株式会社マツダE&T
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】青木 康太
(72)【発明者】
【氏名】太田 政雄
(72)【発明者】
【氏名】坂口 和正
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−089089(JP,U)
【文献】 特開平07−035220(JP,A)
【文献】 特開平10−252731(JP,A)
【文献】 実開平02−073698(JP,U)
【文献】 特開平06−185416(JP,A)
【文献】 特開2005−133662(JP,A)
【文献】 特開昭64−029662(JP,A)
【文献】 特開昭62−032224(JP,A)
【文献】 特開平06−081738(JP,A)
【文献】 実開昭49−098616(JP,U)
【文献】 米国特許第03254484(US,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0401133(KR,B1)
【文献】 特開2013−245712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/00
F02M 21/00
F02M 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化器であって、
気化器本体の内部に設けられ、流入する液化した高圧の流体を加温する第1室と、
前記第1室と接続通路を介して連通するように前記気化器本体の内部に設けられ、前記第1室で加温された前記流体を気化させて流出させる第2室と、
前記第2室の圧変動に応じて前記接続通路を開閉する弁体と、
共鳴抑制体と、
を備え、
前記共鳴抑制体が、
工具によって回転可能な頭部、及び、当該頭部から回転軸方向に突出し雄ネジ部、を有するボルト体と、
前記ボルト体の内部に、前記第2室に起因する固有振動数に基づいて形成される共鳴洞と
前記雄ネジ部の突端に、前記共鳴洞と連通するように形成される開口と、
を有し、
前記共鳴洞と前記第2室とが連通するように、前記気化器本体に形成されたネジ穴に前記雄ネジ部が着脱可能に取り付けられている気化器。
【請求項2】
請求項1に記載の気化器において、
前記共鳴洞は、
前記開口に連なる小径洞と、
前記小径洞に連なる、当該小径洞よりも断面積が大きな大径洞と、
を有し、
前記大径洞が前記頭部の内部に形成されている気化器。
【請求項3】
請求項2に記載の気化器において、
前記ボルト体が、前記頭部において回転軸方向に二分される第1部材及び第2部材を含む気化器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の気化器において、
前記共鳴抑制体が、前記第2室の内部で生じる前記流体の脈動波形の振幅が大きくなる位置に配置されている気化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共鳴抑制具及び気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に関連する先行技術として、特許文献1がある。特許文献1には、液化石油ガス(LPG)を気化させるベーパライザー(気化器)が開示されている。
【0003】
LPGを燃料として用いる内燃機関では、液化した状態で燃料タンクに貯留されているLPGを、内燃機関に気化させて供給する必要があることから、燃料の供給経路には、LPGを加温して気化させるベーパライザーが設置されている。
【0004】
特許文献1では、気化器に相当するレギュレータ6と内燃機関との間に、レゾネータ32が設置されたエアホース31が接続されていて、内燃機関の吸気に伴う圧力脈動をレゾネータ32で吸収するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−185416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LPGは、プロパンガスやブタンガスなどで構成されていて、プロパンガスの含量別に、様々なタイプがある。LPGは、プロパンガスの含量が多くなるほど気化しやすくなるため、寒冷地などでは、気温が下がってLPGが気化し難くなる冬季に、プロパンガスの含量が多いタイプのLPG(高濃度LPG)が使用されている。
【0007】
