(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0020】
[第1実施形態:Sn−Sb−Ag三元系]
本発明は、第1実施形態によれば、はんだ材であって、Sbを、5.0質量%以上であって8.0質量%以下と、Agを3.0質量%以上であって、5.0質量%以下含有し、残部は、Sn及び不可避不純物からなる合金である。不可避不純物とは、主として、Cu、Ni、Zn、Fe、Al、As、Cd、Au、In、P、Pbなどをいうが、これらには限定されない。本発明によるはんだ材は、Pbを含まない鉛フリーはんだ合金である。Snを主成分とするはんだ材に、上記の組成範囲で、Ag及びSbを含むことにより、高温延性が高いものとなっている。また、本実施形態によるはんだ材は、比較的高い濡れ性を確保することができる。Agの添加量が3.0質量%より少ないと、延性が大きくなる。これはAg
3SnとβSnの網目状ネットワーク構造の組織の形成が部分的になり、最も延性の高いβSnの領域が多くなることで、局所的な延性が高くなる部分とAg
3SnとβSnの共晶組織にて析出強化組織構造を作る硬い箇所とができるためである。そのため、熱サイクル試験のように繰返し応力が加わると破断しやすくなる。一方、Agの添加量が5.0質量%より多いと、過共晶組成となり、Ag量が過剰でAg
3SnとβSnの共晶組織がより緻密になり析出強化構造が過剰になる。また、Ag
3SnとβSnのネットワーク構造によるAg
3SnとβSnの距離が近くなることで、Ag
3Snが見掛け上大きな化合物の様相となり、硬い大きな化合物が点在することとなる。このAg
3Snが見掛け上塊となった化合物は、熱処理や外力などがかかることでSnとAgで相互拡散し、大きなAg
3Sn化合物となる。このことで安定した均一な凝固組織が得られなくなり、強度と延性を両立することができず、接合強度を向上することができない。また、Sbが8質量%より多くなると、通常のはんだ接合の冷却速度では例えば20℃/sec以下で接合する場合には、Sbを核としたSnSb包晶組織中にSb
3Sn
2化合物が晶出する。このSb
3Sn
2化合物の晶出は、強度を向上させるが延性を低下させる。また発熱などに伴う熱変形と歪が負荷されると、この化合物は結晶粒界に移動し、Snとの相互拡散によってSbSnの化合物は粗大化する。この粗大な化合物は結晶の粒界強度を低下させ、容易に粒界すべりなどを促進することで、粒界にキャビティが生成され、延性がなく、強度が低下することにつながる。
【0021】
本発明において、高温延性とは、100℃以上、例えば、100℃〜200℃付近における延性をいうものとする。また、このような高温延性は、所定の温度条件下において測定した、破断伸び(%)により評価することができる。破断伸び(percentage elongation after fracture)とは、JIS Z2241金属材料引張試験方法において定義された物性値であって、破断後の永久伸び(Lu−L
0)を原標点距離L
0に対する百分率で表したものをいう。ここで、Lは試験片の平行部で伸びを測定する部分の長さ(標点距離)であって、Luは、破断後に室温で測定する、試験片に記された標点距離(最終標点距離)、L
0は、試験前に室温で測定する、試験片に記された標点距離(原標点距離)を表す。破断伸びの測定方法については、実施例において詳述する。第1実施形態によるはんだ材は、100℃における破断伸びが、52%〜54.8%程度である。この値は、本発明の範囲外にあるSn−8.5Sb−2.5Agはんだ材の破断伸びに対して、102%以上であり、概ね102〜108%である。また、175℃における破断伸びが、60%〜62%程度である。この値は、本発明の範囲外にあるSn−8.5Sb−2.5Agはんだ材の破断伸びに対して、113%以上であり、概ね113〜117%である。以上のように高温延性が高いと、熱応力が加わった際にクラックや割れなどの破壊に至らず高い接合強度を得ることができる。
【0022】
より好ましい態様においては、Sbを、6.0質量%以上であって8.0質量%以下と、Agを3.6質量%以上であって4.5質量%以下含有し、残部は、Sn及び不可避不純物からなる。Sbをこの範囲とすることにより、共晶成分に近いために、SnにSbが固溶してSnの初晶成長を抑制し、より欠陥(ボイド)が少なくなる。また、Sbが固溶していることによって均一なSnの変形が可能になるといった作用が期待できる。また、Agをこの範囲とすることにより、高温での変化が少ないAgがはんだ中にAg
3Sn化合物として微細にかつ均一に分散し、はんだ構造体を分散強化する働きがある。また、Agは先に述べたように、化合物として微細に分散することで、高温に曝されても熱変形を抑制する効果が期待できる。この組成のはんだ材料では、SbとAgの組成により、大きく特性が異なり、このように、Agの挙動を制御するような組成にすることにより接合強度を高めることができる。
