(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ピストンロッド(5)が注射終了位置に至ると、前記ピストンロッド(5)が前記係止キー(20)の前記終端部(23)と協働して前記係止キー(20)を前記遮断位置から軸方向下向きに引くことによって、前記ダッシュポット(16)はもはや回転を前記係止キー(20)によって妨げられない
請求項4に記載の自己注射器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の欠点を持たず、自己注射器の安全性及び信頼性の高い使用に関する様々な主要な要件及び制約を満たすことを可能とする自己注射器を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、使用上の信頼性が高く、使用後に自己注射器を体から離さなければならないタイミング、又は体から離してもよいタイミングをユーザーが特定することを可能とし、安全であらゆる負傷のリスクを回避し、製造及び組立が容易且つ安価に行える自己注射器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって本発明は、自己注射器であって、第1の流体を収容しピストンを有する事前充填型シリンジなどである貯蔵器を収容する本体と、前記貯蔵器の前記ピストンと協働するピストンロッドと、前記自己注射器を注射部位から離してもよいことをユーザーに通知するための視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置とを備え、前記ピストンロッドは、注射バネによって、準備位置と、前記第1の流体を注射部位内へと注射するために前記ピストンロッドが前記貯蔵器の前記ピストンを移動させる注射位置との間を移動可能であり、前記自己注射器は、前記視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の駆動を注射の終了に対して遅延させるための遅延システムを有し、前記遅延システムは、ダッシュポットと、前記ダッシュポット内に配された剪断部材と、前記ダッシュポット内の、前記剪断部材の周囲に配されている第2の流体とを備え、前記ダッシュポットと前記剪断部材のうち、一方は前記本体内に回転可能に実装され、他方は回転せず静止し、前記一方の前記他方に対する回転は、前記ダッシュポット内に収容された前記第2の流体の剪断によって制動され、前記ダッシュポットは内表面に複数の突起を有し、前記剪断部材は外表面に複数の突起を有し、前記ダッシュポットの前記複数の突起及び前記剪断部材の前記複数の突起によって、前記第2の流体の流れが阻害される自己注射器を提供する。
【0010】
望ましい構成としては、前記ダッシュポットは、前記本体内に回転可能に実装され、前記剪断部材は、回転せず静止している。
【0011】
望ましい構成としては、前記遅延システムは、前記第2の流体を収容する前記ダッシュポットと、前記剪断部材と、バネと、係止キーと、前記ピストンロッドとを備える。
【0012】
望ましい構成としては、前記係止キーは、ヘッドと、長尺状のロッドと、前記ピストンロッドと協働する終端部とを備える。
【0013】
望ましい構成としては、前記遅延システムの始動前に、前記係止キーの前記ヘッドは遮断位置にあり、前記遮断位置において前記ヘッドが、対応する前記本体の突起及び対応する前記ダッシュポットの突起と協働することによって、前記ダッシュポットの前記本体に対する回転が前記係止キーによって妨げられる。
【0014】
望ましい構成としては、前記ピストンロッドが注射終了位置に至ると、前記ピストンロッドが前記係止キーの前記終端部と協働して前記係止キーを前記遮断位置から軸方向下向きに引くことによって、前記ダッシュポットはもはや回転を前記係止キーによって妨げられない。
【0015】
望ましい構成としては、前記バネは遅延バネであり、第1に前記ダッシュポット又は前記剪断部材、第2に前記本体に固定された渦巻バネとして形成されている。
【0016】
望ましい構成としては、前記ダッシュポットは、少なくとも1つの可撓性タブを有し、前記可撓性タブは、前記本体の少なくとも1つの突起と協働し、前記遅延システムが作動していることを聴覚を通じて通知する。
【0017】
望ましい構成としては、前記少なくとも1つの可撓性タブは、複数の突起と協働し、前記遅延システムの駆動中、連続的なノイズを生成する。
【0018】
望ましい構成としては、前記少なくとも1つの可撓性タブは、単一の突起と協働し、前記遅延システムの駆動終了時にノイズを生成する。
【0019】
