特許第6811110号(P6811110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811110
(24)【登録日】2020年12月16日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】製紙用織物
(51)【国際特許分類】
   D21F 1/10 20060101AFI20201228BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   D21F1/10
   D03D1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-16644(P2017-16644)
(22)【出願日】2017年2月1日
(65)【公開番号】特開2018-123452(P2018-123452A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安野 正徳
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−533560(JP,A)
【文献】 特開2006−225838(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/044913(WO,A1)
【文献】 特開2003−013382(JP,A)
【文献】 特開2014−231656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 1/10
D03D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上緯糸と、前記上緯糸よりも走行面側に配置された下緯糸と、前記上緯糸及び前記下緯糸に織り込まれた経糸とを有する製紙用織物であって、
任意の前記経糸の任意の1単位の平織りは、経方向の両側の各々に於いて、該任意の前記経糸とこれに隣接する前記経糸との何れかに存在する1単位以上の平織りに隣接し、
任意の前記経糸と該経糸の一方の側に隣接する前記経糸とからなる1組の前記経糸に於いて、一方の前記経糸が、2単位以上の平織りを構成する第1平織部と、該第1平織部に続いて2本の前記上緯糸の下を通り、1単位の平織りを構成する下流部とを有する第1織り込み部分を有し、他方の前記経糸が、1単位の平織りを構成した後、2本の前記上緯糸の下を通る上流部と、該上流部に続いて、2単位以上の平織りを構成する第2平織部とを有する第2織り込み部分を有し、該第1及び第2織り込み部分間に於いて、該第1織り込み部分の該下流部と該第2織り込み部分の該上流部とが、互いに緯方向に整合していることを特徴とする製紙用織物。
【請求項2】
32本の前記上緯糸と、16本の前記経糸とを含む完全組織を有し、
任意の前記経糸は、3単位の連続する平織りによって構成される1つの平織部を有し、該平織部の上流側及び下流側の平織りは、それぞれ、緯方向の一方の側に隣接する前記経糸の前記平織部の下流側の平織り、及び、緯方向の他方の側に隣接する前記経糸の前記平織部の上流側の平織りに、経方向に於いて隣接し、
前記第1織り込み部分が、2単位の平織りからなる前記第1平織部と、前記下流部とからなり、前記第2織り込み部分が、前記上流部と、2単位の平織りからなる前記第2平織部とからなることを特徴とする請求項1に記載の製紙用織物。
【請求項3】
48本の前記上緯糸と、16本の前記経糸とを含む完全組織を有し、
前記第1織り込み部分が、4単位の平織りからなる前記第1平織部と、前記下流部とからなり、前記第2織り込み部分が、前記上流部と、3単位の平織りからなる前記第2平織部とからなり、
前記1組の前記経糸の前記一方が、前記第2平織部と、該第2平織部に続く前記下流部とからなる第3織り込み部分を更に有し、前記1組の前記経糸の前記他方が、前記上流部と、該上流部に続く前記第1平織部とからなる第4織り込み部分を更に有し、該第3及び第4織り込み部分間に於いて、該第3織り込み部分の該下流部と該第4織り込み部分の該上流部とが、互いに緯方向に整合していることを特徴とする請求項1に記載の製紙用織物。
【請求項4】
48本の前記上緯糸と、16本の前記経糸とを含む完全組織を有し、
前記経糸の各々は、前記第1織り込み部分及び前記第2織り込み部分の双方を有し、
前記第1織り込み部分が、前記上流部と、該上流部に続く3単位の平織りを構成する前記第1平織部と、前記下流部とからなり、
前記第2織り込み部分が、前記上流部と、2単位の平織りを構成する前記第2平織部と、前記下流部とからなり、
前記任意の前記経糸の前記第1織り込み部分の前記上流部は、該経糸の他方の側に隣接する前記経糸の前記第2織り込み部分の前記下流部に緯方向に整合していることを特徴とする請求項1に記載の製紙用織物。
【請求項5】
64本の前記上緯糸と、16本の前記経糸とを含む完全組織を有し、
前記完全組織に於いて、前記1組の前記経糸の前記一方が、2つの前記第1織り込み部を有し、前記1組の前記経糸の前記他方が、2つの前記第2織り込み部を有し、
前記第1織り込み部分が、5単位の平織りからなる前記第1平織部と、前記下流部とからなり、
前記第2織り込み部分が、前記上流部と、5単位の平織りからなる前記第2平織部とからなることを特徴とする請求項1に記載の製紙用織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製紙用織物に関し、特に、抄紙機のワイヤーパート(ウェットパート)に於いて使用される製紙用ワイヤーに適した製紙用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