【0023】
これらのことから、Sb及びAgを本実施形態に係る所定の組成範囲とすることで、強度や延性の維持することが可能となり、温度差が80度以上の熱サイクルが付加される場合では熱応力が大きくなる。このような熱応力に対しても、はんだ接合層の強度が高いため、剥離や亀裂などの破壊は起こらず、高い信頼性を得ることができる。
【0024】
[第2実施形態:Sn−Sb−Ag−Ni四元系]
本発明は、第2実施形態によれば、はんだ材であって、Sbを、5.0質量%以上であって8.0質量%以下と、Agを3.0質量%以上であって、5.0質量%以下と、さらに、Niを、0.05質量%以上であって0.3質量%以下含有し、残部は、Sn及び不可避不純物からなる、Pbを含まない鉛フリーはんだ合金である。第1実施形態の組成に、さらにNiを上記添加範囲で添加する利点としては、はんだ材の高温延性をさらに向上させることができるためである。このようなNi添加量の範囲の中でも、特に0.1質量%以上であって0.25質量%以下が好ましい。この範囲で、濡れ性に最も優れるためである。
【0025】
第2実施形態によるはんだ材は、100℃における破断伸びが、55%程度である。この値は、本発明の範囲外にあるSn−8.5Sb−2.5Agはんだ材の破断伸びに対して、108%以上であり、概ね108〜109%である。また、175℃における破断伸びが、65%〜65.5%程度である。この値は、本発明の範囲外にあるSn−8.5Sb−2.5Agはんだ材の破断伸びに対して、123%以上であり、概ね123〜124%である。以上のように高温延性が高いと、前述したように、熱応力が加わった際にクラックや割れなどの破壊に至らず高い接合強度を得ることができる。
【0026】
さらに好ましくは、Sbを、6.0質量%以上であって8.0質量%以下含有し、Agを3.6質量%以上であって4.5質量%以下含有し、Niを0.1質量%以上であって0.25質量%以下含有し、残部は、Sn及び不可避不純物からなる。このような組成範囲とすることで、上記に加え、さらに、凝固時のそれぞれの材料の体積変化に伴う凝固欠陥を抑制する効果が期待できる。高温化が必要な接合体では、欠陥(空気)は熱伝導が著しく悪く、いわば断熱材のように機能する。はんだ材による接合体の量産においては、より欠陥が少ないことが要求されるところ、本実施形態による好ましい組成を備えたはんだ材は、その欠陥を少なくすることが可能となる。また、均一な凝固組織をとることから、クラックの進展を抑制できるといった作用が期待できる。
【0027】
はんだ材は、電子機器における、任意の金属部材の接合に用いることができる。特に、銅もしくは銅合金、ニッケルもしくはニッケル合金、あるいはこれらによりめっきされた部材を被接合部材とする場合は、接合性が特に良好となる。はんだの成分であるSnやSbと、被接合材のCu等と、Cu
3SnなどのCuSn合金やCuSb合金を形成しやすくなる。しかし、これらの合金は、接合強度の点からあまり好ましくないが、所定量のNiを含む第2実施形態によるはんだ材は、これらの合金の生成を抑制する効果があり、接合性が向上する。
【0028】
[第3実施形態:Sn−Sb−Ag−Ni−Ge五元系]
本発明は、第3実施形態によれば、はんだ材であって、Sbを、5.0質量%以上であって8.0質量%以下と、Agを3.0質量%以上であって、5.0質量%以下と、Niを、0.05質量%以上であって0.3質量%以下含有し、さらに、Geを、0.003質量%以上であって0.01質量%以下含有し、残部は、Sn及び不可避不純物からなる、Pbを含まない鉛フリーはんだ合金である。第2実施形態の組成に、さらにGeを上記範囲で添加する利点としては、合金の高温延性をさらに向上させることができるためである。また、Sbの酸化を抑え、はんだの濡れ性の向上に大きく寄与するためである。Geを0.01質量%より多く、例えば、0.02質量%程度含有させると、接合欠陥となる空気のボイドができやすくなる。Geの添加量は、より好ましくは、0.003質量%以上であって0.008質量%以下である。この範囲で添加することにより、過剰なGeOの生成を抑制し、適切な量のGeOを生成させることにより、還元、除去しにくいSn酸化物を抑制することができる。また、これによりボイド抑制の効果が得られる。さらに好ましいGeの含有量は、0.003質量%以上0.005質量%を超えない量である。また、GeOは、はんだ材料の表面にも形成されるが、上記添加量の範囲内であれば、GeOの膜厚は非常に薄い。そのため、加熱し、被接合材と接合する際に、濡れ性が悪くならず、接合しやすい。
【0029】
