特許第6811196号(P6811196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811196
(24)【登録日】2020年12月16日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】焼成用セッター
(51)【国際特許分類】
   F27D 3/12 20060101AFI20201228BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20201228BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20201228BHJP
   C04B 41/89 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   F27D3/12 S
   C04B35/64
   C04B41/87 A
   C04B41/89 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-2164(P2018-2164)
(22)【出願日】2018年1月10日
(65)【公開番号】特開2019-120467(P2019-120467A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古宮山 常夫
(72)【発明者】
【氏名】水野 貴博
(72)【発明者】
【氏名】松葉 浩臣
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−281359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/12
C04B 35/64
C04B 41/87
C04B 41/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にコーティング層を備える焼成用セッターであり、
コーティング層は、焼成用セッターの表面に露出しており、
400μm×400μm面内で任意の断面におけるコーティング層の最小厚み部分の厚みT1と最大厚み部分の厚みT2が、下記式(1)を満足しており、
前記基材とコーティング層の間に、前記基板より熱膨張率が大きいとともにコーティング層より熱膨張率が小さい中間層が設けられている焼成用セッター。
T1/T2≦0.4・・・(1)
【請求項2】
さらに、下記式(2)を満足する請求項1に記載の焼成用セッター。
0.05≦T1/T2・・・(2)
【請求項3】
コーティング層の厚み方向に直交するとともに最小厚み部分のコーティング層の裏面を含む第1平面と、コーティング層の厚み方向に直交するとともに最大厚み部分のコーティング層の表面を含む第2平面と、を含む矩形範囲内において、コーティング層が占める割合が、70%以下である請求項1又は2に記載の焼成用セッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、焼成用セッターに関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
被焼成物を焼成する際、被焼成物を載置するためにセッター等の焼成用治具が用いられる。特許文献1の焼成用セッター(焼成用容器)は、基材と被焼成物が反応することを抑制するため、基材表面にアルミニウム質、ジルコニア質のコーティング層を形成している。特許文献1では、粒径の大きなコーティング材を基材に塗布し、コーティング層の気孔率を大きくすることによって、基材とコーティング層の熱膨張差に起因する両者の剥離を抑制している。また、特許文献1では、粒径の大きなコーティング材を使用することによってコーティング層の表面粗さRaが大きくなるので、コーティング層を形成した後に、コーティング層の表面を研磨している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−45641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、コーティング層の表面を研磨し、コーティング層の表面を平滑にしている。換言すると、特許文献1は、コーティング層の厚みを均一にしている。特許文献1は、使用可能なコーティング材の粒径が制限されるだけでなく、コーティング層を形成した後の研磨工程も必要である。使用原料(コーティング材)の制限が少なく、簡易に製造可能であるとともにコーティング層の剥離が抑制された焼成用セッターが必要とされている。本明細書は、従来にない技術的思想に基づき、コーティング層の剥離が抑制された新規な焼成用セッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、コーティング層が剥離する原因について研究した結果、コーティング層の表面が平滑(コーティング層の厚みが均一)であることが、コーティング層の剥離を促進していることを見出した。すなわち、コーティング層の剥離を抑制するために従来行われてきた技術が、結果としてコーティング層の剥離を促進していることが判明した。本発明者らは、従来の技術常識とは反対の手法を採用することにより、コーティング層の剥離を抑制することに成功した。本明細書で開示する焼成用セッターは、上記知見に基づくものである。