経糸及び緯糸を製織することによって構成した製紙用織物は、製紙用のワイヤーやプレスフェルト、プレスベルト、ドライヤーカンバス等の多くの用途に使用されている。抄紙機のワイヤーパートに於いて使用される製紙用ワイヤーは、製造される紙の品質向上や、製造速度の高速化による生産効率向上の要請に応えるため、皺なく蛇行せずに安定して走行する走行性、原料液から水をより多く除去する脱水性や通気性、表面の凹凸が転写して紙に残ることを抑制する紙面性(表面平滑性)、目詰まりや粘着成分の付着を抑制する防汚性、摩耗や高圧洗浄による損傷に耐える耐久性等が求められている。このような要求を満たすために、製紙用ワイヤーに於いて、直径が異なる2種の緯糸を使用し、直径が小さい緯糸を製紙用ワイヤーの製紙面側に配置し、直径が大きい緯糸を製紙用ワイヤーの走行面側に配置し、製紙面に配置された緯糸及び走行面に配置された緯糸に経糸を織り込んだ、いわゆる経1重緯2重組織としたものがある(例えば、特許文献1)。多くの場合、このような製紙用ワイヤーでは、製紙面側に配置された緯糸の本数が、走行面側に配置された緯糸の本数に対して多くなっている。そのため、製紙面が走行面に対して緻密に形成され、製造される紙の表面平滑性が向上する。また、走行面側の緯糸の本数が製紙面側に対して少ないため、空隙率が高くなり、脱水性が向上する。また、走行面側の緯糸の直径が製紙面側に対して大きいため、耐久性が向上する。
【0003】
また、特許文献1に係る製紙用織物1では、図12図14に示すように、経糸2が上緯糸3を平織りで3回織り込んだ後、数本の上緯糸3と下緯糸4の間を通り、1本の下緯糸4を織り込んでいる。図12を見ると、ある経糸2は、その右方にある経糸2に対して3本の上緯糸3の分だけ下方にずれている。製紙用織物1に於いて、経糸No.7',5',3',1'の経糸2による平織部5をこの順で繋げると、連続する24本の上緯糸3に平織が形成される。経糸No.8',6',4',2'の経糸2による平織部5によっても同様である(図12及び図13に於いて、n'、nT及びnBは、それぞれ、経糸No.、上緯糸No.及び下緯糸No.を示す)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−533560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平織部5自体は、経糸2が上緯糸3に密に織り込まれるため、製造される紙に付くマークが目立ちにくい。しかし、図14に示すように、複数の経糸2を跨って平織部5が連続して配置される製紙用織物1では、連続するように配置された2つの平織部5の境界に織り込まれた上緯糸3は、その平織部5を形成する経糸2による下方からの支持力が周囲の上緯糸3より弱い。このような部分は、周囲より凹みやすく、製造される紙にマークを残すこととなる。この凹み部分6を、図12に薄いドットパターンで示す(なお、濃いドットパターンは、下緯糸4が経糸2の上を通っている部分を示している)。例えば、緯糸No.6Tの上緯糸3は、経糸No.1'及び5'の経糸2の平織部5と経糸No.3'及び7'との経糸2の平織部5の境界とに配置され、下方から支える経糸2の支持力が弱い(経糸2が緯糸No.5T〜7Tの上緯糸3を上、下、上と通らない)ため、凹み部分6が緯方向に連続的に発生する。前後の平織部5に対して凹みやすい凹み部分が緯方向に連続するため、特許文献1に係る製紙用織物1には、製造される紙に長いマークが付いて、マークが目立つという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の問題を鑑み、製紙用織物に於いて、製造される紙に長いマークが発生することを防止し、紙面性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上緯糸(12)と、前記上緯糸よりも走行面側に配置された下緯糸(13)と、前記上緯糸及び前記下緯糸に織り込まれた経糸(14)とを有する製紙用織物(11,31,32,51)であって、任意の前記経糸の任意の1単位の平織りは、経方向の両側の各々に於いて、該任意の前記経糸とこれに隣接する前記経糸との何れかに存在する1単位以上の平織りに隣接し、任意の前記経糸と該経糸の一方の側に隣接する前記経糸とからなる1組の前記経糸に於いて、一方の前記経糸が、2単位以上の平織りを構成する第1平織部(16a,34a,34b,53a)と、該第1平織部に続いて2本の前記上緯糸の下を通り、1単位の平織りを構成する下流部(18a,36a,54a)とを有する第1織り込み部分(21,39,57)を有し、他方の前記経糸が、1単位の平織りを構成した後、2本の前記上緯糸の下を通る上流部(18b,36b,54b)と、該上流部に続いて、2単位以上の平織りを構成する第2平織部(16a',35a,35b,53a')とを有する第2織り込み部分(22,40,58)を有し、該第1及び第2織り込み部分間に於いて、該第1織り込み部分の該下流部と該第2織り込み部分の該上流部とが、互いに緯方向に整合していることを特徴とする。
【0008】
ある経糸の平織部分が、隣接する経糸の平織部分に経方向において隣接する場合、その隣接部分に於いて、その上流側及び下流側よりも上緯糸が経糸を下方から支持する支持力が弱い凹み部分(17)が生じる。平織部分が緯方向にずれながら連続するように配置されると(図1図4及び図8の基本構成15,33,52参照)、この凹み部分は斜め方向に沿って並ぶため、斜め方向のマークが生じる。しかし、上記の構成によれば、基本構成では凹み部分を生じさせていた部分の少なくとも一部に於いて、平織りの構成が変わるため、その部分の支持力が、周囲の支持力に近づく。そのため、斜め方向に並ぶ凹み部分が減少して、斜め方向に長いマークが発生することが防止され、紙面性が向上する。更に、斜め方向の引張強度が改善され、筋曲がりが抑制される。