なお、Sn酸化物は、はんだ材料の表面被膜として形成されるため、被接合材との反応が抑制され、接合性を低下させる要因になる。また、局部的にボイドができる要因にもなる。特にパワー半導体装置においては、はんだ接合部のボイド率は好ましくは10%未満にする必要があるため、所定量のGeを含む本実施形態によるはんだ材におけるSn酸化物の生成を抑制する効果は重要である。また、接合工程中においても、Sn酸化物がはんだ接合層中に分散して形成されると、その箇所において接合性が低下してしまうので、Sn酸化物の抑制は重要である。また、Geは他の金属と合金を作りづらいという特性を有する。余分な化合物を作らず、単体として固溶したGeは、クラックの伸展を抑制するので強度が上がる。
【0030】
第3実施形態によるはんだ材は、100℃における破断伸びが、55%程度である。この値は、本発明の範囲外にあるSn−8.5Sb−2.5Agはんだ材の破断伸びに対して、108%以上であり、概ね108〜109%である。また、175℃における破断伸びが、66%〜67%程度である。この値は、本発明の範囲外にあるSn−8.5Sb−2.5Agはんだ材の破断伸びに対して、125%以上であり、概ね125〜127%である。以上のように高温延性が高いはんだ材を用いると、熱応力が加わった際にクラックや割れなどの破壊に至らず高い接合強度を得ることができる。
【0031】
さらに好ましくは、Sbを、6.0質量%以上であって8.0質量%以下含有し、Agを3.6質量%以上であって4.5質量%以下含有し、Niを0.1質量%以上であって0.25質量%以下含有し、Geを上記いずれかの範囲で含有し、残部は、Sn及び不可避不純物からなる。このような組成範囲とすることで、上記に加え、さらに、凝固時のそれぞれの材料の体積変化に伴う凝固欠陥を抑制する効果が期待できる。高温化が必要な接合体では、欠陥(空気)は熱伝導が著しく悪く、いわば断熱材のように機能する。はんだ材による接合体の量産においては、より欠陥が少ないことが要求されるところ、本実施形態による好ましい組成を備えたはんだ材は、その欠陥を少なくすることが可能となる。また、均一な凝固組織をとることから、クラックの進展を抑制できるといった作用が期待できる。
【0032】
第3実施形態によるはんだ材も、電子機器における、任意の金属部材の接合に用いることができる。特には、はんだ材がNiを所定量で含む組成であるため、第2実施形態において述べたのと同様の理由で、銅もしくは銅合金、ニッケルもしくはニッケル合金、あるいはこれらによりめっきされた部材を被接合部材とする場合は、接合性が特に良好となる。これに加え、本実施形態においては、Geを含むことで以下のような利点を有する。被接合物が銅やニッケルなどの場合、Sn、Sbを含むはんだ材を用いると、はんだの成分であるSnやSbと被接合部材のCu等と、Cu
3SnなどのCuSn合金やCuSb合金、Ni
3Sn
4等を形成しやすくなる。これらの合金は、接合強度の点からあまり好ましくない。しかし、Sn、Sb等に加えてGeが含まれている場合、これらの合金の生成を抑制するため、接合強度を向上させることができる。被接合部材がめっきなどによるNiP(ニッケル-リン)である場合は、はんだ中のSnとNiP層のNiが相互拡散して合金を形成するために、NiP層とはんだの界面にPリッチ層が形成される。このNiが抜けたPリッチ層は、非常に脆く、接合強度が低下する要因となる。しかし、Geが添加された第3実施形態によるはんだ材の場合、GePの化合物が生成されるため、接合強度の低下を抑制することができる。NiP被接合部材のP濃度は、通常、3〜12質量%であるが、Pリッチ層が少ないP濃度3〜5質量%のNiP被接合部材に適用する場合に、本実施形態によるはんだ材が特に効果的である。
【0033】
[第4実施形態:Sn−Sb−Ag−Ni−P五元系]
本発明は、第4実施形態によれば、はんだ材であって、Sbを、5.0質量%以上であって8.0質量%以下と、Agを3.0質量%以上であって、5.0質量%以下と、Niを、0.05質量%以上であって0.3質量%以下含有し、さらに、Pを、0.003質量%以上であって0.01質量%以下含有し、残部は、Sn及び不可避不純物からなる、Pbを含まない鉛フリーはんだ合金である。第2実施形態の組成に、さらにPを上記範囲で添加する利点としては、合金の高温延性をさらに向上させることができるためである。また、Sbの酸化を抑え、はんだの濡れ性の向上に大きく寄与するためである。Pを0.01質量%より多く、例えば、0.02質量%程度含有させると、接合欠陥となる空気のボイドができやすくなる。Pの添加量は、より好ましくは、0.003質量%以上であって0.008質量%以下である。この範囲で添加することにより、過剰なリン酸化物の生成を抑制し、適切な量のリン酸化物を生成させることにより、還元、除去しにくいSn酸化物を抑制することができる。また、これによりボイド抑制の効果が得られる。さらに好ましいPの含有量は、0.003質量%以上0.005質量%を超えない量である。本実施形態による所定量のPによる、Sn酸化物の抑制の効果はGeと類似している。Pは、一般的に無機リン酸(phosphoric acid)を生成して金属腐食を生じさせる材料でもあるが、Pの添加量が0.003質量%以上であって0.01質量%以下である第4実施形態によるはんだ材は、熱サイクル疲労試験などの耐久試験においても腐食や割れなどの接合不良を起こすことはなく、良好な接合強度を得ることができる。
