(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810909
(24)【登録日】2020年12月16日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】ガラス板の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
C03B17/06
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-100881(P2017-100881)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-193284(P2018-193284A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸敏
(72)【発明者】
【氏名】中塚 和人
【審査官】
松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−216526(JP,A)
【文献】
特開2015−196606(JP,A)
【文献】
特開2011−178657(JP,A)
【文献】
特開2015−089855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 7/00− 7/22
9/00−17/06
19/00−19/10
21/00−21/06
C03C 1/00−14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体から降下するガラスリボンの幅方向端部を表裏両側から挟持しつつ下方に送るエッジローラーを備えたガラス板の製造装置であって、
前記エッジローラーを加熱する加熱機構を備え、
前記加熱機構が、前記エッジローラーの内部に配置されたヒーターであることを特徴とするガラス板の製造装置。
【請求項2】
前記エッジローラーが、回転軸と、該回転軸の外周に取り付けられ且つ前記ガラスリボンに接触するローラー本体とを有し、
前記ヒーターが、前記回転軸における前記ローラー本体が取り付けられた部位の内部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のガラス板の製造装置。
【請求項3】
成形体から降下するガラスリボンの幅方向端部を表裏両側から挟持しつつ下方に送るエッジローラーを備えたガラス板の製造装置であって、
前記エッジローラーを加熱する加熱機構を備え、
前記加熱機構が、前記エッジローラーの内部で流体を流通させる流路と、該流路内に流入させる流体を加熱する流体加熱手段とからなることを特徴とするガラス板の製造装置。
【請求項4】
前記エッジローラーが、回転軸と、該回転軸の外周に取り付けられ且つ前記ガラスリボンに接触するローラー本体とを有し、
前記流路が、前記回転軸の外部から内部に流入した流体を前記ローラー本体側に送る往路と、前記回転軸の内部から外部に流出する流体を前記ローラー本体側から帰還させる復路とを有することを特徴とする請求項3に記載のガラス板の製造装置。
【請求項5】
前記流路内に流入させる流体を冷却する流体冷却手段を備えることを特徴とする請求項3又は4に記載のガラス板の製造装置。
【請求項6】
成形体から降下するガラスリボンの幅方向端部を請求項1〜5のいずれかに記載のガラス板の製造装置が備えるエッジローラーにより表裏両側から挟持しつつ下方に送る工程を含んだガラス板の製造方法であって、
前記工程の実行中に、前記製造装置が備える加熱機構により前記エッジローラーを加熱することを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項7】
成形体から降下するガラスリボンの幅方向端部をエッジローラーにより表裏両側から挟持しつつ下方に送る工程を含んだガラス板の製造方法であって、
前記工程の実行中に、前記エッジローラー周りの雰囲気温度よりも高温で、且つ、前記ガラスリボンにおける前記エッジローラーと接触中の部位の温度よりも低温となるように、前記エッジローラーを加熱することを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項8】
30℃〜300℃の温度範囲において、前記ガラスリボンを構成するガラスの熱膨張係数の値が、80×10−7/℃〜150×10−7/℃の範囲内であることを特徴とする請求項6又は7に記載のガラス板の製造方法。
【請求項9】
600℃〜800℃の温度範囲において、前記ガラスリボンを構成するガラスの粘度の値が、102.2dPa・s〜105.5dPa・sの範囲内であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項10】