【0009】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(11)は、上記構成に於いて、32本の前記上緯糸と、16本の前記経糸とを含む完全組織(19)を有し、任意の前記経糸は、3単位の連続する平織りによって構成される1つの平織部(16)を有し、該平織部の上流側及び下流側の平織りは、それぞれ、緯方向の一方の側に隣接する前記経糸の前記平織部の下流側の平織り、及び、緯方向の他方の側に隣接する前記経糸の前記平織部の上流側の平織りに、経方向に於いて隣接し、前記第1織り込み部分(21)が、2単位の平織りからなる前記第1平織部(16a)と、前記下流部(18a)とからなり、前記第2織り込み部分(22)が、前記上流部(18b)と、2単位の平織りからなる前記第2平織部(16a')とからなることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、平織りの連続が隣接する経糸にずれる位置に於いて、凹み部分が生じないように下流部と上流部とが整合する部分(入替部18)と、凹み部分が生じる部分(非入替部20)数の比は、1:3であるため、脱水性及び通気性の低下を大きく抑制できる。
【0011】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(31)は、上記構成に於いて、48本の前記上緯糸と、16本の前記経糸とを含む完全組織(37)を有し、前記第1織り込み部分(39)が、4単位の平織りからなる前記第1平織部(34a)と、前記下流部(36a)とからなり、前記第2織り込み部分(40)が、前記上流部(36b)と、3単位の平織りからなる前記第2平織部(35b)とからなり、前記1組の前記経糸の前記一方が、前記第2平織部と、該第2平織部に続く前記下流部とからなる第3織り込み部分(41)を更に有し、前記1組の前記経糸の前記他方が、前記上流部と、該上流部に続く前記第1平織部とからなる第4織り込み部分(42)を更に有し、該第3及び第4織り込み部分間に於いて、該第3織り込み部分の該下流部と該第4織り込み部分の該上流部とが、互いに緯方向に整合していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、平織りの連続が隣接する経糸にずれる位置に於いて、凹み部分が生じないように下流部と上流部とが整合する部分(入替部36)と、凹み部分が生じる部分(非入替部38)との数の比は、1:1であるため、紙面性の向上と、脱水性及び通気性の低下の抑制との双方の効果をバランスよく得ることができる。
【0013】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(32)は、上記構成に於いて、48本の前記上緯糸と、16本の前記経糸とを含む完全組織を有し、前記経糸の各々は、前記第1織り込み部分(44)及び前記第2織り込み部分(45)の双方を有し、前記第1織り込み部分が、前記上流部(36b)と、該上流部に続く3単位の平織りを構成する前記第1平織部(34b)と、前記下流部(36a)とからなり、前記第2織り込み部分が、前記上流部(36b)と、2単位の平織りを構成する前記第2平織部(35b)と、前記下流部(36a)とからなり、前記任意の前記経糸の前記第1織り込み部分の前記上流部は、該経糸の他方の側に隣接する前記経糸の前記第2織り込み部分の前記下流部に緯方向に整合していることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、第1織り込み部分及び第2織り込み部分の双方の上流部及び下流部が、凹み部分を生じさせない構成となるため、紙面性が大きく向上する。
【0015】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(51)は、上記構成に於いて、64本の前記上緯糸と、16本の前記経糸とを含む完全組織(55)を有し、前記完全組織に於いて、前記1組の前記経糸の前記一方が、2つの前記第1織り込み部(57)を有し、前記1組の前記経糸の前記他方が、2つの前記第2織り込み部(58)を有し、前記第1織り込み部分が、5単位の平織りからなる前記第1平織部(53a)と、前記下流部(54a)とからなり、前記第2織り込み部分が、前記上流部(54b)と、5単位の平織りからなる前記第2平織部(53a')とからなることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、平織りの連続が隣接する経糸にずれる位置に於いて、凹み部分が生じないように下流部と上流部とが整合する部分(入替部54)と、凹み部分が生じる部分(非入替部56)との数の比は、1:1であるため、紙面性の向上と、脱水性及び通気性の低下の抑制との双方の効果をバランスよく得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の構成によれば、製紙用織物に於いて、製造される紙に長いマークが発生することを防止し、紙面性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る製紙用織物を製紙面側から見た説明図(a:第1比較形態、b:第1実施形態)
図2】第1実施形態に係る製紙用織物の平織部を緯方向から見た模式的断面図
図3】第1実施形態に係る製紙用織物の製紙面側から見た拡大説明図(a:入れ替えの行われていない部分、b:入れ替えの行われた部分)
図4】第2実施形態に係る製紙用織物を製紙面側から見た説明図(a:第2比較形態、b:第2実施形態、c:第2実施形態の変形例)
図5】第2実施形態に係る製紙用織物の平織部を緯方向から見た模式的断面図
図6】第2実施形態に係る製紙用織物の製紙面側から見た拡大説明図(a:第1及び第2織り込み部分、b:第2及び第4織り込み部分)
図7】第2実施形態の変形例に係る製紙用織物の製紙面側から見た拡大説明図
図8】第3実施形態に係る製紙用織物を製紙面側から見た説明図(a:第3比較形態、b:第3実施形態)
図9】第3実施形態に係る製紙用織物の平織部を緯方向から見た模式的断面図
図10】第3実施形態に係る製紙用織物の製紙面側から見た拡大説明図
図11】実施例について圧力分布測定の結果を示す写真(a:比較例、b:実施例)
図12】従来技術に係る製紙用織物を製紙面側から見た説明図
図13】従来技術に係る製紙用織物を経方向から見た模式的断面図