【0034】
また、Geは他の金属とは化合物を形成しにくいが、Pははんだ材のSn等と化合物を形成する。特にSnP化合物は硬度が高く、Pを、0.003質量%以上であって0.01質量%以下の量で、Snを含むはんだ材に含有させると、引張強度を向上させる効果を有する。また、後述する通り、被接合体中の元素との間で化合物が生成するので、接合時の反応が早く、短時間で接合することができる。しかし、0.01質量%より多く含有させると、脆性が大きくなり好ましくない。つまり、局部的に脆くなりクラックなどの破壊が生じ、接合強度を低下させる。
【0035】
第4実施形態によるはんだ材は、100℃における破断伸びが、55%程度である。この値は、本発明の範囲外にあるSn−8.5Sb−2.5Agはんだ材の破断伸びに対して、108%以上であり、概ね108〜109%である。また、175℃における破断伸びが、66%〜67%程度である。この値は、本発明の範囲外にあるSn−8.5Sb−2.5Agはんだ材の破断伸びに対して、125%以上であり、概ね125〜127%である。以上のように高温延性が高いと、熱応力が加わった際にクラックや割れなどの破壊に至らず高い接合強度を得ることができる。
【0036】
さらに好ましくは、Sbを、6.0質量%以上であって8.0質量%以下含有し、Agを3.6質量%以上であって4.5質量%以下含有し、Niを0.1質量%以上であって0.25質量%以下含有し、Pを上記いずれかの範囲で含有し、残部は、Sn及び不可避不純物からなる。このような組成範囲とすることで、上記に加え、さらに、凝固時のそれぞれの材料の体積変化に伴う凝固欠陥を抑制する効果が期待できる。高温化が必要な接合体では、欠陥(空気)は熱伝導が著しく悪く、いわば断熱材のように機能する。はんだ材による接合体の量産においては、より欠陥が少ないことが要求されるところ、本実施形態による好ましい組成を備えたはんだ材は、その欠陥を少なくすることが可能となる。また、均一な凝固組織をとることから、クラックの進展を抑制できるといった作用が期待できる。
【0037】
また、本実施形態のさらなる変形形態として、GeとPを両方含有させた、Sn−Sb−Ag−Ni−Ge−P六元系のはんだ材でもよい。この場合、GeとPの添加量は、それぞれ第3実施形態、第4実施形態において、好適な範囲として例示した添加量から、独立して選択することができる。Sn−Sb−Ag−Ni−Ge−P六元系のはんだ材によれば、所定量のPの添加による強度向上に加え、所定量のGeが、Pと化合物を形成することで、SnP化合物の形成が抑制され、接合強度をさらに向上させることができる。なお、PとGeを上記所定の範囲外で添加すると、脆くなり、強度が落ちるため、好ましくない。
【0038】
第4実施形態またはその変形形態によるはんだ材も、電子機器における、任意の金属部材の接合に用いることができる。特には、はんだ材がNiを所定量で含む組成であるため、第2、第3実施形態において述べたのと同様の理由で、銅もしくは銅合金、ニッケルもしくはニッケル合金、あるいはこれらによりめっきされた部材を被接合部材とする場合は、接合性が特に良好となる。第4実施形態またはその変形形態によるはんだ材においては、特にPを含むために、それぞれの被接合部材に対して、以下のようなさらなる利点を有する。被接合材がCuやNiの場合、はんだ材に含まれるPが、Cuと速い反応速度でCuP
2などの化合物を生成するため、Cuに対する濡れ性は良好となる。また、所定量のPに由来して生成するCuP
2化合物が、はんだ材中に均一に分散することで、CuP
2化合物は硬いため、強度が向上する。しかし、Pの量が上記所定量を超えるとCuP
2化合物が多く生成し、局部的に集積するとその箇所は脆くなり強度を低下させるため、好ましくない。この点、第4実施形態またはその変形形態によるはんだ材は、脆い化合物の成長を遅延させることができ、接合体の長寿命化に寄与することができる。Ni被接合材の場合も同様のことがいえる。すなわち、第4実施形態またはその変形形態によるはんだ材により、強度を向上させることができる。また、はんだ材に含まれるPは、Ni被接合材中のNiと複数種の化合物を生成することができ、その反応速度はPとCuの反応よりも速いため、濡れ性が非常に良くなる。被接合部材がめっき等のNiPの場合、第3実施形態において説明したのと同様に、NiP層からのNiの抜けを抑制し、接合強度の低下を抑制することができる。この効果は特に、Pリッチ層が少ないP濃度3〜5質量%のNiP被接合部材に第4実施形態またはその変形形態によるはんだ材を適用する場合に大きいといえる。
【0039】