前記ガラスリボンを構成するガラスが、リン酸塩系ガラスであることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板の製造工程には、ガラス板の元となる長尺なガラスリボンを成形する工程が含まれる場合がある。ここで、特許文献1には、オーバーフローダウンドロー法(同文献では、フュージョンドロー法と呼称)によりガラスリボンを成形する態様の一例が開示されている。
【0003】
同態様では、楔状をなす成形体の頂部に形成された溝に溶融ガラスを流し込み、溝から両側方に溢れ出た溶融ガラスのそれぞれを成形体の側面に沿って流下させた後、成形体の下端部で融合一体化させてガラスリボンを生成する。その後、成形体から降下するガラスリボンの幅方向端部をエッジローラーで表裏両側から挟持しつつ下方に送ることで、ガラスリボンを延伸させて成形する。
【0004】
エッジローラーの内部には、冷却液を循環させるための流路(同文献では、流入ライン152および流出ライン154)が形成されている。この冷却液により、エッジローラーを冷やすことが可能であると共に、エッジローラーと接触したガラスリボンを冷やすことが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−178657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の態様の下では、特定の条件を満たすガラスで構成されるガラスリボンを成形する場合に、下記のような解決すべき問題が発生していた。
【0007】
すなわち、成形温度が低く、単位温度変化に対する粘度の変化量が大きく、熱膨張係数が大きいガラスで構成されるガラスリボンを成形する場合に不具合が生じる。なお、これらの条件を兼ね備えるガラスとしては、例えば、リン酸塩系ガラスが挙げられる。そして、このようなガラスで構成されるガラスリボンを成形する場合、従来の冷却されたエッジローラーとの接触によりガラスリボンが急冷されるのに伴って、ガラスリボンが急激に収縮して割れたり、ガラスリボンの粘度が急激に高まって延伸が困難となったりする問題があった。
【0008】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、成形温度が低く、単位温度変化に対する粘度の変化量が大きく、熱膨張係数が大きいガラスで構成されるガラスリボンを好適に成形し得る技術を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、成形体から降下するガラスリボンの幅方向端部を表裏両側から挟持しつつ下方に送るエッジローラーを備えたガラス板の製造装置であって、エッジローラーを加熱する加熱機構を備えることに特徴付けられる。
【0010】
このような構成によれば、エッジローラーを加熱する加熱機構を備えることで、加熱された状態のエッジローラーをガラスリボンに接触させることが可能となり、エッジローラーとの接触によりガラスリボンが急冷されることを回避できる。従って、成形温度が低く、単位温度変化に対する粘度の変化量が大きく、熱膨張係数が大きいガラス(以下、特定ガラスと表記)で構成されるガラスリボンを成形するに際して、急冷に伴ったガラスリボンの急激な収縮や、急激な粘度の高まりを防止できる。その結果、ガラスリボンが割れたり、延伸が困難になったりすることを回避でき、ガラスリボンを好適に成形することが可能となる。
【0011】
上記の構成において、加熱機構が、エッジローラーの内部に配置されたヒーターであってもよい。
【0012】
このようにすれば、ヒーターによりエッジローラーが内部から加熱されることになるため、効率的にエッジローラーを加熱することが可能となる。
【0013】
上記の構成において、エッジローラーが、回転軸と、回転軸の外周に取り付けられ且つガラスリボンに接触するローラー本体とを有し、ヒーターが、回転軸におけるローラー本体が取り付けられた部位の内部に配置されていることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、ヒーターが、回転軸におけるローラー本体が取り付けられた部位の内部に配置されているため、実際にガラスリボンに接触するローラー本体の周辺のみを加熱でき、無駄な熱エネルギーの消費を防止することが可能となる。さらに、ローラー本体の周辺のみが加熱されるので、周辺以外の部位については、ローラー本体と同等の耐熱構造を採用する必要がなくなり、その分だけコストを抑制することが可能となる。
【0015】
上記の構成において、加熱機構が、エッジローラーの内部で流体を流通させる流路と、流路内に流入させる流体を加熱する流体加熱手段とからなってもよい。
【0016】
このようにしても、エッジローラーが内部から加熱されることになるので、効率的にエッジローラーを加熱できる。
