【文献】
RIBOTTA P D et al.,Effects of Yeast Freezing in Frozen Dough,Cereal Chemistry,2003年,Vol.80, No.4,p.454-458
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、製パン業界では人材の流動化および国際化のために不慣れな作業者が多くなり、また、コスト競争が激化しているため、製パン工程の簡便化および効率化が求められている。
【0003】
製パン用イーストの流通形態は、生イースト、ドライイースト、セミドライイーストに大別される。生イーストは、圧搾イーストともいわれ、ブロック状または粉状の形状で販売されている。このような生イーストは、ドライイーストまたはセミドライイーストと比べて砂糖を分解する力が強く、風味が良好で発酵力が高い等の特長が支持され、市場で最も多く流通している。
【0004】
しかしながら、生イーストは乾燥や温度変化に弱く、冷蔵で保存する必要がある。冷蔵で保存しないとすぐに腐ってしまい、また、冷蔵で保存しても保存期間は一般に2週間から長くて1カ月とされている。
【0005】
加えて、生イーストは脆く、製造、流通、保存、及び計量時に崩壊しやすいために、パン生地に配合する前の計量作業が煩雑となり、また、計量に付随して衛生問題や清掃作業が発生するという問題があり、製パン工程の簡便化および効率化の障害となっていた。
【0006】
一方、生イーストの保存期間を延長するために、生イーストを冷凍で保存することが考えられる。しかし、非特許文献1では、生イーストを冷凍で保存すると、酵母の一部が死滅して発酵力が弱くなるので、冷凍しない方が賢明であると記載されている。
【0007】
特許文献1では、粒状の冷凍イーストが記載されているが、これは、乾燥物質含量が70〜85%のドライイーストまたはセミドライイーストを冷凍したものにすぎず、上述のように砂糖を分解する力が十分ではなく、発酵力が低いという問題があった。
【0008】
特許文献2では、生イーストを凍結して生イーストの長期保存を実現したペレット状の凍結生イーストが記載されている。当該文献では、圧搾生イーストを食用油脂または乳化剤と練合してあるか、あるいは、ペレット表面に食用油脂または乳化剤が塗抹してあるペレット状凍結生イーストであって、ペレットの大きさが、格子幅0.9mmの篩を通るものが40%以下、25mmの篩を通るものが80%以上であるペレット状凍結生イーストが記載されており、当該ペレット状凍結生イーストは、イーストを使用する際の計量性、作業性、小麦粉生地中での分散性に優れ、通常の生イーストと同様に使用できると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献2に記載のペレット状凍結生イーストでは、これを製造するために、食用油脂や乳化剤といった原料を余分に添加する必要があった。また、当該ペレット状凍結生イーストは、具体的に開示されているペレットの粒径が3mmと小さく(実施例)、各ペレットの個数を数えてイーストを計量することが難しいという問題があった。
【0012】
また、食用油脂や乳化剤を使用せずに生イーストを凍結してなる従来の成形体は、製造、流通、保存、及び計量時に崩壊しやすく、崩壊した結果、各成形体の重量にバラツキが生じて、成形体の個数を数えることでイーストを正確に計量することはできないという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、食用油脂や乳化剤を添加せずに生イーストが凍結されており、長期保存後も生イーストの発酵力を維持し、さらに、製造、流通、保存、及び計量時に崩壊しにくい一方で、一般的な成人の握力で容易かつ正確に分割でき、所定重量のイースト片が得られ、イーストの正確な計量を容易なものとする凍結生イースト成形体、及び、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、生イーストが凍結されたものであって、表面に少なくとも1本の溝が形成され、溝の最深部下での