望ましい構成としては、前記遅延システムの前記バネは前記注射バネであり、前記遅延システムはさらに、前記視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の通知要素と、前記通知要素と前記注射バネとの間に介在する支持部材とを備える。
【0020】
望ましい構成としては、前記通知要素は、前記本体内を軸方向に移動可能であるが回転が不可能であり、前記ダッシュポットは、前記本体内を回転可能であるが軸方向に移動が不可能であり、前記ダッシュポットの外表面は、前記通知要素と協働する少なくとも1つの雄ネジを有し、前記通知要素が前記ダッシュポットの周囲を軸方向に移動することによって、前記ダッシュポットが前記剪断部材の周囲を回転する。
【0021】
望ましい構成としては、前記通知要素は、可撓性タブを備え、前記可撓性タブは、前記遅延システムの駆動前に、前記本体の円錐台状壁又は傾斜壁、及び前記係止キーの前記ヘッドと、前記ヘッドの遮断位置において協働することによって径方向内向きへの変形を妨げられる。
【0022】
望ましい構成としては、前記自己注射器は、ユーザーの体と接触する接触端部を有するアクチュエータースリーブをさらに有し、前記アクチュエータースリーブは、少なくとも一部が前記本体内に延び、前記本体に対し、前記アクチュエータースリーブの少なくとも一部が前記本体から突出する複数の突出位置と、前記アクチュエータースリーブが前記本体内へと軸方向に移動する駆動位置との間を移動可能であり、前記アクチュエータースリーブは、前記自己注射器の駆動前には第1突出位置にあり、前記自己注射器の駆動後には第2突出位置にある。
【0023】
望ましい構成としては、前記貯蔵器は注射針を備え、前記注射針を通じて注射部位内に前記第1の流体が注射される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の特徴や利点等は、非限定的な例に基づき以下に示す詳細な説明及び添付図面を参照することにより、さらに明確となる。
【
図1】(a)及び(b)はそれぞれ、本発明の第1の望ましい実施形態を構成する自己注射器の、穿刺前の休止位置における模式側面図及び模式断面図である。
【
図2】(a)及び(b)はそれぞれ、
図1(a)及び
図1(b)に類似した図であり、穿刺後であって注射開始前の位置における様子を示す。
【
図3】(a)及び(b)はそれぞれ、
図2(a)及び
図2(b)に類似した図であり、注射終了直前の位置であって遅延システムが始動する時点における様子を示す。
【
図4】(a)及び(b)はそれぞれ、
図3(a)及び
図3(b)に類似した図であり、遅延システムの駆動開始時における様子を示す。
【
図5】(a)、(b)、及び(c)は
図4(a)に類似した図であり、遅延システムの駆動開始から終了までの間の3つの通知位置をそれぞれ示し、(d)は
図4(b)に類似した図であり、通知装置の駆動終了時であって自己注射器が注射部位から離される前における様子を示す。
【
図6】
図5(c)に類似した図であり、使用終了位置であって自己注射器が注射部位から離された後における様子を示す。
【
図7】
図1〜
図6の第1の実施形態における遅延システムの分解斜視図である。
【
図8】
図7の遅延システムの詳細を示す斜視図であり、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の通知要素を形成する流体ダッシュポットを下方から見た様子を示す。
【
図9】
図7の遅延システムの詳細を示す斜視図であり、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の通知要素を形成する流体ダッシュポットを上方から見た様子を示す。
【
図10】
図7の遅延システムの剪断部材を上方から見た詳細斜視図である。
【
図11】
図10の剪断部材が
図8及び
図9の流体ダッシュポット内に組み込まれた状態を上方から見た詳細斜視図である。
【
図12】(a)は、
図10の剪断部材が
図8及び
図9の流体ダッシュポット内に組み込まれた状態を下方から見た詳細斜視図であり、(b)は(a)に類似した切欠斜視図である。
【
図13】
図7の遅延システムの係止キーの詳細斜視図である。
【
図14】
図7の遅延システムの中間本体の詳細斜視図である。
【
図16】(a)は、
図7の遅延システムの、
図1(a)及び
図1(b)の位置における模式的な分解斜視図であり、(b)は、
図7の遅延システムの、
図1(a)及び
図1(b)の位置における模式的な断面斜視図である。
【
図17】(a)及び(b)はそれぞれ、
図16(a)及び
図16(b)に類似した図であり、
図3(a)及び
図3(b)の位置における様子を示す。
【
図18】
図1〜