【0017】
上記の構成において、エッジローラーが、回転軸と、回転軸の外周に取り付けられ且つガラスリボンに接触するローラー本体とを有し、流路が、回転軸の外部から内部に流入した流体をローラー本体側に送る往路と、回転軸の内部から外部に流出する流体をローラー本体側から帰還させる復路とを有することが好ましい。
【0018】
このようにすれば、流路が往路と復路とを有することで、回転軸の内部と外部との間で流体を循環させることができる。これにより、ローラー本体の温度を一定に保持する上で有利となる。
【0019】
上記の構成において、流路内に流入させる流体を冷却する流体冷却手段を備えていてもよい。
【0020】
このようにすれば、流体加熱手段により加熱された流体に代えて、流体冷却手段により冷却された流体を流路内に流入させることで、本発明に係るガラス板の製造装置を、特定ガラス以外のガラスで構成されるガラスリボン(冷却された状態のエッジローラーを接触させる必要のあるガラスリボン)を成形する際にも使用することが可能となる。すなわち成形するガラスの種類に応じてエッジローラーを加熱状態または冷却状態に切り替えることができ、一つの装置で多様な種類のガラスを製造できる。
【0021】
また、上記の課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、成形体から降下するガラスリボンの幅方向端部をエッジローラーにより表裏両側から挟持しつつ下方に送る工程を含んだガラス板の製造方法であって、工程の実行中に、エッジローラーを加熱することに特徴付けられる。
【0022】
このような方法によれば、上記のガラス板の製造装置について既述の作用・効果と同一の作用・効果を得ることが可能である。
【0023】
上記の方法では、エッジローラー周りの雰囲気温度よりも高温で、且つ、ガラスリボンにおけるエッジローラーと接触中の部位の温度よりも低温となるように、エッジローラーを加熱することが好ましい。
【0024】
加熱された状態のエッジローラーの温度を上記の範囲内とすれば、エッジローラーとの接触によりガラスリボンの温度を緩やかに低下させることができ、ガラスリボンの急冷を確実に回避することが可能となる。
【0025】
上記の方法では、30℃〜300℃の温度範囲において、ガラスリボンを構成するガラスの熱膨張係数の値が、80×10
−7/℃〜150×10
−7/℃の範囲内であってもよい。
【0026】
熱膨張係数の値が上記の範囲内となる特定ガラスは、この特定ガラスで構成されるガラスリボンを成形するにあたり、ガラスリボンを急冷すると急激な収縮が生じて割れやすい。そのため、このような特定ガラスで構成されるガラスリボンを成形するに際して、本発明に係るガラス板の製造方法を適用すれば、その効果をより有効に活用できる。
【0027】
上記の方法では、600℃〜800℃の温度範囲において、ガラスリボンを構成するガラスの粘度の値が、10
2.2dPa・s〜10
5.5dPa・sの範囲内であってもよい。
【0028】
粘度の値が上記の範囲内となる特定ガラスは、この特定ガラスで構成されるガラスリボンを成形するにあたり、ガラスリボンを急冷すると延伸が困難となりやすい。従って、このような特定ガラスで構成されるガラスリボンを成形するに際して、本発明に係るガラス板の製造方法を適用すれば、その効果をより有効に活用できる。
【0029】
上記の方法では、ガラスリボンを構成するガラスが、リン酸塩系ガラスであってもよい。
【0030】
リン酸塩系ガラスは、当該ガラスで構成されるガラスリボンを成形するにあたり、ガラスリボンを急冷すると割れやすく、また延伸が困難となりやすい。このため、リン酸塩系ガラスで構成されるガラスリボンを成形するに際して、本発明に係るガラス板の製造方法を適用すれば、その効果をより有効に活用できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るガラス板の製造装置および製造方法によれば、成形温度が低く、単位温度変化に対する粘度の変化量が大きく、熱膨張係数が大きいガラスで構成されるガラスリボンを好適に成形することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るガラス板の製造装置を示す正面図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明の第一実施形態に係るガラス板の製造装置におけるエッジローラーの周辺を示す横断平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のA−A断面を示す縦断側面図である。
【
図3】