上記第1〜第4実施形態によるはんだ材は、いずれも、通常の方法に従って、Sn、Sb、Ag、及び任意選択的にNi及びGeから選択される各原料、あるいは各原料を含む母合金を電気炉中で溶解することにより調製することができる。各原料は純度が99.99質量%以上のものを使用することが好ましい。
【0040】
また、上記第1〜第4実施形態によるはんだ材は、板状のプリフォーム材として、あるいは粉末状にしてフラックスと合わせてクリームはんだとして、加工することができる。粉末状に加工してフラックスと合わせてクリームはんだとする場合に、はんだ粉末の粒径としては、粒径分布が、10〜100μmの範囲にあるものが好ましく、20〜50μmの範囲にあるものがさらに好ましい。このようなはんだ粉末は、平均粒径は、例えば、一般的なレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した場合に、25〜50μmとすることができる。フラックスとしては、任意のフラックスを用いることができるが、特には、ロジン系フラックスを好ましく用いることができる。
【0041】
次に、上記第1〜第4実施形態によるはんだ材の使用方法について説明する。上記第1〜第3実施形態によるはんだ材は、電子機器における、任意の金属部材の接合に用いることができる。特には、Cu、Ni、Ag、Au、Al等もしくはこれらの合金、またはこれらの金属もしくは合金でめっきされた部材の接合に用いることができるが、特定の被接合体には限定されない。しかし、上述したように、第2から第4実施形態のように、はんだ材がNiを含む場合は、被接合体の少なくとも一方、好ましくは両方がCuもしくはNiまたはそれらの合金、あるいはこれらによりめっきされた部材であるとよりよい接合性を得ることができる。
【0042】
接合に用いるはんだ材の厚さや形状などは、目的及び用途にしたがって当業者が適宜設定することができ、特には限定されない。上記態様のはんだ材は、従来技術と比較して濡れ性がよく、ボイドが生じにくいので、薄くすることもできる。はんだ材が薄いと熱抵抗も下がるため、半導体装置において好ましい場合がある。一方、半導体素子のチップが反っていると反り分だけ厚くする必要がある。その際、ボイドが生成しやすいが、濡れ性がよいと空隙によるボイドを防ぐとことができる。また、はんだ材が厚いと応力緩和効果があるので、寿命も長くなる場合がある。よって、本発明のはんだ材は、その優れた特性により薄くも厚くもでき、設計の自由度が高いという利点がある。一例として、接合後のはんだ接合層の厚さが、約200〜300μm程度となるようにすることができるが、この範囲には限定されない。
【0043】
はんだ材を用いた金属部材の接合方法は、はんだ材と金属部材とを接触させた状態で、加熱ピーク温度をはんだ材の液相線温度(融点)+30℃程度に設定することにより、はんだ材を溶融させてはんだ接合層を形成することが好ましい。この場合の加熱時間は少なくとも60秒以上保持することが好ましい。はんだ材の形態にもよるが、水素やギ酸など有機酸の活性雰囲気を用いて接合することもできる。
【0044】
[第5実施形態:接合部、電子機器]
本発明は、第5実施形態によれば、電子機器に関する。具体的には、第1〜第4実施形態によるはんだ材を溶融したはんだ接合層を備える電子機器に関する。はんだ接合層と、被接合体となる金属部材を含む接合部は、本発明の一実施形態をなす。被接合体は金属部材であればよく、特には限定されないが、特に第2〜第4実施形態による、Niを含むはんだ材をはんだ接合層として用いる場合には、被接合体は、NiもしくはCuあるいはこれらの合金、あるいはこれらによりめっきされた部材から選択されることが好ましい。はんだ接合層に接する複数の被接合体は同一の材料であっても、異なる材料であってもよいが、少なくとも一方の被接合体は、NiもしくはCuあるいはこれらの合金、あるいはこれらによりめっきされた部材であることが好ましい。接合性の観点からである。また電子機器の被接合体では,電気抵抗が低く,熱伝導率が高いものが好ましいためCuまたはAgが主となる成分となる。耐食性の観点でNiやNiめっき,Ni合金などが接合表面に処理される。Cuに比べNiははんだ接合性が悪い。耐食性と濡れ性の改善としてAg,Au,Pt,Pd,Ag−Pdなどの貴金属を再表面に処理することも可能。SiCなど電気抵抗の低損失素子を用いた電力変換機などは,損失を少しでも抑制するために電極材にAgを用いる場合が多くある。はんだ接合部は、電子機器の一部を構成するものであり、電子機器としては、インバータ、メガソーラー、燃料電池、エレベータ、冷却装置、車載用半導体装置などの電気・電力機器が挙げられるが、これらには限定されない。
【0045】
