特許第6810669号(P6810669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810669
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】微生物培養システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20201221BHJP
   C12M 1/04 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   C12M1/04
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-162520(P2017-162520)
(22)【出願日】2017年8月25日
(65)【公開番号】特開2019-37182(P2019-37182A)
(43)【公開日】2019年3月14日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(72)【発明者】
【氏名】都筑 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】岩越 万里
(72)【発明者】
【氏名】米谷 章
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−153744(JP,A)
【文献】 特表2004−515281(JP,A)
【文献】 特開2012−175964(JP,A)
【文献】 特表2008−539738(JP,A)
【文献】 特開2017−131195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 1/00−7/08
C12N 11/00−13/00
C12Q 1/00−3/00
C12P 1/00−41/00
C02F 3/00;3/02−3/10;3/28−3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を付着させ気相中に配置される担体の上から培養液を供給する培養液供給部と、前記担体から流出した前記微生物を含む培養液を貯留する流出液タンクとを備えた微生物培養システムであって、
前記担体とハウジングとを有し、前記ハウジング内に前記担体及び前記培養液供給部を具備し、前記ハウジングに前記担体から滴下する培養液を排出させる排出口が形成され、前記ハウジング内で前記担体に付着させた微生物を培養可能なカセットと、
前記カセットを着脱自在に装着させる設置部と、前記設置部に装着された前記カセットの前記培養液供給部に培養液を送る培養液の供給用配管と、前記排出口から排出された培養液を貯留する前記流出液タンクとが設けられた装置本体とを備えている微生物培養システム。
【請求項2】
前記装置本体に、光照射部が設けられている請求項1に記載の微生物培養システム。
【請求項3】
前記装置本体には、前記ハウジング内に二酸化炭素を供給するCO供給口が形成されている請求項1又は2に記載の微生物培養システム。
【請求項4】
前記ハウジングには、前記担体で培養された微生物を剥離させて流下させるシャワー部が設けられている請求項1又は2に記載の微生物培養システム。
【請求項5】
天面部、底面部及び前記担体を配する側面部を有し内部空間が形成された箱状体で、少なくとも前記側面部に気体及び/又は液体を前記担体に向けて放出可能な孔又は網目が形成され、気体及び/又は液体を前記内部空間に給排する給排口が形成され、前記担体を前記孔又は網目を覆う部分に着脱させ得る気体/液体放出槽を備え、前記気体/液体放出槽が前記ハウジング内に設置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物培養システム。
【請求項6】
前記気体/液体放出槽の少なくとも前記側面部が微生物を付着して培養可能な前記担体を兼ねている請求項5に記載の微生物培養システム。
【請求項7】
前記装置本体には、前記気体/液体放出槽内の空気を吸引する吸引部が設けられている請求項5又は6に記載の微生物培養システム。
【請求項8】
前記担体及び前記気体/液体放出槽が前記ハウジング内に着脱自在なカートリッジを構成している請求項5から7のいずれか一項に記載の微生物培養システム。
【請求項9】
1以上の前記ハウジングが前記装置本体に着脱不能に一体的に形成されて設置部を形成し、
前記設置部に対して前記カートリッジが着脱自在である請求項8に記載の微生物培養システム。
【請求項10】
前記装置本体には、前記担体の表面に微生物を噴霧する噴霧部が設けられている請求項9に記載の微生物培養システム。
【請求項11】
微生物が、微細藻類である請求項1〜10のいずれか一項に記載の微生物培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化その他の地球環境保護への対策として、温暖化ガスの排出を可及的に抑える取り組み等が各国の産業界に強く求められている。クロレラ等の微細藻類や光合成細菌などの微生物は、COを排出しないでエネルギー生産が可能な資源その他の産業上利用可能な資源として非常に有望視されており、商業レベルでの活用及び効率的な製造に期待が寄せられている。
【0003】
クロレラ等の微細藻類をエネルギー資源その他の産業上の利用に供するためには、できるだけ低いコストで生産量を向上することが要求されるが、水中で微細藻類を大量培養する場合、大規模なプールやタンクを必要とする。したがって、用地の取得又は設備の大規模化による費用増大等の課題がある。
【0004】
そこで、土地を有効活用して簡易な設備で単位面積当たりの生産量の向上を図るために、鉛直に立てた担体表面に培養液を自然流下させ、その担体表面で微細藻類等の微生物を継続して増殖させ、自然流下した培養液中から連続的に微生物を回収する培養システムが提案されている(例えば、特許文献1)。この方式では担体表面の薄い水膜が従来法のプール水面に相当し、光(人工光)・炭酸ガス・栄養素を得て順調に光合成がなされる。この方式を格納したユニットでは、担体一枚が同一面積の水面と同等あるいは同等以上の培養量を得ることおよび担体の並列多層装備により同一床面積当たりでプールなどの従来法の10倍20倍の収穫を期待できる。
さらにこのユニットを上下に積層することで、床面積当たりで従来手法の100倍の培養量確保も期待できる。