図6の自己注射器の一部の詳細を示した模式断面図であり、より具体的には
図7の遅延システムの、
図1(b)及び
図2(b)の位置における様子を示す。
【
図19】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ、
図18の断面A−A、断面B−B、及び断面C−Cにおける模式断面図である。
【
図20】(a)及び(b)はそれぞれ、本発明の第2の望ましい実施形態を構成する自己注射器の、穿刺前の休止位置における模式側面図及び模式断面図である。
【
図21】(a)及び(b)はそれぞれ、
図20(a)及び
図20(b)に類似した図であり、穿刺後であって注射開始前の位置における様子を示す。
【
図22】(a)及び(b)はそれぞれ、
図21(a)及び
図21(b)に類似した図であり、注射終了直前の位置であって遅延システムが始動する時点における様子を示す。
【
図23】(a)及び(b)はそれぞれ、
図22(a)及び
図22(b)に類似した図であり、遅延システムの駆動開始時における様子を示す。
【
図24】(a)及び(b)はそれぞれ、
図23(a)及び
図23(b)に類似した図であり、遅延システムの駆動終了時であって通知装置の駆動開始前における様子を示し、(c)は(b)に類似した、異なる断面における図である。
【
図25】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ
図24(a)、
図24(b)、及び
図24(c)に類似した図であり、通知装置の駆動終了時であって自己注射器が注射部位から離される前における様子を示す。
【
図26】
図25(a)に類似した図であり、使用終了位置であって自己注射器が注射部位から離された後における様子を示す。
【
図28】
図27の遅延システムの詳細斜視図であり、ダッシュポット、剪断部材、及び通知要素によって形成される部分組立品を示す。
【
図29】
図27の遅延システムの詳細斜視図であり、ダッシュポット、剪断部材、及び通知要素によって形成される部分組立品を示す。
【
図30】
図27の遅延システムのダッシュポット及び通知要素の詳細斜視図である。
【
図31】(a)及び(b)は部分模式図であり、(a)は
図27の遅延システムの、
図22(a)及び
図22(b)の位置における分解斜視図であり、(b)は
図27の遅延システムの、
図22(a)及び
図22(b)の位置における断面斜視図である。
【
図35】(a)、(b)、及び(c)はそれぞれ、
図34の断面A−A、断面B−B、及び断面C−Cにおける模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の説明においては、「上部」、「下部」、「高」、及び「低」という用語は
図1(a)〜
図6、
図15、
図20(a)〜
図26、及び
図34に示された位置を示す。「軸方向」及び「径方向」という用語は、具体的には
図1(a)及び
図20(a)に示された、注射針の長手方向軸に対応する長手方向中心軸Xに対する方向を示す。
【0026】
以下、自己注射器について2つの望ましい実施の形態を参照しながら説明する。ただし、自己注射器は複雑な装置であり、複数の機能を実行するための複数のモジュールを含む。そうした様々なモジュールは分離され、また互いに独立して用いられてもよく、必ずしも互いに組み合わせて用いなければならないわけではない。具体的には、そうした様々なモジュールは図示された形状とは異なる形状を有する自己注射器において用いることができる。さらに、図面は模式図であり、分かりやすさのために、自己注射器の構成要素の正確な形状が反映されているとは限らず、また正確な寸法通りとは限らない。加えて、図面は自己注射器の構成要素全てを必ずしも図示しておらず、本発明の動作に必要な構成要素だけを示している。したがって、図示された自己注射器に様々な追加的な、及び/又は補足的な構成要素及びモジュールを組み合わせることができる。
【0027】
図に示された自己注射器は本体1を有し、アクチュエータースリーブ10が本体1内を軸方向に摺動する。アクチュエータースリーブ10は、患者の体の注射領域の周りに接触する下端部101を有する。
図1〜
図19に示された実施形態においては、自己注射器は下部本体1a、中間本体1b、及び上部本体1cを含み、それらは組み立てられることで自己注射器の本体1を形成する。
図20〜
図35に示された実施形態においては、自己注射器は下部本体1a及び上部本体1cを含み、それらは組み立てられることで自己注射器の本体1を形成する。以下では、「本体」という用語及び参照番号「1」は下部本体1aを中間本体1b及び/又は上部本体1cと組み合わせて形成された単一の当該本体を指すために用いられる。本体1はいくつの本体部分からなってもよく、図示された2つ又は3つの本体部分からなる実施形態は限定的なものではない。