成形体厚みが所定範囲にあり、イースト含量と水分含量が所定範囲にある略板状の凍結生イースト成形体は、長期保存性に優れており、かつ崩壊しにくい一方で、一般的な成人の握力で容易かつ正確に分割でき、所定重量のイースト片が得られ、当該イースト片の個数を数えることでイーストの正確な計量が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の第一は、生イーストが凍結されたものである凍結生イースト成形体であって、前記成形体は、第一面と、該第一面に対向する第二面を含む略板状の形状を有し、前記第一面には、少なくとも1本の線状の溝が形成されており、前記溝の最深部から前記第二面までの成形体厚みが1〜12mmの範囲にあり、前記凍結生イースト成形体の全重量に対して、イースト含量が乾燥重量として25〜40重量%であり、水分含量が60〜75重量%である、凍結生イースト成形体である。
【0016】
前記溝の断面形状がV字型の場合、該溝は最上部の幅が1〜10mmで、かつ最深部の幅が0〜1mmであり、前記溝の断面形状がU字型の場合、該溝は最上部の幅が1〜10mmで、かつ最深部の幅が0.5〜10mmであることが好ましい。
【0017】
好ましくは、前記第一面で前記溝が形成されていない箇所から前記第二面までの成形体厚みが10〜50mmである。また、好ましくは、前記溝が複数本存在し、そのうち2本以上が略平行に形成されており、該溝間の間隔が8mm以上である。
【0018】
第二の本発明は、ある態様において、生イーストが略板状に成形された成形体を冷凍し、得られた凍結成形体の表面に溝を形成する工程を含むことを特徴とする、凍結生イースト成形体の製造方法である。また、第二の本発明は、別の態様において、生イーストを、表面に溝を有する略板状の形状に成形し、得られた成形体を冷凍する工程を含むことを特徴とする、凍結生イースト成形体の製造方法である。
【0019】
前記溝の断面形状がV字型の場合、該溝は最上部の幅が1〜10mmで、かつ最深部の幅が0〜1mmであり、前記溝の断面形状がU字型の場合、該溝は最上部の幅が1〜10mmで、かつ最深部の幅が0.5〜10mmであることが好ましい。
【0020】
好ましくは、前記溝が形成されていない箇所における成形体厚みが10〜50mmである。また、好ましくは、前記溝を複数本形成し、そのうち2本以上を略平行に形成し、該溝間の間隔が8mm以上である。
【0021】
第三の本発明は、第一の本発明に係る凍結生イースト成形体、または、該凍結生イースト成形体を前記溝に沿って分割して得たイースト片と、他のパン生地原材料とを混捏してパン生地を製造する工程を含む、パン生地の製造方法である。好ましくは、前記凍結生イースト成形体または前記イースト片を、解凍せず凍結状態のまま、前記パン生地原材料に配合して混捏する。
【0022】
第四の本発明は、第三の本発明に係る製造方法により得られたパン生地を加熱調理してパンを得る工程を含む、パンの製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の凍結生イースト成形体によれば、食用油脂や乳化剤を添加せずに生イーストが凍結されており、長期保存後も生イーストの発酵力を維持し、また、製造、流通、保存、及び計量時に崩壊しにくいにも関わらず、一般的な成人の握力で容易かつ正確に該凍結生イースト成形体を分割でき、所定重量のイースト片を得ることができる。このイースト片の個数を数えることで、イーストを正確に計量することができるので、製パン時のイーストの計量作業を簡便に実施することができる。
【0024】
また、本発明の凍結生イースト成形体によれば、分割して得た凍結イースト片を解凍する作業を省略して、凍結状態のまま該イースト片をパン生地原材料に配合することができる。この場合も、パン生地原材料と混合する際の撹拌によって該イースト片は崩壊して、イーストが均一に分散したパン生地を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0027】
(凍結生イースト成形体)