量のみならず、現状では国内外の生産地が太陽光の豊富な地域に限られている立地制約を克服し、極地や地下さらには宇宙空間でも培養可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−153744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された培養システムは、担体を収容するアクリル管が培養液を供給する管及び流出液タンクの間に上下方向に組み立てられており、固相膜(担体)を交換等する際に、連結させている部品をいちいち分解しなければならないため、固相膜の取り出し又は交換を行い難いという問題があった。また、連結させている部品を分解し又組み立てる間及びアクリル管等のメンテナンス中に培養装置を稼働できないため、培養効率も低下するという問題があった。
そこで、本発明は、担体の交換及び担体の設置部品のメンテナンスが容易で、微生物の培養効率も高められる微生物培養システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)微生物を付着させ気相中に配置される担体の上から培養液を供給する培養液供給部と、前記担体から流出した前記微生物を含む培養液を貯留する流出液タンクとを備えた微生物培養システムであって、前記担体とハウジングとを有し、前記ハウジング内に前記担体及び前記培養液供給部を具備し、前記ハウジングに前記担体から滴下する培養液を排出させる排出口が形成され、前記ハウジング内で前記担体に付着させた微生物を培養可能なカセットと、前記カセットを着脱自在に装着させる設置部と、前記設置部に装着された前記カセットの前記培養液供給部に培養液を送る培養液の供給用配管と、前記排出口から排出された培養液を貯留する前記流出液タンクとが設けられた装置本体とを備えている微生物培養システムに関し、また、
(2)前記装置本体に、光照射部が設けられている(1)に記載の微生物培養システム、
(3)前記装置本体には、前記ハウジング内に二酸化炭素を供給するCO供給口が形成されている(1)又は(2)に記載の微生物培養システム、
(4)前記ハウジングには、前記担体で培養された微生物を剥離させて流下させるシャワー部が設けられている(1)又は(2)に記載の微生物培養システム、
(5)天面部、底面部及び前記担体を配する側面部を有し内部空間が形成された箱状体で、少なくとも前記側面部に気体及び/又は液体を前記担体に向けて放出可能な孔又は網目が形成され、気体及び/又は液体を前記内部空間に給排する給排口が形成され、前記担体を前記孔又は網目を覆う部分に着脱させ得る気体/液体放出槽を備え、前記気体/液体放出槽が前記ハウジング内に設置されている(1)から(4)のいずれか一に記載の微生物培養システム、
(6)前記気体/液体放出槽の少なくとも前記側面部が微生物を付着して培養可能な前記担体を兼ねている(5)に記載の微生物培養システム、
(7)前記装置本体には、前記気体/液体放出槽内の空気を吸引する吸引部が設けられている(5)又は(6)に記載の微生物培養システム、
(8)前記担体及び前記気体/液体放出槽が前記ハウジング内に着脱自在なカートリッジを構成している(5)から(7)のいずれか一に記載の微生物培養システム、
(9)1以上の前記ハウジングが前記装置本体に着脱不能に一体的に形成されて設置部を形成し、前記設置部に対して前記カートリッジが着脱自在である請求項8に記載の微生物培養システム、
(10)前記装置本体には、前記担体の表面に微生物を噴霧する噴霧部が設けられている請求項9に記載の微生物培養システム、
(11)微生物が、微細藻類である(1)〜(10)のいずれか一に記載の微生物培養システム、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微生物培養システムは、担体の交換及び担体の関連部品のメンテナンスが容易で、微生物の培養効率も高められるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る微生物培養システムを模式的に示した斜視図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る微生物培養システムの装置本体にカセットを装着した状態を示した斜視図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る微生物培養システムの担体固定部材を示した分解斜視図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る微生物培養システムの担体固定部材の縦断面図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る微生物培養システムのカセットを模式的に示した斜視図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る微生物培養システムを模式的に示した概略斜視図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る微生物培養システムの設置部の蓋部を開けて内部を示した正面図である。
図8図7をX−X線で矢視した断面図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る微生物培養システムを模式的に示した正面図である。
図10】本発明の第3の実施形態に係る微生物培養システムのカセットを模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の微生物培養システムの第1の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、装置本体3から2つのカセット2を取り出した状態を示した斜視図であり、図2は、装置本体3に4つのカセット2をセットした状態を、説明の便宜上、一つのカセット2の内部を透視して示した斜視図である。
【0011】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る微生物培養システム1Aは、外部と略遮断された一つの微生物培養ルームが形成されたカセット2と、カセット2に微生物の培養に必要な培養液等を供給する装置本体3とを備えている。そして、図2に示すようにカセット2を装置本体3に装着することで微生物の培養可能状態となるよう構成されている。
【0012】
図1に示すように、カセット2は、担体固定部材5と、担体6と、担体6に培養液を供給する培養液供給部7と、これら全てを収容するハウジング8とを備えている。
図3に示すように、担体固定部材5は、矩形の天面部5a、底面部5b、及び天面部5aの四辺と底面部5bの四辺との間に亘って延在する側面部5c,5c,5d,5dにより偏平な直方体の箱状(箱状体)に形成されている。
側面部5c,5c,5d,5dの少なくとも一部(本実施形態では、担体固定部材5を偏平形状にしている互いに対向する側面部5c,5c)は、担体6を配する第1の網部材10により形成されている。
【0013】
天面部5a、底面部5b及び側面部5d,5dは、通気及び通液不能な平板部材により矩形に形成されている。