図14】従来技術に係る製紙用織物の平織部を緯方向から見た模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の各実施形態に係る製紙用織物は、抄紙機のワイヤーパート(ウェットパート)に於いて、紙料(液)から湿紙を形成するためのワイヤーとして使用されるものである。抄紙機に取り付けられた製紙用織物は、無端のベルト状の形状となるが、以下の説明に於いては、便宜上、製紙面側を上方、走行面側を下方とし、緯糸No.の小さい緯糸の存在する側(製紙面側から見た説明図の上方)を上流側、緯糸No.の大きい緯糸の存在する側(同図の下方)を下流側とし、経糸No.の小さい経糸が存在する側(同図の右方)を右方、経糸No.の大きい経糸が存在する側(同図の左方)を左方とする。
【0020】
≪第1実施形態≫
図1は、第1比較形態に係る製紙用織物10(a図)と、第1実施形態に係る製紙用織物11(b図)を製紙面側から見た模式的説明図であり、図2は、第1実施形態に係る製紙用織物11を緯方向から見た模式的断面図であり、図3は、第1実施形態に係る製紙用織物11を製紙面側から見た模式的な拡大説明図である。製紙用織物10,11は、抄紙機のロールに掛け渡され、ロールの回転に応じて走行する。製紙用織物10,11の製紙面側に於いて、紙料が載せられ、脱水によって湿紙が形成され、走行面側は抄紙機のロールに接触する。
【0021】
製紙用織物10、11は、それぞれ、上緯糸12と、下緯糸13と、両者に織り込まれた経糸14とを有する、経1重緯2重織の織物である。織り込まれる糸の繰り返しパターンの最小単位である完全組織には、32本の上緯糸12と、16本の下緯糸13と、16本の経糸14とが含まれる。図1に於いて、下緯糸13は、偶数No.の上緯糸12の下方に位置する。
【0022】
まず、第1比較形態に係る製紙用織物10の完全組織を構成する基本構成15について説明する。図中、「×」印をつけた部分が、経糸14が上緯糸12の上方を通る部分である。経糸14が、1本の上緯糸12の上方(製紙面側)を通過し、その隣の1本の上緯糸12の下方(走行面側)を通過した状態を、1単位の平織りと定義すると、各々の経糸14は、3単位の平織りが連続する平織部16を2つ有する。一方の平織部16は、他方の平織部16よりも上緯糸12の15本或いは17本分だけずれた位置に配置される。また、各々の経糸14は、平織部16から離間した2箇所で1本の下緯糸13を織り込む。図1に於いて、黒い四角形で示した部分が、経糸14が下緯糸13を織り込む部位である。その他の部分では、経糸14は、上緯糸12と下緯糸13との間を通っている。例えば、経糸No.2'の経糸14(以下、「経糸No.n'の経糸14」を「経糸No.n'」と記す)は、上緯糸No.8〜13の6本の上緯糸12(以下、「上緯糸No.nの上緯糸12」を「上緯糸No.n」と記す)と上緯糸No.23〜28の6本とを織り込んで2つの平織部16を形成し、上緯糸No.4及び16の下方の配置された下緯糸13を下方から織り込み、その他の部分では、上緯糸12と下緯糸13との間を通っている。
【0023】
上記の「平織り」は、上流側に配置された上緯糸12の上方を通過し、その下流側に隣接する上緯糸12の下方を通過するものとして、平織部16に該当する上緯糸12のNo.を記載した。
【0024】
経糸14の延在方向、すなわち、経方向に於いて、任意の経糸14の平織部16の上流側は、この経糸14の右方に隣接する経糸14の平織部16の下流側に隣接する。換言すると、任意の経糸14の平織部16の上流側の端部を構成する上緯糸12(例えば、経糸No.2'の平織部16の上流側の端部を構成する上緯糸No.8及び23)と、右方に隣接する経糸14の平織部16の下流側の端部を構成する上緯糸12(例えば、経糸No.1'の平織部16の下流側の端部を構成する上緯糸No.7及び22)とは、互いに隣接する。
【0025】
同様に、経方向に於いて、任意の経糸14の平織部16の下流側は、この経糸14の左方に隣接する経糸14の平織部16の上流側に隣接する。換言すると、任意の経糸14の平織部16の下流側の端部を構成する上緯糸12(例えば、経糸No.2'の平織部16の下流側の端部を構成する上緯糸No.13及び28)と、左方に隣接する経糸14の平織部16の上流側の端部を構成する上緯糸12(例えば、経糸No.3'の平織部16の上流側を構成する上緯糸No.14及び29)とは、互いに隣接する。
【0026】
従って、各々の経糸14では、平織部16は途切れているが、16本の経糸14を全体として見ると、経方向に於いて、平織部16は、ある経糸14からこれに隣接する経糸14にずれながら連続している。換言すると、任意の1単位の平織りは、経方向の両側の各々に於いて、自身が存在する経糸14及びこれに隣接する経糸14の何れかに存在する1単位以上の平織りに隣接する。
【0027】
図中、ドットパターンで示した部分は、凹み部分17である。凹み部分17は、その前後の部分に比べて相対的に紙料や湿紙を支える支持力が弱い部分である。凹み部分17は、従来技術に関して図14で示した凹み部分6と同様の原因から生じるものであり、経方向の平織りの連続が、任意の経糸14の平織部16から、隣接する経糸14の平織部16に切り替わる部分に生じる。例えば、経糸No.1'及び2'間では、緯糸No.7及び22に凹み部分17が生じており、経糸No.2'及び3'間では、緯糸No.13及び28に凹み部分17が生じている。図1(a)に矢印で示すように、斜め方向に沿って凹み部分17が並ぶため、製紙用織物10の表面性を害し、製造される紙に斜め方向に沿ったマークが生じるおそれがある。
【0028】