ところが、高濃度LPGが、気化し易い夏季などにも使用される場合があり、その場合、詳細は後述するが、気化器で高周波騒音が発生し得ることが判明した。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高周波騒音が容易に抑制できる手段を提供するとともに、高周波騒音の発生が防止できる気化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここで開示する手段の1つは、気化器等、共鳴を生じる空間を内部に有する対象物に取り付けられる共鳴抑制具である。
【0010】
前記共鳴抑制具は、工具によって回転可能な頭部、及び、当該頭部から回転軸方向に突出し、前記空間に連通した前記対象物のネジ穴に螺合する雄ネジ部、を有するボルト体と、前記ボルト体の内部に、前記空間に起因する固有振動数に基づいて形成される共鳴洞と、を備える。そして、前記雄ネジ部の突端に、前記ネジ穴に前記雄ネジ部をねじ込むことによって前記共鳴洞と前記空間とを連通させる開口が形成されている。
【0011】
この共鳴抑制具によると、工具で締結可能なボルト体を備えているので、一般的な締結具と同等に扱え、利便性に優れる。そして、その内部には、共鳴を生じる空間に起因する固有振動数に基づいて形成される共鳴洞が形成されており、その空間に連通した対象物のネジ穴にねじ込むことにより、その空間に共鳴洞を連通させられるようになっている。
【0012】
その空間では、共鳴の原因となる脈動が生じるが、共鳴洞により、その空間にその脈動と逆位相の脈動を発生させることができる。それにより、両脈動が相殺されることで、共鳴の原因となる脈動が抑制され、高周波騒音の発生が防止できる。従って、高周波騒音の抑制が容易にできる。
【0013】
具体的には、前記共鳴洞は、前記開口に連なる小径洞と、前記小径洞に連なる、当該小径洞よりも断面積が大きな大径洞と、を有し、前記大径洞が前記頭部の内部に形成されているようにするとよい。
【0014】
そうすれば、内部に空洞を形成しても、ボルト体の形状を活用して、十分な強度を確保することができる。
【0015】
具体的には、前記ボルト体が、前記頭部において回転軸方向に二分される第1部材及び第2部材を含むようにするとよい。
【0016】
そうすれば、精度の高い共鳴抑制具を容易に製造できる。すなわち、ボルト体の内部奥方に、大きな閉空間である大径洞を精度高く形成するのは難しいが、このような構成であれば、ドリル等の掘削によって大径洞が形成できるので、精度の高い大径洞が、簡単に、しかも自在に形成できる。
【0017】
ここで開示する手段のもう1つは、気化器である。
【0018】
前記気化器は、気化器本体の内部に設けられ、流入する液化した高圧の流体を加温する第1室と、前記第1室と接続通路を介して連通するように前記気化器本体の内部に設けられ、前記第1室で加温された前記流体を気化させて流出させる第2室と、前記第2室の圧変動に応じて前記接続通路を開閉する弁体と、前記第2室に起因する固有振動数に基づいて形成された共鳴洞を内部に有する共鳴抑制体と、を備える。そして、前記共鳴洞が前記第2室に連通するように、前記気化器本体に前記共鳴抑制体が設けられている。
【0019】
この気化器によれば、第2室で共鳴を生じる流体の脈動が発生しても、共鳴抑制体で抑制できるので、高周波騒音の発生を防止することができる。
【0020】
特に、前記共鳴抑制体として、前述した共鳴抑制具を使用し、前記第2室に連通するように前記気化器本体に形成されたネジ穴に着脱可能に取り付けられているようにするのが好ましい。
【0021】
そうすれば、気化器で高周波騒音が発生しても、極めて簡単にその発生を防止することができる。通常、気化器には、メンテナンス用に第2室に連通するネジ穴が設けられているので、既存の気化器にも対応でき、汎用性に優れる。
【0022】
更には、前記共鳴抑制体は、前記第2室の内部で生じる前記流体の脈動波形の振幅が大きくなる位置に配置するのが好ましい。
【0023】
そうすれば、第2室の内部で生じる流体の脈動に対し、効率よく逆位相の脈動を作用させることができるので、高周波騒音を効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の共鳴抑制具によれば、高周波騒音を容易に抑制できる。また、本発明の気化器によれば、高周波騒音の発生が防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態の気化器を示す概略図である。
図2】気化器の動作を説明するために、気化器の要部を示す概略図である。
図3】共鳴抑制具の縦断面図である。
図4】共鳴抑制具の分解斜視図である。
図5】共鳴抑制具の取付位置を説明するための、気化器の簡略図である。
図6】検証試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0027】
<気化器>
(気化器の構成)