第1の網部材10を備えた側面部5c,5cと、天面部5a、底面部5b及び側面部5d,5dとは、隙間なく密着し、側面部5cの網目のみから気体及び/又は液体を放出するようになっている。
第1の網部材10には、不図示の固定具が設けられ、第1の網部材10全体を覆うように担体6を配置可能になっている。
【0014】
第1の網部材10は、特に限定されないが、ステンレス等の非溶出金属;ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂等の樹脂;カーボン等からなるネットにより形成されている。
網目の大きさは、0.5mm〜10mmのものを用いることができ、1mm〜5mmが好ましい。
【0015】
なお、第1の網部材10は、側面部5cの一部に設けられていてもよい。その場合、第1の網部材10以外の部分は、液密又は気密な部材により形成される。
また、側面部5cには、第1の網部材10に代えて細かい多数の孔が形成された平板部材が用いられていてもよい。この場合、孔の形状は、特に限定されないが、例えば側面部5cの厚さ方向に一定の径寸法の円形に形成されてもよい。なお、孔は、側面部5cの裏面から表面に向けて徐々に拡径するテーパ状に形成されていてもよい。
【0016】
図4に示すように、底面部5bには、気体及び/又は液体を担体固定部材5の内部空間へ導入するとともに担体固定部材5を立脚させる配管12が設けられ、配管12の内孔が担体固定部材5の内部と連通している。
これにより、配管12から気体及び/又は液体を導入して第1の網部材10の網目から担体6に向かって気体及び/又は液体を放出できるようになっている。このように、担体固定部材5は、全体として気体/液体放出槽を構成している。
【0017】
図3に示すように、担体6は、網目又は孔が形成された側面部5cに配置され、微生物を培養する基材である。
担体6の素材は、微生物が付着できるとともに、上方から供給された培養液を内部に浸透させつつ流下させることが可能なものであれば特に限定されず、例えば、綿ブロード、リント布等からなる薄膜や、多孔質状の薄板等の内部に空隙を有する部材からなるものが挙げられる。微生物の大きさが数ミクロンから10数ミクロンであることから、これらが付着し増殖しやすい微細な突起または菌体の数倍程度の直径の孔を有する材が望ましい。
【0018】
微生物の中には、光量の少ない空間に生息するものもあるので、担体6を二重にして生息領域を確保することが好ましい場合もある。したがって、微生物の特性に応じて、上記の材質を組み合わせたハイブリッド構造の担体6も好ましい。
【0019】
具体的には、担体6は、単位面積当たりの保水量が0.2g/cm以上であるものを好適に用いることができる。本発明では、担体6の単位面積当たりの保水量が0.25g/cm以上であるものが好ましく、0.3g/cm以上であるものがより好ましい。
なお、本明細書において、担体6の「保水量」は、下記の保水性試験で測定される値を意味する。
【0020】
[1]保水量を測定するサンプルを3cm×26cmの大きさで用意し、乾燥重量を測定する。
[2]十分な量の水道水を入れた容器にサンプルを入れ3分間放置し、サンプルに十分に水を含ませる。
[3]ピンセットを使ってサンプルを容器から取り出し、持ち上げた状態で5秒間水が垂れ落ちるのを待って水を切る。
[4]水を含んだサンプルの重量を測定した。この時点で水が垂れても、垂れた水を含めた重量を測定する。
[5][4]で測定した重量からサンプルの乾燥重量を引き、サンプル1cmあたりに含まれる水の量を算出する。
測定は各サンプルにつき5回ずつ行い、平均値を「保水量(g/cm)」とする。
【0021】
担体6の具体例としては、撚糸又は無撚糸のパイル地等が挙げられ、無撚糸のパイル地が好ましい。パイル地の素材としては特に限定されず、具体的には綿、絹、毛、アクリル、ポリエステル等が挙げられる。
【0022】
なお、必須ではないが、本実施形態では、担体6の保護部材となる第2の網部材11が担体6の表面を覆うように配されている。第2の網部材11は、メッシュ状の部材により形成されている。第2の網部材11の素材及び網目の大きさは、第1の網部材10と同様のものを用いることができる。第2の網部材11は、担体6を保護するとともに、通過した気体又は水流の勢いを抑えつつ微生物の飛散を防止する目的で配されるものであるため、第1の網部材10よりも網目が大きく形成されていてもよい。
【0023】
図5に示すように、培養液供給部7は、培養液を放出して担体6の全体に供給するための部材であり、培養液の導入部7a及び導出部7bを備え、管状に形成されている。
培養液供給部7は、担体6の上方に位置するようにハウジング8の天板8aの下面に配されている。培養液供給部7の供給孔7hは、担体6に向けて、すなわち鉛直下方に向けられている。
【0024】
培養液供給部7の培養液の供給能力は、培養液の担体6中の流下速度を5mL/h/m以上から6000mL/h/mまでとし得るものであることが望ましい。この変動幅は微生物の増殖に応じたものである。たとえばクロレラにおいては成長して4分裂し、16時間でそれぞれが分裂前の大きさに成長する。分裂当初は、養分は少量で足りるが成長期には十分に与えることが必要である。これにより、微生物の周囲を常に新鮮な培養液で満たして増殖を維持しつつ、微生物を培養液とともに連続して流下させることができる。また、随時、培養液の流速を変化させたり、担体6に振動等の衝撃を与えたりすることにより、担体6に付着している微生物の表層部を強制的に落下させると、下層部の光合成が活発になり増殖し回収量を増加させることができる。
【0025】
微細藻類等の微生物の安定した細胞増殖を維持し、ガス(CO)交換をしやすくするために必要な最小限の水分及び/又は養分を与えるためには、植え付け量にもよるが、0.5m以上の担体6の場合は、当初は1000mL/h/m以上、その後は徐々に増加させ5000mL/h/mの流速で培養液を流すことが必要である。このため、培養液の流速が1500mL/h/mに至るまでは、流速の増加に伴い微生物の流出量も上昇するが、6000mL/h/m以上では流出量の伸びは鈍化する。好ましくは1500mL/h/m以上である。なお、培養液の流速は、担体6の表面の任意の箇所において測定した値である。
【0026】
一方、流速が大きすぎると、微細藻類等の微生物が担体6に固着し難くなり、増殖率が低下する、養液相が厚くなりCOの交換が行い難くなる、又は物理的刺激により微生物等の微生物にストレスがかかる、といった問題が生じる。
なお、担体6が無撚糸のパイル地により形成されている場合には、担体6に微生物が強固に付着しやすく、微生物の育成が促進されるため、上記に示した以上の流速で培養液を供給することができる。
【0027】