第1実施形態に係る製紙用織物11の完全組織は、基本構成15に対して、互いに隣接する2本の経糸14の間で、平織りを構成する位置を1単位ずつ入れ替えた入替部18を有する入替構成19からなる。一方の経糸14の入れ替えられる1単位の平織りと他方の経糸14の入れ替えられる1単位の平織りとは、経方向に於いて互いに隣接した平織部16の隣接する側の端部の平織りであって、それぞれ、隣接する経糸14に於ける、その平織りに緯方向に隣接する部分と入れ替えられる。この平織りに緯方向に隣接する部分では、経糸14は2本の上緯糸12及び1本の下緯糸13の間を通っている。例えば、経糸No.1'及び2'を見ると、基本構成15では、上緯糸No.21及び22に形成される平織りは経糸No.1'に存在し、上緯糸No.23及び24に形成される平織りは経糸No.2'に存在するが、入替構成19では、これらが対応する経糸14に於ける緯方向に隣接する部分と入れ替わり、上緯糸No.21及び22に形成される平織りは経糸No.2'に存在し、上緯糸No.23及び24に形成される平織りは経糸No.1'に存在する。入れ替えの行われた平織部16a,16a'は、入れ替えの行われていない平織部16よりも、平織りが1単位分少ない。すなわち、2本1組の経糸14間に於いて、一方の経糸14は、2単位の平織りを有する入れ替えの行われた第1平織部16aと、これに続いて2本の前記上緯糸の下を通り、1単位の平織りを構成する下流部18aとからなる第1織り込み部分21を有し、他方の経糸14は、1単位の平織りを構成した後、2本の前記上緯糸の下を通る上流部18bと、これに続く2単位の平織りを有する入れ替えの行われた第2平織部16a'とからなる第2織り込み部分22を有する。2本1組の経糸14間に於いて、下流部18aと上流部18bとが、互いに緯方向に整合して、入替部18を構成する。従って、任意の経糸14は、入れ替えの行われていない平織部16を1つと、第1織り込み部分及び第2織り込み部分22の何れか一方とを有し、入替構成19に於ける任意の1単位の平織りは、経方向の両側の各々に於いて、自身が存在する経糸14及びこれに隣接する経糸14の何れかに存在する1単位以上の平織りに隣接する。
【0029】
入替部18を設けることにより、基本構成15ではこの部分に生じていた凹み部分17が発生しない。この理由を図2図14とを対比して説明する。図14に示すように、凹み部分6は、互いに隣接する2本の経糸2の平織りが切り替わる部分で生じる。すなわち、一方の経糸2は、凹み部分6の左側では上緯糸3に平織りで織り込まれているが、右側では上緯糸3に織り込まれておらず、他方の経糸2は、凹み部分の右側では上緯糸3に平織りで織り込まれているが、左側では上緯糸3に織り込まれていない。そのため、凹み部分6の上緯糸3を下方から支持する力は、1本の経糸2が連続する3本の上緯糸3を上、下、上と通る部分の中央の上緯糸3を下方から支持する力よりも小さい。
【0030】
一方、本実施形態では、図2に示すように、互いに隣接する2本の経糸14の一方は、基本構成15では凹み部分17に相当する位置の上緯糸12の部分12aを、経方向の一方(紙面左方)に隣接する上緯糸12の上を通り、経方向の他方(紙面右方)に3つ目の上緯糸12の上を通ることにより、下方から支持している(経糸14は、部分12aから紙面右方に2つ目の上緯糸までは、上緯糸12の下方を通っている)。また、互いに隣接する2本の経糸14の他方は、その部分12aを、経方向の他方(紙面右方)に隣接する上緯糸12の上を通り、経方向の一方(紙面左方)の3つ目の上緯糸12の上を通ることにより、下方から支持している(経糸14は、部分12aから紙面左方に2つ目の上緯糸までは、上緯糸12の下方を通っている)。1本の経糸14のこの支持力は、経糸14が連続する3本の上緯糸12を上、下、上と通る部分の中央の上緯糸12を下方から支持する力よりも弱いものの、互いに隣接する2本の経糸14によって、この支持力が生じるため、その合計の支持力は大きい。一方、互いに隣接する2本の経糸14の平織部16に、緯方向に於いて互いに重複する部分を設けると、その部分の支持力が強くなりすぎ、凸部分を形成してマークの原因となるおそれがあるが、入替部18では、経糸14の1本当たりの支持力が、通常の平織部に比べて弱いため、凸部分を形成するおそれも小さい。よって、入替部18では、凹み部分17も凸部分も生じず、経糸14による上緯糸12の支持力は、その周囲の支持力に近似する。
【0031】
また、入替部18を設けることにより、部分12aから経方向の双方(紙面の左右)に2つ目の上緯糸12の部分12bについて、経糸14による支持形態が変更される。部分12bは、互いに隣接する2本の経糸14の一方が、凹み部分17を構成する場合と同じように織り込まれているが、互いに隣接する2本の経糸14の他方は、その部分12bに隣接する一方の上緯糸12の上を通り、その部分12bから他方に向かって2つ目の上緯糸12までの下を通り、その部分12bから他方に向かって3つ目の上緯糸12の上を通る。そのため、部分12bの支持力は、経糸14が連続する3本の上緯糸12を上、下、上と通る部分の中央の上緯糸12を下方から支持する力よりも弱いものの、それに近い支持力を得ることができる。そのため、凹み部分17が生じることを抑制できる。
【0032】
基本構成15では、1本の経糸14に2つの平織部16があり、それぞれの平織部16の両端部が、隣接する経糸14の平織部16に隣接している。入替構成19に於ける1本の経糸14では、2つの平織部16の両端部の内、1つが入替部18となっており、他の3つは、基本構成15と同様に、入れ替えの行われていない、非入替部20となっている。よって、入替部18と非入替部20との数の比は、1:3である。
【0033】
任意の経糸14の入替部18は、その経糸14から左方に2つ目の経糸14の入替部18に対して、12本の上緯糸12の分だけ下流側に位置する。
【0034】
製紙用織物10,11は、製紙面側の表面で紙料や湿紙を保持する。紙料や湿紙に接触するのは、上緯糸12及び経糸14である。上緯糸12を直接支持するのは経糸14であるため、上緯糸12に於いて、紙料や湿紙を最も大きく支持するのは、経糸14が織り込まれた平織部16であり、平織部16は、経糸14が上緯糸12の上下を1本ずつ交互に通って緻密に織り成されているため紙面性が高い。更に、入替構成19を有する製紙用織物11は、基本構成15を有する製紙用織物10に比べて、凹み部分17の数が少なく、斜め方向に並ぶ凹み部分17の数も少ない。そのため、製造される紙に斜め方向のマークが生じることが軽減され、紙面性が高くなる。