図1に、本実施形態の気化器(ベーパライザー1)を示す。このベーパライザー1は、例えば、LPG(流体の一例)を燃料に用いて走行する自動車などに搭載されており、液化した高圧のLPGを気化させてエンジンに供給するために、燃料タンクとエンジンとを接続している燃料供給経路の途中に設けられている。
【0028】
ベーパライザー1は、その燃料供給経路を構成している配管が接続される燃料受入口11及び燃料取出口12を有する気化器本体10を備えている。気化器本体10にはまた、熱源となる温水を導入する熱媒体導入口13、及びその温水を導出する熱媒体導出口14も備えられている。これら熱媒体導入口13及び熱媒体導出口14は、温度が調整された水を循環供給する装置に接続されている(図示せず)。
【0029】
気化器本体10の内部には、燃料受入口11を通じて液化した高圧のLPGが流入する第1室15と、燃料取出口12を通じて気化したLPGを低圧(ほぼ常圧)に調圧して流出させる第2室16と、が設けられている。第2室16は、紙面に垂直な方向に拡がっており、燃料取出口12の流路断面(LPGが流れる方向に直交する断面)よりも十分に大きな流路断面を有している。
【0030】
気化器本体10の外部には、通常、第2室16の内圧の検査及び調整のために、第2室16に連通したメンテナンス用のネジ穴17が形成されている。このネジ穴17には、普通のボルトが着脱可能に締結されているが、この気化器では、そのボルトに代えて共鳴抑制具50が取り付けられている(詳細は後述)。
【0031】
第1室15の内部は、更に、上流側に位置する加温室15aと、下流側に位置する導入室15bとに区画されている。加温室15aの周囲には、熱媒体導入口13及び熱媒体導出口14に連なる温水流路18が設けられており、温水流路18には、所定の温度に調節された温水が循環供給されるようになっている。加温室15aの内部には、LPGが蛇行して流れるように、複数の壁によって迷路状の流路が形成されている。
【0032】
加温室15aと導入室15bとの間は、区画壁19によって区画されている。区画壁19には、加温室15aと導入室15bとを連通させる、流路断面積の小さい絞り通路19aが形成されている。導入室15bは、接続通路20を介して第2室16と連通している。
【0033】
第2室16には、流出するLPGの圧力を調整しながら接続通路20を開閉する調圧機構が設置されている。調圧機構は、レバー21、バルブ22(弁体)、ダイヤフラム23、コイルバネ24、クリッパー25などで構成されている。
【0034】
レバー21は、天秤状の部材からなる。第1室15の側に位置している第2室16の内壁(第1室側内壁)には、軸受部26が設けられている。レバー21は、その軸受部26に、第1室側内壁の壁面と平行な回動軸を中心に下端が回動可能に支持された脚部21aと、その回動軸に直交して脚部21aの上端から互いに逆方向に延びる一対の支持腕21b,21bと、を有している。
【0035】
バルブ22は、蓋状の部材からなり、第2室16に開口する接続通路20の端部を開閉するように、一方の支持腕21bの端部に設けられている。バルブ22は、脚部21aを支点にレバー21が揺動し、上昇して接続通路20を開放する位置(開弁位置)と、下降して接続通路20を閉止する位置(閉弁位置)とに変位する。
【0036】
他方の支持腕21bの端部を間に挟んで第1室側内壁と対向している第2室16の内壁には、凹部27が設けられている。その凹部27が、ゴム等の弾性を有するダイヤフラム23によって第2室16と区画されている。コイルバネ24は、その凹部27に収容されていて、ダイヤフラム23を弾性的に支持している。
【0037】
クリッパー25は、そのダイヤフラム23の第2室16に面する面の中央に取り付けられており、レバー21の他方の端部を挟むようにして、レバー21と連結されている。それにより、コイルバネ24の弾性力が、ダイヤフラム23及びクリッパー25を介してレバー21に作用し、レバー21は、バルブ22が開弁位置に位置するように、コイルバネ24によって付勢されている。
【0038】
(気化器の動作)
燃料受入口11を通じて液化した高圧のLPGが加温室15aに流入すると、温水流路18に循環供給される温水によって加温される。加温された液状のLPGは、絞り通路19aを通じて導入室15bに導入された後、接続通路20を通じて第2室16に流入する。第2室16の内部は、ほぼ常圧であるため、第2室16に流入した高圧のLPG(液体)は、急激に減圧されて気化し、膨張する。
【0039】
第2室16の下流側の流路は、燃料取出口12によって絞られているため、動的には(瞬間的には)、第2室16は密閉空間のように作用し、第2室16の内圧が高まる。それにより、図2に示すように、コイルバネ24の弾性力に抗して、ダイヤフラム23が凹部27に押し込まれる。その結果、グリッパーが上がってバルブ22が閉弁位置に変位し、接続通路20が閉止されることで、第2室16へのLPGの流入が止まる。
