特許第6810582号(P6810582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6810582-廃水処理システム 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810582
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】廃水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/38 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   C02F1/38
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-228590(P2016-228590)
(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公開番号】特開2018-83168(P2018-83168A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細野 隆道
(72)【発明者】
【氏名】西山 藍
(72)【発明者】
【氏名】東田 正憲
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓朗
(72)【発明者】
【氏名】仲尾 進士
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−116529(JP,A)
【文献】 特開2013−255876(JP,A)
【文献】 特表2013−527788(JP,A)
【文献】 特開2016−168510(JP,A)
【文献】 特開2017−205723(JP,A)
【文献】 特開2013−255877(JP,A)
【文献】 特開昭59−130546(JP,A)
【文献】 特開2011−185254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00−9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水からばいじんを分離する廃水処理システムであって、
沈殿分離処理を行う沈殿槽と、
沈殿分離処理が行われた廃水を取り込んで遠心分離処理を行う遠心分離機と、
前記沈殿槽と前記遠心分離機の間に位置し、沈殿分離処理が行われた廃水を一時的に溜め、一時的に溜めた廃水を前記遠心分離機に供給する中間タンクと、
前記沈殿槽から前記中間タンクへ廃水を供給する供給配管と、を備え、
前記供給配管は下流端に前記中間タンクの内部で開口する放出口を有し、
前記放出口は前記中間タンクに溜められた廃水の水面よりも高い位置に位置している、廃水処理システム。
【請求項2】
前記中間タンクの内部は大気開放されている、請求項1に記載の廃水処理システム。
【請求項3】
前記沈殿槽は内部が水封されており、
前記供給配管は、前記放出口よりも高い位置から下方に延びて前記放出口よりも低い位置に達した後に上方に延びて前記放出口に至るトラップ部を有する、請求項1又は2に記載の廃水処理システム。
【請求項4】
前記中間タンクに溜められた廃水の水位が予め定められた上限位置に達したとき、前記中間タンクに溜められた廃水を前記沈殿槽に戻す戻り配管をさらに備える、請求項1乃至3のうちいずれか一の項に記載の廃水処理システム。
【請求項5】
前記中間タンクは前記戻り配管が接続される戻り口を有し、
前記戻り口は前記中間タンク内の前記上限位置に位置している、請求項4に記載の廃水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
大型船舶用のディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物(NOx)の量を低減する技術として、排気をエンジンに戻す排気再循環(EGR; Exhaust Gas Recirculation)技術がある。ただし、大型船舶用のディーゼルエンジンは、燃料として重油を使用していることから、排気にはカーボンなどの浮遊粒子状物質が多量に含まれる。そのため、排気をエンジンに戻す際には、その排気(EGRガス)から浮遊粒子状物質を除去する必要がある。EGRガスから浮遊粒子状物質を除去する装置としては、洗浄水を用いた洗浄集じん装置がある。
【0003】
洗浄集じん装置で使用した洗浄水を廃水として船外に排出するには、この廃水からばいじん(すすなどの固体粒子)を分離する廃水処理を行う必要がある。本願の発明者らは、この廃水処理を行うシステムとして、沈殿分離処理を行う沈殿槽と、沈殿槽の下流に位置し遠心分離処理を行う遠心分離機とを備えた廃水処理システムを提案している(特許文献1参照)。なお、遠心分離機の上流に沈殿槽を配置しているのは、遠心分離機による廃水処理の負荷を軽減するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−255876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の廃水処理システムでは、遠心分離機の内部に設けられた回転体が回転することにより、遠心分離機は廃水を吸引するようにして取り込む。そのため、遠心分離機の廃水を取り込む力(すなわち沈殿槽の背圧)が変動して一時的に大きくなると、沈殿槽内で沈殿したばいじんが廃水とともに沈殿槽から流出し遠心分離機に流入するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであって、沈殿槽の下流に遠心分離機が配置された廃水処理システムにおいて、遠心分離機の廃水を取り込む力が変動して一時的に大きくなったとしても、沈殿槽内で沈殿したばいじんが沈殿槽から流出するのを抑制できる廃水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る廃水処理システムは、廃水からばいじんを分離する廃水処理システムであって、沈殿分離処理を行う沈殿槽と、沈殿分離処理が行われた廃水を取り込んで遠心分離処理を行う遠心分離機と、前記沈殿槽と前記遠心分離機の間に位置し、沈殿分離処理が行われた廃水を一時的に溜め、一時的に溜めた廃水を前記遠心分離機に供給する中間タンクと、を備えている。