培養液としては、微生物を通常の方法により培養して、微生物の濃度を高めることが可能な培地の希釈液であれば、特に制限されず、培地としては、例えばCHU培地、JM培地、MDM培地などの一般的な無機培地を用いることが出来る。さらに、培地としては、ガンボーグB5培地、BG11培地、HSM培地の各種培地の希釈液が好ましい。無機培地には、窒素源としてCa(NO・4HOやKNO、NHClが、その他の主要な栄養成分としてKHPOやMgSO・7HO、FeSO・7HOなどが含まれる。また、培地には、微生物の生育に影響を与えない抗生物質等を添加してもよい。培地のpHは4〜10が好ましい。また、可能な場合には、各種産業から排出される廃水等も利用してよい。
【0028】
ハウジング8は、天板8a、底板8b、左右側板8c、前面板8d及び後面板8eを有し、直方体形状に形成されている。ハウジング8の材質は特に限定されないが、ガラス、アクリル、ポリスチレン、塩化ビニル等の透明又は透光性を有する材質により形成されている。
天板8aには、培養液の回収口15が設けられ、この回収口15に培養液の導出部7bが挿通されている。
後面板8eには、培養液の導入口16が設けられ、この導入口16に培養液の導入部7aが挿通されている。また、後面板8eには冷却エア供給口17が形成されている。
【0029】
底板8bには、気体又は液体の給排口18が形成され、配管12が挿通されている。
底板8bの気体又は液体の給排口18の前面板8d側には、担体6から流下した培養液をハウジング8の下方に排出する培養液排出口19が形成されている。
底板8bの給排口18よりも後面板8e側には、CO供給口20が形成されている。CO供給口20は、詳細を図示しないが、底板8bに溜まる培養液が流入しない構造になっている。
前面板8dには、適宜開口可能な排気口21が形成されている。
【0030】
このようにして、カセット2は、ハウジング8の内部において培養液供給部7に培養液を送り込むことにより培養液を担体6の上端に流しながら担体6において微生物を培養できるようになっている。そして、カセット2は、担体6から流下した培養液を培養液排出口19から排出して後述する培養液の循環用配管31に流すことにより、培養液を循環させつつ連続的に微生物を培養できるようになっている。
【0031】
また、カセット2は、冷却エア供給口17及び排気口21を通して、必要に応じてハウジング8内に冷却エアやCOを送入及び排出できるようになっている。そして、カセット2は、微生物を一定量培養した後、給排口18から気体/液体放出槽をなす担体固定部材5内に気体又は液体を供給し、第1の網部材10を通して気体又は液体を担体6に吹き付けて培養された微生物を担体6から剥離して回収できるようになっている。
このように、カセット2は、ハウジング8の内部で微生物の培養及び回収の全ての工程を行うことができるようになっている。
【0032】
図1に示すように、装置本体3は、一以上(本実施形態では4つ)のカセット2を装着できる外装体30と、外装体30の外側に設けられた後述する各種配管と、外装体30の内側に設置された光照射部(光源)38と、流出液タンク41とを備えている。
【0033】
外装体30は、正面側が開口し、カセット2を1以上並べて図2に示すように設置することができる内部空間S2が設けられた略直方体の筐体であり、天面板30a、底面板30b、側面板30c,30c、背面板30dにより形成されている。
内部空間S2は、一つのカセット2を装着可能な設置部S1を一以上(本実施形態では4つ)有している。
設置部S1は、カセット2が入る幅、高さ及び奥行きを有してカセット2の幅方向に配列するように設けられている。
外装体30には、設置部S1毎に以下の各種配管及び部材が設けられている。
【0034】
外装体30の底面板30bには、カセット2のハウジング8に形成された気体又は液体の給排口(供給部,吸引部)18、培養液排出口19及びCO供給口20に対応して連通する開口部が形成されている。
気体又は液体の給排口18に対応する開口部には、担体固定部材5の内部に気体又は液体を給排する給排用配管32が取り付けられている。培養液排出口19に対応する開口部には、培養液排出口19から流出液タンク41に培養液を流す循環用配管31が取り付けられている。CO供給口20に対応する開口部には、ハウジング8内にCOを供給するCO供給用配管33が取り付けられている。
【0035】
ハウジング8内には、1〜40%程度のCOを含有する混合空気が充填されるが、CO供給用配管33から更にCOを補充できるようになっている。1〜10%程度のCOを含有する混合空気中であれば、多くの微細藻類等の微生物に良好に光合成を行わせることができる。なお、大気を通気する場合でも微生物の増殖は、速度は遅くなるが、可能である。
【0036】
或いは、担体固定部材5内に1〜99%程度のCOを含有する混合空気を微加圧状態で定量供給し、担体6に内部よりCOを吸収させ、またハウジング8内に大気を制御、導入させることにより、大気の導入だけで運転適切温度に管理することができ、COの排出ロスも抑えることができる。
CO供給用配管33からの充填以外の方法によってハウジング8内にCOを充填することも可能であるので、CO供給用配管33は必須ではないが、具備していることが好ましい。
【0037】
背面板30dには、開口孔が形成され、不図示の冷却エアの供給配管と接続された冷却エア用継手34が取り付けられている。また、背面板30dには、不図示の培養液タンクから培養液を送り培養液供給部7に供給する液供給管(培養液の供給用配管)37が挿通されている。なお、不図示の冷却エアの供給配管及び液供給管37は、背面板30dの外側に取り付けられている。
天面板30aの外側には、培養液の回収口15に連通する回収用配管36が設けられている。
【0038】
天面板30aの下面と底面板30bの上面には、設置部S1,S1同士の間に位置するように棒状の光照射部38が外装体30の開口部39側から背面板30dに向かって配置されている。
光照射部38は、カセット2を設置部S1内に挿入する際のガイド部材になっていてもよい。
外装体30に設けられた循環用配管31及び培養液供給部7からの培養液を回収する回収用配管36は、それぞれ培養液を供給する液供給管37に接続され、培養液を循環できるようになっている。
【0039】
以上のようにして構成された装置本体3に、カセット2が着脱自在に装着できるようになっている。すなわち、後面板8e側を外装体30の背面板30dに向けてカセット2を挿入し、所定の位置に設置することで、前述した対応関係にある配管及び開口部若しくは継手などがそれぞれ接続し、またカセット2を引き出すとそれぞれの接続が解除されるようになっている。
具体的には、カセット2を装置本体3の設置部S1に挿入すると、培養液供給部7が液供給管37及び回収用配管36に接続し、給排口18に給排用配管32が嵌着し、培養液排出口19に循環用配管31が嵌着し、CO供給口20にCO供給用配管33が嵌着し、冷却エア供給口17が冷却エア用継手34に接続する。