【0040】
第2室16で気化したLPGは、燃料取出口12を通じて第2室16から次第に流出していくため、それに伴って第2室16の内圧も減少する。そうして、第2室16の内圧が常圧近くの所定の圧力に達すると、凹部27に押し込まれたダイヤフラム23が元の状態に復帰し、グリッパーが下がってバルブ22が開位置に変位することから、接続通路20が開放されて、再度、LPGが第2室16に流入する。
【0041】
このような動作が連続して行われることで、燃料受入口11を通じてベーパライザー1に連続的に流入する液化した高圧のLPGは、低圧(ほぼ常圧)に調圧された気体の状態で、燃料取出口12を通じてベーパライザー1から連続的に流出するようになっている。
【0042】
ところが、冒頭で述べたように、気化し易いLPGが気化し易い環境下で使用される場合がある。その場合、高圧の第1室15でLPGの一部が気化してしまい、その気化したLPGが接続通路20を通じて第2室16に流出する際、調圧機構が適切に動作せず、僅かな開度で開閉するバルブ22の隙間から気化したLPGが断続的に流出することで、第2室16の固有振動数に近い周波数を有する高周波振動が形成され、共鳴により不快な高周波騒音が発生し得ることが判明した。
【0043】
そこで、このベーパライザー1には、その高周波騒音の発生が防止できるように、メンテナンス用のネジ穴17を利用して、共鳴抑制具50(共鳴抑制体の一例)が着脱可能に取り付けられている。
【0044】
<共鳴抑制具50>
図3に、共鳴抑制具50の縦断面図を示す。共鳴抑制具50は、一般的なボルトとほぼ同じ外観を有するボルト状の部材からなる。すなわち、共鳴抑制具50は、スパナ等の工具によって回転可能な六角柱状の頭部51aと、頭部51aから回転軸方向に突出してネジ穴17に螺合する雄ネジ部51bとを有している。これら頭部51a及び雄ネジ部51bにより、一体物のボルト体51が構成されている。
【0045】
雄ネジ部51bの突端には、開口52が形成されていて、ボルト体51の内部には、その開口52に連なる所定形状の共鳴洞53が形成されている。すなわち、共鳴洞53は、開口52に連なる細長い円筒状の小径洞53aと、小径洞53aに連なる、小径洞53aよりも断面積が大きな円筒状の大径洞53bとが、ボルト体51の内部に形成されていて、これら小径洞53a及び大径洞53bによって共鳴洞53が構成されている。
【0046】
共鳴洞53は、ボルト体51の形状を活用して形成されており、断面積が小さい小径洞53aは雄ネジ部51bの内部に形成され、断面積の大きい大径洞53bは頭部51aの内部に形成されている。そうすることにより、内部に空洞を有する共鳴抑制具50であっても、一般的なボルトと同様に、十分な強度が得られるようにしている。
【0047】
また、ボルト体51は、その頭部51aにおいて回転軸方向に二分される第1部材60及び第2部材70と、これらの間に介設される蓋板80と、を組み合わせて一体に構成されている。
【0048】
具体的には、図4に示すように、第1部材60は、雄ネジ部51bと、雄ネジ部51bの上端に連なる、雄ネジ部51bよりも断面積の大きなベース部61とを有している。ベース部61の上端側の外周には雄ネジが形成されており、ベース部61の内部には、大径洞53bを構成する円筒状の穴(大径穴61a)が、ベース部61の上端から貫通して形成されている。
【0049】
第2部材70は、ベース部61に締結されて頭部51aを構成する部材であり、六角板状の端壁部71と、端壁部71の外周に連なる、外側が六角柱状の周壁部72とを有している。周壁部72の内側には、ベース部61に螺合する雌ネジ穴17が形成されている。蓋板80は、円板状の部材であり、ベース部61に第2部材70を締結するときに、ベース部61の上端と端壁部71の内面と間に挿入される。大径穴61aの上部の開口は、蓋板80によって塞がれる。
【0050】
これら部材を組み合わせてボルト体51を構成することで、精度の高い共鳴抑制具50を容易に製造できる。すなわち、ボルト体51の内部奥方に径の大きな閉空間(大径洞53b)を精度高く形成するのは難しいが、このような構成であれば、ベース部61の上端からドリル等で掘削して大径穴61aを形成できるので、精度の高い大径洞53bが、簡単に、しかも自在に形成できる。
【0051】
共鳴洞53は、第2室16に起因する固有振動数に基づいて、高周波騒音が抑制できるように形成されている(レゾネータ)。すなわち、共鳴洞53は、公知のヘルムホルツ共鳴の原理により、第2室16の内部で生じるLPGの脈動を相殺する共鳴脈動が発生できるように形成されている。
【0052】