図3(a)は、本発明の第二実施形態に係るガラス板の製造装置におけるエッジローラーの周辺を示す横断平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のB−B断面を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係るガラス板の製造装置および製造方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0034】
<第一実施形態>
はじめに、本発明の第一実施形態に係るガラス板の製造装置について説明する。
【0035】
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係るガラス板の製造装置1(以下、単に製造装置1と表記)は、オーバーフローダウンドロー法により、溶融ガラス2からガラスリボン3を成形するように構成されている。
【0036】
製造装置1は、楔状をなすと共に、溶融ガラス2からガラスリボン3を生成する成形体4と、成形体4から降下するガラスリボン3の幅方向端部3a(耳部)を表裏両側から挟持しつつ下方に送ることで、ガラスリボン3を延伸させて成形するエッジローラー5とを備えている。
【0037】
成形体4は、頂部4aに形成された溝4aaから両側方(
図1では、紙面に対して手前側および奥側)に溢れ出た溶融ガラス2のそれぞれを側面4bに沿って流下させた後、下端部4cで融合一体化させてガラスリボン3を生成することが可能である。
【0038】
エッジローラー5は、ガラスリボン3の幅方向における一方側端部3aaの挟持用と、他方側端部3abの挟持用とが設けられており、両者5,5は、ガラスリボン3の幅方向中央を基準として対称に配置されている。また、一方側端部3aaの挟持用、及び、他方側端部3abの挟持用のいずれのエッジローラー5についても、ガラスリボン3が成形体4から降下する経路に沿って上下複数段に配置されている(
図1では、最上段のエッジローラー5、及び、上から二段目のエッジローラー5のみを図示)。
【0039】
図2(a),(b)に示すように、エッジローラー5は、ガラスリボン3を厚み方向に挟んで表面3b側に配置された第一ローラー6と、裏面3c側に配置された第二ローラー7とからなる。第一ローラー6および第二ローラー7の各々は、回転軸8と、回転軸8の外周に取り付けられ且つガラスリボン3に接触するローラー本体9とを有する。
【0040】
回転軸8は、円筒状(中空状)に形成されている。この回転軸8は、モーター等の駆動源(図示省略)と接続されており、駆動源の稼働に伴って回転することが可能である。ローラー本体9は、回転軸8の先端部に取り付けられている。このローラー本体9は、円筒状に形成されており、かしめによりローラー本体9の内周面9aが回転軸8の外周面8aに沿って嵌め込まれている。
【0041】
回転軸8の内部には、第一ローラー6(第二ローラー7)のローラー本体9を加熱するための加熱機構としてのヒーター10と、ヒーター10と電気的に接続されたリード線11と、リード線11の周囲を囲う円筒状の絶縁保護管12とが備わっている。以下の説明においては、これら三者10,11,12を纏めて「ヒーターユニット」と表記する。なお、ヒーターユニットは、回転軸8と共に回転する構成であってもよいし、回転軸8から独立して静止する構成であってもよい。
【0042】
ここで、ヒーターユニットが備わったエッジローラー5(第一ローラー6および第二ローラー7)は、上下複数段のうちの最上段のエッジローラー5のみであってもよいし、最上段から連続する一部の段のエッジローラー5(例えば、上下十段のうち、最上段〜上から三段目まで等)であってもよい。さらには、上下複数段の全段のエッジローラー5が、ヒーターユニットを備えていてもよい。
【0043】
ヒーター10は、回転軸8におけるローラー本体9が取り付けられた部位の内部に配置されている。このヒーター10は、ローラー本体9の周辺のみを局所的に加熱することが可能となっている。さらに、ヒーター10は、シーズヒーターであると共に、回転軸8の内周面8bとの間に隙間が形成される程度の外径を有する。なお、ヒーター10としては、シーズヒーターに代えて、例えば、SiCヒーターを採用してもよい。
【0044】
絶縁保護管12は、ヒーター10と同様にして、回転軸8の内周面8bとの間に隙間が形成される程度の外径を有する。
【0045】
ここで、回転軸8は、例えば、鉄又はニッケルを含んだ合金や、セラミックで構成することが可能である。本実施形態においては、ステンレスで回転軸8を構成している。
【0046】
また、ローラー本体9は、例えば、鉄又はニッケルを含んだ合金でなり、且つ、その外周面9b(ガラスリボン3との接触面)にタングステンカーバイドを溶射したもので構成することが可能である。また、これ以外にもセラミックでローラー本体9を構成することもできる。本実施形態においては、ステンレスでなり、且つ、その外周面9bにタングステンカーバイドを溶射したものでローラー本体9を構成している。