【0028】
自己注射器の本体1には貯蔵器Sが挿入されてもよく、貯蔵器Sは本体1内で静止しているのが望ましい。貯蔵器Sは流体を収容しており、ピストンP及び注射針Aを含む。ピストンPは注射針Aを介して流体を注射するために貯蔵器S内を移動する。任意に、本発明を注射針を備えない貯蔵器、具体的には注射針を備えない注射器に適用することも可能である。
【0029】
本明細書はあらゆるシリンジSに言及している。さらに一般化すると、本明細書における「シリンジ」という用語は注射針と組み合わされたあらゆる貯蔵器を包含すると理解される。貯蔵器Sは事前充填型シリンジであるのが望ましい。
【0030】
自己注射器の駆動前には、シリンジSの注射針Aはガード部材(不図示)によって保護されていてもよい。また、自己注射器は駆動前にユーザーが取り外すことのできるキャップ(不図示)を含んでいてもよい。キャップを取り外すことによって、ガード部材も取り除かれるのが望ましい。
【0031】
図1(a)及び
図1(b)、さらに
図20(a)及び
図20(b)に示されているように、駆動前にはアクチュエータースリーブ10は第1突出位置にあり、注射針Aを覆っている。駆動中には、アクチュエータースリーブ10は本体1内を駆動位置に向かって摺動し注射針Aを露出させて、穿刺、次いで流体の注射を可能にする。
【0032】
注射後、ユーザーが注射部位から自己注射器を離すと、アクチュエータースリーブ10は注射針による負傷のリスクを回避するために、
図6及び
図26に示されているように注射針Aの周りに再び配される使用後の第2突出位置へと復帰する。
【0033】
アクチュエータースリーブ10は、弾性部材又はバネ190(
図20〜
図35の第2の実施形態については
図20(b)、
図21(b)、
図22(b)、
図23(b)、
図24(b)、
図24(c)、
図25(b)、及び
図25(c)に示されているが、
図1〜
図19の第1の実施形態については不図示)によって上述の突出位置に向かって付勢されるのが望ましい。弾性部材又はバネ190は、どのような種類のものであってもよい。使用後の位置においては、アクチュエータースリーブ10はロックされ、本体1内へと軸方向に移動できなくなっているのが望ましい。一例として、こうしたロックは、本体1又は貯蔵器Sに固定され、さらにアクチュエータースリーブ10が第2突出位置に到達するとアクチュエータースリーブ10の複数の開口部(不図示)と協働する複数のタブ(不図示)によってなされてもよい。こうしたロックは本発明の動作に必要不可欠なものではないため、以下ではさらに詳しく説明されることはない。上述の具体的な実施の形態とは異なる方法でこうしたロックを行ってもよい。具体的には、国際公開第2013/175140号又は国際公開第2013/175142号の教示に従って行ってもよい。
【0034】
自己注射器はまた自動注射システムを含む。具体的には、注射針Aを介して流体を投与するためにピストンPと協働して貯蔵器S内を移動するピストンロッド5を含む。従来技術においては、ピストンロッド5は注射バネ8によって投与位置に向かって付勢され、駆動前には、適切な注射ロック機構によって休止位置に保持される。注射バネ8は、第2の実施形態を図示する
図20〜
図35にのみ示されている。
【0035】
望ましい注射ロック機構は、具体的には国際公開第2015/155484号に開示されている。
【0036】
注射ロック機構は、少なくとも1つの遮断要素7を含んでもよい。遮断要素7は遮断リング230によって遮断位置に保持されており、遮断リング230は支持部材6上に固定、具体的にはスナップ留めされ、支持部材6には注射バネ8が突き当たる。この少なくとも1つの遮断要素7は、
図20〜
図35の第2の実施形態のうち
図24(c)及び
図25(c)にのみ示されている。注射ロック機構を始動させることで注射手段が駆動され、流体が注射針を介して注射される。注射ロック機構は本体1内に位置する制御スリーブ4をさらに含んでもよい。制御スリーブ4はピストンロッド5及び注射バネ8を収容しており、ピストンロッド5は遮断位置と遮断解除位置との間を移動可能な少なくとも1つの遮断要素7を収容する径方向凹部を含む。この少なくとも1つの遮断要素7は略球状、例えばボール状であるのが望ましい。ボールはピストンロッド5によって径方向外向きに付勢され、遮断リング230によって遮断位置に保持されているのが望ましい。遮断リング230はロック位置とロック解除位置との間をピストンロッド5及び支持部材6に対して軸方向に移動可能である。ロック位置では、遮断リング230はボールを遮断位置で保持する。ロック解除位置では、遮断リング230はボールが外れるようにすることで注射ロック機構のロックを解除し、注射バネ8がピストンロッド5を注射位置に向かって移動させることが可能となるようにする。具体的には、遮断リング230は制御スリーブ4によってロック解除位置へと移動する。