本発明の凍結生イースト成形体(以下、凍結成形体ともいう)は、生イーストが凍結されており、所定の形状に成形されたものである。当該凍結成形体は、食用油脂や乳化剤が添加されていないものであり、実質的に、生イーストのみからなる無添加のものが好ましい。
【0028】
本発明の凍結生イースト成形体は、凍結されているので、未凍結で単なる冷蔵保管の生イーストと比較して長期間保存することが可能になる。しかも、長期間保存後であっても、凍結前の生イーストの発酵力が維持されている。また、本発明の凍結生イースト成形体は、凍結されているので、未凍結の成形体と比較して、製造、流通、保存、及び計量時に成形体の形状が崩れにくく、また、一般的な成人の握力で容易かつ正確に分割でき、所定重量のイースト片を得ることが可能となる。
【0029】
本発明において、生イーストは圧搾イーストとも呼ばれるもので、水分含量が高いイーストである。この点で、乾燥工程に付されて水分含量が低いドライイースト(水分含量5〜10重量%)や、セミドライイースト(水分含量15〜30重量%)とは異なる。本発明における生イーストは、乾燥重量でイースト含量が25〜40重量%であり、水分含量が60〜75重量%である。水分含量が少なすぎたり多すぎたりすると、成形体が崩壊しやすくなり、分割して得られる各イースト片の重量にバラツキが生じやすくなる恐れがある。好ましくは乾燥重量でイースト含量が30〜35重量%、水分含量が65〜70重量%である。
【0030】
本発明で使用するイーストの菌株は、冷凍保存によって発酵力が大幅に落ちない菌株である限り特に限定されないが、例えば、以下のサッカロマイセス・セレビシエが挙げられる。CFB27−1(寄託番号FERM P−15903、特許第4357007号に記載、後述する実施例で使用)、KCY1160(寄託番号FERM P−16962、特許第4475144号に記載)、KCY1170(寄託番号FERM P−20408、特許第4475144号に記載)、KSY290(寄託番号FERM P−18863、特許第4411864号、特許第4513383号に記載)、KSY68−9290(寄託番号FERM P−20204、特許第4839809号に記載)、KSY85−569(寄託番号FERM P−20295、特許第4839809号に記載)、KKK47(寄託番号FERM BP−7267、特許第4565789号に記載)、KGLY59(寄託番号FERM P−20653、特許第4839860号に記載)、KCY1254(寄託番号NITE BP−1396、特許第5677624号に記載)、KCY1240(寄託番号NITE BP−1269、特許第5677624号に記載)、KCY1249(寄託番号NITE BP−1270、特許第5677624号に記載)、KCY1251(寄託番号NITE BP−1272、特許第5677624号に記載)、KCY1217(寄託番号NITE BP−1058、特許第5907161号に記載)、KCY1222(寄託番号NITE BP−1059、特許第5907161号に記載)、KSY735(寄託番号NITE P−731、特許第5926494号に記載)、KSY736(寄託番号NITE P−1071、特許第5926494号に記載)、KSY737(寄託番号NITE P−1072、特許第5926494号に記載)。なお、後述する本願の実施例ではCFB27−1を使用した。
【0031】
本発明の凍結生イースト成形体は、略板状の形状を有する成形体である。本願において、略板状とは、薄くて平たい形状を指し、具体的には、通常、板と称される
図1で示すような一方向において薄い直方体状のほか、
図2で示すような円形の底辺の直径よりも高さが小さい円柱状等が挙げられる。以下では、該略板状の広い両面をそれぞれ、上面(又は第一面)、下面(又は第二面)というが、これは便宜上のものであり、実使用における上下を特定する意図はない。本発明の凍結生イースト成形体の少なくとも上面には、1本または複数本の線状の溝が形成されている。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係る直方体状の形状を有する凍結生イースト成形体を示す斜視図である。該凍結生イースト成形体10は、長方形の上面11と、該上面に対向し、上面と実質的に同形の下面12と、垂直方向に上面の各辺と下面の各辺を接続する側壁面13とを有する。上面11には複数本の溝14が直交して形成されており、該溝14の両端はそれぞれ側壁面13にまで到達している。