装置本体3は、設置部S1ごとに微生物培養システムを駆動できる制御部を有しており、カセット2毎に微生物の培養を開始できるようになっている。
【0040】
微生物培養システム1Aで培養対象とする微生物は特に限定されず、例えば、クロレラ(系統学的に分けられたパラクロレラを含む)、セネデスムス、ボトリオコッカス、スティココッカス、ナンノクロリス、デスモデスムス、ナンノクロロプシス等の微細藻類等が挙げられ、より具体的には、Chlorella kessleri、Chlorella vulgaris、Chlorella saccharophila等のクロレラ;分子系統解析によりトレボキシア藻網として分類されるParachlorella kessleri(Chlorella kessleri);セネデスムス属に属するSenedesmus obliquus;スティココッカス属に属するStichococcus ampliformis、ナンノクロリス属に属するNannochloris bacillaris;デスモデスムス属に属するDesmodesmus subspicatus;ナンノクロロプシス属に属するNannochloropsis oculata等が挙げられる。その他、珪藻やトレボキシア、シュードコリシスティス、ユーグレナ、ヘマトコッカス又はスピルリナ(アルスロスピラ)などのシアノバクテリア、更にはガルディエリアなどの紅藻や緑藻も可能である。また、この中には、遺伝子組換えしたシアノバクテリアや微細藻類も含まれる。また、微生物培養システム1Aを用いて、例えば、オーランチオキトリウム等の光合成を行わない卵菌類を、有機廃液を用いて培養することも可能である。
【0041】
本発明においては、培養対象とする微生物は光合成微生物であることが好ましく、その場合、微生物培養システム1Aは光照射部38が必須である。
なお、微生物培養システム1Aを用いて光合成を行わずに増殖できる微生物を培養する場合は、光照射部38はなくてもよい。
【0042】
次に、微生物培養システムの使用方法、作用及び機能について説明する。
微生物培養システムを使用するには、予め微生物を付着させておいた担体6を担体固定部材5に固定したカセット2を、装置本体3の設置部S1に挿入して確実に装着する。
なお、担体6に微生物を付着させる方法としては、予め微生物を付着させておいた脱脂綿等を担体6の上においておく方法がある。微生物の付着は、担体6に直接滴下あるいは塗布してもよい。
【0043】
この際、装置本体3を駆動して給排用配管32を通して担体固定部材5内を負圧にし、第1の網部材10を通して担体6内の気体を吸引し、微生物の担体6への付着を確実にしておいてもよい。担体固定部材5は、このように微生物の担体6への担持のための装置(吸引部)としても使用することができる。
【0044】
制御部を操作して、装置本体3を駆動し、CO供給用配管33よりハウジング8内に下から上に向けて1〜40%程度のCOを含む空気を送入する。また、不図示の培養液タンクから液供給管37を介して培養液供給部7に培養液を送出し、担体6中を5mL/h/m以上の速度で流下するように培養液供給部7から培養液を連続的に供給する。光照射部38からは、380〜780nmの波長の赤色光を照射する。光照射は、限定されないが、例えば植付当初は15−40μmolm−2−1程度の弱い光量とし、成長に従って100−150μmolm−2−1程度まで増量する。また、光合成生物の夜間に分裂をするという特性から、増殖初期には消灯時間を設けることも好ましい。この際、担体6表面の液温および気温は、33〜37℃になるように、断続的に冷却エアをハウジング8内に供給する。
【0045】
一定時間が経過すると、担体6に培養液が行き渡る。培養液供給部7から更に培養液を供給すると、担体固定部材5の側面部5cに固定された担体6が培養液を介して側面部5cに密着し、この状態で微生物が培養される。
【0046】
その後、一定量の微生物が培養される時間が経過したら、担体固定部材5内に一定の圧力で気体を送入する。気体の送入は、微生物が振動し得るように小刻みにしてもよい。そうすると、第1の網部材10から担体6の厚さ方向に送入される気体により微生物が振動して、付着している担体6の表面から分離して培養液と共に流下し、担体6の下端から培養液が図1に示す流出液タンク41に流れ落ちる。
この際、培養液供給部7から担体6の表面に培養液を吹き付け又は勢いよく流して、微生物の剥離を促進するとより効率的に微生物を流下させることができる。
【0047】
担体6から流下した微生物は、培養液と共にハウジング8の底板8bに溜まり、培養液排出口19から循環用配管31に流れ込み、図1に示す流出液タンク41に溜められる。そして、流出液タンク41内で下方に徐々に沈殿し、微生物を殆ど含まない上清液と微生物の濃度が高い液とに分けられ、微生物が沈殿して濃度が高い液が不図示の収穫容器に取り込まれ、遠心分離などで水と微生物とに分離される。
流出液タンク41内に溜められた上清液は、ポンプにより汲み上げられ、不図示の循環流路を経由して培養液供給部7に再供給され、担体6に繰り返し放出される。
【0048】
微生物を含む培養液が培養液供給部7に再供給されることにより、不図示の培養液タンクからの培養液の供給が調整され、不図示の養分補給タンクから必要な養分が培養液供給部7に適宜供給され、培養液と共に担体6に放出される。
また、分裂成長速度に応じて、定着している微細藻の表層を流下させることで下層部の光合成が活性化され、分裂増殖が始まる。
以上の動作を繰り返すことにより、微生物を連続的に培養しつつ、培養された微生物を収穫する。
【0049】
所定時間連続的に微生物を培養した後は、担体6や担体固定部材5等を含みカセット2を保守および点検する必要が生じるので、保守および点検をしたいハウジング8の設置部S1について装置本体3の稼働を一時停止し、設置部S1からカセット2を引き出しつつ取り出す。カセット2が取り出された設置部S1には、予め用意しておいた新たなカセット2を装着して、装置本体3を再稼働して培養を開始することができる。その間に連続使用したカセット2を保守及び点検する。
【0050】
このように、本発明の微生物培養システム1Aは、微生物を培養するカセット2を装置本体3から着脱自在であるため、微生物を培養するための各種部品の保守及び点検が非常に簡便となるという効果を奏する。
【0051】
また、微生物培養システム1Aは、カセット2を設置部S1に挿入するだけで、各種配管とカセット2の対応部品が連結して微生物の培養を開始できる状態となり、装置本体3の稼働を停止して引き出すだけでカセット2を装置本体3から容易に取り出すことができる。したがって、微生物培養システム1Aは、装置本体3に対するカセット2の着脱が非常に簡便であるという効果を奏する。