【0006】
本明細書で開示する焼成用セッターは、基材上にコーティング層を備えている。この焼成用セッターでは、コーティング層は、焼成用セッターの表面に露出しており、400μm×400μm面内で任意の断面におけるコーティング層の最小厚み部分の厚みT1と最大厚み部分の厚みT2が、下記式(1)を満足していてよい。なお、「基材上にコーティング層を備える」とは、基材とコーティング層が直接接触している形態と、基材とコーティング層の間に他の層が設けられている形態の双方を含む。
T1/T2≦0.4・・・(1)
【0007】
上記焼成用セッターは、簡単にいうと、微小な範囲内(400μm×400μm面内で任意の断面)ではコーティング層の表面が平滑でないということである。すなわち、上記焼成用セッターでは、コーティング層は、微小範囲内で敢えて厚み方向にばらつき(高低差)が設けられている。具体的には、400μm×400μm面内で任意の断面において、コーティング層の最小厚み部分の厚みT1が最大厚み部分の厚みT2の40%以下である(高低差割合が40%以下である)。換言すると、厚みT2は、厚みT1の2.5倍以上である。上記焼成用セッターは、コーティング層が高低差を有しているので、コーティング層が熱膨張する際、面方向(厚み方向に直交する方向)に生じる応力(コーティング層が基材を引張る応力)を緩和することができる。基材とコーティング層の間に生じる引張応力が緩和されるので、基材からのコーティング層の剥離を抑制することができる。なお、上記焼成用セッターは、微小な範囲内でコーティング層に高低差を設けるものであり、焼成用セッター全体として表面に凹凸を設ける必要はない。
【0008】
上記焼成用セッターでは、コーティング層の厚みT1(最小厚み部分の厚み)と厚みT2(最大厚み部分の厚み)が、さらに、下記式(2)を満足していてよい。
0.05≦T1/T2・・・(2)
【0009】
上記式(2)を満足することにより、コーティング層の最小厚み部分(厚みT1)が薄くなり過ぎる(最大厚み部分の5%未満)ことが防止される。コーティング層が繰返し熱膨張することによって、基材(あるいは、コーティング層と基材の間に介在している中間層)が露出することを防止することができる。その結果、被焼成物がコーティング層以外の他の層(基材や中間層)に接触することが防止され、被焼成物と他の層が反応することを防止することができる。
【0010】
コーティング層が高低差を有していることを示す指標として、以下の指標も挙げられる。本明細書で開示する焼成用セッターは、上記式(1)、又は、上記式(1)及び(2)とともに、以下の指標を満足していてもよい。すなわち、コーティング層の厚み方向に直交するとともに最小厚み部分のコーティング層の裏面を含む第1平面と、コーティング層の厚み方向に直交するとともに最大厚み部分のコーティング層の表面を含む第2平面とを含む矩形範囲内において、コーティング層が占める割合が70%以下(コーティング層の面積割合が70%以下)であってよい。
【0011】
コーティング層が完全に平坦である(高低差がない)場合、上記矩形範囲内においてコーティング層が占める割合は100%である。上記式(1)、又は、上記式(1)及び(2)とともに上記指標を満足することにより、コーティング層に高低差を設け易くなり、コーティング層の剥離が抑制された焼成用セッターを定量的に得ることができる。
【0012】
上記焼成用セッターでは、基材とコーティング層の間に、基板より熱膨張率が大きいとともにコーティング層より熱膨張率が小さい中間層が設けられていてよい。このような中間層を設けることにより、中間層が応力緩和層として機能し、コーティング層の剥離をより一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】コーティング層の高低差割合を測定する方法を説明する図を示す。
図2】コーティング層の面積割合を測定する方法を説明する図を示す。
図3】中間層を備える焼成用セッターの模式図を示す。
図4】評価試料の取得位置を説明するための模式図を示す。
図5】実施例の焼成用セッターの特徴及び繰返し加熱試験の結果を示す。