図1では上面の長辺に平行して1本、上面の短辺に平行して3本の溝を示しているが、これに限定されるわけではない。
【0033】
図2は、本発明の別の実施形態に係る円柱状の形状を有する凍結生イースト成形体を示す斜視図である。該凍結生イースト成形体20は、円形の上面21と、該上面に対向し、上面と実質的に同形の下面22と、垂直方向に上面の円周と下面の円周を接続する側壁面23とを有する。上面21には円の中心を通る複数本の溝24が直交して形成されており、該溝24の両端はそれぞれ側壁面23にまで到達している。
図2では2本の溝を示しているが、これに限定されるわけではない。
【0034】
凍結生イースト成形体の大きさは特に限定されず、製造、流通、保存、分割時の便宜や、保存時の崩壊し難さ、凍結生イースト成形体を分割して得るイースト片の大きさや個数などを考慮して適宜決定することができるが、具体例として、上記および下面が
図1のように長方形の場合、上面または下面を画定する二辺は20〜200mmの範囲にあってよい。また、上面および下面が
図2のように円形の場合、その直径は20〜200mmの範囲にあってよい。
【0035】
凍結生イースト成形体の、溝が設けられていない箇所での厚み(溝が形成されていない箇所での上面から下面までの厚み。以下、板厚みともいう)に関しては、製造、流通、保存、分割時の便宜や、保存時の崩壊し難さと、後述する最薄部での成形体厚み等を考慮して適宜決定すればよい。しかし、板厚みは、5〜100mmの範囲にあることが好ましく、10〜50mmの範囲にあることがより好ましく、10〜40mmの範囲にあることがさらに好ましく、15〜30mmの範囲にあることが特に好ましい。板厚みが小さすぎると、製造、流通、保存、及び計量時等に成形体の形状が崩壊しやすくなる。板厚みが大きすぎると、凍結状態のまま他のパン生地原材料に配合、混合したときに崩壊しにくく、イーストをパン生地中に均一に分散させることが困難となる。なお、該板厚みとは、
図4(a)において符号Tで示したものである。
【0036】
本発明の凍結生イースト成形体の上面には、1本または複数本の直線状の溝が形成されていることが好ましい。この溝に握力を加えることによって、この溝に沿って容易かつ正確に凍結生イースト成形体を分割して、よりサイズが小さいイースト片を複数得ることができる。
【0037】
この目的を達成するため、溝の最深部から下面に至るまでの成形体厚み(以下、最薄部の厚みともいう)は1〜12mmの範囲にあることが好ましい。最薄部の厚みがこれより小さくなると、凍結保存中に溝に割れや、溝以外の箇所で欠けが生じて、凍結生イースト成形体が崩壊しやすくなり、その結果、成形体を分割して得た個々のイースト片の大きさに違いが生じるため、イースト片の個数を数えることによるイーストの正確な計量が困難になる。また、最薄部の厚みがこれより大きくなると、該溝に沿って凍結生イースト成形体を一般的な成人の握力によって分割することが困難になる。また、分割できたとしても溝の最深部に沿った正確な分割をすることができず、そのため、個々のイースト片の大きさに違いが生じ、イースト片の個数を数えることによるイーストの正確な計量が困難になる。最薄部の厚みは、2〜10mmの範囲にあることがより好ましく、3〜8mmの範囲にあることがさらに好ましい。なお、最薄部の厚みは
図4(a)において符号tで示したものである。
【0038】
本願において、溝とは、凍結生イースト成形体の表面に形成された線状の細長い凹部のことをいう。直方体状の成形体の場合、溝は、上面を画定する辺のうち一辺から他辺まで連続して伸長することが好ましい。具体的には、
図1で示すように、上面を画定する辺のうち一辺から、該辺に対向する辺まで連続して伸長することがより好ましい。また、円柱状の成形体の場合、