【0052】
また、微生物培養システム1Aは、カセット2単位で微生物を培養する空間を適度に区切っているため、微生物を培養するハウジング8の内部の滅菌、温度その他の諸条件の管理を容易に行うことができるという効果を奏する。また、カセット2単位で微生物を培養する空間を区切っていることでハウジング8内の保温力が高まり、担体6の表面温度を一定に保ちやすくなるという効果が得られる。
【0053】
また、微生物培養システム1Aの装置本体3は、カセット2ごとに稼動又は制御できるようになっているため、各カセット2における微生物の培養状況に応じて効率よく微生物を培養することができるという効果を奏する。また、微生物培養システム1Aは、一つのカセット2について保守又は点検等を行う場合であっても、他のカセット2を稼動させておくことができるため、微生物培養システム1Aの稼動を効率よく行うことができるという効果を奏する。
【0054】
また、微生物培養システム1Aの装置本体3は、カセット2,2同士の間に側壁等を設ける必要がなく、設置部S1を収容するカセット2の数に応じた広さで形成しておけばよいため、設置部S1内の保守及び点検も簡便に行うことができるという効果を奏する。なお、装置本体3の設置部S1同士の間には、これらの間を区切る壁部を設けても構わない。また、外装体30の開口部39を開閉する蓋部又は扉が設けられていてもよい。
【0055】
また、担体固定部材5を気体/液体放出槽としているため、担体固定部材5から担体6に空気を放出することにより、増殖した微生物を振動又は風圧等により分離させて、効率的に微生物を回収することができる。したがって、本発明の微生物培養システム1Aによれば、微生物培養システム1Aの稼働を中断することなく微生物を培養しつつ回収できるため、微生物の生産効率を高めることができる。
【0056】
微生物培養システム1Aは、第2の網部材11により、担体6を保護し、かつ、担体6の裏面(一方の面)から表面(他方の面)に向けて気流又は水圧等を送出した際に、担体6において培養された微生物が飛散することを抑えることができる。したがって、微生物培養システム1Aは、ハウジング8への微生物の付着を抑えてハウジング8による光の透過を良い状態に維持しやすいという効果を奏する。
【0057】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態において第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
微生物培養システム1Bは、微生物培養システム1Aにおけるカセット2のハウジング8が装置本体3に固定され又は一体成形され、外装体30がハウジング8を兼用している。装置本体3に着脱自在に設けられるのは、担体固定部材5及び担体6であり、これらがカセット2に代わるカートリッジ40を構成している点で、微生物培養システム1Bは、微生物培養システム1Aと相違している。
【0058】
図6は、装置本体3からカートリッジ40の一つを取り出した状態を示す斜視図であって、装置本体3の内部のガイドレール42や光照射部38等の一部の部材を省略して概略を示した斜視図である。
図6に示すように、カートリッジ40は、担体固定部材5と、担体6とを備えている。
担体固定部材5の一方の側面部5dには、取っ手Tが間隔を空けて2つ設けられており、底面部5bに脚部を兼用する被ガイド部材43が設けられている。
【0059】
装置本体3は、第1の実施形態のカセット2のハウジング8を一体化させた外装体30と不図示の制御部とを有しており、設置部S1を形成するとともに、培養液供給部7等の微生物の培養に必要な部材を配備している。
外装体30の材質は特に限定されず、ガラス、アクリル、ポリスチレン、塩化ビニル等の透明なもの又は金属板等が挙げられる。
【0060】
本実施形態では、装置本体3に設置部S1が3つ並んで設けられており、各設置部S1に培養液供給部7、流出液タンク41、配管12との接続継手32aが別個に設けられ、制御部により設置部S1毎に個別に駆動できるようになっている。
なお、流出液タンク41から抽出される微生物を高濃度に含む培養液を受ける不図示の収穫容器は、設置部S1ごとに設けられていても、複数の設置部S1に共通に設けられていてもよい。
【0061】
設置部S1は、図7に示すように、天面板30a、底面板30b、両側面板30c,30c及び背面板30dにより、カートリッジ40の形状に合わせ、各種部材を配することができる大きさに形成された略直方体型の凹所であり、手前側が開口部39となっている。開口部39には、不図示の蓋体が配され、開口部39を開閉できるようになっている。
図7又は図8に示すように、設置部S1には、少なくとも、培養液供給部7、流出液タンク41及び担体固定部材5に気体及び/又は液体を供給する配管12と給排用配管32とを接続する接続継手32aが配備されている。
【0062】
天面板30aには、培養液供給部7が不図示の固定部材により固定されている。培養液供給部7は、不図示のタンクに接続した配管37に接続されており、培養液が連続的に供給されるようになっている。
【0063】
背面板30dには、配管12を接続する接続継手32aが設けられている。
給排用配管32には、不図示の開閉弁が取り付けられており、担体固定部材5の内部空間S3内に気体を送入しない場合には閉弁し、気体を送入する場合にのみ開弁できるようになっている。また給排用配管32は、不図示のコンプレッサに接続されており、所望の圧力で担体固定部材5内に気体を送入できるようになっている。
担体固定部材5から担体6に送り込む気体としては、1〜10%程度のCOを含有する混合空気であるとよい。
【0064】
図6及び図7に示すように、設置部S1の底面板30bには、二酸化炭素を設置部S1内に供給するCO供給用配管33が突出している。CO供給用配管33は、2つの流出液タンク41を挟むように、すなわち担体固定部材5に配置された2つの担体6にCOが行き渡りやすいように、設置部S1内に2つに分かれて設けられている。COは下から上に吹き込まれるようになっている。CO供給用配管33から送出するCOの濃度等は第1の実施形態で説明したとおりである。
【0065】
図7に示すように、底面板30bには、設置部S1の開口部39側から奥側に向かって(図7では紙面奥行き方向)延びるガイドレール42が配置されている。ガイドレール42は、担体固定部材5に設けられた被ガイド部材43を嵌合させてカートリッジ40を開口部39側から奥側に又はその逆方向に摺動させるようになっている。
【0066】
流出液タンク41は、担体6の下端から流出した微生物を含む培養液の貯留槽である。本実施形態では、流出液タンク41は、ガイドレール42の両側に分かれてガイドレール42に略平行に2つ形成されており、流下する培養液を受けられるように上方に開口している。