具体的には、第2室16の内部で生じるLPGの脈動の波長は、第2室16の固有振動数に基づいて、第2室16の形状から特定できる。そして、その第2室16での音速は、第2室16を流れるLPGの温度から特定できるので、これらから第2室16の内部で生じるLPGの脈動の周波数を算出することができる(周波数=音速/波長)。
【0053】
そして、その周波数を、公知のヘルムホルツ共鳴の原理に基づく次の関係式(1)に適用することにより、共鳴洞53の基本的な設計値を導き出すことができる。
【0054】
【数1】
【0055】
ここで、「開口面積」は、雄ネジ部51bの突端に開口する開口52の面積であり、「ネック長」は、小径洞53aの長さである。「内容積」は、大径洞53bの容積である。「補正係数」は、開口52の周辺形状に基づく係数(いわゆる開口端補正での係数)である。共鳴洞53は、関係式(1)を満たす開口面積、ネック長、及び内容積を満たすように形成されている。
【0056】
そして、このベーパライザー1では、このような共鳴洞53を有する共鳴抑制具50が、雄ネジ部51bをネジ穴17にねじ込んで気化器本体10に取り付けることで、第2室16に共鳴洞53が連通されている。共鳴抑制具50は、一般的なボルトと同様に扱えるため、極めて簡単に取り付けることができる。共鳴抑制具50の交換も容易であり、臨機応変に対応できる。ボルトと交換するだけで、既存のベーパライザーにも適用できる。
【0057】
共鳴抑制具50は、第2室16の内部で生じるLPGの脈動の波形の振幅が大きくなる位置に配置するのが好ましい。すなわち、図5に実線で示すように、第2室16の内部には、特定の波形を有するLPGの脈動が生じ、特定の位置に節と腹が形成される。それに対し、図5に破線で示すように、その脈動と逆位相となるように、共鳴脈動を第2室16に発生させることで、共鳴脈動でLPGの脈動を相殺することができる。
【0058】
従って、LPGの脈動波形のうち、振幅が大きくなる位置、つまり腹が形成される位置に共鳴洞53を配置することで、LPGの脈動を効率よく打ち消すことができ、高周波騒音が効果的に抑制できるようになる。共鳴洞53の配置は、図5に矢印で示す位置であれば、いずれであってもよい。
【0059】
このような共鳴抑制具50であれば、気化器本体10に、第2室16に連通するネジ穴17が1つあれば取り付けられるため、利便性に優れる。そのネジ穴17も、前述したように、メンテナンス用のネジ穴と兼用できるので、無駄もない。
【0060】
<実施例>
共鳴抑制具による高周波騒音の防止効果を検証する試験を行った。試験では、高周波騒音が発生する条件の下で、前述したような構造のベーパライザーに対し、ネジ穴に、通常のボルトと共鳴抑制具とを交換して取り付け、高周波騒音の原因となる、ベーパライザーの高周波振動の大きさを周波数別に計測した。
【0061】
図6に、その検証試験の結果を示す。破線が、通常のボルトを取り付けた場合のデータであり(比較例)、実線が、共鳴抑制具を取り付けた場合のデータである(実施例)。図6から明らかなように、比較例では、1300Hz辺りに、高周波騒音の原因となる高周波振動のピークが認められたのに対し、実施例では、高周波振動はほとんど認められず(ほぼゼロ)、高周波騒音が効果的に抑制できることが確認された。
【0062】
なお、本発明にかかる共鳴抑制具及び気化器は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0063】
共鳴抑制具は、気化器に好適ではあるが、取り付ける対象物は気化器に限らない。流体(液体も含む)の流動に起因して共鳴が生じる流路を有する対象物であれば、適用できる。また、気化器であっても、自動車に搭載されるものに限らない。例えば、ガスエネルギーを供給するインフラ設備等に利用できる。ガスも、LPGに限らずCNG(圧縮天然ガス)等であってもよい。
【0064】
実施形態のような着脱可能な共鳴抑制具であれば、既設の気化器にも適用できるので好ましいが、内部に共鳴洞を有する部材を、溶接等により、気化器に着脱不能に取り付けてもよい。
【0065】
共鳴抑制具の外観形状は、ボルト状であることは必須でない。工具で回転可能な頭部、例えば六角レンチ等や専用工具等の工具で回転可能な頭部と、対象物のネジ穴に螺合する雄ネジ部があれば足りる。
【符号の説明】
【0066】
1 ベーパライザー(気化器)
10 気化器本体
15 第1室
16 第2室
17 ネジ穴
20 接続通路
21 レバー
21a 脚部
21b 支持腕
22 バルブ(弁体)
23 ダイヤフラム
24 コイルバネ
50 共鳴抑制具(共鳴抑制体)
51 ボルト体
51a 頭部
51b 雄ネジ部
52 開口
53 共鳴洞
図1
図2
図3
図4
図5
図6