典型的には、電子機器は半導体装置である。特にパワー半導体装置に有効である。近年の大容量化による150℃以上の高温で使用される半導体装置においては、素子から発生する熱を効率よく放熱することが重要である。従って、接合層内のボイドを低減することが重要である。インバータなどの装置に用いられるはんだ接合層では、20%以上のボイド率が許容される。しかし、パワー半導体に許容されるボイド率は多くとも20%未満であり、好ましくは10%程度以下である。第1から第4実施形態のはんだ材を用いることで、接合層で生じるボイドを抑制することができるので、これらのはんだ材を用いたはんだ接合層は、パワー半導体装置においては特に有効である。半導体装置における接合部は、ダイボンド接合部、絶縁基板と放熱板との接合部、端子と端子の接合部、端子と他の部材との接合部、あるいは、そのほかの任意の接合部であってよいが、これらには限定されない。以下に、本実施形態に係る接合部を備える電子機器の一例として、半導体装置を挙げ、図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【0046】
図1は、半導体装置の一例である、パワーモジュールの概念的な断面図である。パワーモジュール100は、主として、放熱板13上に半導体素子11及び積層基板12を、はんだ接合層10にて接合した積層構造となっている。放熱板13には、外部端子15を内蔵したケース16が接着され、半導体素子11の電極および積層基板12の金属導電性板123と外部端子15はアルミニウムワイヤなどのワイヤ14にて接続されている。モジュール内部は、樹脂封止材17が充填されている。半導体素子11は、Si半導体素子や、SiC半導体素子であってよいが、これらには限定されない。例えばIGBTモジュールに搭載されるこれらの素子の場合、積層基板12と接合される裏面電極は、通常、AuまたはAgから構成される。積層基板12は、例えば、Al
2O
3やSiNなどからなるセラミックス絶縁基板122の表裏に銅やアルミニウムの金属導電性板121、123が設けられている。放熱板13としては、熱伝導性に優れた銅やアルミニウムなどの金属が用いられる。また、腐食防止の為に、金属導電性板121、123や放熱板13にNiおよびNi合金を被覆する場合もある。
また、
図1には示していないが、はんだ接合層10は、積層基板12の金属導電性板121の下面のみならず、側部まで覆うように形成されていても良い。このようにはんだ材が金属導電性板の側面を覆う態様は、
図3に具体的に示されている。金属導電性板の側部まではんだで覆われていると接合強度を向上させることができる。
【0047】
本実施形態において図示する半導体装置は、一例であり、本発明に係る半導体装置は、図示する装置構成を備えるものには限定されない。例えば、本出願人らによる特開2005−116702号公報に開示するリードフレームを備える半導体装置であってもよい。リードフレームを備える半導体装置構成においては、リードフレームと半導体素子との接合に、本発明のはんだ材を用いることもできる。あるいは、本出願人らによる特開2012−191010号公報に開示されたピン構造を備える半導体装置であってもよい。このような半導体装置において、銅ブロックと半導体素子との接合や、銅ピンと半導体素子との接合に、本発明のはんだ材を用いることもできる。また、このようなダイボンド接合用途に加えて、絶縁基板と放熱板との接合、端子と端子との接合、半導体素子と端子との接合など、半導体装置内の任意のはんだ接合部に、本発明のはんだ材を用いることもできる。本発明のはんだ材を用いた半導体装置は、熱サイクル疲労特性が向上しており、熱サイクル寿命が大きく延びる。この熱サイクル疲労特性の向上は、上記第1から第4実施形態による所定の組成範囲を備えるはんだ材の、高温延性に優れる特長により、接合部におけるボイドを低下させ、かつ、接合部において、熱サイクルを受けた後であっても均一な結晶粒構造を保持しうることによってなされる。特に、温度差が80度以上の熱サイクル疲労特性について効果がある。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例並びにこれに対する考察は、本発明を限定するものではない。
【0049】
実施例1〜18及び比較例1〜5のはんだ材を調製し、はんだ材の高温特性、初期特性、及びはんだ材で接合したモジュールの信頼性試験を行った。
【0050】
[はんだ材の高温特性評価]
はんだ材の高温特性は、100℃におけるはんだ材の引張強度、及び常温(約25℃程度)、100℃、135℃、175℃における高温破断伸びを測定することにより評価した。破断伸びは、JIS Z2241金属材料引張試験方法に基づき、4号試験片と同様のダンベル試験片形状を用いて試験を行った。ダンベル等軸試験片の平行部6φmmの平行部長さ40mmの試験片を用いて、歪速度0.02%/secの試験にて引張破断試験を行った。試験機としては、高精度マイクロフォース試験機(インストロンジャパン製、5848型)を用いた。測定の具体的な条件は、引張り試験方向で、変位制御(10.000から−0.200)を行い、引張試験の速度は0.005(mm/s)とした。応力のサンプリング周期は、0.02secとし、標点間距離2400μmのうち、断面積0.785mm