図2で示すように、溝は、上面である円の円周上の1点から他点まで連続して伸長することが好ましい。
図1及び
図2で示すように、溝の両端は側壁面に達していることが好ましい。
【0039】
形成される溝の本数は、一本でもよいし、複数本でもよい。溝が複数本形成されている場合、それらの溝は、互いに交差(好ましくは直交)するように形成されてもよいし、互いに交わらず(好ましくは略平行に)形成されてもよい。また、
図1で示すように、互いに交差する溝と、交わらない溝の双方が形成されていてもよい。
【0040】
複数本の溝を形成する際の各溝の配置方式の具体例を
図3(a)〜(f)に示した。(a)〜(e)では直方体状の成形体の上面図を示し、(f)では円柱状の成形体の上面図を示している。(a)では、複数本の溝が上面の長方形の長辺間に、等間隔で、一方向に配置され、それらが短辺と平行になっている。これによって、縦長の領域が複数形成されている。(b)では、複数本の溝が長方形の長辺間に、短辺と平行に配置されるとともに、別の複数本の溝が長方形の短辺間に、長辺と平行に配置されており、両グループの溝は直交している。これによって、略正方形の領域が複数形成されている。(c)では、複数本の溝が長方形の長辺と短辺に対して傾斜して2方向から配置されており、これによって、菱形の領域と、それを半分に分けた2種類の三角形の領域がそれぞれ複数形成されている。(d)では、(c)の溝に対して、長方形の短辺間に、長辺と平行に配置された複数本の溝が加えられており、これによって、二等辺三角形の領域と、それを半分に分けた直角三角形の領域がそれぞれ複数形成されている。(e)では、(d)の溝に対して、さらに、長方形の長辺間に、短辺と平行に配置された複数本の溝が加えられており、これによって直角三角形の領域が複数形成されている。(f)では、円の中心で交わる4本の溝が配置されており、これによって円が同形の8つの領域に分割されている。
【0041】
本発明においては、凍結生イースト成形体を溝に沿って小サイズのイースト片に分割した時に、各イースト片が実質的に同じ重量になるよう、溝で分けられた複数の領域が互いに同じ面積になるように、溝が形成されることが好ましい。
【0042】
溝で分けられた各領域の面積は特に限定されず、握力による分割の容易さ、各イースト片の所望の重量等を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、1.6〜400cm
2程度であってよい。各領域の面積が小さすぎると、握力によって凍結成形体を分割することが困難になり、大きすぎると、イースト片の個数を数えることによるイーストの計量に不都合が生じる場合がある。
【0043】
溝の幅は特に限定されず、分割のし易さを考慮して適宜決定することができるが、凍結生イースト成形体の上面において測定した幅(以下、最上部の幅ともいう)として、1〜10mmの範囲が好ましく、2〜9mmの範囲が好ましく、3〜7mmの範囲がより好ましい。溝の幅が小さすぎたり大きすぎたりすると、該溝に沿った容易かつ正確な分割が困難になる場合がある。なお、溝の幅とは、溝の伸長方向に直交する方向における溝の幅をいう。
【0044】
略平行な関係にある複数本の溝が形成されている場合、該溝間の間隔は8mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましく、12mm以上であることがさらに好ましく、15mm以上であることがよりさらに好ましく、20mm以上であることが特に好ましい。該溝間の間隔が小さすぎると、凍結保存中に溝に割れや、溝以外の箇所で欠けが生じて、凍結生イースト成形体が崩壊しやすくなり、また、溝に沿った正確な分割が困難となり、所定重量のイースト片を得にくくなる恐れがある。該間隔の上限値は特に限定されず、望ましいイースト片の大きさや重量を考慮して決定すればよいが、例えば、100mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましい。なお、溝間の間隔とは、隣り合って平行に配置された2本の溝について、溝の伸長方向に直交する方向で、各溝の幅における中心点間の間隔をいう。