担体6から流出した微生物を含む培養液は、流出液タンク41内において微生物を高濃度に含む沈殿と、微生物を殆ど含まない上清である培養液とに分離される。流出液タンク41内で分離された上清は、微生物を含んでいてもよい。
【0067】
流出液タンク41内で沈殿した微生物を高濃度に含む培養液は、流出液タンク41の底面に設けられた循環用配管31を経由して、設置部S1の外に設けられた不図示の収穫容器に収容される。
また、流出液タンク41で分離された培養液(上清液)は、ポンプを有する不図示の循環流路によって回収され再度担体6に供給される。
【0068】
光照射部38は、担体6の全面に光を照射する部材であり、例えば、光源として板状をなす蛍光灯、有機EL又はLED等あるいは自然光を導光した光照射部を備えており、適宜、増殖に適した波長や光量を有する光を照射するように構成している。特に限定されないが、本実施形態では、LEDを用いて棒状に形成された光照射部38が、担体6を形成している4辺に略沿って、設置部S1の側面板30c,30cに枠状に配置されている。
【0069】
図6及び図7に示すように、本実施形態の設置部S1の天面板30aからは、必須ではないが、冷却用の配管45が突出しており、設置部S1内の温度を調整できるようになっている。
また、図7及び図8に示すように、本実施形態の設置部S1の上部には、必須ではないが、担体6で培養された微生物を流下させるシャワー部46が設けられている。シャワー部46の液体の噴射部分は、担体6の幅方向全体に水等を噴射できるようになっている。
また、本実施形態の設置部S1には、必須ではないが、担体6に微生物を吹き付ける噴霧部47が設けられている。噴霧部47は側面を上下又は左右(本実施形態では上下)に移動して担体6の全体に微生物を噴霧できるようになっている。
【0070】
次に、微生物培養システム1Bの使用方法及び作用について説明する。
本発明の微生物培養システム1Bの使用を開始するには、担体6を担体固定部材5の両側面部5c,5cに固定する。
図6に示すように、担体6を配したカートリッジ40は、取っ手Tを持って設置部S1内に収容する。この際、カートリッジ40の底面部5bに設けられた被ガイド部材43を図7に示すように設置部S1の底面板30bに設けられたガイドレール42に嵌合させ、設置部S1内へと摺動させる。接続継手32aに配管12が嵌合したところでカートリッジ40が設置部S1内に完全に収まり、培養液供給部7の真下に担体6の上端部が位置し、担体6の下端部が流出液タンク41の上に位置する。
【0071】
そこで、装置本体3を駆動すると、まず、微生物の噴霧部47が駆動し、担体6に微生物を噴霧する。この際、同時又はその後に、担体固定部材5内を吸引して負圧にし、第1の網部材10を通して担体6内の気体を吸引する方法を更に用いてもよい。なお、設置部S1内に噴霧部47を備えていない場合は、図7に示す担体6の上に載置しておいた脱脂綿等に予め微生物を付着させておく。微生物の付着は、担体6に直接滴下あるいは塗布してもよい。
【0072】
CO供給用配管33から設置部S1内へのCOを含む空気の送入、培養液供給部7から担体6への培養液の供給、赤色光の照射、担体6表面の液温及び気温の調整方法は、第1の実施形態の微生物培養システムと同様である。
【0073】
一定量の微生物が培養されたら、担体固定部材5内に一定の圧力で気体を送入する。気体の送入は、微生物が振動し得るように小刻みにしてもよい。そうすると、担体固定部材5から担体6の厚さ方向に送入される気体により微生物が振動して、付着している担体6の表面から分離して培養液と共に流下し、担体6の下端から培養液が流出液タンク41に流れ落ちる。
この際、図7及び図8に示すシャワー部46から水又は培養液などの液体を担体6の表面に給液して、微生物の剥離を促進するとなお効率的に微生物を流下させることができる。
【0074】
担体6から流下した微生物は流出液タンク41の培養液中に沈殿し、流出液タンク41の下方に接続された循環用配管31を通じて不図示の収穫容器に取り込まれる。
一方、流出液タンク41内に溜められた微生物の一部を含む培養液の上清液は、ポンプにより汲み上げられ、不図示の循環流路を経由して培養液供給部7に再供給され、担体6に繰り返し放出される。
【0075】
微生物を含む培養液が培養液供給部7に再供給されることにより、不図示の培養液貯留タンクからの培養液の供給が調整され、不図示の養分補給タンクから必要な養分が培養液供給部7に適宜供給され、培養液と共に担体6に放出される。
また、分裂成長速度に応じて、定着している微細藻の表層を流下させることで下層部の光合成が活性化され、分裂増殖が始まる。
以上の動作を繰り返すことにより、微生物を連続的に培養しつつ、培養された微生物が収穫される。
【0076】
連続して微生物を培養した後、担体6を取り出して保守及び点検等をしたい場合には、メンテナンスをしたい設置部S1についてのみ、装置本体3の稼働を一旦停止して設置部S1の蓋部を開き、カートリッジ40の取っ手Tを持ってカートリッジ40を引き出しつつ設置部S1から取り出す。その後、予備として用意しておいた新たなカートリッジ40を設置部S1に装着して、蓋部を閉じ、装置本体3を駆動して再び培養を開始することができる。その間に、連続使用したカートリッジ40を保守及び点検等をすることができる。
【0077】
このように構成した本実施形態に係る微生物培養システム1Bによれば、装置本体3の設置部S1の蓋部を開けてカートリッジ40を引き出すだけで、容易にカートリッジ40を設置部S1から取り外し、保守及び点検等をすることができる。また、不図示の蓋部を開けてガイドレール42と被ガイド部材43とを嵌合させ、ガイドレール42に沿って設置部S1にカートリッジ40押し込むだけで、カートリッジ40を非常に簡単に培養開始が可能な位置に設置することができる。
したがって、微生物培養システム1Bは、カートリッジ40を極めて容易に着脱することができるという効果を奏する。また、微生物培養システムは、稼働停止時間を短時間に抑えて装置の稼働率を高めることができるという効果を奏する。
【0078】
また、微生物培養システム1Bは、設置部S1毎にCO供給用配管33及び冷却用配管45が設けられているため、設置部S1毎のCO濃度及び温度の調整が非常に簡便となるという効果を奏する。
また、微生物培養システム1Bは、微生物の噴霧部47を有しているため、カートリッジ40を設置部S1内に設置したまま必要な微生物の付着を行うことができるという効果を奏する。
【0079】
このように、微生物培養システム1Bは、担体6において微生物を培養するのに必要な主要な手段を設置部S1内に全て備えているため、設置部S1からカートリッジ40を出し入れしつつ微生物の培養に必要な各ステップを行うことを回避して、極めて容易に微生物を培養することができるという効果を奏する。