図6】実施例の焼成用セッターのSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(焼成用セッター)
本明細書で開示する焼成用セッターは、電子部品、セラミック部材等の被焼成物を焼成する際、被焼成物を載置するために用いられる。焼成用セッターの表面(載置面)形状は、三角形,四角形等の多角形であってよく、円形,楕円形等の外縁が曲面を有した形状であってもよい。また、焼成用セッターは、端部(被焼成物を載置する載置部の外側)にリブを備えていてもよい。焼成用セッターは、基材と、基材を被覆しているコーティング層を備えている。
【0015】
(基材)
基材は、炭化珪素(SiC)と珪素(Si)を主成分としていてよい。すなわち、SiCとSiの質量の合計が、基材の質量の50質量%以上を占めていてよい。SiCとSiは、基材中に、60質量%以上含まれていてよく、70質量%以上含まれていてよく、80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、95質量%以上含まれていてよい。基材は、SiCとSi以外の微量元素を含んでいてよい。微量元素として、鉄(Fe),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na),マグネシウム(Mg),カリウム(K),アルミニウム(Al)等が挙げられる。各々の微量元素は、基材中に0.01〜3質量%含まれていてよく、また、基材中の微量元素の合計が0.01〜3質量%であってよい。なお、基材は、C粉体,SiC粉体及び有機質バインダーを混合・成形した成形体を、金属Si存在下で、減圧した不活性ガス雰囲気又は真空中に配置し、成形体中に金属Siを含浸させて成形することができる。
【0016】
(コーティング層)
コーティング層は、基材上に設けられており、焼成用セッターの表面に露出している。コーティング層は、被焼成物と接触する接触面を構成していてよい。コーティング層は、焼成用セッターの全面を被覆していてもよいし、焼成用セッターの表面(被焼成物を載置する面)のみを被覆していてもよい。コーティング層は、基材表面にコーティング材を塗布した後、1100〜1400度で焼成して基材表面に固着させてよい。コーティング材を塗布した後の焼成温度は、1200度以上であってよく、1250度以上であってよく、1300度以上であってよい。
【0017】
コーティング層は、ジルコニア(Zr)化合物を主成分としていてよい。すなわち、Zr化合物が、コーティング層の質量の50質量%以上を占めていてよい。Zr化合物は、コーティング層中に、60質量%以上含まれていてよく、70質量%以上含まれていてよく、80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、95質量%以上含まれていてよい。Zr化合物として、カルシア(CaO)またはイットリア(Y)で安定化された安定化ジルコニア、アルミナとジルコニアの共晶物、BaZrO、CaZrO等が挙げられる。また、コーティング層は、Zr化合物以外の微量元素を含んでいてよい。すなわち、コーティング層内に、Zr化合物以外の元素が3質量%以下含まれていてもよい。微量元素として、Fe,Si,Ca,Na,Mg,K,Al等が挙げられ、コーティング層内にこれらの元素が1つ以上含まれていてよい。
【0018】
コーティング層は、特定の微小範囲内に高低差(厚みばらつき)を有していてよい。具体的には、焼成用セッターを平面視したときの400μm×400μm面内で任意の断面におけるコーティング層の最小厚み部分の厚みT1と最大厚み部分の厚みT2が、下記式(1)を満足していてよい。
T1/T2≦0.4・・・(1)
【0019】
厚みT2(最大厚み部分の厚み)は、10〜100μmであってよい。厚みT2は、20μm以上であってよく、30μm以上であってよく、40μm以上であってよく、50μm以上であってよい。また、厚みT2は、90μm以下であってよく、80μm以下であってよく、70μm以下であってよい。
【0020】
厚みT1(最小厚み部分の厚み)は、0〜40μmであってよい。厚みT1は、好ましくは1μm以上である。厚みT1は、3μm以上であってよく、5μm以上であってよく、10μm以上であってよく、20μm以上であってよい。また、厚みT1は、30μm以下であってよく、25μm以下であってよい。厚みT1が0μmでない場合、厚みT1と厚みT2は、上記式(1)を満足するとともに、下記式(2)を満足していてよい。
0.05≦T1/T2・・・(2)
【0021】