【0008】
この構成によれば、遠心分離機の廃水を取り込む力が変動して一時的に大きくなったとしても、その力の変動は中間タンクが吸収するため沈殿槽に伝わりにくく、沈殿槽で沈殿したばいじんが沈殿槽から流出するのを抑制することができる。
【0009】
上記の廃水処理システムにおいて、前記沈殿槽から前記中間タンクへ廃水を供給する供給配管をさらに備え、前記供給配管は下流端に前記中間タンクの内部で開口する放出口を有し、前記放出口は前記中間タンクに溜められた廃水の水面よりも高い位置に位置していてもよい。
【0010】
この構成によれば、沈殿槽から排出された廃水は中間タンク内の空間に放出され、一旦空気中を通過することになる。そのため、遠心分離機の廃水を取り込む力の変動は沈殿槽にほとんど伝わらず、沈殿槽で沈殿したばいじんが沈殿槽から流出するのを一層抑制することができる。
【0011】
上記の廃水処理システムにおいて、前記中間タンクの内部は大気開放されていてもよい。
【0012】
この構成によれば、中間タンクの内部圧は遠心分離機の廃水を取り込む力の変動にかかわらず一定(つまり大気圧)であるため、遠心分離機の廃水を取り込む力の変動が沈殿槽に伝わることはない。よって、沈殿槽で沈殿したばいじんが沈殿槽から流出するのをより一層抑制することができる。
【0013】
上記の廃水処理システムにおいて、前記沈殿槽は内部が水封されており、前記供給配管は、前記放出口よりも高い位置から下方に延びて前記放出口よりも低い位置に達した後に上方に延びて前記放出口に至るトラップ部を有していてもよい。
【0014】
この構成によれば、トラップ部は常に内部が廃水で満たされるため、その廃水が供給配管において栓の役割を果たすことになり、放出口から沈殿槽へ空気が流入するのを防ぐことができる。その結果、沈殿槽に空気が流入することによる沈殿分離処理の能力の低下を防ぐことができる。
【0015】
上記の廃水処理システムにおいて、前記中間タンクに溜められた廃水の水位が予め定められた上限位置に達したとき、前記中間タンクに溜められた廃水を前記沈殿槽に戻す戻り配管をさらに備えていてもよい。
【0016】
この構成によれば、放出口が中間タンクに溜められた廃水の水面よりも高い位置に位置する状態を維持することができる。
【0017】
上記の廃水処理システムにおいて、前記中間タンクは前記戻り配管が接続される戻り口を有し、前記戻り口は前記中間タンク内の前記上限位置に位置していてもよい。
【0018】
この構成によれば、中間タンクに溜められた廃水の水位が上限位置に達すると、廃水が戻り口から排出され、戻り配管を介して沈殿槽に戻される。よって、放出口が中間タンクに溜められた廃水の水面よりも高い位置に位置する状態を容易に維持することができる。
【発明の効果】
【0019】
前述したとおり、上記の廃水処理システムによれば、沈殿槽で沈殿したばいじんが沈殿槽から流出するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係る廃水処理システムの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る廃水処理システム100について説明する。図1は、廃水処理システム100の全体図である。本実施形態に係る廃水処理システム100は、洗浄集じん装置101から排出された廃水を処理するシステムであって、船体に搭載されている。なお、洗浄集じん装置101は、大型船舶用のディーゼルエンジンから排出された排気のうち当該エンジンに戻すEGRガスの洗浄を行う。
【0022】
図1に示すように、廃水処理システム100は、沈殿槽10と、中間タンク20と、供給配管30と、戻り配管40と、遠心分離機50と、を備えている。以下、これらの各構成要素について順に説明する。
【0023】
沈殿槽10は、廃水に含まれるばいじんを沈殿させ、廃水からばいじんを分離する沈殿分離処理を行う。沈殿槽10は、流入配管11を介して洗浄集じん装置101から廃水を取り込む。流入配管11には、廃水を搬送するためのポンプを設けてもよい。本実施形態の沈殿槽10は、筒状で軸心が傾斜した傾斜管を多数有しており、廃水がこの傾斜管を通過する際に傾斜管にばいじんが沈殿する。また、船体の揺れが沈殿分離処理に及ぼす悪影響を防ぐため、沈殿槽10の内部は廃水で満たされており、沈殿槽10の内部に空気が入らいないように構成されている。つまり、沈殿槽10は内部が水封されている。
【0024】
中間タンク20は、沈殿槽10と遠心分離機50の間に位置するタンクである。中間タンク20は、沈殿槽10で沈殿分離処理が行われた廃水を一時的に溜め、一時的に溜めた廃水を遠心分離機50に供給する。中間タンク20は大気につながる大気口21を有しており、中間タンク20の内部は大気開放されている。また、中間タンク20は、内部に開口する戻り口22を側部の所定の高さ位置に有している。さらに、中間タンク20は、底部に排出口23を有している。
【0025】