【0047】
次に、上記の製造装置1を用いた本発明の第一実施形態に係るガラス板の製造方法(以下、単に製造方法と表記)について説明する。
【0048】
この製造方法では、成形温度が低く、単位温度変化に対する粘度の変化量が大きく、熱膨張係数が大きいガラス(以下、特定ガラスと表記)で構成されるガラスリボン3を成形する。本実施形態においては、特定ガラスの一種であるリン酸塩系ガラスで構成されるガラスリボン3を成形する。
【0049】
ここで、リン酸塩系ガラスの組成の一例としては、質量%で、P
2O
5:25〜60%、Al
2O
3:2〜19%、RO(ただし、Rは、Mg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも一種):10〜45%、ZnO:0〜13%、K
2O:12〜20%(ただし、12%、20%を含まない)、Na
2O:0〜12%、及びCuO:0.3〜20%を含有する組成が挙げられる。
【0050】
また、リン酸塩系ガラスの組成の別の一例としては、カチオン%表示で、P
5+:5〜50%、Al
3+:2〜30%、R’
+(ただし、R’は、Li、Na及びKから選択される少なくとも一種):10〜40%、及び、R
2+(ただし、R
2+は、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、及びZn
2+から選択される少なくとも一種):20〜50%、且つ、アニオン%表示で、F
−:5〜80%、及び、O
2−:20〜95%を含有し、Pb成分およびAs成分を実質的に含有しない組成が挙げられる。
【0051】
また、リン酸塩系ガラスの組成の更に別の一例としては、酸化物基準のモル%で、P
2O
5:5〜40%、SO
3:1〜35%、R’
2O(ただし、R’は、Li、Na又はK):10〜30%、RO(ただし、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba又はZn):20〜50%、及び、CuO+Fe
2O
3+CoO+CeO
2:0.001〜15%を含有する組成が挙げられる。
【0052】
上記のような組成を有するリン酸塩系ガラスは、以下に挙げる(1)〜(4)の条件を兼ね備えている場合がある。
【0053】
(1)成形温度が600℃〜800℃である。(2)600℃〜800℃の温度範囲において、粘度の値が10
2.2dPa・s〜10
5.5dPa・s、好ましくは10
3.5dPa・s〜10
5.5dPa・sである。(3)単位温度変化に対する粘度の変化量が0.1Pa・s/℃以上である。(4)30℃〜300℃の温度範囲において、熱膨張係数の値が80×10
−7/℃〜150×10
−7/℃、好ましくは100×10
−7/℃〜150×10
−7/℃である。
【0054】
この製造方法では、(1)〜(4)の条件を兼ね備えるリン酸塩系ガラスで構成されるガラスリボン3を成形するに際して、エッジローラー5(第一ローラー6および第二ローラー7)によりガラスリボン3を下方に送る工程の実行中に、ヒーターユニットが備わったエッジローラー5のローラー本体9を加熱する。
【0055】
このとき、ヒーターユニットが備わったエッジローラー5が、最上段のエッジローラー5のみである場合には、当該エッジローラー5について、以下のようにローラー本体9を加熱する。すなわち、ローラー本体9の周りの雰囲気温度よりも高温で、且つ、ガラスリボン3におけるローラー本体9と接触中の部位の温度よりも低温(以下、この条件を満たす温度域を特定温度域と表記)となるように、ローラー本体9を加熱する。
【0056】
一方、ヒーターユニットが備わったエッジローラー5が、最上段から連続する一部の段に配置されている場合、及び、上下複数段の全段に配置されている場合には、以下のようにローラー本体9を加熱する。すなわち、ヒーターユニットが備わった全てのエッジローラー5について、特定温度域となるようにローラー本体9を加熱するのに加え、下段側に配置されたエッジローラー5のローラー本体9ほど、低温となるように加熱する。
【0057】
上記のようにして、ガラスリボン3を下方に送りながら延伸させるのと同時に、その温度を低下させてガラスリボン3を冷え固まらせていく。そして、ガラスリボン3が固化すると、その成形が完了する。ここで、ガラスリボン3を下方に送る速度(板引き速度)は、1m/min〜7m/minの範囲内とすることが好ましい。
【0058】
次に、上記の製造装置1および製造方法による主たる作用・効果について説明する。
【0059】