その他、微生物培養システム1Bは、微生物培養システム1Aと共通する構成に関して共通の作用、機能及び効果を奏する。
【0080】
以上のとおり、微生物培養システム1A,1Bについて、偏平面を成す側面部5c,5cに第1の網部材10及び第2の網部材11を設けた例を示したが、他の側面部5d、天面部5a及び底面部5bのいずれかにも第1の網部材10及び第2の網部材11が設けられていてもよい。微生物を気体等で流下させやすいことを考えると、少なくとも側面部5c,5cに第1の網部材10及び第2の網部材11が設けられていることが好ましい。また、第2の網部材11は、必ずしもなくてもよい。
【0081】
また、上記各実施形態においては、担体固定部材5から気体を放出可能な例を示したが、担体固定部材5から液体を放出して担体6に付着した微生物を剥離してもよい。
また、微生物培養システム1A,1Bは、側面部5cを担体6として兼用していてもよい。
【0082】
担体6を兼用する側面部5cは、第1の網部材10と同様の素材により形成可能である。担体固定部材5の表面は、微細藻類が付着しやすいように粗面となる加工がされていることが好ましい。
担体6を兼用する側面部5cが以上のように形成された微生物培養システム1は、網目内において微生物が増殖可能となり、筐体状に形成された担体固定部材5の内部空間S3に気体を送入することで、網目を形成する面に増殖した微生物を担体固定部材5から分離させ流下可能となる。
【0083】
本発明の微生物培養システム1A,1Bは、このような構成によっても、上記実施形態にて例示した作用、機能及び効果を奏する上に、構成がシンプルとなる。
また、担体固定部材5としては、個別の設置部S1に収容可能である限り、直方体形上のものに限らず、上面視多角形その他円筒形状の中空の筒状であってもよい。
【0084】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態において第1又は第2の実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
本実施形態の担体固定部材60は、内部から気体又は液体を放出可能な第1及び第2の実施形態の気体/液体放出槽5を用いずに、担体6を保持する機能をメインとした部材を用いている点で、第1又は第2の実施形態と異なっている。また、担体6の表面をハウジング8の側板8cに対して角度をなすように斜め上方に向けて配している点で第1及び第2の実施形態と異なっている。
【0085】
具体的に、カセット2aの担体6は、図9及び図10に示すように、ハウジング8の側板8cに対して角度が形成されるように表面を斜めに向けるとともに、一方の側板8cとこれに対向する側板8cとに交互に上面の向きを変えながら、天板8aから底板8bに向けて延びるようにジグザグに配置されている。更に、上側に位置する担体6の下端縁の真下に下側に位置する担体6の表面を位置させ、上方の担体6から滴下する培養液を下方の担体6の表面が受けられるように配置されている。
【0086】
担体固定部材60の構成は、担体6が前述のように固定可能ならば特に限定されないが、本実施形態ではハウジング8内の四隅の近傍に鉛直方向に立てられた棒状の脚部材61と、脚部材61,61間にジグザグに架けられた棒状の保持部62とを有したものが用いられている。保持部62,62同士の角度は、特に限定されるわけではないが、本実施形態では90度に設定されている。
【0087】
培養液供給部7は、最上部に配された担体6の表面の真上に配置されている。
光照射部38は、ハウジング8の側板8cの近傍であって、担体6の上方を向く表面に正対し得る位置、すなわち光照射部38からの光が担体6の上方を向く表面の少なくとも一部に垂直に照射され得る位置に配置されている。
カセット2bは、カセット2aと略同様に形成されているが、担体固定部材60、担体6及び培養液供給部7の位置が、カセット2a,2bの正面視で、カセット2aの担体6と左右対称になるように配されている。
【0088】
以上のようにカセット2a,2b内に担体6をその表面が下方に傾斜するように設けることにより、培養液を担体6の表面に十分に留まらせて染み込ませつつ流すことが可能となるという効果を奏する。
また、隣り合うカセット2a,2bの担体6,6間に光照射部38を設置することでいずれの担体6にも正対させつつ効率よく光を照射することができるという効果を奏する。なお、光照射部38は、1つの担体6に1つだけ設けた例を示したが、複数設置してもかまわない。
【0089】
以上、第3の実施形態の微生物培養システム1Cについて説明したが、第3の実施形態の微生物培養システム1Cの態様は前述したものに限定されるものではない。例えば、前述の微生物培養システム1Cでは隣り合うカセット2a,2bの担体6及び担体固定部材60等が左右対称になるように設けたが、担体6、担体固定部材60及び培養液供給部7は、全て同じ向きに並べられていてもかまわない。
【0090】
また、微生物培養システム1Cの担体6は、上方から下方に向かってジグザグに配置された例を示したが、担体6は、鉛直方向に配されていてもよい。いずれの態様であっても、カセット2又はカートリッジ40の着脱が非常に容易であるため、担体固定部材60をハウジング8から容易に取り出して、掻き出し又はその他の方法で微生物を回収することができる。
【0091】
また、第1−第3実施形態の微生物培養システム1A,1Cのハウジング8又は微生物培養システム1Bの外装体30に設けられた各種配管等の位置は、それぞれの目的を達成し得る限り、どの箇所に設けられていなければならないという限定はない。また、設置部S1の数は1以上であればいくつであってもよい。
【0092】
以上、本発明の微生物培養システム1A,1B,1Cについて説明したが、本発明は前記各実施形態の構成を適宜組み合わせて微生物培養システムを構成してもよい。
【0093】
また、本発明の微生物培養システム1は、例えば、流出液タンク41内に貯留した培養液からの微生物の回収は、ろ過、遠心処理、又は、自然沈降のいずれによってもよい。なお、微生物が細胞外に排出する物質を収穫する場合には、吸着や濃縮等のその他の方法を適用する。
【符号の説明】
【0094】
1A,1B,1C・・・微生物培養システム
2・・・カセット
5・・・担体固定部材(気体/液体放出槽)
5a・・・天面部
5b・・・底面部
5c・・・側面部
6・・・担体
7・・・培養液供給部
8・・・ハウジング
19・・・培養液排出口
20・・・CO供給口
38・・・光照射部
40・・・カートリッジ
41・・・流出液タンク
46・・・シャワー部
47・・・噴霧部
S3・・・内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10