供給配管30は、沈殿槽10から中間タンク20へ廃水を供給する配管である。供給配管30は、下流端に中間タンク20の内部で開口する放出口31を有している。この放出口31は中間タンク20に溜められた廃水の水面よりも高い位置に位置している。そのため、沈殿槽10から供給された廃水は、放出口31から中間タンク20の上方に位置する空間(空気で満たされた領域)に放出される。
【0026】
また、供給配管30は、J字状のトラップ部32を有している。トラップ部32は、上流側からみると、放出口31よりも高い位置から下方に延びて放出口31よりも低い位置に達した後に上方に延びて放出口31に至る形状を有している。トラップ部32はこのような形状を有しているため、内部が常に廃水で満たされることになる。これにより、トラップ部32内の廃水が栓の役割を果たし、放出口31から沈殿槽10へ空気が流入するのを防ぐことができる。
【0027】
戻り配管40は、中間タンク20に溜められた廃水を沈殿槽10に戻す配管である。戻り配管40の一端は中間タンク20の戻り口22に接続されており、他端は流入配管11に接続されている。本実施形態では、中間タンク20に溜められた廃水の水位が戻り口22が位置する高さに達すると、廃水は戻り口22から排出され、戻り配管40及び流入配管11を介して沈殿槽10に戻される。
【0028】
つまり、本実施形態に係る廃水処理システム100では、戻り口22は放出口31よりも低い所定の上限位置に位置しており、中間タンク20に溜められた廃水の水位が当該上限位置に達したとき、戻り配管40が中間タンク20に溜められた廃水を沈殿槽10に戻すように構成されている。これにより、放出口31が中間タンク20に溜められた廃水の水面よりも高い位置に位置する状態を維持することができる。
【0029】
なお、中間タンク20に溜められた廃水の水位は、レベル計を用いて制御してもよい。例えば、戻り配管40の一端を中間タンク20の底部に接続するとともに、戻り配管40に開閉バルブを設け、レベル計が中間タンク20に溜められた廃水の水位が上限位置に達したことを検知したとき、開閉バルブを開放するようにしてもよい。この場合でも、中間タンク20に溜められた廃水の水位を適切な高さ位置に維持することができる。
【0030】
遠心分離機50は、沈殿槽10で沈殿分離処理が行われた廃水を取り込んで、遠心力によって廃水からばいじんを分離する遠心分離処理を行う。なお、遠心分離機50よりも上流に沈殿槽10を配置しているのは、遠心分離機50による廃水処理の負荷を軽減するためである。また、遠心分離機50で遠心分離処理が行われた廃水は、流出配管51を介して船外へ排出されるか、洗浄集じん装置101に返送して再利用される。
【0031】
また、遠心分離機50は、中間タンク20の排出口23に接続された取込配管52を介して中間タンク20から廃水を取り込む。この取込配管52には取込バルブ53が設けられている。さらに、遠心分離機50はスラッジ配管54を介してスラッジタンク102に連結されている。なお、遠心分離機50は、遠心分離機50の下流側の接続先を流出配管51からスラッジ配管54に切り替えることができ、また、スラッジ配管54から流出配管51に切り替えることができる。
【0032】
ここで、遠心分離処理によって分離したばいじんは、次第に遠心分離機50の内部に溜まってゆくことから、定期的にばいじんを除去する除去作業が必要となる。本実施形態では、除去作業を行うにあたり、取込バルブ53が閉じられるとともに、遠心分離機50の下流側の接続先が流出配管51からスラッジ配管54に切り替えられ、さらに遠心分離機50内がエアパージされる。これにより、遠心分離機50内部に溜まったばいじんは、廃水とともにスラッジ配管54を介してスラッジタンク102へ排出される。
【0033】
一方、除去作業終了後には、遠心分離機50の下流側の接続先が流出配管51からスラッジ配管54に切り替えられ、取込バルブ53が開かれることで、遠心分離機50は廃水の取り込みを再開する。除去作業時には、遠心分離機50内の廃水が一旦全て排出されるため、遠心分離機50が廃水の取り込みを再開すると一時的に廃水を取り込む力が大きくなる。
【0034】
仮に、中間タンク20を介さずに沈殿槽10と遠心分離機50が直接接続されていれば、遠心分離機50の廃水を取り込む力が一時的に大きくなったとき、沈殿槽10に沈殿しているばいじんが遠心分離機50に吸引されて沈殿槽10から流出し、遠心分離機50に流入するおそれがある。その場合、遠心分離機50による廃水処理の負荷が急激に増加し、遠心分離機50が十分に機能しないおそれがある。
【0035】
これに対し、本実施形態に係る廃水処理システム100は、上記のように沈殿槽10と遠心分離機50の間に中間タンク20を配置しているため、遠心分離機50による廃水を取り込む力が変動して一時的に大きくなったとしても、中間タンク20がこの力の変動を吸収することができる。その結果、沈殿槽10に沈殿しているばいじんが流出して遠心分離機50に流入するのを抑制することができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、中間タンク20は大気開放された空間を有しており、沈殿槽10から供給された廃水は放出口31からこの空間に放出される。そのため、遠心分離機50が廃水を取り込む力が変動しても、沈殿槽10にその力の変動は伝わらず(沈殿槽10の背圧は変化せず)、沈殿槽10で沈殿したばいじんが沈殿槽10から流出して遠心分離機50に流入するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 沈殿槽
20 中間タンク
22 戻り口
30 供給配管
31 放出口
32 トラップ部
40 戻り配管
50 遠心分離機
100 廃水処理システム
図1