【0045】
本発明の凍結生イースト成形体の表面に形成された溝を断面からみた断面形状は、特に限定されず、握力による分割のし易さや、製造の容易さ等を考慮して適宜決定することができるが、溝の最上部の幅より溝の最深部の幅が小さくなっている形状や、溝の最上部の幅と溝の最深部の幅が実質的に同じである形状が好ましい。これによって、凍結生イースト成形体を該溝に沿って、正確に分割することが容易になる。なお、溝の断面形状とは、溝の伸長方向に直交する方向での断面でみた時の形状のことをいう。
【0046】
溝の断面形状の具体例としては、例えば、
図4(a)のV字型、(b)のU字型、(c)の台形、(d)のフレア状、(e)の長方形等が挙げられる。また、以上の図形を組み合わせた形状であってもよく、例えば、
図4(f)で示した長方形とV字型を上下に組み合わせて長方形の幅とV字型の最大幅を同じにした形状、(g)で示した長方形とV字型を上下に組み合わせて長方形の幅よりV字型の最大幅を小さくした形状、(h)で示した長方形とU字型を上下に組み合わせた形状、(i)で示した台形とV字型を上下に組み合わせた形状等が挙げられる。その他、台形と長方形を上下に組み合わせた形状や、U字型とV字型を上下に組み合わせた形状、横長の長方形と縦長の長方形を上下に組合せた形状なども挙げられる。
【0047】
本発明の一実施形態において、溝の断面形状がV字型の場合は、該溝の最上部の幅が1〜10mmで、かつ最深部の幅が0〜1mmであることが好ましい。なお、最深部の幅が1mmを超える場合は、溝の断面形状は台形に該当し得る。また、別の実施形態において、溝の断面形状がU字型の場合は、該溝の最上部の幅が1〜10mmで、かつ最深部の幅が0.5〜10mmであることが好ましい。
【0048】
以上の
図4(a)〜(f)では成形体の上面が平面となっている例を示したが、これに限定されず、
図5に示すように上面が曲面となっていてもよい。
図5は、本発明のさらに別の実施形態に係る直方体状の形状を有する凍結生イースト成形体を示す斜視図である。該凍結生イースト成形体50では、下面52の長辺側の側壁面53からみた時に、円弧が繰り返されるようにして複数本の溝54が形成されている。複数本の溝54は互いに平行しており、下面52の短辺とも平行している。
図5では2本の溝を示しているが、これに限定されるわけではない。
【0049】
本発明の凍結生イースト成形体は、溝に沿って複数のイースト片に分割して使用される。このイースト片の個数を数えることによって、イーストの計量を実施することができるので、各イースト片の重量は実質的に同一であることが好ましい。各イースト片の重量は適宜決定することができるが、例えば、5〜250g程度であってよい。
【0050】
また、一枚の凍結生イースト成形体から分割、取得できるイースト片の個数は、分割時の便宜に応じて適宜決定することができるが、例えば、2個〜50個程度であってよい。
【0051】
(凍結生イースト成形体の製造方法)
本発明の凍結生イースト成形体を製造する方法は特に限定されない。生イーストを、表面に溝を有する略板状の形状に圧縮成形又は切削成形した後に冷凍を行なうことで製造しても良いし、ブロック状の生イーストを冷凍した後に所望の形状に切削成形することで製造しても良いし、粉状の生イーストを冷凍した後に所望の形状に圧縮成形することで製造しても良い。しかし、成形の容易さ、及び成形体の崩壊しにくさの観点から、生イーストを表面に溝を有する形状に成形した後に冷凍を行なう方法が好ましい。
【0052】
成形の具体的な方法としては特に限定されないが、例えば、生イーストを所定の形状を有する型に入れて、圧力をかける方法や、押出成形により成形を行なう方法が挙げられる。前者の方法は、生イーストを、包装材に入れた状態で型に入れて、圧力をかけることで実施してもよい。この場合、包装材と共に成形された生イースト成形体が得られ、これを、そのまま冷凍することができる。なお、包装材としては、凹部を圧縮成形する際に破断しない強度を有し、かつ、冷凍に耐え得る耐冷凍性を有しているものが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどを用いることができる。