上記の製造装置1および製造方法によれば、加熱された状態のエッジローラー5(ローラー本体9)をガラスリボン3に接触させることができ、接触によりガラスリボン3が急冷されることを回避できる。従って、特定ガラス(リン酸塩系ガラス等)で構成されるガラスリボン3を成形するに際して、急冷に伴ったガラスリボン3の急激な収縮や、急激な粘度の高まりを防止できる。その結果、ガラスリボン3が割れたり、延伸が困難になったりすることを回避でき、ガラスリボン3を好適に成形することが可能となる。
【0060】
<第二実施形態>
以下、本発明の第二実施形態に係るガラス板の製造装置、及び、当該装置を用いた本発明の第二実施形態に係るガラス板の製造方法について説明する。なお、第二実施形態については、上記の第一実施形態との相違点についてのみ説明する。第一実施形態との共通点については、第二実施形態の説明で参照する図面に同一の符号を付すことで重複する説明を省略する。
【0061】
図3(a),(b)に示すように、第二実施形態に係る製造装置1が、上記の第一実施形態に係る製造装置1と相違している点は、(A)ローラー本体9を加熱する加熱機構が、ヒーター10ではなく、回転軸8の内部に流体13を流通させる流路14と、流路14内に流入させる流体13を加熱する流体加熱手段15とからなる点と、(B)流路14内に流入させる流体13を冷却する流体冷却手段16を備えている点である。
【0062】
流路14は、回転軸8の外部から内部に流入した流体13をローラー本体9側に送るための往路14aと、回転軸8の内部から外部に流出する流体13をローラー本体9側から帰還させるための復路14bとを有する。流体13は、回転軸8の基端部(図示省略)において外部から内部に流入する共に、内部から外部に流出する。なお、流体13としては、気体(例えば、空気等)を用いてもよいし、液体(例えば、水等)を用いてもよい。
【0063】
往路14aは、円筒状に形成された管17の内部に形成されている。管17は、その外径が回転軸8の内径よりも小さくなっており、回転軸8の内周面8bと管17の外周面17aとの間に隙間が形成されている。この隙間が復路14bを構成している。なお、管17は、回転軸8と共に回転する構成であってもよいし、回転軸8から独立して静止する構成であってもよい。
【0064】
流体加熱手段15および流体冷却手段16は、共に回転軸8の外部に配置されている。両者15,16は、いずれも往路14aと接続されると共に、一方の稼働時には他方が稼働を停止する構成とされている。これにより、流体加熱手段15の稼働時には、加熱された流体13を回転軸8の内部に流通させてローラー本体9を加熱でき、流体冷却手段16の稼働時には、冷却された流体13を回転軸8の内部に流通させてローラー本体9を冷却できる。
【0065】
ここで、流体加熱手段15としては、例えば、ヒートポンプシステムやヒーターを使用することが可能である。また、流体冷却手段16としては、例えば、汎用的な冷却設備や冷凍機を使用することが可能である。
【0066】
次に、上記の製造装置1を用いた第二実施形態に係る製造方法について説明する。
【0067】
この第二実施形態に係る製造方法が、上記の第一実施形態に係る製造方法と相違している点は、(C)ヒーター10ではなく、流路14内を流れる加熱された流体13によりローラー本体9を加熱している点と、(D)流体冷却手段16の稼働時に、特定ガラス以外のガラス(例えば、無アルカリガラス等の成形温度が比較的高いガラス)で構成されるガラスリボン3の成形が可能である点である。
【0068】
この第二実施形態に係る製造装置1および製造方法によっても、上記の第一実施形態に係る製造装置1および製造方法と同一の主たる作用・効果を得ることが可能である。
【0069】
ここで、本発明に係るガラス板の製造装置および製造方法は、上記の各実施形態で説明した構成・態様に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態では、オーバーフローダウンドロー法により溶融ガラスからガラスリボンを成形しているが、この限りではない。オーバーフローダウンドロー法以外の成形方法によりガラスリボンを成形する場合でも、当該成形方法が、成形体から降下するガラスリボンの幅方向端部をエッジローラーで表裏両側から挟持しつつ下方に送る形態である場合には、本発明を適用することが可能である。
【0070】
また、上記の実施形態では、ローラー本体を回転軸の内部から加熱しているが、この限りではない。例えば、ローラー本体の周辺にヒーター等の加熱手段を設置し、当該加熱手段によりローラー本体を外部から加熱するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 ガラス板の製造装置
3 ガラスリボン
3a 幅方向端部
3b 表面
3c 裏面
4 成形体
5 エッジローラー
8 回転軸
9 ローラー本体
10 ヒーター
13 流体
14 流路
14a 往路
14b 復路
15 流体加熱手段
16 流体冷却手段