【0035】
また、斜め方向に並ぶ凹み部分17の数が少なくなることから、斜め方向の引張強度が高くなるとともに、左右の斜め方向の引張強度の差が縮小し、筋曲がりが抑制される。
【0036】
また、平織部16は、緻密に織り込まれるため、経糸14が上緯糸12を織り込まない部分に比べて脱水性及び通気性に劣る。入替構成19の1本の経糸14は、平織部16aから入替部18までの区間に於いて、2単位の平織りを構成した後、2本の上緯糸の下を通り、1単位の平織りを構成する。経糸14が2本の上緯糸の下を通る部分は、平織りに挟まれているため、経糸14が3本以上の上緯糸の下を通る部分に比べて、脱水性及び通気性に劣る。よって、入替部18を増やすほど脱水性及び通気性が減少することになる。第1実施形態に係る製紙用織物11では、入替部18と非入替部20との数の比を1:3とすることによって、脱水性及び通気性の減少を抑制している。
【0037】
なお、上緯糸12、下緯糸13及び経糸14の形態は特に限定されないが、モノフィラメントの単糸及び撚糸を用いることができ、特に単糸を用いることが好ましい。更に、各糸は捲縮加工や嵩高加工等を施した加工糸でもよく、非加工糸であってもよい。これらのなかでは非加工糸が好ましい。下緯糸13は、上緯糸12より太いことが好ましい。
【0038】
上緯糸12、下緯糸13及び経糸14を構成する材料は特に限定されないが、ポリアミド樹脂及びポリエステル樹脂が好ましい。ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、更には、ナイロンが好ましい。ナイロンとしては、66ナイロン、6ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコールとからなるポリエステルであれば特にその種類に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等であってよい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、上緯糸12、下緯糸13及び経糸14は、互いに同一材料から構成されても、異なる材料から構成されてもよい。また、各糸は、各々単一材質で構成されていてもよく、材質が異なる2種以上の材質で構成されていてもよい。更に、各糸には、無機フィラー及び/又は有機フィラーが含有されていてもよい。
【0039】
第1実施形態に係る製紙用織物11では、経糸No.4n+1'及び4n+2'間並びに経糸No.4n+3'及び4n+4'間で、それぞれ1つの入替部18を有し、経糸No.4n+2'及び4n+3'間並びに経糸No.4n+4'及び4n+5'間では入替部18を有さない構成とした(nは、0〜3の整数。経糸No.17'は、経糸No.1'に対応する)が、前者にのみ2つの入替部18がある構成、後者にのみ1つ若しくは2つの入替部18がある構成、又は、前者と後者に1つずつの入替部18がある構成に変更してもよい。
【0040】
≪第2実施形態≫
図4は、第2比較形態に係る製紙用織物30(a図)と、第2実施形態に係る製紙用織物31(b図)と、第2実施形態の変形例に係る製紙用織物32(c図)とを製紙面側から見た模式的説明図であり、図5は、第2実施形態に係る製紙用織物31を緯方向から見た模式的断面図であり、図6及び図7は、それぞれ、第2実施形態に係る製紙用織物31及びその変形例に係る製紙用織物32の製紙面側から見た模式的な拡大説明図である。
【0041】
製紙用織物30,31,32は、それぞれ、上緯糸12、下緯糸13、及び両者に織り込まれた経糸14を有する、経1重緯2重織の織物であり、完全組織には、48本の上緯糸12と、24本の下緯糸13と、16本の経糸14とが含まれる。図4に於いて、下緯糸13は、織り込み位置の図示が省略されているが、偶数No.の上緯糸12の下方に位置する。
【0042】
第2比較形態に係る製紙用織物30の完全組織を構成する基本構成33について説明する。各々の経糸14は、5単位の平織りが連続する1つの第1平織部34と、4単位の平織りが連続する1つの第2平織部35とを有する。第2平織部35の上流側の端部は、第1平織部34の上流側の端部よりも上緯糸12の23本分だけ上流側にずれた位置に配置される。また、各々の経糸14は、第1平織部34及び第2平織部35から離間した2箇所で1本の下緯糸13を織り込む。その他の部分では、経糸14は、上緯糸12と下緯糸13との間を通っている。例えば、経糸No.2'は、上緯糸No.9〜18の10本の上緯糸12を織り込んで第1平織部34を形成し、上緯糸No.34〜41の8本の上緯糸12を織り込んで第2平織部35を形成する。
【0043】
経糸No.n'の第1平織部34の下流側と、経糸No.n+1'の第2平織部35の上流側とが、経方向に於いて互いに隣接し、経糸No.n+1'の第2平織部35の下流側と、経糸No.n+2'の第1平織部34の上流側とが、経方向に於いて互いに隣接する。このように、緯方向にずれながら、平織りが連続して形成される。
【0044】
第2実施形態に係る製紙用織物31の完全組織は、基本構成33に対して、互いに隣接する2本の経糸14の間で、平織りを構成する位置を1単位ずつ入れ替えた入替部36を有する入替構成37からなる。一方の経糸14の入れ替えられる1単位の平織りと他方の経糸14の入れ替えられる1単位の平織りとは、経方向に於いて互いに隣接した第1平織部34と第2平織部35との隣接する側の端部の平織りである。一方の経糸14に於ける入れ替えられる1単位の平織りは、これに緯方向に隣接する他方の経糸の部分(経糸14が2本の上緯糸12と1本の下緯糸13との間を通っている部分)と入れ替えられる。入れ替えの行われた第1平織部34a及び第2平織部35aは、それぞれ、入れ替えの行われていない第1平織部34及び第2平織部35よりも、平織りが1単位分少ない。