【0053】
冷凍は、急速冷凍、緩慢冷凍のいずれであってもよく、冷凍する際の冷却速度は特に限定されない。
【0054】
(パン生地またはパンの製造方法)
本発明の凍結生イースト成形体は、他のパン生地原材料に混合する前に、表面に形成された溝に握力を加えることで、該溝に沿って、容易かつ正確に、所定重量を持つ複数のイースト片に分割することができ、該イースト片を他のパン生地原材料と混合することができる。また、凍結生イースト成形体の全体量が製パンに必要なイースト量以下である場合には、分割することなく凍結生イースト成形体全体を他のパン生地原材料と混合してもよいし、あるいは、上記と同様に分割してから他のパン生地原材料と混合してもよい。
【0055】
本発明の凍結生イースト成形体または前記イースト片の所定量を、常法により、他のパン生地原材料に混合して混捏し、必要に応じて一次発酵を行い、生地を分割、成型してパン生地を得る。当該パン生地は、成型後にホイロ(最終発酵)を行なったものであっても良いし、ホイロを行なう前のものであっても良い。また、当該パン生地は冷凍されたものであってもよい。他のパン生地原材料には、小麦粉等の穀粉の他、必要に応じて、糖類、乳製品、卵、食塩、酸化防止剤、油脂、水等が適宜含まれる。
【0056】
本発明の凍結生イースト成形体または前記イースト片を他のパン生地原材料に混合する際には、凍結成形体又はイースト片を解凍してから他のパン生地原材料に配合しても良いが、凍結成形体又はイースト片を解凍することなく凍結状態のまま配合しても良い。本発明の凍結生イースト成形体又は前記イースト片は、凍結されていても適度に崩壊しやすいため、混合時の撹拌により均一に崩壊してイーストをパン生地中に均一に分散させることができる。
【0057】
上記パン生地は、必要に応じて解凍及び/又はホイロを行なった後、常法により加熱調理することでパンを製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1〜9及び比較例1〜3)
まず、表1に示した形状、寸法、及び直線状の溝を有する成形体を作製するための鋳型を準備した。溝によって区画される各領域の面積が互いに同じになるように溝の位置を決定した。
【0060】
乾燥物重量32%のカネカ製圧搾生イーストを、ポリエチレン袋に計量し、その袋詰めの状態で前記鋳型に入れ、ハンドプレス機を用いて圧縮成形して、表1に示した形状、寸法、及び溝を有する生イースト成形体を袋詰めの状態で得た。成形後、生イースト成形体を袋から取り出し、以下の長期保存性に関する評価を行なった。該生イースト成形体の乾燥物重量は32.3%であった。
【0061】
続いて、該生イースト成形体を袋詰めのまま−20℃の空冷式冷凍庫で2ヶ月間冷凍して、袋に入った凍結生イースト成形体を得た。
【0062】
(比較例4)
実施例1と同様に、表1に示した形状、寸法、及び溝に従って、袋に入った生イースト成形体を得たが、その後の冷凍作業を行なわなかった。
実施例及び比較例で得た各成形体について以下の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例10、11及び比較例5、6)
乾燥物重量19.2〜42.3%のカネカ製圧搾生イーストを用いて、実施例1と同様、表1に示した形状、寸法、及び溝に従って、袋に入った凍結生イースト成形体を得た。
【0064】
(1)長期保存性
実施例1〜11及び比較例1〜3、5、6に関しては、4℃で1日間冷蔵保管した後の未凍結の生イースト成形体、及び、−20℃で2ヶ月間冷凍保管した後の凍結生イースト成形体について、イースト工業会が定めるパン用酵母試験法の高糖生地炭酸ガス測定法に準じ、30℃2時間の炭酸ガス発生量を測定した。未凍結の1日間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量に対する2ヶ月間冷凍保管品の炭酸ガス発生量の割合を算出することで、長期保存性を評価した。なお、凍結生イースト成形体は、解凍せず凍結状態のまま上記試験に供した。