【0037】
シリンジSの注射針Aがユーザーの体に穿刺されたとき、遮断リング230が軸方向上向きに移動することによって、ボールは遮断位置から解放され、その後径方向外向きに移動する。すると、ピストンロッド5はもはやボールによって固定されないため、軸方向下向きに移動して流体を注射する。
【0038】
自己注射器は、自動注射器を注射部位から離してもよいことを、具体的には可聴音、振動、及び/又は視覚及び/又は触覚を通じてユーザーに通知する視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置を含む。この視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置は、注射部位から離れた、本体1の後端に配されているのが望ましい。具体的には、ここで示される2つの実施形態においては、通知装置はさらに、適切な表示部160によって本体1の1つ以上の窓11越しに視覚を通じた通知を行う通知要素を備える。望ましくは、以下でより詳しく説明されるように、聴覚及び/又は触覚を通じた通知も行われてもよい。
【0039】
ユーザーが注射終了直後に自己注射器を注射部位から離してしまうのを防止するために、自己注射器は通知装置の駆動を注射の終了よりも遅延させる遅延システムを含む。
【0040】
図7〜
図19は、第1の望ましい実施形態の遅延システムを示し、
図27〜
図35は、第2の望ましい実施形態の遅延システムを示す。
【0041】
遅延システムの主な目的は、流体の体内への注射の終了後に、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知の開始を遅延させることである。特に、注射後の数秒間に流体を拡散させることが可能となる。こうした遅延システムによって、ユーザーは、注射の後に例えば10数える必要がなくなるといった恩恵を得られる。このように数を数える際にかかる時間は、ユーザーごとに大きく異なることがあり得るからである。遅延システムがあれば、自己注射器の使用手順は簡易なものとなる。
【0042】
このように、機械的な遅延システムによって、使用終了通知の開始を注射の終了よりも数秒遅延させることが可能となる。この遅延の期間は、あらかじめ設定しておくことが可能である。
【0043】
本発明は、遅延の発生に流体剪断現象を利用しており、ダッシュポット16、ダッシュポット16内に配された剪断部材19、及びダッシュポット16内の剪断部材19周囲に配された流体という構成要素を用いる。
【0044】
ここで示される2つの実施形態においては、剪断部材19は本体1に対して回転せず、ダッシュポット16は本体1に対して回転移動可能である。しかしながら、逆の構成も考慮に入れることができる。
【0045】
流体は、ダッシュポット16内の剪断部材19の周囲に配されている。ダッシュポット16は内表面に突起165を有し、剪断部材19は外表面に突起195を有する。突起165及び突起195によって、流体の流れが阻害される。したがって、ダッシュポット16を剪断部材19に対して回転させることで、具体的には
図15に示されるようにダッシュポット16の突起165が剪断部材19の突起195に対向した時に、流体が剪断される。
【0046】
「流体剪断」という用語は、動粘度による現象を指す。動粘度は、流体における流速勾配の存在に伴う剪断応力に応じたものである。粘度が増加すると、流体の流動性は低下する。
【0047】
動粘度と関連する境界層現象もまた利用されている。境界層とは、物体とその周囲の流体が相対移動する際の物体とその周囲の流体との間の境界領域であり、粘度によって生じるものである。静止していると仮定される壁に沿って流体が流れるとき、壁における流体の速度がゼロであるのに対し、無限遠(即ち、障害物の遠方)においては、流体の速度は流れが妨げられていないときの速度に等しい。そうした流体速度の差の関係は流体の粘度に依存し、そうした流体の粘度は隣接する層間での摩擦につながる。即ち、最も遅い層は最も速い層を制動する傾向にあり、最も速い層は、反対に最も遅い層を加速する傾向にある。このような条件下では、流体の粘度が高いと、層間の速度が最大限に均一化される。対照的に、流体の粘度が低いと、各層の独立性がより高くなる。即ち、障害物からの距離が短くても無限遠における速度が維持され、境界層の厚みは小さく、速度の差は大きくなる。