【0045】
図中、ドットパターンで示した部分は、凹み部分17である。基本構成33では、任意の1本の経糸14は、緯方向の一方に隣接する経糸14との間に、2つの凹み部分17を有し、緯方向の他方に隣接する経糸14との間にも、2つの凹み部分17を有する。入替構成37では、1本の経糸14は、2箇所の入替部36を有する。入替部36は、経糸No.4n+1'及び4n+2'間に2つ、並びに経糸No.4n+3'及び4n+4'間に2つ設けられ、この部分に凹み部分17が生じることを防止している。経糸No.4n+2'及び4n+3'間並びに経糸No.4n+4'及び4n+5'間には入替部36は設けられず、凹み部分17が生じる非入替部38となっている。入替部36と非入替部38との数の比は、1:1である。
【0046】
例えば、経糸No.1'及び2'を見ると、基本構成33では、上緯糸No.7及び8、並びに上緯糸No.32及び33に形成される平織りは経糸No.1'に存在し、上緯糸No.9及び10、並びに上緯糸No.34及び35に形成される平織りは経糸No.2'に存在するが、入替構成37では、これらが対応する経糸14に於ける緯方向に隣接する部分と入れ替わり、上緯糸No.7及び8、並びに上緯糸No.32及び33に形成される平織りは経糸No.2'に存在し、上緯糸No.9及び10、並びに上緯糸No.34及び35に形成される平織りは経糸No.1'に存在する。また、経糸No.2'及び3'間では、平織りの入れ替えは行われず、基本構成33と同じ位置に凹み部分17が生じている。すなわち、2本1組の経糸14間に於いて、一方の経糸14は、4単位の平織りを有する入れ替えの行われた第1平織部34a、及びこれに続いて2本の前記上緯糸の下を通り、1単位の平織りを構成する下流部36aからなる第1織り込み部分39と、3単位の平織りを有する入れ替えの行われた第2平織部35aと、これに続く下流部36aとからなる第3織り込み部分41とを有する。また、他方の経糸14は、1単位の平織りを構成した後、2本の前記上緯糸の下を通る上流部36b、及びこれに続く入れ替えの行われた第2平織部35aとからなる第2織り込み部分40と、上流部36b、及びこれ続く入れ替えの行われた第1平織部34aとからなる第4織り込み部分42とを有する。第1織り込み部分39の下流部36aと第2織り込み部分40の上流部36bとが、緯方向に整合して入替部36を構成するとともに、第3織り込み部分41の下流部36aと第4織り込み部分42の上流部36bとが、緯方向に整合して入替部36を構成する。従って、入替構成37に於ける任意の1単位の平織りは、経方向の両側の各々に於いて、自身が存在する経糸14とこれに隣接する経糸14との何れかに存在する1単位以上の平織りに隣接する。
【0047】
入替構成37を有する製紙用織物31は、基本構成33を有する製紙用織物30に比べて、凹み部分17の数が少なく、斜め方向に並ぶ凹み部分17の数も少ないため、第1実施形態と同様に、紙面性が高く、斜め方向の引張強度が改善される。
【0048】
また、入替部36と非入替部38との数の比を1:1とすることによって、脱水性及び通気性の減少を抑制している。
【0049】
第2実施形態の変形例に係る製紙用織物32の完全組織は、互いに隣接する2本隣接する経糸14の間のすべてに、2つずつの入替部36を設けた入替構成43からなる。入れ替えの行われた第1平織部34b及び第2平織部35bは、両端部で入れ替えが行われるため、それぞれ、入れ替えの行われていない第1平織部34及び第2平織部35よりも、平織りが2単位分少ない。すなわち、各々の経糸14は、上流部36b、3単位の平織りを有する入れ替えの行われた第1平織部34b、及び下流部36aとからなる第1織り込み部分44と、上流部36b、2単位の平織りを有する入れ替えの行われた第2平織部35b、及び下流部36aとからなる第2織り込み部分45とを有する。任意の経糸14の第1織り込み部分44に於いて、上流部36b及び下流部36aは、それぞれ、一方の側に隣接する経糸14の第2織り込み部分45の下流部36a、及び他方の側に隣接する経糸14の第2織り込み部分45の上流部36bに、緯方向に整合して、入替部36を構成する。従って、入替構成43に於ける任意の1単位の平織りは、経方向の両側の各々に於いて、自身が存在する経糸14とこれに隣接する経糸14との何れかに存在する1単位以上の平織りに隣接する。また、基本構成33に生じていた凹み部分17が全て消滅するため、紙面性が向上する。第2実施形態の変形例に係る製紙用織物32は、脱水性及び通気性よりも、紙面性が重視される場合に好適である。
【0050】
≪第3実施形態≫
図8は、第3比較形態に係る製紙用織物50(a図)と、第3実施形態に係る製紙用織物51(b図)を製紙面側から見た模式的説明図であり、図9は、第3実施形態に係る製紙用織物51を緯方向から見た模式的断面図であり、図10は、第3比較形態に係る製紙用織物50の製紙面側から見た模式的な拡大説明図である。
【0051】
製紙用織物50,51は、それぞれ、上緯糸12、下緯糸13、及び両者に織り込まれた経糸14を有する、経1重緯2重織の織物であり、完全組織には、64本の上緯糸12と、32本の下緯糸13と、16本の経糸14とが含まれる。図8に於いて、下緯糸13は、織り込み位置の図示が省略されているが、偶数No.の上緯糸12の下方に位置する。
【0052】
第3比較形態に係る製紙用織物50の完全組織を構成する基本構成52について説明する。各々の経糸14は、6単位の平織りが連続する2つの平織部53を有する。任意の経糸14に於ける2つの平織部53は、互いに、上緯糸12の31本或いは33本分だけずれた位置に配置される。また、各々の経糸14は、2つの平織部53から離間した2箇所で1本の下緯糸13を下方から織り込む。その他の部分では、経糸14は、上緯糸12と下緯糸13との間を通っている。例えば、経糸No.2'は、上緯糸No.13〜24及び上緯糸No.44〜55の上緯糸12を織り込んで平織部53を形成する。