【0065】
一方、比較例4に関しては、生イースト成形体を4℃で1日間及び2ヶ月間冷蔵保管した後、同様に炭酸ガス発生量を測定し、1日間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量に対する2ヶ月間冷蔵保管品の炭酸ガス発生量の割合を算出することで、長期保存性を評価した。
【0066】
(評価基準)
1: 炭酸ガス発生量が70%以下、
2: 炭酸ガス発生量が70%以上80%以下、
3: 炭酸ガス発生量が80%以上90%以下、
4: 炭酸ガス発生量が90%以上95%以下、
5: 炭酸ガス発生量が95%以上。
【0067】
(2)崩壊し難さ
実施例1〜11及び比較例1〜3、5、6に関しては−20℃で2ヶ月間冷凍保管した後の凍結生イースト成形体について、比較例4に関しては4℃で2ヶ月間冷蔵保管した後の未凍結の生イースト成形体について、各成形体に割れや欠けが生じていないかを、以下の基準に従い評価した。
【0068】
(評価基準)
1: 略板状成形体が崩壊しており、原型を留めていない
2: 略板状成形体が、溝で割れており、加えて、溝以外の箇所で一部欠けが生じている
3: 略板状成形体が、溝以外の箇所で一部欠けが生じている
4: 略板状成形体が溝のみで割れが生じている
5: 略板状成形体に割れが全く生じていない。
【0069】
(3)分割し易さ
実施例1〜11及び比較例1〜3、5、6の袋に入った凍結生イースト成形体及び比較例4の袋に入った生イースト成形体について、袋の上から、各成形体の溝に一般的な成人の握力を加えて複数のイースト片への分割を行なった。その時のイースト片への分割し易さを、5段階にて評価した。
【0070】
(評価基準)
1: 分割不可能である
2: 分割に力を要し、溝の最深部に沿って分割できない
3: 容易に分割できるが、溝の最深部に沿って分割できない
4: 分割に力を要するが、溝の最深部に沿って分割可能である
5: 容易に、溝の最深部に沿って分割可能である。
【0071】
【表1】
【0072】
表1より、実施例1〜11の凍結生イースト成形体は、長期保存後も保存前の炭酸ガス発生量を維持しており長期保存性が良好で、凍結保存時に崩壊しにくく、成形体の溝に成人の一般的な握力を加えたときに容易かつ正確に複数のイースト片へ分割でき、イースト片の個数を数えることによるイーストの計量作業が容易であった。
【0073】
一方、溝が浅く、成形体の最薄部に厚みがあった比較例1は、成形体の溝に成人の一般的な握力を加えても、イースト片への分割が不可能であった。
【0074】
また、溝が深く、成形体の最薄部が極めて薄くなっていた比較例2は、凍結保存中に溝に割れが生じ、さらに溝以外の箇所でも欠けが生じており、凍結生イースト成形体が崩壊しやすいものであった。
【0075】
さらに、平行して形成された複数の溝間の間隔を狭く設定した比較例3は、凍結保存中に溝に割れが生じ、さらに溝以外の箇所でも欠けが生じており、凍結生イースト成形体が崩壊しやすく、また、イースト片への分割は可能であるものの、溝の最深部に沿った分割ができず、正確な分割が困難であった。
【0076】
凍結処理を行なっていない生イースト成形体を用いた比較例4は、長期保存性が低いことに加え、保存中に生イースト成形体が崩壊しやすく、溝に割れが生じ、さらに溝以外の箇所でも欠けが生じていた。また、イースト片への分割は可能であるものの、溝の最深部に沿った分割ができず、正確な分割が困難であった。
【0077】
成形体中のイースト含量が少なく水分含量が多かった比較例5は、長期保存後の炭酸ガス発生量が低下し長期保存性が低いことに加えて、凍結保存中に、溝以外の箇所で欠けが生じており、また、分割に力を要し、溝の最深部に沿った分割ができず、正確な分割が困難であった。
【0078】
成形体中のイースト含量が多く水分含量が少なかった比較例6は、長期保存性は良好であったものの、凍結保存中に溝に割れが生じ、さらに溝以外の箇所でも欠けが生じており、凍結生イースト成形体が崩壊しやすく、また、イースト片への分割は可能であるものの、溝の最深部に沿った分割ができず、正確な分割が困難であった。