コーティング層が厚み方向に高低差を有することを示す指標として、特定の範囲に占めるコーティング層の割合(面積割合)で示すこともできる。すなわち、コーティング層の厚み方向に直交するとともに最小厚み部分のコーティング層の裏面を含む第1平面と、コーティング層の厚み方向に直交するとともに最大厚み部分のコーティング層の表面を含む第2平面とを含む矩形範囲内において、コーティング層が占める割合が70%以下であることを高低差を有する指標としてよい。コーティング層の面積割合は、65%以下であってよく、60%以下であってよく、55%以下であってよく、50%以下であってよく、45%以下であってよく、35%以下であってよく、25%以下であってよい。また、コーティング層の面積割合は、10%以上であってよく、15%以上であってよく、20%以上であってよい。特定の範囲(矩形範囲)内に占める面積割合が小さい程、矩形範囲内にコーティング層が存在しない領域が多くなり、コーティング層の厚み方向に高低差が生じやすい。
【0022】
(中間層)
コーティング層と基材の間に、中間層が設けられていてよい。中間層は、コーティング層及び基材に接合していてよい。すなわち、中間層が、コーティング層と基材を接合していてよい。中間層の主成分は、Al化合物であってよい。Al化合物は、中間層中に、50質量%以上含まれていてよく、60質量%以上含まれていてよく、70質量%以上含まれていてよく、80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、95質量%以上含まれていてよい。Al化合物として、ムライト(アルミニウムシリケート)が挙げられる。また、中間層は、Al化合物の他に、微量成分として、Fe,Si,Ca,Na,Mg,K等の1つ又は2以上を含んでいてよい。
【0023】
中間層の熱膨張率は、基板より大きく、コーティング層より小さくてよい。すなわち、中間層は、コーティング層と基材の間に生じる熱応力(熱膨張差)を緩和する応力緩和層として機能してよい。中間層の厚みは、50〜200μmであってよい。中間層の厚みは、60μm以上であってよく、70μm以上であってよく、80μm以上であってよく、100μm以上であってよい。また、中間層の厚みは、180μm以下であってよく、160μm以下であってよい。中間層の厚みは、コーティング層の厚みより厚くてよい。
【0024】
(評価方法)
コーティング層の測定方法、及び、測定する試料の取得位置について説明する。図1は、焼成用セッターを切断して取得した試料1の断面を模式的に示している。試料1の長さ(面方向長さ)L1は400μmである。試料1は、SEM(Scanning Electron Microscope)等を利用して観察することができる。試料1は、基材2と、基材2上に設けられているコーティング層4を備えている。コーティング層4は高低差を有している。SEM等を利用することにより、焼成用セッターの400μm×400μm面内で任意の断面におけるコーティング層4の最小厚み部分4aの厚みT1と最大厚み部分4bの厚みT2を測定することができる。具体的には、厚みT1は、コーティング層4の最小厚み部分4aにおいて、コーティング層4の表面からコーティング層4の裏面(基材2との接触面)までの距離である。同様に、厚みT2は、コーティング層4の最大厚み部分4bにおいて、コーティング層4の表面からコーティング層4の裏面(基材2との接触部分)までの距離である。測定した厚みT1と厚みT2を用いることにより、上記式(1),(2)を満足するか否かを判定することができる。
【0025】
図2は、試料1のコーティング層4を矩形領域6で囲った図を示している。矩形領域6は、コーティング層4の厚み方向に直交するとともに最小厚み部分4aのコーティング層4の裏面(最小厚み部分4aにおけるコーティング層4と基材2の接触部分)を含む第1平面6aと、コーティング層4の厚み方向に直交するとともに最大厚み部分4bのコーティング層6の表面を含む第2平面6bを含んでいる。矩形領域6を作成し、ImageNos等の画像解析ソフトを利用することにより、矩形領域6内におけるコーティング層4が占める割合(面積割合)を測定することができる。
【0026】
なお、図3に示す試料1aのように、コーティング層4と基材2の間に中間層3が設けられている場合も、最小厚み部分4aにおけるコーティング層4の表面からコーティング層4の裏面(基材と中間層3との接触部分)までの距離を測定することにより、距離T1が得られる。最大厚み部分4bにおけるコーティング層4の表面からコーティング層4の裏面(基材と中間層3との接触部分)までの距離を測定することにより、距離T2が得られる。最小厚み部分4aにおけるコーティング層4の裏面(最小厚み部分4aにおけるコーティング層4と中間層3の接触部分)においてコーティング層4の厚み方向に直交する平面を作成することにより、第1平面6aが得られる。
【0027】