【0048】
本発明のいずれの実施形態にも適用される
図15を参照すると、突端A(突起195)は静止しているが、突端B(突起165)は移動する。したがって、突端Aと接触する部分においては、流体の速度はゼロであるが、突端Bと接触する部分においては、流体の速度は最大である。矢印F1は、速度勾配による動粘度に起因する力を示す。矢印F2は流体の速度を、突端A(静止状態の剪断部材19)と突端B(移動可能なダッシュポット16)との間の距離の作用として示す。したがって、流体の粘度、及び突端Aと突端Bの間の距離は、流体剪断の影響、ひいてはそれによるダッシュポット16の回転に対する制動の影響を決定づける重要なパラメーターである。
【0049】
ダッシュポット16内に収容された流体の粘度に応じて、及び/又はダッシュポット16の突起165及び剪断部材19の突起195の形状及び/又は寸法に応じて、上述の制動を非常に正確に調整することが可能である。このため、注射の終了時に遅延システムが始動する時点からダッシュポット16が既定の回転を終えて通知を行う時点、具体的には通知装置の窓越しに自己注射器を注射部位から離してもよい旨を通知する時点までの時間を調整することも可能となる。視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の駆動はこのように注射の終了に対して遅延されるため、注射された流体がこの遅延期間内に注射部位に拡散することが可能となる。
【0050】
図7は、第1の望ましい実施形態における遅延システムの分解斜視図である。遅延システムは、上部本体1c、望ましくは渦巻バネとして形成されている遅延バネ18、適切な流体を収容したダッシュポット16、ダッシュポット16内に配された剪断部材19、係止キー20、ピストンロッド5、及び中間本体1bを有する。
【0051】
ここで示される実施形態においては、ダッシュポット16は、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の通知要素をも形成する。望ましくは、ダッシュポット16は、本体1、具体的には上部本体1cの1つ以上の窓越しに自己注射器の使用終了を通知するための適切な表示部160を有してもよい。
図1〜
図19に示される実施形態においては、本体1は遅延システムの駆動の進行を表示する3つの窓11を有する。
図5(a)〜
図5(c)は、本体1の窓11越しのダッシュポット16の表示部160の段階的な表示を示す。
図8、
図9、及び
図12(a)は、ダッシュポット16の外表面に形成された表示部160を示す。
【0052】
渦巻バネ18は、具体的には
図19(a)に示されるように、第1に上部本体1cに、第2にダッシュポット16に固定されている。変形例においては、渦巻バネは例えば中間本体1bなどの本体1の別の部分、又は本体1に固定されている何らかの構成要素に固定されてもよい。変形例においては、渦巻バネは剪断部材19に固定されてもよい。この場合、本体1に対して回転しないのはダッシュポット16である。この変形例においては、回転可能な剪断部材が視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の通知要素を形成してもよい。
【0053】
係止キー20は、遅延システムと協働するヘッド21、長尺状のロッド22、及びピストンロッド5と協働する終端部23を有する。
【0054】
遅延システムが始動する前の位置においては、係止キー20のヘッド21は遮断位置にある。この遮断位置において、ヘッド21は対応する中間本体1bの突起12及び対応するダッシュポット16の突起161と協働するため、ダッシュポット16は回転を係止キー20によって妨げられる。ピストンロッド5が注射終了位置に至ると、ピストンロッド5は係止キー20の終端部23と協働し、係止キー20を軸方向下向きへと引く。その結果、係止キー20のヘッド21はダッシュポット16の突起161から軸方向に移動するため、ダッシュポット16はもはや回転を係止キー20によって妨げられない。ダッシュポット16の突起161は、具体的には
図8、
図11、
図12、
図18、及び
図19(b)に示されるように、剪断部材19内に配されたダッシュポット16の内部スリーブ162上に形成されているのが望ましい。
【0055】
渦巻バネ18は、ダッシュポット16を付勢して回転させる。ダッシュポット16が係止キー20によって遮断されている間は、遅延システムも遮断されている。
【0056】
遅延システムが始動すると、バネ18はダッシュポット16を付勢して回転させる。ダッシュポット16の壁と剪断部材19の間に収容された流体の剪断の結果、ダッシュポット16は制動トルクを受ける。ダッシュポット16の回転は、このようにして流体によって制動される。