2で破断するものを有効な試験として行った。
【0051】
応力の最大値を引っ張り強度(Mpa)、応力が0になったときのひずみ(%)を破断伸び(%)とした。実施例1〜18、比較例1〜5について、100℃、175℃における破断伸び(%)の測定値を、表1に示す。
【0052】
[はんだ材の初期特性評価]
はんだ材を用いて金属部材を接合する場合の初期特性の評価は、濡れ性の測定により実施した。接合部の濡れ性評価は、セラミクスにCu電極が形成されたDCB(Direct Copper Bonding)基板とCu放熱板を、実施例および比較例のはんだ材を用いて接合した際のボイド率の測定により実施した。接合条件は、水素雰囲気で酸素濃度を50ppm以下としたときに300℃で3分接合をしたものを供試材として用いた。このときのはんだ材の厚みは、0.15mmを基準とした。このはんだ接合部を超音波探傷(SAT:Scanning Acoustic Tomography)にて観察し、SAT透過像から、電極の面積を100%として、空気のある部位を接合欠陥のボイドとし、ボイド率を算出した。表1に、ボイド率の実測値(%)を示す。放熱性の観点から、ボイド率が20%以上であると不良、20%未満であると良と判別することができる。特にボイド率が3%以下を示すものは、ボイドサイズも小さくなるため、空気層であるボイドの影響が小さくなり、よりパワー素子の熱のロスを低減することができる。他方、3%よりも大きくなると、各ボイド自体も大きくなり、局所発熱によって製品想定外の温度になる可能性があり、短期間で破壊するものが一定数発生する可能性が高くなる。また、接合強度という観点から、特に好ましい仕様といえる。
【0053】
[はんだ材により接合したサンプルモジュールの信頼性評価]
サンプルモジュールの信頼性は、熱サイクル試験により評価した。厚みが0.25mmの実施例1〜18、比較例1〜5の板はんだを用いて、上記濡れ性測定のサンプル作製と同様の接合条件で、DCB基板とCu放熱板を接合した。熱サイクル試験条件は、−45℃で10分保持後、昇温し、155℃で10分保持することを1サイクルとカウントした。熱サイクル試験の結果は、100サイクルごとにはんだ接合部をSATにて観察し、クラックが生じたサイクル数を破壊が観察されたサイクルとして記載した。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例及び比較例の各試験結果を、表1に示す。なお、表中、組成における「−」は、その元素が不可避不純物を除き、実質的に含まれていないことを示し、測定値における「−」は、未測定であることを示す。本発明の実施例によるはんだ材は、比較例によるはんだ材と比較して、100℃、175℃における高温破断伸びが高く、Sn−Sb−Agを所定の組成%で含む第1実施形態によるはんだ材、Sn−Sb−AgにNiを所定の組成%で添加した第2実施形態によるはんだ材、Sn−Sb−AgにNi、Geを所定の組成%で添加した第3実施形態によるはんだ材の順に、高温破断伸びが大きいことがわかった。数値データは示さないが、135℃における破断伸びの測定値も、概ね、100℃、175℃における破断伸びと同様の傾向を示すことがわかった。また、高温破断伸びの大きさと、熱サイクル試験による信頼性に大きな相関があることがわかった。特に第2実施形態、第3実施形態によるはんだ材では、400サイクルにて全くクラックの発生はなく、クラックが生じるまでの熱サイクル寿命は2倍以上向上することがわかった。
【0056】
熱サイクル試験後の実施例3のはんだ材を用いたサンプルモジュールの破断後の様子を
図2に示す。
図2は、半導体モジュールの断面の走査型電子顕微鏡写真に基づく概念図であり、DCB基板を構成する絶縁基板122及びCu導電性板121と、Cu放熱板13との間に、実施例3のはんだ材が溶融したはんだ接合層10が形成されている。はんだ接合層10には、はんだ接合層10及びCu導電性板121、Cu放熱板13に対して略垂直に、クラックCが形成されているが、クラックCははんだ接合層10を貫通していない。また、クラックCに伴う空乏は形成されておらず、半導体モジュールの電気特性においては軽微なクラックであることがわかる。
図2に示す実施例3のはんだ材においては、接合初期の金属組織の粒径の大きさが200〜500μmくらいの合金組織が、均一に存在している(図中には組織を明示せず)。そのため、クラックが生じても伸展しにくい傾向がある。
【0057】
熱サイクル試験後の比較例2のはんだ材を用いたサンプルモジュールの破断の様子を
図3に示す。