図4は、焼成用セッターの一例として、四角形(正方形)の焼成用セッター10を示している。試料1,1aの取得位置は、コーティング層の状態が標準的である位置について行う。すなわち、測定試料の取得は、コーティング層の状態が特異な状態となる可能性がある位置を避けて行う。具体的には、焼成用セッター10の側面12から距離D12の位置に測定領域14を設定し、焼成用セッター10の重心20(図4の場合、焼成用セッター10の中心と同一)から最も離れた位置にある測定領域14を遠方部14aと設定し、重心20と遠方部14aの中点を測定位置22とする。焼成用セッター10の場合、測定位置22が4箇所存在する。試料1,1aは、測定位置22から取得する。なお、焼成用セッターの形状が、四角形以外の多角形、円形,楕円形等の外縁が曲面を有した形状であっても、同様の方法で取得位置を決定する。なお、距離D12は、焼成用セッターの重心から側面までの距離が50mm以上の場合は20mmとする。また、重心から側面までの距離が50mm未満の場合は、距離D12は、重心から側面までの距離の20%とする。
【実施例】
【0028】
基材表面に種々の条件でコーティング層を形成して焼成用セッターを製作し、製作した焼成用セッターについて繰返し加熱試験を実施し、コーティング層の状態(剥離・膨れの有無)について評価した。
【0029】
図5に、コーティング層の形成条件と、得られたコーティング層の高低差割合(厚みT1/厚みT2×100)、面積割合、繰返し加熱試験の結果を示す。なお、高低差割合は、SEMで観察した領域(1200μm)を3領域に分割し、各領域について高低差割合を算出し、算出した各領域の高低差割合の平均値を示している(図6も参照)。
【0030】
コーティング層は、スプレーコート法を用いて基板表面にコーティング材(コーティング用スラリー)を塗布し、1300℃で2時間焼成することにより、基材表面に固着させた。なお、コーティング用スラリーとして、粒径10〜20μmのZr化合物を含むスラリーを用いた。コーティング層は、スプレーガン(アネスト岩田(株)製W−101)を用いて、コーティング材を基材に噴霧して形成した。
【0031】
実施例1〜7は、コーティング層に高低差を設けるため、基材からスプレーガンの吐出口までの距離(施工距離)を大きく(100mm以上)してコーティング層を形成した。また、実施例1〜7では、コーティング用スラリーの吐出量、エアー量を変化させ、コーティング層の状態(高低差割合)を変化させた。なお、コーティング用スラリーの吐出量及びエアー量は、ノズルの回転数で調整した(図5に示す回転数が多い程、吐出量、エアー量が増加する)。比較例1〜3は、高低差が小さい(表面が平滑な)コーティング層を形成するため、基材からスプレーガンの吐出口までの距離を小さく(50mm)してコーティング層を形成した。比較例1〜3は、コーティング用スラリーの吐出量を変化させ、コーティング層の状態(高低差割合)を変化させた。なお、図6は、実施例1及び比較例1の焼成用セッターのSEM画像を示している。図6から明らかなように、実施例1の試料は、比較例1の試料と比較して、コーティング層の高低差が大きい。なお、図示は省略するが、実施例2〜7の試料もコーティング層の高低差が大きく、比較例2及び3の試料はコーティング層の高低差が小さいことを確認した。
【0032】
繰返し加熱試験は、各試料を昇温速度100℃/時間で1350℃まで加熱し、1350℃で2時間保持し、その後室温まで自然冷却する工程を1サイクルとし、5サイクル実施した。各サイクル終了後、焼成用セッターの外観を観察し、コーティング層の剥離・膨れの有無を評価した。コーティング層の剥離・膨れが全く確認されなかったものを「A」とし、剥離・膨れは観察されなかったものの剥離・膨れの兆しがあるものを「B」とし、剥離・膨れが確認されたものを「C」とした。
【0033】
図5に示すように、コーティング層の高低差割合が40%以下の試料(実施例1〜7)は、繰返し加熱試験を5サイクル実施しても、コーティング層の剥離・膨れが確認されなかった。一方、比較例1〜3の試料(高低差割合57%,66%,52%)は、いずれも1サイクル終了時にコーティング層の剥離・膨れの兆しが確認されたり、実際に剥離・膨れが確認された。なお、面積割合が70%を超えると、高低差割合も大きくなる傾向がみられた。本実施例の結果より、微小範囲内(400μm×400μm面内で任意の断面)におけるコーティング層の高低差割合(厚みT1/厚みT2)が40%以下である焼成用セッターは、繰返し加熱試験によるコーティング層の剥離・膨れが生じにくいことが確認された。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0035】
2:基材
4:コーティング層
10:焼成用セッター
図1
図2
図3
図4
図5
図6