【0057】
望ましくは、ダッシュポット16は、
図9及び
図19(a)に示されるような可撓性タブ166を含んでいてもよい。この可撓性タブ166は端部を有し、ダッシュポット16が、例えば上部本体1cの適切な突起106上を回転中、この端部によってノイズが生成される。このノイズによって、遅延システムが作動中であることが聴覚を通じて通知される。即ち、ノイズが停止した時が、遅延システムの駆動及び通知装置の駆動が終了した時であり、ユーザーは自己注射器を注射部位から離すことができる。当然のことながら、同時に、可撓性タブ166がさらに回転を制動することができる。変形例においては、複数、例えば2つの可撓性タブ166を設けてもよい。別の変形例においては、上部本体1cに突起106を1つだけ設け、通知装置の駆動終了時のみに可撓性タブ166によってノイズを生成することで聴覚を通じた使用終了通知を行ってもよい。即ち、ノイズが生成された時が、遅延システムの駆動及び通知装置の駆動が終了した時であり、ユーザーは自己注射器を注射部位から離すことができる。
【0058】
図27は、第2の望ましい実施形態における遅延システムの分解斜視図である。遅延システムは、上部本体1c、適切な流体を収容したダッシュポット16、ダッシュポット16内に配された剪断部材19、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置の通知要素17、係止キー20、ピストンロッド5、支持部材6、及び注射バネ8を有する。
【0059】
本実施形態においては、本体1は下部本体1a及び上部本体1cの2つの部分のみからなる。即ち、本実施形態は、中間本体を有さない。
【0060】
通知要素17は本体1内を軸方向に移動可能であるが、回転はしない。ダッシュポット16はそれ自体回転可能であるが軸方向には移動が不可能で、外表面上に、通知要素17と協働する少なくとも1つの雄ネジ163を有する。したがって、通知要素17がダッシュポット16の周囲を軸方向に移動することによって、ダッシュポット16が、本実施形態においては本体1に対して静止している剪断部材19の周囲を回転する。
【0061】
変形例においては、逆の構成、具体的には通知要素17がネジを有し、ネジがダッシュポットに対して並進移動することによってダッシュポットが回転する構成も考慮に入れることができる。
【0062】
係止キー20は、遅延システムと協働するヘッド21、長尺状のロッド22、及びピストンロッド5と協働する終端部23を有する。
【0063】
遅延システムが始動する前の位置においては、係止キー20のヘッド21は遮断位置にある。この遮断位置においては、ヘッド21は通知要素17の軸方向凹部170と協働し、通知要素17の並進移動が係止キー20によって妨げられる。ピストンロッド5が注射終了位置に至ると、ピストンロッド5は係止キー20の終端部23と協働し、係止キー20を軸方向下向きへと引く。その結果、係止キー20のヘッド21は凹部170から軸方向に移動するため、通知要素17はもはや並進移動を係止キー20によって妨げられない。
【0064】
注射バネ8は、通知要素17が上部本体1cの後部に向かって軸方向に並進移動するよう付勢する。通知要素17が係止キー20によって遮断されている間は、視覚、聴覚、及び/又は触覚を通じた通知装置も遮断されている。
【0065】
ここで示される実施形態においては、遅延システムの駆動前には、上部本体1cの円錐台状壁又は傾斜壁109によって、通知要素17は軸方向上向きへのあらゆる移動を妨げられている。この壁109は、通知要素17の可撓性タブ179と協働する。ここで示される実施形態は、直径上で対向する2つの可撓性タブ179を有する。しかしながら、異なる数の可撓性タブを有する構成、例えばタブが1つの構成や2つを超える構成も考慮に入れることができる。特に
図34に示されるように、遮断位置においては、係止キー20のヘッド21は通知要素17の可撓性タブ179の径方向内向きへの変形を妨げる。ヘッド21がもはや遮断位置になくなると、通知要素17を軸方向上向きへと押し上げる注射バネ8の作用、及び可撓性タブ179と本体1の傾斜壁109との協働により、可撓性タブ179は径方向内向きへと変形可能となる。
【0066】
注射の終了時に係止キー20が通知要素17を開放すると、通知要素17は注射バネ8によって軸方向に移動する。すると遅延システムが始動し、通知要素17がダッシュポット16と協働し、ダッシュポット16を剪断部材19の周囲で回転させる。ここで示される実施形態においては、
図31(a)、
図31(b)、