図3も、半導体モジュールの断面の走査型電子顕微鏡写真に基づく概念図であり、DCB基板を構成する絶縁層122及びCu電極板121と、Cu放熱板13との間に、比較例2のはんだ材が溶融した接合層50が形成されている。接合層50には、はんだ接合層10及びCu電極板121、Cu放熱板13に対して略平行に大きなクラックCが形成されている。このクラックCは、完全に空乏を形成しており、半導体モジュールの電気特性においても抵抗の上昇を招く重大な故障である。また、はんだ材が熱履歴により再結晶し、主な結晶粒Mが概ね10〜50μm程度の粒径に局所的に過度に微細化していることがわかる。微細化した結晶粒Mは、クラック部周辺に多くみられる。これは、熱応力がせん断方向にかかった結果、クラックが生じ、せん断方向に沿って、微細化された結晶粒Mの界面に沿って、クラックが増大したと考えられる。これに対し、実施例の組成では、Ni化合物、Ag化合物によりSnSbの再結晶の際の局所的な微細化が起こり難いのではないかと推定される。
【0058】
本発明の実施例及び比較例の結果から、実施例の所定の組成範囲内で、はんだ材の高温延性が高く、これにより、熱サイクル寿命を向上することが可能になった。また、熱サイクルによって結晶粒が再結晶する時に、結晶粒が局所的に、過度に微細化する現象が抑制されることがわかった。つまり、凝固組織の均一化、固溶強化と分散強化の最適な凝固組織をとる成分を用いることで熱変形によるはんだの劣化(クラック)を抑制することができ、熱サイクル疲労特性が向上している。
【0059】
[考察]
実施例及び比較例のはんだ材について考察する。なお、以下の記載は理論的考察に過ぎず、本発明は以下の理論に拘束されるべきものではない。
実施例1〜6の組成に含まれ得るSn−Sb−Agの共晶相部(Sn−6.2Sb−3.6Ag、なお共晶組成には若干の幅がある)は、比較的柔らかで高温でも伸びがある。すなわち、破断伸び率が高い。共晶点から所定の組成範囲においては、共晶点における安定的で、偏析がおきにくいという特性を備える。しかし、所定の範囲から外れると、高温延性は低下し、クラックの発生が起きやすくなって、モジュールとしての信頼性も低下する。これは先に述べた偏析や金属間化合物が晶出することによって材料が固くなり、ある一定の応力(ひずみ)が負荷された時にはんだにかかる力に対して均一な力の分散ができず、力のバランスがくずれた個所に歪集中することで材料は圧縮されて加工硬化し、硬い箇所と柔らかい箇所の境界で破壊するためであると考えられる。比較例の組成Sn5Sbに対して、実施例3の組成Sn6.2Sb3.6Agでは、クラック発生量に差があることから、クラックの進展を阻害する化合物の晶出が熱サイクル寿命に寄与していると考えられる。
【0060】
実施例7〜12の組成において、Sn−Sb−Agに、Niが所定の範囲で存在すると、高温延性はさらに向上する。これは、Niが結晶内の転位の回復を遅延させることと、NiSn化合物がはんだ中に分散することで、局部的な応力集中を緩和し、強制的な外力に対して全体的な変形をすることから、延性が向上する為ではないかと考えられる。一方で、強度自体は若干低下している。これは引張破断試験の場合、力が集中する箇所に対して、局所的に加工硬化が発生し、加工硬化部分では圧縮されたゴムのように硬く強度が高くなる。Ni添加品では、先に述べたように力を分散させるような組織構造をとるために、偏析がおきにくく力の集中部が分散し試験部の組織全体が変形し加工硬化のような高強度化しないために
、破断強度は若干低下する。しかし、モジュール信頼性としては、破断に至るまでの過程での力の分散による劣化を遅延させることが重要であり、破断時の強度が信頼性とは直接結びつかないため、高温延性が向上するNi添加した材料はバランスがとれているといえる。
【0061】
実施例13〜15の組成において、Sn−Sb−Ag−NiにGeがさらに添加されると、延性は若干向上する。これは、GeはSn−Sb等の粒界に拡散し、結晶粒界の粒界強度を低下させ、温度によるはんだ接合体にかかる力を粒界すべりが起こることで力の集中を緩和しるため、ひずみ負荷時に合金の構造体としては延性が向上するためではないかと考えられる。これらの組成においては、GeがSn粒界近傍に偏析していることがオージェ電子分光法(AES)のマッピングにより確認されている。具体的には、PHI社製SAM670走査型オージェ電子分光装置を用いて、加速電圧20kv、試料電流16nA、ビーム径50nmφ以下、試料傾斜0度の試験条件でマッピングを行った結果、隣接する2つのSn粒の境界にGeの偏析がみられた。このことから、熱ひずみに対して、粒界すべりを促進させ、Snの再結晶を抑制できると考えられる。しかし、Geの添加量が多すぎると、例えば、0.01%を超えて存在すると、強固なGeO膜が形成されて、はんだの濡れ性が悪くなる。これにより、空気を含んだ欠陥が多く発生することで、モジュール信頼性は低下するおそれがある。
【0062】
実施例16〜18の組成において、Sn−Sb−Ag−NiにPがさらに添加されると、引張強度は若干向上する。これは、Pの添加により硬度の高いSn−P化合物が接合層中に点在するようになり、接合層に応力が印加された際にクラックや、転位(凝固組織の中の結晶内部の格子欠陥が移動すること)の拡大を阻害するためではないかと考えられる。