【0053】
経糸No.n'の平織部53の下流側と、経糸No.n+1'の平織部53の上流側とが、経方向に於いて互いに隣接し、経糸No.n+1'の平織部53の下流側と、経糸No.n+2'の平織部53の上流側とが、経方向に於いて互いに隣接する。このように、緯方向にずれながら、平織りが連続して形成される。
【0054】
第3実施形態に係る製紙用織物51の完全組織は、基本構成52に対して、互いに隣接する2本の経糸14の間で、平織りを構成する位置を1単位ずつ入れ替えた入替部54を2つ有する入替構成55からなる。一方の経糸14の入れ替えられる平織りと他方の経糸14の入れ替えられる1単位の平織りとは、経方向に於いて互いに隣接した平織部53の隣接する側の端部の平織りである。一方の経糸14に於ける入れ替えられる1単位の平織りは、これに緯方向に隣接する他方の経糸の部分(経糸14が2本の上緯糸12と1本の下緯糸13との間を通っている部分)と入れ替えられる。入れ替えの行われた平織部53aは、入れ替えの行われていない平織部53よりも、平織りが1単位分少ない。
【0055】
図中、ドットパターンで示した部分は、凹み部分17である。基本構成52では、任意の1本の経糸14は、緯方向の一方に隣接する経糸14との間に、2つの凹み部分17を有し、横方向の他方に隣接する経糸14との間にも、2つの凹み部分17を有する。入替構成55では、1本の経糸14は、2箇所の入替部54を有する。入替部54は、第2実施形態と同様に、経糸No.4n+1'及び4n+2'間に2つ、並びに経糸No.4n+3'及び4n+4'間に2つ設けられ、この部分に凹み部分17が生じることを防止している。経糸No.4n+2'及び4n+3'間並びに経糸No.4n+4'及び4n+5'間には入替部54は設けられず、凹み部分17が生じる非入替部56となっている。入替部54と非入替部56との数の比は、1:1である。
【0056】
例えば、経糸No.1'及び2'を見ると、基本構成52では、上緯糸No.11及び12、並びに上緯糸No.42及び43に形成される平織りは経糸No.1'に存在し、上緯糸No.13及び14、並びに上緯糸No.44及び45に形成される平織りは経糸No.2'に存在するが、入替構成55では、これらが対応する経糸14に於ける緯方向に隣接する部分と入れ替わり、上緯糸No.11及び12、並びに上緯糸No.42及び43に形成される平織りは経糸No.2'に存在し、上緯糸No.13及び14、並びに上緯糸No.44及び45に形成される平織りは経糸No.1'に存在する。また、経糸No.2'及び3'間では、平織りの入れ替えは行われず、基本構成52と同じ位置に凹み部分17が生じている。すなわち、2本1組の経糸14間に於いて、一方の経糸14は、5単位の平織りを有する入れ替えの行われた第1平織部53aと、これに続いて2本の前記上緯糸の下を通り、1単位の平織りを構成する下流部54aとからなる第1織り込み部分57を2つ有し、他方の経糸14は、1単位の平織りを構成した後、2本の前記上緯糸の下を通る上流部54bと、これに続く5単位の平織りを有する入れ替えの行われた第2平織部53a'とからなる第2織り込み部分58を2つ有する。2本1組の経糸14間に於いて、2つの下流部54aが、それぞれ、対応する上流部54bに緯方向に整合することによって、2つの入替部54が形成される。従って、入替構成55に於ける任意の1単位の平織りは、経方向の両側の各々に於いて、自身が存在する経糸14とこれに隣接する経糸14との何れかに存在する1単位以上の平織りに隣接する。
【0057】
入替構成55を有する製紙用織物51は、基本構成52を有する製紙用織物50に比べて、凹み部分17の数が少なく、斜め方向に並ぶ凹み部分17の数も少ないため、第1実施形態と同様に、紙面性が高く、斜め方向の引張強度が改善される。また、入替部54と非入替部56との数の比を1:1とすることによって、脱水性及び通気性の減少を抑制している。
【実施例】
【0058】
第1比較形態及び第1実施形態にそれぞれ対応する比較例及び実施例について斜め方向の引張強度試験を行った。試験条件及び結果を表1に示す。
【表1】
【0059】
実施例は、比較例よりも、斜め方向の引張強度が高く、かつ左斜め方向と右斜め方向との強度の差が小さかった。
【0060】
また、上記の比較例及び実施例について、圧力分布測定を行った。試験結果を図11に示す。図11に示す画像に於いて、発色していない部分が圧力の小さかった部分に当たる。比較例では、非発色部が左上から右下に向かう方向に続いており、これは、斜めマークの原因となる。一方、実施例では、非発色部が斜め方向に続いていないため、製造される紙に斜めマークが付かず、紙面性が良好である。
【0061】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。各実施形態の左右を逆にするように経糸と緯糸とを織り込んでもよい。また、下緯糸の本数や、織り込む位置及び数、織り込み方を変更してもよい。また、各経糸に於ける、平織部同士の間隔を変更してよい。平織部の個数を3つ以上にしてもよく、平織部に含まれる平織りの数を変更してもよい。入替部を2単位以上の連続する平織りで構成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
11,31,32,51:製紙用織物
12:上緯糸
13:下経糸
14:経糸
16:平織部
16a,34a,34b,53a:第1平織部
16a',35a,35b,53a':第2平織部
17:凹み部分
18a,36a,54a:下流部
18b,36b,54b:上流部
19,37,43,55:入替構成(完全組織)
21,39,44,57:第1織り込み部分
22,40,45,58:第2織り込み部分
41:第3織り込み部分
42:第4織り込み部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14