図32(a)、及び
図32(b)に示されるように、この通知要素17とダッシュポット16の協働は、通知要素17の剛性タブ178とダッシュポット16の雄ネジ163によって行われる。剛性タブ178が上部本体1cの溝108内を摺動することによって、通知要素17の回転は完全に妨げられる。したがって、通知要素17の軸方向への移動速度は、ダッシュポット16の壁と剪断部材19の間にある流体の剪断により制動されるダッシュポット16の回転速度に応じたものとなる。
図15に示される流体剪断の原理は、
図1〜
図19の第1の実施形態におけるものと同一である。
【0067】
通知要素17の剛性タブ178がもはやダッシュポット16の雄ネジ163と協働しなくなると、通知要素17の軸方向への移動はもはや制動されず、
図33(a)及び
図33(b)に示されるように、通知要素17は注射バネ8によって通知位置へと突出する。この通知位置において、剛性タブ178は本体1の通知窓11に対向配置される。この通知要素17の非制動移動あるいは突出によって、通知要素17と本体1を接触させ、聴覚を通じた通知を行うことが可能となる。この聴覚を通じた通知は、剛性タブ178、又は本体1の適切な部位と協働する通知要素17の他の部分によって生成されてもよい。聴覚を通じた通知を生成する衝撃によって自己注射器をユーザーの手の中で振動させ、触覚を通じた通知をも生成してもよい。これは、聴覚に障害を持つユーザーにとって特に有用である。
【0068】
上記のいずれの実施形態においても、遅延システムにおいて用いられる流体には、例えばグリースなど、あらゆる適切な種類のものを用いることができる。
【0069】
遅延装置によって、注射段階が終了した時点から既定の時間、通知装置が使用終了を通知する時点をずらすことが可能となる。
【0070】
自己注射器の駆動段階全体を以下で説明する。
【0071】
ユーザーが自己注射器を使用したいときには、装置の、例えば本体1を手に取り、注射が行われる体の一部に、休止状態においては第1突出位置で下部本体1aから突出するアクチュエータースリーブ10を押し当てる。ユーザーがアクチュエータースリーブ10に加えた押圧力によってアクチュエータースリーブ10が本体1内を摺動することで、注射針が露出し、ユーザーが自己注射器に加えた押圧力によってユーザーを穿刺するのが、
図1(a)、
図1(b)、
図2(a)、及び
図2(b)、そして
図20(a)、
図20(b)、
図21(a)、及び
図21(b)から分かる。
【0072】
アクチュエータースリーブ10が本体1内の終端位置にあたる駆動位置に到達すると、このアクチュエータースリーブ10の到達が注射段階を始動させる。この様子は、
図3(a)、
図3(b)、
図4(a)、及び
図4(b)、そして
図22(a)、
図22(b)、
図23(a)、及び
図23(b)に示されている。ピストンロッド5がシリンジA内を摺動し、注射バネ8の作用によってシリンジAのピストンPを押す。こうして、流体が投与される。
【0073】
注射が終了すると、遅延システムが、既定の遅延時間が経過後に通知装置が駆動されるように始動する。
【0074】
使用終了通知が行われ、ユーザーが注射部位から自己注射器を離すと、アクチュエータースリーブ10は本体1内から再び移動し、アクチュエータースリーブ10のバネの作用によって、第2突出位置である使用終了位置へと向かう。この位置において、アクチュエータースリーブ10がロックされることによって、ユーザーの安全が絶対的に保証され、装置使用終了後に注射針によって負傷するあらゆるリスクを回避することができる。
【0075】
ここで示される実施形態においては、アクチュエータースリーブ10の第1突出位置と第2突出位置は異なる位置であるが、これらを任意に同一の位置としてもよい。
【0076】
本発明は、特に、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病などの、自己免疫疾患の治療、癌の治療、肝炎などの抗ウイルス療法による治療、糖尿病の治療、貧血の治療、及びアナフィラキシーショックなどのアレルギー性の発作の治療に用いられる装置に適用される。
【0077】
以上、本発明を2つの望ましい実施の形態を参照しながら説明したが、当然のことながら本発明はこれらの実施の形態に限られない。具体的には、アクチュエータースリーブ及び/又は注射ロック機構及び/又は遅延システム及び/又は聴覚及び/又は触覚を通じた通知装置は異なる方法で形成されてもよい。注射針による穿刺及び/又は注射後の注射針の退避を、1つ以上のボタンで制御してもよい。また、添付の請求項によって規定された本発明の範囲を超えない限り、当業者による他の様々な変形も可能である。